説明

マイクロ波を用いたCO2の固定化方法

【課題】低エネルギーで二酸化炭素の固定化反応を加速できる新規な二酸化炭素の固定化方法を提供すること。
【解決手段】 二酸化炭素と水素との混合物に、触媒存在下でマイクロ波を照射することにより二酸化炭素を固定化する。触媒反応をマイクロ波による加熱状態で行わせることにより、より少ないエネルギーで二酸化炭素の固定化反応を加速できる。また、二酸化炭素と水素との混合物に触媒存在下でマイクロ波を照射することにより、二酸化炭素を一酸化炭素及びメタノールに転化することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、発電所、製鉄分野、石油化学産業分野、一般化学工業分野等において利用できる二酸化炭素(CO)の固定化方法に関する。
【背景技術】
【0002】
発電所、工場、自動車等の人間の社会的活動に伴って大気中に排出される二酸化炭素は地球温暖化の主たる原因であることが知られており、近年、この二酸化炭素の排出量を削減することが地球環境の保護の大きな課題となっている。これに対し、従来より、発電所等の排煙や大気中の二酸化炭素を固定化し除去するためのシステムが種々提案されている。
【0003】
二酸化炭素の固定化方法は、概ね生物的方法、物理的方法、化学的方法の3種類に分けられる。光合成を利用する生物的方法はかなりの量のCOの固定が期待でき、しかも熱帯林の保護や砂漠化防止にも役立つので、現在広範な植樹と微細藻類の多量かつ連続的な培養、増殖を行う研究開発が行われている。しかし、微細藻類による固定化反応は、微細藻類の表面で進行するため、微細藻類でCOを固定化するためには広大な面積の微細藻類が必要となる問題がある。
【0004】
物理的方法は、COの特殊な媒体への溶解、吸着を利用する分離・濃縮法であり、例えば、COをアルカリ溶液に溶解、反応後、炭酸塩として分離する方法、或いは、COをゼオライト媒体等に吸着させた後、脱着、濃縮する方法などが開発研究されている。しかし、吸着法ではCOの吸脱着に膨大なエネルギーを要する問題点がある。吸収法では大掛かりな装置が必要である。
【0005】
3番目の化学的方法は、電気化学法(電気化学的還元、電気化学的固定)、触媒反応を利用する方法、光反応を利用する方法に分けられる。電気化学法によるCOの還元としては、特殊な電極を使用して電解溶液中のCOを分解し、ギ酸、メタン等を常温で生成する方法等が知られているが、大規模な反応槽が必要であり、反応を促進させるためには大量の電気エネルギーを供給する必要がある。
【0006】
触媒反応を利用するCOの還元は、COを一酸化炭素、メタノール等に転化してそれを利用するという手段等が知られており、このような化学的方法は、生物的方法や物理的方法に比べて、エネルギーの低減が図れる可能性があるが、基礎研究の段階である。
【0007】
例えば、特許文献1には、二酸化炭素と水素の混合物を熱反応器に供給し、該熱反応器中で加圧しながら温度を220〜250℃に維持し、かつCu系触媒の存在下にメタノールに変換する際に、前記水素をマイクロ波を用いる硫化水素の分解によって取得する方法が提案されている。
CO + 3H → CHOH + H
【特許文献1】特開平7−173088号公報(請求項1〜2、請求項8、第4頁の図1等)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献1記載の二酸化炭素の固定化方法は、二酸化炭素を燃料として利用可能なメタノールに変換するために、低温・低圧力で実施可能で、かつ高いメタノール収量を実現するメタノール製造法を得ることを課題とするものであり、水素の産出にマイクロ波を利用しているが、二酸化炭素の固定化反応自体にマイクロ波を利用することにより低エネルギー化を図ったものではない。
【0009】
一方、触媒化学的な方法は反応速度が遅く、気相で還元する方法を用いれば火力発電所の煙道等から排出される大量の二酸化炭素を短時間で処理することができると考えられているが、メタノール等の液状炭化水素に直接転化するためには、高圧下での反応が必要であるため、短時間の処理が難しくなるという問題点があった。
【0010】
二酸化炭素を水素を用いて気相で還元する方法としては、常圧下で反応が促進する反応として、下記の反応が知られている。
CO + H → CO+ H
【0011】
この反応は吸熱反応であるため、一般には高温になればなるほど平衡が右側にシフトして、二酸化炭素が一酸化炭素に転化する比率が増加する。しかし、高温を維持するためにはエネルギーを投入する必要があり、このエネルギー源として化石燃料を使用すれば、二酸化炭素の排出量を低減したことにはならなくなる。
【0012】
従って、できるだけ低エネルギーで、化学平衡状態の転化率に近い転化特性を得られるかが、二酸化炭素排出量削減対策として実用化できるかを決定する重要な要素であるといえる。
【0013】
これまで検討されてきた二酸化炭素の触媒水素化反応では、触媒活性を研究することにより二酸化炭素の固定化効率の向上を検討してきたものであり、熱エネルギーの低減という観点から検討された例は殆どない。
【0014】
本発明は、上記課題に鑑み、低エネルギーで二酸化炭素の固定化反応を加速できる新規な二酸化炭素の固定化方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
前記課題を解決するため、本発明者らは鋭意検討した結果、化学的固定化方法における触媒反応をマイクロ波による加熱状態で行わせることにより、より少ないエネルギーで二酸化炭素の固定化反応を加速できることを見出し、本発明に到達した。
【0016】
すなわち、本発明は、二酸化炭素と水素との混合物に、触媒存在下でマイクロ波を照射することを特徴とする二酸化炭素の固定化方法を提供する。
【0017】
また、本発明は、二酸化炭素と水素との混合物に、触媒存在下でマイクロ波を照射することにより、二酸化炭素を一酸化炭素及びメタノールに転化することを特徴とする二酸化炭素の固定化方法を提供する。
【0018】
また、本発明は、二酸化炭素と水素との混合物に、触媒存在下でマイクロ波を照射することにより、二酸化炭素を一酸化炭素、メタン及びメタノールに転化することを特徴とする二酸化炭素の固定化方法を提供する。
【0019】
上記本発明の二酸化炭素固定化方法においては、触媒は、Cu、Zn、Cr、Al、Au、Zrのいずれかの元素を1種類以上含むものであることが好ましい。
【0020】
上記本発明の二酸化炭素固定化方法においては、二酸化炭素及び水素を含む触媒充填層へマイクロ波を照射することが好ましい。
【発明の効果】
【0021】
本発明の二酸化炭素固定化方法によれば、二酸化炭素と水素との混合物に触媒存在下でマイクロ波を照射し、触媒反応をマイクロ波による加熱状態で行わせることにより、マイクロ波と触媒との相乗効果によって、より少ないエネルギーで二酸化炭素の固定化反応を加速できる。
【0022】
本発明の二酸化炭素固定化方法によれば、二酸化炭素と水素との混合物に触媒存在下でマイクロ波を照射することにより、より少ないエネルギーで二酸化炭素からメタノールを製造することができる。
【0023】
本発明の二酸化炭素固定化方法によれば、二酸化炭素と水素との混合物に触媒存在下でマイクロ波を照射することにより、より少ないエネルギーで二酸化炭素からメタン及びメタノールを製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
本発明の二酸化炭素固定化方法においては、二酸化炭素は少なくとも二酸化炭素を含むガス等であればよい。二酸化炭素ガスは勿論のこと、石炭、石油、LNG、プラスチックの燃焼により生じた燃焼排ガスや、熱風炉排ガス、高炉排ガス、転炉排ガス、燃焼排ガス等の製鉄所副生ガスのように、二酸化炭素を1〜40容量%含有する排ガス処理を行う場合、或いは、自動車のエンジンの排気ガス処理を行う場合でも本発明は適用できる。
【0025】
二酸化炭素と水素の比率は、50/50〜5/95(モル比)、好ましくは30/70〜8/92(モル比)、より好ましくは20/80〜10/90(モル比)とするのがよい。二酸化炭素に対する水素の混合比が高いほど、メタノール生成量が多くなるが、二酸化炭素の固定化効率を考慮すると上記範囲が好ましい。
【0026】
本発明の固定化方法では、触媒存在下において上記の二酸化炭素と水素との混合物にマイクロ波を照射することが重要であり、触媒が存在しない状態で該混合物にマイクロ波を照射しても、反応系の温度上昇が期待できず、また、反応速度は著しく遅くなる。二酸化炭素、水素及び触媒が十分接触するように、触媒充填層を形成した触媒充填装置内に二酸化炭素及び水素を導入し、二酸化炭素及び水素を含む触媒充填層へマイクロ波を照射する方法が、エネルギー効率的に好ましい。この方法によれば、ヒーター等の加熱手段と異なり、マイクロ波が触媒に当ることによって触媒表面が優先的に活性化されるので、エネルギー利用効率を著しく高めることが可能となる。
【0027】
触媒としては、Cu、Zn、Cr、Al、Au、Zrのいずれかの元素を1種類以上含む触媒を使用することが好ましく、該触媒と酸化チタンなどを担体とするパラジウム触媒等を併用してもよい。メタノール製造用触媒としては、例えばCuO−ZnO等が挙げられ、又、メタン及びメタノール製造用触媒としては、例えばCuO−ZnO−Cr等が挙げられる。これらの触媒をSiO、Al、MgOなどの担体に担持したものでも良い。
【0028】
照射するマイクロ波の出力や周波数、照射方法は、特に限定されるものではなく、反応温度が所定の範囲に保持できるよう電気的に制御すればよい。出力が低すぎる場合は固定化反応の進行が遅くとなり、出力が高すぎる場合はマイクロ波の利用率が悪くなる。マイクロ波の周波数は、通常、1GHz〜300GHzである。1GHz未満又は300GHzを超える周波数範囲では、反応促進効果が不十分となる。
【0029】
マイクロ波の照射は連続照射、間欠照射のいずれの方法であってもよい。照射時間及び照射停止時間は、反応に供する二酸化炭素の濃度、又は反応触媒の種類等に応じて適宜に決定することができる。
【0030】
固定化反応における反応温度は使用する触媒の種類によっても異なるが、反応温度120〜300℃、好ましくは150〜250℃、より好ましくは170〜220℃で行うのがよい。
【0031】
固定化反応における反応圧力は、常圧、加圧の何れでもかまわないが、通常、0.1MPa(常圧)〜30MPa、好ましくは0.1MPa(常圧)〜20MPa、より好ましくは常圧である。
【0032】
固定化反応における反応時間は、触媒量と反応温度に左右されて一定しないが、通常は反応進行状況を見ながら適宜に決定すればよい。
【実施例】
【0033】
以下、本発明の実施例について図面を参照して説明するが、本発明は以下の実施例にのみ限定されるものではない。なお、以下において示す%はことわりのない限り容量%である。
【0034】
(実施例1)
図1は本発明の固定化反応で用いるマイクロ波反応装置全体を示す概略構成図である。図1において、10はマイクロ波反応装置全体のフロー、1は反応装置、2はCOガスとHガスの混合ガスを収容するテドラーパック、3はガス配管、4は循環ポンプ、5は排気ガスの排気口、6はインピンジャー、7はNボンベ、8は生成ガスを随時サンプリングして分析するためのパージサンプリングパックである。反応装置には、ガス流量計、圧力計、及び調整弁が設けてある。
【0035】
図2は、図1に示す反応装置1を拡大した断面図である。11は触媒を充填するための触媒仕切り板、12はボールフィルター、13は触媒、14は光ファイバー温度計、21は反応装置へ導入される入口ガス、22は反応装置から排出される出口ガスである。図2に示すように、反応装置1の上部よりガス21を反応装置内に送り込む。導入されたガスは、反応装置1の下部に設けられたボールフィルター12の微細孔を通じてフィルター内部から外部へ流れ出し、流れ出たガスが反応装置1内を上昇する間に触媒付近で反応が起きるようになっている。反応生成ガス22は、反応装置1の上部に設けられたガス出口から排出される。
【0036】
反応装置内にCuO−ZnO系触媒(日揮化学社製 N211)71gを加え、図1に示すマイクロ波反応装置内に設置した。窒素ボンベより装置内に窒素を供給し、装置内を窒素雰囲気にした。CO/H=30/70(モル比)の混合ガスを充填した容量10リットルのテドラーパックを、反応装置の配管内に設置した。循環ポンプを起動させ、テドラーパック内のガスを流しながら排気口に排気を行った。テドラーパック内のガスが全て排気された後、排気、循環ポンプを停止させた。
【0037】
再度、CO/H=30/70(モル比)の混合ガスを充填した容量10リットルのテドラーパックを、反応装置の配管内に設置し、循環ポンプを起動させ1.0L/minの流速でガスを流しながら、周波数2.45GHzのマイクロ波を反応装置に照射して250℃まで昇温させた後、常圧、温度250℃で60分間加熱を行いCOの固定化反応を行った。反応中のマイクロ波の平均照射出力は272.3Wであった。
【0038】
反応後、配管中のガス及びインピンジャー内の液体をガスクロマトグラフィーを用いてそれぞれ分析し、同定・定量した。その結果、ガス中にCOが17%、CHが106ppm、液層中にメタノールが1.16mg生成した。
【0039】
(実施例2)
触媒をCuO−ZnO−Cr系触媒(日揮化学社製 N211B)58gとPd−TiO触媒1gを用い、反応温度を150℃、ガスの循環流量を1.5L/minにした以外は、実施例1と同様な方法によりCOの固定化反応を行った。反応中のマイクロ波の平均照射出力:104W。反応後、実施例1同様、生成ガスと液体を分析し、同定・定量した。その結果、ガス中にCOが0.87%、液層中にメタノールが1.16mg生成した。
【0040】
(実施例3)
反応温度を200℃にした以外は、実施例2と同様な方法によりCOの固定化反応を行った。反応中のマイクロ波の平均照射出力:121W。その結果、ガス中にCOが7.6%、液層中にメタノールが3.77mg生成した。
【0041】
(実施例4)
反応温度を250℃にした以外は、実施例2と同様な方法によりCOの固定化反応を行った。反応中のマイクロ波の平均照射出力:155W。その結果、ガス中にCOが14.4%、液層中にメタノールが2.56mg生成した。
【0042】
(実施例5)
原料ガスの組成をCO/H=10/90(モル比)にした以外は、実施例3と同様な方法によりCOの固定化反応を行った。反応中のマイクロ波の平均照射出力:136W。その結果、ガス中にCOが4.6%、液層中にメタノールが3.40mg生成した。
【0043】
(実施例6)
原料ガスの組成をCO/H=20/80(モル比)にした以外は、実施例3と同様な方法によりCOの固定化反応を行った。反応中のマイクロ波の平均照射出力:128W。その結果、ガス中にCOが7.4%、液層中にメタノールが4.08mg生成した。
【0044】
(実施例7)
ガスの循環流量を0.5L/minにした以外は、実施例3と同様な方法によりCOの固定化反応を行った。その結果、ガス中にCOが4.5%、液層中にメタノールが2.73mg生成した。
【0045】
(実施例8〜11)
原料ガスの組成をCO/H=10/90(モル比)とし、触媒としてCuO−ZnO−Al系触媒20gを用い、反応温度を120〜250℃、ガスの循環流量を1.1L/minにした以外は、実施例1と同様な方法によりCOの固定化反応を行った。反応中のマイクロ波の平均照射出力は114W〜205Wであった。反応後、実施例1同様、生成ガスと液体を分析し、同定・定量した。その結果、ガス中にCO、液層中にメタノールが生成した。
【0046】
(実施例12)
原料ガスの組成をCO/H=20/80(モル比)にした以外は、実施例9と同様な方法によりCOの固定化反応を行った。その結果、ガス中にCO、液層中にメタノールが生成した。
【0047】
(実施例13〜16)
原料ガスの組成をCO/H=10/90(モル比)とし、触媒としてCuO−ZnO−Cr系触媒50gを用い、反応温度を150〜300℃、ガスの循環流量を1.5L/minにした以外は、実施例1と同様な方法によりCOの固定化反応を行った。反応中のマイクロ波の平均照射出力は131W〜222Wであった。反応後、実施例1同様、生成ガスと液体を分析し、同定・定量した。その結果、ガス中にCO、液層中にメタノールが生成した。
【0048】
実施例1〜16の結果を表1にまとめて示した。なお、表中のメタノール転化率は下記式より求めた値である。
メタノール転化率(%)=メタノール生成量(mol)/CO(mol)×100
【0049】
【表1】

【図面の簡単な説明】
【0050】
【図1】本発明の実施例に係るマイクロ波反応装置全体を示す概略構成図である。
【図2】同反応装置の断面図である。
【符号の説明】
【0051】
1 反応装置
2 テドラーパック
3 配管
4 ポンプ
5 排気口
6 インピンジャー
7 窒素ボンベ
8 パージサンプリング
11 触媒仕切り板
12 ボールフィルター
13 触媒
14 光ファイバー温度計
21 入口ガス
22 出口ガス

【特許請求の範囲】
【請求項1】
二酸化炭素と水素との混合物に、触媒存在下でマイクロ波を照射することを特徴とする二酸化炭素の固定化方法。
【請求項2】
二酸化炭素と水素との混合物に、触媒存在下でマイクロ波を照射することにより、二酸化炭素を一酸化炭素及びメタノールに転化することを特徴とする二酸化炭素の固定化方法。
【請求項3】
二酸化炭素と水素との混合物に、触媒存在下でマイクロ波を照射することにより、二酸化炭素を一酸化炭素、メタン及びメタノールに転化することを特徴とする二酸化炭素の固定化方法。
【請求項4】
触媒は、Cu、Zn、Cr、Al、Au、Zrのいずれかの元素を1種類以上含むものである請求項1〜3のいずれか1項に記載の二酸化炭素の固定化方法。
【請求項5】
二酸化炭素及び水素を含む触媒充填層へマイクロ波を照射する請求項1〜3のいずれか1項に記載の二酸化炭素の固定化方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2006−169095(P2006−169095A)
【公開日】平成18年6月29日(2006.6.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−325770(P2005−325770)
【出願日】平成17年11月10日(2005.11.10)
【出願人】(000003687)東京電力株式会社 (2,580)
【Fターム(参考)】