説明

マグネシウム合金成形品およびその製造方法

【課題】金属光沢等の所望の表面性状を確保し、かつ耐食性を有するマグネシウム合金成形品、およびその製造方法を提供する。
【解決手段】マグネシウムまたはマグネシウム合金より成る基体と、該基体の表面の少なくとも一部分を被覆する樹脂皮膜とを含むマグネシウム成形品であって、前記樹脂皮膜がアルコキシシラン化合物を含み、前記基体と、前記樹脂皮膜の間に水酸化物を含む第1の化成皮膜を有することを特徴とするマグネシウム成形品である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マグネシウム合金成形品およびその製造方法に関し、とりわけ、耐食性および透明性に優れた被覆を有するマグネシウム合金成形品およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
マグネシウムおよびマグネシウム合金の成形品は、比強度および比剛性が高く、軽量化を容易に行えることから、携帯電話、カメラ、パーソナルコンピュータ等を含む多くの製品に用いられている。そして、これらの製品は、外観の審美性を求められることが多い。そこでマグネシウム合金より成る基体の表面を、例えば、研磨、ピーニング、および/または切削し、金属光沢、梨地、またはつや消し(粗面化された表面)等の、所望の審美性を有する表面性状を得ている。
【0003】
しかし、マグネシウム合金は、非常に活性が高く、その金属表面は、容易に腐食し、変色等を生じてしまう。そこで、マグネシウム合金表面(基体表面)を被覆することにより、マグネシウム合金の耐食性を向上し、腐食を防止する必要がある。しかし、被覆が不透明、すなわち透明性(透過性)が低いと、被覆のために、マグネシウム合金表面を視認することができず、所望の審美性を確保することができない。
【0004】
そこで、例えば、特許文献1および2には、マグネシウム合金の基体表面の陽極酸化皮膜の上に、金属光沢を有し、かつ耐食性のある亜鉛層を形成する方法が示されている。特許文献3には、マグネシウム合金の表面を、微細孔を生ずる条件で陽極酸化を行うことで、金属光沢を有し、かつ耐食性のある被膜層を得る方法が示されている。さらに特許文献4には、電流のオンオフを数秒ごとに繰り返すことで薄く透明な陽極酸化皮膜を得る方法が示されている。
【0005】
また、特許文献5、6には、マグネシウム合金の耐食性(防錆性)を向上する有機系の防錆剤が示されている。特許文献7には、硝酸、過塩素酸または塩酸等を含む表面処理剤を用いてマグネシウム合金表面に金属光沢を得た後、例えば、エポキシ、ウレタン、アクリルなどの有機樹脂塗料によるクリアー塗装を行い、耐食性を向上させる方法が示されている。特許文献7の方法では、透明なクリアー塗装を用いることで透明性を確保している。
【特許文献1】特開2004−218029号公報
【特許文献2】特開2007−2339号公報
【特許文献3】特開2002−285361号公報
【特許文献4】特開2004−18901号公報
【特許文献5】国際公開 WO 00/40777号公報
【特許文献6】特開2002−285361号公報
【特許文献7】特開2004−149911号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、陽極酸化による方法は、費用が比較的高いという問題がある。更に、特許文献1、2に記載の陽極酸化により形成される表面は、亜鉛等のマグネシウム合金と異なる組成を有する皮膜であるため、表面性状がマグネシウム合金の表面性状と異なり、所望の審美性を得られない場合がある。また、特許文献3の陽極酸化皮膜は薄いため、耐食性が十分でない場合がある。
【0007】
さらに有機系の防錆剤では、十分な耐食性が得られずマグネシウム合金成形品の表面が時間の経過とともに腐食され変色する場合があるという問題がある。
【0008】
クリアー塗料による従来の塗装では、例えば、塗装被膜と金属との接着力を改善するためのシランカップリング剤を含む塗料を用いても、接着力が不十分で塗装皮膜が剥離する場合がある。そして、塗装皮膜が剥離すると十分な耐食性を確保できないという問題がある。
【0009】
そこで、本発明は、金属光沢等の所望の表面性状を確保し、かつ耐食性を有するマグネシウム合金成形品、およびその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
実施態様1:マグネシウムまたはマグネシウム合金より成る基体と、該基体の表面の少なくとも一部分を被覆する樹脂皮膜とを含むマグネシウム成形品であって、前記樹脂皮膜がアルコキシシラン化合物を含み、前記基体と、前記樹脂皮膜の間に水酸化物を含む第1の化成皮膜を有することを特徴とするマグネシウム成形品である。
【0011】
実施態様2:前記基体の表面の前記樹脂皮膜により被覆されていない部分の少なくとも一部分が、水酸化物、カルボン酸塩、リン酸塩、ケイ酸塩、炭酸塩、硫酸塩、チオ硫酸塩、硝酸塩、亜硝酸塩、過マンガン酸塩、アミノ化合物より成る群から選ばれる少なくとも1つを含む第2の化成皮膜により被覆されていることを特徴とする実施態様1に記載のマグネシウム成形品である。
【0012】
実施態様3:前記マグネシウム基体の前記樹脂で覆われた部分の少なくとも一部分が、研磨されていることを特徴とする実施態様1または2に記載のマグネシウム成形品である。
【0013】
実施態様4:マグネシウムまたはマグネシウム合金より成る基体と、該基体の表面の少なくとも一部分を被覆する樹脂皮膜とを含むマグネシウム成形品の製造方法であって、前記基体の表面の少なくとも一部分に水酸化物を含む第1の化成皮膜を形成する工程と、前記第1の化成皮膜の表面の少なくとも一部分にアルコキシシラン化合物を含有する樹脂皮膜を被覆する工程とを含むことを特徴とする製造方法である。
【0014】
実施態様5:前記基体の表面の前記樹脂皮膜により被覆されていない部分の少なくとも一部分に、水酸化物、カルボン酸塩、リン酸塩、ケイ酸塩、炭酸塩、硫酸塩、チオ硫酸塩、硝酸塩、亜硝酸塩、過マンガン酸塩、アミノ化合物より成る群から選ばれる少なくとも1つを含む第2の化成皮膜を形成する工程を含むことを特徴とする実施態様4に記載の製造方法である。
【0015】
実施態様6:前記第1の化成皮膜を形成する前に、前記基体の前記第1の化成皮膜を形成する部分を研磨する工程を含むことを特徴とする実施態様4または5に記載の製造方法である。
【0016】
実施態様7:前記第1の化成皮膜が、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化アンモニウムより成る群から選ばれる少なくとも1つを含む溶液を用いて形成されることを特徴とする実施態様4〜6のいずれかに記載の製造方法。
【0017】
実施態様8:前記第2の化成皮膜が、水酸化物、カルボン酸、カルボン酸塩、リン酸、リン酸塩、ケイ酸塩、炭酸、炭酸塩、硫酸、硫酸塩、チオ硫酸塩、硝酸、硝酸塩、亜硝酸、亜硝酸塩、過マンガン酸塩およびアミノ基化合物より成る群から選ばれる少なくとも1つを含む溶液を用いて形成されることを特徴とする実施態様4〜7のいずれかに記載の製造方法。
【発明の効果】
【0018】
本発明は、十分な透明性を有し、かつマグネシウムまたはマグネシウム合金よりなる基体に十分な耐食性を与えることができる被覆を有するマグネシウム合金成形品およびその製造方法を提供する。すなわち、所望の審美性を有し、かつ耐食性に優れたマグネシウム合金成形品およびその製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
シラン化合物の一種であるアルコキシシラン化合物を含む塗料により形成される樹脂被覆は、マグネシウム以外の多くの金属と強い接着力を有する。これは、アルコキシシラン化合物と金属との間に強い化学結合を生じるためである。しかし、マグネシウムおよびマグネシウム合金は高活性で、表面に容易に酸化マグネシウムを形成するため、アルコキシシラン化合物とマグネシウムとの間の化学結合が阻害されると考えられている。
【0020】
そこで、本発明者らは、マグネシウム基体の表面にアルコキシシラン化合物と強い化学結合を生じる化成被膜を形成することを検討した。マグネシウム合金成形品の審美性を確保するためには、この化成被膜は高い透明性(光透過性)を有する必要がある。発明者らは、水酸化物を主たる成分とする化成被膜が、このような特性を満足することを見出した。なおここでいう高い透明性とは、化成被膜の下にあるマグネシウム合金の表面を十分視認できることを意味する。
【0021】
1.実施形態1
以下に詳細を示す。
図1は、全体が100で表される本発明の実施形態1にかかるマグネシウム合金成形品を模式的に示す部分断面図である。マグネシウムまたはマグネシウム合金から成るマグネシウム合金基体1に、詳細を後述する、第1の化成皮膜2を介して樹脂皮膜5が被覆されている。
【0022】
・第1の化成皮膜
以下に第1の化成皮膜2について説明する。
第1の化成皮膜2は、水酸化物を主な成分とする。水酸化物としては、各種の水酸化物を用いることができる。マグネシウム合金中の成分である、マグネシウムおよびアルミニウムの水酸化物である水酸化マグネシウムおよび水酸化アルミニウムは、透明性を有し、基体1の表面に容易に形成できることから好ましい水酸化物である。
【0023】
これ以外にも、好ましい水酸化物として、例えば水酸化アンモニウムがある。
【0024】
化成皮膜2は、より高い透明性を得るように、水酸化物を重量%で好ましくは50%以上、より好ましくは70%以上含む。なお、含まれる水酸化物の種類は1つのみでも複数であってもよい。
【0025】
化成皮膜2は、より高い透明性を得るように好ましくは、厚さ0.2μm以下である。一方、水酸化物を主成分とする化成皮膜をマグネシウム合金に被覆すると、マグネシウム合金に耐食性が向上することが知られているが、この効果を最大限に発揮するためには、化成被膜2は、厚さ0.05μm以上であることが好ましい。
【0026】
なお、図1の化成皮膜2がアルコキシシラン化合物を含有する樹脂皮膜5と強い接着力を有する理由は、化成皮膜2の水酸化物の水酸基(−OH)が、アルコキシシラン基が分解して生成したシラノール基(−SiOH)と化学結合するためであると推測される。
【0027】
・樹脂皮膜
樹脂皮膜5は、アルコキシシラン化合物を含有している。アルコキシシラン化合物は例えば、テトラメトキシシラン(Si(OCH)、メチルトリメトキシシラン(CHSi(OCH)、ジメチルジメトキシシラン((CHSi(OCH)、フェニルトリメトキシシラン(CSi(OCH)、ジフェニルジメトキシシラン((CSi(OCH)、テトラエトキシシラン(Si(OC)、メチルトリエトキシシラン(CHSi(OC)、ジメチルジエトキシシラン((CHSi(OC)、フェニルトリエトキシシラン(CSi(OC)、ジフェニルジエトキシシラン((CSi(OCHCH)、ヘキシルトリメトキシシラン(CH(CHSi(OCH)、ヘキシルトリトエトキシシラン(CH(CHSi(OCHCH)、デシルトリメトキシシラン(CH(CHSi(OCH)またはトリフルオロプロピルトリメトキシシラン(CFCHCHSi(OCH)より選択される。
【0028】
樹脂被覆5は、アルコキシシラン化合物を1種類または2種類以上含んでよい。また、好ましくは、樹脂被覆5は、アルコキシシラン化合物を固形分比で10%以上、60%以下含む。10%以上だと、樹脂皮膜5と化成皮膜2との接着力を十分に確保でき、60%よりも多くなると、樹脂皮膜が脆くなるからである。
【0029】
なお、本発明において、アルコキシシラン化合物を含む樹脂皮膜の方が、他のクロロシラン化合物を含む樹脂皮膜より高い接着力を示す。これはアルコキシ基が分解してシラノール基が生成し、化成皮膜の水酸基と水素結合を形成するためと推定される。
【0030】
樹脂皮膜5として、シリコーン樹脂、エポキシ樹脂が好ましく、アクリル樹脂が更に好ましい。これは、アクリル樹脂が、高い透明性を有するだけでなく、高い耐食性、耐湿性、耐薬品性を有するからである。
【0031】
・マグネシウム合金基体
マグネシウム合金基体1は、マグネシウムまたはマグネシウム合金より成り、マグネシウム合金としては工業上用いられるいずれのマグネシウム合金も使用可能である。好ましいマグネシウム合金の例は、AZ21、AZ31、AZ61、AZ91、AZ101合金のようなAZ系合金、およびAM50、AM60のようなAM系合金である。
【0032】
基体1は、例えば、チクソモールディング、ダイキャスト、プレス、鍛造、重力鋳造、押し出し、引き抜きまたはこれらの組み合わせにより所望の形状に成形されている。
【0033】
基体1は、審美性を高めるように、金属光沢を与えるために研磨してもよい。このような金属光沢を得る研磨法として、例えばバフ研磨法、ベルト研磨法、バレル研磨法、ブラシ法を用いることができる。ダイヤモンドカット、研削を適用してもよい。また、梨地、またはつや消し(粗面化された表面)を得るようにピーニング、ブラスト、化学研磨等を用いてもよい。
【0034】
次に、本発明のマグネシウム合金物品100を製造する方法を以下に詳述する。
上記のように所望の形状を有し、適宜、研磨等を行い、審美性を有する所望の表面性状を備えた、基体1を準備する。そして、以下に示すように、前処理、化成処理、樹脂皮膜の被覆を行う。
(1)前処理 化成処理により化成皮膜2を生成する前に、必要に応じ、マグネシウム合金基体1表面の脱脂および/または表面に付着した汚れ除去を目的にした前処理を行ってもよい。
【0035】
脱脂処理は、マグネシウム合金基体の脱脂等に通常用いられる方法でよいが、特に、研磨を実施した場合には、アセトンやメチルエチルケトン等の有機溶剤を用いて拭うか超音波洗浄を行い脱脂するのが好ましい。例えば、1〜5分間超音波洗浄し、更に新しい溶剤で同様に洗浄する。研磨しない場合には、例えば水酸化ナトリウム等の強アルカリを用いて脱脂する。好ましい脱脂条件は、例えば濃度10〜100g/L、温度50℃〜90℃の水酸化ナトリウム中での脱脂である。より好ましい条件は、濃度10〜100g/L(最も好ましくは10〜20g/L)、温度50℃〜90℃の水酸化ナトリウム中で予備脱脂を行った後、さらに、濃度10〜100g/L(最も好ましくは60〜90g/L)、温度50℃〜90℃の水酸化ナトリウム中で脱脂を行う。
【0036】
これ以外にも、炭酸ナトリウム、重炭酸ナトリウム、ホウ砂のようなナトリウム塩、オルソケイ酸ナトリウム、珪酸ナトリウムのようなケイ酸塩類、第1リン酸ナトリウム、第2リン酸ナトリウム、第3リン酸ナトリウム等の各種リン酸ナトリウム、ピロリン酸ナトリウム、ヘキサメタリン酸ナトリウムのようなリン酸塩類を用いて脱脂を行ってもよい。
【0037】
マグネシウム酸化被膜を除去するためのエッチング処理は、リン酸、ケイフッ化水素酸、硫酸、硝酸、フッ化水素酸等の無機酸中またはシュウ酸、酢酸、クエン酸などの有機酸中で行われ、その後、アルカリ中で中和、脱スマット処理する。
【0038】
酸による好ましいエッチング条件は、無機酸の場合、濃度:1〜10g/L、温度:30〜70℃であり、有機酸の場合、濃度:10〜50g/L、温度:20〜70℃の範囲が好ましい。
【0039】
(2)化成処理
図1の基体1の表面に水酸化物を主な成分とする化成皮膜2を得るための1つの方法は、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、アンモニア水のようなアルカリ水溶液を用い、マグネシウム合金基体1の表面を処理することである。
【0040】
化成皮膜2として形成される水酸化物の例として、水酸基とマグネシウム合金中のマグネシウムおよび/またはアルミニウムとが結合した結果生じる、水酸化マグネシウムおよび/または水酸化アルミニウムを主たる成分とする水酸化物がある。
【0041】
水酸化カリウムを用いて化成処理を行う場合、水溶液は、濃度:5〜100g/L、温度:50〜90℃であることが好ましい。水酸化ナトリウム、アンモニア水のようなアルカリ水溶液を用いる場合は、濃度:10〜150g/L、温度:50〜90℃であることが好ましい。水酸化ナトリウムの場合には、濃度:10〜60g、温度:60〜80℃が、より好ましい。
【0042】
また、これら水溶液を用いた化成処理は、同じ種類の溶液で、濃度を変え、もしくは濃度を変えずに、または液の種類を変えて複数回繰り返してもよい。これにより、更に表面の耐食性を向上させることができる。
【0043】
例えば、水酸化ナトリウムを用いて処理をする場合、最初に濃度10〜20g/L、温度50〜70℃、保持時間15〜300秒で処理を行った後、さらに、濃度を50〜70g/Lとより高くし、温度50〜70℃、保持時間10〜60秒で処理を行うのが好ましい。これにより、耐食性を向上させることができる。これらの高い水酸化ナトリウムを用いた処理は、繰り返し実施してもよい。
【0044】
異なる種類の液で複数回処理する場合はもちろん、例えば濃度の異なる水酸化ナトリウム溶液中等、同じ種類の液(濃度を変えずに水溶液を変える場合も含む)で複数回処理する場合も、処理と処理の間に温水洗浄を含む水洗を行った方がよい。これにより、水酸化物皮膜の着色状態を調整できるからである。この場合、水洗の条件は好ましくは、温水洗の場合、温度40〜60℃、時間30〜90秒、水洗の場合は、温度10〜30℃、時間15〜60秒である。
【0045】
また、これ以外に例えば水酸化カリウムと水酸化ナトリウムを用いて処理する場合、最初に水酸化カリウム濃度5〜15g/Lで、温度50〜70℃、保持時間15〜300秒処理したのち、更に水酸化ナトリウム濃度50〜70g/Lで、温度50〜70℃、保持時間10〜60秒処理してもよい。
【0046】
なお、上記の溶液を用いた化成処理は、マグネシウム合金基体1の全体または一部を溶液(化成処理液)に浸漬することのみでなく、マグネシウム合金基体1の表面の全部または一部を、スプレー、塗布等により溶液を被覆すること、または溶液と接触させることも含む。
【0047】
従って、上記から明らかなように、図1の化成皮膜2は、必ずしもマグネシウム合金基体1の表面全体に形成される必要はなく、適宜、必要な部分にのみ形成してもよい。
【0048】
(3)樹脂皮膜の形成
次に、化成皮膜2の表面全体または一部分にアルコキシシラン化合物を含む樹脂皮膜5を被覆する。被覆は、例えば上述した樹脂とアルコキシシラン化合物を含む塗料を塗布することで実施してもよい。特に、審美性を高めるためにマグネシウム合金基体1を研磨した場合、基体および化成皮膜2による金属光沢意匠を生かすために、樹脂皮膜5は、光透過性のあるクリアーまたは着色クリアー塗料により形成することが好ましい。このような塗料として例えばフェクト社製FOC、No.100クリアー、MSタイプを用いることが可能である。
【0049】
樹脂皮膜の被覆は、これら塗料を塗布するために従来用いられている方法、例えば刷毛での塗布、スプレー塗布を用いることができる。
これ以外にも静電塗装、電着塗装により被覆してもよい。
【0050】
2.実施形態2
図2は、全体が200で表される本発明の実施形態2にかかるマグネシウム合金成形品を模式的に示す部分断面図である。図1と同じ番号の部分は、実施形態1と同じ、または相当する部材である。
【0051】
成形品200では、その表面(図2に示す上側の面)の一部分のみが第1の化成皮膜2とその上に配置された樹脂皮膜5により被覆され、残りの部分の全てまたは一部が第2の化成皮膜3により被覆されている。
【0052】
実施形態2にかかる成形品200は、例えば表面の一部、すなわち、製品の外観側の表面全部または一部分に金属光沢意匠を施すような審美性を要求される用途において用いることができる。すなわち、審美性が要求される部分を第1の化成皮膜2とその上に配置された樹脂皮膜5により被覆し、それ以外の部分、すなわち、製品の非外観部である裏面等、金属光沢意匠部以外の全てまたは一部分を第2の化成皮膜3により被覆している。
【0053】
第2の化成皮膜3としては、高い耐食性を有する化成皮膜であることが好ましく、第1の化成皮膜2と同じ水酸化物を主な成分とする化成皮膜でもよい。成形品200の第2の化成皮膜3が被覆されている部分は上述のように審美性を要求されないことから、第2の化成皮膜3は、透明性を要求されない。従って、耐食性をより高めるように第2の化成皮膜3の厚さは、第1の化成皮膜2よりも厚い方が好ましい。好ましい厚さは0.5μm以上である。
【0054】
また、透明性を要求されないことから、透明性(光透過性)は高くないがマグネシウム合金に耐食性を与えることができる各種の化成皮膜を第2の化成皮膜3として用いることができる。このような化成皮膜として、カルボン酸塩、リン酸塩、ケイ酸塩、炭酸塩、硫酸塩、チオ硫酸塩、硝酸塩、亜硝酸塩、過マンガン酸塩またはアミノ化合物を主たる成分とする化成皮膜がある。これらについても耐食性をより確実に確保するように、厚さは0.05μm以上が好ましい。また、厚さが厚過ぎると剥離しやすくなる場合があるため、厚さは1μm以下であることが好ましい。
【0055】
なお、高度な耐食性を確保するために、第2の化成皮膜3の代わりに、陽極酸化、または樹脂皮膜を形成することが可能であるが、陽極酸化は、コストが比較的高いという問題がある。樹脂被膜は、電着塗装により全体を同時に被覆することは可能であるが、特に、審美性を要求する以外の部分を塗装する場合には、ここで塗装したくない部分をマスキングして保護する必要があり、手間とコストがかかる。従って、化成皮膜3を形成することが好ましい。
以下にこれら化成皮膜のより詳細な具体例および生成方法を示す。
【0056】
(1)カルボン酸塩
タンニン酸のようなカルボン酸水溶液を用い、マグネシウム合金基体1に化成処理を行う。これにより、マグネシウム合金基体1の表面で、これらカルボン酸とマグネシウム合金中のマグネシウムおよび/またはアルミニウムが結合し、カルボン酸のマグネシウム塩および/またはアルミニウム塩を主成分とする化成皮膜が生成する。
【0057】
また、ラウリン酸、パルミチン酸、ステアリン酸などのカルボン酸のナトリウム塩またはカリウム塩のようなアルカリ金属塩の水溶液を用い化成処理を行ってもよい。この場合、マグネシウム合金基体1の表面には、これらカルボン酸のアルカリ金属塩を主とする化成皮膜3が形成する。この化成皮膜3は、上記カルボン酸のマグネシウム塩および/またはアルミニウム塩を含む場合がある。
【0058】
ギ酸、酢酸、シュウ酸、コハク酸のアルミニウム塩の水溶液を用いて化成処理を行ってもよい。この場合、マグネシウム合金基体1の表面には、これらカルボン酸のアルミニウム塩を主とする化成皮膜3が形成する。この化成皮膜3は、上記カルボン酸のマグネシウム塩を含む場合がある。例えばシュウ酸アルミニウム水溶液を用いて化成処理を行う場合、水溶液は、濃度:0.5〜30g/L、温度30〜70℃であることが好ましい。
【0059】
(2)リン酸塩
リン酸、リン酸マンガン、リン酸水素マンガン、リン酸水素アルミニウム、リン酸二水素アルミニウム、リン酸アルミニウム、リン酸水素カルシウム、リン酸二水素カルシウム、リン酸カルシウム、リン酸カルシウムナトリウムおよびリン酸ジルコニウムのような、−HPO、−HPOまたは−POを含有するリン酸およびリン酸塩の溶液を用い、化成処理を行う。なお、本明細書でいうリン酸とはオルトリン酸、メタリン酸、ピロリン酸、三リン酸、四リン酸等を含む広義のリン酸であり、リン酸塩とは、オルトリン酸、メタリン酸、ピロリン酸、三リン酸、四リン酸等の広義のリン酸の化合物を含む概念である。
【0060】
リン酸を用いることで、マグネシウム合金基体1の表面にリン酸マグネシウムおよび/またはリン酸アルミニウムを主成分とする化成皮膜3が形成される。
【0061】
一方、リン酸マンガン、リン酸水素マンガン、リン酸水素アルミニウム、リン酸二水素アルミニウム、リン酸アルミニウム、リン酸水素カルシウム、リン酸二水素カルシウム、リン酸カルシウム、リン酸カルシウムナトリウムおよびリン酸ジルコニウムのようなリン酸塩(リン酸の金属塩)の水溶液を用いて化成処理を行うことにより、マグネシウム合金基体1の表面に、これらリン酸塩を主成分とする化成皮膜3を形成できる。これらリン酸塩の化成皮膜3は、リン酸マグネシウムおよび/またはリン酸アルミニウムを含んでもよい。また、例えば種類の異なる金属のリン酸塩を混合した溶液中で化成処理を行うことにより、リン酸マグネシウムおよびリン酸アルミニウム以外の複数のリン酸塩を含んでもよい。
【0062】
例えば、リン酸ジルコニウムの水溶液を用いて化成処理を行う場合、水溶液は、濃度:1〜100g/L、温度:20〜90℃であることが好ましい。また、これ以外のリン酸、リン酸マンガン、リン酸水素マンガン、リン酸水素アルミニウム、リン酸二水素アルミニウム、リン酸アルミニウム、リン酸水素カルシウム、リン酸二水素カルシウム、リン酸カルシウム、リン酸カルシウムナトリウムのようなリン酸、リン酸塩の水溶液を用いる場合は、水溶液は、濃度:5〜30g/L、温度20〜90℃であるのことが好ましく、温度については25℃〜75℃であることがより好ましい。
【0063】
(3)ケイ酸塩
メタケイ酸ナトリウム、オルトケイ酸ナトリウム、メタケイ酸カリウムのようなケイ酸塩またはメタケイ酸塩の水溶液を用いて化成処理を行う。これによりマグネシウム合金基体1の表面にメタケイ酸ナトリウム、オルトケイ酸ナトリウム、メタケイ酸カリウムのようなケイ酸塩またはメタケイ酸塩を主成分とする化成皮膜3を得る。なお、得られた化成皮膜3は、ケイ酸マグネシウム(メタケイ酸マグネシウム)および/またはケイ酸アルミニウム(メタケイ酸アルミニウム)を含んでもよい。
【0064】
一方、ケイ酸アルミニウム、ケイ酸ジルコニウムのようなケイ酸塩(ケイ酸の金属塩)の水溶液を用いて化成処理を行うことにより、マグネシウム合金基体1の表面に、これらケイ酸塩を主成分とする化成皮膜3を形成できる。例えば、ケイ酸アルミニウムの水溶液を用いて化成処理を行う場合、水溶液は、濃度0.5〜30g/L、温度30〜70℃であることが好ましい。
【0065】
また、これらケイ酸塩金属塩の化成皮膜3は、ケイ酸マグネシウムおよび/またはケイ酸アルミニウムを含んでもよい。さらに、例えば種類の異なる金属のケイ酸塩を混合した溶液中で化成処理を行うことにより、ケイ酸マグネシウムおよびケイ酸アルミニウム以外の複数のケイ酸塩を含んでもよい。
【0066】
(4)炭酸、炭酸塩
炭酸、または炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、重炭酸ナトリウム、炭酸マンガン、炭酸アルミニウム、炭酸カルシウム、炭酸ストロンチウム、炭酸ジルコニウムのような炭酸塩の水溶液を用いて化成処理を行う。炭酸を用いた場合には、マグネシウム合金中のマグネシウムおよび/またはアルミニウムと結合し、炭酸マグネシウムおよび/または炭酸アルミニウムの化成皮膜3がマグネシウム合金基体1の表面に形成される。一方、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、重炭酸ナトリウム、炭酸マンガン、炭酸アルミニウム、炭酸カルシウム、炭酸ストロンチウム、炭酸ジルコニウムのような炭酸塩を用いると、これら炭酸塩を主成分とする化成皮膜を形成する。なお、得られた化成皮膜は、炭酸マグネシウムおよび/または炭酸アルミニウムを含んでもよい。
例えば、炭酸アルミニウムの水溶液を用いて化成処理を行う場合、水溶液は、濃度1〜50g/L、温度50〜90℃であることが好ましい。
【0067】
(5)硫酸、硫酸塩
硫酸、または硫酸ナトリウム、硫酸マンガン、硫酸アルミニウム、硫酸カルシウム、硫酸チタニル、硫酸ジルコニウム、硫酸カリウムアルミニウム、硫酸ナトリウムアルミニウムのような硫酸塩の水溶液を用い、化成処理を行う。硫酸を用いた場合には、硫酸マグネシウムもしくは硫酸アルミニウムまたはその両方を主成分とする化成皮膜3がマグネシウム合金基体1の表面に形成される。一方、硫酸ナトリウム、硫酸マンガン、硫酸アルミニウム、硫酸カルシウム、硫酸チタニル、硫酸ジルコニウム、硫酸カリウムアルミニウム、硫酸ナトリウムアルミニウムのような硫酸の金属塩を用いると、これら金属塩を主成分とする化成皮膜3が形成される。得られた化成皮膜3は、硫酸マグネシウムおよび/または硫酸アルミニウムを含んでもよい。
例えば、硫酸カリウムアルミニウムの水溶液を用いて化成処理を行う場合、水溶液は、濃度0.5〜30g/L、温度30〜60℃であることが好ましい。
【0068】
(6)チオ硫酸塩
チオ硫酸ナトリウム、チオ硫酸カルシウムのようなチオ硫酸塩の水溶液を用い化成処理を行う。マグネシウム基体1の表面にこれらチオ硫酸塩を主成分とする化成皮膜3を形成する。なお、得られた化成皮膜3は、チオ硫酸マグネシウムおよび/またはチオ硫酸アルミニウムを含んでもよい。
例えば、チオ硫酸カルシウムの水溶液を用いて化成処理を行う場合、水溶液は、濃度20〜50g/L、温度40〜60℃であることが好ましい。
【0069】
(7)硝酸、硝酸塩、亜硝酸塩
硝酸、または硝酸ナトリウム、硝酸アンモニウム、硝酸マンガン、硝酸カルシウム、亜硝酸カルシウム、硝酸アルミニウム、硝酸ストロンチウムのような硝酸塩または亜硝酸塩(金属塩)の溶液(例えば水溶液)を用い、化成処理を行う。硝酸または硝酸アンモニウムを用いた場合には、硝酸マグネシウムもしくは硝酸アルミニウムまたはその両方を主成分とする化成皮膜3がマグネシウム合金基体1の表面に形成される。一方、硝酸ナトリウム、硝酸マンガン、硝酸カルシウム、亜硝酸カルシウム、硝酸アルミニウム、硝酸ストロンチウムのような硝酸または亜硝酸の金属塩を用いると、これら金属塩を主成分とする化成皮膜3が形成される。この場合、得られた化成皮膜は、硝酸マグネシウムおよび/または硝酸アルミニウムを含んでもよい。
例えば、硝酸アルミニウムの水溶液を用いて化成処理を行う場合、水溶液は、濃度0.5〜50g/L、温度30〜60℃であることが好ましい。
【0070】
(8)過マンガン酸塩
過マンガン酸カリウムの溶液のような、過マンガン酸塩の水溶液を用い、化成処理を行う。マグネシウム基体1の表面にこれら過マンガン酸塩を主成分とする化成皮膜3を形成する。なお得られた化成皮膜3は、過マンガン酸マグネシウムおよび/または過マンガン酸アルミニウムを含んでもよい。
例えば、過マンガン酸カリウムの水溶液を用いて化成処理を行う場合、水溶液は、濃度1〜10g/L、温度30〜70℃であることが好ましい。
【0071】
(9)アミノ化合物
エチルアミン、イソプロピルアミン、ジエチルアミン、トリアゾール、アニリンのようなアミノ基を含むアミノ化合物または、これらアミノ化合物の溶液(例えば、水溶液、またはアルコールもしくはベンゼン溶液)を用い、化成処理を行う。マグネシウム基体1の表面にこれらアミノ化合物を主成分とする化成皮膜3を形成する。
例えば、エチルアミンの水溶液を用いて化成処理を行う場合、水溶液は、濃度5〜100g/L、温度30〜70℃であることが好ましい。
【0072】
上記の溶液を用いた化成処理は、マグネシウム合金基体1の全体または一部を溶液(化成処理液)に浸漬することのみでなく、マグネシウム合金基体3の表面の全部または一部をスプレー、塗布等により溶液を被覆すること、または溶液と接触させることも含む。
【0073】
なお、上述した、水酸化物、ならびにカルボン酸塩、リン酸塩、ケイ酸塩、炭酸塩、硫酸塩、チオ硫酸塩、硝酸塩、亜硝酸塩、過マンガン酸塩およびアミノ化合物を主な成分とする第2の化成皮膜3の形成に用いる化成処理液は、樹脂皮膜5を溶解せず、また損傷も与えない。従って、基体1の表面に第1の化成皮膜1を形成し、その上に樹脂皮膜5を被覆した後、樹脂皮膜5をマスキング等により保護することなく基体1を化成処理液に浸漬し、第2の化成皮膜3を形成することができるという利点がある。
【0074】
図2に示す成形品200では、基体1の同一の面(図2では基体1の上面)において、第1の化成皮膜2を形成しさらに樹脂皮膜5を被覆した部分と、第2の化成皮膜3を形成した部分とが存在している。しかし、例えば、基体1の表面と裏面のように、基体1の1つの面が、第1の化成皮膜2を形成してその上に樹脂皮膜5を被覆した部分を含み、別の面が第2の化成皮膜3を形成した部分を含む実施形態も当然に本発明の実施形態に含まれる。
【実施例】
【0075】
・実施例1
チクソモールド法で成形したマグネシウム合金AZ91Dの厚さ1mmの板から長さ100mm、幅50mmの試験片を複数切り出した。また、同様に厚さ0.8mmのマグネシウム合金AZ31B圧延材の板から長さ100mm、幅50mmの試験片を切り出した。
【0076】
切り出した試験片を住友スリーエム(株)製のトライザクト・ピラミッド・クロスベルト研磨布を装着した(株)オフィスマイン製ハンドエアサンダー(ローラーミニコ・RMB−1)を用いて表面を研磨した。研磨はまず粒度A100(#120)の研磨紙を用いて粗研磨し、次にA30(#400)を用いて仕上げ研磨を行った。仕上げ研磨後は、AZ91Dの試験片およびAZ31Bの試験片ともに金属光沢を有していた。
【0077】
次に、図3に示す手順に従い、研磨した試料に化成処理を行った。その後、実施例1−1では、AZ91Dの試験片3枚にアルコキシシラン化合物を固形分比で30%以上含むフェクト社製アクリルシリコーン系クリアー塗料FOC No.100 Type:MSをスプレー塗装により片方の面に塗布した。実施例1−2では、AZ31Bの試験片3枚に実施例1−1と同じくフェクト社製アクリルシリコーン系クリアー塗料FOC No.100 Type:MSをスプレー塗装により片方の面に塗布した。
【0078】
一方、比較例1−1では、AZ91Dの試験片5枚に、アルコキシシラン化合物を含まない斉藤塗料(株)製アクリルメラミン系クリアー塗料アクリサイト608クリヤーをスプレー塗装により片方の面に塗布した。また、比較例1−2として、AZ91Dの試験片に、アルコキシシラン化合物を含まないハニー化成(株)製有機−無機ハイブリッド系クリアー塗料ハニセラン MA150をスプレー塗装により片方の面に塗布した。
【0079】
そして、それぞれの塗料の特性に応じて、実施例1−1、1−2のサンプルは、80℃のオーブン中で30分、比較例1−1、1−2のサンプルは、160℃のオーブンで20分保持し乾燥させた。
【0080】
それぞれのサンプルの樹脂皮膜の厚さを(株)サンコウ電子研究所製の渦電流式膜厚計EDY−Iにより測定した結果、全てのサンプルで約15μmであった。
【0081】
これらのサンプルについて、恒温恒湿で保持した後、樹脂皮膜のある面で樹脂皮膜の密着度と外観観察を行い、評価した。実施例1−1、1−2の恒温恒湿条件は、温度40℃、湿度95%、保持時間240時間であった。比較例1−1、1−2の恒温恒湿条件は、温度40℃、湿度95%、保持時間24時間であった。
【0082】
密着度は、JIS K5400に規定されている、碁盤目試験による評点(JIS評点)を求めることで評価した。外観観察は、肉眼観察により行った。結果を表1に示す。実施例1−1、1−2はいずれもJIS評点が10で高い密着性を示し、外観観察でも腐食による変色は認められず金属光沢に変化はなかった。一方、比較例1−1、1−2はどちらもJIS評点が0〜6点であり密着性が低く、また腐食による変色が認められた。
【0083】
【表1】

【0084】
・実施例2
次に、樹脂を塗布後さらに化成皮膜を形成する実施形態2にかかる実施例を説明する。
実施例2−1として、実施例1−2のサンプルに、更に図4に示した手順に従い4回水酸化ナトリウム中に浸漬することで第2の化成皮膜をサンプルの裏面(樹脂皮膜のない面)に形成したサンプルを作製した。
【0085】
実施例2−2として、実施例1−1のサンプルに、更に図5に示した手順に従い3回水酸化ナトリウム中に浸漬することで第2の化成皮膜をサンプルの裏面(樹脂皮膜のない面)に形成した。
【0086】
そして、実施例2−1および2−2のサンプルを温度40℃、湿度95%、恒温恒湿で240時間保持し、実施例1と同じ方法で、密着度の評価と外観観察を行った。外観観察は、樹脂皮膜を形成した面に加えて、樹脂皮膜のない面(裏面)の観察も行った。
【0087】
この結果、実施例2−1および2−2のどちらのサンプルもJIS評点は10で高い密着度を示した。また、外観観察の結果、実施例2−1、2−2とも樹脂皮膜に化成処理によるダメージは認められず、樹脂皮膜のある面では金属光沢に変化はなく、腐食による変色もなかった。また、実施例2−1、2−2とも樹脂皮膜のない面は、化成皮膜が全面を覆い、腐食による変色はなかた。
【図面の簡単な説明】
【0088】
【図1】本発明にかかるマグネシウム合金物品の断面図である。
【図2】従来のマグネシウム合金物品の断面図である。
【図3】実施1−1、1−2および比較例1−1、1−2にかかる化成処理の内容を示すフローチャートである。
【図4】実施例2−1にかかる、樹脂皮膜を被覆後に行う化成処理の内容を示すフローチャートである。
【図5】実施例2−1にかかる、樹脂皮膜を被覆後に行う化成処理の内容を示すフローチャートである。
【符号の説明】
【0089】
1 マグネシウム合金基体、2 第1の化成皮膜、3 第2の化成皮膜、5 樹脂皮膜、100,200 マグネシウム合金成形品

【特許請求の範囲】
【請求項1】
マグネシウムまたはマグネシウム合金より成る基体と、該基体の表面の少なくとも一部分を被覆する樹脂皮膜とを含むマグネシウム成形品であって、
前記樹脂皮膜がアルコキシシラン化合物を含み、
前記基体と、前記樹脂皮膜の間に水酸化物を含む第1の化成皮膜を有することを特徴とするマグネシウム成形品。
【請求項2】
前記基体の表面の前記樹脂皮膜により被覆されていない部分の少なくとも一部分が、水酸化物、カルボン酸塩、リン酸塩、ケイ酸塩、炭酸塩、硫酸塩、チオ硫酸塩、硝酸塩、亜硝酸塩、過マンガン酸塩、アミノ化合物より成る群から選ばれる少なくとも1つを含む第2の化成皮膜により被覆されていることを特徴とする請求項1に記載のマグネシウム成形品。
【請求項3】
前記マグネシウム基体の前記樹脂で覆われた部分の少なくとも一部分が、研磨されていることを特徴とする請求項1または2に記載のマグネシウム成形品。
【請求項4】
マグネシウムまたはマグネシウム合金より成る基体と、該基体の表面の少なくとも一部分を被覆する樹脂皮膜とを含むマグネシウム成形品の製造方法であって、
前記基体の表面の少なくとも一部分に水酸化物を含む第1の化成皮膜を形成する工程と、
前記第1の化成皮膜の表面の少なくとも一部分にアルコキシシラン化合物を含有する樹脂皮膜を被覆する工程と、
を含むことを特徴とする製造方法。
【請求項5】
前記基体の表面の前記樹脂皮膜により被覆されていない部分の少なくとも一部分に、水酸化物、カルボン酸塩、リン酸塩、ケイ酸塩、炭酸塩、硫酸塩、チオ硫酸塩、硝酸塩、亜硝酸塩、過マンガン酸塩、アミノ化合物より成る群から選ばれる少なくとも1つを含む第2の化成皮膜を形成する工程を含むことを特徴とする請求項4に記載の製造方法。
【請求項6】
前記第1の化成皮膜を形成する前に、前記基体の前記第1の化成皮膜を形成する部分を研磨する工程を含むことを特徴とする請求項4または5に記載の製造方法。
【請求項7】
前記第1の化成皮膜が、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化アンモニウムより成る群から選ばれる少なくとも1つを含む溶液を用いて形成されることを特徴とする請求項4〜6のいずれかに記載の製造方法。
【請求項8】
前記第2の化成皮膜が、水酸化物、カルボン酸、カルボン酸塩、リン酸、リン酸塩、ケイ酸塩、炭酸、炭酸塩、硫酸、硫酸塩、チオ硫酸塩、硝酸、硝酸塩、亜硝酸、亜硝酸塩、過マンガン酸塩およびアミノ基化合物より成る群から選ばれる少なくとも1つを含む溶液を用いて形成されることを特徴とする請求項4〜7のいずれかに記載の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2009−221507(P2009−221507A)
【公開日】平成21年10月1日(2009.10.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−65474(P2008−65474)
【出願日】平成20年3月14日(2008.3.14)
【出願人】(506362222)株式会社新技術研究所 (9)
【Fターム(参考)】