マクロファージ活性化を抑制するための医薬組成物、及びその使用
【課題】マクロファージの過剰な活性化に由来する疾患を治療するための、マクロファージの活性化抑制薬の提供。
【解決手段】化学式(I)
で示される化合物、その塩、或いはそのエステル誘導体。
【解決手段】化学式(I)
で示される化合物、その塩、或いはそのエステル誘導体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マクロファージ活性化の抑制における(−)−エピカテキン−3−O−β−D−アロピラノシドの使用に関し、特にはマクロファージ活性化症候群(MAS)の治療、炎症の治療又は抑制、及びマトリックスメタロプロテアーゼ−9(MMP−9)の発現の抑制における(−)−エピカテキン−3−O−β−D−アロピラノシドの使用に関する。
【背景技術】
【0002】
マクロファージは、組織において単球の分化により作られる白血球である。マクロファージは、病原菌又は細胞残屑を貪食することにより先天性免疫に関与し、又はリンパ球といった他の免疫細胞を刺激することで適応免疫を促して病原菌と戦う。
【0003】
大多数のマクロファージは、病原菌が侵入しそうな組織又は器官に集まる。マクロファージは、体内での存在箇所により、異なる名称を有する。例えば、肝臓に存在するマクロファージは、クッパー細胞と呼ばれる;脾臓に存在するマクロファージは、類洞内皮細胞と呼ばれる;骨に存在するマクロファージは、破骨細胞と呼ばれる;及び腎臓に存在するマクロファージは、メサンギウム細胞と呼ばれる。
【0004】
マクロファージの存在は動物体が病原菌の感染と戦うことの一助となるが、マクロファージの過剰な活性化(又は過度な高活性化)は、体の免疫システムの障害をもたらし得、種々の炎症性疾患(例えば、関節炎、肝炎、又は脾炎)を引き起こし、癌(例えば、肉腫、前立腺癌、膠芽細胞腫、メラノーマ、肺癌、膵臓癌、又は卵巣癌)さえも発生させる。例えば、このマクロファージの過剰な活性化は、マクロファージ活性化症候群(MAS)をもたらし得る。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
マクロファージの過剰な活性化が前述の種々の疾患を引き起こし得ることを考えると、マクロファージの過剰な活性化に由来する疾患を治療するために、マクロファージの活性化を効果的に抑制するための薬剤又は治療方法が必要とされる。
【0006】
本発明は、前述の需要により実施された試験の成果である。本発明者らは、(−)−エピカテキン−3−O−β−D−アロピラノシドが効果的にマクロファージの活性化を抑制し得、それゆえ、マクロファージの過剰な活性化に関連する疾患の治療に用いられ得ることを見出した。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の第一の目的は、マクロファージの活性化を抑制するための医薬組成物を提供することである。それは、有効量の活性成分及び薬学上許容し得るキャリアを含有する。該活性成分は、化学式(I)の化合物、該化合物の薬学上許容し得る塩、該化合物の薬学上許容し得るエステル、及びこれらの混合物からなる群より選択される。
【0008】
【化1】
【0009】
本発明の他の目的は、対象のマクロファージの活性化を抑制する方法を提供することである。それは有効量の前述の活性成分を該対象に適用することを含む。
【0010】
詳細な技術及び本発明のために実施された好ましい実施態様は、この技術分野における当業者が特許請求の範囲に記載された発明の特徴をよく理解できるように、添付された図面とともに後述の段落において記載される。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】ECAPによる、マクロファージにおける誘導型一酸化窒素合成酵素(iNOS)のmRNA発現抑制を示す、電気泳動像及び統計的カラム図である。
【図2】ECAPによる、マクロファージにおける誘導型一酸化窒素合成酵素のタンパク質発現抑制を示す、電気泳動像及び統計的カラム図である。
【図3】CCl4により誘導されたマウスの肝炎を示す、H&E染色像である。
【図4】CCl4により誘導されたマウスの肝炎を示す、シリウスレッド染色像である。
【図5】CCl4により誘導されたマウスの肝炎を示す、CD14の免疫染色像である。
【図6A】ECAPによる、II型コラーゲンにより誘導されたマウスの関節炎抑制を示す、写真である。
【図6B】ECAPによる、II型コラーゲンにより誘導されたマウスの関節炎抑制を示す、評価曲線図である。
【図7】ECAPによる、II型コラーゲンにより誘導されたマウスの関節炎抑制を示す、H&E染色像である。
【図8】ECAPによる、II型コラーゲンにより誘導されたマウスの関節炎に由来するマトリックスメタロプロテアーゼ−9の発現の抑制を示す、免疫組織化学的染色像である。
【図9A】ECAPによる、II型コラーゲンにより誘導されたマウスの関節炎に由来するマトリックスメタロプロテアーゼ−9及びIL−1βのmRNA発現の抑制を示す、電気泳動像である。
【図9B】ECAPによる、II型コラーゲンにより誘導されたマウスの関節炎に由来するマトリックスメタロプロテアーゼ−9のmRNA発現の抑制を示す、統計的カラム図である。
【図9C】ECAPによる、II型コラーゲンにより誘導されたマウスの関節炎に由来するIL−1βのmRNA発現の抑制を示す、統計的カラム図である。
【図10】ECAPによる、RANKLにより刺激されたマクロファージにおけるマトリックスメタロプロテアーゼ−9の遺伝子発現の抑制を示す、電気泳動像及び統計的カラム図である。
【図11】ECAPによる、RANKLにより刺激されたマクロファージにおけるマトリックスメタロプロテアーゼ−9のタンパク質発現の抑制を示す、電気泳動像及び統計的カラム図である。
【図12】ECAPによる、RANKLにより刺激されたマクロファージにおけるマトリックスメタロプロテアーゼ−9のタンパク質発現の抑制を示す、統計的カラム図である。
【図13A】ECAPによる、RANKLにより刺激されたマクロファージにおける核内NF−κBタンパク質の抑制を示す、EMSA電気泳動像である。
【図13B】ECAPによる、RANKLにより刺激されたマクロファージにおける核内NF−κBタンパク質の抑制を示す、統計的カラム図である。
【図14】ECAPによる、RANKLにより刺激されたマクロファージにおけるp65及びp−IκBαのタンパク質発現の抑制を示す、電気泳動像である。
【図15】ECAPによる、RANKLにより刺激されたマクロファージにおけるNFATc−1の発現の抑制を示す、タンパク質電気泳動像及びmRNA統計的カラム図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
特にことわらない限り、本文中で(特に後述の特許請求の範囲において)用いられる“一”、“該”又は同様の用語は、単数形式及び複数形式の両方を包含するように理解されるべきである。
【0013】
マクロファージは、種々の炎症性因子の刺激により活性化され得る。それには、物理的要因(例えば、温度及びUV)、化学的要因(例えば、酸及びアルカリ)、機械的要因(例えば、押出及び衝突)、生物的要因(例えば、リポ多糖体(LPS)、ウイルス感染、及び毒素)、又は自己免疫疾患等が含まれる。炎症反応は、免疫システムを刺激して、マクロファージの増殖及び活性化を促進するために大量のサイトカインを産生し得る。マクロファージはさらに、酸化窒素といったフリーラジカルを生成し、ウイルス、細菌、又は腫瘍細胞等を殺すといった、それに続く免疫反応をもたらす。しかしながら、前述のように、炎症反応が長い間続くと、マクロファージの過剰な活性化を引き起こし、種々の関連疾患をもたらし得る。本発明者らは、(−)−エピカテキン−3−O−β−D−アロピラノシド(以下、“ECAP”という)が効果的にマクロファージの活性化を抑制し得、マクロファージの過剰な活性化に関連する疾患の治療に用いられ得ることを見出した。
【0014】
したがって、本発明はマクロファージの活性化を抑制するための医薬組成物を提供する。それは、有効量の活性成分及び薬学上許容し得るキャリアを含有する。該活性成分は、化学式(I)の化合物、該化合物の薬学上許容し得る塩、該化合物の薬学上許容し得るエステル、及びこれらの混合物からなる群より選択される。
【0015】
【化2】
【0016】
好ましくは、該活性成分は、化学式(I)の化合物である。
【0017】
化学式(I)の化合物は、ECAPであり、シノブ属シダ(Davallia formosana)由来のものである。ECAPはマクロファージの活性化を効果的に抑制する作用を有するゆえに、マクロファージ活性化症候群を治療するために、及び炎症又は炎症関連疾患を治療又は抑制するために用いられ得る。マクロファージ活性化症候群(MAS)は、小児リウマチの罹患率及び死亡率の主要な要因であり、また、全身性若年性特発性関節炎(SJIA)及びエリテマトーデスに深く関与している。マクロファージ活性化症候群に罹患している患者は、発熱、肝脾腫大症、リンパ節腫脹、重度の血球減少、血液凝固障害、肝機能障害等の症状を有し得る。マクロファージ活性化症候群に関するメカニズム及び症状は、Grom et al.,Macrophage activation syndrome:advances towards understanding pathogenesis,Current Opinion in Rheumatology,2010.22:561−566に記載され、この内容の全体は参照により本明細書に取り込まれる。
【0018】
炎症反応が肝臓で生じ、長期間にわたって肝臓(すなわち、クッパー細胞)のマクロファージを過剰に活性化させ続けると、慢性肝炎を引き起こし得る。約20%の慢性肝炎患者が、肝線維症又は肝硬変を発症し、又は死亡さえする。一実施態様において、本発明の医薬組成物は、肝臓におけるマクロファージの活性化を効果的に抑制し得、及びさらに肝炎を抑制し得る。したがって、本発明の医薬組成物は、慢性肝炎、肝線維症又は肝硬変を含む肝炎を治療するために用いられ得る。
【0019】
関節腔において、重度かつ持続的な炎症反応は、マクロファージの過剰な活性化を引き起こし、関節炎を発症させ得る。関節炎は一般に、関節の異常な炎症に関連する疾患を意味する。臨床症状に基づき、関節炎は、変形性関節症、関節リウマチ、化膿性関節炎等といった種々のタイプに分類され得る。一実施態様において、本発明の医薬組成物は、骨(又は破骨細胞)におけるマクロファージの活性化を抑制し、及びさらに関節炎を抑制する効果を有するゆえ、関節炎、特に関節リウマチの治療に用いられ得る。
【0020】
他の観点において、炎症反応はマクロファージを刺激して、マトリックスメタロプロテアーゼ−9(MMP−9)を放出し得る。マトリックスメタロプロテアーゼ−9は、マトリックスメタロプロテアーゼファミリーに属し、コラーゲン及び細胞外基質を開裂及び分解する能力を有し、及び種々の疾患の発生に関与する。例えば、関節における重度かつ持続的な炎症反応は、マクロファージの破骨細胞への分化を誘導し得る。破骨細胞はさらにマトリックスメタロプロテアーゼ−9を放出し得、それは骨基質を分解し、骨にダメージを与え得る。加えて、マトリックスメタロプロテアーゼ−9は腫瘍細胞の増殖、遊走、及び浸潤に関与することが知られており、血管新生を制御し、及び細胞外基質を分解することで、腫瘍細胞の拡散を助長し得る。マトリックスメタロプロテアーゼ−9はまた、骨肉腫、肉腫、リンパ腫、前立腺癌、膠芽細胞腫、メラノーマ、肺癌、膵臓癌、卵巣癌、乳癌等といった腫瘍に関与する。マトリックスメタロプロテアーゼ−9と腫瘍形成との間の関係に関する情報は、Deryugina et al.,Matrix metalloproteinases and tumor metastasis,Cancer Metastasis Rev.,2006,25:9−34に記載され、この内容の全体は参照により本明細書に取り込まれる。
【0021】
後述の実施例に示されるように、本発明の医薬組成物は、マトリックスメタロプロテアーゼ−9の発現を効果的に抑制し得、そのために、マトリックスメタロプロテアーゼ−9に関連する疾患を治療又は抑制するために用いられ得る。例えば、該医薬組成物は、腫瘍細胞の増殖、遊走、及び/又は浸潤を抑制するために、及び腫瘍を治療するために用いられ得る。本発明の医薬組成物は特に、骨肉腫細胞、肉腫細胞、リンパ腫細胞、前立腺癌細胞、膠芽細胞腫細胞、メラノーマ細胞、肺癌細胞、膵臓癌細胞、卵巣癌細胞、乳癌細胞等といった腫瘍細胞の増殖、遊走、及び/又は浸潤を抑制するために用いられ得る。
【0022】
本発明の医薬組成物は、獣医用の医薬品及びヒト用の医薬品の両方に用いられ得、特に限定されることなく適切な剤型となり得、及び適切な方法で適用され得る。例えば、これに限定されるものではないが、該医薬組成物は、経口投与、皮下投与、静脈内投与、関節内投与等により適用され得る。本発明の医薬組成物の剤型及び目的に応じて、該医薬組成物は薬学上許容し得るキャリアを含有し得る。
【0023】
経口投与に適する製剤の製造方法に関して、本発明の医薬組成物は、溶媒、油性溶媒、希釈剤、安定化剤、吸収遅延剤、崩壊剤、乳化剤、抗酸化剤、結合剤、滑剤、吸湿剤等といった、ECAPの活性に悪影響を及ぼすことのない薬学上許容し得るキャリアを含有し得る。該医薬組成物は、錠剤、カプセル、顆粒、粉末、流エキス剤、液剤、シロップ、懸濁液、エマルション、チンキ剤等といった、適切なアプローチにより、経口適用に適する剤型に調製され得る。
【0024】
皮下注射、静脈内注射、又は関節内注射に適する製剤のために、本発明の医薬組成物は、等張液、緩衝生理食塩溶液(例えば、リン酸緩衝液又はクエン酸緩衝液)、可溶化剤、乳化剤、他のキャリア等といった、1又は2以上の添加剤を含有することで、静脈内注射剤、静脈内エマルション注射剤、粉末注射剤、懸濁注射剤、粉末−懸濁注射剤等を製造することができる。
【0025】
前述の補助剤に加えて任意に、該組成物の味及び外観を向上させるために、香料添加剤、トナー、着色剤等といった他の添加剤が、本発明の医薬組成物に加えられ得る。製造された製剤の貯蔵性を向上させるために、適切な量の防腐剤、保存料、消毒剤、抗菌剤等が加えられ得る。
【0026】
該医薬組成物は任意に、製剤の効果を高め、又は処方への適応性を向上させるために、1又は2以上の他の活性成分と混合され得る。例えば、ステロイド性抗炎症薬、非ステロイド性抗炎症薬、グルコサミン、抗癌剤、他の活性成分等といった1又は2以上の活性成分は、その他の活性成分がECAPに悪影響を及ぼさない限りにおいて、本発明の医薬組成物に包含され得る。
【0027】
対象の要求に応じて、本発明の医薬組成物は、1日1回、1日数回、数日に1回等といった、種々の適用頻度で適用され得る。例えば、関節リウマチの治療のためにヒトの身体に適用される場合、該医薬組成物の用量は、化学式(I)の化合物に基づき、1日あたり約50mg/kg−体重から約300mg/kg−体重である。“mg/kg−体重”の単位は、体重1kgあたり必要とする用量を意味する。しかしながら、急性症状の患者(例えば、痛風の患者)では、臨床上の要求に応じて、該用量は数倍又は数十倍に増量され得る。
【0028】
本発明はまた、対象におけるマクロファージの活性化を抑制するための方法を提供する。該方法には、有効量の本発明の医薬組成物を該対象に適用することが含まれる。
【0029】
技術の詳細及び本発明のために実施された好ましい態様が、後述の段落において記載される。しかしながら、本発明の範囲はこれに制限されるものではない。本技術分野における当業者であれば、本発明の技術上の精神において、種々の変更及び修正を行い得ることは明らかである。したがって、このような変更及び修正が、下記に添えられた特許請求の範囲及びその均等の範囲内に含まれることは明白である。
【実施例】
【0030】
〔調製実施例〕ECAP(化学式(I)の化合物)の調製
【0031】
(1.Davallia formosana抽出物の調製)
Davallia formosanaの根及び茎を、75容積%のエタノールで2回抽出し、得られた抽出物を50℃の減圧下に置き、溶媒を蒸発させた。Davallia formosanaのエタノール抽出物の収率は、9.5質量%であった。本実施例で用いたDavallia formosanaのエタノール抽出物の量は、抽出物の乾燥重量に基づいていた。このエタノール抽出物を水に懸濁し、n−ブタノールで分離し、n−ブタノール画分を濃縮した。エタノール抽出物から得られたn−ブタノール画分の収率は、20.2質量%であった。
【0032】
(2.ECAPの精製)
n−ブタノール画分(10g)をHP−20カラム(Diaion、日本錬水社製、日本)に導入し、水、メタノールの順に溶出した。8つのフラクションが得られた(フラクション1〜8)。フラクション6(230mg)は分取高速液体クロマトグラフィー(HPLC)で精製し、純化合物(136mg)を得た。分取HPLC(SHIMADZU LC−8A、島津製作所社製、京都、日本)の操作条件は、以下の通りである:移動相、メタノール−水(9:1);カラム、5C18−MS−II(コスモシール、ナカライテスク社製、日本);カラムの内径、10mm;カラムの長さ、250mm。
【0033】
純化合物をNMR(1H,13C;ADVANCE DPX−200、ブルカー社製、ドイツ)で分析し、該化合物を(−)−エピカテキン−3−O−β−D−アロピラノシド(ECAP、化学式(I)の化合物)と同定した。ECAPの13C及び1HのNMRスペクトル(200MHz,CDCl3)の結果を表1に示す。
【0034】
【化3】
【0035】
【表1】
【0036】
〔実施例1〕マクロファージの炎症反応の抑制試験
【0037】
マクロファージは炎症反応において重要な役割を有し、種々の免疫の病理学的反応を媒介し得る。マクロファージは活性化された後、一酸化窒素(NO)といった、種々の炎症性メディエーターを産生し得る。マクロファージは種々の炎症性物質(例えば、リポ多糖体(LPS))の刺激により活性化され得るため、以下の実験では、マクロファージを活性化させて一酸化窒素を放出させるために、リポ多糖体を用いた。このモデルで、ECAPの抗炎症効果を試験した。
【0038】
(実験A.一酸化窒素含有量の測定)
異なる濃度(0,10,25,及び50μg/mL)のECAPを、RAW264.7マクロファージを入れた96−well培養ディッシュ(ダルベッコ変法イーグル培養培地(DMEM)、10質量%の加熱不活性化したFBS、100U/mLペニシリン、及び100μg/mLストレプトマイシンを含有する)に加えた。細胞を1時間培養し、その後、培養ディッシュに1μMのリポ多糖体を加えた。細胞を24時間培養した後、上清を収集し、Griess試薬で一酸化窒素含有量を測定した。結果を表2に示す。加えて、MTS(3−(4,5−ジ−メチルチアゾール−2−イル)−5−(3−カルボキシメトキシフェニル)−2−(4−スルホフェニル)−2H−テトラゾリウム)(プロメガ社製、マディソン、ウィスコンシン、アメリカ)によりマクロファージの生存率を測定した。その結果、RAW264.7マクロファージの生存率は、ECAP又はECAPとリポ多糖体との組み合わせによって影響を受けないことが示された。
【0039】
【表2】
【0040】
(実験B.誘導型一酸化窒素合成酵素(iNOS)の遺伝子発現の定量)
RAW264.7マクロファージを直径6cmの細胞培養ディッシュでインキュベートし(1×106/ディッシュ)、異なる濃度(0,10,25,及び50μg/mL)のECAPを細胞培養ディッシュに加え、細胞を1時間培養した。その後、リポ多糖体(1μg/mL)を細胞培養ディッシュに加えた。細胞を24時間培養した後、細胞を収集し、そのmRNAを抽出した。誘導型一酸化窒素合成酵素(iNOS)の遺伝子発現を、RT−PCRで分析した。グリセルアルデヒド−3−リン酸デヒドロゲナーゼ(GAPDH)遺伝子をコントロールとして用いた。この実験で用いたプライマーを表3に示す。この実験の結果を図1及び表4に示す。
【0041】
【表3】
【0042】
【表4】
【0043】
(実験C.iNOSのタンパク質発現の定量)
RAW264.7マクロファージを、直径6cmの細胞培養ディッシュにおいて、細胞密度1×106細胞/ディッシュで培養した。異なる濃度(0,10,25,及び50μg/mL)のECAPを細胞培養ディッシュに加え、細胞を1時間培養した。その後、リポ多糖体(1μg/mL)を細胞培養ディッシュに加えた。細胞を24時間培養した後、細胞を収集し、細胞質のタンパク質を抽出した。ウェスタンブロット法で誘導型一酸化窒素合成酵素(iNOS)のタンパク質発現を分析した。この実験に用いた抗体は、抗ウサギiNOS抗体(アブカム社製、ケンブリッジ、米国)であった。結果を図2及び表5に示す。
【0044】
【表5】
【0045】
表2、表4、表5、並びに図1及び図2の結果により、ECAPは、リポ多糖体により誘導されたマクロファージの活性化を抑制してマクロファージの誘導型一酸化窒素合成酵素の遺伝子発現及びタンパク質発現を低減させ、その結果、一酸化窒素の生成を低減させ得ることが示される。
【0046】
実験A〜Cの結果により、ECAPは、マクロファージの活性化を抑制し得、それゆえマクロファージの炎症反応を抑制し得ることが示唆された。
【0047】
〔実施例2〕CCl4により誘導されたマウス慢性肝炎の抑制試験
【0048】
(実験D.マウス慢性肝炎の誘導)
36匹のICRマウス(癌研究機関)を4グループに分けた。1グループはコントロール群であり、他の3グループのマウスには、四塩化炭素(CCl4)を投与して肝障害及び肝線維症を誘導させた。マウスに8週間、週に2回、四塩化炭素(10%)(オリーブ油に溶解、0.1mL/10g)を経口投与した。加えて、3グループのCCl4で処理したマウスに、8週間、1日1回、0.5質量%カルボキシメチルセルロース(CMC)又はECAP(100,200mg/kg)を各々経口投与した。投与の手順が終了した後、マウスをCO2で麻酔し、腹部静脈から血液を収集し、血漿中の生化学的パラメータを定量した。その後すぐに、マウスの肝臓を解剖し、氷冷した生理的食塩水で洗浄した。肝臓を4部位に分け、病理切片用に10容積%の中性ホルムアルデヒドに各々浸し、100℃で乾燥させ、−80℃で保存した。
【0049】
(実験E.アラニンアミノトランスフェラーゼ及びアスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ活性の定量)
実験Dで収集した血液を15分間、4,700rpmで遠心分離し、自動生化学的機器(コバスミラ、ロシュ社製、ロートクロイツ、スイス)及び市販の試薬(ロシュダイアグノスティックス社製、マンハイム、ドイツ)を用いて、アラニンアミノトランスフェラーゼ(ALT)及びアスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ(AST)の活性を定量した。血漿中ALT及びASTは、肝炎の指標となる。結果を表6に示す。
【0050】
【表6】
【0051】
表6に示されるように、ECAPはCCl4により誘導されたマウスの血漿中ALT及びAST活性亢進を抑制することができる。この結果から、ECAPはCCl4により誘導されたマウスの肝炎を軽減し得ることが示唆される。
【0052】
(実験F.肝臓の繊維化レベルの定量−組織染色)
実験Dにおいて得られた肝臓組織をホルムアルデヒドで固定し、パラフィンに包埋し、薄切し、ヘマトキシリン・エオシン(H&E)染色により染色した。図3に示されるように、ECAPはCCl4により生じた肝臓細胞の重度の壊死を軽減し得る。
【0053】
各種の慢性肝炎及び肝障害により、肝線維症が引き起こされる。肝線維症の主要な要因は、細胞外基質におけるコラーゲンの増加である。それゆえ、肝線維症のレベルは、肝臓におけるコラーゲン含量の測定により評価され得る。したがって、後述の実験では、コラーゲンに特異的な染色(すなわち、シリウスレッド染色)を用いて、及び画像分析ソフトウェア(Image−Pro Plus version 5.1;メディアサイバネティクス社製、メリーランド、米国)を用いて、肝線維症の割合を分析した。結果を表7及び図4に示す。
【0054】
【表7】
【0055】
表7及び図4により、ECAPは肝線維症のレベルを低減させ得ることが示唆される。
【0056】
(実験G.肝臓の繊維化レベルの定量−コラーゲンの分析)
ヒドロキシプロリンはコラーゲンにおいて特異的なアミノ酸であるため、肝線維症のレベルは肝臓におけるヒドロキシプロリン含量から評価され得る。肝臓組織におけるヒドロキシプロリン含量を定量するための方法は、Neuman RE.,Logan MA.The determination of hydroxyproline.J.Biol.Chem.1950;184:299−306に基づき、この内容の全ては参照により本明細書に取り込まれる。乾燥させた肝臓組織を加水分解し、この組織にH2O2を加えて酸化反応を起こした。その後、発色のためにp−ジメチルアミノベンズアルデヒドを用い、540nmの波長下で吸光度を測定した。結果を表8に示す。
【0057】
【表8】
【0058】
表8の結果より、ECAPはCCl4処理により増加した肝臓のヒドロキシプロリン含量を低減させ得ることが示唆され、ECAPは肝線維症を軽減させ得ることが示される。
【0059】
(実験H.肝臓クッパー細胞の活性化の定量−免疫染色)
CCl4により誘導された肝炎は、リポ多糖体を産生することで肝臓(すなわち、クッパー細胞)のマクロファージを活性化させ得、マクロファージにサイトカインを産生させ肝障害を引き起こす。リポ多糖体は、クッパー細胞でCD14と反応し、クッパー細胞の炎症反応を活性化し得る(Su,G,L.,2002.Lipopolysaccharides in liver injury:molecular mechanisms of Kupffer cell activation.Am.J.Physiol.283,G256−G265に記載され、この内容の全ては参照により本明細書に取り込まれる)。したがって、ECAPがCD14発現によるクッパー細胞の活性化を抑制することにより肝線維症を軽減させ得るのかについて、CD14の免疫染色を行うことで確認した。
【0060】
この実験において、病理切片を脱ワックスし、エタノールで脱水し、切片に3容積%のH2O2を加えることで内因性ペルオキシダーゼを除去した。それに5容積%のミルクを加え30分間インキュベートして、非特異的な結合をブロックした。その後、CD14の抗体を該切片に加え、室温で2時間インキュベートした。該切片をリン酸緩衝生理食塩水(PBS)で洗浄した。次に、二次抗体を該切片に加え、室温で30分間インキュベートした。発色のために免疫検出キット及びジアミノベンジジンを用い、該切片をヘマトキシリンで染色し、脱水後、シールした。
【0061】
図5に示されるように、ECAPはCD14の発現を低下させ得る。このことから、ECAPはクッパー細胞の活性化を抑制することで肝線維症を軽減させ得ることが示される。
【0062】
〔実施例3〕II型コラーゲンにより誘導されるマウス関節炎の抑制試験
【0063】
(実験I.関節炎の症状の評価)
関節リウマチは、関節腔における一種の慢性炎症である。関節腔における長期間の炎症により、マクロファージが刺激され、破骨細胞に分化し得る。破骨細胞はマトリックスメタロプロテアーゼ−9(MMP−9)を産生し、骨基質を分解し、骨にダメージを与え得る。加えて、マトリックスメタロプロテアーゼ−9はまた、腫瘍細胞の増殖、遊走、及び/又は浸潤に関与する。
【0064】
この実験では、25gのDBA/1J雄マウス(ジャクソンラボラトリー、バーハーバー、メイン、米国)を用いた。マウスを、12時間の光(照明時間:午前8時〜午後8時)の照明サイクル下で、定温(21−24℃)で、動物飼育室にて飼育し、標準的なマウスの飼料を与えた。マウスを無作為に4グループに分けた(各グループ6匹)。1つのグループはコントロール群であり、他の3つのグループは関節炎モデル群(CIA群)である(II型コラーゲン(CII)によりマウス関節炎を誘導した)。CIIを50mM酢酸溶液に溶解し、4℃で一晩冷蔵庫に置き、CIIを十分に溶解した;該溶液におけるCII濃度は2mg/mLであった。その後、完全フロイントアジュバント(CFA)100μL加えることで、CII溶液100μLを乳化した。乳化が終わった後、乳化された溶液をマウスの尾に皮下注射した(100μg/マウス)。21日後、等量の不完全フロイントアジュバント(IFA)と混合することでCII溶液を乳化した。乳化が終わった後、乳化された溶液をマウスの尾に皮下注射した(100μg/マウス)。3つのグループにおける感作されたCIAマウスをH2Oコントロール群(10mL/kgの水を飲用)とECAP群(50又は100mg/kgのECAPを投与)とに分けた。CIIをさらにマウスに注射し、翌日から20日間、マウスにECAPを連続投与した。21日目、CIAマウスを屠殺し、後述の分析のために、マウスの血液、腎臓、鼠径部リンパ節、及び2本の後肢を除去及び収集した。
【0065】
マウスの感作後、マウスの肢の関節を5日ごとに1回に観察し、トルベッケ法(Thorbecke’ method)(Thorbecke et al.,Modulation by cytokines of induction of oral tolerance to type II collagen.Arthritis Rheum.,1999,42(1):110−8に記載されており、この内容の全ては参照により本明細書に取り込まれる)により炎症、腫脹、及び他の変化のレベルを評価した。下記の5つの症状を、評価及び格付けの基礎として用いた。
0:関節炎の症状なし
1:赤みを帯び軽度に腫脹した母指球及び足根
2:中程度に赤みを帯び腫脹した母指球及び足根
3:重度に赤みを帯び腫脹した母指球及び足根
4:硬直した関節及び変形した骨
結果を図6A及び図6Bに示す。
【0066】
(実験J.病理切片の分析)
実験IでのCIAマウスを屠殺した後、右側の足根から脛骨にわたる組織を除去し、10容積%のホルムアルデヒドで固定した。翌日、足根の筋肉及び生皮を除去し、足根を1週間、10容積%の新鮮なホルムアルデヒドに浸した。その後、脱灰のために足根を15質量%のエチレンジアミン四酢酸(EDTA)に浸した。脱灰溶液を2日ごとに1回、交換した。2週間後、足根をパラフィン包埋し、薄切した。切片をヘマトキシリン・エオシン染色により染色した。結果を図7に示す。
【0067】
その後、発色のために抗ウサギMMP−9抗体(ミリポア社製、マサチューセッツ、米国)及び3,3’−ジアミノベンジジン免疫検出キット(シグマ−アルドリッチ社製、セントルイス、ミズーリ、米国)を用いて免疫組織化学的染色を行った。切片を光学顕微鏡で観察した。結果を図8に示す。
【0068】
(実験K.足根組織のRT−PCR分析)
マウスの足根を液体窒素で凍結して粉末化し、RNAを抽出し、cDNAに逆転写した。サイトカインIL−1β(インターロイキン−1β)及びマトリックスメタロプロテアーゼ−9のmRNA含量をRT−PCRで分析した。この実験で用いたプライマーを表9に示す。結果を図9A〜9C、及び表10に示す。
【0069】
【表9】
【0070】
【表10】
【0071】
実験I〜K(図6A〜9C、及び表10)の結果により、ECAPはII型コラーゲンにより誘導されたDBA/1Jマウスの関節炎を効果的に抑制し得ることが示唆される。炎症抑制に加えて、ECAPはまた、骨のダメージを低下させ得る。加えて、ECAPはマトリックスメタロプロテアーゼ−9及びIL−1βの遺伝子発現を抑制し得る。マトリックスメタロプロテアーゼ−9は骨基質を分解する効果を有し、関節炎に由来する骨のダメージの主要な要因となる。ECAPのマトリックスメタロプロテアーゼ−9発現抑制効果のメカニズムは、後述の細胞モデルの実験にて検討された。
【0072】
〔実施例4〕RANKLにより刺激されたマクロファージにおけるMMP−9発現抑制試験
【0073】
(実験L.RT−PCR分析)
異なる濃度(0,10,25,及び50μg/mL)のECAPを、RAW264.7マクロファージを入れた培養ディッシュ(α−MEM(α−最小必須培地)、10質量%の加熱不活性化したFBS、1質量%PSA(ペニシリン、ストレプトマイシン、アンホテリシンを含有する)を含有する)に加えた。1時間後、50ng/mLのRANKL(NFκB活性化受容体リガンド)を培養ディッシュに加えた。24時間培養後、細胞を収集し、そのRNAを抽出し、RT−PCR分析を行った。この実験で用いたプライマーは、実施例3の表9で示されたプライマーと同一であった。
【0074】
結果を図10及び表11に示す。
【0075】
【表11】
【0076】
(実験M.ザイモグラフィーアッセイ)
マトリックスメタロプロテアーゼ−9はゼラチンを分解することができるため、マトリックスメタロプロテアーゼ−9含量をザイモグラフィーアッセイで定量することができる。最初に、前述の実験Lにおける細胞培養液を収集し、10分間4℃で、1000×gで遠心分離した。ザイモグラフィーアッセイを行うために上清を収集した。30μgの培養液に4倍量のローディングダイを加え、10分間インキュベートし、サンプルを10容積%のSDS−PAGEで電気泳動することで分析した。分離ゲルは0.1容積%のゼラチンを含有していた。その後、電気泳動ゲルを2回、30分間洗浄バッファー溶液(3容積%のTriton X−100)に浸し、デベロッピングバッファー溶液(50mMトリス塩基、40mM HCl、200mM NaCl、5mM CaCl2及び0.2w/v% NaN3)をゲルに加え、30分間振盪した。その後、ゲルを洗浄し、新鮮なデベロッピングバッファー溶液を再度ゲルに加え、16時間37℃でインキュベートした。最後に、ゲルをクマシーブルー(0.2w/v%クマシーブルーR−250、50容積%メタノール、及び10容積%酢酸を含有する)で30分間染色し、脱色溶液(10容積%酢酸、及び30容積%メタノールを含有する)で脱色した;脱色溶液は15分ごとに交換した。脱色終了後、ゲルをゲルドライ溶液(50容積%脱イオン水、50容積%メタノール、及び0.33容積%グリセロールを含有する)に30分間浸し、観察のためにセロハン紙及びアクリル板で乾燥ゲルとした。結果を図11及び表12に示す。
【0077】
【表12】
【0078】
(実験N.ルシフェラーゼアッセイ)
RAW264.7マクロファージを24−well培養ディッシュで一晩培養し(5×104細胞/well)、pGL3.0−MMP−9プロモーターを細胞にトランスフェクションした。16時間後、ECAP(10,25,及び50mg/mL)を細胞に加え、細胞を24時間RANKL(50ng/mL)で刺激し、レポーター遺伝子の発現を測定した。該方法は、以下の工程を含んでいた。
【0079】
(1)プラスミドDNAの調製
リコンビナントプラスミドを有するDH5α大腸菌株をLB培地(50μg/mLアンピシリンを含有する)中で一晩培養し、プラスミドDNAをMidiキット(キアゲン社製、バレンシア、カリフォルニア、米国)で抽出した。この方法を以下にまとめる:培養培地を30分間4℃で、6,000×gで遠心分離し、上清を廃棄し、バクテリアを4.5mLのバッファーS1に均一に混合した。その後、4.5mLのバッファーS2をサンプルに加え、4〜6回穏やかに振り、サンプルを5分間室温に置いた。次に、4.5mLのバッファーS3Kをサンプルに加え、すぐに均一に混合し、サンプルを5分間室温に置いた。その後、4.5mLのバッファーBをサンプルに加え、4〜6回穏やかに振り、サンプルを30分間4℃で、5,000×gで遠心分離した。前述の工程で得られた上清を重力によりMidiprepシリンジフィルターに通し不純物を除去した。透明なろ液を重力によりMidiprepカラムに通した。カラムを7mLのバッファーW1、次に8mLのバッファーW2で溶出した。下部のMidiprepカラムを取り出し、2mLエッペンドルフチューブに置き、チューブを2分間4℃で12000×gで遠心分離した。残りのバッファーW2を捨て、プラスミドDNAをあらかじめ加温した(65℃)溶出バッファーにより溶出した。サンプルの吸光度を260nm及び280nmの波長下分光光度計で測定し、DNAサンプルの濃度及び純度を測定した。DNAサンプルを−80℃で保存した。
【0080】
(2)トランスフェクション
RAW264.7マクロファージを24−well培養ディッシュで一晩培養した(5×104細胞/well)。翌日、プラスミドDNA(0.5μg)をFBS非含有培養培地(200μL)と混合させ、スピンダウンした。その後、培地を1μLのjetPRIME(商標名)と混合し、スピンダウンし、10分間室温に置いた。プラスミドDNA(0.5μg)を含有する培地を0.4μgのpNF−κB−Luc及び0.1μgのpRL−TKYベクターと混合した。マクロファージをFBS非含有培養培地で2回洗浄し、各ウェルに200μLのFBS非含有培養培地を加えた。その後、200μLの前述のあらかじめ混合したプラスミドDNA/jetPRIME(商標名)を含有する培養培地を各ウェルに加えた。4時間後、培養培地(20質量%FBS及び2質量%PSAを含む)を各ウェルに加えた。翌日、細胞をPBSで2回洗浄し、1mLの新鮮な培養培地を細胞に加えた。その後、pNF−κB−Lucをトランスフェクションした細胞を1時間ECAPで前処理し、24時間RANKL(50ng/mL)で処理した。
【0081】
(3)レポーター遺伝子発現の検出
前述の反応終了後、細胞を氷冷したPBSで2回洗浄し、100μLの受動的溶解バッファー(プロメガ社製、マディソン、ウィスコンシン、米国)を細胞に加えた。その後、細胞をディッシュから収集し、遠心チューブに移し、−80℃と室温との間で3回、凍結と解凍とを繰り返し、1分間4℃で、12,000×gで遠心分離し、上清を収集した。ホタルルシフェラーゼ及びウミシイタケルシフェラーゼ(トランスフェクション効率の指標として)の活性を、デュアル−ルシフェラーゼレポーターアッセイキット(プロメガ社製、マディソン、ウィスコンシン、米国)により測定した。このアッセイの試験工程は以下の通りである。前述の工程で得られた上清(50μL)をチューブに移し替えた。チューブをルミノメーター(TD−20/20ルミノメーター)に置き、バックグラウンドの値を5秒間測定し、100μLのルシフェラーゼアッセイ試薬IIをチューブに入れ均一に混合した。生物発光を継続的に10秒間記録した。その後、100μLのStop&Glo試薬を加え、均一に混合し、生物発光を10秒間記録した。結果を図12及び表13に示す。
【0082】
【表13】
【0083】
実験L〜N(図10〜12及び表11〜13)の結果より、ECAPはRANKLにより刺激されたマクロファージのマトリックスメタロプロテアーゼ−9の遺伝子発現及びタンパク質発現を抑制する効果を有することが示唆される。
【0084】
〔実施例5〕NF−κB経路を介したMMP−9発現の抑制試験
【0085】
(実験O.電気泳動移動度シフトアッセイ)
NF−κB(核内因子−κB)は、種々の遺伝子の転写を調節する核内因子である。一般に、NF−κBは細胞質に存在し、p65/p50のダイマーの形態でIκB(NF−κB抑制タンパク質)に結合している。IκBが刺激されると、IκBキナーゼによりリン酸化される。リン酸化されたIκB(p−IκB)は分解されてNF−κBを活性化する。その後、核に移行し遺伝子の転写に関与し、NFATc1(活性化T細胞核内因子、cytoplasmic 1)といった転写調節タンパク質の発現に影響を及ぼし、その結果マトリックスメタロプロテアーゼ−9の発現に影響を及ぼす。
【0086】
電気泳動移動度シフトアッセイ(EMSA)を行い、ECAPがNF−κBのマクロファージの核内への移行量を低下させることによりマトリックスメタロプロテアーゼ−9の発現を抑制するかについて検証した。
【0087】
この実験において、異なる濃度(0,10,25,及び50μg/mL)のECAPを、RAW264.7マクロファージを含む培養ディッシュに加えた。1時間培養した後、細胞をRANKL(50ng/mL)で処理し、60分間培養した。核内のタンパク質を抽出し、EMSAで解析した。この実験で用いたDNA配列は下記の通りである。
cy5−5’−TCGACCAACTGGGGACTCTCCCTTTGGGAACA−3’(配列番号11)
cy5−5’−TCGATGTTCCCAAAGGGAGAGTCCCCAGTTGG−3’(配列番号12)
結果を図13A及び図13B、並びに表14に示す。
【0088】
【表14】
【0089】
図13A及び図13B、並びに表14の結果より、ECAPはRANKLにより刺激されたマクロファージにおけるNF−κBの移行を抑制し得ることが示唆される。
【0090】
(実験P.ウェスタンブロット解析)
この実験は、分化試薬、RANKL(50ng/mL)を、RAW264.7マクロファージを含む培養ディッシュに加えることで行った。その後、異なる濃度(0,10,25,及び50μg/mL)のECAPを加えた。RAW264.7マクロファージを60分間培養した後、核及び細胞質におけるタンパク質を抽出し、核におけるp65及び細胞質におけるp−IκBαのタンパク質発現をウェスタンブロットで各々解析した。加えて、細胞内の全体のタンパク質を抽出し、NFATc1タンパク質発現をウェスタンブロットで解析した。結果を図14及び図15、並びに表15に示す。
【0091】
【表15】
【0092】
図14及び図15、並びに表15の結果より、ECAPはp65及びp−IκBαのタンパク質発現を抑制し、NF−κBの核内への移行量を低下させ、それによりマトリックスメタロプロテアーゼ−9のタンパク質発現を低下させ得ることが示唆される。したがって、ECAPは、NF−κBのマクロファージの核内への移行量を低下させることで、マトリックスメタロプロテアーゼ−9の発現を抑制し得る。
【0093】
実施例3〜5により、ECAPはマトリックスメタロプロテアーゼ−9の発現を抑制することができるため、腫瘍細胞の増殖、遊走、及び/又は浸潤を抑制するといった、マトリックスメタロプロテアーゼ−9に関与する疾患を治療するために用いられ得ることが示唆される。
【0094】
(関連する出願)
本出願は、台湾特許出願100108508(出願日2011年3月14日)に基づく優先権を主張しており、その内容は本明細書に参照として取り込まれる。
【技術分野】
【0001】
本発明は、マクロファージ活性化の抑制における(−)−エピカテキン−3−O−β−D−アロピラノシドの使用に関し、特にはマクロファージ活性化症候群(MAS)の治療、炎症の治療又は抑制、及びマトリックスメタロプロテアーゼ−9(MMP−9)の発現の抑制における(−)−エピカテキン−3−O−β−D−アロピラノシドの使用に関する。
【背景技術】
【0002】
マクロファージは、組織において単球の分化により作られる白血球である。マクロファージは、病原菌又は細胞残屑を貪食することにより先天性免疫に関与し、又はリンパ球といった他の免疫細胞を刺激することで適応免疫を促して病原菌と戦う。
【0003】
大多数のマクロファージは、病原菌が侵入しそうな組織又は器官に集まる。マクロファージは、体内での存在箇所により、異なる名称を有する。例えば、肝臓に存在するマクロファージは、クッパー細胞と呼ばれる;脾臓に存在するマクロファージは、類洞内皮細胞と呼ばれる;骨に存在するマクロファージは、破骨細胞と呼ばれる;及び腎臓に存在するマクロファージは、メサンギウム細胞と呼ばれる。
【0004】
マクロファージの存在は動物体が病原菌の感染と戦うことの一助となるが、マクロファージの過剰な活性化(又は過度な高活性化)は、体の免疫システムの障害をもたらし得、種々の炎症性疾患(例えば、関節炎、肝炎、又は脾炎)を引き起こし、癌(例えば、肉腫、前立腺癌、膠芽細胞腫、メラノーマ、肺癌、膵臓癌、又は卵巣癌)さえも発生させる。例えば、このマクロファージの過剰な活性化は、マクロファージ活性化症候群(MAS)をもたらし得る。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
マクロファージの過剰な活性化が前述の種々の疾患を引き起こし得ることを考えると、マクロファージの過剰な活性化に由来する疾患を治療するために、マクロファージの活性化を効果的に抑制するための薬剤又は治療方法が必要とされる。
【0006】
本発明は、前述の需要により実施された試験の成果である。本発明者らは、(−)−エピカテキン−3−O−β−D−アロピラノシドが効果的にマクロファージの活性化を抑制し得、それゆえ、マクロファージの過剰な活性化に関連する疾患の治療に用いられ得ることを見出した。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の第一の目的は、マクロファージの活性化を抑制するための医薬組成物を提供することである。それは、有効量の活性成分及び薬学上許容し得るキャリアを含有する。該活性成分は、化学式(I)の化合物、該化合物の薬学上許容し得る塩、該化合物の薬学上許容し得るエステル、及びこれらの混合物からなる群より選択される。
【0008】
【化1】
【0009】
本発明の他の目的は、対象のマクロファージの活性化を抑制する方法を提供することである。それは有効量の前述の活性成分を該対象に適用することを含む。
【0010】
詳細な技術及び本発明のために実施された好ましい実施態様は、この技術分野における当業者が特許請求の範囲に記載された発明の特徴をよく理解できるように、添付された図面とともに後述の段落において記載される。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】ECAPによる、マクロファージにおける誘導型一酸化窒素合成酵素(iNOS)のmRNA発現抑制を示す、電気泳動像及び統計的カラム図である。
【図2】ECAPによる、マクロファージにおける誘導型一酸化窒素合成酵素のタンパク質発現抑制を示す、電気泳動像及び統計的カラム図である。
【図3】CCl4により誘導されたマウスの肝炎を示す、H&E染色像である。
【図4】CCl4により誘導されたマウスの肝炎を示す、シリウスレッド染色像である。
【図5】CCl4により誘導されたマウスの肝炎を示す、CD14の免疫染色像である。
【図6A】ECAPによる、II型コラーゲンにより誘導されたマウスの関節炎抑制を示す、写真である。
【図6B】ECAPによる、II型コラーゲンにより誘導されたマウスの関節炎抑制を示す、評価曲線図である。
【図7】ECAPによる、II型コラーゲンにより誘導されたマウスの関節炎抑制を示す、H&E染色像である。
【図8】ECAPによる、II型コラーゲンにより誘導されたマウスの関節炎に由来するマトリックスメタロプロテアーゼ−9の発現の抑制を示す、免疫組織化学的染色像である。
【図9A】ECAPによる、II型コラーゲンにより誘導されたマウスの関節炎に由来するマトリックスメタロプロテアーゼ−9及びIL−1βのmRNA発現の抑制を示す、電気泳動像である。
【図9B】ECAPによる、II型コラーゲンにより誘導されたマウスの関節炎に由来するマトリックスメタロプロテアーゼ−9のmRNA発現の抑制を示す、統計的カラム図である。
【図9C】ECAPによる、II型コラーゲンにより誘導されたマウスの関節炎に由来するIL−1βのmRNA発現の抑制を示す、統計的カラム図である。
【図10】ECAPによる、RANKLにより刺激されたマクロファージにおけるマトリックスメタロプロテアーゼ−9の遺伝子発現の抑制を示す、電気泳動像及び統計的カラム図である。
【図11】ECAPによる、RANKLにより刺激されたマクロファージにおけるマトリックスメタロプロテアーゼ−9のタンパク質発現の抑制を示す、電気泳動像及び統計的カラム図である。
【図12】ECAPによる、RANKLにより刺激されたマクロファージにおけるマトリックスメタロプロテアーゼ−9のタンパク質発現の抑制を示す、統計的カラム図である。
【図13A】ECAPによる、RANKLにより刺激されたマクロファージにおける核内NF−κBタンパク質の抑制を示す、EMSA電気泳動像である。
【図13B】ECAPによる、RANKLにより刺激されたマクロファージにおける核内NF−κBタンパク質の抑制を示す、統計的カラム図である。
【図14】ECAPによる、RANKLにより刺激されたマクロファージにおけるp65及びp−IκBαのタンパク質発現の抑制を示す、電気泳動像である。
【図15】ECAPによる、RANKLにより刺激されたマクロファージにおけるNFATc−1の発現の抑制を示す、タンパク質電気泳動像及びmRNA統計的カラム図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
特にことわらない限り、本文中で(特に後述の特許請求の範囲において)用いられる“一”、“該”又は同様の用語は、単数形式及び複数形式の両方を包含するように理解されるべきである。
【0013】
マクロファージは、種々の炎症性因子の刺激により活性化され得る。それには、物理的要因(例えば、温度及びUV)、化学的要因(例えば、酸及びアルカリ)、機械的要因(例えば、押出及び衝突)、生物的要因(例えば、リポ多糖体(LPS)、ウイルス感染、及び毒素)、又は自己免疫疾患等が含まれる。炎症反応は、免疫システムを刺激して、マクロファージの増殖及び活性化を促進するために大量のサイトカインを産生し得る。マクロファージはさらに、酸化窒素といったフリーラジカルを生成し、ウイルス、細菌、又は腫瘍細胞等を殺すといった、それに続く免疫反応をもたらす。しかしながら、前述のように、炎症反応が長い間続くと、マクロファージの過剰な活性化を引き起こし、種々の関連疾患をもたらし得る。本発明者らは、(−)−エピカテキン−3−O−β−D−アロピラノシド(以下、“ECAP”という)が効果的にマクロファージの活性化を抑制し得、マクロファージの過剰な活性化に関連する疾患の治療に用いられ得ることを見出した。
【0014】
したがって、本発明はマクロファージの活性化を抑制するための医薬組成物を提供する。それは、有効量の活性成分及び薬学上許容し得るキャリアを含有する。該活性成分は、化学式(I)の化合物、該化合物の薬学上許容し得る塩、該化合物の薬学上許容し得るエステル、及びこれらの混合物からなる群より選択される。
【0015】
【化2】
【0016】
好ましくは、該活性成分は、化学式(I)の化合物である。
【0017】
化学式(I)の化合物は、ECAPであり、シノブ属シダ(Davallia formosana)由来のものである。ECAPはマクロファージの活性化を効果的に抑制する作用を有するゆえに、マクロファージ活性化症候群を治療するために、及び炎症又は炎症関連疾患を治療又は抑制するために用いられ得る。マクロファージ活性化症候群(MAS)は、小児リウマチの罹患率及び死亡率の主要な要因であり、また、全身性若年性特発性関節炎(SJIA)及びエリテマトーデスに深く関与している。マクロファージ活性化症候群に罹患している患者は、発熱、肝脾腫大症、リンパ節腫脹、重度の血球減少、血液凝固障害、肝機能障害等の症状を有し得る。マクロファージ活性化症候群に関するメカニズム及び症状は、Grom et al.,Macrophage activation syndrome:advances towards understanding pathogenesis,Current Opinion in Rheumatology,2010.22:561−566に記載され、この内容の全体は参照により本明細書に取り込まれる。
【0018】
炎症反応が肝臓で生じ、長期間にわたって肝臓(すなわち、クッパー細胞)のマクロファージを過剰に活性化させ続けると、慢性肝炎を引き起こし得る。約20%の慢性肝炎患者が、肝線維症又は肝硬変を発症し、又は死亡さえする。一実施態様において、本発明の医薬組成物は、肝臓におけるマクロファージの活性化を効果的に抑制し得、及びさらに肝炎を抑制し得る。したがって、本発明の医薬組成物は、慢性肝炎、肝線維症又は肝硬変を含む肝炎を治療するために用いられ得る。
【0019】
関節腔において、重度かつ持続的な炎症反応は、マクロファージの過剰な活性化を引き起こし、関節炎を発症させ得る。関節炎は一般に、関節の異常な炎症に関連する疾患を意味する。臨床症状に基づき、関節炎は、変形性関節症、関節リウマチ、化膿性関節炎等といった種々のタイプに分類され得る。一実施態様において、本発明の医薬組成物は、骨(又は破骨細胞)におけるマクロファージの活性化を抑制し、及びさらに関節炎を抑制する効果を有するゆえ、関節炎、特に関節リウマチの治療に用いられ得る。
【0020】
他の観点において、炎症反応はマクロファージを刺激して、マトリックスメタロプロテアーゼ−9(MMP−9)を放出し得る。マトリックスメタロプロテアーゼ−9は、マトリックスメタロプロテアーゼファミリーに属し、コラーゲン及び細胞外基質を開裂及び分解する能力を有し、及び種々の疾患の発生に関与する。例えば、関節における重度かつ持続的な炎症反応は、マクロファージの破骨細胞への分化を誘導し得る。破骨細胞はさらにマトリックスメタロプロテアーゼ−9を放出し得、それは骨基質を分解し、骨にダメージを与え得る。加えて、マトリックスメタロプロテアーゼ−9は腫瘍細胞の増殖、遊走、及び浸潤に関与することが知られており、血管新生を制御し、及び細胞外基質を分解することで、腫瘍細胞の拡散を助長し得る。マトリックスメタロプロテアーゼ−9はまた、骨肉腫、肉腫、リンパ腫、前立腺癌、膠芽細胞腫、メラノーマ、肺癌、膵臓癌、卵巣癌、乳癌等といった腫瘍に関与する。マトリックスメタロプロテアーゼ−9と腫瘍形成との間の関係に関する情報は、Deryugina et al.,Matrix metalloproteinases and tumor metastasis,Cancer Metastasis Rev.,2006,25:9−34に記載され、この内容の全体は参照により本明細書に取り込まれる。
【0021】
後述の実施例に示されるように、本発明の医薬組成物は、マトリックスメタロプロテアーゼ−9の発現を効果的に抑制し得、そのために、マトリックスメタロプロテアーゼ−9に関連する疾患を治療又は抑制するために用いられ得る。例えば、該医薬組成物は、腫瘍細胞の増殖、遊走、及び/又は浸潤を抑制するために、及び腫瘍を治療するために用いられ得る。本発明の医薬組成物は特に、骨肉腫細胞、肉腫細胞、リンパ腫細胞、前立腺癌細胞、膠芽細胞腫細胞、メラノーマ細胞、肺癌細胞、膵臓癌細胞、卵巣癌細胞、乳癌細胞等といった腫瘍細胞の増殖、遊走、及び/又は浸潤を抑制するために用いられ得る。
【0022】
本発明の医薬組成物は、獣医用の医薬品及びヒト用の医薬品の両方に用いられ得、特に限定されることなく適切な剤型となり得、及び適切な方法で適用され得る。例えば、これに限定されるものではないが、該医薬組成物は、経口投与、皮下投与、静脈内投与、関節内投与等により適用され得る。本発明の医薬組成物の剤型及び目的に応じて、該医薬組成物は薬学上許容し得るキャリアを含有し得る。
【0023】
経口投与に適する製剤の製造方法に関して、本発明の医薬組成物は、溶媒、油性溶媒、希釈剤、安定化剤、吸収遅延剤、崩壊剤、乳化剤、抗酸化剤、結合剤、滑剤、吸湿剤等といった、ECAPの活性に悪影響を及ぼすことのない薬学上許容し得るキャリアを含有し得る。該医薬組成物は、錠剤、カプセル、顆粒、粉末、流エキス剤、液剤、シロップ、懸濁液、エマルション、チンキ剤等といった、適切なアプローチにより、経口適用に適する剤型に調製され得る。
【0024】
皮下注射、静脈内注射、又は関節内注射に適する製剤のために、本発明の医薬組成物は、等張液、緩衝生理食塩溶液(例えば、リン酸緩衝液又はクエン酸緩衝液)、可溶化剤、乳化剤、他のキャリア等といった、1又は2以上の添加剤を含有することで、静脈内注射剤、静脈内エマルション注射剤、粉末注射剤、懸濁注射剤、粉末−懸濁注射剤等を製造することができる。
【0025】
前述の補助剤に加えて任意に、該組成物の味及び外観を向上させるために、香料添加剤、トナー、着色剤等といった他の添加剤が、本発明の医薬組成物に加えられ得る。製造された製剤の貯蔵性を向上させるために、適切な量の防腐剤、保存料、消毒剤、抗菌剤等が加えられ得る。
【0026】
該医薬組成物は任意に、製剤の効果を高め、又は処方への適応性を向上させるために、1又は2以上の他の活性成分と混合され得る。例えば、ステロイド性抗炎症薬、非ステロイド性抗炎症薬、グルコサミン、抗癌剤、他の活性成分等といった1又は2以上の活性成分は、その他の活性成分がECAPに悪影響を及ぼさない限りにおいて、本発明の医薬組成物に包含され得る。
【0027】
対象の要求に応じて、本発明の医薬組成物は、1日1回、1日数回、数日に1回等といった、種々の適用頻度で適用され得る。例えば、関節リウマチの治療のためにヒトの身体に適用される場合、該医薬組成物の用量は、化学式(I)の化合物に基づき、1日あたり約50mg/kg−体重から約300mg/kg−体重である。“mg/kg−体重”の単位は、体重1kgあたり必要とする用量を意味する。しかしながら、急性症状の患者(例えば、痛風の患者)では、臨床上の要求に応じて、該用量は数倍又は数十倍に増量され得る。
【0028】
本発明はまた、対象におけるマクロファージの活性化を抑制するための方法を提供する。該方法には、有効量の本発明の医薬組成物を該対象に適用することが含まれる。
【0029】
技術の詳細及び本発明のために実施された好ましい態様が、後述の段落において記載される。しかしながら、本発明の範囲はこれに制限されるものではない。本技術分野における当業者であれば、本発明の技術上の精神において、種々の変更及び修正を行い得ることは明らかである。したがって、このような変更及び修正が、下記に添えられた特許請求の範囲及びその均等の範囲内に含まれることは明白である。
【実施例】
【0030】
〔調製実施例〕ECAP(化学式(I)の化合物)の調製
【0031】
(1.Davallia formosana抽出物の調製)
Davallia formosanaの根及び茎を、75容積%のエタノールで2回抽出し、得られた抽出物を50℃の減圧下に置き、溶媒を蒸発させた。Davallia formosanaのエタノール抽出物の収率は、9.5質量%であった。本実施例で用いたDavallia formosanaのエタノール抽出物の量は、抽出物の乾燥重量に基づいていた。このエタノール抽出物を水に懸濁し、n−ブタノールで分離し、n−ブタノール画分を濃縮した。エタノール抽出物から得られたn−ブタノール画分の収率は、20.2質量%であった。
【0032】
(2.ECAPの精製)
n−ブタノール画分(10g)をHP−20カラム(Diaion、日本錬水社製、日本)に導入し、水、メタノールの順に溶出した。8つのフラクションが得られた(フラクション1〜8)。フラクション6(230mg)は分取高速液体クロマトグラフィー(HPLC)で精製し、純化合物(136mg)を得た。分取HPLC(SHIMADZU LC−8A、島津製作所社製、京都、日本)の操作条件は、以下の通りである:移動相、メタノール−水(9:1);カラム、5C18−MS−II(コスモシール、ナカライテスク社製、日本);カラムの内径、10mm;カラムの長さ、250mm。
【0033】
純化合物をNMR(1H,13C;ADVANCE DPX−200、ブルカー社製、ドイツ)で分析し、該化合物を(−)−エピカテキン−3−O−β−D−アロピラノシド(ECAP、化学式(I)の化合物)と同定した。ECAPの13C及び1HのNMRスペクトル(200MHz,CDCl3)の結果を表1に示す。
【0034】
【化3】
【0035】
【表1】
【0036】
〔実施例1〕マクロファージの炎症反応の抑制試験
【0037】
マクロファージは炎症反応において重要な役割を有し、種々の免疫の病理学的反応を媒介し得る。マクロファージは活性化された後、一酸化窒素(NO)といった、種々の炎症性メディエーターを産生し得る。マクロファージは種々の炎症性物質(例えば、リポ多糖体(LPS))の刺激により活性化され得るため、以下の実験では、マクロファージを活性化させて一酸化窒素を放出させるために、リポ多糖体を用いた。このモデルで、ECAPの抗炎症効果を試験した。
【0038】
(実験A.一酸化窒素含有量の測定)
異なる濃度(0,10,25,及び50μg/mL)のECAPを、RAW264.7マクロファージを入れた96−well培養ディッシュ(ダルベッコ変法イーグル培養培地(DMEM)、10質量%の加熱不活性化したFBS、100U/mLペニシリン、及び100μg/mLストレプトマイシンを含有する)に加えた。細胞を1時間培養し、その後、培養ディッシュに1μMのリポ多糖体を加えた。細胞を24時間培養した後、上清を収集し、Griess試薬で一酸化窒素含有量を測定した。結果を表2に示す。加えて、MTS(3−(4,5−ジ−メチルチアゾール−2−イル)−5−(3−カルボキシメトキシフェニル)−2−(4−スルホフェニル)−2H−テトラゾリウム)(プロメガ社製、マディソン、ウィスコンシン、アメリカ)によりマクロファージの生存率を測定した。その結果、RAW264.7マクロファージの生存率は、ECAP又はECAPとリポ多糖体との組み合わせによって影響を受けないことが示された。
【0039】
【表2】
【0040】
(実験B.誘導型一酸化窒素合成酵素(iNOS)の遺伝子発現の定量)
RAW264.7マクロファージを直径6cmの細胞培養ディッシュでインキュベートし(1×106/ディッシュ)、異なる濃度(0,10,25,及び50μg/mL)のECAPを細胞培養ディッシュに加え、細胞を1時間培養した。その後、リポ多糖体(1μg/mL)を細胞培養ディッシュに加えた。細胞を24時間培養した後、細胞を収集し、そのmRNAを抽出した。誘導型一酸化窒素合成酵素(iNOS)の遺伝子発現を、RT−PCRで分析した。グリセルアルデヒド−3−リン酸デヒドロゲナーゼ(GAPDH)遺伝子をコントロールとして用いた。この実験で用いたプライマーを表3に示す。この実験の結果を図1及び表4に示す。
【0041】
【表3】
【0042】
【表4】
【0043】
(実験C.iNOSのタンパク質発現の定量)
RAW264.7マクロファージを、直径6cmの細胞培養ディッシュにおいて、細胞密度1×106細胞/ディッシュで培養した。異なる濃度(0,10,25,及び50μg/mL)のECAPを細胞培養ディッシュに加え、細胞を1時間培養した。その後、リポ多糖体(1μg/mL)を細胞培養ディッシュに加えた。細胞を24時間培養した後、細胞を収集し、細胞質のタンパク質を抽出した。ウェスタンブロット法で誘導型一酸化窒素合成酵素(iNOS)のタンパク質発現を分析した。この実験に用いた抗体は、抗ウサギiNOS抗体(アブカム社製、ケンブリッジ、米国)であった。結果を図2及び表5に示す。
【0044】
【表5】
【0045】
表2、表4、表5、並びに図1及び図2の結果により、ECAPは、リポ多糖体により誘導されたマクロファージの活性化を抑制してマクロファージの誘導型一酸化窒素合成酵素の遺伝子発現及びタンパク質発現を低減させ、その結果、一酸化窒素の生成を低減させ得ることが示される。
【0046】
実験A〜Cの結果により、ECAPは、マクロファージの活性化を抑制し得、それゆえマクロファージの炎症反応を抑制し得ることが示唆された。
【0047】
〔実施例2〕CCl4により誘導されたマウス慢性肝炎の抑制試験
【0048】
(実験D.マウス慢性肝炎の誘導)
36匹のICRマウス(癌研究機関)を4グループに分けた。1グループはコントロール群であり、他の3グループのマウスには、四塩化炭素(CCl4)を投与して肝障害及び肝線維症を誘導させた。マウスに8週間、週に2回、四塩化炭素(10%)(オリーブ油に溶解、0.1mL/10g)を経口投与した。加えて、3グループのCCl4で処理したマウスに、8週間、1日1回、0.5質量%カルボキシメチルセルロース(CMC)又はECAP(100,200mg/kg)を各々経口投与した。投与の手順が終了した後、マウスをCO2で麻酔し、腹部静脈から血液を収集し、血漿中の生化学的パラメータを定量した。その後すぐに、マウスの肝臓を解剖し、氷冷した生理的食塩水で洗浄した。肝臓を4部位に分け、病理切片用に10容積%の中性ホルムアルデヒドに各々浸し、100℃で乾燥させ、−80℃で保存した。
【0049】
(実験E.アラニンアミノトランスフェラーゼ及びアスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ活性の定量)
実験Dで収集した血液を15分間、4,700rpmで遠心分離し、自動生化学的機器(コバスミラ、ロシュ社製、ロートクロイツ、スイス)及び市販の試薬(ロシュダイアグノスティックス社製、マンハイム、ドイツ)を用いて、アラニンアミノトランスフェラーゼ(ALT)及びアスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ(AST)の活性を定量した。血漿中ALT及びASTは、肝炎の指標となる。結果を表6に示す。
【0050】
【表6】
【0051】
表6に示されるように、ECAPはCCl4により誘導されたマウスの血漿中ALT及びAST活性亢進を抑制することができる。この結果から、ECAPはCCl4により誘導されたマウスの肝炎を軽減し得ることが示唆される。
【0052】
(実験F.肝臓の繊維化レベルの定量−組織染色)
実験Dにおいて得られた肝臓組織をホルムアルデヒドで固定し、パラフィンに包埋し、薄切し、ヘマトキシリン・エオシン(H&E)染色により染色した。図3に示されるように、ECAPはCCl4により生じた肝臓細胞の重度の壊死を軽減し得る。
【0053】
各種の慢性肝炎及び肝障害により、肝線維症が引き起こされる。肝線維症の主要な要因は、細胞外基質におけるコラーゲンの増加である。それゆえ、肝線維症のレベルは、肝臓におけるコラーゲン含量の測定により評価され得る。したがって、後述の実験では、コラーゲンに特異的な染色(すなわち、シリウスレッド染色)を用いて、及び画像分析ソフトウェア(Image−Pro Plus version 5.1;メディアサイバネティクス社製、メリーランド、米国)を用いて、肝線維症の割合を分析した。結果を表7及び図4に示す。
【0054】
【表7】
【0055】
表7及び図4により、ECAPは肝線維症のレベルを低減させ得ることが示唆される。
【0056】
(実験G.肝臓の繊維化レベルの定量−コラーゲンの分析)
ヒドロキシプロリンはコラーゲンにおいて特異的なアミノ酸であるため、肝線維症のレベルは肝臓におけるヒドロキシプロリン含量から評価され得る。肝臓組織におけるヒドロキシプロリン含量を定量するための方法は、Neuman RE.,Logan MA.The determination of hydroxyproline.J.Biol.Chem.1950;184:299−306に基づき、この内容の全ては参照により本明細書に取り込まれる。乾燥させた肝臓組織を加水分解し、この組織にH2O2を加えて酸化反応を起こした。その後、発色のためにp−ジメチルアミノベンズアルデヒドを用い、540nmの波長下で吸光度を測定した。結果を表8に示す。
【0057】
【表8】
【0058】
表8の結果より、ECAPはCCl4処理により増加した肝臓のヒドロキシプロリン含量を低減させ得ることが示唆され、ECAPは肝線維症を軽減させ得ることが示される。
【0059】
(実験H.肝臓クッパー細胞の活性化の定量−免疫染色)
CCl4により誘導された肝炎は、リポ多糖体を産生することで肝臓(すなわち、クッパー細胞)のマクロファージを活性化させ得、マクロファージにサイトカインを産生させ肝障害を引き起こす。リポ多糖体は、クッパー細胞でCD14と反応し、クッパー細胞の炎症反応を活性化し得る(Su,G,L.,2002.Lipopolysaccharides in liver injury:molecular mechanisms of Kupffer cell activation.Am.J.Physiol.283,G256−G265に記載され、この内容の全ては参照により本明細書に取り込まれる)。したがって、ECAPがCD14発現によるクッパー細胞の活性化を抑制することにより肝線維症を軽減させ得るのかについて、CD14の免疫染色を行うことで確認した。
【0060】
この実験において、病理切片を脱ワックスし、エタノールで脱水し、切片に3容積%のH2O2を加えることで内因性ペルオキシダーゼを除去した。それに5容積%のミルクを加え30分間インキュベートして、非特異的な結合をブロックした。その後、CD14の抗体を該切片に加え、室温で2時間インキュベートした。該切片をリン酸緩衝生理食塩水(PBS)で洗浄した。次に、二次抗体を該切片に加え、室温で30分間インキュベートした。発色のために免疫検出キット及びジアミノベンジジンを用い、該切片をヘマトキシリンで染色し、脱水後、シールした。
【0061】
図5に示されるように、ECAPはCD14の発現を低下させ得る。このことから、ECAPはクッパー細胞の活性化を抑制することで肝線維症を軽減させ得ることが示される。
【0062】
〔実施例3〕II型コラーゲンにより誘導されるマウス関節炎の抑制試験
【0063】
(実験I.関節炎の症状の評価)
関節リウマチは、関節腔における一種の慢性炎症である。関節腔における長期間の炎症により、マクロファージが刺激され、破骨細胞に分化し得る。破骨細胞はマトリックスメタロプロテアーゼ−9(MMP−9)を産生し、骨基質を分解し、骨にダメージを与え得る。加えて、マトリックスメタロプロテアーゼ−9はまた、腫瘍細胞の増殖、遊走、及び/又は浸潤に関与する。
【0064】
この実験では、25gのDBA/1J雄マウス(ジャクソンラボラトリー、バーハーバー、メイン、米国)を用いた。マウスを、12時間の光(照明時間:午前8時〜午後8時)の照明サイクル下で、定温(21−24℃)で、動物飼育室にて飼育し、標準的なマウスの飼料を与えた。マウスを無作為に4グループに分けた(各グループ6匹)。1つのグループはコントロール群であり、他の3つのグループは関節炎モデル群(CIA群)である(II型コラーゲン(CII)によりマウス関節炎を誘導した)。CIIを50mM酢酸溶液に溶解し、4℃で一晩冷蔵庫に置き、CIIを十分に溶解した;該溶液におけるCII濃度は2mg/mLであった。その後、完全フロイントアジュバント(CFA)100μL加えることで、CII溶液100μLを乳化した。乳化が終わった後、乳化された溶液をマウスの尾に皮下注射した(100μg/マウス)。21日後、等量の不完全フロイントアジュバント(IFA)と混合することでCII溶液を乳化した。乳化が終わった後、乳化された溶液をマウスの尾に皮下注射した(100μg/マウス)。3つのグループにおける感作されたCIAマウスをH2Oコントロール群(10mL/kgの水を飲用)とECAP群(50又は100mg/kgのECAPを投与)とに分けた。CIIをさらにマウスに注射し、翌日から20日間、マウスにECAPを連続投与した。21日目、CIAマウスを屠殺し、後述の分析のために、マウスの血液、腎臓、鼠径部リンパ節、及び2本の後肢を除去及び収集した。
【0065】
マウスの感作後、マウスの肢の関節を5日ごとに1回に観察し、トルベッケ法(Thorbecke’ method)(Thorbecke et al.,Modulation by cytokines of induction of oral tolerance to type II collagen.Arthritis Rheum.,1999,42(1):110−8に記載されており、この内容の全ては参照により本明細書に取り込まれる)により炎症、腫脹、及び他の変化のレベルを評価した。下記の5つの症状を、評価及び格付けの基礎として用いた。
0:関節炎の症状なし
1:赤みを帯び軽度に腫脹した母指球及び足根
2:中程度に赤みを帯び腫脹した母指球及び足根
3:重度に赤みを帯び腫脹した母指球及び足根
4:硬直した関節及び変形した骨
結果を図6A及び図6Bに示す。
【0066】
(実験J.病理切片の分析)
実験IでのCIAマウスを屠殺した後、右側の足根から脛骨にわたる組織を除去し、10容積%のホルムアルデヒドで固定した。翌日、足根の筋肉及び生皮を除去し、足根を1週間、10容積%の新鮮なホルムアルデヒドに浸した。その後、脱灰のために足根を15質量%のエチレンジアミン四酢酸(EDTA)に浸した。脱灰溶液を2日ごとに1回、交換した。2週間後、足根をパラフィン包埋し、薄切した。切片をヘマトキシリン・エオシン染色により染色した。結果を図7に示す。
【0067】
その後、発色のために抗ウサギMMP−9抗体(ミリポア社製、マサチューセッツ、米国)及び3,3’−ジアミノベンジジン免疫検出キット(シグマ−アルドリッチ社製、セントルイス、ミズーリ、米国)を用いて免疫組織化学的染色を行った。切片を光学顕微鏡で観察した。結果を図8に示す。
【0068】
(実験K.足根組織のRT−PCR分析)
マウスの足根を液体窒素で凍結して粉末化し、RNAを抽出し、cDNAに逆転写した。サイトカインIL−1β(インターロイキン−1β)及びマトリックスメタロプロテアーゼ−9のmRNA含量をRT−PCRで分析した。この実験で用いたプライマーを表9に示す。結果を図9A〜9C、及び表10に示す。
【0069】
【表9】
【0070】
【表10】
【0071】
実験I〜K(図6A〜9C、及び表10)の結果により、ECAPはII型コラーゲンにより誘導されたDBA/1Jマウスの関節炎を効果的に抑制し得ることが示唆される。炎症抑制に加えて、ECAPはまた、骨のダメージを低下させ得る。加えて、ECAPはマトリックスメタロプロテアーゼ−9及びIL−1βの遺伝子発現を抑制し得る。マトリックスメタロプロテアーゼ−9は骨基質を分解する効果を有し、関節炎に由来する骨のダメージの主要な要因となる。ECAPのマトリックスメタロプロテアーゼ−9発現抑制効果のメカニズムは、後述の細胞モデルの実験にて検討された。
【0072】
〔実施例4〕RANKLにより刺激されたマクロファージにおけるMMP−9発現抑制試験
【0073】
(実験L.RT−PCR分析)
異なる濃度(0,10,25,及び50μg/mL)のECAPを、RAW264.7マクロファージを入れた培養ディッシュ(α−MEM(α−最小必須培地)、10質量%の加熱不活性化したFBS、1質量%PSA(ペニシリン、ストレプトマイシン、アンホテリシンを含有する)を含有する)に加えた。1時間後、50ng/mLのRANKL(NFκB活性化受容体リガンド)を培養ディッシュに加えた。24時間培養後、細胞を収集し、そのRNAを抽出し、RT−PCR分析を行った。この実験で用いたプライマーは、実施例3の表9で示されたプライマーと同一であった。
【0074】
結果を図10及び表11に示す。
【0075】
【表11】
【0076】
(実験M.ザイモグラフィーアッセイ)
マトリックスメタロプロテアーゼ−9はゼラチンを分解することができるため、マトリックスメタロプロテアーゼ−9含量をザイモグラフィーアッセイで定量することができる。最初に、前述の実験Lにおける細胞培養液を収集し、10分間4℃で、1000×gで遠心分離した。ザイモグラフィーアッセイを行うために上清を収集した。30μgの培養液に4倍量のローディングダイを加え、10分間インキュベートし、サンプルを10容積%のSDS−PAGEで電気泳動することで分析した。分離ゲルは0.1容積%のゼラチンを含有していた。その後、電気泳動ゲルを2回、30分間洗浄バッファー溶液(3容積%のTriton X−100)に浸し、デベロッピングバッファー溶液(50mMトリス塩基、40mM HCl、200mM NaCl、5mM CaCl2及び0.2w/v% NaN3)をゲルに加え、30分間振盪した。その後、ゲルを洗浄し、新鮮なデベロッピングバッファー溶液を再度ゲルに加え、16時間37℃でインキュベートした。最後に、ゲルをクマシーブルー(0.2w/v%クマシーブルーR−250、50容積%メタノール、及び10容積%酢酸を含有する)で30分間染色し、脱色溶液(10容積%酢酸、及び30容積%メタノールを含有する)で脱色した;脱色溶液は15分ごとに交換した。脱色終了後、ゲルをゲルドライ溶液(50容積%脱イオン水、50容積%メタノール、及び0.33容積%グリセロールを含有する)に30分間浸し、観察のためにセロハン紙及びアクリル板で乾燥ゲルとした。結果を図11及び表12に示す。
【0077】
【表12】
【0078】
(実験N.ルシフェラーゼアッセイ)
RAW264.7マクロファージを24−well培養ディッシュで一晩培養し(5×104細胞/well)、pGL3.0−MMP−9プロモーターを細胞にトランスフェクションした。16時間後、ECAP(10,25,及び50mg/mL)を細胞に加え、細胞を24時間RANKL(50ng/mL)で刺激し、レポーター遺伝子の発現を測定した。該方法は、以下の工程を含んでいた。
【0079】
(1)プラスミドDNAの調製
リコンビナントプラスミドを有するDH5α大腸菌株をLB培地(50μg/mLアンピシリンを含有する)中で一晩培養し、プラスミドDNAをMidiキット(キアゲン社製、バレンシア、カリフォルニア、米国)で抽出した。この方法を以下にまとめる:培養培地を30分間4℃で、6,000×gで遠心分離し、上清を廃棄し、バクテリアを4.5mLのバッファーS1に均一に混合した。その後、4.5mLのバッファーS2をサンプルに加え、4〜6回穏やかに振り、サンプルを5分間室温に置いた。次に、4.5mLのバッファーS3Kをサンプルに加え、すぐに均一に混合し、サンプルを5分間室温に置いた。その後、4.5mLのバッファーBをサンプルに加え、4〜6回穏やかに振り、サンプルを30分間4℃で、5,000×gで遠心分離した。前述の工程で得られた上清を重力によりMidiprepシリンジフィルターに通し不純物を除去した。透明なろ液を重力によりMidiprepカラムに通した。カラムを7mLのバッファーW1、次に8mLのバッファーW2で溶出した。下部のMidiprepカラムを取り出し、2mLエッペンドルフチューブに置き、チューブを2分間4℃で12000×gで遠心分離した。残りのバッファーW2を捨て、プラスミドDNAをあらかじめ加温した(65℃)溶出バッファーにより溶出した。サンプルの吸光度を260nm及び280nmの波長下分光光度計で測定し、DNAサンプルの濃度及び純度を測定した。DNAサンプルを−80℃で保存した。
【0080】
(2)トランスフェクション
RAW264.7マクロファージを24−well培養ディッシュで一晩培養した(5×104細胞/well)。翌日、プラスミドDNA(0.5μg)をFBS非含有培養培地(200μL)と混合させ、スピンダウンした。その後、培地を1μLのjetPRIME(商標名)と混合し、スピンダウンし、10分間室温に置いた。プラスミドDNA(0.5μg)を含有する培地を0.4μgのpNF−κB−Luc及び0.1μgのpRL−TKYベクターと混合した。マクロファージをFBS非含有培養培地で2回洗浄し、各ウェルに200μLのFBS非含有培養培地を加えた。その後、200μLの前述のあらかじめ混合したプラスミドDNA/jetPRIME(商標名)を含有する培養培地を各ウェルに加えた。4時間後、培養培地(20質量%FBS及び2質量%PSAを含む)を各ウェルに加えた。翌日、細胞をPBSで2回洗浄し、1mLの新鮮な培養培地を細胞に加えた。その後、pNF−κB−Lucをトランスフェクションした細胞を1時間ECAPで前処理し、24時間RANKL(50ng/mL)で処理した。
【0081】
(3)レポーター遺伝子発現の検出
前述の反応終了後、細胞を氷冷したPBSで2回洗浄し、100μLの受動的溶解バッファー(プロメガ社製、マディソン、ウィスコンシン、米国)を細胞に加えた。その後、細胞をディッシュから収集し、遠心チューブに移し、−80℃と室温との間で3回、凍結と解凍とを繰り返し、1分間4℃で、12,000×gで遠心分離し、上清を収集した。ホタルルシフェラーゼ及びウミシイタケルシフェラーゼ(トランスフェクション効率の指標として)の活性を、デュアル−ルシフェラーゼレポーターアッセイキット(プロメガ社製、マディソン、ウィスコンシン、米国)により測定した。このアッセイの試験工程は以下の通りである。前述の工程で得られた上清(50μL)をチューブに移し替えた。チューブをルミノメーター(TD−20/20ルミノメーター)に置き、バックグラウンドの値を5秒間測定し、100μLのルシフェラーゼアッセイ試薬IIをチューブに入れ均一に混合した。生物発光を継続的に10秒間記録した。その後、100μLのStop&Glo試薬を加え、均一に混合し、生物発光を10秒間記録した。結果を図12及び表13に示す。
【0082】
【表13】
【0083】
実験L〜N(図10〜12及び表11〜13)の結果より、ECAPはRANKLにより刺激されたマクロファージのマトリックスメタロプロテアーゼ−9の遺伝子発現及びタンパク質発現を抑制する効果を有することが示唆される。
【0084】
〔実施例5〕NF−κB経路を介したMMP−9発現の抑制試験
【0085】
(実験O.電気泳動移動度シフトアッセイ)
NF−κB(核内因子−κB)は、種々の遺伝子の転写を調節する核内因子である。一般に、NF−κBは細胞質に存在し、p65/p50のダイマーの形態でIκB(NF−κB抑制タンパク質)に結合している。IκBが刺激されると、IκBキナーゼによりリン酸化される。リン酸化されたIκB(p−IκB)は分解されてNF−κBを活性化する。その後、核に移行し遺伝子の転写に関与し、NFATc1(活性化T細胞核内因子、cytoplasmic 1)といった転写調節タンパク質の発現に影響を及ぼし、その結果マトリックスメタロプロテアーゼ−9の発現に影響を及ぼす。
【0086】
電気泳動移動度シフトアッセイ(EMSA)を行い、ECAPがNF−κBのマクロファージの核内への移行量を低下させることによりマトリックスメタロプロテアーゼ−9の発現を抑制するかについて検証した。
【0087】
この実験において、異なる濃度(0,10,25,及び50μg/mL)のECAPを、RAW264.7マクロファージを含む培養ディッシュに加えた。1時間培養した後、細胞をRANKL(50ng/mL)で処理し、60分間培養した。核内のタンパク質を抽出し、EMSAで解析した。この実験で用いたDNA配列は下記の通りである。
cy5−5’−TCGACCAACTGGGGACTCTCCCTTTGGGAACA−3’(配列番号11)
cy5−5’−TCGATGTTCCCAAAGGGAGAGTCCCCAGTTGG−3’(配列番号12)
結果を図13A及び図13B、並びに表14に示す。
【0088】
【表14】
【0089】
図13A及び図13B、並びに表14の結果より、ECAPはRANKLにより刺激されたマクロファージにおけるNF−κBの移行を抑制し得ることが示唆される。
【0090】
(実験P.ウェスタンブロット解析)
この実験は、分化試薬、RANKL(50ng/mL)を、RAW264.7マクロファージを含む培養ディッシュに加えることで行った。その後、異なる濃度(0,10,25,及び50μg/mL)のECAPを加えた。RAW264.7マクロファージを60分間培養した後、核及び細胞質におけるタンパク質を抽出し、核におけるp65及び細胞質におけるp−IκBαのタンパク質発現をウェスタンブロットで各々解析した。加えて、細胞内の全体のタンパク質を抽出し、NFATc1タンパク質発現をウェスタンブロットで解析した。結果を図14及び図15、並びに表15に示す。
【0091】
【表15】
【0092】
図14及び図15、並びに表15の結果より、ECAPはp65及びp−IκBαのタンパク質発現を抑制し、NF−κBの核内への移行量を低下させ、それによりマトリックスメタロプロテアーゼ−9のタンパク質発現を低下させ得ることが示唆される。したがって、ECAPは、NF−κBのマクロファージの核内への移行量を低下させることで、マトリックスメタロプロテアーゼ−9の発現を抑制し得る。
【0093】
実施例3〜5により、ECAPはマトリックスメタロプロテアーゼ−9の発現を抑制することができるため、腫瘍細胞の増殖、遊走、及び/又は浸潤を抑制するといった、マトリックスメタロプロテアーゼ−9に関与する疾患を治療するために用いられ得ることが示唆される。
【0094】
(関連する出願)
本出願は、台湾特許出願100108508(出願日2011年3月14日)に基づく優先権を主張しており、その内容は本明細書に参照として取り込まれる。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
化学式(I)の化合物、前記化学式(I)の化合物の薬学上許容し得る塩、前記化学式(I)の化合物の薬学上許容し得るエステル、及びこれらの混合物からなる群より選ばれた有効量の活性成分と、薬学上許容し得るキャリアと、を含有する、マクロファージの活性化を抑制するための医薬組成物。
【化1】
【請求項2】
前記活性成分が前記化学式(I)の化合物である、
ことを特徴とする請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項3】
マクロファージ活性化症候群(MAS)を治療すること、炎症を治療又は抑制すること、及びマトリックスメタロプロテアーゼ−9(MMP−9)の発現を抑制することからなる群より少なくとも1つ選択されたことのための請求項1又は2に記載の医薬組成物。
【請求項4】
関節炎及び肝炎のうち少なくとも1つを治療するための請求項1乃至3のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【請求項5】
関節リウマチを治療するための請求項4に記載の医薬組成物。
【請求項6】
マトリックスメタロプロテアーゼ−9の発現を抑制するための請求項1乃至3のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【請求項7】
腫瘍細胞の増殖、遊走、及び浸潤からなる群より少なくとも1つ選択されたものを抑制するための請求項6に記載の医薬組成物。
【請求項8】
前記腫瘍細胞は、骨肉腫細胞、肉腫細胞、リンパ腫細胞、前立腺癌細胞、膠芽細胞腫細胞、メラノーマ細胞、肺癌細胞、膵臓癌細胞、卵巣癌細胞、乳癌細胞、及びこれらの組み合わせからなる群より選択される、
ことを特徴とする請求項7に記載の医薬組成物。
【請求項1】
化学式(I)の化合物、前記化学式(I)の化合物の薬学上許容し得る塩、前記化学式(I)の化合物の薬学上許容し得るエステル、及びこれらの混合物からなる群より選ばれた有効量の活性成分と、薬学上許容し得るキャリアと、を含有する、マクロファージの活性化を抑制するための医薬組成物。
【化1】
【請求項2】
前記活性成分が前記化学式(I)の化合物である、
ことを特徴とする請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項3】
マクロファージ活性化症候群(MAS)を治療すること、炎症を治療又は抑制すること、及びマトリックスメタロプロテアーゼ−9(MMP−9)の発現を抑制することからなる群より少なくとも1つ選択されたことのための請求項1又は2に記載の医薬組成物。
【請求項4】
関節炎及び肝炎のうち少なくとも1つを治療するための請求項1乃至3のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【請求項5】
関節リウマチを治療するための請求項4に記載の医薬組成物。
【請求項6】
マトリックスメタロプロテアーゼ−9の発現を抑制するための請求項1乃至3のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【請求項7】
腫瘍細胞の増殖、遊走、及び浸潤からなる群より少なくとも1つ選択されたものを抑制するための請求項6に記載の医薬組成物。
【請求項8】
前記腫瘍細胞は、骨肉腫細胞、肉腫細胞、リンパ腫細胞、前立腺癌細胞、膠芽細胞腫細胞、メラノーマ細胞、肺癌細胞、膵臓癌細胞、卵巣癌細胞、乳癌細胞、及びこれらの組み合わせからなる群より選択される、
ことを特徴とする請求項7に記載の医薬組成物。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6A】
【図6B】
【図7】
【図8】
【図9A】
【図9B】
【図9C】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13A】
【図13B】
【図14】
【図15】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6A】
【図6B】
【図7】
【図8】
【図9A】
【図9B】
【図9C】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13A】
【図13B】
【図14】
【図15】
【公開番号】特開2012−193156(P2012−193156A)
【公開日】平成24年10月11日(2012.10.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−159820(P2011−159820)
【出願日】平成23年7月21日(2011.7.21)
【出願人】(509075457)中國醫藥大學 (11)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年10月11日(2012.10.11)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年7月21日(2011.7.21)
【出願人】(509075457)中國醫藥大學 (11)
【Fターム(参考)】
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