説明

ポルフィリン誘導体

【課題】機能性分子が導入されたポルフィリン誘導体およびその中間体、並びにそれらの製造方法の提供。
【解決手段】トリアゾールを介して複数の機能性分子が導入されたポルフィリン誘導体。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、機能性分子が導入された新規なポルフィリン誘導体およびその中間体、並びにそれらの製造方法に関する。
【従来の技術】
【0002】
光を吸収し、そのエネルギーを基底状態の他の化学種に受け渡すことによりその励起状態を効率的に発生させることのできる化合物は「光増感剤」と呼ばれている。近年特に基底状態の酸素(三重項酸素)を励起させ、毒性の高い活性酸素類(一重項酸素など)を発生させることのできる光増感剤が注目を集めており、このような光増感剤を標的細胞(ガン細胞等)にあらかじめ吸収させておき、光照射によって発生する活性酸素で標的細胞を死滅させる手法が「光線力学療法」として盛んに研究されている。光線力学療法にもちいる光増感剤としては、(1)光照射によって一重項酸素を効率的に発生させることができること、(2)光照射を行わない条件では無毒であることのほか、(3)水溶性であること、(4)特定細選択性があること、等が重要である。
【0003】
ところでポルフィリンは、無毒かつ高い一重項酸素発生効率を有していることから光線力学療法のための光増感剤として有望であることが知られている。一方で、ポルフィリンは水溶性が低いため、薬剤としての投与が難しいことも知られている。また、ポルフィリンは細胞選択性を持たないため、標的とするガン細胞以外の通常細胞にも吸収されてしまい、副作用の危険性の増大や必要とする薬剤投与量の増大が避けられないことも知られている。これらの諸問題を解決する一つの手段として、ポルフィリンに対する糖鎖導入が現在幅広く研究されている(非特許文献1)。糖鎖は高い水溶性と細胞特異性を兼ね揃えていることから、糖鎖を複数導入したポルフィリンは前述した光増感剤としてのポルフィリンの長所に加え、糖鎖由来の水溶性と細胞特異性を兼ね揃えた実用的な光感受性薬剤となることが期待される。
【0004】
これまでに、ポルフィリンに糖鎖等の機能性分子基を導入する方法として、様々な方法が試みられてはいる(非特許文献2)。しかし、合成(精製)の容易さと様々な糖構造への容易な展開性の両者を充足することができる方法はこれまでに知られていない。
【0005】
また、従来の方法では、ポルフィリンに導入できる糖鎖の数に限りがあり、このことは完全な水溶性を有する糖鎖修飾ポルフィリンがこれまでほとんど得られていないことにも繋がっている。
【0006】
さらに、糖鎖と糖認識タンパク質との相互作用は糖の密集状態に大きく影響されることから(糖のクラスター効果)、導入可能な糖鎖の数が限定される従来法では、タンパクと強くかつ選択的に相互作用する糖鎖修飾ポルフィリンを得ることは困難であった。
【0007】
以上のことから、「合成の容易さ」「様々な糖構造への容易な展開性」「多数の糖鎖の導入とそれに伴う良好な水溶性と生体分子認識能」を併せ持つ、新たな糖鎖修飾ポルフィリンの開発が急務である。
【非特許文献1】M. Obata et. al., BBA general subjects 2007, vol.1770, 1204-1211
【非特許文献2】T. Hasegawa et al.,Tetrahedron, 2005, 61, 7783-7788
【発明の概要】
【0008】
本発明者らは、メタ位に2つの末端アルキンを有するベンズアルデヒド誘導体とピロールとの環化カップリングにより末端アルキンが8つ導入されたポルフィリン誘導体を合成し、続いて該末端アルキン修飾ポルフィリン誘導体とラクトースを有するアジド化合物とを反応させることにより、8つのラクトースが導入されたがポルフィリン誘導体の合成に成功した(実施例1)。本発明は、この知見に基づくものである。
【0009】
本発明は、機能性分子が導入された新規なポルフィリン誘導体およびその中間体、並びにそれらの製造方法の提供を目的とする。本発明はまた、機能性分子をポルフィリンへ導入する方法の提供を目的とする。
【0010】
本発明によれば、式(I)で表されるポルフィリン誘導体が提供される:
【化1】

[上記式中、
、R、R、R、R、R、RおよびRは、同一または異なっていてもよく、水素原子、C1−6アルキル基、カルボキシル基、または基−CHCH(OCHCH―OH(ここで、nは1〜100の整数を表す)を表し、
、X、XおよびXは、同一または異なっていてもよく、水素原子;C1−6アルキル基、硫酸基、水酸基、カルボキシル基で置換されていてもよい、飽和もしくは不飽和の5〜7員の単環式炭素環もしくは複素環、;C1−6アルキル基、硫酸基、水酸基、カルボキシル基で置換されていてもよい、飽和もしく不飽和の9〜12員の二環式炭素環もしくは複素環;または少なくとも1つの末端アルキン基が結合されたスペーサー基、少なくとも1つの末端アジド基が結合されたスペーサー基、もしくは少なくとも1つの機能性分子基が結合されたスペーサー基{ここで、スペーサー基は、アミド基;C1−6アルキル基または水酸基で置換されていてもよい飽和もしくは不飽和の5〜7員の単環式炭素環もしくは複素環;C1−6アルキル基または水酸基で置換されていてもよい飽和もしく不飽和の9〜12員の二環式炭素環もしくは複素環;または1〜8個の炭素原子を有する飽和または不飽和の非環式炭化水素基を含んでなる基を表し、末端アルキン基は、基−Z−(CH−Z−C≡CH(ここで、ZおよびZは、同一または異なっていてもよく、単結合、酸素原子、硫黄原子、>NH、アミド基、カルボニル基、フェニレン基、ピリジレン基を表し、mは0〜6の整数を表す)を表し、末端アジド基は、基−Z−(CH−Z−N(ここで、ZおよびZは、同一または異なっていてもよく、単結合、酸素原子、硫黄原子、>NH、アミド基、カルボニル基、フェニレン基、ピリジレン基を表し、mは0〜6の整数を表す)を表し、機能性分子基は、基−Z−(CH−Z−T―A(ここで、ZおよびZは、同一または異なっていてもよく、単結合、酸素原子、硫黄原子、>NH、アミド基、カルボニル基、フェニレン基、ピリジレン基を表し、mは0〜6の整数を表し、Tはトリアゾールの残基を表し、Aは、水溶性付与性分子、生体分子認識性分子、光捕集性分子、およびレドックス制御分子からなる群から選択される機能性分子の残基を表す)を表す}を表し、
ただし、X、X、XおよびXの少なくとも1つが、少なくとも1つの末端アルキン基が結合されたスペーサー基、少なくとも1つの末端アジド基が結合されたスペーサー基、または少なくとも1つの機能性分子基が結合されたスペーサー基である]。
【0011】
本発明によれば、式(II)で表されるポルフィリン誘導体の金属錯体が提供される:
【化2】

(上記式中、Mは錯体形成金属であり、R、R、R、R、R、R、RおよびR、並びにX、X、XおよびXは、式(I)で定義された内容と同義である)。
【0012】
本発明によれば、本発明によるポルフィリン誘導体を製造する方法であって、
(i)少なくとも1つの末端アルキン基が結合されたスペーサー基(ここで、少なくとも1つの末端アルキン基が結合されたスペーサー基は式(I)で定義された内容と同義である)を有するアルデヒド化合物と、水素原子、C1−6アルキル基、カルボキシル基、または基−CHCH(OCHCH)n―OH(ここで、nは1〜100の整数を表す)で置換されていてもよいピロールとを縮合する工程
を含んでなり、必要であれば、
(ii)工程(i)で得られたポルフィリン誘導体とN−A(ここで、Aは式(I)で定義された内容と同義である)とを反応させる工程
を含んでなる、方法が提供される。
【0013】
本発明によれば、本発明によるポルフィリン誘導体を製造する方法であって、
(iii)少なくとも1つの末端アジド基が結合されたスペーサー基(ここで、少なくとも1つの末端アジド基が結合されたスペーサー基は式(I)で定義された内容と同義である)を有するアルデヒド化合物と、水素原子、C1−6アルキル基、カルボキシル基、または基−CHCH(OCHCH)n―OH(ここで、nは1〜100の整数を表す)で置換されていてもよいピロールとを縮合する工程
を含んでなり、必要であれば、
(iv)工程(iii)で得られたポルフィリン誘導体とHC≡C−A(ここで、Aは式(I)で定義された内容と同義である)とを反応させる工程
を含んでなる、方法が提供される。
【0014】
本発明によれば、ポルフィリンに機能性分子を導入する方法であって、少なくとも1つの末端アルキンを有するポルフィリン誘導体とアジド基を有する機能性分子とを反応させる工程を含んでなる、方法が提供される。
【0015】
本発明によれば、ポルフィリンに機能性分子を導入する方法であって、少なくとも1つのアジド基を有するポルフィリン誘導体と末端アルキンを有する機能性分子とを反応させる工程を含んでなる、方法が提供される。
【0016】
本発明による機能性ポルフィリン誘導体は、少なくとも1つの末端アルキンを有する本発明による中間体と、機能性分子を有するアジド化合物とをカップリング反応させることによって得ることができる。あるいは、本発明による機能性ポルフィリン誘導体は、少なくとも1つの末端アジドを有する本発明による中間体と、機能性分子を有する末端アルキンとをカップリング反応させることによって得ることができる。この反応は極めて高収率で進行し、不完全なカップリングを抑制することで単一成分の機能性分子が導入されたポルフィリンの合成を促進するとともにその後の精製作業の簡略化が期待できる点で有利である。また、この反応は、非常に化学選択的に進行し、いかなる共存官能基による阻害・副反応も引きおこさないことから、いかなる構造を有する機能性分子もポルフィリンに導入できると期待され、様々な構造を有するポルフィリンの網羅的な合成が極めて簡便に行うことができる点で有利である。また、カップリングの反応操作は、脱酸素や脱水といった厳しい条件も不必要であることから、非常に簡便に行うことができる点で有利である。
【0017】
本発明によればまた、ポルフィリンのメタ位に機能性分子を導入して分子に「厚み」を持たせ、疎水性であるポルフィリンの共役平面の上下を水溶性の機能性分子で立体的に被覆することによりポルフィリン同士の会合を妨げ、水溶性の向上を図ることができる点で有利である。
【0018】
本発明によればさらに、機能性分子の導入数を増やすことにより、機能性分子を密集させた「分子クラスター」と形成することにより、本発明による機能性ポルフィリン誘導体と機能性分子認識分子との親和性の向上を図ることができる点で有利である。
【発明の具体的な説明】
【0019】
本願明細書において、「飽和または不飽和の5〜7員の単環式炭素環」は、飽和または不飽和の炭素数5〜7の単環式炭素環を意味する。例えば、シクロペンチル、シクロヘキシル、シクロヘプチル、フェニル等が挙げられる。
【0020】
本願明細書において、「飽和または不飽和の5〜7員の単環式複素環」は、1〜3個の異種原子を含有していてもよい、飽和または不飽和の5〜7員の単環式複素環を意味する。異種原子は、同一または異なっていてもよく、窒素原子、酸素原子、および硫黄原子から選択される。例えば、ピリジル、フラニル、ピペリジル、ピリミジル、イミダゾル、チエニル、チオフェニル、イソキサゾイル、1,2,3−オキサジアゾイル、フラザニル、1,2,3−トリアゾイル、1,2,4−トリアゾイル、ピリダジル、ピロリニル、ピロニル、モルホニル、トリアジニル等が挙げられる。
【0021】
本願明細書において、「飽和または不飽和の9〜12員の二環式炭素環」としては、例えば、ナフタレニル、ナフチル、インデニル等が挙げられる。
【0022】
本願明細書において、「飽和または不飽和の9〜12員の二環式複素環」は、1〜5個の異種原子を含有していてもよい、飽和または不飽和の9〜12員の二環式複素環を意味する。異種原子は、同一または異なっていてもよく、窒素原子、酸素原子、および硫黄原子から選択される。例えば、インドリル、キノリニル、キナゾリニル、1,3−ベンゾジオキソール、イソインドリル、インダゾリル、ベンゾトリアゾリル、1H−ピラゾロ[3,4−d]ピリミジル、ベンゾトリアゾリル、イソキノリニル、ナフチリジニル、ベンゾイミダゾリニル、ベンゾチアゾリニル、ベンゾオキサゾリニル、3,4−メチレンジオキシフェニル等が挙げられる。
【0023】
本願明細書において、「1〜8個の炭素原子を有する飽和または不飽和の非環式炭化水素基」としては、例えば、「C1−8アルキレン基」、「C2−8アルケニレン基」、「C2−8アルキニレン基」等が挙げられる。好ましくは、2〜6個の炭素原子を有する飽和または不飽和の非環式炭化水素基である。
【0024】
本明細書において、「C1−8アルキレン基」とは、それぞれ、直鎖または分岐鎖の炭素数1〜8のアルキレン基を意味する。例えば、メチレン基、エチレン基、プロピレン基、ブチレン基等が挙げられる。
【0025】
本明細書において、「C2−8アルケニレン基」とは、二重結合を1〜3個有する直鎖または分岐鎖の炭素数2〜8のアルケニレン基を意味する。例えば、ビニレン基、1−プロペニレン基、2−プロペニレン基、1−ブテニレン基、2−ブテニレン基、3−ブテニレン基、1,3−ブタジエニレン基、1−ペンテニレン基、2−ペンテニレン基、3−ペンテニレン基、4−ペンテニレン基、1,3−ペンタジエニレン基、1−ヘキセニレン基、2−ヘキセニレン基、3−ヘキセニレン基、4−ヘキセニレン基、5−ヘキセニレン基、1,3,5−ヘキサトリエニレン基等が挙げられる。
【0026】
本明細書において、「C2−8アルキニレン基」とは、三重結合を1〜3個有する直鎖または分岐鎖の炭素数2〜8のアルキニレン基を意味する。例えば、エチニレン基、1−プロピニレン基、2−プロピニレン基、1−ブチニレン基、2−ブチニレン基、3−ブチニレン基、1−ペンチニレン基、2−ペンチニレン基、3−ペンチニレン基、4−ペンチニレン基、1−ヘキシニレン基、2−ヘキシニレン基、3−ヘキシニレン基、4−ヘキシニレン基、5−ヘキシニレン基等が挙げられる。
【0027】
本願明細書において、「C1−6アルキル基」は、基が直鎖または分岐鎖のアルキル基を意味する。例えば、メチル基、エチル基、n‐プロピル基、イソプロピル基、n‐ブチル基、i−ブチル基、s‐ブチル基、t‐ブチル基、n‐ペンチル基、n‐ヘキシル基等が挙げられる。
【0028】
本願明細書において、「4級アミン基」は、−N(−R)(−R)(−R)で表される基(ここで、R、R、Rは、同一または異なっていてもよく、C1−6アルキル基から選択される)を意味する。例えば、トリエチルアンモニウム基である。
【0029】
本願明細書において、「ポリエチレングリコール基」は、−CHCH(OCHCH)n―OHで表される(ここで、nは1〜100の整数を表す)。nは、好ましくは、1〜50である。
【0030】
本願明細書において、「硫酸基」は、−OSO(OH)で表される。
【0031】
本願明細書において、「リン酸基」は、−OPO(OH)で表される。
【0032】
[機能性ポルフィリン誘導体の中間体]
本発明による機能性分子が導入されたポルフィリン誘導体(以下、「本発明による機能性ポルフィリン誘導体」ということがある)は、ポルフィリンのメソ位(すなわち、ポルフィリンの5、10、15、または20位)にスペーサー基を介して複数個の末端アルキン基または末端アジド基を有するポルフィリン誘導体の中間体(以下、「本発明による中間体」ということがある)を用いることにより得ることができる。
【0033】
第一の態様の中間体
本発明による中間体は、X、X、XおよびXが、同一または異なっていてもよく、水素原子;C1−6アルキル基、硫酸基、水酸基、カルボキシル基で置換されていてもよい、飽和もしくは不飽和の5〜7員の単環式炭素環もしくは複素環、;C1−6アルキル基、硫酸基、水酸基、カルボキシル基で置換されていてもよい、飽和もしく不飽和の9〜12員の二環式炭素環もしくは複素環;または少なくとも1つの末端アルキン基が結合されたスペーサー基である、前記式(I)で表されるポルフィリン誘導体(以下、「本発明による第一の態様による中間体」)である。
【0034】
式(I)において、R、R、R、R、R、R、RおよびRは、好ましくは、同一または異なっていてもよく、水素原子またはC1−6アルキル基であり、より好ましくは、RおよびRのいずれか一方が水素原子であり、他方がC1−6アルキル基であり、かつ、RおよびRのいずれか一方が水素原子であり、他方がC1−6アルキル基であり、かつ、RおよびRのいずれか一方が水素原子であり、他方がC1−6アルキル基であり、かつ、RおよびRのいずれか一方が水素原子であり、他方がC1−6アルキル基であり、さらにより好ましくは、いずれも水素原子である。
【0035】
式(I)において、X、X、X、およびXは、好ましくは、同一または異なっていてもよく、水素原子;C1−6アルキル基または硫酸基で置換されていてもよい飽和もしくは不飽和の5〜7員の単環式炭素環もしくは複素環;または少なくとも1つの末端アルキン基が結合されたスペーサー基であり、より好ましくは、同一または異なっていてもよく、水素原子;C1−6アルキル基または硫酸基で置換されていてもよいフェニル基またはピリジル基;または少なくとも1つの末端アルキン基が結合されたスペーサー基であり、さらにより好ましくは、同一または異なっていてもよく、水素原子;フェニル基;または少なくとも1つの末端アルキン基が結合されたスペーサー基であり、最も好ましくは、いずれも少なくとも1つの末端アルキン基が結合されたスペーサー基である。
【0036】
式(I)において、X、X、XおよびXは同一でも異なってもよいが、好ましくは、XおよびX、あるいはXおよびXが同一で、少なくとも1つの末端アルキン基が結合されたスペーサー基であり、より好ましくは、X、X、およびXが同一で、少なくとも1つの末端アルキン基が結合されたスペーサー基であり、最も好ましくは、X、X、XおよびXがいずれも同一で、少なくとも1つの末端アルキン基が結合されたスペーサー基である。
【0037】
式(I)において、末端アルキン基は、アジド基を有する機能性分子とカップリング反応し、ポルフィリンに機能性分子を導入することができれば特に限定されないが、例えば、基−Z−(CH−Z−C≡CHで表すことができる。
【0038】
式(I)において、Zは、好ましくは、単結合、酸素原子、硫黄原子、フェニレン基、ピリジレン基、またはアミド基である。フェニレン基またはピリジレン基は、オルト位、メタ位、パラ位で結合することができるが、好ましくは、パラ位である。
【0039】
式(I)において、Zは、好ましくは、単結合、フェニレン基、またはアミド基である。フェニレン基は、オルト位、メタ位、パラ位で結合することができるが、好ましくは、パラ位である。
【0040】
式(I)において、mは、好ましくは、0〜2の整数である。
【0041】
式(I)において、末端アルキン基の具体的な構造を例示すると以下の通りである。
【化3】

【0042】
式(I)において、スペーサー基に結合される末端アルキン基の数は、X、X、XおよびX間で同一でも異なってもよいが、好ましくは、XおよびX、あるいはXおよびXで同一であり、より好ましくは、X、X、およびXで同一であり、最も好ましくは、X、X、XおよびXでいずれも同一である。
【0043】
式(I)において、1つのスペーサー基に結合される末端アルキン基の数は、好ましくは2以上5以下、より好ましくは、2以上3以下である。
【0044】
本発明による第一の態様の中間体において、ポルフィリンが有する末端アルキン基の数は、好ましくは4以上20以下、より好ましくは、8つ以上16以下、さらに好ましくは8以上12以下である。
【0045】
式(I)において、スペーサー基は、アミド基;C1−6アルキル基または水酸基で置換されていてもよい飽和または不飽和の5〜7員の単環式炭素環または複素環;C1−6アルキル基または水酸基で置換されていてもよい飽和または不飽和の9〜12員の二環式炭素環または複素環;または1〜8個の炭素原子を有する飽和または不飽和の非環式炭化水素基を含んでなる基である。少なくとも1以上の末端アルキン基を結合することができれば特に限定されないが、好ましくは、アミド基;飽和もしくは不飽和の5〜7員の単環式炭素環もしくは複素環;または飽和または不飽和の9〜12員の二環式炭素環または複素環を含んでなる基であり、より好ましくは、アミド基、フェニル基、ピリジル基、またはナフタリル基を含んでなる基である。
【0046】
式(I)では、スペーサー基は、好ましくは、式−J−Q[ここで、Jは単結合またはアミド基を表し、Qは、アミド基;C1−6アルキル基または水酸基で置換されていてもよい飽和または不飽和の5〜7員の単環式炭素環または複素環;C1−6アルキル基または水酸基で置換されていてもよい飽和または不飽和の9〜12員の二環式炭素環または複素環;または1〜8個の炭素原子を有する飽和または不飽和の非環式炭化水素基を表し、Qは1以上の基−Z−(CH−Z−C≡CH(ここで、Z、Zおよびmは上記で定義された内容と同義である)により置換されている]で表すことができる。
【0047】
式(I)において、Jは単結合またはアミド基であるが、Qがアミド基である場合は、Jは単結合である。
【0048】
式(I)において、Qは、好ましくは、アミド基、飽和もしくは不飽和の5〜7員の単環式炭素環もしくは複素環、または飽和または不飽和の9〜12員の二環式炭素環または複素環であり、より好ましくは、アミド基、フェニル基、ピリジル基、ナフタリル基である。
【0049】
本発明において、スペーサー基における基−Z−(CH−Z−C≡CHや基−J−の結合位置は、スペーサー基の構造、基−Z−(CH−Z−C≡CHの構造や個数、ポルフィリンへの合成効率等を考慮して、決定することができる。好ましくは、機能性分子がその機能を発揮させるのに適した位置に導入されるように決定する。以下に、具体的な例を挙げる。
【0050】
Qがアミド基である場合、基−Z−(CH−Z−C≡CHは、−CO−NHの窒素原子に1または2個結合することができる。
【0051】
Qが飽和または不飽和の5〜7員の単環式炭素環または複素環である場合、基−Z−(CH−Z−C≡CHは、環上に1〜3個結合することができる。
【0052】
Qが5員環であって、基−Z−(CH−Z−C≡CHの数が1個である場合、基−Z−(CH−Z−C≡CHが結合される位置は、基−J−が結合した環炭素または異種原子の位置を1位とした場合に、例えば、3位または4位とすることができる。
【0053】
Qが5員環であって、基−Z−(CH−Z−C≡CHの数が2個である場合、基−Z−(CH−Z−C≡CHが結合される位置は、基−J−が結合した環炭素または異種原子の位置を1位とした場合に、例えば、3位と4位の組み合わせとすることができる。
【0054】
Qが5員環であって、基−Z−(CH−Z−C≡CHの数が3個である場合、基−Z−(CH−Z−C≡CHが結合される位置は、基−J−が結合した環炭素または異種原子の位置を1位とした場合に、例えば、2位、3位、および4位の組み合わせ、あるいは3位、4位、および5位の組み合わせとすることができる。
【0055】
例えば、Qが6員環であって、基−Z−(CH−Z−C≡CHの数が1個である場合、基−Z−(CH−Z−C≡CHが結合される位置は、基−J−が結合した環炭素または異種原子の位置を1位とした場合に、3位、4位または5位とすることができるが、好ましくは、4位である。
【0056】
Qが6員環であって、基−Z−(CH−Z−C≡CHの数が2個である場合、基−Z−(CH−Z−C≡CHが結合される位置は、基−J−が結合した環炭素または異種原子の位置を1位とした場合に、例えば、3位と5位の組み合わせ、3位と4位の組み合わせ、4位と5位の組み合わせとすることができるが、好ましくは、3位と5位の組み合わせである。
【0057】
Qが6員環であって、基−Z−(CH−Z−C≡CHの数が3個である場合、基−Z−(CH−Z−C≡CHが結合される位置は、基−J−が結合した環炭素または異種原子の位置を1位とした場合に、例えば、3位と4位と5位の組み合わせ、2位と3位と4位の組み合わせ、2位と4位と5位の組み合わせ、2位と4位と6位の組み合わせとすることができるが、好ましくは、3位と4位と5位の組み合わせである。
【0058】
Qが7員環であって、基−Z−(CH−Z−C≡CHの数が1個である場合、基−Z−(CH−Z−C≡CHが結合される位置は、基−J−が結合した環炭素または異種原子の位置を1位とした場合に、例えば、3位、4位、5位または6位とすることができるが、好ましくは、4位である。
【0059】
Qが7員環であって、基−Z−(CH−Z−C≡CHの数が2個である場合、基−Z−(CH−Z−C≡CHが結合される位置は、基−J−が結合した環炭素または異種原子の位置を1位とした場合に、例えば、2位と3位の組み合わせ、2位と4位の組み合わせ、2位と5位の組み合わせ、3位と4位の組み合わせ、3位と5位の組み合わせとすることができるが、好ましくは、4位と5位の組み合わせである。
【0060】
Qが7員環であって、基−Z−(CH−Z−C≡CHの数が3個である場合、基−Z−(CH−Z−C≡CHが結合される位置は、基−J−が結合した環炭素または異種原子の位置を1位とした場合に、例えば、3位と4位と5位の組み合わせ、2位と3位と4位の組み合わせ、2位と3位と5位の組み合わせ、2位と3位と6位の組み合わせ、2位と4位と5位の組み合わせ、2位と4位と6位の組み合わせ、2位と4位と7位の組み合わせ、2位と3位と7位の組み合わせとすることができるが、好ましくは、3位と4位と5位の組み合わせである。
【0061】
Qが飽和または不飽和の9〜12員の二環式炭素環または複素環である場合、基−Z−(CH−Z−C≡CHは、二環上に1〜7個結合することができる。基−Z−(CH−Z−C≡CHが結合される位置は、基−Z−(CH−Z−C≡CHの個数に応じて、決定することができるが、例えば、ナフタリル基の場合であって、基−J−がナフタリンの1位または2位に結合した場合、2つの基の結合位置は、例えば、4位と5位の組み合わせ、4位と6位の組み合わせ、4位と7位の組み合わせ、5位と6位の組み合わせ、5位と7位の組み合わせ、6位と7位の組み合わせとすることができるが、好ましくは、基−J−がナフタリンの2位に結合した場合の、6位と7位の組み合わせである。また、ナフタリル基の場合であって、基−J−がナフタリンの1位または2位に結合した場合、3つの基の結合位置は、例えば、4位と5位と6位の組み合わせ、4位と5位と7位の組み合わせ、4位と6位と7位の組み合わせとすることができるが、好ましくは、基−J−がナフタリンの2位に結合した場合の、5位と6位と7位の組み合わせである。なお、ナフタリンのナンバリングは「和英有機化学命名法(全)」(南江堂、1972年)に従った。
【0062】
Qが1〜8個の炭素原子を有する飽和または不飽和の非環式炭化水素基である場合、基−Z−(CH−Z−C≡CHは、非環式炭化水素基上に1〜5個結合することができる。基−Z−(CH−Z−C≡CHが結合される位置は、基−Z−(CH−Z−C≡CHの個数に応じて、決定することができるが、基−J−が結合する炭素から数えて2番目以降の炭素に結合することが好ましい。
【0063】
本発明において、「少なくとも1つの末端アルキン基が結合されたスペーサー基」の好ましい態様としては、スペーサー基が式J−Qで表される基(ここで、Jが単結合またはアミド基であり、Qがフェニル基またはピリジル基である)であり、2つの末端アルキン基が、基−J−が結合した環炭素または異種原子の位置を1位とした場合に、3位と5位に結合している、基である。
【0064】
本発明において、「少なくとも1つの末端アルキン基が結合されたスペーサー基」の好ましい態様としては、また、スペーサー基が式J−Qで表される基(ここで、Jが単結合またはアミド基であり、Qがフェニル基またはピリジル基である)であり、3つの末端アルキン基が基−J−が結合した環炭素または異種原子の位置を1位とした場合に、3位と4位と5位に結合している、基である。
【0065】
本発明による第1の態様の中間体の好ましい態様としては、R、R、R、R、R、R、RおよびRがいずれも水素原子であり、X、X、XおよびXが、同一または異なっていてもよく、式−J−Q[ここで、Jは単結合またはアミド基を表し、Qはアミド基、フェニル基、ピリジル基、またはナフタリル基を表し、Qは同一または異なっていてもよい2以上の基−Z−(CH−Z−C≡CH(Zが、単結合、酸素原子、硫黄原子、フェニレン基、ピリジレン基、またはアミド基であり;Zが、単結合、フェニレン基またはアミド基であり;mが、0〜2である)により置換されている]である、ポルフィリン誘導体である。
【0066】
本発明による第一の態様の中間体のより好ましい態様としては、R、R、R、R、R、R、RおよびRがいずれも水素原子であり、X、X、XおよびXが、同一または異なっていてもよく、式−J−Q[ここで、Jは単結合またはアミド基を表し、Qはフェニル基またはピリジル基を表し、Qは同一または異なっていてもよい2つの基−Z−(CH−Z−C≡CH(Zが、単結合、酸素原子、硫黄原子、フェニレン基、ピリジレン基、またはアミド基であり;Zが、単結合、フェニレン基またはアミド基であり;mが、0〜2である)により置換されている]であり、かつ、2つの基が基−J−が結合した環炭素または異種原子の位置を1位とした場合の3位および5位に結合している、ポルフィリン誘導体である。
【0067】
本発明による第一の態様の中間体のより好ましい態様としては、また、R、R、R、R、R、R、RおよびRがいずれも水素原子であり、X、X、XおよびXが、同一または異なっていてもよく、式−J−Q[ここで、Jは単結合またはアミド基を表し、Qはフェニル基またはピリジル基を表し、Qは同一または異なっていてもよい3つの基−Z−(CH−Z−C≡CH(Zが、単結合、酸素原子、硫黄原子、フェニレン基、ピリジレン基、またはアミド基であり;Zが、単結合、フェニレン基またはアミド基であり;mが、0〜2である)により置換されている]であり、かつ、3つの基が基−J−が結合した環炭素または異種原子の位置を1位とした場合の、3位、4位および5位に結合している、ポルフィリン誘導体である。
【0068】
また、本発明による第一の態様の中間体のより好ましい態様としては、R、R、R、R、R、R、RおよびRがいずれも水素原子であり、X、X、XおよびXが、同一または異なっていてもよく、式−J−Q[ここで、Jは単結合またはアミド基を表し、Qはナフタリル基を表し、Qは同一または異なっていてもよい2つの基−Z−(CH−Z−C≡CH(Zが、単結合、酸素原子、硫黄原子、フェニレン基、ピリジレン基、またはアミド基であり;Zが、単結合、フェニレン基またはアミド基であり;mが、0〜2である)により置換されている]であり、かつ、基−J−がナフタリンの2位に結合し、2つの基がナフタリンの6位と7位に結合している、ポルフィリン誘導体である。
【0069】
本発明による第一の態様の中間体のより好ましい態様としては、また、R、R、R、R、R、R、RおよびRがいずれも水素原子であり、X、X、XおよびXが、同一または異なっていてもよく、式−J−Q[ここで、Jは単結合またはアミド基を表し、Qはナフタリル基を表し、Qは同一または異なっていてもよい3つの基−Z−(CH−Z−C≡CH(Zが、単結合、酸素原子、硫黄原子、フェニレン基、ピリジレン基、またはアミド基であり;Zが、単結合、フェニレン基またはアミド基であり;mが、0〜2である)により置換されている]であり、かつ、基−J−がナフタリンの2位に結合し、3つの基がナフタリンの5位と6位と7位に結合している、ポルフィリン誘導体である。
【0070】
本発明による第一の態様の中間体は、該末端アルキン基を介して、アジド基を有する機能性分子と容易にカップリングすることができる。よって、本発明による中間体は、機能性ポルフィリン誘導体を合成するための中間体として有用である。
【0071】
第二の態様の中間体
本発明による中間体は、X、X、XおよびXが、同一または異なっていてもよく、水素原子;硫酸基、水酸基、カルボキシル基で置換されていてもよい、飽和もしくは不飽和の5〜7員の単環式炭素環もしくは複素環、;硫酸基、水酸基、カルボキシル基で置換されていてもよい、飽和もしく不飽和の9〜12員の二環式炭素環もしくは複素環;または少なくとも1つの末端アジド基が結合されたスペーサー基である、前記式(I)で表されるポルフィリン誘導体(以下、「本発明による第二の態様による中間体」)である。
【0072】
式(I)において、R、R、R、R、R、R、RおよびRは、好ましくは、同一または異なっていてもよく、水素原子またはC1−6アルキル基であり、より好ましくは、RおよびRのいずれか一方が水素原子であり、他方がC1−6アルキル基であり、かつ、RおよびRのいずれか一方が水素原子であり、他方がC1−6アルキル基であり、かつ、RおよびRのいずれか一方が水素原子であり、他方がC1−6アルキル基であり、かつ、RおよびRのいずれか一方が水素原子であり、他方がC1−6アルキル基であり、さらにより好ましくは、いずれも水素原子である。
【0073】
式(I)において、X、X、X、およびXは、好ましくは、同一または異なっていてもよく、水素原子;C1−6アルキル基または硫酸基で置換されていてもよい飽和もしくは不飽和の5〜7員の単環式炭素環もしくは複素環;または少なくとも1つの末端アジド基が結合されたスペーサー基であり、より好ましくは、同一または異なっていてもよく、水素原子;C1−6アルキル基または硫酸基で置換されていてもよいフェニル基またはピリジル基;または少なくとも1つの末端アジド基が結合されたスペーサー基であり、さらにより好ましくは、同一または異なっていてもよく、水素原子;フェニル基;または少なくとも1つの末端アジド基が結合されたスペーサー基であり、最も好ましくは、いずれも少なくとも1つの末端アジド基が結合されたスペーサー基である。
【0074】
式(I)において、X、X、XおよびXは同一でも異なってもよいが、好ましくは、XおよびX、あるいはXおよびXが同一で、少なくとも1つの末端アジド基が結合されたスペーサー基であり、より好ましくは、X、X、およびXが同一で、少なくとも1つの末端アジド基が結合されたスペーサー基であり、最も好ましくは、X、X、XおよびXがいずれも同一で、少なくとも1つの末端アジド基が結合されたスペーサー基である。
【0075】
式(I)において、末端アジド基は、末端アルキン基を有する機能性分子とカップリング反応し、ポルフィリンに機能性分子を導入することができれば特に限定されないが、例えば、基−Z−(CH−Z−Nで表すことができる。
【0076】
「−N」は、具体的には、−N=N=Nで表すことができる。
【0077】
式(I)において、Zは、好ましくは、単結合、酸素原子、硫黄原子、フェニレン基、ピリジレン基、またはアミド基である。フェニレン基またはピリジレン基は、オルト位、メタ位、パラ位で結合することができるが、好ましくは、パラ位である。
【0078】
式(I)において、Zは、好ましくは、単結合、フェニレン基、またはアミド基である。フェニレン基は、オルト位、メタ位、パラ位で結合することができるが、好ましくは、パラ位である。
【0079】
式(I)において、mは、好ましくは、0〜2の整数である。
【0080】
式(I)において、末端アジド基の具体的な構造を例示すると以下の通りである。
【化4】

【0081】
式(I)において、スペーサー基に結合される末端アジド基の数は、X、X、XおよびX間で同一でも異なってもよいが、好ましくは、XおよびX、あるいはXおよびXで同一であり、より好ましくは、X、X、およびXで同一であり、最も好ましくは、X、X、XおよびXでいずれも同一である。
【0082】
式(I)において、1つのスペーサー基に結合される末端アジド基の数は、好ましくは2以上5以下、より好ましくは、2以上3以下である。
【0083】
本発明による第二の態様の中間体において、ポルフィリンが有する末端アジド基の数は、好ましくは4以上20以下、より好ましくは、8つ以上16以下、さらに好ましくは8以上12以下である。
【0084】
式(I)において、スペーサー基は、アミド基;C1−6アルキル基または水酸基で置換されていてもよい飽和または不飽和の5〜7員の単環式炭素環または複素環;C1−6アルキル基または水酸基で置換されていてもよい飽和または不飽和の9〜12員の二環式炭素環または複素環;または1〜8個の炭素原子を有する飽和または不飽和の非環式炭化水素基を含んでなる基である。少なくとも1以上の末端アジド基を結合することができれば特に限定されないが、好ましくは、アミド基;飽和または不飽和の5〜7員の単環式炭素環または複素環;または飽和または不飽和の9〜12員の二環式炭素環または複素環を含んでなる基であり、より好ましくは、アミド基、フェニル基、ピリジル基、またはナフタリル基を含んでなる基である。
【0085】
式(I)では、スペーサー基は、好ましくは、式−J−Q[ここで、Jは単結合またはアミド基を表し、Qは、アミド基;C1−6アルキル基または水酸基で置換されていてもよい飽和または不飽和の5〜7員の単環式炭素環または複素環;C1−6アルキル基または水酸基で置換されていてもよい飽和または不飽和の9〜12員の二環式炭素環または複素環;または1〜8個の炭素原子を有する飽和または不飽和の非環式炭化水素基を表し、Qは1以上の基−Z−(CH−Z−N(ここで、Z、Zおよびmは上記で定義された内容と同義である)により置換されている]で表すことができる。
【0086】
式(I)において、Jは単結合またはアミド基であるが、Qがアミド基である場合は、Jは単結合である。
【0087】
式(I)において、Qは、好ましくは、アミド基、飽和もしくは不飽和の5〜7員の単環式炭素環もしくは複素環、または飽和または不飽和の9〜12員の二環式炭素環または複素環であり、より好ましくは、アミド基、フェニル基、ピリジル基、ナフタリル基である。
【0088】
本発明において、スペーサー基における基−Z−(CH−Z−Nや基−J−の結合位置は、スペーサー基の構造、基−Z−(CH−Z−Nの構造や個数、ポルフィリンへの合成効率等を考慮して、決定することができる。好ましくは、機能性分子がその機能を発揮させるのに適した位置に導入されるように決定する。以下に、具体的な例を挙げる
【0089】
Qがアミド基である場合、基−Z−(CH−Z−Nは、窒素原子に1または2個結合することができる。
【0090】
Qが飽和または不飽和の5〜7員の単環式炭素環または複素環である場合、基−Z−(CH−Z−Nは、環上に1〜3個結合することができる。
【0091】
例えば、Qが5員環であって、基−Z−(CH−Z−Nの数が1個である場合、基−Z−(CH−Z−Nが結合される位置は、基−J−が結合した環炭素または異種原子の位置を1位とした場合に、3位または4位とすることができる。
【0092】
例えば、Qが5員環であって、基−Z−(CH−Z−Nの数が2個である場合、基−Z−(CH−Z−Nが結合される位置は、基−J−が結合した環炭素または異種原子の位置を1位とした場合に、3位と4位の組み合わせとすることができる。
【0093】
例えば、Qが5員環であって、基−Z−(CH−Z−Nの数が3個である場合、基−Z−(CH−Z−Nが結合される位置は、基−J−が結合した環炭素または異種原子の位置を1位とした場合に、2位、3位、および4位の組み合わせ、あるいは3位、4位、および5位の組み合わせとすることができる。
【0094】
例えば、Qが6員環であって、基−Z−(CH−Z−Nの数が1個である場合、基−Z−(CH−Z−Nが結合される位置は、基−J−が結合した環炭素または異種原子の位置を1位とした場合に、3位、4位または5位とすることができるが、好ましくは、4位である。
【0095】
Qが6員環であって、基−Z−(CH−Z−Nの数が2個である場合、基−Z−(CH−Z−Nが結合される位置は、基−J−が結合した環炭素または異種原子の位置を1位とした場合に、例えば、3位と5位の組み合わせ、3位と4位の組み合わせ、4位と5位の組み合わせとすることができるが、好ましくは、3位と5位の組み合わせである。
【0096】
Qが6員環であって、基−Z−(CH−Z−Nの数が3個である場合、基−Z−(CH−Z−Nが結合される位置は、基−J−が結合した環炭素または異種原子の位置を1位とした場合に、例えば、3位と4位と5位の組み合わせ、2位と3位と4位の組み合わせ、2位と4位と5位の組み合わせ、2位と4位と6位の組み合わせとすることができるが、好ましくは、3位と4位と5位の組み合わせである。
【0097】
Qが7員環であって、基−Z−(CH−Z−Nの数が1個である場合、基−Z−(CH−Z−Nが結合される位置は、基−J−が結合した環炭素または異種原子の位置を1位とした場合に、例えば、3位、4位、5位または6位とすることができるが、好ましくは、4位である。
【0098】
Qが7員環であって、基−Z−(CH−Z−Nの数が2個である場合、基−Z−(CH−Z−Nが結合される位置は、基−J−が結合した環炭素または異種原子の位置を1位とした場合に、例えば、2位と3位の組み合わせ、2位と4位の組み合わせ、2位と5位の組み合わせ、3位と4位の組み合わせ、3位と5位の組み合わせとすることができるが、好ましくは、4位と5位の組み合わせである。
【0099】
Qが7員環であって、基−Z−(CH−Z−Nの数が3個である場合、基−Z−(CH−Z−Nが結合される位置は、基−J−が結合した環炭素または異種原子の位置を1位とした場合に、例えば、3位と4位と5位の組み合わせ、2位と3位と4位の組み合わせ、2位と3位と5位の組み合わせ、2位と3位と6位の組み合わせ、2位と4位と5位の組み合わせ、2位と4位と6位の組み合わせ、2位と4位と7位の組み合わせ、2位と3位と7位の組み合わせとすることができるが、好ましくは、3位と4位と5位の組み合わせである。
【0100】
Qが飽和または不飽和の9〜12員の二環式炭素環または複素環である場合、基−Z−(CH−Z−Nは、二環上に1〜7個結合することができる。基−Z−(CH−Z−Nが結合される位置は、基−Z−(CH−Z−Nの個数に応じて、決定することができるが、例えば、ナフタリル基の場合であって、基−J−がナフタリンの1位または2位に結合した場合、2つの基の結合位置は、例えば、4位と5位の組み合わせ、4位と6位の組み合わせ、4位と7位の組み合わせ、5位と6位の組み合わせ、5位と7位の組み合わせ、6位と7位の組み合わせとすることができるが、好ましくは、基−J−がナフタリンの2位に結合した場合の、6位と7位の組み合わせである。また、ナフタリル基の場合であって、基−J−がナフタリンの1位または2位に結合した場合、3つの基の結合位置は、例えば、4位と5位と6位の組み合わせ、4位と5位と7位の組み合わせ、4位と6位と7位の組み合わせとすることができるが、好ましくは、基−J−がナフタリンの2位に結合した場合の、5位と6位と7位の組み合わせである。なお、ナフタリンのナンバリングは「和英有機化学命名法(全)」(南江堂、1972年)に従った。
【0101】
Qが1〜8個の炭素原子を有する飽和または不飽和の非環式炭化水素基である場合、基−Z−(CH−Z−Nは、非環式炭化水素基上に1〜5個結合することができる。基−Z−(CH−Z−Nが結合される位置は、基−Z−(CH−Z−Nの個数に応じて、当業者であれば適宜決定することができるが、基−J−が結合する炭素から数えて2番目以降の炭素に結合することが好ましい。
【0102】
本発明において、「少なくとも1つの末端アジド基が結合されたスペーサー基」の好ましい態様としては、スペーサー基が式J−Qで表される基(ここで、Jが単結合またはアミド基であり、Qがフェニル基またはピリジル基である)であり、2つの末端アジド基が、基−J−が結合した環炭素または異種原子の位置を1位とした場合に、3位と5位に結合している、基である。
【0103】
本発明において、「少なくとも1つの末端アジド基が結合されたスペーサー基」の好ましい態様としては、また、スペーサー基が式J−Qで表される基(ここで、Jが単結合またはアミド基であり、Qがフェニル基またはピリジル基である)であり、3つの末端アジド基が基−J−が結合した環炭素または異種原子の位置を1位とした場合に、3位と4位と5位に結合している、基である。
【0104】
本発明による第二の態様の中間体の好ましい態様としては、R、R、R、R、R、R、RおよびRがいずれも水素原子であり、X、X、XおよびXが、同一または異なっていてもよく、式−J−Q[ここで、Jは単結合またはアミド基を表し、Qはアミド基、フェニル基、ピリジル基、またはナフタリル基を表し、Qは同一または異なっていてもよい2以上の基−Z−(CH−Z−N(Zが、単結合、酸素原子、硫黄原子、フェニレン基、ピリジレン基、またはアミド基であり;Zが、単結合、フェニレン基またはアミド基であり;mが、0〜2である)により置換されている]である、ポルフィリン誘導体である。
【0105】
本発明による第二の態様の中間体のより好ましい態様としては、R、R、R、R、R、R、RおよびRがいずれも水素原子であり、X、X、XおよびXが、同一または異なっていてもよく、式−J−Q[ここで、Jは単結合またはアミド基を表し、Qはフェニル基またはピリジル基を表し、Qは同一または異なっていてもよい2つの基−Z−(CH−Z−N(Zが、単結合、酸素原子、硫黄原子、フェニレン基、ピリジレン基、またはアミド基であり;Zが、単結合、フェニレン基またはアミド基であり;mが、0〜2である)により置換されている]であり、かつ、2つの基が基−J−が結合した環炭素または異種原子の位置を1位とした場合の3位および5位に結合している、ポルフィリン誘導体である。
【0106】
本発明による第二の態様の中間体のより好ましい態様としては、また、R、R、R、R、R、R、RおよびRがいずれも水素原子であり、X、X、XおよびXが、同一または異なっていてもよく、式−J−Q[ここで、Jは単結合またはアミド基を表し、Qはフェニル基またはピリジル基を表し、Qは同一または異なっていてもよい3つの基−Z−(CH−Z−N(Zが、単結合、酸素原子、硫黄原子、フェニレン基、ピリジレン基、またはアミド基であり;Zが、単結合、フェニレン基またはアミド基であり;mが、0〜2である)により置換されている]であり、かつ、3つの基が基−J−が結合した環炭素または異種原子の位置を1位とした場合の、3位、4位および5位に結合している、ポルフィリン誘導体である。
【0107】
また、本発明による第二の態様の中間体のより好ましい態様としては、R、R、R、R、R、R、RおよびRがいずれも水素原子であり、X、X、XおよびXが、同一または異なっていてもよく、式−J−Q[ここで、Jは単結合またはアミド基を表し、Qはナフタリル基を表し、Qは同一または異なっていてもよい2つの基−Z−(CH−Z−N(Zが、単結合、酸素原子、硫黄原子、フェニレン基、ピリジレン基、またはアミド基であり;Zが、単結合、フェニレン基またはアミド基であり;mが、0〜2である)により置換されている]であり、かつ、基−J−がナフタリンの2位に結合し、2つの基がナフタリンの6位と7位に結合している、ポルフィリン誘導体である。
【0108】
本発明による第二の態様の中間体のより好ましい態様としては、また、R、R、R、R、R、R、RおよびRがいずれも水素原子であり、X、X、XおよびXが、同一または異なっていてもよく、式−J−Q[ここで、Jは単結合またはアミド基を表し、Qはナフタリル基を表し、Qは同一または異なっていてもよい3つの基−Z−(CH−Z−N(Zが、単結合、酸素原子、硫黄原子、フェニレン基、ピリジレン基、またはアミド基であり;Zが、単結合、フェニレン基またはアミド基であり;mが、0〜2である)により置換されている]であり、かつ、基−J−がナフタリンの2位に結合し、3つの基がナフタリンの5位と6位と7位に結合している、ポルフィリン誘導体である。
【0109】
本発明による第二の態様の中間体は、該末端アジド基を介して、末端アルキンを有する機能性分子と容易にカップリングすることができる。よって、本発明による第二の態様の中間体は、機能性ポルフィリン誘導体を合成するための中間体として有用である。
【0110】
[機能性ポルフィリン誘導体]
本発明による機能性ポルフィリン誘導体は、ポルフィリンのメソ位(5,10,15,20位)の少なくともいずれか1カ所にスペーサー基を介して1以上の機能性分子が導入されたポルフィリン誘導体である。
【0111】
本発明による機能性ポルフィリン誘導体は、X、X、XおよびXが、同一または異なっていてもよく、水素原子;硫酸基、水酸基、カルボキシル基で置換されていてもよい、飽和もしくは不飽和の5〜7員の単環式炭素環もしくは複素環、;硫酸基、水酸基、カルボキシル基で置換されていてもよい、飽和もしく不飽和の9〜12員の二環式炭素環もしくは複素環;または少なくとも1つの機能性分子基が結合されたスペーサー基である、前記式(I)で表されるポルフィリン誘導体である。
【0112】
式(I)において、機能性分子基は、機能性分子が含まれていれば特に限定されないが、例えば、基−Z−(CH−Z−T−Aで表すことができる(ここで、Z、Z、およびmは上記で定義された内容と同義である)。基−Z−(CH−Z−T−Aの構造は、使用する中間体の構造により決定される。
【0113】
式(I)において、少なくとも1つの機能性分子基が結合されたスペーサー基は、使用する中間体の構造により決定される。本発明において、機能性分子はポルフィリンの水溶性を向上させることができる形態(例えば、水溶性である2以上の機能性分子が、疎水性であるポルフィリンの共役平面の上下を立体的に被覆するように導入された形態)で導入されることが好ましい。本発明において、また、機能性分子がその機能を発揮するのに好ましい形態(例えば、標的の生体分子との親和性を向上させるように導入された形態)で導入されることが好ましい。したがって、このような形態を可能とするスペーサー基や基−Z−(CH−Z−、結合位置が好ましい。好ましくは、スペーサー基は、フェニル基またはエーテル基を含んでなる基である。好ましい態様は、上記で述べた通りである。
【0114】
本発明において、ポルフィリンに導入する機能性分子(すなわち、基−Z−(CH−Z−T−AのA)は、目的に応じて適宜選択することができ、アルキン基とアジド基とのカップリング反応によりポルフィリンに導入することができれば特に限定されないが、好ましくは、ポルフィリンに高い水溶性、生体分子認識能、光捕集能、レドックス制御能(酸化還元能)等を付与することができる機能性分子である。
【0115】
水溶性付与性分子は、ポルフィリンに高い水溶性を付与することができる機能性分子を意味する。水溶性付与性分子としては、例えば、糖、ポリエチレングリコール、イオン性物質等が挙げられ、好ましくは、糖である。
【0116】
生体分子認識性分子は、ポルフィリンに高い生体分子認識能を付与することができる機能性分子を意味する。生体分子認識性分子は、標的部位(例えば、細胞、組織、臓器等)に特異的な生体分子を選択的に認識することができる物質であればよく、このような生体分子と抗原抗体反応する物質(抗体または抗原)、このような生体分子と酵素基質反応する物質(酵素または基質)、このような生体分子に結合性を有するタンパク質、糖、またはビタミン等が挙げられる。このような生体分子としては、癌関連糖鎖(例えば、SLe、6−スルホLe、KDN−GM、GM)、癌関連タンパク質(例えば、葉酸レセプター等)、糖結合タンパク質(例えば、レクチン等)等が挙げられる。生体分子認識性分子が導入されたポルフィリン誘導体は、光線力学療法に利用することができる。
【0117】
光捕集性分子は、ポルフィリンに高い光捕集能を付与することができる機能性分子を意味する。例えば、多環芳香族炭化水素等が挙げられる。光捕集性分子が導入されたポルフィリン誘導体は、光捕集システムの構築、高効率の光線力学療法に利用することができる。
【0118】
レドックス制御分子は、ポルフィリンに高いレドックス制御能(酸化還元能)を付与することができる機能性分子を意味する。例えば、金属錯体化合物等が挙げられる。レドックス制御分子が導入されたポルフィリン誘導体は、光誘起電荷分離システムの構築に利用することができる。
【0119】
当業者であれば、常法に従って、使用する機能性分子を薬剤送達に適した形態に設計することができる。
【0120】
糖としては、例えば、単糖、オリゴ糖、多糖等が挙げられるが、好ましくは、オリゴ糖類である。
【0121】
単糖としては、特に限定されないが、例えば、三炭糖(例えば、グリセルアルデヒド、ジヒドロキシアセトン等)、四炭糖(例えば、トレオース、エリトロース、エリトルロース等)、五炭糖(例えば、リボース、リブロース、アラビノース、キシロース、リキソース、キシルロース、アピオース等)、六炭糖(例えば、グルコース、グロース、ガラクトース、フルクトース、マンノース等)、七炭糖(セドヘプツロース等)の単糖が挙げられる。また、デオキシ糖(例えば、フコース、デオキシリボース、ラムノース等)、シアル酸類(例えば、シアル酸、デアミノノイラミン酸等)、アミノ糖(例えば、グルコサミン、ガラクトサミン、マンノサミン等)、アミノ糖誘導体(例えば、N−アセチルグルコサミン、N−アセチルガラクトサミン、N−アセチルマンノサミン等)、ウロン酸(例えば、グルクロン酸、ガラクツロン酸、マンヌロン酸等)、糖アルコール(例えば、グリセリン、キシリトール、ソルビトール等)等が挙げられる。
【0122】
オリゴ糖とは、2〜9分子の単糖が結合したものを意味する。オリゴ糖としては、特に限定されないが、例えば、二糖(例えば、ラクトース、N−アセチルラクトサミン、セロビオース、マルトース、スクロース、トレハロース、イソマルトース、キトビオース、ゲンチオビオース等)、三糖(例えば、ラフィノース、パノース、ゲンチアノース等)、四糖(例えば、スタキオース等)、シクロデキストリン(α−シクロデキストリン、β−シクロデキストリン、γ−シクロデキストリン糖)、シクロデキストリン誘導体(例えば、メチル化シクロデキストリン、ヒドロキシプロピル化シクロデキストリン、アセチル化シクロデキストリン等)、フラクトオリゴ糖(例えば、1−ケストース、ニストース、フラクトシルニストース等)、マルトオリゴ糖(例えば、マルトトリオース、マルトテトラオース、マルトペンタオース等)、ガラクトオリゴ糖等が挙げられる。
【0123】
多糖とは、10分子以上の単糖が結合したものを意味する。同一の単糖からなるものをホモ多糖、二種以上の単糖からなるものをヘテロ多糖という。多糖としては、特に限定されないが、例えば、アミロース、アミロペクチン、グリコーゲン、ペクチン、キトサン、イヌリン、マンナン、デキストリン、ムコ多糖(例えば、ヘパラン硫酸、コンドロイチン硫酸、ヒアルロン酸、ヘパリン、キチン)等が挙げられる。
【0124】
糖の誘導体としては、例えば、アセトアミド基、硫酸基、およびリン酸基からなる群から選択される置換基で置換された糖が挙げられる。
【0125】
ビタミンとしては、葉酸等が挙げられる。
【0126】
イオン性物質のイオン性基としては、カチオン性基、アニオン性基が挙げられる。カチオン性基としては、例えば、1級アンモニウムカチオン、2級アンモニウムカチオン、3級アンモニウムカチオン、4級アンモニウムカチオン、ピリジニウム基、グアニジウム基、イミダゾリウム基等が挙げられる。アニオン性基としては、例えば、硫酸基、リン酸基、カルボキシル基等が挙げられる
【0127】
多環芳香族炭化水素としては、特に限定されないが、例えば、ピレン、アントラセン等が挙げられる。多環芳香族炭化水素の誘導体としては、例えば、硫酸基、リン酸基、ポリエチレングリコール基、4級アミン基からなる群から選択される置換基で置換された多環芳香族炭化水素等が挙げられる。
【0128】
金属錯体化合物としては、特に限定されないが、例えば、フェロセン、ポルフィリン、フタロシアニン等が挙げられる。金属錯体化合物として用いるポルフィリンは、本発明のポルフィリン誘導体の錯体形成金属とは異なる金属を錯体形成金属として用いることができる。錯体化合物の誘導体としては、例えば、水酸基、硫酸基、リン酸基、ポリエチレングリコール基からなる群から選択される置換基で置換された金属錯体化合物が挙げられる。
【0129】
式(I)において、Tが表すトリアゾールは、1,4−トリアゾールである。第一の態様の中間体を使用した場合は、以下の式で表すことができる:
【化5】

また、第二の態様の中間体を使用した場合は、以下の式で表すことができる:
【化6】

【0130】
本発明による機能性ポルフィリン誘導体において、ポルフィリンが有する機能性分子基の数は、使用する中間体の構造により上限が決定され、当業者であれば、目的に応じて機能性分子基の数を適宜調整することができるが、好ましくは4以上20以下、より好ましくは、8つ以上16以下、さらに好ましくは8以上12以下である。
【0131】
本発明による機能性ポルフィリン誘導体の好ましい態様としては、R、R、R、R、R、R、RおよびRがいずれも水素原子であり、X、X、XおよびXが、同一または異なっていてもよく、式−J−Q[ここで、Jは単結合またはアミド基を表し、Qはアミド基、フェニル基、ピリジル基、またはナフタリル基を表し、Qは同一または異なっていてもよい2以上の基−Z−(CH−Z−T−A(Zが、単結合、酸素原子、硫黄原子、フェニレン基、ピリジレン基、またはアミド基であり;Zが、単結合、フェニレン基またはアミド基であり;mが、0〜2であり、Tがトリアゾールの残基であり、Aが、単糖、オリゴ糖、および多糖からなる群から選択される糖またはその誘導体の残基である)により置換されている]である、ポルフィリン誘導体である。
【0132】
本発明による機能性ポルフィリン誘導体のより好ましい態様としては、R、R、R、R、R、R、RおよびRがいずれも水素原子であり、X、X、XおよびXが、同一または異なっていてもよく、式−J−Q[ここで、Jは単結合またはアミド基を表し、Qはフェニル基またはピリジル基を表し、Qは同一または異なっていてもよい2つの基−Z−(CH−Z−T−A(Zが、単結合、酸素原子、硫黄原子、フェニレン基、ピリジレン基、またはアミド基であり;Zが、単結合、フェニレン基またはアミド基であり;mが、0〜2であり、Tがトリアゾールの残基であり、Aが、単糖、オリゴ糖、および多糖からなる群から選択される糖またはその誘導体の残基である)により置換されている]であり、かつ、2つの基が基−J−が結合した環炭素または異種原子の位置を1位とした場合の3位および5位に結合している、ポルフィリン誘導体である。
【0133】
本発明による機能性ポルフィリン誘導体のより好ましい態様としては、また、R、R、R、R、R、R、RおよびRがいずれも水素原子であり、X、X、XおよびXが、同一または異なっていてもよく、式−J−Q[ここで、Jは単結合またはアミド基を表し、Qはフェニル基またはピリジル基を表し、Qは同一または異なっていてもよい3つの基−Z−(CH−Z−T−A(Zが、単結合、酸素原子、硫黄原子、フェニレン基、ピリジレン基、またはアミド基であり;Zが、単結合、フェニレン基またはアミド基であり;mが、0〜2であり、Tがトリアゾールの残基であり、Aが、単糖、オリゴ糖、および多糖からなる群から選択される糖またはその誘導体の残基である)により置換されている]であり、かつ、3つの基が基−J−が結合した環炭素または異種原子の位置を1位とした場合の、3位、4位および5位に結合している、ポルフィリン誘導体である。
【0134】
また、本発明による機能性ポルフィリン誘導体のより好ましい態様としては、R、R、R、R、R、R、RおよびRがいずれも水素原子であり、X、X、XおよびXが、同一または異なっていてもよく、式−J−Q[ここで、Jは単結合またはアミド基を表し、Qはナフタリル基を表し、Qは同一または異なっていてもよい2つの基−Z−(CH−Z−T−A(Zが、単結合、酸素原子、硫黄原子、フェニレン基、ピリジレン基、またはアミド基であり;Zが、単結合、フェニレン基またはアミド基であり;mが、0〜2であり、Tがトリアゾールの残基であり、Aが、単糖、オリゴ糖、および多糖からなる群から選択される糖またはその誘導体の残基である)により置換されている]であり、かつ、基−J−がナフタリンの2位に結合し、2つの基が6位と7位に結合している、ポルフィリン誘導体である。
【0135】
本発明による機能性ポルフィリン誘導体のより好ましい態様としては、また、R、R、R、R、R、R、RおよびRがいずれも水素原子であり、X、X、XおよびXが、同一または異なっていてもよく、式−J−Q[ここで、Jは単結合またはアミド基を表し、Qはナフタリル基を表し、Qは同一または異なっていてもよい3つの基−Z−(CH−Z−T−A(Zが、単結合、酸素原子、硫黄原子、フェニレン基、ピリジレン基、またはアミド基であり;Zが、単結合、フェニレン基またはアミド基であり;mが、0〜2であり、Tがトリアゾールの残基であり、Aが、単糖、オリゴ糖、および多糖からなる群から選択される糖またはその誘導体の残基である)により置換されている]であり、かつ、基−J−がナフタリンの2位に結合し、3つの基が5位と6位と7位に結合している、ポルフィリン誘導体である。
【0136】
実施例によれば、本発明による機能性ポルフィリン誘導体は、水溶性が高いことが確認された(実施例2および3)。また、本発明による機能性ポルフィリン誘導体には、導入された分子が有する機能が付与されたことが確認された(実施例4)。
【0137】
これらの結果から、本発明による機能性ポルフィリン誘導体は、これまでに知られているポルフィリン誘導体より優れた機能を有することが示された。
【0138】
本発明による中間体および本発明による機能性ポルフィリン誘導体は、式(II)で表される金属錯体であってもよい。
【0139】
式(II)において、Mは、錯体形成金属を表し、例えば、銅、鉄、亜鉛、マンガン等が挙げられるが、好ましくは銅である。
【0140】
式(II)において、破線は、配位結合を表す。
【0141】
本発明によれば、光増感剤、光捕集剤、レドックス制御剤として用いられる、本発明による機能性ポルフィリン誘導体を含んでなる組成物が提供される。
【0142】
本発明による機能性ポルフィリン誘導体を、光増感剤、光捕集剤、またはレドックス制御剤の有効成分として用いる場合は、本発明による機能性ポルフィリン誘導体をそのまま用いてもよいが、常法に従って、適当な担体、界面活性剤、分散剤、その他の製剤用補助剤と混合して、任意の剤型にすることができる。
【0143】
本発明によれば、本発明による機能性ポルフィリン誘導体をヒトを含む哺乳類に投与する工程を含んでなる、光線力学療法が提供される。
【0144】
[本発明によるポルフィリン誘導体の製造方法]
本発明による第一の態様の中間体は、(i)少なくとも1つの末端アルキン基が結合されたスペーサー基を有するアルデヒド化合物と、水素原子、C1−6アルキル基、カルボキシル基、または基−CHCH(OCHCH―OH(ここで、nは1〜100の整数を表す)で置換されていてもよいピロールとを縮合する工程、を含んでなる方法により合成することができる。
【0145】
ここで「少なくとも1つの末端アルキン基が結合されたスペーサー基を有するアルデヒド化合物」は、ポルフィリンを合成することができるアルデヒド化合物であれば特に限定されないが、例えば、O=CH−J−Q[ここで、Jは単結合またはアミド基を表し、Qはアミド基;C1−6アルキル基または水酸基で置換されていてもよい飽和もしくは不飽和の5〜7員の単環式炭素環もしくは複素環;C1−6アルキル基または水酸基で置換されていてもよい飽和もしくは不飽和の9〜12員の二環式炭素環もしくは複素環;または1〜8個の炭素原子を有する飽和または不飽和の非環式炭化水素基を表し、Qは1以上の基−Z−(CH−Z−C≡CH(ここで、Z、Zおよびmは前記で定義された内容と同義である)により置換されている]で表すことができる。
【0146】
アルデヒド化合物の末端アルキン修飾は、公知の方法に従って実施することができる。当業者であれば、好適な反応条件を適宜決定することができる。
【0147】
本発明による第二の態様の中間体は、(iii)少なくとも1つの末端アジド基が結合されたスペーサー基を有するアルデヒド化合物と、水素原子、C1−6アルキル基、カルボキシル基、または基−CHCH(OCHCH―OH(ここで、nは1〜100の整数を表す)で置換されていてもよいピロールとを縮合する工程、を含んでなる方法により合成することができる。
【0148】
ここで「少なくとも1つの末端アジド基が結合されたスペーサー基を有するアルデヒド化合物」は、ポルフィリンを合成することができるアルデヒド化合物であれば特に限定されないが、例えば、O=CH−J−Q[ここで、Jは単結合またはアミド基を表し、Qはアミド基;C1−6アルキル基または水酸基で置換されていてもよい飽和もしくは不飽和の5〜7員の単環式炭素環もしくは複素環;C1−6アルキル基または水酸基で置換されていてもよい飽和もしくは不飽和の9〜12員の二環式炭素環もしくは複素環;または1〜8個の炭素原子を有する飽和または不飽和の非環式炭化水素基を表し、Qは1以上の基−Z−(CH−Z−N(ここで、Z、Zおよびmは前記で定義された内容と同義である)により置換されている]で表すことができる。
【0149】
アルデヒド化合物の末端アジド化は、公知の方法に従って実施することができる。当業者であれば、好適な反応条件を適宜決定することができる。
【0150】
工程(i)または(iii)において、アルデヒド化合物とピロール化合物とを縮合する工程は、公知の方法に従って実施することができる。当業者であれば、好適な反応条件を適宜決定することができる。
【0151】
末端アルキン基や末端アジド基が立体的に小さいことから、本発明による中間体は、容易にかつ高収率で得ることができ、かつ精製も簡便である点で有利である。
【0152】
本発明による機能性ポルフィリン誘導体は、本発明による中間体を用いてカップリング反応を行うことにより得ることができる。
【0153】
本発明による第一の態様の中間体を使用する場合には、具体的には、
(i)少なくとも1つの末端アルキン基が結合されたスペーサー基を有するアルデヒド化合物と、水素原子、C1−6アルキル基、カルボキシル基、または基−CHCH(OCHCH―OH(ここで、nは1〜100の整数を表す)で置換されていてもよいピロールとを縮合する工程;および
(ii)工程(i)で得られたポルフィリン誘導体とN−A(ここで、Aは前記で定義された内容と同義である)とを反応させる工程
を含んでなる方法により実施することができる。
【0154】
−Aの合成、すなわち、機能性分子のアジド化は、公知の方法に従って実施することができる。当業者であれば、好適な反応条件を適宜決定することができる。
【0155】
また、本発明による第二の態様の中間体を使用する場合には、具体的には、
(iii)少なくとも1つの末端アジド基が結合されたスペーサー基を有するアルデヒド化合物と、水素原子、C1−6アルキル基、カルボキシル基、または基−CHCH(OCHCH―OH(ここで、nは1〜100の整数を表す)で置換されていてもよいピロールとを縮合する工程;および
(ii)工程(i)で得られたポルフィリン誘導体とHC≡C−A(ここで、Aは前記で定義された内容と同義である)とを反応させる工程
を含んでなる方法により実施することができる。
【0156】
HC≡C−Aの合成、すなわち、機能性分子の末端アルキン修飾は、公知の方法に従って実施することができる。当業者であれば、好適な反応条件を適宜決定することができる。
【0157】
本願明細書において、「カップリング反応」とは、末端アルキンを有する分子とアジド基を有する分子との、Cu存在下での環化付加反応を意味する(L.V.Lee, M.L.Mitchel, S-J.Huang, V.V.Fokin, K.B.Sharpless, and C.-H.Wong, J.Am.Chem.Soc., 125, 9588(2003)、C.W.Tornoe, C.Christensen, and M.Meldal, J.Org, Chem., 67, 3057(2002))。
【0158】
この反応は、極めて高収率で進行し、不完全なカップリングを抑制することで単一成分の機能性分子導入ポルフィリンの合成を促進するとともに、その後の精製作業の簡略化が期待できる。また、Cu触媒による末端アルキンとアジド基を有する分子とのカップリングは、非常に化学選択的に進行し、いかなる共存官能基による阻害・副反応も引きおこさないことから、いかなる構造を有する糖鎖もポルフィリンに導入できると期待され、様々な糖鎖構造を有するポルフィリンの網羅的な合成が極めて簡便に行うことができる。また、カップリングの反応操作は非常に簡便であり、脱酸素や脱水といった厳しい条件も不必要である。
【0159】
従って、この反応を利用することにより、極めて容易にかつ効率的に、ポルフィリンに機能性分子を導入することができる。さらに、実施例によれば、嵩高いラクトースのような分子を導入することができることから(実施例1)、導入する機能性分子のサイズにたいする制限もないことが容易に推測できる。
【0160】
本発明において実施される「カップリング反応」は、公知の方法に従って行うことができる(M.C.Bryan, F.Fazio, H.-K.Lee, C.-Y.Huang, A.Chang, M.D.Best, D.A.Calarese, O.Blixt, J.C.Paulson, D.Burton, L.A.Wilson, and C.-H.Wong, J.Am.Chem.Soc., 126, 8640(2004)、B.Helms, J.L.Mynar, C.J.Hawker, and J.M.Frechet, J.Am.Chem.Soc., 126, 15020(2004)、J.A.Opsteen and J.C.M.van Hest, Chem. Commun., 35, 57(2005))。当業者であれば、好適な反応条件を適宜決定することができる。
【0161】
機能性分子の導入方法
本発明によれば、ポルフィリンに機能性分子を導入する方法であって、少なくとも1つの末端アルキンを有するポルフィリン誘導体とアジド基を有する機能性分子とを反応させる工程を含んでなる方法が提供される。
【0162】
「少なくとも1つの末端アルキンを有するポルフィリン誘導体」は、例えば、本発明による第一の態様の中間体の製造方法に従って作製することができる。
【0163】
「アジド基を有する機能性分子」は、公知の方法に従って、目的の機能性分子をアジド化することにより作製することができる。
【0164】
ポルフィリンに機能性分子を導入する方法であって、少なくとも1つのアジド基を有するポルフィリン誘導体と末端アルキンを有する機能性分子とを反応させる工程を含んでなる方法が提供される。
【0165】
「少なくとも1つのアジド基を有するポルフィリン誘導体」は、例えば、本発明による第二の態様の中間体の製造方法に従って作製することができる。
【0166】
「末端アルキンを有する機能性分子」は、公知の方法に従って、目的の機能性分子を末端アルキン修飾することにより作製することができる。
【0167】
本発明によれば、本発明の導入方法を実施することにより、目的の機能性分子が導入されたポルフィリン誘導体を製造することができる。
【実施例】
【0168】
以下、実施例を示してこの出願の発明をさらに詳細かつ具体的に説明するが、この出願の発明は以下の例によって限定されるものではない。
【0169】
実施例1:ラクトース導入ポルフィリン誘導体の合成
(1)3,5−ジプロパルギルオキシベンズアルデヒドの合成
3,5−ジヒドロキシベンズアルデヒド0.102gと炭酸カリウム3.5gを−ジメチルホルムアミド(DMF)150mlに加え、60℃にて30分磁気攪拌した。得られた反応溶液を室温まで放冷したのちプロパルギルブロミド0.264gを加え、さらに一晩磁気攪拌を続けた。得られた反応溶液を酢酸エチルにて希釈し、有機層を水および飽和食塩水にて数回洗浄した。有機層を無水硫酸マグネシウムにて乾燥した後、溶媒を減圧留去し、残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(展開溶媒:ヘキサンのみ〜ヘキサン:酢酸エチル=1:1)によって精製することにより、白色粉末として3,5−ジプロパルギルオキシベンズアルデヒドを得た(収率44%)。
【化7】

MALDI−TOF−MS:[M+Na]=2105.12(計算値:215.06)
H NMR(CDCl,TMS):9.91(d,1H),7.13(t,2H),6.87(t,1H),4.74(d,4H),2.57(m,2H)
【0170】
(2)5,10,15,20−テトラ−(m−ジプロパルギルオキシベンズ)−ポルフィリンの合成
実施例1(1)で得られた3,5−ジプロパルギルオキシベンズアルデヒド(0.067g,0.313mmol)をジクロロメタンに溶かし、ピロール(0.021g,0.313mmol)およびトリフルオロ酢酸(0.043g,0.376mmol)を加えた後、一晩磁気攪拌した。その後、−クロラニル(0.092g,0.376mmol)を加えて一時間磁気攪拌し、さらにトリエチルアミン(0.0475g,0.470mmol)を加えて数分磁気攪拌した。その後溶媒を減圧留去し、シリカゲルクロマトグラフィー(ヘキサン:酢酸エチル=2:1)にて精製することで5,10,15,20−テトラ−(m−ジプロパルギルオキシベンズ)−ポルフィリンを得た(収率7.8%)。
【化8】

MALDI−TOF−MS:[M+Na]=1050.88(計算値:1048.11)
H NMR(CDCl,TMS):8.96(s,8H),7.52(d,8H),7.07(t,4H),4.86(t,16H),2.60(t,8H)
【0171】
(3)ラクトース導入ポルフィリン誘導体の合成
ポルフィリンへのラクトースの定量的導入を以下のように行った。
【0172】
まず、別途調製したアジド化ラクトース(0.010g,0.095mmol)と実施例1(2)で得られた5,10,15,20−テトラ−(m−ジプロパルギルオキシベンズ)−ポルフィリン(0.068g,0.019mmol)をサンプル瓶に入れてDMSOに溶かし、さらにCuBr(0.005g,0.024mmol)、アスコルビン酸(0.006g,0.032mmol)、プロピルアミン(0.001g,0.163mmol)を加えた後、室温で一晩放置した。その後、水中で透析(MWCO500)を2日間行い、凍結乾燥することによってラクトース8個から構成されるラクトースクラスターを有するポルフィリンを得た(収率14.6%)。
【化9】

MALDI−TOF−MS:[M+H]=4045.1(計算値:4045.2)
【0173】
MALDI−TOF−MSの結果から、触媒として用いたCu+イオンがポルフィリンに配位したポルフィリン誘導体が得られたことが確認された。また、ラクトースが8つ導入されたポルフィリン誘導体の分子イオンピークのみが観測され、カップリングが完全に進行していない(すなわち、ラクトースが7つや6つしかカップリングしていない)ポルフィリン由来のピークは一切観測されなかった(図1)。
【0174】
実施例2:ラクトース修飾ポルフィリンの水溶性の評価
実施例1で得られたラクトース修飾ポルフィリンの水中での分散状態を評価するため、可視紫外吸収(UV−vis)スペクトルの測定を行った。
【0175】
水中におけるラクトース修飾ポルフィリンのUV−visスペクトルの測定を行ったところ、ソーレー帯に2本のピーク(409および420nm)が観測された。二本のソーレー帯ピークの存在は、ラクトース修飾ポルフィリンは溶液中に単一分子分散して存在しているものの、一部は会合体として存在していることを示している。そこで、二本のソーレー体ピークのうちどちらが単一分子分散しているラクトース修飾ポルフィリン由来のピークなのか、また会合体として存在しているラクトース修飾ポルフィリンのピークはどのような組成の溶媒で生じるのかを評価するため、含水DMSOを溶媒として用い、水の割合を変化させながらUV−visスペクトルを測定した。
【0176】
ラクトース修飾ポルフィリンの濃度は固定し、DMSOと水の割合を変化させてUVを測定したところ、DMSOリッチな溶媒中(DMSO=98%)では、ラクトース修飾ポルフィリンは1本ソーレー帯ピーク(420nm)を示すが、水の含有量が増えるに従ってより短波長領域に会合体由来のソーレー帯ピーク(409nm)が出現することが観測された(図2(a))。この会合体由来のピークはDMSO溶液中の水の割合が約60%の以上になってはじめて出現しており、水:DMSOの比率が1:1の混合溶媒中においては単一分子分散したポルフィリン由来のピークしか観測されなかった(図2(b))。
【0177】
以上の結果から、得られたラクトース修飾ポルフィリンが高い水溶性を有していることが確認された。また、溶媒が完全に水のときでも、単一分子分散したラクトース修飾ポルフィリン由来のピークが明確にあらわれていることから、ラクトース修飾ポルフィリンがある程度の割合で、水中で単一分子分散することが示された。
【0178】
実施例3:原子間力顕微鏡によるラクトース修飾ポルフィリンの水中分散状態の評価
原子間力顕微鏡(Atomic Force Microscope:AFM、セイコーインスツルメンツ社製)を用いて、水中で単一分子分散している分子の直接観察を行った。
【0179】
ラクトース修飾ポルフィリンの水溶液をマイカ上にキャストし、このマイカ基板のAFM観察を行ったところ、ほぼ同じ大きさを有する丸い像がたくさん見られた(図3(a))。
【0180】
次に、これらの像の高さを断面プロファイルによって解析してみると、その高さは約2nmであった(図3(b))。ポルフィリンに結合しているベンゼン環はポルフィリン環にたいして垂直に結合しており、ベンゼン環およびラクトースの大きさはそれぞれ0.7nm程度である。ラクトースがベンゼン環に2分子結合していることを考慮に入れると、ラクトース修飾ポルフィリンの1分子の厚みは約2nmと推測され、観察された高さと一致する。
【0181】
また、得られた像の断面プロファイルを詳しく解析すると、そのほとんどが、中央がわずかに凹んだ構造を有していた(図3(b))。この構造は薄いポルフィリンの周囲に嵩高いラクトースが結合したラクトース修飾ポルフィリンのコンホメーションを考えると妥当であると考えられる。
【0182】
以上の結果から、原子間力顕微鏡で観察された、水中で単一分子分散された球状の像はラクトース修飾ポルフィリンであることが示された。
【0183】
実施例4:蛍光滴定法によるラクトース修飾ポルフィリンとレクチンとの結合能評価
ラクトースを導入したことによってポルフィリンにラクトース由来のタンパク質認識能が付与されたことを確認するため、蛍光標識レクチン(糖認識タンパク質)をもちいた蛍光滴定(T. Hasegawa et al., Chem. Commun, 2004, 382-383ji )により、評価した。
【0184】
レクチンは、蛍光色素としてフルオレセインイソチオシアネート(FITC)で標識したConA(Concanavalin A:マンノース認識タンパク)およびRCA120(Ricinus communis Agglutinin:ラクトース認識タンパク)を用いた。ラクトース修飾ポルフィリンの濃度を変化させることでレクチンの蛍光強度がどのように変化するか測定した結果、ラクトース修飾ポルフィリンの添加に伴ったFITC−RCA120由来の蛍光強度の減少が見られた(図4(a))。ラクトース修飾ポルフィリンの濃度に対して蛍光強度の変化をプロットし、コンピュータを用いたカーブフィッティングを行ったところ、ラクトース修飾ポルフィリンはFITC−RCA120に対して会合定数(K)3.16×10/Mで強く相互作用していることが確認された(図4(b))。一方、FITC−ConAではこの様な蛍光強度の減少は確認できなかった。
【0185】
以上の結果から、ラクトース修飾ポルフィリンはFITC−RCA120と選択的に、かつ強く相互作用していることが確認された。よって、ラクトースの導入により、ポルフィリンはタンパク質特異性を付与されたことが示された。ラクトースの導入により、実施例2で得られたポルフィリン誘導体は特異的なレクチン認識能が付与できされたことが示された。
【図面の簡単な説明】
【0186】
【図1】図1は、ラクトース導入ポルフィリンのMALDI−TOF−MSスペクトルの結果を示した図である。
【図2】図2は、UV−visスペクトルによるラクトース導入ポルフィリンの水溶性の評価の結果を示した図である:(a)様々な水/DMSO比率を有する含水DMSO中におけるラクトース導入ポルフィリンのUV−visスペクトル、(b)ラクトース導入ポルフィリンのソーレー帯吸収強度の溶媒依存性。
【図3】図3は、原子間力顕微鏡(AFM)によるラクトース修飾ポルフィリンの水中分散状態の評価の結果を示した図である:(a)水溶液からキャストした状態のAFM像、(b)観察された球状の像の断面プロファイル。
【図4】図4は、蛍光滴定法によるラクトース導入ポルフィリンとレクチンとの結合能評価の結果を示した図である:(a)ラクトース導入ポルフィリンの添加によるFITC−RCA120の蛍光スペクトル変化、(b)蛍光強度のラクトース導入ポルフィリンに対する依存性。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(I)で表されるポルフィリン誘導体:
【化1】

[上記式中、
、R、R、R、R、R、RおよびRは、同一または異なっていてもよく、水素原子、C1−6アルキル基、カルボキシル基、または基−CHCH(OCHCH―OH(ここで、nは1〜100の整数を表す)を表し、
、X、XおよびXは、同一または異なっていてもよく、水素原子;C1−6アルキル基、硫酸基、水酸基、カルボキシル基で置換されていてもよい、飽和もしくは不飽和の5〜7員の単環式炭素環もしくは複素環、;C1−6アルキル基、硫酸基、水酸基、カルボキシル基で置換されていてもよい、飽和もしく不飽和の9〜12員の二環式炭素環もしくは複素環;または少なくとも1つの末端アルキン基が結合されたスペーサー基、少なくとも1つの末端アジド基が結合されたスペーサー基、もしくは少なくとも1つの機能性分子基が結合されたスペーサー基{ここで、スペーサー基は、アミド基;C1−6アルキル基または水酸基で置換されていてもよい飽和もしくは不飽和の5〜7員の単環式炭素環もしくは複素環;C1−6アルキル基または水酸基で置換されていてもよい飽和もしく不飽和の9〜12員の二環式炭素環もしくは複素環;または1〜8個の炭素原子を有する飽和または不飽和の非環式炭化水素基を含んでなる基を表し、末端アルキン基は、基−Z−(CH−Z−C≡CH(ここで、ZおよびZは、同一または異なっていてもよく、単結合、酸素原子、硫黄原子、>NH、アミド基、カルボニル基、フェニレン基、ピリジレン基を表し、mは0〜6の整数を表す)を表し、末端アジド基は、基−Z−(CH−Z−N(ここで、ZおよびZは、同一または異なっていてもよく、単結合、酸素原子、硫黄原子、>NH、アミド基、カルボニル基、フェニレン基、ピリジレン基を表し、mは0〜6の整数を表す)を表し、機能性分子基は、基−Z−(CH−Z−T―A(ここで、ZおよびZは、同一または異なっていてもよく、単結合、酸素原子、硫黄原子、>NH、アミド基、カルボニル基、フェニレン基、ピリジレン基を表し、mは0〜6の整数を表し、Tはトリアゾールの残基を表し、Aは、水溶性付与性分子、生体分子認識性分子、光捕集性分子、およびレドックス制御分子からなる群から選択される機能性分子の残基を表す)を表す}を表し、
ただし、X、X、XおよびXの少なくとも1つが、少なくとも1つの末端アルキン基が結合されたスペーサー基、少なくとも1つの末端アジド基が結合されたスペーサー基、または少なくとも1つの機能性分子基が結合されたスペーサー基である]。
【請求項2】
、R、R、R、R、R、RおよびRが、いずれも水素原子である、請求項1に記載のポルフィリン誘導体。
【請求項3】
、X、XおよびXが、同一または異なっていてもよく、少なくとも1つの末端アルキン基が結合されたスペーサー基、少なくとも1つの末端アジド基が結合されたスペーサー基、または少なくとも1つの機能性分子基が結合されたスペーサー基である、請求項1に記載のポルフィリン誘導体。
【請求項4】
スペーサー基に、2以上の末端アルキン基、2以上の末端アジド基、または2以上の機能性分子基が結合している、請求項3に記載のポルフィリン誘導体。
【請求項5】
スペーサー基が、式−J−Q[ここで、Jは単結合またはアミド基を表し、Qはアミド基;C1−6アルキル基または水酸基で置換されていてもよい飽和もしくは不飽和の5〜7員の単環式炭素環もしくは複素環;C1−6アルキル基または水酸基で置換されていてもよい飽和もしくは不飽和の9〜12員の二環式炭素環もしくは複素環;または1〜8個の炭素原子を有する飽和または不飽和の非環式炭化水素基を表し、Qは1以上の基−Z−(CH−Z−C≡CH(ここで、Z、Zおよびmは請求項1で定義された内容と同義である)、1以上の基−Z−(CH−Z−N(ここで、Z、Zおよびmは請求項1で定義された内容と同義である)、または1以上の基−Z−(CH−Z−T−A(ここで、Z、Z、m、TおよびAは請求項1で定義された内容と同義である)により置換されている]である、請求項1〜4のいずれか一項に記載のポルフィリン誘導体。
【請求項6】
Qが、アミド基、フェニル基、ピリジル基、またはナフタリル基である、請求項5に記載のポルフィリン誘導体。
【請求項7】
が、単結合、酸素原子、硫黄原子、フェニレン基、ピリジレン基またはアミド基である、請求項1または5に記載のポルフィリン誘導体。
【請求項8】
が、単結合、フェニレン基、アミド基である、請求項1または5に記載のポルフィリン誘導体。
【請求項9】
mが、0〜2の整数である、請求項1または5に記載のポルフィリン誘導体。
【請求項10】
Aが、単糖、オリゴ糖、および多糖からなる群から選択される糖またはその誘導体の残基;ピレン、アントラセン、およびナフタレンからなる群から選択される多環芳香族炭化水素またはそれらの誘導体の残基;あるいはフェロセン、ポルフィリン、およびフタロシアニンからなる群から選択される金属錯体化合物またはそれらの誘導体の残基を表す、請求項1または5に記載のポルフィリン誘導体。
【請求項11】
Aが、単糖、オリゴ糖、および多糖からなる群から選択される糖またはその誘導体の残基である、請求項1または5に記載のポルフィリン誘導体。
【請求項12】
、R、R、R、R、R、RおよびRがいずれも水素原子であり、X、X、XおよびXが、同一または異なっていてもよく、式−J−Q[ここで、Jは単結合またはアミド基を表し、Qはアミド基、フェニル基、ピリジル基、またはナフタリル基を表し、Qは同一または異なっていてもよい2以上の基−Z−(CH−Z−C≡CH(Zが、単結合、酸素原子、硫黄原子、フェニレン基、ピリジレン基またはアミド基であり;Zが、単結合、フェニレン基またはアミド基であり;mが、0〜2である)により置換されている]を表す、請求項1に記載のポルフィリン誘導体。
【請求項13】
、R、R、R、R、R、RおよびRがいずれも水素原子であり、X、X、XおよびXが、同一または異なっていてもよく、式−J−Q[ここで、Jは単結合またはアミド基を表し、Qはアミド基、フェニル基、ピリジル基、またはナフタリル基を表し、Qは同一または異なっていてもよい2以上の基−Z−(CH−Z−N(Zが、単結合、酸素原子、硫黄原子、フェニレン基、ピリジレン基またはアミド基であり;Zが、単結合、フェニレン基またはアミド基であり;mが、0〜2である)により置換されている]を表す、請求項1に記載のポルフィリン誘導体。
【請求項14】
、R、R、R、R、R、RおよびRがいずれも水素原子であり、X、X、XおよびXが、同一または異なっていてもよく、式−J−Q[ここで、Jは単結合またはアミド基を表し、Qはアミド基、フェニル基、ピリジル基、またはナフタリル基を表し、Qは同一または異なっていてもよい2以上の基−Z−(CH−Z−T−A(Zが、単結合、酸素原子、硫黄原子、フェニレン基、ピリジレン基またはアミド基であり;Zが、単結合、フェニレン基またはアミド基であり;mが、0〜2であり、Tは請求項1で定義された内容と同義であり、Aが、単糖、オリゴ糖、および多糖からなる群から選択される糖またはその誘導体の残基である)により置換されている]を表す、請求項1に記載のポルフィリン誘導体。
【請求項15】
式(II)で表されるポルフィリン誘導体の金属錯体:
【化2】

(上記式中、Mは錯体形成金属であり、R、R、R、R、R、R、RおよびR、並びにX、X、XおよびXは請求項1で定義された内容と同義である)。
【請求項16】
請求項1に記載されたポルフィリン誘導体を製造する方法であって、
(i)少なくとも1つの末端アルキン基が結合されたスペーサー基(ここで、少なくとも1つの末端アルキン基が結合されたスペーサー基は請求項1で定義された内容と同義である)を有するアルデヒド化合物と、水素原子、C1−6アルキル基、カルボキシル基、または基−CHCH(OCHCH)n―OH(ここで、nは1〜100の整数を表す)で置換されていてもよいピロールとを縮合する工程
を含んでなり、必要であれば、
(ii)工程(i)で得られたポルフィリン誘導体とN−A(ここで、Aは請求項1で定義された内容と同義である)とを反応させる工程
を含んでなる、方法。
【請求項17】
請求項1に記載されたポルフィリン誘導体を製造する方法であって、
(iii)少なくとも1つの末端アジド基が結合されたスペーサー基(ここで、少なくとも1つの末端アジド基が結合されたスペーサー基は請求項1で定義された内容と同義である)を有するアルデヒド化合物と、水素原子、C1−6アルキル基、カルボキシル基、または基−CHCH(OCHCH)n―OH(ここで、nは1〜100の整数を表す)で置換されていてもよいピロールとを縮合する工程
を含んでなり、必要であれば、
(iv)工程(iii)で得られたポルフィリン誘導体とHC≡C−A(ここで、Aは請求項1で定義された内容と同義である)とを反応させる工程
を含んでなる、方法。
【請求項18】
ポルフィリンに機能性分子を導入する方法であって、少なくとも1つの末端アルキンを有するポルフィリン誘導体とアジド基を有する機能性分子とを反応させる工程を含んでなる、方法。
【請求項19】
ポルフィリンに機能性分子を導入する方法であって、少なくとも1つのアジド基を有するポルフィリン誘導体と末端アルキンを有する機能性分子とを反応させる工程を含んでなる、方法。

【図1】
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【図2】
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【図4】
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【図3】
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【公開番号】特開2010−6763(P2010−6763A)
【公開日】平成22年1月14日(2010.1.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−169306(P2008−169306)
【出願日】平成20年6月27日(2008.6.27)
【出願人】(501061319)学校法人 東洋大学 (68)
【Fターム(参考)】