説明

マイクロリアクター装置及び微小流路の洗浄方法

【課題】多目的に使用可能であり、更新あるいは交換可能な磁性粒子を有するマイクロリアクター装置を提供すること。さらに、マイクロリアクター装置の微小流路の簡易な洗浄方法を提供すること。
【解決手段】微小流路、前記微小流路内に導入された磁性粒子、及び、前記微小流路外に配置され、前記磁性粒子に磁力を及ぼす磁石を有することを特徴とするマイクロリアクター装置、また、微小流路内に磁性粒子を導入する工程、前記微小流路外から磁力を及ぼして前記磁性粒子を前記微小流路の内壁に接触させる工程、及び前記磁性粒子の前記微小流路の内壁への接触状態を維持しながら相対運動をさせる工程を含むことを特徴とする微小流路の洗浄方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は磁性粒子を有するマイクロリアクター装置及び、磁性粒子を使用した微小流路の洗浄方法に関する。
【背景技術】
【0002】
微小流路に複数の流体を流し、各々の流体中に含まれる化合物を反応させて目的の生成物を得るというマイクロリアクター装置が知られている。また、流路の内壁に種々の官能基や触媒を形成して反応を行うこと、あるいは触媒を担持した粒子を流路内に充填して目的の反応を行うことも可能である。
流路の内壁に触媒や官能基を形成し反応を行うにあたっては、特定の触媒や官能基を形成したマイクロリアクター装置は他の用途に再利用できず、コストが高くなるという課題があった。つまり、内壁に固定された触媒を他の目的のものに交換することは困難であった。さらには、触媒活性が低下した場合等に、触媒のみを更新あるいは交換することも困難であった。さらに、流路の内壁に複数種の触媒や官能基を形成するには、流路作製時に加工を施す必要があり、精密加工が必要であり、コストの高いものであった。
また、流路の内壁が汚染された場合、洗浄することが困難であった。
【0003】
特許文献1には、ガラスまたは高分子樹脂から形成されたマイクロリアクタと、永久磁石が内蔵されたマグネットスターラーとを備えた核酸抽出装置において、マイクロリアクタに形成された微小流路内に、微小な磁性粒子が左右に少なくとも1個以上挿入された単層ナノチューブを備え、前記単層ナノチューブの側面全体に核酸のみを捕集する核酸結合部が修飾されていることを特徴とする核酸抽出装置が開示されている。
また、特許文献2には、マイクロチップ微細流路における担体上で、試料液中の分析対象物質が特異的に結合する反応物質Aと、前記分析対象物質並びにこの分析対象物質と特異的に結合する酵素が標識された反応物質Bとによる複合体が、前記酵素の基質が反応するときに生じる酵素量に依存したシグナルから分析対象物質の濃度を測定する生化学分析方法において、微細流路中への基質溶液の送液を一定時間停止し、引き続き一定速度で基質溶液を送液することにより、検出シグナルをピークとして捉えることを特徴とする生化学分析方法が開示されている。また、担体としてビーズ担体を使用することや、流路内にビーズ担体堰き止め部を設けることが記載されている。
【0004】
【特許文献1】特開2005−130726号公報
【特許文献2】特開2005−227250号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
流路の内壁に触媒や官能基を形成し、反応を行うにあたっては、特定の触媒や官能基を形成したマイクロリアクター装置は、他の用途に利用することが困難であり、コスト高になるなどの問題があった。
本発明は、多目的に使用可能であり、更新あるいは交換可能な磁性粒子を有するマイクロリアクター装置を提供することを目的とする。
さらに本発明は、マイクロリアクター装置の微小流路の簡易な洗浄方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の上記課題は以下の<1>又は<2>に記載の手段により解決された。
<1> 微小流路、前記微小流路内に導入された磁性粒子、及び、前記微小流路外に配置され、前記磁性粒子に磁力を及ぼす磁石を有することを特徴とするマイクロリアクター装置、
<2> 微小流路内に磁性粒子を導入する工程、前記微小流路外から磁力を及ぼして前記磁性粒子を前記微小流路の内壁に接触させる工程、及び前記磁性粒子の前記微小流路の内壁への接触状態を維持しながら相対運動をさせる工程を含むことを特徴とする微小流路の洗浄方法。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、交換又は更新可能な磁性粒子を有するマイクロリアクター装置を提供することができる。
さらに本発明によれば、マイクロリアクター装置の微小流路の簡易な洗浄方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本発明のマイクロリアクター装置は、微小流路(本発明において、微小流路を単に流路ともいうこととする。)、前記微小流路内に導入された磁性粒子、及び、前記微小流路外に配置され、前記磁性粒子に磁力を及ぼす磁石を有することを特徴とする。なお、本発明において、磁性粒子とは、磁性体及び/又は磁性体含有組成物を意味する。磁性体含有組成物としては、磁性体を含有する高分子粒子、高分子ゲル粒子、及び、ガラスなどの無機粒子、等が例示できる。磁性粒子は、磁性体、磁性体を含有する高分子粒子、磁性体を含有する高分子ゲル粒子、磁性体を含有するガラスなどの無機粒子、及び、これらの混合物よりなる群から選ばれることが好ましい。
本発明のマイクロリアクター装置において、磁性粒子を微小流路内に流入し、また、磁性粒子を微小流路内から流出することができる。流路外部に配置された磁石により磁性粒子は容易に流路内に制止させることや配置することができ、また、磁石を取り除いたり、磁力の印加を停止することで、磁性粒子を容易に微小流路内から外部に取り出すことができる。このようにして磁性粒子を交換することが可能であり、また、流路内に追加することもできる。さらに、磁性粒子を交換することによりマイクロリアクター装置を他の目的に再利用可能である。
【0009】
図1は、本発明のマイクロリアクター装置の一例を示す概念断面図である。マイクロリアクター装置10は、微小流路1、前記微小流路内に導入された磁性粒子2及び微小流路外に配置され、前記磁性粒子2に磁力を及ぼす磁石3を有する。磁性粒子2を含む流体Aを送流すると、磁性粒子2は磁石3により微小流路1内の所定の位置に配置される。
図1において、磁石3は、微小流路に接して配置されているが、微小流路内の磁性粒子に磁力を及ぼすことができる範囲で、微小流路から離れて配置されていてもよい。
【0010】
本発明のマイクロリアクター装置は、流路内に堰き止め部を設けることなく、磁性粒子を流路内に配置することができる。流路内に堰き止め部を設けて粒子を堰き止め、これにより流路内に配置する場合、効果的に微小流路内に配置するためには、粒子のサイズを微小流路の内壁と堰き止め部の間隔よりも大きくする必要がある。従って、粒子の比表面積が小さくなり、粒子表面に担持できる触媒量及び/又は官能基量が減少し、結果として反応性が低下する場合がある。特に、流量を大きくするために微小流路の内壁と堰き止め部の間隔を大きくすると、粒子のサイズを大きくする必要があり、反応性と流量の両立が困難である。
本発明では、磁性粒子は磁石により流路内に配置可能であり、高い反応性と大きい流量の両立が可能である。
【0011】
本発明において、磁性粒子は、触媒及び/又は官能基を有することが好ましい。触媒及び/又は官能基は、微小流路内を流れる流体に含まれる化合物と反応可能であることが好ましい。従って、磁性粒子の表面が触媒及び/又は官能基を有することが好ましい。また、磁性粒子が高分子ゲル中に磁性体を含有する構成の場合には、磁性粒子の内部に触媒及び/又は官能基を有することも好ましい。
磁性粒子は、1種類の触媒及び/又は官能基を有してもよいし、複数種の触媒及び/又は官能基を有していてもよい。
触媒及び/又は官能基を有する磁性粒子や触媒能を有する磁性粒子(例えば磁性体)を微小流路内に導入し、これを固定することにより、微小流路の内部に所望の反応単位を導入可能であり、また、反応単位の量は微小流路内に配置された磁性粒子の量や磁石の幅等により制御することができる。
また、複数の異なった触媒及び/又は官能基を有する磁性粒子を、流路内の異なる位置に配置することも好ましく、流路内で多段階反応を行うことが可能なマイクロリアクター装置を容易に得ることができる。
さらに、目的に応じて反応単位の長さ、反応単位間の距離の制御が可能であり、効果的な反応が実現可能である。
【0012】
磁性粒子は、1種単独で使用することもできるし、複数の種類の磁性粒子を併用することも可能である。例えば、異なる触媒及び/又は官能基を有する磁性粒子を使用することができる。また、異なる種類の磁性体を含有する磁性粒子であっても良いし、磁性粒子を構成する他の成分が異なるものであっても良い。
【0013】
磁性粒子は微小流路外に配置された磁石の磁力により所定の位置に配置されることが好ましい。本発明によれば、磁性粒子を磁石の磁力を用いて配置することができ、微小流路の内壁に加工を必要としないので好ましい。
【0014】
磁性粒子は、微小流路外部の磁石により、複数の位置に配置させることもできる。一種の磁性粒子を微小流路内の複数の位置に配置することもでき、また、複数種の磁性粒子を各々の種類毎に流路内の異なる位置に配置することもできる。
図2は、本発明のマイクロリアクター装置の他の一例を示す概念断面図である。マイクロリアクター装置10は、微小流路1、磁性粒子2、2’及び微小流路外に配置され、前記磁性粒子2に磁力を及ぼす磁石3及び磁性粒子2’に磁力を及ぼす磁石3’を有する。磁性粒子は微小流路内の2箇所に配置されている。まず、微小粒子2’を含む流体Aを送流し、微小粒子2’を磁石3’により捕捉する。このあとさらに、磁性粒子2を含む流体Aを送流し、磁性粒子2は磁石3により捕捉すると、複数種の磁性粒子をそれぞれ異なる位置に配置したマイクロリアクター装置10を得ることができる。尚、図2において、磁石3及び3’は、微小流路に接して配置されているが、微小流路内の磁性粒子に磁力を及ぼすことができる範囲で、微小流路から離れて配置されていてもよい。
また、異なる触媒及び/又は官能基を有する磁性体含有組成物を使用し、磁性体含有組成物の種類ごとに異なる位置に配置することも好ましい。これにより、多段階の反応を行うことができるので好ましい。
さらに、流路外部に配置された磁石を段階的に取り除くことにより、複数の位置に配置された磁性粒子を個別に回収することができる。
【0015】
また、磁性粒子を流路内の所定位置に配置することで、微小流路内を流れる流体の流れを制御することもできる。具体的には、磁性粒子を微小流路外に配置された磁石から及ぼされる磁力により所定位置に配置させ、配置部での流路を狭くする、流路を閉塞させる、又は流速を低下させることによって流体の流れを制御可能である。
本発明の磁性粒子を有するマイクロリアクター装置は、流路内に弁や邪魔板等を設けることなく流体の流れを制御可能であり、微小流路内部の加工を必要とせずに、目的に応じて流体の流れを制御することもできる。
【0016】
<磁性粒子>
本発明において、磁性粒子とは上述のように磁性体及び/又は磁性体含有組成物を意味する。すなわち、磁性粒子として磁性体の粒子を使用することもでき、磁性体を含む組成物(磁性体含有組成物)を使用することもできる。
本発明において、磁性粒子に使用される磁性体としては、マグネタイト、フェライト、鉄、酸化鉄、コバルト・酸化鉄、SmCo磁石、ネオジ鉄ボロンなどの粒子が例示できる。
磁性体含有組成物としては、これらの磁性体を含有する高分子粒子、高分子ゲル粒子及びガラスなどの無機粒子等が例示できる。これらの中でも、磁性体含有組成物は磁性体として強磁性体、永久磁石を含有することが好ましい。
磁性粒子の形状は、用途や要求される特性によって種々選択される。粒状、板状、針状、不定形、多孔質形などが例示でき、粒状であることが好ましく、粒状の中でも楕円状又は球状であることがより好ましい。楕円状又は球状であると磁石によるハンドリングが容易である点で好ましい。
磁性粒子の大きさ(粒子径)は体積平均で0.1μm〜500μmの範囲であることが好ましく、1μm〜100μmであることがより好ましい。粒子径が上記範囲内であると、流路内に詰まりを生じることなく、磁性体が流路内を移動可能であり、また、微小流路外部の磁石により捕捉可能な磁性を有することができるので好ましい。ここで、粒子径とは体積基準における平均粒子径を意味する。また、針状粒子などの短軸と長軸を有するものでは、それらの算術平均粒子径あるいは幾何平均粒子径となる。さらにこれらの平均粒子径は、光散乱などの光学的手法、直接観察法、沈降法等によって測定されたものである。
【0017】
磁性体含有組成物において、磁性体の含有量は適宜選択することができ、微小流路外に配置された磁石の磁力により、磁性体含有組成物を捕捉可能な磁性を有する範囲で適宜選択することができるが、磁性体の含有量は1〜90重量%であることが好ましく、3〜60重量%であることがより好ましい。
【0018】
<触媒及び官能基>
触媒としては、化学反応触媒や生体触媒等が利用できる。化学反応触媒としては、金属や有機金属触媒等が例示できる。具体的には、チタン、ジルコニウム、クロム、モリブデン、鉄、ルテニウム、コバルト、ロジウム、ニッケル、パラジウム、白金、ゼオライトや、それらを一成分として含む有機金属触媒等が例示できる。
生体触媒としては、各種酵素や菌類等が使用できる。具体的には、アミラーゼ、プロテアーゼ、リパーゼ、セルラーゼ、ヘミセルラーゼ、ペクチナーゼ、グルコースオキシダーゼ、チマーゼ等の酵素が例示でき、また酵母菌などの種々の菌類が例示できる。
官能基とは、反応性の原因となる原子団又は結合様式、及び、分子内の反応性に富む基を意味する。水素結合、共有結合、イオン結合等を示す様々な化学反応性の官能基、抗原・抗体、DNA・RNAなどの生体反応性の官能基などが用途に応じて種々選択される。化学反応性の官能基としては、ヒドロキシル基、カルボニル基、カルボキシル基や、エチレン性不飽和二重結合、三重結合等が例示できる。
本発明において、磁性体含有組成物が有する触媒及び/又は官能基の量は目的に応じて適宜選択することができる。
【0019】
<磁性体含有組成物の作製方法>
磁性体含有組成物の少なくとも表面には種々の触媒や官能基が担持されていることが好ましい。これらは組成物中に分散(練りこまれている)していても、粒子表面に様々な手法で固定されていても構わない。
その作製方法を例示する。磁性体に金属や有機金属触媒等を含有させた組成物は、各成分を混合し焼結等によって固めることで作製できる。また、各々の成分を微粒子として混合し、ゾルゲルガラス等で固化する方法も可能である。また、磁性体粒子の表面に、触媒や官能基を物理的、化学的方法で固定することも望ましい。
磁性体を含有する高分子は、磁性体粒子と触媒を高分子や高分子ゲルのマトリックス中に分散することで作製可能である。また、あらかじめ作製した磁性体を含有した高分子、高分子ゲルに対して、その粒子の表面や内部に触媒や官能基を物理的、化学的方法で固定することも望ましい。なお、磁性体を含有した高分子や粒子は重合法、粒子化重合法、高分子の粒子化法、等によって作製できる。
【0020】
<磁石>
磁性粒子をマイクロリアクター装置の微小流路内の所定位置に磁力によって固定するための流路の外部に配置する磁石としては、永久磁石、電磁石等が例示できる。永久磁石としては、前記した磁性粒子と同様な材料系が挙げられ、鉄・コバルトなどの合金、鉄酸化物(フェライト)、SmCo磁石、ネオジ鉄ボロンなどが好ましい。また、電磁石としては鉄などの金属とコイルを組み合わせた公知の電磁石が使用できる。
磁石は、前記の磁性粒子を所望の量あるいは幅(長さ)で流路内に配置するために、必要な大きさ、個数を種々選択して用いることができる。
【0021】
また、本発明において、電磁石としてリング状の金属にコイルを巻きつけたものを使用した場合、このリング内部に流路を配置すれば、流路の断面外部一周をとりまくように磁力を発生させることができる。このような電磁石の配置によって流路の特定領域の内周面のほぼ全ての面に磁性粒子を配置させることも可能でなり、これは反応効率の上からも好ましい。
【0022】
<微小流路>
本発明において、微小流路とは、数〜数千μmの幅の流路であることが好ましく、10〜1,000μmであることがより好ましい。
本発明において、マイクロリアクター装置の微小流路は、マイクロスケールであるので、寸法および流速がいずれも小さく、レイノルズ数は2,300以下である。したがって、マイクロスケールの流路を有する反応装置は、通常の反応装置のような乱流支配ではなく層流支配の装置である。
本発明において、磁性粒子を微小流路の外部に磁石により微小流路内に配置することによって、乱流を生じさせることもでき、これにより磁性粒子と接触する流体を増加させることができ、反応性を向上させることができるので好ましい。
【0023】
微小流路は公知の微小流路を使用することができ、微小流路を構成する微小流路構成体の材料としてはガラス、シリコン、その他各種のセラミックス、高分子樹脂等が例示できる。微小流路の外部から磁石を用いて磁性粒子を制御するため、微小流路構成体の材料は磁性を有していないことが好ましい。
微小流路は流体を導入する少なくとも1つの導入口及び流体を排出する少なくとも1つの排出口を有しており、複数の導入口及び/又は排出口を有することができる。
【0024】
<マイクロリアクター装置>
本発明のマイクロリアクター装置は少なくとも1つの微小流路(チャンネル)を有する装置であり、複数の微小流路を有することが好ましい。
マイクロリアクター装置は、流体を送液するための送液ポンプ及びマイクロシリンジ等を備えていてもよく、また、検出装置を備えることもできる。また、必要に応じて温度制御手段を備えることもできる。
【0025】
<洗浄方法>
本発明の微小流路の洗浄方法は、微小流路内に磁性粒子を導入する工程、前記微小流路外から磁力を及ぼして前記磁性粒子を前記微小流路の内壁に接触させる工程、及び前記磁性粒子の前記微小流路の内壁への接触状態を維持しながら相対運動をさせる工程を含むことを特徴とする。
磁性粒子を磁石により微小流路の内壁と接触させることができ、これにより微小流路の内壁の洗浄を行うものである。
この方法によれば、磁性粒子を送流することにより洗浄が可能であり、マイクロリアクター装置の分解等を必要とせずに微小流路内を洗浄することができるので好ましい。
本発明の洗浄方法は、公知のマイクロリアクター装置に使用することができ、微小流路外部から付与した磁力により磁性粒子の移動が可能であれば特に限定されない。
【0026】
洗浄を目的とした場合、磁性粒子の機械的洗浄性及び/又は化学的洗浄性を向上させることが好ましい。具体的には、磁性粒子の表面を機械的洗浄力を高めるために粗面化処理することもできるし、化学的洗浄性を高めるために界面活性効果を有する官能基で処理することもでき、目的に応じて適宜選択することが好ましい。また、磁性粒子と併用して種々の界面活性剤、無機微粒子などの研磨剤を添加することも好ましい。
【0027】
微小流路の内壁を洗浄するために、外部磁石を移動させることが好ましい。外部磁石により微小流路内の磁性粒子を捕捉し、流路の内壁に磁性体含有組成物を移動させ、流路に沿って磁石を移動することにより、流路の内壁を効果的に洗浄することが好ましい。
また、磁石は複数回の往復運動とすることにより効果的に微小流路内を洗浄することができるので好ましい。
【実施例】
【0028】
<実施例1>
〔磁性粒子の作製〕
マグネタイト粒子(体積平均粒子径約10μm)の表面をγ−アミノプロピルトリエトキシシランで処理し、粒子表面にアミノ基を導入した。さらに、該粒子を水に分散し、反応剤としてカルボジイミドを用いてアミラーゼ(酵素)を固定することで、酵素を担持した磁性粒子分散液を得た。
磁性粒子分散液の磁性粒子濃度は5重量%に調整した。
【0029】
微小流路として長さ20cmのガラス基板に幅1mm(断面が1辺1mmの正方形)の流路を形成したものを使用した。この流路の中央部外部に、幅5cmのフェライト磁石を配置し、流路の一方から前記磁性粒子分散液を送液したところ、粒子は磁石の下に配置、固定された。磁性粒子は流路内に5cmの幅で、外見上、流路内をほぼ完全に埋める程度に配置された。
次に、装置を35℃の温度に調節し、5%の澱粉溶液を流路内に10cm/minの流速で送液し、出口側で溶液をサンプリングして分析した結果、ほぼ80%の反応率で澱粉がブドウ糖に分解されていることがわかった。このことから、十分な触媒作用が確認できた。また、反応後、液体を送液した状態で磁石を除くと、磁性粒子は流路外に流れ出し、磁性粒子を回収することができた。さらに、微小流路も再利用することができた。
【0030】
<実施例2>
微小流路として実施例1と同様のものを使用して、流路内に実施例1と同様な方法でチマーゼを担持させた粒子を固定した。
装置を35℃の温度に調節し、5%のグルコース溶液を流路内に10cm/minの流速で送液し、出口側で溶液をサンプリングして分析した結果、ほぼ80%の反応率でグルコースがエタノールに転化されていることがわかった。このことから、十分な触媒作用が確認できた。
また、反応後、液体を送液した状態で磁石を除くと、磁性粒子は流路外に流れ出し、磁性粒子を回収することができた。さらに、微小流路も再利用することができた。
【0031】
<実施例3>
微小流路として実施例1と同様のものを使用して、流路内に実施例1で用いたアミラーゼ固定粒子と実施例2で作製したチマーゼ固定粒子の2種を各々異なる部位に次の手法で配置した。マイクロ流路出口(排出口)から1/3の位置に実施例1と同じ磁石を用い、同様にして実施例2で使用したチマーゼ粒子を配置した。次に、別の磁石を用いて、流路の入り口(導入口)から1/3の位置に実施例1で使用したアミラーゼ粒子を配置した。
装置を35℃の温度に調節し、5%の澱粉溶液を流路内に10cm/minの流速で送液し、出口(排出口)側で溶液をサンプリングして分析した結果、ほぼ80%の反応率でエタノールが生成することがわかった。このことから、異なった二種類の酵素を流路内の異なった部位に配置し、連続的に反応を起こすことができることが確認できた。また、反応後、液体を送液した状態で磁石を除くと磁性粒子は流路外に流れ出し、それぞれの磁性粒子を個別に回収することができた。さらに、微小流路も再利用することができた。
【0032】
<実施例4>
50μmのマグネタイト粒子の水分散液を調製し、反応によって流路の内壁が汚れた前記1mm径の流路に導入し、外部から磁石で磁性粒子を捕捉した後、磁性粒子を微小流路内で何度も動かして往復運動させたところ、微小流路の内壁が洗浄できた。
【0033】
<実施例5>
〔高分子ゲル粒子の作製〕
アクリルアミド10重量部、架橋剤としてメチレンビスアクリルアミド0.1重量部、マグネタイト粒子(体積平均粒子径約5μm)5重量部を蒸留水20重量部に分散した水溶液を調製した。さらに重合開始剤として過硫酸アンモニウム0.1重量部を添加し、これをシクロヘキサン溶液(界面活性剤としてソルビタンエステルを含む)100重量部に投入し、撹拌機を用いて撹拌後、60℃に加熱して懸濁重合を行った。重合終了後、生成した磁性体を含有したゲル粒子を沈降法によって分離し、水洗浄して精製した。得られた磁性粒子はほぼ真球状であり純水中における体積平均粒径は50μmであった。
【0034】
微小流路として長さ20cmのガラス基板に内部でY分岐を有する幅1mm(断面が1辺1mmの正方形)の流路を形成したものを使用した。Y分岐の流路の一方に磁石で前記高分子ゲル粒子を配置したところ、一方の流路が塞がれ、流した水性液体は一方の出口のみから流れ出した。磁石を外すと磁性粒子が流れ出て、双方の流路から流れ出るようになった。これから、磁性粒子と磁石を用いることで、微小流路内の液体の流れを制御できることが確認できた。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】本発明のマイクロリアクター装置の一例を示す概念断面図である。
【図2】本発明のマイクロリアクター装置の他の一例を示す概念断面図である。
【符号の説明】
【0036】
1 微小流路
2、2’ 磁性粒子
3、3’ 磁石
10 マイクロリアクター装置
A 流体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
微小流路、
前記微小流路内に導入された磁性粒子、及び、
前記微小流路外に配置され、前記磁性粒子に磁力を及ぼす磁石を有することを特徴とする
マイクロリアクター装置。
【請求項2】
微小流路内に磁性粒子を導入する工程、
前記微小流路外から磁力を及ぼして前記磁性粒子を前記微小流路の内壁に接触させる工程、及び
前記磁性粒子の前記微小流路の内壁への接触状態を維持しながら相対運動をさせる工程を含むことを特徴とする
微小流路の洗浄方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2007−319735(P2007−319735A)
【公開日】平成19年12月13日(2007.12.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−149883(P2006−149883)
【出願日】平成18年5月30日(2006.5.30)
【出願人】(000005496)富士ゼロックス株式会社 (21,908)
【Fターム(参考)】