説明

マイクロカプセル剤

【課題】
被膜内にネオニコチノイド系化合物を高濃度で内包するマイクロカプセル剤、およびその製造方法を提供することを目的とする。
【解決手段】
ネオニコチノイド系化合物を水非混和性の芳香族系炭化水素類およびエステル類の混合物に懸濁させたスラリーを湿式粉砕した後、これを水中に液滴として分散し、液滴の界面に膜を形成させるマイクロカプセル剤の製造方法において、水非混和性有機溶剤混合物におけるエステル類の割合が20〜90重量%とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被膜内にネオニコチノイド系化合物を有効成分として内包したマイクロカプセル剤およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、シロアリ等の木材害虫、ゴキブリ等の家屋内害虫、ヨトウムシ等の農園芸害虫等の害虫による食害を防ぐため、種々の殺虫組成物が提案されてきた。これらの害虫を防除するための殺虫組成物の有効成分としては、当初、有機塩素系殺虫剤がよく使用されていたが、毒性が高いことや残留毒性が問題となり、より安全性の高い有機リン系、カーバメート系殺虫剤が開発された。その後、温血動物に対する毒性がさらに低いピレスロイド系の殺虫剤や昆虫成長制御剤が開発され広く普及している。
一方、近年、ネオニコチノイド(クロロニコチニル)系という新たな殺虫剤が次々と開発されている。既に欧米では有機リン系やカーバメート系殺虫剤の毒性再評価に伴う適用制限を受け、これらに替わって市場に浸透している。イミダクロプリド(非特許文献1)は代表的なネオニコチノイド系殺虫剤であり、アブラムシ類、コナジラミ類、ウンカ・ヨコバイ類等の半翅目昆虫、コガネムシ類やハムシ類の鞘翅目昆虫防除用の殺虫剤として、世界各国で高く評価されている。日本でも、上記害虫と対象とした農薬、シロアリを対象とした防蟻剤等として広く使用されている。
【0003】
これらの有効成分を含む殺虫剤組成物としては、従来から、油剤、乳剤、懸濁剤、エマルジョン剤、粉剤、粒剤、水和剤等が使用されてきた。しかしながら、これら従来の剤型で散布を行うと、雨により流脱したり水系環境を汚染するという欠点があった。このような問題を解決するためのひとつの方法として、殺虫剤の有効成分をマイクロカプセルで被覆する方法がある。マイクロカプセル化することによって有効成分がカプセル内に封入されるため、紫外線や水分による分解が起こりにくくなり、環境中に流脱することを防ぐことができる。また害虫がマイクロカプセルと接触してカプセルが破壊されることにより有効成分が作用するため、有効成分が効率的に作用するという利点もある。有機リン系殺虫剤、ピレスロイド系殺虫剤をマイクロカプセル化した殺虫組成物に関しては特許文献1、特許文献2などに記載されている。
【0004】
一方、ネオニコチノイド系化合物はその溶解性の問題から、従来の界面重合法ではうまくマイクロカプセル内に封入できないという問題がある。この問題を解決するために特許文献3、特許文献4では、有効成分を水非混和性有機溶剤に懸濁させたスラリーを湿式粉砕した後、マイクロカプセル被膜を形成することによりカプセル内に封入する方法に関して記載されている。
水非混和性有機溶剤としては、脂肪族炭化水素類、芳香族炭化水素類、アルコール類、エステル類、エーテル類、グリコール類等が挙げられているが、これらの溶剤を用いてネオニコチノイド系化合物をマイクロカプセル化しようとしても、マイクロカプセル内に高濃度で封入することが容易ではなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第1088653号公報
【特許文献2】特許第1960603号公報
【特許文献3】特開2000−247821号公報
【特許文献4】特開2005−170956号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】続医薬品の開発 第18巻 農薬の開発III 廣川書店 P.629−648
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、被膜内にネオニコチノイド系化合物を高濃度で内包したマイクロカプセル剤およびその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、かかる現状に鑑み鋭意研究を重ねた結果、水非混和性有機溶剤として芳香族系炭化水素類とエステル類の混合物を使用し、その混合物におけるエステル類の割合が20〜80重量%である場合に、マイクロカプセル外に高濃度のネオニコチノイド系化合物が存在するという問題が改良されることを見出し、本発明を完成するに至った。
すなわち本発明は、ネオニコチノイド系化合物を高濃度で内包したマイクロカプセル剤およびその製造方法である。
【発明の効果】
【0009】
本発明のマイクロカプセル剤の製造方法を用いることにより、ネオニコチノイド系化合物を高濃度で内包したマイクロカプセル剤を容易に製造できる。また、このマイクロカプセル剤を用いることにより、種々の有害生物を効果的かつ長期間防除できるようになる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明において用いられるネオニコチノイド系化合物は、水非混和性有機溶剤中に懸濁・分散させる必要があるので、常温で固体であり、該有機溶剤にあまり溶解しないものを用いることができる。具体的には、アセタミプリド、イミダクロプリド、クロチアニジン、チアメトキサム、ニテンピラム等が挙げられる。
【0011】
本発明において用いられる水非混和性の芳香族系炭化水素類およびエステル類は特に限定されないが、ネオニコチノイド系化合物の種類に応じてあまり溶解しないものを適宜使用する。芳香族炭化水素類として、ドデシルベンゼン等のアルキルベンゼン類、メチルナフタレン、ジメチルナフタレン、ジイソプロピルナフタレン等の置換ナフタレン類、フェニルキシリルエタン等が挙げられる。エステル類として、酢酸エチル等の酢酸エステル、フタル酸ジイソノニル等のフタル酸エステル、アジピン酸ジイソブチル等のアジピン酸エステル等が挙げられる。これらの溶剤は一種を単独に用いても二種以上を併用してもよい。
これらの水非混和性有機溶剤は、芳香族系炭化水素類とエステル類の混合物として用いることが好ましく、その割合はエステル類が20〜90重量%、好ましくは50〜80重量%である。
【0012】
ネオニコチノイド系化合物をこれらの水非混和性有機溶剤中で湿式粉砕するために使用する粉砕機としては、通常フロアブル剤を製造する際に使用するものを用いることができる。具体的には、ビーズミル、サンドミル、アトライター等の媒体を用いる粉砕機、ホモミキサー、ディズパーザー等が挙げられる。
【0013】
湿式粉砕中にスラリーが増粘する場合には分散剤を添加してもよい。そのような分散剤としては、塗料用の顔料湿潤分散剤が使用できる。具体的には、ポリカルボン酸系分散剤、アクリル共重合体系分散剤、高級脂肪酸エステル系分散剤、イミダゾリン系分散剤等が挙げられる。これらの分散剤は一種を単独に用いても二種以上を併用してもよい。
【0014】
本発明のネオニコチノイド系化合物を内包するマイクロカプセル剤は、従来提案されている界面重合法に準じて製造することができる。これらの方法を用いることによって被膜物質の量、膜厚、平均粒子径を制御することができる。本発明のマイクロカプセルの被膜物質としては、ポリウレタン、ポリウレア、ポリアミド、ポリエステル、ポリカーボネート等が挙げられるが、特にポリウレア、ポリウレタンが好ましい。
【0015】
このようにして得られるマイクロカプセルのスラリーはそのまま有害生物防除剤として使用することもできるが、製剤の安定化のために増粘剤、防腐剤、安定剤、酸化防止剤、キレート剤、防錆剤、消泡剤、pH調節剤等を添加しても良い。また、有機リン系殺虫剤、ピレスロイド系殺虫剤、他のネオニコチノイド系化合物、昆虫成長制御剤、殺ダニ剤、防カビ剤、殺菌剤等と混合して用いることもできる。
【0016】
マイクロカプセルの平均粒子径の測定には、例えばレーザー回折式粒度分布測定装置SALD−2000(島津製作所製)等を用いて行うことができる。本発明組成物のマイクロカプセルの平均粒子径は5μm以上100μm以下であり、好ましくは10μm以上50μm以下である。マイクロカプセルの平均粒子径が5μmより小さいと、昆虫が接触したときに破壊されにくくなるため十分な効力が発揮されない。平均粒子径が100μmを超える場合には安定なマイクロカプセルを調製することが困難になり、またマイクロカプセル組成物の希釈や撹拌の操作によってマイクロカプセルが破壊されやすくなりマイクロカプセルとしての効力の持続性を発揮できない恐れがある。
【0017】
本発明組成物は、木材害虫、屋内害虫、農園芸害虫等、多くの害虫の防除に有効であり、特に残効性を要求される分野への使用が好ましい。本発明組成物が有効な害虫としては、イエシロアリ、ヤマトシロアリ、アメリカカンザイシロアリ等の等翅目昆虫、チャバネゴキブリ、クロゴキブリ、ワモンゴキブリ等の網翅目昆虫、ヒラタキクイムシ、タバコシバンムシ、カツオブシムシ類、コガネムシ類等の鞘翅目昆虫、ヨトウムシ、アオムシ、ハスモンヨトウ、オオタバコガ等の鱗翅目昆虫、クロオオアリ、アミメアリ、カブラハバチ等の膜翅目昆虫、コバネイナゴ、コオロギ類等の直翅目昆虫、半翅目昆虫、双翅目昆虫、その他の昆虫やダンゴムシ、ワラジムシ等の昆虫以外の節足動物等が挙げられ、特に匍匐性害虫の防除に適している。
【実施例】
【0018】
次に本発明の実施例及び比較例をあげて説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。以下に示した配合比率はすべて重量%である。
【0019】
(実施例1)
ビニサイザー40(アジピン酸ジイソブチル、花王株式会社製)131.8g、ソフトアルキルベンゼン(三菱化学株式会社製)112g、ホモゲノールL95(イミダゾリン系界面活性剤、花王株式会社製)2.8g、アジスパーPA111(高級脂肪酸エステル系分散剤、味の素ファインテクノ株式会社製)1.4gを均一に混合して得た溶液に、クロチアニジン112gを加え、ガラスビーズにて湿式粉砕した。得られたスラリー90gにデスモジュールL−75(芳香族変性ポリイソシアネート、住化バイエルウレタン株式会社製)10gを添加し均一に混合したものを油相とした。ゴーセノールGL−05(ポリビニルアルコール、日本合成化学工業株式会社製)3.5gをイオン交換水86.5gに溶解したものを水相とした。水相をT.K.ホモミックミキサー(特殊機化工業株式会社製)を用いて回転数3200rpmで分散しながら油相溶液を添加した。得られた分散液を回転数500rpmで撹拌しながら、エチレンジアミン1.2g、イオン交換水8.8gを均一に混合したものを添加した。その後、25℃の湯浴に移し回転数500rpmで撹拌しながら15時間反応させ、マイクロカプセル分散液を得た。これにクロチアニジン濃度が10%となるようにケルザンS(キサンタンガム、三晶株式会社製)の0.2%液を加え、実施例1とした。平均粒子径を測定した結果、30μmであった。
【0020】
(実施例2)
フタル酸ジイソノニル179.4g、ソフトアルキルベンゼン64.4g、ホモゲノールL95 2.8g、アジスパーPA111 1.4gを均一に混合して得た溶液に、クロチアニジン112gを加え、ガラスビーズにて湿式粉砕した。得られたスラリー90gにデスモジュールL−75 10gを添加し均一に混合したものを油相とした。ゴーセノールGL−05 3.5gをイオン交換水86.5gに溶解したものを水相とした。水相をT.K.ホモミックミキサーを用いて回転数3200rpmで分散しながら油相溶液を添加した。得られた分散液を回転数500rpmで撹拌しながら、エチレンジアミン1.2g、イオン交換水8.8gを均一に混合したものを添加した。その後、25℃の湯浴に移し回転数500rpmで撹拌しながら15時間反応させ、マイクロカプセル分散液を得た。これにクロチアニジン濃度が10%となるようにケルザンSの0.2%液を加え、実施例2とした。平均粒子径を測定した結果、30μmであった。
【0021】
(実施例3)
フタル酸ジイソノニル80g、ソフトアルキルベンゼン163.8g、ホモゲノールL95 2.8g、アジスパーPA111 1.4gを均一に混合して得た溶液に、クロチアニジン112gを加え、ガラスビーズにて湿式粉砕した。得られたスラリー90gにデスモジュールL−75 10gを添加し均一に混合したものを油相とした。ゴーセノールGL−05 3.5gをイオン交換水86.5gに溶解したものを水相とした。水相をT.K.ホモミックミキサーを用いて回転数3200rpmで分散しながら油相溶液を添加した。得られた分散液を回転数500rpmで撹拌しながら、エチレンジアミン1.2g、イオン交換水8.8gを均一に混合したものを添加した。その後、25℃の湯浴に移し回転数500rpmで撹拌しながら15時間反応させ、マイクロカプセル分散液を得た。これにクロチアニジン濃度が10%となるようにケルザンSの0.2%液を加え、実施例3とした。平均粒子径を測定した結果、30μmであった。
【0022】
(比較例1)
ビニサイザー40 243.8g、ホモゲノールL95 2.8g、アジスパーPA111 1.4gを均一に混合して得た溶液に、クロチアニジン112gを加え、ガラスビーズにて湿式粉砕した。得られたスラリー90gにデスモジュールL−75 10gを添加し均一に混合したものを油相とした。ゴーセノールGL−05 3.5gをイオン交換水86.5gに溶解したものを水相とした。水相をT.K.ホモミックミキサーを用いて回転数3200rpmで分散しながら油相溶液を添加した。得られた分散液を回転数500rpmで撹拌しながら、エチレンジアミン1.2g、イオン交換水8.8gを均一に混合したものを添加した。その後、25℃の湯浴に移し回転数500rpmで撹拌しながら15時間反応させ、マイクロカプセル分散液を得た。これにクロチアニジン濃度が10%となるようにケルザンSの0.2%液を加え、比較例1とした。平均粒子径を測定した結果、30μmであった。
【0023】
(比較例2)
ビニサイザー40 131.8g、フタル酸ジイソノニル112g、ホモゲノールL95 2.8g、アジスパーPA111 1.4gを均一に混合して得た溶液に、クロチアニジン112gを加え、ガラスビーズにて湿式粉砕した。得られたスラリー90gにデスモジュールL−75 10gを添加し均一に混合したものを油相とした。ゴーセノールGL−05 3.5gをイオン交換水86.5gに溶解したものを水相とした。水相をT.K.ホモミックミキサーを用いて回転数3200rpmで分散しながら油相溶液を添加した。得られた分散液を回転数500rpmで撹拌しながら、エチレンジアミン1.2g、イオン交換水8.8gを均一に混合したものを添加した。その後、25℃の湯浴に移し回転数500rpmで撹拌しながら15時間反応させ、マイクロカプセル分散液を得た。これにクロチアニジン濃度が10%となるようにケルザンSの0.2%液を加え、比較例2とした。平均粒子径を測定した結果、30μmであった。
【0024】
(試験例1)
実施例1〜3及び比較例1、2の各製剤それぞれ0.2gにイオン交換水を加えて100mlとした。24時間静置した後にこれらの希釈液をメンブランフィルター(細孔径0.45μm)で濾過し、その濾液を高速液体クロマトグラフィーにて分析しクロチアニジンの定量を行った。その結果を表1に示す。
【0025】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0026】
本発明のマイクロカプセル剤製造方法によれば、ネオニコチノイド系化合物を高濃度で内包するマイクロカプセル剤を容易に製造することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
常温で固体の殺生物活性成分を水非混和性の芳香族系炭化水素類およびエステル類の混合物に懸濁させたスラリーを、湿式粉砕した後、これを水中に液滴として分散し、液滴の界面に膜を形成させるマイクロカプセル剤の製造方法。
【請求項2】
水非混和性有機溶剤混合物におけるエステル類の割合が20〜90重量%であることを特徴とする請求項1に記載のマイクロカプセル剤の製造方法。
【請求項3】
殺生物活性成分がネオニコチノイド系化合物であることを特徴とする請求項1または2に記載のマイクロカプセル剤の製造方法。

【公開番号】特開2012−51827(P2012−51827A)
【公開日】平成24年3月15日(2012.3.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−194384(P2010−194384)
【出願日】平成22年8月31日(2010.8.31)
【出願人】(000250018)住化エンビロサイエンス株式会社 (69)
【Fターム(参考)】