説明

ポリ乳酸系二軸積層フィルム

【課題】アクリル系樹脂とポリ乳酸系樹脂とを配合して、二軸方向に延伸したフィルムによって、耐熱性、ヒートシール性、静音性、及び金属または、無機酸化物からなる蒸着層を付与した際のガスバリア性に優れたフィルムを提供すること。
【解決手段】アクリル系樹脂と非晶性ポリ乳酸系樹脂とを含むA層、及び、ポリ乳酸系樹脂を含むB層を有することを特徴とする、ポリ乳酸系二軸延伸積層フィルム。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐熱性、ヒートシール性、静音性、及び金属または、無機酸化物からなる蒸着層を付与した際のガスバリア性に優れたポリ乳酸系二軸延伸フィルムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、環境問題に対する意識の高まりから、プラスチック製品の廃棄による土壌汚染問題、また、焼却による二酸化炭素増大に起因する地球温暖化問題が注目されている。前者への対策として、種々の生分解樹脂、後者への対策として、焼却しても大気中に新たな二酸化炭素の負荷を与えないバイオマス(植物由来原料)からなる樹脂がさかんに研究、開発されている。
【0003】
上記に記した両者の特性を満たす樹脂の1つとして、ポリ乳酸が挙げられる。ポリ乳酸は、高い融点を持ち、また溶融成形可能で実用上優れた生分解性ポリマーとして期待されている。例えば、ポリ乳酸フィルムは各種生分解性フィルムの中でも最も引っ張り強度や弾性率が高く、光沢、透明性にも優れているとされている。しかしながら、当該フィルムはガスバリア性に劣り、かつポリ乳酸樹脂のガラス転移温度が比較的低いため、耐熱性に劣るという問題点があった。(例えば非特許文献1参照)
また、現在では、ポリ乳酸フィルムを使用する用途が広がっているが、その中でも特に包装材料に好適に使用されるようになってきている。包装材料のフィルムの一部として使用される場合は、商業的に売れる費用効果の高い包装製品を製造可能とするために、単体のフィルムとして、より高い機能性が要求されている。例えば、成形体への加工に必要なヒートシール性であったり、金属または、無機酸化物からなる蒸着層を付与した際のガスバリア性であったりする。特に、ガスバリア性に関しては、近年では非常に高いレベルを要求されるようになってきている。さらに、包装材料の中でも、スナック包装用などの人の手に触れたり、折り曲げたりする機会が多々ある用途に使用される場合は、フィルムの静音性というのが要求されるようになってきている。しかしながら、ポリ乳酸フィルムはポリオレフィンに代表されるその他の包装用熱可塑性樹脂フィルムと比較して、揉み、折り曲げなどの外部応力が加えられた際に、特有の耳障りな音を放つという問題があった。
【0004】
上記の要求を解決するべく、種々の試みがなされてきた。例えば、特許文献1−3では、ポリ乳酸系樹脂とアクリレート系樹脂とを配合して作製したフィルムが開示されている。しかしながら、いずれも加飾用シートや透明光学フィルム用途に使用することを目的としたものであって、ヒートシール性や金属または、無機酸化物からなる蒸着層を付与した際のガスバリア性に関する技術思想については開示されておらず、その解決手段についての示唆もない。また、例えば、特許文献4では、非晶性ポリ乳酸系樹脂と結晶性ポリ乳酸系樹脂とを配合してなる二軸延伸ポリ乳酸系フィルムが開示されている。これはガスバリア用途を目的としたフィルムであるが、ポリ乳酸フィルム特有の耳障りな音がするというフィルム静音性問題に関する技術思想については開示されておらず、更に、静音性と高いガスバリア性を両立する方法については開示されていない。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】望月政嗣他,「生分解性ケミカルスとプラスチック」,株式会社シーエムシー,2000年,p147
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2005−336054号公報
【特許文献2】特開2005−336054号公報
【特許文献3】特開2008−15408号公報
【特許文献4】特開2005−53223号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
そこで本発明は、上記問題を鑑みてなされたものであり、耐熱性、ヒートシール性、静音性、及び金属または、無機酸化物からなる蒸着層を付与した際のガスバリア性に優れたポリ乳酸系二軸延伸フィルムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、上記課題を解決するため、次の構成を有する。すなわち、
(1)アクリル系樹脂と非晶性ポリ乳酸系樹脂とを含むA層、及び、ポリ乳酸系樹脂を含むB層を有するポリ乳酸系二軸延伸積層フィルム。
(2)厚みが、10μm以上30μm以下であることを特徴とする、(1)に記載のポリ乳酸系二軸延伸積層フィルム。
(3)B層が、結晶性ポリ乳酸系樹脂を含むことを特徴とする、(1)又は(2)に記載のポリ乳酸系二軸延伸積層フィルム。
(4)A層のアクリル系樹脂は、A層の全成分100質量%において、20質量%以上80質量%以下であることを特徴とする、(1)から(3)のいずれかに記載のポリ乳酸系二軸延伸積層フィルム。
(5)B層は、B層の全成分100質量%において、50質量%以上100質量%以下の結晶性ポリ乳酸系樹脂を含むことを特徴とする、(1)から(4)のいずれかに記載のポリ乳酸系二軸延伸積層フィルム。
(6)アクリル系樹脂が、ポリメチルメタクリレートであることを特徴とする、(1)から(5)のいずれかに記載のポリ乳酸系二軸延伸積層フィルム。
(7)A層、B層、A層が、この順に直接積層されたことを特徴とする、(1)から(6)のいずれかに記載のポリ乳酸系二軸延伸積層フィルム。
(8)蒸着層、A層、B層が、この順に積層されたことを特徴とする、(1)から(7)のいずれかに記載のポリ乳酸系二軸延伸積層フィルム。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、アクリル系樹脂と非晶性ポリ乳酸系樹脂とを含むA層、及び、ポリ乳酸系樹脂を含むB層を有するポリ乳酸系二軸延伸積層フィルムを作製することにより、耐熱性、ヒートシール性、静音性、及び金属または、無機酸化物からなる蒸着層を付与した際のガスバリア性に優れたポリ乳酸系二軸延伸フィルムを提供することが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下に、望ましい実施の形態とともに、本発明について詳細に説明する。
【0011】
本発明の積層フィルムは、アクリル系樹脂と非晶性ポリ乳酸系樹脂とを含むA層、及び、ポリ乳酸系樹脂を含むB層を有するポリ乳酸系二軸延伸積層フィルムであることを特徴とする。
【0012】
本発明の積層フィルムのA層は、アクリル系樹脂と非晶性ポリ乳酸系樹脂を含有する。
【0013】
A層におけるアクリル系樹脂と非晶性ポリ乳酸系樹脂の含有量に関しては特に制限はないが、A層の全成分を100質量%とした時に、アクリル系樹脂の含有量が20質量%以上80質量%以下とする場合には、透明性や延伸性、耐熱性の改良に特に効果があるために好ましい。当該含有量とすることで、A層の表層に金属または、無機酸化物からなる蒸着層を付与し、蒸着加工された蒸着フィルムとした際には、蒸着層とA層との間に望ましい高密着強度やガスバリア性の改良に特に効果がある。一方、A層の全成分100質量%において、アクリル系樹脂の含有量が20質量%未満であるとポリ乳酸フィルム特有の耳障りな音が軽減されず、フィルムの静音性に劣る。また、A層の全成分100質量%において、80質量%を上回るとフィルム全体が脆くなり、フィルムの伸度が低下して、実用性に劣る。上記特性のさらなる改良の観点から、A層の全成分100質量%におけるアクリル系樹脂の含有量は、より好ましくは25質量%以上65質量%以下、さらに好ましくは30質量%以上50質量%以下である。
【0014】
本発明におけるアクリル系樹脂とは、アクリレートおよびメタクリレートから選ばれる少なくとも1 種の単量体を構成単位とするものであり、2 種以上の単量体を共重合して用いても構わない。アクリル系樹脂を構成するに使用されるアクリレートおよびメタクリレートとしては、例えばメチルアクリレート、エチルアクリレート、n− プロピルアクリレート、n − ブチルアクリレート、シアノエチルアクリレート、シアノブチルアクリレートなどのアクリレート、およびメチルメタクリレート、エチルメタクリレート、シクロヘキシルメタクリレート、2 − ヒドロキシエチルメタクリレートなどのメタクリレートが挙げられるが、より高い透明性、延伸性を付与するには、ポリメチルメタクリレートを用いることが好ましい。これらの単量体を重合あるいは共重合する方法については特に限定されるものではなく、塊状重合、溶液重合、懸濁重合等の公知の重合方法を用いることができる。
【0015】
本発明におけるポリ乳酸系樹脂とは、D−乳酸及び/またはL−乳酸を主たる構成成分とする重合体を意味する。また、ポリ乳酸系樹脂は、乳酸以外のほかのコモノマー成分を含有していてもよい。当該コモノマー成分としては、例えば、エチレングリコール、ブロピレングリコール、ブタンジオール、ヘプタンジオール、ヘキサンジオール、オクタンジオール、ノナンジオ−ル、デカンジオール、1,4−シクロヘキサンジメタノ−ル、ネオペンチルグリコール、グリセリン、ペンタエリスリトール、ビスフェノ−ルA、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール及びポリテトラメチレングリコール等のグリコール化合物、シュウ酸、アジピン酸、セバシン酸、アゼライン酸、ドデカンジオン酸、マロン酸、グルタル酸、シクロヘキサンジカルボン酸、テレフタル酸、イソフタル酸、フタル酸、ナフタレンジカルボン酸、ビス(p−カルボキシフェニル)メタン、アントラセンジカルボン酸、4,4’−ジフェニルエーテルジカルボン酸、5−ナトリウムスルホイソフタル酸、5−テトラブチルホスホニウムイソフタル酸等のジカルボン酸、グリコール酸、ヒドロキシプロピオン酸、ヒドロキシ酪酸、ヒドロキシ吉草酸、ヒドロキシカプロン酸、ヒドロキシ安息香酸等のヒドロキシカルボン酸、カプロラクトン、バレロラクトン、プロピオラクトン、ウンデカラクトン、1,5−オキセパン−2−オン等のラクトン類等を挙げることができる。
【0016】
また、A層に含有するポリ乳酸系樹脂は、非晶性ポリ乳酸系樹脂である。非晶性ポリ乳酸系樹脂を使用することで、A層の表層に金属または、無機酸化物からなる蒸着層を付与し、蒸着加工された蒸着フィルムとした際には、蒸着層とA層との間に望ましい高密着強度が達成できる。この高密着強度により、蒸着層が金属化後のプロセスにおいてロールや冷却ドラムなどの加工器具との接触・摩擦を受けた際においても、蒸着層の欠陥(ピンホール、スクラッチ)の数が減少し、ガスバリア性の改良に特に効果がある。また、下流側の加工プロセスにおいては、シーリング温度範囲が広くなるなど、多様な利便性が得られ、高生産性かつ費用効果の高いバッグ・ポーチ製造が可能になる。
【0017】
非晶性ポリ乳酸系樹脂を作製するには、上述した他のモノマー成分を共重合する方法に加えて、当該非晶性ポリ乳酸系樹脂におけるD−乳酸とL−乳酸の含有量比率が10:90〜15:85、好ましくは11:89〜13:87であることが好ましい。A層に用いる非晶性ポリ乳酸系樹脂の好ましい例としては、たとえば、NatureWorks(登録商標)社のIngeo(商標)4060D(D−乳酸=12mol%)が挙げられる。
【0018】
本発明のB層は、ポリ乳酸系樹脂を含有する。B層は、生分解性、バイオマス性の観点から、好ましくは、B層の全成分100質量%において、70質量%以上100質量%以下、より好ましくは75質量%以上100質量%以下、さらに好ましくは80質量%以上100質量%以下のポリ乳酸系樹脂を含む。
【0019】
また、B層には、二軸延伸プロセスにおいて、また積層やバッグ成形などの下流側加工プロセスにおいて、機械的荷重および熱処理に対する剛性、平面性および耐久性を付与するために結晶性ポリ乳酸系樹脂が含有されることが好ましい。B層中の結晶性ポリ乳酸系樹脂の含有量は、B層の全成分100質量%において、50質量%以上100質量%以下が好ましく、より好ましくは65質量%以上100質量%以下、さらに好ましくは80質量%以上100質量%以下である。
【0020】
ポリ乳酸樹脂を結晶性とするためには、ポリ乳酸樹脂におけるD−乳酸とL−乳酸の含有量比率が0:100〜10:90であることが好ましい。ポリ乳酸樹脂が本質的にL−乳酸のみを含むものであっても深刻な問題とはならないであろうが、結晶性ポリ乳酸樹脂の量が多すぎるとフィルム製作プロセスが不良になり得るため、D−乳酸とL−乳酸のより好ましい含有量比率は1:99〜5:95であり、さらに好ましい比率は2:98〜4:96である。B層に使用できる結晶性ポリ乳酸樹脂の好ましい例としては、たとえば、NatureWorks(登録商標)社のIngeo(商標)4032D(D−乳酸=1.4mol%)、4042D(D−乳酸=4.2mol%)などが挙げられる。D−L比率を所定レベルに調整するには、それら各成分の混合、あるいはIngeo(商標)4060D(D−乳酸=12mol%)などのD成分比の高い銘柄との混合によって行うことができる。
【0021】
本発明の積層フィルムの層構成は本発明の効果を損なわない範囲で任意の層構成としても構わないが、層構成例として、例えばA層/B層、A層/B層/A層、等が挙げられる。特に好ましくは、A層、B層、A層がこの順に直接積層された態様である。なお、後述するように、本発明のフィルムが蒸着層を有する場合には、蒸着層、A層、B層がこの順に積層されることが好ましい。
【0022】
本発明の積層フィルムの厚みは、特に制限はないが、包装材料に加工した際のハンドリング性の観点より、10μm以上30μm以下であることが好ましく、より好ましくは13〜27μm、さらに好ましくは16〜24μmである。
【0023】
また、本発明におけるA層およびB層の各厚さの間の関係は調整することが好ましい。A層の厚さの合計が大き過ぎる場合、またはB層が薄すぎる場合には、フィルムのプロファイルの平面性が劣化し、熱安定性が低下する。(A層の厚さの合計/ B層の厚さの合計)の好ましい範囲は、0.6以下、より好ましくは0.45以下、さらに好ましくは0.3以下である。この比が0.6を超えると、フィルム製作プロセスや、加工プロセス等において加えられる熱によって、フィルムプロファイルの平面性が不良になり、熱安定性が低下する。
【0024】
フィルムに好ましい取扱い性を賦与し、機能的な摩擦係数性状を達成するため、A層には、無機または有機の粒子を含ませることが好ましい。
【0025】
A層の粒子サイズは、平均直径が好ましくは0.1〜3μm、より好ましくは0.5〜2μmである。A層に加える粒子Aの含有量は、好ましくはスキン層の0.01〜0.3質量%、より好ましくは0.01〜0.1質量%である。A層の粒子が(サイズおよび含有量について)上記の範囲より大きい場合には、例えば、蒸着を行い、蒸着フィルムとした際に、あまりにも多数の大きい突起によって蒸着層上に転写欠陥(たとえば掻き傷やピンホール)が発生することにより、ガスバリア性が損なわれることがある。A層の粒子が(サイズおよび/または含有量について)上記の範囲より小さい場合、必要とされる取扱い性の維持に十分に寄与することができず、また巻き取り、金属化、スリッティング、積層などのプロセス中にブロッキングを引き起こすことがある。
【0026】
フィルムの有効範囲と加工性が保たれる限り、好適な無機粒子として、たとえば、ゼオライト、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、アルミナ、シリカ、ケイ酸アルミニウム、水酸化バリウム、カオリン、カオリナイト、タルク、クレー、珪藻土、モンモリロナイト、チタンオキサイドおよびこれらの混合物が挙げられる。また、好適な有機粒子としては、たとえば、ポリメトキシシラン化合物、ポリスチレン化合物、アクリル化合物、ポリウレタン化合物、ポリエステル化合物、フッ素化合物架橋粒子およびこれらの混合物などの架橋ポリマー粒子が挙げられる。
【0027】
好ましい粒子はケイ酸アルミニウム粒子である。ケイ酸アルミニウムはポリ乳酸系樹脂と良好な相溶性を示し、特に、A層が比較的薄くて表面構造を均一に保持できる場合には、脱落した粒子によって加工装置が汚染されるのを抑制することができる。このような相溶性があると、粒子周辺の空洞が減少するので、フィルムの曇りが減少する。これらフィルムに使用するケイ酸アルミニウムの好ましい例としては、たとえば、水澤化学工業のシルトン(商標)JCシリーズおよびシルトン(商標)AMTシリーズなどがある。
【0028】
A層の表面粗さの好ましい範囲は、SRa(表面平均粗さ)10〜100nm、SRz(5カ所の最高ピークと最低点)が2000nm未満、より好ましくはSRaが20〜60nm、SRzが1500nm未満である。A層の表面のSRaが10nm未満であると、フィルムの粘着性が過大になって、ブロッキング、巻き取り不良、表面の静電気などが発生する。A層の表面の表面粗さが、SRaで100nmよりも大きいか、またはSRzで2000nmよりも高いと、突起のサイズまたは数が大きくなって、フィルムが粗くなりすぎる。それによって、A層の表層に金属または、無機酸化物からなる蒸着層を付与し、本発明の積層フィルムを蒸着加工された蒸着フィルムとした際には、ガスバリア性が低下する。
【0029】
本発明の積層フィルムは望ましい特性を損なうことがない限り他の添加剤を加えることも可能である。使用可能な他の添加剤としては、難燃剤、熱安定剤、光安定剤、酸化防止剤、疎水性物、質剥離剤、カップリング剤、連鎖延長剤、末端基キャッピング剤、酸素吸収剤、吸湿剤、耐着色剤、紫外線吸収剤、静電防止剤、可塑剤、成核剤、滑剤、接着向上剤、顔料などがある。このような添加剤の一般的な量は、各層の合計ポリマー成分量の0〜5質量%である。
【0030】
本発明の積層フィルムにガスバリア性を付与するために、A層の表層に、金属または無機酸化物からなる蒸着層を含むことができる。当該蒸着層に用いる金属、または無機酸化物としては、特に限定されないが、例えば、アルミニウム、酸化アルミニウム、酸化珪素、酸化窒化珪素、酸化セリウム、酸化カルシウム、ダイアモンド状炭素膜、あるいはそれらの混合物等が挙げられる。生産性を保持あるいは向上させながら、ガスバリア性をも向上させるために、アルミニウム、酸化アルミニウム、酸化珪素がより好ましく用いられる。アルミニウムを用いた蒸着層は、経済性、ガスバリア性能に優れていることから好ましく、酸化アルミニウム、または酸化珪素を用いた蒸着層は、透明性に優れ、コストの点からも好ましい。
【0031】
蒸着層の形成方法としては、真空プロセスが用いられる。真空プロセスとしては、特に限定されないが、例えば、真空蒸着法、スパッタリング法、イオンプレーティング法、化学気相蒸着法等が好ましく用いられる。例えば、無機酸化物の蒸着層を設けるためには、生産性、コストの点から反応性蒸着法がより好ましく用いられる。
【0032】
真空プロセスでは、ガスバリア性の一層の向上のためには、蒸着層の表面をプラズマ処理やコロナ処理することが好ましい。コロナ処理を施す際の処理強度は5〜50W・分/mが好ましく、より好ましくは10〜45W・分/mである。また、金属、または無機酸化物からなる蒸着層を設ける前に、プラズマ放電下において核付金属蒸着層を設けることは、蒸着層の密着性向上ひいてはそれに伴うガスバリア性向上の観点から好ましい。この場合、プラズマ放電を酸素及び/または窒素ガス雰囲気で行うことが好ましく、核付金属として銅を用いることが好ましい。
【0033】
反応性蒸着法によって酸化アルミニウムを蒸着させるには、アルミニウム金属やアルミナを抵抗加熱のボート方式やルツボの高周波誘導加熱、電子ビーム加熱方式で蒸発させ、酸化雰囲気下でフィルム上に酸化アルミニウムを堆積させる方式が好ましく採用される。酸化雰囲気を形成するための反応性ガスとしては酸素が用いられるが、酸素を主体に水蒸気や希ガスを加えたガスでもよい。更にオゾンを加えたり、イオンアシスト等の反応を促進する手法を併用してよい。酸化珪素の蒸着層を反応性蒸着法によって形成させるには、Si金属、SiOやSiOを電子ビーム加熱方式で蒸発させ、酸化雰囲気下フィルム上に酸化珪素を堆積させる方式が採用される。酸化雰囲気を形成する方法は、上記の方法が用いられる。
【0034】
また、A層、B層には、本発明の効果を損なわない範囲でその他の熱可塑性樹脂を含有しても構わない。その他の熱可塑性樹脂としては、例えば、超低密度ポリエチレン、線状低密度ポリエチレン、低密度ポリエチレン、中密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン・プロピレンゴム、エチレン・酢酸ビニル共重合体、エチレン・アクリル酸エステル共重合体、アイオノマー等のポリオレフィン;ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート等のポリエステル;ポリスチレン、耐衝撃性ポリスチレン、スチレン・ブチレン・スチレン・ブロック共重合体、水素添加等のポリスチレン系樹脂;硬質ポリ塩化ビニル、軟質ポリ塩化ビニル等のポリ塩化ビニル系樹脂;ポリカーボネート、ポリアミド、ポリウレタン、エチレン・ビニルアルコール共重合体、ポリ塩化ビニリデン系樹脂等が好ましい。
【0035】
本発明の積層フィルムを作製するためには、特に限定されないが、逐次二軸延伸法、同時二軸延伸法等の公知の二軸延伸法、あるいはそれらを組み合わせた方法を用いることができる。
【0036】
以下に、A層、B層がこの順に直接積層された本発明の積層フィルムの製造方法について述べる。
【0037】
各々の押出機にA層、B層に用いる樹脂組成物を溶融押出し、それぞれフィルターによる異物除去、ギアポンプによる流量適性化を行った後、マルチマニホールド口金、または口金上部に設置したフィードブロックに供給する。なお、上記マルチマニホールド口金、またはフィードブロックには、必要なフィルム層構成に応じて、所望の数、所望の形状の流路が設けられている必要がある。各押出機から押し出された溶融樹脂は、上記の通りマルチマニホールド口金、またはフィードブロックにて合流せしめ、口金よりシート状に共押出される。当該シートは、エアナイフ、または静電印加等の方式により、キャスティングドラムに密着させ、冷却固化せしめて未延伸シートとする。
【0038】
ここで、ゲルや熱劣化物等の異物による表面荒れを防ぐため、製膜時のフィルターとして平均目開き5〜90μmのステンレス鋼繊維を焼結圧縮したフィルターを使用することが好ましい。また、上記ステンレス繊維を焼結圧縮したフィルターの後に、平均目開き10〜70μmのステンレス鋼粉体を焼結したフィルターをこの順で連続濾過する、あるいは一つのカプセル中に上記2種類のフィルターを併せ持つ複合フィルターを使用することは、ゲルや熱劣化物を効率良く取り除くことができるため好ましく、製膜エッジや巻き芯部分の再利用が可能となるコストメリットがあり望ましい。
【0039】
次いで、このようにして得られた未延伸シートを逐次二軸延伸させるために、該未延伸シートをロールに通して予熱し、引き続き周速差を設けたロール間に通し、縦方向に延伸し、ただちに室温に冷却、引き続き該縦一軸延伸フィルムをテンターに導いて横延伸し、次いで横方向に弛緩を与えつつ、熱固定して巻取る。このようにして本発明積層フィルムを作製する。
【0040】
本発明の積層フィルムの縦・横の延伸温度は、延伸性、平面性の良好なフィルムが得るという観点から、70〜105℃以下が好ましく、より好ましくは75〜100℃であり、さらに好ましくは80℃〜95℃である。延伸倍率は縦・横延伸それぞれ、2.0〜10.0倍が好ましく、より好ましくは2.2〜8.0倍であり、さらに好ましくは2.5〜5.0倍である。
【0041】
特に本発明の積層フィルムのA層の表層に金属または、無機酸化物からなる蒸着層を付与し、蒸着加工された蒸着フィルムとした場合には、縦・横の延伸温度は80〜95℃の範囲にすることが最も好ましい。当該延伸温度で製膜することで、延伸ムラの小さい、平面性の良好なフィルムを作製することが可能である。また、延伸ムラの小さい、平面性の良好なフィルムの表層上に蒸着することで、蒸着層の欠陥(ピンホール、スクラッチ)の数を抑制することができ、結果的に高いバリアを有することが可能である。一方で、ポリ乳酸系樹脂のガラス転移温度はアクリル系樹脂に比較して低いため、A層にアクリル系樹脂を含まない積層フィルムにおいては、当該延伸温度で製膜した場合には、縦延伸ロールにA層の樹脂が粘着して表面が著しく粗れたり、テンター内で製膜性が著しく悪化し、平面性の低く、かつフィルム全体の厚みムラの大きいものとなる。
【0042】
また、延伸後は、A層、B層を構成する少なくとも一層の融点よりも10℃以上低い温度で弛緩熱処理し、冷却することが好ましい。適正な延伸後、このような条件下で弛緩熱処理することにより、平面性の良好なフィルムを得ることができる。
【0043】
また、上記方法にて作製せしめた本発明の積層フィルムのA層に金属または、無機酸化物からなる蒸着層を付与し、蒸着加工された蒸着フィルムとした際には、水蒸気透過度は、1.0g/m/day以下であることが好ましい。水蒸気透過度が1.0g/m/dayを越えると、水蒸気バリア性に劣り、当該積層フィルムを包装材料として用いて包装体に加工した際、内容物の鮮度保持性に劣る場合がある。蒸着フィルムの水蒸気透過度は、より優れた水蒸気バリア性が求められる用途には、より好ましくは0.5g/m/day以下であり、さらに好ましくは0.25g/m/day以下、最も好ましくは0.1g/m/day以下である。なお、水蒸気バリア性は良好であるほど好ましく、特に下限は設けられないが、0.01g/m/day程度が実現可能な下限と推察される。なお、水蒸気透過度は、蒸着層が形成される層の平均表面粗さ、蒸着層の金属、または無機酸化物の種類、蒸着層の厚さ、蒸着層の欠陥(ピンホール、スクラッチ等)量、蒸着層とフィルムの金属付着力等により制御できる。また、酸素透過度は、1.0cc/m/day/atm以下であることが好ましい。蒸着フィルムの酸素透過度が1.0cc/m/day/atmを越えると、酸素バリア性に劣り、当該蒸着フィルムを包装材料として用いて包装体に加工した際、内容物の鮮度保持性に劣る場合がある。蒸着フィルムの酸素透過度は、より優れた酸素バリア性が求められる用途には、より好ましくは0.5cc/m/day/atm以下であり、さらに好ましくは0.25cc/m/day/atm以下、最も好ましくは0.1cc/m/day/atm以下である。なお、酸素バリア性は良好であるほど好ましく、特に下限は設けられないが、0.01cc/m/day/atm程度が実現可能な下限と推察される。蒸着フィルムの酸素透過度は、蒸着層が形成される層の平均表面粗さ、ガスバリア性樹脂層の積層厚み、蒸着層の金属、または無機酸化物の種類、蒸着層の厚さ、蒸着層の欠陥(ピンホール、スクラッチ等)量等により制御できる。
【0044】
以上の方法を用いて本発明の積層フィルムを作製することができる。本発明によれば、アクリル系樹脂と非晶性ポリ乳酸系樹脂とを含むA層、及び、ポリ乳酸系樹脂を含むB層を有するポリ乳酸系二軸延伸積層フィルムを作製することにより、耐熱性、ヒートシール性、静音性、及び金属または、無機酸化物からなる蒸着層を付与した際のガスバリア性に優れたポリ乳酸系二軸延伸フィルムを提供することが可能となる。また、本発明の積層フィルムを縦・横の延伸温度は80−95℃の範囲で延伸し、A層の表層に金属または、無機酸化物からなる蒸着層を付与し、蒸着加工された蒸着フィルムとした場合には、蒸着層の欠陥(ピンホール、スクラッチ)の数を抑制することができ、結果的に高いバリアを有することが可能である。
【実施例】
【0045】
次に、実施例を挙げて、具体的に本発明の積層フィルムについて説明する。
[測定及び評価方法]
本発明で用いた特性の評価方法は、下記の通りである。
【0046】
1.各層の厚み
積層フィルムの横方向のセンター部からサンプルを切り出した。エポキシ樹脂を用いた樹脂包埋法により、ウルトラミクロトーム法を用い、サンプル片の縦方向−厚み方向断面を観察面とするように−100℃で超薄切片を採取した。この積層フィルム断面の薄膜切片を、走査型電子顕微鏡を用いて倍率1000倍(倍率は適宜調整可能)でフィルム断面写真を撮影し、各層の厚みを測定した。観察箇所を10点変えて同じ測定を行い、得られた値の平均値を各層の厚み(μm)とした。
【0047】
2.フィルム厚み
ダイヤルゲージ式厚み計(JIS B7503(1997)、PEACOCK製UPRIGHT DIAL GAUGE(0.001×2mm)、No.25、測定子5mmφ平型)を用いて、縦方向および横方向に10cm間隔で10点ずつ測定し、それらの平均値をフィルム厚み(μm)とした。
【0048】
3.水蒸気透過度
温度38℃、湿度90%RHの条件で、米国、モコン(MOCON)社製の水蒸気透過率測定装置(機種名、“パ−マトラン”(登録商標)W3/31)を使用してJIS K7129(2008)に記載のB法(赤外センサー法)に基づいて測定した。また、測定はフィルムに水蒸気流を当て、反対側で検出する測定方式で、4回測定を行い、その平均値を当該サンプルの水蒸気透過率(g/m/day)とした。
【0049】
4.酸素透過度
温度23℃、湿度0%RHの条件で、米国、モコン(MOCON)社製の酸素透過率測定装置(機種名、“オキシトラン”(登録商標)(“OXTRAN ”2/20))を使用して、JIS K7126−2(2006)に記載の電解センサ法に基づいて測定した。また、測定はフィルムに水蒸気流を当て、反対側で検出する測定方式で、4回測定を行い、その平均値を当該サンプルの酸素透過度(cc/m/day/atm)とした。
【0050】
5.ヒートシール強度測定
フィルムのヒートシール強度の測定は、ヒートシール機(TP−701S HEAT SEAL TESTER 、TESTER SANGYO CO, LTD )を用いて、2.1kgf/cm、1秒の滞留時間において、テフロン(登録商標)被覆した加熱式の平面型上部シール固定具およびゴム製でガラスクロス被覆した非加熱式の下部シール固定具とともに行った。フィルムは、所定のシール温度範囲(たとえば90〜160℃の範囲で10℃ずつの増分)において、シール材側同士でヒートシールし、それぞれのシール強度を大英科学精機製作所製引張り試験機で測定した。ヒートシールしたサンプルを25mm幅の短冊に切り出し、シールされていない二つの端部をインストロン試験機の上部と下部のクランプに取り付け、シールした端部をシールされていない二つの端部に対して90°の角度で支持し、90°のT式剥離試験を行う。200g/25mm以上のシール強度を達成できる最低温度をヒートシール開始温度とし、ヒートシール性を以下の基準にて判断した。△以上が実用的に使用できる範囲である。
◎:ヒートシール開始温度が95℃以上115℃未満
○:ヒートシール開始温度が115℃以上135℃未満
△:ヒートシール開始温度が135℃以上155℃未満
×:いかなるシール温度においても200g/25mm以上のシール強度を達成できない。
【0051】
6.金属付着強度測定
フィルムに蒸着層を形成して得られた蒸着フィルムと未延伸ポリプロピレンフィルム(CPP)の縦方向を揃えて、下記条件でドライラミネートした。
・CPP: 東レフィルム加工(株)製“トレファン”NO #60 ZK93KM
・接着剤: 東洋モートン(株)製AD503/cat10
・配合量: AD503/cat10/酢酸エチル=20/1/20質量%
・塗布: メタバー#12を使用し、CPPのコロナ処理面側に接着剤を塗布した。
・乾燥: 80℃、45秒
・ラミネート: 乾燥後、CPP上の塗布面をフィルムの蒸着層上にラミネートした。
・硬化: 40℃、48時間
得られたサンプルから幅15mmの試験片を取り出し、下記条件で剥離試験を行った。剥離力曲線において、剥離開始後の上限値と下限値を読み取り、フィルムの金属付着強度とした。
・剥離試験機: 大英科学精機製作所製引張り試験機
・剥離角度: 180°
・剥離速度: 200mm/分
・チャート速度:20mm/分
・剥離方向: 縦方向
・サンプル幅: 15mm
同じサンプルについて3本の試験片を採取し、同様の測定を3回行った。得られた値の平均値を金属付着強度(g/15mm)とした。
【0052】
7.引張伸度、引張弾性率測定
引張伸度(%)
恒温槽を備えたオリエンテック社製TENSILON UCT−100を用いて、23℃における応力−歪み測定を行い、23℃における長さ方向と幅方向の伸度を測定した。
【0053】
具体的には、測定方向に長さ150mm、幅10mmの短冊状にサンプルを切り出し、23℃に調整された恒温槽の中で、初期引張チャック間距離50mm、引張速度200mm/分で、JIS K−7127(1999)に規定された方法にしたがって測定を行い、10回の測定の平均伸度(%)を、長さ方向と幅方向について求めた。
【0054】
引張弾性率(GPa)
上記に記載した方法で、23℃における応力−歪み測定を行い、応力−歪み曲線の最初の直線部分を用いて、直線上の2点間の応力の差を同じ2点間の歪みの差で除し、引張弾性率を計算した。測定は計10回行い、その平均値を採用した。これを長さ方向、幅方向、それぞれについて算出した。
【0055】
8.フィルム静音性評価
フィルムの静音性はiPhone 3GのソフトウェアSonic Scan [(C) 2009 Welebny Software]を用いて、下記の方法にて測定し、評価した。
iPhone 3Gを固定した状態で、iPhone 3Gのマイクから10cm離れた位置で、15cm四方のサイズにカットしたフィルムの端を片手で持ち、30秒間ハンドシェイクを行う。ハンドシェイクは振り幅15cmで1秒間3回の割合で行う。当該測定は外部からの音をシャットダウンするために、防音室内にて実施した。30秒間の平均騒音レベル(dB)を採取し、同様の測定を3回行い、得られた値の平均値をフィルムの騒音レベル(dB)とした。また、静音性を以下の基準にて判断した。△以上が実用的に使用できる範囲である。
◎:騒音レベルが91dB未満であり、ポリ乳酸フィルム特有の耳障りな音が大きく軽減されており、非常に静音性に優れる。
○:騒音レベルが91dB以上93dB未満であり、ポリ乳酸フィルム特有の耳障りな音が軽減されており、静音性に優れる。
△:騒音レベルが93dB以上95dB未満であり、ポリ乳酸フィルム特有の耳障りな音が軽減されておらず、不快である。
×:騒音レベルが95dB以上であり、ポリ乳酸フィルム特有の耳障りな音が大きくして、非常に不快である。
【0056】
9.バイオマス度
ポリ乳酸系二軸延伸フィルムを構成する樹脂組成物全体を100質量%として、ポリ乳酸系樹脂の含有割合(質量%)を求め、バイオマス度とし、以下の基準にて判断した。但し、粒子はフィルム全体における含有量が0.1質量%未満であるため除外した。
◎:バイオマス度が100質量%
○:バイオマス度が70質量%以上100質量%未満
△:バイオマス度が50質量%以上70質量%未満
×:バイオマス度が50%未満
(実施例)
本発明の製造例、実施例、比較例で用いた原料は下記の通りである。なお、製造例、実施例、比較例では下記の略称で表記することがある。
[cPLA]
回転式真空乾燥機にて100℃で4時間乾燥した結晶性ポリL−乳酸(Nature Works製“Ingeo”4032D;D体量=1.4mol%、融点=168℃、Tg=58℃)。
[cPLA−MB1]
上記cPLAにおいて、上記cPLAを95質量%、水澤化学工業(株)製“シルトン”JC−30を5質量%ブレンドして作製し、100℃で5時間乾燥したチップをcPLA−MB1とした。
[aPLA]
回転式真空乾燥機にて50℃で8時間乾燥した非晶性ポリL−乳酸(Nature Works製“Ingeo” 4060D;D体量=12mol%、Tg=58℃)。
[aPLA−MB2]
上記aPLAにおいて、上記aPLAを95質量%、水澤化学工業(株)製“シルトン”JC−30を5質量%ブレンドして作製し、50℃で5時間乾燥したチップをaPLA−MB2とした。
[aPLA−MB3]
上記aPLAにおいて、上記aPLAを90質量%、水澤化学工業(株)製“シルトン”JC−30を10質量%ブレンドして作製し、50℃で5時間乾燥したチップをaPLA−MB3とした。
[PMMA]
静置式真空乾燥機にて80℃で8時間乾燥したポリメチルメタクリレート(アルケマ製 VS−100)。
【0057】
本発明を、実施例に基づいて説明する。なお、所望の厚み構成を得るためには、特に断りのない限り、各押出機のポリマーの押出量を所定の値に調節した。
(実施例1)
単軸押出機(A)に、A層の樹脂組成物として、aPLAを30質量%、aPLA−MB2を30質量%、PMMAを40質量%予め混合したブレンド原料を供給し、220℃で押出し、平均目開き65μmのステンレス鋼繊維を焼結圧縮したフィルターにてポリマーを濾過させ、2種3層積層タイプのマルチマニホールド口金に供給した。また、単軸押出機(B)に、B層の樹脂組成物として、cPLAを100質量%供給し、220℃で押出し、押出機(A)とは別の流路で、平均目開き65μmのステンレス鋼繊維を焼結圧縮したフィルターにてポリマーを濾過させた後、マルチマニホールド口金に供給し、押出機(A)/押出機(B)/押出機(A)の順で積層されるようにマルチマニホールド口金内で合流せしめ、口金よりシート状に共押出した。この際、当該押出シートを30℃の温度の鏡面金属ドラムにキャストしてシート状に冷却固化した。
【0058】
得られた未延伸シートを、ロール延伸機にて75℃で縦方向に3倍に延伸し、直ちに室温に冷却した。次いで、得られた一軸延伸フィルムを、テンターに導入し、両エッジをクリップで把持しながら、75℃で横方向に3倍延伸し、引き続き横方向に3%の弛緩を与えながら140℃で熱処理をし、冷却後、巻き取った。
【0059】
得られた二軸延伸フィルムは20μmであり、厚み構成は、A層/B層/A層=1/3/1であった。また、当該二軸延伸フィルムを24時間のエージングの後、A層表面に窒素雰囲気下で、コロナ処理を処理強度は30W・min/mで施し、その後フィルム走行 装置を具備した真空蒸着装置内にセットした。1.00×10−2Paの高減圧状態にした後に、0℃の冷却金属ドラム上に走行させた。この際、アルミニウム金属を加熱蒸発し、A層上に蒸着層を形成し、蒸着フィルムとした。
【0060】
このようにして得られた蒸着フィルムを48時間エージングして、A層上に蒸着層を得た。なお、蒸着フィルムの光学濃度は、蒸着中にオンラインで確認し、2.5となるよう蒸着厚みを制御した。
る。
【0061】
得られたフィルムの特性値は表2−1に示す通りで、水蒸気バリア性、酸素バリア性、静音性いずれも優れていた。
(実施例2)
A層に用いる樹脂をaPLA−MB3を15質量%、PMMAを85質量%予め混合したブレンド原料に変更した以外は、実施例1と同様にして製造したフィルムを実施例2とした。得られたフィルムの特性値は表2−1に示す通りで、水蒸気バリア性、酸素バリア性、静音性は優れているものの、表層のPMMA含有量が多いため、フィルム自体が非常に脆くなっていた。そのためか、破断点伸度が低下し、実用性に若干劣るものであった。
(実施例3)
A層に用いる樹脂をaPLAを10質量%、aPLA−MB3を15質量%、PMMAを75質量%予め混合したブレンド原料に変更した以外は、実施例1と同様にして製造したフィルムを実施例3とした。得られたフィルムの特性値は表2−1に示す通りで、水蒸気バリア性、酸素バリア性、静音性いずれも優れていた。
(実施例4)
B層に用いる樹脂を、cPLAを45質量%、aPLAを55質量%予め混合したブレンド原料に変更した以外は、実施例1と同様にして製造したフィルムを実施例4とした。得られたフィルムの特性値は表2−1に示す通りで、水蒸気バリア性、酸素バリア性、静音性は優れているものの、フィルム全体におけるaPLA樹脂の含有量が多いためか、引張弾性率、引張伸度が低下しており、実用性に若干劣るものであった。
(実施例5)
B層に用いる樹脂を、cPLAを55質量%、aPLAを45質量%予め混合したブレンド原料に変更した以外は、実施例1と同様にして製造したフィルムを実施例5とした。得られたフィルムの特性値は表2−2に示す通りで、実施例4のフィルムと比較して、引張弾性率、引張伸度は向上しており、実用性に優れたものであった。
(実施例6)
横延伸温度を90℃に変更した以外は、実施例1と同様にして製造したフィルムを実施例6とした。得られたフィルムの特性値は表2−2に示す通りで、静音性が優れていた。また、蒸着層の欠陥(ピンホール、スクラッチ)の数が著しく減少しており、水蒸気バリア性、酸素バリア性は非常に優れていた。
(実施例7)
A層に用いる樹脂をaPLAを55質量%、aPLA−MB2を30質量%、PMMAを15質量%予め混合したブレンド原料に変更した以外は、実施例1と同様にして製造したフィルムを実施例7とした。得られたフィルムの特性値は表2−2に示す通りで、A層におけるPMMAの含有量が少ないためか、ポリ乳酸フィルム特有の耳障りな音が軽減されておらず、静音性に若干劣っていた。
(比較例1)
A層に用いる樹脂をaPLAを70質量%、aPLA−MB2を30質量%に変更した以外は、実施例1と同様にして製造したフィルムを比較例1とした。得られたフィルムの特性値は表2−2に示す通りで、手に触れたり、折り曲げたりした際にポリ乳酸フィルム特有の耳障りな音が大きくして、フィルムの静音性に劣っていた。
(比較例2)
A層に用いる樹脂をaPLAを70質量%、aPLA−MB2を30質量%に変更し、横延伸温度を90℃に変更した以外は、実施例1と同様にして製造したフィルムを比較例2とした。しかしながら、横延伸温度が高すぎたためか、著しく製膜性が悪化し、テンター内で破れが多発した。ロールでの採取は困難であったが、一部分のみ採取したフィルムを評価し、得られた特性値を表2−2に示す。水蒸気バリア性、酸素バリア性、静音性、いずれも劣っていた。また、得られたフィルムの蒸着層には多数の欠陥(ピンホール、スクラッチ)が確認された。
(比較例3)
A層に用いる樹脂をcPLAを30質量%、cPLA−MB1を30質量%、PMMAを40質量%予め混合したブレンド原料に変更した以外は、実施例1と同様にして製造したフィルムを比較例3とした。得られたフィルムの特性値を表2−2に示す。フィルムの蒸着層には多数の欠陥(ピンホール、スクラッチ)が確認され、水蒸気バリア性、酸素バリア性に劣っていた。また、表層にcPLAを用いているため、ヒートシール強度、金属付着強度ともに劣っていた。
【0062】
【表1−1】

【0063】
【表1−2】

【0064】
【表2−1】

【0065】
【表2−2】

【産業上の利用可能性】
【0066】
本発明は、耐熱性、ヒートシール性、静音性、及び金属または、無機酸化物からなる蒸着層を付与した際のガスバリア性に優れたポリ乳酸系二軸延伸フィルムに関するものである。また、本発明の積層フィルムは各種包装材料の中でも特にガスバリア要求特性が厳しい用途の包装材料に好適に用いられる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アクリル系樹脂と非晶性ポリ乳酸系樹脂とを含むA層、及び、ポリ乳酸系樹脂を含むB層を有するポリ乳酸系二軸延伸積層フィルム。
【請求項2】
厚みが、10μm以上30μm以下であることを特徴とする、請求項1に記載のポリ乳酸系二軸延伸積層フィルム。
【請求項3】
B層が、結晶性ポリ乳酸系樹脂を含むことを特徴とする、請求項1又は2に記載のポリ乳酸系二軸延伸積層フィルム。
【請求項4】
A層のアクリル系樹脂は、A層の全成分100質量%において、20質量%以上80質量%以下であることを特徴とする、請求項1から3のいずれかに記載のポリ乳酸系二軸延伸積層フィルム。
【請求項5】
B層は、B層の全成分100質量%において、50質量%以上100質量%以下の結晶性ポリ乳酸系樹脂を含むことを特徴とする、請求項1から4のいずれかに記載のポリ乳酸系二軸延伸積層フィルム。
【請求項6】
アクリル系樹脂が、ポリメチルメタクリレートであることを特徴とする、請求項1から5のいずれかに記載のポリ乳酸系二軸延伸積層フィルム。
【請求項7】
A層、B層、A層が、この順に直接積層されたことを特徴とする、請求項1から6のいずれかに記載のポリ乳酸系二軸延伸積層フィルム。
【請求項8】
蒸着層、A層、B層が、この順に積層されたことを特徴とする、請求項1から7のいずれかに記載のポリ乳酸系二軸延伸積層フィルム。

【公開番号】特開2012−192636(P2012−192636A)
【公開日】平成24年10月11日(2012.10.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−58790(P2011−58790)
【出願日】平成23年3月17日(2011.3.17)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】