説明

ポリ乳酸含有樹脂組成物、その製造方法及びその成形体

【課題】 優れた面衝撃と曲げ弾性率を持つ成型品を形成することができ、しかも射出成形時に表面が剥離しないポリ乳酸含有樹脂組成物、その製造方法、及びそれを成形してなる成形体の提供。
【解決手段】 下記の成分(A)30〜89.5重量%と、成分(B)0.1〜5重量%と、成分(C)10〜50重量%と、成分(D)0.4〜15重量%とを含有し、かつマトリックスとドメインとサブドメインとからなる海島湖構造を有する樹脂組成物であって、
マトリックスは成分(A)からなり、ドメインは成分(C)からなり、サブドメインは成分(D)からなることを特徴とするポリ乳酸含有樹脂組成物、その製造方法及びその成形体による。
成分(A):ポリプロピレン系樹脂
成分(B):酸変性ポリオレフィン系樹脂及び/又はヒドロキシ変性ポリオレフィン系樹脂
成分(C):ポリ乳酸系樹脂
成分(D):エポキシ変性ポリオレフィン系樹脂

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリ乳酸含有樹脂組成物、その製造方法及びその成形体に関し、さらに詳しくは、優れた面衝撃と曲げ弾性率を持つ成型品を形成することができ、しかも射出成形時に表面が剥離しないポリ乳酸含有樹脂組成物、その製造方法、及びそれを成形してなる成形体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年環境問題の高まりから、使用済みのプラスチック製品は、自然環境中で経時的に分解・消失し、最終的に自然環境に悪影響を及ぼさないことが求められている。従来のプラスチックは、自然環境中で長期にわたって安定であり、しかも嵩比重が小さいため、廃棄物埋め立て地の短命化を促進したり、自然の景観や野生動植物の生活環境を損なったりする問題点が指摘されていた。そこで、生分解性樹脂材料が注目を集めるようになった。生分解性樹脂は、土壌中や水中で、加水分解や生分解によって徐々に崩壊・分解が進行し、微生物の作用により最終的には無害な分解物となることが知られている。また、コンポスト(堆肥化)処理によって、容易に廃棄物処理を行うことができる。
【0003】
実用化され始めている生分解性樹脂としては、脂肪族ポリエステル、変性PVA、セルロースエステル化合物、デンプン変性体、およびこれらのブレンド体等がある。これらの生分解性樹脂材料は、それぞれ固有の特徴を有し、この特徴に応じた用途展開が考えられる。中でも脂肪族ポリエステルが、幅広い特性と汎用樹脂に近い加工性を有するため広く使われ始めている。また、脂肪族ポリエステルの中でも乳酸系樹脂は、透明性・剛性・耐熱性等が優れていることから、ポリスチレンやポリエチレンテレフタレートの代替材料として、包装フィルム分野や射出成形分野において注目されている。
【0004】
更に近年ではプラスチックの原料として、従来の石油化学製品由来のものではなく、植物原料由来のプラスチックを利用することが、環境保護の観点から求められてきている。乳酸系樹脂を初めとした生分解性プラスチックの多くは、植物原料由来が可能であり、その意味からもこれら樹脂が注目されている。
【0005】
しかしながら、ポリ乳酸は、ポリプロピレンなどの汎用樹脂と比較して耐熱性や耐衝撃性などに劣るという欠点を有している。そのため、ポリ乳酸の特性を改善するための様々な試みがなされている。例えば、特許文献1には、脂肪族ポリエステル100重量部と平均繊維長が1〜50mmの強化用生分解性繊維5〜500重量部とからなる繊維強化成形体が開示されている。このような改良技術を基に、乳酸系樹脂が各種用途に展開されつつあるが、物性は汎用樹脂とくらべて十分とはいえず、用途展開には限りがあった。
【0006】
さらに、ポリ乳酸などの樹脂の物性改良方法として従来から知られているものに、ポリマーブレンドあるいはポリマーアロイといわれる技術がある。複数種の樹脂を強制的に混合、混練し、耐衝撃性や柔軟性、剛性、耐熱性の向上が試みられている。たとえば、特許文献2には、乳酸を主成分とする脂肪族ポリエステル85〜99重量%とシンジオタクチックポリプロピレン1〜15重量%とからなる自然分解性樹脂組成物が開示されている。また、特許文献3には、ポリ乳酸に変性オレフィン化合物を混合することにより耐衝撃性が向上したポリ乳酸系樹脂組成物が開示されている。このようにして樹脂の物性改良が行なわれているが、一般に異種の高分子は互いに相溶し難く、性能の向上は十分とはいえなかった。
【0007】
そこで、相溶化剤の添加によって異種高分子同士の相溶性を向上させることがある。たとえば、特許文献4には、脂肪族ポリエステル樹脂およびポリオレフィン樹脂に、相溶化剤としてくし型構造を持つグラフトポリマーを配合してなる組成物を加熱溶融したフィルムが開示されている。また、特許文献5には、ポリオレフィン樹脂とポリ乳酸樹脂と前記両者に対して相溶性を示す熱可塑性樹脂とからなる熱可塑性樹脂成形体が開示されている。さらに、特許文献6にはポリオレフィン、脂肪族ポリエステル系生分解性ポリマー、酸またはエポキシ基含有ポリオレフィンからなり、ポリオレフィンがマトリックスを形成し、脂肪族系生分解性ポリマーがドメインを形成し、ドメインの周囲を酸またはエポキシ基含有ポリオレフィンが取り囲む分散構造を有する組成物が開示されている。確かに、このような相溶化剤成分を配合することにより分散構造(特に分散径)が改善され、耐衝撃性等の機械物性は向上している。しかしながら、より高い品質が求められる自動車部品向け材料には、未だ衝撃性が不十分である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平9−169897号公報
【特許文献2】特開平10−251498号公報
【特許文献3】特開平9−316310号公報
【特許文献4】特開平6−263892号公報
【特許文献5】特開2006−70210号公報(請求項5、請求項6)
【特許文献6】特開2006−77063号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の目的は、上記した従来技術の問題点に鑑み、優れた面衝撃と曲げ弾性率を持つ成型品を形成することができ、しかも射出成形時に表面が剥離しないポリ乳酸含有樹脂組成物、その製造方法、及びそれを成形してなる成形体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、特定の成分(A)〜(D)を特定量含有し、かつマトリックスとドメインとサブドメインとからなる海島湖構造を有する樹脂組成物において、マトリックスは成分(A)からなり、ドメインは成分(C)からなり、サブドメインは成分(D)からなるポリ乳酸含有樹脂組成物を調製したところ、優れた面衝撃と曲げ弾性率を持つ成型品を形成することができ、しかも射出成形時に表面が剥離しないことを見出した。
また、特定の2工程からなる混練方法による、前記ポリ乳酸含有樹脂組成物の製造方法を見出した。
それらの知見に、さらに検討を重ね、本発明を完成するに至った。
【0011】
すなわち、本発明の第1の発明によれば、下記の成分(A)30〜89.5重量%と、成分(B)0.1〜5重量%と、成分(C)10〜50重量%と、成分(D)0.4〜15重量%とを含有し、かつマトリックスとドメインとサブドメインとからなる海島湖構造を有する樹脂組成物であって、
マトリックスは成分(A)からなり、ドメインは成分(C)からなり、サブドメインは成分(D)からなることを特徴とするポリ乳酸含有樹脂組成物が提供される。
成分(A):ポリプロピレン系樹脂
成分(B):酸変性ポリオレフィン系樹脂及び/又はヒドロキシ変性ポリオレフィン系樹脂
成分(C):ポリ乳酸系樹脂
成分(D):エポキシ変性ポリオレフィン系樹脂
【0012】
また、本発明の第2の発明によれば、第1の発明において、電子顕微鏡による形態観察において、前記ドメインの占有面積(S)と、前記サブドメインの占有面積(S)とが、次式を満たすことを特徴とするポリ乳酸含有樹脂組成物が提供される。
/(S+S)×100 ≧ 20
【0013】
また、本発明の第3の発明によれば、第1または2の発明において、成分(A)は、プロピレン単独重合体及びプロピレン・α−オレフィン共重合体から選ばれる1種以上の結晶性ポリプロピレン、又は該結晶性ポリプロピレンとプロピレン以外のα−オレフィンの単独重合体若しくは共重合体との混合物であることを特徴とするポリ乳酸含有樹脂組成物が提供される。
【0014】
また、本発明の第4の発明によれば、第1〜3のいずれかの発明において、成分(B)は、酸量が無水マレイン酸換算で0.05〜10重量%であることを特徴とするポリ乳酸含有樹脂組成物が提供される。
【0015】
また、本発明の第5の発明によれば、第1〜4のいずれかの発明において、成分(C)は、L−乳酸及び/又はD−乳酸を主成分とすることを特徴とするポリ乳酸含有樹脂組成物が提供される。
【0016】
また、本発明の第6の発明によれば、第1〜5のいずれかの発明において、成分(D)は、エチレン−グリシジルメタクリレート共重合体であることを特徴とするポリ乳酸含有樹脂組成物が提供される。
【0017】
また、本発明の第7の発明によれば、下記の工程(I)と工程(II)とを含むことを特徴とする第1〜6のいずれかの発明のポリ乳酸含有樹脂組成物の製造方法が提供される。
工程(I):成分(C)と成分(D)とを溶融混練する工程
工程(II):工程(I)で得られた溶融混練組成物と、成分(A)と成分(B)とを溶融混練する工程
但し、上記成分(A)はポリプロピレン系樹脂、成分(B)は酸変性ポリオレフィン系樹脂及び/又はヒドロキシ変性ポリオレフィン系樹脂、成分(C)はポリ乳酸系樹脂、成分(D)はエポキシ変性ポリオレフィン系樹脂である。
【0018】
また、本発明の第8の発明によれば、第7の発明の発明において、工程(I)及び工程(II)の溶融混練温度は、240℃以下であることを特徴とするポリ乳酸含有樹脂組成物の製造方法が提供される。
【0019】
また、本発明の第9の発明によれば、第1〜6のいずれかの発明のポリ乳酸含有樹脂組成物を成形してなる成形体が提供される。
【発明の効果】
【0020】
本発明のポリ乳酸含有樹脂組成物及びその成形体によれば、優れた面衝撃と曲げ弾性率を持つ成型品を形成することができ、しかも射出成形時に表面が剥離しないポリ乳酸含有樹脂組成物であり、自動車部品に適用可能なほど剛性と衝撃性に優れた成形体が得られるため、自動車部品などの用途に好適に用いることができるという効果がある。また、本発明の製造方法によれば、上記ポリ乳酸含有樹脂組成物を容易に製造することができるという効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】図1は、本発明の組成物の一例の電子顕微鏡写真である。
【図2】図2は、従来の組成物の一例の電子顕微鏡写真である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明のポリ乳酸含有樹脂組成物、その製造方法及びその成形体について、各項目ごとに詳細に説明する。
【0023】
1.ポリ乳酸含有樹脂組成物の各成分
本発明のポリ乳酸系樹脂組成物は、下記の成分(A)30〜89.5重量%と、成分(B)0.1〜5重量%と、成分(C)10〜50重量%と、成分(D)0.4〜15重量%とを含有し、かつマトリックスとドメインとサブドメインとからなる海島湖構造を有する樹脂組成物であって、マトリックスは、成分(B)が分散した成分(A)からなり、ドメインは、成分(C)からなり、サブドメインは、成分(D)からなることを特徴とする。
【0024】
(1)成分(A):ポリプロピレン系樹脂
本発明に用いられるポリプロピレン系樹脂としては、特に限定するものではなく、公知のポリプロピレン系樹脂をいずれも使用できる。ポリプロピレン系樹脂としては、プロピレン単独重合体及びプロピレン・α−オレフィン共重合体(ブロック共重合体およびランダム共重合体を含む)から選ばれる1種以上の結晶性ポリプロピレン、又は該結晶性ポリプロピレンとプロピレン以外のα−オレフィンの単独重合体若しくは共重合体との混合物が好ましい。上記共重合体としては、耐衝撃性プロピレン共重合体(ICP)、例えばプロピレン‐エチレンブロック共重合体が挙げられる。
ポリプロピレン系樹脂の製造方法は、特に限定するものではなく、公知の方法、例えば高立体規則性触媒を用いてスラリー重合、気相重合または液相塊状重合により製造されたものを用いることができる。また、重合方法としては、従来公知の方法を用いることができ、バッチ重合および連続重合のどちらの方式も採用することができる。
また、これらのポリプロピレン系樹脂は2種以上混合して使用してもよい。
【0025】
本発明のポリ乳酸含有樹脂組成物において、ポリプロピレン系樹脂の含有量は、ポリ乳酸含有樹脂組成物全体を基準として、30重量%以上、好ましくは、37.5重量%以上、より好ましくは46重量%以上である。一方、ポリプロピレン系樹脂の含有量は89.5重量%以下、好ましくは84.3重量%以下、より好ましくは79.1重量%以下である。89.5重量%を超えると、環境対応した樹脂組成物であるとは言えない。30重量%未満では、剛性が低下したり、衝撃が低下する傾向がある。
【0026】
(2)成分(B):酸変性ポリオレフィン系樹脂及び/又はヒドロキシ変性ポリオレフィン系樹脂
本発明に用いられる酸変性ポリオレフィン系樹脂及び/又はヒドロキシ変性ポリオレフィン系樹脂(以下、「酸基含有ポリオレフィン系樹脂」ともいう。)としては、エポキシ基を含まない変性ポリオレフィンであれば、特に制限はなく、従来公知のものを用いることができる。この変性ポリオレフィンは、例えばポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン‐α‐オレフィン共重合体、エチレン‐α‐オレフィン−非共役ジエン化合物共重合体(EPDMなど)、エチレン−芳香族モノビニル化合物−共役ジエン化合物共重合ゴムなどのポリオレフィンを、マレイン酸又は無水マレイン酸等の不飽和カルボン酸を用いてグラフト共重合し、化学変性したものである。このグラフト共重合は、例えば上記ポリオレフィンを適当な溶媒中において、ベンゾイルパーオキシドなどのラジカル発生剤を用いて、不飽和カルボン酸と反応させることにより行われる。また、不飽和カルボン酸又はその誘導体の成分は、ポリオレフィン用モノマーとのランダムもしくはブロック共重合によりポリマー鎖中に導入することもできる。
【0027】
変性のため使用される不飽和カルボン酸としては、例えばマレイン酸、フマル酸、イタコン酸、アクリル酸、メタクリル酸等のカルボキシル基及び必要に応じてヒドロキシル基やアミノ基などの官能基が導入された重合性二重結合を有する化合物が挙げられる。また不飽和カルボン酸の誘導体としては、これらの酸無水物、エステル、アミド、イミド、金属塩等があり、その具体例としては、無水マレイン酸、無水イタコン酸、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸ブチル、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、マレイン酸モノエチルエステル、マレイン酸ジエチルエステル、フマル酸モノメチルエステル、フマル酸ジメチルエステル、アクリルアミド、メタクリルアミド、マレイン酸モノアミド、マレイン酸ジアミド、フマル酸モノアミド、マレイミド、N−ブチルマレイミド、メタクリル酸ナトリウム等を挙げることができる。好ましくは無水マレイン酸である。
【0028】
また、グラフト反応条件としては、例えば、ジ−t−ブチルパーオキシド、t−ブチルクミルパーオキシド、ジクミルパーオキシド、2,5−ジメチル−2,5−ジ(t−ブチルパーオキシ)ヘキサン、2,5−ジメチル−2,5−ジ(t−ブチルパーオキシ)ヘキシン−3等のジアルキルパーオキシド類、t−ブチルパーオキシアセテート、t−ブチルパーオキシベンゾエート、t−ブチルパーオキシイソプロピルカーボネート、2,5−ジメチル−2,5−ジ(ベンゾイルパーオキシ)ヘキサン、2,5−ジメチル−2,5−ジ(ベンゾイルパーオキシ)ヘキシン−3等のパーオキシエステル類、ベンゾイルパーオキシド等のジアシルパーオキシド類、ジイソプロピルベンゼンヒドロパーオキシド、2,5−ジメチル−2,5−ジ(ヒドロパーオキシ)ヘキサン等のヒドロパーオキシド類等の有機過酸化物を、前記ポリオレフィン100重量部に対して0.001〜10重量部程度用いて、80〜300℃程度の温度で、溶融状態又は溶液状態で反応させる方法が挙げられる。
【0029】
好ましい酸変性ポリオレフィン系樹脂としては、エチレン及び/又はプロピレンを主たるポリマー構成単位とするオレフィン系重合体に無水マレイン酸をグラフト重合することにより変性したもの、エチレン及び/又はプロピレンを主体とするオレフィンと無水マレイン酸とを共重合することにより変性したもの等が挙げられる。具体的には、ポリエチレン/無水マレイン酸グラフトエチレン・ブテン−1共重合体の組み合わせ、又はポリプロピレン/無水マレイン酸グラフトポリプロピレンの組み合わせ等が挙げられる。
これらの酸基含有ポリオレフィンは2種以上混合して使用してもよい。
【0030】
本発明に係る酸基含有ポリオレフィン系樹脂において、酸量(酸変性量)は特に限定されないが、好ましくは酸量が無水マレイン酸換算で、平均で0.05〜10重量%、好ましくは0.07〜5重量%である。
酸基含有ポリオレフィン系樹脂中の酸基の量がこの範囲では、成分(C)と成分(D)とからなる溶融混練組成物に対する樹脂の含浸性、密着性が十分なものとなるため、衝撃性が飛躍的に向上した組成物が得られ、また酸基の量が過大になって加工性を損ねたり、酸基含有ポリオレフィン系樹脂全体が脆性になり衝撃性が失われることもない。
また、これらの酸変性ポリオレフィン系樹脂及び/又はヒドロキシ変性ポリオレフィン系樹脂は2種以上混合して使用してもよい。
【0031】
本発明のポリ乳酸系樹脂組成物において、酸基含有ポリオレフィン系樹脂の含有量は、ポリ乳酸含有樹脂組成物全体を基準として、0.1重量%以上、好ましくは、0.2重量%以上、より好ましくは、0.3重量%以上である。また、酸基含有ポリオレフィン系樹脂の含有量は5重量%以下、好ましくは4.5重量%以下、より好ましくは4重量%以下である。5重量%を超えると加工性を損ねたり、ポリオレフィン系樹脂全体が脆性になり衝撃性が失われる。また酸基含有ポリオレフィン系樹脂の含有量が1重量%未満になると、成分(C)と成分(D)とからなる溶融混練組成物に対する樹脂の含浸性、密着性が不十分なものとなるため、衝撃性が飛躍的に向上した組成物は得られない。
【0032】
(3)成分(C):ポリ乳酸系樹脂
本発明に用いられるポリ乳酸系樹脂としては、乳酸単位を少なくとも50モル%以上、好ましくは75モル%以上含有する重合体を主成分とする重合体組成物であるものが好ましい。このようなポリ乳酸系樹脂は、乳酸の重縮合や乳酸の環状二量体であるラクチドの開環重合によって合成することができ、また、該重合体の性質を著しく損なわない範囲で、乳酸と共重合可能な他のモノマーを共重合させたものや、他の樹脂および添加剤などが混合された組成物でもよい。
【0033】
乳酸と共重合可能なモノマーとしては、ヒドロキシカルボン酸(例えば、グリコール酸、カプロン酸等)、脂肪族多価アルコール(例えば、ブタンジオール、エチレングリコール等)および脂肪族多価カルボン酸(例えば、コハク酸、アジピン酸等)が挙げられる。
ポリ乳酸系樹脂がコポリマーの場合、コポリマーの配列の様式は、ランダム共重合体、交替共重合体、ブロック共重合体、グラフト共重合体などのいずれの様式でもよい。また、前記コポリマーは、少なくとも一部が、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、エチレングリコール/プロピレングリコール共重合体、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、3−メチル−1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、1,9−ノナンジオール、ネオペンチルグリコール、ポリテトラメチレングリコール、グリセリン、トリメチロールプロパン等の二官能以上の多価アルコール;キシリレンジイソシアネート、2,4−トリレンジイソシアネート等の多価イソシアネート;セルロース、アセチルセルロース、エチルセルロース等の多糖類などが共重合されたものでもよい。さらに、少なくとも一部が、線状、環状、分岐状、星形、三次元網目構造などのいずれの構造をとってもよい。
【0034】
ポリ乳酸系樹脂は、上記原料を直接脱水重縮合する方法、あるいは、上記乳酸類やヒドロキシカルボン酸類の環状二量体、たとえばラクタイドやグリコライド、またはε−カプロラクトンのような環状エステル中間体を開環重合させる方法により得られる。
上記原料を直接脱水重縮合して製造する場合、原料である乳酸類を、または、乳酸類とヒドロキシカルボン酸類とを、あるいは、脂肪族ジカルボン酸類と脂肪族ジオール類とを有機溶媒、好ましくはフェニルエーテル系溶媒の存在下で共沸脱水縮合し、特に好ましくは共沸により留出した溶媒から水を除いて実質的に無水の状態にした溶媒を反応系に戻す方法によって重合する。ポリ乳酸系樹脂の重量平均分子量は、好ましくは5万〜100万、より好ましくは10万〜50万である。分子量が前記範囲であることにより、耐熱性、耐衝撃強度、強度、成形性および加工性が良好となる。
【0035】
このようなポリ乳酸系樹脂の中ではポリ乳酸が好ましい。ポリ乳酸として、L体もしくはD体の構成成分が高くなると耐熱性等が向上することから、L体もしくはD体の量が、90モル%以上、より好ましくは95モル%以上、最も好ましくは98モル%以上であることが望ましい。
また、これらのポリ乳酸系樹脂は2種以上混合して使用してもよい。
【0036】
本発明に係るポリ乳酸系樹脂の含有量は、ポリ乳酸含有樹脂組成物全体を基準として、10重量%以上、好ましくは15重量%以上、より好ましくは20重量%以上である。また、ポリ乳酸系樹脂の含有量は50重量%以下、好ましくは45重量%以下、より好ましくは40重量%以下である。ポリ乳酸系樹脂の含有量が、10重量%未満では、環境対応した樹脂組成物であるとは言えない。50重量%を超えるとすべての物性が低下する。
【0037】
(4)成分(D):エポキシ変性ポリオレフィン系樹脂
本発明で用いられるエポキシ変性ポリオレフィン系樹脂とは、分子中にエポキシ基が導入されたポリオレフィンである。
このエポキシ変性ポリオレフィン系樹脂(以下、「エポキシ化ポリオレフィン」、「エポキシ変性ポリオレフィン」ともいう。)は、エチレンまたは炭素数3〜20のα−オレフィンとエポキシ基含有単量体とに基づく構成単位からなるが、該エポキシ化ポリオレフィンの性質を著しく損なわない範囲で、他のモノマーに基づく構成単位をごく少量、たとえば5重量%以下の量で含有していてもよい。
【0038】
このようなエポキシ化ポリオレフィンは、エチレンまたは炭素数3〜20のα−オレフィンとエポキシ基含有単量体とを共重合させることによって製造できる。エチレンまたは炭素数3〜20のα−オレフィンならびにエポキシ基含有単量体は、それぞれ1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
エチレンまたは炭素数3〜20のα−オレフィンの中では、エチレンおよびプロピレンが好ましい。すなわちエポキシ化ポリオレフィンとしては、エポキシ変性ポリエチレンおよびエポキシ変性ポリプロピレンが好ましい。
前記エポキシ変性ポリエチレンまたはエポキシ変性ポリプロピレンのMFR(ASTM D1238,190℃、2.16kg荷重)は0.01〜100g/10分、好ましくは0.1〜20g/10分である。MFRがこの範囲内であれば、流動性が高く成形性の良いポリ乳酸含有樹脂組成物を得ることができる。
【0039】
エポキシ基含有単量体としては、たとえばα,β−不飽和酸のグリシジルエステルが挙げられる。α,β−不飽和酸のグリシジルエステルとは下記一般式(1)(式中、Rは水素原子または炭素数1〜6のアルキル基を表す。)で示される化合物であり、具体的にはアクリル酸グリシジル、メタクリル酸グリシジル、エタクリル酸グリシジルなどであり、特にメタクリル酸グリシジルが好ましい。α,β−不飽和酸のグリシジルエステルに基づく構成単位の含量は、エポキシ基含有ポリオレフィン100重量%当たり1〜50重量%、好ましくは3〜40重量%の範囲が適当である。
【0040】
【化1】

【0041】
エチレンまたは炭素数3〜20のα−オレフィンとエポキシ基含有単量体とを共重合させた共重合体には、さらに前述の酸変性ポリオレフィン系樹脂における酸に該当する酢酸ビニル、アクリル酸メチルなどの単量体が共重合されてなる重合体もあるが、本発明においてはエポキシ基含有単量体が含まれている限りエポキシ変性ポリオレフィンに分類されるものとする。
またエポキシ変性ポリオレフィンは、ポリオレフィンをエポキシ基含有化合物でグラフトすることによっても製造できる。
【0042】
市販品の例としては、住友化学株式会社製「ボンドファースト(登録商標)」等の名で市販されるエチレン−メタクリル酸グリシジル(GMA)共重合体が挙げられる。該共重合体中のGMA単位の含有量は、3〜15重量%程度である。
また、これらのエポキシ変性ポリオレフィン系樹脂は2種以上混合して使用してもよい。
【0043】
本発明のポリ乳酸含有樹脂組成物において、エポキシ変性ポリオレフィン系樹脂の含有量は、ポリ乳酸含有樹脂組成物全体を基準として、0.4重量%以上、好ましくは0.5重量以上、より好ましくは0.6重量%以上である。またエポキシ変性ポリオレフィン系樹脂の含有量は、15重量%以下、好ましくは13重量%以下、より好ましくは、10重量%以下である。15重量%を超えると加工性を損ねたり、組成物の剛性が低下する。またエポキシ変性ポリオレフィン系樹脂の含有量が0.4重量%未満になると、成分(C)と成分(D)からなる溶融混練組成物に対する海島湖構造を取れなくなるため、衝撃性が飛躍的に向上した組成物は得られない。
【0044】
(5)任意成分
本発明のポリ乳酸含有樹脂組成物には、上述した(A)〜(D)成分の他に、必要に応じて、本発明の効果が著しく損なわれない範囲内で、その他の成分が配合されていてもよい。この様なその他の配合成分としては、着色するための顔料、フェノール系、イオウ系、リン系などの酸化防止剤、帯電防止剤、ヒンダードアミン等光安定剤、紫外線吸収剤、有機アルミ・タルク等の各種核剤、分散剤、中和剤、発泡剤、銅害防止剤、滑剤、難燃剤、等を挙げることができる。
付加的成分は、後述する工程(II)の段階で添加することが好ましい。
【0045】
2.ポリ乳酸含有樹脂組成物の製造方法
本発明のポリ乳酸含有樹脂組成物は、上述した各配合成分を、上述の配合比率で配合することにより製造することができる。各成分は、単軸押出機、2軸押出機、バンバリーミキサー、ロール練機などの従来公知の溶融混練装置を用いて複合化されるが、工業的な経済性などを考慮する場合、2軸押出機が最も好ましく使用される。2軸押出機としては、例えば、日本製鋼所製のTEX30αを用いて溶融混練することができる。
【0046】
本発明のポリ乳酸含有樹脂組成物は、下記工程(I)と工程(II)とを含む製造方法により得ることができる。
工程(I)は、成分(C):ポリ乳酸系樹脂と成分(D):エポキシ変性ポリオレフィン系樹脂とを溶融混練する工程であり、工程(II)は、工程(I)で得られた溶融混練組成物と、成分(A):ポリプロピレン系樹脂と成分(B):酸変性ポリオレフィン系樹脂及び/又はヒドロキシ変性ポリオレフィン系樹脂とを溶融混練する工程である。
工程(I)と工程(II)とは、断続的に行っても、連続的に行ってもよい。複数の押出機を使って、工程(I)と工程(II)とをそれぞれ行っても、一台の押出機を使って工程(I)を行った後、工程(II)を行うこともできる。さらに、例えば押出機の前段で成分(C)と成分(D)を混練し、サイドフィードで成分(A)及び、成分(B)を添加して後段でポリ乳酸含有樹脂組成物を得たり、押出機の前段で成分(A)と成分(B)とを混練し、成分(C)と成分(D)との溶融混練物をサイドフィードで添加しポリ乳酸含有樹脂組成物を得たりすることもできる。
工程(I)及び工程(II)での溶融混練は、樹脂温度を240℃以下にすることが好ましい。樹脂温度が上記範囲内であると、ポリ乳酸の配向が抑えられ高速衝撃試験の破断エネルギー値が低下するのを防ぐことができる。
【0047】
上記工程から得られるポリ乳酸含有樹脂組成物は、マトリックスとドメインとサブドメインとからなる海島湖構造を有し、マトリックスが、成分(A):ポリプロピレン系樹脂であり、ドメインが、成分(D):エポキシ変性ポリオレフィン系樹脂をサブドメインとして有する成分(C)ポリ乳酸系樹脂であることを特徴とし、物性バランスが優れる。
しかし、混練する順序や、組成物を添加する順序を変更した場合には、例えば、成分(A)のポリプロピレンと成分(C)のポリ乳酸とが層分離するため、射出成形した場合、表面が層剥離したり、マトリックスとドメインとサブドメインとからなる海島湖構造の樹脂組成物が得られなかったり、物性バランスの優れた樹脂組成物を得ることが難しい。
【0048】
3.ポリ乳酸含有樹脂組成物の分散相構造
本発明のポリ乳酸含有樹脂組成物は、マトリックスとドメインとサブドメインとからなる海島湖構造を有し、マトリックスが、成分(A):ポリプロピレン系樹脂であり、ドメインが、成分(D):エポキシ変性ポリオレフィン系樹脂をサブドメインとして有する成分(C):ポリ乳酸系樹脂であることを特徴とする二次分散する特異的な構造を有するポリ乳酸含有樹脂組成物である。
【0049】
この形態は、以下のような観察法で確認できる。
ダイヤモンドナイフを装着したウルトラミクロトーム(例えば、ライカUC6)とクライオシステムを用いて、本発明のポリ乳酸含有樹脂組成物を−120℃に冷却して切削し、その切削鏡面をイオンエッチングする。ポリマー種によりエッチング速度が異なるために、微細構造に対応した凹凸が形成され相構造の観察が可能になる。このように処理した試料を走査型電子顕微鏡(例えば、日立S800)で観察することにより、本発明のポリ乳酸含有樹脂組成物の分散相構造が観察できる。
【0050】
具体的には、上述の観察法により、例えば図1のような分散相構造が観察される。図1は、プロピレン・エチレンブロック共重合体とポリ乳酸と無水マレイン酸変性ポリプロピレンとエチレン・グリシジルメタクリレート共重合体とからなるポリ乳酸含有樹脂組成物の電子顕微鏡写真である。マトリックスである成分(A):プロピレン・エチレンブロック共重合体のプロピレン単独重合体部分が、背景にあり、そのマトリックスに、周囲が白く島のように浮び上がって見えるドメイン部が成分(C):ポリ乳酸系樹脂である。ドメイン部の成分(C):ポリ乳酸系樹脂に、白く点のように見えるサブドメイン部分が、成分(D):エポキシ変性ポリオレフィン系樹脂である。またマトリックス中に黒く浮かぶ部分が、プロピレン・エチレンブロック共重合体のエチレンプロピレン共重合体部分及び成分(D):エポキシ変性ポリオレフィン系樹脂の一部である。なお、成分(B):酸変性ポリオレフィン系樹脂及び/又はヒドロキシ変性ポリオレフィン系樹脂は、上記のような電子顕微鏡写真による観察ではどこに存在するのかが明確ではなく、成分(A)と相溶して区別がつかなかったり、成分(C)と成分(A)との界面に極薄く存在したりすると考えられる。
【0051】
ここで、成分(C):ポリ乳酸系樹脂中に二次分散する成分(D):エポキシ変性ポリオレフィン系樹脂の量は、面積比として以下に示す方法により定量的に明らかにすることが出来る。
すなわち、走査型電子顕微鏡で観察された写真を二値化し、その画像の統計計算から求める。具体的には、ある成分(C):ポリ乳酸系樹脂分散相の面積に対する該成分(C):ポリ乳酸系樹脂相中に二次分散する成分(D):エポキシ変性ポリオレフィン系樹脂粒子の面積の総和の比(成分(D):エポキシ変性ポリオレフィン系樹脂総面積/(C):ポリ乳酸系樹脂分散相面積)として計算する。ここで、成分(C):ポリ乳酸系樹脂分散相の面積(ドメインの占有面積)をSとし、成分(D):エポキシ変性ポリオレフィン系樹脂粒子の面積(サブドメインの占有面積)をSとすれば、成分(C):ポリ乳酸系樹脂中に二次分散する成分(D):エポキシ変性ポリオレフィン系樹脂の量は、次式によって示すことができる。
/(S+S
評価する際には、この計算を複数の成分(C):ポリ乳酸系樹脂分散相について計測し、その平均値として評価する。例えば、300ヶ以上につき計測し、その平均値として評価することが好ましい。
【0052】
本発明のポリ乳酸含有樹脂組成物は、電子顕微鏡による形態観察において、前記ドメインの占有面積(S)と、前記サブドメインの占有面積(S)とが、次式を満たすことが好ましい。
/(S+S)×100≧20
より好ましくは次式を満たす。
60≧S/(S+S)×100≧25
すなわち、前述の方法により求めた成分(C):ポリ乳酸系樹脂中に二次分散する成分(D):エポキシ変性ポリオレフィン系樹脂の面積比が20%以上であれば、ハイレート破断エネルギーが向上する。これはマトリックスである成分(B):酸変性ポリオレフィン系樹脂及び/又はヒドロキシ変性ポリオレフィン系樹脂を含有する成分(A):ポリプロピレン系樹脂とドメインである(C):ポリ乳酸系樹脂の界面が補強されているためと考えられる。
【0053】
4.ポリ乳酸含有樹脂組成物の成形体
本発明のポリ乳酸含有樹脂組成物は、公知の各種方法による成形に用いることができる。
例えば射出成形(ガス射出成形も含む)、射出圧縮成形(プレスインジェクション)、押出成形、中空成形、カレンダー成形、インフレーション成形、一軸延伸フィルム成形、二軸延伸フィルム成形等にて成形することによって各種成形品を得ることができる。このうち、射出成形、射出圧縮成形、押出成形がより好ましい。
【0054】
また、本発明のポリ乳酸含有樹脂組成物は、植物由来成分を含み、上記物性を有しているため、物性のバランスに優れたポリプロピレン系樹脂組成物である。この為、年々使用量が増大している自動車部品等の各種工業部品分野、特に薄肉化、高機能化、大型化された各種成形品、例えばバンパー、フェンダーなど外装部材、インストルメントパネル、トリム材等の内装部材、ガーニッシュなどの自動車部品やテレビケースなどの家電機器部品などの各種工業部品用成形材料として、実用に十分な性能を有している。又、本来ポリプロピレンは熱可塑性樹脂であるため繰り返し使用が可能で、マテリアルリサイクルに適した材料といえるが、本発明のような無機フィラーレスを実現する事により、サーマルリサイクルに対しても有用な材料とする事が可能となり、地球環境保護の為のリサイクル運動を推進していく上で、工業的価値は大きい。
【実施例】
【0055】
以下に実施例を用いて、本発明を更に詳細に説明するが、本発明はその趣旨を逸脱しない限り、これによって限定されるものではない。
なお、実施例に於ける各種物性の測定は、下記要領に従った。
【0056】
[測定方法]
(1)MFR
JIS K−7210に準拠し、21.18N荷重にて230℃の温度で測定した。
(2)曲げ弾性率
JIS K7171に準拠し、測定雰囲気温度23℃において曲げ速度2mm/minで測定した。
(3)シャルピー衝撃試験
JIS K7111に準拠し、測定雰囲気温度は、23℃であった。
(4)高速衝撃試験(ハイレート、HRIT(破断エネルギー))
試験機:サーボパルサ高速衝撃試験機 EHF−2H−20L形−恒温槽付き(島津製作所製)
試験片の形状:120角シート
試験片の作成方法:射出成形平板を上記形状に打ち抜き(成形については、型締め圧170トンの射出成形機を使用し、成形温度200℃にて、120mm×120mm×2mmtなる形状でテストピースを成形した。
支持台(穴径3インチ)上に設置した試験片に荷重センサーであるダート(径1/2インチ)を1m/secの速度で衝突させ、試験片の衝撃荷重における変形破壊挙動を測定し、得られた衝撃パターンにおける亀裂発生点までにおいて吸収された衝撃エネルギーを算出し、材料の衝撃強度とした。なお、測定雰囲気温度は、23℃であった。
(5)表面剥離性
型締め圧170トンの射出成形機を使用して、成形温度200℃にて、120mm×120mm×2mmtなる形状でテストピースを成形し、そのテストピース表面の層剥離が存在するかを確認した。
○:表面に問題がない
×:表面に層剥離部が存在する。
(6)成分(C)と成分(D)に対する成分(D)の面積比(成分(C)中にサブドメインとして存在する成分(D):エポキシ変性ポリオレフィン総面積/成分(C):ポリ乳酸樹脂分散相面積+成分(C)中にサブドメインとして存在する成分(D)の面積)
走査型電子顕微鏡で観察された写真を二値化し、その画像のある成分(C):ポリ乳酸系樹脂分散相の面積(ドメインの占有面積)をSとし、成分(D):エポキシ変性ポリオレフィン系樹脂粒子の面積(サブドメインの占有面積)をSとし、下記の式によって成分(C)と成分(D)に対する成分(D)の面積比を求めた。この計算を300ヶ以上につき計測し、その平均値として評価した。
/(S+S)×100
【0057】
[実施例及び比較例]
(実施例1)
工程(I)で、成分(C):ポリ乳酸系樹脂としてポリ乳酸(ユニチカ社製「TP−4000」、MFR=3g/10分)90重量%と、成分(D):エポキシ変性ポリオレフィン系樹脂としてエチレン−グリシジルメタクリレート(GMA)共重合体(住友化学製「ボンドファーストE」、GMA含量=12重量%)10重量%を配合した混合物100重量部に対して安定剤として、フェノール系酸化防止剤(チバスペシャルティケミカルズ社製IRGANOX1010)0.1重量部、リン系酸化防止剤(チバスペシャルティケミカルズ社製Irgafos168)0.05重量部をブレンドし、同方向回転2軸押出機(日本製鋼所社製:TEX30α)を用いて、スクリュー回転数300rpm、押出レート10kg/h、混練温度は、180℃で溶融混練し、溶融混練組成物を得た。
工程(II)は、工程(I)で得た溶融混練組成物30重量%(樹脂成分として)及び、成分(A):ポリプロピレン系樹脂としてMFR(230℃、21.18N)=25g/10分、比重=0.90のエチレン−プロピレンブロック共重合体69重量%、成分(B):酸変性ポリオレフィン系樹脂及び/又はヒドロキシ変性ポリオレフィン系樹脂として無水マレイン酸変性ポリオレフィン(アルケマ社製「OREVAC CA100」、無水マレイン酸グラフト率=0.8重量%)1重量%を配合した混合物100重量部に対して、フェノール系酸化防止剤(チバスペシャルティケミカルズ社製IRGANOX1010)0.1重量部、リン系酸化防止剤(チバスペシャルティケミカルズ社製Irgafos168)0.05重量部、タルク(日本タルク社製「ミクロエース C31」)1重量部をブレンドし、同方向回転2軸押出機(日本製鋼所社製:TEX30α)を用いて、スクリュー回転数300rpm、押出レート10kg/h、混練温度は、180℃で溶融混練した。
得られたペレットを用いて、金型温度40℃、シリンダ温度200℃の条件で射出成形し、ポリ乳酸含有樹脂組成物の各種試験片とした。得られた試験片を用いて、上述の方法により、各種物性を評価した。
【0058】
得られたポリ乳酸含有樹脂組成物につき、型締め圧170トンの射出成形機を使用し、成形温度200℃にて、120mm×120mm×2mmtなる形状で成形したテストピース中央部の1mm内部を観察した。
ダイヤモンドナイフを装着したウルトラミクロトーム(ライカUC6)とクライオシステムを用いて、上記ポリ乳酸含有樹脂組成物のテストピースを−120℃に冷却して切削し、その切削鏡面をイオンエッチング処理し、走査型電子顕微鏡(日立S800)で観察した。観察した結果を図1に示す。
図1によれば、成分(A):ポリプロピレン系樹脂中に数ミクロンで分散した成分(C):ポリ乳酸系樹脂相中にナノサイズで多くの成分(D):エポキシ変性ポリオレフィン系樹脂が二次分散している様子が明瞭に観察出来た。
また、成分(C)と成分(D)に対する成分(D)の面積比は32%であった。評価結果を表1に示す。
【0059】
(比較例1)
成分(A):ポリプロピレン系樹脂としてMFR(230℃、21.18N)=25g/10分、比重=0.90のエチレン−プロピレンブロック共重合体69重量%、成分(B):酸変性ポリオレフィン系樹脂及び/又はヒドロキシ変性ポリオレフィン系樹脂として無水マレイン酸変性ポリオレフィン(アルケマ社製「OREVAC CA100」、無水マレイン酸グラフト率=0.8重量%)1重量%、成分(C):ポリ乳酸系樹脂としてポリ乳酸(ユニチカ社製「TP−4000」、MFR=3g/10分)27重量%と成分(D):エポキシ変性ポリオレフィン系樹脂としてエチレン−グリシジルメタクリレート(GMA)共重合体(住友化学製「ボンドファーストE」、GMA含量=12重量%)3重量%を配合した混合物に実施例1と同様の安定剤及びタルクを配合し、同方向回転2軸押出機(日本製鋼所社製:TEX30α)を用いて、スクリュー回転数300rpm、押出レート10kg/h、混練温度は、180℃で溶融混練した。
得られた樹脂組成物について物性評価を行った。
【0060】
得られた樹脂組成物につき、型締め圧170トンの射出成形機を使用し、成形温度200℃にて、120mm×120mm×2mmtなる形状で成形したテストピース中央部の1mm内部を観察した。
観察は実施例1と同様の方法で行った。観察した結果を図2に示す。
図2によれば、比較例1の組成物は、実施例1の組成物と樹脂組成は一致するが、まったく異なる構造を有していた。成分(A):ポリプロピレン系樹脂中に数ミクロンで分散した成分(C):ポリ乳酸系樹脂相中に成分(D):エポキシ変性ポリオレフィン系樹脂が二次分散している様子が観察出来ず、また成分(C)と成分(D)に対する成分(D)の面積比は1%であった。評価結果を表1に示す。
【0061】
(比較例2)
工程(I)で、混練温度を250℃とした他は実施例1に従って評価を行った。
成分(A):ポリプロピレン系樹脂中に数ミクロンで分散した成分(C):ポリ乳酸系樹脂相中にナノサイズで多くの成分(D):エポキシ変性ポリオレフィン系樹脂が二次分散している様子は観察出来なかった。成分(C)と成分(D)に対する成分(D)の面積比は2%であった。評価結果を表1に示す。
【0062】
(比較例3)
工程(I)で、成分(D):エチレン−グリシジルメタクリレート共重合体に替えて成分(D’):エチレン−プロピレン共重合体(三井化学社製「タフマー P−0680」、MFR(190℃、21.18N)=0.6g/10分、密度=0.871g/cm)を用いた他は実施例1に従って評価を行った。
成分(A):ポリプロピレン系樹脂中に数ミクロンで分散した成分(C):ポリ乳酸系樹脂を観察した。成分(C)と成分(D)に対する成分(D)の面積比は0%であった。評価結果を表1に示す。
【0063】
(比較例4)
工程(I)は、実施例1と同様の操作を行い、溶融混練組成物を得た。
工程(II)は、実施例1において、エチレン−プロピレンブロック共重合体69重量%と酸変性ポリオレフィン系樹脂1重量%に替えて、エチレン−プロピレンブロック共重合体70重量%を使用した他は実施例1に従って評価した。得られた樹脂組成物について物性評価を行った。
成分(A):ポリプロピレン系樹脂中に数ミクロンで分散した成分(C):ポリ乳酸系樹脂相中にナノサイズで多くの成分(D):エポキシ変性ポリオレフィン系樹脂が二次分散している様子が明瞭に観察出来、また成分(C)と成分(D)に対する成分(D)の面積比は30%であった。評価結果を表1に示す。
【0064】
【表1】

【0065】
(実施例2)
実施例1において、工程(II)で、エチレンープロピレンブロック共重合体に替えて、プロピレン単独重合体(MFR(230℃、21.18N)=10g/10分、比重:0.90、)を使用した他は実施例1に従って評価を行った。評価結果を表2に示す。
成分(A):ポリプロピレン系樹脂中に数ミクロンで分散した成分(C):ポリ乳酸系樹脂相中にナノサイズで多くの成分(D):エポキシ変性ポリオレフィン系樹脂が二次分散している様子が明瞭に観察出来、また成分(C)と成分(D)に対する成分(D)の面積比は32%であった。
【0066】
(実施例3)
実施例1において、工程(I)で、ポリ乳酸とエポキシ変性ポリオレフィンの割合を、ポリ乳酸80重量%とエポキシ変性ポリオレフィン20重量%とする他は実施例1に従って評価を行った。評価結果を表2に示す。
成分(A):ポリプロピレン系樹脂中に数ミクロンで分散した成分(C):ポリ乳酸系樹脂相中にナノサイズで多くの成分(D):エポキシ変性ポリオレフィン系樹脂が二次分散している様子が明瞭に観察出来、また成分(C)と成分(D)に対する成分(D)の面積比は40%であった。
【0067】
(実施例4)
実施例1において、工程(I)で、ポリ乳酸(ユニチカ社製「TP−4000」)に替えて、ポリ乳酸(三井化学社製「LACEA H−100」、MFR=8g/10分)とする他は実施例1に従って評価を行った。評価結果を表2に示す。
成分(A):ポリプロピレン系樹脂中に数ミクロンで分散した成分(C):ポリ乳酸系樹脂相中にナノサイズで多くの成分(D):エポキシ変性ポリオレフィン系樹脂が二次分散している様子が明瞭に観察出来、また成分(C)と成分(D)に対する成分(D)の面積比は32%であった。
【0068】
(実施例5)
実施例1において、工程(II)で、樹脂成分の割合を工程(I)で得た溶融混練組成物40重量%、エチレン−プロピレンブロック共重合体58重量%、及び酸変性ポリオレフィン系樹脂2重量%に変更する他は実施例1に従って評価を行った。評価結果を表2に示す。
成分(A):ポリプロピレン系樹脂中に数ミクロンで分散した成分(C):ポリ乳酸系樹脂相中にナノサイズで多くの成分(D):エポキシ変性ポリオレフィン系樹脂が二次分散している様子が明瞭に観察出来、また成分(C)と成分(D)に対する成分(D)の面積比は35%であった。
【0069】
(実施例6)
実施例1において、工程(I)で、ポリ乳酸とエポキシ変性ポリオレフィンの割合を、ポリ乳酸58重量%とエポキシ変性ポリオレフィン42重量%とする他は実施例1に従って評価を行った。評価結果を表2に示す。
成分(A):ポリプロピレン系樹脂中に数ミクロンで分散した成分(C):ポリ乳酸系樹脂相中にナノサイズで多くの成分(D):エポキシ変性ポリオレフィン系樹脂が二次分散している様子が明瞭に観察出来、また成分(C)と成分(D)に対する成分(D)の面積比は55%であった。
【0070】
(比較例5)
実施例1において、工程(II)で、樹脂成分の割合を工程(I)で得た溶融混練組成物65重量%、エチレン−プロピレンブロック共重合体32重量%、及び酸変性ポリオレフィン系樹脂3重量%に変更する他は実施例1に従って評価を行った。評価結果を表2に示す。
成分(A):ポリプロピレン系樹脂中に数ミクロンで分散した成分(C):ポリ乳酸系樹脂相中にナノサイズで多くの成分(D):エポキシ変性ポリオレフィン系樹脂が二次分散している様子が明瞭に観察出来、また成分(C)と成分(D)に対する成分(D)の面積比は42%であった。
【0071】
(比較例6)
実施例1において、工程(II)で、樹脂成分の割合を工程(I)で得た溶融混練組成物30重量%、エチレン−プロピレンブロック共重合体60重量%、及び酸変性ポリオレフィン系樹脂10重量%に変更する他は実施例1に従って評価を行った。評価結果を表2に示す。
成分(A):ポリプロピレン系樹脂中に数ミクロンで分散した成分(C):ポリ乳酸系樹脂相中にナノサイズで多くの成分(D):エポキシ変性ポリオレフィン系樹脂が二次分散している様子が明瞭に観察出来、また成分(C)と成分(D)に対する成分(D)の面積比は30%であった。
【0072】
【表2】

【0073】
[評価]
表1より明らかなように、本発明のポリ乳酸含有樹脂組成物は、曲げ弾性率、シャルピー衝撃、高速試験後の破断エネルギー、表面剥離性ともに改良されている。工程を1工程のみで実施した場合、高速試験後の破断エネルギー及び、表面剥離性が悪い(比較例1)。工程(I)にて混練温度250℃で製造した場合、高速試験後の破断エネルギー及び、表面剥離性が悪い(比較例2)。エポキシ変性ポリオレフィンを添加しないで、代わりにエチレン系エラストマーを添加した場合、高速試験後の破断エネルギー及び、表面剥離性が悪い(比較例3)。酸またはヒドロキシ変性ポリオレフィン成分を添加しない場合、高速試験後の破断エネルギー及び、表面剥離性が悪い(比較例4)。
また、表2より明らかなように、本発明のポリ乳酸含有樹脂組成物は、曲げ弾性率、シャルピー衝撃、高速試験後の破断エネルギー、表面剥離性ともに改良されている。ポリプロピレン樹脂組成物の添加量が少ない場合、高速試験後の破断エネルギー、表面剥離性ともに低下する(比較例5)。無水マレイン酸またはヒドロキシ変性ポリオレフィン成分を添加量が過剰な場合、高速試験後の破断エネルギー及び、表面剥離性が悪い(比較例6)。
【産業上の利用可能性】
【0074】
本発明の優れた面衝撃と曲げ弾性率を持つ成型品を形成可能な、射出成形時に表面が剥離しないポリ乳酸含有樹脂組成物は、自動車部品に適用可能なほど剛性と衝撃性に優れたポリ乳酸含有樹脂組成物であるため、自動車部品などの用途に好適に用いることができる。また、本発明の製造方法によれば、上記ポリ乳酸含有樹脂組成物を容易に製造することができる。したがって、本発明のポリ乳酸含有樹脂組成物、その製造方法及びその成形体は、産業上大いに有用である。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記の成分(A)30〜89.5重量%と、成分(B)0.1〜5重量%と、成分(C)10〜50重量%と、成分(D)0.4〜15重量%とを含有し、かつマトリックスとドメインとサブドメインとからなる海島湖構造を有する樹脂組成物であって、
マトリックスは成分(A)からなり、ドメインは成分(C)からなり、サブドメインは成分(D)からなることを特徴とするポリ乳酸含有樹脂組成物。
成分(A):ポリプロピレン系樹脂
成分(B):酸変性ポリオレフィン系樹脂及び/又はヒドロキシ変性ポリオレフィン系樹脂
成分(C):ポリ乳酸系樹脂
成分(D):エポキシ変性ポリオレフィン系樹脂
【請求項2】
電子顕微鏡による形態観察において、前記ドメインの占有面積(S)と、前記サブドメインの占有面積(S)とが、次式を満たすことを特徴とする請求項1に記載のポリ乳酸含有樹脂組成物。
/(S+S)×100≧20
【請求項3】
成分(A)は、プロピレン単独重合体及びプロピレン・α−オレフィン共重合体から選ばれる1種以上の結晶性ポリプロピレン、又は該結晶性ポリプロピレンとプロピレン以外のα−オレフィンの単独重合体若しくは共重合体との混合物であることを特徴とする請求項1又は2に記載のポリ乳酸含有樹脂組成物。
【請求項4】
成分(B)は、酸量が無水マレイン酸換算で0.05〜10重量%であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載のポリ乳酸含有樹脂組成物。
【請求項5】
成分(C)は、L−乳酸及び/又はD−乳酸を主成分とすることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載のポリ乳酸含有樹脂組成物。
【請求項6】
成分(D)は、エチレン−グリシジルメタクリレート共重合体であることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載のポリ乳酸含有樹脂組成物。
【請求項7】
下記の工程(I)と工程(II)とを含むことを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載のポリ乳酸含有樹脂組成物の製造方法。
工程(I):成分(C)と成分(D)とを溶融混練する工程
工程(II):工程(I)で得られた溶融混練組成物と、成分(A)と成分(B)とを溶融混練する工程
但し、上記成分(A)はポリプロピレン系樹脂、成分(B)は酸変性ポリオレフィン系樹脂及び/又はヒドロキシ変性ポリオレフィン系樹脂、成分(C)はポリ乳酸系樹脂、成分(D)はエポキシ変性ポリオレフィン系樹脂である。
【請求項8】
工程(I)及び工程(II)の溶融混練温度は、240℃以下であることを特徴とする請求項7に記載のポリ乳酸含有樹脂組成物の製造方法。
【請求項9】
請求項1〜6のいずれか1項に記載のポリ乳酸含有樹脂組成物を成形してなる成形体。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2010−248320(P2010−248320A)
【公開日】平成22年11月4日(2010.11.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−97256(P2009−97256)
【出願日】平成21年4月13日(2009.4.13)
【出願人】(596133485)日本ポリプロ株式会社 (577)
【Fターム(参考)】