説明

ポリ乳酸系樹脂発泡シート、及び、ポリ乳酸系樹脂発泡シートの製造方法

【課題】強度や耐熱性に優れながらも熱成形が容易なポリ乳酸系樹脂発泡シート、及び、このようなポリ乳酸系樹脂発泡シートの製造に適した製造方法の提供。
【解決手段】熱成形に用いられるポリ乳酸系樹脂発泡シートであって、シート厚み方向中央部を形成しているポリ乳酸系樹脂が、表層部を形成しているポリ乳酸系樹脂よりも結晶化度が低いことを特徴としているポリ乳酸系樹脂発泡シートを提供する。
などを提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリ乳酸系樹脂発泡シート、及び、ポリ乳酸系樹脂発泡シートの製造方法に関し、より詳しくは、熱成形に用いられるポリ乳酸系樹脂発泡シート、及び、熱成形に用いられるポリ乳酸系樹脂発泡シートの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、環境配慮に対する要望の高まりから、一般的なポリエステル系樹脂に代えてポリ乳酸系樹脂の利用が拡大されている。
例えば、下記特許文献1においては、ポリ乳酸系樹脂発泡シートに対してマッチモールド成形などの熱成形を実施してグラタン容器などの成形品を形成させることが記載されている(特許文献1の実施例等参照)。
【0003】
ポリ乳酸系樹脂は、ポリエチレンテレフタレート樹脂などの一般的なポリエステル系樹脂と同様に融点よりも少し低い温度において結晶化を起こし、その結晶化度を向上させることによって耐熱性を向上させることができるとともに硬質化させて強度を向上させることができる。
しかし、ポリ乳酸系樹脂は、結晶化の進行に伴って脆性が顕著になる傾向があり、ポリ乳酸系樹脂発泡シートを形成しているポリ乳酸系樹脂の結晶化度を向上させすぎると、熱成形における加工性を低下させるおそれを有するとともに得られる成形品も割れ易いものとなってしまうおそれを有する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2011−093982号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、このような問題を解決することを課題としており、強度や耐熱性に優れながらも熱成形が容易なポリ乳酸系樹脂発泡シート、及び、このようなポリ乳酸系樹脂発泡シートの製造に適した製造方法を提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために本発明者が鋭意検討を行ったところ、ポリ乳酸系樹脂発泡シートの表層部を加熱してその結晶化を促すなどしてシート厚み方向中央部よりも結晶化度を高めることで当該表層部に優れた耐熱性と強度とを備えさせることができるとともに、シート厚み方向中央部を形成しているポリ乳酸系樹脂を、表層部を形成しているポリ乳酸系樹脂よりも結晶化度が低い状態にさせておくことで熱成形においてシート表面が過度に軟化してしまう前に厚み方向中央部を軟化させることができ熱成形において有利となることを見出した。
【0007】
即ち、本発明者は、シート厚み方向中央部を形成しているポリ乳酸系樹脂の方が表層部を形成しているポリ乳酸系樹脂よりも結晶化度が低い状態にすることでポリ乳酸系樹脂発泡シートを強度や耐熱性に優れたものとすることができ、熱成形に際して表層部を形成しているポリ乳酸系樹脂がある程度の溶融粘度を有し良好な伸びを示す状態でポリ乳酸系樹脂発泡シートを型面形状に賦形することができることを見出して本発明を完成させるに至ったものである。
【0008】
上記課題を解決するためのポリ乳酸系樹脂発泡シートに係る本発明は、熱成形に用いられるポリ乳酸系樹脂発泡シートであって、シート厚み方向中央部を形成しているポリ乳酸系樹脂が、表層部を形成しているポリ乳酸系樹脂よりも結晶化度が低いことを特徴としている。
【0009】
また、本発明者は、押出発泡等の一般的なポリ乳酸系樹脂発泡シートの製造方法においては、表層部に比べて厚み方向中央部の方が製造時における冷却速度が緩やかで、該中央部の方がポリ乳酸系樹脂の結晶化が進行し易い傾向にあること、及び、このようなポリ乳酸系樹脂発泡シートの両面を加熱して表層部の結晶化度を向上させることで、前記のような熱成形性に優れ、強度や耐熱性に優れるポリ乳酸系樹脂発泡シートを容易に得られることを見出して本発明を完成させた。
【0010】
即ち、ポリ乳酸系樹脂発泡シートの製造方法に係る本発明は、熱成形に用いられるポリ乳酸系樹脂発泡シートの製造方法であって、発泡剤を含むポリ乳酸系樹脂組成物を押出発泡してポリ乳酸系樹脂発泡シートを形成させた後に、該ポリ乳酸系樹脂発泡シートの両面を加熱して、その表層部を形成しているポリ乳酸系樹脂の結晶化度を向上させることにより、シート厚み方向中央部を形成しているポリ乳酸系樹脂の方が前記表層部を形成しているポリ乳酸系樹脂よりも結晶化度が低いポリ乳酸系樹脂発泡シートを作製することを特徴としている。
【発明の効果】
【0011】
本発明においては、シート厚み方向中央部を形成しているポリ乳酸系樹脂の方が表層部を形成しているポリ乳酸系樹脂よりも結晶化度が低いことから当該ポリ乳酸系樹脂発泡シートを熱成形することが容易で、且つ、厚み方向中央部よりも結晶性が高い表層部によって当該ポリ乳酸系樹脂発泡シートに優れた耐熱性や強度を発揮させ得る。
また、本発明の製造方法によればこのようなポリ乳酸系樹脂発泡シートを容易に得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】ポリ乳酸系樹脂発泡シートの製造方法に用いられる設備構成を模式的に示した概略構成図。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下に、本発明の好ましい実施の形態について説明する。
本実施形態のポリ乳酸系樹脂発泡シートは、ポリ乳酸系樹脂を含む樹脂組成物(以下「ポリ乳酸系樹脂組成物」ともいう)が押出発泡されてシート状に形成されたものであり、マッチモールド成形などの熱成形によって成形品を形成させるべく用いられるものである。
本実施形態においては、このポリ乳酸系樹脂発泡シートを、熱成形が容易で、且つ、強度や耐熱性に優れたものとする上において、その厚み方向中央部を形成しているポリ乳酸系樹脂が表層部を形成しているポリ乳酸系樹脂よりも結晶化度を低くさせていることが重要である。
【0014】
なお、ポリ乳酸系樹脂発泡シートを形成しているポリ乳酸系樹脂の結晶化度については熱流束示差走査熱量測定を実施することにより測定することができる。
従って、それぞれの厚みがポリ乳酸系樹脂発泡シートの約3分の1となるように1枚のポリ乳酸系樹脂発泡シートを3枚にスライスし、この3枚の試料についてそれぞれ熱流束示差走査熱量測定を実施して結晶化度を求めることで、表層部と厚み方向中央部との結晶化度の比較を行うことができる。
また、厚みを約3等分にするスライス加工が困難であれば、研磨機などを使って、ポリ乳酸系樹脂発泡シートを一面側から研削し、厚みが3分の1程度になるまで研削して表層部における結晶化度を求めるための試料とすることができる。
さらに、厚み方向中央部における結晶化度を求めるための試料は、ポリ乳酸系樹脂発泡シートを両面側から略均等に研削し、厚みが3分の1程度になるまで研削することで得ることができる。
【0015】
また具体的な測定方法を例示すると、熱流束示差走査熱量測定(熱流束DSC)は、JIS K7122−1987に記載される熱流束示差走査熱量測定に準拠して測定することができ、例えば、エスアイアイナノテクノロジー(株)製示差走査熱量計装置 「DSC6220型」を用いて測定容器にポリ乳酸系樹脂発泡シートの試料を4〜6mg充てんして、窒素ガス流量25mL/minのもと2℃/minの加熱速度で40〜200℃の範囲で結晶化発熱量と融解吸熱量を測定し、結晶化度を次式により求めることができる。

結晶化度(%)=〔融解吸熱量(mJ)−結晶化発熱量(mJ)〕/完全結晶の融解熱量(mJ)×100(%)

(ただし、ポリ乳酸系樹脂の完全結晶の融解熱量を93mJとする。)
【0016】
なお、結晶化発熱量は、DSCチャートがベースラインから離れる結晶化開始温度と再びベースラインに戻る結晶化終了温度との間を結ぶ直線とチャートとの間の面積を積分して得られる値であり、融解吸熱量もDSCチャートがベースラインから離れる融解開始温度と再びベースラインに戻る融解終了温度との間を結ぶ直線とチャートとの間の面積を積分して得られる値である。
【0017】
本実施形態のポリ乳酸系樹脂発泡シートは、表層部、及び、厚み方向中央部において示される結晶化度が両方とも35%以上であることが好ましく、40%以上であることがさらに好ましく、43%以上であることが特に好ましい。
なお、本実施形態においては、厚み方向中央部において示される結晶化度を表層部において示される結晶化度よりも低い値にすることをポリ乳酸系樹脂発泡シートの耐熱性や成形性との関係から重要な要件としているが、過度に結晶化度を異ならせるとシート全体の結晶化度のバランスが悪くなり、シートの物性強度が落ちてしまうとともに、成形時に割れなどが発生してしまうおそれがある。
また、一方で結晶化度を過度に近似させるとポリ乳酸系樹脂発泡シートが、柔軟性の不十分な、成形時に割れを生じさせやすいものとなるおそれを有する。
従って、ポリ乳酸系樹脂発泡シートを、柔軟性に優れ、成形時に優れた伸びを示し、成形品に割れや外観不良といった不具合が生じることを抑制させる効果に優れたものとする上においては、厚み方向中央部において示される結晶化度(Ci)と表層部において示される結晶化度(Cs)との差(Cs−Ci)は、3.0% 以上8.0%以下となるように調整することが好ましい。
【0018】
さらに、本実施形態のポリ乳酸系樹脂発泡シートは、ポリ乳酸系樹脂がそれ以上には結晶化を示さない状態になっていることが好ましい。
即ち、表層部、及び、厚み方向中央部に対して熱流束DSCを実施した際に、結晶化発熱量がほぼゼロに近く、熱流束DSCでは結晶化発熱量が実質上観測されないような状態になっていることが好ましい。
本実施形態においては、表層部と厚み方向中央部とも同じポリ乳酸系樹脂組成物で形成させているために通常であれば到達する最大結晶化度の値は同じになるはずである。
一方で、本実施形態においては、後述するように表層部を選択的に加熱して結晶化度を向上させる操作を実施して表層部と厚み方向中央部との間に結晶化度の相違を設けている。
【0019】
本実施形態のポリ乳酸系樹脂発泡シートは、このような特性を有することで熱成形における成形性に優れ、容器などの成形品の形成に適した状態となっている。
また、本実施形態のポリ乳酸系樹脂発泡シートは、さらに、以下のような特性を有していることが好ましい。
【0020】
(見掛け密度)
前記ポリ乳酸系樹脂発泡シートは、見掛け密度が0.03〜0.1g/cm3であることが好ましく、0.03〜0.08g/cm3であることがより好ましい。
これは、前記ポリ乳酸系樹脂発泡シートの見掛け密度を0.03g/cm3以上とすることで当該ポリ乳酸系樹脂発泡シートの熱成形性がより一層良好となり成形型の型面への追従性に優れ、求める形状の成形品を得られやすいためであり、しかも、得られる成形品を強度に優れたものとすることができるためである。
また、ポリ乳酸系樹脂発泡シートの見掛け密度を0.1g/cm3以下とすることで、当該ポリ乳酸系樹脂発泡シートを熱成形して得られる成形品を軽量性、断熱性、緩衝性に優れたものとすることができるためである。
【0021】
なお、見掛け密度は、同じ製造ロットのポリ乳酸系樹脂発泡シートから10×10cmの測定サンプルを数枚切出し、それぞれのサンプルの厚みと質量を測定して、各サンプルの質量と体積から算出した密度の算術平均値して求めることができる。
【0022】
(厚み)
前記ポリ乳酸系樹脂発泡シートの厚みは、0.5〜7mmであることが好ましく、1〜5mmであることがより好ましく、2〜5mmであることが特に好ましい。
これは、前記ポリ乳酸系樹脂発泡シートの厚みを0.5mm以上とすることで得られる成形品を高強度なものとすることができるためであり、また、ポリ乳酸系樹脂発泡シートの厚みを7mm以下とすることにより、当該ポリ乳酸系樹脂発泡シートの熱成形性が良好となるためである。
【0023】
なお、ポリ乳酸系樹脂発泡シートの厚みに関しては、例えば、ポリ乳酸系樹脂発泡シートを幅方向に12等分し、それぞれの厚みを測定して得られた測定値を算術平均して求めることができる。
【0024】
(平均気泡径)
前記ポリ乳酸系樹脂発泡シートは、その平均気泡径が、0.1〜1mmであることが好ましく、0.1〜0.8mmであることがより好ましく、0.1〜0.6mmであることが特に好ましい。
これは、前記ポリ乳酸系樹脂発泡シートの平均気泡径を0.1mm以上とすることで、ポリ乳酸系樹脂発泡シートの連続気泡率を低い値にさせやすくなるためであり、その結果、ポリ乳酸系樹脂発泡シートの熱成形性が良好になり、得られる成形品も軽量性に優れたものとなるためである。
また、前記ポリ乳酸系樹脂発泡シートの平均気泡径を1mm以下とすることにより、得られる成形品を断熱性、緩衝性等に優れたものとすることができる。
【0025】
なお、ポリ乳酸系樹脂発泡シートの平均気泡径は、ASTM D2842−69の試験方法に準拠して測定することができる。
具体的には、ポリ乳酸系樹脂発泡シートをMD方向(押出方向)及びTD方向(押出方向に直交する幅方向)に沿って切断し、それぞれの切断面の中央部を走査型電子顕微鏡((株)日立製作所製S−3000N)で拡大して視野を変えて写真を各2枚撮影し、撮影した画像をA4用紙上に印刷し、各画像上に長さ60mmの直線を3本(MD方向に合計6本、TD方向にも合計6本)描いてこの直線上に存在するそれぞれの方向の平均気泡数から気泡の平均弦長(t)を下記式によりそれぞれ算出し、この平均弦長から下記式により各方向(MD方向、TD方向、VD方向)の気泡径をそれぞれ算出することができる。

平均弦長:t=60(mm)/(気泡数×写真の倍率)
気泡径:D=t/0.616(mm)

なお、通常、MD方向に切断した切断面についてはMD方向に平行に、TD方向に切断した切断面についてはTD方向に平行に直線を描いて上記気泡径を算出する。
さらにVD方向(厚み方向)は、MD、TDそれぞれ1枚の画像上に直線を描いて、上記と同様に気泡径を算出することができる。
このとき、通常、直線上に気泡が10〜20個存在するように、上記電子顕微鏡での拡大倍率を調整し、直線を描くにあたっては、できるだけ直線が気泡に点接触することなく貫通した状態となるように留意する。
そして、一部の気泡が直線に点接触してしまう場合には、この気泡も気泡数に含め、更に、直線の両端部が位置している気泡も気泡数に含めて計算を行う。
【0026】
このようにして得られたMD方向の気泡径(DMD)とTD方向の気泡径(DTD)とVD方向の気泡径(DVD)との相乗平均値をポリ乳酸系樹脂発泡シートの平均気泡径とすることができる。
即ち、下記式により、ポリ乳酸系樹脂発泡シートの平均気泡径を算出することができる。

平均気泡径(mm)=(DMD×DTD×DVD1/3
【0027】
(連続気泡率)
前記ポリ乳酸系樹脂発泡シートの連続気泡率は、50%以下であることが好ましく、40%以下であることがより好ましく、30%以下であることが特に好ましい。
前記ポリ乳酸系樹脂発泡シートの連続気泡率を50%以下とすることで、当該ポリ乳酸系樹脂発泡シートの機械的強度、及び熱成形時の二次発泡性が特に優れたものとなり、且つ、該ポリ乳酸系樹脂発泡シートを熱成形した成形品を、機械的強度や型再現性などにおいて優れたものとすることができる。
【0028】
なお、連続気泡率は、例えば、東京サイエンス(株)社製 空気比較式比重計を用いて測定することができ、ポリ乳酸系樹脂発泡シートの試験片の体積(V)から、下記式に基づいて算出することができる。

連続気泡率(%)=(V0−V)/V0×100

なお、上記式において、「V」は上記した方法で測定される試験片の体積(cm3)、「V0」は測定に使用した試験片の外形寸法から計算される試験片の見掛けの体積(cm3)である。
【0029】
このようなポリ乳酸系樹脂発泡シートを製造するには、例えば、ポリ乳酸系樹脂の1種以上と必要に応じてポリ乳酸系樹脂以外の樹脂を1種以上含有するポリ乳酸系樹脂組成物を、気泡調整剤や、発泡剤などとともに押出機で溶融混練して、該押出機の先端に取り付けたサーキュラーダイから押出発泡させ、得られたポリ乳酸系樹脂発泡シートの両面を加熱して、その表層部を形成しているポリ乳酸系樹脂の結晶化度を向上させることによって作製することができる。
【0030】
なお、本実施形態においてポリ乳酸系樹脂発泡シートの製造に用いるポリ乳酸系樹脂とは、通常、乳酸成分単位を50モル%以上含むポリマーである。
該ポリマーとしては、(1)乳酸の重合体、(2)乳酸と他の脂肪族ヒドロキシカルボン酸とのコポリマー、(3)乳酸と脂肪族多価アルコールと脂肪族多価カルボン酸とのコポリマー、(4)乳酸と脂肪族多価カルボン酸とのコポリマー、(5)乳酸と脂肪族多価アルコールとのコポリマー、(6)前記(1)〜(5)の何れかの組み合わせによる混合物等を挙げることができる。
なお、上記乳酸の具体例としては、L−乳酸、D−乳酸、DL−乳酸又はそれらの環状2量体であるL−ラクチド、D−ラクチド、DL−ラクチド又はそれらの混合物を挙げることができる。
【0031】
前記ポリ乳酸系樹脂としては、乳酸のD−体とL−体とが共重合されたものを含み、該共重合体のD−体比率が0.5〜5モル%であり、且つ融点が130〜170℃のものが好ましい。
このようなポリ乳酸系樹脂が好ましいのは、前記ポリ乳酸系樹脂組成物を発泡させた際における発泡性、得られるポリ乳酸系樹脂発泡シートの熱成形性、及び、該ポリ乳酸系樹脂発泡シートを熱成形して得られる成形品の耐熱性をそれぞれ優れたものとすることができるためである。
【0032】
なお、ポリ乳酸系樹脂は、溶融張力の高いものの方が押出発泡によって良好なポリ乳酸系樹脂発泡シートを形成させる上において好ましい。
ただし、特に優れた結晶性を示すポリ乳酸系樹脂は、一般的に溶融張力が低いため、化学架橋や電子線架橋などの方法で架橋を施したり、高分子量成分を混合するなどして樹脂の溶融張力を高め、押出発泡性を向上させたものが好適に用いられ得る。
このような溶融張力を高めた結晶性に優れるポリ乳酸系樹脂としては、例えば、ユニチカ社製、商品名「テラマックHV6250H」、「テラマックHV8250H」、ネイチャーワークス社製、商品名「INGEO8251D」などの市販品を採用することができる。
【0033】
前記ポリ乳酸系樹脂組成物には、前記ポリ乳酸系樹脂との合計に占める割合が0質量%を超え且つ50質量%以下となるように前記ポリ乳酸系樹脂以外の熱可塑性樹脂を含有させても良い。
なお、ポリ乳酸系樹脂組成物に含有させうるポリ乳酸系樹脂以外の熱可塑性樹脂の具体例としては、例えば、ポリエチレン系樹脂、ポリプロピレン系樹脂、ポリスチレン系樹脂、ポリエステル系樹脂等が挙げられる。
本実施形態においては、前記ポリ乳酸系樹脂発泡シートの耐衝撃性を向上させうる点において熱可塑性エラストマーをポリ乳酸系樹脂組成物に含有させることが好ましい。
この熱可塑性エラストマーとしては、オレフィン系エラストマー、スチレン系エラストマー、アクリル系エラストマー、エステル系エラストマーが挙げられるが、それらの中でもポリ乳酸系樹脂との相溶性が高い、アクリル系エラストマー、酸変性させたスチレン系エラストマー、エステル系エラストマーが好ましい。
具体的には、三菱レーヨン社製、商品名「メタブレンW-600A」、旭化成社製、商品名「タフテックMP10」、日油社製、商品名「ノフアロイTZ810」などの市販品を好適に採用することができる。
【0034】
前記発泡剤としては、低い見掛け密度のポリ乳酸系樹脂発泡シートを得る観点から、プロパン、ノルマルブタン、イソブタン、ノルマルペンタン、イソペンタン、ヘキサン等の低級アルカン等の炭化水素類、ジメチルエーテルなどのエーテル類、メチルクロライド、エチルクロライド等のハロゲン化炭化水素類、二酸化炭素等の無機ガス類などの物理発泡剤が挙げられる。
これらの中でも、ノルマルブタン、イソブタン、ジメチルエーテル、二酸化炭素が好ましい。尚、前記発泡剤として、上記物理発泡剤の他、化学発泡剤、或いは物理発泡剤と化学発泡剤とを併用して使用することもできる。
【0035】
前記気泡調整剤としては、例えば、タルク、シリカ等の無機系核剤やポリテトラフルオロエチレンなどの有機系核剤などが好適に使用できる。
特にタルクやポリテトラフルオロエチレンが気泡調整の容易さの点で好ましい。
また、前記気泡調整剤には、ステアリン酸カルシウム等の脂肪酸金属塩系の気泡調整剤を適宜含有させることもできる。
【0036】
さらに、ポリ乳酸系樹脂発泡シートを形成させるためのポリ乳酸系樹脂組成物には目的に応じて着色剤、酸化防止剤、加水分解抑制等の各種添加剤を含有させることもできる。
【0037】
このようなポリ乳酸系樹脂組成物を押出発泡させてポリ乳酸系樹脂発泡シートを形成させた後は、連続して、その両面を加熱して、表層部を形成しているポリ乳酸系樹脂の結晶化度を向上させる処理を行っても良く、一旦、ポリ乳酸系樹脂発泡シートを作製し終えた後で、別途、ポリ乳酸系樹脂発泡シートの両面を加熱する処理を施してもよい。
【0038】
例えば、前者の場合であれば、押出機によって連続的に形成される帯状のポリ乳酸系樹脂発泡シートを、加熱炉を通過させて表層部を結晶化開始温度以上に加熱する方法や、ポリ乳酸系樹脂発泡シートを形成しているポリ乳酸系樹脂の結晶化開始温度よりも高温に加熱された複数本の加熱ロールにポリ乳酸系樹脂発泡シートの一面側と他面側とを交互に当接させるように巻き掛けてこの加熱ロールによってポリ乳酸系樹脂発泡シートの両面の加熱を実施するようにしてもよい。
【0039】
このようなポリ乳酸系樹脂発泡シートの製造方法を、このポリ乳酸系樹脂発泡シートの製造設備を模式的に示した図1を用いてより具体的に説明すると、図1に示すように、サーキュラーダイ1が先端部に装着されたタンデム式押出機70でポリ乳酸系樹脂組成物を溶融混練し、前記サーキュラーダイ1の円環状の吐出口から筒状にポリ乳酸系樹脂発泡シート20を押出し、サーキュラーダイ1の吐出口よりも径大な円柱状の冷却マンドレル30の外周面を前記ポリ乳酸系樹脂発泡シート20に内側から当てて、該サーキュラーダイ1によって筒状のポリ乳酸系樹脂発泡シート20を拡径するとともに冷却し、該冷却されたポリ乳酸系樹脂発泡シート20をカッターで上下2分割し、平坦帯状になるように開いたポリ乳酸系樹脂発泡シート20’を後段に配された巻取りローラー92で巻き取らせ、この冷却マンドレル30を通過後、巻取りローラー92による巻き取り前において、上下に千鳥配置された4本の加熱ロール40に巻き掛けて前記ポリ乳酸系樹脂発泡シート20’の表層部の結晶化度を向上させるような方法を採用することができる。
【0040】
即ち、ポリ乳酸系樹脂発泡シート20’の移動に伴って、該ポリ乳酸系樹脂発泡シート20’に外周面を当接させた前記加熱ロール40を供回りさせてポリ乳酸系樹脂発泡シート20’を両面側から加熱し、その表層部の結晶化度を向上させる方法を採用することができる。
【0041】
特にこの図1に示すように、加熱ロールを当接させる方法は、ポリ乳酸系樹脂発泡シートの表面から内部にまで熱が伝達されるのを防止しつつ表面のごく一部だけを結晶化開始温度以上に加熱する上において有利であり好適な加熱処理方法であるといえる。
また、加熱ロールを当接させる方法は、ポリ乳酸系樹脂発泡シートとの接触時間を調整させ易い点においても、ポリ乳酸系樹脂発泡シートの表層部の結晶化度を調整するのに公的である。
【0042】
このような方法で表層部の方が中央部よりも結晶化度が高いポリ乳酸系樹脂発泡シートを得る場合には、通常、前記加熱ロールの温度を120℃〜160℃とし、該加熱ロールとポリ乳酸系樹脂発泡シートとの接触時間を35秒〜110秒とすればよい。
【0043】
このようにポリ乳酸系樹脂発泡シートの表層部を結晶化開始温度以上に加熱することにより、表層部を形成しているポリ乳酸系樹脂の分子の再配列を促し、熱流束DSCにおいて発熱ピークが確認できない程度にまで結晶化が進んでいる状態であっても、僅かではあるが、それまで以上に結晶化度を向上させることができる。
なお、結晶化発熱ピークがはっきりと確認できないような状態にまで結晶化が進行した状況から、さらに結晶化度が向上しているかどうかについては融解吸熱量が増大するか否かによって確認することができる。
【0044】
このようにして、表層部の結晶化度を向上させることでポリ乳酸系樹脂発泡シートに優れた耐熱性と強度とを備えさせることができる。
しかも、シート厚み方向中央部を形成しているポリ乳酸系樹脂の方が表層部を形成しているポリ乳酸系樹脂よりも結晶化度が低くなるようにすることで熱成形においてシート表面が過度に軟化してしまう前に厚み方向中央部を軟化させ得る。
即ち、熱成形に際して表層部を形成しているポリ乳酸系樹脂がある程度の溶融粘度を有し良好な伸びを示す状態でポリ乳酸系樹脂発泡シートを型面形状に賦形することができるため、型面に対する追従性も優れたものとなる。
【0045】
なお、このようなポリ乳酸系樹脂発泡シートを熱成形して得られる成形品は、表層部が硬質で優れた強度を発揮する一方で、厚み方向中央部は、表層部に比べて結晶化度を低くさせて表層部に比べて靱性に優れた状態にさせることができる。
従って、本実施形態のポリ乳酸系樹脂発泡シートにより形成される成形品は、耐熱性及び耐衝撃性に優れたものとなる。
このようなことから本実施形態のポリ乳酸系樹脂発泡シートを用いて作製する成形品としては、弁当箱、カップ麺容器、果物容器、野菜容器等の食品包装容器、精密機器、電気製品の緩衝包装容器等が好適な態様として例示することができる。
【0046】
なお、本実施形態の製造方法によって得られるポリ乳酸系樹脂発泡シートは、その用途を上記のような用途に限定するものではなく、種々の用途に利用可能である。
【0047】
また、ここでは詳述しないが、ポリ乳酸系樹脂発泡シートの形成材料や製造方法などに関して従来公知の技術事項は、本発明の効果が著しく損なわれない範囲において本発明のポリ乳酸系樹脂発泡シートやその製造方法に適宜採用が可能なものである。
【実施例】
【0048】
次に実施例を挙げて本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0049】
(実施例1)
まず、第一押出機(L/D:29、口径φ:50mm)の先端に接続配管を介して第二押出機(L/D:34、口径:65mm)が接続されてなるタンデム型押出機を用意した。
そして、結晶性ポリ乳酸樹脂(ユニチカ社製 商品名「テラマック HV6250H」、融点(mp):166.2℃、D体比率:1.4モル%、L体比率:98.6モル%)および気泡調整剤としてポリテトラフルオロエチレン(PTFE)を配合した配合樹脂(住化カラー社製 商品名「キノプラス BLBD−A1107」)とを、ポリ乳酸樹脂100質量部に対してPTFE配合樹脂1.0質量部になるように混合し、このタンデム型押出機の第一押出機に供給した。
次に、第一押出機の途中から発泡剤としてブタンを圧入し、溶融状態の溶融樹脂組成物とブタンを均一に混練した上で、この発泡剤を含む溶融樹脂組成物を第二押出機に連続的に供給して溶融混練しつつ発泡に適した樹脂温度に冷却した。
その後、第二押出機の先端に取り付けたスリット口径70mmのサーキュラー金型から吐出量30kg/h、樹脂温度166℃の条件で該溶融樹脂組成物を押出発泡させ、金型スリットから押出発泡された筒状のポリ乳酸系樹脂発泡シートを冷却されているマンドレル上に添わせるとともに、その外面をエアリングからエアーを吹き付けて冷却成形し、カッターにより切開して、平坦シート状のポリ乳酸系樹脂発泡シートを作製した。
図1に示したように千鳥配置された4本の誘電加熱式の加熱ロール(ロール直径:300mm、ロール温度:140℃)に前記押出発泡によって得られたポリ乳酸系発泡シートを巻き掛けて1m/minのロール速度(シートと加熱ロールとの接触時間:合計105.5秒)で通過させ、該ポリ乳酸系発泡シートの両面を加熱処理した。
得られたシートをそれぞれの厚みがポリ乳酸系樹脂発泡シートの約3分の1になるように1枚のポリ乳酸系樹脂発泡シートを3枚にスライスし、一面側の表層部(シート表面)、他面側の表層部(シート裏面)、及び、厚み方向中央部(シート内部)の3枚の試料についてそれぞれ熱流束示差走査熱量測定により結晶化度を求めた。
【0050】
(実施例2)
4本の誘電加熱ロールの温度を前から順番に120℃、140℃、145℃、160℃とし、速度を3m/min(シートと加熱ロールとの接触時間:合計36秒)としたこと以外は、実施例1と同様にポリ乳酸系樹脂発泡シートを作製した。
このポリ乳酸系樹脂発泡シートも実施例1と同様に結晶化度を求めた。
結果を下記表1に示す。
【0051】
【表1】

【符号の説明】
【0052】
1:サーキュラーダイ、20:ポリ乳酸系樹脂発泡シート、40:加熱ロール、70:タンデム式押出機

【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱成形に用いられるポリ乳酸系樹脂発泡シートであって、シート厚み方向中央部を形成しているポリ乳酸系樹脂が、表層部を形成しているポリ乳酸系樹脂よりも結晶化度が低いことを特徴とするポリ乳酸系樹脂発泡シート。
【請求項2】
熱成形に用いられるポリ乳酸系樹脂発泡シートの製造方法であって、
発泡剤を含むポリ乳酸系樹脂組成物を押出発泡してポリ乳酸系樹脂発泡シートを形成させた後に、該ポリ乳酸系樹脂発泡シートの両面を加熱して、その表層部を形成しているポリ乳酸系樹脂の結晶化度を向上させることにより、シート厚み方向中央部を形成しているポリ乳酸系樹脂の方が前記表層部を形成しているポリ乳酸系樹脂よりも結晶化度が低いポリ乳酸系樹脂発泡シートを作製することを特徴とするポリ乳酸系樹脂発泡シートの製造方法。
【請求項3】
前記ポリ乳酸系樹脂発泡シートを形成しているポリ乳酸系樹脂の結晶化開始温度よりも高温に加熱された加熱ロールを当接させて前記両面の加熱を実施する請求項2記載のポリ乳酸系樹脂発泡シートの製造方法。
【請求項4】
前記押出発泡に続けて前記加熱ロールによる両面の加熱を実施する請求項3記載のポリ乳酸系樹脂発泡シートの製造方法。

【図1】
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【公開番号】特開2013−76011(P2013−76011A)
【公開日】平成25年4月25日(2013.4.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−217305(P2011−217305)
【出願日】平成23年9月30日(2011.9.30)
【出願人】(000002440)積水化成品工業株式会社 (1,335)
【Fターム(参考)】