説明

マグネシウム合金押出形材の製造方法

【課題】 超塑性加工性に優れたマグネシウム合金押出形材の製造方法を提供。
【解決手段】 Alを3〜10質量%含有するマグネシウム合金のビレットを鋳造し、ビレットを380〜430℃で1〜16時間均質化処理し、次に150〜300℃で8〜48時間析出処理した後、250〜420℃の押出温度にて押出加工する。析出処理は、ビレットの状態で行う代わりに、押出加工後に押出形材に行うこともできる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、超塑性加工性の優れたマグネシウム合金押出形材の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
超塑性加工とは、材料に超塑性を発現させて加工する方法であり、一般的な塑性加工と比較し、一度に大きな変形量を付加できることが利点であり、生産コストの面からも有効な加工方法である。
近年、マグネシウム合金は軽量化の観点から、携帯機器、輸送機器等の様々な分野への適用が拡大しており、それらの製品の大半が鋳造品である。鋳造品が多く適用されている要因の一つに、マグネシウムの結晶構造が最密六方充填構造であるために塑性加工性が乏しいことが挙げられる。
昨今のマグネシウム合金押出加工技術の発展により、マグネシウム合金押出形材の適用も拡大しつつある。しかしながら、押出形材は長手方向で同一断面形状を有していることから、適応箇所に制限があることが現状である。
代表的な展伸用合金であるアルミニウム合金では、押出加工後に超塑性加工を施し、3次元的な複雑形状の製品への適用例があるが、マグネシウム合金押出形材では塑性加工性が乏しいためこのような適用例はない。
【0003】
特許文献1には、Mg−Al−Zn系マグネシウム合金のビレットを溶体化処理してから押出加工し、押出後に150〜250℃で数時間の熱処理を行うことが開示されている。しかし同文献の技術は、引張強度の向上を目的とするものであり、塑性加工性の向上を目的とするものではない。
【特許文献1】特開2007−113037号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は以上に述べた実情に鑑み、超塑性加工性に優れたマグネシウム合金押出形材の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記の課題を達成するために請求項1記載の発明によるマグネシウム合金押出形材の製造方法は、Alを3〜10質量%含有するマグネシウム合金のビレットを鋳造し、ビレットを380〜430℃で1〜16時間均質化処理し、次に150〜300℃で8〜48時間析出処理した後、250〜420℃の押出温度にて押出加工することを特徴とする。
【0006】
請求項2記載の発明によるマグネシウム合金押出形材の製造方法は、Alを3〜10質量%含有するマグネシウム合金のビレットを鋳造し、ビレットを380〜430℃で1〜16時間均質化処理した後、250〜420℃の押出温度にて押出加工し、得られた押出形材を150〜300℃で8〜48時間析出処理することを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
請求項1記載の製造方法により得られるマグネシウム合金押出形材は、押出加工によりマグネシウムの結晶粒が微細化されると共に、析出処理により析出したMgとAlの金属間化合物(主としてMg17Al12)がマグネシウム結晶粒内及び結晶粒間に微細且つ均一に存在するため、この金属間化合物の存在により超塑性加工中の動的再結晶によるマグネシウム結晶粒の粒成長が抑えられ、マグネシウム結晶粒間のすべりにより優れた超塑性加工性が得られる。ビレットの状態で析出処理を行うため、押出後に析出処理を行うよりも低コストである。
【0008】
請求項2記載の製造方法により得られるマグネシウム合金押出形材は、押出加工によりマグネシウムの結晶粒が微細化されると共に、析出処理により析出したMgとAlの金属間化合物(主としてMg17Al12)がマグネシウム結晶粒内及び結晶粒間に微細且つ均一に存在するため、この金属間化合物の存在により超塑性加工中の動的再結晶によるマグネシウム結晶粒の粒成長が抑えられ、マグネシウム結晶粒間のすべりにより優れた超塑性加工性が得られる。押出前に析出処理を行うと、押出温度が高い場合には金属間化合物が固溶により減少するが、押出後に析出処理を行えば析出した金属間化合物がそのまま残るので、高温での押出が必要な複雑な形状の形材でも超塑性加工性を確実に向上できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明のマグネシウム合金押出形材の製造方法は、Alを3〜10質量%含有するマグネシウム合金のビレットを鋳造し、ビレットを380〜430℃で1〜16時間均質化処理し、次に150〜300℃で8〜48時間析出処理した後、250〜420℃の押出温度にて押出加工することを特徴とする。以下、各条件の選定理由について説明する。
【0010】
マグネシウム合金の化学成分について、Alは合金の機械的性質を向上させる効果があるが、過剰添加では押出荷重が増加し、押出性が低下する。過小であれば機械的性質が損なわれる。これらの事情を考慮し、Alは3〜10質量%とした。MgとAlの金属間化合物(主としてMg17Al12)の析出を考慮すれば、Alは6〜10質量%がより好ましい。
マグネシウム合金は、Mg−Alの2元系合金に限らず、Mg−Al−Zn系マグネシウム合金、Mg−Al−Ca系マグネシウム合金、Mg−Al−RE系マグネシウム合金(RE:La、Ce、Ndなどのレアアース金属)であってもよい。
Znは、固溶強化によって、耐力、伸びを向上させるとともに、時効析出を促進させる効果がある。亜鉛の含有量が増加するに伴い室温での引張強さや耐力が向上するが、過剰であると靭性および強度が低下する傾向がある。これらの事情を考慮すると、Znの含有量は0.1〜1.5質量%が好ましい。
Caは、その添加により難燃性が向上する効果があるが、過剰であると晶出物を形成して靭性を低下させる。これらの事情を考慮すると、Caの含有量は0.05〜1.0質量%が好ましい。
Ceなどのレアアース金属は、固溶強化により強度の向上に寄与するが、過剰であると晶出物を形成して靭性を低下させる。これらの事情を考慮すれば、レアアース金属の含有量は0.05〜1.0質量%が好ましい。
【0011】
鋳造したマグネシウム合金ビレットに均質化処理を施すのは、鋳造の際の凝固過程で析出する粗大なMg−Al系、Mg−Al−Zn系等の金属間化合物を固溶させるためである。鋳造のままではこれらの金属間化合物の融点が低いため、押出加工中にこれらの金属間化合物が溶融し、表面欠陥等の不具合を生じさせるからである。鋳造工程で析出する主要な金属間化合物はMg17Al12であり、この融点は435℃であるため、均質化処理の上限温度は430℃とし、380℃以下では長時間保持しても金属間化合物の存在状態に変化が認められないため、均質化処理の下限温度は380℃とした。また時間については、下限温度380℃×1hr以下では金属間化合物の残存が多く押出中に局部溶解が生じ、430℃×16hr以上では430℃×16hrと金属間化合物の存在状態に変化がない。以上のことから均質化処理条件は、処理温度を380〜430℃、処理時間を1〜16hrとした。
図7は、鋳造のままのマグネシウム合金ビレットと、処理温度400℃で1,4,16hrそれぞれ均質化処理したマグネシウム合金ビレットのミクロ組織を示している。図中、黒っぽく見えるのが金属間化合物であり、時間の経過に伴い固溶が進み金属間化合物が小さくなっていることが分る。
なお均質化処理では、粗大な金属間化合物が固溶すればよく、金属間化合物を完全に固溶させる必要はない。むしろ、金属間化合物が適度に残存する方が良い。上述の均質化処理条件によれば、表面欠陥等の不具合が生じず、適度に金属間化合物を残存させることができる。
【0012】
ビレットに析出処理を施すのは、MgとAlの金属間化合物(主としてMg17Al12)をマグネシウム結晶粒内及び結晶粒間に微細且つ均一に析出させるためである。析出処理を施したビレットから得られる押出形材中には、これら析出物が残存する。これら析出物は、超塑性加工中の動的再結晶の粒成長を抑制する効果があり、これにより押出形材の超塑性加工限界が大きくなる。これら析出物は150〜300℃の温度範囲で析出し、下限温度150℃においては処理時間8hr以下では析出物量が不十分であり良好な超塑性加工性が得られず、上限温度300℃においては処理時間48hr以上で析出物が粗大化し、超塑性加工性が低下する。以上のことから析出処理条件は、処理温度を150〜300℃、処理時間を8〜48hrとした。
【0013】
押出加工においては、250〜420℃の押出温度にて加工を施し、結晶粒径を制御することを特徴とする。押出温度250℃未満では、押出荷重が増大し、押出不可となるか所望の断面形状を得られないことがある。押出温度420℃以上では、押出時の加工発熱により金属間化合物が溶融し、表面欠陥等の不具合が生じ、また結晶粒が粗大化する。これらの理由により、押出温度は250〜420℃とした。なお押出速度は、押出す形状等に応じて適宜設定すればよい。押出形材の断面形状は、いかなる断面形状であってもよい。
【0014】
図1(a)は、上述のマグネシウム合金押出形材の製造過程における温度と金属間化合物の析出量の関係を示している。同図に示すように、鋳造工程で金属間化合物が多く析出し、均質化処理工程で金属間化合物はいったん減少し、その後の析出処理で金属間化合物は再び増大し、押出工程で金属間化合物は固溶により若干減少する。
【0015】
以上に述べた製造方法により得られるマグネシウム合金押出形材は、図2(a)に示すように、マグネシウム結晶粒1が微細化されると共に、金属間化合物2がマグネシウム結晶粒1内及び結晶粒1間に微細且つ均一に析出したものとなる。これに加工応力を加えると、図2(b)に示すように、金属間化合物2の存在により動的再結晶によるマグネシウム結晶粒1の粒成長が抑えられるため、マグネシウム結晶粒1間のすべりにより非常に大きな伸び(超塑性)が得られる。このマグネシウム合金押出形材に超塑性加工を施すことにより、3次元的な複雑形状を有する製品を低コストで提供することができる。また、それらを携帯機器、輸送機器部品としてアルミニウム合金部材や樹脂部材から置換することにより、軽量化、剛性の向上に大きく寄与することとなる。超塑性加工の方法は特に限定されず、例えばブロー成形、プレス成形等により行うことができる。
【0016】
図3は、ビレットに析出処理を施すことによる超塑性加工性に及ぼす影響を調べるために行った引張試験の結果を示している。ビレットは、AZ61(Mg-6%Al-1%Zn)マグネシウム合金のビレットを用いた。ビレットの均質化処理は400℃×16hrの条件で行い、押出温度380℃で図8の断面形状のマグネシウム合金押出形材を作成し、このマグネシウム合金押出形材からJIS H 7501に準じ試験片を採取し、表1に示す条件にて引張試験を行った。ビレット析出処理の条件は、200℃×8hr、200℃×32hrである。図4(a)は、ビレットに200℃×32hrの析出処理を施して押出加工したマグネシウム合金押出形材の組織の写真であり、図4(b)はビレットに析出処理を行わずに押出加工したマグネシウム合金押出形材の組織の写真である。
【表1】

【0017】
図3に示すように、ビレットに200℃×32hrの析出処理をしたものでは、破断伸びが約130%となり、その値は析出処理をしないものの倍以上であり、ビレットに析出処理を施すことで超塑性加工限界が大幅に拡大することが確認された。また図4からは、ビレットに200℃×32hrの析出処理をしたものでは、マグネシウム結晶粒が微細化されると共に金属間化合物がマグネシウム結晶粒内及び結晶粒間に微細且つ均一に析出していることが確認できる。
【0018】
上述の製造方法では、押出加工前のビレットに均質化処理を行ったが、押出加工後のマグネシウム合金押出形材に均質化処理を行うこともできる。押出後に均質化処理を行う場合の均質化処理の条件は、押出前に行う場合と同様に、処理温度を150〜300℃、処理時間を8〜48hrとする。図1(b)は、この方法によるマグネシウム合金押出形材の製造過程における温度と金属間化合物の析出量の関係を示している。押出前のビレットに析出処理を行う場合は、析出処理で析出した金属間化合物が押出加工時の熱により固溶して減少することがあるが、押出後に析出処理を行えば析出処理により析出した金属間化合物を押出形材にそのまま残存させることができる。この方法は、押出形材の断面形状が複雑で、高温での押出が必要な場合に有効である。
【0019】
図5は、押出後に析出処理を施すことによる超塑性加工性に及ぼす影響を調べるために行った引張試験の結果を示している。ビレットは、AZ61(Mg-6%Al-1%Zn)マグネシウム合金のビレットを用いた。ビレットの均質化処理の条件は400℃×4hrとし、押出温度360℃で図8の断面形状のマグネシウム合金押出形材を作成し、このマグネシウム合金押出形材からJIS H 7501に準じ試験片を採取し、表1に示す条件にて引張試験を行った。押出形材析出処理の条件は、200℃×8hr、200℃×32hrである。図6(a)は、押出後に200℃×32hrの析出処理を施したマグネシウム合金押出形材の組織の写真であり、図6(b)は析出処理を施していないマグネシウム合金押出形材の組織の写真である。
【0020】
図5に示すように、押出形材に200℃×32hrの析出処理をしたものでは、破断伸びが約155%となり、析出処理をしないものと比較して大きくなり、押出形材に析出処理を施すことで超塑性加工限界が大きくなることが確認された。また図6からは、押出形材に200℃×32hrの析出処理をしたものでは、マグネシウム結晶粒が微細化されると共に金属間化合物がマグネシウム結晶粒内及び結晶粒間に微細且つ均一に析出していることが確認できる。
【0021】
本発明は以上に述べた実施形態に限定されない。マグネシウム合金は、Alを3〜10質量%含有するものであればよく、Mg−Alの2元系合金の他、Mg−Al−Zn系マグネシウム合金、Mg−Al−Ca系マグネシウム合金、Mg−Al−RE系マグネシウム合金(RE:La、Ce、Ndなどのレアアース金属)であってもよい。マグネシウム合金押出形材の断面形状は、いかなる断面形状であってもよい。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明のマグネシウム合金押出形材の製造過程における温度と金属間化合物の析出量の関係を模式的に示す図であって、(a)は押出前のビレットに析出処理を施す場合、(b)は押出形材に析出処理を施す場合を示している。
【図2】本発明の製造方法により製造されるマグネシウム合金押出形材の組織を模式的に示す図であって、(a)は超塑性加工前の状態、(b)は超塑性加工時の状態を示している。
【図3】ビレットに析出処理を施すことによる超塑性加工性に及ぼす影響を示す引張試験結果である。
【図4】(a)はビレットに200℃×32hrの析出処理を施して押出加工したマグネシウム合金押出形材の組織の写真であり、(b)はビレットに析出処理を行わずに押出加工したマグネシウム合金押出形材の組織の写真である。
【図5】押出形材に析出処理を施すことによる超塑性加工性に及ぼす影響を示す引張試験結果である。
【図6】(a)は押出後に200℃×32hrの析出処理を施したマグネシウム合金押出形材の組織の写真であり、(b)は析出処理を施していないマグネシウム合金押出形材の組織の写真である。
【図7】試験用に作成したマグネシウム合金押出形材の断面図である。
【図8】鋳造のままのマグネシウム合金ビレットと、処理温度400℃で1,4,16hrそれぞれ均質化処理したマグネシウム合金ビレットのミクロ組織写真である。
【符号の説明】
【0023】
1 結晶粒
2 金属間化合物

【特許請求の範囲】
【請求項1】
Alを3〜10質量%含有するマグネシウム合金のビレットを鋳造し、ビレットを380〜430℃で1〜16時間均質化処理し、次に150〜300℃で8〜48時間析出処理した後、250〜420℃の押出温度にて押出加工することを特徴とするマグネシウム合金押出形材の製造方法。
【請求項2】
Alを3〜10質量%含有するマグネシウム合金のビレットを鋳造し、ビレットを380〜430℃で1〜16時間均質化処理した後、250〜420℃の押出温度にて押出加工し、得られた押出形材を150〜300℃で8〜48時間析出処理することを特徴とするマグネシウム合金押出形材の製造方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図8】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate


【公開番号】特開2010−121161(P2010−121161A)
【公開日】平成22年6月3日(2010.6.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−294986(P2008−294986)
【出願日】平成20年11月18日(2008.11.18)
【出願人】(000175560)三協立山アルミ株式会社 (529)
【Fターム(参考)】