説明

マイクロ波加熱装置

【課題】
マイクロ波を使用して誘電体からなる被加熱物を加熱、乾燥するマイクロ波加熱装置に関し、特に導波管を使用したマイクロ波加熱装置に関する。被加熱物が幅の広い紙やフィルムを加熱及び乾燥、あるいは糸状な物を多数同時に加熱及び乾燥する場合に、マイクロ波加熱装置の導波管形マイクロ波加熱炉の電界分布を一様化させて、均一に加熱、乾燥するマイクロ波加熱装置を提供する。
【解決手段】
周波数が300MHz〜30GHzの範囲のマイクロ波周波数で、導波管を使用したマイクロ波加熱装置において、マイクロ波発振機1とアイソレータ2と位相器3と導波管形マイクロ波加熱炉4とダミーロード5から構成され、位相器3を連続的に可変し位相を可変させ電界の位置を動かし、導波管内の電界を一様にする事を特徴とするマイクロ波加熱装置である。電界を一様にすることにより、被加熱物の発熱量Pも一様になるので、均一な加熱をする事が可能となる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マイクロ波を使用して誘電体からなる被加熱物を加熱、乾燥するマイクロ波加熱装置に関し、特に導波管を使用したマイクロ波加熱装置に関する。
【背景技術】
【0002】
紙やフィルムのようなシート状の被加熱物や、樹脂や浄水器フィルターのような糸状の被加熱物は、体積の割に表面積が大きい形状であるため、300MHz〜30GHzのマイクロ波で加熱した場合、電子レンジや、工業用のトンネル型マイクロ波加熱装置、工業用のバッチ式マイクロ波加熱装置では、発熱速度に対して放熱量が多いので、被加熱物の温度が所定の温度まで上昇しない。このような形状の被加熱物をマイクロ波で加熱する場合、折曲げ導波管形加熱炉で電界を集中させて効率よく加熱することが知られている。
【非特許文献1】大森豊明著 光琳テクノブックス14 電磁波と食品 :43〜44, 平成5年
【0003】
しかし、従来の方法によると以下の問題点があった。
【0004】
幅の広い紙やフィルムを乾燥、あるいは糸状な物を多数同時に乾燥する場合、折曲げ導波管形加熱炉でマイクロ波加熱すると、電界のムラがある場合でも、乾いた箇所はマイクロ波の吸収が少ないので、比較的均一な乾燥分布を得られるが、乾燥以外の用途では電界のムラが加熱のムラになるので実用化されていない。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
折曲げ導波管形加熱炉では、通常導波管の基本モードであるTE10モードを使用する。この導波管において、マイクロ波の電力分布を見ると、反射が無ければ電力定在波が発生しないので、導波管の進行方向に対して一様な分布となるが、電界分布を見ると、導波管の管内波長をλgとすれば、電界はλg/4間隔で強弱を繰り返しながら進行する。
【非特許文献2】産業創造研究所著 工業調査会 マイクロ波応用技術 :216,2004年
【0006】
一方、マイクロ波による加熱は、被加熱物の単位体積あたりの発熱量をP、角速度をω、誘電率をε´、誘電損失をε´´、誘電正接をtanδ、電界強度をEとすると、
P=ωε´tanδE2
=ωε´´E2
で表すことができる。
【0007】
乾燥以外の用途では、被加熱物が持つ誘電損失、誘電正接に比例してマイクロ波で加熱する。電界がλg/4の間隔で強弱があると、被加熱物の発熱量はE2に比例し、電界の強弱が加熱ムラとなり、実用化することが困難であった。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、周波数が300MHz〜30GHzの範囲のマイクロ波周波数帯で、導波管を使用したマイクロ波加熱装置において、マイクロ波発振機とアイソレータと位相器と導波管形マイクロ波加熱炉とダミーロードから構成され、位相器を連続的に可変し位相を可変させ電界の位置を動かし、導波管内の電界を一様にする事を特徴とするマイクロ波加熱装置である。電界を一様にすることにより、被加熱物の発熱量Pも一様になるので、均一な加熱をする事が可能となる。
【0009】
また、本発明で使用する位相器は、導波管の内部にマイクロ波フェライトと整合素子を有し、導波管の外部に直流磁場を形成する磁場回路を有し、その磁場回路を調整することにより、マイクロ波フェライトへの磁力の強さを可変させて、λg/4以上の位相を変える事を特徴としたマイクロ波の位相器である。
【0010】
磁場回路を調整する方法としては、電磁石を用いて磁力を制御する方法や、永久磁石を用いて、永久磁石をマイクロ波フェライトから遠ざけたり、近づけたりすることによって磁力を制御する方法を用いている。
【0011】
導波管内部にあるマイクロ波フェライトは、外部から直流の磁界を受けない限り、マイクロ波の管内波長はλgと同じ管内波長になる。外部からの磁力を受けると、マイクロ波フェライトの周囲で円偏波が発生し、マイクロ波は導波管端面の管壁へ曲げられてλgよりも長い管内波長となる。間壁に曲げられる角度は、マイクロ波フェライトの材質と磁力の強さによって変るが、λg/4程度波長を長くする場合は外部の磁力が500〜600Gauss程度必要である。
【0012】
位相器の管内波長を変化させる時間は、被加熱物が導波管方加熱炉を通過する時間の1/2以下で、磁力を可変する事が望ましい。1/2以下の時間で磁力を可変すると、被加熱物に与えられる電界が一様になる。
【発明の効果】
【0013】
本発明による装置及び方法を使用して、導波管型加熱炉でマイクロ波加熱をすると、従来の方法では難しかった被加熱物のマイクロ波加熱が可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、図面に基づいて本発明によるマイクロ波加熱装置と方法に関わる一実施形態について説明する。図1〜図12は本発明に関わる発明の実施形態を示す。
【0015】
図1はマイクロ波加熱装置の構成図である。マイクロ波発振機1は300MHz〜30GHzのマイクロ波発振機で、アイソレータ2、位相器3、導波管形マイクロ波加熱炉4、ダミーロード5から構成されている。マイクロ波発振機1で発生したマイクロ波は、アイソレータ2、位相器3、導波管形マイクロ波加熱炉4を通り、ダミーロード5で無反射終端される。位相器3の位置は、アイソレータ2と導波管形マイクロ波加熱炉4の間に入れても、導波管形マイクロ波加熱炉4とダミーロード5の間に入れても同様の効果がある。また上記の構成でダミーロード5の変わりに短絡板を入れても同様の効果がある。
【0016】
図2は導波管形マイクロ波加熱炉4に被加熱物10を流す図である。導波管形マイクロ波加熱炉4の最大電界強度(Ex)6の導波管中央部でZ方向にスリット9を設け、被加熱物10はこのスリット9を最大電界強度(Ex)6と平行に被加熱物の流れ方向7に移動する。
【0017】
図3は永久磁石を使用した位相器の断面図である。導波管11の内部は、導波管の長辺と平行かつ上下に整合素子13とマイクロ波フェライト12から構成される。導波管11の外部は、マイクロ波フェライト12に平行かつ上下に永久磁石14と上下の永久磁石14をつなぐヨーク15より構成される。永久磁石14は、マイクロ波フェライト12に対し垂直に磁界を与えるため、上下1対の永久磁石14は、それぞれN極とS極からなる。上下の永久磁石14の極性は、N極とS極又はS極とN極で同様の効果がある。永久磁石14の磁力を変えると位相が変る。上下の永久磁石14とヨーク15を導波管11の長手方向に動かすことにより、マイクロ波フェライト12の上下真上にある時はマイクロ波フェライト12への磁力最大で、マイクロ波フェライト12から離れているときはマイクロ波フェライト12への磁力最小となり、マイクロ波フェライト12への磁力を増減させ位相を変える。
【0018】
図4は電磁石を使用した位相器の断面である。導波管11の外部は、マイクロ波フェライト12に平行かつ上下に電磁石16より構成される。電磁石16は、マイクロ波フェライト12に対し垂直に磁界を与えるため、上下1対の電磁石16は、それぞれN極とS極からなる。上下の電磁石16の極性は、N極とS極又はS極とN極で同様の効果がある。電磁石16に流す電流を連続的に増減すると、電磁石16の磁力が増減し、マイクロ波フェライト12への磁力の強さを増減させ位相を変える。
【0019】
図5は図3及び図4の平面断面図である。マイクロ波中の導波管11に配置されたマイクロ波フェライト12は、外部磁力18の方向に磁力が加わると、正円偏波18、負円偏波19が発生する。マイクロ波の進行方向17は、この正円偏波18と負円偏波19の影響を受け、外部磁力を受けた時のマイクロ波の進行方向22に曲げられ、外部磁力18が無い時(0の時)は、外部磁力を受けない時のマイクロ波の進行方向21の方向に進む。マイクロ波が曲げられる角度は、マイクロ波フェライト12の材質と外部磁力18の強さで決まる。外部磁力18の強さに応じてマイクロ波が直進したり、曲げられたりするので、位相器3の後ろでは管内波長が伸縮し位相を変える事ができる。
【0020】
図6は導波管断面の電界強度分布である。2.45GHzのマイクロ波を使用した場合、導波管11はWRJ-2導波管を使用する。導波管のモードはTE10モードで、導波管11の中央部が最大電界強度6で電界強度の分布は電界強度分布8のようになる。
【0021】
図7は導波管11の平面断面図で、TE10モードの電磁界分布を示す。電界(紙面の内へ)23、電界24(紙面の外へ)、磁界25はそれぞれ図のようになる。
【0022】
図8は図7のTE10モードの電磁界分布のうち、電界強度分布8のみ示す。最大電界強度6はλg/4の間隔で、最大、最小(0)を繰り返しZ方向に進む。
【0023】
図9は図8の電界強度分布8を正の分布に置き換えた電界強度分布8である。
【0024】
図10は図9の電界強度分布8に位相をλg/4移動した電界強度分布26を表した図である。
電界強度分布8にλg/4動かした電界強度分布26を重ね合わせると、電界強度の弱い箇所が無くなり、電界強度のムラが解消され一様化する。位相器で連続的にλg/4位相を変えると、図10のような電界強度分布になる。
【0025】
図11は感熱紙28に満遍なく水を浸みこませ、図2導波管形加熱炉4の被加熱物10の代わりに加熱した図で、位相器3の位相を変化させない時の図である。一定時間加熱すると、水分を含んだ感熱紙が加熱され、感熱反応部27が等間隔で現れる。周波数を2.45GHz、WRJ-2導波管を使用した場合、37mmピッチで感熱反応する箇所としない箇所が現れる。これは、図10の電界強度分布8のExと0の箇所と一致する。
【0026】
図12は感熱紙28に満遍なく水を浸み込ませ、図2導波管形加熱炉4も被加熱物10の代わりに加熱した図で、位相器3の位相を連続的に変化させた時の図である。一定時間加熱すると、水分を含んだ感熱紙が加熱され、感熱反応部27が帯状につながって現れる。周波数2.45GHz、WRJ-2導波管を使用した場合の結果である。この結果は図10の電界強度分布8とλg/4移動した電界強度分布を合成した分布を一致する。
【実施例1】
【0027】
図1に示すマイクロ波加熱装置で、図2に示す導波管形マイクロ波加熱炉4の被加熱物10の代わりに、感熱紙28に満遍なく水を浸み込ませた感熱紙を置いて、位相器3を取り付けない場合や、位相器3を取り付けて、位相を変化させないと時のマイクロ波加熱の結果が図11である。
導波管内の電界強度分布8は動かないので、定位置の箇所に電界のムラが発生し、感熱反応部27のようなムラとして現れる。
【実施例2】
【0028】
図1に示すマイクロ波加熱装置で、図2に示す導波管形マイクロ波加熱炉4の被加熱物10の代わりに、感熱紙28に満遍なく水を浸み込ませた感熱紙を置いて、位相器3を取り付けて、位相を連続的に変化させたと時のマイクロ波加熱の結果が図12である。
導波管内の電界強度分布8の位置がλg/4動いた場合、電界のムラが解消され一様化されて、感熱反応部27のように帯状に一様化された感熱反応部27として現れる。
位相器3で連続的に位相をλg/4以上動かすことにより、電界が一様化されて、感熱反応部27と一致して、加熱ムラが解消される事が確認された。
【産業上の利用可能性】
【0029】
本装置を使用して導波管形マイクロ波加熱炉を使用したマイクロ波加熱装置に使用する事ができる。特に導波管形マイクロ波加熱炉で被加熱物10の幅が広く、薄物を加熱する時に被加熱物をムラ無く、均一に加熱する手段として使用する事ができる。同 様に被加熱物10は、糸状の物で多数同時に加熱する手段としても使用する事ができる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】本発明の実施形態に係わるマイクロ波加熱装置の構成図である。
【図2】本発明の実施形態に係わるマイクロ波加熱装置を構成する導波管形マイクロ波加熱炉の図である。
【図3】本発明の実施形態に係わるマイクロ波加熱装置を構成する位相器の永久磁石を使用した時の構成図である。
【図4】本発明の実施形態に係わるマイクロ波加熱装置を構成する位相器の電磁石を使用した時の構成図である。
【図5】本発明の実施形態に係わる位相器の位相を変える概念図である。
【図6】本発明の実施形態に係わる導波管断面の電界強度分布の概念図である。
【図7】本発明の実施形態に係わる導波管平面断面の電界強度分布の概念図である。
【図8】本発明の実施形態に係わる電界強度分布の概念図である。
【図9】本発明の実施形態に係わる電界強度分布の概念図である。
【図10】本発明の実施形態に係わる電界強度分布のうち、位相をλg/4移動した時と、移動しない時の概念図である。
【図11】本発明の実施形態に係わる感熱紙による加熱結果の図である。
【図12】本発明の実施形態に係わる感熱紙による加熱結果の図である。
【符号の説明】
【0031】
1 マイクロ波発振機
2 アイソレータ
3 位相器
4 導波管形マイクロ波加熱炉
5 ダミーロード
6 最大電界強度(Ex)
7 被加熱物の流れ方向
8 電界強度分布
9 スリット
10 被加熱物
11 導波管
12 マイクロ波フェライト
13 整合素子
14 永久磁石
15 ヨーク
16 電磁石
17 マイクロ波の進行方向
18 外部磁力(紙面の外へ)
19 正円偏波
20 負円偏波
21 外部磁力を受けない時のマイクロ波の進行方向
22 外部磁力を受けた時のマイクロ波の進行方向
23 電界(紙面の内へ)
24 電界(紙面の外へ)
25 磁界
26 λg/4移動した電界強度分布
27 感熱反応部
28 感熱紙


















【特許請求の範囲】
【請求項1】
周波数が300MHz〜30GHzの範囲のマイクロ波周波数で、導波管を使用したマイクロ波加熱装置において、マイクロ波発振機とアイソレータと位相器と導波管形マイクロ波加熱炉とダミーロードから構成され、位相器を連続的に可変し位相を可変させて電界の位置を動かし、導波管内の電界を一様にする事を特徴とするマイクロ波加熱装置。

【請求項2】
マイクロ波の位相を制御する位相器において、導波管の内部にマイクロ波フェライトと整合素子を有し、導波管の外部に直流磁場を形成する磁場回路を有し、その磁場回路を調整することにより、マイクロ波フェライトへの磁力の強さを可変させて、λg/4以上の管内波長を変える事を特徴としたマイクロ波の位相器。

【請求項3】
請求項1のマイクロ波加熱装置において、一様な電界と水平に被加熱物を投入する事を特徴とするマイクロ波加熱装置。

【請求項4】
請求項1のマイクロ波加熱装置を使用し、一様な電界と水平に被加熱物を投入する事を特徴とするマイクロ波加熱の方法。

【請求項5】
請求項2のマイクロ波位相器において、磁場回路が電磁石で構成され、この電磁石の磁力を制御することにより管内波長をλg/4以上変える事を特徴とする位相器。

【請求項6】
請求項2のマイクロ波位相器において、磁場回路が永久磁石1対から構成され、この永久磁石の磁力を制御することにより管内波長をλg/4以上変える事を特徴とする位相器。

【請求項7】
請求項1のマイクロ波マイクロ波加熱装置において、被加熱物が導波管を通過する時間の1/2以下の時間で、請求項2のマイクロ波位相器の管内波長を変える事を特徴とするマイクロ波加熱装置。


































【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2009−181900(P2009−181900A)
【公開日】平成21年8月13日(2009.8.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−21654(P2008−21654)
【出願日】平成20年1月31日(2008.1.31)
【出願人】(000237754)富士電波工機株式会社 (3)
【Fターム(参考)】