説明

マグネシウムシリサイドの製造方法

【課題】熱電素子として熱的に安定し、熱電変換効率も高いMgSi(マグネシウムシリサイド)を短い加熱時間で容易に製造する。
【解決手段】Siウエハ1に、傾斜面あるいは円弧面が残るようにして該Siウエハ1を貫通する隣接したエッチング2をウエハ表面から形成した後、該隣接するエッチング2間にドーパント膜3を成膜し、さらにその上からMg膜4を成膜した後、MgSiの融点以下の温度で熱処理するようにしてMgSiのn型またはp型の熱電素子を製造する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱電素子として有用なマグネシウム(Mg)と珪素(Si)との化合物であるマグネシウムシリサイド(MgSi)を効率よく合成することができるマグネシウムシリサイドの製造方法の技術分野に属するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に、MgSiは、熱的に安定し、熱電変換効率も高いことが知られており、有用なものとして期待されている。しかしながら生成、加工が難しいことに加え、活性なMgを用いるため扱いづらいという問題があり、その実用化が望まれている。
そこで、所望の形状に加工したSi魂をMg雰囲気下で加熱して前記MgSiを合成する方法が提唱され、その場合において、p型またはn型のドーパントを、Mg雰囲気下で加熱する前または後に真空蒸着等で導入するようにしている(特許文献1参照)。
【特許文献1】特開2004−18274号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
ところでこのものは、Si魂とMg金属とを真空容器に封入し、370℃で72時間もの長いあいだ加熱処理をしてMgSiを成長させる必要があって、Siウエハ1枚をMgSi化するのに時間がかかりすぎるという問題があり、ここに本発明の解決すべき課題がある。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明は、上記の如き実情に鑑みこれらの課題を解決することを目的として創作されたものであって、請求項1の発明は、Siウエハに、傾斜面あるいは円弧面が残るようにして該Siウエハを貫通する複数のエッチングをウエハ表面から隣接する状態で形成した後、該隣接するエッチング間にドーパント膜を成膜してからさらにその上からMg膜を成膜し、しかる後、MgSiの融点以下の温度で熱処理するようにしたことを特徴とするマグネシウムシリサイドの製造方法である。
【発明の効果】
【0005】
請求項1の発明とすることにより、Siウエハに、傾斜面または円弧面が残る状態のエッチング処理を施すことにより、MgSi化するのに必要な拡散距離を短くできることになって、熱処理時間を短縮でき、しかも微細加工が可能になって熱電素子の小型化が達成できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0006】
次ぎに、本発明の実施の形態について、図面に基づいて説明する。図中、1は厚さ100μm(マイクロメートル)のSiウエハであって、該Siウエハ1に、該Siウエハ1を裏面まで貫通する状態で互いに平行する状態で互いに隣接するエッチング2を施すことになるが、その場合に、エッチング面が傾斜面あるいは円弧面として残る(Siウエハ1を表面から平面視したときに傾斜面あるいは円弧面が見える)ように施す。この場合のエッチング方法としては、異方性、等方性のウエットエッチングであり、ドライエッチングはあまり好ましくない。そして隣接するエッチング2同志の距離D、つまりSiウエハ1の裏面に形成される貫通孔の対向縁間の距離Dの大きさによって後述する熱処理の時間が決まる。これは距離Dが大きいほど、生成するMgSiの幅が広くなるためである。
因みに、距離Dと熱処理時間およびMgSiの幅との関係は、
距 離D 処理温度 処理時間 MgSiの幅
50μm 590℃ 2時間 約 75μm
67μm 590℃ 5時間 約100μm
となる。
【0007】
次いで、真空蒸着法によりSiウエハ1の表面側からドーパント膜3を成膜する。この場合に、ドーパントとしては、n型、p型の何れを用いることができるが、これらドーパントを、隣接するエッチング2同士のあいだの傾斜面又は円弧面に前記選択的にあるいはどちらか一方を全面に成膜してもよい。そしてドーパント膜3は、エッチング2が傾斜面あるいは円弧面として残っているため、該傾斜面あるいは円弧面にまで施されることになる。
【0008】
しかる後、真空蒸着法によりSiウエハ1の表面側からMg膜4を成膜したものについて、MgSiの融点(1102℃)以下の温度で熱処理(アニール処理)をしてMgSi(図2(C)において符号5で引き出したものであって、ドーパント膜3が形成されたエッチング2孔間のものが熱電素子として利用される)5を層状に合成する。熱処理の条件は前述したもので例示される。熱処理の時間は、処理温度を590℃とした場合、熱処理時間tとMgSiの厚さy(μm)との関係は、
y=42.045(t)0.5
であることが実験的に求められている。
そしてこのようにすることで、Siウエハ1に、傾斜面または円弧面が残る状態のエッチング処理が施されることになって、MgSi化するのに必要な拡散距離を短くできて、隣接するエッチング2間を、n型またはp型の熱電素子となるMgSiの細線を短時間の加熱処理で簡単に製造することができる。しかもこの細線は、エッチング加工でよいから、微細加工が可能になって熱電素子の小型化が達成できる。
【0009】
尚、Siウエアに施すエッチング形状を図3に例示するが、隣接するエッチング2間にSiウエアの表面が残るもの(A)(B)、先鋭状になっているもの(C)があり、またエッチング面としては傾斜状のもの(A)(C)、円弧状のもの(B)が例示される。
また、エッチングは一対に限定されず、3つ以上、必要において幾つも形成することができ、この場合に隣接エッチング間の距離Dについても要求される細線の太さによって適宜選択できるものである。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】(A)(B)はSiウエハのエッチング状態を示す拡大平面図、拡大縦断面図である。
【図2】(A)(B)(C)はSiウエハにドーパント膜を成膜した状態、その上にMg膜を成膜した状態、熱処理をしてMgSi化した状態を示す拡大縦断面図である。
【図3】(A)(B)(C)はSiウエハに施すエッチングの形状を例示する拡大縦断面図である。
【符号の説明】
【0011】
1 Siウエハ
2 エッチング
3 ドーパント膜
4 Mg膜
5 MgSi

【特許請求の範囲】
【請求項1】
Siウエハに、傾斜面あるいは円弧面が残るようにして該Siウエハを貫通する複数のエッチングをウエハ表面から隣接する状態で形成した後、該隣接するエッチング間にドーパント膜を成膜してからさらにその上からMg膜を成膜し、しかる後、MgSiの融点以下の温度で熱処理するようにしたことを特徴とするマグネシウムシリサイドの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2008−254976(P2008−254976A)
【公開日】平成20年10月23日(2008.10.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−100332(P2007−100332)
【出願日】平成19年4月6日(2007.4.6)
【出願人】(301023238)独立行政法人物質・材料研究機構 (1,333)
【出願人】(000144027)株式会社ミツバ (2,083)
【Fターム(参考)】