説明

マイクロホンユニット

【課題】広い周波数帯域で良好な遠方ノイズ抑圧性能を得ることが可能であると共に、小型化が可能な高品質のマイクロホンユニットを提供する。
【解決手段】マイクロホンユニット1は、振動板134の振動に基づいて音信号を電気信号に変換する電気音響変換素子13と、電気音響変換素子13を収容する筐体10と、を備える。筐体10には、その外面に形成される少なくとも1つの第1の開口18を介して振動板134の一方の面に外部から音波を導く第1の導音空間SP1と、第1の導音空間SP1とは異なる形状を有し、第1の開口18と同一外面に形成される少なくとも1つの第2の開口19を介して振動板134の他方の面に外部から音波を導く第2の導音空間SP2と、が設けられる。少なくとも1つある第1の開口18のトータル面積と、少なくとも1つある第2の開口19のトータル面積とは異なっている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、入力音を電気信号に変換して出力する機能を備えたマイクロホンユニットに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、例えば、携帯電話やトランシーバ等の音声通信機器、音声認証システム等の入力された音声を解析する技術を利用した情報処理システム、或いは録音機器等に、入力音を電気信号に変換して出力する機能を備えたマイクロホンユニットが適用されており、種々のマイクロホンユニットが開発されている(例えば特許文献1〜3参照)。
【0003】
従来のマイクロホンユニットの中には、例えば特許文献1や2に示されるように、振動板をその両面に加わる音圧の差によって振動させて音信号を電気信号に変換するタイプのマイクロホンユニットがある。以下においては、このタイプのマイクロホンユニットのことを差動マイクロホンユニットと表現することがある。
【0004】
差動マイクロホンユニットは、接話マイクとして使用する場合に優れた遠方ノイズ抑圧性能を得ることができる。このため、例えば、接話マイクとしての機能が要求される携帯電話機用途等において、差動マイクロホンユニットは有用である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2009−188943号公報
【特許文献2】特開2005−295278号公報
【特許文献3】特開2007−150507号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、差動マイクロホンユニットには、振動板の一方の面(第1の面)に外部から音波を導く第1の導音空間と、振動板の他方の面(第1の面の裏面)に外部から音波を導く第2の導音空間と、が備えられる。近年においては、マイクロホンユニット及びそれが搭載される機器の小型化や薄型化の要求が強い。このため、差動マイクロホンユニットの構成としては、例えば特許文献1や2に示されるように、第1の導音空間と外部とを連通する開口と、第2の導音空間と外部とを連通する開口とは、マイクロホンユニットを構成する筐体の同一外面に設けるのが好ましい。このように構成することで、マイクロホンユニットの小型・薄型化が可能となり、また、それが搭載される機器内に設けられる導音空間(マイクロホンユニットの導音空間ではない)の構成を単純とできる(小型・薄型化が可能となる)からである。
【0007】
しかし、差動マイクロホンユニットをこのような構成とすると、第1の導音空間と第2の導音空間との形状を同一形状とするのが難しくなる。この場合、両者の周波数特性を一致させることができない。本出願人は、音波が第1の導音空間を伝播するときの周波数特性と、音波が第2の導音空間を伝播するときの周波数特性とが異なると、広い周波数帯域で良好な遠方ノイズ抑圧性能を得ることができないといった問題が発生するという知見を得ている。すなわち、上記の小型化を狙った差動マイクロホンユニットでは、広い周波数帯域で良好な遠方ノイズ抑圧性能を得ることができないといった問題が生じ、これを解消することが重要となる。
【0008】
特許文献2のマイクロホンユニットに見られるような音響抵抗部材を第1の導音空間及び/又は第2の導音空間に配置し、これによって周波数特性を調整して上述の問題を解消することも考えられる。しかしながら、音響抵抗部材(例えばフェルト等が使用される)を用いる構成では、例えば、振動板の振動に基づいて音信号を電気信号に変換する電気音響変換素子としてMEMS(Micro Electro Mechanical System)チップを用いるような場合に、音響抵抗部材から発生するダストによって電気音響変換素子が故障しやすいといった問題が発生する。
【0009】
なお、特許文献3に開示されるマイクロホンパッケージ(マイクロホンユニット)は、筐体の同一面に2つの開口を設ける構成となっているが、これは差動マイクロホンユニットではない。2つの開口のうち、一方は音響信号の受音特性を向上するために設けられたリーク孔である。このマイクロホンパッケージでは、振動板の一方の面に面する空間の周波数特性と、振動板の他方の面に面する空間の周波数特性とを一致させる必要がなく、上述したような問題は生じない。
【0010】
以上の点に鑑みて、本発明の目的は、広い周波数帯域で良好な遠方ノイズ抑圧性能を得ることが可能であると共に、小型化が可能な高品質のマイクロホンユニットを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成するために本発明のマイクロホンユニットは、振動板の振動に基づいて音信号を電気信号に変換する電気音響変換素子と、前記電気音響変換素子を収容する筐体と、を備えるマイクロホンユニットであって、前記筐体には、その外面に形成される少なくとも1つの第1の開口を介して前記振動板の一方の面に外部から音波を導く第1の導音空間と、前記第1の導音空間とは異なる形状を有し、前記第1の開口と同一外面に形成される少なくとも1つの第2の開口を介して前記振動板の他方の面に外部から音波を導く第2の導音空間と、が設けられ、少なくとも1つある前記第1の開口のトータル面積と、少なくとも1つある前記第2の開口のトータル面積とが異なっていることを特徴としている。
【0012】
本構成のマイクロホンユニットは、第1の導音空間によって振動板の一方の面に音圧を加え、第2の導音空間によって振動板の他方の面に音圧を加えることが可能であり、差動マイクロホンユニットとして機能する。また、第1の導音空間と外部とを連通する第1の開口と、第2の導音空間と外部とを連通する第2の開口とが筐体の同一外面に設けられるために、小型化・薄型化が可能である。
【0013】
そして、形状の異なる2つの導音空間の各々に外部から音を入力するための第1の開口と第2の開口とを、トータル面積が異なるように設けているために、音波が第1の導音空間を伝播するときの周波数特性(共振周波数)と第2の導音空間を伝播するときの周波数特性(共振周波数)を近づけることが可能となっている。その結果、本構成によると、広い周波数帯域で良好な遠方ノイズ抑圧性能を示すマイクロホンユニットを得ることが可能となっている。なお、本構成は、筐体の構造を工夫することによって音波が2つの導音空間伝播するときの周波数特性を近づけるものである。このため、音響抵抗部材を用いて音波が2つの導音空間を伝播するときの周波数特性を近づける場合に懸念される「ダスト発生による電気音響変換素子の故障」が起り難い。
【0014】
上記構成のマイクロホンユニットにおいて、前記電気音響変換素子は前記第1の導音空間内に配置され、前記第1の開口のトータル面積が前記第2の開口のトータル面積よりも大きいこととしてよい。通常、電気音響変換素子を配置する側の導音空間の方が、電気音響変換素子が配置されない側の導音空間よりも体積が大きくなり、共振周波数が低くなる傾向がある。この点、本構成によれば、体積が大きくなる側の導音空間とつながる第1の開口のトータル面積を他方に対して大きくするものであり、音波が2つの導音空間を伝播するときの周波数特性を近づけることが可能である。
【0015】
上記構成のマイクロホンユニットにおいて、前記第1の開口は1つであり、前記第2の開口は複数であることとしてもよいし、また、前記第1の開口及び前記第2の開口はいずれも1つであることとしてもよい。
【0016】
上記構成のマイクロホンユニットにおいて、前記筐体は、前記電気音響変換素子を搭載する搭載部と、前記搭載部上に載置されて前記電気音響変換素子を覆うカバーと、からなって、前記搭載部には、その上に搭載される前記電気音響変換素子に覆われる第1の搭載部開口と、前記第1の搭載部開口と同一面に形成される第2の搭載部開口と、前記第1の搭載部開口と前記第2の搭載部開口とをつなぐ搭載部内空間と、が設けられ、前記カバーには、前記搭載部上に載置される前記電気音響変換素子を収容する収容空間と、一端が前記収容空間とつながるとともに他端が外部へとつながる少なくとも1つの第1の貫通孔と、前記収容空間につながることなく、一端が前記第2の搭載部開口とつながるとともに他端が外部につながる少なくとも1つの第2の貫通孔と、が設けられ、前記第1の開口は前記第1の貫通孔によって得られ、前記第2の開口は前記第2の貫通孔によって得られ、前記第1の導音空間が、前記第1の貫通孔と前記収容空間とを用いて形成されており、前記第2の導音空間が、前記第2の貫通孔と、前記第1の搭載部開口と、前記第2の搭載部開口と、前記搭載部内空間と、を用いて形成されていることとしてもよい。 本構成によれば、小型化や薄型化が可能な差動マイクロホンユニットの構造を簡易なものとでき、その製造が容易となる。
【0017】
上記構成のマイクロホンユニットにおいて、前記第1の導音空間内に、前記電気音響変換素子から得られる電気信号を処理する電気回路部が配置されていることとしてもよい。例えば、電気回路部は筐体外に設けることも可能であるが、本構成の方がマイクロホンユニットの取り扱いが容易となる。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、広い周波数帯域で良好な遠方ノイズ抑圧性能を得ることが可能であると共に、小型化が可能な高品質のマイクロホンユニットを提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】第1実施形態のマイクロホンユニットの構成を示す図
【図2】第1実施形態のマイクロホンユニットが備える搭載部を構成する3つの平板を示す概略平面図
【図3】第1実施形態のマイクロホンユニットが備えるカバーの構成を示す概略平面図
【図4】第1実施形態のマイクロホンユニットが備えるMEMSチップの構成を示す概略断面図
【図5】第1実施形態のマイクロホンユニットの構成を示すブロック図
【図6】第1実施形態のマイクロホンユニットが備える搭載部を上から見た場合の概略平面図で、MEMSチップ及びASICが搭載された状態を示す図
【図7】第1実施形態のマイクロホンユニットにおいて、第1の導音空間と第2の導音空間とのうち、いずれか一方のみを用いた場合の周波数特性を示すグラフ
【図8】第2実施形態のマイクロホンユニットが備えるカバーの構成を示す概略平面図
【図9】先行開発のマイクロホンユニットの構成を示す図
【図10】音圧Pと音源からの距離Rとの関係を示すグラフ
【図11】先行開発のマイクロホンユニットの指向特性を示す図
【図12】先行開発のマイクロホンユニットにおいて、第1の導音空間と第2の導音空間とのうち、いずれか一方のみを用いた場合の周波数特性を示すグラフ
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明が適用されたマイクロホンユニットの実施形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。ただし、本発明の理解を容易とするために、本出願人が先に開発したマイクロホンユニット(以下、先行開発のマイクロホンユニットという)の構成と、その問題点について先に説明しておく。
【0021】
(先行開発のマイクロホンユニット)
図9は、先行開発のマイクロホンユニットの構成を示す図で、図9(a)は外観構成を示す概略斜視図、図9(b)は図9(a)のB−B位置における断面図である。図9に示すように、先行開発のマイクロホンユニット100は、搭載部101とカバー102とによって形成される略直方体状の筐体内に、MEMS(Micro Electro Mechanical System)チップ103及びASIC(Application Specific Integrated Circuit)104が収容された構成となっている。
【0022】
MEMSチップ103は、振動板103aを有し、この振動板103aの振動に基づいて音信号を電気信号に変換する電気音響変換素子として機能する。また、ASIC104は、MEMSチップ103から取り出される電気信号の増幅処理を行う。マイクロホンユニット100の筐体を構成するカバー102の上面には、同一形状(略長方形状或いは略スタジアム形状と言える)且つ同面積の2つの開口102a、102bが形成されている。第1の開口102aはマイクロホンユニット100の長手方向の一端部寄りに、第2の開口102bはマイクロホンユニット100の長手方向の他端部寄りに配置され、両者はマイクロホンユニット100の中心に対して対称配置されている。
【0023】
搭載部101及びカバー102で構成される筐体内には、第1の開口102aを介してMEMSチップ103の振動板103aの上面に外部から音波を導く第1の導音空間SP1と、第2の開口102bを介してMEMSチップ103の振動板103aの下面に外部から音波を導く第2の導音空間SP2と、が形成されている。すなわち、マイクロホンユニット100は差動マイクロホンユニットとして構成されている。
【0024】
なお、MEMSチップ103及びASIC104は、第1の導音空間SP1内に配置されている。第1の導音空間SP1にMEMSチップ103が配置されることによって、第1の導音空間SP1と第2の導音空間SP2とは仕切られる。また、マイクロホンユニット100においては、外部音が第1の開口102aから振動板103aの上面へと至る音の伝播時間と、外部音が第2の開口102bから振動板103aの下面へと至る音の伝播時間とが等しくなるよう、外部音が第1の開口102aから振動板103aの上面へと至る音の伝播距離と、外部音が第2の開口102bから振動板103aの下面へと至る音の伝播距離とはほぼ等しくなるように設けられている。
【0025】
このように構成される先行開発のマイクロホンユニット100の特性について説明する。説明に先立って、音波の性質について説明しておく。図10は、音圧Pと音源からの距離Rとの関係を示すグラフである。図10に示すように、音波は、空気等の媒質中を進行するにつれて減衰し、音圧(音波の強度・振幅)が低下する。音圧は、音源からの距離に反比例し、音圧Pと距離Rとの関係は、以下の式(1)のように表せる。なお、式(1)におけるkは比例定数である。
P=k/R (1)
【0026】
図10及び式(1)から明らかなように、音圧は音源に近い位置では急激に減衰(グラフの左側)し、音源から離れるほどなだらかに減衰(グラフの右側)する。すなわち、音源からの距離がΔdだけ異なる2つの位置(R1とR2、R3とR4)に伝達される音圧は、音源からの距離が小さいR1からR2においては大きく減衰する(P1−P2)が、音源からの距離が大きいR3からR4においてはあまり減衰しない(P3−P4)。
【0027】
図11は、先行開発のマイクロホンユニットの指向特性を示す図である。なお、図11においては、マイクロホンユニット100の姿勢は図9(b)に示すのと同姿勢を想定している。音源とマイクロホンユニット100との距離が一定であれば、音源が図11における0°又は180°の方向にある時に、振動板103aに加わる音圧が最大となる。これは、音源から発せられた音波が第1の開口102aを経て振動板103aの上面に至る距離と、音源から発せられた音波が第2の開口102bを経て振動板103aの下面へと至る距離との差が最も大きくなるからである。また、音源が図11における90°又は270°の方向にある時に振動板103aに加わる音圧が最小(ほぼ0)になる。これは、音源から発せられた音波が第1の開口102aから振動板103aの上面に至る距離と、音源から発せられた音波が第2の開口102bから振動板103aの下面へと至る距離との差がほぼ0となるからである。
【0028】
すなわち、図11に示すように、マイクロホンユニット100は、0°及び180°の方向から入射される音波に対して感度が高く、90°及び270°の方向から入射される音波に対して感度が低い両指向性のマイクロホンユニットとして機能する。
【0029】
ここで、マイクロホンユニット100を接話マイクとして使用する場合を想定して、マイクロホンユニット100の特性を説明する。
【0030】
マイクロホンユニット100の近傍で発せられる目的音の音圧は、第1の開口102aと第2の開口102bとの間で大きく減衰する。このため、振動板103aの上面に伝達される音圧と振動板103aの下面に伝達される音圧との間には大きな差が生じる。一方、背景雑音は目的音に比べて音源が遠い位置にあり、第1の開口102aと第2の開口102bとの間ではほとんど減衰しない。このため、振動板103aの上面に伝達される音圧と、振動板103aの下面に伝達される音圧との間の音圧差は非常に小さくなる。
【0031】
振動板103aにて受音される背景雑音の音圧差は非常に小さいために、背景雑音の音圧は振動板103aにてほぼ打ち消される。これに対して、振動板103aにて受音される上記目的音の音圧差は大きいために、上記目的音の音圧は振動板103aで打ち消されない。このため、振動板103aの振動によって得られた信号は、背景雑音が除去された上記目的音の信号であると見なせる。すなわち、マイクロホンユニット100は接話マイクとして使用した場合に、優れた遠方ノイズ抑圧性能を発揮する。
【0032】
しかしながら、本出願人は、先行開発のマイクロホンユニット100は次のような問題を有するという知見を得ている。以下、この問題点について説明する。
【0033】
図12は、先行開発のマイクロホンユニットにおいて、第1の導音空間と第2の導音空間とのうち、いずれか一方のみを用いた場合の周波数特性を示すグラフである。図12において、横軸(対数軸)は周波数、縦軸はマイクロホンの出力である。また、図12において、実線で示すグラフ(a)は、マイクロホンユニット100の第1の開口102aのみから音波が入射するようにした場合(すなわち第1の導音空間SP1のみを用いた場合)における周波数特性を示している。また、図12において、破線で示すグラフ(b)は、マイクロホンユニット100の第2の開口102bのみから音波が入射するようにした場合(すなわち第2の導音空間SP2のみを用いた場合)における周波数特性を示している。
【0034】
なお、図12のデータを得るにあたって、音源位置は、図11の180°方向の一定位置としている。また、各周波数のデータを得るに際して、音源から発せられる音波の音圧は同一としている。
【0035】
当然ながら、マイクロホンユニット100は、その使用周波数範囲(例えば100Hz〜10kHz)の全ての周波数において、良好な遠方ノイズ抑圧性能を発揮することが求められる。遠方ノイズ抑圧性能は上述の両指向性と深く関係しており、使用周波数範囲において良好な遠方ノイズ抑圧性能を得るためには、マイクロホンユニット100は、その使用周波数範囲の全ての周波数において、図11に示すような両指向性を発揮することが求められる。
【0036】
このことを言い換えると、図11の180°方向に配置した音源からマイクロホンユニット100に音波を入射する場合、その使用周波数範囲において、図12のグラフ(a)とグラフ(b)とは、周波数が変化しても一定の出力差を維持することが求められる。なお、一定の出力差は、音源から第1の開口102aまでの距離と、音源から第2の開口102bまでの距離とが異なるために発生する。
【0037】
図12に示す実験結果では、100Hz〜7kHz程度の周波数までは、グラフ(a)とグラフ(b)とが一定の出力差を維持している。しかし、7kHzを超えた辺りから、上述の出力差が一定ではなくなり、8kHzを越えたところでグラフ(a)とグラフ(b)との間で出力値の大小の逆転も見られるようになっている。すなわち、先行開発のマイクロホンユニット100では、音波が第1の導音空間SP1を伝播するときの周波数特性と第2の導音空間SP2を伝播するときの周波数特性のバランスが高周波数域において崩れるため、狙いの両指向性が得られず、良好な遠方ノイズ抑圧性能を得られないといった問題が生じる。
【0038】
マイクロホンユニット100は、それが搭載される機器(携帯電話機等の音声入力機能を備える機器)の小型化や薄型化を実現し易くする目的等のために、外部音を振動板103aの上面に導くための第1の開口102aと、外部音を振動板103aの下面に導くための第2の開口102bと、を同一面(カバー102の上面)に設ける構成となっている。しかし、このような構成を採用するために、マイクロホンユニット100において、第1の導音空間SP1と第2の導音空間SP2とは異なる形状とせざるを得なくなっている。
【0039】
また、筐体内に収容されるMEMSチップ103(ASICをMEMSチップと別体として筐体内に収容する場合はASICも)はいずれかの導音空間SP1、SP2に収容する必要があり、2つの導音空間の体積を同一とするのは困難である。なお、マイクロホンユニット100においては、MEMSチップ103は第1の導音空間SP1に収容され、第1の導音空間SP1の方が第2の導音空間SP2よりも体積が大きくなっている。
【0040】
以上のような、第1の導音空間SP1と第2の導音空間SP2との形状のアンバラスが原因となって、2つの導音空間SP1、SP2は異なる周波数特性を有するようになっているものと考えられる。そして、このことが原因となって、上述した、高周波数側で良好な遠方ノイズ抑圧性能を得られないといった問題が生じているものと考えられる。
【0041】
本発明は、先行開発のマイクロホンユニット100の構造を改良することで、上述の第1の導音空間SP1と第2の導音空間SP2との周波数特性を合わせ(近づけ)、上記問題を解消することを狙ったものである。なお、音波が2つの導音空間SP1、SP2を伝播するときの周波数特性を合わせる手法としては音響抵抗部材を用いる手法も考えられる。しかし、音響抵抗部材は通常フェルト等で構成されるために、MEMSチップ103へのダストの入り込み等が懸念される。このため、このようなダストの問題が生じないように、本発明はマイクロホンユニット100の構造改良によって、音波が2つの導音空間SP1、SP2を伝播するときの周波数特性を合わせることとした。
【0042】
(本発明の第1実施形態のマイクロホンユニット)
図1は、第1実施形態のマイクロホンユニットの構成を示す図で、図1(a)は外観構成を示す概略斜視図、図1(b)は図1(a)のA−A位置における断面図である。図1に示すように、第1実施形態のマイクロホンユニット1は、MEMSチップ13とASIC14とを搭載する搭載部11と、搭載部11上に載置されてMEMSチップ13及びASIC14を覆うカバー12と、を備える。搭載部11とカバー12とはマイクロホンユニット1の筐体10を構成し、筐体10の形状は略直方体形状となっている。
【0043】
なお、本実施形態では、筐体10の長手方向(図1(b)の左右方向が該当)の長さは7mm、短手方向(図1(b)の紙面と垂直な方向が該当)の長さは4mm、厚み方向(図1(b)の上下方向が該当)の長さは1.5mmとなっている。ただし、このサイズはあくまでも一例であり、当然ながら、本発明のマイクロホンユニットのサイズは、これに限定されない。また、以下においてもサイズに関する開示があるが、サイズはあくまでも一例であることを断っておく。
【0044】
搭載部11は、図1(b)に示すように、第3平板113、第2平板112、第1平板111を、この順に下から上へと積み重ねてなる。各平板同士は、例えば接着剤や接着シート等を用いて接合される。図2は、第1実施形態のマイクロホンユニットが備える搭載部を構成する3つの平板を示す概略平面図で、図2(a)は第1平板の上面図、図2(b)は第2平板の上面図、図2(c)は第3平板の上面図である。
【0045】
図2に示すように、搭載部11を構成する3つの平板111、112、113はいずれも平面視略長方形状に設けられ、平面視した場合の縦・横のサイズ、及び、厚みは略同一のサイズとなっている。なお、本実施形態では、各平板の長手方向(横方向)の長さは7mm、短手方向(縦方向)の長さは4mm、厚みは0.2mmとなっている。搭載部11を構成する平板111〜113の材料は特に限定されるものではないが、基板材料として用いられる公知の材料が好適に使用され、例えばFR−4、セラミックス、ポリイミドフィルム等が用いられる。
【0046】
第1平板111には、図2(a)に示すように、平面視略円形状の貫通孔111aと、平面視略長方形状(略スタジアム形状)の貫通孔111bと、が設けられている。本実施形態では、平面視略円形状の貫通孔111aの断面の直径は0.5mmとされ、平面視略長方形状の貫通孔111bの断面は、その長手方向(図2(a)の上下方向)の長さが2mm、短手方向(図2(a)の左右方向)の長さが0.5mmとされている。平面視略長方形状の貫通孔111bは、第1平板111の長手方向の一端寄り(図2(a)では左端寄り)に設けられている。また、平面視略円形状の貫通孔111aは、第1平板111の中心から長手方向の一方側(平面視略長方形状の貫通孔111bが設けられる側)に少しずれた位置に設けられている。
【0047】
第2平板112には、図2(b)に示すように、平面視略長方形状の貫通孔112a(その上面及び下面は同形状・同サイズである)が設けられている。平面視略長方形状の貫通孔112aは、第2平板112が第1平板111と重ね合わされた状態で、第1平板111に設けられる貫通孔111a及び貫通孔111bが、その領域内に含まれるように設けられている。なお、図2(b)においては、第1平板111と第2平板112との関係について理解が容易となるように、第1平板111に設けられる貫通孔111a及び貫通孔111bを破線で示している。
【0048】
第3平板113は、図2(c)に示すように、貫通孔が形成されていない平板となっている。このように構成される第1平板111、第2平板112、及び第3平板113を貼り合わせると、貫通孔111aによって得られる第1の搭載部開口15と、貫通孔111bによって得られる第2の搭載部開口16と、第1の搭載部開口15と第2の搭載部開口16とをつなぐ搭載部内空間17と、が形成された搭載部11が得られる(図1(b)参照)。
【0049】
なお、搭載部11には電極パッドや電気配線が形成されているが、これらについては後述する。また、本実施形態では搭載部11を3つの平板を貼り合わせて得る構成としているが、この構成に限定されず、搭載部11は1つの平板で構成しても構わないし、3つとは異なる複数の平板で構成しても構わない。また、搭載部11の形状は板状に限定されない。板状でない搭載部11を複数の部材で構成する場合には、搭載部11を構成する部材の中に平板ではない部材が含まれて良い。更に、搭載部11に形成される第1の搭載部開口15、第2の搭載部開口16、及び搭載部内空間17の形状は本実施形態の構成に限定されず、適宜変更可能である。
【0050】
図3は、第1実施形態のマイクロホンユニットが備えるカバーの構成を示す概略平面図で、図3(a)はカバーを上から見た状態を示し、図3(b)はカバーを下から見た状態を示す。カバー12は、その外形が略直方体形状に設けられる(図1及び図3参照)。カバー12の長手方向(図3において左右方向)及び短手方向(図3において上下方向)の長さは、それぞれ搭載部11の長手方向及び短手方向の長さと同一である。詳細には、本実施形態では、長手方向の長さは7mm、短手方向の長さは4mmとしている。また、カバー12の厚みは0.9mmとしている。
【0051】
図3に示すように、カバー12には、その長手方向の一端側(図3の右側)に平面視略長方形状(略スタジアム形状)の1つの貫通孔121(本発明の第1の貫通孔の実施形態)が設けられている。この貫通孔121の断面は、その長手方向(図3の上下方向)の長さが2mm、短手方向(図3の左右方向)の長さが0.5mmとされている。
【0052】
また、カバー12には、その長手方向の他端側(図3の左側)に平面視略円形状の2つの貫通孔122a、122b(本発明の第2の貫通孔の実施形態)が設けられている。これらの貫通孔122a、122bの断面は、いずれも直径が0.5mmとなっている。2つの貫通孔122a、122bは、それらの中心がカバー12の短手方向(図3において上下方向)に平行な直線上に並ぶように配置されている。また、2つの貫通孔122a、122bは、カバー12が搭載部11に載置された状態において、その一方端(下端)が、搭載部11に形成される第2の搭載部開口16(図1(b)参照)と重なる(つながる)ように、その位置が調整されている。
【0053】
なお、カバー12の一端側に設けられる貫通孔121と、カバー12の他端側に設けられる貫通孔122a、122bとは、長手方向(カバー12の長手方向)の間隔(貫通孔121の中心を通る短手方向に平行な線と、貫通孔122a及び貫通孔122bの各中心を通る短手方向に平行な線との間隔)が4mm以上6mm以下となるように形成するのが好ましい。後述のように、これらの貫通孔121、122a、122bは音波の入力部として使用される。上記間隔が広すぎると、振動板134(MEMSチップ13に備えられる)の上面と下面に到達する音波の位相差が大きくなってマイク特性が低下(ノイズ抑圧性能が低下)してしまうために、このような事態を抑制する趣旨である。また、上記間隔が狭すぎると、振動板134の上面と下面に加わる音圧の差が小さくなって振動板134の振幅が小さくなり、ASIC14から出力される電気信号のSNR(Signal to Noise Ratio)が悪くなるために、このような事態を抑制する趣旨である。
【0054】
また、カバー12には、下側から見た場合に平面視略長方形状の凹部123(本実施形態では、その深さは0.7mmとされている)が形成されている。この凹部123は、カバー12の長手方向の一端側(図3の右端側)に設けられる貫通孔121と重なるように設けられており、凹部123と貫通孔121とはつながった状態となっている。一方、凹部123は、カバー12の長手方向の他端側(図3の左端側)に設けられる2つの貫通孔122a、122bとは重ならないように設けられている。すなわち、凹部123は2つの貫通孔122a、122bとはつながっていない。
【0055】
カバー12を構成する材料については、例えばLCP(Liquid Crystal Polymer;液晶ポリマ)やPPS(polyphenylene sulfide;ポリフェニレンスルファイド)等の樹脂とすることができる。なお、樹脂に導電性を持たせるため、ステンレス等の金属フィラーやカーボンを、カバー12を構成する樹脂に混入しても構わない。また、カバー12を構成する材料は、FR−4等、セラミックス等の基板材料としても構わない。
【0056】
搭載部11に搭載されるMEMSチップ13は、本発明における、振動板の振動に基づいて音信号を電気信号に変換する電気音響変換素子の実施形態である。シリコンチップからなるMEMSチップ13は、半導体製造技術を用いて製造される小型のコンデンサ型マイクロホンチップである。
【0057】
図4は、第1実施形態のマイクロホンユニットが備えるMEMSチップの構成を示す概略断面図である。図4に示すように、MEMSチップ13は、その外形は略直方体形状であり、絶縁性のベース基板131と、固定電極132と、絶縁性の中間基板133と、振動板134と、を備える。
【0058】
ベース基板131には、その中央部に平面視略円形状の貫通孔131aが形成されている。板状の固定電極132はベース基板131の上に配置され、複数の小径(直径10μm程度)の貫通孔132aが形成されている。中間基板133は固定電極132の上に配置され、ベース基板131と同様に、その中央部に平面視略円形状の貫通孔133aが形成されている。中間基板133の上に配置される振動板134は、音圧を受けて振動する(図4において上下方向に振動する。また、本実施形態では略円形部分が振動する)薄膜で、導電性を有して電極の一端を形成している。中間基板133の存在によって隙間Gpをあけて互いに略平行な関係となるように対向配置される、固定電極132と振動板134とはコンデンサを形成している。
【0059】
MEMSチップ13は、音波の到来により振動板134が振動すると、振動板134と固定電極132との間の電極間距離が変動するために静電容量が変化する。この結果、MEMSチップ13に入射した音波(音信号)を電気信号として取り出せる。MEMSチップ13においては、ベース基板131に形成される貫通孔131a、固定電極132に形成される複数の貫通孔132a、及び中間基板133に形成される貫通孔133aの存在により、振動板134の下面側も外部(MEMSチップ13外部)の空間と連通している。
【0060】
なお、MEMSチップ13の構成は、本実施形態の構成に限定されるものではなく、適宜、その構成を変更しても構わない。例えば、本実施形態では振動板134の方が固定電極132よりも上となっているが、これとは逆の関係(振動板が下で、固定電極が上となる関係)となるように構成しても構わない。
【0061】
ASIC14は、MEMSチップ13の静電容量の変化(振動板134の振動に由来する)に基づいて取り出される電気信号を増幅処理する集積回路である。なお、ASIC14は本発明の電気回路部の実施形態である。図5に示すように、ASIC14は、MEMSチップ13にバイアス電圧を印加するチャージポンプ回路141を備える。チャージポンプ回路141は、電源電圧VDD(例えば1.5〜3V程度)を昇圧(例えば6〜10V程度)して、MEMSチップ13にバイアス電圧を印加する。また、ASIC14は、MEMSチップ13における静電容量の変化を検出するアンプ回路142を備える。アンプ回路142で増幅された電気信号はASIC14から出力される。なお、図5は、第1実施形態のマイクロホンユニットの構成を示すブロック図である。
【0062】
ここで、主に図6を参照して、マイクロホンユニット1における、MEMSチップ13とASIC14の位置関係及び電気的な接続関係について説明しておく。なお、図6は、第1実施形態のマイクロホンユニットが備える搭載部を上から見た場合の概略平面図で、MEMSチップ及びASICが搭載された状態を示す図である。
【0063】
MEMSチップ13は、振動板134が搭載部11の上面(搭載面)11aに対して略平行となる姿勢(図1(b)参照)で搭載部11に搭載される。そして、MEMSチップ13は、搭載部11の上面11aに形成される第1の搭載部開口15(図1(b)参照)を覆うように、搭載部11に搭載される。ASIC14は、MEMSチップ13に隣り合うように配置される。
【0064】
MEMSチップ13及びASIC14は、搭載部11にダイボンディング及びワイヤボンディングにより実装されている。詳細には、MEMSチップ13は図示しないダイボンド材(例えばエポキシ樹脂系やシリコーン樹脂系の接着剤等)によって、それらの底面と搭載部11の上面11aとの間に隙間ができないように、搭載部11の上面11aに接合されている。このように接合することにより、搭載部11の上面11aとMEMSチップ13の底面との間にできる隙間から音が漏れ込むという事態が発生しないようになっている。また、図6に示すように、MEMSチップ13はASIC14に、ワイヤ20(好ましくは金線)によって電気的に接続されている。
【0065】
ASIC14は、図示しないダイボンド材によって搭載部11の上面11aと対向する底面が、搭載部11の上面11aに接合されている。図6に示すように、ASIC14は、ワイヤ20によって搭載部11の上面11aに形成される複数の電極端子21a、21b、21cのそれぞれと電気的に接続されている。電極端子21aは電源電圧(VDD)入力用の電源用端子で、電極端子21bはASIC14のアンプ回路142で増幅処理された電気信号を出力する出力端子で、電極端子21cはグランド接続用のGND端子である。
【0066】
搭載部11の下面(搭載面11aの裏面)11bには、図1(b)示すように外部接続用電極パッド22が形成されている。外部接続用電極パッド22には、電源用電極パッド22a、出力用電極パッド22b、GND用電極パッド22c(図5参照)が含まれる。搭載部11の上面11aに設けられる電源端子21aは搭載部11に形成される図示しない配線(貫通配線含む)を介して電源用電極パッド22aに電気的に接続される。搭載部11の上面11aに設けられる出力端子21bは搭載部11に形成される図示しない配線(貫通配線含む)を介して出力用電極パッド22bに電気的に接続される。搭載部11の上面11aに設けられるGND端子21cは搭載部11に形成される図示しない配線(貫通配線含む)を介してGND用電極パッド20cに電気的に接続される。貫通配線については基板製造で一般的に使用されるスルーホールビアにより形成が可能である。
【0067】
また、本実施形態においては、MEMSチップ13及びASIC14がワイヤボンディング実装される構成としたが、MEMSチップ13及びASIC14はフリップチップ実装しても勿論構わない。この場合、MEMSチップ13およびASIC14の下面に電極を形成し、これに対応する電極パッドを搭載部11の上面に配置し、これらの結線は搭載部11上に形成された配線パターンにより行う。
【0068】
MEMSチップ13及びASIC14を搭載した搭載部11の上に、凹部123がMEMSチップ13及びASIC14を収容するようにカバー12を載置する。そして、搭載部11とカバー12とを気密封止するように接合(例えば接着剤や接着シートが使用される)すると、筐体10内にMEMSチップ13及びASIC14を備えるマイクロホンユニット1が得られる。
【0069】
マイクロホンユニット1の筐体10内には、図1(b)に示すように、カバー12に設けられる貫通孔121及び収容空間(凹部)123を用いて形成され、第1の開口18(貫通孔121によって得られる)を介して振動板134の上面に外部から音波を導く第1の導音空間SP1が形成されている。また、筐体10内には、カバー12に設けられる2つの貫通孔122a、122bと、搭載部11に設けられる第1の搭載部開口15、第2の搭載部開口16及び搭載部内空間17と、を用いて形成され、第2の開口19(2つの貫通孔122a、122bによって得られる)を介して振動板134の下面に外部から音波を導く第2の導音空間SP2が形成されている。すなわち、マイクロホンユニット1は差動マイクロホンユニットとして構成されている。
【0070】
なお、外部音が第1の開口18から第1の導音空間SP1を経て振動板134へと至る音の伝播時間と、外部音が第2の開口19から第2の導音空間SP2を経て振動板134へと至る音の伝播時間が等しくなるよう、外部音が第1の開口18から第1の導音空間SP1を経て振動板134へと至る音の伝播距離と、外部音が第2の開口19から第2の導音空間SP2を経て振動板134へと至る音の伝播距離とはほぼ等しくなるように設計するのが好ましく、本実施形態のマイクロホンユニット1は、そのように構成されている。
【0071】
以上のように構成されるマイクロホンユニット1は、上述した先行開発のマイクロホンユニット100と同様に優れた遠方ノイズ抑圧性能を示す。そして、先行開発のマイクロホンユニット100では、高周波数帯域において遠方ノイズ抑圧性能が劣化するといった問題があったが、本実施形態のマイクロホンユニット1では、この問題が解消されている。以下、これについて説明する。
【0072】
本実施形態のマイクロホンユニット1においては、第1の導音空間SP1と第2の導音空間SP2とは、その形状が異なるとともに体積が異なっている。この点は、先行開発のマイクロホンユニット100と同様である。しかし、マイクロホンユニット1における、第1の導音空間SP1と外部とをつなぐ第1の開口18と、第2の導音空間SP2と外部とをつなぐ第2の開口19との関係は、先行開発のマイクロホンユニット100の構成と異なっている。そして、この違いにより、マイクロホンユニット1は、高周波数帯域においても良好な遠方ノイズ抑圧性能を発揮するようになっている。
【0073】
なお、本実施形態では、第1の導音空間SP1の体積は約5mmであり、第2の導音空間SP2の体積は2mmとなっている。
【0074】
上述のように、先行開発のマイクロホンユニット100において高周波数側で良好な遠方ノイズ抑圧性能が得られないのは、音波が第1の導音空間SP1を伝播するときの周波数特性と第2の導音空間SP2を伝播するときの周波数特性とが異なることが原因になっているものと考えられた。すなわち、音波が2つの導音空間SP1、SP2を伝播するときの周波数特性を合わせることにより、高周波数側においても良好な遠方ノイズ抑圧性能が得られるものと考えられた。
【0075】
そこで、本出願の発明者らは、従来のマイクロホンユニット100の構造改良によって、2つの導音空間SP1、SP2の共振周波数を近づけ、それにより、音波が第1の導音空間SP1を伝播するときの周波数特性と第2の導音空間SP2を伝播するときの周波数特性とを合わせることを考えた。なお、従来の構成の構造改良によって音波が2つの導音空間SP1、SP2を伝播するときの周波数特性を合わせることとしたのは、上述したダスト(音響抵抗部材から発生する)の影響でMEMSチップが故障するといった事態が発生し難いマイクロホンユニットを提供することを考慮するものである。
【0076】
第1の導音空間SP1は、その形状から公知のヘルムホルツ共鳴器と同様に振舞うものと考えられる。このため、第1の導音空間SP1の共振周波数frは、以下の式(2)で与えられるものと考えられる。なお、式(2)において、Cvは音速、Sは第1の開口18の面積(貫通孔121の断面積)、Lpはカバー12に設けられる貫通孔121の厚み(孔の長さ)、ΔLは開口端補正、Vは収容空間123の容積である。
【数1】

【0077】
式(2)からわかるように、第1の導音空間SP1の共振周波数は、収容空間123の容積、第1の開口18の面積、及び貫通孔121の厚みのうち、少なくともいずれか1つを変動させることによって変動することがわかる。一方、第2の導音空間SP2は、その形状がヘルムホルツ共鳴器とは全く異なると考えられるために、その共振周波数は単純に式(2)で表すことはできないものと考えられる。しかし、第2の導音空間SP2においても、同様のパラメータによって共振周波数を変動させられるものと考えられた。
【0078】
上記式(2)と、マイクロホンユニットの小型化の要請や製造しやすさ等とを考慮しながら鋭意研究を行った結果、従来のマイクロホンユニット100を改良するにあたって、次のような改良を行えば良いことがわかった。すなわち、外部音を振動板134の上面に導くために筐体10に設けられる開口のトータル面積と、外部音を振動板134の下面に導くために筐体10に設けられる開口のトータル面積と、を異ならせることによって、音波が2つの導音空間SP1、SP2を伝播するときの周波数特性(共振周波数)を近づけられることがわかった。
【0079】
本実施形態のマイクロホンユニット1では、振動板134を有するMEMSチップ13が配置される側の第1の導音空間SP1は、第2の導音空間SP2よりも容積が大きくなって、共振周波数が第2の導音空間SP2より低くなる傾向がある。このような場合、2つの導音空間SP1、SP2の共振周波数を合わせようとすると、第2の導音空間SP2の共振周波数を小さくするように構成するか、第1の導音空間SP1の共振周波数が高くなるように構成するかが考えられる。マイクロホンユニット1においては、前者の構成を採用している。
【0080】
具体的には、第1の開口18のトータル面積は先行開発のマイクロホンユニット100の構成と同様とし、第2の開口19のトータル面積を先行開発のマイクロホンユニット100の場合(すなわち、第1の開口18のトータル面積)より小さくしている。トータル面積をどの程度小さくするかは、実験等によって決定される。
【0081】
なお、マイクロホンユニット1においては、第1の開口18は1つしかないために、第1の開口18のトータル面積は第1の開口18そのものの面積(貫通孔121の断面積に同じ)である。また、第2の開口19は2つあるために、第2の開口19のトータル面積は2つの第2の開口19の面積(各貫通孔122a、122bの断面積に同じ)を合計した面積である。
【0082】
第1の開口18のトータル面積に比べて、第2の開口19のトータル面積を小さくするにあたって、第2の開口19を、第1の開口18(略長方形状・スタジアム形状)と相似形(必ずしも相似形に限定される趣旨ではない)であって、第1の開口18に比べて面積が小さい1つの開口としてもよい。この点、本実施形態では製造時の作業性等を考慮して、平面視略円形状(この形状も適宜変更してよい)の小さな開口(直径が第1の開口18の短手方向の長さと同一)である2つの第2の開口19を設けることで、第2の開口19のトータル面積の狭小化を図っている。
【0083】
なお、第2の開口19の数は2つ以上としても構わないが、あまり多くすると製造時の作業性を悪くする等の問題が生じる場合があり、あまり多くしすぎないのが好ましい。
【0084】
図7は、第1実施形態のマイクロホンユニットにおいて、第1の導音空間と第2の導音空間とのうち、いずれか一方のみを用いた場合の周波数特性を示すグラフである。図7は、上述した図12と同様のグラフであり、周波数特性は図12と同様の手法で得たものである。図7において、実線で示すグラフ(a)は、マイクロホンユニット1の第1の導音空間SP1のみを用いた場合における周波数特性を示し、破線で示すグラフ(b)は、マイクロホンユニット1の第2の導音空間SP2のみを用いた場合における周波数特性を示している。
【0085】
図7に示すように、本実施形態のマイクロホンユニット1では、高周波数帯域(7kHz以上)において、グラフ(a)とグラフ(b)の出力値が逆転することはなく、高周波数帯域において、ほぼ狙い通りの両指向性が得ることが可能である。すなわち、マイクロホンユニット1は高周波数帯域でも(広い周波数帯域で)良好な遠方ノイズ抑圧性能を示す。
【0086】
(本発明の第2実施形態のマイクロホンユニット)
第2実施形態のマイクロホンユニットは、搭載部11に搭載されてMEMSチップ13を覆うカバーの構成を除いて、第1実施形態のマイクロホンユニット1と同一の構成となっている。以下、異なる点についてのみ説明する。なお、第1実施形態と共通する部分については同一の符号を付して説明する。
【0087】
図8は、第2実施形態のマイクロホンユニットが備えるカバーの構成を示す概略平面図で、図8(a)はカバーを上から見た状態を示し、図8(b)はカバーを下から見た状態を示す。第2実施形態のマイクロホンユニットが備えるカバー52は、その外形が略直方体形状に設けられ、長手方向(図8において左右方向)及び短手方向(図8において上下方向)の長さは、それぞれ搭載部11の長手方向及び短手方向の長さと同一である。詳細には、本実施形態では、長手方向の長さは7mm、短手方向の長さは4mmとしている。また、カバー52の厚みは0.9mmとしている。なお、カバー52の材質は第1実施形態と同様にすればよい。
【0088】
図8に示すように、カバー52には、その長手方向の一端側(図8の右側)に平面視略長方形状(略スタジアム形状)の1つの貫通孔521(本発明の第1の貫通孔の実施形態)が設けられている。この貫通孔521の断面は、その長手方向(図8の上下方向)の長さが2mm、短手方向(図8の左右方向)の長さが1.5mmとされている。
【0089】
また、カバー52には、その長手方向の他端側(図8の左側)に平面視略長方形状(略スタジアム形状)の1つの貫通孔522(本発明の第2の貫通孔の実施形態)が設けられている。この貫通孔522の断面は、その長手方向(図8の上下方向)の長さが2mm、短手方向(図8の左右方向)の長さが0.5mmとされている。また、貫通孔522は、カバー52が搭載部11に載置された状態において、その一方端(下端)が、搭載部11に形成される第2の搭載部開口16(図1(b)参照)と重なる(つながる)ように、その位置が調整されている。
【0090】
なお、カバー52の一端側に設けられる貫通孔521と、カバー52の他端側に設けられる貫通孔522とは、第1実施形態のマイクロホンユニット1の場合と同様の理由で、長手方向(カバー52の長手方向)の間隔(2つの貫通孔521、522の中心間距離)が4mm以上6mm以下となるように形成するのが好ましい。
【0091】
カバー52には、下側から見た場合に平面視略矩形状の凹部523(本実施形態では、その深さは0.7mmとされている)が形成されている。この凹部523は、カバー52の長手方向の一端側(図8の右端側)に設けられる貫通孔521と重なるように設けられており、凹部523と貫通孔521とはつながった状態となっている。一方、凹部523は、カバー52の長手方向の他端側(図8の左端側)に設けられる貫通孔522とは重ならないように設けられている。すなわち、凹部523は貫通孔522とはつながっていない。
【0092】
カバー52に設けられる貫通孔521によって、第2実施形態のマイクロホンユニットの第1の導音空間SP1と外部とをつなぐ第1の開口18が得られる。また、カバー52に設けられる貫通孔522によって、第2実施形態のマイクロホンユニットの第2の導音空間SP2と外部とをつなぐ第2の開口19が得られる。第1の開口18のトータル面積は、第2の開口19のトータル面積に比べて大きくなっている。
【0093】
なお、第2実施形態のマイクロホンユニットにおいては、第1の開口18は1つしかないために、第1の開口18のトータル面積は第1の開口18そのものの面積(貫通孔521の断面積に同じ)である。また、第2の開口19も1つしかないために、第2の開口19のトータル面積は第2の開口19そのものの面積(貫通孔522の断面積に同じ)である。
【0094】
第2実施形態のマイクロホンユニットにおいても、振動板134を有するMEMSチップ13が配置される側の第1の導音空間SP1は、第2の導音空間SP2よりも容積が大きくなって、共振周波数が第2の導音空間SP2より低くなる傾向がある。このような場合、2つの導音空間SP1、SP2の共振周波数を合わせようとすると、第2の導音空間SP2の共振周波数を小さくするように構成するか、第1の導音空間SP1の共振周波数が高くなるように構成するかが考えられる。第2実施形態では第1実施形態の場合とは逆に、後者の構成を採用している。
【0095】
具体的には、第2の開口19のトータル面積を先行開発のマイクロホンユニット100の構成と同様とし、第1の開口18のトータル面積は先行開発のマイクロホンユニット100の場合(すなわち、第2の開口19のトータル面積)より大きくしている。以上のように構成されることにより、第2実施形態のマイクロホンユニットは、高周波数帯域でも(広い周波数帯域で)良好な遠方ノイズ抑圧性能を示す。
【0096】
(その他)
以上の実施形態で示したマイクロホンユニットは本発明の例示であり、本発明の適用範囲は、以上に示した実施形態に限定されるものではない。すなわち、本発明の目的を逸脱しない範囲で、以上に示した実施形態について種々の変更を行っても構わない。
【0097】
例えば、第1の開口18と第2の開口19の形状は、以上に示した実施形態の形状に限定されず、適宜変更可能である。なお、マイクロホンユニット1の筐体10に設ける開口(筐体内に音波を導くもの)の面積をあまり小さくすると、第1の導音空間SP1や第2の導音空間SP2の共振周波数が低くなりすぎて好ましくない。マイクロホンユニットの出力は使用周波数範囲(例えば100Hz〜10kHz)でフラットとなるのが好ましいが、共振周波数が低く成りすぎると前述のフラットが得られないからである。このような意味で、マイクロホンユニット1の筐体10に設ける開口18、19の面積(トータル面積)はある程度の大きさを確保する必要がある。筐体に設ける開口(筐体内に音波を導くもの)をマイクロホンユニットの短手方向に長い長孔形状(略長方形状・略スタジアム形状)とすると、マイクロホンユニット1の長手方向のサイズを小さく保ちつつ大きな面積を確保できる。このような点を考慮して、第1実施形態及び第2実施形態のマイクロホンユニットにおいては、第1の開口18や第2の開口19に適宜、長孔形状(略長方形状・略スタジアム形状)を採用している。
【0098】
また、第1の開口18及び第2の開口19の数は、以上に示した構成に限定されず、第1の開口18のトータル面積が、第2の開口19のトータル面積に比べて大きくなることを前提として、適宜変更しても構わない。
【0099】
また、以上に示した実施形態では、MEMSチップ13とASIC14とは別チップで構成したが、ASIC14に搭載される集積回路はMEMSチップ13を形成するシリコン基板上にモノリシックで形成するものであっても構わない。すなわち、MEMSチップ13とASIC14とは一体的に形成しても構わない。また、以上に示した実施形態では、ASIC14を筐体10内に収容する構成としているが、ASIC14は筐体10外に設けるようにしても構わない。
【0100】
また、以上に示した実施形態では、音圧を電気信号に変換する電気音響変換素子が、半導体製造技術を利用して形成されるMEMSチップ13である構成としたが、この構成に限定される趣旨ではない。例えば、電気音響変換素子はエレクトレック膜を使用したコンデンサマイクロホン等であっても構わない。
【0101】
また、以上の実施形態では、マイクロホンユニットが備える電気音響変換素子(本実施形態のMEMSチップ13が該当)の構成として、いわゆるコンデンサ型マイクロホンを採用した。しかし、本発明はコンデンサ型マイクロホン以外の構成を採用したマイクロホンユニットにも適用できる。例えば、動電型(ダイナミック型)、電磁型(マグネティック型)、圧電型等のマイクロホン等が採用されたマイクロホンユニットにも本発明は適用できる。
【産業上の利用可能性】
【0102】
本発明のマイクロホンユニットは、例えば携帯電話、トランシーバ等の音声通信機器や、入力された音声を解析する技術を採用した音声処理システム(音声認証システム、音声認識システム、コマンド生成システム、電子辞書、翻訳機、音声入力方式のリモートコントローラ等)、或いは録音機器やアンプシステム(拡声器)、マイクシステムなどに好適である。
【符号の説明】
【0103】
1 マイクロホンユニット
10 筐体
11 搭載部
12、52 カバー
13 MEMSチップ(電気音響変換素子)
14 ASIC(電気回路部)
15 第1の搭載部開口
16 第2の搭載部開口
17 搭載部内空間
18 第1の開口
19 第2の開口
121、521 貫通孔(第1の貫通孔)
122a、122b、522 貫通孔(第2の貫通孔)
123 凹部・収容空間
134 振動板
SP1 第1の導音空間
SP2 第2の導音空間

【特許請求の範囲】
【請求項1】
振動板の振動に基づいて音信号を電気信号に変換する電気音響変換素子と、前記電気音響変換素子を収容する筐体と、を備えるマイクロホンユニットであって、
前記筐体には、その外面に形成される少なくとも1つの第1の開口を介して前記振動板の一方の面に外部から音波を導く第1の導音空間と、前記第1の導音空間とは異なる形状を有し、前記第1の開口と同一外面に形成される少なくとも1つの第2の開口を介して前記振動板の他方の面に外部から音波を導く第2の導音空間と、が設けられ、
少なくとも1つある前記第1の開口のトータル面積と、少なくとも1つある前記第2の開口のトータル面積とが異なっていることを特徴とするマイクロホンユニット。
【請求項2】
前記電気音響変換素子は前記第1の導音空間内に配置され、前記第1の開口のトータル面積が前記第2の開口のトータル面積よりも大きいことを特徴とする請求項1に記載のマイクロホンユニット。
【請求項3】
前記第1の開口は1つであり、前記第2の開口は複数であることを特徴とする請求項2に記載のマイクロホンユニット。
【請求項4】
前記第1の開口及び前記第2の開口はいずれも1つであることを特徴とする請求項2に記載のマイクロホンユニット。
【請求項5】
前記筐体は、前記電気音響変換素子を搭載する搭載部と、前記搭載部上に載置されて前記電気音響変換素子を覆うカバーと、からなって、
前記搭載部には、その上に搭載される前記電気音響変換素子に覆われる第1の搭載部開口と、前記第1の搭載部開口と同一面に形成される第2の搭載部開口と、前記第1の搭載部開口と前記第2の搭載部開口とをつなぐ搭載部内空間と、が設けられ、
前記カバーには、前記搭載部上に載置される前記電気音響変換素子を収容する収容空間と、一端が前記収容空間とつながるとともに他端が外部へとつながる少なくとも1つの第1の貫通孔と、前記収容空間につながることなく、一端が前記第2の搭載部開口とつながるとともに他端が外部につながる少なくとも1つの第2の貫通孔と、が設けられ、
前記第1の開口は前記第1の貫通孔によって得られ、前記第2の開口は前記第2の貫通孔によって得られ、
前記第1の導音空間が、前記第1の貫通孔と前記収容空間とを用いて形成されており、
前記第2の導音空間が、前記第2の貫通孔と、前記第1の搭載部開口と、前記第2の搭載部開口と、前記搭載部内空間と、を用いて形成されていることを特徴とする請求項1から4のいずれかに記載のマイクロホンユニット。
【請求項6】
前記第1の導音空間内に、前記電気音響変換素子から得られる電気信号を処理する電気回路部が配置されていることを特徴とする請求項5に記載のマイクロホンユニット。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate


【公開番号】特開2012−34258(P2012−34258A)
【公開日】平成24年2月16日(2012.2.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−173289(P2010−173289)
【出願日】平成22年8月2日(2010.8.2)
【出願人】(000201113)船井電機株式会社 (7,855)
【Fターム(参考)】