説明

マクファーソン・ストラットを備えた車両の車体構造

【課題】車両の車体構造において、マクファーソン・ストラットにおける下側の長手部材やフェンダ・ベンチとの間の安定で強固な接合のために、公差を簡単に補正できるようにする。
【解決手段】マクファーソン・ストラット2は、上部連結領域8において、少なくとも一つの水平方向のフェンダ壁13、14を備える。フェンダ5には、対向壁10、12がフェンダ壁に対応して設けられる。マクファーソン・ストラット2とフェンダ5との間に、これらマクファーソン・ストラット2とフェンダ5との相対変位を許容することで、接合構造17、18を構成する前に長手方向であるX方向と横方向であるY方向との位置ずれを補正可能な空間16が設けられる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、請求項1の前提部に記載されているところの、マクファーソン・ストラットを備えた車両の車体構造に関する。
【背景技術】
【0002】
車両の前端部の車体構成においては、通常、下部の長手部材と、これに対応して、車両の上部の外側に配置された、安定な構造の中空ビームとしてのオフセット構造のフェンダ・ベンチとが、車両の長手方向に沿って向かい合った状態で設けられている。マクファーソン・ストラットの構成要素は、ドームと、対応する長手部材に接続される下部接合領域と、対応するフェンダに接続される上部接続領域とを含み、これらの部材は安定に構成される。これらを接合するための、各種の形状の端部領域および接合技術が、一般に知られている。長手部材と、フェンダ/Aコラムの複合構造との間の公差の傾向によって、基本的に、配置と接合のための構造が予め定められる。これによって、車体の重要な機能的寸法が決められる。すなわち、車体の幅、配置、フロント端部/フェンダなどが決定される。一方、シャーシは、それ自体の要求にもとづいて配置され、それに応じて車体公差が調整される。このために、以下のことがよく知られている。すなわち、Z方向(垂直方向)の公差の補正と、X方向(車両の長手方向)および/またはY方向の固定を加味したY方向(横方向)の公差の部分的な補正とのための適切な接合配置を介して、それぞれマクファーソン・ストラットを接合することがよく知られている。三方向すべてについてマクファーソン・ストラットを総合的に自由に調整することが知られているが、その技術においては、公差の補正を特に大きくすることが求められる。たとえば、一体化(シャーシへの車体の接合)の後に懸架装置を調整することが求められる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明は、ストラット・フレームの領域における車両の一般的な車体構成をさらに発展させて、マクファーソン・ストラットにおける下側の長手部材やフェンダ・ベンチとの間の安定で強固な接合のために、公差を簡単に補正できるようにすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0004】
この目的は、マクファーソン・ストラットが、上部接続領域において、ほぼ水平方向のフェンダ接合壁を少なくとも有することによって達成される。これに基づく自由空間によって、マクファーソン・ストラットとフェンダ系とのX方向(長手方向)およびY方向(横方向)の位置の不整合が、両者を接合する前に、両者の接触面における相対的な変位によって解消される。
【0005】
つまり、フェンダ/Aコラムの複合構造によって、X方向とY方向の位置ずれを補整することができる。
【0006】
本発明の実施の形態によれば、マクファーソン・ストラットの底部領域においてほぼ垂直方向に形成された側部支持壁が、下側の長手部材の側部支持壁に接続される。このため、両者を接合する前に、Z方向(垂直方向)の公差を補正することができる。
【0007】
よって、全体的に、マクファーソン・ストラットを全方向に位置調整することができる。かつ、シャーシを、車体のフェンダ/Aコラムの複合構造の幅によって規定される寸法や、前端部/フェンダの配置によって規定されるフェンダ位置の寸法などの機能的な寸法の影響を受けずに設計することができる。これにより、懸架装置の調整などが不要になるなど、公差の修正作業を低減することができる。
【0008】
本発明の有利な実施の形態によれば、箱形の中空のビームの形態のフェンダが、頂壁と、底壁と、側壁とを有する。側壁は、傾斜構造であっても差し支えない。側壁は、車両長手方向の中心軸に沿ったフェンダ内壁として機能する。マクファーソン・ストラットは、その上部領域において、断面Z形に形成される。すなわち、Z形を構成する一対の脚部は、フェンダの壁に対応する。その一方はフェンダの底壁に連結され、他方はフェンダの頂壁に連結される。フェンダの頂壁は実質的に水平方向に配置されてコンタクト・ウエブを形成し、脚部はコンタクト・ウエブに対し下側から接するように配置されて接合される。フェンダの壁とマクファーソン・ストラットにおけるZ形のベース壁の内面との間には空隙が形成され、この空隙は、Y方向への位置ずれを補正するための自由空間として存在する。ギャップの幅は、Y方向に発生し得る最大の位置ずれを補正するための相対的な変位に対応した大きさとされる。この部分の接合と固定は、Z形を構成するためにZ方向にオフセットした二つの面で行われる。このため、X方向とY方向の公差を補正したうえで、作用するモーメントに対する剛性を確保することができる。
【0009】
さらなる実施の形態においては、横断面が中空の矩形状に形成された長手部材が用いられる。この長手部材は、側部材の上壁と、車両の縦方向に配置された中間長手部材としての側部材の内壁と、車両の外面に向く状態で配置された側部材の外壁とを有する。マクファーソン・ストラットは、その底部領域において、横断面Z形に形成されている。すなわち、Z形を構成する二つの脚部は、長手方向の支持壁部を形成するものであるが、ストラットは、一方の脚部が側部材の内壁に沿って位置するとともに、他方の脚部が側部材の外壁に沿って位置する。他方の脚部は、車両の長手方向の中央部からのほぼ垂直方向の部材を介して、側部材の外壁に配置される。そして、その部分でそれぞれ連結される。側部材の上壁と、Z形を構成するためにマクファーソン・ストラットにおいて水平方向または斜め方向に形成されたベース壁との間には、Z方向の位置ずれを補正するための空間が設けられている。この空間は十分大きく形成されており、それによって、Z方向に生じうるすべての公差を補正することができる。Z形部材の接合と固定は、作用するモーメントに対する剛性を確保するように配置された二つの面において、Y方向に関して適正となるように行われる。
【0010】
マクファーソン・ストラットを安定的かつ剛性を有した状態でデザインするために、これを軽量構造とすることが提案される。すなわち、マクファーソン・ストラットを鋳造構造、好ましくはアルミニウム・ダイキャスト構造とすることができる。
【0011】
また、Aコラムに連結されたフェンダおよび/または長手部材は、押出し成形の形態または中空の支持部材にて構成されるとともに、特にアルミニウム系の材料によって形成される。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、マクファーソン・ストラットにおける下側の長手部材やフェンダ・ベンチとの間の安定で強固な接合のために、公差を簡単に補正することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】車両の前部マクファーソン・ストラットの左側の車体構造の部分の立体図である。
【図2】図1におけるA部であって車両の外側を向いた部分の拡大図である。
【図3】図2におけるB−B線に沿った概略断面図である。
【図4】本発明の第1の実施の形態における図1のC部を示す拡大断面図である。
【図5】本発明の第2の実施の形態における図4に対応する部分の図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
図1には、車両の車体構造1の立体図が示されており、ここでは左前部のマクファーソン・ストラット2が示されている。マクファーソン・ストラット2は、中央ドーム3を有するとともに、一端側が下部長手部材4に向けて下がるように構成され、かつ他端側が、Aコラム6に接合されるフェンダ5の外側の上部に向かうように構成されている。
【0015】
マクファーソン・ストラット2は、長手部材4の下側端部領域7に接続されるとともに、フェンダ5の上部連結領域8に接続されている。ここでは、マクファーソン・ストラット2はアルミニウム製のダイキャスト部材である。縦方向のビーム4は、アルミニウムの押出し成形品によって中空矩形状などの断面形状となるように形成されている。フェンダ5は、シートメタルによって、連結構造を呈する中空部として形成されている。
【0016】
図2と図3には、マクファーソン・ストラット2とフェンダ5との接続構造が詳細に示されている。特に図3に示されるように、フェンダ5は、箱形の中空フレームとして構成されており、フェンダ頂壁9を備えている。フェンダ頂壁9は、ここでは中空の受け座として用いられている。ただし、図2においては詳細には示されていない。さらにフェンダ5は、フェンダ下部壁10と、横方向の、車両縦方向の中心点に対しわずかに傾斜して位置した、フェンダ内壁11とを有する。フェンダ頂壁9と、フェンダ内壁11の頂部の曲げ端部とによって、実質的に水平方向に配置されたコンタクト・ウエブ12が形成されている。
【0017】
マクファーソン・ストラットは、断面で示されている上部連結領域8に設けられており、フェンダ壁としてのオフセット構造の二つの平行な脚部13、14と、中間のベース壁15とによってZ形に形成されている。下側の脚部13はフェンダ下部壁10の下側に重ねられ、上側の脚部14はコンタクト・ウエブ12の下側に重ねられて、フェンダ5に取り付けられている。フェンダ内壁11とベース壁15との間の空間は、ギャップ16として形成されている。このため、脚部13、14を、破線17、18によって概略を示すように接合して固定する前に、Y方向の位置ずれ(矢印19)と、長さ方向の変位であるところのX方向の位置ずれとを補正することができる。
【0018】
下側端部領域7におけるマクファーソン・ストラット2と下部長手部材4との接合構造が、図4と図5において概略的に示されている。両図は、それぞれ、矩形断面の下部長手部材4を示し、この下部長手部材4は、長手部材の上壁20と、車両の長さ方向に配置された、長手部材の内壁21と、車両の外面側に配置された、長手部材の外壁22とを有する。図4では、縦方向のビーム溶接構造部において、追加的なパネルが、接合ウエブ23として、長手部材の外壁22から垂直方向に沿った上向きに突出するように配置されている。図5では、適当な接合ウエブ23が、変形実施例として、長手部材の内壁21から垂直方向に沿った上向きに突出するように配置されている。
【0019】
マクファーソン・ストラット2の下側端部領域7は、Z形に形成されている。図4においては、外側から、長手部材の内壁21の位置で下向きに突出するZ形脚部24に向けて形成されている。変形実施例を表す図5においては、下向きに突出するZ形脚部24は、長手部材の外壁22に接している。各実施例においては、脚部24は、位置ずれ補正のためにファスナ25によって固定されている。さらに、上側のZ形脚部領域26は、それぞれ、接合ウエブ23に接合され、同様にファスナ25によって固定されている。図4では、Z形のためのベース壁27は水平方向であり、変形実施例の図5ではベース壁27は斜め向きである。いずれの場合においても、長手部材の上壁20とZ形のためのベース壁27との間には、Z方向の位置ずれを補正するための相対変位(矢印)を許容しうる空間28が形成されている。
【符号の説明】
【0020】
2 マクファーソン・ストラット
4 下部長手部材
5 フェンダ
7 下側端部領域
8 上部連結領域
16 ギャップ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
マクファーソン・ストラット(2)の下部領域に、下部長手部材(4)が設けられるとともに、この下部長手部材(4)とは反対側の上部領域に、車両の外部に向けて配置されるフェンダ(5)が設けられ、マクファーソン・ストラット(2)が、ドーム(3)に続いて形成されかつ下部長手部材(4)に接続される下側端部領域(7)と、フェンダ(5)に接続される上部連結領域(8)とを備えた、車両の車体構造であって、
マクファーソン・ストラット(2)は、上部連結領域(8)において、少なくとも一つの水平方向のフェンダ壁(13、14)を備え、フェンダ(5)には、対向壁(10、12)がフェンダ壁に対応して設けられ、
マクファーソン・ストラット(2)とフェンダ(5)との間に、これらマクファーソン・ストラット(2)とフェンダ(5)との相対変位を許容することで、接合構造(17、18)を構成する前に長手方向であるX方向と横方向であるY方向との位置ずれを補正可能な空間(16)が設けられていることを特徴とする車両の車体構造。
【請求項2】
マクファーソン・ストラット(2)の下側端部領域(7)において、少なくとも一つの垂直方向の側部壁体(24、26)が設けられ、下部長手部材(4)には、側部壁体(24、26)に対応した長手方向の支持系を構成する対向壁部(21、23)が設けられ、側部壁体(24、26)が対向壁部(21、23)に連結され、マクファーソン・ストラット(2)と下部長手部材(4)との相対変位を許容することで、接合構造(25)を構成する前に垂直方向であるZ方向と長手方向であるX方向との位置ずれを補正可能な空間(28)が設けられていることを特徴とする請求項1記載の車両の車体構造。
【請求項3】
フェンダ(5)は、箱形の中空のビームとして形成されるとともに、フェンダ頂壁(9)と、フェンダ下部壁(10)と、側部に配置され、かつ必要に応じて傾斜され、車両の長手方向に沿った中間部材を構成するフェンダ内壁(11)とを備え、
マクファーソン・ストラット(2)は、上側の接合領域において横断面がZ字形に形成されて、Z字形を構成する二つの脚部(13、14)がフェンダ系の壁部を形成しており、かつ一方の脚部はフェンダ下部壁(10)へ、また他方の脚部はフェンダ頂壁(9)のベンチトップの水平方向への突出縁部(12)へ、それぞれ下側から配置されかつ接合構造(17、18)によって接合されており、
フェンダ内壁(11)と、マクファーソン・ストラット(2)におけるZ字形のためのベース壁(15)との間に、Y軸方向の位置ずれを補正するための自由空間としてのギャップ(16)が設けられていることを特徴とする請求項1または2記載の車両の車体構造。
【請求項4】
Z字形を構成する脚部(13、14)のための、Z方向に配置された接合および固定部材(17、18)は、捩り耐性のために、Z方向に沿った二段階の位置に配置されていることを特徴とする請求項3記載の車両の車体構造。
【請求項5】
下部長手部材(4)は、矩形などの横断面構造を有した中空のビームにて構成されるとともに、長手方向の部材である上壁(20)と、車両の長手方向の中心部に向かうように配置された側部内壁(21)と、車両の外側に向かうように配置された側部外壁(22)とを有しており、
マクファーソン・ストラット(2)は、下側端部領域(7)において横断面がZ字形に形成されて、Z形を構成する二つの脚部(24、26)が長手方向のビーム系の壁部を形成しており、かつ脚部(24、26)が接合部材(25)によって接合される側部内壁(21)と側部外壁(22)と垂直方向の接触ウエブ(23)とが車両の長手方向に配置されており、
長手方向の部材である上壁(20)と、マクファーソン・ストラット(2)において水平方向または斜め方向に形成された、Z字形のためのベース壁(27)との間に、Z方向への位置ずれの補正のための空間(28)が形成されていることを特徴とする請求項1から4までのいずれか1項記載の車両の車体構造。
【請求項6】
Z形のための脚部(24、26)を接合し固定する部材(25)は、捩り耐性のために、Y方向に沿った二つの面にオフセットして設けられていることを特徴とする請求項5記載の車両の車体構造。
【請求項7】
マクファーソン・ストラット(2)はアルミニウム・ダイキャスト構造であることを特徴とする請求項1から6までのいずれか1項記載の車両の車体構造。
【請求項8】
Aコラム(1)に連結されたフェンダ(5)と、長手部材(4)との少なくともいずれか一方は、押出し成形の形態で構成されるか、または中空の支持部材として構成されるとともに、アルミニウム材などの軽金属によって形成されていることを特徴とする請求項1から6までのいずれか1項記載の車両の車体構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−162182(P2011−162182A)
【公開日】平成23年8月25日(2011.8.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−25520(P2011−25520)
【出願日】平成23年2月9日(2011.2.9)
【出願人】(591006586)アウディ アクチェンゲゼルシャフト (34)
【氏名又は名称原語表記】AUDI AG
【住所又は居所原語表記】D−85045 Ingolstadt,Germany
【Fターム(参考)】