説明

マイクロカプセルの製造方法

【課題】 従来知見による技術では有用化合物をマイクロカプセルに封じ込めてもそのマイクロカプセルの粒子径が大きい為に有機化学繊維へ練りこむことが実用上出来ていない。
【解決手段】 マイクロカプセルの製造方法において、薄膜旋回法により水中油滴型エマルジョンを得た後、壁膜を形成させることにより有機化学繊維に練り込める微小サイズのマイクロカプセルができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は有機化学繊維に練り込んで操業性や繊維物性を低下させることのない、微小で粒度分布の均一なマイクロカプセルの製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
マイクロカプセルの製造方法としてはコアセルベーション法、界面重合法、in―situ法などが知られており、これらの方法により得られたマイクロカプセルは、医薬品、農薬、染料、接着剤、香料、液晶、印刷などの分野で使われている。マイクロカプセルは、粒子径がカプセル品質決定上の重要な因子となっており、より微細なマイクロカプセルを製造する技術が望まれている。しかしながら、従来の製造方法はいずれもマイクロカプセルの粒子径を決定する乳化工程において乳化液に対するセン断力が小さくかつ不均一なため、分布幅の狭い小さな粒子径を有するマイクロカプセルを得ることは出来なかった。またマイクロカプセルを有機化学繊維に練り込むためには、繊維径よりも十分に小さい粒子径が必要であり、粒子径が大きいと紡糸原液のろ過工程、口金面での目詰まり、糸切れ等、操業性を著しく低下させるばかりか、得られた繊維品質の強伸度が低下するなどの問題が生じる。
【0003】
従来よりも粒子径の小さなマイクロカプセルの製造方法として例えば特許文献1記載の技術が提案されている。この技術は鋸歯状のインペラーを有する攪拌機を用いて水中油滴型エマルジョンを得た後、壁膜を形成することにより従来品よりはるかに小さなマイクロカプセルが得られるものである。しかしながら本発明は体積平均粒子径が0.1〜3.0μm、標準偏差1.5μm以下であり、有機化学繊維の練り込みに適した粒子径のマイクロカプセルは得られていない。
【0004】
また繊維にマイクロカプセルを含有させる方法として特許文献2記載の技術では繊維形成能のある重合体をその溶剤に溶解してなる紡糸原液に、該紡糸原液と非相溶性である繊維改質剤および、該紡糸原液または繊維改質剤に溶解され得る被膜形成性物質を添加して微細に分散せしめた後、前記繊維改質剤粒子表面に不溶性の被膜を形成させることにより繊維改質剤をマイクロカプセル化し、得られた繊維改質材内臓マイクロカプセルを含有する紡糸原液を通常の方法に従って紡糸成形することを特徴とするマイクロカプセル含有人造繊維の製造方法が提案されている。しかしながら本発明で得られるマイクロカプセルは通常5μm程度であり、細デニールの繊維製造には適していない。
【特許文献1】特開平6−343852号公報
【特許文献2】特公昭50−22613号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は上記問題点に鑑み、有機化学繊維に練り込んで操業性や繊維物性を低下させることのない、微小で粒度分布の均一なマイクロカプセルの製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは上記問題点を解決すべく鋭意研究を行った結果、せん断力の強い攪拌方法である薄膜旋回法により水中油滴型エマルジョンを得た後、壁膜を形成させマイクロカプセルを製造することにより上記問題を解決できることを見出した。
【発明の効果】
【0007】
本発明の効果としては、先ず第1に有機化学繊維に練り込むことが出来るマイクロカプセルが製造できることである。もちろん、紡糸原液のろ過工程、口金面での目詰まり、糸切れ等の操業性を著しく低下させる事もなく、得られた繊維品質の強伸度も殆んど低下しない。さらには従来用途においても本発明品を使用すれば、諸々の品質向上に繋がる。すなわち、本発明の目的は有機化学繊維に練り込んで操業性や繊維物性を低下させることのない、微小で粒度分布の均一なマイクロカプセルを工業上有利に提供することにある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明は、薄膜旋回機能を有する攪拌機を用いて水中油滴型エマルジョンを得た後、マイクロカプセルの壁膜を形成することを特徴とするものである。薄膜旋回法とは攪拌機の中に多孔の内壁がありその孔を通して水溶性液と油性液が攪拌機内壁から外壁に出る時に内壁と外壁の薄層間で強いせん断力を受けて微小でかつ均一な水中油滴型エマルジョンが得られる方法である。その際に外壁に於ける周速が早いほどエマルジョンの粒子径が微小で均一になる。周速を50m/秒以上にして滞留時間が1分以上であると体積平均粒子径は0.1〜1.0μmであるエマルジョンが得られる。代表的な薄膜旋回法と言う攪拌原理を有する市販攪拌機は特殊機化工業株式会社のT.K.フィルミックスが有名である。
【0009】
本発明におけるマイクロカプセルは水溶性液と油溶性液を攪拌力及び薄膜旋回法によるセン断力で乳化を行ない壁膜を反応形成させることにより、粒子径が微小で均一なマイクロカプセルを調整するものである。
【0010】
本発明において水中油滴型エマルジョンを得るために乳化剤を用いることが望ましく乳化剤としては、アニオン性、ノニオン性、カチオン性又は両性水溶性高分子化合物などが上げられる。これら高分子化合物としては、例えば、カルボン酸基、スルホン酸基、リン酸基などを有する天然ゴム、アルギン酸ソーダ、ぺクチン、寒天等の天然高分子化合物、カルボキシメチルセルロース、硫酸化セルロース、硫酸化メチルセルロースなどの半合成高分子化合物、カルボキシ変性ポリビニルアルコール、スルホン酸変性ポリビニルアルコール、リン酸変性ポリビニルアルコール、アセトアセチル基変性ポリビニルアルコール、未変性ポリビニルアルコール、カチオン変性ポリビニルアルコールなどの部分鹸化または完全鹸化のポリビニルアルコール、無水マレイン酸共重合体、アクリル酸、メタクリル酸などの重合物など合成高分子化合物等が挙げられる。
【0011】
本発明における乳化剤の使用量については特に限定されないが、一般に乳化剤量は油相成分の合計に対して0.5〜50重量%、好ましくは2〜30重量%程度の範囲で調整される。
【0012】
本発明におけるメラミン樹脂からなる壁膜を有するマイクロカプセルは前述の乳化剤を用いて油溶性液を水中に乳化し水中油滴型エマルジョンを得た後、メラミンもしくは尿素などとの混合物にホルムアルデヒドを反応させた樹脂などを添加し液温を上昇させて油滴界面で高分子形成反応を起こすことによって製造される。
【0013】
本発明におけるアクリル系樹脂からなる壁膜を有するマイクロカプセルは、アクリル酸及びその誘導体、アクリルアミド、メタクリル酸及びその誘導体、アクリロニトリル/ブタジエン等のビニル基を有するモノマーを開始剤により油滴界面で高分子化することにより製造される。
【0014】
本発明におけるポリウレタン樹脂からなる壁膜を有するマイクロカプセルは、ヘキサメチレンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、多価イソシアネートとポリオールとの付加物などのイソシアネート類及びこれと反応するポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、トリメチロールプロパン、ポリエステルポリオール、ヒマシ油などのポリオール類などのカプセル壁膜材をカプセル化すべき芯物質中に混合し、上記水溶性高分子化合物の保護コロイド物質を溶解した水性媒体中に乳化分散し、液温を上昇させて油滴界面で高分子形成反応を起こすことによって製造される。
【0015】
本発明におけるカプセル壁膜材の使用量については特に限定されないが、油相成分の合計に対して壁膜材の割合が5〜70重量%、好ましくは10〜50重量%の範囲となるように選択するのが望ましい。
【0016】
本発明におけるマイクロカプセルの芯物質としては鉱物油、動植物油、植物精油、香料、紫外線吸収剤、防炎剤、防虫剤などの有用化合物が上げられるが特に限定されるものではない。
【0017】
本発明における有機化学繊維としてはナイロン繊維、ポリエステル繊維、アクリル繊維、ポリビニルアルコール繊維などの合成繊維、レーヨン繊維、ベンベルグ繊維などの再生繊維等が挙げられる。これら有機化学繊維を紡糸するときにマイクロカプセルを当該紡糸原液に均一に分散させて紡糸する。そうすることによりマイクロカプセルを繊維中に均一に分散させることができる。油滴成分が有機化学繊維そのものや紡糸原液の溶剤に溶解するものもマイクロカプセルで保護され、繊維製造工程で溶解・脱落することがない。特にマイクロカプセル中の油滴成分がアクリル繊維や再生繊維の溶剤に溶解する場合は効果が高い。
【0018】
本発明における薄膜旋回法によれば殆んどの油性液は周速50m/秒以上、滞留時間1分以上で体積平均粒子径は1.0μm以下となる。繊維練り込みに関してはマイクロカプセルの粒子径が大きいほど困難になるため、通常マイクロカプセルの体積最大粒子径が3μm以下であることが要求される。マイクロカプセルの体積最大粒子径が2μm以下であるとろ過性、糸切れなどの操業性、強伸度などの繊維物性に何ら問題を生じることなく、好ましい。
【実施例】
【0019】
以下、本発明を実施例によって具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例により何ら限定されるものではない。
【0020】
実施例1
ティトリーオイル45gをカルボキシ変性ポリビニルアルコールの12%水溶液70g中に入れホモミキサーで乳化し、さらに特殊機化工業(株)T.K.フィルミックスFM80―50型の攪拌機(薄膜旋回型)に入れ周速50m/秒、温度80℃で2分間処理をした(A液)。メラミン5g、37%ホルムアルデヒド6.4g、更に水5gを混合しPH10に調整し攪拌しながら60℃に加熱して初期縮合物を得た(B液)。このA液の乳化物の体積平均粒子径は0.5μm、体積最大粒子径1.0μmであった。次にA液を別の容器に移し、攪拌下にB液を加え、加熱して80℃で3時間反応させた。得られたマイクロカプセルの体積平均粒子径は0.6μm、体積最大粒子径1.2μmであった。当該マイクロカプセルを用いてマイクロカプセル含有レーヨン繊維を製造した。レーヨン繊維の原料パルプを約18%水酸化ナトリウム溶液に浸漬し、圧搾・粉砕によりアルカリセルロースを得た。アルカリセルロースを老成し、二硫化炭素を反応させて、セルロースザンテートを得た。セルロースザンテートを希釈水酸化ナトリウム溶液で溶解し、ビスコースを得た。ビスコースの性状はセルロース含有率8.9%、アルカリ含有率5.9%、粘度51秒(落球式)であった。
ビスコースを紡糸する直前に、前記工程で得られたマイクロカプセルの分散液を、インジェクションポンプを用いて、ビスコースに含まれる繊維に対して2%なるように定量的に添加して、ビスコースとマイクロカプセル水溶液を均一に混合した。マイクロカプセルが配合されたビスコースを、0.05mmΦの孔径、孔数1,000の紡糸口金を用い、紡糸速度70m/分で紡糸して凝固・再生浴に送った。凝固・再生浴は、硫酸:110g/リットル、ボウ硝:350g/リットルの組成を有し、温度45℃に設定した。通常の二浴緊張紡糸法によって、延伸・切断を行い2.0dtx、カット長51mmのマイクロカプセル含有レーヨン繊維ステープルを得た。得られた繊維中のティトリーオイルの含有率は0.6%強度2.6g/d、伸度33%とブランクのレーヨン繊維と変らない糸質を有していた。なお紡糸原液にあるろ過工程の圧力上昇は見られなかった。
【0021】
比較例1
実施例1の薄膜旋回型攪拌機による処理を行わずホモミキサーのみを用いた以外は全く同様にエマルジョンをマイクロカプセル化しレーヨン繊維を作った。
【0022】
比較例2
実施例1のエマルジョンをそのままビスコースに練りこんでレーヨン繊維を得た。
【0023】
表−1にそれらの結果をまとめた。
【0024】
【表1】

比較例1ではエマルジョンの粒子径が大きい為、紡糸工程に於けるろ過圧の上昇がみられ、その結果、紡出した糸が工程途中で切れるなどの操業性に著しい悪影響を及ぼしていた。またエマルジョンのまま使用した比較例2では紡糸操業性は良いが、紡糸浴中にティトリーオイルが溶出した為か最終繊維中に殆んど残存していなかった。
【産業上の利用可能性】
【0025】
本発明は有機化学繊維に練り込んで操業性や繊維物性を低下させることのない、微小で粒度分布の均一なマイクロカプセルの製造方法を提供することであり、これにより従来練りこむことの出来なかった有用化合物を担持した機能性有機化学繊維の生産が可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
マイクロカプセルの製造方法において薄膜旋回法により水中油滴型エマルジョンを得た後、壁膜を形成させることを特徴とするマイクロカプセルの製造方法。
【請求項2】
マイクロカプセルの体積平均粒子径が0.1〜1.0μmである請求項1記載のマイクロカプセルの製造方法。
【請求項3】
マイクロカプセルの壁膜がメラミン樹脂またはアクリル樹脂またはポリウレタン樹脂からなる請求項2記載のマイクロカプセルの製造方法。

【公開番号】特開2007−283173(P2007−283173A)
【公開日】平成19年11月1日(2007.11.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−110928(P2006−110928)
【出願日】平成18年4月13日(2006.4.13)
【出願人】(000177014)三木理研工業株式会社 (20)
【Fターム(参考)】