説明

マイクロスフェア製剤

【課題】ヒトまたは動物の疾患の治療、予防に使用される生理活性ポリペプチドまたはタンパク質と水溶性高分子とを含む微粉末を、生体分解性重合体の壁物質中へ、分散させたマイクロスフェア製剤。但し、この分散は実質上水を使用しない条件で行われる。
【解決手段】生理活性ポリペプチドまたはタンパク質の変性を伴わず、失活を著しく抑制したマイクロスフェア製剤が提供される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はヒトまたは動物の疾患の治療、予防に使用される生理活性ポリペプチドまたはタンパク質を、生体内へ注射したのちに長期間に亘って薬理作用を持続させるための生体分解性マイクロスフェア製剤およびその製造方法に関し、更に詳しくは、生体分解性重合体の壁物質で被覆する際の生理活性ポリペプチドまたはタンパク質の変性、失活を著しく抑制したマイクロスフェア製剤およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年のバイオテクノロジーの進歩により、生理活性ポリペプチドまたはタンパク質が工業的に生産され、ヒトまたは動物の種々の疾患の治療、予防に広く利用されつつある。
これら生理活性ポリペプチドまたはタンパク質は、殆どの場合が毎日注射にて投与されるが、これには以下の問題点があった。
a)治療効果:内因性の生理活性物質あるいはその誘導体であるために、一過的に多量の薬物を体内に入れるよりも必要量を持続的に投与した方が効果が高まる場合がある。
b)副作用: 一過的な体内薬物濃度の上昇により、副作用を引き起こす恐れがある。
c)人的負担:患者の通院の負担、連日の注射による苦痛
医師、看護婦の投薬の煩雑さ
この様な背景から、生理活性ポリペプチドまたはタンパク質を持続的に生体内に投与する有用性が認められ、そのための様々な方法が試みられている。
【0003】
その一つが生体分解性重合体を用いたマイクロスフェアであり、例えば、前立腺癌治療剤の酢酸リュープロレリンを配合したマイクロスフェアが開発され、臨床使用されるに至っている。
【0004】
このマイクロスフェアは、一般的には以下の二通りの方法で作成される。
a)まず、生理活性物質の水溶液を生体分解性重合体の良溶媒(塩化メチレン、 酢酸エステル等)溶液に加え、撹拌機あるいは超音波ホモジナイザー等で乳化し、w/oエマルジョンを調製する。次にこれを撹拌下で水中で乳化して(w/o)/wエマルジョンとしたのち、減圧下で有機溶媒を留去させて生体分解 性重合体を析出させ、マイクロスフェアを得る方法。(例えば、特許文献1〜4等)
b)生体分解性重合体の良溶媒溶液に生理活性物質を溶解あるいは分散させ、これを撹拌下で水中に乳化させ、o/wエマルジョンとしたのち、減圧下で有機溶媒を留去してマイクロスフェアを得る方法。(例えば、特許文献5〜9等)
これらの方法に共通するのは、製造工程中に水を使用し、さらに何らかの方法で水相と有機溶媒相とを撹拌して乳化せねばならない点である。従って生理活性物質が水溶性の場合には、溶液状態で有機溶媒と接触し、強い撹拌ストレスを受けることとなる。
【0005】
一方、生理活性ポリペプチドまたはタンパク質は、水溶液の状態で有機溶媒と接触すると水/有機溶媒界面での変性を受ける場合が多く、特に撹拌下では接触界面の面積が増加するため変性が促進されることが知られている。事実、本発明者らの知見によれば、顆粒球コロニー形成刺激因子(G−CSF)の水溶液に塩化メチレンを加えて撹拌した場合、G−CSFが著しく変性することを確認している。従って、上記の製造方法ではこれら生理活性ポリペプチドまたはタンパク質をマイクロスフェア内に安定に封入できない場合が生じる。
【0006】
封入時の安定化を目的とした製法改良として、生理活性タンパク質水溶液をステアリン酸アルミニウムで増粘させた大豆油と乳化してw/oエマルジョンとし、これを更に生体分解性重合体のアセトニトリル溶液と乳化してw/o(大豆油)/o(アセトニトリル)エマルジョンとしたのち、流動パラフィンで有機溶媒を抽出してマイクロスフェアを得る方法も提案されている。
【0007】
この方法はタンパク質変性作用の少ない大豆油により水相と有機溶媒相を遮蔽して、生理活性タンパク質と有機溶媒との接触を防止しようとするものである。しかしながら、この方法は操作が煩雑であるばかりか、マイクロスフェアの構造が生体分解性重合体中に複数の大豆油相を含む二重構造となるため、粒子径が100〜500μmと大きくなり、注射で投与するには問題がある。
【0008】
このように、生体分解性重合体のマイクロスフェア内に生理活性ポリペプチドまたはタンパク質、特に有機溶媒との界面接触で変性しやすいタンパク質を安定に封入させる方法は、本発明者らの知る限り得られていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特公平1−57087号
【特許文献2】特開昭63−233926号
【特許文献3】特開平1−221328号
【特許文献4】特開平4−208231号
【特許文献5】特公昭63−36290号
【特許文献6】特開昭57−93912号
【特許文献7】特開平4−46115号
【特許文献8】特開平4−46116号
【特許文献9】特開平4−74117号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の目的は、生理活性ポリペプチドまたはタンパク質を、変性を伴わずに生体分解性重合体で被覆させるマイクロスフェア製剤およびその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、前記の変性を回避する方法について鋭意研究した結果、生理活性ポリペプチドまたはタンパク質は、凍結乾燥物等の固体状態であれば生体分解性重合体の良溶媒に対して比較的安定であることを見いだした。さらにはこの中に水溶性高分子が共存すると、微粉砕化の過程で生理的ストレスを与えても変性せず、この微粉末を実質的に水を用いない方法で生体分解性重合体で被覆すれば安定性を確保しつつマイクロスフェアが製造できることを見いだし本発明を完成するに至った。
【0012】
すなわち、本発明に従えば、
生体分解性重合体を主成分とする壁物質中に、生理活性ポリペプチドまたはタンパク質を含む微粉末を分散させた、ヒトまたは動物に注射可能なマイクロスフェアであって、次の方法で製造される。
【0013】
該微粉末が
a)生理活性ポリペプチドまたはタンパク質、
b)水溶性高分子
を必須成分とした、粒子径10μm以下の微粉末であり、
これを実質的に水に用いない方法で生体分解性重合体を主成分とする壁物質中に分散させることを特徴とする、マイクロスフェア製剤およびその製造方法が提供される。
【0014】
本発明では上記a),b)から得られた混合物を、壁物質の共存下で微粉砕して、所定の微粉末を得、これを壁物質中に分散させることもできる。
以下本発明を更に詳述する。
【0015】
本発明で使用される生理活性ポリペプチドまたはタンパク質には特に制限はなく、例えば以下のものが挙げられる。
副腎皮質刺激ホルモン、アンジオテンシン、血液凝固因子、カルシトニン、副腎皮質刺激ホルモン放出因子、細胞成長調節因子(例えば、EGF、TGF−α、TGF−β、等)、エンドルフィン、エンケファリン、胃酸分泌抑制ペプチド、成長ホルモン、造血因子(例えば、IL−3、IL−6、CSF類、EPO、TPO、等)、インシュリン、インターフェロン、オキシトシン、上皮小体ホルモン、ソマトスタチン、バソプレッシン、腫瘍壊死因子、スーパーオキサイドジスムターゼ、β−ガラクトシダーゼ、等
これらの中で本発明では水と生体分解性重合体の良溶媒との界面で変性を受けやすいものが特に適している。
【0016】
これらの生理活性物質の微粉末中の配合量は、所望とする治療効果の強度と、生体内に投与されてからの持続期間とから任意に設定されるが、通常は0.001〜99.5%、好ましくは0.01〜99%の範囲である。99.5%を越えると水溶性高分子の配合比率が低下し、安定化効果が損なわれるので好ましくない。
【0017】
また、本発明では、生理活性ポリペプチドまたはタンパク質の微粉末を調製する際の変性を防止するために水溶性高分子が配合されるが、この水溶性高分子には特に制限はなく、例えば以下のものが挙げられる。
タンパク質:アルブミン、ゼラチン、コラーゲン、等
多糖類:アルギン酸、ヘパリン、コンドロイチン硫酸、ヒアルロン酸、デキストラン硫酸およびこれらの塩類、ならびにデキストラン、アルギン酸プロピレングリコール、ペクチン、アラビアガム、等
セルロース誘導体:メチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ならびにカルボキシメチルセルロースおよびその塩類、等
ビニル系重合体:ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ポリビニルメチルエーテル、ポリヒドロキシ(メタ)アクリレート、ポリアクリルアミドならびにカルボキシビニルポリマー、ポリ(メタ)アクリル酸およびその塩類、
多価アルコール:ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、等
これらの微粉末中での配合量は、0.5〜30%、好ましくは1〜15%である。0.5%未満では本発明の安定化効果が得られず、30%を越えると安定化効果が頭打ちとなるばかりか、生体内に投与したのち生体液により水溶性高分子が膨潤し、膨潤圧によりマイクロスフェアが破壊される恐れがあるため好ましくない。
【0018】
また、生理活性物質と水溶性高分子とから成る粉末に壁物質を混合し、微粉砕することもできる。微粉砕時の粉末に対する壁物質の混合比は1:1〜1:1000程度である。
本発明の微粉末中には、生理活性ポリペプチドまたはタンパク質および水溶性高分子以外に、目的に応じて公知の補助成分の1種または2種以上を添加できる。補助成分としては以下のものが挙げられ、その配合量は適宜決定される。
賦形剤:糖類:ソルビトール、マンニトール、マルトース、ラクトース、ラフィノース、サッカロース、トレハロース、等
アミノ酸:グリシン、メチオニン、ヒスチジン、アルギニン、アスパラギン、グルタミンならびにアスパラギン酸、グルタミン酸およびこれらの塩類、等
pH調整剤: 塩類、水酸化ナトリウム、ならびに酢酸、乳酸、クエン酸、マレイン酸、リン酸およびこれらの塩類、等
浸透圧調整剤:塩化ナトリウム、塩化カリウム、等
界面活性剤: ポリソルベート20、ポリソルベート80、等
次に、本発明で使用される生体分解性重合体としては、以下のものが挙げられる。
ポリ脂肪酸エステル:ポリ乳酸、ポリグリコール酸、ポリ(乳酸/グリコール酸)共重合体、ポリ−ε−カプロラクトン、ポリ(乳酸/カプロラクトン)共重合体、ポリクエン酸、ポリリンゴ酸、ポリ−β−ヒドロキシ酪酸、ポリ(β−ヒドロキシ酪酸/吉草酸)共重合体、等
ポリ酸無水物:ポリカルボキシフェノキシ酢酸、ポリカルボキシフェノキシ吉草酸、ポリカルボキシフェノキシオクタン酸、ポリ(ビスカルボキシフェノキシプロパン/セバシン酸)共重合体、等
ポリアルキル−α−シアノアクリレート:ポリブチル−2−シアノアクリレート、等
ポリアルキレンオキサレート:ポリテトラメチレンオキサレート、等
ポリオルソエステル:ポリ(3,9−ビス−(エチリデン−2,4,8,10−テトラオキソスピロ[5,5]ウンデカン)/1,6−ヘキサンジオール)共重合体、ポリ(3,9−ビス−(エチリデン−2,4,8,10−テトラオキソスピロ[5,5]ウンデカン)/シクロヘキサンジメタノール)共重合体、等
ポリカーボネート:ポリエチレンカーボネート、ポリエチレンプロピレンカーボネート、等
これらの分子量は1,000〜200,000、好適には5,000〜100,000のものが使用される。
【0019】
生理活性物質を含む微粉末は、生体分解性重合体から成る壁物質中に分散されるが、微粉末と生体分解性重合体との配合比率は、1:1〜1:1000、好適には30:70〜1:99である。微粉末の配合比率が1:1000を下まわると製造中の容器への付着ロスの割合が大きく、逆に1:1を越えるとマイクロスフェアの成形性が悪くなったり、微粉末の凝集によりマイクロスフェア内での分布が不均一となるので好ましくない。
【0020】
次に、本発明によるマイクロスフェアの製造方法を説明する。
本発明では、まず生理活性ポリペプチドまたはタンパク質と水溶性高分子を必須成分とする粉末を調製し、これを単独もしくは壁物質の共存下で微細粉砕したのち、実質的に水を用いない従来公知の方法で生体分解性重合体を被覆させてマイクロスフェアを得る。
【0021】
粉末の調製法としては、生理活性ポリペプチドまたはタンパク質と水溶性高分子とを水溶液中で混合し、これを生理活性を保ったまま粉末化できる方法であれば特に制限はないが、好ましくは凍結乾燥法である。なお、生理活性ポリペプチドまたはタンパク質の粉末と水溶性高分子の粉末とを、物理的に混合したのみでは本発明の効果は得られない。
【0022】
微細化の方法も特に制限はないが、好ましい例としては、凍結乾燥品または凍結乾燥品と生体分解性重合体との混合物をジェットミルで微細化するか、あるいは生体分解性重合体の有機溶媒溶液中に凍結乾燥品を加え、これをポリトロンカッターまたは超音波ホモジナイザー等で粉砕する方法が挙げられる。
【0023】
微粒子の径は10μm以下、好ましくは5μm以下である。注射での投与に適したマイクロスフェアの粒子径は約200μm以下、好ましくは150μm以下である。微粉末の径が大きいとマイクロスフェア内での分散が不均一となり、生理活性物質が投与後初期に放出されてしまう(初期バースト)ため好ましくない。
【0024】
生理活性物質と水溶性高分子との水溶液をスプレードライ法により微粉末とすることも考えられる。しかし、スプレードライ法では粉末の収率を上げるためには乾燥温度を高めるか乾燥路の距離を長くせねばならない。乾燥温度の上昇はタンパク質のように熱的に不安定な物質に対しては好ましくなく、乾燥路を長くするのは生産性の面から問題がある。
【0025】
生理活性物質を含有する固体粉末を工程中に水を用いずに生体分解性重合体のマイクロスフェア内に封入する処理は一般には以下に述べる相分離法により行われる。すなわち、
(a)生体分解性重合体の非水良溶媒溶液中に生理活性物質の粉末を分散する工程。
(b)該分散液に、いわゆる非溶媒(またはコアセルベーション剤)、すなわち生体分解性重合体に対して貧溶媒の有機液体を添加する工程。これによりコアセルベーション(または相分離)が起こり、生体分解性重合体は分散した生理活性物質に付着し、未発達(硬化前)のマイクロスフェアが形成される。
(c)未発達のマイクロスフェアから残っている有機溶媒を抽出し、該分散液に、良溶媒および非溶媒を併せた容量に対して過剰量のいわゆる硬化液体を添加することにより、それらを硬化する工程。
(d)当該技術部分野で一般的に知られている任意の方法によって、硬化したマイクロスフェアを洗浄し、そして該マイクロスフェアを乾燥する工程を含む。
が開示されている。
【0026】
本発明において使用できる溶媒は次の通りである。
生体分解性重合体の良溶媒:トルエン、キシレン、クロロホルム、塩化メチレン、酢酸メチル、酢酸エチル、アセトン、テトラヒドロフラン、ジオキサン、アセトニトリル、ヘキサフルオロイソプロパノール、等
非溶媒(コアセルベーション剤):
非相溶性高分子 :ポリブタジエン、ポリジメチルシロキサン、等
植物油 :大豆油、アマニ油、キリ油、綿実油、オリーブ油、ツバキ油、ヒマシ油、トウモロコシ油、ナタネ油、ヤシ油、小麦油、ケシ油、シイタケ油、エゴマ油、ミカン油、レモン油、等
硬化液体:
アルカン炭化水素:ヘキサン、ヘプタン、シクロヘキサン、等
フルオロ炭化水素:1,1,2−トリクロロトリフルオロエタン、トリクロロフルオロメタン、等
アルコール、多価アルコール、多価アルコールエステル
C12〜18脂肪酸のエチルまたはイソプロピルエステル:ステアリン酸エチル、ステアリン酸イソプロピル、オレイン酸エチル、ミリスチン酸イソプロピル、パルミチン酸イソプロピル、等
植物油:大豆油、ゴマ油、ヒマシ油、等
非相溶性高分子:ポリブタジエン、ポリジメチルシロキサン、等
本発明の効果の作用機序は未だ明確ではないが、恐らくは粉末内の生理活性ポリペプチドまたはタンパク質が水溶性高分子中に均一分散するため有機溶媒との接触が阻害され、さらには水溶性高分子との何らかの相互作用により、微粉砕化の物理的ストレスに対して生理活性ポリペプチドまたはタンパク質の構造変化が生じにくくなるためと推察される。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本発明によって製造されたマイクロスフェア剤における生理活性物質の経時的放出量を示すグラフである。
【実施例】
【0028】
以下に実施例を挙げて本発明を更に詳述するが、本発明が以下の実施例に限定されるものではないことは言うまでもない。
実施例1
10mMリン酸緩衝液(pH8)に溶解した500μg/ml G−CSF水溶液50ml、15%マンニトール水溶液6.9ml、9.38%ゼラチン水溶液2.0ml、1% Tween−20水溶液0.25mlを混合し、全量を59.15mlとした。この溶液をガラス製バイアルに充填し、凍結乾燥(バーチス社製凍結乾燥機Model 15−SRC−3X−CR)してG−CSFおよびゼラチン含有の凍結乾燥品を得た。この凍結乾燥品をジェットミル(セイシン企業製Model A−0)を用いて圧力60psiで粉砕した。
【0029】
次に、ポリ(乳酸/グリコール酸)共重合体(乳酸:グリコール酸=50:50モル、平均分子量20,000)200mgをガラス製試験管に入れ、塩化メチレン4mlを加えて溶解した。これに前記のG−CSFおよびゼラチン含有の微粉末6mgを入れ、ボルテックスミキサーで撹拌して分散させた。
【0030】
この分散液を容量20mlのガラスビーカーに移し、室温でマグネチックスターラにて撹拌しつつシリコン油(信越シリコン、KF−96−350cs)16mlを滴下した。シリコン油の滴下に伴い凍結乾燥品微粉末を内包したコアセルベートが形成された。
【0031】
次に、容量500mlのガラスビーカーにミリスチン酸イソプロピル300mlを入れ、室温でプロペラ撹拌機にて150rpmの速度で撹拌しながら、これにコアセルベート液を加えてコアセルベートを硬化させ、マイクロスフェアを形成させた。約10分後に撹拌を止めてマイクロスフェアを沈殿させ、室温で一晩放置したのち、ミリスチン酸イソプロピルをデカンテーションした。マイクロスフェアにn−ヘプタン約100mlを加え、ゆるく撹拌したのちn−ヘプタンをデカンテーションし、残存するミリスチン酸イソプロピルを洗浄した。ガラスビーカーに沈殿したマイクロスフェアを室温で風乾し、スパーテルでガラス製試験管に回収した。マイクロスフェアを更に洗浄するためにn−ヘプタン約10mlを加えて振とうし、デカンテーションしたのち、室温減圧下で溶媒を蒸発させた。この時点で回収されたマイクロスフェアは153mg、収率は74.3%であった。
【0032】
次にこのマイクロスフェアを約50mlのn−ヘプタンに分散させ、メッシュ隙間が32μmおよび75μmの篩いを用いて粒子径32〜75μmの分画を採取し、本発明のG−CSF含有マイクロスフェアを得た。
評価例1
実施例1で作成したマイクロスフェア20mgを容量1.5mlの蓋付きポリプロピレン製遠心チューブに取り、これに塩化メチレン1mlを加えて振とうした。マイクロスフェアが溶解し、凍結乾燥品微粉末の分散液が得られた。この分散液を10℃で10,000rpm×10分間遠心分離し、ポリ(乳酸/グリコール酸)共重合体の溶解した上澄を除去した。更に微粉末を洗浄するために、沈殿に塩化メチレン1mlを加えて振とう分散させ、遠心分離したのち上澄を除去する操作を4回繰り返した。沈殿を室温減圧下で溶媒蒸発させたのち、0.15M NaClおよび0.05% Tween−20を含む50mMリン酸緩衝液(pH6)0.5mlに溶解させ、G−CSF量(非変性体)を高速液体クロマトグラフィーにて定量した。結果を表−1に示す。
【0033】
実施例1のG−CSFおよびポリ(乳酸/グリコール酸)共重合体の仕込み量から計算したマイクロスフェア20mg中のG−CSF量(計算量)に対して107.5%のG−CSFが検出され、本発明の調製法ではG−CSFが変性を受けないことが確認された。
【0034】
【表1】

【0035】
実施例2
10mMリン酸緩衝液(pH7.5)に溶解した667ng/ml腫瘍壊死因子(TNF)水溶液10ml、15%マンニトール水溶液0.9ml、5%ゼラチン水溶液0.3mlを混合し、全量を11.2mlとした。この溶液をガラス製バイアルに充填し、凍結乾燥してTNFおよびゼラチン含有の凍結乾燥品を得た。この凍結乾燥品90mgとポリ(乳酸/グリコール酸)共重合体(乳酸:グリコール酸=50:50モル、平均分子量20,000)3gを乳鉢で均一混合したのち、ジェットミル(セイシン企業製Model A−0)を用いて圧力60psiで微粉砕した。
【0036】
この微粉末2.06gを容量200mlのガラスビーカーに入れ、塩化メチレン40mlを加えてポリ(乳酸/グリコール酸)共重合体を溶解し、TNFおよびゼラチン含有の微粉末を分散させた。これに室温でマグネチックスターラにて撹拌しつつシリコン油(信越シリコン、KF−96−350cs)120mlを滴下し、凍結乾燥品微粉末を内包したコアセルベートを形成させた。
【0037】
次に、容量1000mlのガラスビーカーにミリスチン酸イソプロピル600mlを入れ、室温でプロペラ撹拌機にて200rpmの速度で撹拌しながら、これにコアセルベート液を加えてコアセルベートを硬化させ、マイクロスフェアを形成させた。約10分後に撹拌を止めてマイクロスフェアを沈殿させ、室温で一晩放置したのち、ミリスチン酸イソプロピルをデカンテーションした。マイクロスフェアにn−ヘプタン約100mlを加え、ゆるく撹拌したのちn−ヘプタンをデカンテーションし、残存するミリスチン酸イソプロピルを洗浄した。ガラスビーカーに沈殿したマイクロスフェアを室温で風乾し、スパーテルでガラス製試験管に回収した。マイクロスフェアを更に洗浄するためにn−ヘプタン約10mlを加えて振とうし、デカンテーションしたのち、室温減圧下で溶媒を蒸発させた。
【0038】
次にこのマイクロスフェアを約50mlのn−ヘプタンに分散させ、メッシュ隙間が32μmおよび75μmの篩いを用いて粒子径32〜75μmの分画を採取し、本発明のTNF含有マイクロスフェアを得た。
評価例2
実施例2で作成したマイクロスフェア30mgを容量1.5mlの蓋付きポリブロピレン製遠心チューブに取り、これに塩化メチレン1mlを加えて振とうした。マイクロスフェアが溶解し、凍結乾燥品微粉末の分散液が得られた。この分散液を10℃で10,000rpm×10分間遠心分離し、ポリ(乳酸/グリコール酸)共重合体の溶解した上澄を除去した。更に微粉末を洗浄するために、沈殿に塩化メチレン1mlを加えて振とう分散させ、遠心分離したのち上澄を除去する操作を4回繰り返した。沈殿を室温減圧下で溶媒蒸発させたのち、100mMホウ酸緩衝液(pH8)1mlに溶解させ、TNF量をエンザイムノアッセイで定量した。結果を表−2に示す。
【0039】
実施例2のTNFおよびポリ(乳酸/グリコール酸)共重合体の仕込み量から計算したマイクロスフェア30mg当たりのTNF量(計算量)に対して90.8%のTNFが検出され、本発明の調製法ではTNFが変性を受けないことが確認された。
【0040】
【表2】

【0041】
実施例3
10mMリン酸緩衝液(pH7.4)に溶解した1.35mg/mlスーパーオキサイドジスムターゼ(SOD)水溶液10ml、5%ゼラチン水溶液0.3mlを混合し、全量を10.3mlとした。この溶液をガラス製バイアルに充填し、凍結乾燥してSODおよびゼラチン含有の凍結乾燥品を得た。この凍結乾燥品120mgとポリ(乳酸/グリコール酸)共重合体(乳酸:グリコール酸=50:50モル、平均分子量20,000)4gを乳鉢で均一混合したのち、ジェットミル(セイシン企業製Model A−0)を用いて圧力60psiで微粉砕した。
【0042】
この微粉末2.06gを容量200mlのガラスビーカーに入れ、塩化メチレン40mlを加えてポリ(乳酸/グリコール酸)共重合体を溶解し、SODおよびゼラチン含有の微粉末を分散させた。これに室温でマグネチックスターラにて撹拌しつつシリコン油(信越シリコン、KF−96−350cs)120mlを滴下し、凍結乾燥品微粉末を内包したコアセルベートを形成させた。
【0043】
次に、容量1000mlのガラスビーカーにミリスチン酸イソプロピル600mlを入れ、室温でプロペラ撹拌機にて200rpmの速度で撹拌しながら、これにコアセルベート液を加えてコアセルベートを硬化させ、マイクロスフェアを形成させた。約10分後に撹拌を止めてマイクロスフェアを沈殿させ、室温で一晩放置したのち、ミリスチン酸イソプロピルをデカンテーションした。マイクロスフェアにn−ヘプタン約100mlを加え、ゆるく撹拌したのちn−ヘプタンをデカンテーションし、残存するミリスチン酸イソプロピルを洗浄した。ガラスビーカーに沈殿したマイクロスフェアを室温で風乾し、スパーテルでガラス製試験管に回収した。マイクロスフェアを更に洗浄するためにn−ヘプタン約10mlを加えて振とうし、デカンテーションしたのち、室温減圧下で溶媒を蒸発させた。
【0044】
次にこのマイクロスフェアを約50mlのn−ヘプタンに分散させ、メッシュ隙間が75μmおよび180μmの篩いを用いて粒子径75〜180μmの分画を採取し、本発明のSOD含有マイクロスフェアを得た。
評価例3
容量7mlのテフロン製蓋付バイアルに実施例3で作成したマイクロスフェア30mgと放出液(100mMリン酸緩衝液(pH8))1mlを加え、37℃の恒温槽中で70stroke/分の速度で振とうした。所定の日時に放出液を遠心分離(3,000rpm×3分間)により回収し、その中に含まれるSOD量をSOD活性から定量した。また、遠心分離後に残ったマイクロスフェアには新たに放出液1mlを加えて放出試験を継続した。試験開始後40日目までの累積放出率を図1に示す。約40日後の合計放出量は95%を越えた。
【0045】
実施例3で作成したマイクロスフェアは1日目の放出(初期バースト)が12%と少なく、かつ約30日間にわたってほぼ一定速度でSODを放出することが確認された。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記の製法によって得られる生理活性ポリペプチドまたはタンパク質を有効成分として含有するマイクロスフェア製剤。
(1)生理活性ポリペプチドまたはタンパク質、および水溶性高分子を混合して粉末を調製し、
(2)上記(1)で得られた粉末を、単独または生体分解性重合体の共存下に微粉砕し、
(3)上記(2)で得られた微粉末を生体分解性重合体の溶液または生体分解性重合体の良溶媒に分散させることを特徴とするマイクロスフェア製剤。
【請求項2】
生理活性ポリペプチドまたはタンパク質、および水溶性高分子からなる微粉末の粒径が10μm以下である請求項1記載のマイクロスフェア製剤。
【請求項3】
マイクロスフェア製剤の粒径が200μm以下である請求項1または2記載のマイクロスフェア製剤。
【請求項4】
生理活性ポリペプチドまたはタンパク質、および水溶性高分子を凍結乾燥によって粉末化することを特徴とする請求項1記載のマイクロスフェア製剤。

【図1】
image rotate


【公開番号】特開2009−161561(P2009−161561A)
【公開日】平成21年7月23日(2009.7.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−101951(P2009−101951)
【出願日】平成21年4月20日(2009.4.20)
【分割の表示】特願平7−35344の分割
【原出願日】平成7年2月23日(1995.2.23)
【出願人】(000003311)中外製薬株式会社 (228)
【Fターム(参考)】