説明

ポリ乳酸組成物

【課題】本発明の目的は、ポリ乳酸を含有する組成物およびそれよりなる熱変形安定性を提供することにある。
【解決手段】本発明の目的は、下記要件(a)〜(g)を同時に満足するポリ乳酸組成物によって達成される。
(a)重量平均分子量が7万以上70万以下であること。
(b)Sn原子および/またはTi原子を3ppm以上3000ppm以下含有すること。
(c)P原子を10ppm以上5000ppm以下含有すること。
(d)(Snおよび/またはTiのg原子数)/(Pのg原子数)が0.01以上5以下であること。
(e)分子量150以下の化合物の含有量が0.2重量%以下であること。
(f)COOH末端基濃度が30当量/トン以下である。
(g)水分率が50ppmから1000ppmの範囲であること。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリ乳酸を含有する組成物およびそれよりなる耐衝撃性の改善された成形体に関する。
【背景技術】
【0002】
石油由来のプラスチックの多くは軽くて強靭であり耐久性に優れ、容易かつ任意に成形することが可能であり、量産されて我々の生活を多岐にわたって支えてきた。しかし、これらプラスチックは、環境中に廃棄された場合、容易に分解されずに蓄積する。また、焼却の際には大量の二酸化炭素を放出し、地球温暖化に拍車を掛けている。
かかる現状に鑑み、脱石油原料から成る樹脂、或いは微生物によって分解される生分解性プラスチックが盛んに研究されるようになってきた。現在検討されているほとんどの生分解プラスチックは、脂肪族カルボン酸エステル単位を有し微生物により分解され易い。その反面、熱安定性に乏しく、溶融紡糸、射出成形、溶融製膜などの高温に晒される工程における分子量低下、或いは色相悪化が深刻である。
【0003】
その中でもポリ乳酸は耐熱性に優れ、色相、機械強度のバランスが取れたプラスチックであるが、ポリエチレンテレフタレートやポリブチレンテレフタレートに代表される石油化学系ポリエステルと比較すると熱変形安定性に劣るという問題があった。ポリ乳酸樹脂、ポリアセタール樹脂および強化材を含有する組成物が提案されているがいまだ不十分なものであった(特許文献1参照)。
【特許文献1】特開2003−286402号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の目的は、ポリ乳酸組成物およびこれよりなる成形体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、ポリ乳酸中の特定の金属原子量、水分率を制御することにより、成形体の熱変形安定性が改善されることを見出し、本発明に到達した。
【0006】
即ち、本発明の目的は、
(A)L−乳酸単位90モル%以上とD−乳酸単位および/または乳酸以外の共重合成分単位10モル%未満とにより構成されるポリ乳酸(A)30〜70重量部および、
(B)D−乳酸単位90モル%以上とL−乳酸単位および/または乳酸以外の共重合成分単位10モル%未満とにより構成されるポリ乳酸(B)70〜30重量部からなり、
下記要件(a)〜(g)を同時に満足する、ポリ乳酸組成物によって達成される。
(a)重量平均分子量が7万以上70万以下であること。
(b)Sn原子および/またはTi原子を3ppm以上3000ppm以下含有すること。
(c)P原子を10ppm以上5000ppm以下含有すること。
(d)(Snおよび/またはTiのg原子数)/(Pのg原子数)が0.01以上5以下であること。
(e)分子量150以下の化合物の含有量が0.2重量%以下であること。
(f)COOH末端基濃度が30当量/トン以下である。
(g)水分率が50ppmから1000ppmの範囲であること。
【0007】
更に、本発明の他の目的は、
(A)L−乳酸単位90モル%以上とD−乳酸単位および/または乳酸以外の共重合成分単位10モル%未満とにより構成されるポリ乳酸(A)30〜70重量部および、
(B)D−乳酸単位90モル%以上とL−乳酸単位および/または乳酸以外の共重合成分単位10モル%未満とにより構成されるポリ乳酸(B)70〜30重量部からなり、
下記要件(a)〜(h)を同時に満足する、成形体によって達成することができる。
(a)重量平均分子量が10万以上50万以下であること。
(b)Sn原子および/またはTi原子を10ppm以上300ppm以下含有すること。
(c)P原子を20ppm以上5000ppm以下含有すること。
(d)(Snおよび/またはTiのg原子数)/(Pのg原子数)が0.01以上5以下であること。
(e)分子量150以下の化合物の含有量が0.1重量%以下であること。
(f)COOH末端基濃度が30当量/トン以下である。
(g)水分率が50ppmから1000ppmの範囲であること。
(h)50℃における長期ひずみが、JIS K 7152?に記載の方法に準拠した4.7MPaの荷重をかけた状態で30分経過後の末端部分のひずみが、下記式を満足すること。
0.0 ≦ s < 0.2(mm/mm) (1)
【0008】
また、本発明には、ポリ乳酸単位Aとポリ乳酸単位Bとが、該射出成形体内で、ステレオコンプレックス結晶を形成していることも包含される。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、熱変形安定性の改善された成形物および該成形物を達成できるポリ乳酸組成物を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明において、ポリ乳酸は、下記式で表されるL−乳酸単位、D−乳酸単位またはこれらの組み合わせを主として含む重合体である。ポリ乳酸は、下記のポリ乳酸(A)およびポリ乳酸(B)を包含する。
【0011】
【化1】

【0012】
ポリ乳酸(A)は、L−乳酸単位を主として含む重合体である。ポリ−L−乳酸は、90〜100モル%、より好ましくは95〜100モル%、さらに好ましくは98〜100モル%のL−乳酸単位を含有する。他の単位としては、D−乳酸単位、乳酸以外の単位が挙げられる。D−乳酸単位、乳酸以外の単位は、好ましくは0〜10モル%、より好ましくは0〜5モル%、さらに好ましくは0〜2モル%である。
またポリ乳酸(B)は、D−乳酸単位を主として含む重合体である。ポリ−D−乳酸は90〜100モル%、より好ましくは95〜100モル%、さらに好ましくは98〜100モル%のD−乳酸単位を含有する。他の単位としては、L−乳酸単位、乳酸以外の単位が挙げられる。L−乳酸単位、乳酸以外の単位は、0〜10モル%、好ましくは0〜5モル%、さらに好ましくは0〜2モル%である。
ポリ−L−乳酸またはポリ−D−乳酸中の乳酸以外の単位は、2個以上のエステル結合形成可能な官能基を持つジカルボン酸、多価アルコール、ヒドロキシカルボン酸、ラクトン等由来の単位およびこれら種々の構成成分からなる各種ポリエステル、各種ポリエーテル、各種ポリカーボネート等由来の単位が例示される。
【0013】
ジカルボン酸としては、コハク酸、アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸、テレフタル酸、イソフタル酸等が挙げられる。多価アルコールとしてはエチレングリコール、プロピレングリコール、ブタンジオール、ペンタンジオール、ヘキサンジオール、オクタンジオール、グリセリン、ソルビタン、ネオペンチルグリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール等の脂肪族多価アルコール等あるいはビスフェノールにエチレンオキシドを付加させたものなどの芳香族多価アルコール等が挙げられる。ヒドロキシカルボン酸として、グリコール酸、ヒドロキシ酪酸等が挙げられる。ラクトンとしては、グリコリド、ε−カプロラクトングリコリド、ε−カプロラクトン、β−プロピオラクトン、δ−ブチロラクトン、β−またはγ−ブチロラクトン、ピバロラクトン、δ−バレロラクトン等が挙げられる。
【0014】
本発明のポリ乳酸組成物は、上記のポリ乳酸(A)とポリ乳酸(B)とが、ポリ乳酸(A)とポリ乳酸(B)との合計重量を基準として、30:70〜70:30の範囲にある必要がある。この範囲内に無いと耐熱性が確保できない。
【0015】
本発明のポリ乳酸組成物は、下記要件(a)〜(g)を満足することを特徴とする。以下に各要件について説明する。
要件(a)について;
本発明のポリ乳酸組成物は、重量平均分子量が、7万〜70万、好ましくは10万〜50万、より好ましくは15万〜35万である。この範囲内にあるときには、実用に供するに十分な力学物性が得られる。なお、重量平均分子量は溶離液にクロロホルムを用いたゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)測定による標準ポリスチレン換算の重量平均分子量値である。
【0016】
要件(b)について;
本発明のポリ乳酸組成物は、ポリ乳酸組成物の全重量を基準として、Sn原子、Ti原子、Al原子、Ca原子の少なくともいずれかひとつを3ppm以上3000ppm以下含有することが必要である。これら原子はポリ乳酸製造時の触媒由来のものであり、この範囲内に無いと安定性が著しく損なわれるので好ましくない。
【0017】
要件(c)について;
本発明のポリ乳酸組成物は、ポリ乳酸組成物の全重量を基準として、P原子を10ppm以上5000ppm以下で含有することが必要である。P原子は、ポリ乳酸製造時の触媒失活剤もしくは安定剤に由来するものであるが、この範囲内に無いと、安定性が損なわれる。
【0018】
要件(d)について;
本発明のポリ乳酸組成物は、(Sn、Ti、Al、Caのg原子数)/(Pのg原子数)が0.01以上5以下であることが必要である。ここで、Sn、Ti、Al、Ca、Pのg原子数とは、モル数を意味するものである。
【0019】
要件(e)について;
本発明のポリ乳酸組成物は、分子量150以下の化合物の含有量が、ポリ乳酸組成物を基準として、0.2重量%以下であることが必要である。この範囲内に無いと長期耐久性が著しく低下する。なお、ここで分子量150以下の化合物としては、ラクチド、乳酸等を例示することができるが、これらに限定されるものではない。
【0020】
要件(f)について;
本発明のポリ乳酸組成物は、カルボキシル末端基濃度が30当量/トン以下であることが必要である。この範囲内に無いと、耐加水分解性が低下する。
【0021】
要件(g)について;
本発明のポリ乳酸組成物は、水分率が50ppmから1000ppmの範囲にあることが必要である。この範囲内に無いと、加温、荷重下での形状安定性が低下する。
【0022】
<ポリ乳酸組成物の製造方法>
本発明の組成物は、基本的に公知方法をいずれも採用することができる。
なお、本発明において、ポリ乳酸(A)、ポリ乳酸(B)は、公知の方法で製造することができる。例えば、L−またはD−ラクチドを金属触媒の存在下、加熱し開環重合させ製造することができる。また、金属触媒を含有する低分子量のポリ乳酸を結晶化させた後、減圧下または不活性ガス気流下で加熱し固相重合させ製造することができる。さらに、有機溶媒の存在/非存在下で、乳酸を脱水縮合させる直接重合法で製造することができる。
重合反応は、従来公知の反応容器で実施可能であり、例えばヘリカルリボン翼等、高粘度用攪拌翼を備えた縦型反応容器を単独、または並列して使用することができる。重合開始剤としてアルコールを用いてもよい。かかるアルコールとしては、ポリ乳酸の重合を阻害せず不揮発性であることが好ましく、例えばデカノール、ドデカノール、テトラデカノール、ヘキサデカノール、オクタデカノール、エチレングリコール、トリエチレングリコール、ベンジルアルコールなどを好適に用いることができる。
固相重合法では、前述した開環重合法や乳酸の直接重合法によって得られた、比較的低分子量の乳酸ポリエステルをプレポリマーとして使用する。プレポリマーは、そのガラス転移温度(Tg)以上融点(Tm)未満の温度範囲にて予め結晶化させることが、融着防止の面から好ましい形態と言える。結晶化させたプレポリマーは固定された縦型反応容器、或いはタンブラーやキルンの様に容器自身が回転する反応容器中に充填され、プレポリマーのガラス転移温度(Tg)以上融点(Tm)未満の温度範囲に加熱される。重合温度は、重合の進行に伴い段階的に昇温させても何ら問題はない。また、固相重合中に生成する水を効率的に除去する目的で前記反応容器類の内部を減圧することや、加熱された不活性ガス気流を流通する方法も好適に併用される。
【0023】
ポリ乳酸(A)およびポリ乳酸(B)製造時に用いる金属触媒は、アルカリ土類金属、希土類金属、第三周期の遷移金属、アルミニウム、ゲルマニウム、スズおよびアンチモンからなる群から選ばれる少なくとも一種の金属を含む化合物である。アルカリ土類金属として、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウムなどが挙げられる。希土類金属として、スカンジウム、イットリウム、ランタン、セリウムなどが挙げられる。第三周期の遷移金属として、鉄、コバルト、ニッケル、亜鉛が挙げられる。
【0024】
金属触媒は、これらの金属のカルボン酸塩、アルコキシド、アリールオキシド、或いはβ−ジケトンのエノラート等として組成物に添加することができる。重合活性や色相を考慮した場合、オクチル酸スズ、チタンテトライソプロポキシド、アルミニウムトリイソプロポキシドが特に好ましい。
金属触媒は、ポリ乳酸100重量部に対して、0.001重量部以上1重量部未満含有し、好ましくは、0.005重量部以上0.1重量部未満である。金属触媒の添加量が少なすぎると重合速度が著しく低化するため好ましくない。逆に多すぎると反応熱によるポリ乳酸の着色、或いはカルボジイミド系化合物の着色を促し、得られる組成物の色相と熱安定性が悪化する。
【0025】
次に、本発明の耐衝撃性の改善された成形体について説明する。
本発明の射出成形体は、上述のポリ乳酸(A)、ポリ乳酸(B)からなるが、下記要件(a)〜(h)を同時に満足することを特徴とする。以下に各要件について説明する。
【0026】
要件(a)について;
本発明のポリ乳酸組成物は、重量平均分子量が、10万〜50万、好ましくは15万〜35万である。この範囲内にあるときには、良好な力学物性をもつ。なお、重量平均分子量は溶離液にクロロホルムを用いたゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)測定による標準ポリスチレン換算の重量平均分子量値である。
【0027】
要件(b)について;
本発明のポリ乳酸組成物は、ポリ乳酸組成物の全重量を基準として、Sn原子および/Ti原子を10ppm以上300ppm以下含有することが必要である。これら原子はポリ乳酸製造時の触媒由来のものであり、この範囲内に無いと溶融安定性が損なわれ解重合などが進むので好ましくない。
【0028】
要件(c)について;
本発明のポリ乳酸組成物は、ポリ乳酸組成物の全重量を基準として、P原子を20ppm以上5000ppm以下で含有することが必要である。P原子は、ポリ乳酸製造時の触媒失活剤もしくは安定剤に由来するものであるが、この範囲内に無いと、長期耐久性が著しく低下する。
【0029】
要件(d)について;
本発明のポリ乳酸組成物は、(Sn、Ti、Al、Caのg原子数)/(Pのg原子数)が0.01以上5以下であることが必要である。ここで、Sn、Ti、Al、Ca、Pのg原子数とは、モル数を意味するものである。
【0030】
要件(e)について;
本発明のポリ乳酸組成物は、分子量150以下の化合物の含有量が、ポリ乳酸組成物を基準として、0.2重量%以下であることが必要である。この範囲内に無いと長期耐久性が著しく低下する。なお、ここで分子量150以下の化合物としては、ラクチド、乳酸等を例示することができるが、これらに限定されるものではない。
【0031】
要件(f)について;
本発明のポリ乳酸組成物は、カルボキシル末端基濃度が30当量/トン以下であることが必要である。この範囲内に無いと、耐加水分解性が低下する。
【0032】
要件(g)について;
本発明のポリ乳酸組成物は、水分率が50ppmから1000ppmの範囲にあることが必要である。この範囲内に無いと、この範囲内に無いと、加温、荷重下での形状安定性が低下する。
【0033】
要件(h)について;
本発明のポリ乳酸組成物は、50℃における長期ひずみが、JIS K 7152に記載の方法に準拠した4.7MPaの荷重をかけた状態で30分経過後の末端部分のひずみが、下記式を満足することが必要である。
0.0 ≦ s < 0.2(mm/mm) (1)
上記の特性を満足しない場合には長期の寸法安定性が不足して実用に供せない場合がある。
【0034】
さらに、本発明においては、ポリ乳酸(A)とポリ乳酸(B)とは、成形体内で、ステレオコンプレックス結晶を形成していることが好ましい。ステレオコンプレックス結晶の含有率は、好ましくは80〜100%、よりこの好ましくは95〜100%である。
本発明で言うステレオコンプレックス結晶とは、試料の示差走査熱量計(DSC)測定において、昇温過程における融解ピークのうち、195℃以上の融解ピークの割合が好ましくは80%以上、より好ましくは90%以上、さらに好ましくは95%以上であること。融点は、195〜250℃の範囲、より好ましくは200〜220℃の範囲であること。融解エンタルピーは、20J/g以上、好ましくは30J/g以上であることを言い、具体的には、示差走査熱量計(DSC)測定において、昇温過程における融解ピークのうち、195℃以上の融解ピークの割合が90%以上であり、融点が195〜250℃の範囲にあり、融解エンタルピーが20J/g以上であることが好ましい。ステレオコンプレックス結晶は、射出成形体を得た後、熱セットを行うことによって形成させることができる。
【0035】
なお、本発明において、成形体を得るには、一般の成形方法、例えば中空成形体の場合、射出ブロー成形、配向ブロー、押出ブロー、ダイレクトブロー、インジェクションブロー法などが適用され、その他成形体に従い、射出成形法、シート成形法、インフレーション成形法、熱成形法、各種多層成形法などを適用することができる。
【実施例】
【0036】
以下、実施例によって本発明を更に具体的に説明する。ただし、本発明は、以下の実施例によって何ら限定されるものではない。実施例において組成物の物性は以下の方法で測定した。
(1)重量平均分子量(Mw)の測定
重量平均分子量(Mw)はショーデックス製GPC−11を使用し、組成物50mgを5mlのクロロホルムに溶解させ、40℃のクロロホルムにて展開した。重量平均分子量(Mw)、はポリスチレン換算値として算出した。
(2)Sn原子量、Ti原子量、Al原子量、Ca原子量、P原子量の測定
IPCにより求めた。
(3)Sn、Ti、Al、Ca、Pの各g原子数の測定
添加時の量により求めた。
(4)分子量150以下の化合物の含有量の測定
GPCにより求めた。
(5)COOH末端基濃度の測定
中和滴定法により求めた。
(6)溶融粘度の測定
Eゾールに溶解してキャピラリー法により求めた。(7)ひずみの測定
JIS K 7152(クリープ耐久性)に記載の方法に準拠した4.7MPaの荷重をかけた状態で50℃の雰囲気下、30分経過後の末端部分のひずみ量(変形量)を求めた。
(8)ステレオコンプレックス結晶含有率Xの算出法
ステレオコンプレックス結晶含有率Xは、示差走査熱量計(DSC)において150℃以上190℃未満に現れる結晶融点の融解エンタルピーΔHAと、190℃以上250℃未満に現れる結晶融点の融解エンタルピーΔHBから下記式にて算出した。
X={ΔHB/(ΔHA+ΔHB)}×100 (%)
【0037】
<実施例1>
冷却留出管を備えた重合反応容器の原料仕込み口から、窒素気流下でL−ラクチド100重量部およびステアリルアルコール0.15重量部を仕込んだ。続いて反応容器内を5回窒素置換し、L−ラクチドを190℃にて融解させた。L−ラクチドが完全に融解した時点で、原料仕込み口から2−エチルヘキサン酸スズ0.05重量部をトルエン500μLと共に添加し、190℃で1時間重合した。
重合終了後、余剰L−ラクチドを脱揮し、反応容器の吐出口からストランド状のポリ乳酸(A)を得、冷却しながらペレット状に裁断した。
次に、同様の操作にてポリ乳酸(B)の調製を行った。即ち、D−ラクチド100重量部およびステアリルアルコール0.15重量部を仕込み、続いて反応容器内を5回窒素置換し、D−ラクチドを190℃にて融解させた。D−ラクチドが完全に融解した時点で、原料仕込み口から2−エチルヘキサン酸スズ0.05重量部をトルエン500μLと共に添加し、190℃で1時間重合した。
重合終了後、最後に余剰D−ラクチドを脱揮し、反応容器の吐出口からストランド状の組成物を吐出し、冷却しながらペレット状に裁断した。
上記操作によって得られたポリ乳酸(A)ペレット50重量部とポリ乳酸(B)ペレット50重量部を良く混合させた後、東洋製機社製ニーダーラボプラストミル50C150を使用し、窒素ガス気流下230℃で10分間混練した。組成物の特性を表1に示す。
【0038】
<実施例2>
冷却留出管を備えた重合反応容器の原料仕込み口から、窒素気流下でL−ラクチド100重量部およびステアリルアルコール0.15重量部を仕込んだ。続いて反応容器内を5回窒素置換し、L−ラクチドを190℃にて融解させた。L−ラクチドが完全に融解した時点で、原料仕込み口から2−エチルヘキサン酸スズ0.05重量部をトルエン500μLと共に添加し、190℃で1時間重合した。
重合終了後、余剰L−ラクチドを脱揮し、反応容器の吐出口からストランド状のポリ乳酸(A)を得、冷却しながらペレット状に裁断した。
次に、同様の操作にてポリ乳酸(B)の調製を行った。即ち、D−ラクチド100重量部およびステアリルアルコール0.15重量部を仕込み、続いて反応容器内を5回窒素置換し、D−ラクチドを190℃にて融解させた。D−ラクチドが完全に融解した時点で、原料仕込み口から2−エチルヘキサン酸スズ0.05重量部をトルエン500μLと共に添加し、190℃で1時間重合した。
重合終了後、最後に余剰D−ラクチドを脱揮し、反応容器の吐出口からストランド状の組成物を吐出し、冷却しながらペレット状に裁断した。
上記操作によって得られたポリ乳酸(A)ペレット50重量部とポリ乳酸(B)ペレット50重量部、繊維径13μm、繊維長30mmのカットファイバーをポ乳酸(A)とポリ乳酸(B)との合計量に対して30重量部とを良く混合させた後、東洋製機社製ニーダーラボプラストミル50C150を使用し、窒素ガス気流下230℃で10分間混練した。組成物の特性を表1に示す。
【0039】
<実施例3>
実施例1で得られた組成物をペレット化したのち乾燥機で120℃、4時間乾燥させた後、射出成形機で、シリンダー温度230℃、1次圧時間0.5秒、金型温度110℃、サイクル120秒で射出成形を行った。得られた成形品は透明性を有するものであった。特性を表1に示す。
【0040】
<実施例4>
実施例2で得られた組成物をペレット化したのち乾燥機で120℃、4時間乾燥させた後、射出成形機で、シリンダー温度230℃、1次圧時間0.5秒、金型温度110℃、サイクル65秒で射出成形を行った。特性を表1に示す。
【0041】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)L−乳酸単位90モル%以上とD−乳酸単位および/または乳酸以外の共重合成分単位10モル%未満とにより構成されるポリ乳酸(A)30〜70重量部および、
(B)D−乳酸単位90モル%以上とL−乳酸単位および/または乳酸以外の共重合成分単位10モル%未満とにより構成されるポリ乳酸(B)70〜30重量部からなり、
下記要件(a)〜(g)を同時に満足する、ポリ乳酸組成物。
(a)重量平均分子量が7万以上70万以下であること。
(b)Sn原子および/またはTi原子を3ppm以上3000ppm以下含有すること。
(c)P原子を10ppm以上5000ppm以下含有すること。
(d)(Snおよび/またはTiのg原子数)/(Pのg原子数)が0.01以上5以下であること。
(e)分子量150以下の化合物の含有量が0.2重量%以下であること。
(f)COOH末端基濃度が30当量/トン以下である。
(g)水分率が50ppmから1000ppmの範囲であること。
【請求項2】
(A)L−乳酸単位90モル%以上とD−乳酸単位および/または乳酸以外の共重合成分単位10モル%未満とにより構成されるポリ乳酸(A)30〜70重量部および
(B)D−乳酸単位90モル%以上とL−乳酸単位および/または乳酸以外の共重合成分単位10モル%未満とにより構成されるポリ乳酸(B)70〜30重量部からなり、
下記要件(a)〜(h)を同時に満足する、成形体。
(a)重量平均分子量が10万以上50万以下であること。
(b)Sn原子および/またはTi原子を10ppm以上300ppm以下含有すること。
(c)P原子を20ppm以上5000ppm以下含有すること。
(d)(Snおよび/またはTiのg原子数)/(Pのg原子数)が0.01以上5以下であること。
(e)分子量150以下の化合物の含有量が0.1重量%以下であること。
(f)COOH末端基濃度が30当量/トン以下である。
(g)水分率が50ppmから1000ppmの範囲であること。
(h)50℃における長期ひずみが、JIS K 7152に記載の方法に準拠した4.7MPaの荷重をかけた状態で30分経過後の末端部分のひずみが、下記式を満足すること。
0.0 ≦ s < 0.2(mm/mm) (1)
【請求項3】
ポリ乳酸単位Aとポリ乳酸単位Bとが、該成形体内で、ステレオコンプレックス結晶を形成している、請求項2記載の成形体。

【公開番号】特開2008−248023(P2008−248023A)
【公開日】平成20年10月16日(2008.10.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−89273(P2007−89273)
【出願日】平成19年3月29日(2007.3.29)
【出願人】(000003001)帝人株式会社 (1,209)
【出願人】(390022301)株式会社武蔵野化学研究所 (63)
【Fターム(参考)】