説明

マイクロフォーカスX線管およびそれを用いたX線装置

【課題】
X線取り出し方向で解像度に偏りのない実効焦点を有し、かつ許容負荷の大きいマイクロフォーカスX線管を得る。
【解決手段】
X線管の陰極の電子集束系14はカソード電極12と4個のグリッド電極、G1電極20、G2電極22、G3電極24、G4電極26で構成され、それぞれのグリッド電極はカソード電極12の電子放射面12aから放射された電子線が通過する開口20a、22a、24a、26aを有する。G4電極26の開口26aのみ楕円形にする。G1電極20〜G3電極24にはカソード電極12の電位に対し正のグリッド電位を、G4電極26には負のグリッド電位を印加することにより、G1電極20〜G3電極24にて電子線を細いビームに集束し、G4電極26にて電子線のビームの断面形状を楕円形にする。この電子線を陽極のターゲットの傾斜面に衝突させることにより、ほぼ円形の実効焦点が得られる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、工業用または医療用などに使用される微小焦点(マイクロフォーカス)を有するX線管およびそれを用いたX線装置に係り、特にX線管の焦点の解像度を向上する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
被検体を透過したX線の線量を測定し、その線量に基づいて画像を作成して、被検体の検査または診断を行うX線装置は、工業用としては種々の製品の欠陥検査や異物検査などに、また医療用としてはX線透視または撮影による診断などに広く利用されている。このようなX線装置では、被検体内の対象物が微小な場合に、よい検査あるいはよい診断を行うためには、対象物のできるだけ拡大された像を得ることが望ましい。そのためには、X線発生装置またはそれに用いられるX線管において、X線の発生領域であるX線源(以下、焦点という)の大きさをできるだけ小さくする必要がある。このような要請を受けて、近年焦点の寸法が10μmというマイクロフォーカスX線管が普及し始めている。
【0003】
また、高画質の透視像などを得るためには、X線量を多くすることが望ましく、このためにはX線を発生させる電子線の電流(以下、X線管電流という)の値はできるだけ大きいことが要求される。例えば、食品中の異物検査などをX線感度の低いラインセンサーを使用して検査するX線装置や、生産ライン上を流れている検査対象物(被検体)の画像をイメージインテンシファイア(I-I)カメラのシャター機能を使用して一瞬の静止画像として得るインラインの自動検査用X線装置などでは、X線管電流の大電流化による感度向上が要求される。また、医療用X線装置においても、X線フィルム撮影とX線透視を兼用する機器では、撮影時間などを短縮するためにX線管電流の大電流化による感度向上が必要となる。
【0004】
しかし、マイクロフォーカスX線管では、X線管電流の大電流化を妨げる因子として、陽極のターゲットに衝突する電子線の電力による熱衝撃の問題がある。すなわち、マイクロフォーカスX線管の場合、電子線を極めて細く絞って陽極のターゲットに入射させているため熱入力密度が極めて大きく、単純に電子線の電流を更に大きくしようとすると、ターゲットの焦点面が熱的に溶解する恐れが生ずる。そのため、従来のマイクロフォーカスX線管では、製造者が許容している電子線電力、すなわち許容負荷は通常の医療用X線管などに比べて極めて小さい値に設定されている。
【0005】
一方、本発明の対象とするマイクロフォーカスX線管の場合のような極めて小さい焦点を得るための電子集束方法としては、複数の電極を用いて電界レンズを形成して集束する方法がある。この方式の従来技術の代表的なものに陰極線管(Cathode Ray Tube,以下CRTと略称する)用の電子銃がある。以下、CRT用電子銃の構造、動作について簡単に説明する。図11に、CRT用電子銃で最も基本的なIn-line型電子銃の概略構成を示す。図11において、このCRT用電子銃200は、カソード202と4個のグリッド電極204、206、208、210とから構成される。カソード202の電子放射面202aから放射された電子線212はカソード202と4個のグリッド電極204、206、208、210で形成される電子レンズによって集束されて細い電子線212となり、蛍光面222に衝突し、蛍光面222上の蛍光体を発光させる。
【0006】
図11において、4個のグリッド電極204,206,208,210はカソード202から近い順に第1グリッド電極(以下、G1電極と略称する)204、第2グリッド電極(以下、G2電極と略称する)206、第3グリッド電極(以下、G3電極と略称する)208、第4グリッド電極(以下、G4電極と略称する)210と呼ばれ、それぞれ電子銃200の中心軸に沿って開口204a、206a、208a、210aを有する。電子銃200の5個の電極のうち、カソード202とG1電極204とG2電極206の3個の電極によって構成される部分は3極部と呼ばれ、この部分にカソードレンズ214が形成される。また、G2電極206とG3電極208との間にはプリフォーカスレンズ216が、G3電極208とG4電極210との間には主レンズ218がそれぞれ形成される。
【0007】
カソード202は酸化物カソードまたは含浸形カソードのような熱陰極であり、1000K以上の高温で、空間電荷制限領域で用いられる。カソード202からの電子線212の電流量は映像信号を増幅した信号をカソード202に印加することによって制御される。この電流量はカソード電圧が低いほど増大する。G1電極204には常にカソード202より低い電圧が与えられ、またG2電極206にはカソード202の電位に対し400〜1000V程度高い加速電圧が与えられる。カソード202からの電流は、G1電極204の開口204aを通って電子線212となってG2電極206側に引き出される。この電子線212は上記のカソードレンズ214によって一度集束され、G2電極206付近でクロスオーバー(交差点)220を形成し、その後発散しながら上記の主レンズ218に入射する。主レンズ218への入射前に上記のプリフォーカスレンズ216によって若干の集束作用を受ける。上記の3極部とプリフォーカスレンズ216を合わせて電子線形成領域と呼ぶこともある。
【0008】
主レンズ218は物点であるクロスオーバー220を蛍光面222上に像点224として投射するレンズである。すなわち、主レンズ218はクロスオーバー220から発散しながら入射してきた電子線212を集束させて、蛍光面222上に微小スポットの像点224を形成する役割を持つ。G3電極208には5〜10KVの電圧(フォーカス電圧)が印加され、G4電極210には20〜30KVの最終加速圧が印加され、この電位差によって主レンズ218が形成される。電子線212はG4電極210を通過した後は、無電界空間中を蛍光面222まで走行し、蛍光面222上に像点224を形成する。
【0009】
一般に、電子線を微小な線束(ビーム)に集束する場合、上記の如く、グリッド電極を軸対称の配列で構成し、この構成によって電子線のその進行方向に直交する方向の断面形状はほぼ円形となる。このように電子線をあたかも光学レンズ系のように集束させる電極系の構成を電子光学系と呼んでいる。この電子光学系を用いて微小焦点を形成するマイクロフォーカスX線管の構成例としては、特許文献1や特許文献2などが開示されている。
【特許文献1】特開2003−317996号公報
【特許文献2】特開2003−7236号公報
【0010】
特許文献1に開示されているマイクロフォーカスX線管では、図12に示すような陰極構造を採用している。このマイクロフォーカスX線管の陰極の構成は基本的には図11に示したCRT用電子銃と同じ構成であり、その電子集束系230はカソード電極232とG1電極234とG2電極236とG3電極238と陽極のターゲットとから成る。G1電極234とG2電極236は小さい径の開口を有し、G3電極238は大きい開口を有し、それぞれの開口の中心は電子集束系の中心軸に沿って配列されている。また、G1電極234にはカソード電極232の電位(カソード電位)に対し正の電位(例えば、OVから+100V)が、G2電極236にはG1電極234の電位より高い正の電位(例えば、OVから+2000V)が、G3電極238にはG2電極236の電位より低い正または負の電位(例えば、−500Vから+500V)がそれぞれ印加されている。更に、陽極のターゲットにはカソード電位に対し+10kV〜+150kVの正の電位が印加される。その結果、カソード電極232から放射された熱電子は細いビーム状の電子線に集束され、陽極のターゲットにマイクロフォーカスを形成する。このとき電子線は外径が約10μm程度のほぼ円形のビームに絞られている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
上記した特許文献1や特許文献2に開示されている従来のマイクロフォーカスX線管では、軸対称の電子光学系を採用しているため、電子線のその進行方向に直交する方向の断面形状はほぼ円形となっている。このため、反射型のX線出力方式(電子線の衝突するターゲットが厚い場合で、ターゲット面に対し電子線の入射した側の空間に反射して放射されるX線を利用する方式で、大部分のX線管はこの方式である)をもつX線管の場合、X線の取り出し方向(X線検出器側)から見た焦点(以下、実効焦点という)の形状は通常楕円形状になる。実効焦点の形状が楕円形ということは、被検体の透視、撮影を行った際に、電子線の入射方向と平行な方向(以下、縦方向と呼ぶ場合もある)とそれに直交する方向(以下、横方向と呼ぶ場合もある)とで実効焦点の寸法が異なることを意味している。以下、実効焦点の電子線の入射方向と平行な方向の寸法を実効焦点長さ寸法、それに直交する方向の寸法を実効焦点幅寸法と呼ぶことにする。この実効焦点寸法はX線検査時に得られる画像の解像度を決定するものであり、X線放射領域の縦方向と横方向とで実効焦点寸法が異なることは、縦方向と横方向とで異なる解像度の画像が得られることになり、検査精度を悪くする要因となる。
【0012】
これを防ぐためには、透過型と呼ばれるX線出力方式、すなわち電子線の進行方向の、ターゲットを透過した側の空間にX線を出力する方式をとればよいが、このX線出力方式ではターゲットが固定され、かつターゲットの厚さが極めて薄くないと、X線を外部に取り出すことができないので、許容負荷が著しく小さくなり、その結果X線出力も小さくなる。一般にX線管の許容負荷を大きくするためには回転陽極方式を採用するが、この場合反射型でなければ構造上実現は困難である。従って、従来の電子光学系を用いた反射型のマイクロフォーカスX線管では実効焦点の形状が楕円形となって、解像度に偏りが生じてしまうという問題があった。
【0013】
ただし、X線取り出し方向とターゲットの傾斜面とが作る角度(以下、ターゲット角度という)が45度であれば、実効焦点の形状は電子線の形状とほぼ同じになるので、この場合には実効焦点の形状はほぼ円形となり、実効焦点の幅寸法と長さ寸法は同一となるので解像度の偏りもなくなる。しかし、ターゲット角度はX線管のX線放射範囲を規定するものであり、45度のみということは実用上あり得ない。
【0014】
この問題を解決するためには、ターゲット角度に対応して、実効焦点の形状がほぼ円形となるように、ターゲットに入射する電子線の断面形状を適当な楕円形に整形すればよい。すなわち、ターゲット角度が45度より大きい場合には電子線の断面形状を幅方向の寸法が長さ方向の寸法より大きい楕円形とし、ターゲット角度が45度より小さい場合には長さ方向の寸法が幅方向の寸法より大きい楕円形として、X線取り出し方向から見た実効焦点の形状をほぼ円形となるようにすればよい。
【0015】
更に、マイクロフォーカスX線管では、陽極のターゲットの焦点面に入力される電子線の入力密度が極めて大きいために許容負荷が著しく制限され、従来は回転陽極方式を採用するなどして工夫がなされているが、軸受けの構造などから回転速度にも限度がある。陽極の回転速度の向上以外に、許容負荷を向上させる手段として、電子線の断面形状を楕円形とすることは有効なものである。
【0016】
上記に鑑み、本発明では、X線取り出し方向で解像度に偏りのない実効焦点を有し、かつ許容負荷の大きいマイクロフォーカスX線管及びそれを用いたX線装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0017】
上記目的を達成するため、本発明のマイクロフォーカスX線管は、電子線を放出するカソード電極と、電子線を細いビームに集束するために電子線の経路に配置される複数個のグリッド電極とを有する陰極と、電子線の衝突によりX線を発生させるターゲットを有する陽極と、陰極と陽極とを真空気密に封止し、ターゲットで発生したX線を外部に放射するX線放射窓を有する外囲器とから構成され、複数個のグリッド電極はそれぞれ電子線を通過させるための開口を有し、グリッド電極のそれぞれにカソード電極を基準とするグリッド電位を印加することにより微小焦点を得るマイクロフォーカスX線管において、前記グリッド電極のうちの少なくとも1個のグリッド電極の開口の形状を楕円形または楕円形に近似される形状とし、前記電子線のビームの断面形状を大略楕円形としたものである(請求項1)。
【0018】
また、本発明のX線管では、更に前記グリッド電極を少なくとも4個配置し、該グリッド電極のうちの陽極のターゲットに最も近いグリッド電極の開口の形状を楕円形または楕円形に近似される形状としたものである。
【0019】
また、本発明のX線管では、更に前記楕円形または楕円形に近似される形状の開口を有するグリッド電極に、前記カソード電極の電位に対し負の電位を印加するものである。
【0020】
また、本発明のX線管では、更に前記楕円形または楕円形に近似される形状の開口を有するグリッド電極の開口の口径は前記陽極の中心軸方向で長く、それに直交する方向で短くなっている。
【0021】
また、本発明のX線管では、更に前記陽極が回転陽極形である。
【0022】
また、本発明のX線管では、更に前記外囲器のX線放射窓の取り付けられた部分が金属材料から成る。
【0023】
また、本発明のX線発生装置は、微小焦点を有するX線管と、X線管の陰極と陽極との間に高電圧を供給する高電圧発生回路と、X線管の陰極の複数個のグリッド電極にグリッド電圧を供給するグリッド電圧発生回路と、X線管の電極を絶縁支持する電極絶縁支持部と、X線管と高電圧発生回路とグリッド電圧発生回路と電極絶縁支持部を内包し、支持する筐体と、筐体内に充填され、X線管およびその他の構成要素を浸漬し、絶縁する絶縁媒体と、絶縁媒体の膨張、収縮を緩衝するために筐体に取り付けられた緩衝機構を含むX線発生装置において、前記X線管が本発明のマイクロフォーカスX線管である(請求項2)。
【0024】
また、本発明のX線発生装置では、更に前記高電圧発生回路を中性点接地方式としている。
【0025】
また、本発明のX線装置は、X線を発生するX線発生装置と、X線発生装置から発生し、被検体を透過したX線を検出するX線検出装置と、X線検出装置から出力される検出X線量に対応する信号に基づいて被検体のX線画像を作成する画像形成装置と、X線発生装置、X線検出装置および画像形成装置を制御する制御装置を有するX線装置において、前記X線発生装置が請求項2記載のX線発生装置である(請求項3)。
【発明の効果】
【0026】
本発明のマイクロフォーカスX線管は、陰極の電子集束系を構成するグリッド電極のうちの少なくとも1個のグリッド電極の開口の形状を楕円形または楕円形に近似される形状とし、このグリッド電極の開口を通過する電子線のビームの断面形状を大略楕円形としているので、この電子線をそのビームの断面形状に見合ったターゲット角度を有するターゲットに衝突させることによりほぼ円形の実効焦点を得ることが可能となる。その結果、X線取り出し方向で解像度に偏りのない実効焦点を有するマイクロフォーカスX線管が得られるので、被検体の拡大撮影などの際に縦方向と横方向でほぼ同じ解像度の高精細なX線画像を得ることができ、微細な対象物などの検査精度を向上させることができる。
【0027】
また、本発明のX線管では、グリッド電極を少なくとも4個配置し、それらのグリッド電極のうちの陽極のターゲットに最も近いグリッド電極の開口の形状を楕円形または楕円形に近似される形状としているので、先行する他のグリッド電極にて電子線をマイクロフォーカスの得られる細いビームに集束した後に、ターゲットに最も近いグリッド電極で電子線を楕円形の断面形状のビームに絞ることができる。この結果、複雑な電子集束系を追加することなく、微小で楕円形の断面形状を有する電子線を容易に得ることができる。
【0028】
また、本発明のX線管では、楕円形または楕円形に近似される形状の開口を有するグリッド電極に、カソード電極の電位に対し負の電位を印加しているので、このグリッド電極では開口の寸法とグリッド電位の両者を調整することにより、電子線のビームの断面形状(楕円形の形状)をターゲット角度に見合わせて制御可能となる。
【0029】
また、本発明のX線管では、楕円形または楕円形に近似される形状の開口を有するグリッド電極の開口の口径は電子線ビーム長さ方向で長く、電子線ビーム幅方向で短くなっているので、この電子線でターゲットに形成される実焦点の長さ寸法は実焦点幅寸法より格段に大きなものとなる。その結果、ターゲット上の焦点面積が大きくなるので、X線管に入力できるX線管負荷を大きくすることができ、X線管から放射できるX線量を多くすることができる。
【0030】
また、本発明のX線管では、陽極を回転陽極形としているので、陽極のターゲット上の実効的な焦点面積が格段に大きくなり、X線管に入力できるX線管負荷を格段に大きくすることができ、X線管から放射できるX線量を格段に多くすることができる。
【0031】
また、本発明のX線管では、外囲器のX線放射窓を取り付けた部分を金属材料で構成し、アース電位としているので、X線装置などに搭載した際に、X線放射窓をX線管の収納容器の外壁面に直接または非常に近接して取り付けることができ、X線撮影時にX線管の焦点と被検体との間の距離を小さくすることができる。その結果、X線撮影時の拡大率を大きくすることができ、高精細なX線画像を得ることができる。
【0032】
また、本発明のX線発生装置は、微小でほぼ円形の実効焦点を有し、かつ許容負荷の大きいマイクロフォーカスX線管を内装しているので、これを組み込んだX線装置では、被検体の拡大撮影などにおいて、縦方向と横方向で偏りのない高精細なX線画像を得ることができ、微細な対象物の検査精度を向上させることができるとともに、高い拡大率の撮影も可能となる。
【0033】
また、本発明のX線発生装置では、高電圧発生回路を中性点接地方式としているので、X線発生装置での高電圧絶縁が容易になり、X線発生装置の筐体の大きさを小さくすることができる。更に、X線管の外囲器に取り付けられたX線放射窓を筐体に直接または非常に近接して取り付けることができるので、X線撮影時にX線管の焦点と被検体との間の距離を小さくすることができ、高拡大率の撮影が可能となる。
【0034】
また、本発明のX線装置は、微小でほぼ円形の実効焦点を有するマイクロフォーカスX線管を内装するX線発生装置を持っているので、微細な被検体の拡大撮影などにおいて、縦方向と横方向で偏りのない高精細なX線画像を得ることができ、微細な対象物の検査精度を向上させることができるとともに、高い拡大率の撮影も可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0035】
以下、本発明の実施例について添付図面を参照しながら説明する。
先ず、図1〜図5を用いて、本発明に係るマイクロフォーカスX線管の構造及び動作について説明する。図1は本発明に係るマイクロフォーカスX線管の一実施例の全体構造図、図2は図1の要部である陰極の主要部の構造を示す図、図3は図1の陰極の動作を説明するための図、図4は電子線の断面形状と実効焦点の形状との関係を説明するための図、図5は本実施例のX線管における電子線の軌道計算例である。
【0036】
図1において、本実施例のマイクロフォーカスX線管(以下、X線管と略称する)1は、電子線を発生する陰極2と、電子線が衝突してX線を発生する陽極3と、陰極2と陽極3を対向させて、真空気密に内包して、絶縁支持する外囲器4とから構成される。本実施例のX線管1では、マイクロフォーカス(微小焦点)を形成するための陰極2の構成に特徴があるので、その構成及び動作については後で図2及び図3を用いて詳しく説明する。それに先立って、他の部分の構造について説明する。
【0037】
図1において、陽極3は回転陽極形の構造を採用している。この陽極(以下、回転陽極とも呼ぶ)3は、これに限定されず、固定陽極形のものであってもよい。しかし、回転陽極形では、回転することによりターゲット上の実効的な焦点面積が格段に大きくなるために、X線管負荷を大きくすることができ、発生するX線量を多くするのに有効である。回転陽極3はX線発生源となるターゲット30と、ターゲット30を支持するロータ32と、ロータ32を支持する回転軸(図示せず)と、回転軸を回転自在に支持する軸受(図示せず)と、軸受を支持する固定部34などから構成される。固定部34の端部に陽極端35が設けられ、この陽極端35にてX線管1の陽極側の支持が行われるとともに、陽極電位の給電も行われる。この回転陽極3は全体として、汎用の医療用回転陽極X線管の回転陽極とほぼ同じ構造をしている。ターゲット30は傘形で円盤状をしており、タングステンなどの高原子番号で、高融点の金属材料から成る。ターゲット30の傾斜面36には、陰極2からの電子線28が衝突し、X線の発生源となる焦点38を形成する。回転陽極3はその中心軸48の周りを回転する。
【0038】
次に、外囲器4は、回転陽極3のターゲット30の部分と陰極2の先端部分を囲み、アース電位に保持される大径部40と、回転陽極3の固定部34と結合されて、これを絶縁支持する陽極絶縁部42と、陰極2を絶縁支持する陰極絶縁部44とから構成される。大径部40は大径の円板40aに大径肉厚の円筒40bが結合された形状をしており、円板40aと円筒40bは銅やステンレス鋼などの金属材料から成る。円板40aのターゲット30の焦点38に近接する部分に設けた円形の開口にX線放射窓46が取り付けられている。X線放射窓46はX線透過性のよいベリリウムなどから成り、窓枠などを介して、溶接またはろう付けによって円板40aの開口に結合されている。X線5はこのX線放射窓46を通して回転陽極3の中心軸48と平行な方向(図示の上方向)に取り出される。陽極絶縁部42はロータ32の外径より少し太い径の円筒部42aと、大径部40の円筒40bに結合するためにコーン状に広げられたフレア部42bと、回転陽極3の固定部34と結合するための陽極接続部42cとから構成される。陽極絶縁部42は大部分が耐熱性ガラスやセラミックなどの絶縁物から成り、両端のフレア部42bと陽極接続部42cの一部には絶縁物となじみのよい金属材料が使用されている。大径部40の円筒40bの側面には、回転陽極3の中心軸48とほぼ直交する方向に、陰極絶縁部44が結合されている。陰極絶縁部44は細い外径の円筒形状をしており、大部分が耐熱性ガラスやセラミックなどの絶縁物から成る。陰極絶縁部44の一端が大径部40の円筒40bの側面に結合され、その他端が陰極2の支持部となるステム19と結合されている。この結合によって、陰極2の電子集束系と回転陽極3のターゲット30が対向して配置されることになる。
【0039】
次に、図2、図3を用いて、本実施例のX線管1の要部である陰極2の構成と動作について説明する。図2は、陰極2の主要部の構造を示したもの、図3は陰極2の動作を説明するための図である。先ず、図2によりX線管1の陰極2の構造について説明する。図2において、図2(a)は陰極2の主要部の横断面図、図2(b)は陰極2の主要部を陽極3のターゲット30の側から見た図である。図2(a)において、陰極2は、電子線を発生するカソード電極12と、電子線を細いビームに集束する電子集束系14と、電子集束系14を絶縁支持する電子集束系絶縁体18と、陰極2全体を絶縁支持するステム19(図示せず。図1参照)などから構成される。カソード電極12はカソード支持体16に支持され、カソード支持体16は電子集束系14を介して電子集束系絶縁体18に絶縁支持される。電子集束系14は4個のグリッド電極20、22、24、26から成り、このうち3個のグリッド電極20、22、24は電子線を細いビームに集束する役割を分担し、第4番目のグリッド電極26は電子線のビームの断面形状を楕円形にする役割を分担する。本実施例では、電子集束系14を構成するグリッド電極の個数を4個の場合について説明するが、この個数はこれに限定されず、5個以上であってもよい。
【0040】
図2において、カソード電極12は、酸化物または含浸形のカソードで、加熱用のヒータを備えており、このヒータの加熱によって1000K以上の高温で熱電子を放射する。ヒータには後記のヒータ加熱電源から数Vの電圧が印加される。カソード電極12は底付きの円筒形状をしており、円筒の内側に加熱用のヒータが絶縁して配置され、底の外表面(以下、電子放射面という)12aから熱電子が放射される。カソード電極12は耐熱性金属材料または絶縁材料から成る。カソード電極12の電子放射面12から放射された熱電子はその左側に配置された電子集束系14によって形成される電子レンズによって集束されて細いビームの電子線28と成る。
【0041】
電子集束系14は、4個のグリッド電極、すなわち第1グリッド電極(以下、G1電極と略称する)20と、第2グリッド電極(以下、G2電極と略称する)22と、第3グリッド電極(以下、G3電極と略称する)24と、第4グリッド電極(以下、G4電極と略称する)26から構成される。4個のグリッド電極20、22、24、26はそれぞれ中心部に電子線28を通す開口20a、22a、24a、26aを有し、カソード電極12と回転陽極3のターゲット30との間に、カソード電極12の側からG1電極20、G2電極22、G3電極24、G4電極26の順で、適当な間隔をとって同軸に配置される。G1電極20とG2電極22は板状体で、その中心部に小さい径の開口20a、22aが設けられており、全体としては取り付けなどを考慮してカップ状に形成されている。G3電極24はその中心部に大きい径の開口24aが設けられており、全体としては円筒形に近い形状をしている。G4電極26は図2(b)に示す如くその中心部に楕円形の開口26aが設けられており、全体としては円筒形に近い形状をしている。G1電極20、G2電極22、G3電極24、G4電極26の開口20a、22a、24a、26aの寸法やそれぞれの間の間隔は後述する如く、所望の焦点寸法やそれぞれのグリッド電極に印加する電圧と関係して決定される。グリッド電極20、22、24、26の材料としては耐熱性金属材料が使用される。
【0042】
電子集束系14の4個のグリッド電極20、22、24、26はその外側に配置された電子集束系絶縁体18によって絶縁して支持される。電子集束系絶縁体18は円筒、または複数個(例えば3乃至6個)の棒状体を環状に配列したもの(ここでは、棒状体を4個配列したものを示している)で、主としてガラスやセラミックなどの絶縁物から成る。グリッド電極20、22、24、26の支持は、グリッド電極20、22、24、26の外周に結合された支持金具を電子集束系絶縁体18にろう付けしたり、埋め込んだり(加熱して溶着する)して結合することにより行われる。また、カソード支持体16はG1電極20に絶縁支持され、G1電極20を介して電子集束系絶縁体18に支持される。電子集束系絶縁体18のステム19側の端部には、ステム19に接続するための接続金具が結合されている。この接続金具は、円筒形状をした金具で、グリッド電極20、22、24、26と同様に支持金具を介して電子集束系絶縁体18に結合されている。
【0043】
次に、図2と図3を用いて、本実施例の電子集束系14の構成の細部とその動作について説明する。図3は、本実施例の要部である電子集束系14の構成を模式的に示したものである。図2及び図3において、陰極2のカソード電極12の電子放射面12aと回転陽極3のターゲット30との間に電子集束系14のG1電極20とG2電極22とG3電極24とG4電極26が同軸に順次配列されている。カソード電極12から放射された電子線が通過するそれぞれのグリッド電極20、22、24、26の開口20a、22a、24a、26aの中心は、電子集束系14の中心軸に一致させている。G1電極20とG2電極22とG3電極24の開口20a、22a、24aは円形であるが、G4電極26の開口26aは楕円形にしてある。また、電子線28をカソード電極12の近傍で細いビームに絞るために、G1電極20とG2電極22の開口20a、22aについては1mm以下の小さな口径としているが、G3電極24とG4電極26の開口24a、26aについては電界的に集束することを重点にしているので数mmの大きな口径としている。
【0044】
また、電子集束系14の各グリッド電極20、22、24、26に印加する電圧としては、カソード電極12の電位(以下、カソード電位という)を基準とする電圧が印加されている。G1電極20にはカソード電位に対し数十V程度の正の電位(0Vから+100V、以下、G1電位という)が、G2電極22にはカソード電位に対し数百V程度の正の電位(0Vから+2,000V、以下、G2電位という)が、G3電極24にはカソード電位に対し数百V程度の正の電位(0Vから+500V、以下、G3電位という)が、G4電極26にはカソード電位に対し数十V程度の負の電位(−10Vから−100V、以下、G4電位という)が、それぞれ印加される。更に、ターゲット30にはX線管の動作電圧(本実施例では、カソード電位に対し、+10kVから+150kV程度、以下、X線管電圧という)が印加される。このようにグリッド電極20、22、24、26及びターゲット30にグリッド電圧とX線管電圧を印加することにより、G1電極20の近くにカソードレンズ50が、G2電極22の近傍にプリフォーカスレンズ52が、G3電極24の近くに主レンズ54がそれぞれ形成され、カソード電極12の電子放射面12aから放射された電子線28の集束を行う。更に、G4電極26の楕円形の開口26aに生じた電界によって電子線28の断面形状は楕円形に集束される。すなわち、電子線28はG4電極26の楕円形の開口26aの楕円の長軸方向では発散作用を受け、短軸方向では集束作用を受けることにより、楕円形の断面形状に集束される。上記のグリッド電極20、22、24、26に印加する電圧の値は所望の焦点寸法や電子線28の電流(以下、X線管電流ともいう)の値に応じて制御される。
【0045】
本発明のX線管の電子集束系では、ほぼ円形の実効焦点となるマイクロフォーカスを得るために、ビームの断面形状が楕円形となる電子線28を形成することに特徴がある。このために、本実施例では、楕円形状の開口26aを有するG4電極26をG3電極24と回転陽極3のターゲット30との間に付加し、このG4電極26にカソード電位に対して負の電位となるG4電位を印加することにより、電子線28のビームの断面形状を楕円形としている。以下、その内容と効果について説明する。
【0046】
図4は、電子線28のビームの断面形状と実効焦点の形状との関係を説明するための図である。図4では、ビームの断面形状28aが楕円形である電子線28が矢印28で示す左側の方向からターゲット30の傾斜面36に衝突し、X線5が発生するが、X線5は矢印6で示す上方向に取り出される。電子線28が衝突したターゲット30の傾斜面36上には実焦点38が形成されるが、この実焦点38をX線5の取り出し方向(矢印6で示す方向、以下、X線主放射方向と呼ぶ)6から見たものが実効焦点56である。以下、電子線28のビームの断面形状については、回転陽極2の中心軸48の方向(図示の上下方向)を電子線ビーム長さ方向、これに直交する方向を電子線ビーム幅方向と呼び、実効焦点56についてはターゲット30の半径方向を実効焦点長さ方向、これに直交する方向を実効焦点幅方向と呼び、実焦点38についてはターゲット30の傾斜面36に沿った方向を実焦点長さ方向、これに直交する方向を実焦点幅方向と呼ぶことにする。また、ターゲット30の傾斜面36とX線主放射方向6となす角度58をターゲット角度と呼ぶ。
【0047】
電子線28のビームの断面形状と実効焦点56の形状との関係は、ターゲット角度58に依存して変化する。同様に、電子線28のビームの断面形状と実焦点38の形状との関係もターゲット角度58に依存して変化する。図示の例では、ターゲット角度58が45度以下、実効焦点56の形状がほぼ円形となる場合のものを示しているが、この場合には電子線28のビームの断面形状は電子線ビーム長さ方向の寸法(以下、電子線ビーム長さ寸法という)が電子線ビーム幅方向の寸法(以下、電子線ビーム幅寸法という)より大きい楕円形となっている。このとき、実焦点38の形状も楕円形となるが、実焦点幅方向の寸法すなわち実焦点幅寸法は電子線ビーム幅寸法とほぼ同じであるのに対し、実焦点長さ方向の寸法すなわち実焦点長さ寸法は電子線ビーム長さ寸法より大きくなっている。ターゲット角度58が45度の場合、電子線28のビームの断面形状と実効焦点56の形状はほぼ同じになるが、他のターゲット角度58の場合には異なったものとなる。電子線ビーム幅寸法と実効焦点幅寸法とはいずれのターゲット角度58でもほぼ同じであるが、電子線ビーム長さ寸法と実効焦点長さ寸法との間では、ターゲット角度58が45度未満の場合には電子線ビーム長さ寸法が実効焦点長さ寸法より大きく、ターゲット角度58が45度を越える場合には電子線ビーム長さ寸法が実効焦点長さ寸法より小さくなる。
【0048】
マイクロフォーカスX線管の場合、焦点寸法の微小化とともにX線量の増加が要求され、そのためにはX線管負荷すなわちX線管電流の増加が必要となる。その目的を達成するため、本実施例においても、実効焦点寸法は同一でも実焦点寸法ができるだけ大きくなるように、ターゲット角度58を45度より小さくしている。ターゲット角度58としては通常10度から30度程度の角度が選択されている。X線量を増加するためにはターゲット角度58はできるだけ小さい方がよいが、ターゲット角度58が小さくなりすぎるとX線照射範囲が狭くなり、X線撮影などに支障が生ずるので、上記の範囲のターゲット角度58が好ましい。また、実効焦点56の形状としては撮影されるX線画像の解像度を考慮した場合、円形であることが望ましいので、本実施例のX線管1では実焦点38の形状および電子線28のビームの断面形状は楕円形またはそれに近似した形状のものとしている。ターゲット角度58が45度以下であることを考慮した場合、電子線28のビームの断面形状としては、電子線ビーム長さ寸法が電子線ビーム幅寸法より大きい楕円形のものが望ましい。本実施例のX線管1では、電子線28のビームの断面形状を楕円形とするために、陰極2の電子集束系14にG4電極26を付加し、G4電極26の開口26aの形状を楕円形としている。
【0049】
本実施例のX線管では、陰極2の電子集束系14のうちのG1電極20、G2電極22、G3電極24を用いて電子線28を電子集束し、そのビームの断面形状がほぼ円形の微小なものにしている。更に、G4電極26では、ターゲット角度58を考慮して、このターゲット角度58に適した楕円形の断面形状を持つ電子線28のビームを形成するため、楕円形の開口26aを配置し、G4電極26にカソード電位に対し負のG4電位を印加することにより、電子線28のビームの断面形状を楕円形としている。
【0050】
図5には、本実施例のX線管1における電子線28の軌道計算例を示した。この例では、G4電極26にカソード電位に対し−20V以下のG4電位が印加されている。図5では、電子集束系14の中心軸を含む3通りの平面における電子軌道計算例が示されている。これは、G4電極26の開口26aが楕円形であるため、電子集束系14が全体として非軸対称となり、電子線の軌道計算が著しく困難となるので、簡便のために、G4電極26の開口26aの口径寸法の異なる3通りの平面に分けて、それぞれの平面内では電子集束系14の各部の寸法がその平面内における寸法で軸対称に分布しているものとして電子線の軌道計算を行った。図5(a)は3通りの平面A、B、CとG4電極26と関係を示したもので、平面Aは楕円形開口26aの口径が長い方向(電子線ビーム長さ方向)の断面、平面Cは楕円形開口26aの口径が短い方向(電子線ビーム幅方向)の断面、平面Bは平面Aと平面Cの中間の角度(45度)の方向の断面である。図5(b)〜図5(d)は3通り平面における電子軌道計算結果例を図示したもので、図5(b)は平面Aに対応するもの、図5(c)は平面Bに対応するもの、図5(d)は平面Cに対応するものである。図5(b)〜図5(d)のそれぞれにおいて、図の左側からカソード電極12、G1電極20、G2電極22、G3電極24、G4電極26、ターゲット30の順で配列され、G4電極26以外は同一構造、寸法になっている。G4電極26のみは、図5(a)に示す如く、開口26aの口径が異なり、図5(b)では開口26aの口径が大きく、図5(c)、図5(d)の順で開口26aの口径は小さくなっている。図5(b)〜(d)において、縦方向の細線は等電位線を横方向に走行する太い線は電子線28を示している。
【0051】
図5(b)〜(d)において、電子線28のターゲット30の傾斜面36上でのビーム幅は、G4電極26の開口26aの口径の大きさに対応して、開口26aの口径が大きい図5(b)の場合には電子線28のビーム幅は大きく、開口26aの口径が小さい図5(d)の場合には電子線28のビーム幅は小さくなっている。図示の例では、G4電極26の開口26aの口径を約5mmから約10mmの範囲内で変化させているが、これに対し電子線28のビーム幅は約10μmから約100μmの範囲で変化し、その変化率は非常に大きくなっている。この結果からG4電極26の開口26aをターゲット角度58に対応して、電子線ビーム幅方向の口径を小さくし、電子線ビーム長さ方向の口径が大きい楕円形とすることにより、電子線28のビームの断面形状が適当な楕円形に集束され、実効焦点56をほぼ円形にすることが可能となる。
【0052】
上記においては、電子線28のビームの断面形状を楕円形とするために、G4電極26の開口26の形状を楕円形としているが、G4電極26の開口26の形状はこれに限定されず、楕円形に近似される他の形状のものであってもよい。例えば、G4電極26の開口を図6に示す長方形の開口26bや細長い八角形の開口26cなどにすることにより、G4電極26の近傍に楕円形の開口26aの場合の電位分布に近い電位分布が形成されるので、これらの場合にも、電子線28のビームの断面形状をほぼ楕円形にすることができ、本発明の目的を達成することができる。このとき、長方形の開口26bまたは八角形の開口26cの短い口径が電子線ビーム幅方向に対応し、それぞれの長い口径が電子線ビーム長さ方向に対応する。
【0053】
図7に、本発明に係るX線発生装置の一実施例の概略構成を示す。この図は、本実施例のX線発生装置70の主要構成品の配置例を示したものである。図7において、X線発生装置70の収納容器72内に本発明に係るマイクロフォーカスX線管1が収納されている。収納容器72は金属の板状体から構成された直方体の筐体で、内面の必要な部分には防X線のための鉛板などが貼付されている。この筐体の形状は円筒体などの他の形状でもよい。X線管1は、収納容器72の中央部に固定されている。X線管1の外囲器4の大径部40は金属材料から成り、アース電位であるため、収納容器72の上壁面に直接固定され、回転陽極3の陽極端35は主として絶縁物から成る固定用部材74によって支持されて、収納容器72の下壁面に固定されている。このとき、X線管1のX線放射窓46は、収納容器72の上壁面に直接または近接して配置されるように寸法調整されているため、X線管1の焦点が収納容器72の外表面から近い所に位置することになり、拡大撮影などの際に拡大率を大きくすることが可能となる。また、X線管1の陰極2の給電部76は、収納容器72の左側壁面に向けて配置されている。
【0054】
また、収納容器72の右側壁面には高電圧発生回路78が絶縁支持され、左側壁面にはグリッド電圧発生回路80とカソード電極12を加熱するためのヒータ電源回路82が絶縁支持されている。X線管1の陽極側外周には回転陽極を回転させるステータ84が配置されている。収納容器72の内部には各構成品相互間の絶縁をするために絶縁油86が充填されている。この絶縁には、絶縁油86以外にも、他の液状絶縁物や六弗化硫黄(SF)などの気状絶縁物を用いてもよい。また、絶縁油86はX線管1などによって加熱されるので、絶縁油86の膨張、収縮を緩衝するために、収納容器72にはベローズなどの緩衝機構(図示せず)が取り付けられている。
【0055】
X線管1の陰極2の給電部76および回転陽極3の陽極端35に、高電圧発生回路78から負の高電圧電位と正の高電圧電位がリード線(図示せず)にて給電されている。また、グリッド電圧発生回路80およびヒータ電源回路82からX線管1の陰極2の給電部76に、4個のグリッド電位、すなわちG1電位、G2電位、G3電位、G4電位と、ヒータ加熱電圧がリード線により給電される。これらの電圧は陰極2のステム19の導入線を通してX線管1の陰極2の電子集束系14に導かれ、図2に示したG1電極20、G2電極22、G3電極24、G4電極26およびカソード電極12に供給される。
【0056】
次に、図8、図9を用いて、高電圧発生回路、グリッド電圧発生回路、ヒータ電源回路について説明する。図8は、高電圧発生回路の一例を示したものである。図示の高電圧発生回路78では、高電圧制御部88と高電圧発生部90を有し、高電圧制御部88には入力電源や高電圧設定部や高電圧検知部や高電圧比較判定部などが含まれ、高電圧発生部90には変圧器92と昇圧回路94などが含まれる。
【0057】
高電圧制御部88では、X線管1に印加する高電圧(X線管電圧)の値を高電圧設定部で設定し、このX線管電圧設定値に基づいて高電圧発生回路78の変圧器92への入力電圧を制御する。図8に示す如く、変圧器92への入力電圧は、交流電源96と整流回路98とインバータ回路100とから成る入力電源部102によって生成される。この入力電源部102は制御回路104によって制御される。また、高電圧制御部88では、高電圧検知部にて高電圧発生回路78で発生する高電圧を抵抗分圧器などで分圧して測定して、実測値として出力し、高電圧比較判定部にて高電圧設定値と高電圧実測値との比較をして、差異の有無を判定し、差異のある場合には両者が一致するように、高電圧設定部を介して、変圧器92の1次側に印加する電圧(入力電源部102の出力電圧)を制御する。
【0058】
高電圧制御部88の入力電源部102では、変圧器92の1次側への入力電圧が生成されるが、この入力電圧は交流電源96の出力交流電圧を整流回路98で整流した後インバータ回路100にて高周波(例えば25kHz程度)のパルス電圧に変換されたものである。ここで、インバータ回路100は、制御回路104によってパルス幅変調(PWM)制御(以下、PWM制御と略称する)されている。以下、制御回路104についてはPWM回路ともいう。変圧器92の2次側電圧(E)を上昇するときには、PWM回路104によってインバータ回路100のパルス幅を大きくして、変圧器92の1次側コイルに流れる平均電流を増大させて、1次側電圧(E1)を上昇させる。反対に、2次側電圧(E)を降下させるときにはPWM回路104によってインバータ回路100のパルス幅を小さくして、変圧器92の1次側コイルに流れる平均電流を減少させて、1次側電圧(E1)を降下させる。
【0059】
高電圧発生部90の昇圧回路94としてはコンデンサとダイオードとの組合せから成るコッククロフト・ウオルトン回路方式の倍電圧回路(以下、コッククロフト回路と略称する)94が採用されている。高電圧発生回路78で発生する高電圧の値としては種々の値がとられるが、本実施例の場合、X線管1に印加されるX線管電圧の最大値を150kVとして、陽極側に+75kV、陰極側に−75kVの電圧をそれぞれ印加する中世点接地方式をとっている。
【0060】
図示の例では、コッククロフト回路94は陽極側コッククロフト回路94aと陰極側コッククロフト回路94bとから成り、両者とも4個のコンデンサと4個のダイオードの組合せで構成される。1組のコンデンサとダイオードで発生する電圧の最大値は約18.75kVとしている。コッククロフト回路94におけるコンデンサとダイオードの組数は上記に限定されず、増減してもよいことは言うまでもない。
【0061】
コッククロフト回路94において、変圧器92の2次側の出力電圧をVmとすると、コッククロフト回路94の陽極側コッククロフト回路94aおよび陰極側コッククロフト回路94aの各節点における電圧値は順次Vm、2Vm、3Vm、・・・と増加して行く。ただし、陰極側コッククロフト回路94bでは負の符号である。ここで、最大電圧値は陽極側では+4Vmであるのに対し、陰極側では−4Vmであるので、X線管電圧としては+8Vmとなる。
【0062】
高電圧発生部90の変圧器92としては通常巻数比の大きい変圧器が用いられる。変圧器92の1次側と2次側の巻数比を例えば1:100とした場合、コッククロフト回路94から出力されるX線管電圧の最大値を150kVとしたとき、2次側の電圧(E2)の最大値は前述の如く18.75kVとなるので、1次側の電圧(E1)最大値としては187.5Vだけ発生する必要がある。
【0063】
図9は、本実施例のX線発生装置70を構成するグリッド電圧発生回路80とヒータ電源回路82の一例を示したものである。図9において、グリッド電圧発生回路80では、陰極2の電子集束系14の4個のグリッド電極に供給される4個のグリッド電位が生成され、ヒータ電源回路82では陰極2のカソード電極12の昇温に用いられるヒータ110を加熱するためのヒータ加熱電圧が生成される。グリッド電圧発生回路80にはG1電極20に供給されるG1電位を生成するG1電位発生回路112、G2電極22に供給されるG2電位を生成するG2電位発生回路114、G3電極24に供給されるG3電位を生成するG3電位発生回路116、G4電極26に供給されるG4電位を生成するG4電位発生回路118が含まれる。
【0064】
図9において、ヒータ電源回路82と、G1電位発生回路112、G2電位発生回路114、G3電位発生回路116、G4電位発生回路118は、ほぼ同じ構成要素から成る。ヒータ電源回路82を取り上げてその構成について説明する。ヒータ電源回路82は交流電源120と電圧調整器122と絶縁変圧器124と整流器126とコンデンサ128などから構成される。ヒータ電源回路82では交流電源120からの交流電圧を電圧調整器122でヒータ加熱電圧として必要な入力電圧値に調整し、絶縁変圧器124にて低電位の1次側とは絶縁した高電位の2次側の電圧として出力し、整流器126およびコンデンサ128にて整流したヒータ加熱電圧とする。本実施例のヒータ加熱電圧としては通常数Vの電圧が使用される。G1電位発生回路112、G2電位発生回路114、G3電位発生回路116およびG4電位発生回路118においても、ヒータ加熱電源82の場合と同様に、G1電位、G2電位、G3電位およびG4電位が生成される。グリッド電位の場合、ヒータ加熱電圧よりも電圧値が高いこと、極性が負の電位もあることなどの点で、ヒータ加熱電圧と異なるところがある。それらの点については構成要素の仕様を変えることや配線での極性の変更などを行えばよい。
【0065】
図9の例では、陰極2のグリッド電極の個数が4個の場合について説明したが、陰極2のグリッド電極の個数が5個以上または3個以下になった場合には、図9のグリッド電圧発生回路において、グリッド電極の個数に対応してグリッド電位発生回路の個数を増減すればよい。
【0066】
本発明に係るX線装置は、本発明に係るマイクロフォーカスX線管1を内装するX線発生装置70と、被検体を載置する支持板と、被検体を透過したX線を検知するX線検出器と、X線発生装置70や被検体やX線検出器などを収納する筐体と、X線発生装置70や支持板の位置やX線検出器などの動作を制御する制御器などから構成される。このX線装置では、内装X線管としてマイクロフォーカスX線管1を備えているので、非破壊検査に使用される場合、拡大撮影による被検体の精密検査などに適している。図10に本実施例のX線装置による拡大撮影における配置図の一例を示す。図10において、X線発生装置70に内装されたX線管1と、被検体140と、X線検出器142がX線主放射方向(図示の上下方向)6に配置されている。被検体140はX線透過性のよい材料から成る支持板144によって支持されている。X線管1のターゲット30の上に形成される焦点38から放射されたX線5は被検体140を透過した後、X線検出器142の受光面146に受光される。この受光面146にて、X線5は画像信号に変換され、被検体140の拡大された撮影画像が得られる。
【0067】
X線管1の焦点38から被検体140までの距離をA、被検体140からX線検出器142の受光面146までの距離をBとした場合、被検体140の撮影画像の幾何学的拡大率Mは(A+B)/Aとなる。本発明では、前述の如く、X線管1を中性点接地方式としたことにより、X線管1の焦点38と外囲器4のX線放射窓46との間の距離を大幅に短くすることができるため、焦点38と被検体140との間の距離を従来に比べて大幅に小さくすることが可能となった。その結果、撮影画像の幾何学的拡大率Mも従来に比べて大きくすることが可能となり、被検体140の微細部分の精密な検査を行うことができるようになった。
【0068】
また、本発明のマイクロフォーカスX線管1では、電子線のビームの断面形状をほぼ楕円形にしたことにより、ほぼ円形の実効焦点を得ることができ、かつ、実焦点の長さ寸法を大きくすることができたので、撮影画像の全ての方向で偏りのない解像度をもつ実効焦点が得られ、かつX線量を増加することができた。その結果、上記の拡大撮影において、方向によって解像度に偏りのない撮影画像が得られるとともに、より高拡大率の拡大撮影も可能となった。
【図面の簡単な説明】
【0069】
【図1】本発明に係るマイクロフォーカスX線管の一実施例の全体構造図。
【図2】図1の陰極の主要部の構造を示す図。
【図3】図1の陰極の動作を説明するための図。
【図4】電子線の断面形状と実効焦点の形状との関係を説明するための図。
【図5】本実施例のX線管における電子線の軌道計算例。
【図6】G4電極の開口の他の例。
【図7】本発明に係るX線発生装置の主要構成品の配置例。
【図8】高電圧発生回路の一例。
【図9】グリッド電圧発生回路とヒータ電源回路の一例。
【図10】本発明に係るX線装置による拡大撮影における配置図の一例。
【図11】CRT用電子銃で最も基本的なIn-line型電子銃の概略構成を示す図。
【図12】従来のマイクロフォーカスX線管の陰極構造の一例。
【符号の説明】
【0070】
1・・・マイクロフォーカスX線管(X線管)
2・・・陰極
3・・・陽極(回転陽極)
4・・・外囲器
5・・・X線
12・・・カソード電極
12a・・・電子線放射面
14・・・電子集束系
16・・・カソード支持体
18・・・電子集束系絶縁体
19・・・ステム
20・・・第1グリッド電極(G1電極)
20a・・・G1電極の開口
22・・・第2グリッド電極(G2電極)
22a・・・G2電極の開口
24・・・第3グリッド電極(G3電極)
24a・・・G3電極の開口
26・・・第4グリッド電極(G4電極)
26a、26b、26c・・・G4電極の開口
28・・・電子線
30・・・ターゲット
36・・・傾斜面
38・・・焦点(実焦点)
40・・・大径部
42・・・陽極絶縁部
44・・・陰極絶縁部
46・・・X線放射窓
48・・・回転陽極の中心軸
50・・・カソードレンズ
52・・・プリフォーカスレンズ
54・・・主レンズ
56・・・実効焦点
58・・・ターゲット角度
70・・・X線発生装置
72・・・収納容器
78・・・高電圧発生回路
80・・・グリッド電圧発生回路
82・・・ヒータ電源回路
88・・・高電圧制御部
90・・・高電圧発生部
92・・・変圧器
94・・・昇圧回路(コッククロフト回路)
94a・・・陽極側コッククロフト回路
94b・・・陰極側コッククロフト回路
96・・・交流電源
98・・・整流回路
100・・・インバータ回路
102・・・入力電源部
104・・・制御回路(PWM回路)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電子線を放出するカソード電極と、電子線を細いビームに集束するために電子線の経路に配置される複数個のグリッド電極とを有する陰極と、電子線の衝突によりX線を発生させるターゲットを有する陽極と、陰極と陽極とを真空気密に封止し、ターゲットで発生したX線を外部に放射するX線放射窓を有する外囲器とから構成され、複数個のグリッド電極はそれぞれ電子線を通過させるための開口を有し、グリッド電極のそれぞれにカソード電極を基準とするグリッド電位を印加することにより微小焦点を得るマイクロフォーカスX線管において、前記グリッド電極のうちの少なくとも1個のグリッド電極の開口の形状を楕円形または楕円形に近似される形状とし、前記電子線のビームの断面形状を大略楕円形としたことを特徴とするマイクロフォーカスX線管。
【請求項2】
微小焦点を有するマイクロフォーカスX線管(以下、X線管と略称する)と、X線管の陰極と陽極との間に高電圧を供給する高電圧発生回路と、X線管の陰極の複数個のグリッド電極にグリッド電圧を供給するグリッド電圧発生回路と、X線管の電極を絶縁支持する電極絶縁支持部と、X線管と高電圧発生回路とグリッド電圧発生回路と電極絶縁支持部を内包し、支持する筐体と、筐体内に充填され、X線管およびその他の構成要素を浸漬し、絶縁する絶縁媒体と、絶縁媒体の膨張、収縮を緩衝するために筐体に取り付けられた緩衝機構を含むX線発生装置において、前記X線管が請求項1記載のマイクロフォーカスX線管であることを特徴とするX線発生装置。
【請求項3】
X線を発生するX線発生装置と、X線発生装置から発生し、被検体を透過したX線を検出するX線検出装置と、X線検出装置から出力される検出X線量に対応する信号に基づいて被検体のX線画像を作成する画像形成装置と、X線発生装置、X線検出装置および画像形成装置を制御する制御装置を有するX線装置において、前記X線発生装置が請求項2記載のX線発生装置であることを特徴とするX線装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2006−164819(P2006−164819A)
【公開日】平成18年6月22日(2006.6.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−356330(P2004−356330)
【出願日】平成16年12月9日(2004.12.9)
【出願人】(000153498)株式会社日立メディコ (1,613)
【Fターム(参考)】