説明

マイクロカラムアレイシステム及びマイクロチャネル粒子構造体

【課題】 マイクロカラムを用い分析する上で、装置のコンパクト性を確保しながら、試料に適した名マイクロカラムの分離モードを迅速に選択できるようにする。
【解決手段】 マイクロカラムアレイチップ1は、分離モードが互いに異なる複数のマイクロカラム11A〜11Dが列設されてなる分離ユニット10を備え、更に、複数のマイクロカラム11A〜11Dに送液する送液ユニット20と、複数のマイクロカラム11A〜11Dの入口に、分離対象物群を含む試料を注入する注入ユニット30と、分離ユニット10で分離された分離対象物を検出する検出ユニット40とを備え、1枚のチップで、複数の分離モードのマイクロカラムで試料を分離し検出することができるようになっている。 マイクロカラム11A〜11Dを形成する際には、充填剤を分散させたスラリーをチャネルに滴下させチャネル内の壁面に粒子を配置して空洞残存配置とすることが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、粒子を搭載したマイクロチャネル構造体に関し、主に液相分析用のHPLC装置に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば生体細胞中に含まれる極微量の核酸(DNA、RNA)、中低分子化合物などの分析、プロテオーム解析を行なうのに、従前からマイクロスケールのビーズを、ステンレス製あるいはガラス製,樹脂製のカラムに充填して物質の分析が行われてきた。このような分離システムは、異種たんぱく質や塩基配列の異なるDNAを一度に分析するのに適しているが、一般的に、寸法が小さいほど性能が向上し、分析速度、分析感度を上げることができるし、分析費用も低減されることから、近年、マイクロ分析システムが急速に進歩している。
【0003】
このような背景の下に、キャピラリー電気泳動装置やマイクロカラムからなるHPLC装置も用いられている。
例えば、表面に互いに交差する泳動用キャピラリー溝を形成した基材と、その溝に対応する位置に貫通孔を設けた基材とを重ねた電気泳動用チップや、数百μmの直径を有するガラスキャピラリー内に分離マトリックスを充填したマイクロカラム液体クロマトグラフィー(μHPLC)を用いて分析が行なわれている。
【0004】
μHPLC用のカラムとしては、マイクロカラム管に分離ビーズを充填したもの、あるいはフューズドシリカの内面を高機能分子からなる配位子によってリガンド修飾したものが用いられている。
更に、このようなカラムのマイクロ化とμTAS(MICRO TOTAL ANALITICAL SYSTEM)の技術とを融合し、接続の問題を解決し得る技術として、下記特許文献1〜3に記載されるように、クレジットカードサイズもしくはA5サイズのチップ基板上に、レーザーなどでエッチングを施したりフォトリソ法によって、チップ基板上に流路や液体アクセスポートを作成するとともに、流路にクロマト分離に用いられる種々の充填材を充填したHPLCチップがある。
【0005】
このようなHPLCチップを用いれば、カラムへのインジェクションと分離と検出器への注入もしくは検出自体を、一枚のチップ上で実施でき、DNA、RNA、タンパク質などの分析を高速に行なうことができる。また、これまで複数のモジュールで行なっていた試料の調製や分離を1チップ上で行なうことも可能となり、接続のためのバルブやチューブの数を大幅に削減できる。また、作業効率も大きく改善できる。
【特許文献1】US6,481,648号公報
【特許文献2】特公表9−508706号公報
【特許文献3】特開2002−311008号公報
【特許文献4】特開2001−208738号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
一般に、試料を分析する場合に、分析のスピードを速める上で、適切な分析条件を早く把握することが重要であるが、上記のようなマイクロカラムを用いて試料を分析する場合においても、最適な分離モードを迅速に把握することが望まれ、そのための手法も研究されている。
例えば、上記特許文献4に示されるように、バイオ、食品、医薬分野における成分分析において、同一溶離液を複数のカラムに順次送液し、当該カラムによって分離された溶質の分離挙動を観察し、その結果をもとに、最適なカラムを選定すると言うジェネリックアプローチが用いられており、これによって、分離条件検討の工程を格段に効率化・短縮化できると考えられる。
【0007】
ここで、上記のマイクロカラムが形成されたチップにおいても、このチップを複数枚積層して、各チップに溶離液を切り替え供給するスイッチング機構を設けることによって、ジェネリックアプローチに適用することは可能と考えられるが、構成がかなり煩雑になってしまう。また、複数のチップが空間に占める体積が大きくなるので、コンパクト性にかける。
【0008】
また、充填材を流路に充填したマイクロカラムチップにおいては、流体を流通させる際の圧力損失が大きくなるため、駆動圧力を高くする必要がある。そして、それによって接続箇所での液漏れが問題となる。マイクロHPLCを作製する上で、最大の課題は、圧力と分離能をいかにバランスさせるかにある。ビーズをマイクロチャネルに充填すると、分離能を向上させられるが、圧力が上昇してしまい、システム全体の設計を難しくする。そこで、圧力をあまり高くしないで分離能を向上させる方法が望まれるのだが、いまだこのような手法は見出されておらず、大粒子径(5μm、7μm)のビーズを用いて便宜的に対応しているのが実情である。そして、このような課題は、流体をビーズ表面のリガンドと接触させて検出・反応・分離する様々なツールに共通する課題であると考えられ、分離カラムに限定されるものではない。
【0009】
本発明は、上記課題に鑑み、マイクロカラムを用いて分析などを行なう上で、装置のコンパクト性を確保しながら、試料に適したマイクロカラムのモードを迅速に選択できるようにすることを第一の目的とし、圧力と分離のバランスを図ることができる新規かつ斬新な微粒子をアッセンブルしたマイクロチャネル構造体を提供すること第二の目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記第一目的を達成するために、本発明にかかるマイクロカラムアレイシステムには、複数のカラムが列設されたカラムユニットと、複数のカラムに送液する送液手段と、複数のカラムに検出対象物を注入する注入手段と、カラムユニットを経由した検出対象物を検出する検出手段とを設けることとした。
ここで、送液手段に、複数のカラムの中から選択されたものに対して送液する送液選択機構を設けてもよい。
【0011】
また、送液手段において、複数のカラムに分配する分岐流路を設けてもよい。
この場合、分岐流路の前段または当該分岐流路に検出対象物を注入する注入口を設けることによって注入手段を実現することもできる。
複数のカラムにおいて、基板に形成された複数のチャネルの内壁面に微粒子を層状に配置して構成することが好ましい。
【0012】
すなわち、複数のカラムにおいて、空洞部を残して微粒子が充填された中空カラム領域を設け、当該空洞部は、中空カラム領域の入口から出口まで連通していることが好ましい。
このように層状に微粒子を配置するには、当該微粒子を含む液をチャネルに充填し、液を乾燥させることによって配置すればよい。
【0013】
検出手段において、検出対象物に光を照射することによって検出する場合、基板として、検出手段が対象物に照射する光を透過させる光透過性のものを用いることが好ましい。
上記本発明のマイクロカラムアレイシステムにおいて、注入手段が、複数のカラムに、互いに異なる検出対象物を注入し、検出手段が、各カラムを経由した分離対象物を個別に検出するようにしてもよい。
【0014】
あるいは、カラムユニットに列設された複数のカラムにおいて、検出対象物群に対して作用するモードを互いに異ならせてもよい。すなわち、カラムユニットに列設された複数のカラムが液クロ分離カラムの場合、その分離モードを互いに異ならせてもよい。
ここで、[分離モードが異なる]というのは、複数の分離カラムに共通の溶離液を流したときに、分離カラムの間で分離挙動が互いに異なることを意味している。
【0015】
上記第二目的を達成するため、本発明は、液体が流通するマイクロチャネル内に、液体と相互作用する微粒子が配されてなるマイクロチャネル粒子構造体 において、
微粒子をマイクロチャネルの内面上に層状に配し、当該マイクロチャネル内における微粒子からなる層の上に液体が流通する空洞部を形成することとした。
上記微粒子として、液に分離対象物群を含ませて流通させるときに、当該分離対象物群を分離する機能を有する分離用微粒子を用いることによって液クロ用のマイクロチャネル粒子構造体とすることができる。
【0016】
また、上記マイクロチャネル粒子構造体を、複数列設させることによってマイクロカラムアレイチップを構成することも好ましい。
【発明の効果】
【0017】
上記本発明のマイクロカラムアレイシステムによれば、ユニットに複数のカラムが列設されているので、この複数のカラムに送液手段で送液するとともに、注入手段で検出対象物を注入することによって、複数のカラムの各々で検出対象物に作用を及ぼし、その後、検出対象物を検出することができる。
従って、1つのチップでパラレル分析やジェネリックアプローチを行なうことができる。
【0018】
例えば、注入手段が、複数のカラムに、互いに異なる検出対象物を注入し、検出手段が、各カラムを経由した分離対象物を個別に検出するようにすれば、複数種類の検出対象物をパラレル分析できる。すなわち、装置のコンパクト性を保ちながら、迅速に複数種類の検出対象物を分析できる。
あるいは、カラムユニットに列設された複数のカラムにおいて、検出対象物群に対して作用するモードを互いに異ならせておけば、複数モードでパラレル分析できる。例えば、カラムユニットに列設された複数のカラムが液クロ分離カラムの場合、その分離モードを互いに異ならせておけば、複数の分離モードでパラレル分析できる。従って、装置のコンパクト性を保ちながら、試料に適したモードを迅速に選定することができる。
【0019】
それによって、創薬、タンパク質の研究などを迅速に行なうのに寄与する。
また、送液手段に、複数の分離カラムの中から選択されたものに対して送液する送液選択機構を設けることによって、選択した分離カラムに対して、溶離液を順次ないしパラレルに送液して試料を分離し、各分離カラムで分離された分離対象物を検出手段で順次ないしパラレルに検出することができる。
【0020】
この場合、検出手段において、複数のカラムに対して個別に検出器を設けなくても、1つの検出器で複数のカラムに対する検出を行なうことができる。
また、送液選択機構を設けることで、複数のカラムに対して互いに種類の異なる溶離液を送ることも容易にできる。
また、送液手段において、複数のカラムに分岐する流路を設ければ、複数のカラムに一括して液を供給できる。
【0021】
この場合、分岐する流路の前段に検出対象物を注入する注入口を設けることによって、複数の流路に一括して検出対象物を注入する注入手段を実現できる。
検出手段において、検出対象物に光を照射することによって検出する場合、基板として、検出手段が対象物に照射する光を透過させる光透過性のものを用いれば、検出対象物を光学的に検出するのが容易である。
【0022】
次に、液体が流通するマイクロチャネル内に、液体と相互作用する微粒子が配されてなるマイクロチャネル粒子構造体 において、微粒子をマイクロチャネルの内面上に層状に配し、当該マイクロチャネル内における微粒子からなる層の上に液体が流通する空洞部を形成すれば、マイクロチャネルの入口から出口まで連通する液通路が形成される。従って、カラムに液を流通させるときの圧力損失が低減される。よって、低い駆動圧力で流体を送液することができるので、接続箇所での液漏れを防ぐことができる。
【0023】
特に、液クロ用のマイクロチャネルの場合、送液が高圧でなされるので、上記微粒子として、液に分離対象物群を含ませて流通させるときに当該分離対象物群を分離する機能を有する分離用微粒子を用いて液クロ用のマイクロチャネル粒子構造体を構成することによって、駆動圧力を大幅に低減できる。、
また、上記マイクロチャネル粒子構造体を、複数列設されることによってマイクロカラムアレイチップを構成すれば、上述したように、1つのチップでパラレル分析やジェネリックアプローチを行なうことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
図1は、本発明の実施形態にかかるマイクロカラムアレイシステムの基本構成を示す図である。
このマイクロカラムアレイチップ1は、高速液体クロマトグラフィ (HPLC) 用のチップであって、固定相としての充填剤を充填したマイクロカラムに、移動相としての溶離液を流通させながら、溶離液に溶解した試料をマイクロカラムで分離して検出するものである。
【0025】
このマイクロカラムアレイチップ1は、複数のマイクロカラム11A〜11Dが列設されてなる分離ユニット10を備え、更に、複数のマイクロカラム11A〜11Dに送液する送液ユニット20と、複数のマイクロカラム11A〜11Dの入口に、分離対象物群を含む試料を注入する注入ユニット30と、分離ユニット10で分離された分離対象物を検出する検出ユニット40とを備えている。
【0026】
(分離ユニット10)
図1に示すように、分離ユニット10においては、基板1が用いられており、その基板1に複数のマイクロカラム11A〜11Dが列設されている。
基板1に複数のマイクロカラムを列設する形態としては、、第1に、基板1に対して複数の通路を形成し、その各通路に各種分離剤を配設することによって複数のマイクロカラム11A〜11Dを形成する形態がある。また第2に、基板1上に、マイクロチューブに充填剤が充填されたマイクロカラムを配列する形態がある。
【0027】
なお、マイクロカラム11A〜11Dを配列するのに、必ずしも基板1の上に配列する必要はなく、下記実施例2で例示するように、各マイクロカラムの両端だけ支持して架橋した状態で配列してもよい。
マイクロカラムの分離剤と分離モード:
一般にHPLCには、NPLC(順相クロマトグラフィ)とRPLC(逆相クロマトグラフィ)があるが、本実施形態のマイクロカラムアレイシステムは、NPLC及びRPLCのいずれに対しても適用できる。
【0028】
NPLCの場合は、分離剤としてシリカゲル、ポリアミン、カーボンナノチューブ(CN)などが使われ、溶離液として無極性溶媒であるn-ヘキサンなどが用いられる。一方、RPLCの場合は、分離剤として、シリカゲルにC18(オクタデシル基、ODS)をはじめ、C8,C4,Cl,Phなどをリガンド修飾させた化学結合充填剤が用いられ、溶離液としては、極性溶媒である水やアセトニトリル (ACN) などが用いられる。なお、リガンド修飾するのに用いるリガンドは、既存の有機高分子から分離対象物によって合わせて選択することができる。
【0029】
また、サイズ排除クロマトグラフィ(SEC)、ゲル浸透クロマトグラフィー (GPC) 、ゲル濾過クロマトグラフィー (GFC) 、イオン交換クロマトグラフィー、キラルクロマトグラフィーなど、HPLC用カラムに用いられている各種分離剤は、本発明で用いることができる。
このような分離剤を溝内あるいはチューブ内に配設する形態としては、空間内に全体的に充填剤を充填する形態の他に、通路空間内の一部に分離剤を配設してもよい。
【0030】
具体的には下記(1)〜(3)のような形態を適用できる。
(1)シリカベースの充填材を分散させたスラリーをマイクロチャネル内に密に充填/粉体を乾式方法により密に充填する充填型。
(2)充填剤を分散させたスラリーをチャネルに滴下させチャネル内の壁面に粒子を配置する空洞残存配置型。この空洞残存配置型では、マイクロチャネルの入口から出口に連通した空隙が残るので、圧力損失が低く且つ分離能が高い。
【0031】
(3)二重細孔構造型(特許文献3に開示されているように、2重細孔構造のシリカゲルを流路溝内に形成する)。
上記(1)の形態では一般的に、ポアサイズの大きい充填材を用いなければ圧力損失が大きくなるので、分離カラムを低圧力で高分解能を実現するのが難しい。ただし、メソポーラスシリカ(メソスケールで規則的な配列のポアを持つ多孔性シリカ微粒子)を充填剤を用いれば、大粒径で比表面積が大きいため、低圧力で高分解能を実現することが可能である。
【0032】
一方、上記(2),(3)の形態によれば、圧力損失が低く且つ分離能の高いカラムを実現できる。
本発明において、分離ユニット10は、その複数のマイクロカラム11A,11B,・・・の分離モードが同一でもよいし、互いに分離モードが異なっていてもよい。
ここで、マイクロカラムどうしの分離モードが異なるというのは、配設されている分離剤の種類が互いに異なっているか、あるいは、分離剤の種類は同じであっても、カーボン率、細孔径あるいは表面積などが異なっており、それによって、各マイクロカラムに同じ溶離液を流したときに、互いに異なる分離挙動を示すということである。例えば、同じC18充填剤を充填したとしても、当該充填剤のカーボン率、細孔径あるいは比表面積などが異なれば、分離モードが異なることになる。
【0033】
あるいは、フューズドシリカの内面をリガンド修飾したマイクロカラムの場合、配位子の種類や処理方法が異なることによって、分離モードが異なることになる。
(送液ユニット20,注入ユニット30)
送液ユニット20は、図1に示すように、溶離液を圧送する溶液ポンプ(マイクロシリンジポンプ)25と、当該ポンプ25から各マイクロカラム11A,11B,・・・の入口にかけて配管系(主配管21及び枝配管22A〜22D)とから構成される。
【0034】
この配管系は、マイクロチューブや分岐管を組み合わせて構成することもできるが、上記の基板1に溝流路を刻むことによって枝配管22A〜22Dを形成することもできる。そして基板1上に溝流路を形成する場合、その溝流路にマイクロポンプを設置することによって、溶液ポンプ25と配管系を含めた送液ユニット20全体を基板1上に設けることも可能である。
【0035】
基板1上へのマイクロポンプ設置は、例えば、プリンタヘッドにおいて公知技術となっている圧電素子を用いたマイクロポンプの技術を適用することによって実施することができる。
このような送液ユニット20によって、溶液ポンプ25から送出される溶離液は、枝配管22A〜22Dから各マイクロカラム11A,11B,・・・に分配供給されるが、溶液ポンプ25の代わりに、例えば、各枝配管22A〜22Dに個別にマイクロポンプを設置することによって、各マイクロカラム11A,11B,・・・に溶離液を供給するようにしてもよい。
【0036】
注入ユニット30は、分離ユニット10の各マイクロカラム11A,11B,・・・に、試料を注入するものであって、分離ユニット10の各マイクロカラム11A,11B,・・・の入口部分に、マイクロピペットなどで試料を注入する注入口を設けることによって実現できるが、送液ユニット20の配管系に試料を注入するインジェクト機構を設けることによっても実現できる。
【0037】
このインジェクト機構には、市販のインジェクタバルブを用いてもよいが、図2は、送液ユニット20の配管系に試料を注入するインジェクト機構の一例を示す図である。
当図に示す例では、送液ユニット20の主配管21と、枝配管22A〜22Dとの間に、溶液バッファ31A及びサンプルバッファ31Bを含むバッファ31が介挿されている。
【0038】
そして、溶液ポンプ25から送出される溶液は、主配管21から溶液バッファ31A及びサンプルバッファ31Bを経由して枝配管22A〜22Dに分流するようになっている。
また、サンプルバッファ31Bには、注入される試料を一時的に保持する保持剤が充填されており、マイクロシリンジなどを用いて、サンプルバッファ31B内に微量の試料を注入すると、注入された試料は、保持剤で一時保持されるが、サンプルバッファ31B内の溶液に溶解されて、各マイクロカラム11A,11B,・・・に分配される。
【0039】
以上の送液ユニット20,注入ユニット30によって、各マイクロカラム11A,11B,・・・に並行して溶離液を流して試料を分離することができるが、次に説明するように、送液ユニット20において、複数のマイクロカラム11A,11B,・・・に対して、選択的に送液する送液選択機構を設ければ、マイクロカラム11A,11B,・・・に順次送液して、順次試料を分離することもできる。
【0040】
(送液選択機構)
図3は、上記図2に示した送液ユニット20に送液選択機構を設けた例であって、送液ユニット20の各枝配管22A〜22Dに、電磁弁23A〜23Dが介挿されている。
そして、この電磁弁23A〜23Dを開閉制御することによって、複数のマイクロカラム11A,11B,・・・から選択したものだけに、送液できるとともに試料を注入することもできる。
【0041】
従って、このような送液選択機構を設けることによって、複数のマイクロカラム11A,11B,・・・に対して、順次、溶液並びに試料を送り込んで分離することができる。また、各マイクロカラム11A,11B,・・・ごとに、送り込む溶離液の種類を変えたり送液圧力を変えたりすることも可能である。
なお、電磁弁を介挿させる代わりに、各枝配管22A〜22Dに柔軟性のあるマイクロチューブを用いて、それらのマイクロチューブを選択的にクリップなどで締め付けて閉塞させることによっても、複数のマイクロカラム11A,11B,・・・に選択的に送液することが可能である。
【0042】
あるいは、枝配管22A〜22Dを、充填剤などで選択的に閉塞させることによっても、複数のマイクロカラム11A,11B,・・・に選択的に送液することが可能である。
また、上記のように各枝配管22A〜22Dに個別にマイクロポンプを設置する場合は、このマイクロポンプを個別に駆動制御することによって、複数のマイクロカラム11A,11B,・・・に選択的に送液することができる。
【0043】
(検出ユニット40)
検出ユニット40は、分離ユニット10の各マイクロカラム11A,11B,・・・で分離された分離対象物を検出するもので、その検出方式としては、紫外線吸光、赤外線吸光、蛍光発光スペクトル(CdSe)、ラマン分光(SERS)、マススペクトル(MS)、SPS検出、熱レンズ顕微鏡など様々な検出系を適用することができる。
【0044】
紫外線吸光や赤外線吸光による検出を行なう場合、各マイクロカラム11A,11B,・・・から排出される溶液を流通させるフローセルと、当該フローセルにUV光やIR光を照射する発光素子と、フローセルを通過した光を受光する受光素子を設けることによって、リアルタイムで分離対象物の光学的特性を検出することができる。
蛍光発光スペクトル(CdSe)による検出を行なう場合、各マイクロカラム11A,11B,・・・から排出される溶液をサンプリングし、必要に応じて光学的タグを付する処理を行なう。そしてサンプリングした溶液に光照射し、そのときの分離対象物の光学的特性を検出する。あるいは、光学的タグの凝集・沈降が防止された安定化した状態で収納する収容ポートを設け、当該収納ポートに分離対象物が流入してタグと結合させ、その後段に、発光素子と受光素子を設けることによって、分離対象物の光学的特性をリアルタイムで分離対象物の光学的特性を検出することができる。
【0045】
ラマン分光(SERS)、マススペクトル(MS)による検出を行なう場合、各マイクロカラム11A,11B,・・・から排出される溶液を、順次あるいはパラレルにサンプリングして、必要に応じて前処理して各分析機器で分析する。
上記の送液ユニット20において、各マイクロカラム11A,11B,・・・に並行して溶離液を流して試料を分離する場合には、検出ユニット40において、各マイクロカラム11A,11B,・・・ごとに個別に分離対象物を検出するための検出機構を並列に設けて、各マイクロカラムからの分離対象物を並行して検出する。あるいは、検出ユニット40において、各マイクロカラム11A,11B,・・・から排出される溶液をサンプリングして分析する。
【0046】
一方、上記の送液ユニット20において、各マイクロカラム11A,11B,・・・に順次、溶離液を流して試料を分離する場合には、各マイクロカラム11A,11B,・・・からの分離対象物が検出ユニット40に順次送り込まれるので、検出ユニット40において、共通の検出機構を1つ設ければ、各マイクロカラムからの分離対象物を検出することができる。
【0047】
なお、上記のように分離ユニットの後段に設けた検出ユニットで検出する以外に、分離対象物が分離ユニット上にあるときに、紫外線を照射して紫外線吸光を検出したり、分離対象物に蛍光タグをつけ蛍光発光させて検出するようにしてもよい。
あるいは、検出セルをチップ上に作りこむこともでき、チップ上で、パラレルあるいは順次検出することもできる。
【0048】
以上のように検出ユニット40で検出された結果は、モニタ装置、印刷機などに出力されて表示される。あるいは、データ転送機器を経由して転送される。

以上の構成のマイクロカラムアレイシステムにおいて、注入ユニット30に注入される試料中に含まれる分離対象物は、各マイクロカラム111の分離モードに従って分離され、検出ユニット40で検出される。
【0049】
従って、1つのマイクロカラムアレイチップ1を用いて、同一モードのカラムの場合には、多サンプルをパラレルに検出することができ、分離モードが異なるカラムとする場合には、複数の分離モードのマイクロカラムで試料を分離し検出することができ、得られた検出結果に基づいて、最適な分離モードのマイクロカラムを迅速に選択することができる。すなわち、前者の場合には、医薬、創薬などの現場でのスクリーニング工程、天然物化学などの新規化合物探索の工程を迅速化・効率化できるという実用的な利点が生み、後者の場合には、1チップでジェネリックアプローチを実施することができるという利点を生み出す。
【0050】
以下、本発明にかかるマイクロカラムアレイシステムの実施例を述べる。以下では、互いにモードが異なる複数のカラムを列設し、パラレル検出するシステムについて説明するが、本システムにおいて、複数のカラムを同一モードとし、多種のサンプルを当該複数のカラムでパラレルに分離して検出することも同様に実施可能であり、本発明には、かかる実施態様も含まれる。
〔実施例1〕
図4は、実施例1にかかるマイクロカラムアレイシステムの分解斜視図である。
【0051】
当図に示すように、マイクロカラムアレイシステムは、分離用の複数のマイクロカラム11がアレイ状に併設された分離ブロック110と、各マイクロカラム111に溶離液を供給する送液インターフェースブロック120と、各マイクロカラム111で分離された分離対象物を検出する検出インターフェースブロック140とからなるマイクロカラムアレイチップ1を備えている。
【0052】
図4では各ブロック110,120、140が切り離されて示されているが、これらは一つのチップ基板100をベースにして一体形成されており、チップ基板100の表面にカバープレート105貼り合わせられている。各ブロック110,120、140においては、チップ基板100の表面に流路溝(111,121,131)が刻設され、当該溝の開口部をカバープレート105が覆うことによって、内部流路が形成されている。
【0053】
チップ基板100およびカバープレート105は、耐有機溶剤性、耐酸性、耐アルカリ性の材料からなる板である。この材料の例としては、ガラス、セラミック、PDMS(ポリジメチルシロキサン),PEEK樹脂(ポリエーテルエーテルケトン)、アクリル樹脂といったプラスチックが挙げられる。
分離ブロック110は、基板中央部101に、溝幅及び深さが10〜200μm程度で溝加工が施され、上述した分離用の充填剤が各溝に充填されることによって、複数のマイクロカラム111がストライプ状に形成された構成である。
【0054】
より詳しくは、各マイクロカラム111には、幅が広く形成された分離領域111aと前処理領域111bとが設けられ、分離領域111aに分離用充填剤が充填されている。ただし、各マイクロカラム111に充填されている充填剤の種類が、互いに異なっていることによって、この複数のマイクロカラム111は分離モードが互いに異なっている。
一方、前処理領域111bには、前処理用の充填剤が充填されている。この前処理用の充填剤は、たとえば、試料中の不純物をフィルター除去するための充填剤、あるいは、試料を濃縮するための充填剤である。
【0055】
ここで、分離領域111aを空洞残存配置型に形成する方法について説明する。
図9は、空洞残存配置型に形成した分離領域111aの横断面図である。
当図に示すように、分離領域111aにおいては、壁面上に分離用充填剤の微粒子152が層状に充填され、微粒子が充填されない空洞部153が残っている。この空洞部153は分離領域111aの入口から出口まで連通している。
【0056】
このような微粒子152の配置構造を「空洞残存配置型」という。
上記のように分離領域111aを空洞残存配置型に形成するには、例えば、シリカベースの充填剤微粒子を含む液滴を、分離領域111aの溝内に塗布し乾燥させることによって溝の壁面上に微粒子を配すれば、溝150の内部に空洞部153を残すことができる。
このような空洞残存配置型構造により、従来のようにチャネル内に充填剤を密に充填する場合と比べると、圧力損失を低減することが可能となる。また、溝150の幅及び深さが10〜100μ程度と小さいので、溝150内に空洞部153があっても良好な分離能が得られる。
【0057】
なお、空洞残存配置型については後で詳述する。
送液インターフェースブロック120においては、チップ基板100の前部102に、上記各マイクロカラム111に連通するよう分岐した流路溝122が形成され、各分岐流路溝21の入口側は凹部123に集合している。また、カバープレート105の前端には、上記凹部123と連通する接続部124が設けられ、この接続部124にポンプ(図4では不図示)から溶液を供給する送液チューブ121が接続されている。
【0058】
上記の送液チューブ121には、試料を注入する注入ユニット130が設けられている。この注入ユニット130は、上述した注入ユニット30で説明したとおりのものであって、注入ユニット130で注入された試料は、送液チューブ121から各流路溝122に分配されて、各マイクロカラム11に導入されるようになっている。
なお、注入ユニット130を設ける代わりに、マイクロピペットなどで各流路溝122に直接的に試料を注入する注入口を、カバープレート105に設けてもよい。
【0059】
また、送液インターフェースブロック120において、複数の流路溝122の中から選択したものに対して、充填剤を埋め込んで閉塞することによって、残りの流路溝122だけに選択的に溶液および試料を供給することもできる。このような方法でも、複数のマイクロカラム11に対して、選択的に溶液および試料を供給することができる。
検出インターフェースブロック140においては、チップ基板100の後部103に、上記各マイクロカラム111と連通する流路溝141が形成され、各流路溝141の出口側は凹部142に集合している。また、カバープレート105の後端には、上記凹部142と連通する接続部144が設けられ、この接続部144に排出チューブ143が接続されている。
【0060】
これによって、上記の各流路溝141には、各マイクロカラム111で分離された分離対象物を含む溶液が流通して排出チューブ143から排出されるが、検出インターフェースブロック140においては、各流路溝41を流通する溶液の紫外線吸光度を測定するため、チップ基板100及びカバープレート105に石英板などのUV光透過性基材を用い、チップ基板100の後部103およびカバープレート105を挟んで、紫外線アレイ発光素子145と受光アレイ素子146とが装着されている。
【0061】
図5は、紫外線吸光測定機構を含む検出インターフェースブロック140の断面図である。
当図に示すように、各流路溝141の位置に合わせて、紫外線アレイ発光素子145には複数のUV発光素子(LED)145aが配列され、受光アレイ素子146には複数のUV受光素子(フォトトランジスタ)146aが配列されており、各UV発光素子145aから発せられたUV光は、流路溝141内を通過してUV受光素子146aに入射される。
【0062】
UV受光素子146aでは、このUV受光量を検出することによって、各流路溝141を流れる溶液の紫外線吸光度を測定する。
なお、流路溝141の底面に酸化チタン膜をコートするなどして、UV発光素子145aからのUV光が反射されやすい構造とし、UV受光素子146aをUV発光素子145aと同じくカバープレート105上に設けて反射光を受光できるようにしてもよい。この場合は、チップ基板100がUV光透過性でなくても、各流路溝141を流れる溶液の紫外線吸光度を測定することができる。
【0063】
本実施例のマイクロカラムアレイシステムによれば、注入ユニット130に注入される試料中に含まれる分離対象物は、各マイクロカラム111に分配され、各マイクロカラム111の分離モードに従って分離され、検出インターフェースブロック140で並列的に検出される。
このように、1枚のチップを用いて、複数の分離モードのマイクロカラムで試料を分離し検出することができるので、得られた検出結果に基づいて、最適な分離モードのマイクロカラムを迅速に選択することができる。
【0064】
なお、上記のマイクロカラムアレイチップ1を複数枚積層させて、複数のマイクロカラムが縦方向と横方法に二次元的に配列された積層ブロックを形成して、並行して試料の分離及び検出を行なうようにすることもできる。
このように積層ブロックを形成する際に、複数枚の分離ユニットに含まれる全てのマイクロカラム111について、分離モードを互いに異ならせて設定しておくこともできる。従って、複数枚積層したチップを用いて、きわめて多数の分離モードのマイクロカラムで試料を分離し検出することができ、得られた検出結果に基づいて、最適な分離モードのマイクロカラムをきわめて迅速に選択することができる。
【0065】
あるいは、同じ仕様のマイクロカラムアレイチップ1(チップ内で複数のマイクロカラム11どうしの分離モードが互いに異なる)を複数枚準備し、チップごとに閉塞する流路溝122を変えた上で、積層ブロックを形成してもよい。
〔実施例2〕
図6は、実施例2にかかるマイクロカラムアレイシステムの構成図である。
【0066】
このマイクロカラムアレイシステムは、分離ユニット210、送液インターフェースユニット220、注入ユニット230、検出ユニット240から構成されている。
分離ユニット210は、支持フレーム200上に、マイクロカラム211A〜211Eが配列されて構成されている。各マイクロカラム211A〜211Eは、ステンレスチューブ内に充填剤が充填され当該充填剤層の両端がフィルタで押さえられて構成されている。
【0067】
ここで、各マイクロカラム211A〜211Eは、充填されている充填剤の種類が異なることによって、あるいは充填される形態が異なることによって、分離モードが互いに異なっている。
各マイクロカラム211A〜211Eの入口側端部は、支持フレーム200上に固定されたコネクタ212A〜212Eに接続され、各マイクロカラム211A〜211Eの出口側端部は、支持フレーム200上に固定されたコネクタ213A〜213Eに接続されている。
【0068】
上記コネクタ212A〜212Eは、ヒューズドシリカで形成されたマイクロチューブ221A〜221Eを介して送液インターフェースユニット220に連結され、コネクタ213A〜213Eはマイクロチューブ241A〜241Eを介して検出ユニット240に連結されている。
送液インターフェースユニット220の前段に、注入ユニット230が接続されている。この注入ユニット230は、市販のインジェクタバルブであって、ポンプ(不図示)から供給される溶液に試料を注入する。そして、送液インターフェースユニット220は、注入ユニット230から送られてくる溶液をマイクロチューブ221A〜221Eに分配する。
【0069】
検出ユニット240は、各マイクロチューブ241A〜241Eから送られてくる溶液を流通させる複数のフローセルを備え、各マイクロカラム211A〜211Eで分離された分離対象物の紫外線吸光度を測定する。
本実施例のマイクロカラムアレイシステムによれば、上記実施例1と同様、注入ユニット230に注入される試料中に含まれる分離対象物は、各マイクロカラム211A〜211Eに分配され、各マイクロカラム211A〜211Eの分離モードに従って分離され、検出ユニット240で並列的に検出される。従って、1枚のチップを用いて、複数の分離モードのマイクロカラムで試料を分離し検出することができるので、得られた検出結果に基づいて、最適な分離モードのマイクロカラムを迅速に選択することができる。
【0070】
なお、上記のような分離ユニット210を複数枚積層させてマイクロカラム211A〜211Eを複数段に配列することによって、複数のマイクロカラムが流路に垂直な面に沿って縦方向と横方法に二次元的に配列された分離ブロックを形成し、その分離ブロックを、送液インターフェースユニット220及び検出ユニット240に連結してもよい。この場合、複数枚の分離ユニットに含まれる全てのマイクロカラム211A〜211Eについて、分離モードを互いに異ならせることができるので、複数枚積層したチップを用いて、きわめて多数の分離モードのマイクロカラムで並行して試料を分離し検出することができる。従って、得られた検出結果に基づいて、最適な分離モードのマイクロカラムをきわめて迅速に選択することができる。
【0071】
また、マイクロカラム211A〜211Eとして、ヒューズドシリカで形成されたキャピラリカラムを用いてもよい。キャピラリカラムでは、カラムの内壁面をリガンド修飾する配位子の種類や処理方法が異なることによって、各キャピラリーカラムの分離モードが互いに異なったものになる。
また、キャピラリカラムは軽量なので、支持フレーム200がなくても、各マイクロカラム211A〜211Eの両端を架橋した状態で列設することができる。例えば、コネクタ212A〜212Eを送液インターフェースユニット220に直接取り付け、コネクタ213A〜213Eを検出ユニット240に直接取り付けて、コネクタ212A〜212Eとコネクタ213A〜213Eにまたがるように複数のキャピラリカラムを配設すればよい。
【0072】
〔実施例3〕
図7は、実施例3にかかるマイクロカラムアレイシステムの構成を示す斜視図である。
このマイクロカラムアレイシステムは、複数の分離カラム311A1〜311E1、311A2〜311E2、311A3〜311E3がマトリックス状に配列された分離ユニット310、各分離カラム311A1〜311E1、311A2〜311E2、311A3〜311E3に溶離液を供給する送液インターフェースユニット320、送液インターフェースユニット320の前段で試料を注入する注入ユニット330、各分離カラム311A1〜311E1、311A2〜311E2、311A3〜311E3で分離された分離対象物を検出する検出インターフェースユニット340から構成されている。
【0073】
図8は、図7に示す分離ユニット310、送液インターフェースユニット320、検出インターフェースユニット340を、分離カラム311A2〜311E2に沿って切断した断面を示す図である。
図7,8に示すように、分離ユニット310は、送液インターフェースユニット320と検出インターフェースユニット340とで挟み込まれ、その状態でこれらのユニット310,320,340が貼り合わせられて1ブロックにまとめられている。
【0074】
分離ユニット310は、複数の貫通孔が開設されたカラム支持基板300に、ナノ粒子分離剤が充填されることによって複数の分離カラム311A1〜311E1、311A2〜311E2、311A3〜311E3が形成された構成である。
このような各分離カラムはナノ粒子分離剤が充填されることによって形成されているので、カラム長が極めて短くても良好な分離能を得ることができる。
【0075】
分離カラム311A1〜311E1、311A2〜311E2、311A3〜311E3は、各々が円筒形状であって、カラム支持基板300の厚み方向に溶離液が流通するようになっており、カラム支持基板300の面に沿ってマトリックス状(縦方向及び横方向に二次元的)に配列されている。
ここで、各分離カラム311A〜211Eは、分離モードが互いに異なっている。具体的には、充填されているナノ粒子分離剤の種類が異なることによって、あるいはナノ粒子分離剤の種類が同じでも粒径が異なったり充填される形態が異なることによって、分離モードが互いに異なっている。
【0076】
これによって、1チップの分離ユニット310に、分離モードが互いに異なる複数の分離カラム311A1〜311E1、311A2〜311E2、311A3〜311E3がマトリックス状に配列された構成となっている。
なお、各分離カラム311A1〜311E1、311A2〜311E2、311A3〜311E3において、ナノ粒子分離剤が充填された充填層は、その入口側がフリット層312A〜312Eで、出口側はフリット層313A〜313Eで覆われることによって、ナノ粒子分離剤の充填層が貫通孔内に安定して保持されている。
【0077】
送液インターフェースユニット320には、各分離カラム311A1〜311E1、311A2〜311E2、311A3〜311E3に連通するよう分岐する流路322A〜322Eが形成され、各流路322A〜322Eの入口側は接続口323に集合している。
この接続口323に、上記注入ユニット330からの送液チューブ321が接続されている。
【0078】
この注入ユニット330は、上述した注入ユニット30で説明したとおりのもので、注入ユニット330で注入された試料は、送液チューブ321から各流路322A〜322Eに分配されて、各分離カラム311A1〜311E1、311A2〜311E2、311A3〜311E3に導入されるようになっている。
検出インターフェースユニット340には、上記各分離カラム311A1〜311E1、311A2〜311E2、311A3〜311E3と連通する流路341A1〜341E1、341A2〜341E2、341A3〜341E3が形成され、各流路341A1〜341E1、341A2〜341E2、341A3〜341E3の出口側は、紫外線吸光度などを測定する検出器(不図示)に接続されている。
【0079】
本実施例のマイクロカラムアレイシステムによれば、上記実施例1と同様、注入ユニット330に注入される試料中に含まれる分離対象物は、各分離カラム311A1〜311E1、311A2〜311E2、311A3〜311E3に分配され、各分離カラム311A1〜311E1、311A2〜311E2、311A3〜311E3の分離モードに従って分離され、検出インターフェースユニット340から並列的に検出器に流れ込んで検出される。
【0080】
そして、分離ユニット310、送液インターフェースユニット320、検出インターフェースユニット340が1ブロックにまとめられており、1つのブロックを用いて、複数の分離モードの分離カラムで試料を分離し検出することができるので、得られた検出結果に基づいて、最適な分離モードのマイクロカラムを迅速に選択することができる。
また上記のようにカラム長が極めて短くても良好な分離能が得られるので、分析に必要な溶離液量が少なくて済み、分析時間も短くて済む。
【0081】
〔分離対象物と、マイクロカラムに使用する分離充填剤及び溶離液の具体例〕
できれば、ジェネリックアプローチを行なう分離対象物と、マイクロカラムに使用する分離充填剤及び溶離液の具体例を補充願います。
〔空洞残存配置型についての詳細〕
図9及び図10に示す例では、分離領域111aにおける溝150の壁面151上に、分離用充填剤の微粒子152が配列されて微粒子層が形成されている。
【0082】
そして、分離領域111aにおける微粒子152が配列されていない空間が空洞部153となっている。この空洞部153は分離領域111aの入口から出口まで連通している。
ここで、分離領域111aを空洞残存配置型に形成する製造方法についてその一例を説明する。
【0083】
シリカベースの充填剤微粒子152が液体(たとえば水,アルコール)に分散されてなる分散液を、分離領域111aの溝150内に充填する。このとき、溝150内に含まれる充填剤微粒子152の嵩体積が、溝150の容積に対して十分小さくなるように、且つ充填剤微粒子152が壁面151をカバーできるように、分散液に含まれる充填剤微粒子152の濃度を設定しておく。
【0084】
分散液を溝150に充填する方法としては、分散液を微細ノズルから吐出させながら溝150に沿って走査する方法が挙げられる。
このようにして溝150に分散液をした後、充填された分散液を乾燥させると、液量が少なくなるにつれて分散液中の充填剤微粒子152が壁面151上に引き寄せられ壁面151上に層状に配置される。それに伴い、溝150内の中央部分は空洞部153として残る。
【0085】
また、壁面151上に配置された微粒子152は、壁面151に対して強く吸着するので、使用時においても空洞残存配置型が安定して維持されるし、壁面151と微粒子152とを化学的に結合させる結合剤を用いる必要もない。
このようにして分離領域111aにおいて空洞残存配置型で微粒子152を配置すると、空洞部150内は液がスムースに流通できるので、分離領域111a内全体に微粒子152を充填する場合と比べて、液が分離領域111aを流通するときの圧力損失が大幅に低減される。そして圧力損失が低減すると、送液ポンプの駆動圧力を低くしても十分に液の流通がなされる。
【0086】
微粒子152を分離領域111a内に密に充填した場合、送液ポンプの駆動圧力を高圧にする必要があり、100気圧程度の高圧になることもある。駆動圧力が高圧の場合、接続部124のような接続箇所において液漏れを防ぐために高度なシール技術が必要となるが、空洞残存配置型では上記のように送液駆動圧力を低くできるので、接続部分での液漏れを防ぐことが容易である。
【0087】
ところで、空洞部153内を流通する液の中に、配列されている微粒子152から遠い位置を流通する量が多いと分解能が損なわれるが、空洞部150が微粒子152からなる層で囲まれており、特に、図9、10に示す例では、カバープレート105表面の溝に対向する部分にも微粒子152が配設されており、空洞部153の全周が微粒子152からなる層で囲まれている。
【0088】
従って、空洞部150内のいずれの場所も、微粒子152の層から近い位置にあるので、空洞部150を流通する溶液に対する分解能が大きく損なわれることがない。
更に図10に示す例では、カバープレート105にも、基板中央部101の溝150と対向する溝154が形成され、溝154の壁面155上に微粒子152が配置されている。このように溝150と溝154を対向させて、両溝150,154の内壁面に微粒子152を配置すれば、図9の場合と比べて、溝150の深さが小さくても空洞部153の大きさを確保できる。
【0089】
本実施例において、壁面および微粒子同士は、流体の流れに抵抗して姿勢を安定させるために、互いに化学結合させる手法をとることが考えられる。微粒子の層が単層の場合には、壁面と微粒子との吸着力ないし物理的な拘束力だけでも姿勢を安定化させる効果はある程度期待できるが、複数層の粒子層を、壁面と微粒子との吸着力ないし物理的な拘束力だけでは保持することは難しいと考えられるので、そういう意味でも化学結合で固定する方がより安定的な固定が実現できる。このように化学結合させる場合でも、焼成温度よりも低温であり、100℃前後で処理できるので、局所的な加熱であれば、チップ基板100の材料としてPEEKなどのプラスチックを用いることもできる。
【0090】
微粒子152の配置形態についての考察:
図9,図10に示した例では、微粒子152の層が2層積層して形成されているが、微粒子層は1層だけ形成してもよいし、3層以上積層形成してもよい。
また図9,図10に示した例では、微粒子152が壁面151上の全体に均一的に配置されているが、側面上よりも底面上に多く偏在させてもよいし、逆に底面上よりも側面上に多く偏在させてもよい。あるいは、微粒子152を底面上だけあるいは側面上だけに配置してもよい。
【0091】
ただし、空洞部153において、微粒子152の層から大きく離れた箇所がないようにすることが分解能を確保する上で好ましい。
従って、溝150の深さが小さい場合は、底面上だけに微粒子152を配置してもよいが、深さが大きい場合(例えば100μm以上の場合)は、側面上にも微粒子152を配置し、カバープレート105の面上にも微粒子152を配置するのが好ましい。一方、溝150の幅が小さい場合は、側面上だけに微粒子152を配してもよいが、溝150の幅が大きい場合は、底面上にも微粒子152を配置するのが好ましい。
い。
【0092】
なお、上記のように分離用微粒子152を空洞残存配置型で溝に配置することによる効果は、チップ上の複数の溝150の分離モードが互いに異なるか否かに関わらず得られるものであるし、チップ上に溝150が一本だけ形成されている場合にも得られる。
例えば、 複数の溝150に対して、同一の微粒子152を空洞残存配置型で配設することによって複数のマイクロカラムを並設し、各マイクロカラムに別々の試料を流して並行して分離することもできるが、そのような場合でも、微粒子152を空洞残存配置型で配置することで、送液駆動圧力を低くできるので、接続部分での液漏れを防ぐことが容易である。
【0093】
〔HPLC以外への適用〕
以上、マイクロカラムアレイチップをHPLCに適用する形態について説明したが、本発明のマイクロカラムアレイチップは、センサやリアクタといった用途にも適用できる。
センサに適用する例としては、チップ基板100と同様の溝を形成した基板を準備し、味覚成分を吸着する物質を微粒子に吸着させておいて、その微粒子を溝の壁面上に配列することによって、味覚センサチップとする。そして、溝に試料液を流通させて、その味覚を検出する。
【0094】
このセンサの場合も、1つのチップに複数の溝を並設し、各溝に、互いに種類の異なるセンサ微粒子を配設することによって、1枚のマイクロチップを用いて複数の検知モードで味覚を検知することができる。
リアクタに適用する例としては、チップ基板100と同様の溝を形成した基板を準備し、微粒子に反応触媒を吸着させておいて、その微粒子を溝の壁面上に配列することによって、リアクタチップとする。そして、各溝にガスを流通させることによって触媒反応させる。
【0095】
このリアクタの場合も、1つのチップに複数本の溝を並設し、各溝に、互いに種類の異なる触媒微粒子を配設することによって、1枚のマイクロチップを用いて複数の反応モードで反応させたり、複数種類のガスを並行して触媒反応させることも可能である。
また、このようにセンサやリアクタに適用する場合においても、センサ微粒子や触媒微粒子を空洞残存型で配置してチップを構成すれば、溝を流通させる液やガスの圧力損失を低減できるという効果を奏する。
【産業上の利用可能性】
【0096】
本発明は、液相分析用のHPLC分野に広く適用でき、センサやリアクタにも適用できる。特に、バイオ、食品、医薬分野への適用が期待される。
【図面の簡単な説明】
【0097】
【図1】本発明の実施形態にかかるマイクロカラムアレイシステムの基本構成を示す図である。
【図2】マイクロカラムアレイの送液ユニットにおいて、送液ユニットの配管系に試料を注入するインジェクト機構を示す図である。
【図3】図2に示した送液ユニットに送液選択機構を設けた例を示す図である。
【図4】実施例1にかかるマイクロカラムアレイシステムの分解斜視図である。
【図5】実施例1にかかる紫外線吸光測定機構を含む検出インターフェースブロックの断面図である。
【図6】実施例2にかかるマイクロカラムアレイシステムの構成図である。
【図7】実施例3にかかるマイクロカラムアレイシステムの構成を示す斜視図である。
【図8】図7に示すマイクロカラムアレイシステムの断面を示す図である。
【図9】空洞残存配置型に形成した分離領域の横断面図である。
【図10】空洞残存配置型に形成した分離領域の横断面図である。
【符号の説明】
【0098】
1 マイクロカラムアレイチップ
10 分離ユニット
11A〜11D マイクロカラム
20 送液ユニット
21 分岐流路溝
21 主配管
22 枝配管
23 電磁弁
25 溶液ポンプ
30 注入ユニット
31 溶液バッファ
31 サンプルバッファ
31 バッファ
40 検出ユニット
41 流路溝
100 チップ基板
105 カバープレート
110 分離ブロック
111 マイクロカラム
111a 分離領域
111b 前処理領域
120 送液インターフェースブロック
121 送液チューブ
122 流路溝
140 検出インターフェースブロック
141 流路溝
200 支持フレーム
210 分離ユニット
211 マイクロカラム
220 送液インターフェースユニット
230 注入ユニット
240 検出ユニット
300 カラム支持基板
310 分離ユニット
311 分離カラム
320 送液インターフェースユニット
330 注入ユニット
340 検出インターフェースユニット
341 流路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のカラムが列設されたカラムユニットと、
前記複数のカラムに送液する送液手段と、
前記複数のカラムに検出対象物を注入する注入手段と、
前記カラムユニットを経由した検出対象物を検出する検出手段とを備えることを特徴とするマイクロカラムアレイシステム。
【請求項2】
前記送液手段は、
前記複数のカラムの中から選択されたものに対して送液する送液選択機構を備えることを特徴とする請求項1記載のマイクロカラムアレイシステム。
【請求項3】
前記送液手段は、前記複数のカラムに分配する分岐流路を備えることを特徴とする請求項1記載のマイクロカラムアレイシステム。
【請求項4】
前記注入手段は、
前記分岐流路の前段または当該分岐流路に検出対象物を注入する注入口を供えることを特徴とする請求項3記載のマイクロカラムアレイシステム。
【請求項5】
前記複数のカラムは、
基板に形成された複数のチャネルの内壁面に微粒子が層状に配置されて構成されていることを特徴とする請求項1〜4のいずれか記載のマイクロカラムアレイシステム。
【請求項6】
前記複数のカラムは、
空洞部を残して微粒子が充填された中空カラム領域を備えており、
前記空洞部は、前記中空カラム領域の入口から出口まで連通していることを特徴とする請求項5記載のマイクロカラムアレイシステム。
【請求項7】
前記層状に配置された微粒子は、
当該微粒子を含む液を前記チャネルに充填し、液を乾燥させることによって配置されたものである請求項5または6記載のマイクロカラムアレイシステム。
【請求項8】
前記検出手段は、
検出対象物に光を照射することによって検出し、
前記基板は、
前記検出手段が対象物に照射する光を透過させる光透過性であることを特徴とする請求項5〜7のいずれか記載のマイクロカラムアレイチップ。
【請求項9】
前記注入手段は、
前記複数のカラムに、互いに異なる検出対象物を注入し、
前記検出手段は、
前記各カラムを経由した分離対象物を個別に検出する請求項1〜8のいずれかに記載のマイクロカラムアレイシステム。
【請求項10】
前記カラムユニットに列設された複数のカラムは、
検出対象物群に対して作用するモードが互いに異なることを特徴とする請求項1〜9のいずれか記載のマイクロカラムアレイシステム。
【請求項11】
前記カラムユニットに列設された複数のカラムは、液クロ分離カラムであって、
分離モードが互いに異なることを特徴とする請求項10記載のマイクロカラムアレイシステム。
【請求項12】
液体が流通するマイクロチャネル内に、前記液体と相互作用する微粒子が配されてなるマイクロチャネル粒子構造体 であって、
前記微粒子は、前記マイクロチャネルの内面上に層状に配され、
当該マイクロチャネル内における前記微粒子からなる層の上に液体が流通する空洞部が形成されていることを特徴とするマイクロチャネル粒子構造体。
【請求項13】
前記微粒子は、
前記液に分離対象物群を含ませて流通させるときに、当該分離対象物群を分離する機能を有する分離用微粒子であることを特徴とする請求項12記載のマイクロチャネル粒子構造体。
【請求項14】
請求項12または13記載のマイクロチャネル粒子構造体が、複数列設されてなるマイクロカラムアレイチップ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2006−292636(P2006−292636A)
【公開日】平成18年10月26日(2006.10.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−116190(P2005−116190)
【出願日】平成17年4月13日(2005.4.13)
【出願人】(504132272)国立大学法人京都大学 (1,269)
【出願人】(390024442)株式会社ワイエムシィ (22)