説明

ポリ乳酸系樹脂成形体の製造方法及びポリ乳酸系樹脂成形体

【課題】十分な結晶化速度を維持することで成形性と耐熱性に優れ、且つ実用的な水温調が可能なポリ乳酸系樹脂成形体の製造方法を提供する。
【解決手段】(A)ポリ乳酸系樹脂、及び(B)トリメシン酸化合物0.1〜1.0wt%を含有するポリ乳酸系樹脂組成物を、溶融温度;230〜250℃、溶融時間;0.5〜5.0分にて溶融し、結晶化温度;70〜90℃にて成形することを特徴とするポリ乳酸系樹脂成形体の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、十分な結晶化速度を維持することで成形性と耐熱性に優れ、且つ実用的な水温調が可能なポリ乳酸系樹脂成形体の製造方法に関する。又、該方法で成形されたポリ乳酸系樹脂成形体に関する。
【背景技術】
【0002】
近年の環境意識の向上により、非石油資源より製造されるポリ乳酸樹脂の需要が高まりつつある。しかし、ポリ乳酸系樹脂は一般にその結晶化速度が遅いため、耐熱性向上を目的にポリ乳酸系樹脂の結晶化を行なう際、長い時間を必要とすることから、生産性が悪い。例えば、射出成形において金型温度が80℃以下になると、結晶化が進まず成形品を型から取り出せない、成形品の耐熱性が低いなどの問題がある。充分な結晶化を行なわずに食器、コップまたは家電製品などの、比較的高温にさらされる製品に成形すると、該製品(成形体)は熱変形等を引き起こす問題があった。
【0003】
このような問題を解決する手段として、ポリ乳酸系樹脂にタルク、マイカ及び炭酸カルシウム等の無機系結晶造核剤を配合する技術や、有機系結晶造核剤を配合し、結晶化速度を向上させる技術が知られている。しかしながら、無機系結晶造核剤の添加は、成形時に樹脂の流動性を低下させて、成形性が悪化するという問題があった。
【0004】
そこで、ポリ乳酸の結晶化速度を向上させるための各種ポリ乳酸の結晶造核剤が提案されている。例えば、下記特許文献1〜3には、結晶造核剤としてトリメシン酸系化合物を配合した技術が開示されている。
【0005】
これら従来技術では、結晶化(金型)温度条件は、100℃及び30℃で実施されている。100℃の金型は油温調(油による温度調節)となり、実用的には水温調(水による温度調節)が可能な80℃以下の結晶化温度が望まれている。また、30℃の結晶化温度は、ポリ乳酸のガラス転移温度(軟化温度)以下であるため、ポリ乳酸は結晶化せず非晶状態のままであり、70〜90℃での結晶化(金型)温度が望まれている。更に、これら従来技術では、結晶造核剤添加濃度(結晶核剤の添加量)は、ポリ乳酸100部に対して、0.05〜5重量部が好ましく、0.2〜1.5重量部がとりわけ好ましいと記載されているのみである。結晶核剤は高価であるため、添加量は少ない事が望まれる。
【0006】
【特許文献1】特開2006−328163号公報
【特許文献2】特開2006−342259号公報
【特許文献3】特開2006−348159号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、十分な結晶化速度を維持することで成形性と耐熱性に優れ、且つ実用的な水温調が可能なポリ乳酸系樹脂成形体の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、結晶造核剤及び結晶造核剤添加濃度を変えて詳細に結晶化速度を計測・検討した結果、特定の結晶造核剤を用い特定の結晶造核剤添加濃度の場合において、低温の結晶化温度(70〜90℃)において、また従来技術常識に反して低添加量領域(0.1〜1.0wt%)において、結晶化速度が向上することを見出し、本発明に到達した。
【0009】
即ち、第1に、本発明は、(A)ポリ乳酸系樹脂、及び(B)トリメシン酸化合物を含有するポリ乳酸系樹脂組成物からポリ乳酸系樹脂成形体を製造する方法の発明であり、(A)ポリ乳酸系樹脂、及び(B)トリメシン酸化合物0.1〜1.0wt%を含有するポリ乳酸系樹脂組成物を、溶融温度;230〜250℃、溶融時間;0.5〜5.0分にて溶融し、結晶化温度;70〜90℃にて成形することを特徴とする。
【0010】
トリメシン酸化合物の添加が0.1wt%以下であると結晶造核剤としての効果が現れない。1.0wt%以上であると結晶化速度が遅く材料費もかかる。溶融温度が230℃以下であると、結晶造核剤の分散性が劣り、結晶化速度は遅い。250℃以上だとポリ乳酸が分解し物性が低下する。溶融時間が0.5分以下であると分散性が劣り結晶化速度は遅い。5.0分以上だとポリ乳酸が分解し物性が低下する。結晶化温度が70℃以下であるとポリ乳酸の結晶化が進まない。90℃以上であると温調に油が必要となり、特別の設備導入が必要となってしまう。
【0011】
トリメシン酸化合物としては、ポリ乳酸系樹脂成形体の製造において結晶造核剤として公知のものを用いることができる。これらの中で、下記一般式(1)で表されるトリメシン酸トリアミド化合物が好ましく例示される。
【0012】
【化1】

[式中、Rはトリメシン酸から全てのカルボキシル基を除いて得られる残基を表す。3個のRは同一又は相異なって、炭素数1〜4の直鎖状若しくは分岐鎖状のアルキル基を1〜3個有していてもよいシクロヘキシル基、又は炭素数1〜4の直鎖状若しくは分岐鎖状のアルキル基を表す。]
【0013】
本発明において、トリメシン酸化合物の添加量は、0.1〜1.0wt%であるが、0.3〜0.5wt%がより好ましい。
【0014】
本発明において、原料となるポリ乳酸系樹脂組成物の溶融温度は、230〜250℃であるが、235〜245℃がより好ましい。
【0015】
本発明において、成形方法は特に限定されず、例えば、射出成形、押出成形、射出ブロー成形、射出押出ブロー成形、射出圧縮成形、押出ブロー成形、押出サーモフォーム成形又は溶融紡糸などが採用される。
【0016】
第2に、本発明は、上記の方法で製造されたポリ乳酸系樹脂成形体である。本発明のポリ乳酸系樹脂成形体は、結晶化度が高く耐熱性に優れている。
【発明の効果】
【0017】
本発明は、従来採用されなかった低温域の結晶化温度(70〜90℃)において、また従来の技術常識に反して低添加量領域(0.1〜1.0wt%)において、ポリ乳酸系樹脂成形体の結晶化速度を向上させることができ、水温調が採用できることから極めて実用的な技術である。即ち、十分な結晶化速度を維持することで成形性と耐熱性に優れ、且つ実用的な水温調が可能なポリ乳酸系樹脂成形体の製造が可能となった。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
本発明で用いられるポリ乳酸系樹脂は、特に限定されず、種々の光学純度の乳酸単位を有するポリ乳酸系樹脂を使用できるが、L−乳酸残基からなる構造単位(いわゆるL−乳酸単位)またはD−乳酸残基からなる構造単位(いわゆるD−乳酸単位)が、ポリ乳酸系樹脂を構成する全構造単位に対して80〜99.5モル%の範囲内であることが好ましい。このようなポリ乳酸系樹脂は、その入手が比較的容易であり、また、高い融点を有するため、より優れた耐熱性を有する樹脂組成物が得やすくなる。L−乳酸残基またはD−乳酸残基からなる構造単位はポリ乳酸系樹脂を構成する全構造単位に対して90〜99.2モル%の範囲内であることがより好ましく、93〜99モル%の範囲内であることがさらに好ましい。
【0019】
また、ポリ乳酸系樹脂は、L−乳酸、D−乳酸、DL−乳酸、L−ラクチド、D−ラクチド、meso−ラクチド単独又はこれらの混合物から誘導されるものを使用することができる。すなわち、乳酸の直接脱水縮合で生成したものでも、ラクチドの開環法で生成したものでもよい。
【0020】
また、該ポリ乳酸系樹脂は、本発明の効果を損なわない範囲で、乳酸残基以外の他の構造単位を有していてもよい該範囲としては、好ましくは50モル%以下、より好ましくは20モル%以下である。このような他の構造単位としては、例えば、コハク酸、アジピン酸、セバシン酸、アゼライン酸等の脂肪族ジカルボン酸と、例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール、1,4−ブタンジオール等の脂肪族グリコールとから誘導されるヒドロキシカルボン酸単位;グリコール酸、β−ヒドロキシ酪酸、ヒドロキシピバリン酸、ヒドロキシ吉草酸等のヒドロキシカルボン酸の単位等などが挙げられる。
【0021】
本発明おいて、ポリ乳酸系樹脂の分子量は特に限定されないが、数平均分子量(Mn)が5,000〜400,000の範囲であることが好ましく、10,000〜200,000であることがより好ましい。数平均分子量(Mn)が5,000より小さい場合には、得られる樹脂組成物を用いて成形品を作製した際にその強度が低下したり、酸成分含量の上昇や加水分解性の増大などに起因してその安定性が低くなる傾向がある。一方、400,000より大きい場合には、得られる樹脂組成物を成形する際に、その成形性が悪化する傾向がある。
【0022】
なお、本発明で使用するポリ乳酸系樹脂は、入手容易性の点から、植物から誘導されるものを使用してもよく、また、L−またはD−乳酸メチル、L−またはD−乳酸エチル等の乳酸誘導体を原料(単量体)にして製造されたものや、微生物により生成されるものを使用することも可能である。
【0023】
本発明で用いる結晶造核剤である(B)トリメシン酸化合物として好適なトリメシン酸トリアミド化合物は、下記一般式(1)
【0024】
【化2】

[式中、Rはトリメシン酸から全てのカルボキシル基を除いて得られる残基を表す。3個のRは同一又は相異なって、炭素数1〜4の直鎖状若しくは分岐鎖状のアルキル基を1〜3個有していてもよいシクロヘキシル基、又は炭素数1〜4の直鎖状若しくは分岐鎖状のアルキル基を表す。]
で表される。
【0025】
トリメシン酸トリアミド化合物の製法には特に限定はなく、例えば、トリメシン酸又はその酸クロライドと、炭素数1〜4の直鎖状若しくは分岐鎖状のアルキル基を有していてもよいシクロヘキシルアミン、又は炭素数1〜4の直鎖状若しくは分岐鎖状のアルキルアミンとをアミド化することにより得ることができる。
【0026】
上記炭素数1〜4の直鎖状又は分岐鎖状のアルキル基を有していてもよいシクロヘキシルアミンの具体例としては、シクロヘキシルアミン、2−メチルシクロヘキシルアミン、3−メチルシクロヘキシルアミン、4−メチルシクロヘキシルアミン、2−エチルシクロヘキシルアミン、3−エチルシクロヘキシルアミン、4−エチルシクロヘキシルアミン、2−n−プロピルシクロヘキシルアミン、3−n−プロピルシクロヘキシルアミン、4−n−プロピルシクロヘキシルアミン、2−iso−プロピルシクロヘキシルアミン、3−iso−プロピルシクロヘキシルアミン、4−iso−プロピルシクロヘキシルアミン、2−n−ブチルシクロヘキシルアミン、3−n−ブチルシクロヘキシルアミン、4−n−ブチルシクロヘキシルアミン、2−iso−ブチルシクロヘキシルアミン、3−iso−ブチルシクロヘキシルアミン、4−iso−ブチルシクロヘキシルアミン、2−sec−ブチルシクロヘキシルアミン、3−sec−ブチルシクロヘキシルアミン、4−sec−ブチルシクロヘキシルアミン、2−tert−ブチルシクロヘキシルアミン、3−tert−ブチルシクロヘキシルアミン、4−tert−ブチルシクロヘキシルアミン、2,3−ジメチルシクロヘキシルアミン、2,4−ジメチルシクロヘキシルアミン、2,5−ジメチルシクロヘキシルアミン、2,6−ジメチルシクロヘキシルアミン、2,3,4−トリメチルシクロヘキシルアミン、2,3,5−トリメチルシクロヘキシルアミン、2,3,6−トリメチルシクロヘキシルアミン、2,4,6−トリメチルシクロヘキシルアミン、3,4,5−トリメチルシクロヘキシルアミン等が挙げられる。炭素数1〜4の直鎖状又は分岐鎖状のアルキルアミンの具体例としては、メチルアミン、エチルアミン、n−プロピルアミン、iso−プロピルアミン、n−ブチルアミン、iso−ブチルアミン、sec−ブチルアミン、tert−ブチルアミンが挙げられる。
【0027】
上記トリメシン酸トリアミド化合物のなかでも、ポリ乳酸系樹脂の結晶化速度向上に特に優れる点で、シクロヘキサン環を有するトリアミド化合物が好ましい。例えば、トリメシン酸トリシクロヘキシルアミド、トリメシン酸トリ(2−メチルシクロヘキシルアミド)、トリメシン酸トリ(3−メチルシクロヘキシルアミド)、トリメシン酸トリ(4−メチルシクロヘキシルアミド)、トリメシン酸トリ(2,3−ジメチルシクロヘキシルアミド)が好ましく例示され、特に、トリメシン酸トリシクロヘキシルアミド、トリメシン酸トリ(2−メチルシクロヘキシルアミド)が好ましい。
【0028】
上記トリメシン酸トリアミド化合物は、単独で又は2種以上を混合して用いることができる。
【0029】
トリメシン酸トリアミド化合物の形状には特に制限がないが、平均粒径10μm以下、且つ最大粒径30μm以下が好ましく、平均粒径5μm以下、且つ最大粒径20μm以下が特に好ましい。平均粒径が10μmより大きいか又は最大粒径が30μmより大きい場合には、トリメシン酸トリアミド化合物のポリ乳酸系樹脂への溶解が不十分となり、ポリ乳酸系樹脂への造核作用が低下する傾向がある。その結果、得られる成形体の相対結晶化度が低下し、耐熱性が低下する傾向が見られ好ましくない。尚、ここで、最大粒径とは、後述の実施例に記載した方法で測定した場合に当該粒径より小さい粒子量の、全粒子量に対する百分率が99%である粒径をいう。
【0030】
本発明で出発材料となる乳酸樹脂組成物には、必要に応じて、カルボジイミド化合物を含有することができる。カルボジイミド化合物は、ポリ乳酸系樹脂の末端カルボン酸と架橋反応することにより、ポリ乳酸系樹脂の加水分解を抑制する効果を示す。
【0031】
カルボジイミド化合物としては、分子内に1個以上のカルボジイミド基を有する限り、特に制限はなく、従来公知の方法に従って、例えば、イソシアナート化合物より脱炭酸反応で合成されたものを使用することができる。又、市販されているものを使用してもよい。分子内にカルボジイミド基を1個有するモノカルボジイミド化合物としては、ジイソプロピルカルボジイミド、ジシクロヘキシルカルボジイミド、ジオクチルカルボジイミド等の脂肪族又は脂環族モノカルボジイミド、ジフェニルカルボジイミド等の芳香族モノカルボジイミド等を例示することができる。分子内に2個以上のカルボジイミド基を有するポリカルボジイミドの合成におけるイソシアナート化合物としては、1,3−フェニレンジイソシアナート、1,4−フェニレンジイソシアナート、2,4−トリレンジイソシアナート、2,6−トリレンジイソシアナート、テトラメチルキシリレンジイソシアナート、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアナート、4,4’−ジフェニルジメチルメタンジイソシアナート等芳香族ジイソシアナート;1,4−シクロヘキサンジイソシアナート、1−メチル−2,4−シクロヘキサンジイソシアナート、1−メチル−2,6−シクロヘキサンジイソシアナート、イソホロンジイソシアナート、4,4’−ジシクロヘキシルメタンジイソシアナート、ヘキサメチレンジイソシアナート等の脂肪族又は脂環族ジイソシアナート等が例示される。
【0032】
ポリカルボジイミドは、末端に残存するイソシアナート基の全て、又は一部を封止しているものでよく、かかる封止剤としては、シクロヘキシルイソシアナート、フェニルイソシアナート、トリルイソシアナート等のモノイソシアナート化合物;水酸基、アミノ基等の活性水素を有する化合物等が例示される。上記カルボジイミド化合物の中でも、得られる樹脂組成物から成形される成形品の耐加水分解性改善の観点から、分子内に2個以上のカルボジイミド基を有するポリカルボジイミドが好ましく、また、ポリ乳酸系樹脂との相溶性、得られる樹脂組成物から成形される成形品の耐加水分解安定性の点から、脂肪族又は脂環族カルボジイミド、脂肪族又は脂環族ジイソシアナートから得られるポリカルボジイミドが好ましい。本発明において、カルボジイミド化合物は1種または複数種の化合物を用いることができる。
【0033】
カルボジイミド化合物を使用する場合、各用途に応じて適宜変更可能であるが、使用されるポリ乳酸系樹脂100重量部に対して0.2〜5wt%であることが好ましく、0.5〜2.5wt%であることがより好ましい。
【0034】
本発明で出発材料となる乳酸樹脂組成物には、本発明の効果を損なわない範囲内で必要に応じて、二塩基性硫酸塩、二塩基性ステアリン酸鉛、水酸化カルシウム、ケイ酸カルシウム等の無機添加剤、滑剤、顔料、耐衝撃性改良剤、加工助剤、補強剤、着色剤、難燃剤、耐候性改良剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、耐加水分解性向上剤、防かび剤、抗菌剤、光安定剤、耐電防止剤、シリコンオイル、ブロッキング防止剤、離型剤、発泡剤、香料などの各種添加剤;ガラス繊維、ポリエステル繊維等の各種繊維;シリカ、木粉等の充填剤;各種カップリング剤などの任意成分を必要に応じて配合することができる。
【0035】
さらに、本発明で出発材料となる乳酸樹脂組成物は、本発明の効果を損なわない範囲内で必要に応じて、ポリウレタン樹脂;ポリアミド樹脂;ポリエステル樹脂;ポリ塩化ビニル樹脂;ポリ塩化ビニリデン樹脂;ポリカーボネート樹脂;ポリオキシメチレン樹脂;エチレン−酢酸ビニル共重合体ケン化物;ポリアクリレート、ポリメタクリレート、ポリメタクリル酸メチル、メタクリル酸メチル−アクリル酸エステル共重合体等のアクリル樹脂;芳香族ビニル化合物とシアン化ビニル化合物の共重合体;芳香族ビニル化合物−シアン化ビニル化合物−オレフィン化合物共重合体;メタクリル酸メチル−スチレン−ブチレン共重合体;スチレン系重合体、オレフィン系重合体等の他の樹脂を含有していてもよい。
【0036】
本発明で出発材料となる乳酸樹脂組成物は、上記各成分を混練することにより得ることができる。各成分の混錬方法としては特に制限はなく、従来公知の方法により混合することができる。例えば、各成分をタンブラー、V型ブレンダー、リボンブレンダー、ヘルシェルミキサー、タンブラーミキサーなどに仕込み混合するドライブレンド法、更に該ドライブレンド物を1軸又は2軸押出機、ニーダー、ロール等で、ポリ乳酸系樹脂の溶融温度以上で溶融混練し冷却、ペレット化する方法が挙げられる。また、各樹脂を溶媒に溶かし、混合した後に溶媒を除去する溶液ブレンド法などが挙げられる。
【0037】
本発明において、結晶化時間とは、示差走査熱量分析装置(DSC)で測定される、結晶化に起因する発熱が完了するまでの時間である。
【0038】
本発明のポリ乳酸系樹脂成形体は、押出成形、射出成形、カレンダー成形、真空成形、圧空成形等の公知の成形法によって、種々の形状の成形体に容易に成形することができ、しかも、得られる成形体は耐熱性に優れた成形体となりうる。また、溶融紡糸することにより、繊維状に成形することもできる。
【0039】
本発明において、トリメシン酸化合物の溶融ポリ乳酸系樹脂への「溶融温度」は、光学顕微鏡下で、該トリメシン酸化合物を含む樹脂組成物(ペレット又はドライブレンド物)を加熱し、溶融ポリ乳酸系樹脂に該トリメシン酸化合物が溶解して、固体が観察されなくなった時点の温度である。また、該トリメシン酸化合物が溶融ポリ乳酸系樹脂に溶解しているかどうかは、射出成形の場合、加熱シリンダーのノズル先端から出てくる溶融樹脂組成物を目視観察することにより容易に判断することができる。即ち、該トリメシン酸化合物が、溶融ポリ乳酸系樹脂に溶解し終わっておらず、固体が若干でも残留していると、溶融樹脂組成物は濁っているが、完全に溶解していると濁りはなく透明である。同様に押出成形においても、ダイから吐出される溶融樹脂組成物の透明性を目視観察することにより完全に溶解しているかどうかが確認できる。他の成形方法の場合も成形工程において、シリンダノズル又はダイから吐出された溶融樹脂組成物の透明性を目視観察することにより完全に溶解しているかどうかが確認できる。
【0040】
また、固体のトリメシン酸化合物が存在しなくなるように混練するには、加熱溶融時の樹脂組成物の滞留時間、スクリュー回転速度等を調整することにより行うことができる。次いで、この溶融状態を維持したまま、成形工程に供して、樹脂組成物を冷却・結晶化させる。
【0041】
本発明で製造される成形体は、例えば、車両パーツ、家電製品のボディー等の筐体、歯車、一般雑貨、衣料品、バッグ、ファスナーやボタン等の掛止部材、農業資材、建築資材、土木資材、食器類、玩具類等として好適に使用できる。
【実施例】
【0042】
以下に、実施例を挙げて本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれらの実施例によってなんら限定はされない。
【0043】
以下の実施例、比較例における測定方法や使用薬品類は次に示すとおりである。
[試料]
ポリ乳酸系樹脂:CSL40830−2(Mn=10.5×10、Mw=2.15×10、O.P.=98.1%、トヨタ自動車(株)製)
トリメシン酸系化合物(結晶造核剤):エヌジェスターTF−1(新日本理化(株)製、以下「TF−1」と略す)
【0044】
[成形・実験方法;ラボスケールでの実験]
1)材料の混合:ポリ乳酸系樹脂と結晶造核剤をクロロフォルムに溶解し混合した。
2)材料の採取:混合した溶液を室温において放置し乾燥した。
3)実験試料作製:さらに70℃で4時間乾燥させた後、210℃でプレスし試料を作製した。
4)結晶化速度測定:240℃又は200℃で1分間試料を溶融させた後、急冷加熱ステージを用い80℃まで急冷した。光源波長0.1nmの単色X線を用いポリ乳酸結晶の(110)面のピーク面積の時間変化を測定し80℃での結晶化挙動を計測した。
【0045】
なお、本発明で述べている結晶化速度(v)は、図1に示すように、等温結晶化測定における結晶化が半分終了する時の時間(半結晶化時間(t1/2))の逆数(v=1/t1/2)である。
【0046】
下記表1に、TF−1添加濃度と、溶融温度;240℃の場合の結晶化速度、及び溶融温度;200℃の場合の結晶化速度を一覧で示す。又、図2に、結晶造核剤添加濃度(wt%、TF−1添加濃度)と、溶融温度;200℃の場合の結晶化速度の相関を図示する。更に、図3に、結晶造核剤添加濃度(wt%、TF−1添加濃度)と、溶融温度;240℃の場合の結晶化速度の相関を図示する。
【0047】
【表1】

【0048】
表1、図2、図3の結果より、溶融温度;200℃の場合は結晶化核剤添加濃度(wt%、TF−1添加濃度)と結晶化速度に相関が見られないのに対して、溶融温度;240℃の場合には、結晶造核剤添加濃度(TF−1添加濃度)0.1〜1.0wt%の範囲で特異的な結晶化速度の向上が見られる。
【0049】
[他の結晶造核剤との比較]
上記のポリ乳酸(PLA)とトリメシン酸系化合物(結晶造核剤、TF−1)の組合せ以外に、市販の他の結晶造核剤との組合せと比較した。下記表2に、ポリ乳酸(PLA)と種々の結晶造核剤の組合せ組成物の結晶化温度80℃での結晶化速度を示す。
【0050】
各種結晶造核剤は、
TLA114; 竹本油脂(株)、スルホイソフタル酸ジメチルバリウム塩
PPA−Zn; エコプロモート、日産化学(株)社製、フェニルホスホン酸亜鉛
Talc;マイクロエース、日本タルク(株)、タルク
WX−1;川研ファインケミカル(株)、12−ヒドロキシステアリン酸エチレンスビスアミド
である。
【0051】
【表2】

【0052】
表2の結果より、結晶化温度;80℃の場合でも、トリメシン酸系化合物(TF−1)以外の結晶造核剤を添加しても顕著な結晶化速度は期待できず、本発明の効果はトリメシン酸系化合物(TF−1)による特異的な結晶化速度の向上であることが分かる。
【0053】
[溶融混練による混合、射出成形機を用いての実験]
上記実施例と異なる点は以下の通りである。
1)異なる市販のポリ乳酸材料を用いた。
2)溶媒を用いたポリ乳酸と核剤の混合方法では無く、溶融混練方法を用いた。
3)ポリ乳酸の結晶化を少量試料を用いた実験装置ではなく、射出成形により金型内で結晶化させた。
【0054】
具体的には、下記手順で行った。
1)材料の混合:ポリ乳酸系樹脂(99%)と結晶造核剤(1%)とをドライブレンドにより混合した。
2)材料の2軸混練:混合した材料(ポリ乳酸系樹脂と結晶造核剤)を2軸混練機で混練した。
混練条件:混練温度210℃、スクリュー回転数(100〜200rpm)、材料供給量(2.5kg/h)
3)射出成形条件:樹脂温度240℃、シリンダー内の樹脂滞留時間1分、金型温度80℃、冷却時間120秒
4)結晶化度:DSCを用いて測定。射出成形試験片の表層部分を切り出し測定。昇温速度10℃/min. PLAの100%結晶化時の融解潜熱を93J/gとして計算した。
5)結晶化速度:射出成形した試験片を200℃でホットプレス機を用いてフィルムを作製。そのフィルムを 240℃で1分間試料を溶融させ、急冷加熱ステージを用い80℃まで急冷し、上述した方法で結晶化速度を算出した。
【0055】
下記表4及び図4に、溶融混練試料No.1〜4の内容と溶融混練試料の射出成形評価の結果を示す。なお、金型温度80℃である。
【0056】
ポリ乳酸は、下記表3の通りである。
【0057】
【表3】

【0058】
【表4】

【0059】
表4の結果、以下のことが分かった。
1)異なる市販のポリ乳酸材料を用い、溶融混練方法を用いた場合でも結晶化速度の向上が見られた。
更に、
2)溶融混練試料においても、核剤添加量が0.5wt%の時の方が、1.0wt%添加時よりも結晶化速度が速い。
3)射出成形品の結晶化度も、核剤添加量が0.5wt%の時の方が、1.0wt%添加時よりも高い。
4)射出成形品のHDTも、結晶造核剤添加量が0.5wt%の時の方が、1.0wt%添加時よりも高い。
【産業上の利用可能性】
【0060】
本発明は、低温域の結晶化温度(70〜90℃)とすることで水温調が採用できる上に、高価な核剤の添加量を少なくするという実用性の高い技術である。得られたポリ乳酸系樹脂成形体は、結晶化度が高く耐熱性に優れている。
【図面の簡単な説明】
【0061】
【図1】結晶化速度(v)の定義を示す等温結晶化曲線図である。
【図2】結晶造核剤添加濃度(wt%、TF−1添加濃度)と、溶融温度;200℃の場合の結晶化速度の相関を図示する。
【図3】結晶造核剤添加濃度(wt%、TF−1添加濃度)と、溶融温度;240℃の場合の結晶化速度の相関を図示する。
【図4】溶融混練試料No.1〜4の内容と溶融混練試料の射出成形評価の結果を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)ポリ乳酸系樹脂、及び(B)トリメシン酸化合物0.1〜1.0wt%を含有するポリ乳酸系樹脂組成物を、溶融温度;230〜250℃、溶融時間;0.5〜5.0分にて溶融し、結晶化温度;70〜90℃にて成形することを特徴とするポリ乳酸系樹脂成形体の製造方法。
【請求項2】
前記(B)トリメシン酸化合物が、下記一般式(1)で表されるトリメシン酸トリアミド化合物であることを特徴とする請求項1に記載のポリ乳酸系樹脂成形体の製造方法。
【化1】

[式中、Rはトリメシン酸から全てのカルボキシル基を除いて得られる残基を表す。3個のRは同一又は相異なって、炭素数1〜4の直鎖状若しくは分岐鎖状のアルキル基を1〜3個有していてもよいシクロヘキシル基、又は炭素数1〜4の直鎖状若しくは分岐鎖状のアルキル基を表す。]
【請求項3】
トリメシン酸化合物を0.3〜0.5wt%含有することを特徴とする請求項1又は2に記載のポリ乳酸系樹脂成形体の製造方法。
【請求項4】
溶融温度が235〜245℃であることを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載のポリ乳酸系樹脂成形体の製造方法。
【請求項5】
前記成形が、射出成形、押出成形、射出ブロー成形、射出押出ブロー成形、射出圧縮成形、押出ブロー成形、押出サーモフォーム成形又は溶融紡糸であることを特徴とする請求項1乃至4のいずれかに記載のポリ乳酸系樹脂成形体の製造方法。
【請求項6】
請求項1乃至5のいずれかに記載の方法で製造されたポリ乳酸系樹脂成形体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−70729(P2010−70729A)
【公開日】平成22年4月2日(2010.4.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−243036(P2008−243036)
【出願日】平成20年9月22日(2008.9.22)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【出願人】(504132272)国立大学法人京都大学 (1,269)
【出願人】(000003609)株式会社豊田中央研究所 (4,200)
【出願人】(504145364)国立大学法人群馬大学 (352)
【Fターム(参考)】