説明

マイクロパターン化血管内皮細胞転写基板

【課題】本発明は、接触させることにより、容易かつ安定的に被着体にマイクロパターン化血管内皮細胞を転写できるマイクロパターン化血管内皮細胞転写基板を提供することを主目的とする。
【解決手段】本発明は、基材と、上記基材上に配置され、細胞接着性を有し、かつ、刺激により細胞非接着性を発現し得る刺激応答性材料を含む刺激応答性層と、上記基材上にパターン状に配置され、細胞非接着性を有する細胞接着阻害材料を含む細胞接着阻害層と、を有し、上記細胞接着阻害層の表面が、上記刺激応答性層の表面に対して高くなるように形成され、上記細胞接着阻害層の高さの下限が、血管内皮細胞が乗り越えることができない高さであり、上限が、上記刺激応答性層上に形成されたマイクロパターン化血管内皮細胞が回収可能な高さであることを特徴とするマイクロパターン化血管内皮細胞転写基板を提供することにより、上記目的を達成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、接触させることにより、容易かつ安定的に被着体にマイクロパターン化血管内皮細胞を転写できるマイクロパターン化血管内皮細胞転写基板に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、細胞シートや細胞マイクロパターンは、再生医療などでしばしば用いられるようになってきている。
ここで、細胞シートとは、細胞間結合で細胞同士が少なくとも単層で連結されたシート状の細胞集合体を示すものであり、細胞パターンとは、所望する特定の形状として形成された細胞シートである。また、マイクロパターンとは、ミクロン(μm)スケールの幅のパターンをいい、細胞マイクロパターンとは、マイクロパターンの細胞シートである。
これらの細胞シートはシャーレなどの支持体上で細胞培養を行うことにより得られるが、支持体上で形成された細胞シートは接着分子などを介して支持体表面と強固に結合しているため、再生医療等の用途で用いる場合には、支持体から剥離する必要がある。
【0003】
細胞培養支持体から細胞シートを剥離する方法はこれまで種々検討されており、従来、酵素反応を用いて支持体と細胞間の結合を弱める方法や、細胞接着力の弱い支持体や細胞接着力の変化する支持体を使用する方法が用いられている。
【0004】
酵素反応を用いる方法としては、より具体的には、プロテアーゼ(タンパク質分解酵素)等を用いて細胞間接着分子を構成するタンパク質等を分解する方法が挙げられる。しかしながら、この方法では細胞−支持体表面の結合だけでなく、細胞−細胞間の結合も弱めてしまう。このため、この方法では、細胞シートに少なからず損傷を与えてしまうといった問題があった。
【0005】
また、細胞接着力の変化する支持体を用いる方法としては、例えば、特許文献1および2に、細胞増殖表面を温度応答性ポリマーで被覆した支持体が開示されている。
さらに特許文献3には、イオンビームを照射することにより剥離することができる剥離層に細胞を接着し、細胞を回収する方法が開示されている。また、特許文献4には、細胞パターンの形成および、その細胞パターンを回収する方法が開示されている。特許文献5には、所望の細胞を所望のパターンに沿って培養することが開示されている。
しかしながら、このような基板では、形成された細胞マイクロパターンをそのパターンを維持したまま、安定的に被着体に転写することが困難であるといった問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特公平6−104061号公報
【特許文献2】特開平5−192130号公報
【特許文献3】特開2003−082119号公報
【特許文献4】特開2005−342112号公報
【特許文献5】特開2006−8975号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記問題点に鑑みてなされたものであり、接触させることにより、容易かつ安定的に被着体にマイクロパターン化血管内皮細胞を転写できるマイクロパターン化血管内皮細胞転写基板を提供することを主目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために、本発明は、基材と、上記基材上に配置され、細胞接着性を有し、かつ、刺激により細胞非接着性を発現し得る刺激応答性材料を含む刺激応答性層と、上記基材上にパターン状に配置され、細胞非接着性を有する細胞接着阻害材料を含む細胞接着阻害層と、を有し、上記細胞接着阻害層の表面が、上記刺激応答性層の表面に対して高くなるように形成され、上記細胞接着阻害層の高さの下限が、血管内皮細胞が乗り越えることができない高さであり、上限が、上記刺激応答性層上に形成されたマイクロパターン化血管内皮細胞が回収可能な高さであることを特徴とするマイクロパターン化血管内皮細胞転写基板を提供する。
【0009】
本発明によれば、上記細胞接着阻害層の高さの下限が上述の高さであることにより、露出した上記刺激応答性層のパターンの上記マイクロパターン化血管内皮細胞を精度良く形成することができる。
また、上記細胞接着阻害層の高さの上限が上述の高さであることにより、上記細胞回収層と上記マイクロパターン化血管内皮細胞とが安定的に接触できるものとし、上記マイクロパターン化血管内皮細胞を上記刺激応答性層から転写先である細胞回収層へ上記マイクロパターン化血管内皮細胞の収縮によるパターン形状が損なわれること無く容易に転写することができる。
さらに、細胞接着性を発現している状態から細胞非接着性を発現している状態とすることにより、上記マイクロパターン化血管内皮細胞を、低侵襲な条件で上記細胞回収層等に転写することができる。
【0010】
本発明においては、上記刺激応答性材料が、温度変化により細胞非接着性を発現する温度応答性材料であることが好ましい。刺激の付与が容易だからである。
【0011】
本発明においては、上記温度応答性材料が、ポリ−N−イソプロピルアクリルアミド(PIPAAm)であることが好ましい。上記マイクロパターン化血管内皮細胞を好適な培養条件で培養でき、上記血管内皮細胞の活性を低下させる等の影響の少ない温度条件で細胞非接着性を発現するものであるため、上記マイクロパターン化血管内皮細胞を安定的に形成し、転写することができるからである。
【0012】
本発明においては、上記刺激応答性層の露出した表面の幅が、15μm〜500μmの範囲内であることが好ましい。上記マイクロパターン化血管内皮細胞を精度良く形成することができるからである。
【0013】
本発明においては、上記細胞接着阻害材料がポリエチレングリコール系材料であることが好ましい。上記血管内皮細胞との優れた接着阻害性および細胞毒性がほぼないことにより、上記マイクロパターン化血管内皮細胞を精度良く形成することに加え培養細胞に及ぼす影響が少ないからである。
【0014】
本発明は、マイクロパターン化血管内皮細胞を少なくとも含む人工組織の製造方法であって、上述のマイクロパターン化血管内皮細胞転写基板を準備し、上記刺激応答性層が細胞接着性を発現している条件で、上記刺激応答性層上に上記血管内皮細胞を播種・培養することによりマイクロパターン化血管内皮細胞を形成するマイクロパターン化血管内皮細胞形成工程と、上記マイクロパターン化血管内皮細胞形成工程後の上記刺激応答性層が細胞非接着性を発現している条件で、上記マイクロパターン化血管内皮細胞と細胞接着性を有する細胞接着層を含む細胞回収層とを接触させることにより、上記マイクロパターン化血管内皮細胞を上記細胞回収層に転写する血管内皮細胞転写工程と、を有することを特徴とする人工組織の製造方法を提供する。
【0015】
本発明によれば、上記マイクロパターン化血管内皮細胞転写基板を用いることにより、上記マイクロパターン化血管内皮細胞を精度良く形成することができ、かつ、上記マイクロパターン化血管内皮細胞を上記細胞回収層に安定的に転写することができる。
このため、上記マイクロパターン化血管内皮細胞を含む人工組織を精度良く形成することができる。
【0016】
本発明においては、上記細胞回収層が上記細胞接着層からなり、上記血管内皮細胞転写工程が、上記マイクロパターン化血管内皮細胞と上記細胞接着層とを直接接触させるものや、上記細胞回収層が上記細胞接着層と上記細胞接着層上に接着されて積層された細胞からなる細胞層とからなり、上記血管内皮細胞転写工程が上記マイクロパターン化血管内皮細胞と上記細胞層とを接触させるものとすることができる。また、上記細胞回収層上に転写された上記マイクロパターン化血管内皮細胞上に細胞からなる細胞層を接着させて積層する積層工程を有するものとすることができる。
このような工程を行うことにより、目的とする人工組織を得ることができるからである。また、複数種類の細胞を組み合わせることにより、複雑な機能を有する人工組織を形成することができるからである。
【0017】
本発明においては、上記人工組織を、上記細胞回収層から剥離する回収工程を有するものとすることができる。上記人工組織を他の人工組織と組み合わせることにより、より複雑な人工組織の構築や、移植を容易なものとすることができるからである。
【発明の効果】
【0018】
本発明は、接触させることにより、容易かつ安定的に被着体にマイクロパターン化血管内皮細胞を転写できるマイクロパターン化血管内皮細胞転写基板を提供できるといった効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明のマイクロパターン化血管内皮細胞転写基板の一例を示す概略断面図である。
【図2】本発明の人工組織の製造方法の一例を示す工程図である。
【図3】本発明のマイクロパターン化血管内皮細胞転写基板の他の例を示す概略断面図である。
【図4】本発明に用いられる細胞回収層を説明する説明図である。
【図5】本発明の人工組織の製造方法における回収工程を説明する説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明は、マイクロパターン化血管内皮細胞転写基板およびそれを用いた人工組織の製造方法に関するものである。
以下、本発明のマイクロパターン化血管内皮細胞転写基板、および人工組織の製造方法について詳細に説明する。
【0021】
A.マイクロパターン化血管内皮細胞転写基板
まず、本発明のマイクロパターン化血管内皮細胞転写基板について説明する。
本発明のマイクロパターン化血管内皮細胞転写基板は、基材と、上記基材上に配置され、細胞接着性を有し、かつ、刺激により細胞非接着性を発現し得る刺激応答性材料を含む刺激応答性層と、上記基材上にパターン状に配置され、細胞非接着性を有する細胞接着阻害材料を含む細胞接着阻害層と、を有し、上記細胞接着阻害層の表面が、上記刺激応答性層の表面に対して高くなるように形成され、上記細胞接着阻害層の高さの下限が、血管内皮細胞が乗り越えることができない高さであり、上限が、上記刺激応答性層上に形成されたマイクロパターン化血管内皮細胞が回収可能な高さであることを特徴とするものである。
【0022】
このような本発明のマイクロパターン化血管内皮細胞転写基板について図を参照して説明する。図1は、本発明のマイクロパターン化血管内皮細胞転写基板の一例を示す概略断面図である。図1に例示するように、本発明のマイクロパターン化血管内皮細胞転写基板10は、基材1と、上記基材1上に形成され、細胞接着性を有し、かつ、刺激により細胞非接着性を発現し得る刺激応答性材料を含む刺激応答性層2と、上記刺激応答性層2上にパターン状に形成され、細胞非接着性を有する細胞接着阻害材料を含む細胞接着阻害層3と、を有し、上記細胞接着阻害層3の高さ、すなわち、上記刺激応答性層2の表面から上記細胞接着阻害層3の表面までの高さtの上限および下限が上述の高さであるものである。
【0023】
ここで、本発明のマイクロパターン化血管内皮細胞転写基板を説明するために、本発明の血管内皮細胞を含む人工組織を製造する方法について図を参照して説明する。図2は、本発明の人工組織の製造方法の一例を示す工程図である。図2に例示するように、本発明の人工組織の製造方法は、上述のマイクロパターン化血管内皮細胞転写基板10を準備し、上記刺激応答性層2が細胞接着性を発現している条件で、上記刺激応答性層2上に上記血管内皮細胞11を播種・培養することにより(図2(a))、マイクロパターン化血管内皮細胞12を形成し(図2(b))、上記刺激応答性層2が細胞非接着性を発現している条件で、上記マイクロパターン化血管内皮細胞12と細胞接着性を有する細胞接着層20を含む細胞回収層30とを接触させることにより(図2(c))、上記マイクロパターン化血管内皮細胞12を上記細胞回収層30に転写し、上記マイクロパターン化血管内皮細胞12を少なくとも含む人工組織15を形成するものである(図2(d))。
なお、図2(a)〜(b)がマイクロパターン化血管内皮細胞形成工程であり、図2(c)〜(d)が血管内皮細胞転写工程である。
【0024】
従来、支持体に接着した細胞の剥離には、プロテアーゼ(タンパク質分解酵素)等の酵素を用いて、細胞間接着分子を構成するタンパク質等を分解する方法が用いられる。このような方法では、細胞−支持体表面の結合だけでなく、細胞−細胞間の結合も弱めてしまう。このため、このような従来の方法を用いて上記マイクロパターン化血管内皮細胞を回収しようとした場合には、上記マイクロパターン化血管内皮細胞にダメージを与えてしまうといった問題があった。
しかしながら、本発明においては、刺激により細胞非接着性を発現し得る刺激応答性層を用いるものであるため、このような酵素の使用を不要なものとすることができる。したがって、上記細胞−細胞間の結合を弱めることがないため、上記刺激応答性層から剥離して転写する際に、上記マイクロパターン化血管内皮細胞から血管内皮細胞が分離することや、上記マイクロパターン化血管内皮細胞のパターンが崩れることを抑制することができる。
このように、本発明によれば、細胞接着性を発現している状態から細胞非接着性を発現している状態とすることにより、上記マイクロパターン化血管内皮細胞を、低侵襲な条件で安定的に上記刺激応答性層から剥離して、上記細胞回収層等に転写することができるのである。
【0025】
さらに、本発明によれば、上記細胞接着阻害層の高さの下限が上述の高さであることにより、上記刺激応答性層に接着した血管内皮細胞が上記細胞接着阻害層を乗り越えて増殖することを効果的に抑制することができるため、露出した上記刺激応答性層のパターン形状のマイクロパターン化血管内皮細胞を精度良く形成することができる。
また、上記細胞接着阻害層の高さの上限が上述の高さであることにより、上記細胞回収層と上記マイクロパターン化血管内皮細胞とが安定的に接触できるものとし、上記マイクロパターン化血管内皮細胞を上記刺激応答性層から細胞回収層へ細胞シートの収縮によるパターン形状を損なうことなく容易に転写することができる。
このように、本発明によれば、上記マイクロパターン化血管内皮細胞を精度良く形成することができ、さらに、得られたマイクロパターン化血管内皮細胞を安定的に上記細胞回収層に転写することができるのである。
【0026】
本発明のマイクロパターン化血管内皮細胞転写基板は、上記基材、刺激応答性層および細胞接着阻害層を少なくとも有するものである。
以下、本発明のマイクロパターン化血管内皮細胞転写基板の各構成について詳細に説明する。
【0027】
1.刺激応答性層
本発明に用いられる刺激応答性層は刺激応答性材料を含むものである。また、細胞非接着性を発現している上記刺激応答性層の上記血管内皮細胞との接着力が、上記細胞回収層の上記血管内皮細胞との接着力より低く設定されているものである。
【0028】
(1)刺激応答性材料
本発明に用いられる刺激応答性材料としては、細胞接着性を有し、かつ、刺激により細胞非接着性を発現し得るものであれば特に限定されるものではなく、例えば、温度、光、pH、電位および磁力によりそれぞれ細胞接着の度合いが変化する温度応答性材料、光応答性材料、pH応答性材料、電位応答性材料、および磁力応答性材料等を挙げることができる。
本発明においては、なかでも、温度応答性材料であることが好ましい。刺激の付与が容易だからである。
なお、本発明においては、上記各刺激応答性材料の1種類のみまたは2種類以上を組み合わせて用いるものであっても良い。
【0029】
本発明に用いられる刺激応答性材料の細胞接着の度合いの変化としては、少なくとも、細胞接着性を有する状態から細胞非接着性を有する状態に変化することができるものであれば特に限定されるものではなく、可逆的に変化するものであっても良く、非可逆的に変化するものであっても良い。
【0030】
本発明に用いられる刺激応答性材料の上記刺激応答性層中の含有量としては、上記刺激応答性層が刺激により、細胞接着の度合いが所望量変化するものであれば特に限定されるものではなく、上記材料の種類等によって異なるものである。
【0031】
本発明に用いられる温度応答性材料としては、温度変化により、細胞接着の度合いが所望量変化するものであれば特に限定されるものではない。
本発明における温度応答性材料の細胞接着性を発揮する温度が、10℃〜45℃の範囲内であることが好ましく、なかでも、33℃〜40℃の範囲内であることが好ましい。上記温度領域が上述の範囲内であることにより、細胞を安定的に培養することができるからである。
【0032】
本発明における温度応答性材料の細胞非接着性を発現する温度が、1℃〜36℃の範囲内であることが好ましく、なかでも、4℃〜32℃の範囲内であることが好ましい。上記温度領域が上述の範囲内であることにより、細胞へのダメージの少ないものとすることができるからである。
【0033】
このような本発明に用いられる温度応答性材料としては、具体的には、ポリ−N−イソプロピルアクリルアミド(PIPAAm)、ポリ−N−n−プロピルアクリルアミド、ポリ−N−n−プロピルメタクリルアミド、ポリ−N−エトキシエチルアクリルアミド、ポリ−N−テトラヒドロフルフリルアクリルアミド、ポリ−N−テトラヒドロフルフリルメタクリルアミド、及び、ポリ−N,N−ジエチルアクリルアミド等を挙げることができ、なかでもPIPAAm、ポリ−N−n−プロピルメタクリルアミド、ポリ−N,N−ジエチルアクリルアミドを好ましく用いることができ、特に、PIPAAmを好ましく用いることができる。上記血管内皮細胞を好適な培養条件で培養でき、上記血管内皮細胞の活性を低下させる等の影響の少ない温度条件で細胞非接着性を発現するものであるため、上記マイクロパターン化血管内皮細胞を安定的に形成し、剥離、回収、転写することができるからである。
本発明においては、上記温度応答性材料が1種類の化合物のみからなるものであっても良く、2種類以上含むものであっても良い。
【0034】
本発明に用いられる光応答性材料としては、光照射の有無により細胞接着の度合いが変化するものであれば特に限定されるものではなく、例えば、特開2005−210936号公報に開示されるような、光触媒や、アゾベンゼン、ジアリールエテン、スピロピラン、スピロオキサジン、フルギドおよびロイコ色素等の光応答成分を含むものを用いることができる。
【0035】
本発明に用いられる電位応答性材料としては、電位の印加により、細胞接着の度合いが変化するものであれば特に限定されるものではなく、例えば、特開2008−295382号公報に開示されるような、電極と、RGD配列を含むペプチド等の細胞接着性部分を有し、上記電極表面にチオレートを介して結合するアルカンチオール、システイン、アルカンジスルフィド等のスペーサ物質とを有するものを挙げることができる。
【0036】
本発明に用いられる磁力応答性材料としては、磁力の付与・除去により細胞接着の度合いが変化するものであれば特に限定されるものではなく、例えば、特開2005−312386号公報に開示されるような、フェライト等の磁性粒子を正電荷リポソームに封入した磁性粒子封入正電荷リポソームを挙げることができる。
【0037】
(2)刺激応答性層
本発明に用いられる刺激応答性層は、少なくとも刺激によって細胞接着性を発現している状態から、細胞非接着性を発現している状態に細胞接着の度合いが変化し得るものである。
【0038】
ここで、上記刺激応答性層が細胞接着性を発現しているとは、上記刺激応答性層上で、細胞が接着、伸展しやすく、細胞接着伸展率が高い状態であることをいうものである。本発明において、このような細胞接着伸展率が高い状態としては、具体的には、細胞接着伸展率が60%以上である状態とすることができる。
本発明においては、なかでも、80%以上であることが好ましい。効率的に細胞を培養し、マイクロパターン化血管内皮細胞を形成させることができるからである。
【0039】
なお、本発明における細胞接着伸展率は、播種密度が4000cells/cm以上30000cells/cm未満の範囲内でウシ血管内皮細胞を播種し、37℃インキュベーター内(CO濃度5%)に保管し、14.5時間培養した時点で接着伸展している細胞の割合({(接着している細胞数)/(播種した細胞数)}×100(%))を表すものである。
また、上記細胞の播種は、10%FBS(血清)入りDMEM培地に懸濁させて培養基材上に播種し、その後、上記細胞ができるだけ均一に分布するよう、上記細胞が播種された培養基材をゆっくりと振とうすることにより行うものである。
さらに、細胞接着伸展率の測定は、測定直前に培地交換を行って接着していない細胞を除去した後に行う。また、細胞接着伸展率の測定個所としては、細胞の存在密度が特異的になりやすい箇所(例えば、存在密度が高くなりやすい所定領域の中央、存在密度が低くなりやすい所定領域の周縁)を除いて測定を行うものである。
【0040】
また、上記刺激応答性層が細胞非接着性を発現している場合には、上記刺激応答性層上で細胞が接着、伸展しにくく、細胞接着伸展率が低い状態であることをいうものである。本発明において、このような細胞接着伸展率が低い状態としては、具体的には、上記細胞接着伸展率が5%以下である状態とすることができる。本発明においては、なかでも2%以下であることが好ましい。
したがって、上記刺激応答性層に細胞を播種すると、細胞接着性を発現している際には細胞が上記刺激応答性層に接着するが、細胞非接着性を発現している際には細胞が上記刺激応答性層に接着することを阻害されるため、上記刺激応答性層に接着していた細胞を剥離しやすいものとすることができる。
【0041】
また、上記刺激応答性層の露出した表面の幅、すなわち、上記細胞接着阻害層の開口部の幅であり、上記マイクロパターン化血管内皮細胞の幅となる幅としては、上記血管内皮細胞が接着・培養可能なものであり、マイクロパターン、すなわち、ミクロン(μm)スケールのものであれば特に限定されるものではないが、具体的には、15μm〜500μmの範囲内であることが好ましく、なかでも40μm〜80μmの範囲内であることが好ましい。上記幅が上述の範囲内であることにより、血管内皮細胞の管腔化が容易だからである。
なお、本願における各構成の幅、高さ等については、特に断りがない限り乾燥時のものである。
【0042】
本発明に用いられる刺激応答性層の形状としては、通常、上記基材の全表面を被覆するものが用いられるが、上記基材上にパターン状に形成されるものであっても良い。
【0043】
本発明に用いられる刺激応答性層の膜厚としては、刺激応答性を発揮することができるものであれば特に限定されるものではなく、具体的には、0.5nm〜300nmの範囲内であることが好ましく、なかでも1nm〜100nmの範囲内であることが好ましい。
【0044】
本発明に用いられる刺激応答性層は、上記刺激応答性材料を含むものであるが、刺激応答性を阻害しない範囲内において、必要に応じて、レベリング剤、可塑剤、界面活性剤、消泡剤、増感剤等の添加剤や、ポリビニルアルコール、不飽和ポリエステル、アクリル樹脂、ポリエチレン、ジアリルフタレート、エチレンプロピレンジエンモノマー、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、ポリウレタン、メラミン樹脂、ポリカーボネート、ポリ塩化ビニル、ポリアミド、ポリイミド、スチレンブタジエンゴム、クロロプレンゴム、ポリプロピレン、ポリブチレン、ポリスチレン、ポリ酢酸ビニル、ナイロン、ポリエステル、ポリブタジエン、ポリベンズイミダゾール、ポリアクリルニトリル、エピクロルヒドリン、ポリサルファイド、ポリイソプレンや、ポリエチレングリコール、MPCポリマー(商品名)等の両性イオン高分子等のバインダー樹脂を含むものであっても良い。
【0045】
また、本発明における刺激応答性層は、必要に応じて、表面処理が施されているものとすることができる。表面処理の種類により、種々の機能を付与することができるからである。
本発明における表面処理としては、例えば、シラン処理、すなわち、上記刺激応答性層の表面がシラン処理されているものを挙げることができる。シラン処理を施すことにより、例えば、上記細胞接着阻害層が上記刺激応答性層上に形成される場合において、上記細胞接着阻害層との結合を確実なものとすることができ、上記細胞接着阻害層のパターン、すなわち、上記刺激応答性層の露出した表面のパターン形状を精度良く形成することができるからである。したがって、所望のパターンのマイクロパターン化血管内皮細胞をより確実に得ることができるからである。
【0046】
このようなシラン処理としては、例えば、シランカップリング剤を塗布するものすることができる。
【0047】
本発明において、シラン処理に用いられるシランカップリング剤としてはメタクリロキシシラン、ビニルシラン、アミノシラン、エポキシシラン等を挙げることができ、なかでも、メタクリロキシシランを好ましく用いることができる。
【0048】
本発明におけるシランカップリング剤の塗布方法としては、上記シランカップリング剤を溶解しうる有機溶媒を使用して溶解させ、これを慣用の塗布方法、例えば、スピンナー法、ダイコート法、浸漬法、グラビア印刷法、CVD(化学蒸着法)等により上記刺激応答性層を塗布する方法を挙げることができる。例えば、スピンナー法で行う場合、条件は、700rpm〜2000rpmで、3秒〜20秒程度とすることができる。
【0049】
なお、表面をシラン処理した刺激応答性層において、シラン処理層は刺激応答性材料と一体もしくは、区別不能な状態となっており、別個独立したそれぞれの層を形成しているのではないと考えられる。このため、本願においては、刺激応答性層という場合には、シラン処理を施したものを含めて言う場合がある。なお、これらは理論もしくは仮定であって、本発明を限定するものではない。
【0050】
このようなポリマー被覆量またはシラン処理被覆量は、例えば被覆部若しくは非被覆部の染色や蛍光物質の染色による分析、更に接触角測定等による表面分析、X線光電子分光法測定(XPS)または飛行時間二次イオン質量分析計(TOF−SIMS)を単独または併用して求めることが出来る。
【0051】
本発明に用いられる刺激応答性層の形成方法としては、所望の膜厚で形成可能であれば特に限定されるものではない。
具体的には、上記刺激応答性材料または上記刺激応答性材料を形成可能なモノマー成分等を含む刺激応答性材料組成物をスピンナー法、ダイコート法等の公知の塗布方法により塗布する方法を挙げることができる。
また、上記刺激応答性層が上記基材上にパターン状に形成される場合には、上記刺激応答性材料組成物の塗膜を形成した後に、フォトリソ法によりパターンニングする方法や、上記刺激応答性材料組成物を、グラビア印刷フレキソ印刷、スクリーン印刷、インクジェット法等のパターン印刷法を用いてパターン状に塗布する方法を用いることができる。
また、上記刺激応答性層が、上記刺激応答性材料として光触媒等の無機物のみからなるものである場合には、スパッタリング法、CVD法、真空蒸着法等の真空製膜法を用いる方法を挙げることができる。均一な膜厚の層とすることができるからである。
【0052】
2.細胞接着阻害層
本発明に用いられる細胞接着阻害層は、上記細胞接着阻害材料を含み、高さの下限が上記血管内皮細胞が乗り越えることができない高さであり、上限が、上記刺激応答性層上に形成されたマイクロパターン化血管内皮細胞が回収可能な高さである。
【0053】
(1)細胞接着阻害材料
本発明に用いられる細胞接着阻害材料は、細胞非接着性を有するものである。
【0054】
このような細胞接着阻害材料としては、上記血管内皮細胞と接着阻害性を有するものであれば良く、具体的には、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリエチレングリコールジアクリレート、ポリエチレングリコールメタクリレート等を用いたエチレングリコール系材料、デシルメトキシシランなどの長鎖アルキル系材料、フルオロアルキルシランなどのフッ素系材料、ポリビニルアルコール(PVA)、ポリアクリルアミドなどの親水性材料、MPCポリマー等のリン脂質材料、BSAタンパク等が挙げられる。
本発明においては、なかでも、ポリエチレングリコールや、ポリエチレングリコールジアクリレート、ポリエチレングリコールメタクリレート等のポリエチレングリコールを含む材料であるポリエチレングリコール系材料を好ましく用いることができる。上記血管内皮細胞との優れた接着阻害性および細胞毒性をほとんど示さないことにより、上記マイクロパターン化血管内皮細胞を精度良く形成することができるからである。
【0055】
本発明に用いられる細胞接着阻害材料の上記細胞接着阻害層中の含有量としては、上記細胞接着阻害層を、所望の細胞非接着性を有するものとするものであれば特に限定されるものではなく、上記材料の種類等によって異なるものである。
【0056】
(2)細胞接着阻害層
本発明に用いられる細胞接着阻害層は、上記細胞接着阻害層の表面が、上記刺激応答性層の表面に対して高くなるように形成され、細胞非接着性を有するものである。
【0057】
このような細胞接着阻害層としては、具体的には、既に説明した図1に示すように、刺激応答性層上に形成されるものであっても良く、図3に例示するように、上記基材上に直接形成され、上記刺激応答性層よりも厚みが厚くなるように形成されるものであっても良い。
なお、図3中の符号については、図1と同一の部材を示すものであるので、ここでの説明は省略する。
【0058】
上記細胞接着阻害層の高さ、すなわち、上記細胞接着阻害層の表面の上記刺激応答性層の表面に対する距離の上限としては上記刺激応答性層上に形成されたマイクロパターン化血管内皮細胞が回収可能な高さであれば特に限定されるものではないが、なかでも本発明においては、5μm以下であることが好ましく、特に、4.6μm以下であることが好ましい。上記高さが上述した範囲であることにより、上記刺激応答性層上の血管内皮細胞と上記細胞回収層とが安定的に接触でき、上記マイクロパターン化血管内皮細胞を上記細胞回収層に細胞シートが収縮することなくパターン形状を維持したまま容易に転写できるからである。
また、上記高さの下限としては、上記血管内皮細胞が乗り越えることができない高さであれば良く、用いる細胞接着阻害材料の種類により異なるものであるが、具体的には、2.5μm以上であることが好ましい。本発明においては、なかでも3.0μm以上であることが好ましく、特に3.5μm以上であることが好ましい。上記高さの下限が上述の範囲であることにより、上記血管内皮細胞が上記細胞接着阻害層上まで増殖したり、上記細胞接着阻害層を介して隣接する刺激応答性層上の血管内皮細胞同士が上記細胞接着阻害層上で接触することを抑制することができる。このため、上記マイクロパターン化血管内皮細胞を精度良く形成することができるからである。
【0059】
本発明に用いられる細胞接着阻害層の細胞接着の度合いとしては、所望の細胞非接着性を示すものであれば特に限定されるものではなく、上記刺激応答性層が細胞非接着性を発現している場合の細胞接着の度合いと同様とすることができる。
【0060】
本発明に用いられる細胞接着阻害層のパターン形状としては、所望のマイクロパターン化血管内皮細胞のパターン形状に開口部を有するものであれば特に限定されるものではなく、例えば、ライン状とすることができる。
【0061】
本発明に用いられる細胞接着阻害層の幅としては、上記刺激応答性層に接着した血管内皮細胞同士が、上記細胞接着阻害層上で接着せず、所望のパターンのマイクロパターン化血管内皮細胞を形成することができるものであれば特に限定されるものではなく、例えば、5μm以上であることが好ましく、なかでも10μm以上であることが好ましい。上記幅が上述の範囲であることにより、上記細胞接着阻害層上に細胞が増殖することを抑制することができるからである。
【0062】
本発明に用いられる細胞接着阻害層が含有可能な添加剤やバインダー樹脂、および形成方法としては、上記「1.刺激応答性層」の項に記載の内容と同様とすることができる。
【0063】
3.基材
本発明に用いられる基材としては、上記刺激応答性層および細胞接着阻害層を支持することができるものであれば特に限定されるものではない。
このような基材としては、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリスチレン(PS)、ポリカーボネート(PC)、TAC(トリアセチルセルロース)、ポリイミド(PI)、ナイロン(Ny)、低密度ポリエチレン(LDPE)、中密度ポリエチレン(MDPE)、塩化ビニル、塩化ビニリデン、ポリフェニレンサルファイド、ポリエーテルサルフォン、ポリエチレンナフタレート、ポリプロピレン、ウレタンアクリレートなどのアクリル系材料、セルロース、ガラス等が挙げられる。ポリ乳酸、ポリグリコール酸、ポリカプロラクタン、もしくはその共重合体のような生分解性ポリマーであってもよい。また、基材が多孔質なものであってもよい。
本発明においては、なかでも、ポリエチレンテレフタレート、ポリスチレン、ポリカーボネートを好ましく用いることができ、特に、ポリエチレンテレフタレートを好ましく用いることができる。透明性、寸法安定性、機械的性質、電気的性質、耐薬品性等の性質に優れているからである。
また、上記刺激応答性層を基材として用いるものであっても良い。
【0064】
本発明における基材の厚さとしては、上記刺激応答性層等を安定的に支持することができるものであれば特に限定されるものではないが、例えば、10μm〜1000μmの範囲内、好ましくは、50μm〜200μmの範囲内である。
【0065】
4.細胞回収層
本発明における細胞回収層は、細胞接着性を有する細胞接着層を少なくとも含むものであり、上記刺激応答性層上に形成されたマイクロパターン化血管内皮細胞と接触させることにより、上記マイクロパターン化血管内皮細胞を上記刺激応答性層から転写し回収できるものである。
【0066】
(1)細胞接着層
本発明に用いられる細胞接着層としては、血管内皮細胞を含む細胞との接着性を有し、細胞非接着性を発現している上記刺激応答性層上の上記マイクロパターン化血管内皮細胞と所定時間接触させた後に細胞を回収することができるものであれば特に限定されるものではなく、一般的な細胞培養基板等に用いられる細胞接着材料を含むものを用いることができる。
【0067】
本発明に用いられる細胞接着材料としては、例えば、物理化学的特性により細胞接着性を有する材料や生物化学的に細胞接着性を有する材料を挙げることができる。
本発明において、上記物理化学的特性により細胞接着性を有する材料としては、例えば、親水化ポリスチレン、ポリリジン等の塩基性高分子、アミノプロピルトリエトキシシラン、N−(2−アミノエチル)−3−アミノプロピルトリメトキシシラン等の塩基性化合物およびそれらを含む縮合物等が挙げられる。
また、生物化学的に細胞接着性を有する材料としては、例えば、フィブロネクチン、ラミニン、テネイシン、ビトロネクチン、RGD(アルギニン−グリシン−アスパラギン酸)配列含有ペプチド、YIGSR(チロシン−イソロイシン−グリシン−セリン−アルギニン)配列含有ペプチド、コラーゲン、アテロコラーゲン、ゼラチン、およびこれらの混合物、例えばマトリゲル、PuraMatrix、フィブリン等が挙げられる。さらに、各種ガラス、プラズマ処理を施したポリスチレン、ポリプロピレンや、不織布、紙等が挙げられる。
本発明においては、なかでも、ゼラチンを好ましく用いることができ、特に豚皮由来ゼラチン(Gelatin from porcine skin)を好ましく用いることができる。上記血管内皮細胞との優れた接着力および低い細胞毒性を有することにより、上記マイクロパターン化血管内皮細胞の転写を安定的に行うことができるからである。また、上記細胞回収層を加熱することにより、容易に上記マイクロパターン化血管内皮細胞を含む人工組織を上記細胞回収層から剥離させ、回収することができるからである。その結果、得られた人工組織の利用が容易だからである。
【0068】
本発明に用いられる細胞接着材料の細胞接着層中の含有量としては、上記血管内皮細胞を安定的に転写できるものであれば特に限定されるものではなく、上記材料の種類等によって異なるものである。
【0069】
本発明に用いられる細胞接着層が含有可能な添加剤やバインダー樹脂、ならびに膜厚および形成方法としては、上記「1.刺激応答性層」の項に記載の内容と同様とすることができる。
【0070】
(2)細胞回収層
本発明に用いられる細胞回収層は、上記細胞接着層を少なくとも含有するものであるが、必要に応じて上記細胞接着層上に細胞からなる細胞層を有するものとすることができる。上記細胞回収層が細胞層を有するものであることにより、このような細胞層を上記マイクロパターン化血管内皮細胞と組み合わせて、複数種類の細胞を含む複雑な人工組織を形成することができるからである。例えば、図4(a)に例示するように、上記マイクロパターン化血管内皮細胞12を、上記細胞接着層20および上記細胞接着層20上に形成された細胞からなる細胞層14を含む細胞回収層30に接着、すなわち、上記細胞回収層30に含まれる細胞層14に接着させ、上記刺激応答性層2から転写することにより(図4(b))、上記細胞層14およびマイクロパターン化血管内皮細胞12を含む人工組織15を形成することが可能となる(図4(c))。
なお、図4中の符号については、図1および図2と同一の部材を示すものであるので、ここでの説明は省略する。
【0071】
本発明において用いられる細胞としては、上記血管内皮細胞と共に用いられるものであれば特に限定されるものではなく、種々の細胞、例えば生体内の各組織、臓器を構成する上皮細胞や内皮細胞、収縮性を示す骨格筋細胞、平滑筋細胞、心筋細胞、神経系を構成するニューロン、グリア細胞、線維芽細胞、生体の代謝に関係する肝実質細胞、非肝実質細胞や脂肪細胞、分化能を有する細胞として、種々組織に存在する幹細胞、さらには骨髄細胞、ES細胞、iPS細胞、幹細胞、ES細胞やiPS細胞から分化誘導した種種の細胞等を用いることができる。
また上記細胞は、1種類のみであっても良く、2種類以上用いるものであっても良い。
【0072】
本発明において用いられる細胞層の形成方法としては、上記細胞層を精度良く積層できる方法であれば良く、例えば、後述する「B.人工組織の製造方法」の項に記載の積層工程を行う方法を挙げることができる。
【0073】
本発明に用いられる細胞回収層の細胞接着の度合いとしては、所望の細胞接着性を示し、細胞非接着性を発現している刺激応答性層よりも上記血管内皮細胞との接着力が大きく、細胞非接着性を発現している刺激応答性層上のマイクロパターン化血管内皮細胞と接触させることにより、上記マイクロパターン化血管内皮細胞を上記細胞回収層上に回収できるものであれば特に限定されるものではなく、例えば、上記刺激応答性層が細胞接着性を発現している場合の細胞接着の度合いと同様とすることができる。
なお、上記細胞回収層の細胞接着の度合いは、上記細胞回収層が細胞を有するものである場合、すなわち、上記細胞接着層上に細胞層を有するものである場合には、上記細胞層を含む細胞回収層の表面の測定値である。
【0074】
5.マイクロパターン化血管内皮細胞転写基板
本発明のマイクロパターン化血管内皮細胞転写基板は、基材、刺激応答性層および細胞接着阻害層を少なくとも含むものである。
本発明においては、上記基材および刺激応答性層の間に形成され、上記基材および刺激応答性層の密着性を優れたものとすることができる接着剤を含む接着剤層を有するものであっても良い。
また、上記基材層に、ポリスチレンディシュ、シャーレの底面に固定するための粘着層を有するものであっても良い。
【0075】
本発明に用いられる接着剤としては、例えば、ポリエステル、アクリル酸エステル、ポリウレタン、ポリエチレンイミン、シランカップリング剤、ペルフルオロオクタンスルホン酸(PFOS)等を挙げることができ、なかでもポリエステル、アクリル酸エステル、ポリウレタン等が好ましい。上記基材および刺激応答性層の密着性をより優れたものとすることができるからである。
【0076】
本発明における接着剤層の形成方法としては、所望の膜厚の接着剤層を形成することができるものであれば特に限定されるものではない。例えば、上記基材上に、接着性付与塗料をインラインコート方式またはオフラインコート方式にて塗布することができる。接着性付与塗料としては、上記接着剤と架橋剤成分のメラミン系樹脂等を組み合わせたものが例示できる。インラインコート方式とは、上記基材の成膜工程のなかで塗布する方式であり、オフラインコート方式とは、成膜にて得られた基材をコーターにかけ、塗料を塗布・乾燥する方式である。塗料の塗布方式としては、ロールコート法、グラビアコート法、マイクログラビアコート法、リバースコート法、リバースグラビアコート法、バーコート法、ロールブラッシュ法、エアーナイフコート法、カーテンコート法、ダイコート法などの任意の塗布方式を適宜、単独または組み合わせて適用することができる。
【0077】
本発明に用いられる粘着層としては、公知の粘着剤を塗布して形成することにより得ることができる。また、必要に応じて、上記粘着層表面にセパレータが形成されていても良い。ディッシュ等に貼り付ける直前にセパレータを剥離するものであることにより、上記粘着層にゴミ等が付着することを防ぐことができるからである。
【0078】
B.人工組織の製造方法
次に、本発明の人工組織の製造方法について説明する。
本発明の人工組織の製造方法は、マイクロパターン化血管内皮細胞を少なくとも含む人工組織の製造方法であって、上述のマイクロパターン化血管内皮細胞転写基板を準備し、上記刺激応答性層が細胞接着性を発現している条件で、上記刺激応答性層上に上記血管内皮細胞を播種・培養することにより上記マイクロパターン化血管内皮細胞を形成するマイクロパターン化血管内皮細胞形成工程と、上記マイクロパターン化血管内皮細胞形成工程後の上記刺激応答性層が細胞非接着性を発現している条件で、上記マイクロパターン化血管内皮細胞と細胞接着性を有する細胞接着層を含む細胞回収層とを接触させることにより、上記マイクロパターン化血管内皮細胞を上記細胞回収層に転写する血管内皮細胞転写工程と、を有することを特徴とするものである。
【0079】
このような本発明の人工組織の製造方法については、既に説明した図2を例示することができる。
【0080】
本発明によれば、上記マイクロパターン化血管内皮細胞転写基板を用いることにより、上記マイクロパターン化血管内皮細胞を精度良く形成することができ、かつ、上記マイクロパターン化血管内皮細胞を上記細胞回収層に安定的に転写することができる。
このため、上記マイクロパターン化血管内皮細胞を含む人工組織を精度良く形成することができる。
【0081】
本発明の人工組織の製造方法は、少なくとも、上記マイクロパターン化血管内皮細胞形成工程および血管内皮細胞転写工程を含むものである。
以下、本発明の人工組織の製造方法の各工程について詳細に説明する。
【0082】
1.マイクロパターン化血管内皮細胞形成工程
本発明におけるマイクロパターン化血管内皮細胞形成工程は、上述のマイクロパターン化血管内皮細胞転写基板を準備し、上記刺激応答性層が細胞接着性を発現している条件で、上記刺激応答性層上に上記血管内皮細胞を播種・培養することによりマイクロパターン化血管内皮細胞を形成する工程である。
【0083】
本工程において用いられる血管内皮細胞は、培養により血管を形成する細胞であれば特に限定されるものではなく、各生物、特に動物より得られるものを用いることができる。
【0084】
本工程において、上記刺激応答性層が細胞接着性を有する条件とする方法としては、上記刺激応答性層を構成する刺激応答性材料の種類により異なるものであり、上述の細胞接着性を発揮することができる条件とすることができる方法であれば特に限定されるものではない。
具体的には、上記刺激応答性材料がPIPAAmである場合には、上記刺激応答性層を32℃より高い温度条件に設定されたインキュベーター内に静置する方法等を用いることができる。
【0085】
本工程において上記血管内皮細胞を播種する方法としては、上記刺激応答性層上に均一に血管内皮細胞を播種する方法であれば特に限定されるものではなく、一般的な播種方法を用いることができる。例えば、上記マイクロパターン化血管内皮細胞転写基板を培地中に浸漬させた状態で、上記血管内皮細胞を播種する方法を挙げることができる。
【0086】
本工程において上記血管内皮細胞を培養する方法としては、上記刺激応答性層に接着したマイクロパターン化血管内皮細胞を形成することができる方法であれば特に限定されるものではなく、一般的な培養方法を用いることができる。
【0087】
本工程において形成されるマイクロパターン化血管内皮細胞は、血管内皮細胞同士が結合しているものであり、上記刺激応答性層から剥離した場合であっても、細胞同士が結合した状態を維持できるものである。また、マイクロパターン、すなわち、ミクロン(μm)スケール幅の上記刺激応答性層のパターン、つまり、ミクロンスケール幅で形成された上記細胞接着阻害層の開口部のパターン形状を有するものである。
【0088】
なお、本工程に用いられるマイクロパターン化血管内皮細胞転写基板については、上記「A.マイクロパターン化血管内皮細胞転写基板」の項に記載の内容と同様であるので、ここでの説明は省略する。
【0089】
2.血管内皮細胞転写工程
本発明における血管内皮細胞転写工程は、上記マイクロパターン化血管内皮細胞形成工程後の上記刺激応答性層が細胞非接着性を発現している条件で、上記マイクロパターン化血管内皮細胞と細胞接着性を有する細胞接着層を含む細胞回収層とを接触させることにより、上記マイクロパターン化血管内皮細胞を上記細胞回収層に転写し、上記マイクロパターン化血管内皮細胞を少なくとも含む人工組織を形成する工程である。
【0090】
本工程において上記刺激応答性層を細胞非接着性が発現している条件とする方法としては、上記刺激応答性層に含まれる刺激応答性材料の種類により異なるものである。
具体的には、上記刺激応答性材料がPIPAAmである場合には、上記マイクロパターン化血管内皮細胞が付着したマイクロパターン化血管内皮細胞転写基板を、32℃以下の温度に設定されたインキュベーター内に静置する方法等を用いることができる。
【0091】
本工程において、上記マイクロパターン化血管内皮細胞と上記細胞回収層とを接触させることにより、上記マイクロパターン化血管内皮細胞を上記細胞回収層に転写する方法としては、上記マイクロパターン化血管内皮細胞形成工程後の上記刺激応答性層が細胞非接着性を発現している条件で、接触させる方法であれば特に限定されるものではなく、上記マイクロパターン化血管内皮細胞と上記細胞回収層とを接触させた後に、上記刺激応答性層が細胞非接着性を発現している条件とし転写する方法であっても良く、上記刺激応答性層が細胞非接着性を発現している条件とした後に、上記マイクロパターン化血管内皮細胞と上記細胞回収層とを接触させるものであっても良い。
本工程においては、なかでも、上記マイクロパターン化血管内皮細胞と上記細胞回収層とを接触させた後に、上記刺激応答性層が細胞非接着性を発現している条件とし転写する方法であることが好ましい。上記マイクロパターン化血管内皮細胞をそのマイクロパターンをより安定的に維持して転写することができるからである。
【0092】
本工程におけるマイクロパターン化血管内皮細胞と上記細胞回収層とを接触させる場所としては、培地内であることが望ましい。
【0093】
また、本工程においては、上記刺激応答性層に細胞非接着性を発現させた後に、上記刺激応答性層にピペッティング等の外部応力を加える処理を行うものであっても良い。上記マイクロパターン化血管内皮細胞をより安定的に転写させることができるからである。
【0094】
本工程における細胞回収層としては、細胞接着層からなり、本工程が、上記マイクロパターン化血管内皮細胞と、上記細胞接着層とを直接接触させるものるものであっても良く、上記細胞接着層と、上記細胞接着層上に接着されて積層された細胞からなる細胞層と、からなり、本工程が、上記マイクロパターン化血管内皮細胞と、上記細胞層とを接触させるものであっても良い。
このような工程を行うことにより、目的とする人工組織を得ることができるからである。また、複数種類の細胞を組み合わせることにより、複雑な機能を有する人工組織を形成することができるからである。
なお、このような細胞回収層については、上記「A.マイクロパターン化血管内皮細胞転写基板」の項に記載の内容と同様であるので、ここでの説明は省略する。
【0095】
3.人工組織の製造方法
本発明の人工組織の製造方法は、上記マイクロパターン化血管内皮細胞形成工程および血管内皮細胞転写工程を少なくとも含むものであるが、必要に応じて他の工程を有するものであっても良い。
このような他の工程としては、上記細胞回収層上に転写された上記マイクロパターン化血管内皮細胞上に細胞からなる細胞層を接着させて積層する積層工程を挙げることができる。上記マイクロパターン化血管内皮細胞に複数種類の細胞を組み合わせることにより、より複雑な機能を有する人工組織を形成できるからである。
また、上記人工組織を上記細胞回収層から剥離する回収工程等を挙げることができる。上記人工組織を他の人工組織と組み合わせることによる、より複雑な人工組織の構築や、移植を容易なものとすることができるからである。
【0096】
(1)積層工程
本発明における積層工程は、上記細胞回収層上に転写された上記マイクロパターン化血管内皮細胞上に細胞からなる細胞層を接着させて積層する工程である。
本工程において、上記細胞層を積層する方法としては、例えば、上記マイクロパターン化血管内皮細胞上に、直接、細胞を播種・培養する方法や、細胞を培養することができ、得られた細胞層を転写することができる細胞転写用基板を用いる方法を挙げることができる。
本態様においては、なかでも上記細胞転写用基板を用いる方法であることが好ましい。細胞層を安定的に積層することができるからである。
【0097】
本工程に用いられる細胞転写用基板としては、上記細胞層を形成でき、上記マイクロパターン化血管内皮細胞上に上記細胞層を転写できるものであれば良く、具体的には、細胞接着性を有し、かつ、上記細胞との接着力が上記マイクロパターン化血管内皮細胞の上記細胞に対する接着力より低いものとなる細胞培養層を有するものを用いることができる。
【0098】
このような細胞培養層としては、細胞接着の度合いが変化しないものであっても良いが、なかでも、細胞接着性を有し、かつ、刺激により細胞非接着性を発現し得る刺激応答性を有するものであることが好ましい。上記積層工程を、上記細胞培養層を有する細胞転写用基板を準備し、上記細胞培養層が細胞接着性を発現している条件で、上記細胞培養層上に上記細胞を播種・培養することにより細胞層を形成する細胞層形成工程と、上記細胞層形成工程後の上記細胞培養層が細胞非接着性を発現している条件で、上記細胞層と上記マイクロパターン化血管内皮細胞とを接触させることにより、上記細胞層を上記マイクロパターン化血管内皮細胞上に転写する細胞転写工程と、を有するものとすることができ、上記細胞層の形成および転写を容易なものとすることができるからである。
【0099】
また、本工程に用いられる細胞転写用基板は、必要に応じて上記細胞培養層上に細胞接着阻害層をパターン状に有するものであっても良い。上記細胞層をパターン状に形成できるからである。
【0100】
本工程に用いられる刺激応答性を有する細胞培養層および細胞接着阻害層としては、具体的には、上記「A.マイクロパターン化血管内皮細胞転写基板」の項に記載の刺激応答性層および細胞接着阻害層と同様とすることができる。
また、細胞接着の度合いが変化しない細胞培養層としては、上記「A.マイクロパターン化血管内皮細胞転写基板」の項に記載の細胞回収層に含まれる細胞接着層と同様とすることができる。
また、上記細胞転写用基板に細胞を播種・培養する方法および上記細胞層を転写する方法としては、一般的な方法を用いることができ、例えば、上記「1.マイクロパターン化血管内皮細胞形成工程」および「2.血管内皮細胞転写工程」に記載の方法と同様とすることができる。
また、上記細胞転写用基板における細胞培養層が刺激応答性を有する場合において、細胞接着性を発現する条件とする方法、および細胞培養層が細胞非接着性を発現している条件とする方法としては、上記「1.マイクロパターン化血管内皮細胞形成工程」および「2.血管内皮細胞転写工程」に記載の方法と同様とすることができる。
【0101】
また、本工程において細胞層を構成する細胞としては、本発明の人工組織の製造方法により製造される人工組織の用途に応じて適宜選択されるものであり、「A.マイクロパターン化血管内皮細胞転写基板」の項に記載されたものと同様とすることができる。
【0102】
(2)回収工程
本発明における回収工程は、上記人工組織を、上記細胞回収層から剥離する工程である。
【0103】
本工程において、上記人工組織を、上記細胞回収層から剥離する方法としては、上記人工組織を安定的に剥離することができる方法であれば特に限定されるものではない。
このような方法としては、例えば、移植先や、他の人工組織等の被着体との接着力の差により剥離する方法、より具体的には、上記細胞回収層からの剥離時において、上記人工組織に対する接着力が上記被着体よりも低いものとすることができる細胞回収層を用いる方法を挙げることができる。
具体的には、本工程においては、上記細胞回収層に含まれる細胞接着層がゼラチンを含むものである場合には、上記細胞回収層から剥離する方法が、上記細胞接着層に上記人工組織と被着体とを接触させた後、培養温度に保温した状態にすること方法であることが好ましい。ゼラチンは培養に適した温度付近、具体的には、33℃〜40℃の範囲内に温めることにより溶解し、上記人工組織から除去することができる。このため、図5に例示するように、上記人工組織15を上記被着体40と接触させ(図5(a))、接触させた状態で、上記細胞接着層20を培養温度に保温(加熱)し(図5(b))、上記細胞接着層を除去することにより(図5(c))、容易に上記人工組織を回収することができるからである。
また、用いる細胞接着層がセルロース膜、PVDF膜、パーチメント紙等である場合には、上記細胞接着層から剥離する方法として、上記細胞接着層に水を滴下し吸湿させることにより、上記細胞接着層の人工組織との接着力を低下させる方法を用いることができる。
なお、図5中の符号については、図1および図2と同一の部材を示すものであるので、ここでの説明は省略する。
【0104】
なお、本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。上記実施形態は、例示であり、本発明の特許請求の範囲に記載された技術的思想と実質的に同一な構成を有し、同様な作用効果を奏するものは、いかなるものであっても本発明の技術的範囲に包含される。
【実施例】
【0105】
以下、本発明について実施例および比較例を用いて具体的に説明する。
【0106】
[実施例1]
(1−1) 温度応答性フィルムの作製
N−イソプロピルアクリルアミドを、最終濃度20重量%になるようにイソプロピルアルコール(IPA)に溶解させた。市販の易接着性ポリエチレンテレフタレートフィルム(三光産業社より入手、透明50−Fセパ1090)(以下において「易接着PET」と略することがある)を調達し、これを10cm角に切断した。ここに上記溶液を、易接着PETの易接着面に展開し、ミヤバーでコーティングした。電子線照射装置(岩崎電気社製)を用いて該サンプル上に電子線照射を行い、該溶液をグラフト重合した。このときの電子線照射線量は300kGyであった。
【0107】
(1−2) 細胞接着阻害材料の固定化
メタクリロキシシラン(モメンティブパフォーマンスマテリアルズ社より入手、TSL8370)を用意し、これをイソプロピルアルコール(IPA)で0.1重量%になるように希釈した。
上記で得られたフィルムを、ガラスにテープで固定し、スピンナー(ミカサ製)を用いて、メタクリロキシシランをコーティングし、シラン処理を行った。
次いで、ポリエチレングリコールジアクリレート(Polyethylene glycol diacrylate)(以下、PEGDAとする場合がある。)(分子量300、アルドリッチ社より入手)が最終濃度50重量%になるように、純水で希釈し、ここに、重合開始剤として、2−ヒドロキシ−4‘−(2−ヒドロオキシエトキシ)−2−メチルプロピオフェノン(アルドリッチ社より入手)を最終濃度1重量%になるように加えた。この溶液をスターラーで15分間攪拌した。
この溶液をシラン処理したフィルム上に1mL展開し、スピン条件を最終濃度50%、900rpmでスピンコートを実施した。その後、フォトマスクを用いて、露光装置で150mJのエネルギーで処理し、細胞接着阻害層を形成し、マイクロパターン化血管内皮細胞転写基板を形成した。
その後、シラン処理基材上にポリエリレングリコールジアクリレートが固定化されていることを目視で確認した。
【0108】
[実施例2]
ポリエチレングリコールジアクリレートを含む溶液のスピン条件を、最終濃度50%、750rpmとした以外は、実施例1と同様にしてマイクロパターン化血管内皮細胞転写基板を形成した。
【0109】
[比較例1]
ポリエチレングリコールジアクリレートを含む溶液のスピン条件を、最終濃度40%、1000rpmとした以外は、実施例1と同様にしてマイクロパターン化血管内皮細胞転写基板を形成した。
【0110】
[比較例2]
ポリエチレングリコールジアクリレートを含む溶液のスピン条件を、最終濃度40%、750rpmとした以外は、実施例1と同様にしてマイクロパターン化血管内皮細胞転写基板を形成した。
【0111】
[比較例3]
ポリエチレングリコールジアクリレートを含む溶液のスピン条件を、最終濃度60%、900rpmとした以外は、実施例1と同様にしてマイクロパターン化血管内皮細胞転写基板を形成した。
【0112】
[比較例4]
ポリエチレングリコールジアクリレートを含む溶液のスピン条件を、最終濃度60%、825rpmとした以外は、実施例1と同様にしてマイクロパターン化血管内皮細胞転写基板を形成した。
【0113】
[比較例5]
ポリエチレングリコールジアクリレートを含む溶液のスピン条件を、最終濃度60%、750rpmとした以外は、実施例1と同様にしてマイクロパターン化血管内皮細胞転写基板を形成した。
【0114】
[評価]
(1)細胞接着阻害層の高さ測定
実施例および比較例で作製されたマイクロパターン化血管内皮細胞転写基板の細胞接着阻害層の高さを、3次元白色光干渉プロファイラーを用いて測定した。測定結果を、下記表1に示す。
【0115】
(2)細胞接着性評価
また、実施例および比較例で用いた材料(PEGDA、N−イソプロピルアクリルアミド)についての細胞接着の度合いを評価した。
評価方法は、ウシ血管内皮細胞(HH細胞)を上記各材料上に22000cells/cmで播種し、14.5時間経過後に培地交換をし、伸展細胞数(観察視野0.88mm×0.67mm=0.59mm当たり)を測定した。
その結果、細胞接着阻害層を形成するPEGDAの重合体表面では、0〜2個、大部分の領域では0個(1視野あたり)、すなわち、0〜340cells/cmであり、細胞接着伸展率は1.6%未満であった。
また、N−イソプロピルアクリルアミドのグラフト重合後の表面(刺激応答性層(温度応答性層)の表面)が細胞接着性を発現している場合(37℃)では、84個〜133個(1視野あたり)、すなわち、14200〜22500cells/cmであり、細胞接着伸展率は60%以上であった。
一方、上記刺激応答性層(温度応答性層)表面が細胞非接着性を発現している場合(20℃)では、0個〜2個、大部分の領域では0個(1視野あたり)、すなわち、0〜340cells/cmであり、細胞接着伸展率は1.6%未満であった。
【0116】
(3)細胞培養(パターン維持性評価)
実施例および比較例で作製されたマイクロパターン化血管内皮細胞転写基板を、20mmφに切り出し、粘着層を露出させ、35mmφポリスチレンディッシュ(ベクトンディッキンソン社製)底面に貼り付け、これを70%エタノールにて滅菌した。滅菌時間は1時間とした。
HUVECを、4×10cells/cmになるように調整し、マイクロパターン化血管内皮細胞転写基板内に播種した。
このとき、使用培地はEGM-2を使用し、翌日高血清培地に交換(FBS 30%,アスコルビン酸エステル、硫酸銅添加)した。培養はCOインキュベーターで37℃、5%COの条件にて行い、培養4日後、細胞がパターンを維持しているかどうか(パターン維持性)を位相差顕微鏡により確認し、下記基準で判断した。結果を下記表1に示す。
○:刺激応答性層上のみに細胞が接着、増殖している。
△:刺激応答性層以外の部分に3割以下の割合(5視野中1視野以下)で細胞が接着、伸展している。
×:刺激応答性層以外の部分に3割以上の割合(5視野中2視野以上)で細胞が接着、伸展している。
【0117】
(4)人工組織作製(細胞転写性評価)
室温条件下にて、Tsuda et al.Biomaterials,28 (2007) 4939-46に記載された方法で作製したゼラチンスタンプからなる細胞回収層をパターン化されたHUVECに接触させた後、20℃で30分間静置し、その後、慎重にゼラチンスタンプを持ち上げ、別のヒト皮膚線維芽細胞(NHDF)シート上に接触させた。その後、37℃インキュベーターで15分インキュベートし、スタンプを慎重に持ち上げた。その後、NHDFシート上にHUVECパターンが良好に転写されているか(細胞転写性)を、位相差顕微鏡で確認し、以下の基準で評価を行った。結果を下記表1に示す。
○:ゼラチンと接触させた領域内においてすべての細胞パターンが回収されている。
△:ゼラチンと接触させた領域内において3割以下の割合(5視野中1視野以下)で細胞の回収不良が見られる。
×:ゼラチンと接触させた領域内において3割以上の割合(5視野中2視野以上)で細胞の回収不良が見られる。
【0118】
【表1】

【0119】
表1に示すように、実施例で作製したマイクロパターン化血管内皮細胞転写基板を用いた場合には、上記マイクロパターン化血管内皮細胞転写基板上に所望のパターンを形成することができ、かつ、安定的に転写できることが確認できた。
【符号の説明】
【0120】
1 … 基材
2 … 刺激応答性層
3 … 細胞接着阻害層
10 … マイクロパターン化血管内皮細胞転写基板
11 … 血管内皮細胞
12 … マイクロパターン化血管内皮細胞
14 … 細胞層
15 … 人工組織
20 … 細胞接着層
30 … 細胞回収層
40 … 被着体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材と、
前記基材上に配置され、細胞接着性を有し、かつ、刺激により細胞非接着性を発現し得る刺激応答性材料を含む刺激応答性層と、
前記基材上にパターン状に配置され、細胞非接着性を有する細胞接着阻害材料を含む細胞接着阻害層と、
を有し、
前記細胞接着阻害層の表面が、前記刺激応答性層の表面に対して高くなるように形成され、
前記細胞接着阻害層の高さの下限が、血管内皮細胞が乗り越えることができない高さであり、上限が、前記刺激応答性層上に形成されたマイクロパターン化血管内皮細胞が回収可能な高さであることを特徴とするマイクロパターン化血管内皮細胞転写基板。
【請求項2】
前記刺激応答性材料が、温度変化により細胞非接着性を発現する温度応答性材料であることを特徴とする請求項1に記載のマイクロパターン化血管内皮細胞転写基板。
【請求項3】
前記温度応答性材料が、ポリ−N−イソプロピルアクリルアミド(PIPAAm)であることを特徴とする請求項2に記載のマイクロパターン化血管内皮細胞転写基板。
【請求項4】
前記刺激応答性層の露出した表面の幅が、15μm〜500μmの範囲内であることを特徴とする請求項1から請求項3までのいずれかの請求項に記載のマイクロパターン化血管内皮細胞転写基板。
【請求項5】
前記細胞接着阻害材料がポリエチレングリコール系材料であることを特徴とする請求項1から請求項4までのいずれかの請求項に記載のマイクロパターン化血管内皮細胞転写基板。
【請求項6】
マイクロパターン化血管内皮細胞を少なくとも含む人工組織の製造方法であって、
請求項1から請求項5までのいずれかの請求項に記載のマイクロパターン化血管内皮細胞転写基板を準備し、
前記刺激応答性層が細胞接着性を発現している条件で、前記刺激応答性層上に前記血管内皮細胞を播種・培養することにより前記マイクロパターン化血管内皮細胞を形成するマイクロパターン化血管内皮細胞形成工程と、
前記マイクロパターン化血管内皮細胞形成工程後の前記刺激応答性層が細胞非接着性を発現している条件で、前記マイクロパターン化血管内皮細胞と細胞接着性を有する細胞接着層を含む細胞回収層とを接触させることにより、前記マイクロパターン化血管内皮細胞を前記細胞回収層に転写する血管内皮細胞転写工程と、
を有することを特徴とする人工組織の製造方法。
【請求項7】
前記細胞回収層が、前記細胞接着層からなり、
前記血管内皮細胞転写工程が、前記マイクロパターン化血管内皮細胞と、前記細胞接着層とを直接接触させるものであることを特徴とする請求項6に記載の人工組織の製造方法。
【請求項8】
前記細胞回収層が、前記細胞接着層と、前記細胞接着層上に接着されて積層された細胞からなる細胞層と、からなり、
前記血管内皮細胞転写工程が、前記マイクロパターン化血管内皮細胞と、前記細胞層とを接触させるものであることを特徴とする請求項6に記載の人工組織の製造方法。
【請求項9】
前記細胞回収層上に転写された前記マイクロパターン化血管内皮細胞上に細胞からなる細胞層を接着させて積層する積層工程を有することを有することを特徴とする請求項7または請求項8に記載の人工組織の製造方法。
【請求項10】
前記人工組織を、前記細胞回収層から剥離する回収工程を有することを特徴とする請求項6から請求項9までのいずれかの請求項に記載の人工組織の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−223944(P2011−223944A)
【公開日】平成23年11月10日(2011.11.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−97884(P2010−97884)
【出願日】平成22年4月21日(2010.4.21)
【出願人】(000002897)大日本印刷株式会社 (14,506)
【出願人】(591173198)学校法人東京女子医科大学 (48)
【Fターム(参考)】