説明

マグネシウム二次電池用の電解液、マグネシウム二次電池および電解液の製造方法

【課題】充放電時にMg負極を十分に機能させ、実用に適した温度域で電池の使用を可能にするマグネシウム二次電池用の電解液、これを用いたマグネシウム二次電池および電解液の製造方法を提供する。
【解決手段】マグネシウム二次電池用の電解液125は、縮合りん酸が添加されたエステル系電解液からなる。このように、エステル系電解液を用いていることから、縮合りん酸は、エステル系電解液に溶解し、Mgイオンと錯体を形成する。この錯体が、Mg金属表面にMgイオンを透過させることができる被膜131を生成し、不動態膜Pの発生を防止して充放電を可能にする。また、十分に沸点が高く実用に適した温度範囲をカバーできる。これにより、充放電時にMg負極130を十分に機能させ、実用に適した温度域で電池を使用可能にする。その結果、高性能なマグネシウム二次電池を実現できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マグネシウム二次電池用の電解液、これを用いたマグネシウム二次電池および電解液の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、リチウムイオン二次電池が実用化され、ノートパソコンや携帯電話機などに利用されている。このようなリチウムイオン二次電池に用いられる電解液として、縮合りん酸添加電解液が開示されている(特許文献1−4参照)。縮合りん酸は正極の発熱を抑制することによる安全性向上、高温でのサイクル特性向上等の効果を発揮する。
【0003】
一方、最近では、安全性などの面からマグネシウム二次電池が注目されるようになり、これに適した電解液の開発が望まれている。マグネシウム二次電池の電解液には、水、プロトン性有機溶媒、エステル類やアクリロニトリル等の非プロトン性有機溶媒を使用することができない。これらの溶媒を用いると、Mg負極の表面に不動態膜が生じMgイオンを通さないためである。
【0004】
これに対し、エーテル系(THF等)の電解液を用いれば、不動態膜は発生しない。エーテル系(THF等)の電解液としては、例えば、グリニャール試薬(非特許文献1参照)、ジクロロブチルエチルアルミン酸マグネシウム(特許文献5参照)、Mg、トリフルオロメタンスルホン酸アルキル、第四級アンモニウム塩、1,3−アルキルメチルイミダゾリウム塩混合物(特許文献6参照)等のTHF溶液が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2007−220335号公報
【特許文献2】特開2009−301798号公報
【特許文献3】特開2010−251217号公報
【特許文献4】特開2003−151626号公報
【特許文献5】特開2009−21085号公報
【特許文献6】特開2010−015979号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】D. Aurbach et al,“Prototype systems for rechargeable magnesium batteries”, Nature 407, p.724-727(2000).
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、THF等は沸点が67℃と低いため、これ以上の温度域では使用することができない。THF溶液をマグネシウム二次電池の電解液として用いた場合、充放電時にMg負極は機能するものの、温度域が狭く実用的な電解液とは言えない。
【0008】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、充放電時にMg負極を十分に機能させ、実用に適した温度域で電池の使用を可能にするマグネシウム二次電池用の電解液、これを用いたマグネシウム二次電池および電解液の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
(1)上記の目的を達成するため、本発明に係るマグネシウム二次電池用の電解液は、縮合りん酸が添加されたエステル系電解液からなることを特徴としている。このように、エステル系電解液を用いていることから、縮合りん酸は、エステル系電解液に溶解し、Mgイオンと錯体を形成する。この錯体が、Mg金属表面にMgイオンを透過可能な被膜を生成し、不動態膜の発生を防止して充放電を可能にする。また、十分に沸点が高く実用に適した温度範囲をカバーできる。これにより、本発明のマグネシウム二次電池用の電解液は、充放電時にMg負極を十分に機能させ、実用に適した温度域で電池を使用可能にする。その結果、高性能なマグネシウム二次電池を実現できる。
【0010】
(2)また、本発明に係るマグネシウム二次電池用の電解液は、前記縮合りん酸が、負極表面1×10−4に対するPの割合が1mmol以上3mmol以下の濃度で添加されていることを特徴としている。これにより、過電圧を防止し、充放電のサイクル性を向上させることができる。
【0011】
(3)また、本発明に係るマグネシウム二次電池用の電解液は、前記エステル系電解液としてプロピレンカーボネート電解液からなることを特徴としている。これにより、縮合りん酸はプロピレンカーボネート電解液に溶解し、Mg金属表面の被膜生成を抑制できる。また、プロピレンカーボネート電解液は沸点が240℃であり、実用に適した温度範囲をカバーできる。
【0012】
(4)また、本発明に係るマグネシウム二次電池は、上記の電解液を電解液として有することを特徴としている。これにより、充放電時にMg負極を十分に機能させ、実用に適した温度域で使用可能にする高性能なマグネシウム二次電池を実現できる。
【0013】
(5)また、本発明に係るマグネシウム二次電池は、マグネシウム負極の表面にMg−縮合りん酸錯体に起因する被膜を更に有することを特徴としている。不動態膜の生成が防止され、この被膜がMgイオンを透過させることができるためマグネシウム二次電池の充放電が可能になる。
【0014】
(6)また、本発明に係る電解液の製造方法は、マグネシウム二次電池用の電解液の製造方法であって、五酸化二りんをエステル系溶液に添加して加熱するステップと、前記エステル系溶液に、Mg塩を含むエステル溶液を添加して加熱するステップと、を含むことを特徴としている。これにより、充放電時にMg負極を十分に機能させ、実用に適した温度域で使用可能にする高性能なマグネシウム二次電池を製造できる。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、充放電時にMg負極を十分に機能させ、実用に適した温度域で電池を使用可能にする。その結果、高性能なマグネシウム二次電池を実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】マグネシウム二次電池の構成を示す模式図である。
【図2】(a)〜(c)Mg負極の断面を示す模式図である。
【図3】電解液の各成分の濃度を示す表である。
【図4】(a)〜(c)各P添加量に対するMg負極の充放電曲線を示すグラフである。
【図5】(d)、(e)各P添加量に対するMg負極の充放電曲線を示すグラフである。
【図6】(a)、(b)Mg負極のサイクリックボルタモグラムを示すグラフである。
【図7】(a)、(b)SB−V正極のサイクリックボルタモグラムを示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
次に、本発明の実施の形態について、図面を参照しながら説明する。
【0018】
(マグネシウム二次電池)
図1は、マグネシウム二次電池100の構成を示す模式図である。図1に示すように、マグネシウム二次電池100は、正極110、セパレータ120および負極130を備えている。正極110は、正極集電体(図示せず)および正極活物質115を有している。正極集電体は、正極活物質とともに正極を構成し、放電時に正極活物質に電子を供与する。
【0019】
セパレータ120は、正極110と負極130とを隔離し、かつ電解液125を保持して正極110と負極130との間のイオン伝導性を維持する。セパレータ120は、保液能力を有しており、電解液125を保持している。電解液125は、陽イオンを含んでいる。電解液中で酸化還元反応が進むことにより充放電可能となっている。陽イオンには、マグネシウムイオンが用いられる。負極130は、放電時に酸化反応を生じさせる。負極130には、マグネシウムが用いられる。
【0020】
(電解液)
マグネシウム二次電池用の電解液125は、エステル系電解液に縮合りん酸を添加した溶液である。縮合りん酸は、PC溶液等のエステル系電解液に溶解し、Mgイオンと錯体を形成する。縮合りん酸は、負極表面1×10−4に対するP(五酸化二りん)の割合が1mmol以上3mmol以下の濃度で添加されていることが好ましい。これにより、Mgイオンの透過できる被膜を形成して過電圧を防止し、充放電のサイクル性を向上させることができる。
【0021】
エステル系電解液としては、プロピレンカーボネート電解液(PC溶液)を用いることが好ましい。これにより、縮合りん酸はプロピレンカーボネート電解液に溶解し、Mgイオンと錯体を形成する。
【0022】
この錯体が、Mg金属表面の不動態被膜生成を抑制し、充放電を可能にする。すなわち、Mg負極表面にMg−P錯体(縮合りん酸錯体)に起因する被膜が生成され、この被膜がMgイオンを透過可能であることにより、マグネシウム二次電池の充放電が可能になると考えられる。この被膜は、Mgイオンを通さない不動態膜とは別の被膜である。また、プロピレンカーボネート電解液は沸点が240℃であり、実用に適した温度範囲をカバーできる。
【0023】
図2(a)〜(c)は、Mg負極130の断面を示す模式図である。図2(a)〜(c)に示す構造上の相違からMg負極面積とPの量との関係がマグネシウム二次電池100の電極特性に影響する。Mg負極面積に対してPの量が少ない場合には、図2(a)に示すようにMg負極130の表面に不動態膜Pが生じ、充放電が困難である。
【0024】
一方、Mg負極面積に対してPの量が増加すると、充放電が可能になる。これは、図2(b)に示すようにMg負極130の表面にMg−P錯体に起因する被膜131が生成し、この被膜131がMgイオンを透過させることができるためと考えられる。
【0025】
の量がMg金属面積に対して大きくなりすぎると、図2(c)に示すようにMg−P錯体に起因する被膜131が厚くなる。こうなると、Mgイオン透過(析出)の抵抗が大きくなることで過電圧が大きくなり、サイクル特性が劣化する。
【0026】
(マグネシウム二次電池の製造方法)
次に、マグネシウム二次電池100の製造方法を説明する。まず、電解液125を作製する。電解液125の作製では、PC等のエステル系溶液にPを添加し、加熱して溶解する。さらに、この溶液にMgエステル溶液(Mg(ClO/PC)を添加し加熱して作製する。そして、正極活物質115を正極集電体に接触させて正極110を作製する。このようにして得られたMg負極130および電解液125を用いてマグネシウム二次電池100を作製することができる。
【実施例】
【0027】
Mg塩を含むエステル溶液を一定にし、P濃度および負極1×10−4当たりのPの割合を変えて電解液を作製した。図3は、電解液の各成分の濃度を示す表である。図3に示すように、P濃度は、0〜0.4Mの範囲で変えた。負極1×10−4当たりのPの割合は、0〜3mmolの範囲で変えた。
【0028】
図4(a)〜(c)図5(d)、(e)は、各P添加量に対するMg負極の充放電曲線を示すグラフである。図4(a)〜(c)図5(d)、(e)に示すグラフは、それぞれ比較例、実施例1〜4の充放電曲線に対応しており、各図には、サイクルの回数を表示している。参照電極もMgを使用しているので、各図では原則として0Vより高い曲線が放電曲線、0Vよりも低い曲線が充電曲線を示している。MgからMgが溶解し、MgにMgが析出するため、負極自体は化学的には変化しない。よって、充放電とも0Vが理想である。充電放電とも電圧が0Vから大きく離れると過電圧が大きくなり、電池として性能が低下すること(劣化)を意味する。
【0029】
図4(a)に示すように、比較例(P無添加)では、充電時の過電圧が増大し、2サイクル目以降、充放電を行うことはできなかった。実施例1(負極1×10−4に対するPの割合が1mmol)では、サイクルとともに過電圧が増大し、サイクル劣化した。実施例2(負極1×10−4に対するPの割合が1.5mmol)、実施例3(負極1×10−4に対するPの割合が2mmol)では、過電圧の極端な増大が起こらず、サイクル性が向上した。
【0030】
実施例4(負極1×10−4に対するPの割合が3mmol)では、充放電に伴い過電圧の増大が起こり、サイクル劣化した。実施例3と実施例4とを比較すると、Mg金属面積に対してP量が大きすぎるとサイクル劣化することが分かる。これは、Mg負極表面の被膜が厚くなることでMgイオン透過(析出)の抵抗が大きくなり、過電圧が大きくなったためと考えられる。なお、実施例4の負極を取り出すと、被膜の生成が認められ、この被膜を除去して実験を続行すると、充電過電圧が低下した。このような検証からも、Mg負極に対するPの割合が高いと、Mgイオンを透過させる被膜が厚くなり、充電したとき過電圧が増大すると考えられる。
【0031】
図6(a)、(b)は、Mg負極のサイクリックボルタモグラムを示すグラフである。図7(a)、(b)は、SB−V正極のサイクリックボルタモグラムを示すグラフである。いずれも1サイクル目のグラフを示している。負極の電流密度は、P添加により増大、特に還元電流が増大した。正極の電流密度は負極に比べ大きく、P添加により変わらなかった。この結果は、Pの添加によって充電が可能になることを示している。負極の自然電位はP添加により低下した。正極の自然電位は大きな変化はなかった。この結果は電池電圧が向上することを示唆している。
【0032】
このように、Mg負極面積に対するPの量を好適な範囲に維持したエステル系電解液を用いることで、(特に充電側において)電流密度が増大し、自然電位が低下することが分かった。
【0033】
なお、Mg−錯体が存在しないと、Mgイオンを透過させる被膜が生成せず、充放電過電圧が大きくなる。したがって、電解液中のMgイオンの濃度が高く、充放電に関与するイオンが多い方が、充放電過電圧は低下し電池性能が向上する。ただし、これは一般的な事実であり、電池性能については電解液中のMgイオンとP量との相関よりもMg負極面積とP量との相関が高い。
【符号の説明】
【0034】
100 マグネシウム二次電池
110 正極
115 正極活物質
120 セパレータ
125 電解液
130 負極
131 Mg−P錯体(縮合りん酸錯体)に起因する被膜
P 不動態膜

【特許請求の範囲】
【請求項1】
縮合りん酸が添加されたエステル系電解液からなることを特徴とするマグネシウム二次電池用の電解液。
【請求項2】
前記縮合りん酸は、負極表面1×10−4に対するPの割合が1mmol以上3mmol以下の濃度で添加されていることを特徴とする請求項1記載のマグネシウム二次電池用の電解液。
【請求項3】
前記エステル系電解液としてプロピレンカーボネート電解液からなることを特徴とする請求項1または請求項2記載のマグネシウム二次電池用の電解液。
【請求項4】
請求項1から請求項3のいずれかに記載の電解液を電解液として有することを特徴とするマグネシウム二次電池。
【請求項5】
マグネシウム負極の表面にMg−縮合りん酸錯体に起因する被膜を更に有することを特徴とする請求項4記載のマグネシウム二次電池。
【請求項6】
マグネシウム二次電池用の電解液の製造方法であって、
五酸化二りんをエステル系溶液に添加して加熱するステップと、
前記エステル系溶液に、Mg塩を含むエステル溶液を添加して加熱するステップと、を含むことを特徴とする電解液の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図6】
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【図7】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−150924(P2012−150924A)
【公開日】平成24年8月9日(2012.8.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−7251(P2011−7251)
【出願日】平成23年1月17日(2011.1.17)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)国等の委託研究の成果に係る特許出願(平成22年度独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構「次世代自動車用高性能蓄電システム技術開発/次世代技術開発/カーボンフェルト電極マイクロ波放電を利用したマグネシウム二次電池正極活物質の研究開発」委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願)
【出願人】(591267855)埼玉県 (71)
【Fターム(参考)】