説明

マイクロ波加熱陶磁器の製造法

【課題】通常の陶磁器は電子レンジでの加熱効果は低い。したがって魚や肉を焼くような調理には不適である。しかし調理用器具それ自身が強く加熱すれば、魚や肉をガス火や炭火で焼くような調理ができる。また、ご飯に焦げ目を付けたり、平らな二枚の板に挟んで煎餅を焼くことが出来る。そのような電子レンジ加熱用陶磁器ならびにその製造方法を提供する。
【解決手段】電子レンジで食品調理用陶磁器容器を効率高く加熱させるため素地は耐熱衝撃性が高くなくてはならない。そのため生原料配合で低低熱膨張性のコージライト質やβスポジューメンが析出する素地組成とし、加熱効率を高めるための素材に錫酸アンチモニー(Sb−SnO)およびFe、Cr、MnO、CoO、CuOなどの遷移元素複合酸化物を仮焼合成し、それを素地および釉に添加して効率よく加熱する陶磁器容器を製造する。

【発明の詳細な説明】
【発明の詳細な説明】
【0001】
一般の家庭用電子レンジは電力をマグネトロンによって2450MHzのマイクロ波に変換し、主に食品に含まれる水分の加熱を促して調理する器具であるが、魚や肉を焼く、あるいは焚いたご飯に焦げ目を付ける、煎餅を焼くなどの調理には、用いる「器」が効率よく加熱しなければならない。そのような目的を叶えるため、マイクロ波吸収効率が高く、しかも熱衝撃に強い陶磁器製容器の開発が嘱望されている。
【0002】
一般に用いられる陶磁器製の食器、鍋などは2450MHzのマイクロ波による加熱性が低く、熱衝撃にも弱い。それを克服するためにコージライト質およびペタライトを母体とした陶磁器を用いて低熱膨張性であって熱衝撃にも強い素地を開発し、そのような素地素材および、それに適合する釉素材にマイクロ波吸収効率の高い添加物を配合に加えて電子レンジで強く加熱される陶磁器を製造することに成功した。
【0003】
コージライト質陶器素地は、通常タルク(3MgO・4SiO・HO)と粘土(Al・2SiO・2HO)およびアルミナ(Al)の混合物を1350℃から1400℃の高温でコージライトクリンカー(2MgO・2Al・5SiO)を作り、その粉体に成形を可能にする可視性粘土を加えて素地坏土を調整している。本発明ではタルク、可塑性粘土、長石、アルミナによる配合物に高効率マイクロ波吸収材を加えた生配合で素地坏土を作った。焼成温度は1100℃〜1150℃である。
【0004】
ペタライト(LiO・Al・8SiO)を用いてβスポジューメン(LiO・Al・4SiO)を析出させる陶磁器の素地はペタライトに可塑性粘土を成形に必要な量を加えて坏土とすればよい。
【0005】
このようなペタライトと可塑性粘土による陶磁器素地の焼成温度は1200℃程度が適当であるが、低すぎると燒結性が悪く、多孔質であって機械的強度が弱い。またβスポジューメンの生成が不充分で低熱膨張にならない。また高すぎると素地そのものが軟化して変形する。
【0005】
このようにして作るコージライト質やβスポジューメン析出耐熱衝撃性素地に用いる釉の熱膨張は、素地のそれと同等か幾分低めにすることである。素地と釉との間の適合性を図るには釉を低熱膨張にするコことが必要で、それにはペタライト用いた組成で作り易い。焼成適正温度を1100℃から1200℃に調整できる釉組成はペタライト長石、珪石、石灰石あるいはドロマイト、それに硼酸分を含む天然鉱物のウレキサイトあるいはコレマナイト、または硼珪酸塩フリットを釉配合に加えればよい。
【0006】
このようにして作られるマイクロ波加熱性を向上させるために付与する効果的な添加材が錫酸アンチモニー仮焼物(Sb−SnO)である。それは酸化アンチモニー(SbまたはSb)と酸化錫(SnO)を粉体混合して約1000℃で焼成して得られる青鼠色の仮焼粉体である。
また酸化鉄、2酸化マンガン、酸化コバルト、酸化銅、酸化クロームなどの粉体を混合して約1200℃で焼成して得られる黒色の複合遷移元素酸化物の仮焼粉体もマイクロは吸収性を向上させる素材になる。
【0006】
製造手順は、先ず素地配合物をボ−ルミルなどで湿式粉砕する。その泥漿は直接鋳込み成形ができる。またフィイルタープレスなどで脱水して練り土とすれば轆轤成形、「型起こし」などの成形に供することができる。釉も同様な粉砕方法で泥漿にする。
成形した素地を、よく乾燥すれば施釉できるが、800℃程度で素焼きすれば容易に、かつ安全に施釉できる。
【実施例】
【0007】
1. コージライト質素地を用いたマイクロ波加熱用陶磁器
1.1.コージライト質素地はタルク、粘土、アルミナによる配合物を高温焼成でクリンカーとし、粉砕に可塑性粘土を加えて作るのが普通であるが、本実施例は焼結を低温度化するため珪・長石の砂婆を配合の中に加えた。また本発明に用いる加熱効果向上材もコージライト生成に効果がある。


上の原料を用いて素地坏土を作るが、本実施例の組成は以下の通りである。

この組成で素地坏土を作る。この素地の焼成適温度は1150℃である。
1.2.釉は器物が熱衝撃によって破壊されるのを防ぐため1100℃〜1200℃で熔融し、しかも熱膨張を素地のそれに適合させるため、ペタライトとウレキサイトを釉組成配合に加えた。ウレキサイトを用いた釉を同じゼーゲル式の釉に窯業計算をしてコレマナイトに代えることができる。

上の原料を用いて釉泥漿を作るが、本実施例の組成は以下の通りである。

この組成を釉とする。
1.3.(Sb−SnO系添加材)加熱効果向上添加剤は3酸化アンチモニー(Sb)10重量%をメタ錫酸(HSnO)に加えて湿式粉砕して乾燥した粉体を1000℃で仮焼して合成する。この添加材は青鼠色の電気伝導性物質であって電子レンジ加熱効果が高く、また全赤外線域での放射率がリニアーに高いので、これを加えた陶磁器は高効率赤外線放射体となる。
1.4.(複合遷移元素酸化物系添加材)2酸化マンガン(MnO)60重量%、酸化鉄(Fe)20重量%、酸化コバルト(CoO)10重量%、酸化銅(CuO)10重量%を混合し、湿式粉砕して乾燥した粉体を1200℃で仮焼して合成する。黒色の全赤外線域で放射率がリニアーに高いので、これを加えた陶磁器は高効率赤外線放射体となる。
これらの陶磁器は1100℃〜1150℃で焼成する。
このようにして作られた陶磁器素地の線熱膨張係数は約3〜4×10−6/℃であって、ガスコンロで300℃程度に加熱し、直ちに水中に投じて急冷しても破壊しない耐熱衝撃性を有している。電子レンジ加熱でも、同様に耐熱衝撃性が高い。
1.5.素地配合にSb−SnO系添加材を10重量%加えてボールミル等で湿式粉砕し、鋳込み成型用の泥漿にする。また、それをフイルタープレスで脱水し、練り土用の坏土とする。釉は配合物を湿式粉砕して泥漿にする。
成形した素地を、よく乾燥するか800℃で素焼きして施釉する。釉はマイクロ波向上添加物の無添加でも10%添加しても良い。
ガス窯を用いて1130℃酸化焔で焼成したが、電気窯焼成でもよい。
【0008】
2. ペタライトを用いた低熱膨張性マイクロ波加熱用陶磁器
2.1.ペタライトを用いた陶磁器素地は低熱膨張であって、電子レンジ加熱の器に適する。素地組成を以下に示す。

この組成で素地坏土を作る。
ペタライトに成形可能な程度の可塑性粘土を加えて坏土とした素地は1130℃で燒結する。このような素地は焼成によってβスポジューメン(LiO・Al・4SiO)が析出した低熱膨張性の素地となって耐熱衝撃性は極めて高い。
2.2.釉は器物が熱衝撃によって破壊されるのを防ぐため1200℃で熔融し、しかも熱膨張を素地の、それに適合させるためペタライト主体の組成配合にした。

上の原料を用いて釉泥漿を作るが、本実施例の組成は以下の通りである。


この組成を釉とする。
2.3.素地配合にSb−SnO系添加材を10重量%加えてボールミル等で湿式粉砕し、鋳込み成型用の泥漿にする。また、それをフイルタープレスで脱水し、練り土用坏土とする。釉は配合物を湿式粉砕して泥漿にする。
成形した素地を、よく乾燥すれば、そのままで施釉できるが、800℃で素焼きしておけば容易に安全に施釉できる。釉はマイクロ波向上添加物の無添加でも10%添加しても良い。
焼成はガス窯を用いて1200℃酸化焔で焼成したが、電気窯焼成でもよい。
【発明の効果】
【0009】
加熱用マイクロ波は915MHzと2450MHzが用いられるが、大きな固形物を均一に加熱するには浸透力の高い915MHzが有利である。家庭用デンシレンジは水の加熱に効果の高い2450MHzが用いられているが、本発明の陶磁器は915MHzでも2450MHZでも加熱効果が高い。
【0010】
電子レンジは食品を均一に加熱できるように、それ自身は加熱し難い陶磁器製、あるいはガラス製のタンテーブルを用いる。また容器は陶磁器、あるいは耐熱性プラスチックが用いられることが普通である。
【0011】
しかし容器自身が強く加熱すれば特徴ある調理ができる。また、容器の熱容量を大ききできることから冷め難くなる。そのことは通常の容器では出来ない、電子レンジによって魚や肉を焼く、ご飯に焦げ目を付ける、板状容器に挟んで煎餅を約焼くなどの特徴的な調理法が可能である。そのような目的のために開発したのが本発明のマイクロ波加熱陶磁器の製造法である。

【特許請求の範囲】
電子レンジはマイクロ波領域の電磁波を用いて水分を効果的に加熱し、それによって食品調理を行う器具であるが、魚や肉などを焼く調理には器そのものの加熱が必要である。しかし通常の陶磁器製器はマイクロ波の吸収が弱く加熱され難い。また、耐熱衝撃性も低い。したがって器、自身が電子レンジによって効率よく加熱し、熱衝撃で破壊しない特徴を有する陶磁器製容器が求められる。本発明は熱衝撃に強い陶磁器素地および釉にマイクロ波吸収率の高いセラミック粉末を添加して効率よく加熱する耐熱衝撃性陶磁器の製造法である。
【請求項1】
(素地と釉の熱的物性) 基礎素地は低熱膨張性で熱衝撃に強いコージライト質素地および酸化リチュウムを含むペタライト鉱物を主原料とし、焼成時にβスポジュウメンが析出して低熱膨張性となる素地組成であること。釉は、素地に適合する熱膨張に調整して釉貫入や器物のシバリング破壊を生じない釉であること。
【請求項2】
(高効率マイクロ波吸収材) マイクロ波吸収率の高い錫酸アンチモニー仮焼物(Sb−SnO)および酸化鉄(Fe)、2酸化マンガン(MnO)、酸化コバルト(Co())、酸化銅(CuO)、酸化クローム(Cr)などの遷移元素による仮焼複合酸化物の粉末を素地および釉に添加したものを器物製造の素材にすること。コージライト質陶磁器素地やペタライト使用陶磁器素地に高効率マイクロ波吸収材を加えると焼結性が向上し1100℃から1200℃を適応焼成温度にすることができる。

【公開番号】特開2012−82122(P2012−82122A)
【公開日】平成24年4月26日(2012.4.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−240147(P2010−240147)
【出願日】平成22年10月7日(2010.10.7)
【出願人】(599056770)有限会社東光カラー工業所 (1)
【Fターム(参考)】