マイクロ化学システム及びそのTLM出力算出方法
【課題】 精度の高いTLM出力値を取得することができるマイクロ化学システム及びそのTLM出力算出方法を提供する。
【解決手段】 マイクロ化学システム1は、試料が流れる深さtの流路を有するマイクロ化学チップと、開口数NAの対物レンズ10を介して試料に励起光を照射する励起光源13と、対物レンズ10を介して励起光と同軸的に試料に検出光を照射する検出光源14と、熱レンズ12が形成される前後で検出光が試料を透過したときの透過光を受光するPDとを備える。マイクロ化学システム1でPDの受光量に基づいてTLM出力を算出する際、深さt(μm)が75≦t≦300の範囲、開口数NAが0.04≦NA≦0.1の範囲、対物レンズ10の励起光及び検出光についての色収差df(nm)が100≦df≦250の範囲に設定する。
【解決手段】 マイクロ化学システム1は、試料が流れる深さtの流路を有するマイクロ化学チップと、開口数NAの対物レンズ10を介して試料に励起光を照射する励起光源13と、対物レンズ10を介して励起光と同軸的に試料に検出光を照射する検出光源14と、熱レンズ12が形成される前後で検出光が試料を透過したときの透過光を受光するPDとを備える。マイクロ化学システム1でPDの受光量に基づいてTLM出力を算出する際、深さt(μm)が75≦t≦300の範囲、開口数NAが0.04≦NA≦0.1の範囲、対物レンズ10の励起光及び検出光についての色収差df(nm)が100≦df≦250の範囲に設定する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はマイクロ化学システム及びそのTLM出力算出方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、化学反応を微小空間で行うための集積化技術が、化学反応の高速性や微少量での反応、オンサイト分析等の観点から注目されており、そのための研究が、世界的に精力的に進められている。
【0003】
化学反応の集積化技術の1つとして微細な流路の中で試料の混合、反応、分離、抽出、検出等を行う所謂マイクロ化学システムがある。このマイクロ化学システムで行われるものとしては反応の例として、ジアゾ化反応、ニトロ化反応、抗原抗体反応などがあり、抽出、分離の例として溶媒抽出、電気泳動分離、カラム分離などがある。マイクロ化学システムは、分離だけを目的としたような単一の機能のみで用いられても良く、また複合的に用いられても良い。
【0004】
これらのマイクロ化学システムに用いられるマイクロ化学チップの流路内を流れる試料は極微量であるので、高感度な検出方法が必須である。このような方法として、微細な流路内の試料に励起光を照射する前後の検出光の信号強度の差を照射する前の検出光の信号強度で割った値(以下「TLM出力」という。)を検出する熱レンズ分析法が確立され、これによりマイクロ化学システムの実用化の道が開かれている。
【0005】
試料に光を集光照射すると試料中の溶質が光を吸収すると共に熱エネルギーが放出される。この熱エネルギーによって溶媒が局所的に温度上昇すると、屈折率が変化して熱レンズが形成される(熱レンズ効果)。熱レンズ分析法はこの熱レンズ効果を利用するものである。
【0006】
熱レンズ分析法は、熱の拡散、即ち屈折率の変化をTLM出力として観察するものであり、このTLM出力を精度よく算出するシミュレーション方法が従来より開示されている。
【0007】
具体的には、幾何光学による光線追跡法に基づきビームが伝播すると仮定し、また上記屈折率分布はレンズであると仮定する。これらの仮定の下、屈折により光が曲がって行く現象を計算する方法が上記シミュレーション方法である。
【0008】
例えば、熱レンズの屈折率分布をガウス分布で近似し、実光線追跡によりTLM出力を算出する方法においては、TLM出力を最大とするNAの範囲は0.1≦NA≦0.4であることが開示されている(例えば、特許文献1参照)。
【0009】
また、励起ビーム伝播強度I(r,z)に応じた屈折率分布を有する熱レンズを、屈折率差を変数とするSNS積層光学系と近似し、実光線追跡によりTLM出力を算出する方法においては、TLM出力を最大とするNAの範囲は0.15<NA<0.6であることが開示されている(例えば、特許文献2参照)。
【特許文献1】特開2004−309430号公報
【特許文献2】特開2004−125478号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、熱レンズ現象は励起光のビームによって温度上昇が発生するものであり、発熱分布は励起光のビームの強度分布に準じた形態となるが、その後の温度上昇は熱伝導による熟の拡散や、マイクロ化学チップ内の液の流れによる移流などにより、実際にはマイクロ化学チップ内における温度分布は与えたビーム強度とはかなり異なる分布となる。
【0011】
そのため、上述の従来技術のように、熱レンズの屈折率分布をガウス分布やSNS積層光学系に近似すると、そもそも計算に使用するレンズの屈折率分布が実際と異なっていることになり、必然的に得られた結果もこの分の誤差を多分に含み精度が期待できないという問題がある。
【0012】
また、屈折率分布はレンズであると仮定する際に、従来技術では、SNS積層光学系に近似したり、このSNS積層光学系よりなだらかに屈折率が変化するガウス分布で近似したりしているが、いずれの近似においても近接場で問題となる光の干渉が考慮されておらず正確にビームの伝播をシミュレーションすることができないという問題がある。
【0013】
本発明の目的は、精度の高いTLM出力値を取得することができるマイクロ化学システム及びそのTLM出力算出方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記目的を達成するために、請求項1記載のマイクロ化学システムは、深さtの流路中を流れる試料中に所定の屈折率分布を有する熱レンズを形成すべく開口数NAのレンズを介して前記試料に励起光を照射する第1の照射手段と、前記レンズを介して前記励起光と同軸的に前記試料に検出光を照射する第2の照射手段と、前記熱レンズが形成される前後で前記検出光が前記試料を透過したときの透過光を受光する受光部と、前記受光部の受光量に基づいてTLM出力を算出するTLM出力算出手段とを備え、前記レンズは前記励起光及び前記検出光についての色収差dfを有するマイクロ化学システムにおいて、前記深さt(μm)が75≦t≦300の範囲、前記開口数NAが0.04≦NA≦0.1の範囲、前記色収差df(nm)が100≦df≦250の範囲であることを特徴とする。
【0015】
請求項5記載のTLM出力算出方法は、流路中を流れる試料中に所定の屈折率分布の熱レンズを形成すべくレンズを介して前記試料に励起光を照射する第1の照射手段と、前記レンズを介して前記励起光と同軸的に前記試料に検出光を照射する第2の照射手段と、前記熱レンズが形成される前後で前記検出光が前記試料を透過したときの透過光を受光する受光部と、前記受光部の受光量に基づいてTLM出力を算出するTLM出力算出手段とを備え、前記レンズは前記励起光及び前記検出光について色収差を有するマイクロ化学システムのTLM出力算出方法において、前記励起光のビーム強度分布をガウス分布に近似し、ユーザ設定された条件下で前記励起光による前記試料の発熱分布を算出する発熱分布算出ステップと、熱流体解析に基づき前記試料の温度分布を算出する温度分布算出ステップとを備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
以上詳細に説明したように、請求項1記載のマイクロ化学システムによれば、深さt(μm)が75≦t≦300の範囲、開口数NAが0.04≦NA≦0.1の範囲、色収差df(nm)が100≦df≦250の範囲であるので、精度の高いTLM出力値を取得することができる。
【0017】
請求項5記載のTLM出力算出方法によれば、励起光のビーム強度分布をガウス分布に近似し、ユーザ設定された条件下で励起光による試料の発熱分布を算出し、熱流体解析に基づき試料の温度分布を算出するので、実際の熱の拡散、流れによる移流を計算に反映した屈折率分布を有する溶媒中をビーム伝播する場合のTLM出力をシミュレーションでき、精度の高いTLM出力値を取得することができる。
【0018】
請求項6記載のTLM出力算出方法によれば、励起光照射後の試料中のビーム伝播を、上記温度分布から算出された試料の屈折率分布に基づき算出し、透過光が受光部で受光されるまでの領域に関して解析的な変換を行うので、ビームウエストを含む近接場における干渉を考慮したビームの挙動を正確に計算することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
本発明者は、上記目的を達成すべく鋭意研究を行った結果、深さtの流路中を流れる試料中に所定の屈折率分布を有する熱レンズを形成すべく開口数NAのレンズを介して試料に励起光を照射する第1の照射手段と、レンズを介して励起光と同軸的に試料に検出光を照射する第2の照射手段と、熱レンズが形成される前後で検出光が試料を透過したときの透過光を受光する受光部と、受光部の受光量に基づいてTLM出力を算出するTLM出力算出手段とを備え、レンズは励起光及び検出光についての色収差dfを有するマイクロ化学システムにおいて、深さt(μm)が75≦t≦300の範囲、開口数NAが0.04≦NA≦0.1の範囲、色収差df(nm)が100≦df≦250の範囲に設定し、好ましくは、開口数NAが0.05≦NA≦0.075の範囲、又は、深さt(μm)が100≦t≦300の範囲であり、より好ましくは、深さt(μm)が200≦t≦300の範囲であると、精度の高いTLM出力値を取得することができることを見出した。
【0020】
また、本発明者は、流路中を流れる試料中に所定の屈折率分布の熱レンズを形成すべくレンズを介して試料に励起光を照射する第1の照射手段と、レンズを介して励起光と同軸的に試料に検出光を照射する第2の照射手段と、熱レンズが形成される前後で検出光が試料を透過したときの透過光を受光する受光部と、受光部の受光量に基づいてTLM出力を算出するTLM出力算出手段とを備え、レンズは励起光及び検出光について色収差を有するマイクロ化学システムのTLM出力算出方法において、励起光のビーム強度分布をガウス分布に近似し、ユーザ設定された条件下で励起光による試料の発熱分布を算出する発熱分布算出ステップと、熱流体解析に基づき試料の温度分布を算出する温度分布算出ステップとを備えると、実際の熱の拡散、流れによる移流を計算に反映した屈折率分布を有する溶媒中をビーム伝播する場合のTLM出力をシミュレーションでき、精度の高いTLM出力値を取得することができることを見出した。好ましくは、算出された温度分布から試料の屈折率分布を算出する屈折率分布算出手段と、励起光照射後の試料中のビーム伝播を算出された屈折率分布に基づき算出するビーム伝播算出ステップと、透過光が受光部で受光されるまでの領域に関して解析的な変換を行う解析的変換ステップとを備えると、ビームウエストを含む近接場における干渉を考慮したビームの挙動を正確に計算することができることを見出した。
【0021】
本発明は、上記知見に基づいてなされたものである。
【0022】
以下、本発明の実施の形態を図面を用いて詳述する。
【0023】
図1は、本発明の実施の形態に係るマイクロ化学システムの概略構成を示すブロック図である。
【0024】
図1において、マイクロ化学システム1は、試料を流す深さtの流路を備えるマイクロ化学チップ(不図示)と、マイクロ化学チップの流路内の試料に励起光源13からの励起光及び検出光源14からの検出光を集光照射する対物レンズ10と、試料中に生じた熱レンズ12をPD受光面11で受光し光電変換を行うPD(不図示)とを備える。このPD受光面11の光電変換可能な領域は対物レンズ10の光軸に対して半径radの同心円の領域である。
【0025】
このマイクロ化学システム1において、まず、対物レンズ10でマイクロ化学チップの流路の深さ方向に対して中央の位置に集光照射された励起光によって、試料中に熱レンズ12が形成される。このとき、この励起光の焦点からPD受光面11までの距離をLとする。
【0026】
その後、検出光が、上記形成された熱レンズ12に対物レンズ10によって集光照射される。このとき、検出光の焦点位置は、励起光と検出光の波長の違いにより生じる焦点差(以下「色収差」という。)dfだけ励起光の焦点位置からずれた位置に集光する。
【0027】
その後、検出光はθpに広がりをもってPD受光面11に照射される。このとき、マイクロ化学チップの流路内の試料に励起光を照射する前後の検出光の信号強度の差を照射する前の検出光の信号強度で割った値(以下「TLM出力値」という。)を精度よく検出するため、PD受光面11においてすべての検出光が受光されるように、tanθp<rad/(L−df)となるように距離Lは制御される。
【0028】
上述のように検出光がビーム伝播する場合、TLM出力算出処理は、(1)励起光照射後のマイクロ化学チップの流路内での発熱分布を算出し、(2)算出された発熱分布について熱流体解析を行うことにより温度分布を算出し、(3)算出された温度分布を屈折率分布に変換し、(4)励起光照射前後の試料に検出光が照射されたときのビーム伝播をビーム伝播法により算出し、(5)上記算出されたマイクロ化学チップ出口における電界分布をPD受光面11における電界分布へ解析的に変換し、(6)この変換した電界分布をTLM出力値に変換することにより行われる。
【0029】
ここで、励起光の焦点位置を0とし、光の伝播方向を正とする座標における(0〜t/2)の範囲で上記(1)〜(4)の処理は行われる。また、液の物性、液の流量などの諸条件をパラメータとして代入して、(2)の発熱分布が算出される。これにより、実際と同様の熱の拡散、流れによる移流を正確に計算することができ、また精度の良い屈折率分布の算出を行うことができる
また、(5)の処理は、(4)の処理で得られたt/2の位置におけるビーム伝播をLの位置におけるビーム伝播に解析的に変化させる。これにより、光線追跡法では考慮されない干渉を扱うことができ、ビームウエストを含む近接場における干渉を考慮したビームの挙動を正確に計算することができる。
(1)発熱分布算出処理
励起光による試料の発熱分布は、励起光がガウシアンビームであると近似し、以下のような式(1)〜式(3)で算出する。
【0030】
【数1】
【0031】
【数2】
【0032】
【数3】
【0033】
NA:励起光の開口率
n:水の屈折率
λ:励起光の波長
A0:発熟量のスケールファクタ
W0:励起光のビームウエスト
Wz:励起光のスポット
F:発熱量の分布
z:励起光の焦点位置を0とし、光の伝播方向を正とする座標
r:光軸からの距離
(2)温度分布算出処理
試料の温度分布は、試料が非圧縮流体であると近似し、式(4)で表される質量保存式と、式(5)で表される運動量保存式と、式(6)で表されるエネルギー保存式で表される熱流体解析の基礎式により励起光照射後の熱流体解析を行って算出する。
【0034】
【数4】
【0035】
【数5】
【0036】
【数6】
【0037】
V:流速ベクトル
F:外力
ρ:試料の密度
y:試料の動粘性係数
p:試料中の圧力
ここで、式(6)における左辺は、その第1項が内部エネルギーの変化、及び第2項が運動エネルギーの変化を表す。また、式(6)における右辺は、その第1項が外力による仕事、第2項が圧力勾配による仕事、第3項が摩擦仕事、第4項が流体摩擦による発生熱、第5項が外部からの熱を表す。
【0038】
本実施の形態では、変調周波数の1サイクルの間の温度分布を、0≦z≦t/2(t:マイクロ化学チップの流路深さ)の範囲で算出し、この算出により1サイクルの間での試料の最大温度及び最小温度を取得する。
【0039】
(3)算出された温度分布の屈折率分布への変換処理
屈折率分布は上記熱流体解析により得られた発熱分布に応じたものであり、以下のような式(7’)で算出する。
【0040】
n=n0+(dn/dt)ΔT …(7’)
n :計算された屈折率
n0:熱レンズ12が形成される前の温度における試料液の屈折率
dn/dt:屈折率の温度当たりの増分
ΔT:発熱による温度上昇量
本実施の形態では、上記(2)の温度分布算出処理で得られた最大温度についての屈折率分布を励起光照射後、すなわち熱レンズ12が形成されたときの試料の屈折率分布とする。また、上記(2)の温度分布算出処理で得られた最小温度についての屈折率分布を励起光照射前の試料の屈折率分布とする。
【0041】
(4)試料中のビーム伝播算出処理
励起光照射前後の試料に検出光が照射されたときのビーム伝播解析は、まず、そのビーム伝播の波動方程式をスカラー近似が成り立つと近似して、式(7)で表現されるヘルムホルツ式で表現する。
【0042】
【数7】
【0043】
また、Z方向への光の伝搬波波長オーダー程度に細かく分割された微小区間では自由空間伝搬と屈折率分布などを含む上記式を電界φが伝搬軸(z軸)に対してゆるやかに変化する複素振幅u(x,y,z)で表現することができるとすると以下の式(8)が成り立つ。
【0044】
【数8】
【0045】
上式でz方向への変化が非常に小さければ第1項は無視することができ、式(9)が得られる。
【0046】
【数9】
【0047】
本実施の形態では、励起光照射前のビーム伝播は上述した最小温度における屈折率分布を上記式(9)に代入することにより算出し、励起光照射後のビーム伝播は上述した最大温度における屈折率分布を上記式(9)に代入することにより算出する。
(5)電界分布変換処理
マイクロ化学チップ出口における電界分布からPD受光面11における電界分布への変換は、検出光をコヒーレント光であると近似することにより行う。
【0048】
具体的には、コヒーレント光の伝搬では、ある平面の光の分布が伝播と共に変化する様子は、式(10)に示すように、入力光の複素振幅分布Ui(x,y)の線形変換を行い出力光の分布Uo(X,Y)として表される。
【0049】
【数10】
【0050】
ここで、Kは伝達関数であり、検出光源14である点光源(x,y)に対応する出力分布を表す。
【0051】
入出力平面での光の分布が伝播距離Zに比べ十分小さいときには、上式の積分の伝達関数Kは振幅が一様な球面波で与えられ、波数k=2π/λとして式(11)で表される。
【0052】
【数11】
【0053】
よって、出力面(PD受光面11)の複素振幅は式(12)で与えられる
【0054】
【数12】
【0055】
本実施の形態では、式(12)の指数関数中の近似を取らずにPD受光面11での電界分布を光軸を中心とする開口半径までの範囲でそのまま数値積分を行う。この処理を、上記(4)のビーム伝播算出処理において計算された最小温度及び最大温度の夫々についてのビーム伝播について行い、夫々の温度でのPD受光面11における受光強度を算出する。
(6)TLM出力値への変換処理
TLM出力値への変換は、式(13)に示すように、熱レンズ12が形成された後のPD受光面11における受光強度から、熱レンズ12が形成される前のPD受光面11における受光強度を差し引いて全光量で規格化することにより行う。
【0056】
また、本実施の形態では、上述の(5)の電界分布変換処理により得られた最小温度における受光強度を熱レンズ12が形成される前のPD受光面11における受光強度と近似し、また、上述の(5)の電界分布変換処理により得られた最大温度における受光強度を熱レンズ12が形成された後のPD受光面11における受光強度と近似する。
【0057】
【数13】
【0058】
I(dn):熱レンズ12形成後のPD受光面11における受光強度
I(0):熱レンズ12形成前のPD受光面11における受光強度
I(out):射出全光量
図2は、図1のマイクロ化学システム1により実行されるTLM出力算出処理の手順を示すフローチャートである。
【0059】
図2において、発熱分布を算出するのに用いられる各種パラメータの設定を行う(ステップS200)。具体的には、励起光の開口数(NA)及び波長(λ)、検出光の周波数、試料毎に決定される発熱量のスケールファククー(A0)及び水の屈折率(n)および熱流体解析部分となる流路の溝深さ(t)等のパラメータを本処理で設定する。
【0060】
次に、マイクロ化学チップの流路内の試料に励起光が照射されたときの発熱分布を算出する(ステップS201)。具体的には、ステップS200で設定したパラメータ値を上記式(1)〜式(3)に代入することにより、試料の発熱分布を算出する。ここで得られる発熱分布は、与えられた励起光の周波数による変調に応じて変化する励起光の強度に応じて変化する。また、発熱分布を直接任意の値に設定するようにしてもよい。
【0061】
その後、温度分布を算出するのに用いられる各種パラメータの設定を行う(ステップS202)。具体的には、流速ベクトル(V)、外力(F)、試料の密度(ρ)、試料の動粘性係数(y)及び試料中の圧力(p)等のパラメータを本処理で設定する。
【0062】
次に、ステップS201において算出された発熱分布について熱流体解析を行うことにより温度分布を算出する(ステップS203〜S206)。具体的には、ステップS202で設定したパラメータ値を熱流体解析の基礎式(上記式(4)〜式(6))に代入し、ステップS200で設定したパラメータ値により得られる解析領域の範囲(0≦z≦t/2)について変調周波数の1サイクルの間の温度分布を算出する。
【0063】
本実施の形態では、この温度分布算出処理は、検出光源14に設けられているチョッパ(不図示)により制御される検出光源14からの検出光の出射開始時刻(tmin)から出射終了時刻(tmax)を微小時間Δtの間隔で分割した各解析時刻iにおいて、上記熱流体解析を非定常で実行する。これにより、変調周波数に応じて経時的に変化する温度分布を精度よく得ることができる。
【0064】
次に、ステップS203〜S206の処理で得られた1サイクルにおける試料の最大温度、最小温度を取得し(ステップS207,S208)、その夫々の温度について後述する図3のビーム伝播シミュレーション処理を行う(ステップS209,S210)。この処理により、1サイクルにおける試料の最大温度、最小温度におけるマイクロ化学チップ出口(z=t/2)での電界分布が得られる。
【0065】
その後、ステップS209,S210の処理により得られた各温度におけるマイクロ化学チップ出口(z=t/2)での電界分布を上述の式(12)に代入し、PD受光面11での電界分布を光軸を中心とする開口半径までの範囲で積分した値(Imax,Imin)を夫々算出する(ステップS211,S212)。
【0066】
その後、上述の式(13)に、ステップS211,212で算出されたImax,Iminを代入し、Imax及びIminの差分を全光量で規格化し、TLM出力を算出し(ステップS213)、本処理を終了する。
【0067】
図2の処理によれば、励起光のビーム強度分布をガウス分布に近似し、ユーザ設定された条件下で励起光による試料の発熱分布を算出し(ステップS200,S201)、熱流体解析に基づき試料の温度分布を算出するので(ステップS204〜S206)、実際の熱の拡散、流れによる移流を計算に反映した屈折率分布を有する溶媒中をビーム伝播する場合のTLM出力をシミュレーションでき、精度の高いTLM出力値を取得することができる。
【0068】
図3は、図2のステップS209,S210で実行されるビーム伝播シミュレーション処理の手順を示すフローチャートである。
【0069】
図3において、まず、図2のステップS207,S208で得られた温度分布の最大値、最小値を上記式(7’)に代入することにより、励起光照射後の試料の各解析時刻iにおける屈折率分布を取得する(ステップS401)。本ステップで屈折率分布の変換が行われるのは、上記最大値、最小値の温度分布に限定されるわけでなく、図11に示すように、変調周波数の1サイクルの各解析時刻での温度分布を元に同じく差分を計算し、得られた信号の時間による変化をフーリエ変換して求めてもよい。
【0070】
次に、ビーム伝播を算出するのに用いられる各種パラメータ値を設定する(ステップS402)。具体的には、検出光の開口数NA、波長λ、励起光との色収差df、PD受光面11までの距離L、PD受光面11の半径radの値を設定する。
【0071】
その後、上記式(7)〜式(9)により試料内のビーム伝播を計算し(ステップS403)、上記式(10)〜式(12)によりマイクロ化学チップからの透過光が受光部で受光されるまでの領域に関して得られたビーム伝播を解析的に変換することにより、電界分布を取得し(ステップS404)、本処理を終了する。
【0072】
図3の処理によれば、励起光照射後の試料中のビーム伝播を、図2のステップS207,208で取得した温度分布から算出された試料の屈折率分布に基づき算出し(ステップS401,S403)、マイクロ化学チップからの透過光が受光部で受光されるまでの領域に関して解析的な変換を行うので(ステップS404)、ビームウエストを含む近接場における干渉を考慮したビームの挙動を正確に計算することができる。
【実施例】
【0073】
次に、本発明の実施例について説明する。
【0074】
まず、マイクロチップの流路深さtを20μm,50μm,75μm,100μm,200μm,300μm,500μm、励起光の開口数NAを0.030,0.050,0.075,0.100,0.138,0.200、色収差を0〜300μmとしたときのTLM出力の強度を図4〜図10に示し、流路深さ毎のNAとTLM出力の強度の関係を図11に示す。
(1)流路深さtについて
図4,5示すように、流路深さtが20μm,50μmのときは、開口数、色収差を上記範囲で振ったときのTLM出力の最大値は0.025a.u.,0.055a.u.と小さく、実際の測定は困難であることがわかった。
【0075】
また、図10に示すように、流路深さtが500μmであるときの上記TLM出力は、開口数の値が少し変化しただけで信号強度が大きく変化してしまうため、検出精度が悪くなることがわかった。
【0076】
これに対して、図6に示すように、流路深さtが75μmであるときの上記TLM出力の最大値は0.080a.u.前後と、最大値のピークがはっきりと現れるので、実際に測定するのに適した設定範囲であることがわかった。
【0077】
さらに、図7に示すように、流路深さtが100μmであるときの上記TLM出力の最大値は0.100a.u.前後と、最大値のピークがよりはっきりと現れ、また、図8に示すように、流路深さtが200μmであるときの上記TLM出力の最大値は0.165a.u.前後と、最大値のピークがさらにはっきりと現れることがわかった。
【0078】
また、図9に示すように、流路深さtが300μmであるときの上記TLM出力の最大値は0.200a.u.前後と、最大値のピークがさらにはっきりと現れることがわかった。
【0079】
以上より、流路深さtは、75μm以上300μm以下、好ましくは100μm以上300μm以下、より好ましくは200μm以上300μm以下であることがわかった。
(2)開口数NAについて
図11に示すように、開口数は0.04以上0.1以下であるときTLM出力の強度が強くなることがわかった。また、好ましくは、開口数は0.05以上0.075以下であるときTLM出力の強度はさらに強くなることがわかった。
(3)色収差dfについて
上述したように、TLM出力を測定するのに好ましい流路深さtの範囲(75〜300μm)及び開口数NAの範囲(0.05〜0.075)において、色収差dfは250μm以下(図9)であり、且つ100μm以上(図6)であるときに、TLM出力の値は大きくなることがわかった。
【図面の簡単な説明】
【0080】
【図1】本発明の実施の形態に係るマイクロ化学システムの概略構成を示すブロック図である。
【図2】図1のマイクロ化学システムにより実行されるTLM出力算出処理の手順を示すフローチャートである。
【図3】図2のステップS209,S210で実行されるビーム伝播シミュレーション処理の手順を示すフローチャートである。
【図4】流路深さtを20μmとしたときの開口数NA、色収差及びTLM出力の関係を示すグラフである。
【図5】流路深さtを50μmとしたときの開口数NA、色収差及びTLM出力の関係を示すグラフである。
【図6】流路深さtを75μmとしたときの開口数NA、色収差及びTLM出力の関係を示すグラフである。
【図7】流路深さtを100μmとしたときの開口数NA、色収差及びTLM出力の関係を示すグラフである。
【図8】流路深さtを200μmとしたときの開口数NA、色収差及びTLM出力の関係を示すグラフである。
【図9】流路深さtを300μmとしたときの開口数NA、色収差及びTLM出力の関係を示すグラフである。
【図10】流路深さtを500μmとしたときの開口数NA、色収差及びTLM出力の関係を示すグラフである。ある。
【図11】流路深さt毎の開口数NAとTLM出力の強度の関係を示すグラフである。
【符号の説明】
【0081】
1 マイクロ化学システム
10 対物レンズ
11 PD受光面
12 熱レンズ
13 励起光源
14 検出光源
【技術分野】
【0001】
本発明はマイクロ化学システム及びそのTLM出力算出方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、化学反応を微小空間で行うための集積化技術が、化学反応の高速性や微少量での反応、オンサイト分析等の観点から注目されており、そのための研究が、世界的に精力的に進められている。
【0003】
化学反応の集積化技術の1つとして微細な流路の中で試料の混合、反応、分離、抽出、検出等を行う所謂マイクロ化学システムがある。このマイクロ化学システムで行われるものとしては反応の例として、ジアゾ化反応、ニトロ化反応、抗原抗体反応などがあり、抽出、分離の例として溶媒抽出、電気泳動分離、カラム分離などがある。マイクロ化学システムは、分離だけを目的としたような単一の機能のみで用いられても良く、また複合的に用いられても良い。
【0004】
これらのマイクロ化学システムに用いられるマイクロ化学チップの流路内を流れる試料は極微量であるので、高感度な検出方法が必須である。このような方法として、微細な流路内の試料に励起光を照射する前後の検出光の信号強度の差を照射する前の検出光の信号強度で割った値(以下「TLM出力」という。)を検出する熱レンズ分析法が確立され、これによりマイクロ化学システムの実用化の道が開かれている。
【0005】
試料に光を集光照射すると試料中の溶質が光を吸収すると共に熱エネルギーが放出される。この熱エネルギーによって溶媒が局所的に温度上昇すると、屈折率が変化して熱レンズが形成される(熱レンズ効果)。熱レンズ分析法はこの熱レンズ効果を利用するものである。
【0006】
熱レンズ分析法は、熱の拡散、即ち屈折率の変化をTLM出力として観察するものであり、このTLM出力を精度よく算出するシミュレーション方法が従来より開示されている。
【0007】
具体的には、幾何光学による光線追跡法に基づきビームが伝播すると仮定し、また上記屈折率分布はレンズであると仮定する。これらの仮定の下、屈折により光が曲がって行く現象を計算する方法が上記シミュレーション方法である。
【0008】
例えば、熱レンズの屈折率分布をガウス分布で近似し、実光線追跡によりTLM出力を算出する方法においては、TLM出力を最大とするNAの範囲は0.1≦NA≦0.4であることが開示されている(例えば、特許文献1参照)。
【0009】
また、励起ビーム伝播強度I(r,z)に応じた屈折率分布を有する熱レンズを、屈折率差を変数とするSNS積層光学系と近似し、実光線追跡によりTLM出力を算出する方法においては、TLM出力を最大とするNAの範囲は0.15<NA<0.6であることが開示されている(例えば、特許文献2参照)。
【特許文献1】特開2004−309430号公報
【特許文献2】特開2004−125478号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、熱レンズ現象は励起光のビームによって温度上昇が発生するものであり、発熱分布は励起光のビームの強度分布に準じた形態となるが、その後の温度上昇は熱伝導による熟の拡散や、マイクロ化学チップ内の液の流れによる移流などにより、実際にはマイクロ化学チップ内における温度分布は与えたビーム強度とはかなり異なる分布となる。
【0011】
そのため、上述の従来技術のように、熱レンズの屈折率分布をガウス分布やSNS積層光学系に近似すると、そもそも計算に使用するレンズの屈折率分布が実際と異なっていることになり、必然的に得られた結果もこの分の誤差を多分に含み精度が期待できないという問題がある。
【0012】
また、屈折率分布はレンズであると仮定する際に、従来技術では、SNS積層光学系に近似したり、このSNS積層光学系よりなだらかに屈折率が変化するガウス分布で近似したりしているが、いずれの近似においても近接場で問題となる光の干渉が考慮されておらず正確にビームの伝播をシミュレーションすることができないという問題がある。
【0013】
本発明の目的は、精度の高いTLM出力値を取得することができるマイクロ化学システム及びそのTLM出力算出方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記目的を達成するために、請求項1記載のマイクロ化学システムは、深さtの流路中を流れる試料中に所定の屈折率分布を有する熱レンズを形成すべく開口数NAのレンズを介して前記試料に励起光を照射する第1の照射手段と、前記レンズを介して前記励起光と同軸的に前記試料に検出光を照射する第2の照射手段と、前記熱レンズが形成される前後で前記検出光が前記試料を透過したときの透過光を受光する受光部と、前記受光部の受光量に基づいてTLM出力を算出するTLM出力算出手段とを備え、前記レンズは前記励起光及び前記検出光についての色収差dfを有するマイクロ化学システムにおいて、前記深さt(μm)が75≦t≦300の範囲、前記開口数NAが0.04≦NA≦0.1の範囲、前記色収差df(nm)が100≦df≦250の範囲であることを特徴とする。
【0015】
請求項5記載のTLM出力算出方法は、流路中を流れる試料中に所定の屈折率分布の熱レンズを形成すべくレンズを介して前記試料に励起光を照射する第1の照射手段と、前記レンズを介して前記励起光と同軸的に前記試料に検出光を照射する第2の照射手段と、前記熱レンズが形成される前後で前記検出光が前記試料を透過したときの透過光を受光する受光部と、前記受光部の受光量に基づいてTLM出力を算出するTLM出力算出手段とを備え、前記レンズは前記励起光及び前記検出光について色収差を有するマイクロ化学システムのTLM出力算出方法において、前記励起光のビーム強度分布をガウス分布に近似し、ユーザ設定された条件下で前記励起光による前記試料の発熱分布を算出する発熱分布算出ステップと、熱流体解析に基づき前記試料の温度分布を算出する温度分布算出ステップとを備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
以上詳細に説明したように、請求項1記載のマイクロ化学システムによれば、深さt(μm)が75≦t≦300の範囲、開口数NAが0.04≦NA≦0.1の範囲、色収差df(nm)が100≦df≦250の範囲であるので、精度の高いTLM出力値を取得することができる。
【0017】
請求項5記載のTLM出力算出方法によれば、励起光のビーム強度分布をガウス分布に近似し、ユーザ設定された条件下で励起光による試料の発熱分布を算出し、熱流体解析に基づき試料の温度分布を算出するので、実際の熱の拡散、流れによる移流を計算に反映した屈折率分布を有する溶媒中をビーム伝播する場合のTLM出力をシミュレーションでき、精度の高いTLM出力値を取得することができる。
【0018】
請求項6記載のTLM出力算出方法によれば、励起光照射後の試料中のビーム伝播を、上記温度分布から算出された試料の屈折率分布に基づき算出し、透過光が受光部で受光されるまでの領域に関して解析的な変換を行うので、ビームウエストを含む近接場における干渉を考慮したビームの挙動を正確に計算することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
本発明者は、上記目的を達成すべく鋭意研究を行った結果、深さtの流路中を流れる試料中に所定の屈折率分布を有する熱レンズを形成すべく開口数NAのレンズを介して試料に励起光を照射する第1の照射手段と、レンズを介して励起光と同軸的に試料に検出光を照射する第2の照射手段と、熱レンズが形成される前後で検出光が試料を透過したときの透過光を受光する受光部と、受光部の受光量に基づいてTLM出力を算出するTLM出力算出手段とを備え、レンズは励起光及び検出光についての色収差dfを有するマイクロ化学システムにおいて、深さt(μm)が75≦t≦300の範囲、開口数NAが0.04≦NA≦0.1の範囲、色収差df(nm)が100≦df≦250の範囲に設定し、好ましくは、開口数NAが0.05≦NA≦0.075の範囲、又は、深さt(μm)が100≦t≦300の範囲であり、より好ましくは、深さt(μm)が200≦t≦300の範囲であると、精度の高いTLM出力値を取得することができることを見出した。
【0020】
また、本発明者は、流路中を流れる試料中に所定の屈折率分布の熱レンズを形成すべくレンズを介して試料に励起光を照射する第1の照射手段と、レンズを介して励起光と同軸的に試料に検出光を照射する第2の照射手段と、熱レンズが形成される前後で検出光が試料を透過したときの透過光を受光する受光部と、受光部の受光量に基づいてTLM出力を算出するTLM出力算出手段とを備え、レンズは励起光及び検出光について色収差を有するマイクロ化学システムのTLM出力算出方法において、励起光のビーム強度分布をガウス分布に近似し、ユーザ設定された条件下で励起光による試料の発熱分布を算出する発熱分布算出ステップと、熱流体解析に基づき試料の温度分布を算出する温度分布算出ステップとを備えると、実際の熱の拡散、流れによる移流を計算に反映した屈折率分布を有する溶媒中をビーム伝播する場合のTLM出力をシミュレーションでき、精度の高いTLM出力値を取得することができることを見出した。好ましくは、算出された温度分布から試料の屈折率分布を算出する屈折率分布算出手段と、励起光照射後の試料中のビーム伝播を算出された屈折率分布に基づき算出するビーム伝播算出ステップと、透過光が受光部で受光されるまでの領域に関して解析的な変換を行う解析的変換ステップとを備えると、ビームウエストを含む近接場における干渉を考慮したビームの挙動を正確に計算することができることを見出した。
【0021】
本発明は、上記知見に基づいてなされたものである。
【0022】
以下、本発明の実施の形態を図面を用いて詳述する。
【0023】
図1は、本発明の実施の形態に係るマイクロ化学システムの概略構成を示すブロック図である。
【0024】
図1において、マイクロ化学システム1は、試料を流す深さtの流路を備えるマイクロ化学チップ(不図示)と、マイクロ化学チップの流路内の試料に励起光源13からの励起光及び検出光源14からの検出光を集光照射する対物レンズ10と、試料中に生じた熱レンズ12をPD受光面11で受光し光電変換を行うPD(不図示)とを備える。このPD受光面11の光電変換可能な領域は対物レンズ10の光軸に対して半径radの同心円の領域である。
【0025】
このマイクロ化学システム1において、まず、対物レンズ10でマイクロ化学チップの流路の深さ方向に対して中央の位置に集光照射された励起光によって、試料中に熱レンズ12が形成される。このとき、この励起光の焦点からPD受光面11までの距離をLとする。
【0026】
その後、検出光が、上記形成された熱レンズ12に対物レンズ10によって集光照射される。このとき、検出光の焦点位置は、励起光と検出光の波長の違いにより生じる焦点差(以下「色収差」という。)dfだけ励起光の焦点位置からずれた位置に集光する。
【0027】
その後、検出光はθpに広がりをもってPD受光面11に照射される。このとき、マイクロ化学チップの流路内の試料に励起光を照射する前後の検出光の信号強度の差を照射する前の検出光の信号強度で割った値(以下「TLM出力値」という。)を精度よく検出するため、PD受光面11においてすべての検出光が受光されるように、tanθp<rad/(L−df)となるように距離Lは制御される。
【0028】
上述のように検出光がビーム伝播する場合、TLM出力算出処理は、(1)励起光照射後のマイクロ化学チップの流路内での発熱分布を算出し、(2)算出された発熱分布について熱流体解析を行うことにより温度分布を算出し、(3)算出された温度分布を屈折率分布に変換し、(4)励起光照射前後の試料に検出光が照射されたときのビーム伝播をビーム伝播法により算出し、(5)上記算出されたマイクロ化学チップ出口における電界分布をPD受光面11における電界分布へ解析的に変換し、(6)この変換した電界分布をTLM出力値に変換することにより行われる。
【0029】
ここで、励起光の焦点位置を0とし、光の伝播方向を正とする座標における(0〜t/2)の範囲で上記(1)〜(4)の処理は行われる。また、液の物性、液の流量などの諸条件をパラメータとして代入して、(2)の発熱分布が算出される。これにより、実際と同様の熱の拡散、流れによる移流を正確に計算することができ、また精度の良い屈折率分布の算出を行うことができる
また、(5)の処理は、(4)の処理で得られたt/2の位置におけるビーム伝播をLの位置におけるビーム伝播に解析的に変化させる。これにより、光線追跡法では考慮されない干渉を扱うことができ、ビームウエストを含む近接場における干渉を考慮したビームの挙動を正確に計算することができる。
(1)発熱分布算出処理
励起光による試料の発熱分布は、励起光がガウシアンビームであると近似し、以下のような式(1)〜式(3)で算出する。
【0030】
【数1】
【0031】
【数2】
【0032】
【数3】
【0033】
NA:励起光の開口率
n:水の屈折率
λ:励起光の波長
A0:発熟量のスケールファクタ
W0:励起光のビームウエスト
Wz:励起光のスポット
F:発熱量の分布
z:励起光の焦点位置を0とし、光の伝播方向を正とする座標
r:光軸からの距離
(2)温度分布算出処理
試料の温度分布は、試料が非圧縮流体であると近似し、式(4)で表される質量保存式と、式(5)で表される運動量保存式と、式(6)で表されるエネルギー保存式で表される熱流体解析の基礎式により励起光照射後の熱流体解析を行って算出する。
【0034】
【数4】
【0035】
【数5】
【0036】
【数6】
【0037】
V:流速ベクトル
F:外力
ρ:試料の密度
y:試料の動粘性係数
p:試料中の圧力
ここで、式(6)における左辺は、その第1項が内部エネルギーの変化、及び第2項が運動エネルギーの変化を表す。また、式(6)における右辺は、その第1項が外力による仕事、第2項が圧力勾配による仕事、第3項が摩擦仕事、第4項が流体摩擦による発生熱、第5項が外部からの熱を表す。
【0038】
本実施の形態では、変調周波数の1サイクルの間の温度分布を、0≦z≦t/2(t:マイクロ化学チップの流路深さ)の範囲で算出し、この算出により1サイクルの間での試料の最大温度及び最小温度を取得する。
【0039】
(3)算出された温度分布の屈折率分布への変換処理
屈折率分布は上記熱流体解析により得られた発熱分布に応じたものであり、以下のような式(7’)で算出する。
【0040】
n=n0+(dn/dt)ΔT …(7’)
n :計算された屈折率
n0:熱レンズ12が形成される前の温度における試料液の屈折率
dn/dt:屈折率の温度当たりの増分
ΔT:発熱による温度上昇量
本実施の形態では、上記(2)の温度分布算出処理で得られた最大温度についての屈折率分布を励起光照射後、すなわち熱レンズ12が形成されたときの試料の屈折率分布とする。また、上記(2)の温度分布算出処理で得られた最小温度についての屈折率分布を励起光照射前の試料の屈折率分布とする。
【0041】
(4)試料中のビーム伝播算出処理
励起光照射前後の試料に検出光が照射されたときのビーム伝播解析は、まず、そのビーム伝播の波動方程式をスカラー近似が成り立つと近似して、式(7)で表現されるヘルムホルツ式で表現する。
【0042】
【数7】
【0043】
また、Z方向への光の伝搬波波長オーダー程度に細かく分割された微小区間では自由空間伝搬と屈折率分布などを含む上記式を電界φが伝搬軸(z軸)に対してゆるやかに変化する複素振幅u(x,y,z)で表現することができるとすると以下の式(8)が成り立つ。
【0044】
【数8】
【0045】
上式でz方向への変化が非常に小さければ第1項は無視することができ、式(9)が得られる。
【0046】
【数9】
【0047】
本実施の形態では、励起光照射前のビーム伝播は上述した最小温度における屈折率分布を上記式(9)に代入することにより算出し、励起光照射後のビーム伝播は上述した最大温度における屈折率分布を上記式(9)に代入することにより算出する。
(5)電界分布変換処理
マイクロ化学チップ出口における電界分布からPD受光面11における電界分布への変換は、検出光をコヒーレント光であると近似することにより行う。
【0048】
具体的には、コヒーレント光の伝搬では、ある平面の光の分布が伝播と共に変化する様子は、式(10)に示すように、入力光の複素振幅分布Ui(x,y)の線形変換を行い出力光の分布Uo(X,Y)として表される。
【0049】
【数10】
【0050】
ここで、Kは伝達関数であり、検出光源14である点光源(x,y)に対応する出力分布を表す。
【0051】
入出力平面での光の分布が伝播距離Zに比べ十分小さいときには、上式の積分の伝達関数Kは振幅が一様な球面波で与えられ、波数k=2π/λとして式(11)で表される。
【0052】
【数11】
【0053】
よって、出力面(PD受光面11)の複素振幅は式(12)で与えられる
【0054】
【数12】
【0055】
本実施の形態では、式(12)の指数関数中の近似を取らずにPD受光面11での電界分布を光軸を中心とする開口半径までの範囲でそのまま数値積分を行う。この処理を、上記(4)のビーム伝播算出処理において計算された最小温度及び最大温度の夫々についてのビーム伝播について行い、夫々の温度でのPD受光面11における受光強度を算出する。
(6)TLM出力値への変換処理
TLM出力値への変換は、式(13)に示すように、熱レンズ12が形成された後のPD受光面11における受光強度から、熱レンズ12が形成される前のPD受光面11における受光強度を差し引いて全光量で規格化することにより行う。
【0056】
また、本実施の形態では、上述の(5)の電界分布変換処理により得られた最小温度における受光強度を熱レンズ12が形成される前のPD受光面11における受光強度と近似し、また、上述の(5)の電界分布変換処理により得られた最大温度における受光強度を熱レンズ12が形成された後のPD受光面11における受光強度と近似する。
【0057】
【数13】
【0058】
I(dn):熱レンズ12形成後のPD受光面11における受光強度
I(0):熱レンズ12形成前のPD受光面11における受光強度
I(out):射出全光量
図2は、図1のマイクロ化学システム1により実行されるTLM出力算出処理の手順を示すフローチャートである。
【0059】
図2において、発熱分布を算出するのに用いられる各種パラメータの設定を行う(ステップS200)。具体的には、励起光の開口数(NA)及び波長(λ)、検出光の周波数、試料毎に決定される発熱量のスケールファククー(A0)及び水の屈折率(n)および熱流体解析部分となる流路の溝深さ(t)等のパラメータを本処理で設定する。
【0060】
次に、マイクロ化学チップの流路内の試料に励起光が照射されたときの発熱分布を算出する(ステップS201)。具体的には、ステップS200で設定したパラメータ値を上記式(1)〜式(3)に代入することにより、試料の発熱分布を算出する。ここで得られる発熱分布は、与えられた励起光の周波数による変調に応じて変化する励起光の強度に応じて変化する。また、発熱分布を直接任意の値に設定するようにしてもよい。
【0061】
その後、温度分布を算出するのに用いられる各種パラメータの設定を行う(ステップS202)。具体的には、流速ベクトル(V)、外力(F)、試料の密度(ρ)、試料の動粘性係数(y)及び試料中の圧力(p)等のパラメータを本処理で設定する。
【0062】
次に、ステップS201において算出された発熱分布について熱流体解析を行うことにより温度分布を算出する(ステップS203〜S206)。具体的には、ステップS202で設定したパラメータ値を熱流体解析の基礎式(上記式(4)〜式(6))に代入し、ステップS200で設定したパラメータ値により得られる解析領域の範囲(0≦z≦t/2)について変調周波数の1サイクルの間の温度分布を算出する。
【0063】
本実施の形態では、この温度分布算出処理は、検出光源14に設けられているチョッパ(不図示)により制御される検出光源14からの検出光の出射開始時刻(tmin)から出射終了時刻(tmax)を微小時間Δtの間隔で分割した各解析時刻iにおいて、上記熱流体解析を非定常で実行する。これにより、変調周波数に応じて経時的に変化する温度分布を精度よく得ることができる。
【0064】
次に、ステップS203〜S206の処理で得られた1サイクルにおける試料の最大温度、最小温度を取得し(ステップS207,S208)、その夫々の温度について後述する図3のビーム伝播シミュレーション処理を行う(ステップS209,S210)。この処理により、1サイクルにおける試料の最大温度、最小温度におけるマイクロ化学チップ出口(z=t/2)での電界分布が得られる。
【0065】
その後、ステップS209,S210の処理により得られた各温度におけるマイクロ化学チップ出口(z=t/2)での電界分布を上述の式(12)に代入し、PD受光面11での電界分布を光軸を中心とする開口半径までの範囲で積分した値(Imax,Imin)を夫々算出する(ステップS211,S212)。
【0066】
その後、上述の式(13)に、ステップS211,212で算出されたImax,Iminを代入し、Imax及びIminの差分を全光量で規格化し、TLM出力を算出し(ステップS213)、本処理を終了する。
【0067】
図2の処理によれば、励起光のビーム強度分布をガウス分布に近似し、ユーザ設定された条件下で励起光による試料の発熱分布を算出し(ステップS200,S201)、熱流体解析に基づき試料の温度分布を算出するので(ステップS204〜S206)、実際の熱の拡散、流れによる移流を計算に反映した屈折率分布を有する溶媒中をビーム伝播する場合のTLM出力をシミュレーションでき、精度の高いTLM出力値を取得することができる。
【0068】
図3は、図2のステップS209,S210で実行されるビーム伝播シミュレーション処理の手順を示すフローチャートである。
【0069】
図3において、まず、図2のステップS207,S208で得られた温度分布の最大値、最小値を上記式(7’)に代入することにより、励起光照射後の試料の各解析時刻iにおける屈折率分布を取得する(ステップS401)。本ステップで屈折率分布の変換が行われるのは、上記最大値、最小値の温度分布に限定されるわけでなく、図11に示すように、変調周波数の1サイクルの各解析時刻での温度分布を元に同じく差分を計算し、得られた信号の時間による変化をフーリエ変換して求めてもよい。
【0070】
次に、ビーム伝播を算出するのに用いられる各種パラメータ値を設定する(ステップS402)。具体的には、検出光の開口数NA、波長λ、励起光との色収差df、PD受光面11までの距離L、PD受光面11の半径radの値を設定する。
【0071】
その後、上記式(7)〜式(9)により試料内のビーム伝播を計算し(ステップS403)、上記式(10)〜式(12)によりマイクロ化学チップからの透過光が受光部で受光されるまでの領域に関して得られたビーム伝播を解析的に変換することにより、電界分布を取得し(ステップS404)、本処理を終了する。
【0072】
図3の処理によれば、励起光照射後の試料中のビーム伝播を、図2のステップS207,208で取得した温度分布から算出された試料の屈折率分布に基づき算出し(ステップS401,S403)、マイクロ化学チップからの透過光が受光部で受光されるまでの領域に関して解析的な変換を行うので(ステップS404)、ビームウエストを含む近接場における干渉を考慮したビームの挙動を正確に計算することができる。
【実施例】
【0073】
次に、本発明の実施例について説明する。
【0074】
まず、マイクロチップの流路深さtを20μm,50μm,75μm,100μm,200μm,300μm,500μm、励起光の開口数NAを0.030,0.050,0.075,0.100,0.138,0.200、色収差を0〜300μmとしたときのTLM出力の強度を図4〜図10に示し、流路深さ毎のNAとTLM出力の強度の関係を図11に示す。
(1)流路深さtについて
図4,5示すように、流路深さtが20μm,50μmのときは、開口数、色収差を上記範囲で振ったときのTLM出力の最大値は0.025a.u.,0.055a.u.と小さく、実際の測定は困難であることがわかった。
【0075】
また、図10に示すように、流路深さtが500μmであるときの上記TLM出力は、開口数の値が少し変化しただけで信号強度が大きく変化してしまうため、検出精度が悪くなることがわかった。
【0076】
これに対して、図6に示すように、流路深さtが75μmであるときの上記TLM出力の最大値は0.080a.u.前後と、最大値のピークがはっきりと現れるので、実際に測定するのに適した設定範囲であることがわかった。
【0077】
さらに、図7に示すように、流路深さtが100μmであるときの上記TLM出力の最大値は0.100a.u.前後と、最大値のピークがよりはっきりと現れ、また、図8に示すように、流路深さtが200μmであるときの上記TLM出力の最大値は0.165a.u.前後と、最大値のピークがさらにはっきりと現れることがわかった。
【0078】
また、図9に示すように、流路深さtが300μmであるときの上記TLM出力の最大値は0.200a.u.前後と、最大値のピークがさらにはっきりと現れることがわかった。
【0079】
以上より、流路深さtは、75μm以上300μm以下、好ましくは100μm以上300μm以下、より好ましくは200μm以上300μm以下であることがわかった。
(2)開口数NAについて
図11に示すように、開口数は0.04以上0.1以下であるときTLM出力の強度が強くなることがわかった。また、好ましくは、開口数は0.05以上0.075以下であるときTLM出力の強度はさらに強くなることがわかった。
(3)色収差dfについて
上述したように、TLM出力を測定するのに好ましい流路深さtの範囲(75〜300μm)及び開口数NAの範囲(0.05〜0.075)において、色収差dfは250μm以下(図9)であり、且つ100μm以上(図6)であるときに、TLM出力の値は大きくなることがわかった。
【図面の簡単な説明】
【0080】
【図1】本発明の実施の形態に係るマイクロ化学システムの概略構成を示すブロック図である。
【図2】図1のマイクロ化学システムにより実行されるTLM出力算出処理の手順を示すフローチャートである。
【図3】図2のステップS209,S210で実行されるビーム伝播シミュレーション処理の手順を示すフローチャートである。
【図4】流路深さtを20μmとしたときの開口数NA、色収差及びTLM出力の関係を示すグラフである。
【図5】流路深さtを50μmとしたときの開口数NA、色収差及びTLM出力の関係を示すグラフである。
【図6】流路深さtを75μmとしたときの開口数NA、色収差及びTLM出力の関係を示すグラフである。
【図7】流路深さtを100μmとしたときの開口数NA、色収差及びTLM出力の関係を示すグラフである。
【図8】流路深さtを200μmとしたときの開口数NA、色収差及びTLM出力の関係を示すグラフである。
【図9】流路深さtを300μmとしたときの開口数NA、色収差及びTLM出力の関係を示すグラフである。
【図10】流路深さtを500μmとしたときの開口数NA、色収差及びTLM出力の関係を示すグラフである。ある。
【図11】流路深さt毎の開口数NAとTLM出力の強度の関係を示すグラフである。
【符号の説明】
【0081】
1 マイクロ化学システム
10 対物レンズ
11 PD受光面
12 熱レンズ
13 励起光源
14 検出光源
【特許請求の範囲】
【請求項1】
深さtの流路中を流れる試料中に所定の屈折率分布を有する熱レンズを形成すべく開口数NAのレンズを介して前記試料に励起光を照射する第1の照射手段と、前記レンズを介して前記励起光と同軸的に前記試料に検出光を照射する第2の照射手段と、前記熱レンズが形成される前後で前記検出光が前記試料を透過したときの透過光を受光する受光部と、前記受光部の受光量に基づいてTLM出力を算出するTLM出力算出手段とを備え、前記レンズは前記励起光及び前記検出光についての色収差dfを有するマイクロ化学システムにおいて、
前記深さt(μm)が75≦t≦300の範囲、前記開口数NAが0.04≦NA≦0.1の範囲、前記色収差df(nm)が100≦df≦250の範囲であることを特徴とするマイクロ化学システム。
【請求項2】
前記開口数NAが0.05≦NA≦0.075の範囲であることを特徴とする請求項1記載のマイクロ化学システム。
【請求項3】
前記深さt(μm)が100≦t≦300の範囲であることを特徴とする請求項1又は2記載のマイクロ化学システム。
【請求項4】
前記深さt(μm)が200≦t≦300の範囲であることを特徴とする請求項3記載のマイクロ化学システム。
【請求項5】
流路中を流れる試料中に所定の屈折率分布の熱レンズを形成すべくレンズを介して前記試料に励起光を照射する第1の照射手段と、前記レンズを介して前記励起光と同軸的に前記試料に検出光を照射する第2の照射手段と、前記熱レンズが形成される前後で前記検出光が前記試料を透過したときの透過光を受光する受光部と、前記受光部の受光量に基づいてTLM出力を算出するTLM出力算出手段とを備え、前記レンズは前記励起光及び前記検出光について色収差を有するマイクロ化学システムのTLM出力算出方法において、
前記励起光のビーム強度分布をガウス分布に近似し、ユーザ設定された条件下で前記励起光による前記試料の発熱分布を算出する発熱分布算出ステップと、
熱流体解析に基づき前記試料の温度分布を算出する温度分布算出ステップとを備えることを特徴とするTLM出力算出方法。
【請求項6】
前記算出された温度分布から前記試料の屈折率分布を算出する屈折率分布算出手段と、
前記励起光照射後の前記試料中のビーム伝播を前記算出された屈折率分布に基づき算出するビーム伝播算出ステップと、
前記透過光が前記受光部で受光されるまでの領域に関して解析的な変換を行う解析的変換ステップとを備えることを特徴とする請求項5記載のTLM出力算出方法。
【請求項1】
深さtの流路中を流れる試料中に所定の屈折率分布を有する熱レンズを形成すべく開口数NAのレンズを介して前記試料に励起光を照射する第1の照射手段と、前記レンズを介して前記励起光と同軸的に前記試料に検出光を照射する第2の照射手段と、前記熱レンズが形成される前後で前記検出光が前記試料を透過したときの透過光を受光する受光部と、前記受光部の受光量に基づいてTLM出力を算出するTLM出力算出手段とを備え、前記レンズは前記励起光及び前記検出光についての色収差dfを有するマイクロ化学システムにおいて、
前記深さt(μm)が75≦t≦300の範囲、前記開口数NAが0.04≦NA≦0.1の範囲、前記色収差df(nm)が100≦df≦250の範囲であることを特徴とするマイクロ化学システム。
【請求項2】
前記開口数NAが0.05≦NA≦0.075の範囲であることを特徴とする請求項1記載のマイクロ化学システム。
【請求項3】
前記深さt(μm)が100≦t≦300の範囲であることを特徴とする請求項1又は2記載のマイクロ化学システム。
【請求項4】
前記深さt(μm)が200≦t≦300の範囲であることを特徴とする請求項3記載のマイクロ化学システム。
【請求項5】
流路中を流れる試料中に所定の屈折率分布の熱レンズを形成すべくレンズを介して前記試料に励起光を照射する第1の照射手段と、前記レンズを介して前記励起光と同軸的に前記試料に検出光を照射する第2の照射手段と、前記熱レンズが形成される前後で前記検出光が前記試料を透過したときの透過光を受光する受光部と、前記受光部の受光量に基づいてTLM出力を算出するTLM出力算出手段とを備え、前記レンズは前記励起光及び前記検出光について色収差を有するマイクロ化学システムのTLM出力算出方法において、
前記励起光のビーム強度分布をガウス分布に近似し、ユーザ設定された条件下で前記励起光による前記試料の発熱分布を算出する発熱分布算出ステップと、
熱流体解析に基づき前記試料の温度分布を算出する温度分布算出ステップとを備えることを特徴とするTLM出力算出方法。
【請求項6】
前記算出された温度分布から前記試料の屈折率分布を算出する屈折率分布算出手段と、
前記励起光照射後の前記試料中のビーム伝播を前記算出された屈折率分布に基づき算出するビーム伝播算出ステップと、
前記透過光が前記受光部で受光されるまでの領域に関して解析的な変換を行う解析的変換ステップとを備えることを特徴とする請求項5記載のTLM出力算出方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2006−322895(P2006−322895A)
【公開日】平成18年11月30日(2006.11.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−148433(P2005−148433)
【出願日】平成17年5月20日(2005.5.20)
【出願人】(000004008)日本板硝子株式会社 (853)
【出願人】(591243103)財団法人神奈川科学技術アカデミー (271)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成18年11月30日(2006.11.30)
【国際特許分類】
【出願日】平成17年5月20日(2005.5.20)
【出願人】(000004008)日本板硝子株式会社 (853)
【出願人】(591243103)財団法人神奈川科学技術アカデミー (271)
【Fターム(参考)】
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