説明

マイクロプレート用拭取装置、薬剤感受性測定装置

【課題】 マイクロプレートに付着した水滴を好適に除去することが可能なマイクロプレート用拭取装置を提供する。
【解決手段】 マイクロプレート用拭取装置3は、検体を収容するウェル21を複数備えたマイクロプレート2に対し、前記ウェル21の外面に付着した水滴等を拭取るための拭取装置であって、拭取り主体たる吸水性高分子シート31を備え、該吸水性高分子シート31にはウェル21を収容可能な凹部33が形成され、該凹部33が複数のウェル21の配置パターンと同一パターンで形成されていることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マイクロプレート用拭取装置及び薬剤感受性測定装置に関するものであり、例えば薬剤中に繁殖した菌の検出や血液中の抗原抗体の検出等を行う目的で使用するマイクロプレートについて、該マイクロプレートのウェル表面に付着した水滴を拭き取るための拭取装置、及び該拭取装置を備えた薬剤感受性測定装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、血液中の抗原抗体、病原菌等の検出を行うことき、微量液体希釈法によるMIC測定法を用いることが広く行われている。このようなMIC測定法を実施する場合には、例えば特許文献1に記載されたようなマイクロプレートを用いることが一般的である。
【特許文献1】特開平9−80056号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
マイクロプレートは、複数個(例えば96個)のウェルを有しており、恒温槽で菌等を培養した後、検査室に移動されて所定の検査が行われるものとなっている。ここで、マイクロプレートを恒温状態から室温状態に移動するとき、恒温槽内の温度と室温との温度差により、ウェルの表面にくもり(水滴)が付着することがある。このような水滴がウェルの底面又は壁面に付着した状態で、検査室においてCCDカメラ等にて画像を撮影すると、画像に水滴が写ってしまい、誤判定の原因となる場合がある。
【0004】
ウェルの中で繁殖する菌はウェル底面で繁殖するものが殆どであるが、肺炎球菌等の一部の菌は、ウェルの壁面に繁殖する。よって、撮像の際は、ウェルの全体を撮影しなければ種々の菌の画像判定を行うことはできない。そこで、ウェルに付着した水滴を確実に除去する技術が重要となってくる。
【0005】
上記特許文献1では、ウェルに付着した水滴を除去するために、高分子吸収材をマイクロプレートの底面から圧力をかけて押し当てている。この場合、十分な吸収を得るためには押し付け圧力をある程度大きくする必要があり、一方で圧力を大きくし過ぎるとマイクロプレートが破損してしまう場合がある。また、マイクロプレートと高分子吸収材の接触面が小さく、ウェルの外面のうち限られた面積(ウェルの底面)しか水滴を除去することが出来なかった。そのためウェルの壁面の水滴が残ってしまい、ウェル全体を撮像すると画像に水滴が写り、誤判定の原因となる場合がある。このような不具合を解消するために、撮像のエリアを小さくし、底面だけを撮影することも考えられるが、その場合、ウェル壁面に繁殖する菌は撮影が難しく、画像判定が困難となり得る。また、ウェル全面を吸収し易くするために繊維系の吸収材もあるが、これは糸くずが付着し易く、画像判定前の水滴除去手段としては不向きである。
【0006】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであって、マイクロプレートに付着した水滴を好適に除去することが可能なマイクロプレート用拭取装置を提供することを目的としており、併せて該拭取装置を備えた薬剤感受性測定装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の目的を達成するために、本発明のマイクロプレート用拭取装置は、検体を収容するウェルを複数備えたマイクロプレートに対し、前記ウェルの外面に付着した水滴等を拭取るための拭取装置であって、拭取り主体たる吸水性高分子シートを備え、該吸水性高分子シートには前記ウェルを収容可能な凹部が形成され、該凹部が前記複数のウェルの配置パターンと同一パターンで形成されていることを特徴とする。
【0008】
このような構成によると、吸水性高分子シートにウェルの配置パターンと同一パターンの凹部が形成されてなるため、ウェルの外面に付着した水滴等を拭取る際には、該吸水性高分子シートをマイクロプレートに押し当て、凹部の中にウェルを収容させた状態で拭取りを行うことができる。したがって、ウェル外面と吸水性高分子シートとの接触面積が増加し、ウェルの底面のみならず壁面に付着した水滴等を好適に除去することが可能となる。その結果、ウェル全体の水滴を除去でき、ひいては検査時においてウェル壁面を含めた全体の撮像を不具合なく行うことができるようになる。また、従来のような押し付け圧力が必要なく、ウェルが破損してしまう不具合も解消できるようになる。
【0009】
上記拭取装置において、吸水性高分子シートは吸水力が高いもので、例えば多孔性のポリウレタン樹脂等からなるものを例示することができる。また、吸水性高分子シートに形成する凹部は、ウェルを収容すべく、シート表面から凹んだ部分の空間容積がウェルの容積と略同一若しくは若干大きく構成されていることが好ましい。さらに、吸水性高分子シートに形成する凹部は、ウェルの外面形状と同一の内面形状を有してなるものとすることができる。この場合、凹部内に形成される空間にウェルを好適に収容させることが可能となり、吸水性高分子シートとウェルの接触面積が増大して拭取り能力が一層向上することとなる。
【0010】
次に、上記課題を解決するために、本発明のマイクロプレート用拭取装置の異なる態様は、検体を収容するウェルを複数備えたマイクロプレートに対し、該マイクロプレートの外面に付着した水滴等を拭取るための拭取装置であって、可撓性の吸水性高分子シートと、拭取り時に前記吸水性高分子シートが前記ウェルを囲み込むように、該吸水性高分子シートを撓ませつつ前記マイクロプレートに押し当てる押当部材とを有してなることを特徴とする。
【0011】
この場合、ウェルの外面に付着した水滴等を拭取る際には、吸水性高分子シートをマイクロプレートに押し当て、ウェルが撓んだ吸水性高分子シートの中に囲まれた状態で拭取りを行うことができる。したがって、ウェル外面と吸水性高分子シートとの接触面積が増加し、ウェルの底面のみならず壁面に付着した水滴等を好適に除去することが可能となる。その結果、ウェル全体の水滴を除去でき、ひいては検査時においてウェル壁面を含めた全体の撮像を不具合なく行うことができるようになる。また、従来のような押し付け圧力が必要なく、ウェルが破損してしまう不具合も解消できるようになる。
【0012】
上記拭取装置において、前記押当部材は、前記マイクロプレートのうち前記ウェルが形成されていない位置において、前記吸水性高分子シートを前記マイクロプレートに押し当てる構成とすることができる。このような構成により吸水性高分子シートによるウェルの囲み込みを一層確実に行うことが可能となる。
【0013】
次に、上記課題を解決するために、本発明の薬剤感受性測定装置は、上記拭取装置を備えることを特徴とする。このような薬剤感受性測定装置によれば検体の撮像を一層確実に行うことが可能となり、ひいては信頼性の高い検体の撮像等の検査を行うことが可能となる。
【発明の効果】
【0014】
以上説明したように、本発明のマイクロプレート用拭取装置によれば、ウェルに付着した水滴を好適に拭き取ることが可能となり、特にウェルの底面のみならず壁面までを確実に拭き取ることが可能となる。また、このような拭取装置を具備するマイクロプレートを用いte
用いてMIC測定を行うことで、ウェルの壁面に付着した菌を確実に撮像することができ、誤判定も少ないものとなる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明の実施の形態を図面を参照して説明する。
図1は本実施形態の薬剤感受性測定装置1の平面図で、図2は薬剤感受性測定装置1の正面図である。本実施形態の薬剤感受性測定装置1は、マイクロプレート2と、拭取装置3とを備え、薬剤感受性測定法を実施可能な構成を有している。
【0016】
マイクロプレート2は、アクリル樹脂、ポリスチレン、ポリ塩化ビニールなどの透光性のプラスチックで形成されており、検体を収容するためのウエル21を、例えば8×12の配列で96個備えている。ウエル21相互の間隔は一定に保たれており、各ウエル21の底壁はU字状に形成されている。また、マイクロプレート2の周壁22は、ウエル21の深さより所定長だけ高く形成されており、その下端周縁部には水平方向外方に向けて突出するリブ23が形成されている。そして、リブ23の下面で内周縁部には、周壁22の厚みに相当する幅の切欠部24が形成されており、この切欠部24と別のマイクロプレート2の上端部とを嵌合させることによって、マイクロプレート2を複数積層できるようになっている。
【0017】
一方、拭取装置3は、図4の平面図(a)及び正面図(b)及び側面図(c)、並びに図4(a)におけるA−A断面図(図5)にも示すように、吸水性の高分子材料を75mm×110mm×12mmのシート状に成形してなる吸水性高分子シート31と、該吸水性高分子シート31をマイクロプレート2と接触させるために、吸水性高分子シート31を昇降させる昇降装置32(図2)とを有している。吸水性高分子シート31は、多孔性のポリウレタン樹脂からなり、吸水しても体積変化がないものである。
【0018】
吸水性高分子シート31には凹部33が形成されており、該凹部33は上記マイクロプレート2に形成されたウェル21と同一パターンで配列されており、つまり8×12の配列で96個の凹部33が吸水性高分子シート31に形成されている。また、凹部33は、その内部空間にマイクロプレート2に形成されたウェル21を収容可能とされており、該ウェル21の外面形状と同一の内面形状を有して構成されている。さらに、凹部33において、吸水性高分子シート31の表面から凹んだ部分の空間容積が、ウェル21の容積と略同一若しくは若干大きく構成されている。
【0019】
このような構成の薬剤感受性測定装置1を用いた薬剤感受性測定法により、例えば菌の繁殖状況を検査する場合には、薬剤をウエル21内に収容し、その薬剤濃度は倍々希釈され、縦若しくは横に配列される。そして、各ウェル21内に検査対象となる菌を入れて培養し、一定時間後にどの薬剤濃度で菌がどのように発育するかを、例えばCCDカメラによる撮像観察により検査する。
【0020】
ウェル21に薬剤と菌が入れられたマイクロプレート2は、恒温槽などで菌の培養が行われる。培養後、恒温槽から取り出したマイクロプレート2には、室温との温度差により、くもり(水滴)が付着する。ウェル21の底面又は壁面に水滴が付着した状態でCCDカメラにて画像を撮影すると、画像に水滴が写ってしまい、画像判定の際、誤判定の原因となる場合がある。
【0021】
そこで、本実施形態では画像撮影の前に拭取装置3により、くもり(水滴)の拭取り工程を行うものとしている。具体的には、マイクロプレート2のウェル21と、吸水性高分子シート31の凹部33と位置合わせしつつ、昇降装置32に吸水性高分子シート31を設置する。その後、昇降装置32を作動させることで、図3に示すように、吸水性高分子シート31の凹部33内にマイクロプレート2のウェル21が嵌り込むように、当該吸水性高分子シート31とマイクロプレート2とを接近させる。ウェル21が凹部33に嵌った状態で数秒間〜数十秒間静置させ、その後、昇降装置32を作動させて吸水性高分子シート31をマイクロプレート2から離間させる。その後、図示しない搬送装置により、マイクロプレート2を検査室に移送し、該検査室でCCDカメラによる撮像観察が行われる。
【0022】
従来、表面が平坦な吸水性高分子シートをマイクロプレート2に接触させて、ウェル21に付着した水分を除去していた。その場合、図6に示したように、ウェル21の底面の水滴しか除去できず、ウェル21の壁面には水滴50が残ることなる。したがって、ウェル21の全体を該ウェル21の底面側から撮影すると、画像に水滴が写ってしまい、誤判定の原因となる。以上のような平坦な吸水性高分子シートを用いた場合には、撮影範囲をウェル21の全体ではなく、図示したように範囲Aに狭める必要があった。
【0023】
ところが、本実施形態では、凹部33を備えた吸水性高分子シート31を用いているため、ウェル21の底面のみならず壁面に付着した水滴も好適に除去できようになる。その結果、ウェル21の全体範囲Bを測定することが可能であり、つまりウェル21の壁面に繁殖した菌も撮影することが可能となる。したがって、薬剤感受性測定法による検査精度が向上し、非常に信頼性の高い検査結果を得ることが可能となる。なお、図6及び図7において符号51はウェル21に収容された検体の水面を示している。
【0024】
以下、拭取装置3の一変形例に図8及び図9を参照して説明する。
図8は、拭取装置3の一変形例である拭取装置3aの断面構成を示す模式図であり、図9は拭取装置3aを用いたウェル21の拭取態様を示す断面模式図である。
拭取装置3aにおいては、可撓性を示す吸水性高分子シート31aを採用し、拭取り時に該吸水性高分子シート31aを撓ませてウェル21の全体を該シート31aで囲み込むことが可能な構成とした。
【0025】
具体的には、吸水性高分子シート31aを昇降させることが可能で、且つ吸水性高分子シート31aを撓ませながらマイクロプレート2に押し当てることが可能な押当部材32aにより上記囲い込みを実現している。押当部材32aは、ウェル21の配置パターンと同一パターンで形成された凹凸を有し、マイクロプレート2のうちウェル21が形成されていない部分(位置)25において凸部35を、ウェル21が形成された部分において凹部34を有している。そして、拭取時には、凸部35により吸水性高分子シート31aをマイクロプレート2に押し当て、吸水性高分子シート31aがウェル21の形状に沿って撓むことで、ウェル21の底面から壁面までを拭取可能としている。
【0026】
以上、本発明の実施の形態を示したが、本発明は上記構成に限定されるものでなく、特許請求の範囲に記載した事項の範囲内で種々の変更を行うことができる。例えば、吸水性高分子シートについてはポリウレタン樹脂の他、多孔性の各種樹脂、或いは吸水性の高いポリビニルアルコール樹脂等を採用することができる。また、ウェルの底部の形状がV字状である場合には、拭取装置の吸水性高分子シートに形成する凹形状もV字状にすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】薬剤感受性測定装置の平面図。
【図2】薬剤感受性測定装置の正面図。
【図3】拭取装置による拭取態様を示す断面模式図。
【図4】吸水性高分子シートの平面図(a)、正面図(b)、側面図(c)。
【図5】吸水性高分子シートの断面図。
【図6】従来の拭取装置による拭取効果を示す説明図。
【図7】本実施形態の拭取装置による拭取効果を示す説明図。
【図8】拭取装置の一変形例を示す断面模式図。
【図9】図8の拭取装置による拭取態様を示す断面模式図。
【符号の説明】
【0028】
1…薬剤感受性測定装置、2…マイクロプレート、3…拭取装置(マイクロプレート用拭取装置)、21…ウェル、31…吸水性高分子シート、33…凹部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
検体を収容するウェルを複数備えたマイクロプレートに対し、前記ウェルの外面に付着した水滴等を拭取るための拭取装置であって、拭取り主体たる吸水性高分子シートを備え、該吸水性高分子シートには前記ウェルを収容可能な凹部が形成され、該凹部が前記複数のウェルの配置パターンと同一パターンで形成されていることを特徴とするマイクロプレート用拭取装置。
【請求項2】
前記凹部は、前記ウェルの外面形状と同一の内面形状を有してなることを特徴とする請求項1に記載のマイクロプレート用拭取装置。
【請求項3】
検体を収容するウェルを複数備えたマイクロプレートに対し、該マイクロプレートの外面に付着した水滴等を拭取るための拭取装置であって、可撓性の吸水性高分子シートと、拭取り時に前記吸水性高分子シートが前記ウェルを囲み込むように、該吸水性高分子シートを撓ませつつ前記マイクロプレートに押し当てる押当部材とを有してなることを特徴とするマイクロプレート用拭取装置。
【請求項4】
前記押当部材は、前記マイクロプレートのうち前記ウェルが形成されていない位置において、前記吸水性高分子シートを前記マイクロプレートに押し当てる構成とされていることを特徴とする請求項3に記載のマイクロプレート用拭取装置。
【請求項5】
請求項1ないし4のいずれか1項に記載の拭取装置を備えたことを特徴とする薬剤感受性測定装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2006−145472(P2006−145472A)
【公開日】平成18年6月8日(2006.6.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−338985(P2004−338985)
【出願日】平成16年11月24日(2004.11.24)
【出願人】(593164158)小松電子株式会社 (11)
【Fターム(参考)】