マイクロバルブを用いて再設定可能な浮彫り表面を形成する方法
【課題】再使用可能な印刷を実現するための構成又は方法の実現。
【解決手段】再使用可能なマスタ印刷プレートを用いるものであり、電場を用いて一連のマイクロバルブを制御する。マイクロバルブは、柔軟性印刷表面の選択された領域を凸又は凹みにする流体の流れを制御して、所望の浮彫りパターンを形成する。浮彫りパターンを形成した後、パターンは固定され印刷に使用される。印刷の完了後、浮彫りパターンはマスタ印刷プレートから取り除かれ、印刷プレートは、新しいパターンを適用することにより再使用できる。
【解決手段】再使用可能なマスタ印刷プレートを用いるものであり、電場を用いて一連のマイクロバルブを制御する。マイクロバルブは、柔軟性印刷表面の選択された領域を凸又は凹みにする流体の流れを制御して、所望の浮彫りパターンを形成する。浮彫りパターンを形成した後、パターンは固定され印刷に使用される。印刷の完了後、浮彫りパターンはマスタ印刷プレートから取り除かれ、印刷プレートは、新しいパターンを適用することにより再使用できる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
再使用可能な印刷構成、方法に関する。
【背景技術】
【0002】
フレキソ印刷は、柔軟性のゴム状の材料から成る浮彫り(レリーフ:relief)マスタプレートを像の源として用いる回転接触浮彫り印刷方法である。フレキソ印刷は、他の印刷技術に比べて、いくつかの利点を提供し、これらの利点は、柔らかなマスタプレートによる良好な基体許容度、非常に高い速度(しばしば、毎分数百フィート(数十から数百メートル)の印刷物)、及び粘性顔料系インクと共に使用された場合の良好な品質などを含む。フレキソ印刷は、パッケージ材などを印刷するために広く使用されており、印刷市場において市場シェアを獲得し続けている。
【0003】
グラビア(沈み彫り)印刷は、印刷プレートなどの印刷表面がウェルなどの凹状領域を有する、凹形印刷方法である。表面は、インクを受け、ブレードが余剰のインクを除去し、これにより、ウェルのみがインクを保持する。高圧で加えられる接触圧が、印刷表面を印刷対象の基体(substrate)に対して押圧し、ウェル内のインクが印刷基体に転写される。典型的な印刷基体は、紙、透明シート、ホイル(foils)、プラスチックなどを含む。しかしながら、接触圧が高圧なため、一般的には、グラビア印刷処理は、紙又は比較的丈夫な基体に印刷する。
【0004】
【特許文献1】米国特許第6,234,079号明細書
【特許文献2】国際特許出願第WO2002051639号明細書
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
その速度及び高い品質に反して、フレキソ印刷及びグラビアは、低量の印刷には使用されておらず、これは、従来のマスタプレートのパターニングが、単一のプレートに何時間もかかるような、遅く、高価な処理であったためである。この結果、マスタプレートは高価なものである。一旦、像が形成されると、マスタプレートは、容易に像を再形成できず、また、再使用できない。よって、同一のコピーが長期に渡って必要とされない限り、マスタプレートを製造する費用を見合うものとすることができない。
【0006】
この問題を回避するために様々な技術が試されてきた。R.チャートコウ(R.Chertkow)による米国特許第6,234,079号は、再使用可能な印刷プレートを提案し、この印刷プレートは、静電、形状記憶合金、電磁、及び他の接触手段を含む、印刷表面を調整するための様々な技術を使用する。しかしながら、これらの技術の大半は、実施が困難である。例えば、コイルを用いる作動のために十分な磁場を発生させるためには、高い電流が必要である。更に、コイルは、製造が困難である。S.カプラン(S.Kaplan)によるデジタル印刷装置及び方法(Digital Printing Device and Method)の名称の国際特許出願第WO2002051639号は、膜の下で膨張又は気化する液体を局所的に加熱して浮彫り印刷表面を形成する、再使用可能な印刷プレートを提案する。しかしながら、印刷画素位置に対応する加熱素子のアレイを有する印刷プレートを製造し、各加熱素子がカプランにより提案されるように液体を膨張又は気化させるようにすることは、費用がかかる。各画素付近の液体の局在化された加熱のための代替方法、例えば、高出力レーザ源を使用するものなどもまた、高価であり、これにより、このような装置の市場規模が制限される。
【0007】
よって、デジタル凹形又は浮彫り印刷に使用するために印刷プレートを形成又は作動させる向上した方法が必要とされる。
【課題を解決するための手段】
【0008】
凹形又は浮彫り印刷のための再使用可能な印刷プレートが説明される。プレートは、選択された位置で凹凸を付け(作動し)て全体的な印刷対象像パターンを形成できる柔軟性の印刷表面を有する。プレートはまた、電場パターンを印加することにより開閉が制御可能である、複数の流路を含む中間層を有する。加圧可能/減圧可能な流体が中間層の下に位置する。流体は、中間層内の開いた流路を通り流れ、柔軟性印刷表面に浮彫りパターンを構成する。構成されたパターンは、中間層の開いた流路のパターンとおおよそ一致する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
浮彫り又は凹形印刷システムにおける使用のための再使用可能な印刷プレートを形成及びパターニングする向上した方法及び装置が説明される。ここで用いられる場合、「浮彫り印刷システム」は、印刷プレート上の3次元パターンによる何らかの画像形成装置を広く意味し、3次元浮彫りパターンの凸の部分が材料(典型的にはインク)によって被覆され、その後、印刷対象表面に転写される。ここで用いられる場合、「凹形印刷システム」は、印刷プレート上の3次元浮彫りパターンによる何らかの画像形成装置を広く意味し、3次元パターンの凹みの部分が材料(典型的にはインク)により充填され、その後、印刷対象表面に転写される。ここで用いられる場合、「浮彫りパターン」とは、凹形又は浮彫り印刷システムに使用できる、印刷プレートの表面上の何らかの3次元パターンを広く意味する。
【0010】
図1Aは、高速フレキソ印刷浮彫り印刷システム100の例を示す。図1Aにおいて、チャンバ化されたドクタブレードユニット108を含むインク供給ユニット104が、アニロックスローラ112にインクを供給する。印刷システム100は、柔軟性マスタ印刷プレート120をプレートシリンダ124の周りに巻いて有する。プレートシリンダ124が矢印128によって示される方向に回転するに従って、柔軟性マスタ印刷プレート120の凸表面は、アニロックスローラ112からインクを受け、柔軟性マスタ印刷プレートが、インクを印刷表面132に転写する。印刷表面132上に印刷された結果得られたパターンは、柔軟性マスタ印刷プレートの凸パターンと一致する。硬い刷り(impression:印刷)シリンダ136が、印刷表面132を回転させる回転力とインクの転写に必要な接触力とを供給する。
【0011】
印刷プレート120上の浮彫りパターンは、異なる像を印刷するために変更される。1つの実施形態では、浮彫りパターンの変更は、柔軟性表面の選択された領域を作動させることにより行われる。ここで用いられる場合、「作動させる」とは、柔軟性表面の選択された領域に凹凸を与える動作を広く意味する。
【0012】
代替実施形態においては、凹形印刷を使用することもできる。図1Bから図1Eは、凹部印刷処理を示す。図1Bにおいて、印刷プレート150は、インクを受ける複数の凹部154を含む。図1Cにおいて、インクローラ158は、インク162を印刷プレート150上に堆積させ、凹部154を充填する。図1Dにおいて、ドクタブレード166又は他の除去システムが使用され、凸部(又は凹んでいない)領域から余剰のインクが除去される。図1Eにおいて、硬い刷りローラ170が、印刷対象の基体、典型的には、紙174を印刷プレート150(図1C参照)に押圧する。紙174は凹部領域154からインクを受け取り、これにより、印刷プレート上の浮彫りパターンの凹部とおおよそ一致する像が紙上に形成される。
【0013】
浮彫り又は凹形印刷のいずれにおいても印刷プレートの領域を「作動」させる(ここでは、領域に凹凸を与える動作を広く意味する)ために様々な方法を用いることができる。印刷プレート領域を作動させるための1つの方法は、柔軟性表面下の流体の流れを制御する方法である。ここで用いられる場合、「流体」は、気体又は液体の状態の流れる材料を広く意味する。図2から図8に、複数のマイクロバルブを用いる流体の流れの制御を示す。図9から図13に、電気流動(ER)効果を用いて流体の流れを制御する代替構成及び方法を示す。
【0014】
図2に、通常は、マイクロバルブ204及び208のアレイを含むグリッド層200である、中間層を示す。各マイクロバルブは、「流路」を通る流体の流れを制御する。ここで用いられる場合、「流路」は、流体の流れを可能にする、ゲル材料上の何らかの細路、溝、トンネル、穴、又は他の特徴を広く意味する。ここで用いられる場合、「グリッド層」とは、この層を通る複数の流路を有する層構造を広く意味する。グリッド層を通る流路のパターンは均一であってもよいが、これは必須ではない。特に、グリッド層での流路の分布は、均一のアレイの形に調整されてもよく、又は他の規則的又はランダムの配置又はパターンに分布されてもよい。各バルブは、毛管穴212及び216(又は細孔)をゲル状の材料層220内に含む。ゲル状材料は、高い絶縁耐力(high dielectric strength)と、200kPaから100MPaの範囲の低い弾性係数とを有する。適切なゲル状材料の一例としては、ミシガン州ミッドランドのダウコーニング社によるダイエレクトリックゲル#3−4207又はゲル#3−4220(Dielectric Gel #3−4207 or Gel #3−4220 from Dow Corning of Midland,Michigan)などが挙げられる。
【0015】
毛管穴212及び216を形成するために、様々な方法を用いることができる。このような方法の一例として、鋳型を使用しゲル状材料220を成形する方法が挙げられる。図3に、Su−8フォトレジスト柱304及び308のアレイを含む鋳型の例を示す。柱は、ソフトリソグラフィ技術を用いて形成できる。各柱は典型的には5ミクロン(μm)から20ミクロンの直径で、約50ミクロンから約500ミクロンの高さを有する。ゲル状の材料は、柱の周りに成形され、これにより、成形物の取り出し(Su−8フォトレジストからのゲル材料の分離)において、複数の穴をゲル材料220に残す。
【0016】
図4に、グリッド層200上に結合された、印刷表面を含む柔軟性印刷層404を示す。典型的には、印刷層404は柔軟性のゴム状の材料であり、インクを引きつけ、流体の浸透を防ぐ。印刷層404の適切な材料の一例として、ミネソタ州セントポールの3M社によるVHB接着転写テープ(VHB adhesive transfer tapes from 3M Corporation of St.Paul,Minnesota)などの高結合エラストマなどがあげられる。
【0017】
図5A及び図5Bに、グリッド層200の下の流体層504及び505を示す。図5Aは、浮彫り印刷に使用される実施形態を示し、図5Bは、凹形印刷に適合された同様の構造を示す。典型的には、流体層504及び505は、作動流体を含む。作動流体の例としては、空気などの気体や不活性オイルなどの液体などが挙げられる。流体層504及び505は、液体又は気体受容器であってもよい。代替実施形態においては、流体層504及び505は、作動流体を含む多孔性又はスポンジ状の基体を含んでいてもよい。
【0018】
マイクロバルブ流路を通る又は図示する実施形態においては穴を通る流体の流れが、印刷層404の一部を作動させる。図5Aにおいては、開いた穴が、印刷層404の対応する領域512に凸を形成することにより、印刷層404を作動させる。特に、流体層504内の流体は、典型的には、大気圧よりも高い圧力にある。よって、選択穴が閉じた後、圧力が上げられ、これにより、穴508などの開いた穴を流体が通り上方向に流れ、印刷層404を押圧することを可能にする。圧力は、印刷層の対応する領域512に凸を形成するために十分に高い必要がある。
【0019】
図5Bに示す他の実施形態においては、開いた穴が、印刷層の対応する領域513に凹みを形成することにより、印刷層404を作動させる。図5Bにおいて、選択穴が閉じられた後、流体層505の圧力が大気圧よりも低い圧力に下げられる。減圧された流体は、静電的に閉じられていない、開いた穴509を通り流れる。この結果、印刷層の対応する領域513が作動され、印刷表面上に凹形の像パターンが形成される。作動させられた像パターンが、インク供給及び像転写の際に印刷プレート上に残り続けることを確実にするために、一定の、大気圧より低い圧力を流体層505内の流体に対して維持してもよい。この代わりに、均一の電荷を印加し、グリッド層の全ての穴を閉じて、流体を印刷層とグリッド層との間の作動させられた領域に、低い圧力で効率的に閉じこめてもよい。よって、マイクロバルブ穴の開閉により、印刷表面の作動が制御される。グリッド層200の各穴は、電荷パターンを用いて個々に指定できる。電荷パターンを生成する1つの方法としては、電子写真システムにおいて行われているような光受容器及びラスタ出力走査(ROS)システムを用いる方法がある。このようなシステムにおいては、レーザが用いられて、帯電したプレートの選択された部分を放電する。このようなシステムは、米国特許第4,687,317号、米国特許第5,019,837号、及び米国特許第5,404,202号に示されている。しかしながら、従来の電子写真システムにおいて行われているようにトナー粒子を引きつけることに代え、電荷パターンは、マイクロバルブ穴を閉じる電場を発生させる。穴の開口率(閉じた量)は、電荷により発生する電場の強度に対応する。強力な電場は、小さな開口を生じる。
【0020】
図6及び図7は、マイクロバルブが閉じられる状態を示す側断面図である。図6は、流路、この場合は穴柱604、を囲むゲル材料608を示す。ゲル材料608は、典型的には、柔らかな材料を硬化させる、特別なクラスのカプセル材料である。ゲルの硬度の例としては、50gから500gの範囲が挙げられる。典型的なゲル密度は、0.9g/ccから1.22g/ccの範囲である。ゲルは、液体の応力軽減及び「自己修復」特性の多くを有し、同時に、エラストマの次元的な安定性(寸法又は形状安定性:dimensional stability)を有する。
【0021】
ゲル自体は、様々な材料から作ることができるが、シリコーンが一般的な材料である。マイクロバルブの開閉は、高い電場を必要とするので、ゲルは、高い絶縁耐力を有する必要がある。1つの実施形態において、図7の電荷704及び712の結果、約100ミクロンから約200ミクロンの厚さのゲル層に対して300ボルトから600ボルト印加され、よって、ゲルは、この結果の高い電場に晒されても絶縁破壊されないことが必要である。200kPaから100MPaの低い弾性係数が、電場の不在時にゲルがその形状を維持することを助け、電場印加時に約10ミクロンから約40ミクロンの直径を有する穴柱604を閉じるために十分にゲルを圧縮する。適切な誘電性ゲルの例としては、ミシガン州ミッドランドのダウコーニング社によるダイエレクトリックゲル#3−4207及びゲル#3−4220(Dielectric Gel #3−4207 or Gel #3−4220 from Dow Corning of Midland,Michigan)が挙げられる。
【0022】
製造の前に、ダウコーニング社及び他の製造者は、典型的にはゲルを液体として提供し、エンドユーザがこれを組み立て、「硬化」させる。1つの実施形態においては、ゲルは、2つの部分の液体に設定され、又はそうでなければ混合時に硬化されてゲルを形成する。代替形式では、ゲルは、単一の液体から、熱又はUV線を用いて硬化することにより製造してもよい。硬化は、液体が図3の鋳型などの鋳型の周りに注がれた後で起きてもよく、これにより、その結果得られるゲルを、所望の形状にする。
【0023】
図7には、マイクロバルブ流路の開閉を制御するために、ゲル材料608の第1側708に正の電荷704が堆積又は近くに配置され、ゲル材料の反対側716に負の電荷712が堆積又は近くに配置されているものを示す。この結果生ずる電場が、ゲル材料604上に、圧縮力方向720に圧縮力を発生させる。圧縮力は、穴柱の入口及び出口開口部間の距離を少しだけ減らす。この処理において、圧縮力は、穴の側壁を曲げ、これにより、穴柱604を圧迫し、又はそうでなければ閉じる。
【0024】
図示する実施形態においては、電荷によりゲルに加えられる力は、穴柱604の側壁と平行な力方向720であり、この結果、穴の側壁は、力方向720とおおよそ垂直な方向724に曲がる。よって、力方向は、穴を閉じさせる壁の動きの方向と重なるベクトル成分を有さない。図示する例では、穴の閉動作は全て、圧縮により引き起こされる誘電体ゲルの広がりに起因する。しかしながら、垂直な柱以外の流路が使用される場合、力方向720のいくつかの成分が、側壁の動きに対して垂直でない場合もあり、この場合、流路の閉動作は、力方向720からの直接的な圧力により行われてもよい。
【0025】
図7は、ゲル材料上に直接配される電荷を示すが、電荷は、他の表面に与えられてもよいことを理解されたい。これらの他の表面は、印刷層404を含んでいてもよい。代替実施形態においては、典型的には金属から成る柔軟性電極を、各穴柱604の各入口近くに蒸着(deposit)し、ゲル入口近くにおける電荷の配置(deposition)及び蓄積(accumulation)を容易にしてもよい。電極が使用される場合、電極は、隣接した電極から電気的に隔離されている必要があり、これにより、各穴柱(又は、「画素」が穴柱の一群を含む場合には、穴柱の一群)の個々の指定及び開閉を可能にする。電荷がどのように印加され維持されるかに関わらず、最も重要な基準は、電荷が、ゲルに対する、穴を圧迫又は閉じるための局在化した最終的な圧縮力を発生させることである。
【0026】
適切な穴が閉じられた後、流体層504には圧力が加えられる(図5A参照)。加圧された流体は、静電的に閉じられなかった、開いた穴508を通り流れる。加圧された流体は、印刷層の対応する領域512を作動させ、凸像パターンを印刷表面に形成する。インク供給及び像転写の際に、作動させられた像パターンが印刷プレート上に維持され続けることを確実にするために、流体層504の流体に対して一定の圧力を維持してもよい。この代わりに、均一の電荷を印加し、グリッド層の全ての穴を閉じて、印刷層とグリッド層との間の作動領域内に流体を効率的に閉じこめてもよい。
【0027】
図5A及び図5Bは、グリッド穴ごとに1つのバンプ(bump:出っ張り)又はウェル(くぼみ)を示し、グリッド穴ごとに1つの画素の対応を示唆するが、画素はこれに制限されないことを理解されたい。図8に、複数の穴804(又はマイクロバルブ)により各印刷素子を指定することを可能にすることによる、2次元構造の一例を示す。
【0028】
1回の印刷が完了すると、浮彫りパターンは「消去」してもよい。浮彫りパターンを消去するために、基体を放電してもよい。帯電した表面全体を放電する1つの方法は、電子写真で行われているように光を用いる。他の方法は、マスタプレートを放電する導電性のアースプレートとの物理的な接触などが挙げられる。
【0029】
電荷を除去することにより、ゲル層の電場を取り除く。電場が存在しなければ、ゲル上の圧縮力は緩和され、穴(又はマイクロバルブ)が再度開く。印刷表面パターンを、印刷表面とゲル200の間に含まれた、全ての印刷画素に含まれる流体量をリセットすることにより消去するためには、流体層504又は層505の流体圧が、典型的には、大気圧近くにまで変更される(又は、図5Aに示すようなバンプが形成される実施形態においては、大気圧よりも少し低い圧力にまで変更され、少しの真空を発生させる、又は、図5Bに示すような凹みを用いる凹形印刷においては、大気圧よりも少し高い圧力に変更される)。エラストマ印刷層の内部応力は、流体層と外部の大気圧との小さな圧力差により補助されることもあり、流体を、開いた穴を通って再度押して流し、これにより、浮彫りパターンが「消去」される。そして、印刷プレートは、新しい電荷分布を受けて、印刷表面に新しい浮彫りパターンを生じることができる。
【0030】
上述では、穴又はマイクロバルブの開閉を説明したが、マイクロバルブは、完全に開いたり閉じたりしなくてもよい。いくつかの実施形態においては、マイクロバルブの穴が部分的のみに閉じられ、「漏れ穴のあるマイクロバルブ」を形成する「ハーフトーン」処理が可能である。例えば、穴を完全に閉じる「閉じ電圧」が600ボルトである場合、600ボルトよりも低い電圧を印加することによりグレートーンを達成できる。低い電圧は、穴又は開口の大きさを低減させるが、完全に穴を閉じない。低減された穴の大きさにより、いくらかの流体がグリッド穴を通り漏れることを可能にし、これにより、印刷表面に不完全な凸又は凹みを形成する。少しの凹凸を付けられた印刷プレート表面は、いくらかのインクを引きつけ印刷表面に堆積させるが、完全に開いた穴に対応する、印刷表面の完全な凹凸の領域ほどにはインクを引きつけない。
【0031】
図9から図13に、本発明の代替実施形態を示し、この実施形態では、電気流動流体を用いて、柔軟性浮彫り印刷表面の部分に凹凸を付ける。図9は、メッシュ904などのグリッド層を示す。このようなメッシュの一例として、ノースカロライナ州シャーロットのストークプリンツ社(Stork Prints Corporation of Charlotte,NC)によるストークメッシュ(Stork mesh)が挙げられる。メッシュ層の上に、柔軟性印刷層908が蒸着される。印刷層908は、典型的には、インクに付着し、流体の浸透を防ぐ柔軟性のゴム状の物体である。適切な印刷層908の一例としては、ミネソタ州セントポールの3M社によるVHB接着転写テープ(VHB adhesive transfer tapes from 3M Corporation of St.Paul,Minnesota)などの非常に高い結合エラストマが挙げられる。
【0032】
メッシュ又はグリッド層904の下には、電気流動流体(以下「ER流体」)の層912が存在する。ER流体は、特別なクラスの流体であり、見かけの粘性及び降伏強さが、外部の電場の印加により、増大できる。ここで用いられる場合、「見かけの粘性」とは、電場が印加された時のER流体の状態の変化を意味する。ER流体は、電場内で変化すると考えられており、この結果、剪断降伏強さが増大する。ER流体の詳しい説明は、’Electrorheological Fluids’ by Tian Hao、 Advanced Materials 2001, vol.13,no.24,page 1847にある。
【0033】
1つの実施形態においては、ER流体は、絶縁液体中の絶縁された鉄粒子懸濁液を含む。電場の印加時には、粒子は、場の方向に整列し、流体の密集化(粘度の増大)を発生させる。このような流体の一例としては、イソパー−Vミネラルオイル(Isopar−V mineral oil)中に懸濁された絶縁された鉄粒子を重量で15%含む流体が挙げられる。適切な粒子の一例としては、リン酸塩/SiO2で被覆されたカルボニル鉄粉末などの2マイクロメートルから4マイクロメートルの直径の絶縁された鉄粒子が挙げられる。このような被覆されたカルボニル鉄粉末は、ドイツのルートヴィヒスハーフェンのBASF社(BASF Corporation of Ludwigshafen,Germany)によるCIP−EW−Iなどとして市販されている。いくつかの他の種類の電気流動流体をこの実施形態において使用でき、例えば、ここに挙げるものに制限されないが、絶縁液体中に分散された非導電性又は電気的に絶縁された粒子の懸濁液などが使用できる。他の利用可能な電気流動流体は、1つの液層が他の流体層内に分散されて乳濁液を形成する流体を含む。
【0034】
電場をER流体に印加し、これにより流体の粘度/降伏強さを制御する様々な方法が存在する。このような電圧を印加する1つの方法として、印刷表面に直接電圧を印加する方法がある。電荷を直接印刷表面層上に印加することは、マスタプレートの構造を簡易にすれば、ER流体層と印刷層の上部との間に距離があるため、ER流体中に電場を発生させるためには高い電圧が必要となる。これに加え、印刷時に印刷層上に堆積するインクが、電荷を放電してしまうことを防ぐために、相当の注意を払わなくてはならない。
【0035】
電場をER流体に印加する第2の方法は、背面電極916に電荷を印加する方法である。図10に、背面電極916に電荷を印加しグリッド層904を電気的にアースしてER流体912に対して電場を形成する方法を示す。電気流動流体の、高い電場に晒される一部は、非常に粘性が強くなり、高い降伏強さを持つ。ER流体が流体層に沿って流れ加圧されるに従って、流体の、高い粘性を有する領域が、グリッド層904の穴を通る流体の流れを制限する。しかしながら、低い電場の領域では、流体粘度が低く、流体圧力は、容易に印刷層908に伝達される。よって、印刷層908のバンプ又は凸の浮彫り部分1004及び1008が、低い電場/低い粘性領域に形成される。
【0036】
図13に示すもう1つの実施形態においては、ER流体が減圧される(流体の圧力が大気圧より低い圧力に調整される)。流体の高粘性領域が、グリッド層904の穴を通る流れを制限する。しかしながら、低電場の領域では、流体の粘度が低く、流体は、減圧の際に、印刷層908の下から離れるように、容易に移動する。よって、印刷層908のウェル又は凹部1304及び1308が、低電場/低粘性の領域に形成される。
【0037】
電荷を配置して、穴の中又は穴の近辺に電場を発生させる他の手段もまた可能である。例えば、多孔性の電極をグリッド層の下に直接使用することもできる。多孔性電極は、流体の流れを可能にし、また、穴の入口に近いことで、低い電圧を使用することを可能にする。
【0038】
実際には、電場の不在時に、約35psig(2.4atm)の作動圧力がER流体に加えられた場合、流体が約150ミクロンの直径のグリッド穴を通って流れ、40ミクロンの厚さの3M−VHBエラストマ上に75ミクロンから85ミクロンのバンプが形成されることがわかった。凸形の印刷表面が望ましくない領域では、ER流体の0.5mmの間隙へ600ボルトから800ボルトを印加することにより、実質的なバンプの形成を防止するために十分な電場が発生した。これらの値は例としての値であるが、他の値を使用することもできることに留意されたい。典型的には、グリッド穴は、ER流体が低粘性の状態では流れることを可能にするよう十分に大きいが、ER流体が高粘性の状態では、ER流体の流れを防ぐように十分に小さいべきである。典型的な穴の大きさの範囲は、5ミクロンから250ミクロンまでである。
【0039】
印刷表面の選択領域に凹凸を付けて浮彫りパターンを形成した後、浮彫りは、印刷処理中維持されなければならない。浮彫りパターンを維持する1つの方法として、印刷処理中に、浮彫りパターンを形成するために最初に用いたER流体上の電場分布及び圧力を維持する方法がある。代替方法として、高い均一の電場を、印刷プレートにおける全てのER流体に印加することにより、ER流体を「固定」する方法がある。ここで用いられる場合、「固定」とは、降伏強さが、典型的には4kPaの値を超えて実質的に増大され、これにより、ER流体の流体の流れ、特に固定した流体の直接上の穴を通る流れが、実質的に妨げられることを意味する。
【0040】
図11に、凸にされた浮彫り領域周辺の近くに電荷を追加することによるER流体の「固定」を示す。図11は、凸の浮彫り領域近くの上部層への電荷の追加を示すが、他の電荷の分布も可能であることを理解されたい。例えば、図12は、背面電極全体に電荷を配置し、全てのER流体を高粘性としてER流体を固定する電場を発生させる構成を示す。エラストマ層から加えられる力が高粘性のER流体をグリッド穴を通って押すには不十分であるため、この高い粘性が、内部エラストマ応力の解放をを防止する。よって、ER流体圧力が大気圧レベル近くの値にリセットされた場合でも、パターンが維持できる。
【0041】
図4から図7のマイクロバルブ制御の印刷表面の場合と同様に、ER流体の実施形態においても、弱い電場を印加することによりハーフトーンを達成できる。弱い電場は、粘度を増大させるが、ER流体を固定するほどには増大させない。少し粘性があるが固定されていない流体の領域では、浮彫りパターンが形成されるが、完全な高さよりも低く形成される。よって、インクが供給された印刷表面が印刷対象の表面に対して押圧されると、完全な凸ではなく不完全に凸のバンプ(又は、凹形印刷の場合には、完全に凹んでおらず不完全に凹んでいるウェル)により、少ない量のインク(実質的にグレイスケール)が転写される。
【0042】
マイクロバルブ制御の浮彫りパターンとER流体制御の浮彫りパターンの両方が、従来の浮彫りパターンとは、形成された浮彫りパターンが画素化されている点で異なる。特に、浮彫りパターンは、図5Aのバンプ領域512、図8のバンプ808、図10の凸形浮彫り部1004、及び図5B及び図13のウェル513、1304,及び1308などの「バンプ」又は「ウェル」から成る。このようなバンプ又はウェルのアレイが、浮彫り表面を形成し、よって、浮彫り領域は、連続した凸の浮彫りが可能である従来のフレキソ印刷などの他の技術を用いて形成された浮彫り領域ほどなめらかでない場合がある。非均一に凸の浮彫り表面は、大きな均一の領域を印刷する場合に問題となる可能性がある。
【0043】
非均一の大きな印刷領域を補償するために、印刷の際に様々な技法を用いて印刷された製品を「なめらかに」できる。浮彫り印刷のために凸のバンプを用いる1つの実施形態においては、印刷の際に、追加の圧力が印刷領域に加えられる。増大された圧力は、インク転写の際に各凸バンプの最も高い部分を変形させ、少し低い領域もまた、十分なインクを転写して均一の印刷表面を形成することを確実にする。像転写の際の増大された圧力はまた、紙又は印刷像を受ける他の材料の逆流に用いることもでき、これにより、均一なインクの被覆を確実にする。最後に、均一のインクの被覆は、浮彫り表面又はバンプ又はウェルを使う浮彫り又は凹形印刷におけるインク刷りを浮彫り表面から受ける基体の圧力変更又は「往復」振動動作により向上させることができる。
【0044】
浮彫り表面、特に、マイクロバルブ構造又は電気流動流体により形成されたマスタ印刷プレートは、様々な印刷システムにおいて用いることができる。1つの特定の適切は使用方法として、図1Aのフレキソ印刷システム又は図1Bのグラビア印刷処理が挙げられる。これらのシステムにおいて、印刷表面へのインクの堆積は、浮彫り層の作動の前に行われてもいいが、より典型的には、インク堆積は、浮彫りパターンが印刷表面上に形成された後に行われる。
【0045】
インクが供給された印刷表面は次に、印刷対象表面に押圧される。所望の数のコピーを印刷した後、浮彫り表面は「緩和」又は「消去」され、印刷表面がおおよそ平坦にされる。マイクロバルブの実施形態とERの実施形態の両方において、緩和は、電場を取り除くことで行われる。図示するマイクロバルブの場合、電場を取り除くことにより、マイクロバルブが開かれる。ER流体の場合、電場を取り除くことにより、ER流体の粘性が低減される。流体層の圧力を増大させて印刷プレートの選択された領域を凸にすることにより浮彫り表面を形成する場合、後続の、典型的には大気圧又は大気圧よりも低い圧力への流体圧力の低減により、弾性印刷表面が応力を解放し、流体を、グリッド内の開いた穴へと押し戻すことを可能にする。グリッド層と印刷表面層との間の空間から流体を押し出すことにより、おおよそ平坦な印刷表面となる。そして、消去された印刷表面は、次の印刷サイクルの次の浮彫りパターンを受ける準備ができる。
【0046】
同様に、低減された流体圧力に基づく凹形印刷の場合、消去は、流体圧力を大気圧又は大気圧より少し高い圧力に増大させることにより行うことができる。増大された流体圧力は、弾性印刷表面が応力を解放し、流体を、開いた流路又は穴を通って柔軟性印刷層の下へと引き戻すことを可能にする。穴を充填することにより、おおよそ平坦な印刷表面となる。そして、消去された印刷表面は、次の印刷サイクルの次の浮彫りパターンを受ける準備ができる。
【図面の簡単な説明】
【0047】
【図1A】フレキソ印刷に適切な印刷システムを例示する図である。
【図1B】グラビア(沈み彫り)印刷に要するステップの例を示す図である。
【図1C】グラビア(沈み彫り)印刷に要するステップの例を示す図である。
【図1D】グラビア(沈み彫り)印刷に要するステップの例を示す図である。
【図1E】グラビア(沈み彫り)印刷に要するステップの例を示す図である。
【図2】複数の穴又はマイクロバルブを含むグリッド層又は多孔性膜を示す図である。
【図3】ゲル構造において複数の孔を成形するために使用できる柱のアレイを示す図である。
【図4】グリッド層上の印刷表面を含む印刷層の形成を示す図である。
【図5A】開いた穴を用い、印刷表面上の選択された領域を凸にすることにより印刷表面に浮彫りパターンを形成する、加圧された流体を示す図である。
【図5B】開いた穴を用い、印刷表面上の選択された領域を凹にすることにより印刷表面に浮彫りパターンを形成する、減圧された流体を示す図である。
【図6】グリッド層のゲル材料に、結果として静電力を加える電荷を印加することによりどのようにマイクロバルブが閉じるかを示す図である。
【図7】グリッド層のゲル材料に、結果として静電力を加える電荷を印加することによりどのようにマイクロバルブが閉じるかを示す図である。
【図8】作動後の3次元浮彫り表面を示す図である。
【図9】電気流動流体を用いる印刷マスタプレートを示す図である。
【図10】ER流体印刷マスタプレート内の電極層へ電荷パターンを印加してER流体の加圧時に印刷表面上に浮彫りパターンを形成することを示す図である。
【図11】ER流体印刷マスタプレートに追加の電荷を印加して印刷での使用のために浮彫りパターンを「固定」することを示す図である。
【図12】ER流体層の下の下部電極に均一の電荷を印加して印刷での使用のために浮彫りパターンを「固定」することを示す図である。
【図13】ER流体印刷マスタプレート内の電極層に電荷パターンを印加し、ER流体の減圧時に印刷表面上に浮彫りパターンを形成することを示す図である。
【符号の説明】
【0048】
200 グリッド層、204,208 マイクロバルブのアレイ、212,216 毛管穴、220 ゲル状材料層。
【技術分野】
【0001】
再使用可能な印刷構成、方法に関する。
【背景技術】
【0002】
フレキソ印刷は、柔軟性のゴム状の材料から成る浮彫り(レリーフ:relief)マスタプレートを像の源として用いる回転接触浮彫り印刷方法である。フレキソ印刷は、他の印刷技術に比べて、いくつかの利点を提供し、これらの利点は、柔らかなマスタプレートによる良好な基体許容度、非常に高い速度(しばしば、毎分数百フィート(数十から数百メートル)の印刷物)、及び粘性顔料系インクと共に使用された場合の良好な品質などを含む。フレキソ印刷は、パッケージ材などを印刷するために広く使用されており、印刷市場において市場シェアを獲得し続けている。
【0003】
グラビア(沈み彫り)印刷は、印刷プレートなどの印刷表面がウェルなどの凹状領域を有する、凹形印刷方法である。表面は、インクを受け、ブレードが余剰のインクを除去し、これにより、ウェルのみがインクを保持する。高圧で加えられる接触圧が、印刷表面を印刷対象の基体(substrate)に対して押圧し、ウェル内のインクが印刷基体に転写される。典型的な印刷基体は、紙、透明シート、ホイル(foils)、プラスチックなどを含む。しかしながら、接触圧が高圧なため、一般的には、グラビア印刷処理は、紙又は比較的丈夫な基体に印刷する。
【0004】
【特許文献1】米国特許第6,234,079号明細書
【特許文献2】国際特許出願第WO2002051639号明細書
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
その速度及び高い品質に反して、フレキソ印刷及びグラビアは、低量の印刷には使用されておらず、これは、従来のマスタプレートのパターニングが、単一のプレートに何時間もかかるような、遅く、高価な処理であったためである。この結果、マスタプレートは高価なものである。一旦、像が形成されると、マスタプレートは、容易に像を再形成できず、また、再使用できない。よって、同一のコピーが長期に渡って必要とされない限り、マスタプレートを製造する費用を見合うものとすることができない。
【0006】
この問題を回避するために様々な技術が試されてきた。R.チャートコウ(R.Chertkow)による米国特許第6,234,079号は、再使用可能な印刷プレートを提案し、この印刷プレートは、静電、形状記憶合金、電磁、及び他の接触手段を含む、印刷表面を調整するための様々な技術を使用する。しかしながら、これらの技術の大半は、実施が困難である。例えば、コイルを用いる作動のために十分な磁場を発生させるためには、高い電流が必要である。更に、コイルは、製造が困難である。S.カプラン(S.Kaplan)によるデジタル印刷装置及び方法(Digital Printing Device and Method)の名称の国際特許出願第WO2002051639号は、膜の下で膨張又は気化する液体を局所的に加熱して浮彫り印刷表面を形成する、再使用可能な印刷プレートを提案する。しかしながら、印刷画素位置に対応する加熱素子のアレイを有する印刷プレートを製造し、各加熱素子がカプランにより提案されるように液体を膨張又は気化させるようにすることは、費用がかかる。各画素付近の液体の局在化された加熱のための代替方法、例えば、高出力レーザ源を使用するものなどもまた、高価であり、これにより、このような装置の市場規模が制限される。
【0007】
よって、デジタル凹形又は浮彫り印刷に使用するために印刷プレートを形成又は作動させる向上した方法が必要とされる。
【課題を解決するための手段】
【0008】
凹形又は浮彫り印刷のための再使用可能な印刷プレートが説明される。プレートは、選択された位置で凹凸を付け(作動し)て全体的な印刷対象像パターンを形成できる柔軟性の印刷表面を有する。プレートはまた、電場パターンを印加することにより開閉が制御可能である、複数の流路を含む中間層を有する。加圧可能/減圧可能な流体が中間層の下に位置する。流体は、中間層内の開いた流路を通り流れ、柔軟性印刷表面に浮彫りパターンを構成する。構成されたパターンは、中間層の開いた流路のパターンとおおよそ一致する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
浮彫り又は凹形印刷システムにおける使用のための再使用可能な印刷プレートを形成及びパターニングする向上した方法及び装置が説明される。ここで用いられる場合、「浮彫り印刷システム」は、印刷プレート上の3次元パターンによる何らかの画像形成装置を広く意味し、3次元浮彫りパターンの凸の部分が材料(典型的にはインク)によって被覆され、その後、印刷対象表面に転写される。ここで用いられる場合、「凹形印刷システム」は、印刷プレート上の3次元浮彫りパターンによる何らかの画像形成装置を広く意味し、3次元パターンの凹みの部分が材料(典型的にはインク)により充填され、その後、印刷対象表面に転写される。ここで用いられる場合、「浮彫りパターン」とは、凹形又は浮彫り印刷システムに使用できる、印刷プレートの表面上の何らかの3次元パターンを広く意味する。
【0010】
図1Aは、高速フレキソ印刷浮彫り印刷システム100の例を示す。図1Aにおいて、チャンバ化されたドクタブレードユニット108を含むインク供給ユニット104が、アニロックスローラ112にインクを供給する。印刷システム100は、柔軟性マスタ印刷プレート120をプレートシリンダ124の周りに巻いて有する。プレートシリンダ124が矢印128によって示される方向に回転するに従って、柔軟性マスタ印刷プレート120の凸表面は、アニロックスローラ112からインクを受け、柔軟性マスタ印刷プレートが、インクを印刷表面132に転写する。印刷表面132上に印刷された結果得られたパターンは、柔軟性マスタ印刷プレートの凸パターンと一致する。硬い刷り(impression:印刷)シリンダ136が、印刷表面132を回転させる回転力とインクの転写に必要な接触力とを供給する。
【0011】
印刷プレート120上の浮彫りパターンは、異なる像を印刷するために変更される。1つの実施形態では、浮彫りパターンの変更は、柔軟性表面の選択された領域を作動させることにより行われる。ここで用いられる場合、「作動させる」とは、柔軟性表面の選択された領域に凹凸を与える動作を広く意味する。
【0012】
代替実施形態においては、凹形印刷を使用することもできる。図1Bから図1Eは、凹部印刷処理を示す。図1Bにおいて、印刷プレート150は、インクを受ける複数の凹部154を含む。図1Cにおいて、インクローラ158は、インク162を印刷プレート150上に堆積させ、凹部154を充填する。図1Dにおいて、ドクタブレード166又は他の除去システムが使用され、凸部(又は凹んでいない)領域から余剰のインクが除去される。図1Eにおいて、硬い刷りローラ170が、印刷対象の基体、典型的には、紙174を印刷プレート150(図1C参照)に押圧する。紙174は凹部領域154からインクを受け取り、これにより、印刷プレート上の浮彫りパターンの凹部とおおよそ一致する像が紙上に形成される。
【0013】
浮彫り又は凹形印刷のいずれにおいても印刷プレートの領域を「作動」させる(ここでは、領域に凹凸を与える動作を広く意味する)ために様々な方法を用いることができる。印刷プレート領域を作動させるための1つの方法は、柔軟性表面下の流体の流れを制御する方法である。ここで用いられる場合、「流体」は、気体又は液体の状態の流れる材料を広く意味する。図2から図8に、複数のマイクロバルブを用いる流体の流れの制御を示す。図9から図13に、電気流動(ER)効果を用いて流体の流れを制御する代替構成及び方法を示す。
【0014】
図2に、通常は、マイクロバルブ204及び208のアレイを含むグリッド層200である、中間層を示す。各マイクロバルブは、「流路」を通る流体の流れを制御する。ここで用いられる場合、「流路」は、流体の流れを可能にする、ゲル材料上の何らかの細路、溝、トンネル、穴、又は他の特徴を広く意味する。ここで用いられる場合、「グリッド層」とは、この層を通る複数の流路を有する層構造を広く意味する。グリッド層を通る流路のパターンは均一であってもよいが、これは必須ではない。特に、グリッド層での流路の分布は、均一のアレイの形に調整されてもよく、又は他の規則的又はランダムの配置又はパターンに分布されてもよい。各バルブは、毛管穴212及び216(又は細孔)をゲル状の材料層220内に含む。ゲル状材料は、高い絶縁耐力(high dielectric strength)と、200kPaから100MPaの範囲の低い弾性係数とを有する。適切なゲル状材料の一例としては、ミシガン州ミッドランドのダウコーニング社によるダイエレクトリックゲル#3−4207又はゲル#3−4220(Dielectric Gel #3−4207 or Gel #3−4220 from Dow Corning of Midland,Michigan)などが挙げられる。
【0015】
毛管穴212及び216を形成するために、様々な方法を用いることができる。このような方法の一例として、鋳型を使用しゲル状材料220を成形する方法が挙げられる。図3に、Su−8フォトレジスト柱304及び308のアレイを含む鋳型の例を示す。柱は、ソフトリソグラフィ技術を用いて形成できる。各柱は典型的には5ミクロン(μm)から20ミクロンの直径で、約50ミクロンから約500ミクロンの高さを有する。ゲル状の材料は、柱の周りに成形され、これにより、成形物の取り出し(Su−8フォトレジストからのゲル材料の分離)において、複数の穴をゲル材料220に残す。
【0016】
図4に、グリッド層200上に結合された、印刷表面を含む柔軟性印刷層404を示す。典型的には、印刷層404は柔軟性のゴム状の材料であり、インクを引きつけ、流体の浸透を防ぐ。印刷層404の適切な材料の一例として、ミネソタ州セントポールの3M社によるVHB接着転写テープ(VHB adhesive transfer tapes from 3M Corporation of St.Paul,Minnesota)などの高結合エラストマなどがあげられる。
【0017】
図5A及び図5Bに、グリッド層200の下の流体層504及び505を示す。図5Aは、浮彫り印刷に使用される実施形態を示し、図5Bは、凹形印刷に適合された同様の構造を示す。典型的には、流体層504及び505は、作動流体を含む。作動流体の例としては、空気などの気体や不活性オイルなどの液体などが挙げられる。流体層504及び505は、液体又は気体受容器であってもよい。代替実施形態においては、流体層504及び505は、作動流体を含む多孔性又はスポンジ状の基体を含んでいてもよい。
【0018】
マイクロバルブ流路を通る又は図示する実施形態においては穴を通る流体の流れが、印刷層404の一部を作動させる。図5Aにおいては、開いた穴が、印刷層404の対応する領域512に凸を形成することにより、印刷層404を作動させる。特に、流体層504内の流体は、典型的には、大気圧よりも高い圧力にある。よって、選択穴が閉じた後、圧力が上げられ、これにより、穴508などの開いた穴を流体が通り上方向に流れ、印刷層404を押圧することを可能にする。圧力は、印刷層の対応する領域512に凸を形成するために十分に高い必要がある。
【0019】
図5Bに示す他の実施形態においては、開いた穴が、印刷層の対応する領域513に凹みを形成することにより、印刷層404を作動させる。図5Bにおいて、選択穴が閉じられた後、流体層505の圧力が大気圧よりも低い圧力に下げられる。減圧された流体は、静電的に閉じられていない、開いた穴509を通り流れる。この結果、印刷層の対応する領域513が作動され、印刷表面上に凹形の像パターンが形成される。作動させられた像パターンが、インク供給及び像転写の際に印刷プレート上に残り続けることを確実にするために、一定の、大気圧より低い圧力を流体層505内の流体に対して維持してもよい。この代わりに、均一の電荷を印加し、グリッド層の全ての穴を閉じて、流体を印刷層とグリッド層との間の作動させられた領域に、低い圧力で効率的に閉じこめてもよい。よって、マイクロバルブ穴の開閉により、印刷表面の作動が制御される。グリッド層200の各穴は、電荷パターンを用いて個々に指定できる。電荷パターンを生成する1つの方法としては、電子写真システムにおいて行われているような光受容器及びラスタ出力走査(ROS)システムを用いる方法がある。このようなシステムにおいては、レーザが用いられて、帯電したプレートの選択された部分を放電する。このようなシステムは、米国特許第4,687,317号、米国特許第5,019,837号、及び米国特許第5,404,202号に示されている。しかしながら、従来の電子写真システムにおいて行われているようにトナー粒子を引きつけることに代え、電荷パターンは、マイクロバルブ穴を閉じる電場を発生させる。穴の開口率(閉じた量)は、電荷により発生する電場の強度に対応する。強力な電場は、小さな開口を生じる。
【0020】
図6及び図7は、マイクロバルブが閉じられる状態を示す側断面図である。図6は、流路、この場合は穴柱604、を囲むゲル材料608を示す。ゲル材料608は、典型的には、柔らかな材料を硬化させる、特別なクラスのカプセル材料である。ゲルの硬度の例としては、50gから500gの範囲が挙げられる。典型的なゲル密度は、0.9g/ccから1.22g/ccの範囲である。ゲルは、液体の応力軽減及び「自己修復」特性の多くを有し、同時に、エラストマの次元的な安定性(寸法又は形状安定性:dimensional stability)を有する。
【0021】
ゲル自体は、様々な材料から作ることができるが、シリコーンが一般的な材料である。マイクロバルブの開閉は、高い電場を必要とするので、ゲルは、高い絶縁耐力を有する必要がある。1つの実施形態において、図7の電荷704及び712の結果、約100ミクロンから約200ミクロンの厚さのゲル層に対して300ボルトから600ボルト印加され、よって、ゲルは、この結果の高い電場に晒されても絶縁破壊されないことが必要である。200kPaから100MPaの低い弾性係数が、電場の不在時にゲルがその形状を維持することを助け、電場印加時に約10ミクロンから約40ミクロンの直径を有する穴柱604を閉じるために十分にゲルを圧縮する。適切な誘電性ゲルの例としては、ミシガン州ミッドランドのダウコーニング社によるダイエレクトリックゲル#3−4207及びゲル#3−4220(Dielectric Gel #3−4207 or Gel #3−4220 from Dow Corning of Midland,Michigan)が挙げられる。
【0022】
製造の前に、ダウコーニング社及び他の製造者は、典型的にはゲルを液体として提供し、エンドユーザがこれを組み立て、「硬化」させる。1つの実施形態においては、ゲルは、2つの部分の液体に設定され、又はそうでなければ混合時に硬化されてゲルを形成する。代替形式では、ゲルは、単一の液体から、熱又はUV線を用いて硬化することにより製造してもよい。硬化は、液体が図3の鋳型などの鋳型の周りに注がれた後で起きてもよく、これにより、その結果得られるゲルを、所望の形状にする。
【0023】
図7には、マイクロバルブ流路の開閉を制御するために、ゲル材料608の第1側708に正の電荷704が堆積又は近くに配置され、ゲル材料の反対側716に負の電荷712が堆積又は近くに配置されているものを示す。この結果生ずる電場が、ゲル材料604上に、圧縮力方向720に圧縮力を発生させる。圧縮力は、穴柱の入口及び出口開口部間の距離を少しだけ減らす。この処理において、圧縮力は、穴の側壁を曲げ、これにより、穴柱604を圧迫し、又はそうでなければ閉じる。
【0024】
図示する実施形態においては、電荷によりゲルに加えられる力は、穴柱604の側壁と平行な力方向720であり、この結果、穴の側壁は、力方向720とおおよそ垂直な方向724に曲がる。よって、力方向は、穴を閉じさせる壁の動きの方向と重なるベクトル成分を有さない。図示する例では、穴の閉動作は全て、圧縮により引き起こされる誘電体ゲルの広がりに起因する。しかしながら、垂直な柱以外の流路が使用される場合、力方向720のいくつかの成分が、側壁の動きに対して垂直でない場合もあり、この場合、流路の閉動作は、力方向720からの直接的な圧力により行われてもよい。
【0025】
図7は、ゲル材料上に直接配される電荷を示すが、電荷は、他の表面に与えられてもよいことを理解されたい。これらの他の表面は、印刷層404を含んでいてもよい。代替実施形態においては、典型的には金属から成る柔軟性電極を、各穴柱604の各入口近くに蒸着(deposit)し、ゲル入口近くにおける電荷の配置(deposition)及び蓄積(accumulation)を容易にしてもよい。電極が使用される場合、電極は、隣接した電極から電気的に隔離されている必要があり、これにより、各穴柱(又は、「画素」が穴柱の一群を含む場合には、穴柱の一群)の個々の指定及び開閉を可能にする。電荷がどのように印加され維持されるかに関わらず、最も重要な基準は、電荷が、ゲルに対する、穴を圧迫又は閉じるための局在化した最終的な圧縮力を発生させることである。
【0026】
適切な穴が閉じられた後、流体層504には圧力が加えられる(図5A参照)。加圧された流体は、静電的に閉じられなかった、開いた穴508を通り流れる。加圧された流体は、印刷層の対応する領域512を作動させ、凸像パターンを印刷表面に形成する。インク供給及び像転写の際に、作動させられた像パターンが印刷プレート上に維持され続けることを確実にするために、流体層504の流体に対して一定の圧力を維持してもよい。この代わりに、均一の電荷を印加し、グリッド層の全ての穴を閉じて、印刷層とグリッド層との間の作動領域内に流体を効率的に閉じこめてもよい。
【0027】
図5A及び図5Bは、グリッド穴ごとに1つのバンプ(bump:出っ張り)又はウェル(くぼみ)を示し、グリッド穴ごとに1つの画素の対応を示唆するが、画素はこれに制限されないことを理解されたい。図8に、複数の穴804(又はマイクロバルブ)により各印刷素子を指定することを可能にすることによる、2次元構造の一例を示す。
【0028】
1回の印刷が完了すると、浮彫りパターンは「消去」してもよい。浮彫りパターンを消去するために、基体を放電してもよい。帯電した表面全体を放電する1つの方法は、電子写真で行われているように光を用いる。他の方法は、マスタプレートを放電する導電性のアースプレートとの物理的な接触などが挙げられる。
【0029】
電荷を除去することにより、ゲル層の電場を取り除く。電場が存在しなければ、ゲル上の圧縮力は緩和され、穴(又はマイクロバルブ)が再度開く。印刷表面パターンを、印刷表面とゲル200の間に含まれた、全ての印刷画素に含まれる流体量をリセットすることにより消去するためには、流体層504又は層505の流体圧が、典型的には、大気圧近くにまで変更される(又は、図5Aに示すようなバンプが形成される実施形態においては、大気圧よりも少し低い圧力にまで変更され、少しの真空を発生させる、又は、図5Bに示すような凹みを用いる凹形印刷においては、大気圧よりも少し高い圧力に変更される)。エラストマ印刷層の内部応力は、流体層と外部の大気圧との小さな圧力差により補助されることもあり、流体を、開いた穴を通って再度押して流し、これにより、浮彫りパターンが「消去」される。そして、印刷プレートは、新しい電荷分布を受けて、印刷表面に新しい浮彫りパターンを生じることができる。
【0030】
上述では、穴又はマイクロバルブの開閉を説明したが、マイクロバルブは、完全に開いたり閉じたりしなくてもよい。いくつかの実施形態においては、マイクロバルブの穴が部分的のみに閉じられ、「漏れ穴のあるマイクロバルブ」を形成する「ハーフトーン」処理が可能である。例えば、穴を完全に閉じる「閉じ電圧」が600ボルトである場合、600ボルトよりも低い電圧を印加することによりグレートーンを達成できる。低い電圧は、穴又は開口の大きさを低減させるが、完全に穴を閉じない。低減された穴の大きさにより、いくらかの流体がグリッド穴を通り漏れることを可能にし、これにより、印刷表面に不完全な凸又は凹みを形成する。少しの凹凸を付けられた印刷プレート表面は、いくらかのインクを引きつけ印刷表面に堆積させるが、完全に開いた穴に対応する、印刷表面の完全な凹凸の領域ほどにはインクを引きつけない。
【0031】
図9から図13に、本発明の代替実施形態を示し、この実施形態では、電気流動流体を用いて、柔軟性浮彫り印刷表面の部分に凹凸を付ける。図9は、メッシュ904などのグリッド層を示す。このようなメッシュの一例として、ノースカロライナ州シャーロットのストークプリンツ社(Stork Prints Corporation of Charlotte,NC)によるストークメッシュ(Stork mesh)が挙げられる。メッシュ層の上に、柔軟性印刷層908が蒸着される。印刷層908は、典型的には、インクに付着し、流体の浸透を防ぐ柔軟性のゴム状の物体である。適切な印刷層908の一例としては、ミネソタ州セントポールの3M社によるVHB接着転写テープ(VHB adhesive transfer tapes from 3M Corporation of St.Paul,Minnesota)などの非常に高い結合エラストマが挙げられる。
【0032】
メッシュ又はグリッド層904の下には、電気流動流体(以下「ER流体」)の層912が存在する。ER流体は、特別なクラスの流体であり、見かけの粘性及び降伏強さが、外部の電場の印加により、増大できる。ここで用いられる場合、「見かけの粘性」とは、電場が印加された時のER流体の状態の変化を意味する。ER流体は、電場内で変化すると考えられており、この結果、剪断降伏強さが増大する。ER流体の詳しい説明は、’Electrorheological Fluids’ by Tian Hao、 Advanced Materials 2001, vol.13,no.24,page 1847にある。
【0033】
1つの実施形態においては、ER流体は、絶縁液体中の絶縁された鉄粒子懸濁液を含む。電場の印加時には、粒子は、場の方向に整列し、流体の密集化(粘度の増大)を発生させる。このような流体の一例としては、イソパー−Vミネラルオイル(Isopar−V mineral oil)中に懸濁された絶縁された鉄粒子を重量で15%含む流体が挙げられる。適切な粒子の一例としては、リン酸塩/SiO2で被覆されたカルボニル鉄粉末などの2マイクロメートルから4マイクロメートルの直径の絶縁された鉄粒子が挙げられる。このような被覆されたカルボニル鉄粉末は、ドイツのルートヴィヒスハーフェンのBASF社(BASF Corporation of Ludwigshafen,Germany)によるCIP−EW−Iなどとして市販されている。いくつかの他の種類の電気流動流体をこの実施形態において使用でき、例えば、ここに挙げるものに制限されないが、絶縁液体中に分散された非導電性又は電気的に絶縁された粒子の懸濁液などが使用できる。他の利用可能な電気流動流体は、1つの液層が他の流体層内に分散されて乳濁液を形成する流体を含む。
【0034】
電場をER流体に印加し、これにより流体の粘度/降伏強さを制御する様々な方法が存在する。このような電圧を印加する1つの方法として、印刷表面に直接電圧を印加する方法がある。電荷を直接印刷表面層上に印加することは、マスタプレートの構造を簡易にすれば、ER流体層と印刷層の上部との間に距離があるため、ER流体中に電場を発生させるためには高い電圧が必要となる。これに加え、印刷時に印刷層上に堆積するインクが、電荷を放電してしまうことを防ぐために、相当の注意を払わなくてはならない。
【0035】
電場をER流体に印加する第2の方法は、背面電極916に電荷を印加する方法である。図10に、背面電極916に電荷を印加しグリッド層904を電気的にアースしてER流体912に対して電場を形成する方法を示す。電気流動流体の、高い電場に晒される一部は、非常に粘性が強くなり、高い降伏強さを持つ。ER流体が流体層に沿って流れ加圧されるに従って、流体の、高い粘性を有する領域が、グリッド層904の穴を通る流体の流れを制限する。しかしながら、低い電場の領域では、流体粘度が低く、流体圧力は、容易に印刷層908に伝達される。よって、印刷層908のバンプ又は凸の浮彫り部分1004及び1008が、低い電場/低い粘性領域に形成される。
【0036】
図13に示すもう1つの実施形態においては、ER流体が減圧される(流体の圧力が大気圧より低い圧力に調整される)。流体の高粘性領域が、グリッド層904の穴を通る流れを制限する。しかしながら、低電場の領域では、流体の粘度が低く、流体は、減圧の際に、印刷層908の下から離れるように、容易に移動する。よって、印刷層908のウェル又は凹部1304及び1308が、低電場/低粘性の領域に形成される。
【0037】
電荷を配置して、穴の中又は穴の近辺に電場を発生させる他の手段もまた可能である。例えば、多孔性の電極をグリッド層の下に直接使用することもできる。多孔性電極は、流体の流れを可能にし、また、穴の入口に近いことで、低い電圧を使用することを可能にする。
【0038】
実際には、電場の不在時に、約35psig(2.4atm)の作動圧力がER流体に加えられた場合、流体が約150ミクロンの直径のグリッド穴を通って流れ、40ミクロンの厚さの3M−VHBエラストマ上に75ミクロンから85ミクロンのバンプが形成されることがわかった。凸形の印刷表面が望ましくない領域では、ER流体の0.5mmの間隙へ600ボルトから800ボルトを印加することにより、実質的なバンプの形成を防止するために十分な電場が発生した。これらの値は例としての値であるが、他の値を使用することもできることに留意されたい。典型的には、グリッド穴は、ER流体が低粘性の状態では流れることを可能にするよう十分に大きいが、ER流体が高粘性の状態では、ER流体の流れを防ぐように十分に小さいべきである。典型的な穴の大きさの範囲は、5ミクロンから250ミクロンまでである。
【0039】
印刷表面の選択領域に凹凸を付けて浮彫りパターンを形成した後、浮彫りは、印刷処理中維持されなければならない。浮彫りパターンを維持する1つの方法として、印刷処理中に、浮彫りパターンを形成するために最初に用いたER流体上の電場分布及び圧力を維持する方法がある。代替方法として、高い均一の電場を、印刷プレートにおける全てのER流体に印加することにより、ER流体を「固定」する方法がある。ここで用いられる場合、「固定」とは、降伏強さが、典型的には4kPaの値を超えて実質的に増大され、これにより、ER流体の流体の流れ、特に固定した流体の直接上の穴を通る流れが、実質的に妨げられることを意味する。
【0040】
図11に、凸にされた浮彫り領域周辺の近くに電荷を追加することによるER流体の「固定」を示す。図11は、凸の浮彫り領域近くの上部層への電荷の追加を示すが、他の電荷の分布も可能であることを理解されたい。例えば、図12は、背面電極全体に電荷を配置し、全てのER流体を高粘性としてER流体を固定する電場を発生させる構成を示す。エラストマ層から加えられる力が高粘性のER流体をグリッド穴を通って押すには不十分であるため、この高い粘性が、内部エラストマ応力の解放をを防止する。よって、ER流体圧力が大気圧レベル近くの値にリセットされた場合でも、パターンが維持できる。
【0041】
図4から図7のマイクロバルブ制御の印刷表面の場合と同様に、ER流体の実施形態においても、弱い電場を印加することによりハーフトーンを達成できる。弱い電場は、粘度を増大させるが、ER流体を固定するほどには増大させない。少し粘性があるが固定されていない流体の領域では、浮彫りパターンが形成されるが、完全な高さよりも低く形成される。よって、インクが供給された印刷表面が印刷対象の表面に対して押圧されると、完全な凸ではなく不完全に凸のバンプ(又は、凹形印刷の場合には、完全に凹んでおらず不完全に凹んでいるウェル)により、少ない量のインク(実質的にグレイスケール)が転写される。
【0042】
マイクロバルブ制御の浮彫りパターンとER流体制御の浮彫りパターンの両方が、従来の浮彫りパターンとは、形成された浮彫りパターンが画素化されている点で異なる。特に、浮彫りパターンは、図5Aのバンプ領域512、図8のバンプ808、図10の凸形浮彫り部1004、及び図5B及び図13のウェル513、1304,及び1308などの「バンプ」又は「ウェル」から成る。このようなバンプ又はウェルのアレイが、浮彫り表面を形成し、よって、浮彫り領域は、連続した凸の浮彫りが可能である従来のフレキソ印刷などの他の技術を用いて形成された浮彫り領域ほどなめらかでない場合がある。非均一に凸の浮彫り表面は、大きな均一の領域を印刷する場合に問題となる可能性がある。
【0043】
非均一の大きな印刷領域を補償するために、印刷の際に様々な技法を用いて印刷された製品を「なめらかに」できる。浮彫り印刷のために凸のバンプを用いる1つの実施形態においては、印刷の際に、追加の圧力が印刷領域に加えられる。増大された圧力は、インク転写の際に各凸バンプの最も高い部分を変形させ、少し低い領域もまた、十分なインクを転写して均一の印刷表面を形成することを確実にする。像転写の際の増大された圧力はまた、紙又は印刷像を受ける他の材料の逆流に用いることもでき、これにより、均一なインクの被覆を確実にする。最後に、均一のインクの被覆は、浮彫り表面又はバンプ又はウェルを使う浮彫り又は凹形印刷におけるインク刷りを浮彫り表面から受ける基体の圧力変更又は「往復」振動動作により向上させることができる。
【0044】
浮彫り表面、特に、マイクロバルブ構造又は電気流動流体により形成されたマスタ印刷プレートは、様々な印刷システムにおいて用いることができる。1つの特定の適切は使用方法として、図1Aのフレキソ印刷システム又は図1Bのグラビア印刷処理が挙げられる。これらのシステムにおいて、印刷表面へのインクの堆積は、浮彫り層の作動の前に行われてもいいが、より典型的には、インク堆積は、浮彫りパターンが印刷表面上に形成された後に行われる。
【0045】
インクが供給された印刷表面は次に、印刷対象表面に押圧される。所望の数のコピーを印刷した後、浮彫り表面は「緩和」又は「消去」され、印刷表面がおおよそ平坦にされる。マイクロバルブの実施形態とERの実施形態の両方において、緩和は、電場を取り除くことで行われる。図示するマイクロバルブの場合、電場を取り除くことにより、マイクロバルブが開かれる。ER流体の場合、電場を取り除くことにより、ER流体の粘性が低減される。流体層の圧力を増大させて印刷プレートの選択された領域を凸にすることにより浮彫り表面を形成する場合、後続の、典型的には大気圧又は大気圧よりも低い圧力への流体圧力の低減により、弾性印刷表面が応力を解放し、流体を、グリッド内の開いた穴へと押し戻すことを可能にする。グリッド層と印刷表面層との間の空間から流体を押し出すことにより、おおよそ平坦な印刷表面となる。そして、消去された印刷表面は、次の印刷サイクルの次の浮彫りパターンを受ける準備ができる。
【0046】
同様に、低減された流体圧力に基づく凹形印刷の場合、消去は、流体圧力を大気圧又は大気圧より少し高い圧力に増大させることにより行うことができる。増大された流体圧力は、弾性印刷表面が応力を解放し、流体を、開いた流路又は穴を通って柔軟性印刷層の下へと引き戻すことを可能にする。穴を充填することにより、おおよそ平坦な印刷表面となる。そして、消去された印刷表面は、次の印刷サイクルの次の浮彫りパターンを受ける準備ができる。
【図面の簡単な説明】
【0047】
【図1A】フレキソ印刷に適切な印刷システムを例示する図である。
【図1B】グラビア(沈み彫り)印刷に要するステップの例を示す図である。
【図1C】グラビア(沈み彫り)印刷に要するステップの例を示す図である。
【図1D】グラビア(沈み彫り)印刷に要するステップの例を示す図である。
【図1E】グラビア(沈み彫り)印刷に要するステップの例を示す図である。
【図2】複数の穴又はマイクロバルブを含むグリッド層又は多孔性膜を示す図である。
【図3】ゲル構造において複数の孔を成形するために使用できる柱のアレイを示す図である。
【図4】グリッド層上の印刷表面を含む印刷層の形成を示す図である。
【図5A】開いた穴を用い、印刷表面上の選択された領域を凸にすることにより印刷表面に浮彫りパターンを形成する、加圧された流体を示す図である。
【図5B】開いた穴を用い、印刷表面上の選択された領域を凹にすることにより印刷表面に浮彫りパターンを形成する、減圧された流体を示す図である。
【図6】グリッド層のゲル材料に、結果として静電力を加える電荷を印加することによりどのようにマイクロバルブが閉じるかを示す図である。
【図7】グリッド層のゲル材料に、結果として静電力を加える電荷を印加することによりどのようにマイクロバルブが閉じるかを示す図である。
【図8】作動後の3次元浮彫り表面を示す図である。
【図9】電気流動流体を用いる印刷マスタプレートを示す図である。
【図10】ER流体印刷マスタプレート内の電極層へ電荷パターンを印加してER流体の加圧時に印刷表面上に浮彫りパターンを形成することを示す図である。
【図11】ER流体印刷マスタプレートに追加の電荷を印加して印刷での使用のために浮彫りパターンを「固定」することを示す図である。
【図12】ER流体層の下の下部電極に均一の電荷を印加して印刷での使用のために浮彫りパターンを「固定」することを示す図である。
【図13】ER流体印刷マスタプレート内の電極層に電荷パターンを印加し、ER流体の減圧時に印刷表面上に浮彫りパターンを形成することを示す図である。
【符号の説明】
【0048】
200 グリッド層、204,208 マイクロバルブのアレイ、212,216 毛管穴、220 ゲル状材料層。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
再使用可能な印刷プレートであって、
印刷対象の像パターン全体を形成するために作動できる柔軟性印刷表面と、
複数の流路を有し、前記流路の開閉が電場パターンの印加により制御可能な、中間層と、
中間層の下の流体であって、前記流体がグリッド層の開いた流路を通って流れ、前記グリッド層の前記開いた流路のパターンとおおよそ一致する浮彫りパターンを前記柔軟性印刷表面に形成するよう、前記流体の圧力が調整される、流体と、
を含む印刷プレート。
【請求項2】
印刷方法であって、
選択されたマイクロバルブを閉じる電場パターンをマイクロバルブのアレイに印加し、
前記マイクロバルブのアレイの第1側上の流体の圧力を調整し、前記流体を、開いたマイクロバルブを通って流し、印刷表面を含み、前記マイクロバルブのアレイの第2側上に形成される印刷層上に浮彫りパターンを形成し、
前記浮彫りパターンとおおよそ一致するパターンで前記印刷表面がインクを転写するよう、前記印刷表面を印刷対象の表面に対して押圧する、
印刷方法。
【請求項3】
一連のマイクロバルブを製造する方法であって、
ゲル層に、4を超える高さ対幅アスペクト比を有する複数の穴を成形し、
十分な電荷が穴の近辺の表面に印加された場合に、前記穴の側壁が曲がり前記穴を閉じるように、前記ゲル層内の前記複数の穴の周辺近くで電荷を受け維持する表面を形成する、
マイクロバルブ製造方法。
【請求項1】
再使用可能な印刷プレートであって、
印刷対象の像パターン全体を形成するために作動できる柔軟性印刷表面と、
複数の流路を有し、前記流路の開閉が電場パターンの印加により制御可能な、中間層と、
中間層の下の流体であって、前記流体がグリッド層の開いた流路を通って流れ、前記グリッド層の前記開いた流路のパターンとおおよそ一致する浮彫りパターンを前記柔軟性印刷表面に形成するよう、前記流体の圧力が調整される、流体と、
を含む印刷プレート。
【請求項2】
印刷方法であって、
選択されたマイクロバルブを閉じる電場パターンをマイクロバルブのアレイに印加し、
前記マイクロバルブのアレイの第1側上の流体の圧力を調整し、前記流体を、開いたマイクロバルブを通って流し、印刷表面を含み、前記マイクロバルブのアレイの第2側上に形成される印刷層上に浮彫りパターンを形成し、
前記浮彫りパターンとおおよそ一致するパターンで前記印刷表面がインクを転写するよう、前記印刷表面を印刷対象の表面に対して押圧する、
印刷方法。
【請求項3】
一連のマイクロバルブを製造する方法であって、
ゲル層に、4を超える高さ対幅アスペクト比を有する複数の穴を成形し、
十分な電荷が穴の近辺の表面に印加された場合に、前記穴の側壁が曲がり前記穴を閉じるように、前記ゲル層内の前記複数の穴の周辺近くで電荷を受け維持する表面を形成する、
マイクロバルブ製造方法。
【図1A】
【図1B】
【図1C】
【図1D】
【図1E】
【図2】
【図4】
【図5A】
【図5B】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図3】
【図1B】
【図1C】
【図1D】
【図1E】
【図2】
【図4】
【図5A】
【図5B】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図3】
【公開番号】特開2008−155635(P2008−155635A)
【公開日】平成20年7月10日(2008.7.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−328458(P2007−328458)
【出願日】平成19年12月20日(2007.12.20)
【出願人】(502096543)パロ・アルト・リサーチ・センター・インコーポレーテッド (393)
【氏名又は名称原語表記】Palo Alto Research Center Incorporated
【Fターム(参考)】
【公開日】平成20年7月10日(2008.7.10)
【国際特許分類】
【出願日】平成19年12月20日(2007.12.20)
【出願人】(502096543)パロ・アルト・リサーチ・センター・インコーポレーテッド (393)
【氏名又は名称原語表記】Palo Alto Research Center Incorporated
【Fターム(参考)】
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