説明

マイクロポーラス層およびこれを有するガス拡散層

【課題】高電流密度域でのフラッディングを防止し電圧を高めることができるガス拡散層を提供する。
【解決手段】非イオン性水溶性固体及び/又は非イオン性多孔体、導電性粒子、疎水剤、王帯溶媒を混合してインクを作成し、該インクをガス拡散層基材3に塗布し、焼結することで、2種類の空孔分布中心を持ち、第1の空孔分布中心が5〜15μmの空孔径範囲に存在し、第2の空孔分布中心が0.2〜0.5μmの空孔径範囲に存在する、マイクロポーラス層2を形成してガス拡散層1を得る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マイクロポーラス層およびこれを有するガス拡散層に関する。より詳しくは、本発明は、排水性に優れるマイクロポーラス層およびこれを有するガス拡散層に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、エネルギー・環境問題を背景とした社会的要求や動向と呼応して、常温でも作動し高出力密度が得られる燃料電池が電気自動車用電源、定置型電源として注目されている。燃料電池は、電極反応による生成物が原理的に水であり、地球環境への悪影響がほとんどないクリーンな発電システムである。燃料電池には、固体高分子形燃料電池(PEFC)、リン酸型燃料電池(PAFC)、アルカリ型燃料電池(AFC)、固体酸化物型燃料電池(SOFC)、溶融炭酸塩型燃料電池(MCFC)などがある。なかでも、固体高分子形燃料電池は、比較的低温で作動して高出力密度が得られることから、電気自動車用電源として期待されている。
【0003】
固体高分子形燃料電池の構成は、一般的には、電解質膜−電極接合体(膜電極接合体)をセパレータで挟持した構造となっている。膜電極接合体は、固体高分子電解質膜の両側に二つの電極が配設され、さらにこれをガス拡散層で挟持した構造となっている。電極は、電極触媒と固体高分子電解質との混合物により形成された多孔性のものであり、電極触媒層とも呼ばれる。
【0004】
固体高分子形燃料電池では、以下のような電気化学的反応などを通して、電気を外部に取り出すことが可能となる。まず、アノード(燃料極)側に供給された燃料ガスに含まれる水素が、触媒粒子により酸化され、プロトンおよび電子となる。次に、生成したプロトンは、アノード側電極触媒層に含まれる固体高分子電解質、さらにアノード側電極触媒層と接触している固体高分子電解質膜を通り、カソード(酸素極)側電極触媒層に達する。また、アノード側電極触媒層で生成した電子は、アノード側電極触媒層を構成している導電性担体、さらにアノード側電極触媒層の固体高分子電解質膜と異なる側に接触しているガス拡散層、セパレータおよび外部回路を通してカソード側電極触媒層に達する。そして、カソード側電極触媒層に達したプロトンおよび電子はカソード側に供給されている酸化剤ガスに含まれる酸素と反応し水を生成する。かような電気化学的反応は、主に、触媒粒子と、固体高分子電解質と、燃料ガスまたは酸化剤ガスなどの反応ガスと、が接触する三相界面において進行するのである。従って、ガス拡散層は、供給された反応ガスを電極触媒層へと均一に供給することが必要とされる。
【0005】
また、燃料電池における固体高分子電解質膜は、湿潤していないと高いプロトン導電性を示さない。そのため、固体高分子形燃料電池に供給する反応ガスは、ガス加湿装置などを用いて加湿することにより、固体高分子電解質膜の湿度分布を均一にする必要がある。
【0006】
高加湿、高電流密度などの運転条件下では、アノードからカソードに向けて固体高分子電解質膜を移動するプロトンに伴って移動する水の量、およびカソード側電極触媒層内に生成して凝集する生成水の量が増加する。この時、これらの生成水は、特にカソード側電極触媒層内に滞留し、反応ガス供給路となっていた細孔を閉塞するフラッディングを招く。これにより、反応ガスの拡散などが阻害され、電気化学的反応が妨げられ、結果として電池性能の低下を招く。
【0007】
そこで、従来では、炭素繊維布帛表面にカーボンブラックおよび疎水剤などからなるカーボン層を撥水層として設けたガス拡散層が膜電極接合体に用いられている(例えば、特許文献1参照)。前記ガス拡散層は、疎水剤にコーティングされたカーボンブラックが集合体となり多孔質構造を形成する。したがって、加湿して供給された反応ガスをより均一に拡散させることができるだけでなく、過剰な水を毛細管力により吸い取り速やかに排出することが可能となる。ゆえに、このようなガス拡散層によって触媒層およびカーボン層に水が溜まることがなくフラッディングを防止する。
【特許文献1】特開2003−89968号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献1に記載のガス拡散層を有する燃料電池では、高電密域での排水性が不十分であるという問題があった。
【0009】
しがって、本発明は、上記事情を鑑みてなされたものであり、高電密域(高電流密度域)でのフラッディングを防止し電圧を高めることができるガス拡散層を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記の問題を解決すべく、鋭意研究を行った結果、空孔分布中心を特定の範囲になるように調節したマイクロポーラス層をガス拡散層に使用することによって、高電流密度域でのフラッディングを防止することができることを知得した。上記知見に基づいて、本発明を完成した。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、マイクロポーラス層内の水が通るべき空孔及びガスが通るべき空孔を大きくすることにより、電流密度域での生成水排出性を向上すると共に、ガス供給量を増加させることができる。このため、本発明のマイクロポーラス層を用いた燃料電池は、高電流密度域でのフラッディングを防止し電圧を高めることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明の実施の形態を説明する。
【0013】
本発明は、少なくとも2種類の空孔分布中心を持ち、第1の空孔分布中心が5〜15μmの空孔径範囲に存在し、第2の空孔分布中心が0.2〜0.5μmの空孔径範囲に存在する、マイクロポーラス層を提供するものである。また、本発明は、ガス拡散基材層、および前記ガス拡散基材層上に形成された本発明のマイクロポーラス層を有する、ガス拡散層を提供するものである。
【0014】
従来技術のマイクロポーラス層は、全体的に空孔分布中心径が小さいものが多かった。例えば、電気自動車用電源として期待されている固体高分子形燃料電池(PEFC)では、電解質膜を挟持する両電極(カソード及びアノード)において、以下に記す電気化学的反応を通して、電気を外部に取り出して、電気エネルギーを得ている。まず、アノード(水素極)側に供給された燃料ガスに含まれる水素は、触媒成分により酸化され、プロトンおよび電子となる(2H→4H+4e:反応1)。次に、生成したプロトンは、電極触媒層に含まれる固体高分子電解質、さらに電極触媒層と接触している電解質膜を通り、カソード(酸素極)側電極触媒層に達する。また、アノード側電極触媒層で生成した電子は、電極触媒層を構成している導電性担体、さらに電極触媒層の電解質膜と異なる側に接触しているガス拡散層、セパレータおよび外部回路を通してカソード側電極触媒層に達する。そして、カソード側電極触媒層に達したプロトンおよび電子はカソード側に供給されている酸化剤ガスに含まれる酸素と反応し水を生成する(O+4H+4e→2HO:反応2)。ここで、上記反応により生成した水は、特にカソード側電極触媒層内に滞留し、反応ガス供給路となっていた細孔を閉塞するフラッディング現象を招く。これにより、反応ガスの拡散などが阻害され、電気化学的反応が妨げられ、結果として電池性能の低下を招く。このため、生成水は、効率よく電池外部に排出する必要がある。例えば、撥水性を高めてフラッディング現象を防げるようにガス拡散層に撥水処理を施す方法やガス拡散基材層上に炭素粒子集合体からなる層を形成する方法がある。このようなガス拡散層では、一般に、生成水は、撥水処理のため表面には触れないため、大径の空孔を通る。一方、小径の空孔には、撥水処理のため生成水が入らず、ガスの通り道が確保されている。しかしながら、例えば、1A/cm以上の高電流密度域では多量の生成水が発生するため、小径の空孔にも水が詰まり、小径でのガス拡散能力不足などが原因でフラッディング現象が起こり、電圧が降下するという問題があった。
【0015】
これに対して、本発明では、空孔径が5〜15μm及び0.2〜0.5μmの範囲に少なくとも空孔分布中心を有するマイクロポーラス層をガス拡散基材層に配置したものをガス拡散層として使用することを特徴とする。ここで、空孔径が5〜15μmに空孔分布中心を有する空孔(本明細書では、「大径側の空孔」とも称する)とすることにより、高電流密度域で発生する多量の生成水であっても、当該生成水が通るための十分な大きさを確保できる。ゆえに、マイクロポーラス層が大径側の空孔を有することにより、高電流密度域であっても生成水を効率よく排出することができる。一方、空孔径が0.2〜0.5μmに空孔分布中心を有する空孔(本明細書では、「小径側の空孔」とも称する)とすることにより、多量の水の存在下であっても、十分量のガスを通過させる大きさを確保できる。ゆえに、マイクロポーラス層が小径側の空孔を有することにより、高電流密度域での、各電極触媒層へのガスの供給量を従来よりも増加することができる。したがって、本発明のマイクロポーラス層を有するガス拡散層を用いてなる燃料電池は、高電流密度域でのフラッディング現象を防止し電圧を高め、十分量のガスを供給して、高い発電性能を発揮することができる。
【0016】
本発明のマイクロポーラス層は、5〜15μmの空孔径範囲に存在する第1の空孔分布中心、および0.2〜0.5μmの空孔径範囲に存在する第2の空孔分布中心を少なくとも有する。上記空孔のうち、空孔径が5〜15μmの大径側の空孔は、主に水を排出する。また、空孔径が0.2〜0.5μmの小径側の空孔は、主にガスを供給する。すなわち、ガス拡散層内では、水は、毛細管現象によって空孔内に浸入する。このときの毛細管に水が引き込まれる力(引力)は、空孔径に反比例する。即ち、空孔径の小さい方が水は空孔内に浸入しやすい。本発明では、大径側の空孔がガス拡散層中に存在するため、カソード電極で生成した水は、大径側の空孔内にはとどまらずに、効率よく排出する。また、小径側の空孔に水はたまるものの、大径側の空孔から優先的に水が排出され、また、小径側の空孔も十分な大きさを有するため、小径側の空孔にも水はあまりとどまらず、十分なガス供給を確保することができる。特に、高電流密度域では多量の生成水が発生するが、このような場合であっても、大径側及び小径側の空孔共に十分大きさを有するため、空孔を水で塞ぐことなく、十分なガス供給を確保しつつ多量の水を効率よく排出することができる。ゆえに、マイクロポーラス層が大径側の空孔を通じて、高電流密度域であっても生成水を効率よく排出することができる。また、小径側の空孔を通じて、十分量のガスを各電極触媒層に供給することができる。また、大径側の空孔に加えて、小径側の空孔が存在することで、ガス拡散層の強度もまた適宜確保できる。したがって、本発明のマイクロポーラス層を有するガス拡散層を用いた燃料電池は、高電流密度域でのフラッディング現象を防止し電圧を高め、高い発電性能を発揮することができる。
【0017】
ここで、空孔分布および空孔分布中心は、水銀圧入法により測定される。ここで、水銀圧入法とは、大抵の物質と反応せず、濡れもない水銀を、圧力を加えて固体の空孔中へ圧入し、その時に加えた圧力と押し込まれた(侵入した)水銀容積の関係から試料表面の空孔の大きさとその体積を測定する手法である。サンプルおよび水銀を充填したセルを高圧容器内で連続的に加圧していくと、水銀は大きな空孔から小さな空孔へと順に圧入されていく。どれくらいの圧力をかけたときに、どれくらいの大きさの孔に水銀が入っていくかは、理論的に、Washburnの式(D=−4σcosθ/P)から計算できる。ここで、Pは加える圧力(mPa)、Dは空孔直径(m)、σは水銀の表面張力(mN/m)、θは水銀と空孔壁面との接触角(deg.)である。σおよびθを定数として取り扱うことで、Washburnの式から加えた圧力Pと空孔径Dの関係が求められ、その時の侵入容積を測定することにより、空孔径とその容積分布が導かれる。なお、本明細書では、水銀の表面張力σを485dyn/cm、水銀と空孔壁面の接触角を130°として空孔直径を算出している。また、空孔の平均空孔径は、Quantachrome社製 PoreMaster装置などを用いた水銀圧入法により測定することができる。マイクロポーラス層の空隙率も同様の装置などにより測定することができる。
【0018】
上述したように、本発明のマイクロポーラス層は、ガス拡散層、好ましくは燃料電池用のガス拡散層、特に固体高分子形燃料電池(PEFC)用のガス拡散層に好適に使用される。ここで、ガス拡散層は、カソード側ガス拡散層及びアノード側ガス拡散層の少なくとも一方に使用されればよい。しかし、上述したように、カソード側で特に水が生成するため、本発明のガス拡散層は、カソード側ガス拡散層で少なくとも使用されることが好ましい。
【0019】
また、本発明のマイクロポーラス層内の空孔は、適宜撥水性を有することが好ましい。撥水性を有することにより、電極で生成した水をより良好に排出することができ、その結果、電池性能の低下を抑制・防止できる。ここで、マイクロポーラス層表面や空孔内の撥水性(疎水性)は、これらと水との接触角により判断できる。すなわち、マイクロポーラス層表面や空孔表面と水との接触角が大きいほど、撥水性に優れた空孔を有する。具体的には、マイクロポーラス層表面や空孔表面と水との接触角が、好ましくは90°以上、より好ましくは120°以上である。このような場合には、層表面や空孔内に水がとどまりにくいので、水の排出能をより向上することができる。
【0020】
マイクロポーラス層の厚さは、得られるガス拡散層の特性を考慮して適宜決定すればよいが、好ましくは10〜100μm、より好ましくは25〜70μm程度とすればよい。厚さが上記範囲であれば、機械的強度ならびにガスや水の透過性などを十分確保することができる。
【0021】
また、本発明のガス拡散層は、ガス拡散基材層、および前記ガス拡散基材層上に形成された本発明のマイクロポーラス層を有する。すなわち、図1に示されるように、本発明のガス拡散層1は、本発明のマイクロポーラス層2がガス拡散基材層3上に形成される構造を有する。
【0022】
本発明のガス拡散層におけるガス拡散基材層としては、特に制限されないが、炭素製の織物、紙状抄紙体、フェルト、不織布といった導電性及び多孔質性を有するシート状材料などからなるものが挙げられる。多孔質性を有するシート状材料を用いることにより、外部から供給されたガスをガス拡散基材層内で均一に拡散させることができる。より具体的には、カーボンペーパ、カーボンクロス、カーボン不織布などが好ましく挙げられる。前記シート状材料は、市販品を用いることもでき、例えば、東レ株式会社製カーボンペーパTGPシリーズ、E−TEK社製カーボンクロスなどが挙げられる。
【0023】
ガス拡散基材層の厚さは、得られるガス拡散層の特性を考慮して適宜決定すればよいが、30〜500μm程度とすればよい。厚さが上記範囲であれば、機械的強度ならびにガスや水の透過性などを十分確保することができる。
【0024】
ガス拡散基材層は、排水性をより高めてフラッディング現象などを防ぐために、撥水剤が含まれていてもよい。ここで、前記撥水剤としては、特に限定されないが、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリヘキサフルオロプロピレン、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)などのフッ素系の高分子材料、ポリプロピレン、ポリエチレンなどが挙げられる。上記撥水剤は、単独で使用されてもあるいは2種以上の混合物の形態で使用されてもよい。
【0025】
また、ガス拡散基材層は、マイクロポーラス層を形成する前に、予め洗浄することが好ましい。この場合の洗浄方法としては、特に制限されないが、溶媒中に浸漬して、これを超音波洗浄装置に投入することにより、洗浄処理を行なう方法が好ましく使用できる。ここで、洗浄用の溶媒としては、特に制限されないが、水、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール等の低級アルコールなどが挙げられる。また、ガス拡散基材層を予め洗浄する際には、洗浄後にガス拡散基材層を乾燥することが好ましい。この場合の乾燥条件は、ガス拡散基材層中の溶媒が十分除去できる条件であれば特に制限されず、溶媒の種類や量によって適宜選択される。
【0026】
以下に、本発明のガス拡散層(マイクロポーラス層の形成方法を含む)の製造方法を説明する。
【0027】
すなわち、まず、(i)非イオン性水溶性固体および/または非イオン性多孔体、導電性粒子、疎水剤、および溶媒を混合して、インクを作製した後、(ii)上記(i)で作製したインクをガス拡散基材層に塗布し、焼結することによって、ガス拡散基材層上にマイクロポーラス層を形成することによって、本発明のガス拡散層が形成されうる。
【0028】
上記工程(i)において、非イオン性水溶性固体および/または非イオン性多孔体をインクに使用する。このように非イオン性の物質を使用すると、導電性粒子、疎水剤、および溶媒と混合してインクを作製しても、塩斥による溶液/分散液での沈殿が起こらず、均一分散液を得ることができる。また、大径側及び小径側の空孔をともに大きくして、本発明に係る大径側の空孔及び小径側の空孔が形成できる。ここで、「非イオン性」とは、水中での電離度が低いことを意味する。
【0029】
上記工程(i)で使用できる非イオン性水溶性固体は、常温(20℃)で水に溶解するものであれば特に制限されないが、常温(20℃)で100mlの水に3g以上、好ましくは5g以上溶解するものが好ましい。このように水溶性のものを使用すると、インク中では、均一に溶解した状態で導電性粒子の間に存在する。一方で、インクの塗布膜を焼成すると、塗膜中に非イオン性水溶性固体が析出する。ここで、非イオン性水溶性固体は、導電性粒子の間にそのまま入り込んだ状態である。次に、下記詳述するような工程(ii−1)で析出した非イオン性水溶性固体を洗い流すと、導電性粒子の間に存在する非イオン性水溶性固体が除去されるため、ここに空孔が新たに形成できる。具体的には、非イオン性水溶性固体しては、ホウ酸、尿素などが挙げられる。好ましくは、ホウ酸が非イオン性水溶性固体として好ましい。ホウ酸は、析出した時の粒径が小さいため、大径側の空孔及び小径側の空孔分布を第1及び第2の空孔分布中心になるように容易に調節できる。また、これらの非イオン性水溶性固体は、入手可能な一般的な材料である。このため、これらの非イオン性水溶性固体を用いて作製されたマイクロポーラス層は、低コストで簡単に、所望の空孔分布を提供するため、フラッディングを抑制したガス拡散層を作製するのに好適に使用できる。
【0030】
また、上記工程(i)で使用できる非イオン性多孔体としては、特に制限されないが、好ましくは80%以上、より好ましくは90%以上の空隙率を有する非イオン性多孔体であることが好ましい。非イオン性多孔体はもともと空孔を有するため、大径側、小径側の空孔を容易に調節できる。また、簡単で作業工程コストの低い方法で新たな大径化した空孔を作製することもできる。作製されたマイクロポーラス層は所望の空孔分布を有するため、フラッディングを抑制したガス拡散層を作製するのに好適に使用できる。非イオン性多孔体の他の化学的性質は、特に制限されないが、疎水性を有することが好ましい。このような場合には、マイクロポーラス層の撥水性をそのまま維持するため、フラッディングを有効に防止できる。非イオン性多孔体の材質は特に制限されない。具体的には、シリカ、アルミナ、チタニア、ジルコニア等の金属酸化物、および複合酸化物、例えば、チタニアの表面をアルミナで処理したものなどが挙げられる。これらのうち、コストなどを考慮すると、シリカが好ましい。非イオン性多孔体の形状は、特に制限はないが、シート状、タイル状、球状、柱状、管状のいずれの形状を有していてもよい。好ましくは、インク中では、球状であり、より好ましくは微粒子である。なお、非イオン性多孔体は、凝集した形態であってもよい。非イオン性多孔体が凝集しているまたはシート状もしくはタイル状である場合には、予め小片に割ることが好ましい。また、非イオン性多孔体の大きさは、特に制限されず、以下に詳述するがインクへの混合のしやすさやマイクロポーラス層の所望の空孔分布によって適宜選択される。したがって、疎水性シリカ、特に疎水性シリカエアロゲルが非イオン性多孔体として好ましく使用される。なお、非イオン性多孔体は、市販品を使用してもよく、例えば、疎水性シリカ(松下電工株式会社製、商品名:疎水性シリカエアロゲルシリーズ、SP−15、SP−30、SP−50)などが使用できる。
【0031】
上記工程(i)で使用される導電性粒子は、電子伝導性に優れるものであれば特に制限されないが、導電性カーボン粒子が好ましい。当該導電性粒子及び疎水剤を使用することによっても、ある適度空孔を形成することができる。疎水剤にコーティングされたカーボン粒子が集合体となり多孔質構造を有する層を形成し、疎水剤により空孔表面に疎水性を付与することができる。また、カーボン粒子の粒子径を調整することにより、空孔径を所望の値に容易に制御できる。
【0032】
ここで、導電性カーボン粒子としては、電子伝導性に優れるものであればよく、カーボンブラック粉末、黒鉛粉末、膨張黒鉛粉末、金属粉末、セラミックス粉末などが挙げられる。電子伝導性に優れ、比表面積が大きいことから、オイルファーネスブラック、チャネルブラック、ランプブラック、サーマルブラック、アセチレンブラックなどのカーボンブラックが好ましく挙げられる。カーボン粒子は、市販品を用いることができ、キャボット社製バルカンXC−72、バルカンP、ブラックパールズ880、ブラックパールズ1100、ブラックパールズ1300、ブラックパールズ2000、リーガル400、ライオン社製ケッチェンブラックEC、三菱化学社製#3150、#3250などのオイルファーネスブラック;電気化学工業社製デンカブラックなどのアセチレンブラック等が挙げられる。また、カーボンブラックのほか、天然の黒鉛、ピッチ、コークス、ポリアクリロニトリル、フェノール樹脂、フラン樹脂などの有機化合物から得られる人工黒鉛や炭素などがある。また、耐食性などを向上させるために、カーボン粒子を熱処理などの加工を行ってもよい。上記導電性粒子は、単独で使用されてもあるいは2種以上の混合物の形態で使用されてもよい。導電性粒子の平均粒子径は、特に制限されないが、100〜3000nm程度とするのがよい。なお、導電性粒子が上記好ましい平均粒子径の範囲にない場合には、導電性粒子を溶媒に一旦分散させたものについて粉砕処理などを施してもよい。このような場合の粉砕は、公知の粉砕方法が使用でき、例えば、ジェットミルを用いて粉砕することによって達成することができる。また、上記粉砕処理を行なう場合には、導伝性粒子が均一に分散するように、導電性粒子の分散液にさらに界面活性剤を添加してもよい。
【0033】
疎水剤としては、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリヘキサフルオロプロピレン、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)などのフッ素系樹脂、ポリプロピレン、ポリエチレンなどが挙げられる。なかでも、撥水性、電極反応時の耐食性などに優れることから、フッ素系樹脂が好ましく用いられる。なお、上記疎水剤は、単独で使用されてもあるいは2種以上の混合物の形態で使用されてもよい。
【0034】
導電性粒子と疎水剤の混合比は、導電性粒子が多過ぎるとバインダーの役目をする疎水剤が少なくなり、結合力が低下する恐れがあり、疎水剤が多過ぎると所望の空孔径が得られない恐れがある。これらを考慮して、導電性粒子と疎水剤との混合比は、質量比で、95:5〜60:40、好ましくは90:10〜80:20程度とするのがよい。
【0035】
また、溶媒は、特に制限されず、使用する非イオン性水溶性固体および/または非イオン性多孔体、導電性粒子、疎水剤の種類によって、適宜選択される。具体的には、溶媒としては、水、パーフルオロベンゼン、ジクロロペンタフルオロプロパン、メタノール、エタノール等のアルコール系溶媒などの溶媒が使用できる。好ましくは、水、メタノール、エタノールであり、水がより好ましい。上記溶媒は、単独で使用されてもあるいは2種以上の混合物の形態で使用されてもよい。
【0036】
次工程(ii)では、上記工程(i)で作製したインクをガス拡散基材層に塗布し、焼結することによって、ガス拡散基材層上にマイクロポーラス層を形成する。
【0037】
ここでは、上記工程(i)で作製したインクをガス拡散基材層に塗布する。ここで、インクの塗布方法は、特に制限されず、スプレー、ナイフコーター、スピンコーターなど各種公知技術を用いて塗布すればよい。インクの塗布量は、特に制限されないが、乾燥後の厚みが上記マイクロポーラス層の厚みとなるような量であることが好ましい。
【0038】
また、インクの塗膜は、焼結前に、乾燥されることが好ましい。この場合の乾燥条件は、特に制限されないが、20〜120℃、好ましくは60〜100℃で、5〜120分間、好ましくは5〜60分間程度、行えばよい。また、上記乾燥塗膜を、次に焼結するが、この際の焼結条件もまた特に制限されないが、マッフル炉や焼成炉を用いて250〜450℃、好ましくは300〜400℃で、5〜120分間、好ましくは5〜60分間程度、行えばよい。
【0039】
上記工程(ii)により、本発明に係る特定の空孔分布中心を持つようにマイクロポーラス層がガス拡散基材層上に形成される。ここで、マイクロポーラス層内に上記したような特定の空孔分布中心をより確実に提供するためには、(ii−1)工程(i)で非イオン性水溶性固体を使用する場合には、インクの塗布膜を焼結した後、焼結した塗布膜を水性溶媒で洗い流し、析出した非イオン性水溶性固体を除去する工程;および/または(ii−2)工程(i)で非イオン性多孔体を使用する場合には、工程(i)で作製したインクを粉砕した後、ガス拡散基材層に塗布する工程をさらに行なうことが好ましい。以下、上記(ii−1)及び(ii−2)を説明する。
【0040】
工程(ii−1)では、非イオン性水溶性固体を使用する場合には、焼結を行なった後、水性溶媒で洗い流して、析出した非イオン性水溶性固体を除去することによって、本発明のマイクロポーラス層が形成できる。詳細には、以下のようにして、マイクロポーラス層に上記したような特定の空孔分布が形成されると、考えられる。即ち、乾燥・焼結後、導電性粒子の間に非イオン性水溶性固体が析出した形態で塗膜が形成される。ここで、非イオン性水溶性固体は、粒径の小さい状態で塗膜内に存在する。次に、この形態の塗膜を水性溶媒で洗浄すると、塗膜中の非イオン性水溶性固体のみが溶解するため、非イオン性水溶性固体が選択的に塗膜から除かれる。このようにして、上記したような第1及び第2の空孔分布中心を有するマイクロポーラス層が形成できる。なお、本発明は、上記推定に限定されるものではない。
【0041】
上記工程(ii−1)で使用できる水性溶媒は、非イオン性水溶性固体を洗い流せる水性溶媒であれば特に制限されない。具体的には、水、メタノール、エタノール等の低級アルコール系溶媒などが使用できる。水が好ましく使用される。なお、上記水性溶媒は、単独で使用されてもあるいは2種以上の混合物の形態で使用されてもよい。また、水性溶媒で塗膜中に析出した非イオン性水溶性固体を洗い流す条件は、非イオン性水溶性固体を十分除去して所望の空孔分布が得られる条件であればよい。具体的には、過剰量の水性溶媒に塗膜を、好ましくは攪拌しながら、浸漬する;過剰量の水性溶媒に塗膜を浸漬して、超音波処理を行なうなどが使用できる。
【0042】
また、工程(ii−2)では、工程(i)で作製したインクを粉砕した後、ガス拡散基材層に塗布することによって、本発明のマイクロポーラス層が形成できる。以下、当該方法について説明する。非イオン性多孔体を粉砕すると、容易にその構造が破壊し簡単に微粒子化することができる。このため、インクを予め粉砕することによって、空孔を容易に大径化でき、これにより、第1及び第2の空孔分布中心を有するマイクロポーラス層をより確実に形成することができる。また、分散剤や凝集防止剤を使わなくても簡単な方法で疎水性微粒子をマイクロポーラス層内に導入することができるため、低コストで触媒層等に影響を与える不純物がないガス拡散層を作製することができる。
【0043】
工程(ii−2)において、空隙率の高い疎水性シリカエアロゲルを非イオン性多孔体として使用する場合には、粉砕によりその構造がさらに壊れやすいため、容易に微粒子化することができるため、より好ましい。特に比較的大きな疎水性シリカエアロゲルを使用する場合には、疎水性シリカエアロゲルを一旦小片に割った後、インク中に投入して、粉砕して微粒子化を行なうことが好ましい。これにより、インク中で微粒化するため、均一に混ざる。なお、疎水性シリカエアロゲルを微粒子の状態でインクに入れる場合には、疎水性シリカエアロゲル微粒子が軽いため、インク上面に浮いてしまい、インクと均一に混ざりにくい場合がある。
【0044】
工程(ii−2)において、粉砕方法や条件は、マイクロポーラス層内に大径側及び小径側の空孔が形成できる方法及び条件であれば特に制限されない。具体的には、非イオン性多孔体を、ホモジナイザーを用いて5〜30分間、粉砕することが好ましい。
【0045】
上記方法によって得られた本発明のガス拡散層は、5〜15μmの空孔径範囲に存在する第1の空孔分布中心、および0.2〜0.5μmの空孔径範囲に存在する第2の空孔分布中心を少なくとも有するマイクロポーラス層を備えている。このため、多量の生成水が発生する1A/cm以上の高電流密度域であっても、ガスの供給は確保したまま、空孔を水で塞ぐことなく、多量の水を効率よく排出することができる。ゆえに、本発明のガス拡散層によると、高電流密度域であっても生成水を効率よく排出することができ、フラッディング現象を有効に抑制・防止できる。また、ガス拡散層の十分な強度も確保できる。したがって、本発明に係るガス拡散層は、電解質膜−電極接合体、当該電解質膜−電極接合体を用いてなる燃料電池、および当該燃料電池を搭載した車両に好適に適用できる。このような電解質膜−電極接合体や燃料電池は、高電流密度域でのフラッディング現象を防止し電圧を高め、高い発電性能を発揮することができる。
【0046】
本発明に係る電解質膜−電極接合体は、電解質膜と、前記電解質膜の一方の側に順次配置された、カソード触媒層及びカソード側ガス拡散層と、前記電解質膜の他方の側に順次配置された、アノード触媒層及びアノード側ガス拡散層と、を有し、カソード側ガス拡散層および前記アノード側ガス拡散層の少なくとも一方が、本発明のガス拡散層である。ここで、ガス拡散層は、カソード側ガス拡散層及びアノード側ガス拡散層の少なくとも一方に使用されればよい。しかし、上述したように、カソード側で特に水が生成するため、本発明のガス拡散層は、カソード側ガス拡散層で少なくとも使用されることが好ましい。
【0047】
ここで、電解質膜−電極接合体および燃料電池は、本発明に係るガス拡散層を使用する以外は、公知の方法、材料などが使用できる。
【0048】
以下、本発明の電解質膜−電極接合体および燃料電池につき、構成要件ごとに説明する。
【0049】
図2は、本発明の燃料電池の基本構成(単セル構成)を模式的に表した断面概略図である。本発明はこれに限定されない。
【0050】
図2において燃料電池(単セル)20は、電解質膜21の両側(表面及び裏面)に、アノード側触媒層22aとカソード側触媒層22bとがそれぞれ対向して配置されている。さらにアノード側触媒層22aとカソード側触媒層22bの両側(外側)に、アノード側ガス拡散層(GDL)23aおよびカソード側GDL23bとがそれぞれ対向して配置され、電解質膜−電極接合体(以下、MEAともいう)24を構成している。本発明では、これらアノード側GDL23aとカソード側GDL23bの少なくとも一方に、本発明に係るガス拡散層が用いられていることを特徴とするものである。好ましくはカソード側GDL23bに、より好ましくはアノード側GDL23aとカソード側GDL23bの両方に、本発明のガス拡散層が用いられる。なお、いずれか一方のGDLに本発明のガス拡散層を用いない場合には、従来公知のガス拡散層(GDL)が同様にして用いられる。具体的には、GDL23a、23bとしては、特に限定されないが、炭素製の織物、紙状抄紙体、フェルト、不織布といった導電性及び多孔質性を有するシート状材料を基材とする多孔質基材などが挙げられる。また、GDL23a、23bでも触媒層22a、22bと同様に撥水性を高めてフラッディング現象を防ぐために、公知の手段を用いて、前記GDL23a、23bの撥水処理を行なったり、前記GDL23a、23b上に炭素粒子集合体からなる層を形成してもよい。
【0051】
本発明のMEAの構成を有する固体高分子形燃料電池において、触媒層22、GDL23および電解質膜21の厚さは、燃料ガスの拡散性などを向上させるには薄い方が望ましいが、薄すぎると十分な電極出力が得られない。従って、所望の特性を有するMEA24、更には固体高分子形燃料電池が得られるように適宜決定すればよい。
【0052】
さらに、各GDL23a、23bの両側(外側)にアノード及びカソードパレータ25a、25bが配置されている。該セパレータ25a、25bの内部にはガス流路(溝)26a、26bが設けられている。このガス流路(溝)26a、26bを通じて、水素含有ガス(例えば、Hガスなど)及び酸素含有ガス(例えば、Airなど)がアノード側及びカソード側のGDL23a、23bを通して触媒層22a、22bにそれぞれ供給される。さらに、ガスが外部へ漏洩することを防止するために、電解質膜21の外周領域とセパレータ25a、25bとの間にガスケット27がそれぞれ配置されている。
【0053】
(A)電解質膜
本発明の燃料電池に用いることのできる電解質膜は、高いプロトン伝導性を有していればよい。高いプロトン伝導性を有する膜としては、−SOH基などのイオン交換基を有するモノマーの重合体または共重合体;またはイオン交換基を有するモノマーと他のモノマーとの重合体などの公知の材料からなる膜を用いることができる。かかる電解質膜21の材質としては、具体的には、ポリマー骨格の全部又は一部がフッ素化されたフッ素系樹脂であってイオン交換基を備えた電解質、または、ポリマー骨格にフッ素を含まない芳香族系炭化水素樹脂であってイオン交換基を備えた電解質、などが挙げられる。
【0054】
前記イオン交換基としては、特に制限されないが、−SOH、−COOH、−PO(OH)、−POH(OH)、−SONHSO−、−Ph(OH)(Phはフェニル基を表す)等の陽イオン交換基、−NH、−NHR、−NRR’、−NRR’R’’、−NH等(R、R’、R’’は、アルキル基、シクロアルキル基、アリール基等を表す)等の陰イオン交換基などが挙げられる。
【0055】
前記フッ素系樹脂であってイオン交換基を備えた電解質としては、具体的には、ナフィオン(登録商標、デュポン社製)、アシプレックス(登録商標、旭化成株式会社製)、フレミオン(登録商標、旭硝子株式会社製)等のパーフルオロカーボンスルホン酸系ポリマー、ポリトリフルオロスチレンスルフォン酸系ポリマー、パーフルオロカーボンホスホン酸系ポリマー、トリフルオロスチレンスルホン酸系ポリマー、エチレンテトラフルオロエチレン−g−スチレンスルホン酸系ポリマー、エチレン‐テトラフルオロエチレン共重合体、ポリテトラフルオロエチレン−g−ポリスチレンスルホン酸系ポリマー、ポリフッ化ビニリデン−g−ポリスチレンスルホン酸系ポリマーなどが好適な一例として挙げられる。
【0056】
前記芳香族系炭化水素樹脂であってイオン交換基を備えた電解質としては、具体的には、ポリサルホンスルホン酸系ポリマー、ポリエーテルエーテルケトンスルホン酸系ポリマー、ポリベンズイミダゾールアルキルスルホン酸系ポリマー、ポリベンズイミダゾールアルキルホスホン酸系ポリマー、架橋ポリスチレンスルホン酸系ポリマー、ポリエーテルサルホンスルホン酸系ポリマー等が好適な一例として挙げられる。
【0057】
高分子電解質は、耐熱性、化学的安定性などに優れることから、フッ素原子を含むのが好ましい。なかでも、ナフィオン(登録商標、デュポン社製)、アシプレックス(登録商標、旭化成株式会社製)、フレミオン(登録商標、旭硝子株式会社製)などのフッ素系電解質が好ましく挙げられる。特に、本発明において、高分子電解質としてナフィオン(登録商標、デュポン社製)等のスルホン酸基を有するものを使用する場合には、EWが600〜1100程度のものを使用することが好ましい。なお、EW(Equivalent Weight)は、スルホン酸基1モル当たりの乾燥膜重量を表わし、小さいほどスルホン酸基の比重が大きいことを意味する。
【0058】
また、高分子電解質の量は、特に制限されない。導電性担体質量(C)に対する前記高分子電解質質量(I)の比(Ionomer/Carbon;I/C)が、0.5〜2.0、より好ましくは0.7〜1.6となるような量であることが好ましい。このような範囲であると、十分なプロトン伝導性およびガス拡散性が達成しうる。なお、上記I/C比は、以下に詳述する触媒インク(スラリー)を作製する際に予め混合する触媒層中に含まれる導電性担体質量および電解質固形分を測定しておき、これらの混合比を調整することにより、算出され、また、制御できる。また、電極触媒層を分析して、前記I/Cを求める際の、導電性担体の質量(C)とは、電極触媒の質量から触媒成分の質量を差し引いたものとする。触媒成分の質量は誘導結合プラズマ発光分光法(ICP)によって定量することができる。電極触媒層を分析して、前記I/Cを求める際の、触媒層中の高分子電解質質量(I)は、19F NMRによる高分子電解質の構造解析、および、電量滴定によるS原子の定量、の2つを組合わせることで定量することができる。
【0059】
電解質膜の膜厚は、得られる燃料電池の特性を考慮して適宜決定することができるが、5〜300μmが好ましく、より好ましくは10〜200μm、特に好ましくは15〜150μmである。電解質膜の膜厚が5μm以上であると製膜時の強度や燃料電池作動時の耐久性の点から好ましく、300μm以下であると燃料電池作動時の出力特性の点から好ましい。
【0060】
なお、本発明では、燃料電池のアノード及びカソードの両電極間に介在される電解質成分を含有してなる構成部材を、電解質膜と称したが、決してその名称に拘泥されるものではない。燃料電池に用いられる使用目的からみて、例えば、電解質層や電解質などと称される場合であっても、本発明でいう電解質膜に含まれる場合があることはいうまでもない。他の構成要件についても同様であり、その名称に拘泥されるものではなく、使用目的に照らしてその同一性を判断すればよい。
【0061】
(B)触媒層
本発明において、カソード触媒層に用いられる触媒成分は、酸素の還元反応に触媒作用を有するものであれば特に制限はなく公知の触媒が同様にして使用できる。また、アノード触媒層に用いられる触媒成分もまた、水素の酸化反応に触媒作用を有するものであれば特に制限はなく公知の触媒が同様にして使用できる。具体的には、白金、ルテニウム、イリジウム、ロジウム、パラジウム、オスミウム、タングステン、鉛、鉄、クロム、コバルト、ニッケル、マンガン、バナジウム、モリブデン、ガリウム、アルミニウム等の金属、及びそれらの合金等などから選択される。これらのうち、触媒活性、一酸化炭素等に対する耐被毒性、耐熱性などを向上させるために、少なくとも白金を含むものが好ましく用いられる。前記合金の組成は、合金化する金属の種類にもよるが、白金が30〜90原子%、合金化する金属が10〜70原子%とするのがよい。カソード触媒として合金を使用する場合の合金の組成は、合金化する金属の種類などによって異なり適宜選択できる。この際、カソード触媒層に用いることのできる触媒成分及びアノード触媒層に用いることのできる触媒成分は、上記の中から適宜選択できる。
【0062】
触媒成分の形状や大きさは、特に制限されず公知の触媒成分と同様の形状及び大きさが使用できるが、触媒成分は、粒状であることが好ましい。この際、触媒成分の平均粒子径は、小さいほど電気化学反応が進行する有効電極面積が増加するため酸素還元活性も高くなり好ましいが、実際には平均粒子径が小さすぎると却って酸素還元活性が低下する現象が見られる。従って、触媒成分の平均粒子径は、1〜30nm、より好ましくは1.5〜20nm、さらにより好ましくは2〜10nm、特に好ましくは2〜5nmの粒状であることが好ましい。担持の容易さという観点から1nm以上であることが好ましく、触媒利用率の観点から30nm以下であることが好ましい。なお、本発明における「触媒成分の平均粒子径」は、X線回折における触媒粒子の回折ピークの半値幅より求められる結晶子径あるいは透過型電子顕微鏡像より調べられる触媒粒子の粒子径の平均値により測定することができる。
【0063】
前記導電性担体としては、触媒成分を所望の分散状態で担持させるための比表面積を有し、集電体として十分な電子導電性を有しているものであればよく、主成分がカーボンであるのが好ましい。具体的には、カーボンブラック、活性炭、コークス、天然黒鉛、人造黒鉛などからなるカーボン粒子が挙げられる。なお、本発明において「主成分がカーボンである」とは、主成分として炭素原子を含むことをいい、炭素原子のみからなる、実質的に炭素原子からなる、の双方を含む概念である。場合によっては、燃料電池の特性を向上させるために、炭素原子以外の元素が含まれていてもよい。なお、実質的に炭素原子からなるとは、2〜3質量%程度以下の不純物の混入が許容されることを意味する。
【0064】
前記導電性担体のBET比表面積は、触媒成分を高分散担持させるのに十分な比表面積であればよい。柱状および/または管状の導電性担体の場合、導電性担体のBET比表面積は、好ましくは1m/g〜2000m/g程度とするのがよい。前記比表面積が、1m/g程度以上あれば前記導電性担体への触媒成分および高分子電解質の分散性が向上し、十分な発電性能が得られる。一方、2000m/g程度以下であれば、触媒成分および高分子電解質の高い有効利用率を有効に保持することができる。
【0065】
また、球状の導電性担体の場合、導電性担体のBET比表面積は、好ましくは5〜2000m/g、より好ましくは50〜1500m/gとするのがよい。特に好ましくは導電性担体のBET比表面積が50〜2000m/gのアセチレンブラック、バルカン、ケッチェンブラック、ブラックパールである。
【0066】
また、前記導電性担体の大きさは、特に限定されないが、担持の容易さ、触媒利用率、触媒層の厚みを適切な範囲で制御するなどの観点からは、平均粒子径が5〜1000nm、好ましくは50〜700nm程度とするのがよい。
【0067】
導電性担体に触媒成分が担持された電極触媒において、触媒成分の担持量は、電極触媒の全量に対して、好ましくは10〜80質量%、より好ましくは30〜70質量%とするのがよい。前記担持量が、80質量%以下であると、触媒成分の導電性担体上での優れた分散度を有効に保持することができ、担持量の増加に見合った発電性能の向上効果を有効に発現させることができる利点がある。また、前記担持量が、10質量%以上であると、単位質量あたりの触媒活性に優れ、担持量に応じた所望の発電性能を得ることができる。そのため、所望の電池性能を確保するための担持量設計が比較的容易になし得る点で優れている。なお、触媒粒子の担持量は、誘導結合プラズマ発光分光法(ICP)によって調べることができる。
【0068】
本発明のカソード触媒層/アノード触媒層(以下、単に「触媒層」とも称する)には、電極触媒の他に、高分子電解質が含まれる。前記高分子電解質としては、特に限定されず公知のものを用いることができるが、少なくとも高いプロトン伝導性を有する部材であればよい。この際使用できる高分子電解質は、ポリマー骨格の全部又は一部にフッ素原子を含むフッ素系電解質と、ポリマー骨格にフッ素原子を含まない炭化水素系電解質とに大別される。
【0069】
前記フッ素系電解質として、具体的には、ナフィオン(登録商標、デュポン社製)、アシプレックス(登録商標、旭化成株式会社製)、フレミオン(登録商標、旭硝子株式会社製)等のパーフルオロカーボンスルホン酸系ポリマー、ポリトリフルオロスチレンスルフォン酸系ポリマー、パーフルオロカーボンホスホン酸系ポリマー、トリフルオロスチレンスルホン酸系ポリマー、エチレンテトラフルオロエチレン−g−スチレンスルホン酸系ポリマー、エチレン−テトラフルオロエチレン共重合体、ポリビニリデンフルオリド−パーフルオロカーボンスルホン酸系ポリマーなどが好適な一例として挙げられる。
【0070】
前記炭化水素系電解質として、具体的には、ポリスルホンスルホン酸、ポリアリールエーテルケトンスルホン酸、ポリベンズイミダゾールアルキルスルホン酸、ポリベンズイミダゾールアルキルホスホン酸、ポリスチレンスルホン酸、ポリエーテルエーテルケトンスルホン酸、ポリフェニルスルホン酸等が好適な一例として挙げられる。
【0071】
高分子電解質は、耐熱性、化学的安定性などに優れることから、フッ素原子を含むのが好ましく、なかでも、ナフィオン(登録商標、デュポン社製)、アシプレックス(登録商標、旭化成株式会社製)、フレミオン(登録商標、旭硝子株式会社製)などのフッ素系電解質が好ましく挙げられる。
【0072】
また、導電性担体への触媒成分の担持は公知の方法で行うことができる。例えば、含浸法、液相還元担持法、蒸発乾固法、コロイド吸着法、噴霧熱分解法、逆ミセル(マイクロエマルジョン法)などの公知の方法が使用できる。または、電極触媒は、市販品を用いてもよい。
【0073】
本発明の方法では、上記したような電極触媒、高分子電解質及び溶剤からなる触媒インクを、高分子電解質膜表面(あるいはガスケット層を部分的に被覆するような状態で高分子電解質膜表面)に塗布することによって、触媒層が形成される。この際、溶剤としては、特に制限されず、触媒層を形成するのに使用される通常の溶剤が同様にして使用できる。具体的には、水、シクロヘキサノールやエタノールや2−プロパノール等の低級アルコールが使用できる。また、溶剤の使用量もまた、特に制限されず公知と同様の量が使用できる。触媒インクにおいて、電極触媒は、所望の作用、即ち、水素の酸化反応(アノード側)及び酸素の還元反応(カソード側)を触媒する作用を十分発揮できる量であればいずれの量で、使用されてもよい。電極触媒が、触媒インク中、5〜30質量%、より好ましくは9〜20質量%となるような量で存在することが好ましい。
【0074】
本発明の触媒インクは、増粘剤を含んでもよい。増粘剤の使用は、触媒インクが転写用台紙上にうまく塗布できない場合などに有効である。この際使用できる増粘剤は、特に制限されず、公知の増粘剤が使用できるが、例えば、グリセリン、エチレングリコール(EG)、ポリビニルアルコール(PVA)、プロピレングリコール(PG)などが挙げられる。増粘剤を使用する際の、増粘剤の添加量は、本発明の上記効果を妨げない程度の量であれば特に制限されないが、触媒インクの全質量に対して、好ましくは5〜20質量%である。
【0075】
本発明の触媒インクは、電極触媒、電解質及び溶剤、ならびに必要であれば撥水性高分子および/または増粘剤、が適宜混合されたものであればその調製方法は特に制限されない。例えば、電解質を極性溶媒に添加し、この混合液を加熱・攪拌して、電解質を極性溶媒に溶解した後、これに電極触媒を添加することによって、触媒インクが調製できる。または、電解質を、溶剤中に一旦分散/懸濁された後、上記分散/懸濁液を電極触媒と混合して、触媒インクを調製してもよい。また、電解質が予め上記他の溶媒中に調製されている市販の電解質溶液(例えば、デュポン製のNafion溶液:1−プロパノール中に5wt%の濃度でNafionが分散/懸濁したもの)をそのまま上記方法に使用してもよい。
【0076】
上記したような触媒インクを、高分子電解質膜上に、あるいはガスケット層の一部を被覆しながら高分子電解質膜上に、塗布して、各触媒層が形成される。この際、高分子電解質膜上へのカソード/アノード触媒層の形成条件は、特に制限されず、公知の方法が同様にしてあるいは適宜修飾を加えて使用できる。例えば、触媒インクを高分子電解質膜上に、乾燥後の厚みが0.1〜100μm、より好ましくは5〜20μmになるように、塗布し、真空乾燥機内にてまたは減圧下で、25〜150℃、より好ましくは60〜120℃で、5〜30分間、より好ましくは10〜20分間、乾燥する。なお、上記工程において、触媒層の厚みが十分でない場合には、所望の厚みになるまで、上記塗布・乾燥工程を繰り返す。なお、触媒層の厚さが0.1μm以上であると所望する発電量が得られる点で好ましく、100μm以下であると高出力を維持できる。
【0077】
上記したようにして得られた触媒層上に、本発明のガス拡散層が載置される。
【0078】
(C)セパレータ
アノード及びカソードセパレータとしては、カーボンペーパー、カーボンクロス、緻密カーボングラファイト、炭素板等のカーボン製や、ステンレス等の金属製のものなど、特に制限されるものではなく、従来公知のものを用いることができる。また、前記セパレータ25a、25bは、空気と燃料ガスとを分離する機能を有するものであり、それらの流路を確保するために所望の形状に加工されたガス流路(溝)26a、26bが形成されているのが望ましく、従来公知の技術を適宜利用することができる。セパレータ25a、25bの厚さや大きさ、ガス流路溝26a、26bの形状などについては、特に限定されず、得られる燃料電池の出力特性などを考慮して適宜決定すればよい。
【0079】
(D)ガスケット
上記ガスケット27は、気体、特に酸素や水素ガスに対して不透過であればよいが、一般的には、ガス不透過材料からなるOリングなどの単一の不透過部により構成されていればよい。さらに、必要に応じて、電解質膜21や酸素極及び燃料極触媒層22a、22bのエッジとの接着を目的とする接着部を設けてなる、接着剤付きのガスシールテープ等のような複合的な構成としてもよい。Oリングやガスシールテープの不透過部を構成する材料は、設置後に所定の圧力がかかった状態で、酸素や水素ガスに対して不透過性を示すものであれば特に制限されない。
【0080】
こうした不透過部を構成する材料のうち、Oリングを構成する材料としては、例えば、フッ素ゴム、シリコンゴム、エチレンプロピレンゴム(EPDM)、ポリイソブチレンゴム等のゴム材料、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリヘキサフルオロプロピレン、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)等のフッ素系の高分子材料、ポリオレフィンやポリエステル等の熱可塑性樹脂などが挙げられる。
【0081】
一方、ガスシールテープ等の不透過部を構成する材料としては、例えば、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)などが挙げられる。また、ガスシールテープ等の接着部を構成する材料としては、電解質膜21や酸素極及び燃料極触媒層22a、22bと、ガスケット27を密接に接着できるものであれば特に制限されない。例えば、ポリオレフィン、ポリプロピレン、熱可塑性エラストマー等のホットメルト系接着剤、アクリル系接着剤、ポリエステル、ポリオレフィン等のオレフィン系接着剤などが使用できる。
【0082】
上記ガスケット27の形成方法は、特に制限されず、公知の方法が使用できる。例えば、電解質膜21上に、あるいは触媒層22のエッジを被覆しながら電解質膜21上に、上記接着剤を、5〜30μmの厚みになるように塗布する。その後、上記したようなガス不透過材料を10〜200μmの厚みになるように塗布し、これを25〜150℃で、10秒〜10分間加熱することによって硬化させる方法が使用できる。または、予め、ガス不透過材料をシート状に成形した後に、この不透過膜に接着剤を塗布して、ガスケット27を形成した後、これを電解質膜21上に、あるいはガスケット27の一部を被覆しながら電解質膜21上に、貼り合わせてもよい。この際、不透過部の厚みは、特に制限されないが、15〜40μmが好ましい。また、接着部の厚みは、特に制限されないが、10〜25μmが好ましい。
【0083】
上記ガスケット27については、市販のものを購入して用いてもよい。ここでいう市販のものには、購入者側の仕様(寸法、形状、材料、特性など)に応じてメーカーが製造したような発注品ないし特注品等も含まれるものとする。
【0084】
本発明のMEA24の構成を有する燃料電池において、触媒層22、GDL23、および電解質膜21の厚さは、燃料ガスの拡散性などを向上させるには薄い方が望ましいが、薄すぎると十分な電極出力が得られない。従って、所望の特性を有するMEA(燃料電池)が得られるように適宜決定すればよい。
【0085】
また、本発明の燃料電池は、上記の電極触媒層22を内側、GDL23を外側とし、電解質膜21を用い、該電解質膜21を両側から触媒層22で挟んで、適当にホットプレスすることによりMEA24を作製することができる。
【0086】
かかるホットプレス条件としては、適当な温度、圧力を設定するのが望ましい。具体的には、130〜200℃、好ましくは140〜160℃に加温し、1MPa〜5MPa、好ましくは2MPa〜4MPaで1〜10分間、好ましくは3〜7分間、ホットプレスするのが望ましい。ホットプレス温度が130℃以上であれば(膜の軟化が見られ、接合が容易である。またホットプレス温度が200℃以下であれば、膜の分解が防げる。また、ホットプレス圧が1MPa以上であれば、接合が容易である。またホットプレス圧が5MPa以下であれば、膜の穴あきなどの不具合が防止できる。更にホットプレス時間が1分間以上であれば、接合が容易である。またホットプレス時間が10分間以下であれば、膜の穴あきなどの不具合が防止できる。また、ホットプレスの際の雰囲気は、MEAに影響を及ぼさない雰囲気で行うのが望ましく、窒素中などの雰囲気で行うのが望ましい。
【0087】
また、本発明の燃料電池の製造方法としては、特に制限されるものではなく、従来公知の製造技術を用いて組み立てることができる。例えば、触媒インクを電解質膜上に塗布・乾燥させた後ホットプレスして、電極触媒層を電解質膜と接合し、得られた接合体をガス拡散層で挟持して、MEAとする方法;触媒インクを、前記ガス拡散層上に塗布・乾燥させて電極触媒層を形成し、これを電解質膜とホットプレスにより接合する方法、などであってもよく各種公知技術を適宜用いて行えばよい。
【0088】
本発明の燃料電池の種類としては、特に限定されず、上記した説明中では高分子電解質形燃料電池を例に挙げて説明したが、この他にも、アルカリ型燃料電池、ダイレクトメタノール型燃料電池、マイクロ燃料電池などが挙げられる。なかでも小型かつ高密度・高出力化が可能であるから、高分子電解質形燃料電池(PEFC)が好ましく挙げられる。また、前記燃料電池は、搭載スペースが限定される車両などの移動体用電源の他、定置用電源などとして有用であるが、特にシステムの起動/停止や出力変動が頻繁に発生する自動車用途で特に好適に使用できる。
【0089】
前記燃料電池の適用用途は特に限定されるものではないが、車両に適用することが好ましい。本発明の電解質膜−電極接合体は、発電性能および耐久性に優れ、小型化が実現可能である。このため、本発明の燃料電池は、車載性の点から、車両に該燃料電池を適用した場合、特に有利である。
【0090】
特に、前記高分子電解質形燃料電池は、定置用電源の他、搭載スペースが限定される自動車などの移動体用電源などとして有用である。なかでも、比較的長時間の運転停止後に高い出力電圧が要求される自動車などの移動体用電源として用いられるのが特に好ましい。
【実施例】
【0091】
本発明の効果を、以下の実施例および比較例を用いて説明する。ただし、本発明の技術的範囲が以下の実施例のみに制限されるわけではない。
【0092】
実施例1
1.ガス拡散基材層
カーボンペーパー(東レ社製、カーボンペーパーTGP−H−060)を10cm角に切り出した後、エタノール中に浸漬し超音波洗浄装置に投入し、洗浄処理した。洗浄後、80℃の乾燥炉中に投入し、約10分乾燥した。
【0093】
2.インクの調製
界面活性剤(ダウケミカル社製、Triton X−100)2gと、純水200gとを混合し、プロペラ攪拌装置にて150rpm、30分間、攪拌処理を行なった。次に、この界面活性剤分散水溶液に、アセチレンブラック(電気化学工業社製)5gを投入・混合し、プロペラ攪拌装置にて150rpm、30分間、攪拌処理を行なった。このスラリーを、カーボン平均粒径が1μmとなるように、ジェットミルを用いて粉砕処理を施した。上記スラリーに、非イオン性多孔体(松下電工社製、疎水性シリカエアロゲル SP−30)の小片0.1gを投入した。その後、このスラリーをホモジナイザーにて再粉砕し、ポリテトラフルオロエチレン(ダイキン工業製、Polyflon D−1E)1gを投入・混合した。さらに、この混合スラリーを、プロペラ攪拌装置にて150rpm、30分の攪拌処理を行なった後、増粘剤を適量投入攪拌し、塗着用インクスラリーを調製した。
【0094】
3.ガス拡散層の作製
上記1.で得られたカーボンペーパ上に、上記2.で作製されたインクスラリーを、乾燥後の膜厚が50μmとなるように、ナイフコータを用いて塗工した後、80℃で、15分間、乾燥した後、さらに350℃で、30分間、焼成処理を行なった。
【0095】
実施例2
1.ガス拡散基材層
実施例1 1.と同様にしてガス拡散基材層を得た。
【0096】
2.インクの調製
界面活性剤(ダウケミカル社製、Triton X−100)2gと、純水200gとを混合し、プロペラ攪拌装置にて150rpm、30分間、攪拌処理を行なった。次に、この界面活性剤分散水溶液に、アセチレンブラック(電気化学工業社製)5gを投入・混合し、プロペラ攪拌装置にて150rpm、30分間、攪拌処理を行なった。このスラリーを、カーボン平均粒径が1μmとなるように、ジェットミルを用いて粉砕処理を施した。上記スラリーに、ホウ酸の粉末(和光純薬工業社製)5gを投入・混合した。その後、このスラリーをホモジナイザーにて再粉砕し、ポリテトラフルオロエチレン(ダイキン工業製、Polyflon D−1E)1gを投入・混合した。さらに、この混合スラリーを、プロペラ攪拌装置にて150rpm、30分の攪拌処理を行なった後、増粘剤を適量投入攪拌し、塗着用インクスラリーを調製した。
【0097】
3.ガス拡散層の作製
上記1.で得られたカーボンペーパ上に、上記2.で作製されたインクスラリーを、乾燥後の膜厚が50μmとなるように、ナイフコータを用いて塗工した後、80℃で、15分間、乾燥した後、さらに350℃で、30分間、焼成処理を行なった。
【0098】
次に、このようにして得られたガス拡散層を、過剰量の水中で攪拌しながら十分浸漬処理を行なった。
【0099】
比較例1
1.ガス拡散基材層
実施例1 1.と同様にしてガス拡散基材層を得た。
【0100】
2.インクの調製
界面活性剤(ダウケミカル社製、Triton X−100)2gと、純水200gとを混合し、プロペラ攪拌装置にて150rpm、30分間、攪拌処理を行なった。次に、この界面活性剤分散水溶液に、アセチレンブラック(電気化学工業社製)5gを投入・混合し、プロペラ攪拌装置にて150rpm、30分間、攪拌処理を行なった。このスラリーを、カーボン平均粒径が1μmとなるように、ジェットミルを用いて粉砕処理を施した。さらに、上記スラリーに、ポリテトラフルオロエチレン(ダイキン工業製、Polyflon D−1E)1gを投入・混合した。さらに、この混合スラリーを、プロペラ攪拌装置にて150rpm、30分の攪拌処理を行なった後、増粘剤を適量投入攪拌し、塗着用インクスラリーを調製した。
【0101】
3.ガス拡散層の作製
上記1.で得られたカーボンペーパ上に、上記2.で作製されたインクスラリーを、乾燥後の膜厚が50μmとなるように、ナイフコータを用いて塗工した後、80℃で、15分間、乾燥した後、さらに350℃で、30分間、焼成処理を行なった。
【0102】
<空孔分布分析>
上記実施例1、2および比較例1で得られたマイクロポーラス層について、水銀圧入法により空孔分布スペクトルを分析した。その結果を、図3に示す。
【0103】
図3から、実施例1、2で得られた本発明のマイクロポーラス層では、5〜15μmの空孔径範囲に存在する第1の空孔分布中心および0.2〜0.5μmの空孔径範囲に存在する第2の空孔分布中心が存在することが分かる。これに対して、比較例1で得られたマイクロポーラス層には、0.2〜0.5μmの空孔径範囲に存在する第2の空孔分布中心しか存在しないことが分かる。
【0104】
<発電性能評価>
上記実施例1、2および比較例1で得られたガス拡散層について、下記方法にしたがって、発電性を評価した。
【0105】
市販のNafion溶液(アルドリッチ社製5質量%溶液)に、Pt担持カーボン(白金担持量:50質量%)の微粒子を、カーボンとNafionの質量比がカーボン:Nafion=1:0.8となるように混合した後、ホモジナイザー(粉砕器)に3時間ほどかけてカソード用触媒インクを作製した。カソード用触媒インクと同様の手順でアノード用触媒インクを作製した。
【0106】
前記のように調製したインクを、スクリーンプリンタを使用して、台紙として使用するテフロンシート上に塗布して、カソード用およびアノード用触媒層転写シートを作製した。台紙としてはテフロンシートの他にPET(ポリエチレンテレフタレート)シートなどが優れている。Pt担持量が0.4mg/cmとなるまで塗布、乾燥を繰り返すことで、所定白金量の触媒層転写シートを作製した。
【0107】
前記のように作製したカソード用およびアノード用触媒層転写シートの触媒層面にエタノールをスプレーして浸潤させ、触媒層表面が乾燥してきたところで、これらの転写シートで作製した電解質膜を挟み込んだ。その後、130℃、6.5MPa、保持時間10分にてホットプレスを行なった。エタノールで浸潤させるのは、触媒層および膜の電解質を柔軟にさせ、触媒層の転写を容易にするためである。冷却後、転写シートの台紙をはがし、電解質膜−電極接合体を作製した。
【0108】
このようにして作製された電解質膜−電極接合体の両面側に、ガス拡散層として、それぞれ、上記実施例1、2および比較例1のガス拡散層と、ガス流路付きガスセパレータとを各々配置した。さらに金メッキしたステンレス製集電板により挟持して、評価用単位セルとした。なお、評価用単セルの、アノード側に燃料として水素を供給し、カソード側には酸化剤として空気を供給した。また、評価条件は、S.R.=1.5/2.5、セル温度70℃で、R.H.=20%/20%である。
【0109】
結果を図4に示す。図4から、実施例1、2の本発明のガス拡散層を用いた電解質膜−電極接合体は、比較例1の従来のガス拡散層を用いたものに比して、1A/cm以上の高電流密度域でも、電圧の低下を有意に抑制することが分かる。
【図面の簡単な説明】
【0110】
【図1】本発明のガス拡散層を模式的に表した断面概略図である。
【図2】本発明の燃料電池の基本構成(単セル構成)を模式的に表した断面概略図である。
【図3】実施例1、2および比較例1で作製されたマイクロポーラス層の空孔分布スペクトルである。
【図4】実施例1、2および比較例1で作製されたガス拡散層を有する電解質膜−電極接合体の発電性能評価結果を示すグラフである。
【符号の説明】
【0111】
1…ガス拡散層、
2…マイクロポーラス層、
3…ガス拡散基材層、
20…燃料電池セル、
21…電解質膜、
22…燃料電池電極触媒層、
22a…アノード触媒層、
22b…カソード触媒層、
23…ガス拡散層、
23a…アノードガス拡散層、
23b…カソードガス拡散層、
24…電解質膜−電極接合体(MEA)、
25a…アノードセパレータ、
25b…カソードセパレータ、
26a…アノード側ガス流路(溝)、
26b…カソード側ガス流路(溝)、
27…ガスケット。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも2種類の空孔分布中心を持ち、第1の空孔分布中心が5〜15μmの空孔径範囲に存在し、第2の空孔分布中心が0.2〜0.5μmの空孔径範囲に存在する、マイクロポーラス層。
【請求項2】
ガス拡散基材層、および前記ガス拡散基材層上に形成された請求項1に記載のマイクロポーラス層を有する、ガス拡散層。
【請求項3】
(i)非イオン性水溶性固体および/または非イオン性多孔体、導電性粒子、疎水剤、および溶媒を混合して、インクを作製し;
(ii)前記(i)で作製したインクをガス拡散基材層に塗布し、焼結することによって、ガス拡散基材層上にマイクロポーラス層を形成する、
ことを有する、請求項2に記載のガス拡散層の製造方法。
【請求項4】
前記非イオン性水溶性固体はホウ酸であるおよび/または前記非イオン性多孔体は疎水性シリカである、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記非イオン性水溶性固体である場合には、前記(ii)において、焼結を行なった後、水性溶媒で洗い流し、析出した非イオン性水溶性固体を除去する;または
前記非イオン性多孔体である場合には、前記(ii)において、前記(i)で作製したインクを粉砕した後、ガス拡散基材層に塗布する、
ことを有する、請求項3または4に記載の方法。
【請求項6】
電解質膜と、前記電解質膜の一方の側に順次配置された、カソード触媒層およびカソード側ガス拡散層と、前記電解質膜の他方の側に順次配置された、アノード触媒層およびアノード側ガス拡散層と、を有する電解質膜−電極接合体であって、
前記カソード側ガス拡散層および前記アノード側ガス拡散層の少なくとも一方が、請求項2に記載のガス拡散層または請求項3〜5のいずれか1項に記載の方法によって製造されるガス拡散層である、電解質膜−電極接合体。
【請求項7】
少なくともカソード側ガス拡散層が、請求項2に記載のガス拡散層または請求項3〜5のいずれか1項に記載の方法によって製造されるガス拡散層である、請求項6に記載の電解質膜−電極接合体。
【請求項8】
請求項6または7に記載の電解質膜−電極接合体を用いてなる燃料電池。
【請求項9】
請求項8に記載の燃料電池を搭載した車両。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−92609(P2010−92609A)
【公開日】平成22年4月22日(2010.4.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−258501(P2008−258501)
【出願日】平成20年10月3日(2008.10.3)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.テフロン
【出願人】(000003997)日産自動車株式会社 (16,386)
【Fターム(参考)】