説明

マイクロニードル製造方法およびマイクロニードル

【課題】マイクロニードルの先端形状の設計自由度が高いマイクロニードル製造方法を提供することを目的とする。
【解決手段】本発明は、線状に配列された残存構造体の先端部を研削加工を用いて線方向に連続して研削することにより、列毎に各単位ニードルの先端部を加工でき、同一列内の単位ニードル同士において、先端部の傾斜角を精度良く揃えることが出来る。また、残存構造体の先端部を研削加工するにあたり、研削加工の研削刃と残存構造体とが接する角度を制御することで、製造されるマイクロニードルの先端形状における先鋭度を制御することが出来、種々の先鋭度を有するマイクロニードルを作り分けることが出来る。よって、マイクロニードルの先端形状の設計自由度を高めることが出来る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マイクロニードル製造方法および該マイクロニードル製造方法から好適に製造されるマイクロニードルに関する。
【背景技術】
【0002】
皮膚上から薬剤などの送達物を浸透させ体内に送達物を投与する方法である経皮吸収法は、人体に痛みを与えることなく簡便に送達物を投与することが出来る方法として用いられている。
【0003】
経皮投与の分野において、μmオーダーの針が形成された針状体を用いて皮膚を穿孔し、皮膚内に薬剤などを投与する方法が提案されている(特許文献1参照)。
【0004】
また、針状体を構成する材料としては、仮に破損した針状体が体内に残留した場合でも、人体に悪影響を及ぼさない材料であることが望ましく、このような材料としてはキチン・キトサン等の生体適合材料が提案されている(特許文献2参照)。
【0005】
また、針状体の製造方法として、機械加工を用いて原版を作成し、該原版から転写版を形成し、該転写版を用いた転写加工成型を行なうことが提案されている(特許文献3参照)。
【0006】
また、針状体の製造方法として、エッチング法を用いて原版を作成し、該原版から転写版を形成し、該転写版を用いた転写加工成型を行なうことが提案されている(特許文献4参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開昭48−93192号公報
【特許文献2】国際公開第2008/020632号パンフレット
【特許文献3】国際公開第2008/013282号パンフレット
【特許文献4】国際公開第2008/004597号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上述したようなマイクロニードルでは、用いる対象、用いる用途など応じて、マイクロニードルの穿刺状態を制御することが望まれている。このため、マイクロニードルの先端形状を適宜設計し、マイクロニードルの穿刺状態を制御することが検討されている。よって、マイクロニードルの先端形状の設計自由度が高いマイクロニードル製造方法が望まれている。
【0009】
そこで、本発明は、上述の問題を解決するためになされたものであり、マイクロニードルの先端形状の設計自由度が高いマイクロニードル製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の一実施形態は、研削加工を用いて基板に第1の方向に沿って互いに平行な複数の第1の線状溝を形成する第1溝工程と、研削加工を用いて基板に第1の方向と交差する第2の方向に沿って互いに平行な複数の第2の線状溝を形成する第2溝工程と、前記第1の線状溝および前記第2の線状溝に囲われ線状に配列された残存構造体の先端部を、研削加工を用いて線方向に連続して研削する先端作製工程と、を備えることを特徴とするマイクロニードル製造方法である。
【0011】
また、上述のマイクロニードル製造方法にあって、前記残存構造体の先端部には前記基板の水平面が残存していることが好ましい。
【0012】
また、上述のマイクロニードル製造方法にあって、前記基板は、未貫通孔または貫通孔を設けた基板であってもよい。
【0013】
また、上述のマイクロニードル製造方法にあって、前記研削加工は、ダイシングブレードを用いた研削加工であり、前記第1溝工程および第2溝工程におけるダイシングブレードと基板のなす角度と、前記先端作製工程におけるダイシングブレードと基板のなす角度と、が異なっていてもよい。
【0014】
また、上述のマイクロニードル製造方法にあって、前記研削加工は、傾斜面を有するダイシングブレードを用いた研削加工であり、前記第1溝工程および第2溝工程に用いるダイシングブレードの傾斜面の角度と、前記先端作製工程に用いるダイシングブレード傾斜面の角度と、が異なっていてもよい。
【0015】
また、上述のマイクロニードル製造方法により作製されたマイクロニードルを母型とし、前記母型から複製版を作製し、前記複製版からの転写によりマイクロニードルを製造してもよい。
【0016】
また、前記複製版からの転写のとき、生体適合性材料に転写を行ってもよい。
【0017】
また、前記複製版からの転写のとき、または、転写後に、前記マイクロニードルに未貫通孔または貫通孔を設ける工程を施してもよい。
【0018】
本発明の一実施形態は、基板と、前記基板に支持され、複数本が配列されたニードルと、を備え、前記ニードル間の溝は、複数方向の平行線の列が交差する形状であり、前記ニードルは、複数の側面がそれぞれ線で接合され、該側面と線で接合された先端面を有する形状であり、前記ニードルの先端面は、前記基板の水平面に対し、傾斜していることである。
【発明の効果】
【0019】
本発明は、線状に配列された残存構造体の先端部を研削加工を用いて線方向に連続して研削することにより、列毎にニードルの先端部を加工でき、同一列内のニードルにおいて、先端部の傾斜角を精度良く揃えることが出来る。また、残存構造体の先端部を研削加工するにあたり、研削加工の研削刃と残存構造体とが接する角度を制御することで、製造されるマイクロニードルの先端形状における先鋭度を制御することが出来、種々の先鋭度を有するマイクロニードルを作り分けることが出来る。よって、マイクロニードルの先端形状の設計自由度を高めることが出来る。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明のマイクロニードル製造方法の研削加工において用いられるダイシングブレードの一例を示す断面図である。
【図2】本発明のマイクロニードル製造方法の溝工程の一例を示す断面工程図である。
【図3】本発明のマイクロニードル製造方法における溝工程を行なった時点における断面図である。
【図4】本発明のマイクロニードル製造方法の溝工程の一例を示す断面工程図である。
【図5】本発明のマイクロニードル製造方法の溝工程の一例を示す断面工程図である。
【図6】本発明のマイクロニードル製造方法の溝工程の一例を示す断面工程図である。
【図7】本発明のマイクロニードル製造方法の先端作製工程の一例を示す断面工程図である。
【図8】本発明のマイクロニードルの一例を示す概略図である。
【図9】本発明のマイクロニードル製造方法における溝工程を行なった時点における断面図である。
【図10】本発明のマイクロニードル製造方法における溝工程を行なった時点における断面図である。
【図11】本発明のマイクロニードル製造方法における溝工程を行なった時点における断面図である。
【図12】本発明のマイクロニードル製造方法における溝工程を行なった時点における断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明のマイクロニードルの製造方法では、研削加工を用いて、基板を加工し、マイクロニードルを製造する。ここで、「研削加工」とは、高速で回転する研削工具を用いて、該砥石を構成するきわめて硬く微細な砥粒によって加工物を削り取ってゆく加工法をいう。例えば、研削工具として、ダイシングブレードを用いてもよい。
【0022】
本発明における研削加工は、高速で回転するスピンドルの先端に取り付けられたダイシングブレードによって、被加工基板に線状溝を加工してもよい。ダイシングブレードは、円盤状の支持体の外周部に形成される。ダイシングブレードの材質は高い硬度を有することが望ましく、一般にダイヤモンド砥粒を用いることが多い。本発明においても、円盤状の支持体の外周部全面にダイヤモンド砥粒を含むダイシングブレードが形成された、ダイヤモンドホイールを用いてもよい。ダイヤモンドホイールは、半導体産業における基板の断裁工程で広く用いられており、安価で入手が容易な部材である。
【0023】
図1に、本発明のマイクロニードル製造方法において、研削加工を行なうにあたり使用されるダイシングブレード先端の部分断面図の一例を示す。
図1(a)に示すダイシングブレード11の断面形状は、側面4と先端部5が90度の角を成して交わり、頂点6を形成する。
図1(b)に示すダイシングブレード11の断面形状は、側面4と先端部5と、これらの間に形成された傾斜面7を有する。
図1(c)に示すダイシングブレードの断面形状は、対向する側面4同士の間に、傾斜面7を有する。
【0024】
以下、本発明におけるマイクロニードル製造方法について具体的に一例を挙げながら、説明を行なう。
【0025】
<基板に第1の線状溝を設ける第1溝工程>
まず、図2(a)に示す通り、基板1を準備する。
【0026】
基板1の材質は特に制限されず、加工適正や、材料の入手容易性などから材質を選択することが望ましい。具体的には、アルミナ、窒化アルミニウム、マシナブルセラミックスなどのセラミックス;シリコン、シリコンカーバイト、石英などの結晶材料;アクリル、ポリアセタールなどの有機材料;ニッケル、アルミニウムなどの金属材料;ガラスなどが挙げられる。
【0027】
次に、図2(b)に示す通り、ダイシングブレード11を回転させながら基板1の表面をダイシング加工し、所定の長さだけ第1の線状溝を形成する。このとき、第1の線状溝は直線状に形成するのに限定されず、曲線状に形成してもよい。曲線状に第1の線状溝を設けた場合、底面が曲線で閉じられた多角形の形状であるマイクロニードルを製造することが可能となる。また、ダイシングブレードの材質、形状、回転数、研削速度などの研削条件は特に制限されず、ダイシングブレード11および基板1の材質を考慮したうえで、加工性に優れた条件に最適化することが望ましい。
【0028】
上記ダイシング加工によって、図2(c)に示す通り、第1の線状溝21が形成される。第1の線状溝21の側面の傾きは、このとき、ダイシングブレードの先端に形成された傾斜面の傾きに一致する。
【0029】
次に、前述した第1の線状溝21と交わらず平行となるように隣接する第1の線状溝22を形成する。隣接する第1の線状溝は1つ以上形成する。
図2(d)に示すように、ダイシングブレード11によって、第1の線状溝21の隣に第1の線状溝22を加工する。第1の線状溝22は第1の線状溝21に対して、平行に形成する。これにより、図2(e)に示す通り、隣接する第1の線状溝22が形成され、第1の線状溝21と第1の線状溝22の間に構造体2が形成される。
【0030】
構造体2の高さは、ダイシング加工深さ、ダイシングブレード11の先端傾斜面7の角度、および第1の線状溝21と第1の線状溝22の重なり距離によって決定する。
【0031】
次に、第1の線状溝22を形成したのと同様に順次溝を形成していき、図2(f)に示す通り、構造体2を所望の数だけ形成して、ほぼ三角断面形状を有する構造体2が表面に形成された基板3を得る。このとき、形成する構造体2の数により、製造されるアレイ状に配列されたマイクロニードルの列数が決定する。
【0032】
図3に示すように、側面と底面とが交わる角度Aよりも、補助平面と底面とが交わる角度Bが、小さい角度となるような少なくとも1つの補助平面を形成することで、穿刺時にマイクロニードル基底部に集中する応力を緩和することができる。この場合、補助平面の作製のために、線上溝を形成するにあたり、複数のダイシングブレードを用いてもよい。
【0033】
<第2の線状溝を設ける第2溝工程>
次に、前記第1の線状溝と交差するように複数の第2の線状溝を設ける。このとき、第1の線状溝21および第1の線状溝22を設けた溝形成基板3を回転させることで、第1の線状溝21および第1の線状溝22を設けた条件と同等に、複数の第2の線状溝を形成することができる。上述の場合、複数の第1の線状溝と、複数の第2の線状溝との交差角度は溝形成基板3の回転角度と同等となる。
【0034】
また、さらに、第2の線状溝を設ける工程を複数回行っても良い。この工程の施工回数および溝同士が交差する角度を制御することにより、多様な底面の形状を有する錐状もしくは柱状の構造体を加工溝の間に形成することができる。
【0035】
例えば、複数の線状溝を設ける工程を行い、2方向のダイシング加工をそれぞれ60度ずらして実施する場合、底面がひし形である四角錐形状が得られる。このとき、ひし形の頂角は、対向する頂点が60度および120度になる。
【0036】
また、第1の線状溝および第2の線状溝を形成するにあたり、一本の線状溝に対し、基板面に対して水平方向に移動した研削加工を複数回行ってもよい。基板面に対して水平方向に移動した研削加工を複数回行うことにより、線状溝同士の間隔を研削加工の回数により制御することが出来るため、製造されるマイクロニードル間のピッチ幅を制御することが出来る。
【0037】
例えば、水平方向に複数回研削し、線状溝を形成する場合の具体的な実施の一例を、図4に示す。
まず、基板1を用意する(図4(a))。
次に、ダイシングブレード11で研削し、第1の線状溝21に囲われた構造体2を形成する(図4(b))。
次に、研削位置をずらし、ダイシングブレード12で再度の研削を行う(図4(c))。図4(c)において、研削を行なうダイシングブレード12は、図4(b)で用いたダイシングブレード11と同様のものでもよいし、異なるものを用いても良い。
次に、基板1からダイシングブレード12を遠ざけ、溝形成基板3を得る(図4(d))。
以上より、溝形成基板3に形成された第1の線状溝22の幅は、図4(b)で形成された第1の線状溝21とは異なるものとすることが出来た。
【0038】
例えば、第1の線状溝と第2の線状溝を相互に相前後して形成する場合の具体的な実施の一例として、図5を示す。図5は第1の線状溝Aを1〜n列(以下、それぞれ、A1〜An(n=2、3、・・・))、第2の線状溝Bを1〜n行(以下、それぞれ、B1〜Bn(n=2、3、・・・))、形成し、第1の線状溝Aと第2の線状溝Bが互いに90度で交差し、(n−1)行×(n−1)列のマイクロニードルを形成する場合の一例である。このとき、第1の線状溝Aと第2の線状溝Bとを相互に相前後して形成するには、1)Anの次にAn+1またはAn−1を形成することを禁止し、かつ、2)Bnの次にBn+1またはBn−1を形成することを禁止すれば良い。例えば、A1、B1、A2、B2、・・・といった順に加工したり、A1、A3、B1、B3、A2、A4、B2、B4、・・・といった順に加工したりしてよい。
【0039】
また、溝加工においては図6に示すように、基板に(図6(a))、ダイシングブレード16で一段目の溝を形成し(図6(b))、ダイシングブレード17で一段目の溝をなぞるように再度加工し(図6(c))、二段目の溝を形成してもよい。このように、例えば傾斜面が垂直なダイシングブレード17を用いて加工することにより、側面に垂直面を含み、高アスペクト比の構造体を製造することが可能となる。
【0040】
なお、第1の線状溝および第2の線状溝を形成するにあたり、図1(a)に示したような側面に傾斜を持たないダイシングブレードを用いても良い。
【0041】
<先端作製工程>
次に、図7に示すように、前記第1の線状溝および第2の線状溝により囲われた残存構造体71の先端部をダイシングブレード13によって削り落とす。このとき、研削方向は特に限定されず、設計に応じて任意の方向に研削加工を施してよい。好ましくは、第1の線上溝および第二の線上溝とは異なる方向であって、このように選択することでより鋭利な端点を有する形状に加工できる。なお、ここでの先端部とは、ダイシングブレードの先端5によって形成された加工部の底面からわずかながらでも上部に位置する部位を示すものをいう。
【0042】
また、削り落としの位置および加工深さは任意に選択して良く、これにより作製される削り出し面の形状を任意に設計し形成することができる。また、削り落としの工程において、前記第1の線状溝および第2の線状溝を形成する際に用いたダイシングブレードと異なるブレードを用いても良い。特に図1(c)のようにダイシングブレードの先端部5が極めて小さいブレードを用いることで、加工を意図しない領域へのブレード干渉を低減することが可能である。
【0043】
また、残存構造体71の先端部は基板の水平面が残存していることが好ましい。残存構造体71の先端が平坦であることにより、残存構造体71自体の機械的強度が増し、先端作製工程における研削加工時に、ダイシングブレードから与えられる負荷により、残存構造体71が研削される部位外から破損することを抑制することが出来る。
【0044】
また、先端作製工程において、研削加工の研削刃と残存構造体とが接する角度を制御するにあたり、前記第1溝工程および第2溝工程におけるダイシングブレードと基板のなす角度と、前記先端作製工程におけるダイシングブレードと基板のなす角度と、が異ならせてもよい。このとき、同一のダイシングブレードを用いて、傾斜した先端面を形成することが出来る。
【0045】
また、先端作製工程において、研削加工の研削刃と残存構造体とが接する角度を制御するにあたり、前記研削加工は、傾斜面を有するダイシングブレードを用いた研削加工であり、前記第1溝工程および第2溝工程に用いるダイシングブレードの傾斜面の角度と、前記先端作製工程に用いるダイシングブレード傾斜面の角度と、を異ならせてもよい。このとき、用いるダイシングブレードを適宜選択することで、種々の傾斜角度を備えたマイクロニードルを製造することが出来る。
【0046】
また、第1溝工程と第2溝工程と先端作製工程とは、相互に相前後して行っても良い。加工工程を相互に相前後して形成することにより、アスペクト比や非対称性に由来する機械的強度の不足によって生じてしまう構造体および残存構造体の破損を抑制もしくは低減することが出来、マイクロニードルの形状精度(特に、マイクロニードル先端部の形状精度)に優れたマイクロニードルを製造することが出来る。
【0047】
以上より、ダイシングブレードの断面形状、ダイシング工程の施工回数、溝同士が交差する角度の制御、および、削り落とし工程の加工条件を制御することにより、様々な形状を成した錐状のマイクロニードルを形成することができる。また、線状に研削加工を行なうことで、列毎にマイクロニードルを作製することができるため、特に、アレイ状に配列されたマイクロニードルを製造する場合、一括で形成することが可能となる。
【0048】
本発明のマイクロニードル製造方法によれば、特異に、基板と、前記基板に支持され、複数本が配列されたニードルと、を備え、前記ニードル間の溝は、複数方向の平行線の列が交差する形状であり、前記ニードルは、複数の側面がそれぞれ線で接合され、該側面と線で接合された先端面を有する形状であり、前記ニードルの先端面は、前記基板の水平面に対し、傾斜していることを特徴とするマイクロニードルを製造することが出来る。
本発明のマイクロニードル製造方法を用いて製造されたマイクロニードルの形状の具体例を図8に示す。図8(a)は、マイクロニードルの傾斜した先端面に対し水平に観察した側面図であり、図8(b)は、マイクロニードルの傾斜した先端面に対向する方向から観察した正面図である。
【0049】
<未貫通孔または貫通孔を設けたマイクロニードルを製造する場合>
未貫通孔または貫通孔を設けた基板に対し、第1溝工程、第2溝工程、先端作製工程の研削加工を行なうことにより、未貫通孔または貫通孔を設けたマイクロニードルを製造することが出来る。このとき、研削加工に位置により、(1)ニードル部位に未貫通孔または貫通孔を設けたマイクロニードル、(2)ニードル間の基板部位に未貫通孔または貫通孔を設けたマイクロニードル、を作り分けることが出来る。
【0050】
例えば、図9に示すように、貫通された孔26を有する基板1を用意し(図9(a))、研削加工の傾斜面の部位が貫通孔26に位置するように加工することで、ニードル部位に貫通孔を備えた構造体2を形成することが出来る。
【0051】
例えば、図10に示すように、未貫通の孔26を有する基板1を用意し(図9(a))、孔26の塞がれた部位側から研削加工を行なうことにより、ニードル部位に貫通孔を備えた構造体2を形成することが出来る。
【0052】
例えば、図11に示すように、未貫通の孔26を有する基板1を用意し(図9(a))、孔26の開口側から研削加工を行なうことにより、ニードル部位に未貫通孔を備えた構造体2を形成することが出来る。
【0053】
例えば、図12に示すように、未貫通の孔26を有する基板1を用意し(図9(a))、孔26の開口側から、孔26の底部深さよりも加工深さが大きい研削加工を行なうことにより、ニードル部位に未貫通孔を備えた構造体2を形成することが出来る。
【0054】
<マイクロニードルの転写加工成形>
また、上述のマイクロニードル製造方法により作製されたマイクロニードルを母型とし、前記母型から複製版を作製し、前記複製版からの転写によりマイクロニードルを製造してもよい。これにより、様々な材料に製造されたマイクロニードルの形状を転写することができる。このため、例えば、生体適合材料(医療用シリコーン樹脂や、ポリビニルアルコール、ポリ乳酸、デキストラン、ポリカーボネート等)に転写することで、生体に低負荷の材料を用いたマイクロニードルを製造することが可能となる。また、機械的強度の高い複製版を作製することにより、同一の複製版で多量のマイクロニードルを製造することができるため、生産コストを低くし、生産性を高めることが可能となる。
【0055】
また、上記転写のとき、または、転写後に、前記マイクロニードルに未貫通孔または貫通孔を設ける工程を施すことにより、未貫通孔または貫通孔を設けたマイクロニードルを製造することが出来る。
【実施例】
【0056】
<実施例1>
まず、図2(a)に示す通り、一辺が30mmの正方形で、厚さ3mmのカーボン板である基板1を準備した。
【0057】
次に、図2(b)に示す通り、ダイシングブレード11を回転させながら基板1の表面を深さ300μmとなるようにダイシング加工し、長さ30mmの溝を形成した。
このとき、ダイシングブレード11はダイヤモンド砥粒を含有した傾斜面7を有するダイシングブレードであり、ダイシングブレードの傾斜面の傾きは160度とした(図1(b)参照)。
【0058】
次に、図2(c)に示す通り、ダイシングブレード11を基板1から離し、第1の線状溝21を形成した。第1の線状溝21の開口上部の幅は約418μm、深さは300μmとなった。第1の線状溝21の側面の傾きは、ダイシングブレード11の先端に形成された傾斜面7の傾きに対応し、本実施例では基板1の表面と第1の線状溝21の側面との成す角度は110度となった。
【0059】
次に、図2(d)に示す通り、隣接する第1の線状溝22を基板1の表面に加工する工程を実施した。
【0060】
次に、図2(e)に示す通り、ダイシングブレード11を基板1から離し、隣接する第1の線状溝22を形成した。第1の線上溝21および隣接する第1の線状溝22により、生じる構造体2の高さは、ダイシング加工深さ、ダイシングブレード11の先端傾斜面7の角度、および第1の溝21と第2の溝22の重なり距離によって決定する。本実施例における構造体2の高さは約162μm、根元の幅は約118μmとなった。
【0061】
次に、図2(f)に示す通り、第1の線状溝22を形成したのと同様に順次溝を形成していき、構造体2を所望の数だけ形成して、三角断面形状を有する構造体2が表面に形成された溝形成基板3を得た。本実施例においては、合計6本の溝を作製した。6本の溝形成によって、5本の構造体2が形成された。図3に示す通り、構造体2の断面形状は、ダイシングブレードの先端に形成された傾斜面7の傾きに一致する側壁傾斜を有し、ダイシングブレードの傾斜面7に応じた平坦性となった。
【0062】
次に、前記6本の溝形成工程によって5本形成された構造体2が表面に形成された溝形成基板3を90度回転し、前記の溝形成工程と同じ条件でダイシング加工を実施した。これにより、第2の線状溝が合わせて5本形成され、その結果研削されずに残る部分が、アレイ状の正四角錐となり、基板上にアレイ状の配列された残存構造体が得られた。本実施例においては、5列5行のアレイ状に並んだ25本の残存構造体が得られた。このとき得られた残存構造体は四角錐であり、先端角が40度、高さが約162μm、底面の一辺の幅が118μmとなった。
【0063】
次に、前記構残存構造体の先端部を削り落とす工程を行った。研削方法として、130度の傾斜面を持つダイシングブレードを用意し、溝形成基板3を45度回転させた方向から研削を行った。このとき、構残存構造体の頂点から底面13までの距離が150μmとなるように切り込みの深さを調節した。これにより、先端部に130度の斜面を有し、高さ150μm、底面の一辺の幅が118μmとなるマイクロニードルを得た。
【0064】
<実施例2>
実施例1で得られたマイクロニードルを母型とし、前記母型から複製版を作製し、前記複製版からの転写加工成形を行った。
【0065】
まず、メッキ法によって、マイクロニードルの表面にニッケル膜を600μm形成した。
【0066】
次に、前記ニッケル膜をマイクロニードルから剥離し、複製版を作製した。
【0067】
次に、インプリント法によって、ポリプロピレンに前記複製版を転写し、ポリプロピレンから成るマイクロニードルを得た。
【産業上の利用可能性】
【0068】
本発明のマイクロニードルの製造方法は、医療のみならず、マイクロニードルを必要とする様々な分野に適用可能であり、例えばMEMSデバイス、創薬、化粧品などに用いるマイクロニードルの製造方法としても有用である。
【符号の説明】
【0069】
11、12、13、16、17……ダイシングブレード
4……側面
5……先端部
6……頂点
7……傾斜面
1……基板
2……構造体
21、22……第1の線状溝
26……孔
3……溝形成基板
71……残存構造体
81……マイクロニードル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
研削加工を用いて基板に第1の方向に沿って互いに平行な複数の第1の線状溝を形成する第1溝工程と、
研削加工を用いて基板に第1の方向と交差する第2の方向に沿って互いに平行な複数の第2の線状溝を形成する第2溝工程と、
前記第1の線状溝および前記第2の線状溝に囲われ線状に配列された残存構造体の先端部を、研削加工を用いて線方向に連続して研削する先端作製工程と、
を備えることを特徴とするマイクロニードル製造方法。
【請求項2】
前記残存構造体の先端部には前記基板の水平面が残存していること
を特徴とする請求項1に記載のマイクロニードル製造方法。
【請求項3】
前記基板は、未貫通孔または貫通孔を設けた基板であること
を特徴とする請求項1または2のいずれかに記載のマイクロニードル製造方法。
【請求項4】
前記研削加工は、ダイシングブレードを用いた研削加工であり、
前記第1溝工程および第2溝工程におけるダイシングブレードと基板のなす角度と、前記先端作製工程におけるダイシングブレードと基板のなす角度と、が異なること
を特徴とする請求項1から3のいずれかに記載のマイクロニードル製造方法。
【請求項5】
前記研削加工は、傾斜面を有するダイシングブレードを用いた研削加工であり、
前記第1溝工程および第2溝工程に用いるダイシングブレードの傾斜面の角度と、前記先端作製工程に用いるダイシングブレード傾斜面の角度と、が異なること
を特徴とする請求項1から4のいずれかに記載のマイクロニードル製造方法。
【請求項6】
請求項1から5のいずれかに記載のマイクロニードル製造方法により作製されたマイクロニードルを母型とし、前記母型から複製版を作製し、前記複製版からの転写によりマイクロニードルを製造すること
を特徴とするマイクロニードル製造方法。
【請求項7】
前記複製版からの転写のとき、生体適合性材料に転写を行うこと
を特徴とする請求項6に記載のマイクロニードル製造方法。
【請求項8】
前記複製版からの転写のとき、または、転写後に、前記マイクロニードルに未貫通孔または貫通孔を設ける工程を施すこと
を特徴とする請求項6または7のいずれかに記載のマイクロニードルの製造方法。
【請求項9】
基板と、
前記基板に支持され、複数本が配列されたニードルと、を備え、
前記ニードル間の溝は、複数方向の平行線の列が交差する形状であり、
前記ニードルは、複数の側面がそれぞれ線で接合され、該側面と線で接合された先端面を有する形状であり、
前記ニードルの先端面は、前記基板の水平面に対し、傾斜していること
を特徴とするマイクロニードル。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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