説明

ポリ乳酸樹脂成形品へのめっき方法

【課題】ポリ乳酸樹脂成形品を被めっき物として、密着性に優れためっき皮膜を形成する手段を提供する。
【解決手段】以下の(a)〜(c)の工程:(a)酸に溶解性の有機添加剤を含むポリ乳酸樹脂成形品を、強酸水溶液からなるエッチング液に接触させたる工程、(b)aの工程に付したポリ乳酸樹脂成形品を、カチオン性界面活性剤および両性界面活性剤から選択される一種以上の界面活性剤を含む水溶液に接触させる工程、および(c)bの工程に付したポリ乳酸樹脂成形品を、パラジウム−錫コロイド水溶液に接触させる工程を含む、ポリ乳酸樹脂成形品に対する無電解めっきのための前処理方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリ乳酸樹脂成形品に対する無電解めっきのための前処理方法、ポリ乳酸樹脂成形品に対する無電解めっき方法、ポリ乳酸樹脂成形品に対するめっき方法、およびめっき皮膜を有するポリ乳酸樹脂成形品に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、自動車を軽量化し、コストダウンを図るために、自動車の各種部品に対して樹脂成形品が多く用いられている。例えば、ABS樹脂、PC/ABSアロイ樹脂、ポリアミド樹脂、ノリル樹脂等の各種の樹脂が用いられている。これらの樹脂成形品には、更に、装飾性の向上等を目的として銅、ニッケル、クロム、金等の各種のめっき皮膜を形成させることが多い。
【0003】
樹脂成形品にめっき処理を行う方法としては、例えば、脱脂、エッチング、中和等の前処理を行った後、パラジウムおよびスズ化合物を含有するコロイド溶液を用いて触媒成分を樹脂表面に吸着させ、その後、無電解めっきおよび電気めっきを順次行う方法が広く採用されている。
【0004】
この様なめっき方法では、例えば、ABS樹脂成形品を被めっき物とする場合には、エッチング液として6価クロムと硫酸の混合液からなるクロム酸−硫酸混合液が広く用いられており、良好なめっき皮膜を形成することが可能となっている(特許文献1)。
【0005】
一方、ポリ乳酸樹脂は、生分解性を有することから、環境に優しい樹脂として注目を集めており、各種の用途への利用が検討されている。しかしながら、ポリ乳酸樹脂からなる成形品を被めっき物としてめっき処理を行う場合には、エッチング液として従来知られているクロム酸−硫酸混合液を用いても、エッチング効果が十分ではなく、無電解めっきのための触媒の吸着性も悪いため、満足のいくめっき密着性およびめっき被覆性を得ることが出来ないという問題があった。
【0006】
【特許文献1】特開平5−239335号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の課題は、ポリ乳酸樹脂成形品を被めっき物として、密着性および被覆性に優れためっき皮膜を形成する手段を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討を行った結果、ポリ乳酸の製造時に酸に溶解性の有機添加剤を配合し、さらに強酸によるエッチングの後、カチオン性界面活性剤および/または両性界面活性剤を含む水溶液で処理することにより、無電解めっきおよび電気めっきにおいて、密着性および被覆性に優れためっき皮膜を形成できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち、本発明は以下の発明を包含する。
(1)以下の(a)〜(c)の工程:
(a)酸に溶解性の有機添加剤を含むポリ乳酸樹脂成形品を、強酸水溶液からなるエッチング液に接触させる工程、
(b)aの工程に付したポリ乳酸樹脂成形品を、カチオン性界面活性剤および両性界面活性剤から選択される一種以上の界面活性剤を含む水溶液に接触させる工程、および
(c)bの工程に付したポリ乳酸樹脂成形品を、パラジウム−錫コロイド水溶液に接触させる工程
を含む、ポリ乳酸樹脂成形品に対する無電解めっきのための前処理方法。
【0010】
(2)酸に溶解性の有機添加剤がブタジエン系ゴム成分を含む有機添加剤である、(1)記載の方法。
(3)(1)または(2)記載の方法でポリ乳酸樹脂成形品の前処理を行った後、無電解めっきを行う、ポリ乳酸樹脂成形品に対する無電解めっき方法。
【0011】
(4)(3)記載の方法によって無電解めっきを行った後、電気めっきを行う、ポリ乳酸樹脂成形品に対するめっき方法。
(5)(3)または(4)記載の方法によって形成された、めっき皮膜を有するポリ乳酸樹脂成形品。
(6)めっき皮膜を有するポリ乳酸樹脂成形品であって、該成形品表面におけるめっき皮膜の被覆率が50%を超える、前記成形品。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、生分解性を有するポリ乳酸樹脂成形品に対して、密着性および被覆性に優れためっき皮膜を形成できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
ポリ乳酸樹脂成形品
本発明の方法では、被めっき物として、ポリ乳酸樹脂成形品を用いる。ポリ乳酸樹脂は、乳酸、ラクチドなどを原料成分とする重合体であり、生分解性を有する樹脂として知られている。
【0014】
本発明においてポリ乳酸は、下記式:
【化1】

で表される乳酸構造単位を有する重合体をさす。
【0015】
本発明の処理対象であるポリ乳酸は、上記構造単位を有するものであればよく、ポリL−乳酸単独重合体、ポリD−乳酸単独重合体、ポリL/D−乳酸共重合体、これらに他のエステル結合形成性成分、例えば、ヒドロキシカルボン酸、ラクトン類、ジカルボン酸およびジオールなどを共重合した共重合ポリ乳酸を包含する。ヒドロキシカルボン酸の例としては、グリコール酸、ヒドロキシブチルカルボン酸、ヒドロキシ安息香酸など、ラクトン類の例としては、ブチロラクトン、カプロラクトンなど、ジカルボン酸の例としては炭素数4〜20の脂肪族ジカルボン酸、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、ナフタレンジカルボン酸などの芳香族ジカルボン酸、ジオールの例としては、炭素数2〜20の脂肪族ジオールが挙げられる。ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリブチレンエーテルなどポリアルキレンエーテルの重合体も共重合成分として用いられる。同様にポリアルキレンカーボネートの重合体も共重合成分として用いられる。共重合ポリ乳酸においては、上記の乳酸構造単位が、全モノマー成分中、50質量%以上であることが好ましく、75質量%以上であることがより好ましい。
【0016】
ポリ乳酸の重量平均分子量は、80,000〜250,000が好ましく、100,000〜200,000がさらに好ましく、130,000〜160,000が特に好ましい。ポリ乳酸の重量平均分子量が80,000以上であれば、ポリ乳酸の加水分解が生じにくく樹脂成形品の耐久性が向上する。一方、ポリ乳酸の重量平均分子量が250,000以下であれば、樹脂組成物の粘度が射出成形に好適な粘度範囲となり、成形品の形成が容易になる。なお、本発明において重量平均分子量とは、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により測定された値をいう。
【0017】
本発明ににおいては、上記重合体に加えて、酸に溶解性の有機添加剤を含むポリ乳酸樹脂成形品を被めっき物として用いる。本明細書において、酸に溶解性の有機添加剤は、酸に対する溶解性が高い有機高分子化合物を主成分とする添加剤をさす。ポリ乳酸よりも酸に弱い、すなわちポリ乳酸よりも酸に対する溶解性が高い有機高分子化合物を主成分とする添加剤を用いる。そのような有機添加剤としては、例えば、ブタジエン系ゴム成分を主成分として含む有機添加剤が挙げられる。ブタジエン系ゴム成分には、ブタジエン重合体、スチレンブタジエン共重合体、ブタジエンアクリロニトリル共重合体およびアクリロニトリルブタジエンスチレン共重合体などが包含される。
【0018】
有機添加剤の形態は、ポリ乳酸中に分散可能なものであれば特に制限されないが、通常、粒子状、粉体状、フレーク状等であり、その表面に表面処理層を有するものが好ましい。表面処理層は、そのSP値(溶解性パラメーター)がポリ乳酸と近い樹脂からなるものが好ましい。SP値は、極性を表し、従って溶解性の尺度として用いられる。極性が近い、すなわちSP値が近いほど、両者が混ざりやすくなる。
【0019】
表面処理層は、特に、アクリル樹脂からなるものが好ましい。アクリル樹脂は、主としてアクリル酸、メタクリル酸およびこれらの誘導体、例えばアクリル酸エステル、メタクリル酸エステル、アクリルアミドおよびアクリロニトリルなどの重合体をさす。アクリル樹脂からなる表面処理層は、上記有機高分子化合物、好ましくはブタジエン系ゴム成分の表面に、例えばアクリル酸エステルやメタクリル酸エステルをグラフト重合させることにより形成できる。有機添加剤において表面処理層は、通常60〜80質量%を占める。表面処理層を有する有機添加剤を用いることにより、ポリ乳酸溶融物中に有機添加剤を均一に分散させることができる。
【0020】
有機添加剤としては、樹脂用の添加剤として市販されているものを使用することができ、例えば、メタブレン(三菱レイヨン製)などが挙げられる。
【0021】
ポリ乳酸と有機添加剤の質量比は、通常、50:50〜95:5、好ましくは65:35〜90:10である。
【0022】
酸に溶解性の有機添加剤をポリ乳酸に加えることにより、その後の強酸によるエッチング処理においてポリ乳酸中に分散した有機添加剤が優先的に溶けだし、その結果、ポリ乳酸樹脂成形品の表面に凹痕が形成される。無電解めっきにおいて、この凹痕に金属が析出し、投錨効果による密着強度が発揮される。また、この凹痕の形成により表面積が増加するため、ポリ乳酸が酸化されて極性基であるカルボキシル基が表面に多く露出し、コンディショニング液および触媒の吸着を促進する。さらに、有機添加剤としてブタジエン系ゴム成分を主成分として含む有機添加剤を用いた場合には、強酸によるエッチング処理においてブタジエンの二重結合が分解し、カルボニル基やカルボキシル基等の極性基が生じ、コンディショニング液および触媒の吸着を促進する。
【0023】
本発明のポリ乳酸樹脂には、さらにポリ乳酸の結晶性を向上させるために核形成剤を添加することが好ましい。核形成剤としては、例えば、エチレンビス−12−ヒドロキシステアリン酸アミド、リン酸ビス(4−t−ブチルフェニル)ナトリウム、アルキル置換ジベンジリデンソルビトール、リン酸2,2’−メチレンビス(4,6−ジ−t−ブチルフェニル)ナトリウム、ビス(p−メチルベンジリデン)ソルビトール、ビス(p−エチルベンジリデン)ソルビトールなどが挙げられる。核形成剤の好ましい添加量は、ポリ乳酸と有機添加剤の総量100質量部に対して0.1〜2質量部である。
【0024】
ポリ乳酸樹脂成形品は、さらに、酸化防止剤、安定剤、紫外線吸収剤、顔料、着色剤、無機粒子、各種フィラー、離型剤、可塑剤などのその他の添加剤を含んでいてもよい。この場合、ポリ乳酸樹脂成形品におけるポリ乳酸の割合は、通常60質量%以上、好ましくは70質量%以上であることが好ましい。
【0025】
本発明のポリ乳酸樹脂成形品は、ポリ乳酸と、有機添加剤と、必要に応じてその他の添加剤とを溶融混合して、成形することにより製造することができる。用いられる混合装置は、特に限定されるものではないが、バンバリーミキサー、二軸押出機等が好ましく、また連続的に処理できるものが工業的に有利である。
【0026】
ポリ乳酸と、有機添加剤と、必要に応じてその他の添加剤とを溶融混合するには、ポリマーの劣化、変質を防ぐためできるだけ低温で短時間に混合することが好ましい。温度は、通常、ポリ乳酸の融点以上(170℃以上)、かつポリ乳酸が分解しない温度(250℃以下)、好ましくは190〜220℃、時間は30秒〜10分、好ましくは1〜3分で混合することが好ましい。
【0027】
ポリ乳酸樹脂は、圧縮成形、射出成形、押出成形等の公知の方法を用いて成形品とするできる。
【0028】
前処理方法
(1)エッチング処理
本発明の方法では、常法に従って、被めっき物であるポリ乳酸樹脂成形品を、通常、脱脂および洗浄した後、強酸水溶液からなるエッチング液に接触させることによりエッチング処理を行う。
【0029】
強酸水溶液からなるエッチング液としては、例えば、クロム酸−硫酸エッチング液およびリン酸−クロム酸−硫酸エッチング液などのクロム酸系エッチング液、重クロム酸カリウム−硫酸エッチング液および重クロム酸カリウム−リン酸エッチング液などの重クロム酸系エッチング液、リン酸−過塩素酸−過マンガン酸カリウムエッチング液および過マンガン酸カリウム−リン酸エッチング液などの過マンガン酸カリウム系エッチング液、ならびに硫酸エッチング液、塩酸エッチング液および硫酸−塩酸エッチング液等が挙げられる。好ましくはクロム酸−硫酸エッチング液を用いる。
【0030】
クロム酸−硫酸エッチング液としては、通常、CrO3を100〜500g/lと、98%硫酸を100〜500g/l含有する水溶液を用いることができる。この他、比較的硫酸濃度の高い、CrO3を15g/lと、98%硫酸を1000g/l含有する水溶液を用いることもできる。
【0031】
その他のエッチング液についても、通常用いられている濃度範囲で用いることができ、例えば、リン酸−過塩素酸−過マンガン酸カリウムエッチング液については、89%リン酸を450〜650ml/l、60%過塩素酸を30〜100ml/l、過マンガン酸カリウムを3〜7g/l含有する水溶液を用いることができる。
【0032】
エッチング処理方法としては、樹脂成形品をエッチング液に接触させればよい。具体的な方法については特に制限はなく、被めっき物の表面をエッチング液に十分に接触させることができる方法であればよい。通常は、エッチング液中に被めっき物を浸漬させる方法によれば、効率のよい処理が可能である。その他、エッチング液を被めっき物表面に噴霧する方法等も用いることができる。
【0033】
処理条件については特に制限はなく、具体的な処理方法、目的とするエッチング処理のに応じて適宜決定できる。例えば、浸漬法にて処理を行う場合には、エッチング液の液温を60〜80℃とすることが好ましく、特に65〜70℃にすることがより好ましい。浸漬時間についても特に制限はなく、エッチング処理の進行の程度によって適宜決定できる。通常、1〜30分、好ましくは5〜15分とすればよい。
【0034】
上記した方法でエッチング処理を行ったのち、通常、樹脂表面に付着しているエッチング液成分を除去するために中和処理を行う。この際、無機酸を含む水溶液を用いて洗浄することによって、効率よく洗浄することができる。無機酸としては、例えば、塩酸、硫酸等を用いることができる。中和処理条件については特に限定的ではなく、付着しているエッチング液成分を十分に除去できる条件とすればよい。例えば、35%塩酸を用いて処理を行う場合には、30〜100g/lの濃度の水溶液を用いて、20〜40℃の処理液中に1〜3分間浸漬させればよい。
【0035】
(2)コンディショニング処理
上記した方法でエッチング処理を行ったのち、コンディショニング処理として、カチオン性界面活性剤および両性界面活性剤から選択される一種以上の界面活性剤を含む水溶液からなるコンディショニング液に被めっき物を接触させる。この処理を行うことによって、この後の触媒付与処理において、被めっき物の表面に均一な触媒膜を付着させることが可能となり、無電解めっきの析出性や外観を向上させることができる。
【0036】
これらの界面活性剤の内で、カチオン性界面活性剤としては、下記に示したものを用いることができる。
【0037】
脂肪族アミン塩:
R−NHX(式中、Rは炭素数12〜18のアルキル基、Xは無機酸または有機酸である)
【0038】
【化2】

(式中、RおよびXは上記と同じである)
【0039】
【化3】

(式中、RおよびXは上記と同じである)。
【0040】
無機酸としては、硫酸、硝酸、塩酸等が挙げられ、有機酸としては、炭素数1〜20の脂肪族モノもしくはジカルボン酸、例えば、酢酸、ギ酸等が挙げられる。
【0041】
脂肪族4級アンモニウム塩:
【化4】

(式中、Rは炭素数12〜18のアルキル基、Rは炭素数12〜18のアルキル基またはCH、XはClまたはBrである)。
【0042】
芳香族4級アンモニウム塩:
【化5】

(式中、Rは炭素数12〜24のアルキル基、XはClまたはBrである)。
【0043】
複素環4級アンモニウム塩:
【化6】

(式中、Rは炭素数12〜18のアルキル基、XはClまたはBrである)
【0044】
【化7】

(式中、Rは炭素数1〜4のアルキル基、Rは炭素数12〜24のアルキル基、Rは炭素数1〜5のアルキル基、XはClまたはBrである)。
【0045】
両性界面活性剤としては、下記式で表されるカルボキシベタイン型界面活性剤、アミノカルボン酸塩の他、イミダゾリウムベタイン、レシチン等を用いることができる。
【0046】
カルボキシベタイン型界面活性剤:
【化8】

(式中、Rは炭素数12〜18のアルキル基、RおよびRは独立して炭素数1〜5のアルキル基、nは1〜2である)。
【0047】
アミノカルボン酸塩:
RNH(CH)COOH
(式中、Rは炭素数12〜18のアルキル基、nは1〜2である)。
【0048】
上記した界面活性剤は、単独でまたは二種以上を混合して用いることができる。
これらの界面活性剤の中でも、特に、脂肪族アミン塩、脂肪族4級アンモニウム塩、芳香族4級アンモニウム塩等のカチオン性界面活性剤;カルボキシベタイン、アミノカルボン酸塩等の両性界面活性剤が好ましい。その中でも特に脂肪族アンモニウム塩、アミノカルボン酸塩およびこれらの併用が好ましい。
【0049】
コンディショニング液中の界面活性剤濃度は、0.05〜50g/lとすることが好ましく、0.1〜10g/lとすることがより好ましい。
【0050】
コンディショニング処理の方法については、特に限定はなく、被めっき物を処理液に十分に接触させることが可能な方法であればよい。通常は、処理液中に被めっき物を浸漬させることによって、効率の良い処理が可能である。
【0051】
処理条件については特に限定的ではなく、具体的な処理方法に応じて適宜処理条件を決めればよい。例えば、浸漬法にて処理を行う場合は、通常、10〜50℃、好ましくは20〜45℃の処理液中に被めっき物を1〜10分、好ましくは、1〜5分浸漬させればよい。
【0052】
(3)触媒付与処理
上記した方法で被めっき物表面のコンディショニング処理を行った後、無電解めっき用触媒を付与する。
【0053】
触媒の付与方法については、パラジウム、銀、金、白金、ルテニウムなどの無電解めっき用触媒を公知の方法、例えばABS樹脂へのめっき方法に従って付与すればよい。パラジウム触媒の付与方法としては、例えば、キャタリスト−アクセレーター法と称される代表的な方法がある。
【0054】
キャタリスト−アクセレーター法は、パラジウム−錫コロイド水溶液、すなわち塩化パラジウムと塩化第一錫を含む混合コロイド水溶液によって被めっき物を触媒化処理(キャタライジング)したのち、塩酸や硫酸などを用いて錫を除去しパラジウムを活性化(アクセレーティング)する方法である。これらの具体的な処理方法、処理条件については、公知の方法に従えばよい(例えば、プラスチック加工技術ハンドブック、高分子学会編、日刊工業新聞社発行、1995年)。
【0055】
めっき処理方法
(1)無電解めっき処理
上記した方法で無電解めっき用触媒を付与した後、無電解めっきを行うことによって、ポリ乳酸樹脂成形品に対して、密着性に優れた無電解めっき皮膜を形成することができる。
【0056】
無電解めっき液としては、公知の自己触媒型無電解めっき液をいずれも用いることができる。このような無電解めっき液としては、無電解ニッケルめっき液、無電解銅めっき液、無電解金めっき液、無電解コバルトめっき液などが挙げられる。
【0057】
無電解めっきの条件、例えば、めっき液の液温、めっき時間等の処理条件は、めっき液の種類等に応じて常法に従えばよい。また、必要に応じて無電解めっき皮膜を二層以上形成してもよい。無電解めっき皮膜の膜厚についても、目的に応じて適宜決めればよい。
【0058】
本発明により前処理および無電解めっき処理を行ったポリ乳酸樹脂成形品は、優れためっき被覆性を有し、めっき皮膜の被覆率が、通常50%を超える、好ましくは70%を超える、より好ましくは90%を超える、さらに好ましくは95%を超える。ここで被めっき物表面においてめっき皮膜が形成された面積の割合を被覆率とし、被めっき物表面の全面が被覆された場合を被覆率100%とする。
【0059】
(2)電気めっき処理
上記した方法で無電解めっき皮膜を形成した後、必要に応じて、電気めっき処理を行うことができる。
【0060】
上記した方法によって形成される無電解めっき皮膜は、均一性に優れた密着性の良好な導電性皮膜であり、この上に電気めっき皮膜を形成することによって、密着性および耐久性に優れた良好な外観のめっき皮膜を形成することができる。
【0061】
電気めっき液の種類は、特に限定されるものではなく、従来公知のいずれの電気めっき液も使用可能である。又、めっき処理の条件も常法に従えばよい。
【0062】
電気めっき処理の例として、銅めっき、ニッケルめっき、およびクロムめっきを順次行うことによる装飾用電気めっきプロセスについて具体的に説明する。
【0063】
銅めっき液としては硫酸銅めっき液を用いることができる。硫酸銅めっき液としては、公知の光沢硫酸銅めっき液を用いることができる。例えば、硫酸銅100〜250g/l、硫酸20〜120g/l、および塩素イオン20〜70ppmを含有する水溶液に、公知の光沢剤を添加しためっき浴を使用できる。硫酸銅めっきの条件は、通常と同様でよく、例えば、液温25℃程度、電流密度3A/dm程度でめっきを行い、所定の膜厚までめっきを行えばよい。
【0064】
ニッケルめっき液としては、通常のワット浴を用いることができる。すなわち、硫酸ニッケル200〜350g/l、塩化ニッケル30〜80g/l、およびホウ酸20〜60g/lを含有する水溶液に、市販のニッケルめっき浴用光沢剤を添加したものを使用できる。めっき条件は通常と同様でよく、例えば、液温55〜60℃、電流密度3A/dm程度で電解して所定の膜厚までめっきすればよい。
【0065】
クロムめっき液としては、通常のサージェント浴を用いることができる。すなわち、無水クロム酸200〜300g/l、および硫酸2〜5g/lを含有する水溶液を使用でき、めっき条件は、液温45℃程度、電流密度20A/dm程度として所定の膜厚までめっきを行えばよい。
【0066】
めっき処理品
本発明の方法に従ってめっき皮膜を形成した樹脂成形品は、その使用目的に応じてめっき層の種類、めっき膜厚などを適宜選択することによって、各種用途に利用することができる。特に、バンパー、ラジエターグリル、エンブレム、ホイルキャップなどの自動車部品、パソコンの筐体、デジカメの外装部品、携帯電話の外装部品等の用途に広く好適に用いることができる。
【実施例】
【0067】
実施例1
二軸押出機を用い、ポリ乳酸(PLA)(U’z−B2、トヨタ自動車製)85質量部に、有機添加剤としてのメタブレン(C223−A、三菱レイヨン製)15質量部、および核形成剤としてのエチレンビス−12−ヒドロキシステアリン酸アミド(スリパックスH、日本化成製)1質量部を加えて所定温度(210℃)にて混練し、ポリ乳酸樹脂ペレットを得た。得られたペレットを乾燥し、絶乾状態にした後、金型温度110℃、冷却時間120秒にて射出成形し、各種試験片としての成形品を得た。
【0068】
実施例2
二軸押出機を用い、PLA(U’z−B2、トヨタ自動車製)80質量部に、メタブレン(C223−A、三菱レイヨン製)20質量部、エチレンビス−12−ヒドロキシステアリン酸アミド(スリパックスH、日本化成製)1質量部を加えて所定温度にて混練し、ポリ乳酸樹脂ペレットを得た。得られたペレットを乾燥し、絶乾状態にした後、金型温度110℃、冷却時間120秒にて射出成形し、各種試験片としての成形品を得た。
【0069】
実施例3
二軸押出機を用い、PLA(U’z−B2、トヨタ自動車製)75質量部に、メタブレン(C223−A、三菱レイヨン製)25質量部、エチレンビス−12−ヒドロキシステアリン酸アミド(スリパックスH、日本化成製)1質量部を加えて所定温度にて混練し、ポリ乳酸樹脂ペレットを得た。得られたペレットを乾燥し、絶乾状態にした後、金型温度110℃、冷却時間120秒にて射出成形し、各種試験片としての成形品を得た。
【0070】
比較例1
二軸押出機を用い、PLA(U’z−B2、トヨタ自動車製)100質量部に、エチレンビス−12−ヒドロキシステアリン酸アミド(スリパックスH、日本化成製)1質量部を加えて所定温度にて混練し、ポリ乳酸樹脂ペレットを得た。得られたペレットを乾燥し、絶乾状態にした後、金型温度110℃、冷却時間120秒にて射出成形し、各種試験片としての成形品を得た。
【0071】
表1に実施例1〜3および比較例1のポリ乳酸樹脂成形品の組成を示す。
【0072】
【表1】

【0073】
(前処理および無電解めっき処理)
まず、上記実施例1〜3および比較例1で得られたポリ乳酸樹脂成形品をアルカリ系脱脂剤溶液(エースクリーンA−220:50g/l、奥野製薬工業製)水溶液中に40℃で3分間浸漬した(工程A)。
【0074】
次いで、水洗いを行い、クロム酸−硫酸エッチング液(クロム酸:400g/l、98%硫酸:400g/l)を用いてエッチング処理を5分間または10分間行った(工程B)。
【0075】
次いで、水洗いを行い、35%塩酸60g/lを含有する水溶液に室内で2分間浸漬することにより中和した(工程C)。
【0076】
次いで水洗いを行い、脂肪族4級アンモニウム塩およびアミノカルボン酸塩を5g/l含有するコンディショニング液に浸漬した。液温は40℃、時間は3分間行った(工程D)。
【0077】
次いで、水洗いを行い、塩化パラジウム3g/l、塩化第1錫20g/l、および35%塩酸240g/lを含有する液温30℃のパラジウム−錫コロイド水溶液に被めっき物を3分間浸漬し、触媒を付与した(工程E)。
【0078】
次いで、水洗いを行い、98%硫酸を180g/l含有する水溶液(液温40℃)中に3分間浸漬することにより触媒を活性化した(工程F)。
【0079】
次いで、水洗いを行い、アルカリ系無電解ニッケルめっき液(TMP化学ニッケルHR−TA:150ml/l、TMP化学ニッケルHR−TB:150ml/l、奥野製薬工業製)中に液温40℃で6分間浸漬して、無電解ニッケル皮膜を形成した(工程G)。
【0080】
なお、工程Dについては、上記実施例1〜3および比較例1で得られた各試験片について、それぞれ工程Dを実施する場合と実施しない場合の双方を試験した。
【0081】
以上の方法で形成された各無電解ニッケルめっき皮膜の被覆率を評価した。被めっき物表面の無電解ニッケルめっき皮膜が形成された面積の割合を被覆率とし、試験片の全面が被覆された場合を被覆率100%とした。
以下の表2に試験結果を示す。
【0082】
【表2】

【0083】
以上の結果から明らかなように、有機添加剤をポリ乳酸にブレンドし、エッチング後にコンディショニング処理(工程D)を行って得られた試料においては、無電解ニッケルめっきがいずれの場合も被覆率100%で形成された。これに対し、有機添加剤を含まないポリ乳酸(比較例1)を用いた場合はコンディショニング処理を行った場合でも無電解めっきが一部しか形成されなかった。さらに、コンディショニング処理を行わなかった場合は、有機添加剤を含むポリ乳酸樹脂成形品でも、含まないポリ乳酸樹脂成形品でも、無電解めっきは全く形成されなかった(被覆率0%)。
【産業上の利用可能性】
【0084】
本発明を利用してめっき皮膜を形成した樹脂成形品は、密着性に優れためっき皮膜を有するものであり、各種用途に利用できる。例えば、その優れた耐久性を利用して、自動車部品の内外装部品、パソコンなどの電気・電子機器、携帯電話、遊技機などの部品として好適に利用できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の(a)〜(c)の工程:
(a)酸に溶解性の有機添加剤を含むポリ乳酸樹脂成形品を、強酸水溶液からなるエッチング液に接触させる工程、
(b)aの工程に付したポリ乳酸樹脂成形品を、カチオン性界面活性剤および両性界面活性剤から選択される一種以上の界面活性剤を含む水溶液に接触させる工程、および
(c)bの工程に付したポリ乳酸樹脂成形品を、パラジウム−錫コロイド水溶液に接触させる工程
を含む、ポリ乳酸樹脂成形品に対する無電解めっきのための前処理方法。
【請求項2】
酸に溶解性の有機添加剤がブタジエン系ゴム成分を含む有機添加剤である、請求項1記載の方法。
【請求項3】
請求項1または2記載の方法でポリ乳酸樹脂成形品の前処理を行った後、無電解めっきを行う、ポリ乳酸樹脂成形品に対する無電解めっき方法。
【請求項4】
請求項3記載の方法によって無電解めっきを行った後、電気めっきを行う、ポリ乳酸樹脂成形品に対するめっき方法。
【請求項5】
請求項3または4記載の方法によって形成された、めっき皮膜を有するポリ乳酸樹脂成形品。
【請求項6】
めっき皮膜を有するポリ乳酸樹脂成形品であって、該成形品表面におけるめっき皮膜の被覆率が50%を超える、前記成形品。

【公開番号】特開2007−191742(P2007−191742A)
【公開日】平成19年8月2日(2007.8.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−9706(P2006−9706)
【出願日】平成18年1月18日(2006.1.18)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】