説明

ポリ乳酸製品の効率的オリゴマー化方法

【課題】乳酸ポリマーを加水分解する際に、光学純度の低下を抑制する方法を提供する。
【解決手段】(1)重量平均分子量5万〜200万の乳酸ポリマー及び/またはその誘導体を反応器に入れて、減圧及び/または気相置換して水蒸気を導入する段階と、(2)加熱水蒸気雰囲気中で前記乳酸ポリマー及び/またはその誘導体を加水分解する段階と、(3)減圧して水蒸気を排出し、乾燥空気及び/または不活性ガスを導入する段階と、(4)前記(3)の段階により得られた重量平均分子量1千〜5万の乳酸オリゴマー及び/またはその誘導体を回収する段階と、を上記(1)〜(4)の順序で有する、乳酸オリゴマー及び/またはその誘導体の回収方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリ乳酸製品の効率的オリゴマー化方法に関する。具体的には、乳酸ポリマーまたはその誘導体から乳酸オリゴマーを回収する方法に関する。さらに具体的には、乳酸ポリマーまたはその誘導体を加水分解して、乳酸オリゴマーを選択的に回収する方法、並びに乳酸ポリマー及び/またはその誘導体のリサイクル方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年の環境問題に対する意識の高まりから、バイオリサイクルやケミカルリサイクル可能な乳酸ポリマーの開発が活発に展開されてきている。乳酸ポリマーの製造方法として、乳酸オリゴマーから熱分解によってラクチドを合成し、さらにそのラクチドを重合することによって乳酸ポリマーを製造する技術は従来からよく知られている。ここで用いられる乳酸オリゴマーは、粗乳酸を原料とした重縮合によって製造されるものであり、乳酸から乳酸ポリマーを製造するに際しての原料精製プロセスの一つとして開発された技術である。
【0003】
一方、乳酸ポリマーのケミカルリサイクルに関しては、乳酸ポリマーを熱分解することによって直接的にラクチドに変換する方法と、乳酸ポリマーを加水分解することによって乳酸や乳酸オリゴマーに変換する方法が知られている。なかでも、乳酸ポリマーから乳酸への加水分解については、様々な方法が開示されている。例えば、水酸化カルシウムを用いたアルカリ加水分解による方法が開示されている(特許文献1)。また、回路部品製造過程において、ポリ乳酸部材をアルカリ水溶液中で分解除去する方法が開示されている(特許文献2)。また、ポリ乳酸繊維の裏面をアルカリ加水分解することによる裏面処理方法が開示されている(特許文献3)。また、高温高圧水による乳酸ポリマーのオリゴマー化及び乳酸化技術が報告されている(非特許文献1)。上記文献では、急速な乳酸化と、残存マイナー成分のオリゴマー化とが報告されている。しかし、これらの一般約な溶液系での加水分解では、乳酸ポリマーよりも乳酸オリゴマーの加水分解速度がはるかに大きいことに起因して、反応媒体中に溶出した乳酸オリゴマーが乳酸ポリマーよりも急速に加水分解反応を起こす。従って、かかる技術において、乳酸オリゴマーの段階でとどめて回収することは容易でない。また、乳酸ポリマーを予備分解する方法について、乳酸ポリマーを酵素分解によって乳酸化する前段階として、50〜150℃で熱加水分解する方法が開示されている(特許文献4)。しかし、予備的に分解された後の生成物に関して具体的な定義は示されておらず、熱加水分解方法についても明確に規定されていない。
【0004】
乳酸ポリマーを水蒸気で加水分解する技術については、例えば、60℃のコンポスト中で常圧水蒸気による加水分解が開示されている(非特許文献2)。上記文献において、乳酸ポリマーを加水分解することによって分子量を低下させ、数平均分子量(臨界分子量)が10,000を下回った段階で微生物による分解資化が開始することが開示されている。また、その他の方法として、50℃の常圧水蒸気中での乳酸ポリマーの加水分解プロセスが、西田らによって開示されている(非特許文献3)。上記文献において、均一な分解から不均一な分解へと移行するのは、数平均分子量が78,000の時点であることが報告されている。しかし、これらの方法は、乳酸オリゴマーを回収するために開発された方法ではないことに加えて、これらの方法で確認された数平均分子量に達するまでの期間は、それぞれ10日(非特許文献2)及び26日以上(非特許文献3)と、現実的なオリゴマー化プロセスに適応できる期間でない。
【0005】
さらに、100℃かつ1気圧以上の水蒸気で乳酸ポリマーからなる成型体を加水分解し、得られた成型体を粉末化する方法が開示されている(特許文献4)。
【特許文献1】特開平10−36553号公報
【特許文献2】特開2002−34416号公報
【特許文献3】特開2002−371463号公報
【特許文献4】特開平5−178977号公報
【非特許文献1】高分子加工、Vol.52、2003年、pp.338−343
【非特許文献2】Polymer Degradation and Stability、Vol.59、1998年、pp.145−152
【非特許文献3】Macromolecules、Vol.33、2000年、pp.6595−6601
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記文献においては、100℃以上、好ましくは120℃以上の加熱条件下で、乳酸ポリマー成形品を加水分解させることを推奨している。しかしながら、160℃以上の条件下で乳酸ポリマー成形品を加水分解すると、ポリ乳酸中のモノマーユニットの立体配置が逆転し、光学純度が低下するという問題がある。さらに、上記文献に開示された方法では、加水分解処理後の低分子量化した乳酸ポリマーが水蒸気によって膨潤・融着するという問題もある。
【0007】
そこで本発明の目的は、乳酸ポリマーを加水分解する際に、光学純度の低下を抑制する方法を提供することである。
【0008】
また、本発明の目的は、乳酸ポリマーを乳酸オリゴマーへと変換制御する際に、光学純度の低下を抑制可能な前記方法を用いて、乳酸ポリマーを効率的にケミカルリサイクルする方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するための本発明の一態様は、(1)重量平均分子量5万〜200万の乳酸ポリマー及び/またはその誘導体を反応器に入れて、減圧及び/または気相置換して水蒸気を導入する段階と、(2)加熱水蒸気雰囲気中で前記乳酸ポリマー及び/またはその誘導体を加水分解する段階と、(3)減圧して水蒸気を排出し、乾燥空気及び/または不活性ガスを導入する段階と、(4)前記(3)の段階により得られた重量平均分子量1千〜5万の乳酸オリゴマー及び/またはその誘導体を回収する段階と、を上記(1)〜(4)の順序で有する、乳酸オリゴマー及び/またはその誘導体の回収方法である。
【0010】
また、上記目的を達成するための本発明の他の態様は、(5)本発明の回収方法により得られた乳酸オリゴマー及び/またはその誘導体から、熱分解によりラクチドを生成する、及び/または加水分解により乳酸を生成する段階と、(6)前記ラクチド及び/または前記乳酸を重合することによって、乳酸ポリマー及び/またはその誘導体を合成する段階と、を有する、乳酸ポリマー及び/またはその誘導体のリサイクル方法である。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、乳酸オリゴマーから乳酸への変換よりも乳酸ポリマーから乳酸オリゴマーヘの変換をより促進させることができ、乳酸オリゴマー等のラセミ化を抑制しつつ、効果的かつ選択的に乳酸オリゴマーを回収することができる。
【0012】
さらに、本発明によれば、
(a)効果的な水蒸気の導入により、乳酸ポリマーまたはその成型品を容易に加水分解することができる。
(b)嵩高い乳酸ポリマー成型品を容易に破砕・粉砕し、効果的な輸送・保管が可能となる。
(c)乳酸ポリマーまたはその成型品とその他のポリマーまたはその成型品との混合部分から、乳酸ポリマーまたはその成型品を優先的に乳酸オリゴマーに変換することができる。さらに、適切な破砕・粉砕(粉末化)プロセスを用いることによって、容易に乳酸オリゴマーまたはその成型品の破砕物・粉砕物(粉末)をその他のポリマーまたはその成型品から分離することができる。
(d)低いpKa値を有する強酸である乳酸による金属容器等の腐食を回避することができる。
(e)加水分解処理後の水蒸気を排出することにより、分解されて低分子量化した乳酸ポリマーの膨潤・融着を回避することができる。そして、
(f)回収した乳酸オリゴマーは高い光学純度を有し、前記乳酸オリゴマーを、熱分解により光学純度の高いラクチドに、または加水分解により光学純度の高い乳酸に、容易に変換することができる。
【0013】
以上の特性によって、乳酸ポリマーのケミカルリサイクルを効果的かつ容易に行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
(第一態様)
本発明の第一態様は、(1)重量平均分子量5万〜200万の乳酸ポリマー及び/またはその誘導体を反応器に入れて、減圧及び/または気相置換して水蒸気を導入する段階と、(2)加熱水蒸気雰囲気中で前記乳酸ポリマー及び/またはその誘導体を加水分解する段階と、(3)減圧して水蒸気を排出し、乾燥空気及び/または不活性ガスを導入する段階と、(4)前記(3)の段階により得られた重量平均分子量1千〜5万の乳酸オリゴマー及び/またはその誘導体を回収する段階と、を上記(1)〜(4)の順序で有する、乳酸オリゴマー及び/またはその誘導体の回収方法である。以下、各段階について詳細に説明する。
【0015】
まず、(1)の段階、すなわち、重量平均分子量5万〜200万の乳酸ポリマー及び/またはその誘導体を反応器に入れて、減圧及び/または気相置換して水蒸気を導入する段階について説明する。ガス状である水蒸気はいかなる狭い空間にも拡散していくことができる。しかし、その空間に他の気体が既に存在している場合、前記他の気体を除去することにより、前記水蒸気に置換する必要がある。従って、水蒸気処理に先立って、減圧処理及び/または気相置換処理を行うことによって、より効果的に水蒸気を乳酸ポリマー分子の間隙中に導入し、速やかに加水分解を進めることができる。その際、減圧度が高いほど、より効果的に水蒸気に置換される。したがって、必須に行う必要はないものの、減圧に要する時間や排気能力を考慮することが好ましい。水蒸気により置換された後の前記容器内の温度(t)は、100〜155℃であることが好ましく、105〜140℃であることがより好ましく、110〜135℃であることがさらに好ましい。前記温度t(℃)での飽和水蒸気圧E(t)(MPa)は、下記のテテン(Tetens)の式1で一義的に求めることができる。
【0016】
【数1】

【0017】
また、絶対湿度(1mの空間に存在する水蒸気の質量)a(g/m)の値は、水蒸気の状態方程式から導かれる下記の式2により、同様に一義的に求めることができる。
【0018】
【数2】

【0019】
本明細書において、「絶対湿度」は、反応基質としての水分子の絶対量を意味し、「相対湿度」は、残留空気との比率を意味する。相対湿度の好ましい範囲については後述するが、本明細書において、「湿度」は絶対湿度または相対湿度のいずれかで示す。
【0020】
本発明においては、(1)の段階における気相置換度あるいは減圧度を考慮して、導入が完了した際の最終の圧力条件、すなわち、続く(2)の段階における水蒸気圧は、0.10〜0.56MPaであることが好ましく、0.10〜0.37MPaであることがより好ましく、0.10〜0.32MPaであることがさらに好ましい。上記した温度及び圧力条件の範囲の場合、続く(2)の段階における加熱水蒸気雰囲気中での加水分解を効果的に行うことができる。また、水蒸気の導入量は、550〜2,800g/mであることが好ましく、550〜1,950g/mであることがより好ましく、550〜1,700g/mであることがさらに好ましい。かかる範囲の場合、続く(2)における湿度の好ましい範囲を提供することが可能となる。なお、水蒸気の導入速度は特に制限されることはない。目安として挙げると、100g/m・分以上であることが好ましく、500〜5,000g/m・分であることがより好ましい。
【0021】
上記減圧化処理は、1回行うことにより所望の効果を得られるが、複数回繰り返すことによって効果的となる場合もある。具体的には、1〜5回行うことが好ましく、1〜2回行うことがより好ましい。かかる繰り返しは、所要時間や精密な分子量調節の要求度に応じて適宜選択することができる。
【0022】
また、上記気相置換処理として、一部開放された反応器内に外部から水蒸気を導入する方法、一部解放した状態で反応器を加熱し、あらかじめ投入された反応器底部の水から水蒸気を発生させる方法、及び、あらかじめ乳酸ポリマーが吸収または表面に付着している水分から、加熱によって水蒸気を発生させる方法などが挙げられる。これらの方法は、装置及び基質などの条件、並びに処理時間の要求度に応じて適宜選択することができる。
【0023】
本発明に用いることのできる乳酸ポリマーは、特に制限されることはないが、重量平均分子量(Mw)でいうと、5万〜200万であり、5万〜100万であることが好ましく、5万〜50万であることがより好ましい。また、数平均分子量(Mn)でいうと、1万5千〜100万であり、1万5千〜50万であることが好ましく、1万5千〜25万であることがより好ましい。かかる範囲の場合、成形性と物性とのバランスの取れた樹脂物性が得られる。なお、重量平均分子量は、サイズ排除クロマトグラフィー(SEC(GPC))や光散乱といった方法により判定することができ、数平均分子量は、GPC(SEC)、末端基滴定、蒸気圧オスモメトリー及び浸透圧法などの公知の方法により測定することができる。なお、本明細書では、重量平均分子量及び数平均分子量についてGPC法を採用した。
【0024】
一般的に、SECによって求められる分子量(M)は、ポリスチレンを基準とした分子量であり、乳酸ポリマーの絶対分子量を求めるには、ユニバーサルキャリブレーションカーブ法(汎用較正曲線法)が利用される。これは、下記式3に示される関係に基づくものであり、かかる関係を用いることによって、乳酸ポリマー(A)の絶対分子量(M)をポリスチレン(B)換算分子量(M)から求めることができる。ここで、[η]は固有粘度を表す。固有粘度[η]については、下記式4で表わされ、K(dl/g)及びaは比例定数である。乳酸ポリマーについては、例えば下記に示すように、三組のパラメーターが報告されており、これらのパラメーターを用いて計算することにより、乳酸ポリマーの絶対分子量を求めることができる。かかるユニバーサルキャリブレーションカーブ法を用いて評価された分子量は、ポリスチレン基準分子量の約30〜50%の範囲であり、分子量によって直線的に変化する。但し、一般的に乳酸ポリマーの分子量(重量平均分子量、数平均分子量)を表現する場合、SEC法を用いたポリスチレン換算分子量で表現されるため、本明細書においても、上記絶対分子量ではなく、前記SEC法を用いたポリスチレン換算分子量で表現する。
【0025】
【数3】

【0026】
【数4】

【0027】
【数5】

【0028】
(参考文献:Die Makromolekulare Chemie、Vol.193、1992年、pp.1623−1631)
【0029】
【数6】

【0030】
(参考文献:Macromolecules、Vol.25、1992年、pp.6419−6424)
【0031】
【数7】

【0032】
(参考文献:Journal of Polymer Science:Polymer Chemistry Edition、Vol.17、1979年、pp.2593−2599)
また、乳酸ポリマーの誘導体として、グリコール酸ユニット、ε−カプロラクトンユニット(ω−ヒドロキシヘキサン酸ユニット)及びヒドロキシエチルオキシプロピオン酸ユニットなどが、ランダム共重合、ブロック共重合、及び/またはグラフト共重合されたものが挙げられる。好ましくは、柔軟性と疎水性付与の効果からε-カプロラクトンユニットをブロック共重合したもの、また加水分解性促進効果からグリコール酸ユニットをランダム共重合したものが挙げられる。
【0033】
本発明における乳酸ポリマー及び/またはその誘導体は成型体であってもよい。前記成型体の具体例として、繊維、フィルム、シート、ペレット、ボトル、カップなどの押出成型体、射出成型体、ブロー成型体、真空成型体、圧縮成型体などが挙げられる。前記成型体として、破砕されたものを利用することも好ましい態様の一つである。なぜなら、続く(2)の段階において、成型体の表面積が大きいほど、加水分解反応が速やかに進行しうるからである(後述)。したがって、成型端材などの破砕・粉砕された成型体もまた本発明の成型体に含まれ、破砕・粉砕された成型体の平均径は、0.1〜100mmであることが好ましく、1〜70mmであることがより好ましく、2〜50mmであることがさらに好ましい。
【0034】
また、本発明に使用可能な反応器は、一般的に滅菌処理や各種ポリマーを製造する際に使用するものであって、密閉系のものであれば特に制限されないが、例えば、オートクレーブや滅菌処理装置などが挙げられる。本発明によれば、乳酸ポリマーから、乳酸やラクチドの生成量を有意に抑える一方で、乳酸オリゴマーを優先的に生成するため、乳酸等に起因する反応器の腐食という問題が極めて生じにくくなる。従って、反応器の材質の面でも特に制限されることはなく、金属製のものであってもよいことはいうまでもない。
【0035】
前記乳酸ポリマー及び/またはその誘導体、あるいはそれらの成型体の前記反応器への導入形態については、特に制限されることはない。ただし、前記成型体の場合には、そのままの状態で導入してもよいが、上記した通り、表面積と嵩密度を高めるために破砕または粉砕したものを導入してもよい。
【0036】
続いて、(2)の段階、すなわち、加熱水蒸気雰囲気中で前記乳酸ポリマー及び/またはその誘導体を加水分解する段階について説明する。加熱水蒸気処理の温度及び圧力は、100〜155℃、及び0.10〜0.56MPaの条件下で行われるのが好ましい。かかる範囲の場合、加水分解速度が実用上十分に大きく、乳酸ポリマーの溶融が起こりにくく、その他のポリマーとの分離が容易となり、さらに、モノマーユニットの立体配置の反転が起こりにくくなり、光学純度の低下を抑制するといった効果が得られる。また、より好ましい加熱水蒸気処理の温度及び圧力は、100〜135℃、及び0.10〜0.32MPaである。かかる範囲の場合、上記した効果に加えて、水蒸気の圧力が比較的低く抑えられ、安全面での問題が生じにくくなるという効果も得られる。また、加水分解の時間としては、容器内の温度及び圧力、並びに目標とする乳酸オリゴマーの分子量に応じて、適宜選択されるが、30分〜5時間で処理するのが処理プロセス上適当である。加水分解反応中の反応容器中の水蒸気量は、本段階全体を通じて、乳酸ポリマー内部での自己触媒的加水分解を実行する観点から、好ましくは550〜2,800g/m、より好ましくは550〜1,700g/mの範囲で維持する。従って、かかる範囲内に反応系の水蒸気量を維持するため、場合によっては本段階において水蒸気を導入または排出してもよい。前記導入の方法については、上記した(1)の段階と同様の方法を用いることができ、前記排出の方法については、後述する(3)の段階と同様の方法を用いることができる。
【0037】
液相中での加水分解処理の場合、その表面張力によって、疎水的な乳酸ポリマーからなる成型体内部への水分の浸透は難しく、乳酸ポリマー内部での自己触媒的加水分解の反応速度が顕著に小さくなり、結果的に乳酸オリゴマーの生成が困難となる。さらには、生成された乳酸や低分子量オリゴマー等の酸成分は水相中に抽出されるため、抽出された酸成分が加水分解装置を腐食しやすいという問題点を有する。これに対し、本発明による気相中での処理は、加水分解の反応分子である水分子を気体として、乳酸ポリマーからなる成型体の内部まで浸透させるものである。これにより、乳酸ポリマーからなる成型体の内部において加水分解が進行し、前記内部に新たにカルボキシル基が生成され、このカルボキシル基が触媒となって、加水分解を促進させることができる。すなわち、自己触媒型加水分解反応によって効率的な分解が進行しうる。さらに、分解した乳酸オリゴマーは、形態を保持したままの成型体の内部に留保されるため、乳酸オリゴマー等の酸成分による加水分解装置の腐食を低減させることができる。
【0038】
上記反応によって、酸成分による加水分解装置の腐食を実用上十分に低減できるが、一部の乳酸及び/または一部の低分子量の乳酸オリゴマーが水蒸気中に拡散・気化しうるため、装置内の表面を多少腐食する場合がある。装置を長期的に安全に使用するという観点からいえば、装置内での加水分解は、前記加熱水蒸気雰囲気と塩基性物質に由来する塩基性雰囲気との共存下で行われることが好ましい。すなわち、前記装置内に、塩基性雰囲気を作り出すための中和用の塩基性物質を別個に添加・設置しておくことが好ましい。前記塩基性物質の設置量は、乳酸ポリマーから発生する揮発性乳酸および乳酸オリゴマーを吸収・中和可能な量であれば十分であり、具体的には、乳酸ポリマー中の乳酸ユニットのモル数に対して、1〜100モル%であることが好ましく、2〜50モル%であることがより好ましく、3〜20モル%であることがさらに好ましい。かかる範囲の場合、加熱水蒸気雰囲気による加水分解反応をほとんど阻害することなく、装置内の表面の腐食を防ぐことができる。なお、前記揮発性乳酸は、乳酸の沸点である119℃(1.6kPa)を超えて加熱すると発生し、蒸気中で比較的容易に拡散・気化しうる。
【0039】
前記塩基性物質は、固体状で揮発しない塩基性物質であれば、公知の塩基性物質を特に制限なく用いることができるが、好ましくは、汎用性の面から水酸化カルシウム、水酸化マグネシウム、酸化カルシウム、酸化マグネシウム及び水酸化ナトリウムから選択される一種以上の塩基性物質が用いられる。加熱水蒸気雰囲気で塩基性物質が装置内に共存する場合、乳酸ポリマーに起因して発生し、気化・拡散した乳酸や低分子量乳酸オリゴマーは中和され、装置内の腐食を防止できる。
【0040】
乳酸オリゴマーとは、一般には、ポリマーの低分子量成分のものをいうが、本明細書では、乳酸オリゴマーを乳酸ポリマーと区別している。すなわち、本明細書における「乳酸ポリマー」とは乳酸オリゴマーを除く高分子量体を意味する。一方、本明細書における「乳酸オリゴマー」は、定性的には非晶相の均一分解から不均一分解へと移行する臨界点での分子量(臨界点分子量)として定義される。かかる臨界点を超えることによって、結晶相同士を結びつけている非晶相において進行する加水分解によって非晶相の強度が著しく低下し、弱い外的圧力によって容易にクラックが生じ破断が起きやすくなる(崩壊臨界値)。崩壊臨界値に到ると成型体は崩壊しやすくなる。定量的な臨界点分子量は、結晶化度や結晶サイズ(ラメラ厚に相当する繰り返し分子長)に依存する。一方、崩壊臨界値は、結晶配向やラメラ結晶同士を結ぶ分子密度、並びに外圧の程度、及び外圧のかかる方向性などによって様々に変化する値であるが、通常、「崩壊臨界値」よりも「臨界点分子量」の方が、値としては大きい。
【0041】
本明細書における「結晶化度」は、示差走査熱量計(DSC)により融解熱測定から求めた値をいう。示差走査熱量計を用いて、サンプル質量約5mg、昇温速度10℃/分、走査温度40〜220℃の測定条件とした。DSCから融解熱(ΔH)を算出し、下記式8により結晶化度(Xc)を求める。
【0042】
【数8】

【0043】
式中、Xcは結晶化度(%)、ΔHはサンプルの融解熱(J/g)、ΔHtherは無限大のラメラサイズのポリ−L−乳酸結晶の融解エンタルピー(93J/g)である。
【0044】
また、本明細書における「結晶サイズ」は、例えばラメラ結晶のC軸方向の折り返し長をいう。広角及び/または小角のX線回折測定装置を用いて、例えばCuKα線をサンプルに照射し、その回折図形より結晶構造及び結晶サイズ、並びにラメラ間距離などを求める。一度求めた結晶サイズの繰り返し長に相当する分子量が、例えばSEC法によって求めた多峰性ピークの分子量と一致した場合、以後、SECによって、結晶サイズの繰り返し長を随時モニタリングすることが可能である。
【0045】
臨界点の具体的な分子量が結晶化度や結晶サイズに依存するということは、乳酸ポリマーからなる成型品の種類・形状が前記分子量(臨界分子量)に影響を及ぼすことを意味する。例えば、結晶サイズの大きな製品(成型品)は臨界分子量が相対的に大きく、逆に、結晶サイズの小さな製品(成型品)は臨界分子量が相対的に小さい。後述の実施例に示すように、ペレット状の乳酸ポリマーの場合、臨界点での重量平均分子量が約3万であり、数平均分子量が約1万である。
【0046】
また、臨界点分子量に達する時間は、一般に、初期分子量、結晶化度、及び乳酸オリゴマーの表面積に依存する。初期分子量が高いほど、臨界点分子量に到達する時間は長くなり、表面積が大きいほど、水蒸気の浸透開始面積が広がり、反応が加速しうる。一方、結晶化度が大きいほど、非晶質の割合が相対的に減少するため、非晶質部分で進行するランダム加水分解(均一な加水分解)が早期に非ランダム加水分解(不均一な加水分解)へと移行し、非晶質で優先される非ランダム加水分解(不均一な加水分解)は、結晶相を取り巻く非晶質部分の破断を促進し、早期に崩壊臨界値に到ることとなりやすい。崩壊臨界値に到るまでの時間を長くするには、結晶サイズを小さくし、結晶化度を低下させることが一つの方法であるが、一方で製品全体の強度の低下を招き、低応力での崩壊を招きやすい。また、結晶化度の低下は、優先的に分解しやすい非晶質部分を増加させるため、加水分解速度そのものを増大させうる。
【0047】
以上のように、乳酸ポリマーのオリゴマー化による崩壊への道程は、各製品の臨界点分子量、形状、表面積、結晶化度及び結晶サイズなどによりそれぞれ異なる。乳酸ポリマー製品の崩壊の開始は、SECプロファイルの単峰性から多峰性への変化によって確認することができ、前記したようにそれぞれ固有の臨界点分子量と崩壊臨界値を示す。後述の実施例において、乳酸ポリマー製のバイオマスカップ、卵パック及び皿といった形状を用いて、機械的強度、すなわち崩壊しやすさなどを実験している。
【0048】
また、「乳酸オリゴマー」は、以下のような特徴を有している。
・機械的強度が小さいため、容易に破砕・粉砕されやすい。
・熱分解温度が低いため、より小さなエネルギーでラクチドに変換される。
・加水分解速度が大きいため、溶液系では容易に乳酸に変換される。
・固体であるため、液の漏洩や酸性による腐食がない。
・破砕・粉砕後は、乳酸ポリマー成型品のように嵩高くはない。
このような特徴は、使用済みプラスチック成型品をケミカルリサイクルする際に不可避となる輸送・破砕・保管プロセスを効率的に行うために極めて有効である。
【0049】
続いて、(3)の段階、すなわち、減圧して水蒸気を排出し、乾燥空気及び/または不活性ガスを導入する段階について説明する。本発明において回収される乳酸オリゴマーは、その重量平均分子量が1,000未満になると、融点が著しく低下し、軟化しやすくなる。さらに、加水分解の進行によって、親水性のカルポキシル基や水酸基の生成が促進され、凝縮水分を吸着・水和することにより、膨潤しやすくなる。膨潤した乳酸オリゴマーは融着を起こしやすく、結果的に破砕・粉砕化を妨げることとなりやすい。かかる膨潤や融着を防ぐために、水蒸気処理の後に再び減圧しながら冷却し、系内の水蒸気を排出後、乾燥空気及び/または不活性ガスを導入することによって、融着の主要因である残留水分を効率的に排除することにより、効果的に破砕・粉砕化しやすい固体状の乳酸オリゴマーとすることができる。
【0050】
後述する実施例2〜5のように、中規模〜大規模での実施の場合には、加圧水蒸気が満たされた状態から冷却減圧していき、常圧以下の減圧条件とした後に乾燥空気及び/または不活性ガスを導入、置換するという一連の操作が、同一容器内で連続的に行われることが好ましい。一方、後述する実施例1及び6〜8のように、小規模の装置での「試験」の場合には、オートクレーブなどの加圧容器において水蒸気加熱を行った後、減圧し大気圧下でサンプルを取り出して真空乾燥器中に移し、さらに減圧、置換を行ってもよい。その際に使用するオートクレーブ、真空乾燥器については、本明細書に記載の条件に見合う装置であれば特に制限されることはない。
【0051】
前記水蒸気は、バルブ操作などにより徐々に大気圧まで減圧された後に、最終的に真空ポンプなどにより0.02MPa以下の圧力条件まで排出されるのが好ましく、0.01MPa以下の圧力条件まで排出されるのがより好ましく、0.001〜0.01MPaの圧力条件まで排出されるのがさらに好ましい。また、水蒸気の大部分が排出される際の容器内の温度は、50〜155℃であることが好ましく、70〜140℃であることがより好ましく、90〜135℃であることがさらに好ましい。さらに、排出が完了した際の最終の水蒸気圧、すなわち、続く乾燥空気及び/または不括性ガスの導入開始時の圧力条件は、0.02MPa以下であることが好ましく、0.01MPa以下であるのがより好ましく、0.005MPa以下であることがさらに好ましく、0.0001〜0.005MPaであることが最も好ましい。また、減圧状態が保たれる時間は5分〜5時間が好ましく、10分〜3時間がさらに好ましく、15分〜1時間が特に好ましい。上記した温度、圧力条件及び保持時間の範囲の場合、上記(2)の段階で得られた乳酸オリゴマーの融着の原因となりうる、内部への水蒸気の凝縮をより効果的に抑えることができる。また、水蒸気の排出速度は最速の段階において、100g/m・分以上であることが好ましく、500g/m・分以上であることが好ましく、1,000g/m・分以上であることがさらに好ましく、1,000〜10,000g/m・分であることが最も好ましい。かかる範囲の場合、乾燥空気及び/または不活性ガスを上記(2)の段階で得られたオリゴマー等に、より効果的に作用させることができる。
【0052】
前記乾燥空気の相対湿度(温度0〜80℃)は、60%以下であることが好ましく、30%以下であることがより好ましく、10〜30%であることがさらに好ましい。導入される際の乾燥空気の温度は、0〜80℃であることが好ましく、10〜60℃であることがより好ましく、15〜50℃であることがさらに好ましい。また、前記不活性ガスとして、窒素、二酸化炭素、ヘリウム、ネオン、アルゴン、クリプトン、キセノン及びラドンから選択される一種以上が挙げられる。導入される際の不活性ガスの温度は、0〜80℃であることが好ましく、10〜60℃であることがより好ましく、15〜50℃であることがさらに好ましい。
【0053】
また、前記乾燥空気及び/または不活性ガスの導入量(導入速度)は、1L/分以上であることが好ましく、10L/分以上であることがより好ましく、100L/分以上であることがさらに好ましく、100〜500L/分であることが最も好ましい。前記乾燥空気及び/または不活性ガスの導入に要する時間は、30分以内であることが好ましく、10分以内であることがより好ましく、0.5〜10分であることがさらに好ましく、1〜10分であることが特に好ましい。
【0054】
このような、減圧化処理から乾燥空気及び/または不活性ガスでの置換処理までは、1回行うことにより所望の効果を得られるが、複数回繰り返すことによりさらに効果的となりうる。より具体的には、処理時間の短縮という観点より、1回で行うことが好ましく、水蒸気の完全な置換という観点より、2〜5回行うことがより好ましい。
【0055】
また、続く(4)の段階で、得られた乳酸オリゴマーを回収するために、本(3)の段階において冷却を行ってもよい。冷却の最終到達温度は、10〜90℃が好ましく、15〜60℃がより好ましい。また、冷却速度は、5℃/分以上が好ましく、10℃/分以上がより好ましく、10〜50℃/分がさらに好ましい。
【0056】
続いて、(4)の段階、すなわち、上記(3)の段階により得られた乳酸オリゴマー及び/またはその誘導体を回収する段階について説明する。上述したように、ケミカルリサイクルによる循環利用を有意に効果的かつ容易にするためには、回収される乳酸オリゴマーの破砕や粉砕化を容易にすることが重要となる。そして、乳酸オリゴマーの破砕や粉砕化の指標となり得る上記した臨界点分子量が結晶サイズに依存するという観点より、乳酸オリゴマー及び/またはその誘導体の重量平均分子量は50,000以下であることが好ましく、30,000以下であることがより好ましく、20,000以下であることがさらに好ましく、15,000以下であることが特に好ましく、1,000〜15,000であることが最も好ましい。また、乳酸オリゴマー及び/またはその誘導体の数平均分子置は25,000以下であることが好ましく、15,000以下であることがより好ましく、10,000以下であることがさらに好ましく、7,500以下であることが特に好ましく、1,000〜7,500であることが最も好ましい。
【0057】
回収方法については、特に制限されることはなく、反応器の形状やサイズ等に応じて、当業者であれば、利用可能なあらゆる方法を採用しうる。
【0058】
上記(1)〜(4)の段階を通じた結果、初発の乳酸ポリマーを100質量部とすると、加水分解によって乳酸オリゴマーが100質量部以上得られ、さらに、乳酸及びラクチドが、それぞれ125質量部及び約100質量部を上限として最終的に生成しうる。
【0059】
以上のように、本発明の第一態様によれば、使用済みの嵩高い乳酸ポリマー成型品を、輸送・保管に効率的な嵩密度の大きな乳酸オリゴマー破砕物または粉砕物へと容易に変換することができる。また、ケミカルリサイクルの対象となるのは、乳酸ポリマー成型品とその他のポリマー成型品との混合物である場合が多い。本発明の第一態様によれば、前記混合物から優先的に乳酸ポリマー成型品だけを加水分解して乳酸オリゴマーとし、容易に破砕・粉砕可能な結果として、乳酸オリゴマーの破砕物・粉砕物をその他のポリマー成型品から容易に分離回収できる。従って、使用済みの高分子量の乳酸ポリマー、または乳酸ポリマーを含む混合物からなる成型品を、後述する本発明の第二態様であるケミカルリサイクルする上で、その前処理方法として本態様の処理方法を極めて効果的に利用できる。すなわち、本発明は、嵩高い乳酸ポリマー成型品と他のポリマー成型品との混合物から、乳酸ポリマー成型品を優先的に嵩密度の大きな乳酸オリゴマーの破砕物・粉砕物に変換し、輸送・保管に有効なケミカルリサイクルの前処理方法を提供することができる。
【0060】
(第二態様)
本発明の第二態様は、(5)上記第一態様に記載の回収方法により得られた乳酸オリゴマー及び/またはその誘導体から、熱分解によりラクチドを生成するか、及び/または加水分解により乳酸を生成する段階と、(6)前記ラクチド及び/または前記乳酸を重合することによって、乳酸ポリマー及び/またはその誘導体を合成する段階と、を有する乳酸ポリマー及び/またはその誘導体のリサイクル方法である。
【0061】
本態様のケミカルリサイクルに用いられる乳酸ポリマーの形態としては、上記第一態様で詳説してきた乳酸ポリマー及び/またはその誘導体、あるいはそれらの成型品が挙げられる。また、前記形態には、前記乳酸ポリマー及び/またはその誘導体を含む樹脂組成物からなる成型体も含まれうる。前記樹脂組成物からなる成型体の構成成分として、乳酸ポリマー、高密度ポリエチレン、低密度ポリエチレン、直鎖状低密度ポリエチレン及びポリプロピレンなどのポリオレフィン類、ポリスチレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリカーボネート、アクリロニトニル−ブタジエン−スチレン共重合体、ポリブチレンサクシネート(PBS)及びそれらの誘導体などが挙げられる。好ましくは、乳酸ポリマー、ポリオレフィン類、ポリスチレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリカーボネート、及びそれらの誘導体である。構成成分の組成比として、乳酸ポリマー樹脂100質量部に対し、その他の樹脂1〜10,000質量部、より好ましくは10〜1,000質量部、さらに好ましくは20〜500質量部である。
【0062】
まず、(5)の段階について説明する。上記第一態様に記載の回収方法により得られた乳酸オリゴマー及び/またはその誘導体は、解重合(以下、「熱分解」ともいう)によってラクチドに、加水分解によって乳酸にそれぞれ変換することができる。上述のように、本発明の第一態様により得られる乳酸オリゴマー及び/またはその誘導体は、ラセミ化することなく光学純度が高いため、かかる乳酸オリゴマー及び/またはその誘導体から変換されるラクチド及び乳酸もまた高い光学純度を有しうる。従って、ケミカルリサイクルの過程で生成される乳酸やラクチドは、商品価値が非常に高いという特徴を有する。なお、ラセミ化を起こしていないことを確認する方法として、核磁気共鳴スペクトル法(NMR法)、光学異性体分割カラムを装着したガスクロマトグラフィー法(GC法)及び高速液体クロマトグラフィー法(HPLC法)、熱分解−ガスクロマトグラフィー−質量分析法(熱分解−GC/MS法)などが挙げられる。これらNMR法、GC法、HPLC法、及び熱分解−GC/MS法などについては従来公知の方法・条件が適用可能である。本明細書においては、HPLC法を採用する。
【0063】
乳酸オリゴマーの解重合によりラクチドを得る場合、好ましくは180〜300℃、より好ましくは200〜250℃の温度で加熱する。かかる範囲の場合、短時間で解重合を行うことができるとともに、アクリル酸、メソラクチド、一酸化炭素及びアルデヒド等といった副生成物の生成を抑えることができる。かかる解重合の際、圧力は、0.01MPa以下、より好ましくは0.005MPa以下、さらに好ましくは0.001MPa以下、最も好ましくは0.0001〜0.001MPaである。乳酸オリゴマー及び/またはその誘導体のみの存在下では、解重合の際に十分な反応速度が得られないような場合には、乳酸オリゴマー及び/またはその誘導体を、触媒を用いて減圧下で接触熱分解することによってラクチドを得ることが好ましい。前記触媒はエステル交換触媒であれば特に制限されることはなく、例えば、Sb、オクチル酸スズ、酸化スズ、酸化第一鉄及び酸化マグネシウム等が挙げられる。触媒を用いた接触熱分解の一例を挙げると、減圧熱分解反応釜に移し、0.13〜4.00kPaの圧力条件で、乳酸オリゴマー及び/またはその誘導体の質量に対して0.01〜5質量%の酸化第一スズを添加し、180〜230℃で1〜10時間ポリマーを熱分解してラクチド留分を得ることができる。なお、熱分解して蒸気状で留出してくるラクチドを蒸留塔に通して分留し、精製ラクチドを回収することもできる。熱分解蒸留工程からのラクチド解分の純度は高いが、さらに、晶析法、有機溶剤を用いた再結晶化法によって精製することにより、光学純度の高いラクチドを得ることができる。なお、本明細書における精製ラクチドの製造方法は、主に、特開2004−149418号公報に開示された方法に基づくものであり、該公報を参照することにより本願に引用される。
【0064】
一方、乳酸に変換するための加水分解は、固形分100質量部に対して、好ましくは15質量部以上、より好ましくは15〜1,000質量部の水を加えて行う。本発明における溶解のための加熱は、ラセミ化による光学純度の低下を防止する観点より、好ましくは170℃未満、より好ましくは80〜155℃の条件で行う。但し、100℃以上の温度で加熱する場合は、水の蒸発を抑制するために、大気圧以上の圧力で加熱することが好ましい。加熱時間は特に限定されないが、0.25〜5時間が好ましく、1〜3時間がより好ましい。
【0065】
また、上記の加熱による加水分解反応を一層促進する目的で、上記の条件下でさらに触媒を添加してもよい。触媒の種類は特に限定されず、従来公知のものを単独または二種以上を併用して使用できる。例えば、酸化第一鉄が挙げられる。添加量は特に限定されないが固形分100質量部に対して20質量部以下が好ましく、0.1〜20質量部がより好ましい。さらに、加水分解による溶解を促進する目的で加水分解酵素を用いてもよい。加水分解酵素の種類は特に限定されず、例えば、Cryptococcus sp. S−2由来リパーゼ等が挙げられるが、従来公知のものを単独または二種以上を併用して使用できる。
【0066】
次に、(6)の段階について説明する。上記(5)の段階で得られたラクチド及び/または前記乳酸を重合することによって、乳酸ポリマー及び/またはその誘導体を合成する方法として、従来公知の方法を採用することができ、例えば、ラクチドを経由する方法(ラクチド法)や直接重合による方法(直接重合法)などが挙げられる。ラクチド法について説明すると、乳酸を加熱脱水重合すると低分子量のポリ乳酸、すなわち乳酸オリゴマーが得られるが、このオリゴマーをさらに減圧下で加熱分解することにより、乳酸の環状二量体であるラクチドが得られる。ラクチドは重合触媒存在下で容易に重合し、ポリ乳酸が得られる。触媒としては、オクチル酸スズなどが挙げられる。その他アルミニウムやランタノイドのイソプロポキシド、亜鉛の塩なども重合活性を有するため使用可能である。また、直接重合法について説明すると、ジフェニルエーテルなどの溶媒中で乳酸を減圧下加熱し、水を除去しながら重合させることによって直接乳酸ポリマーが得られる。その他、溶融バルク重合法などによる合成法もありうる。
【実施例】
【0067】
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、これらの実施例は何ら本発明の範囲を制限するものではない。
【0068】
<実施例1 ペレット状乳酸ポリマーの水蒸気分解>
まず、(1)の段階として、ペレット状のL−乳酸ポリマー900g(レイシア、三井化学株式会社製、Mn93,500、Mw189,000)を、オートクレーブ(モデルSS−325、内容量55L、トミー社製)中に入れ、オートクレーブの内部温度を昇温させ、底部の水層から水蒸気を発生させてオートクレーブ内の空気を約3分で水蒸気に置換した。このようにして、水蒸気を前記底部の加熱により徐々に発生させた。本段階において、オートクレーブ内部をかかる水蒸気で充たされた状態にした。導入が完了した際の最終の水蒸気圧は0.202MPaであった。また、水蒸気の導入量は約1,100g/mであった。
【0069】
次に、(2)の段階として、上記(1)の段階により作り出されたオートクレーブ内部の状態で加水分解処理が開始された。120℃、0.20MPaの飽和水蒸気雰囲気(加熱水蒸気処理の温度及び圧力)下、加熱水蒸気処理(加水分解反応)を30分間行った。その際、反応容器中の水蒸気圧は、本段階全体を通じて約0.20MPaに維持した。加水分解反応中の反応容器中の水蒸気量は、本段階全体を通じて約1,100g/mに維持した。
【0070】
続いて、(3)の段階として、まず、サンプルを取り出して真空乾燥器中に移した。0.1MPaの大気圧雰囲気から減圧を行い、0.005MPa(排出が完了した際の最終の水蒸気圧)まで減圧して処理された乳酸ポリマー中の水分、すなわち水蒸気を排出した。その際、排出時の前記、容器内の温度は120℃、水蒸気の排出速度は、135g/m・分であった。30分後、代わりに乾燥空気(相対湿度(25℃)60%)を5分以内に導入し気相置換を行った。本段階において、導入される際の乾燥空気の温度は25℃であり、装置内の初期圧力は0.005MPa以下であった。また、前記乾燥空気の導入量(導入速度)は、約100L/分であり、前記乾燥空気の導入に要する時間は、0.2分であった。なお、最終圧力は常圧(約0.1MPa)であった。
【0071】
上記(1)〜(3)の操作を一連の操作としてさらに8回繰り返し(合計9回)、30分間ごとの水蒸気処理乳酸ポリマーサンプルを回収した。なお、かかるサンプルの品温についていえば、加圧状態での品温が130度、加圧状態を解いて真空乾燥機に移した状態での品温が110℃程度であり、また、水分の蒸発により潜熱が奪われるとともに、常温の空気導入により冷却されることから、減圧中、置換を行う段階でも徐々に冷却される。このような状況より、(1)〜(3)が終わった状態での各回の品温が、70℃程度になっているものと推測しつつ実験を行った。さらに、上記一連の操作の最終回(9回目)における(3)の段階後の冷却速度を10℃/分以上とし、冷却の最終到達温度を40℃とした。
【0072】
その後、(4)の段階で回収した各水蒸気処理時間における乾燥処理済のペレットを、クロロホルムに溶解し、サイズ排除クロマトグラフィー(SEC(GPC))(GPC−8220、東ソー(株)製、カラム TSKgel Super HM−H、検出器UV−8220及びRI−8220)を用いて、分子量及び分子量分布を測定した。加熱水蒸気処理の累積時間が開始後30分から4.5時間までにおける平均分子量の変化を図1に示す。図1より、水蒸気処理とともに、数平均分子量及び重量平均分子量が両方とも低下したことを見出した。また、SEC結果を図2に示す。図2はSECプロファイルを表しており、log(MW)がより大きい側のプロファイル、すなわち、より高分子量のプロファイルが未処理の乳酸ポリマーのプロファイルである。SECでの分析を通じて、加熱水蒸気処理とともに、グラフが低分子量側(log(MW)の小さい側)へとシフトしていくことを確認した。かかる結果より、累積時間として2.5時間を経過すると、SECプロファイルが単蜂性から多峰性へと変化したことを確認した。
【0073】
GPCのアウトプットとして、0.1〜0.2秒に1回、時間とRI検出値がコンピュータ上に送られ、コンピュータ内で、「時間」が「分子量(MW)」に変換される。一方、あらかじめ、コンピュータ内には検量線データがインプットされている。したがって、図2の横軸を、時間から自動的に変換された分子量、すなわちlog(MW)で表している。
【0074】
さらに、図3には、分子量分布の変化を示した。その結果、累積時間が約2.5時間の時点で急激な分子量分布の増大を示したことを確認した。これらの結果から、水蒸気処理開始後、約2時間の時点に均一な加水分解から不均一な加水分解へと移行する臨界点が存在することを見出した。また、図1より、前記臨界点における分子量は、数平均分子量(Mn)が約10,000、重量平均分子量(Mw)が約30,000であることも見出した。
【0075】
かかる臨界点は、非晶相のランダム加水分解(不均一な加水分解)の限界点を意味しており、乳酸ポリマーのサンプルが崩壊しやすくなる状態への移行点でもある。前記臨界点を越えると多峰性を示し(図2)、これは、Mnとして10,000超の結晶相由来の成分が残存する一方で、Mnとして10,000未満である非晶相由来の成分が生成したことを示している。なお、累積時間が4.5時間の処理サンプルを乳酸まで加水分解した後、HPLC測定によりD−乳酸の発生を確認したところ、D−乳酸が生じていないことを確認した。
【0076】
<実施例2〜5、比較例1〜4 成型品の加熱水蒸気処理>
まず、(1)の段階として、乳酸ポリマー成型品3種(形状:バイオマスカップ、卵パック、皿)、及び比較対照として乳酸ポリマーを含まないポリエチレンテレフタレート(PET)製卵パックを準備した。各々の分子量は以下の通りである。
・バイオマスカップ:Mn91,000、Mw200,000
・卵パック:Mn88,000、Mw196,000
・皿:Mn104,000、Mw175,000
・ポリエチレンテレフタレート(PET)製卵パック:極限粘度0.72g/dl
これらをそれぞれ別々にポリプロピレン製コンテナに入れ、オートクレーブ(三浦プロテック製、高圧蒸気滅菌機Zクレーブ、内容積1.22m)中で、室温(25℃)下、0.005MPaまで減圧して空気を排出した。そして空気の代わりに、表1に示した温度でそれぞれ水蒸気を導入した。この操作をさらに2回繰り返して系内の空気を排除した(合計3回で総所要時間5分)。本段階において、導入が完了した際の最終の水蒸気圧は表1に内圧として示した通りであり、水蒸気の導入量は1,110g/m(120℃、約0.202MPa:実施例2、比較例1)、1,480g/m(130℃、約0.275MPa:実施例3及び4、比較例2及び3)、並びに1,700g/m(135℃、約0.320MPa:実施例5、比較例4)であった。また、水蒸気の導入速度はいずれも、約500g/m・分であった。
【0077】
次に、(2)の段階として、上記(1)の段階で作り出した水蒸気雰囲気下、表1に示した条件でそれぞれ加熱水蒸気処理(加水分解処理)を行った。本段階において、反応容器中の水蒸気雰囲気条件は、本段階全体を通じて表1の条件を維持した。なお、加水分解反応中の反応容器中の水蒸気量は、本段階を通じて、上記した導入量の範囲を維持した。
【0078】
続いて、(3)の段階として、再び0.005MPaまで減圧して水蒸気を排出し、排出される際の前記水蒸気の排出速度は約1,000g/m・分であった。なお、排出時の前記容器内の温度はそれぞれ、120℃(実施例2、比較例1)、130℃(実施例3及び4、比較例2及び3)、並びに135℃(実施例5、比較例4)であった。水蒸気の排出完了後、代わりに乾燥空気(相対湿度(25℃)50%)を3分以内に導入し、気相置換を行った。本段階において、導入される際の乾燥空気の温度は25℃であり、装置内の圧力は0.005MPaの圧力条件で導入され、乾燥空気の導入量(導入速度)は約2,000L/分であった。なお、排出が完了した際の最終の水蒸気圧は、0.005MPaであった。また、前記乾燥空気の導入に要する時間は、約1分であった。かかる水蒸気の排出及び乾燥空気の導入に関する操作を3回繰り返し行った(合計4回)。その後、約10℃/分の速度で冷却し、冷却の最終到達温度は80℃であった。
【0079】
その後、(4)の段階で回収した成型品について、手による圧迫試験を行い、成型品の崩壊の可否とその程度を判定した。その厳果、本発明による加熱水蒸気処理なしでは崩壊不可能であった乳酸ポリマー成型品が、前記加熱水蒸気処理によって、手による圧迫のみで容易に崩壊し、フレーク状に変化することが確認された(実施例2〜5)。一方、ポリエチレンテレフタレート(PET)製卵パックの場合、全く同一条件で実験を行ったところ、得られた成型品について手による圧迫試験を行っても崩壊させることは不可能であった(比較例1〜4)。
【0080】
なお、加熱水蒸気処理サンプルを乳酸まで加水分解後、HPLC測定によりD−乳酸の発生を確認したところ、D−乳酸が生じていないことを確認した。
【0081】
【表1】

【0082】
また、上記加熱水蒸気処理に伴う各成型品の分子量の変化を表2及び表3に示した。これらの結果が示すように、乳酸ポリマー成型品が、加熱水蒸気処理によって乳酸オリゴマー成型品に変換されたことは明らかである。
【0083】
【表2】

【0084】
【表3】

【0085】
<実施例6 乳酸ポリマー成型品とポリエチレンテレフタレート成型品との加熱水蒸気処理による分離>
乳酸ポリマー成型品としての乳酸ポリマー製卵パック(Mnの初期値91,000、Mwの初期値200,000)と、比較対照としてのポリエチレンテレフタレート製卵パックを、10枚ずつ交互に重ね合わせて結束した。
【0086】
まず、(1)の段階として、これをオートクレーブ(モデル SS 325、トミー製)に入れ、オートクレーブの内部温度を昇温させ、底部の水層を沸騰状態としてオートクレーブ内の空気を約3分で水蒸気に置換した。本段階において、オートクレーブ内部をかかる水蒸気で充たされた状態にした。また、導入が完了した際の最終の水蒸気圧は0.202MPaであった。そして、水蒸気の導入量は約1,100g/mであった。
【0087】
次に、(2)の段階として、上記(1)の段階により作り出されたオートクレーブ内部の状態で加水分解処理が開始された。120℃、0.20MPaの加熱水蒸気(加熱水蒸気処理の温度及び圧力)下、加熱水蒸気処理(加水分解反応)を2時間行った。本段階において、反応容器中の水蒸気圧は、本段階全体を通じて約0.20MPaに維持した。反応容器中の水蒸気量は、本段階全体を通じて約1,110g/mに維持した。
【0088】
続いて、(3)の段階として、まず、サンプルを取り出して真空乾燥器中に移した。約0.1MPaの大気圧雰囲気から0.005MPa(排出が完了した際の最終の減圧度)まで減圧しながら処理された乳酸ポリマー中の水分、すなわち水蒸気を排出した。その際、排出時の前記容器内の温度を120℃とした。水蒸気の排出速度は、135g/m・分であった。30分後、代わりに乾燥空気(相対湿度(25℃)60%)を5分以内に導入し気相置換を行った。本段階において、導入される際の乾燥空気の温度は25℃であり、装置内の圧力は0.005MPa以下の圧力条件で導入された。また、前記乾燥空気の導入量(導入速度)は、約100L/分であり、前記乾燥空気の導入に要する時間は、0.2分であった。なお、最終圧力は常圧(約0.1MPa)であった。冷却速度は、10℃/分以上であり、冷却の最終到達温度は40℃であった。なお、(3)の段階の操作は1回のみ行った。
【0089】
その後、(4)の段階として、回収したものを破砕用のゴム球とともに破砕ドラム内に入れ、回転破砕を室温(25℃)下、1時間行った。破砕処理により、乳酸ポリマー製卵パックはフレーク状になり、結束した処理物から容易に離脱した。そして、最終的に、結束したままのポリエチレンテレフタレート(PET)製卵パックと、フレーク状乳酸オリゴマーとに分離した。SECによる分子量測定の結果、フレーク状に変化した乳酸オリゴマーの数平均分子量(Mn)は21,700であり、重量平均分子量(Mw)は47,800であった。
【0090】
なお、加熱水蒸気処理サンプルを乳酸まで加水分解後、HPLC測定によりD−乳酸の発生を確認したところ、D−乳酸が生じていないことを確認した。
【0091】
<実施例7 水蒸気分解処理における減圧の効果>
まず、(1)の段階として、乳酸ポリマー成型端材(Mnの初期値90,900、Mwの初期値193,000、平均径5mm)をポリプロピレン製織布バッグに入れ、バッグの口を開けた状態で、オートクレーブ(高圧蒸気滅菌機Zクレーブ、三浦プロテック製)中に置き、室温(25℃)下、0.005MPaまで減圧して空気を排出し、代わりに130℃の水蒸気を導入した(所要時間約2分)。最終的な圧力条件は0.276MPaであり、前記蒸気の温度は130℃であった。この操作をさらに2回繰り返して系内の空気を水蒸気に置換した。導入が完了した時の最終の圧力条件は0.276MPaであり、水蒸気の導入量は1,480g/mであり、水燕気の導入速度は約500g/分であった。なお、E(t)=0.276MPaであり、絶対湿度(a)は1,480(g/m)であった。
【0092】
次に、(2)の段階として、上記(1)の段階で作り出した水蒸気雰囲気下、130℃、0.276MPaで加熱水蒸気処理(加水分解処理)を2時間行った。本段階において、反応容器中の容器内の温度、圧力、および水蒸気量を、本段階全体を通じて、概ねそれぞれ130℃、0.276MPa、及び1,480g/mに維持した。
【0093】
続いて、(3)の段階として、水蒸気の排出速度を約1,000g/m・分として水蒸気を排出した(排出時の前記容器内の温度:130℃)。約2分後、再び0.005MPaまで減圧して水蒸気を排出し、代わりに乾燥空気(相対湿度(25℃)50%以下)を約2,000L/分の導入速度(導入量)で約1分以内に導入し、気相置換を行った後、反応器内を冷却した。本段階において、導入される際の乾燥空気の温度は25℃であり、装置内の圧力は0.005MPaの圧力条件で導入され、乾燥空気の導入量(導入速度)は約2,000L/分であり、排出が完了した際の最終の減圧度は0.005MPaであった。(3)の段階の操作をさらに2回繰り返し(合計3回)、その後、約10℃/分の速度で冷却し、冷却後の最終到達温度は80℃であった。
【0094】
その後、(3)の段階で回収した乾燥成型端材は、融着することなく容易にフレーク状として回収された。得られたフレークの数平均分子量(Mn)は3,300であり、重量平均分子量(Mw)は12,300であった。
【0095】
なお、加熱水蒸気処理サンプルを乳酸まで加水分解後、HPLC測定によりD−乳酸の発生を確認したところ、D−乳酸が生じていないことを確認した。
【0096】
<比較例5 水蒸気分解処理における減圧の効果>
ポリプロピレン製織布バッグの口を閉めて、かつ、(1)の段階における圧力条件を0.025MPaとして加水分解処理を行ったことを除いては、実施例7と同様の方法・条件で実験を行った。その結果、冷却後、バッグ内の乳酸ポリマー成型端材は水分により膨潤し、さらに融着して一体化した。なお、(4)の段階で回収した融着体の数平均分子量(Mn)は6,700であり、重量平均分子量(Mw)は17,300であった。本実験においてバッグの口を閉めたことにより、空気及び加熱水蒸気の出入りが抑制される状態となった。そのため、比較例5におけるバッグ内の乳酸ポリマー成型端材は、(1)の段階における空気の排出及び加熱水蒸気による置換、(2)の段階における加熱水蒸気による加水分解、並びに(3)の段階における加熱水蒸気の排出のいずれもが実施例7に比べて顕著に不十分となった。その結果、加水分解の進行が遅れたため、得られたフレークの平均分子量が大きく、かつ、残留水蒸気の凝縮によって膨潤・一体化したものと推測される。
【0097】
実施例7と比較例5との違いは、(1)の段階における減圧度の違い(それぞれ0.005MPa、0.025MPa)、及び、バッグを通しての水蒸気の拡散・排出速度の違いのみである。実施例7と比較例5との比較より、減圧度の違いによる加水分解速度が変化し、減圧度が小さい(0.025MPa)の場合、乳酸オリゴマーの到達分子量は、減圧度が高い(0.005MPa)の場合に比べて、高いことを見出した。また、比較例5では、バッグからの水蒸気の排出が抑制されたため、残留水蒸気が乳酸オリゴマー内で凝縮し、乳酸オリゴマーが膨潤し、冷却されるにつれて乳酸オリゴマーが一体化した。一方、実施例7では、効果的な空気及び加熱水蒸気の導入・排出により、加水分解反応が促進され、かつ、乳酸オリゴマーの膨潤・融着を効果的に抑制できることを見出した。これにより、本発明によれば、端材のハンドリングや移送が有意に簡便となる。
【0098】
<実施例8、9 ペレット状乳酸ポリマーの水蒸気分解における塩基性化合物の共存の効果>
まず、(l)の段階として、オートクレーブ(モデル SS 325、トミー製)中に、図4に示した加熱水蒸気反応器1を設置した。加熱水蒸気反応器1は、その内部にさらに2つの容器、外套2、及びメッシュ蓋3を有している。前記2つの容器とは、固体塩基添加用容器4及びポリ乳酸添加用容器5である。ポリ乳酸添加用容器5の中にペレット状乳酸ポリマー(レイシア、三井化学株式会社製、Mn93,500、Mw189,000)200gを入れた。次に、固体塩基添加用容器4の底部に、50gの水酸化カルシウムを加えた場合(実施例8)と加えなかった場合(実施例9)とで比較を行った。図4に示した、外套2の天井部6、メッシュ蓋3の直上部7、メッシュ蓋3の外縁部8及び固体塩基添加用容器4の内壁部9の各場所にpH試験紙を貼り付けた。次に、オートクレーブの内部温度を昇温させ、底部の水層から水蒸気を発生させてオートクレーブ内の空気を約3分で水蒸気に置換した。オートクレーブ内部をかかる水蒸気で充たされた状態にした。E(t)=0.202MPaであり、絶対湿度は1,110g/mであった。導入が完了した際の最終の圧力条件は0.202MPaであった。また、水蒸気の導入量は1,110g/mであった。塩基性物質である水酸化カルシウムについては、前記塩基性物質の設置量は、乳酸ポリマー中の乳酸ユニットのモル数に対して、約49モル%であった。
【0099】
次に、(2)の段階として、上記(1)の段階で作り出した水蒸気雰囲気下、約3分でオートクレーブ内部は水蒸気の飽和水蒸気雰囲気(加熱水蒸気処理の温度120℃、及び加熱水蒸気処理の圧力0.202MPa)で充たされ、この状態で加熱水蒸気処理が開始された。続く加熱水蒸気処理は、上記条件で3時間行った。反応容器中の水蒸気圧は、本段階全体を通じて約0.20MPaに維持した。また、反応容器中の水蒸気量は、本段階全体を通じて、約1,110g/mに維持した。
【0100】
続いて、(3)の段階として、水蒸気の排出速度を約50L/分として水蒸気を排出し、サンプルを取り出して真空乾燥器中に移し、0.005MPaまで減圧して処理された乳酸ポリマー中の水蒸気を排出した(排出時の前記容器内の温度:約120℃)。30分間の排出処理後、代わりに乾燥空気(相対湿度(25℃)60%)を5分以内で導入し気相置換を行った。本段階において、導入される際の乾燥空気の温度は25℃であり、装置内の圧力は0.05MPaの圧力条件で導入され、乾燥空気の導入量(導入速度)は約2,000L/分であった。なお、最終圧力は常圧(約0.1MPa)であった。上記排出操作中に、処理された乳酸ポリマーを徐々に冷却し、冷却の最終到達温度は40℃であった。なお、(3)の段階の操作は1回のみ行った。
【0101】
その後、(4)の段階で回収した、乾燥したペレットをクロロホルムに溶解して、SEC(GPC−8220、東ソー(株)製カラムTSKgel Super HM−H、検出器UV−8220及びRI−8220)を用いて、分子量及び分子量分布を測定した。その結果、数平均分子量(Mn)が5,800及び重量平均分子量(Mw)が15,500(実施例8)、並びに数平均分子量(Mn)が5,800及び重量平均分子量(Mw)が16,800(実施例9)となり、いずれのGPC曲線も多峰性を示した(データは示さず)。なお、加熱水蒸気処理サンプルを乳酸まで加水分解後、HPLC測定によりD−乳酸の発生を確認したところ、D−乳酸が生じていないことを確認した。
【0102】
反応後のpH試験紙の色の変化から、上記した各場所での乳酸の存在状況を確認した。その結果を表4に示す。なお、表中の数値はpHの測定値を示す。表4の結果より、加熱水蒸気雰囲気と塩基性化合物(水酸化カルシウム)との共存(実施例8)によって、塩基性雰囲気の存しない加熱水蒸気雰囲気の場合(実施例9)と比較して、容器内壁のpH変化がより小さくなり、内壁の腐食をより効果的に抑制することが可能となることを見出した。
【0103】
【表4】

【0104】
<実施例10―1 乳酸オリゴマーからのラクチドの合成(I)>
まず、解重合(熱分解)によるラクチド合成を実施した。実施例3で得られたバイオマスカップ由来の乳酸オリゴマー(数平均分子量19,000、乳酸モノマー換算含量約117%)を450g(乳酸として5.85モル)、90%のL−乳酸水溶液450g(4.5モル)を撹拌機付きのフラスコに仕込み、触媒として酸化第一スズ(以下、「SnO」ともいう)3.6gを添加し、加熱脱水を開始し徐々に減圧し、1時間かけて最終的に160℃、20hPaとした。さらに、この状態で1時間脱水を続けプレポリマーを合成した。
【0105】
次に、上記プレポリマーを別のフラスコに移し、減圧を20hPaとし徐々に昇温し、最終的に220℃に保って、溜出した粗ラクチドを受器に捕集した。該受器を氷冷して粗ラクチドを固化させた。反応蒸留は2時間で終了した。粗ラクチドの収量は670gであり、その組成は下記表5の通りである。分析は、(株)島津製作所製ガスクロマトグラフィー(GC−8Aシステム)及び京都電子工業(株)製カールフィッシャー水分計<MKS−520>等で行った。なお、表中の「D+L−ラクチド」とは、D−ラクチドとL−ラクチドとの混合物であり、組成比率はD−ラクチドとL−ラクチドとの各々の組成比率の合計である。その他の表においても同様である。
【0106】
【表5】

【0107】
次に、上記の固化した粗ラクチドを乳鉢で粗粉砕後、粗ラクチド計502gを約50gずつに分けてステンレス製のカップ10個に移し、それぞれに20℃の水を約50gずつ加えて得られたスラリーを、温度を20℃に保ちつつホモジナイザーで2分間粉砕しながら水洗し、クリーム状のスラリーを得た。
【0108】
次に、上記スラリーを遠心濾過した後、さらに、既に仕込んだ粗ラクチドと等量の水502gを結晶ケークに噴霧することによって結晶を洗浄し、再度遠心濾過してラクチドの結晶を分離した。分離したラクチドの結晶を40℃、減圧下で乾燥した。その際の収量は420gであり、ラクチドの回収率は95.3%であった。組成は下記表6の通りであった。また、乾燥後の結晶粒度を測定したところ、その平均粒度は200メッシュ以下であった。
【0109】
【表6】

【0110】
次に、上記ラクチドの結晶400gをMIBK400gに60℃で溶解し、撹拌しながら冷却して晶析させた。その後、25℃で1時間保ち、それから結晶を遠心濾過して分離し、50℃、減圧下で乾燥した。得られた精製L−ラクチドは321gであり、ラクチドの回収率は82.7%であった。また、組成は下記表7の通りであった。
【0111】
【表7】

【0112】
<実施例10―2 乳酸オリゴマーからのラクチドの合成(II)>
まず、加水分解による乳酸の生成を実施した。実施例3で得られたポリ乳酸製卵パック由来の乳酸オリゴマー(数平均分子量4,600、乳酸モノマー換算含量約113%)を800g(乳酸として10.0モル)、90%のL−乳酸水溶液100g(1.0モル)及び水900gを撹拌機付きのフラスコに仕込んだ。沸騰状態下で全還留しながら加水分解を10時間行い、固形分がほとんど無い状態の乳酸溶液を得た。さらに、触媒として酸化第一スズ3.6gを添加し、加熱脱水を開始し徐々に減圧し、3時間かけて最終的に160℃、20hPaとした。さらに、この状態で1時間脱水を続けてプレポリマーを合成した。
【0113】
次に、上記プレポリマーを別のフラスコに移し、20hPaの減圧条件下、徐々に昇温し、最終的に220℃で保ちながら、溜出した粗ラクチドを受器に捕集した。該受器を氷冷して粗ラクチドを固化させた。反応蒸留は2時間で終了した。粗ラクチドの収量は690gであり、その組成は下記表8の通りであった。
【0114】
【表8】

【0115】
次に、上記の固化した粗ラクチドを乳鉢で粗粉砕後、粗ラクチド計499gを約50gずつステンレス製のカップ10個に移し、それぞれに20℃の水を約50gずつ加えて得られたスラリーを、温度を20℃に保ちつつ、ホモジナイザーで2分間粉砕しながら水洗し、クリーム状のスラリーを得た。
【0116】
次に、上記スラリーを遠心濾過した後、さらに、既に仕込んだ粗ラクチドと等量の水499gを結晶ケークに噴霧することによって結晶を洗浄し、再度遠心濾過してラクチドの結晶を分離した。分離したラクチドの結晶を40℃、減圧下で乾燥した。その際の収量は402gであり、ラクチド回収率は92.8%であった。また、組成は下記表9の通りであった。また、乾燥後の結晶粒度を測定したところ、その平均粒度は200メッシュ以下であった。
【0117】
【表9】

【0118】
次に、上記ラクチド結晶360gをMIBK360gに60℃で溶解し、撹拌下に冷却して晶析し、25℃として1時間保ち、結晶を遠心濾過して分離し、50℃、減圧下に乾燥した。得られた精製L−ラクチドは283gであり、ラクチドの回収率は81.9%であった。また、組成は下記表10の通りであった。
【0119】
【表10】

【0120】
<実施例11 蒸気分解したポリ乳酸製卵パックを原料とするラクチドからのポリ乳酸の再生>
実施例11(11−1、11−2)における分析は以下の方法で行った。また、比較例11−3においても同様の方法で分析した。
【0121】
1.重量平均分子量(Mw)
株式会社島津製作所製ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)システムにより、ポリスチレン換算の値を測定した。
【0122】
2.ポリマー中のL/D比率
(株)島津製作所製の高速液体クロマトグラフィー(HPLC)紫外光検出器(SPD−6AVシステム)を用いて測定した。
【0123】
3.ポリマー中の未反応モノマー(ラクチド)含量
島津製作所製のガスクロマトグラフィー(GC−14Bシステム)により測定した。
【0124】
<実施例11−1>
攪拌、減圧及び加圧装置を備えた反応器中に、上記実施例10―1における表7の組成を有する、蒸気分解したポリ乳酸製バイオマスカップを原料とする精製L−ラクチド100g、重合開始剤としてラウリルアルコール0.2gを仕込み、窒素置換を3回行った。最初に190℃にて原料を溶融した後、金属重合触媒として2−エチルヘキサン酸スズ0.010gを添加して、窒素雰囲気下で撹拌しながら3時間、L−ラクチドの開環重合を行った。なお、本明細書におけるL−ラクチドの開環重合については、特願2006−356241号を参照することにより本願に引用される。重合反応終了後に得られたポリ乳酸のMw、未反応モノマー含量及び光学純度を測定した。得られたポリ乳酸は、Mw20.7万、未反応モノマー含量4.1質量%、L−体含量99.9モル%であった。
【0125】
<実施例11−2>
攪拌、減圧及び加圧装置を備えた反応器中に、上記実施例10―2における表10の組成を有する、蒸気分解したポリ乳酸製卵パックを原料とする精製L−ラクチド100gを仕込み、その他の条件は実施例11−1と同様にして開環重合を行った。開環重合反応の終了後に得られたポリ乳酸(PLA)のMw、未反応モノマー含量及び光学純度を測定した。得られたポリ乳酸は、Mw18.7万、未反応モノマー含量4.5質量%、L−体含量99.6モル%であった。
【0126】
<比較例11−3>
攪拌、減圧及び加圧装置を備えた反応器中に、市販の精製L−ラクチド(株式会社武蔵野化学研究所製、重合グレード、光学純度100%ee)100gを仕込み、その他の条件は実施例11−1と同様にして開環重合を行った。開環重合反応の終了後に得られたPLAのMw、未反応モノマー含量及び光学純度を測定した。得られたPLAは、Mw20.1万、未反応モノマー含量4.2質量%及びL−体含量99.9モル%であった。
【0127】
上記実施例(11−1、11−2)及び比較例(11−3)の分析値を下記の表11に示す。原料ラクチドがリサイクル由来のものであっても、上記のような方法により重合することによって、市販品(重合グレード)を原料とするものとほぼ同質のPLAを合成できることが明らかとなった。
【0128】
得られたポリ乳酸(PLA)は、重量平均分子量(Mw)、未反応のモノマー含量及びL−体含量の全ての項目で、一般的なポリ乳酸重合生成物とほぼ同等の分析値であり、品質上問題のないものであることを確認した。
【0129】
【表11】

【図面の簡単な説明】
【0130】
【図1】実施例1における、乳酸ポリマーの水蒸気処理を伴う平均分子量の変化を示す図である。
【図2】実施例1における、乳酸ポリマーの水蒸気処理に伴うSECプロファイルの変化を示す図である。
【図3】実施例1における、乳酸ポリマーの水蒸気処理を伴う分子量分布の変化を示す図である。
【図4】実施例8及び9における、ペレット状の乳酸ポリマーの水蒸気分解における塩基性化合物の共存の効果を確認するための各種容器を示す図である。
【符号の説明】
【0131】
1 加熱水蒸気反応器、
2 外套、
3 メッシュ蓋、
4 固体塩基添加用容器、
5 ポリ乳酸添加用容器、
6 外套2の天井部、
7 メッシュ蓋3の直上部、
8 メッシュ蓋3の外縁部、
9 固体塩基添加用容器4の内壁部。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(1)重量平均分子量5万〜200万の乳酸ポリマー及び/またはその誘導体を反応器に入れて、減圧及び/または気相置換して水蒸気を導入する段階と、
(2)加熱水蒸気雰囲気中で前記乳酸ポリマー及び/またはその誘導体を加水分解する段階と、
(3)減圧して水蒸気を排出し、乾燥空気及び/または不活性ガスを導入する段階と、
(4)前記(3)の段階により得られた重量平均分子量1千〜5万の乳酸オリゴマー及び/またはその誘導体を回収する段階と、を上記(1)〜(4)の順序で有する、乳酸オリゴマー及び/またはその誘導体の回収方法。
【請求項2】
前記(2)の段階において、前記加水分解は、前記加熱水蒸気雰囲気と塩基性物質に由来する塩基性雰囲気との共存下で行われる、請求項1に記載の回収方法。
【請求項3】
前記(1)の段階において、前記水蒸気は、0.02MPa以下の減圧下で導入される、請求項1または2に記載の回収方法。
【請求項4】
前記(2)の段階において、前記加熱は、100〜155℃の温度、及び0.05〜0.56MPaの圧力の条件下で行われる、請求項1〜3のいずれか1項に記載の回収方法。
【請求項5】
前記(3)の段階において、前記水蒸気は、0.02MPa以下の減圧下で排出される、請求項1〜4のいずれか1項に記載の回収方法。
【請求項6】
前記塩基性物質が、水酸化カルシウム、水酸化マグネシウム、酸化カルシウム、酸化マグネシウム及び水酸化ナトリウムから選択される一種以上である、請求項2〜5のいずれか1項に記載の回収方法。
【請求項7】
(5)請求項1〜6のいずれか1項に記載の回収方法により得られた乳酸オリゴマー及び/またはその誘導体から、熱分解によりラクチドを生成する、及び/または加水分解により乳酸を生成する段階と、
(6)前記ラクチド及び/または前記乳酸を重合することによって、乳酸ポリマー及び/またはその誘導体を合成する段階と、を有する、乳酸ポリマー及び/またはその誘導体のリサイクル方法。

【図1】
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【図3】
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【図2】
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【図4】
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【公開番号】特開2009−249508(P2009−249508A)
【公開日】平成21年10月29日(2009.10.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−99486(P2008−99486)
【出願日】平成20年4月7日(2008.4.7)
【出願人】(504174135)国立大学法人九州工業大学 (489)
【出願人】(390022301)株式会社武蔵野化学研究所 (63)
【Fターム(参考)】