説明

マグネシウム合金部材及びその製造方法

【課題】マグネシウム合金上に高耐食で意匠性に富んだ被膜を提供する。
【解決手段】マグネシウム合金用ニッケルめっきを行うことにより、マグネシウム表面の酸化膜を除去すると同時に酸化防止層として1.9〜10.1μmのニッケルめっき膜を形成し、次いで12μm以上の電解アルミニウムめっきと陽極酸化により高耐食性かつ意匠性に富んだめっき膜を形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
マグネシウム合金の高耐食被膜形成方法及びそれを用いて生成したマグネシウム製品に関する。
【背景技術】
【0002】
マグネシウムはアルミニウムに比べて密度が約2/3と軽く、薄板とした時の強度が強いことから、実用化が期待されている。ところが、マグネシウム及びその合金は非常に錆びやすい性質を持っているので、高耐食性を目的として様々な表面処理方法が検討されている。現在、マグネシウム合金の表面処理には主に塗装が用いられているが、金属質感を持つ表面処理も要求されており、めっきによる表面処理が注目されている。特開2001−89881にはマグネシウム合金にニッケル/亜鉛の2段めっきを、特許2751530にはマグネシウム合金に亜鉛/銅/ニッケル/アルミニウムの多段めっきを施す特許が報告されている。電解アルミニウムめっき方法は、めっき膜に環境および人体に影響を与える重金属を含まないことから、古くから研究が行われている。水溶液中におけるアルミニウム電析の電位は水素発生の電位よりも卑であるため、水溶液からのめっきは不可能とされている。従って、電解アルミニウムめっき溶媒にはテトラヒドロフラン、ジエチルエーテル、トルエン等の非水溶媒が使用されている。アルミニウム源となる溶質には、アルミニウムハロゲン化物やアルキルアルミニウムが用いられるため、めっき液は水分と反応しやすいという特徴をもっている。アルミニウムの表面は、陽極酸化することで高耐食性を持つ被膜とすることができる。また、陽極酸化後に着色を行うことで、様々な外観を持つ被膜を形成することができる。
【特許文献1】特許第2751530号公報
【特許文献2】特開2001−89881号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
マグネシウム合金表面には自然酸化による酸化膜が生成するため、マグネシウム合金へのめっきは困難なものとされている。上述のように、電解アルミニウムめっき液はすべて水分を嫌う特性をもっているため、被めっき物が充分乾燥した状態でめっきしなければならない。従って、酸化膜を除去し、且つ乾燥により酸化膜を生成しない前処理が必要となる。特許文献1では、酸化防止膜として亜鉛/銅めっきを用い、亜鉛/銅/ニッケル/アルミニウムの4層構造を持つめっき膜の形成方法が報告されているが、めっき膜の層数が多く製造コストが多大になるという問題がある。また、銅めっきプロセスには青酸、クロム酸等の有害物質を含有する液を使用しており、作業の安全性に問題がある。特許文献2では、ニッケル/亜鉛の2層構造を持つめっき膜が報告されているが、亜鉛表面が腐食されやすいため、意匠性は期待できない。
【0004】
本発明は、マグネシウム合金上に、有害物質を含まないめっき液を用いて、高耐食性を有し、且つ金属質感及びカラーバリエーションに富んだ被膜を少ないめっき膜層数で形成することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明では、ニッケル/アルミニウムの2層めっき膜構造とすることで上記課題を解決した。
本願第一の発明は、マグネシウム合金基材の表面にニッケルめっき膜を形成し、その上にアルミニウムめっき膜を形成し、表面層を前記アルミニウムめっき膜とすることを特徴とするマグネシウム合金部材の製造方法である。
本願第二の発明は、マグネシウム合金基材の上にニッケルめっき膜を有し、その上にアルミニウムめっき膜を有し、表面層が前記アルミニウムめっき膜であることを特徴とするマグネシウム合金部材である。
【0006】
電解アルミニウムめっきの前処理としてマグネシウム合金用無電解ニッケルめっきを使用した。ニッケルはマグネシウムに比べて反応性が弱く酸化しにくいため、アルミニウムめっき液に対する酸化防止層となる。ニッケルめっき膜はアルミニウムめっき膜と似た銀色を呈しており、アルミニウムめっき膜が傷付いた際にニッケルが露出しても顕著な色調差が生じることはない。また、マグネシウム用ニッケルめっきプロセスは、環境、人体に有害な物質も使用していない。
【0007】
ニッケルめっき膜厚は1.9〜10.1μmが好ましい。特に好ましくは1.9〜6.1μmである。ニッケルめっき膜厚が1.9μm未満になると、アルミニウムめっきの際にニッケルめっき膜のピンホールを通してマグネシウム合金素地が溶出しやすくなる。また、膜厚が10.1μmを超えると、めっき膜の内部応力が増大するためマグネシウム合金素地との密着性が低下する。
【0008】
アルミニウムめっき膜厚は12μm以上であることが好ましい。膜厚が12μm未満になると、陽極酸化の際にマグネシウム合金素地が溶出する恐れがある。すなわち陽極酸化の際にアルミニウムめっきのピンホールを通してニッケルめっき膜が溶出し、マグネシウム素材が露出することが原因と考えられる。アルミニウムめっきのピンホールはアルミニウムめっきが厚いと膜を貫通しないが、12μm未満になるとピンホールどうしが繋がり膜を貫通しやすいのである。
【発明の効果】
【0009】
本発明を用いれば、マグネシウム合金上に金属光沢とカラーバリエーションを持ち、且つ耐食性の良い被膜を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
次に本発明を実施例によって具体的に説明するが、これら実施例により本発明が限定されるものではない。本発明のマグネシウム合金用高耐食コーティングについて、その一例を以下に述べる。なお、ニッケルめっき及びアルミニウムめっき液は実施例に記載のものに限らず、どのようなめっき液でも適用可能である。
【0011】
(比較例1)
被めっき試料には、1.0cm×5.0cm×1mmtのマグネシウム合金(AZ31)板を使用した。ジメチルスルホン5.0molに無水塩化アルミニウム1.0molを溶融させて作製しためっき液を用いて、試料に直接電解アルミニウムめっきを行ったが、電析物は粉状となり被膜を形成しなかった。
【0012】
(実施例1)
比較例1で用いたのと同様の被めっき試料にMeltex社製無電解ニッケルめっきプロセスにより、約1.9μmのNiめっき膜を形成し、表面を充分乾燥させた。その詳細な工程を以下に示す。

この後、比較例1と同じめっき液を用いて電解アルミニウムめっきを行い、白色のアルミニウムめっき膜を得た。このときの電流密度は40mA/cm2であり、アルミニウムめっき膜厚は約40μmである。碁盤目密着性試験(JIS K 5400)の結果、被膜は剥離せず、密着性は良好であった。
【0013】
(実施例2)
無電解ニッケルめっき時間を40minに調整しニッケル膜厚を約6.1μmとした以外は実施例1と同様の処理を行った。この場合も、碁盤目密着性試験の結果、密着性は良好であった。
【0014】
(実施例3)
無電解ニッケルめっき時間を50minに調整しニッケル膜厚を約6.9μmとした以外は実施例1と同様の処理を行った。この場合、碁盤目密着性試験によりマグネシウム素地/ニッケル間で約20%の剥離が生じたが実用に耐える被膜である。
【0015】
(比較例2)
無電解ニッケルめっき時間を70minに調整しニッケル膜厚を約10.2μmとした以外は実施例1と同様の処理を行った。この場合、碁盤目密着性試験によりマグネシウム素地/ニッケル間で約60%の剥離が生じた。
【0016】
ニッケルめっき膜厚と、碁盤目密着性試験結果の関係を図1に示す。縦軸には試験後、マス目中のめっき膜が残存している割合で表記しており、70%以上を密着性良好と判断した。ニッケルめっき膜厚1.9〜10.1μmの範囲で密着性は良好である。
【0017】
(比較例3)
ニッケルめっきの膜厚を約8μmとし、アルミニウムめっき膜厚を約8μmとした以外は実施例1と同様の処理を行い、更にこの被膜の陽極酸化を行った。陽極酸化はJIS H8601に従って行い、酸化膜の厚さを8μmとした。塩水噴霧試験(JIS Z 2371)の結果24時間で素地のマグネシウムは腐食し、耐食性は不充分であった。アルミニウムめっき膜のピンホールを通して、陽極酸化の際にニッケルめっき膜が溶出し、マグネシウム素材が露出したことが原因と考えられる。
【0018】
(実施例4)
ニッケルめっきの膜厚を約8μmとし、アルミニウムめっき膜厚を40μmとした以外は実施例1と同様の処理を行い、更にこの被膜の陽極酸化を行った。断面観察より、陽極酸化により生成したアルマイト被膜の厚さは約12μmである。塩水噴霧試験の結果、48時間でも錆びは発生せず、耐食性は良好であった。
【0019】
実施例4で得られたマグネシウム合金部材の断面の模式図を図2に示す。アルミニウムめっき膜は陽極酸化処理により表面がアルマイト被膜化する。アルマイト被膜は膜厚方向に多孔質であり、残ったアルミニウムめっき膜もピンホールを有する。アルミニウムめっきのピンホールはアルミニウムめっきが厚いと膜を貫通しないが、12μm未満になるとピンホールどうしが繋がり膜を貫通しやすい。したがって残ったアルミニウムめっき膜の厚さは12μm以上であることが好ましい。
【0020】
【表1】

【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】ニッケルめっき膜厚と、密着性の関係を示すグラフである。
【図2】本発明のマグネシウム合金部材の断面の模式図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
マグネシウム合金基材の表面にニッケルめっき膜を形成し、その上にアルミニウムめっき膜を形成し、表面層を前記アルミニウムめっき膜とすることを特徴とするマグネシウム合金部材の製造方法。
【請求項2】
前記アルミニウムめっき膜を陽極酸化する請求項1に記載のマグネシウム合金部材の製造方法。
【請求項3】
マグネシウム合金基材の上にニッケルめっき膜を有し、その上にアルミニウムめっき膜を有し、表面層が前記アルミニウムめっき膜であることを特徴とするマグネシウム合金部材。
【請求項4】
前記アルミニウムめっき膜を陽極酸化した請求項3に記載のマグネシウム合金部材。
【請求項5】
ニッケルめっき膜の厚さが1.9〜10.1μm、アルミニウムめっき膜の厚さが12μm以上である請求項4に記載のマグネシウム合金部材。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2006−233315(P2006−233315A)
【公開日】平成18年9月7日(2006.9.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−53361(P2005−53361)
【出願日】平成17年2月28日(2005.2.28)
【出願人】(504132272)国立大学法人京都大学 (1,269)
【出願人】(000005083)日立金属株式会社 (2,051)
【Fターム(参考)】