説明

マイクロカプセル固形物およびその利用方法

【課題】ホルムアルデヒドおよびアンモニアといった刺激性の気体が発生しないマイクロカプセル固形物を提供することを目的とする。
【解決手段】アミノ樹脂で内包物を被覆したマイクロカプセル固形物において、有機アミノ化合物でホルムアルデヒドを除去するとともに、アンモニア捕集剤を添加することにより、ホルムアルデヒドおよびアンモニアという刺激性の気体が発生しないマイクロカプセル固形物を得る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内包物を被覆したマイクロカプセルに関するものである。
【背景技術】
【0002】
マイクロカプセルは内包物を皮膜によって被覆した微小な粒子である。内包物を被覆する目的は、内包物の徐放、刺激に応じての放出、恒久的な外環境からの保護である。徐放が求められる用途としては、芳香剤、殺虫剤、医薬などがある。圧力を刺激として内包物を放出する用途としては、ノーカーボン紙に用いられるマイクロカプセルが挙げられる。恒久的な外環境からの保護が求められる用途としては、内包物を潜熱蓄熱材とした蓄熱マイクロカプセルが挙げられる。
【0003】
内包物をマイクロカプセル化する手法としては、コアセルベーション法、界面重合法、in−situ法等を用いることが可能であるが、長期の安定性に耐え、化学的、物理的に安定なマイクロカプセルの製法としてはin−situ法が好ましく、とりわけ熱硬化性樹脂であるアミノ樹脂が好ましい。その中でメラミンとホルマリンの付加縮合法によって得られるメラミン樹脂による皮膜を有するマイクロカプセルが挙げられる(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
上記マイクロカプセルに用いられるメラミン樹脂はメラミンとホルムアルデヒドとの付加縮合反応により得られるが、カプセル作製後に過剰のホルムアルデヒドを除去する工程が必要となる。即ち、ホルムアルデヒドは特異な刺激臭を有し、人体に対しては目や呼吸器官の粘膜及び皮膚を強く刺激して不快感を与えることから、ホルムアルデヒドを用いたアミノ樹脂を皮膜とするマイクロカプセルにおいては、過剰のホルムアルデヒドを除去する工程は環境衛生上必須の操作である。
【0005】
マイクロカプセル分散液中の過剰のホルムアルデヒドを除去する方法としては、一般にホルムアルデヒドを酸化または還元の効果により分解する方法やホルムアルデヒドと反応性の高い化合物と結合させて異なる化合物に変化させる方法などが挙げられる。その中で効果的な方法は、尿素、チオ尿素、ヒドラジン、塩酸ヒドロキシルアミン等の有機アミノ化合物とホルムアルデヒドを反応させる方法であることが知られている(例えば、特許文献2参照)。
【0006】
しかし、上記の有機アミノ化合物は乾燥のための加熱時あるいは乾燥した固形状態での使用過程において経時的に分解反応が進行し、アンモニアが発生する。アンモニアはホルムアルデヒド同様に特異な刺激臭を有し、人体に対しては目や呼吸器官の粘膜及び皮膚を強く刺激し、不快感を与える。
【0007】
また、有機アミノ化合物の添加を行わない場合でも、カプセル皮膜を形成するアミノ樹脂の一部が、乾燥のための加熱時あるいは乾燥した固形状態での使用過程において経時的に分解反応が進行し、アンモニアや揮発性のアミン類が発生しうる。アンモニアや揮発性のアミン類は上記と同様に特異な刺激臭を有し、人体に対しては目や呼吸器官の粘膜及び皮膚を強く刺激し、不快感を与える。
【特許文献1】特開平5−117642号公報
【特許文献2】特開昭55−119437号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明ではホルムアルデヒドおよびアンモニアといった刺激性の気体が発生しないマイクロカプセル固形物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決すべく検討を行った結果、アミノ樹脂で内包物を被覆したマイクロカプセルを単体あるいは複数個固着せしめてなるマイクロカプセル固形物において、マイクロカプセル固形物にアンモニア捕集剤を含有せしめることにより、さらにはマイクロカプセル100質量部に対して0.1〜20質量部のアンモニア捕集剤を含有させることにより、ホルムアルデヒドおよびアンモニアという刺激性の気体が放散しないマイクロカプセル固形物が得られた。
【発明の効果】
【0010】
本発明のマイクロカプセル固形物は、アミノ樹脂により内包物を被覆したマイクロカプセルからのホルムアルデヒドおよびアンモニアの放散がないことから、刺激性がなく、人や環境に対する負荷が低減される。したがって、被服材料や寝具などの繊維加工物、マイクロ波照射により加熱及び蓄熱する保温材、燃料電池や焼却炉などの廃熱利用設備、電子部品やガス吸着剤などの過熱抑制材及び/または過冷抑制材に加え、建築材料、建築物の躯体蓄熱・空間充填式空調、床暖房用、空調用途、道路や橋梁などの土木用材料、産業用及び農業用保温材料、家庭用品、健康用品、医療用材料など様々な利用分野に応用することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明で用いられるマイクロカプセルは内包物を皮膜により被覆した微小な粒子である。内包物としては特に限定されないが、芳香剤、殺虫剤、医薬品、顔料、染料、酵素、UV吸収剤、難燃剤、潜熱蓄熱材などが挙げられる。
【0012】
本発明に係るマイクロカプセルの皮膜は、長期の安定性に耐え、化学的、物理的に安定なカプセルが得られるアミノ樹脂が好ましい。アミノ樹脂としては、ホルムアルデヒドと尿素の付加縮合により得られる尿素樹脂、ホルムアルデヒドとメラミンの付加縮合により得られるメラミン樹脂、あるいはホルムアルデヒドと尿素およびメラミンの付加縮合により得られるメラミン尿素共縮合物などが挙げられる。
【0013】
内包物をマイクロカプセル化する方法としては、アミノ樹脂をカプセル膜材として内包物表面に析出させるin−situ法が好ましい。
【0014】
本発明のマイクロカプセルの体積平均粒子径は0.5〜50μmの範囲にすることが好ましく、さらに好ましくは1〜20μm、より好ましくは1〜10μm、特に好ましくは1〜5μmの範囲にすることが好ましい。50μmより大きい粒子径では機械的剪断力に極めて弱くなることがある。また、マイクロカプセルはまず分散液として得られるが、内包物の比重が分散媒体の比重と大きく差がある場合、マイクロカプセルが浮遊したり沈降したりしやすくなることがある。0.5μmより小さい粒子径では破壊は抑えられるものの、膜厚が薄くなり耐熱性に乏しくなることがある。本発明で述べる体積平均粒子径とはマイクロカプセル粒子の体積換算値の平均粒子径を表わすものであり、原理的には一定体積の粒子を小さいものから順に篩分けし、その50%体積に当たる粒子が分別された時点での粒子径を意味する。体積平均粒子径の測定は顕微鏡観察による実測でも測定可能であるが、市販の電気的、光学的粒子径測定装置を用いることにより自動的に測定可能であり、本発明における体積平均粒子径は米国コールター社製粒度測定装置マルチサイザーII型を用いて測定を行なった。
【0015】
得られたマイクロカプセルに尿素、チオ尿素、ヒドラジン、塩酸ヒドロキシルアミン等有機アミノ化合物を添加して過剰のホルムアルデヒドを除去する。これらは単独あるいは組み合わせて使用することができる。添加量はマイクロカプセル100質量部に対し、0.1〜20質量部が好ましく、より好ましくは1〜15質量部、さらに好ましくは2〜13質量部である。有機アミノ化合物は、マイクロカプセルの水分散液(スラリー)に添加されるのがホルムアルデヒドの除去反応が効率的に行われる点で好ましいが、粉体や固形体、造粒体にした後に有機アミノ化合物を添加しても良い。
【0016】
マイクロカプセルは、通常水分散液の状態で作製されるが、本発明では、この分散液(スラリー)を、スプレードライヤー、ドラムドライヤー、フリーズドライヤー、フィルタープレスなどの各種乾燥装置・脱水装置を用いて、媒体の水を蒸発・脱水・乾燥させて粉体や固形体の形態にして使用する。さらに、粉体や固形体に必要に応じてバインダー等を加えて、押出し造粒、転動造粒、撹拌造粒など各種造粒法を用いて造粒することで粒径を大きくし、扱いやすくした造粒体の形態にして使用することもできる。またはマイクロカプセル分散液に増粘剤や脱水剤を加えるとともに結着剤を加えて、同様の各種造粒法を用いて造粒することにより造粒体を作製することもできる。本発明ではこれら粉体や固形体および造粒体の総称として固形物と呼ぶことにする。なお、固形物の形状としては球状、楕円形、立方体、直方体、円柱状、円錐状、円盤状、俵状、桿状、正多面体、星形、筒型等如何なる形状でも良く、大きさは限定されない。乾燥時、あるいは造粒時に各種結着剤、酸化防止剤、VOC吸着剤、活性炭、光触媒、有機・無機顔料、不燃材、難燃剤粉体を添加することも可能である。
【0017】
粉体や固形体および造粒体の製造時に、結着剤を添加すると、マイクロカプセル同士の凝集力、結着力、強度をさらに高める作用をもたらす。いずれの結着剤も単独または2種以上併用しても使用可能である。具体例としては結着能及び皮膜形成能を有する従来より公知の天然高分子、天然高分子変性品(半合成品)、合成高分子および無機系化合物を用いることができる。
【0018】
天然高分子物質としては、酸化でんぷん、リン酸エステル化でんぷん等の多糖類、並びにゼラチン、カゼイン、にかわ、及びコラーゲン等のタンパク質等が挙げられる。また、半合成品としては、アルギン酸プロピレングリコールエステル、ビスコース、メチルセルロース、エチルセルロース、メチルエチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシプロピルエチルセルロース、カルボキシメチルヒドロキシエチルセルロース、及びヒドロキシプロピルメチルセルロースフタレート等の繊維素誘導体が用いられる。
【0019】
また、合成高分子としては、ポリビニルアルコール、部分アセタール化ポリビニルアルコール、アリル変性ポリビニルアルコール、ポリビニルメチルエーテル、ポリビニルエチルエーテル、及びポリビニルイソブチルエーテル等の変性ポリビニルアルコール、ポリ(メタ)アクリル酸エステル類、ポリ(メタ)アクリル酸エステル部分けん化物、及びポリ(メタ)アクリルアマイド等のポリ(メタ)アクリル酸誘導体、ポリエチレングリコール、ポリエチレンオキサイド、ポリビニルピロリドン、及びビニルピロリドン酢酸ビニル共重合体の親水性高分子や、ポリ酢酸ビニル、ポリウレタン、スチレンブタジエン共重合体、カルボキシ変性スチレンブタジエン共重合体、ポリ(メタ)アクリル酸エステル類、アクリロニトリルブタジエン共重合体、アクリル酸メチルブタジエン共重合体、エチレン酢酸ビニル共重合体等のラテックス類、ポリウレタンエラストマー分散液、ポリシロキサンアクリルグラフトポリマー分散液、シリコン系ポリマー類、ポリアミドエピハロヒドリン類、ポリアミンエピハロヒドリン類、熱可塑性エラストマー等が挙げられる。
【0020】
これら結着剤の添加量は、マイクロカプセル100質量部に対して0.1〜20質量部の範囲であることが好ましい。0.1質量部より少ないと十分な結着能が得られないことがあり、20質量部を超えると単位質量あたりの熱量が低下することがある。
【0021】
乾燥時のカプセルスラリーのpHはアンモニアの発生が抑えられることから、pHは1〜9に調整されることが望ましく、特にpH3〜8が好ましい。pHが9より高いとアンモニアの発生量が増加することがあり、pHが1より低いと酸性が強いため取り扱いが困難となることがある。
【0022】
本発明では、有機アミノ化合物より発生するアンモニアを捕集する目的でマイクロカプセル作製後にアンモニア捕集剤が添加される。アンモニア捕集剤としてはゼオライト、あるいはアンモニアを中和できる酸性の官能基を有する化合物が好ましい。これらは単独あるいは組み合わせて使用することができる。添加量はマイクロカプセル100質量部に対して、0.1〜20質量部、より好ましくは0.5〜15質量部のアンモニア捕集剤が好ましい。0.1質量部より少ないとアンモニア捕集効果が十分でなくなることがあり、20質量部よりも多いと固形物中のマイクロカプセル含有量が下がるため、例えばマイクロカプセルの内包物による機能が発現されにくくなることがある。例えば、内包物が潜熱蓄熱材である場合は蓄熱効果が低減することがあり、内包物が芳香剤である場合は芳香効果の低減といったことがおきることがある。
【0023】
ゼオライトはA型、T型、X型などがあり、吸着効果を有するものであれば限定されないが、その中でもアンモニアに対して大きな吸着効果を有する構造を持つものが好ましい。
【0024】
アンモニア捕集剤としてアンモニアを中和する官能基を有する化合物は、酸性の官能基を有しているものであればよいが、硫酸のような強酸の官能基はマイクロカプセル皮膜にダメージを与えるだけでなく、人体にも有害である。酸性の官能基としてカルボキシル基を有する化合物はその点で優れており、酢酸、ギ酸、シュウ酸、酪酸、安息香酸、フタル酸などが挙げられるが、カルボキシル基を有していればこれらに限定されるものではない。これらは単独あるいは組み合わせて使用することができる。
【0025】
さらにアンモニア捕集剤として酸性の官能基を有する高分子化合物を用いると、アンモニアの捕集効果に加えて、カプセル同士の結着効果も得ることができる。酸性の官能基を有する高分子化合物としてはアンモニアを中和することができる酸性の官能基を有していればよく、ポリアクリル酸、ポリメタクリル酸、ポリスルホン酸、アクリルアミド2−メチルプロパンスルホン酸重合体、及びそれらを含有する共重合体、スチレン―無水マレイン酸共重合体等の(無水)マレイン酸共重合体類、その他カルボキシル基、スルホン酸基、りん酸基含有モノマーの単独重合体または共重合体などが挙げられる。その中でも、マイクロカプセル皮膜にダメージを与えず、人体への影響も少ない、酸性の官能基がカルボキシル基であるポリアクリル酸が好ましい。ポリアクリル酸を用いると、優れたアンモニア捕集効果が得られるだけでなく、マイクロカプセル固形物に他の高分子結着剤よりも優れた結着効果を付与することができる。分子量は2000から1000000までが好ましい。分子量が2000より小さいと結着効果が十分でなくなることがあり、分子量が1000000より大きいと水溶液にした際の粘度が高いため取り扱い難い場合がある。
【0026】
ゼオライトはカプセルスラリーあるいはカプセル固形物に添加することができる。高分子化合物はカプセルスラリーあるいはカプセル固形物に添加することができる。添加時の形態は固体または水溶液のどちらにも限定されない。
【0027】
これらアンモニア捕集剤の配合方法としては、粉体や固形体を得るときには、1)マイクロカプセル分散液にアンモニア捕集剤を添加して粉体や固形体を得る方法、2)マイクロカプセル固形物にアンモニア捕集剤を表面塗工などで後付与する方法が挙げられる。また、造粒体を得るときは、3)粉体や固形体にアンモニア捕集剤を添加して造粒体を得る方法、4)粉体や固形体を造粒体とした後に表面塗工などでアンモニア捕集剤を後付与する方法、5)マイクロカプセル分散液にアンモニア捕集剤を添加して得た粉体や固形体を造粒する方法、6)マイクロカプセル固形物にアンモニア捕集剤を表面塗工などで後付与して得た粉体や固形体を造粒する方法等を挙げることができる。
上記の方法のうち、1)と3)の方法が特に好ましい。
【0028】
マイクロカプセルの内包物として潜熱蓄熱材は、相転移に伴う潜熱を利用して蓄熱する目的で用いられる。具体的には、融点あるいは凝固点を有する化合物であれば使用可能であるが、例えば好ましい化合物としては、n−テトラデカン、n−ヘキサデカン、n−オクタデカン、パラフィンワックス等の脂肪族炭化水素化合物(パラフィン類化合物)、無機系共晶物及び無機系水和物、パルミチン酸、ミリスチン酸等の脂肪酸類、ベンゼン、p−キシレン等の芳香族炭化水素化合物、パルミチン酸イソプロピル、ステアリン酸ブチル、ミリスチン酸ミリスチル等のエステル化合物、ステアリルアルコール等のアルコール類等の化合物が挙げられ、好ましくは融解熱量が約80kJ/kg以上の化合物で、化学的、物理的に安定なものが用いられる。これらは混合して用いても良いし、必要に応じ過冷却防止材、比重調節材、劣化防止剤等を添加することができる。また、融点の異なる2種以上の蓄熱材を混合して用いることも可能である。
【0029】
本発明のマイクロカプセル固形物は、それ単独でも利用可能であるが、繊維、樹脂、無機素材などの中に分散・混合したり、複合したり、包材中に充填したりして使用することもできる。
【0030】
以下、本発明のマイクロカプセル固形物の使用形態を例示する。例えば、内包物が潜熱蓄熱材である場合、マイクロカプセル固形物をマイクロ波照射により加熱及び蓄熱する保温材に利用する。ここで言うマイクロ波照射により加熱及び蓄熱する保温材とは、例えば特開2001−303032号公報や特開2005−179458号公報に記載のように、シリカゲル等の吸水性化合物あるいは極性構造を有する化合物とマイクロカプセル固形物とを単独または適当な包材に充填したものである。マイクロ波を照射することにより吸水性化合物あるいは極性構造を有する化合物が発熱して、その熱が直接または間接的に接触しているマイクロカプセル固形物に伝熱され、蓄熱が可能となる。
【0031】
また、本発明のマイクロカプセル固形物を繊維や布帛に付着または含有せしめて利用することができる。この繊維や布帛は、衣料品や寝具、家具、壁材床材等の建築材料として利用することもできる。寝具とは、枕、ベッドパッド、シーツ、布団、毛布などが挙げられ、天然繊維や合成繊維からなる布地を単独で使用したもの、若しくはその内部に綿、羊毛、羽毛、ウレタンフォーム、スポンジ、ゲル状クッション材、蕎麦殻、プラスチックビーズなどの合成素材や天然素材からなる充填物が充填されているものである。マイクロカプセル固形物は繊維に練り込んだり、布帛に塗工したり、布帛内に単独で充填されたり、上記充填物と共に充填されたりして用いられる。
【0032】
本発明のマイクロカプセル固形物を建築材料に利用することもできる。ここでいうマイクロカプセル固形物を用いる建築材料とは、コンクリート、セメントボード、石膏ボード、樹脂ボード、木質繊維・鉱物性繊維・合成樹脂繊維等を用いた繊維質ボードなどへマイクロカプセル固形物を混合・塗工したものである。これらを躯体、天井、壁、床などへ利用することができる。例えば、内包物が潜熱蓄熱材の場合、室内温度が上がりにくい、もしくは下がりにくい環境を作ることが可能となる。また、加熱器や冷却器と組み合わせて、暖房及び/または冷房システムとして使用することもできる。
【0033】
内包物が潜熱蓄熱材の場合、本発明のマイクロカプセル固形物をガス吸着材に利用することができる。ガス吸着材とは、例えば特開2001−145832号公報に記載のように、活性炭、ゼオライト、アルミナ、シリカゲル、有機金属錯体等の吸着材とマイクロカプセル固形物とを複合させたものである。吸着対象のガスとしては、メタンなどの天然ガス系、プロパンやブタンなどの石油ガス系、水素、一酸化炭素や二酸化炭素、酸素、窒素、臭気性ガス、酸性ガス、塩基性ガス、有機溶剤ガスなどが挙げられる。これらのガスを吸着材に吸着させるときに発生する熱(吸着熱)を、マイクロカプセル固形物に蓄熱吸収させて温度上昇を抑制して、吸着効率の低下を抑制することができる。また、吸着材からガスを脱着させるときに吸収する熱(脱着熱)を、マイクロカプセル固形物に蓄熱していた熱から放熱供給して温度低下を抑制して、脱着効率の低下を抑制することができる。
【0034】
また、内包物が潜熱蓄熱材の場合、太陽熱や空調の熱などを蓄え、必要な時にそれを取り出すようにする蓄熱技術を住宅あるいはオフィスビルに応用することによって、快適性や省エネルギー性を向上させようとする試みが行われている。しかし、十分な蓄熱容量を確保するためには、相応の容積が必要であり、新たに蓄熱部材を設けるために相応するスペースを確保する必要が生じている。蓄熱機能を付与するためにコンクリートを打設したり、煉瓦や砂を敷き詰めたりする等の方法が用いられているが、施工管理が煩雑になる上、重量物であるために、その設置部位は一階床部分などに限られていた。これに対して潜熱蓄熱材を内包したマイクロカプセル固形物を空調用蓄熱材として利用することにより、特定の狭い温度域に多量の熱を蓄熱することができ、マイクロカプセル固形物を天井裏あるいは床下の小さいスペースに充填することで目的を達することが可能となる。
【0035】
(実施例)
以下、本発明の実施手順を実施例として具体的に説明する。なお、粒子径についてはコールターカウンター(米国コールター社製、コールターマルチサイザーII型)で測定した。
【実施例1】
【0036】
マイクロカプセル分散液の作製:pHを4.5に調整した10%スチレン−無水マレイン酸共重合体のナトリウム塩水溶液100質量部中に、潜熱蓄熱材として、パラフィンワックス(融点45℃)80質量部を激しく撹拌しながら添加し、粒子径が1.8μmになるまで乳化を行った。次に、メラミン粉末12質量部に37質量%ホルムアルデヒド水溶液15.4質量部と水40質量部を加えpHを8に調整した後、約70℃まで加熱して得られるメラミン−ホルムアルデヒド初期縮合物水溶液を、上記の乳化液に全量を添加し、70℃で2時間撹拌を施し、粒子径2.0μmのマイクロカプセル分散液を得た。
【0037】
過剰のホルムアルデヒド除去操作:得られたマイクロカプセル分散液にギ酸を1質量部および50質量%尿素水溶液を15質量部添加し、60℃にて1時間撹拌を施して過剰のホルムアルデヒド除去を行った。
【0038】
マイクロカプセル粉体の作製:過剰のホルムアルデヒド除去を行ったマイクロカプセル分散液をスプレードライヤーで水分含有率3質量%以下まで乾燥し、マイクロカプセル粉体を得た。
【0039】
造粒体状のマイクロカプセル固形物の作製:得られたマイクロカプセル粉体100質量部に40質量%ポリアクリル酸水溶液10質量部を添加し、押出式造粒装置により2mm径に押出成型を行い、100℃で乾燥させて造粒体状のマイクロカプセル固形物を得た。なお、得られた造粒体状のマイクロカプセル固形物に、セロハン粘着テープを押し当てた後、剥がしたところ、セロハン粘着テープには何らの剥離物も付着せず、この造粒体状のマイクロカプセル固形物は優れた結着状態にあることが確認された。
【0040】
マイクロ波照射により加熱及び蓄熱する保温材への利用:上記で得られた造粒体状のマイクロカプセル固形物20質量部とシリカゲル80質量部を混合し、保温材として使用した。500W出力の電子レンジにて2分加熱しても、ホルムアルデヒドおよびアンモニアの臭気は感じられなかった。また、保温効果が高く、加熱後1時間経過しても温かかった。
【実施例2】
【0041】
マイクロカプセル粉体を得るところまでは実施例1における潜熱蓄熱材をn−ヘキサデカン(融点18℃)に変えた以外は実施例1と全く同様の操作で作製したマイクロカプセル粉体100質量部に、ゼオライト粉体(ミズカナイトAP、水澤化学工業社製)10質量部及び30質量%ポリビニルアルコール水溶液10質量部をそれぞれ添加し、押出式造粒装置により2mm径に押出成型を行い、100℃で乾燥させて造粒体状のマイクロカプセル固形物を得た。
【0042】
得られた造粒体状のマイクロカプセル固形物を空調用蓄熱材として床下に充填したが、室内にホルムアルデヒドおよびアンモニアの臭気は感じられなかった。また、蓄熱効果が高く、長時間にわたって空調用の冷熱を取り出すことが可能であった。
【実施例3】
【0043】
マイクロカプセル粉体を得るところまでは実施例1における潜熱蓄熱材を融点30℃のパラフィンに変えた以外は実施例1と全く同様の操作で作製したマイクロカプセル粉体100質量部に、40質量%ポリアクリル酸水溶液50質量部を添加し、押出式造粒装置により2mm径に押出成型を行い、100℃で乾燥させて造粒体状のマイクロカプセル固形物を得た。実施例1と同様に、マイクロ波照射により加熱及び蓄熱する保温材として利用したが、ホルムアルデヒドおよびアンモニアの臭気は感じられなかった。また、保温効果が高く、加熱後1時間経過しても温かかった。
【実施例4】
【0044】
マイクロカプセル粉体を得るところまでは実施例1における潜熱蓄熱材を融点28℃のパラフィンに変えた以外は実施例1と全く同様の操作で作製したマイクロカプセル粉体100質量部に、40質量%ポリアクリル酸水溶液0.3質量部を添加し、押出式造粒装置により1mm径に押出成型を行い、100℃で乾燥させて造粒体状のマイクロカプセル固形物を得た。
【0045】
得られた造粒体状のマイクロカプセル固形物を包材に充填し、上着として使用した。ホルムアルデヒドおよびアンモニアの臭気は感じられなかった。また、衣服内温度が一定に保たれるため快適な状態を長時間維持できた。
【実施例5】
【0046】
マイクロカプセル粉体を得るところまでは実施例1と全く同様の操作で作製したマイクロカプセル粉体100質量部に、40質量%ポリアクリル酸水溶液0.2質量部を添加し、押出式造粒装置により2mm径に押出成型を行い、100℃で乾燥させて造粒体状のマイクロカプセル固形物を得た。
【0047】
得られた造粒体状のマイクロカプセル固形物はアンモニアの臭気が実施例1〜4で得られたマイクロカプセル固形物と比べると若干感じられた。保温材、空調用蓄熱材、衣類、寝具などへの使用に際して、若干快適性が損なわれるものであった。蓄熱性は十分であった。
【実施例6】
【0048】
マイクロカプセル粉体を得るところまでは実施例1と全く同様の操作で作製したマイクロカプセル粉体100質量部に、40質量%ポリアクリル酸水溶液55質量部を添加し、押出式造粒装置により2mm径に押出成型を行い、100℃で乾燥させて造粒体状のマイクロカプセル固形物を得た。
【0049】
得られた造粒体状のマイクロカプセル固形物はホルムアルデヒドおよびアンモニアの臭気は感じられなかったものの、蓄熱効果が実施例1〜5で得られたマイクロカプセル固形物よりも低く、保温材、空調用蓄熱材、衣類、寝具などで使用した際に持続時間が短かった。
【実施例7】
【0050】
マイクロカプセル分散液を得て過剰のホルムアルデヒド除去するところまでは実施例1と全く同様の操作で作製したマイクロカプセル分散液に、マイクロカプセル固形分100質量部に対して40質量%ポリアクリル酸水溶液5質量部を添加した。この混合液をスプレードライヤーで水分含有率3質量%以下まで乾燥し、粉体状のマイクロカプセル固形物を得た。得られた粉体状のマイクロカプセル固形物はホルムアルデヒドおよびアンモニアの臭気は感じられなかった。
【実施例8】
【0051】
マイクロカプセル分散液を得て過剰のホルムアルデヒド除去するところまでは実施例1と全く同様の操作で作製したマイクロカプセル分散液に、マイクロカプセル固形分100質量部に対して40質量%ポリアクリル酸水溶液2.5質量部を添加した。この混合液をスプレードライヤーで水分含有率3質量%以下まで乾燥し、マイクロカプセル粉体を得た。得られたマイクロカプセル粉体100質量部に30質量%ポリビニルアルコール水溶液8質量部を添加し、押出式造粒装置により2mm径に押出成型を行い、100℃で乾燥させて造粒体状のマイクロカプセル固形物を得た。得られた造粒体状のマイクロカプセル固形物はホルムアルデヒドおよびアンモニアの臭気は感じられなかった。
【実施例9】
【0052】
マイクロカプセル分散液を得て過剰のホルムアルデヒド除去するところまでは実施例1と全く同様の操作で作製したマイクロカプセル分散液に、マイクロカプセル固形分100質量部に対して40質量%ポリアクリル酸水溶液4質量部及びエチレン−酢酸ビニル共重合体ラテックス(固形分濃度40質量%)3質量部をそれぞれ添加した。この混合液をスプレードライヤーで水分含有率3質量%以下まで乾燥し、粉体状のマイクロカプセル固形物を得た。得られた粉体状のマイクロカプセル固形物はホルムアルデヒドおよびアンモニアの臭気は感じられなかった。
【実施例10】
【0053】
マイクロカプセル粉体を得るところまでは実施例1と全く同様の操作で作製したマイクロカプセル粉体100質量部に、40質量%ポリアクリル酸水溶液7.5質量部及びエチレン−酢酸ビニル共重合体ラテックス(固形分濃度40質量%)25質量部をそれぞれ添加し、押出式造粒装置により1mm径に押出成型を行い、100℃で乾燥させて造粒体状のマイクロカプセル固形物を得た。得られた造粒体状のマイクロカプセル固形物はホルムアルデヒドおよびアンモニアの臭気は感じられなかった。
【実施例11】
【0054】
マイクロカプセル粉体を得るところまでは実施例1と全く同様の操作で作製したマイクロカプセル粉体100質量部に、20質量%アクリルアミド2−メチルプロパンスルホン酸重合体の水溶液5質量部及びエチレン−酢酸ビニル共重合体ラテックス(固形分濃度40質量%)25質量部をそれぞれ添加し、押出式造粒装置により1mm径に押出成型を行い、100℃で乾燥させて造粒体状のマイクロカプセル固形物を得た。得られた造粒体状のマイクロカプセル固形物はホルムアルデヒドおよびアンモニアの臭気は感じられなかった。
【実施例12】
【0055】
マイクロカプセル粉体を得るところまでは実施例1と全く同様の操作で作製したマイクロカプセル粉体100質量部に、40質量%ポリアクリル酸水溶液2.5質量部及び20質量%アクリルアミド2−メチルプロパンスルホン酸重合体の水溶液2.5質量部、エチレン−酢酸ビニル共重合体ラテックス(固形分濃度40質量%)20質量部をそれぞれ添加し、押出式造粒装置により1mm径に押出成型を行い、100℃で乾燥させて造粒体状のマイクロカプセル固形物を得た。得られた造粒体状のマイクロカプセル固形物はホルムアルデヒドおよびアンモニアの臭気は感じられなかった。
【実施例13】
【0056】
マイクロカプセル分散液を得るところ(過剰のホルムアルデヒドを除去する前)までは実施例1と全く同様の操作で作製したマイクロカプセル分散液をスプレードライヤーで水分含有率3質量%以下まで乾燥し、マイクロカプセル粉体を得た。得られたマイクロカプセル粉体100質量部に、50質量%尿素水溶液を10質量部及び40質量%ポリアクリル酸水溶液12.5質量部をそれぞれ添加し、押出式造粒装置により2mm径に押出成型を行い、100℃で乾燥させて造粒体状のマイクロカプセル固形物を得た。得られた造粒体状のマイクロカプセル固形物はホルムアルデヒドおよびアンモニアの臭気は感じられなかった。
【実施例14】
【0057】
マイクロカプセル分散液を得るところ(過剰のホルムアルデヒドを除去する前)までは実施例1と全く同様の操作で作製したマイクロカプセル分散液をスプレードライヤーで水分含有率3質量%以下まで乾燥し、マイクロカプセル粉体を得た。得られたマイクロカプセル粉体100質量部に、50質量%尿素水溶液を12質量部及び40質量%ポリアクリル酸水溶液15質量部、エチレン−酢酸ビニル共重合体ラテックス(固形分濃度40質量%)12.5質量部をそれぞれ添加し、押出式造粒装置により2mm径に押出成型を行い、100℃で乾燥させて造粒体状のマイクロカプセル固形物を得た。得られた造粒体状のマイクロカプセル固形物はホルムアルデヒドおよびアンモニアの臭気は感じられなかった。
【実施例15】
【0058】
マイクロカプセル粉体を得るところまでは、実施例1における潜熱蓄熱材を香油であるヒバ油に変えた以外は実施例1と全く同様の操作で作製したマイクロカプセル粉体100質量部に、40質量%ポリアクリル酸水溶液50質量部を添加し、押出式造粒装置により1.5mm径に押出成型を行い、100℃で乾燥させて造粒体状のマイクロカプセル固形物を得た。得られた造粒体状のマイクロカプセル固形物はホルムアルデヒドおよびアンモニアの臭気は感じられなかった。
【0059】
(比較例1)
マイクロカプセル粉体を得るところまでは実施例1と全く同様の操作で作製したマイクロカプセル粉体100質量部に、25質量%ポリビニルアルコール水溶液16質量部を添加し、押出式造粒装置により2mm径に押出成型を行い、100℃で乾燥させて造粒体状のマイクロカプセル固形物を得た。なお、得られた造粒体状のマイクロカプセル固形物に、セロハン粘着テープを押し当てた後、剥がしたところ、セロハン粘着テープにはマイクロカプセル粉体の凝集物状のものが剥離物として多数付着し、この造粒体状のマイクロカプセル固形物の結着状態は劣ったものであった。
【0060】
得られた造粒体状のマイクロカプセル固形物はアンモニアの臭気が激しく、保温材、空調用蓄熱材、衣類、寝具などへの使用は困難であった。
【産業上の利用可能性】
【0061】
本発明のマイクロカプセル固形物はホルムアルデヒドおよびアンモニアの発生が抑えられることから、芳香剤、殺虫剤、医薬などへの利用が可能であり、さらに、被服材料や寝具などの繊維加工物、マイクロ波照射により加熱及び蓄熱する保温材、燃料電池や焼却炉などの廃熱利用設備、電子部品やガス吸着剤などの過熱抑制材及び/または過冷抑制材に加え、建築材料、建築物の躯体蓄熱・空間充填式空調、床暖房用、空調用途、道路や橋梁などの土木用材料、産業用及び農業用保温材料、家庭用品、健康用品、医療用材料など様々な利用分野に応用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アミノ樹脂で内包物を被覆したマイクロカプセルを単体あるいは複数個固着せしめてなるマイクロカプセル固形物において、アンモニア捕集剤を含有せしめてなることを特徴とするマイクロカプセル固形物。
【請求項2】
アンモニア捕集剤の含有量が、マイクロカプセル100質量部に対して0.1〜20質量部である請求項1に記載のマイクロカプセル固形物。
【請求項3】
アンモニア捕集剤がゼオライトである請求項1または2に記載のマイクロカプセル固形物。
【請求項4】
アンモニア捕集剤がカルボキシル基を有する化合物である請求項1または2に記載のマイクロカプセル固形物。
【請求項5】
カルボキシル基を有する化合物がポリアクリル酸である請求項4に記載のマイクロカプセル固形物。
【請求項6】
内包物が潜熱蓄熱材である請求項1〜5のいずれか1項に記載のマイクロカプセル固形物。
【請求項7】
請求項6に記載のマイクロカプセル固形物とマイクロ波の照射により加熱可能な顔料とを混合することにより保温材として利用するマイクロカプセル固形物の利用方法。
【請求項8】
請求項6に記載のマイクロカプセル固形物に空調の冷熱および温熱を蓄熱することにより空調用蓄熱材として利用するマイクロカプセル固形物の利用方法。
【請求項9】
請求項1〜6に記載のマイクロカプセル固形物を、布帛に含有または付着せしめて利用するマイクロカプセル固形物の利用方法。

【公開番号】特開2006−192428(P2006−192428A)
【公開日】平成18年7月27日(2006.7.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−359453(P2005−359453)
【出願日】平成17年12月13日(2005.12.13)
【出願人】(000005980)三菱製紙株式会社 (1,550)
【Fターム(参考)】