マイクロチップおよびその製造方法
【課題】基板を貼合することで作製されるマイクロチップの製造において、貼合不良部や変化部が形成されることなく、所望の形状の流体回路を有するマイクロチップを高い歩留まり率で得ること。
【解決手段】少なくとも一方の表面に隔壁11で区画された凹部10を有する第1の基板1と、前記第1の基板1の少なくとも前記一方の表面に貼合された第2の基板2とを備え、前記凹部10および前記第2の基板2の表面から構成される流体回路を含むマイクロチップであって、前記第1の基板1の前記隔壁11のうち、少なくとも前記凹部10を区画している隔壁11の先端の一部が、溶着リブ30を介して前記第2の基板2に溶着されている。
【解決手段】少なくとも一方の表面に隔壁11で区画された凹部10を有する第1の基板1と、前記第1の基板1の少なくとも前記一方の表面に貼合された第2の基板2とを備え、前記凹部10および前記第2の基板2の表面から構成される流体回路を含むマイクロチップであって、前記第1の基板1の前記隔壁11のうち、少なくとも前記凹部10を区画している隔壁11の先端の一部が、溶着リブ30を介して前記第2の基板2に溶着されている。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マイクロチップおよびその製造方法に関する。より詳細には、DNA、タンパク質、細胞、免疫および血液等の生化学検査、化学合成ならびに環境分析などに好適に使用されるμ−TAS(Micro Total Analysis System)などとして有用なマイクロチップおよびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、医療や健康、食品、創薬などの分野で、DNA(Deoxyribo Nucleic Acid)や酵素、抗原、抗体、タンパク質、ウィルスおよび細胞などの生体物質、ならびに化学物質を検出あるいは定量する重要性が増してきており、それらを簡便に測定できる様々なバイオチップおよびマイクロ化学チップ(以下、これらを総称してマイクロチップと称する。)が提案されている。
【0003】
マイクロチップは、実験室で行なっている一連の実験または分析操作を、数cm〜10cm角で、厚さ数mm〜数cm程度のチップ内で行なえることから、検体および試薬が微量で済み、コストが安く、反応速度が速く、ハイスループットな検査または分析ができ、検体を採取した現場で直ちに検査結果を得ることができるなど多くの利点を有している。
【0004】
マイクロチップは、その内部に流体回路を有しており、該流体回路は、たとえば検査または分析の対象である検体(たとえば、血液等)と混合あるいは反応させる、または該検体を処理するための液体試薬を保持するための液体試薬保持部;該検体や液体試薬を計量するための計量部;検体と液体試薬とを混合するための混合部;該混合液について検査または分析を行なうための検出部などの各部位と、これら各部位を適切に接続する接続流路(細い流路)とから主に構成される。マイクロチップは、典型的には、これに遠心力を印加可能な装置に載置して使用される。マイクロチップに適切な方向の遠心力を印加することにより、検体(または検体中の特定成分)および/または液体試薬の計量、検体(または検体中の特定成分)と液体試薬との混合、ならびに得られた混合液の検出部への導入等の処理を行なうことができる。
【0005】
例えば、特許文献1(特開2006−76246号公報)、特許文献2(特開2006−310828号公報)には、複数の基板を熱圧着や光照射により貼り合せることで流路(流体回路)が形成されたマイクロチップが開示されている。
【0006】
このような複数の基板を貼り合わせる従来のマイクロチップの製造工程においては、例えば、図17(a)に示すような流体回路を形成するための凹部10を有する第1の基板1と平板状の第2の基板とが、互いに溶着されて貼り合わせられる。しかし、第1の基板を成形する際のヒケ(成形収縮によって生じるへこみ)などの発生により、凹部10を形成している隔壁の高さを一様にすることは難しく、他の隔壁11よりも低い隔壁11aや、他の隔壁よりも高い隔壁11bが形成されてしまう。このため、貼合工程のプロセスマージンは小さく、第1の基板1と第2の基板2の貼合面を過不足なく貼り合せることは困難である。すなわち、図17(b)に示すように、一部に貼合不良部52や溶着過剰による変形部51が形成されて、流体回路50の間の区切りが不十分となったり、所望の形状の流体回路50が形成されなかったりする場合があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2006−76246号公報
【特許文献2】特開2006−310828号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、基板を貼合することで作製されるマイクロチップの製造において、貼合不良部や変化部が形成されることなく、所望の形状の流体回路を有するマイクロチップを高い歩留まり率で得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、少なくとも一方の表面に隔壁で区画された凹部を有する第1の基板と、前記第1の基板の少なくとも前記一方の表面に貼合された第2の基板とを備え、
前記凹部および前記第2の基板の表面から構成される流体回路を含むマイクロチップであって、
前記第1の基板の前記隔壁のうち、少なくとも前記凹部を区画している隔壁の先端の一部が、溶着リブを介して前記第2の基板に溶着されていることを特徴とする、マイクロチップである。
【0010】
前記溶着リブの一部に、他の部分より前記隔壁の厚さ方向に長い部分である液移動防止ストッパーを有することが好ましい。
【0011】
また、本発明は、少なくとも一方の表面に隔壁で区画された凹部を有する第1の基板を成形する成形工程と、
前記第1の基板の少なくとも前記一方の表面に、第2の基板を積層する積層工程と、
前記第1の基板の前記隔壁の先端を前記第2の基板に溶着することにより、前記第1の基板と前記第2の基板とを貼合して、前記凹部および前記第2の基板の表面から構成される流体回路を形成する貼合工程とを備える、マイクロチップの製造方法であって、
前記第1の基板の前記隔壁のうち、少なくとも前記凹部を区画している隔壁の先端の一部に溶着リブが形成されており、
前記貼合工程において、前記凹部を区画している隔壁が前記溶着リブを介して前記第2の基板に溶着されることを特徴とする、マイクロチップの製造方法である。
【0012】
前記貼合工程の後において、前記溶着リブは、その一部に他の部分より前記隔壁の厚さ方向に長い部分である液移動防止ストッパーを有することが好ましい。
【0013】
前記貼合工程の前において、前記溶着リブは、その一部に他の部分より前記隔壁の厚さ方向に長い付加部分、または、前記隔壁の高さ方向に長い付加部分を有することが好ましい。
【0014】
前記貼合工程の前において、前記第1の基板の前記隔壁の一部に、前記隔壁の他の部分よりも高く、かつ、前記溶着リブの先端より低い凸部である位置決め段差を有することが好ましい。
【発明の効果】
【0015】
本発明のマイクロチップでは、各基板が溶着リブを介して溶着されていることにより、貼合不良部や変化部が形成されることなく、所望の形状の流体回路が形成される。また、かかる所望の形状の流体回路を有するマイクロチップを高い歩留まり率で得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】実施形態1のマイクロチップの製造工程を示す断面模式図である。(a)は基板の貼合前の状態、(b)は基板の貼合後の状態を示す。
【図2】実施形態1のマイクロチップに用いられる貼合前の第1の基板を示す上面図である。
【図3】図2のI−I面における断面を示す模式図である。
【図4】実施形態2のマイクロチップの効果を説明するための上面模式図である。
【図5】図5は、実施形態2のマイクロチップを示す上面模式図である。
【図6】(a)、(b)は、実施形態2に用いられる溶着リブの形状の一例を示す斜視図である。
【図7】実施形態2に用いられる溶着リブの形状の一例を示す斜視図である。
【図8】実施形態2に用いられる溶着リブの形状の一例を示す斜視図である。
【図9】実施形態2に用いられる溶着リブの形状の一例を示す斜視図である。
【図10】実施形態2に用いられる溶着リブの形状の一例を示す斜視図である。
【図11】実施形態2に用いられる溶着リブの形状の一例を示す斜視図である。
【図12】実施形態2に用いられる溶着リブの形状の一例を示す斜視図である。
【図13】実施形態3のマイクロチップの効果を説明するための断面模式図である。(a)は基板の貼合後の状態の一例、(b)は基板の貼合後の状態の別の例を示す。
【図14】実施形態3のマイクロチップを示す断面模式図である。(a)は基板の貼合前の状態、(b)は基板の貼合後の状態を示す。
【図15】実施形態3のマイクロチップの一例を示す上面図である。
【図16】図15のII−II面における断面を示す模式図である。
【図17】従来のマイクロチップの製造工程を示す断面模式図である。(a)は基板の貼合前の状態、(b)は基板の貼合後の状態を示す。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明のマイクロチップは、各種化学合成、検査または分析等を、それが有する流体回路を用いて行なうことができるチップであり、少なくとも一方の表面に隔壁で区画された凹部を有する第1の基板と、この第1の基板の少なくとも前記一方の表面に貼合された第2の基板と、から構成される。マイクロチップの流体回路は、上記凹部および第2の基板の表面から構成される空間を含む。第2の基板の表面(第1の基板に貼合される側の表面)は、平坦であってもよく、第1の平板の凹部と対応するような凹部が形成されていてもよい。マイクロチップの大きさは、特に限定されず、たとえば縦横数cm〜10cm程度、厚さ数mm〜数cm程度とすることができる。
【0018】
なお、本発明のマイクロチップは、さらに3層以上の基板から構成されていてもよく、例えば、さらに、第1の基板が、第2の基板とは反対側の表面にも凹部を有しており、この凹部側に第2の基板と同様の第3の基板が貼合されていてもよい。この場合、流体回路は、第1の基板の第2の基板側表面に設けられた凹部と第2の基板の表面とから構成される空間からなる第1の流体回路、および、第1の基板の第3の基板側表面に設けられた凹部と第3の基板の表面とから構成される空間からなる第2の流体回路からなる2層構造を有する。ここで、「2層」とは、マイクロチップの厚み方向に関して異なる2つの位置に流体回路が設けられていることを意味する。かかる2層の流体回路は、第1の基板を厚み方向に貫通する貫通穴によって接続することができる。
【0019】
本発明において、基板同士を貼り合わせる方法としては、貼り合わせる基板のうち、少なくとも一方の基板の貼り合わせ面を融解させて溶着させる方法(溶着法)が用いられる。溶着法としては、基板を加熱して溶着させる方法;レーザー、ランプ、LED等の光を照射して、光吸収時に発生する熱により溶着する方法(レーザー溶着、ランプ溶着等);超音波を用いて溶着する方法(超音波溶着)などを挙げることができる。
【0020】
本発明のマイクロチップを構成する上記各基板のうち、少なくとも片側の基板の材質は熱可塑性樹脂である。全ての基板の材質が熱可塑性樹脂であることがより好ましく、全ての基板の材質が同種の熱可塑性樹脂であることがさらに好ましい。熱可塑性樹脂としては、たとえば、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリメチルメタクリレート(PMMA)、ポリカーボネート(PC)、ポリスチレン(PS)、ポリプロピレン(PP)、ポリエチレン(PE)、ポリアリレート樹脂(PAR)、アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン樹脂(ABS)、スチレン−ブタジエン樹脂(スチレン−ブタジエン共重合体)、塩化ビニル樹脂(PVC)、ポリメチルペンテン樹脂(PMP)、ポリブタジエン樹脂(PBD)、生分解性ポリマー(BP)、シクロオレフィンポリマー(COP)、ポリジメチルシロキサン(PDMS)、ポリアセタール(POM)、ポリアミド(PA)が挙げられる。
【0021】
マイクロチップが、表面に凹部を備える第1の基板と、第2の基板とから構成される場合、第1の基板は、光学測定の際、検出光が照射される部位を含んでいることから、透明基板とすることが好ましい。第2の基板は、透明基板であっても不透明基板であってもよいが、レーザー溶着を行なう場合には、光吸収率を増大できることから、不透明基板とすることが好ましく、黒色基板(例えば、カーボンブラック等の黒色顔料を含有する樹脂から構成される基板)とすることがより好ましい。
【0022】
マイクロチップが、両表面に凹部を備える第1の基板と、第2の基板と、第3の基板とから構成される場合、レーザー溶着の効率性の観点から、第1の基板を不透明基板とすることが好ましく、黒色基板とすることがより好ましい。一方、第2および第3の基板は、検出部を構築するために、透明基板とすることが好ましい。第2および第3の基板を透明基板とすると、第1の基板に設けられた貫通穴と、透明な第2および第3の基板とから
検出部(光学測定用キュベット)を形成でき、マイクロチップ表面と略垂直な方向から該検出部に光を照射して、透過する光の強度(透過率)を検出するなどの光学測定を行なうことが可能となる。
【0023】
第1の基板の表面に、流体回路を構成する凹部(パターン溝)および隔壁を形成する方法としては、特に制限されず、転写構造を有する金型を用いた射出成形法、インプリント法などを挙げることができる。凹部および隔壁の形状は適切な流体回路構造となるように決定される。
【0024】
本発明のマイクロチップにおいて、流体回路は、流体回路内の液体(検体、検体中の特定成分、液体試薬、および、これらのうちの2種以上の混合液または反応液など)に対して適切な流体処理を行なうことができるよう、流体回路内の適切な位置に配置された種々の部位(試薬保持部、試薬計量部、検体計量部、混合部、検出部など)を備えており、これらの部位は、接続流路を介して適切に接続されている。
【0025】
ここで、「検体」とは、流体回路内に導入される、マイクロチップが行なう検査または分析等の対象となる物質であり、たとえば全血、血漿、血清、尿、唾液である。また、「液体試薬」とは、マイクロチップが行なう検査または分析の対象となる検体を処理する、または該検体と混合あるいは反応される試薬であり、通常、マイクロチップ使用前にあらかじめ流体回路の試薬保持部に内蔵されている。検体と液体試薬とを混合させることによって最終的に得られた混合液または反応液等は、たとえば、混合液を収容した検出部に光を照射し、透過する光の強度(透過率)を検出する方法や、検出部に保持された混合液についての吸収スペクトルを測定する方法等の光学測定などに供され、検査または分析が行なわれる。
【0026】
以下、実施の形態を示して、本発明を詳細に説明する。
(実施形態1)
図1は、実施形態1のマイクロチップの製造工程を示す断面模式図である。(a)は基板の貼合前の状態、(b)は基板の貼合後の状態を示す。図1(a)に示されるように、第1の基板1の一方の表面には、流体回路を形成するための凹部10が設けられており、第1の基板1の凹部10側に平板状の第2の基板が貼り合わせられる。ここで、凹部10を区画する隔壁11には、第1の基板を成形する際のヒケなどの発生により、他の隔壁11よりも低い隔壁11aや、他の隔壁よりも高い隔壁11bが形成されてしまう場合がある。この場合でも、隔壁11,11a,11bの貼合面には溶着リブ30が形成されており、図1(b)に示すように第1の基板1と第2の基板2とは溶着リブ31を介して貼合されるため、貼合工程のプロセスマージンが大きく、従来の図17(b)に示すような貼合不良部52や変形部51の形成が抑制される(図1(b))。
【0027】
図2は、実施形態1のマイクロチップに用いられる貼合前の第1の基板1を示す上面図である。第1の基板1は、所望の凹部10が形成されるように隔壁11の形状が設計されており、隔壁11には溶着リブ30が設けられている。
【0028】
溶着リブの材質は、第1の基板の成形工程を考慮すると少なくとも第1の基板と同じであることが好ましい。ただし、溶着リブの材質は、第1の基板とは異なる材質であってもよく、例えば、第1の基板よりも軟らかい材質や粘着性の高い材質であってもよい。
【0029】
図2では、ほぼ全ての隔壁11に溶着リブ30が設けられているが、第1の基板1の隔壁11のうち、少なくとも隔壁11の先端(第1の基板1の厚さ方向の先端)の一部に、溶着リブ30が設けられていればよく、必ずしも全ての隔壁11の先端に溶着リブ30が設けられていなくてもよい。
【0030】
図3は、図2のI−I面における断面を示す模式図である。第1の基板の隔壁11の貼合面111には、半円形状の断面を有する溶着リブ30が設けられている。
【0031】
(実施形態2)
本実施形態では、流体回路内の所定部位の液体が他の部位へ移動してしまうことを防止するための液移動防止ストッパーが設けられている。それ以外の点は、実施形態1と同様である。
【0032】
上記実施形態1のように、第1の基板と第2の基板とを溶着リブを介して貼合する場合、溶着リブ31の潰し残りの隙間32が形成されることがあり(図1(b)参照)、毛細管現象によりこの隙間32を伝って、流体回路内の所定の部位に留まるべき液体が他の部位に移動してしまう場合があった。すなわち、図4の上面模式図に示すように、溶着リブ31の潰し残りの隙間32は、溶着リブの周囲に沿って微細な流路を形成してしまう場合がある。この微細な流路(隙間32)を伝って、所定の部位に留まるべき液体40が液体41のように他の部位へ移動してしまうことがあった。このような液の移動は、流体回路内における液体移動の制御を妨げ、正確な検査が行えなくなる。
【0033】
そこで、本実施形態では、図5に示されるように、この微細な流路(隙間32)を分断し、液体40が他の部位へ移動してしまうことを防止するための液移動防止ストッパー301が設けられている。液移動防止ストッパーとは、具体的には、溶着リブの一部に設けられる、他の部分より前記隔壁の厚さ方向に長い部分である。液移動防止ストッパーの材質は、第1の基板の成形工程を考慮すると溶着リブと同じであることが好ましい。ただし、液移動防止ストッパーの材質は、溶着リブと異なる材質であってもよい。
【0034】
図6〜12は、実施形態2における液移動防止ストッパーを形成するために用いられる溶着リブの形状の種々の例を示す斜視図である。ここでは、第1基板と第2基板が貼合される前の状態の溶着リブの形状を示している。
【0035】
図6(a)に示す溶着リブの付加部分300は、半径0.15mmの半円形状の断面を有する溶着リブの高さと同じ0.15mmの高さを有する円柱状の形状を有している。円柱の円の直径は隔壁11の厚さ(0.6mm)とほぼ同じである。すなわち、該付加部分300は、他の部分より隔壁11の厚さ方向に長い部分である。また、図6(b)に示す溶着リブの付加部分300は、溶着リブの高さ(0.15mm)よりも高い0.3mmの高さを有する円柱状の形状を有している。円柱の円の直径は溶着リブ30の幅(0.3mm)とほぼ同じである。すなわち、該付加部分300は、他の部分より隔壁11の高さ方向に長い部分である。なお、図示していないが、溶着リブの付加部分300は、他の部分より隔壁11の厚さ方向に長く、かつ、隔壁11の高さ方向に長い部分であってもよい。
【0036】
このような溶着リブの付加部分300が貼合工程の際に押し潰されて、液移動防止ストッパーが第1の基板の隔壁11の貼合面上に設けられることにより、第1の基板と第2の基板とが貼合される際に溶着リブ30の潰し残りによる微細な流路(隙間)が生じても、この微細な流路が分断されるため、所定の部位に留まるべき液体が他の部位へ移動してしまうことを防止できる。
【0037】
図6に示す溶着リブの付加部分300が、基板の貼合の際に溶着リブ30が適度に押し潰されることを妨げる可能性があることを考慮して、図7に示すように、溶着リブの付加部分(他の部分より隔壁11の厚さ方向に長い部分)300を円錐形状としてもよい。このような形状とすることにより、基板の貼合の際に溶着リブ30と付加部分300が同程度に押し潰されやすくなると考えられる。
【0038】
図8に示す溶着リブの付加部分(他の部分より隔壁11の厚さ方向に長い部分)300は、溶着リブ30と同様の形状であり、溶着リブの両側に設けられている。流体回路の設計によっては、必ずしも溶着リブ30の両側にこのような付加部分300を設ける必要はなく、図9に示すように、片側のみに付加部分300を設けてもよい。また、液移動防止効果を高めるために、複数の付加部分300を図10に示すように設けてもよい。
【0039】
図8〜10に示すような形状の付加部分300を設ける場合も、基板の貼合の際に溶着リブ30が適度に押し潰されることを妨げる可能性があることを考慮し、図11に示すように、付加部分300の一部に切欠部300aを設けてもよい。このような形状とすることにより、基板の貼合の際に溶着リブ30と付加部分300が同程度に押し潰されやすくなると考えられる。
【0040】
また、図12に示すように、溶着リブと同様の形状の付加部分(他の部分より隔壁11の厚さ方向に長い部分)300を隔壁11に対して斜め方向に設けてもよい。付加部分300をこのように配置することで、液体の移動を停止させる効果が高まると考えられる。なお、図12に示す液移動防止ストッパーは、流体回路の設計に応じて一部を省略することもできる。
【0041】
(実施形態3)
本実施形態では、貼合工程の前において、第1の基板の隔壁の一部に、隔壁の他の部分よりも高く、かつ、溶着リブの先端より低い凸部である位置決め段差が設けられている。それ以外の点は、実施形態1と同様である。
【0042】
上記実施形態1のように第1の基板と第2の基板とを溶着リブを介して貼合する場合でも、第1の基板と第2の基板とを貼合する工程において、両者の位置関係の精度が低いような場合は、図13(a)に示すような溶着過剰による変形部51が形成されたり、図13(b)に示すように、完全に貼合されていない貼合不良部52や、貼合が不十分である貼合不良部53が形成され、流体回路50の間の区切りが不十分となる恐れがあった。
【0043】
そこで、本実施形態では、図14(a)に示されるように、位置決め段差12が設けられている。この位置決め段差12は、貼合工程の前において、第1の基板1の隔壁11の一部に、隔壁11の他の部分よりも高く、かつ、溶着リブ30の先端より低い凸部である。位置決め段差12を設けることにより、図14(b)に示すように、貼合工程の後の第1の基板1と第2の基板2の間隔が適切に維持されるため、変形部51や貼合不良部52,53(図13(a)、(b)参照)の形成を抑制することができる。なお、図14(a)では端部の隔壁11に位置決め段差12を設けているが、他の隔壁11に位置決め段差12を設けてもよい。
【0044】
図15は、実施形態3のマイクロチップに用いられる貼合前の第1の基板1を示す上面図である。第1の基板1は、位置決め段差12が設けられている以外は、図2に示す第1の基板1と同様である。
【0045】
図16は、図15のII−II面における断面を示す模式図である。第1の基板の隔壁11の貼合面側には、位置決め段差12が設けられている。なお、図16における隔壁11の厚さaと、図3における隔壁11の厚さcとは通常異なっており、図16における位置決め段差の高さをbとすると、溶着リブの断面積(例えば、図3の溶着リブ30の断面における半円の面積)がc×bにほぼ等しいことが好ましい。位置決め段差12の高さbをこのような高さにすることにより、貼合工程後に、溶着リブが貼合面上に隔壁の厚さ方向に過不足なく広がり、適切な形状となるためである。
【0046】
ただし、この場合でも、第1の基板を成形する際のヒケなどの発生により、凹部10を形成している隔壁の高さが一様でない場合があり、第1の基板と第2の基板とを溶着リブを介して貼合する際に、溶着リブ31の潰し残りの隙間32が形成されることがある(図14(b)参照)。したがって、流体回路内の所定部位の液体が、毛細管現象により他の部位へ移動してしまうことを防止するため、実施形態2で説明したような液移動防止ストッパーを設けることが好ましい。
【0047】
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0048】
1 第1の基板、10 凹部、11,11a,11b 隔壁、111 貼合面、12 位置決め段差、2 第2の基板、30,31 溶着リブ、300 付加部分、300a 切欠部、301 液移動防止ストッパー、32 隙間、40,41 液体、50 流体回路、51 変形部、52,53 貼合不良部。
【技術分野】
【0001】
本発明は、マイクロチップおよびその製造方法に関する。より詳細には、DNA、タンパク質、細胞、免疫および血液等の生化学検査、化学合成ならびに環境分析などに好適に使用されるμ−TAS(Micro Total Analysis System)などとして有用なマイクロチップおよびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、医療や健康、食品、創薬などの分野で、DNA(Deoxyribo Nucleic Acid)や酵素、抗原、抗体、タンパク質、ウィルスおよび細胞などの生体物質、ならびに化学物質を検出あるいは定量する重要性が増してきており、それらを簡便に測定できる様々なバイオチップおよびマイクロ化学チップ(以下、これらを総称してマイクロチップと称する。)が提案されている。
【0003】
マイクロチップは、実験室で行なっている一連の実験または分析操作を、数cm〜10cm角で、厚さ数mm〜数cm程度のチップ内で行なえることから、検体および試薬が微量で済み、コストが安く、反応速度が速く、ハイスループットな検査または分析ができ、検体を採取した現場で直ちに検査結果を得ることができるなど多くの利点を有している。
【0004】
マイクロチップは、その内部に流体回路を有しており、該流体回路は、たとえば検査または分析の対象である検体(たとえば、血液等)と混合あるいは反応させる、または該検体を処理するための液体試薬を保持するための液体試薬保持部;該検体や液体試薬を計量するための計量部;検体と液体試薬とを混合するための混合部;該混合液について検査または分析を行なうための検出部などの各部位と、これら各部位を適切に接続する接続流路(細い流路)とから主に構成される。マイクロチップは、典型的には、これに遠心力を印加可能な装置に載置して使用される。マイクロチップに適切な方向の遠心力を印加することにより、検体(または検体中の特定成分)および/または液体試薬の計量、検体(または検体中の特定成分)と液体試薬との混合、ならびに得られた混合液の検出部への導入等の処理を行なうことができる。
【0005】
例えば、特許文献1(特開2006−76246号公報)、特許文献2(特開2006−310828号公報)には、複数の基板を熱圧着や光照射により貼り合せることで流路(流体回路)が形成されたマイクロチップが開示されている。
【0006】
このような複数の基板を貼り合わせる従来のマイクロチップの製造工程においては、例えば、図17(a)に示すような流体回路を形成するための凹部10を有する第1の基板1と平板状の第2の基板とが、互いに溶着されて貼り合わせられる。しかし、第1の基板を成形する際のヒケ(成形収縮によって生じるへこみ)などの発生により、凹部10を形成している隔壁の高さを一様にすることは難しく、他の隔壁11よりも低い隔壁11aや、他の隔壁よりも高い隔壁11bが形成されてしまう。このため、貼合工程のプロセスマージンは小さく、第1の基板1と第2の基板2の貼合面を過不足なく貼り合せることは困難である。すなわち、図17(b)に示すように、一部に貼合不良部52や溶着過剰による変形部51が形成されて、流体回路50の間の区切りが不十分となったり、所望の形状の流体回路50が形成されなかったりする場合があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2006−76246号公報
【特許文献2】特開2006−310828号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、基板を貼合することで作製されるマイクロチップの製造において、貼合不良部や変化部が形成されることなく、所望の形状の流体回路を有するマイクロチップを高い歩留まり率で得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、少なくとも一方の表面に隔壁で区画された凹部を有する第1の基板と、前記第1の基板の少なくとも前記一方の表面に貼合された第2の基板とを備え、
前記凹部および前記第2の基板の表面から構成される流体回路を含むマイクロチップであって、
前記第1の基板の前記隔壁のうち、少なくとも前記凹部を区画している隔壁の先端の一部が、溶着リブを介して前記第2の基板に溶着されていることを特徴とする、マイクロチップである。
【0010】
前記溶着リブの一部に、他の部分より前記隔壁の厚さ方向に長い部分である液移動防止ストッパーを有することが好ましい。
【0011】
また、本発明は、少なくとも一方の表面に隔壁で区画された凹部を有する第1の基板を成形する成形工程と、
前記第1の基板の少なくとも前記一方の表面に、第2の基板を積層する積層工程と、
前記第1の基板の前記隔壁の先端を前記第2の基板に溶着することにより、前記第1の基板と前記第2の基板とを貼合して、前記凹部および前記第2の基板の表面から構成される流体回路を形成する貼合工程とを備える、マイクロチップの製造方法であって、
前記第1の基板の前記隔壁のうち、少なくとも前記凹部を区画している隔壁の先端の一部に溶着リブが形成されており、
前記貼合工程において、前記凹部を区画している隔壁が前記溶着リブを介して前記第2の基板に溶着されることを特徴とする、マイクロチップの製造方法である。
【0012】
前記貼合工程の後において、前記溶着リブは、その一部に他の部分より前記隔壁の厚さ方向に長い部分である液移動防止ストッパーを有することが好ましい。
【0013】
前記貼合工程の前において、前記溶着リブは、その一部に他の部分より前記隔壁の厚さ方向に長い付加部分、または、前記隔壁の高さ方向に長い付加部分を有することが好ましい。
【0014】
前記貼合工程の前において、前記第1の基板の前記隔壁の一部に、前記隔壁の他の部分よりも高く、かつ、前記溶着リブの先端より低い凸部である位置決め段差を有することが好ましい。
【発明の効果】
【0015】
本発明のマイクロチップでは、各基板が溶着リブを介して溶着されていることにより、貼合不良部や変化部が形成されることなく、所望の形状の流体回路が形成される。また、かかる所望の形状の流体回路を有するマイクロチップを高い歩留まり率で得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】実施形態1のマイクロチップの製造工程を示す断面模式図である。(a)は基板の貼合前の状態、(b)は基板の貼合後の状態を示す。
【図2】実施形態1のマイクロチップに用いられる貼合前の第1の基板を示す上面図である。
【図3】図2のI−I面における断面を示す模式図である。
【図4】実施形態2のマイクロチップの効果を説明するための上面模式図である。
【図5】図5は、実施形態2のマイクロチップを示す上面模式図である。
【図6】(a)、(b)は、実施形態2に用いられる溶着リブの形状の一例を示す斜視図である。
【図7】実施形態2に用いられる溶着リブの形状の一例を示す斜視図である。
【図8】実施形態2に用いられる溶着リブの形状の一例を示す斜視図である。
【図9】実施形態2に用いられる溶着リブの形状の一例を示す斜視図である。
【図10】実施形態2に用いられる溶着リブの形状の一例を示す斜視図である。
【図11】実施形態2に用いられる溶着リブの形状の一例を示す斜視図である。
【図12】実施形態2に用いられる溶着リブの形状の一例を示す斜視図である。
【図13】実施形態3のマイクロチップの効果を説明するための断面模式図である。(a)は基板の貼合後の状態の一例、(b)は基板の貼合後の状態の別の例を示す。
【図14】実施形態3のマイクロチップを示す断面模式図である。(a)は基板の貼合前の状態、(b)は基板の貼合後の状態を示す。
【図15】実施形態3のマイクロチップの一例を示す上面図である。
【図16】図15のII−II面における断面を示す模式図である。
【図17】従来のマイクロチップの製造工程を示す断面模式図である。(a)は基板の貼合前の状態、(b)は基板の貼合後の状態を示す。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明のマイクロチップは、各種化学合成、検査または分析等を、それが有する流体回路を用いて行なうことができるチップであり、少なくとも一方の表面に隔壁で区画された凹部を有する第1の基板と、この第1の基板の少なくとも前記一方の表面に貼合された第2の基板と、から構成される。マイクロチップの流体回路は、上記凹部および第2の基板の表面から構成される空間を含む。第2の基板の表面(第1の基板に貼合される側の表面)は、平坦であってもよく、第1の平板の凹部と対応するような凹部が形成されていてもよい。マイクロチップの大きさは、特に限定されず、たとえば縦横数cm〜10cm程度、厚さ数mm〜数cm程度とすることができる。
【0018】
なお、本発明のマイクロチップは、さらに3層以上の基板から構成されていてもよく、例えば、さらに、第1の基板が、第2の基板とは反対側の表面にも凹部を有しており、この凹部側に第2の基板と同様の第3の基板が貼合されていてもよい。この場合、流体回路は、第1の基板の第2の基板側表面に設けられた凹部と第2の基板の表面とから構成される空間からなる第1の流体回路、および、第1の基板の第3の基板側表面に設けられた凹部と第3の基板の表面とから構成される空間からなる第2の流体回路からなる2層構造を有する。ここで、「2層」とは、マイクロチップの厚み方向に関して異なる2つの位置に流体回路が設けられていることを意味する。かかる2層の流体回路は、第1の基板を厚み方向に貫通する貫通穴によって接続することができる。
【0019】
本発明において、基板同士を貼り合わせる方法としては、貼り合わせる基板のうち、少なくとも一方の基板の貼り合わせ面を融解させて溶着させる方法(溶着法)が用いられる。溶着法としては、基板を加熱して溶着させる方法;レーザー、ランプ、LED等の光を照射して、光吸収時に発生する熱により溶着する方法(レーザー溶着、ランプ溶着等);超音波を用いて溶着する方法(超音波溶着)などを挙げることができる。
【0020】
本発明のマイクロチップを構成する上記各基板のうち、少なくとも片側の基板の材質は熱可塑性樹脂である。全ての基板の材質が熱可塑性樹脂であることがより好ましく、全ての基板の材質が同種の熱可塑性樹脂であることがさらに好ましい。熱可塑性樹脂としては、たとえば、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリメチルメタクリレート(PMMA)、ポリカーボネート(PC)、ポリスチレン(PS)、ポリプロピレン(PP)、ポリエチレン(PE)、ポリアリレート樹脂(PAR)、アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン樹脂(ABS)、スチレン−ブタジエン樹脂(スチレン−ブタジエン共重合体)、塩化ビニル樹脂(PVC)、ポリメチルペンテン樹脂(PMP)、ポリブタジエン樹脂(PBD)、生分解性ポリマー(BP)、シクロオレフィンポリマー(COP)、ポリジメチルシロキサン(PDMS)、ポリアセタール(POM)、ポリアミド(PA)が挙げられる。
【0021】
マイクロチップが、表面に凹部を備える第1の基板と、第2の基板とから構成される場合、第1の基板は、光学測定の際、検出光が照射される部位を含んでいることから、透明基板とすることが好ましい。第2の基板は、透明基板であっても不透明基板であってもよいが、レーザー溶着を行なう場合には、光吸収率を増大できることから、不透明基板とすることが好ましく、黒色基板(例えば、カーボンブラック等の黒色顔料を含有する樹脂から構成される基板)とすることがより好ましい。
【0022】
マイクロチップが、両表面に凹部を備える第1の基板と、第2の基板と、第3の基板とから構成される場合、レーザー溶着の効率性の観点から、第1の基板を不透明基板とすることが好ましく、黒色基板とすることがより好ましい。一方、第2および第3の基板は、検出部を構築するために、透明基板とすることが好ましい。第2および第3の基板を透明基板とすると、第1の基板に設けられた貫通穴と、透明な第2および第3の基板とから
検出部(光学測定用キュベット)を形成でき、マイクロチップ表面と略垂直な方向から該検出部に光を照射して、透過する光の強度(透過率)を検出するなどの光学測定を行なうことが可能となる。
【0023】
第1の基板の表面に、流体回路を構成する凹部(パターン溝)および隔壁を形成する方法としては、特に制限されず、転写構造を有する金型を用いた射出成形法、インプリント法などを挙げることができる。凹部および隔壁の形状は適切な流体回路構造となるように決定される。
【0024】
本発明のマイクロチップにおいて、流体回路は、流体回路内の液体(検体、検体中の特定成分、液体試薬、および、これらのうちの2種以上の混合液または反応液など)に対して適切な流体処理を行なうことができるよう、流体回路内の適切な位置に配置された種々の部位(試薬保持部、試薬計量部、検体計量部、混合部、検出部など)を備えており、これらの部位は、接続流路を介して適切に接続されている。
【0025】
ここで、「検体」とは、流体回路内に導入される、マイクロチップが行なう検査または分析等の対象となる物質であり、たとえば全血、血漿、血清、尿、唾液である。また、「液体試薬」とは、マイクロチップが行なう検査または分析の対象となる検体を処理する、または該検体と混合あるいは反応される試薬であり、通常、マイクロチップ使用前にあらかじめ流体回路の試薬保持部に内蔵されている。検体と液体試薬とを混合させることによって最終的に得られた混合液または反応液等は、たとえば、混合液を収容した検出部に光を照射し、透過する光の強度(透過率)を検出する方法や、検出部に保持された混合液についての吸収スペクトルを測定する方法等の光学測定などに供され、検査または分析が行なわれる。
【0026】
以下、実施の形態を示して、本発明を詳細に説明する。
(実施形態1)
図1は、実施形態1のマイクロチップの製造工程を示す断面模式図である。(a)は基板の貼合前の状態、(b)は基板の貼合後の状態を示す。図1(a)に示されるように、第1の基板1の一方の表面には、流体回路を形成するための凹部10が設けられており、第1の基板1の凹部10側に平板状の第2の基板が貼り合わせられる。ここで、凹部10を区画する隔壁11には、第1の基板を成形する際のヒケなどの発生により、他の隔壁11よりも低い隔壁11aや、他の隔壁よりも高い隔壁11bが形成されてしまう場合がある。この場合でも、隔壁11,11a,11bの貼合面には溶着リブ30が形成されており、図1(b)に示すように第1の基板1と第2の基板2とは溶着リブ31を介して貼合されるため、貼合工程のプロセスマージンが大きく、従来の図17(b)に示すような貼合不良部52や変形部51の形成が抑制される(図1(b))。
【0027】
図2は、実施形態1のマイクロチップに用いられる貼合前の第1の基板1を示す上面図である。第1の基板1は、所望の凹部10が形成されるように隔壁11の形状が設計されており、隔壁11には溶着リブ30が設けられている。
【0028】
溶着リブの材質は、第1の基板の成形工程を考慮すると少なくとも第1の基板と同じであることが好ましい。ただし、溶着リブの材質は、第1の基板とは異なる材質であってもよく、例えば、第1の基板よりも軟らかい材質や粘着性の高い材質であってもよい。
【0029】
図2では、ほぼ全ての隔壁11に溶着リブ30が設けられているが、第1の基板1の隔壁11のうち、少なくとも隔壁11の先端(第1の基板1の厚さ方向の先端)の一部に、溶着リブ30が設けられていればよく、必ずしも全ての隔壁11の先端に溶着リブ30が設けられていなくてもよい。
【0030】
図3は、図2のI−I面における断面を示す模式図である。第1の基板の隔壁11の貼合面111には、半円形状の断面を有する溶着リブ30が設けられている。
【0031】
(実施形態2)
本実施形態では、流体回路内の所定部位の液体が他の部位へ移動してしまうことを防止するための液移動防止ストッパーが設けられている。それ以外の点は、実施形態1と同様である。
【0032】
上記実施形態1のように、第1の基板と第2の基板とを溶着リブを介して貼合する場合、溶着リブ31の潰し残りの隙間32が形成されることがあり(図1(b)参照)、毛細管現象によりこの隙間32を伝って、流体回路内の所定の部位に留まるべき液体が他の部位に移動してしまう場合があった。すなわち、図4の上面模式図に示すように、溶着リブ31の潰し残りの隙間32は、溶着リブの周囲に沿って微細な流路を形成してしまう場合がある。この微細な流路(隙間32)を伝って、所定の部位に留まるべき液体40が液体41のように他の部位へ移動してしまうことがあった。このような液の移動は、流体回路内における液体移動の制御を妨げ、正確な検査が行えなくなる。
【0033】
そこで、本実施形態では、図5に示されるように、この微細な流路(隙間32)を分断し、液体40が他の部位へ移動してしまうことを防止するための液移動防止ストッパー301が設けられている。液移動防止ストッパーとは、具体的には、溶着リブの一部に設けられる、他の部分より前記隔壁の厚さ方向に長い部分である。液移動防止ストッパーの材質は、第1の基板の成形工程を考慮すると溶着リブと同じであることが好ましい。ただし、液移動防止ストッパーの材質は、溶着リブと異なる材質であってもよい。
【0034】
図6〜12は、実施形態2における液移動防止ストッパーを形成するために用いられる溶着リブの形状の種々の例を示す斜視図である。ここでは、第1基板と第2基板が貼合される前の状態の溶着リブの形状を示している。
【0035】
図6(a)に示す溶着リブの付加部分300は、半径0.15mmの半円形状の断面を有する溶着リブの高さと同じ0.15mmの高さを有する円柱状の形状を有している。円柱の円の直径は隔壁11の厚さ(0.6mm)とほぼ同じである。すなわち、該付加部分300は、他の部分より隔壁11の厚さ方向に長い部分である。また、図6(b)に示す溶着リブの付加部分300は、溶着リブの高さ(0.15mm)よりも高い0.3mmの高さを有する円柱状の形状を有している。円柱の円の直径は溶着リブ30の幅(0.3mm)とほぼ同じである。すなわち、該付加部分300は、他の部分より隔壁11の高さ方向に長い部分である。なお、図示していないが、溶着リブの付加部分300は、他の部分より隔壁11の厚さ方向に長く、かつ、隔壁11の高さ方向に長い部分であってもよい。
【0036】
このような溶着リブの付加部分300が貼合工程の際に押し潰されて、液移動防止ストッパーが第1の基板の隔壁11の貼合面上に設けられることにより、第1の基板と第2の基板とが貼合される際に溶着リブ30の潰し残りによる微細な流路(隙間)が生じても、この微細な流路が分断されるため、所定の部位に留まるべき液体が他の部位へ移動してしまうことを防止できる。
【0037】
図6に示す溶着リブの付加部分300が、基板の貼合の際に溶着リブ30が適度に押し潰されることを妨げる可能性があることを考慮して、図7に示すように、溶着リブの付加部分(他の部分より隔壁11の厚さ方向に長い部分)300を円錐形状としてもよい。このような形状とすることにより、基板の貼合の際に溶着リブ30と付加部分300が同程度に押し潰されやすくなると考えられる。
【0038】
図8に示す溶着リブの付加部分(他の部分より隔壁11の厚さ方向に長い部分)300は、溶着リブ30と同様の形状であり、溶着リブの両側に設けられている。流体回路の設計によっては、必ずしも溶着リブ30の両側にこのような付加部分300を設ける必要はなく、図9に示すように、片側のみに付加部分300を設けてもよい。また、液移動防止効果を高めるために、複数の付加部分300を図10に示すように設けてもよい。
【0039】
図8〜10に示すような形状の付加部分300を設ける場合も、基板の貼合の際に溶着リブ30が適度に押し潰されることを妨げる可能性があることを考慮し、図11に示すように、付加部分300の一部に切欠部300aを設けてもよい。このような形状とすることにより、基板の貼合の際に溶着リブ30と付加部分300が同程度に押し潰されやすくなると考えられる。
【0040】
また、図12に示すように、溶着リブと同様の形状の付加部分(他の部分より隔壁11の厚さ方向に長い部分)300を隔壁11に対して斜め方向に設けてもよい。付加部分300をこのように配置することで、液体の移動を停止させる効果が高まると考えられる。なお、図12に示す液移動防止ストッパーは、流体回路の設計に応じて一部を省略することもできる。
【0041】
(実施形態3)
本実施形態では、貼合工程の前において、第1の基板の隔壁の一部に、隔壁の他の部分よりも高く、かつ、溶着リブの先端より低い凸部である位置決め段差が設けられている。それ以外の点は、実施形態1と同様である。
【0042】
上記実施形態1のように第1の基板と第2の基板とを溶着リブを介して貼合する場合でも、第1の基板と第2の基板とを貼合する工程において、両者の位置関係の精度が低いような場合は、図13(a)に示すような溶着過剰による変形部51が形成されたり、図13(b)に示すように、完全に貼合されていない貼合不良部52や、貼合が不十分である貼合不良部53が形成され、流体回路50の間の区切りが不十分となる恐れがあった。
【0043】
そこで、本実施形態では、図14(a)に示されるように、位置決め段差12が設けられている。この位置決め段差12は、貼合工程の前において、第1の基板1の隔壁11の一部に、隔壁11の他の部分よりも高く、かつ、溶着リブ30の先端より低い凸部である。位置決め段差12を設けることにより、図14(b)に示すように、貼合工程の後の第1の基板1と第2の基板2の間隔が適切に維持されるため、変形部51や貼合不良部52,53(図13(a)、(b)参照)の形成を抑制することができる。なお、図14(a)では端部の隔壁11に位置決め段差12を設けているが、他の隔壁11に位置決め段差12を設けてもよい。
【0044】
図15は、実施形態3のマイクロチップに用いられる貼合前の第1の基板1を示す上面図である。第1の基板1は、位置決め段差12が設けられている以外は、図2に示す第1の基板1と同様である。
【0045】
図16は、図15のII−II面における断面を示す模式図である。第1の基板の隔壁11の貼合面側には、位置決め段差12が設けられている。なお、図16における隔壁11の厚さaと、図3における隔壁11の厚さcとは通常異なっており、図16における位置決め段差の高さをbとすると、溶着リブの断面積(例えば、図3の溶着リブ30の断面における半円の面積)がc×bにほぼ等しいことが好ましい。位置決め段差12の高さbをこのような高さにすることにより、貼合工程後に、溶着リブが貼合面上に隔壁の厚さ方向に過不足なく広がり、適切な形状となるためである。
【0046】
ただし、この場合でも、第1の基板を成形する際のヒケなどの発生により、凹部10を形成している隔壁の高さが一様でない場合があり、第1の基板と第2の基板とを溶着リブを介して貼合する際に、溶着リブ31の潰し残りの隙間32が形成されることがある(図14(b)参照)。したがって、流体回路内の所定部位の液体が、毛細管現象により他の部位へ移動してしまうことを防止するため、実施形態2で説明したような液移動防止ストッパーを設けることが好ましい。
【0047】
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0048】
1 第1の基板、10 凹部、11,11a,11b 隔壁、111 貼合面、12 位置決め段差、2 第2の基板、30,31 溶着リブ、300 付加部分、300a 切欠部、301 液移動防止ストッパー、32 隙間、40,41 液体、50 流体回路、51 変形部、52,53 貼合不良部。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも一方の表面に隔壁で区画された凹部を有する第1の基板と、前記第1の基板の少なくとも前記一方の表面に貼合された第2の基板とを備え、
前記凹部および前記第2の基板の表面から構成される流体回路を含むマイクロチップであって、
前記第1の基板の前記隔壁のうち、少なくとも前記凹部を区画している隔壁の先端の一部が、溶着リブを介して前記第2の基板に溶着されていることを特徴とする、マイクロチップ。
【請求項2】
前記溶着リブの一部に、他の部分より前記隔壁の厚さ方向に長い部分である液移動防止ストッパーを有する、請求項1に記載のマイクロチップ。
【請求項3】
少なくとも一方の表面に隔壁で区画された凹部を有する第1の基板を成形する成形工程と、
前記第1の基板の少なくとも前記一方の表面に、第2の基板を積層する積層工程と、
前記第1の基板の前記隔壁の先端を前記第2の基板に溶着することにより、前記第1の基板と前記第2の基板とを貼合して、前記凹部および前記第2の基板の表面から構成される流体回路を形成する貼合工程とを備える、マイクロチップの製造方法であって、
前記第1の基板の前記隔壁のうち、少なくとも前記凹部を区画している隔壁の先端の一部に溶着リブが形成されており、
前記貼合工程において、前記凹部を区画している隔壁が前記溶着リブを介して前記第2の基板に溶着されることを特徴とする、マイクロチップの製造方法。
【請求項4】
前記貼合工程の後において、前記溶着リブは、その一部に他の部分より前記隔壁の厚さ方向に長い部分である液移動防止ストッパーを有する、請求項3に記載のマイクロチップの製造方法。
【請求項5】
前記貼合工程の前において、前記溶着リブは、その一部に他の部分より前記隔壁の厚さ方向に長い付加部分、または、前記隔壁の高さ方向に長い付加部分を有する、請求項3または4に記載のマイクロチップの製造方法。
【請求項6】
前記貼合工程の前において、前記第1の基板の前記隔壁の一部に、前記隔壁の他の部分よりも高く、かつ、前記溶着リブの先端より低い凸部である位置決め段差を有する、請求項3〜5のいずれかに記載のマイクロチップの製造方法。
【請求項1】
少なくとも一方の表面に隔壁で区画された凹部を有する第1の基板と、前記第1の基板の少なくとも前記一方の表面に貼合された第2の基板とを備え、
前記凹部および前記第2の基板の表面から構成される流体回路を含むマイクロチップであって、
前記第1の基板の前記隔壁のうち、少なくとも前記凹部を区画している隔壁の先端の一部が、溶着リブを介して前記第2の基板に溶着されていることを特徴とする、マイクロチップ。
【請求項2】
前記溶着リブの一部に、他の部分より前記隔壁の厚さ方向に長い部分である液移動防止ストッパーを有する、請求項1に記載のマイクロチップ。
【請求項3】
少なくとも一方の表面に隔壁で区画された凹部を有する第1の基板を成形する成形工程と、
前記第1の基板の少なくとも前記一方の表面に、第2の基板を積層する積層工程と、
前記第1の基板の前記隔壁の先端を前記第2の基板に溶着することにより、前記第1の基板と前記第2の基板とを貼合して、前記凹部および前記第2の基板の表面から構成される流体回路を形成する貼合工程とを備える、マイクロチップの製造方法であって、
前記第1の基板の前記隔壁のうち、少なくとも前記凹部を区画している隔壁の先端の一部に溶着リブが形成されており、
前記貼合工程において、前記凹部を区画している隔壁が前記溶着リブを介して前記第2の基板に溶着されることを特徴とする、マイクロチップの製造方法。
【請求項4】
前記貼合工程の後において、前記溶着リブは、その一部に他の部分より前記隔壁の厚さ方向に長い部分である液移動防止ストッパーを有する、請求項3に記載のマイクロチップの製造方法。
【請求項5】
前記貼合工程の前において、前記溶着リブは、その一部に他の部分より前記隔壁の厚さ方向に長い付加部分、または、前記隔壁の高さ方向に長い付加部分を有する、請求項3または4に記載のマイクロチップの製造方法。
【請求項6】
前記貼合工程の前において、前記第1の基板の前記隔壁の一部に、前記隔壁の他の部分よりも高く、かつ、前記溶着リブの先端より低い凸部である位置決め段差を有する、請求項3〜5のいずれかに記載のマイクロチップの製造方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【公開番号】特開2012−237707(P2012−237707A)
【公開日】平成24年12月6日(2012.12.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−108163(P2011−108163)
【出願日】平成23年5月13日(2011.5.13)
【出願人】(000116024)ローム株式会社 (3,539)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年12月6日(2012.12.6)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年5月13日(2011.5.13)
【出願人】(000116024)ローム株式会社 (3,539)
【Fターム(参考)】
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