説明

マイクロ波化学反応容器および装置

【課題】安全性に優れ、しかも、加熱効率が高く、加熱ムラが少ないマイクロ波化学反応環境の提供。
【解決手段】導波管からのマイクロ波を照射するためのマイクロ波透過材を有するマイクロ波化学反応容器において、前記マイクロ波透過材の面積は導波管の断面積よりも広く、規定量の被加熱物投入時にその全面が被加熱物と接触状態となる位置にあり、該外側に導波管の内径と同寸の開口部を構成するようマイクロ波漏洩防止部材で覆ったことを特徴とするマイクロ波化学反応容器およびそれを備えたマイクロ波化学反応装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マイクロ波化学反応容器および装置に関し、より詳細には、安全性に優れ、しかも、加熱効率が高く、加熱ムラが少ないマイクロ波化学反応を実現するための技術に関する。
【背景技術】
【0002】
マイクロ波に、反応速度の向上や従来の加熱法とは異なる反応が促進するなどの化学反応促進効果が認められていることは公知である(例えば、特許文献1)。これらの効果はしばしばマイクロ波による加熱効果以外の効果、または加熱効果以上の効果という観点からマイクロ波効果またはマイクロ波電界効果、若しくは非熱的効果と呼ばれている。マイクロ波の応用分野は、有機化学、無機化学、セラミックス、医療等幅広く、例えば、有機化学反応としては、特許文献2に開示されるポリエステル樹脂の製造、或いは、特許文献3に示される銅フタロシニアンの製造などが知られている。
【0003】
一般に高温高圧下での被処理物を処理することにより化学反応は促進される。そのための加熱源としては電気ヒーター、バーナー、蒸気などが使用されるが、それらは何れも被加熱物を外部からまたは表面から加熱する手法(外部加熱法)であった。
そこで、出願人等は、開口部に仕切窓としての第1の窓を設置した中空の導波管または同軸線路よりなる化学反応促進用マイクロ波供給装置を設けた高温高圧容器であって、該容器が耐圧容器および反応容器で構成され、耐圧容器の内側に耐熱および/または耐食性の密閉式反応容器を備え、耐圧容器と反応容器の内圧を制御できるようにしたこと、好ましくは内圧を等しくしたものであることを特徴とする高温高圧容器を提言した(特許文献4)。
【0004】
また、大型の反応容器で大量の被加熱物を取り扱いというというニーズがあるが、大型の反応容器では温度制御が難しく、反応が暴走しやすいという問題があった。そこで、出願人等は反応容器の温度に応じて出力を制御しながらマイクロ波を照射できるように反応溶液の加熱手段とともに、該反応溶液を外部強制冷却可能な手段を有し、反応温度の精密制御を可能にしたことを特徴とするマイクロ波化学反応装置(特許文献5)、中空構造の内部を冷媒が循環する冷却部を有する化学反応装置であって、前記冷却部はマイクロ波吸透過性の材質で作られており、且つ冷媒としてマイクロ波透過性の液体冷媒を使用することを特徴とするマイクロ波化学反応装置(特許文献6)を提言した。
【0005】
ところで、マイクロ波化学反応装置において、熱電対等の金属製機器をマイクロ波電磁界中に挿入した場合は、異常加熱を生じ、ケーブル部の放電等が起こり満足な測定ができないことが指摘されている(特許文献7)。
【特許文献1】特開平11−21127
【特許文献2】特開2003−292594
【特許文献3】特開2003−4544
【特許文献4】特開2002−113349
【特許文献5】WO2005/102510
【特許文献6】WO2005/113133
【特許文献7】特開2002−79078
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述のとおり、マイクロ波電磁界中に撹拌軸や熱電対等の金属機器が設置された場合、マイクロ波に照射により異常加熱を生じることが知られている。特に、産業用の高出力型装置においては、高出力のマイクロ波が照射されるため、切実な問題である。また、マイクロ波のエネルギーが被加熱物に伝達される前に金属棒の加熱に消費され、その分エネルギーの利用効率が下がるという問題もある。
【0007】
ところで、マイクロ波援用合成において再現性と精度を高めるためには、均一混合物の均一加熱パターンを得ることが必須である。しかし、空間照射方式においては、マイクロ波により加熱される箇所は上面に限定されるため、加熱ムラが生じやすい。そしてこの問題は、反応容器の容量が増えるほど顕著となるといえる。また、加熱された金属機器の周辺部分だけ異なる条件で加熱されることとなるので、均一加熱が妨げられるという問題もある。
【0008】
さらには、空中照射方式において、複数の導波管を反応容器の空間部に設置する場合、一の導波管から放射されたマイクロ波が他の導波管の反射波となるといった問題もある。
【0009】
本発明は、上記課題を解決することで、安全性に優れ、しかも、加熱効率が高く、加熱ムラが少ないマイクロ波化学反応環境を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
発明者は、空間部に位置する撹拌軸や熱電対等の金属機器が高温になるという安全性の課題を解決すべく、積極的に液中照射方式を採用した。図6は、空中照射方式と液中照射方式の比較イメージである。
液中照射方式の場合、マイクロ波は被加熱物に直接照射されるため、撹拌軸等に高出力のマイクロ波エネルギーが直接作用することを防ぐことができる。マイクロ波が誘電体に進入すると、熱に変化して急激に強度が弱くなるので、液中の金属棒への作用は極めて限られたものとなるからである。例えば、25℃の水の場合、わずか1.3cmでマイクロ波の電力密度が1/2に減衰することが知られている。
【0011】
また、発明者は、液中照射方式を前提とした構成とすることで、反応容器の設計度の自由を高めることをも可能とした。具体的には、空間照射方式の場合、反応容器に保持された被加熱物を加熱するためのマイクロ波照射位置(または導波管の接続位置)は被加熱物の上面に限定されるため、マイクロ波照射面積(伝熱面積)は制限される。この点、液中照射方式であれば、導波管の接続位置を被加熱物と直に接する場所とすればよく、マイクロ波照射位置の制限は緩和されることとなる。
また、複数の導波管を設置した場合にも、空間部での反射が無いため、他の導波管の反射波の影響を低減することができ、電波漏れのおそれが少ないという効果もある。
なお、従来のキャビティー型と比べ、装置全体の大きさを小さくすることができ、電波漏れのおそれが低いことは言うまでもない。
【0012】
また、液中照射のために設けた窓の構成にも工夫を施した。具体的には、(一)窓の面積を導波管の断面積と比べ広くすること、(二)窓の厚さを最適化すること、(三)窓をレンズ形状に構成することにより、次に述べる効果を奏することを可能とした。
(一)誘電体窓の面積を導波管の断面積と比べ広くすることにより、マイクロ波照射面積(伝熱面積)が大きくなり、単位面積当たりのマイクロ波投入エネルギーを低下することができる。その結果、被加熱物に対してマイクロ波を均一に照射することが可能となり、加熱ムラの問題を改善できる。但し、単に面積を広くすればよいという訳ではなく、電磁界の均一性を考慮するのが望ましい。
一般に誘電体中でのマイクロ波の波長は、空気中と比較して1/√ε(ε:誘電体の誘電率)だけ短縮される。例えば、電子レンジ等で使用される2.45GHzの周波数の場合、空気中での波長は約12cmであるが、誘電率ε≒2のテフロン(登録商標)中では約8cmとなり、電界強度の高い場所と低い場所の間隔が狭くなる(例えば、空中照射では約3cmであった間隔が、液中照射では約2cmとなる)。すなわち、液中照射の場合、誘電体の窓が直接被加熱物に接触しているため、電界の高い場所と低い場所の間隔が狭い状態で被加熱物にマイクロ波を照射することができ、加熱ムラの問題は改善される。
(二)誘電体窓の厚さを最適化することで、誘電体窓から被加熱物を見たインピーダンスと、誘電体窓からマグネトロン側を見たインピーダンスの整合行い、マイクロ波を効率的に被加熱物に供給することができる。マイクロ波透過材の材質がテフロンであり、被加熱物が水であり、水と接するテフロンの断面積が90×110mmである場合の電磁界解析ソフト(KCC社マイクロストライプス)を用いたシミュレーション結果では、誘電体窓の厚さを50〜60mmの範囲で調整することが望ましいことが分かった。なお、誘電体窓の厚さは、被加熱物の特性、および被加熱物と接する窓の断面積により、適宜最適するものであるが、その際は、反射波がどのぐらい生じるかを指標とするのがよい。
(三)窓を平面とした場合、被加熱物に垂直にマイクロ波が照射されることとなるが、インピーダンスの急激な変化があるため、照射されたマイクロ波の反射率が高く加熱効率が悪い。この点、窓の形状をレンズにすることにより、被加熱物に斜め方向からマイクロ波が照射されることとなり、インピーダンスの変化がマイルドとなり、加熱効率がよくなる。また、レンズ形状を導波管側に構成した場合には、マイクロ波発信器への高周波電力の反射が軽減されるという効果もある。
【0013】
すなわち、第1の発明は、導波管からのマイクロ波を照射するためのマイクロ波透過材を有するマイクロ波化学反応容器において、前記マイクロ波透過材の面積は導波管の断面積よりも広く、規定量の被加熱物投入時にその全面が被加熱物と接触状態となる位置にあり、該外側に導波管の内径と同寸の開口部を構成するようマイクロ波漏洩防止部材で覆ったことを特徴とするマイクロ波化学反応容器である。
第2の発明は、第1の発明において、前記開口部と前記マイクロ波透過材の被加熱物側の面との面積比が概ね1.3倍以上となるよう構成したことを特徴とする。
第3の発明は、第1または2の発明において、容量が500ml以上であることを特徴とする。
第4の発明は、第1、2または3の発明において、前記マイクロ波透過材の厚みが、特定の被加熱物に最適な厚みであることを特徴とする。
第5の発明は、第1ないし4のいずれかの発明において、前記マイクロ波透過材の一方の面を、反応容器の内側でマイクロ波を収束させるレンズ形状とすることを特徴とする。
第6の発明は、第1ないし4のいずれかの発明において、前記マイクロ波透過材の一方の面を、反応容器の内側でマイクロ波を発散させるレンズ形状とすることを特徴とする。
第7の発明は、第1ないし4のいずれかの発明において、前記マイクロ波透過材の一方の面を、反応容器内の被加熱物へのマイクロ波照射角が10〜85°となる傾斜面とすることを特徴とする。
第8の発明は、第5、6または7の発明において、反応容器の被加熱物貯留部分の形状が球ないしは円筒であり、前記マイクロ波透過材の一方の面が反応容器を環状または円弧状に覆うことを特徴とする。
第9の発明は、第5ないし8のいずれかの発明において、前記マイクロ波透過材の一方の面が反応容器の外側の面であることを特徴とする。
第10の発明は、第1ないし9のいずれかの発明において、前記マイクロ波透過材が複数設けられたことを特徴とする。
第11の発明は、第10の発明において、複数のマイクロ波透過材が反応容器の中心部を挟んで点対称に設けられたことを特徴とする。
第12の発明は、第1ないし11のいずれかのマイクロ波化学反応容器と、マイクロ波を発振するマイクロ波発振器と、該マイクロ波発信器と前記マイクロ波透過材の開口部とを接続する導波管と、を備えたマイクロ波化学反応装置である。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、安全性に優れ、しかも、加熱効率が高く、加熱ムラが少ないマイクロ波化学反応環境を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
本発明のマイクロ波化学反応容器は、導波管に接続してマイクロ波を照射するための窓を有しており、窓の面積は導波管の断面積よりも広く、規定量の被加熱物投入時にその全面が被加熱物と接触状態となる位置にあり、その外側に導波管の内径と同寸の開口部を構成するようマイクロ波漏洩防止部材で覆われている。
図1は、本発明の反応容器の特徴を説明するための側面断面図である(なお、原料供給口と被加熱物取出口等は省略している)。同図に示すように、容器本体1には、被加熱物2が注入されており、容器本体1の側部には被加熱物2と全面が接触する位置にマイクロ波透過材3からなる窓が設けられている。窓の外部側の面は、公知のマイクロ波漏洩防止部材4で覆われており、開口部の面積が導波管5の断面積と同じとなるよう構成されている。マイクロ波透過材3とマイクロ波漏洩防止部材4は必ずしも接触させる必要はなく、同図(c)のごとく、テーパー形状としてもよい。マイクロ波発信器7から照射されたマイクロ波は、導波管5を通り、窓を通過して、被加熱物2に照射される。
【0016】
容器本体1に形成するマイクロ波照射用の窓は、マイクロ波を吸収しないマイクロ波透過材3で構成する。マイクロ波透過性の材料としては、例えば、石英やポリテトラフルオロエチレン等をあげることができる。本発明においては、被加熱物が窓の全面と直接触れた状態で使用されるものであるから、被加熱物が漏れないようにシールすることが必須である。
【0017】
マイクロ波照射用の窓は、反応容器に複数箇所設けるのが好ましい。被加熱物の均一加熱を実現するためには、一つの窓から超高出力のマイクロ波を照射するよりも、複数箇所から分散した方がよいからである。
ここで、従来の空中照射方式においては、複数の導波管によりマイクロ波を導くと、一の導波管から照射されたマイクロ波が他の導波管に進入し、加熱効率の低下やマイクロ波発信器の寿命低下を引き起こすことが考えられるが、液中照射放射方式においては、そのような心配はない(図6参照)。さらには、マイクロ波の導波管への進入によりインピーダンス整合器(スリースタブチューナー)で整合の調整が極端に難しくなるという問題についても、本発明により解決することができる。
【0018】
ところで、空中照射方式においては、マイクロ波により加熱されるのは液面から所定の距離の範囲が中心となる。従って、充分に撹拌を行わないと、空中照射方式では時間の経過とともに上面の温度が底面と比べ高温となる。
この点、液中照射方式においては、窓を設けた箇所から被加熱物にマイクロ波を照射することができ、さらに窓を複数設ける構成においては、複数箇所から被加熱物にマイクロ波を照射できるので、空中照射方式と比べ有利な効果を奏することができる。
【0019】
空中照射方式と液中照射方式との加熱効率の差は、反応容器の容量が大きくなるに伴い大きくなる。マイクロ波化学反応を大容量の容器で行うと、反応溶液の温度が上下に波打つハンチング現象を起こすことが知られており、そのため、反応容器の外部に装着したジャケット等により、外部強制冷却することが行われている。ここで、空中照射方式の場合、先に述べたように、被加熱物の上面が加熱されることとなるが、冷却は反応容器の全体を対象とするため、被加熱物を強く撹拌する必要が生じる。しかし、数十mlクラスの容器であればまだしも、数リットルクラスの容器では、撹拌により熱を均一な状態とすることは難しい。
この点、本発明は、大型の反応容器に適したものである。例えば、ISM周波帯のマイクロ波(2.45GHz)で利用する導波管の断面積はJIS規格で110×55mmとなるが、本発明では、導波管の断面積と比べ、被加熱物側の窓の断面積が広く構成する必要があり、仮に反応容器が筒状であるとすると、反応容器の直径は少なくとも110mm以上、高さは55mm以上となり、そうすると容器の容量はπr×高さ≒522ml以上となる。すなわち、本発明の反応容器は、500ml以上で有利な効果を奏し、撹拌軸や原料供給口等の設置スペースを考慮すると、反応容器の容量が1リットル以上の場合に、特に優れた効果を奏するものである。
【0020】
図2は、誘電体窓を管状に構成した実施態様を示している。同図において、容器本体1は、筒状の形状であり、容器本体の内周壁を覆うように筒状のマイクロ波透過材3が嵌合されている。容器本体1の側面には導波管5の断面積と同じ面積の開口部6が形成され、窓を構成している。この実施態様において、例えば、管径が150mm(円周約471mm)、マイクロ波透過材3の高さが110mmの場合、マイクロ波透過材の断面積は110×470mmとなる。マイクロ波透過材3に接続される導波管の断面積が110×55mmとすると、導波管の断面積と前記窓の被加熱物側の面との面積比は概ね1:8.5となる。
図3は、連続反応に適した管状の反応容器における実施態様を示している。図2に示すような筒状のマイクロ波透過材3を、管状容器11の長さ方向に複数併設した構成例である。この種の管状容器でマイクロ波透過材3を凹形状とした場合、容器の内周壁と同一Rで窓の面を構成すれば、反応容器の内周壁に凹凸を生じさせることなく、凹レンズを取り付けることができる。なお、取り付けるマイクロ波透過材3は、凹形状に限定されるものではなく、凸形状や傾斜面形状等であってもよい。
以上のような筒状ないしは管状容器においては、被加熱物との接触面積を増加し、より高レベルでの均一加熱が可能となる。
【0021】
本発明の反応容器において、マイクロ波透過材3の一面(両面でもよい)をレンズ形状にすることの技術的意義を説明する。マイクロ波透過材3が構成する好ましいレンズ形状としては、凹形状、凸形状、または傾斜面形状があげられる。被加熱物との接触面がレンズ形状であり、窓の屈折率と比べ被加熱物の屈折率が大きい場合の例で説明する(図4参照)。
凹形状においては、導波管から照射されたマイクロ波が反応容器の内壁面と近い距離に収束されることとなり、他の窓から照射されたマイクロ波の干渉は最小限とすることができる。また、マイクロ波が収束することにより、スーパーヒート現象が起こりやすくなり、より高いマイクロ波効果を引き出すことが可能になると考えられる。一方で、凹形状とした場合、加熱ムラが生じやすいので、好ましくは複数のマイクロ波透過材を等間隔に配置し、より好ましくは3箇所以配置することで、複数箇所から分散して加熱を行う構成とするのがよい。さらには、後述するようにマイクロ波は所定の照射角で照射するのが効率的であり、被加熱物に斜め方向からマイクロ波が照射されることにより加熱効率を高めることができる。
傾斜面形状においては、被加熱物に斜め方向からマイクロ波が照射されることにより加熱効率を高めることができる。傾斜面の方向は、反応容器の形状に応じて、上傾斜または下傾斜を選択することができ、反応容器の設計の自由度を高めることができる。
凸形状においては、導波管から照射されたマイクロ波が反応容器内で発散される。すなわち、マイクロ波エネルギーを発散させることによりマイクロ波の照射体積を増加することができるので、加熱ムラが生じにくく、均一加熱を実現することができる。また、被加熱物に斜め方向からマイクロ波が照射されることにより加熱効率を高めることができる。
【0022】
好ましいマイクロ波の照射角は、被加熱物の種類等により一概に言えないが、通常液面に垂直の線からの角度で10°〜85°程度であり、好ましくは20°〜80°程度、より好ましくは30°〜70°、更に好ましくは40〜°65°程度である。そのため、当該好ましい照射角により効率的に加熱できるように、窓が構成するレンズ形状を適宜設計する。
【0023】
また、マイクロ波透過材3の一方の面で構成するレンズ形状は、導波管側(外部側)に、設けてもよい(図5参照)。導波管側に傾斜面形状、凹形状、または凸形状を設けることにより、導波管内における空気中からマイクロ波透過材3へのインピーダンスの変化が徐々に起こるため、マイクロ波発信器7への高周波電力の反射は軽減されることになり、マイクロ波発信器7の寿命を延ばすとことができ、しかも上述の被加熱物側をレンズ形状とした場合の効果を奏することができる。
【0024】
本発明の反応容器は、原料供給口、被加熱物取出口が設けられている。原料供給口は一つでもよいが、連続反応等を考慮すると、反応用に当初の原料を投入することができるようにした第1の原料供給口と、予備容器若しくは他の反応容器から原料若しくは他の反応物を供給できるようにした第2の原料供給口の2つを有するのが好ましい。さらに複数の原料化合物を連続的に直接反応容器に供給したい場合には、第2の原料供給口を複数設けてもよい。通常原料供給口は反応容器の上部若しくは側部の上部若しくは側部の上側に設けられる。第1および第2の原料供給口の2つを有する場合、その設置箇所は目的が達成されるものである限り特に限定されないが、第1の原料供給口は反応容器の上部に設置するのが好ましく、第2の原料供給口は反応容器の上部若しくは側部何れかが好ましい。オーバーフロー方式で複数の反応器を連結して使用できるようにするときは、側部の上側がより好ましい。また、側部に設ける際、側面に直角もしくは側部円周の接線方向等どのように設けてもよいが、供給される原料の混合効率などからは側部円周の接線方向が好ましい。
また、その他通常の工業用化学反応容器が有する溶媒蒸気凝縮用コンデンサー、不活性ガス導入用ノズル、ガス排出口および被加熱物抜取口等を必要に応じて適宜備えることもできる。
【0025】
マイクロ波発振器は、主にISM周波数帯に該当する2.45GHzのマイクロ波を発生するマグネトロンを使用する。一般に電子レンジ用では単体出力で、500W〜1kWと言われているが、本発明の装置は工業用であるため、1.5kW以上のマグネトロンを使用し、さらに高出力を得るために複数のマグネトロンを用いることを前提としている。
マイクロ波の照射は、連続照射のみならずパルス照射ができることが好ましい。パルス照射することにより通常の加熱法では得られない効果が得られることもあるため、パルス幅と間隔を可変で照射する機能を設けるのがよい。
【0026】
導波管は、マイクロ波が外部に漏れないような素材(例えば、ステンレス製、アルミニウム製など)であればよく、公知の導波管が利用できる。導波管の内径寸法は国内または国際規格で定められており、例えば、マイクロ波の周波数帯が2.45GHzの場合における方形導波管のJIS規格はWRJ−2(110×55mm)となる。
【0027】
反応温度を一定の範囲内に保つ必要がある場合においては、高出力のマイクロ波を照射しながら、反応物を冷却する必要がある。特に、選択した化学反応が発熱反応である場合、マイクロ波照射をOFFにした場合でも自己発熱により自然に反応が進行し、熱暴走につながる危険性がある。
そのため、特許文献5および6に開示されるように、内部を冷媒が循環するジャケットや冷却部で反応容器を覆い、反応容器の温度を制御することが行われる。本発明では、液中照射方式を採用しているため、ジャケット等にも開口部ないしは窓を設ける必要がある。
なお、反応容器が高圧・腐食などにより破損した場合には、ジャケット等が安全カバーの役割を果たすことが期待される。
【0028】
本発明の反応容器および装置を用いたマイクロ波化学反応の種類としては、(1)転移反応、(2)置換反応、(3)付加反応、(4)環化反応、(5)還元反応、(6)酸化反応、(7)ラセミ化反応、(8)開裂反応および脱保護基反応、(9)エステル化反応、(10)合成樹脂の改質反応等が例示されるが、これらに限定されず種々の化学反応に適応することができる。
【0029】
以下では、本発明の詳細を実施例で説明するが、本発明は実施例によって何ら限定されるものではない。
【実施例1】
【0030】
図7に示すごとく、マイクロ波が3方向から照射可能な装置を用いて水を被加熱物とした加熱試験を実施した。反応容器は金属製10リットル釜(SUS316)であり、ジャケット釜構造となっており、急速降温が可能となっている。また、図示していないが、反応容器の上部には仕込みマンホール、溶媒蒸気凝縮用のコンデンサー、温度センサー挿入用ノズル、不活性ガス導入用ノズルを設け、下部には緊急時或いは切り替え洗浄時に反応基質を抜き出せるノズル(抜き取り口)が設けてある。内部には、回転数が可変なモーターおよび回転軸を介して回転駆動される撹拌羽根が設けてある。
【0031】
反応容器の側面には、テフロン(登録商標)製の誘電体窓が3つ設けられている。3つの窓は全て同一形状であり、厚みは50mm、被加熱物との接触面の曲率はR100であり、窓の被加熱物との接触面の断面積は90×110mmである(図8参照)。ここで、出願人は、図9に示す5つのパターンについて、電磁界解析ソフト(KCC社マイクロストライプス)を用いてシミュレーションを行ったところ(厚み50mmを前提)、伝熱面積の大きさと電磁界の均一性のバランスがよいのは窓の断面積が導波管の断面積の約1.34〜1.82倍の範囲であり、最も好ましい断面積は約1.64倍(90×110mm)であったことを根拠とする。
【0032】
導波管は幅と高さの比率が2:1の標準矩形導波管であり、導波管の断面積は、55×110mmである。マイクロ波の周波数は2.45GHzであり、シングルモード(TE01)、出力は4.5kW(1.5kW×3)である。導波管は反応容器に設けられた3つの窓に接続されている。
反応容器内に水6.5kgを注入したところ、3つの窓の全面積が被加熱物である水と接触状態となった。この状態で、30℃の水を10℃温度昇温させるために必要なマイクロ波の照射時間は4.5kW×70秒であり、加熱効率86%を達成することができた。
【実施例2】
【0033】
実施例1の反応容器において、誘電体窓の厚みを20mmとし、テトラエチレングリコールを被加熱物として加熱試験を実施した。テフロン(登録商標)製の誘電体窓が反応容器の側面に3つ設けられ、各窓の被加熱物との接触面の曲率はR100であり、被加熱物との接触面の断面積は90×110mmである点は、実施例1と同じである。
反応容器内にテトラエチレングリコールを6.5kg注入したところ、3つの窓の全面積が被加熱物である水と接触状態となった。この状態で、30℃のテトラエチレングリコールを10℃温度昇温させるために必要なマイクロ波の照射時間は4.5kW×38秒であり、加熱効率83%を達成することができた。
本実施例により、テトラエチレングリコールを被加熱物とした場合には、水を被加熱物とする場合と比べ、誘電体窓の厚みを薄くできることが確認できた。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】本発明の反応容器の特徴を説明するための側面断面図である
【図2】誘電体窓を管状に構成した実施態様を示す側面断面図および平面断面図である。
【図3】管状の反応容器における側面断面図である。
【図4】反応容器に設けた窓の内部側をレンズ形状とした場合の側面断面図である。
【図5】反応容器に設けた窓の外部側をレンズ形状とした場合の側面断面図である。
【図6】空中照射方式と液中照射方式との相違点を説明するための側面断面図である。
【図7】実施例1の装置の要部平面図である。
【図8】実施例1の装置におけるマイクロ波透過材および導波管の接続状況を説明するための斜視図である。
【図9】実施例1の装置におけるマイクロ波透過材の最適断面積算出のシミュレーション結果(上が正面図、下が導波管を含む側面断面図)である。
【符号の説明】
【0035】
1 容器本体
2 被加熱物
3,33,34 マイクロ波透過材
4 マイクロ波漏洩防止部材
5 導波管
6 開口部
7,71〜74 マイクロ波発信器
8 撹拌軸
9 温度計
11 管状容器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
導波管からのマイクロ波を照射するためのマイクロ波透過材を有するマイクロ波化学反応容器において、
前記マイクロ波透過材の面積は導波管の断面積よりも広く、規定量の被加熱物投入時にその全面が被加熱物と接触状態となる位置にあり、該外側に導波管の内径と同寸の開口部を構成するようマイクロ波漏洩防止部材で覆ったことを特徴とするマイクロ波化学反応容器。
【請求項2】
前記開口部と前記マイクロ波透過材の被加熱物側の面との面積比が概ね1.3倍以上となるよう構成した請求項1のマイクロ波化学反応容器。
【請求項3】
容量が500ml以上である請求項1または2のマイクロ波化学反応容器。
【請求項4】
前記マイクロ波透過材の厚みが、特定の被加熱物に最適な厚みであることを特徴とする請求項1、2または3のマイクロ波化学反応容器。
【請求項5】
前記マイクロ波透過材の一方の面を、反応容器の内側でマイクロ波を収束させるレンズ形状とすることを特徴とする請求項1ないし4のいずれかのマイクロ波化学反応容器。
【請求項6】
前記マイクロ波透過材の一方の面を、反応容器の内側でマイクロ波を発散させるレンズ形状とすることを特徴とする請求項1ないし4のいずれかのマイクロ波化学反応容器。
【請求項7】
前記マイクロ波透過材の一方の面を、反応容器内の被加熱物へのマイクロ波照射角が10〜85°となる傾斜面とすることを特徴とする請求項1ないし4のいずれかのマイクロ波化学反応容器。
【請求項8】
反応容器の被加熱物貯留部分の形状が球ないしは円筒であり、
前記マイクロ波透過材の一方の面が反応容器を環状または円弧状に覆うことを特徴とする請求項5、6または7のマイクロ波化学反応容器。
【請求項9】
前記マイクロ波透過材の一方の面が反応容器の外側の面であることを特徴とする請求項5ないし8のいずれかのマイクロ波化学反応容器。
【請求項10】
前記マイクロ波透過材が複数設けられた請求項1ないし9のいずれかのマイクロ波化学反応容器。
【請求項11】
複数のマイクロ波透過材が反応容器の中心部を挟んで点対称に設けられたことを特徴とする請求項10のマイクロ波化学反応容器。
【請求項12】
請求項1ないし11のいずれかのマイクロ波化学反応容器と、マイクロ波を発振するマイクロ波発振器と、該マイクロ波発信器と前記マイクロ波透過材の開口部とを接続する導波管と、を備えたマイクロ波化学反応装置。


【図7】
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【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2007−326013(P2007−326013A)
【公開日】平成19年12月20日(2007.12.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−158018(P2006−158018)
【出願日】平成18年6月7日(2006.6.7)
【出願人】(000180313)四国計測工業株式会社 (13)
【Fターム(参考)】