説明

ポリ乳酸系組成物及びポリ乳酸系フィルム

【課題】帯電防止性能を備え、フィルム成形時の接着性及び印刷適性にも優れるポリ乳酸系組成物を提供する。
【解決手段】ポリ乳酸系重合体(A)と、ポリエーテルエステルアミド重合体(B)と、を含有してなり、前記成分(A)と前記成分(B)とを質量比で95:5〜65:35で混合してなるポリ乳酸系組成物及び前記のポリ乳酸系組成物を含有した樹脂層からなることを特徴とする単層構成のポリ乳酸系フィルム。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリ乳酸系重合体を主成分としてなるポリ乳酸系組成物、及び該ポリ乳酸系組成物を用いてなるポリ乳酸系フィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
石油由来原料から製造される熱可塑性プラスチックは、耐水性、成形性、強度などに優れているため、様々な用途に利用されてきたが、その反面、廃棄処分の点に重大な課題を抱えていた。すなわち、この種のプラスチック製品は、埋め立て処分するにしても化学的安定性が高く自然環境下ではほとんど分解しないため、半永久的に土中に残留することになる。また、焼却処分するにしても、燃焼時の発熱量が大きいために燃焼処理中に燃焼炉を傷める恐れがあるばかりか、燃焼処理によって二酸化炭素が排出されるなど環境への影響が懸念される。特に京都議定書の締結以来、排出二酸化炭素の削減の機運が急速に高まり、その中で循環型材料への移行が進められている。
【0003】
循環型材料導入の具体策としては、例えばプラスチック類の積極的な再利用、いわゆるマテリアルリサイクルや、モノマーに解重合して再使用するケミカルリサイクルなどが試みられている。しかし、前段階での製品設計や種類ごとの分別が必要であるため、PETボトル以外のプラスチック製品では大きな進展が見られないのが現状である。その一方、近年盛んに進められているのが生分解性樹脂からなるプラスチック製品の開発である。
【0004】
生分解性樹脂の中でも“ポリ乳酸”は、植物から得られるデンプンから発酵・合成する技術が確立している上、大気中の二酸化炭素を炭素源とする樹脂であるから燃焼しても自然環境中に還元され、大気中の二酸化炭素の増減が実質ゼロとみなすことができる上、燃焼熱量はポリエチレンの半分以下である。しかも、生分解性樹脂として土中・水中で自然に加水分解が進行し、微生物により無害な分解物となる点でも優れている。
【0005】
また、ポリ乳酸は透明性に優れているため、フィルム、シートやボトルなどの容器等の材料として好適であり、従来からこれらの原料に使用されているポリオレフィン類やポリスチレン系、アクリル系、芳香族ポリエステルに代わる素材として期待され、使用量も着実に増えている。
【0006】
さらにまた、ポリ乳酸を用いたフィルムは、他のプラスチックフィルムに比べて透湿性が高いという特徴を備えており、この点を活かした用途へも利用されている。
例えば果物や野菜類の包装では、プラスチック包装材の内側に水滴がつくと、そこから被包装体である果物や野菜が傷みだすなどの問題が生じるため、透湿性の高いものが好まれる。特に、柑橘類、葉物類、きのこ類の包装には透湿性の高いものの方が有益であるため、このような用途には、透湿性の高いポリ乳酸系フィルムが特に適している。
また、透湿性が高いという特徴を活かして、例えば特許文献1に開示されているように、電子部品の保護材、特に偏光シート、位相差シート、反射防止シートやその他の液晶部材の保護膜等にも利用されており、例えば特許文献2には、ポリ乳酸を用いてなる光学フィルム用表面保護フィルムが開示されている。この種の光学用シートは、積層され固定枠で固定した液晶モジュールとして使用されるのが一般的であり、液晶モジュールは製造された後、次工程で製品の筐体内に組み込まれ、製品となるが、流通過程でゴミやほこりの付着を防止するため透明プラスチック保護フィルムが貼られる。次工程では、フィルムは一旦はがされるのであるが、保護フィルムの透湿性が低いと、剥がす前ではこの液晶モジュールの表示部に取り込まれる湿気は低く、剥がされた後では湿気を多分に吸収するので、表示部の色目が変化することがある。特に保護フィルムに貼りムラがあると、気泡やしわが入った状態で貼り付けられると、吸湿に程度の違いが生じ、液晶モジュールの色目は変化し、色ムラが生じる。本来、使用時には保護膜は剥がして使用するので、保護膜の有無にかかわらず色目が変化しないことが求められ、具体的には透湿性が高いことが好まれる。
【0007】
このようにポリ乳酸は、他のプラスチックに比べて優れた性質を有しているが、同時に次のような解決すべき課題も抱えており、そのための解決手段が提案されている。
【0008】
例えばポリ乳酸からなる無延伸フィルムは、特許文献3に記されているように熱成形性に優れているが、その成形倍率等を調節しないと、実用性の点で難が生じることがあるため、特許文献4のように他の脂肪族ポリエステルを混合することで、耐衝撃性を改良することが提案されている。
【0009】
また、ポリ乳酸の無延伸フィルムは、伸びが数%しかなく、脆いという課題を抱えているため、ある種の用途、例えば包装用、印刷・記録用としては、そのままでは実用性は必ずしも高くない。そこで、該フィルムを一軸延伸若しくは二軸延伸することにより、フィルムを配向させて伸びを増大させ、さらに熱処理することで熱収縮性を抑制した実用性の高いフィルムを得ることが行われている(特許文献5や特許文献6など参照)。
しかし、このようなポリ乳酸系延伸フィルムは、延伸によって結晶化されるために接着性や印刷性が低下するという新たな課題が生じることになる。つまり、結晶化したポリ乳酸の表面のぬれ指数は一般的に低く、360μN/cm以下程度なので接着性、インキの密着性が不充分となるのである。
そこで、一般的にはコロナ処理やプラズマ処理のようにフィルム表面を酸化処理してぬれ性を向上させることが行われる訳であるが、フィルム表面をコロナ処理、プラズマ処理等の物理的或いは化学的処理するためには、処理装置を設置する必要があり、現状設備に組み込むスペースを要するため、場合によっては製造ラインの構成そのものを改造する必要が生じ、多額の費用が掛かることになる。他のぬれ性向上の手段として、製膜後に再度巻き出して処理する方法もあるが、この方法にしても設備の設置コストが掛かる上、作業が2度手間となってしまう。そして何より、これらで処理した場合のフィルムのぬれ性は経時的に低下するようになり、処理後の初期の段階では良好なぬれ指数を示していたものが、数ヶ月後には数十μN/cm程度にまで低下ことにもなる。
以上の点より、ポリ乳酸系延伸フィルムに関し、ぬれ性を向上させる新たな方法が望まれていた。
【0010】
また、ポリ乳酸系フィルムは、一般的に帯電防止性に劣るため、フィルムを外部にさらしておくとフィルム表面に埃が付着して見栄えが低下したり、例えば印刷中に静電気によってインキがはじかれ、いわゆる「印刷ぬけ」が生じたりすることがあった。
かかる問題の解決手段としては、例えば特許文献7に開示されているように、帯電防止剤を塗布して帯電防止性を付与する手段や、特許文献8や特許文献9などのように帯電防止性能をもつ添加剤を配合する手段などが挙げられるが、前者は、経時的に性能が低下しやすく、またこの塗布面に印刷インキが密着せず脱落する問題がある上、ヒートシールや溶断シールによって袋状にするときに著しくシール強度が低下する要因にもなる。他方、後者については、帯電防止性能を得難いがために低分子量添加剤を多量に配合せねばならず、フィルムの透明性を著しく損うことになるばかりか、経時的にこの添加物が吹き出してフィルムの外観を悪化させる問題を抱えていた。
よって、ポリ乳酸系フィルムに関して帯電防止性を有効に高めるための新たな手段が求められていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2001−209039号
【特許文献2】特開2004−34631号
【特許文献3】特開平7−308961号
【特許文献4】特開平9−111107号
【特許文献5】特開平6−256480号
【特許文献6】特開平7−207041号
【特許文献7】特開2002−12687号
【特許文献8】特開平9−221587号
【特許文献9】特開平10−36650号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明の目的は、上記の課題に鑑み、新たなポリ乳酸系組成物及び新たなポリ乳酸系フィルムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は、ポリ乳酸系重合体(A)と、ポリエーテルエステルアミド重合体(B)と、を含有してなり、前記成分(A)と前記成分(B)との割合が質量比で95:5〜65:35であることを特徴とするポリ乳酸系組成物を提案する。
【0014】
本発明のポリ乳酸系組成物においては、ポリエーテルエステルアミドが帯電防止性能を発揮するばかりか、これらをポリ乳酸系組成物に混合すると、驚いたことに、フィルム成形した時のぬれ性が改良され、しかも、延伸フィルムとしてもぬれ性が高まり、さらには、フィルムの接着性及び印刷適性も改良されることが判明した。
【0015】
よって、本発明のポリ乳酸系組成物は、フィルム、シート、カード、容器、その他の成形体の原材料として好適に用いることができ、中でも、フィルムの原材料として特に好適に用いることができる。
本発明のポリ乳酸系組成物を用いてフィルムを製造する場合、上記ポリ乳酸系組成物を含有した樹脂層からなる単層構成のポリ乳酸系フィルムとすることも、又、少なくとも二層以上の積層構成からなり、片側または両側の最外層が上記ポリ乳酸系組成物を含有した樹脂層からなるポリ乳酸系フィルムとすることもできる。
そして、上記いずれかの構成を備えたポリ乳酸系フィルムにおいても、ぬれ性、接着性及び印刷適性に優れたフィルムとすることができる。具体的には、ぬれ指数が400〜540μN/cmであるポリ乳酸系フィルムとすることもできるし、又、表面抵抗R(Ω)の対数LogRが13以下のポリ乳酸系フィルムとすることもできる。
【0016】
また、本発明のポリ乳酸系組成物を用いて、少なくとも三層以上の積層構成からなり、中間層のうち少なくとも一層が、上記ポリ乳酸系組成物を含有した樹脂層であるポリ乳酸系フィルムとすることもできる。
【0017】
本発明のポリ乳酸系組成物を用いてフィルムを製造する場合、上記いずれの構成においても、無延伸フィルムとすることも、延伸フィルムとすることもできる。
上記いずれの構成からなるポリ乳酸系フィルムにおいても、透湿度に優れたフィルムとすることができ、具体的には透湿度220〜900g/m2・dayのポリ乳酸系フィルムとすることができる。
【0018】
また、本発明のポリ乳酸系組成物を用いて製造されるフィルムは耐衝撃性に優れ、中でも無延伸フィルムは特に耐衝撃性に優れたものとなる。具体的にはダート型衝撃試験の測定値(ハイドロショット値)が200〜500N・mmを示すポリ乳酸系無延伸フィルムとすることができる。
【0019】
本発明における数値範囲の上限値及び下限値は、本発明が特定する数値範囲から僅かに外れる場合であっても、当該数値範囲内と同様の作用効果を備えている限り本発明の範囲に含まる意を包含するものである。
また、本明細書において「主成分」と記載した場合には、特に記載しない限り、当該主成分の機能を妨げない範囲で他の成分を含有することを許容する意を包含するものである。特に当該主成分の含有割合を特定するものではないが、一般的には、その成分が組成物中で50質量%以上、特に70質量%以上を占める成分である。
【発明の効果】
【0020】
本発明のポリ乳酸系組成物から形成される成形体(特にフィルム)は、帯電防止性のほか、ぬれ性に優れている。無延伸フィルムは勿論であるが、延伸フィルムであっても表面処理することなくぬれ性に優れており、優れた接着性及び印刷適性(特にインキ密着性)を得ることができる。しかも、本発明のポリ乳酸系組成物は、組成物内にポリエーテルエステルアミド重合体(B)を含有するものであるから、表面処理によって帯電防止性やぬれ性を高めた場合に比べ、これらの効果の経時的安定性に優れている。よって、例えば表示や販促効果を狙って、フィルム表面に様々な方法で印刷を施してなるフィルム製品、具体的には飲料、食品、薬品、電化品、雑貨等の包装材、またカード等の被記録材、広告用やディスプレー等に使用されるプラスチックフィルムとして好適に用いることができる。
【0021】
また、本発明のポリ乳酸系組成物及びこれを用いたポリ乳酸系フィルムは、高い透湿性を備えているため、果物や野菜類の包装用フィルム、電子部品の保護材、特に偏光シート、位相差シート、反射防止シートやその他の液晶部材の保護フィルムとして好適に用いることができる。電子部品の保護材や液晶部材の保護フィルムでは、静電気による破壊や傷つきを抑えるために帯電防止性が必要とされるため、帯電防止性を備えかつ透明性にも優れているという意味において、本発明のポリ乳酸系組成物及びこれを用いたポリ乳酸系フィルムはこの用途に用いるのに特に優れている。
【0022】
また、本発明のポリ乳酸系組成物を用いて製造される無延伸フィルムは耐衝撃性に特に優れているため、耐衝撃性が要求される用途、例えば飲料、食品、薬品、電化品、雑貨等の包装用若しくは、保護用の用途に用いるのに特に優れている。
さらに、ポリエーテルエステルアミドは、特表2003―510433や特許第3452582号に記載されているように生分解性を備えていることが示唆されており、本発明のポリ乳酸系組成物及びこれを用いたポリ乳酸系フィルムも生分解性を示すことを期待することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】サンプル24、25及び26の成形に用いた金型の断面図(A)と底面図(B)である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
先ず、本発明の一実施形態としてのポリ乳酸系組成物について説明するが、本発明のポリ乳酸系組成物が下記の実施形態に限定されるものではない。
【0025】
(ポリ乳酸系組成物)
本実施形態にかかるポリ乳酸系組成物は、ポリ乳酸系重合体(A)と、ポリエーテルエステルアミド重合体(B)、及び/又は、所定のブロックポリマー(C)と、を主成分としてなるポリ乳酸系組成物である。すなわち、前記成分(A)及び(B)を主成分としてなるポリ乳酸系組成物であるか、前記成分(A)及び(C)を主成分としてなるポリ乳酸系組成物であるか、或いは前記成分(A)(B)及び(C)を主成分としてなるポリ乳酸系組成物である。
この際の「主成分」とは、成分(A)(B)(C)以外の成分を含有することを許容する意を包含するものである。成分(A)(B)(C)の合計含有量は、これらの成分の機能が妨げられない範囲であれば特に限定するものではないが、本ポリ乳酸系組成物において50質量%以上、特に70質量%以上、中でも特に90質量%以上を占めるのが好ましい。
【0026】
(ポリ乳酸系重合体(A))
本実施形態に用いるポリ乳酸系重合体(A)は、乳酸を主成分とするモノマーが縮重合してなる重合体である。
【0027】
本実施形態に用いるポリ乳酸系重合体(A)には、構造単位がL−乳酸であるポリ(L−乳酸)、構造単位がD−乳酸であるポリ(D−乳酸)、構造単位がL−乳酸及びD−乳酸の両方からなるポリ(DL−乳酸)、或いはこれら二種類以上の組合せからなる混合物を用いることができる。
乳酸には、2種類の光学異性体すなわちL−乳酸及びD−乳酸があり、これら2種の構造単位の割合で結晶性が異なる。例えば、L−乳酸とD−乳酸の割合が約80:20〜20:80のランダム共重合体では結晶性が低く、ガラス転移点60℃付近で軟化する透明完非結晶性ポリマーとなる。その一方、L−乳酸とD−乳酸の割合が約100:0〜80:20、又は約20:80〜0:100のランダム共重合体は、ガラス転移点は前記の共重合体同様に60℃程度であるが結晶性が高い。その結晶化度は、上記のL−乳酸とD−乳酸の割合によって定まり、溶融押出した後、ただちに急冷すれば透明性の優れた非晶性の材料になり、ゆっくり冷却すれば結晶性の材料となる。例えば、L−乳酸のみからなる単独重合体やD−乳酸のみからなる単独重合体は、180℃以上の融点を有する半結晶性ポリマー(:処理によって室温において結晶性にも非結晶性にもなるポリマー。)である。
【0028】
中でも、フィルム原料としてのポリ乳酸系重合体(A)としては、フィルム製造中或いは製造後に熱処理して結晶化度を向上させることが好ましいため、より結晶化し易いポリ乳酸を選択するのが好ましい。この観点からは、L−乳酸とD−乳酸の割合が100:0〜94:6若しくは6:94〜0:100のランダム共重合体からなるポリ乳酸系重合体が好ましく、特に99.5:0.5〜97:3若しくは3:97〜0.5:99.5であるポリ乳酸系重合体を用いるのがより好ましい。
【0029】
また、ポリ乳酸系重合体(A)には、乳酸と他のヒドロキシカルボン酸との共重合体を用いることもできる。
この際、共重合される「他のヒドロキシカルボン酸単位」としては、グリコール酸、3−ヒドロキシ酪酸、4−ヒドロキシ酪酸、2−ヒドロキシ−n−酪酸、2−ヒドロキシ−3,3−ジメチル酪酸、2−ヒドロキシ−3−メチル酪酸、2−メチル乳酸、2−ヒドロキシカプロン酸等の2官能脂肪族ヒドロキシカルボン酸やカプロラクトン、ブチロラクトン、バレロラクトン等のラクトン類が挙げられる。
【0030】
本実施形態に用いるポリ乳酸系重合体(A)は、必要に応じ、少量共重合成分として、テレフタル酸のような非脂肪族カルボン酸及び/又はビスフェノールAのエチレンオキサイド付加物のような非脂肪族ジオールや、乳酸及び/又は乳酸以外のヒドロキシカルボン酸を含んでいてもよい。
【0031】
ポリ乳酸系重合体(A)を製造するための重合法としては、縮重合法、開環重合法、その他の公知の重合法を採用することができる。例えば、縮重合法では、L−乳酸又はD−乳酸或いはこれらの混合物を直接脱水縮重合して所望組成のポリ乳酸を得ることができる。
また、開環重合法(ラクチド法)では、乳酸の環状2量体であるラクチドを、必用に応じて重合調節剤等を用いながら、選ばれた触媒を使用してポリ乳酸を得ることができる。
【0032】
ポリ乳酸系重合体(A)の重量平均分子量の好ましい範囲としては、6万〜70万であり、より好ましくは8万〜40万、中でも好ましくは10万〜30万である。重量平均分子量6万〜70万であれば、分子量が小さ過ぎることがなく機械物性や耐熱性等の点で実用物性を損なうことがない。また、分子量が大き過ぎることもないから溶融粘度が高過ぎて成形加工性に劣るということもない。
【0033】
(ポリエーテルエステルアミド重合体(B))
次に、ポリエーテルエステルアミド重合体(B)について説明する。
【0034】
本実施形態で使用するポリエーテルエステルアミド重合体(B)は、ポリアミドのブロックとポリエーテルのブロックとがアミド結合及びエステル結合で連なった、下記に示す一般化学式(1)で表されるブロックコポリマーである。ちなみに、このポリエーテルエステルアミド重合体(B)単独でもフィルムを製造することは可能である。
【0035】
【化1】

【0036】
上記一般化学式(1)中のR1及びR2は、それぞれC2〜C12の飽和脂肪族炭化水素であり、R1=R2である場合も含んでいる。式中nの繰り返し単位で表される「ポリアミド構造(:ポリアミドのブロック)」は、ラクタムの開環重合或いはその誘導体の縮重合から得ることができ、またジアミンとジカルボン酸或いはこれらの誘導体の縮重合からも得ることが出来るポリアミドオリゴマー(p)であり、このポリアミドオリゴマー(p)の数平均分子量は400〜10000である。
なお、式中でR1及びR2は、単一ジアミンと単一ジカルボン酸とであるが如く示されているが、それぞれ2種以上が混合してなる共縮重合でかまわない。
【0037】
上記一般化学式(1)中のR4は、C2〜C12(C:炭素数)の脂肪族若しくは芳香族炭化水素であり、式中mの繰り返し単位で表される「ポリエーテル構造(:ポリエーテルのブロック)」は、ぬれ性向上の点、導電性の点からC2のポリエチレングリコール若しくはC3のポリプロピレングリコールの数平均分子量400〜10000のポリエーテルオリゴマー(q)である。
なお、式中では単一ポリエーテルであるが如く示されているが、2種以上の成分からなる重合体であってもかまわない。
【0038】
上記一般化学式(1)中のR3は、C2〜C12の脂肪族若しくは芳香族炭化水素であり、両末端がカルボン酸若しくはその誘導体である構造をもつ。具体的には、R3がC2であるコハク酸或いはその誘導体、C4であるアジピン酸或いはその誘導体があり、又、芳香族ではテレフタル酸或いはその誘導体、ナフタル酸或いはその誘導体、さらにビスフェノール或いはその誘導体がある。この成分は、ポリアミドオリゴマー(p)とポリエーテルオリゴマー(q)とがそれぞれアミド結合とエステル結合になるように縮合して高分子量化してなるものである。
【0039】
ポリエーテルエステルアミド重合体(B)は、ポリ乳酸系組成物中に熱可塑性エラストマーとして混合させることで耐衝撃性改良剤としての機能を発揮する。ポリエーテルエステルアミド重合体(B)は、水素結合性が高く、分子内及び分子間で強固な結合を持つ「ハードセグメント」と称されるポリアミド成分と、分子内及び分子間での結合力が低く、エーテル結合の可逃性の高さから「ソフトセグメント」と称されるポリエーテル成分とを備えており、このようなハードセグメント・ソフトセグメント構造を備えたポリエーテルエステルアミド重合体(B)は、熱可塑性エラストマーとして他のポリマー中に混合することで耐衝撃性改良剤として機能する。
加えて、ポリエーテルエステルアミド重合体(B)は導電性にも優れ、ポリ乳酸系組成物に混合することにより帯電防止剤としても機能する。なお、ポリエーテルエステルアミド重合体中にイオン性物質を導入して、さらに導電性能を高めることもできる。
また、ポリエーテルエステルアミド重合体(B)はポリ乳酸系重合体(A)に混合することで、フィルム成形時のぬれ性を改善する効果も発揮し、表面処理することなくフィルムの接着性及びインキ密着性を高めることができる。
【0040】
上記ポリエーテルエステルアミド重合体(B)の中でも、その屈折率が1.40〜1.50、より好ましくは1.41〜1.49の範囲のポリエーテルエステルアミド重合体を選択して用いることにより顕著に優れた透明性を得ることができる。
ポリ乳酸系重合体(A)に混合するポリエーテルエステルアミドの屈折率が1.40〜1.50の範囲内であれば、少なくとも通常の10〜100μm厚のフィルムであれば、フィルムのヘーズは10%未満となり、見た目の不透明感が残ることがない。さらに、屈折率1.41〜1.49のポリエーテルエステルアミド重合体を用いればフィルムのヘーズを6%以下にすることができる。
【0041】
ポリエーテルエステルアミド重合体(B)の分子量は、質量平均で1万〜30万、特に2万〜20万であるものが好ましい。
【0042】
(ブロックポリマー(C))
次に、ブロックポリマー(C)について説明する。
【0043】
本実施形態で使用するブロックポリマー(C)は、ポリオレフィンのブロックとポリオキシエチレン鎖を有するポリマーのブロックとが交互に繰り返し結合してなる構造を有するブロックポリマーである。
該ポリオレフィンのブロックと該ポリオキシエチレン鎖を有するポリマーのブロックとの結合は、エステル結合、アミド結合、エーテル結合及びイミド結合からなる郡から選ばれる少なくとも一種の結合であればよい。
【0044】
ブロックポリマー(C)の具体例としては、特開2004−217929の段落[0007]及び[0021]〜[0064]に開示されているブロックポリマー、すなわちポリオレフィン(a)のブロックと、体積固有抵抗値が1×105〜1×1011Ω・cmのポリオキシエチレン鎖を有するポリマー(b)のブロックとが、繰り返し交互に結合した構造を有するブロックポリマー(A2)を好ましく用いることができ、中でも、ポリオレフィン(a)のブロックと、ポリオキシエチレン鎖を有するポリマー(b)のブロックとが、エステル結合、アミド結合、エーテル結合及びイミド結合からなる群から選ばれる少なくとも1種の結合を介して繰り返し交互に結合した構造を有するものであり、下記一般式(2)で示される繰り返し単位を有するポリマーを好ましく用いることができる。例えば商品名:ペレスタット300、ペレスタット303(いずれも三洋化成株式会社製)などは好適な例である。
【0045】
【化2】

【0046】
式(2)において、nは2〜50(好ましくは3〜40、より好ましくは4〜30、特に好ましくは5〜25)の整数;R1及びR2の一方はHで他方はH又はメチル基;yは15〜800(好ましくは20〜500、より好ましくは30〜400)の整数;E1は、ジオール(b01)又は2価フェノール(b02)から水酸基を除いた残基;A1はエチレン基、又はエチレン基を必須として含む炭素数2〜4のアルキレン基;m及びm'は1〜300(好ましくは5〜200、より好ましくは8〜150)の整数;X及びX'は、下記一般式(3)、(4)及び対応する(3’)、(4’)から選ばれる基、すなわち、Xが一般式(3)で示される基のとき、X’は一般式(3’)で示される基であり、一般式(4)と(4’)についても同様の関係である。
【0047】
【化3】

【0048】
【化4】

【0049】
【化5】

【0050】
【化6】

【0051】
;一般式(3)、(4)及び対応する(3’)、(4’)式において、RはH又は炭素数1〜4(好ましくは1又は2)のアルキル基、R3は炭素数1〜11(好ましくは2〜11、より好ましくは5〜11)の2価の炭化水素基、R4はH又は炭素数1〜10(好ましくは1〜8、より好ましくは1〜6)のアルキル基;rは1〜20(好ましくは1〜15、より好ましくは1〜10)の整数であり、uは0又は1;Q、Q'、T及びT'は次式で示される基。
【0052】
【化7】

【0053】
【化8】

【0054】
【化9】

【0055】
【化10】

【0056】
;上記の一般式(5)、(6)及び対応する(5’)、(6’)式中、R5はH又は炭素数1〜10(好ましくは1〜8、より好ましくは1〜6)のアルキル基、R6はH又はメチル基、tはR6がメチル基のとき1、Hのとき0である。
【0057】
一般式(2)で示される繰り返し単位中の{ }内のポリエーテルセグメント{(OA1)mO−E1−O(A1O)m'}は、ポリエーテルジオール(b1)又はポリエーテルジアミン(b2)に由来する構造であり、式中のE1、A1、mおよびm'は前記と同様である。
【0058】
一般式(2)において、Xが一般式(3)で示される基、及びX’が一般式(3’)で示される基であるブロックポリマーには、次に説明するポリオレフィン(a211)及び/又はポリオレフィン(a212)とポリエーテルジオール(b1)とを重合反応させることにより得られる(A21)と、ポリオレフィン(a211)及び/又はポリオレフィン(a212)とポリエーテルジアミン(b2)とを重合反応させることにより得られる(A22)とが含まれる。
【0059】
ポリオレフィン(a211)は、両末端が変性可能なポリオレフィンを好ましくは主成分(含量50重量%以上、より好ましくは75重量%以上、特に好ましくは80〜100重量%)とするポリオレフィン(a20)の両末端をα、β−不飽和カルボン酸(無水物)(α,β−不飽和カルボン酸、その炭素数1〜4のアルキルエステル又はその無水物を意味する。以下、同様。)で変性した構造を有するポリオレフィンである。
ポリオレフィン(a212)は、上記ポリオレフィン(a211)をラクタム又はアミノカルボン酸で二次変性した構造を有するポリオレフィンである。
【0060】
また、上記(A21)には、ポリオレフィン(a211)とポリエーテルジオール(b1)とを組み合わせた(A211)、ポリオレフィン(a212)とポリエーテルジオール(b1)とを組み合わせた(A212)、及び(A211)と(A212)の混合物が含まれる。また、同様に(A22)にはポリオレフィン(a211)とポリエーテルジアミン(b2)とを組み合わせた(A221)、ポリオレフィン(a212)とポリエーテルジアミン(b2)とを組み合わせた(A222)、及び(A221)と(A222)の混合物が含まれる。
【0061】
一般式(2)において、Xが一般式(4)で示される基、及びX’が一般式(4’)で示される基であるブロックポリマーには、次に説明するポリオレフィン(a213)(r=1の場合)及び/又はポリオレフィン(a214)(r≧2の場合)とポリエーテルジオール(b1)とを重合反応させることにより得られる(A23)と、ポリオレフィン(a213)及び/又はポリオレフィン(a214)とポリエーテルジアミン(b2)とを重合反応させることにより得られる(A24)とが含まれる。
【0062】
ポリオレフィン(a213)は、両末端が変性可能なポリオレフィンを好ましくは主成分(含量50重量%以上、より好ましくは75重量%以上、特に好ましくは80〜100重量%)とするポリオレフィン(a20)を酸化又はヒドロホルミル化変性した構造を有するポリオレフィンである。
ポリオレフィン(a214)は、上記ポリオレフィン(a213)をラクタム又はアミノカルボン酸で二次変性した構造を有するポリオレフィンである。
【0063】
また、上記(A23)には、ポリオレフィン(a213)とポリエーテルジオール(b1)とを組み合わせた(A231)、ポリオレフィン(a214)とポリエーテルジオール(b1)とを組み合わせた(A232)、及び(A231)と(A232)の混合物が含まれる。また、同様に(A24)には、ポリオレフィン(a213)とポリエーテルジアミン(b2)とを組み合わせた(A241)、ポリオレフィン(a214)とポリエーテルジアミン(b2)とを組み合わせた(A242)、及び(A241)と(A242)の混合物が含まれる。
【0064】
ブロックポリマー(A2)を構成するポリオキシエチレン鎖を有するポリマー(b)の量は、帯電防止性の観点から好ましくは、ポリオレフィン(a)のブロックと、ポリオキシエチレン鎖を有するポリマー(b)のブロックとの合計重量に基づいて20〜90重量%、より好ましくは25〜80重量%、特に好ましくは30〜70重量%である。
【0065】
ブロックポリマー(A2)のMnは、帯電防止性の観点から好ましくは、2,000〜60,000、より好ましくは5,000〜40,000、特に好ましくは8,000〜30,000である。
【0066】
(A2)の構造において、ポリオレフィン(a)のブロックと、ポリオキシエチレン鎖を有するポリマー(b)のブロックとの繰り返し単位の平均繰り返し数(Nn)は、帯電防止性の観点から、好ましくは2〜50、より好ましくは2.3〜30、特に好ましくは2.7〜20、最も好ましくは3〜10である。
【0067】
(A2)の末端は、ポリオレフィン(a)由来のカルボニル基、アミノ基及び/又は無変性ポリオレフィン末端(何ら変性がなされていないポリオレフィン末端、すなわち、アルキル基またはアルケニル基)、あるいはポリオキシエチレン鎖を有するポリマー(b)由来の水酸基及び/又はアミノ基のいずれかである。これらのうち反応性の観点から末端として好ましいのはカルボニル基、アミノ基、水酸基、より好ましいのはカルボニル基、水酸基である。
【0068】
上記のブロックポリマー(C)の中でも、その屈折率が、ポリ乳酸の屈折率1.45との差が0.05以下、より好ましくは0.04以下のもの、言い換えれば屈折率が1.40〜1.50、より好ましくは1.41〜1.49の範囲のブロックポリマーを選択して用いることにより顕著に優れた透明性を得ることができる。
ポリ乳酸系重合体(A)に混合するブロックポリマーの屈折率が1.40〜1.50の範囲内であれば、少なくとも通常の10〜100μm厚のフィルムの場合、フィルムのヘーズは10%未満となり見た目の不透明感が残ることがない。さらに、屈折率1.41〜1.49のブロックポリマーを用いればフィルムのヘーズを6%以下にすることができる。
【0069】
(各成分の配合割合)
本実施形態のポリ乳酸系組成物における各成分の配合割合は、ポリ乳酸系重合体(A)と、ポリエーテルエステルアミド重合体(B)及び/又は所定のブロックポリマー(C)(成分(B)及び成分(C)を配合する場合には両者の合計量、以下同様。)とを、質量比で95:5〜65:35とすることが重要であり、好ましい範囲としては、質量比で90:10〜70:30である。
ポリエーテルエステルアミド重合体(B)及び/又はブロックポリマー(C)の配合割合が5%以上であれば、ぬれ指数は400μN/cm以上となり、接着性、インキ密着性に優れたフィルム等を製造することができる。その一方、35%以下であれば、その結晶性のために延伸が出来なくなることはない。また、本実施形態のポリ乳酸系組成物を用いて積層フィルムを構成する場合、例えば、表層、裏層或いは表裏層を、ポリエーテルエステルアミド重合体(B)及び/又はブロックポリマー(C)が35%を著しく超えて配合されてなるポリ乳酸系組成物を用いて形成する場合、各層を薄く形成すれば延伸可能となるが、それでも押出し引取時に流れムラが発生し、外観の劣悪なフィルムが得られる可能性がある。また、フィルム表面の極性が高まるとフィルム同士のブロッキングが生じ易くなるため、この意味でもポリエーテルエステルアミド(B)及び/又はブロックポリマー(C)の混合割合は35%以下であることが重要である。
【0070】
さらに帯電防止性の点を加味すると、ポリ乳酸系重合体(A)とポリエーテルエステルアミド重合体(B)及び/又はブロックポリマー(C)との混合割合は、質量比で90:10〜65:35であるのが好ましく、より好ましい範囲としては、質量比で85:15〜70:30である。ポリエーテルエステルアミド重合体(B)及び/又はブロックポリマー(C)が10%以上であれば、表面抵抗R(Ω)の対数LogRは13以下となり、加工中の静電気の発生を効果的に抑制することができる。一方、35%を上回るとフィルム同士のブロッキング等が生じるため、35%以下であることが好ましい。
なお、この場合、帯電防止性の観点においてであるから、積層フィルムを形成する場合には少なくとも片側の最外層におけるポリ乳酸系組成物の混合割合が質量比で90:10〜65:35であることが重要である。
【0071】
また、無延伸フィルムを形成する場合には、耐衝撃性を改善する観点から、ポリ乳酸系重合体(A)とポリエーテルエステルアミド重合体(B)及び/又はブロックポリマー(C)との混合割合を、質量比で90:10〜65:35とするのが好ましい。
ポリ乳酸系重合体は一般的に耐衝撃性に劣り、2軸延伸して配向する場合には耐衝撃性が向上するが、延伸しない場合には何らかの方法で耐衝撃性を向上させる必要がある。そこで、ポリエーテルエステルアミド重合体(B)及び/又はブロックポリマー(C)を耐衝撃性改良剤として機能させるためには、成分(B)及び/又は成分(C)の混合割合を質量比で10%以上とするのが好ましい。成分(B)及び/又は成分(C)が10%を下回ると、ダート型衝撃試験機であるハイドロショット高速衝撃試験機HTM−1型((株)島津製作所製)を用いた耐衝撃性を評価したときに、破壊エネルギーが200N・mを下回るようになり実用性に乏しいものとなってしまう。より好ましい実用性を供するためには、300N・m以上の耐衝撃性を必要とするため、成分(B)及び/又は成分(C)の配合割合を15%以上とするのが好ましい。他方、35%を超えると、上述のとおりフィルム同士のブロッキング等が生じるため好ましくない。
積層フィルムとする場合には、全層を通して平均した割合が上記を範囲であることが好ましく、全層を通して上記範囲にあるならば、積層構成のどの層にのみ配合してもかまわず、例えば中間層にのみ混合してもかまわない。
【0072】
なお、ポリ乳酸系重合体(A)のみからなるシートを2軸延伸及び熱処理し、コロナ処理したフィルムは、無延伸で非晶性のフィルムに同密度のコロナ処理をしたものに比べて、ぬれ指数は下回ることになる。これは、前者の方が結晶化度が高いことによる。しかしながら、ポリ乳酸系重合体(A)に、ポリエーテルエステルアミド重合体(B)及び/又はブロックポリマー(C)を配合した場合、2軸延伸したフィルムの方がぬれ指数が高まるという特異的な特徴が現れる。その理由は、明確ではないが、おそらく延伸中でのポリ乳酸の延伸挙動と成分(B)(C)との延伸挙動が異なるため、成分(B)(C)がフィルム表面に突出し、成分(B)(C)の表層に占める面積が無延伸フィルムに比べて増加するためであると考えられる。
【0073】
(他の成分)
本実施形態のポリ乳酸系組成物には、成分(A)(B)(C)以外に、諸物性を調整する目的で、熱安定剤、光安定剤、光吸収剤、滑剤、可塑剤、無機充填材、着色剤、顔料等を添加することができる。
また、フィルムの滑り性の向上や柔軟性を付与する目的で、先に記述したポリ乳酸との共重合成分として上げた脂肪族ポリエステル若しくは脂肪族・芳香族ポリエステルの単独重合体を混合してもかまわない。これらの重合体の重量平均分子量はおおよそ2万〜30万程度である。
【0074】
(成形例)
次に、本実施形態のポリ乳酸系組成物を用いた成形品の例として、上記実施形態のポリ乳酸系組成物を用いたポリ乳酸系フィルムについて説明する。但し、本発明のポリ乳酸系組成物を用いた成形品が次に説明するフィルムに限定されるものではない。
【0075】
(単層フィルム)
本実施形態のポリ乳酸系組成物を用いて、ポリ乳酸系組成物を主成分として含有する樹脂層のみからなる単層構成のポリ乳酸系フィルムを製造することができる。この際、単層構成のポリ乳酸系フィルムの厚みは5μm〜1mm、特に10μm〜800μm、中でも特に15μm〜500μmとするのが好ましい。
【0076】
(積層フィルム)
また、上記実施形態のポリ乳酸系組成物を用いて積層構成のポリ乳酸系フィルムを製造することもできる。例えば、少なくとも二層以上からなる積層構成とし、片側または両側の最外層を上記実施形態のポリ乳酸系組成物を主成分して含有する樹脂層から形成することができる。
ここで、ポリ乳酸系重合体(A)を主成分として含有する樹脂層をX層と表現し、上記実施形態のポリ乳酸系組成物(:成分(A)と成分(B)及び/又は成分(C)とを所定割合で混合)を主成分とする樹脂層をY層と表現すると、ぬれ指数向上或いは/並びに帯電防止性能の向上の観点からは、Y層を最外層にもつ積層構造が好ましい。例えばY/X/Yの3層構成のものや、Y/X/Y/X/Yなどの5層構成のもの、Y/X/Y/X/・・・/Yなどのその他の多層構成のものを挙げることができる。
また、フィルムがカールしないように各層の厚さ等を調整して製造する場合には、片側のみをY層(機能層)とする積層構造が好ましい。例えばY/Xからなる2層構成のもの、Y/X/Y/Xなどの4層構成のもの、さらにはY/X/・・・/Xなどのそのほかの多層構成のものを採用することもできる。
なお、上記積層構造においてXとYの積層順序を上記の逆にしても構わない。
また、最外層を構成するY層の厚みは1μm以上、好ましくは3μm以上、より好ましくは4μm以上、特に好ましくは4μm〜50μmである。
【0077】
また、少なくとも三層以上からなる積層構成とし、中間層のうち少なくとも一層を、上記実施形態のポリ乳酸系組成物を主成分とする樹脂層から形成してなるポリ乳酸系フィルムとすることもできる。
ここで、ポリ乳酸系重合体(A)を主成分とする樹脂層をX層と表現し、上記実施形態のポリ乳酸系組成物(成分(A)と成分(B)及び/又は成分(C)とを所定割合で混合)を主成分とする樹脂層をY層と表現すると、例えばX/Y/Xなどの3層構成のものとすることも、X/Y/Y/X、X/Y/X/Yなどの4層構成のものとすることも、X/Y/X/Y/・・・/Xなどのそのほかの多層構成とすることもできる。
但し、上記積層構造においてXとYの積層順序は上記の逆でも構わない。
中間層のうちの少なくとも一層を構成するY層の厚みは5μm以上、好ましくは10μm以上、より好ましくは15μm以上、、特に好ましくは20〜800μmである。
【0078】
上記構成のポリ乳酸系フィルムにおいて「主成分」とは、各樹脂層の構成成分として、ポリ乳酸系組成物以外の成分を含有することを許容する意を包含するものである。ポリ乳酸系組成物の含有量は、ポリ乳酸系組成物の機能を妨げない限り特に限定するものではないが、上記各樹脂層において50質量%以上、特に70質量%以上、中でも特に90質量%以上を占めるのが好ましい。
【0079】
上記構成のポリ乳酸系フィルムにおいて、積層フィルムの厚みは、全体で10〜800μm、好ましくは15〜500μm、より好ましくは20〜400μmである。
なお、フィルムとは通常、狭義では100μm未満を称すことがあり、100μm以上ではシートと称すことがある。しかしながら、実際のところ明確に定義されているものではなく、本紙では100μm以上のシートもすべてフィルムとする。
また、本発明の効果を阻害しない範囲で、X/Y間の各層の間に厚みが10μm以下、好ましくは5μm以下の接着剤層、接着用樹脂層、リサイクル樹脂層或いはX層とY層の中間的な層を積層してあってもよい。
【0080】
(改質剤)
上記構成のポリ乳酸系フィルムにおいて各層には、諸物性を調整する目的で、熱安定剤、光安定剤、光吸収剤、滑剤、可塑剤、無機充填材、着色剤、顔料等の各種改質剤を添加するようにしてもよい。
上記の無機充填材としては、シリカ、タルク、炭酸カルシウム、硫酸バリウム、マイカ、カオリン、クレー等が挙げられる。また、顔料としては酸化チタンが挙げられる。酸化チタンは、白色用であり更に隠蔽性を得るために配合することが多い。使用する酸化チタンの種類としてはアナターゼ型、ルチル型があり、どちらも使用することが可能であるが酸化チタン表面は光化学的に活性の高い物質であり、耐光性を考慮するなら後者若しくは表面処理行った失活したものを使用することが好ましい。なお、酸化チタンを配合した白色のシートは合成紙、カード、記録材として有用である。
この無機充填材は、ポリ乳酸系重合体(A)100質量部に対し、1〜35質量部含有するように配合するのが好ましく、より好ましくは5〜20質量部配合する。
【0081】
(フィルムの特性)
本実施形態のポリ乳酸系フィルム、特にポリ乳酸系2軸延伸フィルムの収縮率は、温風120℃/5分間後で10%以下、より好ましくは7%以下、特に0.1〜5%であることが好ましい。10%を越えると、フィルムにしわ、波打ち等の外観をひどく損なう要因となり得るからである。
【0082】
フィルムの透湿性に関しては、JISZ0208B法で評価したときの透湿度が220〜900g/m2・dayの範囲内とすることができ、この範囲内であることが良好である。200g/m2・day未満では、電子部材、特に液晶モジュール或いはそれに使用されている光学用フィルムの保護フィルムとしては有用でなくなり、貼り合せた後に明るさムラ、色ムラが発生する可能性がある。また、900g/m2・dayを超えると、フィルムの透湿度が高過ぎてしまってフィルム自体がかなり吸湿することとなり、フィルムの寸法変化が著しくなり、波打ち等が生じやすくなる。
フィルムの透湿性を上記範囲に高めるためには、単層フィルムであるか積層フィルムであるかを問わず、フィルム全体の質量部100に対してポリエーテルポリエステルアミド重合体(B)及び/又はブロックポリマー(C)を10〜35質量部、好ましくは15〜30質量部含有するようにするのが好ましい。フィルム全体の質量部100に対してポリエーテルポリエステルアミド重合体(B)及び/又はブロックポリマー(C)が10〜35質量部含有されていれば、JISZ0208B法で評価したときの透湿度が220〜900g/m2・dayの範囲内とすることができる。
【0083】
フィルム表面のぬれ指数に関しては、400〜540μN/cmであることが好ましく、420〜520μN/cmであることがさらに好ましい。
フィルムのぬれ指数を当該範囲に調整するためには、上記の単層構成、或いは、上記積層構成のうち、片側または両側の最外層が本実施形態のポリ乳酸系組成物を主成分して含有する樹脂層から形成すればよい。
【0084】
フィルム表面の表面抵抗R(Ω)の対数LogRに関しては、13以下、特に10〜12であるのが好ましい。
フィルムの耐衝撃性は、ダート型衝撃試験の測定値(ハイドロショット値)が、200〜500N・mm、特に250〜450N・mmであるのが好ましい。
【0085】
(フィルムの製造方法)
次に、本実施形態に係るポリ乳酸系フィルムの製造方法の一例として、ポリ乳酸系二軸延伸フィルムの製造方法について説明する。
なお、無延伸フィルム、一軸延伸の製造方法については、以下に説明するポリ乳酸系二軸延伸フィルムの製造方法を参酌して製造することができる。
【0086】
積層方法としては、現在公知の方法を適宜採用することができる。例えば複数の押出機からフィードブロック式或いはマルチマニホールド式にひとつの口金に連結するいわゆる共押出をする方法、巻き出した混合フィルムの表面上に別種のフィルムをロールやプレス板を用いて加熱圧着する方法などを挙げることができる。
【0087】
Tダイ、Iダイ、丸ダイ等から押し出したシート状物又は円筒状物を、冷却キャストロールや水、圧空等により急冷して非結晶に近い状態で固化させた後、ロール法、テンター法、チューブラー法等により二軸方向に延伸すればよい。
なお、2軸延伸フィルムの製造においては、縦延伸にはロール法を採用すると共に横延伸にはテンター法を採用する逐次2軸延伸法、或いは縦横同時にテンター法で延伸する同時2軸延伸法を用いればよい。
【0088】
延伸条件としては、延伸温度55〜90℃、好ましくは65〜80℃、縦延伸倍率1.5倍〜5倍、好ましくは2〜4倍、横延伸倍率1.5〜5倍、好ましくは2〜4倍、延伸速度10〜100000%/分、好ましくは100〜10000%/分を採用すればよい。
但し、これらの適性範囲は、重合体の組成や無延伸シートの熱履歴によって異なるので、フィルムの強度、伸びを考慮しながら適宜決めるのが好ましい。
縦横延伸倍率のいずれかが1.5〜5倍の範囲を著しく外れるか、或いは、延伸温度が55〜95℃を著しく外れた場合には、得られるフィルムの厚み精度が著しく低下することになり、特に延伸後熱処理されるフィルムにおいてはこの傾向が著しい。このような厚み振れは、フィルムを印刷したり、或いは他のフィルムや金属薄膜、紙とのラミネーションさらには製袋等の二次加工において、製品にしわ、波打ち等の外観を低下させる要因となるので注意が必要である。
【0089】
フィルムの熱収縮を抑制したい場合には、延伸後、フィルムを把持した状態で熱処理するのが好ましい。通常テンター法では、クリップでフィルムを把持した状態で延伸されるので直ちに熱処理される。フィルムの二次加工工程において、加工中にフィルムが収縮する等の問題を生じ易い。
【0090】
本実施形態に係るポリ乳酸系フィルムは、特に前処理をしなくてもラミネート、コーティング等を行うことは可能であるが、必要であれば表面処理を行ってもよい。この際の表面処理としては、物理的な粗面化(凹凸)化処理、或いは酸化処理等が挙げられる。粗面化処理の例としては、サンドブラスト処理、ヘアーライン加工処理などが挙げられる。酸化処理の例としては、コロナ処理、プラズマ処理、オゾン・紫外線処理、クロム酸処理、火炎処理等が挙げられる。その他、有機溶剤処理がある。ポリ乳酸系重合体の結晶化度による耐溶剤性の差異を利用して、良溶媒・貧溶媒を調整してフィルム表面を侵食して粗面化する方法もある。良溶媒としては、トルエン、酢酸エチル、THF、MEK、DMF等があげられ、貧溶媒としてはメタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、ヘキサン等がある。
【0091】
(フィルムの用途)
本実施形態に係るポリ乳酸系フィルムは、フィルム表面に印刷を施し、飲料、食品、薬品、電化品、雑貨等の袋やケース等の包装材、またカード等の被記録材、販促・広告・ディスプレー用シートとして好適に使用することができる。具体的な例としては、パチンコ機、スロット機、ゲーム機等の遊戯機のディスプレー用印刷シート、自動販売機等に使用される広告用印刷シート、販売店頭で使用される表示札、生花用札、選挙ポスター等に用いることができる。
また、本実施形態に係るポリ乳酸系フィルムは、透明性、透湿性及び耐電防止性に優れえているから、各種電子部品とりわけ光学用シートや液晶モジュール類の保護フィルムとして好ましく利用することができる。
無延伸フィルムは、熱成形シートとしても有用である。
【実施例】
【0092】
以下に、各種サンプルとそれぞれの物性評価を示すが、これらにより本発明は何ら制限を受けるものではない。
【0093】
(1)引取安定性
口金より溶融押出しし、キャストロールで引き取ったときのフィルムの幅振れを調査した。使用した口金はリップ幅550mm、リップギャップ約2mm。引き取り速度は10〜20m/分の範囲内で調整した。
引き取ったシートの幅が10mm以上変動するときは不良で×、10mm未満のときには良好で○、と評価した。
【0094】
(2)厚み
ダイヤルゲージを用いてフィルムを接触して測定した。
【0095】
(3)表面抵抗率測定
JIS C 2151に基づいて測定を行った。巻き取ったフィルムの内面を3点、外面を3点測定し、これらの平均値を算出した。
【0096】
(4)ぬれ指数
JIS C 6768に基づいて測定を行った。巻き取ったフィルムの内側の中央から任意に3回測定し、ぬれ指数を判定した。
【0097】
(5)インキ密着性
フィルムをA3サイズに切り出し、そのフィルム上に下記に示すグラビアインキをスポイドで約0.5cc滴下し、ただちにメイヤーバー(No.4)で展開し、塗布した。次に、この塗布したフィルムを40±3℃に設定したオーブンで約30秒乾燥した。インキ密着性は、印刷面にセロテ−プ(ニチバン(株)製エルパックLP−18)を貼り、セロテープ(登録商標)の上から指で5回こすった。その直後、セロテ−プを一気に剥がし、インキがどれほど剥離したかを目視で観察した。評価は、全くインキの剥離しないものを5とし、完全に剥離するものを1とし、5段階評価した。
=評価用インキ=
PANNカラーS39藍(東洋インキ製造株式会社製)
【0098】
(6)耐ブロッキング性
フィルムを40mm×50mmに2枚切り出し、印刷層にあたる面同士を重ね合わせた。さらに上下に約40mm×50mmの鏡面板を重ね合わせ、恒温恒湿器内に置いた。この鏡面板上に約5kgの重りをのせて放置した。試験温度と湿度の設定は、50℃/80%RHとした。放置2日後、重ねあわせたフィルムの剥離具合を見た。
フィルム同士がくっつき、剥がしにくいものを不良として×、剥離の優れるものは良好として○、と評価した。
【0099】
(7)耐衝撃性
ダート型衝撃試験機であるハイドロショットR高速衝撃試験機HTM−1型((株)島津製作所製)を用い耐衝撃性を評価した。フィルムをおおよそ100mm×100mmに切り出し、その試験片を試験機のクランプに固定し、フィルム中央に錘を落として衝撃を与え、試験片が破壊するときのエネルギーを読み取った。測定温度は23℃、落錘の落下速度は3m/秒。フィルム破壊時のエネルギーが低いほど耐衝撃性は劣ることになる。
【0100】
(8)透湿度
フィルムをJISZ0208B法に基づいて測定した。
【0101】
(9)明るさムラ評価
粘着加工されている偏光板(日東電工製 NWF SEG1425WVARC150K)をガラス板に貼り付けて、偏光板の約半分の面積部分の上に表面保護用フィルムを置き、その外周部をOPPテープ(三菱樹脂製ダイアハローテープ)で外周部からの湿気の侵入を防止するよう二重に貼り付け固定し、評価サンプルを作成した。この評価サンプルを35℃、80%RHの恒温恒湿機に投入し、10時間保管後取り出し、室温にした。
【0102】
固定用テープ及び表面保護用フィルムを剥離した。次いで、ガラス板の下からライトを点灯し、もう1枚の偏光板(日東電工製NPFHEG1425DU)にて直行ニコル状態とした。
真上及び種種の角度から目視にて観察し、表面保護フィルムを貼り合せていなかった部分と、表面保護フィルムを貼り合せた部分とで明るさに差がない場合を良好として○、ある(むらがある)場合を不良として×、と評価した。
【0103】
(サンプル1)
樹脂成分として、L−乳酸:D−乳酸=98.5:1.5の構造単位を持つランダム共重合体であって、ガラス転移点(Tg)58℃のポリ乳酸系重合体(商品名:NatureWorks4032D、米国カーギル・ダウ社製、分子量約20万、屈折率1.45)80質量%と、ポリエーテルエステルアミド(商品名:ペレスタットNC7530、三洋化成株式会社製、屈折率1.53)20質量%とを混合して、合計100質量部のポリ乳酸に、乾燥した平均粒径1.4μmの粒状シリカ(商品名:サイリシア100、富士シリシア化学(株)製)0.05質量部混合して75mmφの同方向二軸押出機にて、脱気しながら210℃で口金よりシート状に押出した。
そして、この押出シートを約35℃のキャスティングロールにて急冷し、無延伸フィルムを得た。
続いて二軸延伸装置を用い、長手方向にロール及び赤外線ヒーターで75℃に加熱しながら2.8倍に延伸し、次いで、幅方向にテンターで予熱ゾーン温度72℃設定、延伸ゾーンの温度76℃設定で3.2倍に延伸した。テンターでの熱処理ゾーンの温度は140℃にし、熱処理した二軸延伸フィルムを作製した。フィルム厚みはおおよそ平均で40μmとなるように押出機からの溶融樹脂の吐出量とライン速度を調整した。
フィルムの評価結果を表1に示す。
【0104】
(サンプル2)
ポリエーテルエステルアミドを、商品名ペレスタットNC6321(三洋化成株式会社製、屈折率1.51)に替えた以外は、サンプル1と同様にして、厚み40μmの二軸延伸フィルムを作製した。
フィルムの評価結果を表1に示す。
【0105】
(サンプル3)
サンプル2と同様にして、押出して厚み300μmの無延伸シートを作製した。
このフィルムの評価結果を表1に示す。
【0106】
(サンプル4)
ポリエーテルエステルアミドの代わりに、ポリオレフィンのブロックとポリオキシエチレン鎖を有するポリマーのブロックとが交互に繰り返し結合してなる構造を有するブロックポリマー(「ポリオレフィン/ポリオキシエチレンブロックポリマー」という。)としての商品名ペレスタット303(三洋化成株式会社製、屈折率1.49)を用いた以外は、サンプル1と同様にして、厚み40μmの二軸延伸フィルムを作製した。
フィルムの評価結果を表1に示す。
【0107】
(サンプル5、6)
樹脂成分として、ポリ乳酸系重合体(商品名:NatureWorks4032D、米国カーギル・ダウ社製)と、ポリオレフィン/ポリオキシエチレンブロックポリマーである商品名ペレスタット300(三洋化成株式会社製、屈折率1.49)とを、質量比率で95:5の割合に混合し、合計100質量部のポリ乳酸に、乾燥した平均粒径1.4μmの粒状シリカ(商品名:サイリシア100、富士シリシア化学(株)製)0.05質量部を混合して、58mmφの同方向二軸押出機にて、脱気しながら210℃でマルチマニホールド式の口金より表裏層として押出した。
また、上記L−乳酸:D−乳酸=98.5:1.5の構造単位を持つポリ乳酸重合体を75mmφの同方向二軸押出機にて、上記口金より210℃で中間層として押出した。
押出機からの溶融樹脂の吐出量とキャスト速度を調整して、表層、中間層、裏層の厚み比は1:5:1になるよう溶融樹脂の吐出量を調整し、約35℃のキャスティングロールにて急冷し、300μm又は40μmの無延伸共押出フィルムを得た。
【0108】
【表1】

【0109】
(サンプル7、8、9、11、18)
樹脂成分として、ポリ乳酸(商品名:NatureWorks4032D、米国カーギル・ダウ社製)とポリオレフィン/ポリオキシエチレンブロックポリマー(商品名:ペレスタット300、三洋化成株式会社製)とを、表2に示すように質量比率で95:5、90:10、80:20、70:30、60:40の割合に混合し、58mmφの同方向二軸押出機にて、脱気しながら210℃でマルチマニホールド式の口金より表裏層として押出した。
また、上記L−乳酸:D−乳酸=98.5:1.5の構造単位を持つポリ乳酸重合体を75mmφの同方向二軸押出機にて、上記口金より210℃で中間層として押出した。
次に、押出機からの溶融樹脂の吐出量とキャスト速度を調整して、表層、中間層、裏層の厚み比は1:8:1になるよう溶融樹脂の吐出量を調整し、約35℃のキャスティングロールにて急冷し、無延伸フィルムを得た。
この無延伸フィルムを、二軸延伸装置を用いて長手方向にロール及び赤外線ヒーターで74℃に加熱しながら2.6倍に延伸し、次いで、幅方向にテンターで予熱ゾーン温度72℃設定、延伸ゾーンの温度77℃設定で3.3倍に延伸した。テンターでの熱処理ゾーンの温度は135℃にし、熱処理した二軸延伸フィルムを作製した。
フィルム厚みはおおよそ平均で40μmから50μmとなるように押出機からの溶融樹脂の吐出量とライン速度を調整した。
フィルムの評価結果を表2に示す。なお、比較例6ではフィルム表面にムラが生じ、外観が著しく劣ったものであった。
【0110】
【表2】

【0111】
(サンプル10)
樹脂成分として、ポリ乳酸(商品名:NatureWorks4032D、米国カーギル・ダウ社製)80質量%と、ポリオレフィン/ポリオキシエチレンブロックポリマー(商品名:ペレスタット300、三洋化成株式会社製)20質量%とを混合して、合計100質量部のポリ乳酸に、乾燥した平均粒径1.4μmの粒状シリカ(商品名:サイリシア100、富士シリシア化学(株)製)0.05質量部を混合して75mmφの同方向二軸押出機にて、脱気しながら210℃で口金よりシート状に押出した。この押出シートをサンプル7と同様に二軸延伸フィルムを作製した。
フィルム厚みはおおよそ平均で50μmとなるように押出機からの溶融樹脂の吐出量とライン速度を調整した。
フィルムの評価結果を表3に示す。
【0112】
(サンプル12、13)
樹脂成分として、ポリ乳酸(商品名:NatureWorks4032D、米国カーギル・ダウ社製)と、ポリオレフィン/ポリオキシエチレンブロックポリマー(商品名:ペレスタット300、三洋化成株式会社製)とを、質量割合で70:30又は100:0となるように混合し、そのほかはサンプル3と同様にして、表3に示すように厚さ300μm又は40μmの無延伸フィルムを得た。
フィルムの評価結果を表3に示す。
【0113】
(サンプル14、15)
樹脂成分として、ポリ乳酸(商品名:NatureWorks4032D、米国カーギル・ダウ社製)と、ポリオレフィン/ポリオキシエチレンブロックポリマー(商品名:ペレスタット300、三洋化成株式会社製)とを、質量割合で100:0又は97:3となるように混合し、そのほかはサンプル1と同様に押出し、二軸延伸して表3のように厚さ40μmのフィルムを得た。
フィルムの評価結果を表3に示す。
【0114】
(サンプル16、17)
樹脂成分として、ポリ乳酸(商品名:NatureWorks4032D、米国カーギル・ダウ社製)と、ポリオレフィン/ポリオキシエチレンブロックポリマー(商品名:ペレスタット300、三洋化成株式会社製)とを、質量割合で60:40又は50:50となるように混合し、そのほかはサンプル1と同様に押出し、二軸延伸しようとした。
しかし、サンプル16の場合には、縦延伸後、テンターに縦延伸フィルムを導いて、幅方向に延伸しようとしたが、途中で破断が発生した。予熱ゾーンならびに延伸ゾーンの温度設定をそれぞれ65〜90℃まで変更したが、破断は解消されなかった。
サンプル17の場合には、押出した溶融樹脂をキャストロールで急冷し、引取りを行ったが、フィルムの表面にムラが生じ、またシートの幅振れがひどく、いわゆるドローレゾナンス現象が起こって、外観が良好で厚み精度のよい無延伸フィルムを得ることができなかった。
【0115】
【表3】

【0116】
(サンプル19)
樹脂成分として、L−乳酸:D−乳酸=98.5:1.5の構造単位をもつポリ乳酸(商品名:NatureWorks4032D、米国カーギル・ダウ社製)と、L−乳酸:D−乳酸=94.5:5.5の構造単位をもつポリ乳酸(商品名:NatureWorks4060D、米国カーギル・ダウ社製)と、ポリオレフィン/ポリオキシエチレンブロックポリマー(商品名:ペレスタット300、三洋化成株式会社製)とを、質量割合で20:50:30で混合し、さらにこの樹脂成分100質量部に対して10質量部のアナターゼ型二酸化チタン(商品名:TA−300、富士チタン工業(株)製)を混合し、58mmφの同方向二軸押出機にて脱気しながら210℃でマルチマニホールド式の口金より表裏層として押出した。
また、上記L−乳酸:D−乳酸=98.5:1.5の構造単位を持つポリ乳酸重合体100質量部に対して上記と同種の二酸化チタン10質量部を混合した組成物を、75mmφの同方向二軸押出機にて、上記口金より210℃で中間層として押出した。
押出機からの溶融樹脂の吐出量とキャスト速度を調整して、表層、中間層、裏層の厚み比は1:10:1になるよう溶融樹脂の吐出量を調整し、約35℃のキャスティングロールにて急冷し、未延伸フィルムを得た。
【0117】
この未延伸フィルムを、二軸延伸装置を用いて長手方向にロール及び赤外線ヒーターで77℃に加熱しながら2.5倍に延伸し、次いで、幅方向にテンターで予熱ゾーン温度70℃設定、延伸ゾーンの温度74℃設定で3.0倍に延伸した。テンターでの熱処理ゾーンの温度は142℃にし、熱処理した二軸延伸フィルムを作製した。
フィルム厚みはおおよそ平均で250μmとなるように押出機からの溶融樹脂の吐出量とライン速度を調整した。
【0118】
次に、得られたフィルムをA2サイズに断裁し、枚葉とし、次いで紫外線硬化型インキFDO藍G(東洋インキ製造(株)製)を用いて印刷を行った。印刷機は、SpeedmasterCD74(HEIDELBERG社製)を使用した。それぞれのインキ密着性は、印刷面にセロテ−プ(ニチバン(株)製エルパックLP−18)を貼り、セロテープ(登録商標)の上から指で5回こすった。その直後、セロテ−プを一気に剥がし、インキがどれほど剥離したかを目視で観察した。全くインキの剥離しなかった。印刷後のシートを横86mm×縦54mmに打ち抜いて、カードとした。このポリ乳酸組成物からなるカードをJIS評価したところ、いずれも規格内であり、カードとして有用であることがわかった。
【0119】
(サンプル20、21、22及び23)
上記サンプル3、4、10及び11で得られたフィルムをA3サイズに切り取り、その片側に水性粘着剤エマルジョンである商品名REGITEXA5005((株)レヂテックス社製)の原液を水で約2倍に希釈したものを、メイヤーバー#4で塗布した。次いで、おおよそA4サイズにある金属製枠2枚の間に該フィルムを挟み込み、金属製クリップでしっかりと固定した。この枠で固定したフィルムを約70℃の熱風循環式オーブンに入れて2分間乾燥した。
得られたフィルムは、粘着性をもつ保護フィルムとして使用できた。
【0120】
(サンプル24、25及び26)
上記サンプル3、5及び12で得られたフィルムを、熱成形機(三和興業社製PLAVAC−FE36PH型)にクランプし、赤外線ヒーターでシート温度が70℃になるように予熱した後、プラグにより金型内に押し込んで予備成形を行った。予熱時の温度は、あらかじめ熱電対をフィルムに貼り付け、ヒーターの容量及び加熱時間との関係を調べ、求めたものである。
次いで、図1に示される金型を使用し、金型内を真空にしてカップ状に成形を行った。
【0121】
以上の操作では、熱成形により有用な成形品を得ることができた。通常、フィルムがクランプされている付近では、熱成形による延伸の効果による耐衝撃性の向上が望めないものであるが、この場合には耐衝撃性の高い成形品を得ることができた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリ乳酸系重合体(A)と、ポリエーテルエステルアミド重合体(B)と、を含有してなり、前記成分(A)と前記成分(B)との割合が質量比で95:5〜65:35であることを特徴とするポリ乳酸系組成物。
【請求項2】
請求項1記載のポリ乳酸系組成物を含有した樹脂層からなることを特徴とする単層構成のポリ乳酸系フィルム。
【請求項3】
少なくとも二層以上の積層構成からなり、片側または両側の最外層が、請求項1記載のポリ乳酸系組成物を含有した樹脂層であることを特徴とするポリ乳酸系フィルム。
【請求項4】
少なくとも三層以上の積層構成からなり、中間層のうち少なくとも一層が、請求項1記載のポリ乳酸系組成物を含有した樹脂層であることを特徴とするポリ乳酸系フィルム。
【請求項5】
少なくとも一方向に延伸されてなる請求項2〜4のいずれかに記載のポリ乳酸系フィルム。
【請求項6】
ぬれ指数が400〜540μN/cmであることを特徴とする請求項2、3又は5に記載のポリ乳酸系フィルム。
【請求項7】
表面抵抗R(Ω)の対数LogRが13以下であることを特徴とする請求項2、3又は5に記載のポリ乳酸系フィルム。
【請求項8】
透湿度が220〜900g/m2・dayであることを特徴とする請求項2〜7のいずれかに記載のポリ乳酸系フィルム。
【請求項9】
ダート型衝撃試験の測定値(ハイドロショット値)が、200〜500N・mmであることを特徴とする請求項2〜4のいずれかに記載のポリ乳酸系無延伸フィルム。







【図1】
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【公開番号】特開2011−38099(P2011−38099A)
【公開日】平成23年2月24日(2011.2.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−174780(P2010−174780)
【出願日】平成22年8月3日(2010.8.3)
【分割の表示】特願2004−323684(P2004−323684)の分割
【原出願日】平成16年11月8日(2004.11.8)
【出願人】(000006172)三菱樹脂株式会社 (1,977)
【Fターム(参考)】