説明

マイクロカプセル型硬化剤およびこれを含有する硬化性樹脂組成物

【課題】貯蔵安定性に優れ、低温で硬化することができる硬化性樹脂組成物の提供。
【解決手段】硬化剤をコア成分として内包するシェル成分が、50〜130℃の融点を有する有機化合物であるマイクロカプセル型硬化剤と硬化性樹脂とを含有する硬化性樹脂組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マイクロカプセル型硬化剤およびこれを含有する硬化性樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
エポキシ樹脂組成物は、反応性、硬化物物性に優れることから、例えば、自動車や缶類の塗装分野、封止材や積層板等の電気分野、土木分野、接着分野で利用されている。
このようなエポキシ樹脂組成物について、常温一液保存性等を改善することを目的として、マイクロカプセル型硬化剤やマイクロカプセル型硬化促進剤、およびこれを含むエポキシ樹脂組成物が提案されている(特許文献1〜2)。
【0003】
【特許文献1】特開平09−3164号公報
【特許文献2】特開平06−73163号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、本発明者は、特許文献1〜2に記載されているエポキシ樹脂組成物を硬化させる際、硬化温度を高くしなければならないことを見出した。
また、低温(例えば、70〜80℃)で硬化するマイクロカプセル型硬化剤含有エポキシ樹脂組成物は、貯蔵安定性が悪いことを、本発明者は見出した。
そこで、本発明は、貯蔵安定性に優れ、低温で硬化しうる硬化性樹脂組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者は、上記課題を解決すべく鋭意研究した結果、硬化剤をコア成分として内包するシェル成分が、50〜130℃の融点を有する有機化合物であるマイクロカプセル型硬化剤を含有する硬化性樹脂組成物は、貯蔵安定性に優れ、低温で硬化しうることを見出し、本発明を完成させたのである。
【0006】
すなわち、本発明は、下記(1)〜(13)を提供する。
(1) 硬化剤をコア成分として内包するシェル成分が、50〜130℃の融点を有する有機化合物であるマイクロカプセル型硬化剤。
(2) 前記有機化合物が、α−オレフィン重合体、ワックス、結晶性エポキシ樹脂およびイソシアヌル酸類からなる群から選ばれる少なくとも1種である上記(1)に記載のマイクロカプセル型硬化剤。
(3) 前記α−オレフィン重合体が、炭素数10以上の高級α−オレフィンから得られ、立体規則性指標値M2が50モル%以上である結晶性高級α−オレフィン重合体である上記(2)に記載のマイクロカプセル型硬化剤。
(4) 前記シェルの融点以上における溶融粘度が、1〜1500mPa・sである上記(1)〜(3)のいずれかに記載のマイクロカプセル型硬化剤。
(5) 前記硬化剤が、エポキシ樹脂用硬化剤である上記(1)〜(4)のいずれかに記載のマイクロカプセル型硬化剤。
(6) 前記エポキシ樹脂用硬化剤が、第三級アミン類、イミダゾール類およびジアザビシクロ化合物類からなる群から選ばれる少なくとも1種である上記(5)に記載のマイクロカプセル型硬化剤。
(7) 前記第三級アミン類が、1分子あたり3つ以上の第三級アミン部位を有する脂肪族第三級アミンである上記(6)に記載のマイクロカプセル型硬化剤。
(8) 前記第三級アミン部位が、ジメチルアミノ基である上記(7)に記載のマイクロカプセル型硬化剤。
(9) 上記(1)〜(8)のいずれかに記載のマイクロカプセル型硬化剤と硬化性樹脂とを含有する硬化性樹脂組成物。
(10) 前記硬化性樹脂が、エポキシ樹脂および/またはエピスルフィド樹脂である上記(9)に記載の硬化性樹脂組成物。
(11) 前記マイクロカプセル型硬化剤の量が、前記硬化性樹脂100質量部に対して、0.1〜30質量部である上記(9)または(10)に記載の硬化性樹脂組成物。
(12) 前記エピスルフィド樹脂の量が、前記硬化性樹脂の合計量の30質量%以上である上記(10)または(11)に記載の硬化性樹脂組成物。
(13) 上記(9)〜(12)のいずれかに記載の硬化性樹脂組成物を、60〜130℃で加熱して硬化させることによって得られる硬化物。
【発明の効果】
【0007】
本発明の硬化性樹脂組成物は、貯蔵安定性に優れ、低温で硬化することができる。
本発明のマイクロカプセル型硬化剤は、硬化性樹脂に対する貯蔵安定性に優れ、硬化性樹脂を低温で硬化させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本発明について以下詳細に説明する。
まず、本発明のマイクロカプセル型硬化剤は、
硬化剤をコア成分として内包するシェル成分が、50〜130℃の融点を有する有機化合物であるものである。
【0009】
シェルについて以下に説明する。
本発明のマイクロカプセル型硬化剤に使用されるシェルは、硬化剤をコア成分として内包し、シェルの成分が50〜130℃の融点を有する有機化合物である。
【0010】
シェルの成分として使用される有機化合物は、50〜130℃の融点を有し、硬化剤および/または硬化性樹脂に対して反応性を有さない、または反応性が低いものであれば特に制限されない。
【0011】
有機化合物としては、例えば、α−オレフィン重合体、ワックス、結晶性エポキシ樹脂、イソシアヌル酸類が挙げられる。
また、有機化合物は、α−オレフィン重合体、ワックス、結晶性エポキシ樹脂およびイソシアヌル酸類からなる群から選ばれる少なくとも1種であるのが好ましい。
【0012】
有機化合物としてのα−オレフィン重合体は、低温では固形状であるが、融点付近の温度でシャープに溶融するという観点から、炭素数10以上の高級α−オレフィンから得られ、立体規則性指標値M2が50モル%以上である結晶性高級α−オレフィン重合体であるのが好ましい。
【0013】
炭素数10以上の高級α−オレフィンとしては、例えば、1−デセン、1−ウンデセン、1−ドデセン、1−トリデセン、1−テトラデセン、1−ペンタデセン、1−ヘキサデセン、1−ヘプタデセン、1−オクタデセン、1−ノナデセン、1−エイコセンが挙げられる。
【0014】
有機化合物としてのα−オレフィン重合体は、アイソタクチック構造が良好で、立体規則性指標値M2が50モル%以上であることが好ましい。更に好ましくは50〜90モル%、特に好ましくは55〜85モル%、一層好ましくは55〜75モル%である。
立体規則性指標値M2が50モル未満の場合、アクタクチック構造やシンジオタクチック構造となり、非晶性もしくは、結晶性が低下し、表面特性の悪化、特にべたつき、強度低下につながる。
【0015】
立体規則性指標値M2は、T.Asakura,M.Demura,Y.Nishiyamaにより報告された「Macromolecules,24,2334(1991)」で提案された方法に準拠して求めることができる。
即ち、13CNMRスペクトルで側鎖α位のCH2炭素が立体規則性の違いを反映して分裂して観測されることを利用してM2が求めることができる。
このM2の値が大きいほどアイソタクティシティーが高いことを示す。
【0016】
なお、具体的な13CNMRの測定の装置、条件、立体規則性指標値M2の計算については、国際公開第03/070790号パンフレットに記載されているものと同様であり、以下のとおりである。
【0017】
13CNMRの測定は以下の装置、条件にて行う。
装置:日本電子(株)製EX−400
測定温度:130℃
パルス幅:45°
積算回数:1000回
溶媒:1,2,4−トリクロロベンゼンと重ベンゼンの90:10(容量比)混合溶媒
【0018】
また、立体規則性指標値M2の計算は以下のようにして求める。
混合溶媒に基づく大きな吸収ピークが、127〜135ppmに6本見られる。
このピークのうち、低磁場側から4本目のピーク値を131.1ppmとし、化学シフトの基準とする。
このとき側鎖α位のCH2炭素に基づく吸収ピークが34〜37ppm付近に観測される。
このとき以下の式を用いてM2(mol%)を求める。
【0019】
M2=(36.2〜35.3ppmの積分強度)/(36.2〜34.5ppmの積分強度)×100
【0020】
α−オレフィン重合体は、側鎖に結晶性を持たせた高硬度、低融点のα−オレフィン重合体であるのが好ましい態様の1つとして挙げられる。
α−オレフィン重合体は、その製造について特に制限されない。例えば、炭素数10以上の高級α−オレフィンをメタロセン触媒等によって主鎖の立体規則性を制御しながら重合する方法が挙げられる。このような方法によって、側鎖結晶性を有するα−オレフィン重合体を製造することができる。
【0021】
有機化合物としてのワックスは、特に制限されない。ワックスとして天然ワックス、合成ワックスを使用することができる。
天然ワックスとしては、例えば、石油ワックスが挙げられる。
石油ワックスとしては、例えば、パラフィンワックスが挙げられる。
【0022】
有機化合物としての結晶性エポキシ樹脂は、エポキシ基を2個以上有する化合物であれば特に制限されない。例えば、ビスフェノールA型、ビスフェノールF型、臭素化ビスフェノールA型、水添ビスフェノールA型、ビスフェノールS型、ビスフェノールAF型、ビフェニル型のようなビスフェニル基を有するエポキシ化合物、ポリアルキレングリコール型、アルキレングリコール型のエポキシ化合物、ナフタレン環を有するエポキシ化合物、フルオレン基を有するエポキシ化合物のような2官能タイプのグリシジルエーテル型エポキシ樹脂;フェノールノボラック型、オルソクレゾールノボラック型、トリスヒドロキシフェニルメタン型、3官能型、テトラフェニロールエタン型のような多官能タイプのグリシジルエーテル型エポキシ樹脂;ダイマー酸のような合成脂肪酸のグリシジルエステル型エポキシ樹脂;N,N,N′,N′−テトラグリシジルジアミノジフェニルメタン(TGDDM)、テトラグリシジル−m−キシリレンジアミン、トリグリシジル−p−アミノフェノール、N,N−ジグリシジルアニリンのようなグリシジルアミノ基を有する芳香族エポキシ樹脂;ジシクロペンタジエン環を有するエポキシ樹脂(以下、「DCPDエポキシ樹脂」ということがある。);トリシクロ[5.2.1.02,6]デカン環を有するエポキシ化合物;脂環型エポキシ樹脂;東レチオコール社製のフレップ10に代表されるエポキシ樹脂主鎖に硫黄原子を有するエポキシ樹脂;ウレタン結合を有するウレタン変性エポキシ樹脂が挙げられる。
【0023】
なかでも、硬化性樹脂に対する低温硬化性により優れるという観点から、DCPDエポキシ樹脂、ビフェニル型エポキシ樹脂が好ましい。
結晶性エポキシ樹脂は市販品を使用することができる。結晶性エポキシ樹脂の市販品としては、例えば、エピクロンHP−7200(DCPDエポキシ樹脂、mp:60℃、大日本インキ化学工業社製。)、YX−4000(ビフェニル型エポキシ樹脂、mp:120℃、ジャパンエポキシレジン社製。)が挙げられる。
【0024】
有機化合物としてのイソシアヌル酸類は、イソシアヌル酸の基本骨格を有する化合物であれば特に制限されない。
具体的には、例えば、イソシアヌル酸トリグリシジル(mp:116℃)、モノアリルグリシジルイソシアヌル酸が挙げられる。
【0025】
なかでも、有機化合物は、α−オレフィン重合体、ビフェニル型エポキシ樹脂、ジシクロペンタジエン環を有するエポキシ樹脂、イソシアヌル酸トリグリシジルおよびモノアリルグリシジルイソシアヌル酸からなる群から選ばれる少なくとも1種であるのが好ましい。
【0026】
有機化合物は、それぞれ単独でまたは2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0027】
本発明のマイクロカプセル型硬化剤において、シェルは50〜130℃の融点を有する。
このような範囲の場合、硬化性樹脂に対する、室温以下(40℃以下)における貯蔵安定性、低温硬化性に優れる。
また、硬化性樹脂に対する、貯蔵安定性、低温硬化性により優れるという観点から、シェルの融点は、50〜100℃であるのが好ましく、50〜80℃であるのがより好ましい。
【0028】
また、本発明のマイクロカプセル型硬化剤において、シェルの融点以上における溶融粘度は、硬化性樹脂に対する低温硬化性により優れるという観点から、1〜1500mPa・sであるのが好ましく、1〜500mPa・sであるのがより好ましい。
ここで、シェルの融点以上における溶融粘度は、本発明においてシェルとして使用された有機化合物が有する融点以上における、シェルの溶融粘度をいう。
【0029】
コアについて以下に説明する。
本発明のマイクロカプセル型硬化剤において、コアは、シェルに内包され、その成分が硬化剤である。
コアに使用される硬化剤は、硬化性樹脂に対して使用できるものであれば特に制限されない。
具体的には、例えば、熱硬化性樹脂用硬化剤が挙げられる。
熱硬化性樹脂のなかでも諸物性に優れるエポキシ樹脂の用途が広いという観点から、熱硬化性樹脂用硬化剤はエポキシ樹脂用であるのが好ましい態様の1つとして挙げられる。
【0030】
エポキシ樹脂用硬化剤としては、例えば、第三級アミン類、イミダゾール類、ジアザビシクロ化合物類が挙げられる。
また、硬化性樹脂に対する貯蔵安定性、低温硬化性により優れるという観点から、第三級アミン類、イミダゾール類およびジアザビシクロ化合物類からなる群から選ばれる少なくとも1種が好ましい。
【0031】
エポキシ樹脂用硬化剤としての第三級アミン類は、特に制限されない。例えば、特に限定されず、例えば、トリメチルアミン、トリエチルアミン、トリプロピルアミン、トリブチルアミン、トリアミルアミン、トリヘキシルアミン、トリオクチルアミン、トリラウリルアミン、ジメチルエチルアミン、ジメチルプロピルアミン、ジメチルブチルアミン、ジメチルアミルアミン、ジメチルヘキシルアミン、ジメチルシクロヘキシルアミン、ジメチルオクチルアミン、ジメチルラウリルアミン、トリアリルアミン、テトラメチルエチレンジアミン、トリエチレンジアミン、N−メチルモルフォリン、4,4′−(オキシジ−2,1−エタンジイル)ビス−モルフォリン、N,N−ジメチルベンジルアミン、ピリジン、ピコリン、ジメチルアミノメチルフェノール、トリスジメチルアミノメチルフェノール、トリエタノールアミン、N,N′−ジメチルピペラジン、テトラメチルブタンジアミン、ビス(2,2−モルフォリノエチル)エーテル、ビス(ジメチルアミノエチル)エーテル、N,N′,N″−トリス(ジメチルアミノプロピル)ヘキサヒドロ−S−トリアジン(U−CAT 410、サンアプロ社製)が挙げられる。
【0032】
第三級アミン類は、少量の添加で高い塩基性を示すという観点から、1分子あたり3つ以上の第三級アミン部位を有する脂肪族第三級アミンであるのが好ましい。
1分子あたり3つ以上の第三級アミン部位を有する脂肪族第三級アミンとしては、例えば、N,N′,N″−トリス(ジメチルアミノプロピル)ヘキサヒドロ−S−トリアジンが挙げられる。
【0033】
また、第三級アミン類は、第三級アミン類が有する第三級アミン部位が、立体障害が小さく、塩基性が高いという観点から、ジメチルアミノ基であるのが好ましい。ジメチルアミノ基に結合する炭化水素基は特に制限されない。
【0034】
第三級アミン類は、1分子あたり3つ以上の第三級アミン部位を有し、3つ以上の第三級アミン部位の少なくとも1つがジメチルアミノ基である脂肪族第三級アミンであるのが好ましい態様の1つとして挙げられる。このとき3つ以上の第三級アミン部位のすべてをジメチルアミノ基とすることができる。
第三級アミン類は、1分子あたり3つ以上の第三級アミン部位を有し、3つ以上の第三級アミン部位の少なくとも1つがジメチルアミノ基である脂肪族第三級アミンとしては、例えば、N,N′,N″−トリス(ジメチルアミノプロピル)ヘキサヒドロ−S−トリアジンが挙げられる。
【0035】
エポキシ樹脂用硬化剤としてのイミダゾール類は、イミダゾール環を有するものであれば特に制限されない。
例えば、2−メチルイミダゾール、1,2−ジメチルイミダゾール、2−フェニルイミダゾール、2−ウンデシルイミダゾール、2−ヘプタデシルイミダゾール、1−イソブチル−2−メチルイミダゾール、2−フェニル−4−メチルイミダゾール、2−エチル−4−メチルイミダゾール、1−ベンジル−2−フェニルイミダゾール、1−ベンジル−2−メチルイミダゾール、1−シアノエチル−2−メチルイミダゾール、1−シアノエチル−2−フェニルイミダゾール、1−シアノエチル−2−ウンデシルイミダゾール、2,4−ジアミノ−6(2′−メチルイミダゾール(1′))エチル−s−トリアジン、2,4−ジアミノ−6(2′−ウンデシルイミダゾール(1′))エチル−s−トリアジン、2,4−ジアミノ−6(2′−エチル,4−メチルイミダゾール(1′))エチル−s−トリアジン、2−フェニル−3,5−ジヒドロキシメチルイミダゾール、2−フェニル−4−ヒドロキシメチル−5−メチルイミダゾール、1−シアノエチル−2−フェニル−3,5−ジシアノエトキシメチルイミダゾール挙げられる。
【0036】
エポキシ樹脂用硬化剤としてのジアザビシクロ化合物類は、二環性複素環化合物であって、ヘテロ原子として窒素原子を2個有するものであれば特に制限されない。
例えば、1,8−ジアザビシクロウンデセン−7(1,8−ジアザビシクロ[5.4.0]ウンデセン−7。以下、「DBU」ということがある。)、1,5−ジアザビシクロ[4.3.0]ノネン−5(以下、「DBN」ということがある。)、1,4−ジアザビシクロ[2.2.2]オクタンが挙げられる。
【0037】
エピスルフィド樹脂用硬化剤としては、エポキシ樹脂用硬化剤と同様のものが挙げられる。
【0038】
なかでも、硬化性樹脂に対する貯蔵安定性、低温硬化性により優れるという観点から、第三級アミン、1,2−ジメチルイミダゾールが好ましい。
【0039】
本発明において、硬化剤は、硬化性樹脂をアニオン重合させうるものであるのが好ましく、エポキシ樹脂および/またはエピスルフィド樹脂をアニオン重合させうるものであるのがより好ましい。
従来、例えば、硬化性樹脂と重付加する硬化剤(例えば、第一級アミン、第二級アミンのように活性水素を有するもの)を使用すると、硬化性樹脂が硬化する際にアニオンは生成しない。例えば、硬化性樹脂として、エポキシ樹脂および/またはエピスルフィド樹脂を使用し、これと重付加する硬化剤(例えば、第一級アミン、第二級アミンのように活性水素を有するもの)を反応させると、エポキシ樹脂および/またはエピスルフィド樹脂が開環する際にアニオンは生成せず、ヒドロキシ基が生成する。
このように、硬化性樹脂をアニオン重合させうる硬化剤を使用する場合と、硬化性樹脂と重付加する硬化剤を使用する場合とでは、これらの反応性および得られる硬化物の構造に違いがある。
硬化剤は、それぞれ単独でまたは2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0040】
本発明のマイクロカプセル型硬化剤において、硬化剤の含有量は、硬化性樹脂に対する貯蔵安定性、低温硬化性により優れるという観点から、有機化合物100質量部に対して、0.1〜30質量部であるのが好ましく、0.5〜20質量部であるのがより好ましい。
【0041】
マイクロカプセル型硬化剤は、硬化性樹脂および硬化剤の他に、本発明の効果を損なわない範囲で、例えば、充填剤、反応遅延剤、老化防止剤、酸化防止剤、顔料(染料)、可塑剤、揺変性付与剤、紫外線吸収剤、難燃剤、溶剤、界面活性剤(レベリング剤を含む)、分散剤、脱水剤、接着付与剤、帯電防止剤のような添加剤を含有することができる。
【0042】
マイクロカプセル型硬化剤は、その製造において特に制限されない。
例えば、まず、混合工程において、有機化合物と硬化剤と必要に応じて使用することができる添加剤とを加熱、撹拌しながら混合して混合物とし、得られた混合物を冷却工程において冷却し混合物を固体化させ、得られた固体を洗浄工程において例えば、アセトンのような溶媒で洗浄し、乾燥させて、マイクロカプセル型硬化剤とすることができる。
【0043】
まず、混合工程において、有機化合物と硬化剤と必要に応じて使用することができる添加剤とを加熱、撹拌しながら混合し、混合物とする。
有機化合物と硬化剤と必要に応じて使用することができる添加剤とを加熱する際の温度は、硬化剤を有機化合物中に分散させることができるという観点から、50〜130℃であるのが好ましく、50〜120℃であるのがより好ましい。
混合物が均一となったら、加熱を停止する。
加熱時間は、特に制限されない。
【0044】
次に、混合工程において得られた混合物を、冷却工程において冷却し、混合物を固体化させる。
冷却工程における冷却の方法は、特に制限されず、例えば、放冷することによって行うことができる。
冷却は、混合物の温度が室温となるまで行うことができる。
冷却工程においては、撹拌を続けながら冷却するのが好ましい態様として挙げられる。
冷却工程では混合物を撹拌しながら冷却するので、混合物は冷却後例えば、粉末状、固体状、結晶状の固体となることができる。または、冷却後の固体を粉砕して微小固体とすることができる。
【0045】
次に、洗浄工程において、冷却工程で得られた固体を例えば、メタノールおよび/またはアセトンのような溶媒で洗浄し、乾燥させて、マイクロカプセル型硬化剤とする。
冷却工程において得られた固体を、溶媒で洗浄することによって、固体表面にある硬化剤を除去することができる。
乾燥における温度は、40℃前後であるのが好ましい態様として挙げられる。
【0046】
得られたマイクロカプセル型硬化剤は、シェル中に硬化剤がスポンジ型に分散している(つまり、シェルがスポンジ状で、コアが空孔に充填されている。)のが好ましい態様の1つとして挙げられる。
本発明のマイクロカプセル型硬化剤は、硬化性樹脂組成物中にある場合、硬化性樹脂組成物の貯蔵安定性、低温硬化性を優れたものとすることができる。
【0047】
次に、本発明の硬化性樹脂組成物について以下に説明する。
本発明の硬化性樹脂組成物は、
本発明のマイクロカプセル型硬化剤と硬化性樹脂とを含有する組成物である。
【0048】
本発明の硬化性樹脂組成物において含有されるマイクロカプセル型硬化剤は、本発明のマイクロカプセル型硬化剤であれば特に制限されない。
本発明のマイクロカプセル型硬化剤は上述のとおりである。
【0049】
硬化性樹脂について以下に説明する。
本発明の硬化性樹脂組成物に含有される硬化性樹脂は、特に制限されない。例えば、エポキシ樹脂、エピスルフィド樹脂、シアネートエステル樹脂、ウレタン樹脂、シリコーン樹脂、フェノール樹脂、メラミン樹脂が挙げられる。
【0050】
なかでも、硬化性樹脂は、硬化物諸物性に優れる点から、エポキシ樹脂および/またはエピスルフィド樹脂であるのが好ましい。
【0051】
エポキシ樹脂について以下に説明する。
硬化性樹脂としてのエポキシ樹脂は、エポキシ基を2個以上有する化合物であれば特に制限されない。
例えば、ビスフェノールA型、ビスフェノールF型、臭素化ビスフェノールA型、水添ビスフェノールA型、ビスフェノールS型、ビスフェノールAF型、ビフェニル型のようなビスフェニル基を有するエポキシ化合物、ポリアルキレングリコール型、アルキレングリコール型のエポキシ化合物、ナフタレン環を有するエポキシ化合物、フルオレン基を有するエポキシ化合物のような2官能タイプのグリシジルエーテル型エポキシ樹脂;下記式(1)で表される3官能型エポキシ樹脂;フェノールノボラック型、オルソクレゾールノボラック型、トリスヒドロキシフェニルメタン型、3官能型、テトラフェニロールエタン型のような多官能タイプのグリシジルエーテル型エポキシ樹脂;ダイマー酸のような合成脂肪酸のグリシジルエステル型エポキシ樹脂;N,N,N′,N′−テトラグリシジルジアミノジフェニルメタン(TGDDM)、テトラグリシジル−m−キシリレンジアミン、トリグリシジル−p−アミノフェノール、N,N−ジグリシジルアニリンのようなグリシジルアミノ基を有する芳香族エポキシ樹脂;トリシクロ[5.2.1.02,6]デカン環を有するエポキシ化合物;脂環型エポキシ樹脂;東レチオコール社製のフレップ10に代表されるエポキシ樹脂主鎖に硫黄原子を有するエポキシ樹脂;ウレタン結合を有するウレタン変性エポキシ樹脂;ポリブタジエン、液状ポリアクリロニトリル−ブタジエンゴム又はアクリロニトリルブタジエンゴム(NBR)を含有するゴム変性エポキシ樹脂が挙げられる。
【0052】
【化1】

【0053】
なかでも、硬化性樹脂は、作業性と硬化物の耐熱性の観点から、トリグリシジル−p−アミノフェノール、式(1)で表される3官能型エポキシ樹脂が好ましい。
式(1)で表される3官能型エポキシ樹脂の市販品としては、例えば、MY0510(ハンツマン・アドバンスト・マテリアルズ社製)が挙げられる。
【0054】
エピスルフィド樹脂について以下に説明する。
硬化性樹脂としてのエピスルフィド樹脂は、下記式(2)で表されるエピスルフィド基を2個以上有する化合物であれば特に制限されない。
【0055】
【化2】

【0056】
エピスルフィド樹脂としては、例えば、エポキシ樹脂のエポキシ基の酸素原子を硫黄原子に置換したものが挙げられる。
なお、酸素原子から硫黄原子への置換は、エポキシ基の少なくとも1部におけるものであってもよく、すべてのエポキシ基の酸素原子が硫黄原子に置換されていてもよい。
エピスルフィド樹脂は、その製造について特に制限されない。例えば、従来公知のものが挙げられる。
【0057】
エピスルフィド樹脂としては、例えば、ビスフェノール型エピスルフィド樹脂(ビスフェノール型エポキシ樹脂のエポキシ基の酸素原子が硫黄原子に置換されたもの)が挙げられる。
具体的には、例えば、下記式(3)で表される水添ビスフェノールA型エピスルフィド樹脂が挙げられる。
式(3)で表される水添ビスフェノールA型エピスルフィド樹脂の市販品としては、例えば、YL−7007(ジャパンエポキシレジン社製)が挙げられる。
【0058】
【化3】

【0059】
なかでも、貯蔵安定性、低温硬化性により優れるという観点から、水添ビスフェノールA型エピスルフィド樹脂が好ましい。
硬化性樹脂は、それぞれ単独でまたは2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0060】
硬化性樹脂は、硬化時の組成物の内部応力を低減することができるという観点から、60〜110℃でアニオン重合可能なものが好ましく、70〜100℃がより好ましい。
【0061】
本発明の硬化性樹脂組成物において、エピスルフィド樹脂を使用する場合、エピスルフィド樹脂の量は、貯蔵安定性、低温硬化性により優れるという観点から、硬化性樹脂の合計量の30質量%以上であるのが好ましく、40〜80質量%であるのがより好ましい。
【0062】
マイクロカプセル型硬化剤の量は、貯蔵安定性、低温硬化性により優れるという観点から、硬化性樹脂100質量部に対して、0.1〜30質量部であるのが好ましく、0.5〜20質量部であるのが好ましい。
【0063】
本発明の硬化性樹脂組成物は、必要に応じて、本発明の目的を損わない範囲で、例えば、充填剤、反応遅延剤、老化防止剤、酸化防止剤、顔料(染料)、可塑剤、揺変性付与剤、紫外線吸収剤、難燃剤、溶剤、界面活性剤(レベリング剤を含む)、分散剤、脱水剤、接着付与剤、帯電防止剤のような添加剤を含有することができる。
【0064】
充填剤としては、各種形状の有機または無機の充填剤が挙げられる。具体的には、例えば、ヒュームドシリカ、焼成シリカ、沈降シリカ、粉砕シリカ、溶融シリカ;ケイソウ土;酸化鉄、酸化亜鉛、酸化チタン、酸化バリウム、酸化マグレシウム;炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、炭酸亜鉛;ろう石クレー、カオリンクレー、焼成クレー;カーボンブラック;これらの脂肪酸処理物、樹脂酸処理物、ウレタン化合物処理物、脂肪酸エステル処理物が挙げられる。
【0065】
反応遅延剤としては、例えば、アルコール系の化合物が挙げられる。
老化防止剤としては、例えば、ヒンダードフェノール系の化合物が挙げられる。
酸化防止剤としては、例えば、ブチルヒドロキシトルエン(BHT)、ブチルヒドロキシアニソール(BHA)が挙げられる。
【0066】
顔料としては、例えば、酸化チタン、酸化亜鉛、群青、ベンガラ、リトポン、鉛、カドミウム、鉄、コバルト、アルミニウム、塩酸塩、硫酸塩等の無機顔料;アゾ顔料、フタロシアニン顔料、キナクリドン顔料、キナクリドンキノン顔料、ジオキサジン顔料、アントラピリミジン顔料、アンサンスロン顔料、インダンスロン顔料、フラバンスロン顔料、ペリレン顔料、ペリノン顔料、ジケトピロロピロール顔料、キノナフタロン顔料、アントラキノン顔料、チオインジゴ顔料、ベンズイミダゾロン顔料、イソインドリン顔料、カーボンブラック等の有機顔料が挙げられる。
【0067】
可塑剤としては、例えば、ジオクチルフタレート(DOP)、ジブチルフタレート(DBP);アジピン酸ジオクチル、コハク酸イソデシル;ジエチレングリコールジベンゾエート、ペンタエリスリトールエステル;オレイン酸ブチル、アセチルリシノール酸メチル;リン酸トリクレジル、リン酸トリオクチル;アジピン酸プロピレングリコールポリエステル、アジピン酸ブチレングリコールポリエステル等が挙げられる。
【0068】
揺変性付与剤としては、例えば、エアロジル(日本エアロジル(株)製)、ディスパロン(楠本化成(株)製)が挙げられる。
接着付与剤としては、例えば、テルペン樹脂、フェノール樹脂、テルペン−フェノール樹脂、ロジン樹脂、キシレン樹脂が挙げられる。
【0069】
難燃剤としては、例えば、クロロアルキルホスフェート、ジメチル・メチルホスホネート、臭素・リン化合物、アンモニウムポリホスフェート、ネオペンチルブロマイド−ポリエーテル、臭素化ポリエーテルが挙げられる。
帯電防止剤としては、例えば、第四級アンモニウム塩;ポリグリコール、エチレンオキサイド誘導体等の親水性化合物が挙げられる。
【0070】
本発明の硬化性樹脂組成物は、その製造について特に限定されず、例えば、マイクロカプセル型硬化剤と、硬化性樹脂と、必要に応じて使用できる添加剤とを、減圧下または不活性雰囲気下で、ボールミル等の混合装置を用いて十分に混練し、均一に分散させることによって得られる。
また、本発明の硬化性樹脂組成物は、貯蔵安定性に優れるので1液型とすることができる。
本発明の硬化性樹脂組成物を1液型とする場合、本発明の硬化性樹脂組成物を容器に入れ、密閉して室温以下(例えば、−20〜25℃)で保管することができる。
【0071】
本発明の硬化性樹脂組成物の使用方法について以下に説明する。
本発明の硬化性樹脂組成物は、本発明の硬化性樹脂組成物を低温加熱条件下で短時間加熱することによって、硬化させることができる。
加熱温度は、60〜130℃であるのが好ましい。また、得られる硬化物の内部応力を低減させるという観点から、60〜110℃であるのが好ましく、60〜100℃であるのがより好ましい。
加熱時間は、得られる硬化物の内部応力を低減させるという観点から、1〜40分であるのが好ましく、5〜30分であるのがより好ましい。
加熱は、マイクロカプセル型硬化剤のシェルが融解して、内包されていた硬化剤はカプセル内から出て硬化性樹脂組成物中に溶解し、硬化性樹脂組成物の硬化反応が始まった際にやめることができる。
例えば、加熱を80℃30分とし、加熱をやめ、その後放冷させながら7時間以内に硬化性樹脂組成物を硬化させることができる。
また、硬化が十分に進むまで加熱を続けることができる。
【0072】
本発明の硬化性樹脂組成物を硬化させることによって得られる硬化物としては、例えば、エポキシ樹脂の単独重合体、エピスルフィド樹脂の単独重合体、エポキシ樹脂とエピスルフィド樹脂との共重合体が挙げられる。また、本発明の硬化性樹脂組成物を硬化させることによって得られる硬化物は、これらのブレンド物であってもよい。
【0073】
なかでも、低温硬化性により優れるとの観点から、エピスルフィド樹脂の単独重合体、エポキシ樹脂とエピスルフィド樹脂との共重合体であるのが好ましい。
【0074】
本発明の硬化性樹脂組成物を使用することができる被着体としては、例えば、ガラス材料、プラスチック材料、金属、有機無機複合材料が挙げられる。
【0075】
本発明の硬化性樹脂組成物は、その用途について特に制限されない。例えば、封止材、積層板、接着剤、シーリング材、塗料が挙げられる。
本発明の硬化性樹脂組成物は、低温で短時間に硬化することができ、これによって、硬化時に生じる、硬化性樹脂組成物の内部応力を低減させることができるので、電子材料分野での用途(例えば、アンダーフィル材、封止材)に用いることができる。
【0076】
次に、本発明の硬化物について以下に説明する。
本発明の硬化物は、本発明の硬化性樹脂組成物を60〜130℃で加熱して硬化させることによって得られるものである。
【0077】
本発明の硬化物を製造する際に使用される組成物は、本発明の硬化性樹脂組成物であれば特に制限されない。
硬化性樹脂組成物を硬化させる際の加熱工程における加熱温度は、60〜130℃であり、硬化時の組成物の内部応力を低減し、硬化性樹脂をアニオン重合させうるという観点から、60〜110℃であるのが好ましく、60〜100℃であるのが好ましい。
加熱工程における加熱方法は特に制限されない。例えば従来公知のものが挙げられる。
加熱工程における加熱時間は、硬化時の組成物の内部応力を低減しうるという観点から、1〜40分であるのが好ましく、5〜30分であるのが好ましい。
また、加熱は、マイクロカプセル型硬化剤のシェルが融解して、内包されていた硬化剤はカプセル内から出て硬化性樹脂組成物中に溶解し、硬化性樹脂組成物の硬化反応が始まった際にやめることができる。例えば、加熱を80℃30分とし、加熱をやめ、その後放冷させながら7時間以内に硬化性樹脂組成物を硬化させることができる。
また、硬化が十分に進むまで加熱を続けることができる。
加熱工程後、得られた硬化物は、放冷して冷却することができる。
【0078】
得られた硬化物としては、例えば、エポキシ樹脂の単独重合体、エピスルフィド樹脂の単独重合体、エポキシ樹脂とエピスルフィド樹脂との共重合体が挙げられる。また、硬化物は、これらのブレンド物であってもよい。
【0079】
従来、マイクロカプセル型硬化剤とエポキシ樹脂とを含有する1液型の硬化性樹脂組成物は、比較的高温の硬化条件を要するものであった。加熱温度が高いと組成物が硬化する際に生ずる組成物の内部応力が高くなり、特に電子材料分野における用途では基材との接着界面でのクラック等の発生が問題となると本発明者は考える。
また、市販されているマイクロカプセル型硬化剤(例えば、旭化成ケミカルズ社製ノバキュア等)を例えばエポキシ樹脂100質量部に対して30質量部使用する場合、組成物を硬化させるために、組成物を80℃で1時間加熱し続けなければならず、室温で硬化させることができないことを本発明者は見出した。
また、マイクロカプセル型硬化剤とエポキシ樹脂とを含有し、70〜80℃の低い温度で硬化するとされる硬化性樹脂組成物の場合、貯蔵安定性に劣った。
【0080】
また、特許文献1に記載されているエポキシ樹脂組成物は、マイクロカプセル型硬化剤または硬化促進剤を含有し、その硬化条件は、非常に高温である。
また、特許文献2に記載されているエポキシ樹脂組成物は、マイクロカプセル型硬化促進剤を含有し、その硬化条件は、非常に高温である。
【0081】
このような従来のエポキシ樹脂組成物を高温下で硬化させる場合、マイクロカプセル型硬化剤は潜在性硬化剤として、またはエポキシ樹脂と硬化剤との硬化を促進するための硬化促進剤として含有される。
したがって、このようなエポキシ樹脂組成物から得られる硬化物は、エポキシ樹脂と硬化剤との重付加体であった。
【0082】
これに対して、本発明の硬化性樹脂組成物から得られる硬化物は、硬化性樹脂のアニオン重合体である。
これは、本発明の硬化性樹脂組成物において、マイクロカプセル型硬化剤のシェル成分が、50〜130℃の融点を有する有機化合物であることによるものである。
つまり、本発明の硬化性樹脂組成物を加熱すると、マイクロカプセル型硬化剤のシェルは50〜130℃で融解し、内包されていた硬化剤はカプセル内から出て硬化性樹脂組成物中に溶解し、活性化してアニオン重合触媒となる。
このように、本発明の硬化性樹脂組成物においては従来と比較してより低い温度で硬化剤が硬化性樹脂組成物に溶解してアニオン重合触媒として活性化することによって、本発明の硬化性樹脂組成物は従来よりも低温で硬化することができる。
そして、カプセル内から出た硬化剤は、硬化性樹脂組成物中に低温下(例えば、5〜50℃)で溶解してアニオン重合触媒として作用し、これよって、硬化性樹脂組成物はアニオン重合型の硬化機構で硬化するのである。
【0083】
従来の硬化剤を要する重付加反応による硬化では、高温の反応条件が必要であったり、耐湿性に劣る硬化物となる可能性がある。
これに対して、本発明の硬化物は、従来のエポキシ樹脂組成物の硬化温度より低い温度で硬化することができる。
特に、エポキシ樹脂よりもアニオン重合反応性の高いエピスルフィド樹脂を適用することによって、触媒による低温でのアニオン重合硬化反応を達成し、かつ耐湿性の良好な硬化物とすることができた。
このことから、本発明においてマイクロカプセル型硬化剤は、系内で硬化性樹脂(特にエポキシ樹脂および/またはエピスルフィド樹脂)に対して貯蔵安定性、低温硬化性を優れるアニオン重合触媒として作用することができると本発明者は推測する。
【実施例】
【0084】
以下に、実施例を示して本発明を具体的に説明する。ただし、本発明は実施例に限定されない。
【0085】
1.評価方法
以下の方法で、貯蔵安定性および低温硬化性を評価した。結果を第1表に示す。
(1)貯蔵安定性
硬化性樹脂組成物を密閉容器に入れて室温(25℃)の条件下に置き、硬化するまでの時間を測定した。
【0086】
(2)低温硬化性評価1
硬化性樹脂組成物を80℃で30分間加熱した後加熱をやめ放冷し、加熱停止後から硬化性樹脂組成物の表面のタックがなくなるまでの時間(単位:時間)を評価した。この評価を低温硬化性評価1とする。
【0087】
(3)低温硬化性評価2
加熱温度を100℃に、加熱時間を20分に代えるほかは、低温硬化性評価1と同様にして低温硬化性を評価した。この評価を低温硬化性評価2とする。
【0088】
2.高級α−オレフィン重合体
(1)触媒の製造例
特開2005−075908号公報の触媒製造例1と同様に(1,2′−ジメチルシリレン)(2,1′−ジメチルシリレン)ビス(3−トリメチルシリルメチルインデニル)ジルコニウムジクロライドを合成した。
(2)モノマーの調製
α―オレフィン(出光興産(株)製、商品名:「リニアレン2024」)を、減圧下(2〜14mmHg)、留出温度140〜230℃で蒸留し、組成が炭素数C22:64.1%、C24:35.9%のα−オレフィンの留分を得た。加熱乾燥した5リットルのシュレンクに、得られたα−オレフィンの留分を導入し乾燥窒素および活性アルミナにて8時間脱水処理した。
(3)高級α−オレフィン重合体
加熱乾燥した1リットルオートクレーブに、実施例2.(2)で脱水処理されたα−オレフィンの留分400ミリリットルを入れ、重合温度95℃まで昇温した後、トリイソブチルアルミニウム1mmol、上記で製造した(1,2′−ジメチルシリレン)(2,1′−ジメチルシリレン)ビス(3−トリメチルシリルメチルインデニル)ジルコニウムジクロライドを2μmol(トルエンスラリー[20μmol/mL、1.25mL])、ジメチルアニリニウムテトラキスペンタフルオロフェニルボレート8μmol(トルエンスラリー[20μmol/mL、5mL])を加え、水素0.2MPaを導入し、4時間重合した。
重合反応終了後、反応物をアセトンにて沈殿させた後、加熱、減圧下、乾燥処理することにより、高級α−オレフィン共重合体230gを得て、これを高級α−オレフィン重合体とした。
【0089】
3.マイクロカプセル型硬化剤の調製
(1)マイクロカプセル型硬化剤1
第三級アミン4g(U−CAT 410、サンアプロ社製。以下同様。)と上記のとおり重合して得た高級α−オレフィン重合体12gとを80℃で溶解混合し、撹拌して第三級アミンを均一に分散させ、混合物とした。撹拌は続けた状態のまま加熱をやめて混合物を放冷すると、混合物の温度が50℃付近から混合物の固体化が始まり、混合物の温度が室温(25℃)まで下がると混合物が粉末状となった。次に、得られた粉末の表面の第三級アミンを除去するために粉末をアセトンで洗浄し、40℃にて乾燥させた。得られた粉末の重さは15gであり、12gの高級α−オレフィン重合体中に3gの第三級アミンが取り込まれたマイクロカプセル型硬化剤が得られた。得られたマイクロカプセル型硬化剤をマイクロカプセル型硬化剤1とする。
【0090】
(2)マイクロカプセル型硬化剤2
第三級アミン4gを1,2−メチルイミダゾール4g(関東化学社製)に代えた他はマイクロカプセル型硬化剤1と同様に調製を行いマイクロカプセル型硬化剤を得た。得られたマイクロカプセル型硬化剤をマイクロカプセル型硬化剤2とする。
【0091】
(3)マイクロカプセル型硬化剤3
第三級アミン2gと結晶性エポキシ樹脂10g(商品名:YSLV−80XY、mp:約80℃、東都化成社製、以下同様)とを90℃で溶解混合し、撹拌して第三級アミンを均一に分散させ、混合物とした。撹拌は続けた状態のまま加熱をやめて混合物を放冷し、混合物の温度を室温(25℃)まで冷却し、結晶固体状のマイクロカプセル型硬化剤を得た。次に、得られた固体の表面の第三級アミンを除去するために粉末をメタノールで洗浄し、40℃にて乾燥させた。得られた固体の重さは11gであり、10gの結晶性エポキシ樹脂中に1gの第三級アミンが取り込まれたマイクロカプセル型硬化剤が得られた。得られたマイクロカプセル型硬化剤をマイクロカプセル型硬化剤3とする。
【0092】
(4)マイクロカプセル型硬化剤4
第三級アミン2gと結晶性エポキシ樹脂10g(商品名:YX−4000、mp:約120℃、ジャパンエポキシレジン社製。)とを125℃で溶解混合し、撹拌して第三級アミンを均一に分散させ、混合物とした。撹拌は続けた状態のまま加熱をやめて混合物を放冷し、混合物の温度を室温(25℃)まで冷却し、粉末固体状のマイクロカプセル型硬化剤を得た。次に、得られた固体の表面上の第三級アミンを除去するために固体をメタノールで洗浄し、40℃にて乾燥させた。得られた固体の重さは11gであり、10gの結晶性エポキシ樹脂中に1gの第三級アミンが取り込まれたマイクロカプセル型硬化剤が得られた。得られたマイクロカプセル型硬化剤をマイクロカプセル型硬化剤4とする。
【0093】
(5)マイクロカプセル型硬化剤5
第三級アミン2gとモノアリルジグリシジルイソシアヌル酸10g(mp:約60℃、四国化成社製。)とを70℃で溶解混合し、撹拌して第三級アミンを均一に分散させ、混合物とした。撹拌は続けた状態のまま加熱をやめて混合物を放冷し、混合物の温度を室温(25℃)まで冷却し、粉末固体状のマイクロカプセル型硬化剤を得た。次に、得られた固体の表面上の第三級アミンを除去するために固体をアセトンで洗浄し、40℃にて乾燥させた。得られた固体の重さは11gであり、10gのモノアリルジグリシジルイソシアヌル酸中に1gの第三級アミンが取り込まれたマイクロカプセル型硬化剤が得られた。得られたマイクロカプセル型硬化剤をマイクロカプセル型硬化剤5とする。
【0094】
4.硬化性樹脂組成物の調製
第1表に示す成分を第1表に示す量(質量部)で用いて、これらを撹拌機(コンディショニングミキサー MX−201、シンキー社製。)を用いて均一に混合し、硬化性樹脂組成物を調製した。
【0095】
【表1】

【0096】
第1表に示されている各成分は、以下のとおりである。
・エピスルフィド樹脂:YL−7007(ジャパンエポキシレジン社製)
・エポキシ樹脂:トリグリシジル−p−アミノフェノール、商品名MY−0510、ハンツマン・アドバンスト・マテリアルズ社製
・充填剤:シリカ(FB−1SDX、電気化学工業社製)
・塩基性硬化剤:第三級アミン(U−CAT 410、サンアプロ社製)
・マイクロカプセル型硬化剤6:ノバキュアHX−3722、旭化成ケミカルズ社製
・マイクロカプセル型硬化剤1〜5:上記のとおり調製したもの
【0097】
第1表に示す結果から明らかなように、塩基性硬化剤をそのままで含有する比較例1、2は、貯蔵安定性が悪く、低温硬化性評価では加熱直後に既に硬化してしまい低温硬化性に劣った。また、市販品のマイクロカプセル型硬化剤を含有する比較例3、4の組成物は、低温硬化性に劣った。
これに対して、実施例1〜6の硬化性樹脂組成物は、貯蔵安定性に優れ、低温で短時間の加熱後室温下で短時間に硬化することができ低温硬化性に優れる。
このように、本発明の硬化性樹脂組成物は、マイルドな硬化温度の条件下で短時間に硬化することができる。
また、塩基性硬化剤をそのままで含有する比較例1、2は室温で硬化してしまったのに対して、実施例1〜6の硬化性樹脂組成物は、室温で未硬化であり加熱によって硬化したことから、実施例1〜6において硬化剤は有機化合物によってカプセル化されていると考えられる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
硬化剤をコア成分として内包するシェル成分が、50〜130℃の融点を有する有機化合物であるマイクロカプセル型硬化剤。
【請求項2】
前記有機化合物が、α−オレフィン重合体、ワックス、結晶性エポキシ樹脂およびイソシアヌル酸類からなる群から選ばれる少なくとも1種である請求項1に記載のマイクロカプセル型硬化剤。
【請求項3】
前記α−オレフィン重合体が、炭素数10以上の高級α−オレフィンから得られ、立体規則性指標値M2が50モル%以上である結晶性高級α−オレフィン重合体である請求項2に記載のマイクロカプセル型硬化剤。
【請求項4】
前記シェルの融点以上における溶融粘度が、1〜1500mPa・sである請求項1〜3のいずれかに記載のマイクロカプセル型硬化剤。
【請求項5】
前記硬化剤が、エポキシ樹脂用硬化剤である請求項1〜4のいずれかに記載のマイクロカプセル型硬化剤。
【請求項6】
前記エポキシ樹脂用硬化剤が、第三級アミン類、イミダゾール類およびジアザビシクロ化合物類からなる群から選ばれる少なくとも1種である請求項5に記載のマイクロカプセル型硬化剤。
【請求項7】
前記第三級アミン類が、1分子あたり3つ以上の第三級アミン部位を有する脂肪族第三級アミンである請求項6に記載のマイクロカプセル型硬化剤。
【請求項8】
前記第三級アミン部位が、ジメチルアミノ基である請求項7に記載のマイクロカプセル型硬化剤。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれかに記載のマイクロカプセル型硬化剤と硬化性樹脂とを含有する硬化性樹脂組成物。
【請求項10】
前記硬化性樹脂が、エポキシ樹脂および/またはエピスルフィド樹脂である請求項9に記載の硬化性樹脂組成物。
【請求項11】
前記マイクロカプセル型硬化剤の量が、前記硬化性樹脂100質量部に対して、0.1〜30質量部である請求項9または10に記載の硬化性樹脂組成物。
【請求項12】
前記エピスルフィド樹脂の量が、前記硬化性樹脂の合計量の30質量%以上である請求項10または11に記載の硬化性樹脂組成物。
【請求項13】
請求項9〜12のいずれかに記載の硬化性樹脂組成物を、60〜130℃で加熱して硬化させることによって得られる硬化物。

【公開番号】特開2008−56891(P2008−56891A)
【公開日】平成20年3月13日(2008.3.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−107012(P2007−107012)
【出願日】平成19年4月16日(2007.4.16)
【出願人】(000006714)横浜ゴム株式会社 (4,905)
【出願人】(000183646)出光興産株式会社 (2,069)
【Fターム(参考)】