説明

マイクロチップの位置決め部材

【課題】マイクロチップの位置決め部材において、プローブによるマイクロチップへの試料液の分注時に、プローブとマイクロチップとの所定の相対位置関係を確保して正確な分注を行うとともに安価なものとする。
【解決手段】位置決め部材100は、プローブによりウェル11内に液体を吐出する際にマイクロチップ10の位置決めを行う。この位置決め部材100は、マイクロチップ10の上方に位置する、複数のガイド孔142、144を有する本体と、本体と一体となった、マイクロチップ10の位置決め用の被係合部16a、18aと所定の位置関係で係合する係合部120、122とを備える。係合時には、各ガイド孔142、144がマイクロチップ10の対応する各ウェル11の直上に位置するとともに、プローブの挿入を案内する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はマイクロチップの位置決め部材に関し、特に試薬および血液のような液体サンプルをマイクロ流路に導入したマイクロ流路チップすなわちマイクロチップを用いて、例えば、電気泳動により測定対象物質を分析する臨床分析装置に使用される、マイクロチップの位置決め部材に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、このような液体の分析装置としては、被検液と発光試薬を混合することによって生ずる発光を測定して、被検液の組成などを定量分析する測定装置が知られている(特許文献1)。この測定装置においては、被検液や試薬は、絞りテーパ部のある注入器(プローブ)により試験管状の容器(マイクロサンプルチューブ)に注入される。容器および容器の上方に位置する光を透過しないチップガイドはホルダにより保持される。他方、注入器の先端には、所定の種類の発光試薬が予め収容されたカセット形式のチップ部材が装着される。試薬等は、注入器により手作業で容器に注入されるが、注入の際、チップ部材がチップガイド内に挿入された状態で試薬を容器に注入するようになっている。この測定装置において、ホルダは、容器に外部の光が入射しないように構成されている。また、チップガイドと、チップ部材との組合せによっても、光が外部から容器に入射しないようになっている。
【0003】
また、別の従来技術として、被検液の注入を自動的に行う生化学分析装置が知られている(特許文献2)。この分析装置は、先端に点着用ノズルを取り付けた点着アームを有し、この点着アームが、旋回用モータにより旋回し、昇降用モータと送りねじ機構により昇降するように構成されている。また、試料液を収容したサンプルカップと、化学分析スライドが点着用ノズルの旋回軌跡上に配置されている。点着アームの旋回と昇降により、点着用ノズルはサンプルカップから試料を吸引し、化学分析スライドの点着孔にその試料を吐出(分注)するようになっている。この点着用ノズルの注入時の位置決めは、前述の点着アームを旋回する機構と昇降する機構により機械的になされる。
【特許文献1】特開平8−178847号公報(図4、図5)
【特許文献2】特開平6−66817号公報(図1、図4)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1の測定装置においては、チップガイドは、チップ部材との組合せによって、容器に外部から光が入射することを防ぐことを目的としたものであり、マイクロサンプルチューブと、注入器の位置精度を向上させるためのものではない。また、マイクロサンプルチューブは、試験管状であって、手作業で注入可能な十分なサイズの開口を有しており、正確な位置精度を考慮する必要がない。
【0005】
また、特許文献2においては、分注先である化学分析スライド上の点着孔が高密度且つ高精度に配置されたものではないため、アームの機械的位置決めによっても十分対応可能であった。
【0006】
しかし、本願発明の位置決め部材が適用されるマイクロチップは、点着先の点着孔すなわちウェルが高密度且つ高精度に配置されているため、試料液を吐出するためのプローブの位置が僅かでもずれると、プローブの先端が、マイクロチップに接触するおそれがある。すなわちプローブの先端がウェルの内面や底部に接触あるいは当接して、マイクロチップおよび/またはプローブを破損するおそれがある。また、その結果、試料液等がウェル以外の部分に付着して汚染するおそれもある。
【0007】
このような問題を解決するために機械的に更なる高精度を求めようとすれば、ボールねじとリニアガイドの組合せ等が必要となる。この結果、装置は高価なものとなってしまう。
【0008】
本発明は、以上の点に鑑みてなされたものであり、プローブによるマイクロチップへの試料液の分注時に、プローブとマイクロチップとの所定の相対位置関係を確保して正確な分注を行うことができ、且つ安価なマイクロチップの位置決め部材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明のマイクロチップの位置決め部材は、内部に液体を収容可能な複数のウェルを備え、ウェルの底部と連通するマイクロ流路が内部に形成された略板状のマイクロチップに、プローブによりウェル内に液体を吐出する際にマイクロチップの位置決めを行う位置決め部材であって、位置決め部材が、マイクロチップの上方に位置する、複数のガイド孔を有する本体と、本体と一体となった、マイクロチップの位置決め用の被係合部と所定の位置関係で係合する係合部とを備え、係合時に各ガイド孔がマイクロチップの対応する各ウェルの直上に位置するとともに、プローブの挿入を案内するよう構成されていることを特徴とするものである。
【0010】
なお、ここで「本体と一体となった」とは本体と別体の部材を一体的に構成する場合も、本体と同一の材料で一体に形成されている場合も含むものとする。
【0011】
また、係合部は、マイクロチップの平面方向に離隔してマイクロチップに形成された少なくとも2箇所の雌部からなる被係合部に係入する突起とすることができる。
【0012】
また、ガイド孔の内面に、プローブを案内する案内面が形成されていてもよい。
【0013】
また、ガイド孔の内面に自己潤滑性の材料がコーティングされていてもよい。ここで、「コーティング」とは、塗布により被膜を形成することの他、めっきによる表面処理も含むものとする。この材料としては、例えば、テフロン(登録商標)やニッケルテフロン(登録商標)めっきとすることができる。
【0014】
また、本体がプローブの軸線方向に離隔する少なくとも2枚の板状部を有し、板状部の各々にガイド孔がプローブの軸線方向に整列して形成されていてもよい。
【0015】
また、2枚の板状部のうち上方の板状部に形成された複数のガイド孔が、プローブの水平な一方向の移動を可能とする幅のスロットにより互いに連通しているように構成することができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明のマイクロチップの位置決め部材は、マイクロチップの上方に位置する、複数のガイド孔を有する本体と、本体と一体となった、マイクロチップの位置決め用の被係合部と所定の位置関係で係合する係合部とを備え、係合時には、各ガイド孔がマイクロチップの対応する各ウェルの直上に位置するとともに、ウェル内に液体を吐出するプローブの挿入を案内するよう構成されているので、次の効果を奏する。
【0017】
すなわち、マイクロチップとプローブとの相対位置関係を、位置決め部材を介して正確に位置合せすることができるので、プローブがマイクロチップに接触して、プローブおよび/またはマイクロチップを破損することを防止し、ウェルの周辺を液体で汚染することも防止できる。また、マイクロチップとプローブとの位置関係は、単に位置決め部材を介するだけで正確に行うことが可能となるので、複雑で高価な位置決め機構を必要とせず、安価なものとすることができる。
【0018】
また、係合部が、マイクロチップの平面方向に離隔してマイクロチップに形成された少なくとも2箇所の雌部からなる被係合部に係入する突起である場合は、簡単な構成でマイクロチップと位置決め部材を所定の位置関係に維持することができる。
【0019】
また、ガイド孔の内面に、プローブを案内する案内面が形成されている場合は、プローブは案内面により一層円滑に案内される。
【0020】
また、ガイド孔の内面に自己潤滑性の材料がコーティングされている場合は、ガイド孔の磨耗が低減され、プローブは一層円滑に案内される。また、磨耗により発生する塵が極めて少なくなるため、塵がウェル内に侵入することによる試料分析への悪影響が回避される。
【0021】
また、本体がプローブの軸線方向に離隔する少なくとも2枚の板状部を有し、板状部の各々にガイド孔がプローブの軸線方向に整列して形成されている場合は、プローブの軸線方向の2箇所のガイド孔により、プローブの先端が一層正確に位置決めされる。
【0022】
また、2枚の板状部のうち上方の板状部に形成された複数のガイド孔が、プローブの水平な一方向の移動を可能とする幅のスロットにより互いに連通しているように構成されている場合は、プローブが隣接するウェルに順次吐出する際に、プローブを位置決め部材から完全に引き上げなくても、プローブを移動させることができるので、プローブの引き上げストロークを小さくできると共に吐出作業を迅速に行うことができる。ストロークを短縮すると、プローブを移動させるための機構も小型化することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
以下、本発明のマイクロチップの位置決め部材が適用される分注装置について図面を参照して概略説明する。図1に分注装置1の構成図を示す。なお本実施形態においては、便宜上、液体Fが吐出する方向(分注ノズル2の先端開口2aが向く方向)(図1中下方)を下側として説明する。
【0024】
分注装置1は、例えば医療機関、研究所等で使用される生化学分析装置等の臨床分析装置に組み込まれ、マイクロチップ10のウェル11に検体や試薬等の微量な液体Fや洗浄液としての水Wを供給するものであって、図1に示す如く、分注ノズル2と、分注ノズル2への吸引圧及び吐出圧を供給するポンプ手段3としてのシリンジポンプ31及びポンプ駆動部32と、シリンジポンプ31に連結し、内部に水Wを収容する液体タンク4と、分注ノズル2とシリンジポンプ31を繋ぐ第一の配管51と、シリンジポンプ31と液体タンク4とを繋ぐ第二の配管52と、分注ノズル2を上下左右前後に移動させる移動手段としてのノズル駆動部6と、液面を検出する液面検知部7と、液面検知部7からの信号に基づいてポンプ駆動部32及びノズル駆動部6を制御する制御部8(制御手段)と、内部に液体Fを収容する液体収容容器9とから概略構成されている。
【0025】
なお、上記臨床分析装置は、μTAS−イムノアッセイシステム(微細総分析システム(Micro Total Analysis System)−酵素免疫測定法(ELISA=Enzyme Linked Immuno-Sorbent Assay))とも称される。
【0026】
分注ノズル2は液体Fを吸引及び吐出する先端開口2aを有するものであって、該先端開口2aを下向きにして設置され、図示しない昇降機構及び水平移動機構等によって上下左右前後に移動可能に取り付けられて、これらの機構を駆動するモータ等を備えるノズル駆動部6によって駆動制御されている。また分注ノズル2上部には第一の配管51の一端が接続され、該第一の配管51の他端はシリンジポンプ31に接続されている。
【0027】
シリンジポンプ31は、略円筒状のシリンジ本体310と、上方が挿入口310aに挿通する略棒状のプランジャ311とから概略構成され、ポンプ駆動部32によってプランジャ311を上方向又は下方向に移動させて、分注ノズル2へ吸引圧及び吐出圧を供給するように駆動される。
【0028】
またシリンジ本体310の液体導入口310bには第二の配管52の一端が接続され、第二の配管52の他端に接続された液体タンク4内部から第二の配管52を介して水Wが供給される。なお該供給のために第二の配管52の途中には、シリンジポンプ31側から順に電磁弁42とポンプ41が配設されていて、適時に液体タンク4内部の水Wをシリンジポンプ31内に供給可能となっている。
【0029】
液面検知部7は、光又は超音波又は静電容量等を利用した液面センサを備えるものであって、後述の液体収容容器9内部に収容された液体Fの液面位置を検出して、液面検出信号を制御部8に出力する。
【0030】
制御部8は、液面検知部7からの信号に基づいてノズル駆動部6及びポンプ駆動部32の制御を行って、分注ノズル2の移動及びシリンジポンプ31の吸引圧及び吐出圧を制御している。制御部8は分注ノズル2をノズル駆動部6により先端開口2aが後述するウェル底部14aに位置するまで降下移動させた後に、先端開口2aから液体Fを吐出させるように制御する。分注装置1は、以上のように構成されている。
【0031】
次に、本発明の第一の実施形態のマイクロチップ10の位置決め部材について、図2および図3を参照して詳細に説明する。図2は、マイクロチップ10と、これを位置決めする位置決め部材100を斜め上方から見た斜視図であり、図3は同じマイクロチップ10と位置決め部材100を斜め下方から見た斜視図である。図2および図3において、位置決め部材100は要部のみを示している。この位置決め部材100は、前述のノズル駆動部6に組み込まれて使用されるものである。
【0032】
まず、最初にここで使用されるマイクロチップ10について概略説明する。マイクロチップ10は、合成樹脂から成形された略長方形の板状の部材であり、上面15の略中央部に複数のウェル11を有し、マイクロチップ10の長手方向の両端部にそれぞれ長手方向に延出する耳部16、18を有する。耳部16、18は、マイクロチップ10の上面15から段部を経て低く形成され、互いに略同じ高さ(厚み)を有する。耳部16は長手方向と直交する平面方向に狭幅であり、耳部18は広幅となっている。耳部16には雌部となる円形の貫通孔(被係合部)16aが穿設され、耳部18には、雌部となる外側に開放する矩形の切欠(被係合部)18aが形成されている。上面15に整列したウェル11は、図2から判るように、マイクロチップ10の長手方向に所定のピッチ(等ピッチ)で配列されているが、長手方向と直交する平面方向には、位置ずれした状態で配置されている。
【0033】
このウェル11の形状について、図4を併せて参照して説明する。図4は、複数のウェル11のうち任意の一個のウェル11の断面図である。ウェル11は、上端に直径約4mmの開口11aを有し、該開口11aから下方に向かってウェル底部14aと連通するウェルテーパ部11bが形成されている。ウェルテーパ部11bは上端から下端に向かうにつれて径がより小さくなり、ウェル底部14aはさらに径が小さいものであるため、ウェルテーパ部11bとウェル底部14aとの境界には環状の段部によって段差11cが形成される。後述する第二の基板14に至るまでのウェル11の深さは、約7mmである。
【0034】
図3および図4に示すように、マイクロチップ10の下面10b(図3)には、ガラス板(透明な板状部材)12が取付けられている。該ガラス板12は、図3および図4に示す如く、上面にマイクロ流路13aが形成された第一の基板13と、該第一の基板13の上面に貼合わされ、マイクロ流路13aと連通し、ウェル11の底部となる、例えば直径約2.2mmの連通穴14a(ウェル底部14a)が形成された第二の基板14とから構成されている。なお、図4ではプローブ2が挿入された状態を示しているが、この態様については後述する。
【0035】
次に、再び図2および図3に戻って説明する。位置決め部材100は、マイクロチップ10の長手方向に沿う細長い形状の部材であり、上下方向に分離した板状部106、108を一体的に有する。上下の板状部106、108は、位置決め部材100の長手方向に延びる長円形の開口110によって上下に形成されている。この位置決め部材100の一端には、段差を経て位置決め部材100の長手方向に延出する延長部112が形成されている。前述の板状部106、108および延長部112により位置決め部材100の本体が構成される。延長部112の上面112aには、後述するピン(係合部)122を取付けるための凹所114が形成されている。段差部分の垂直な壁116には、位置決め部材100の支持板102がねじ104により固定されている。位置決め部材100の図示しない他端側においても、同様に一部がねじ止めにより固定されている。この位置決め部材100は分析装置の内部に円形に複数個放射状に固定された状態で配置されるものであり、図2および図3において位置決め部材100の左側が内側に位置し、右側が外側に位置する。延長部112は、位置決め部材100を外側で固定するための部材であるが、ここではその固定の態様についての詳細な説明は省略する。マイクロチップ10は、これらの位置決め部材の下側を円形に沿って順次移動するようになっている。
【0036】
次に、図5を併せて参照してピン120、122について説明する。図5は、マイクロチップ10および位置決め部材100とプローブ2を部分的に示す正面図である。位置決め部材100の下面118(図3)には、前述のマイクロチップ10の被係合部となる貫通孔16aおよび切欠18aにそれぞれ対応する位置に、ピン120、122が取付けられている。ピン120は、大面積のフランジ124、フランジ124に突設された円柱状の基部126、中間部128、先端部130を有する。中間部128は基部126より縮径の円柱状であり、先端部130は、中間部128よりさらに縮径の円柱状である。先端部130は、その先端すなわち下端に向けて円錐状のテーパ面130aを有する。先端部130の直径は、マイクロチップ10の貫通孔16aよりわずかに小径となっている。これら基部126、中間部128、先端部130は同軸に形成されている。ピン120は、大面積のフランジ124が、ねじ132により位置決め部材100の下面118に固定されて、位置決め部材100に安定的に取り付けられる。
【0037】
他方のピン122は、円柱状の大径の基部134、縮径した中間部136、中間部136よりさらに縮径した先端部138が段差を経て形成されている。先端部138は、先端部130と同様に先端(下端)に至る円錐状のテーパ面138aを有する。先端部138の直径は、切欠18aの対向する壁19の間隔より僅かに小さくなっている。ピン122の基部134は、凹所114内に配置されるねじ140により下面118に固定される。ピン122は、その基部134が、下面118と接触する面積が大きいので安定的に固定される。これらのピン120、122は、それらの先端部130、138が、マイクロチップ10の貫通孔16a、切欠18aにそれぞれテーパ面130a、138aによって案内されつつ係入するようになっている。
【0038】
また、位置決め部材100の下側の板状部108には、位置決め部材100とマイクロチップ10が位置決めされたときに、複数のウェル11の直上に位置するように複数のガイド孔142がそれぞれ形成されている。これらの貫通したガイド孔142は、各ウェル11に対応して配置されている。また、上方の板状部106には、ガイド孔142の直上に貫通するガイド孔144が形成されている。これらのガイド孔142、144には、プローブ2の先端部2bが先に挿入され、絞りテーパ部を経て大径部分が挿入される。これによりプローブ2は円滑に案内される。なお、この実施形態においては、プローブ2は、マイクロチップ10の、紙面と直交する方向に4本配置されており、各マイクロチップ10から同時に試料液等が吐出されるようになっている。また、プローブ2は、その軸線方向と直交する平面方向に僅かに移動可能に昇降機構により緩く保持されているが、この態様については説明を省略する。
【0039】
プローブ2の軸線方向に、互いに離隔した2枚の板状部106、108があることにより、プローブ2を案内する位置決め部材100の部分は、実質的に板状部106の上面106aと板状部108の下面118との厚みを有することになり、プローブ2を一層正確に案内することができる。板状部106の長手方向に整列したガイド孔144は、位置決め部材100の長手方向に沿って延びるスロット146によって一方向に連通するように構成されている。このスロット146は、プローブ2の細径、例えば直径約0.5mm、の先端部2bが通過可能な幅を有する。
【0040】
次に、マイクロチップ10と位置決め部材100との係合動作について説明する。図5において、位置決め部材100のピン120、122は、マイクロチップ10の貫通孔16a、切欠18aにそれぞれ位置している。この相対位置関係から、位置決め部材100に対して、図示しない支持台に載置されたマイクロチップ10が上昇すると、貫通孔16a、切欠18aは、ピン120、122のそれぞれの先端部130、138のテーパ面130a、138aにより案内されて係合する。このとき、先端部130と貫通孔16aとの係合により、耳部16の水平面での位置すなわち図5において、左右方向および紙面と直交方向の位置が確定し、耳部18と切欠18aとの係合により耳部18の紙面と直交方向の位置が確定する。ピン120、122と係合する被係合部の一方が貫通孔16aであり、他方が切欠18aであるので、ピン122と切欠18aとの係合時に、マイクロチップ10の長手方向の位置ずれが吸収される。従って、マイクロチップ10の長手方向すなわち図5において、左右方向に干渉することが防止され、ピン120、122が、貫通孔16a、切欠18aに円滑に係入する。換言すると、先端部130と貫通孔16aの係合により、マイクロチップ10の一方の側の平面方向の位置決めがなされ、切欠18aと先端部138の係合により、ピン120を中心とするマイクロチップ10の他方の側の平面内での回転方向の位置決めがなされる。切欠18aと先端部138は、回転方向に遊びが生じない寸法関係に設定されている。本実施形態において切欠18aは、矩形であるが、矩形に限定されるものではなく、他の位置ずれが吸収できる形状、例えば、マイクロチップ10の長手方向の外方に開放したU字状であってもよい。
【0041】
ピン120、122と貫通孔16a、切欠18aとの係合の際、中間部128、136のそれぞれの下向きの当接面128a、136aに、マイクロチップ10の耳部16、18のそれぞれの上面16b、18bが当接する。このとき中間部126、138はそれぞれの基部126、134より直径が小さい、すなわち逃げとなっているので、マイクロチップ10の段部と干渉することなくマイクロチップ10に当接することができる。これにより、位置決め部材100とマイクロチップ10との上下方向すなわちプローブ2の軸線方向の位置が確定し、且つ平面度における位置決めもなされる。しかる後、図5に示すように、プローブ2が昇降機構により前述のガイド孔144、142により案内されて降下する。そして、図4に示す所定の位置まで降下して停止する。この所定の位置とは、図4に示すプローブ2の先端開口2aと第一の基板13の上面との距離H2が、第ニの基板14の厚さH1より小さく且つ第一の基板13に接触しない寸法関係となる位置である。次に、プローブ2の先端開口2aから所定量の液体が吐出される。また、前述の昇降機構には、プローブ2が万一第一の基板13に当接したときに、プローブ2および/または基板13の破損を防止するバネ機構が組み込まれて、当接時の衝撃を緩和するようになっているが、これについての説明は省略する。なお、プローブ2には予め複数の全てのウェル11に吐出できるだけの容量、例えば100マイクロリットル、の液体が吸引されているので、順次、他のウェル11に吐出作業が反復される。
【0042】
この態様について、図5を参照して説明する。プローブ2は、図5において、右端のウェル11への吐出が完了すると、矢印20で示すように上方に移動される。そして、プローブ2の先端開口2aが、下方の板状部108のガイド孔142から抜け出て板状部108の上方に位置すると、プローブ2の先端部2bが上方の板状部106のガイド孔144内に位置したまま矢印22で示す方向に移動する。そして、隣接するウェル11’の直上で停止する。次に、プローブ2はガイド孔142、144により案内されつつ降下を開始し、先端開口2bがウェル11内の所定位置に達したところで停止して吐出する。以後、この作業が全ウェル11に吐出されるまで反復される。これにより、プローブ2を位置決め部材100から完全に抜去しなくとも、次のウェル11に移動できるため、迅速に作業を行うことができる。また、プローブ2の作動の上下方向のストロークも短縮できるので、プローブ2の昇降機構も小型化することができる。なお、プローブ2の細形の部分すなわち先端部2bは、例えば約15mmの軸線方向の寸法を有する。また、プローブ2の下端の先端開口2aおよびその近傍の外周は試料が付着しているが、前述の隣接するウェル11’への移動時には、プローブ2の試料が付着している部分は、下方の板状部108と上方の板状部106との間に位置しているので、移動の際、位置決め部材100に付着して、位置決め部材100を汚染することはない。
【0043】
次に、図6を参照して、本発明の第2の実施形態の位置決め部材について説明する。図6は、第2の実施形態の位置決め部材200の要部をマイクロチップ10と共に示す部分断面図である。なお、説明にあたり、第1の実施形態と同じ部品については、同一参照番号を使用して説明する。図6の位置決め部材200は、マイクロチップ10と係合してマイクロチップ10を位置決めした状態を示す。位置決め部材200は、マイクロチップ10の複数のウェル11を収容する下向きの矩形の凹部202を有する。凹部202と位置決め部材200の上面204との間の壁部(板状部)206には、位置決めされたマイクロチップ10のウェル11の直上に対応して位置する複数の貫通したガイド孔208が形成されている。また位置決め部材200の下面210には、マイクロチップ10の貫通孔16a、切欠18aとそれぞれ係合するピン(係合部)212、214を有する。
【0044】
ピン212、214は、それぞれ下方に小径の先端部220、222が突出した円柱状の基部216、218を有する。各先端部220、222は、基部216、218と同軸であり、それらの下端部が、略円錐状のテーパ面220a、222aとなっているのは、第1の実施形態と同様である。図6は、プローブ2がガイド孔208に挿入された状態を示しており、矢印X、Yは、プローブ2の移動可能な方向を示す。第二の実施形態ではガイド孔208が形成された板状部すなわち壁部206は一つであり、下方の板状部が省略されている。この構成の場合は、位置決め部材200の厚みを薄くでき、簡単な構成とも相俟って一層安価なものとすることができる。
【0045】
また、図6に示されるように、プローブ2がガイド孔208を通過してウェル11内の所定の位置まで挿入されたとき、プローブ2には、位置決め部材200の上面204に当接するリング状のストッパ部材3が取付けられていても良い。これにより、プローブ2の上下方向の位置決めが確実なものとなり、プローブ2とマイクロチップ10との接触が確実に回避される。
【0046】
また、各ガイド孔142、144、208の内周には、プローブ2を案内するためのガイドとなるテーパが形成された案内面224を設けてもよい。この場合はプローブ2に絞りテーパ部がない場合でも円滑に案内される。また各ガイド孔142、144、208の内周面に、自己潤滑性の素材、例えばテフロン(登録商標)等をコーティングして、プローブ2を一層円滑に案内するように構成してもよい。テフロン(登録商標)等のコーティングは、案内面224を設けないガイド孔142、144、208に行ってももちろんよい。また、自己潤滑性の材料としては、ニッケルテフロン(登録商標)めっきでもよい。
【0047】
以上、本発明の実施形態について詳細に説明したが、上記実施形態に限定されるのもではなく、種々の変形、変更が可能であることはいうまでもない。例えば、ピン120、122、212、214は、位置決め部材100、200の本体と同一の材料から一体に形成されてもよい。この場合、位置決め精度は一層向上する。
【0048】
また、本実施形態においてピンの数は2個であったが、他の追加のピンによりマイクロチップ10の平面度の精度を出すために用いてもよい。すなわち、マイクロチップ10が所定の平面内に位置するように、平面度のブレを押えるように使用してもよい。この場合。マイクロチップが大型の場合に特にその効果が大きい。
【産業上の利用可能性】
【0049】
本発明のマイクロチップの位置決め装置は、尿や血液等の被検液をマイクロチップ内のマイクロ流路内で電気泳動させてそれらの成分を分析する臨床分析装置に適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0050】
【図1】本発明の位置決め部材が適用される分注装置の構成図
【図2】第一の実施形態の位置決め部材の要部とマイクロチップとを斜め上方から見た要部斜視図
【図3】第一の実施形態の位置決め部材の要部とマイクロチップとを斜め下方から見た要部斜視図
【図4】マイクロチップの複数のウェルのうち任意の一個のウェルの断面図
【図5】マイクロチップ、第一の実施形態の位置決め部材およびプローブを部分的に示す正面図
【図6】本発明の第2の実施形態の位置決め部材の要部をマイクロチップと共に示す部分断面図
【符号の説明】
【0051】
2 プローブ
10 マイクロチップ
11、11’ ウェル
13a マイクロ流路
14a 底部
16a 貫通孔(被係合部)
18a 切欠(被係合部)
100、200 位置決め部材
106、108、206 板状部
120、122、212、214 ピン(係合部)
130a、138a、220a、222a テーパ面
142、144、208 ガイド孔
146 スロット
224 案内面
F 液体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内部に液体を収容可能な複数のウェルを備え、該ウェルの底部と連通するマイクロ流路が内部に形成された略板状のマイクロチップに、プローブにより前記ウェル内に前記液体を吐出する際に前記マイクロチップの位置決めを行う位置決め部材であって、
該位置決め部材が、前記マイクロチップの上方に位置する、複数のガイド孔を有する本体と、該本体と一体となった、前記マイクロチップの位置決め用の被係合部と所定の位置関係で係合する係合部とを備え、係合時に前記各ガイド孔が前記マイクロチップの対応する前記各ウェルの直上に位置するとともに、前記プローブの挿入を案内するよう構成されていることを特徴とするマイクロチップの位置決め部材。
【請求項2】
前記係合部が、前記マイクロチップの平面方向に離隔して該マイクロチップに形成された少なくとも2箇所の雌部からなる被係合部に係入する突起であることを特徴とする請求項1記載のマイクロチップの位置決め部材。
【請求項3】
前記ガイド孔の内面に、前記プローブを案内する案内面が形成されていることを特徴とする請求項1または2記載のマイクロチップの位置決め部材。
【請求項4】
前記ガイド孔の内面に自己潤滑性の材料がコーティングされていることを特徴とする請求項1から3いずれか一項記載のマイクロチップの位置決め部材。
【請求項5】
前記本体が前記プローブの軸線方向に離隔する少なくとも2枚の板状部を有し、該板状部の各々に前記ガイド孔が前記プローブの軸線方向に整列して形成されていることを特徴とする請求項1記載のマイクロチップの位置決め部材。
【請求項6】
前記2枚の板状部のうち上方の板状部に形成された複数のガイド孔が、前記プローブの水平な一方向の移動を可能とする幅のスロットにより互いに連通していることを特徴とする請求項5記載のマイクロチップの位置決め部材。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2008−241500(P2008−241500A)
【公開日】平成20年10月9日(2008.10.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−83432(P2007−83432)
【出願日】平成19年3月28日(2007.3.28)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】