説明

マグネトロンスパッタリング装置、及び、スパッタリング方法

【課題】容易にターゲット表面側の磁場形状や磁場強度を変更でき、装置の製造コストを低減できるマグネトロンスパッタ装置を提供する。
【解決手段】ターゲット3が取り付けられるカソードの裏面側に磁石ユニット10を配置したマグネトロンスパッタリング装置であって、磁石ユニット10は、内側磁石11と、外側磁石12と、それらを固定する非磁性体と、内側磁石と外側磁石の磁極を接続するヨーク14とで形成され、さらに、そのヨークは、矩形状に配列した外側磁石の長辺方向と直交する面で複数個に分割可能であることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マグネトロンスパッタリング装置、及び、マグネトロンスパッタリング方法に関する。
【背景技術】
【0002】
太陽電池用基板や半導体ウェハ等に薄膜を形成する方法としてスパッタリングがある。
特に、ターゲットが取り付けられるカソードの裏側に、磁石を配置したマグネトロンスパッタリング装置は、成膜の安定性が優れ、また、ターゲットの大型化が容易であり広く利用されている。
生産性の向上のため、ターゲットのエロージョン深さをできるだけ均一にして1枚のターゲットで生産できる基板の枚数を多くすることが試みられている。
また、基板上において膜厚分布均一性の向上のために、エロージョン深さ形状を所望の形状に制御することもおこなわれている。
【0003】
このように、ターゲットのエロージョン深さ形状を制御することは、ターゲット表面側の放電空間のプラズマ密度分布を制御することとほぼ同じことである。
プラズマ密度分布は、放電空間の主に電場と磁場により決定されるが、特に、ターゲットの裏側に配置された磁石が、ターゲット表面側の放電空間に作る磁場形状に大きく影響を受ける。そのため、エロージョン深さ形状を制御するために磁石形状を工夫したり、磁石を回転させたり往復運動させたりすることが多い。
【0004】
マグネトロンスパッタリングでは、通常の磁石構造として、図8に示すように内側に、例えば、S極が表面となる向きに永久磁石(以下、内側磁石という)をある領域に配置し、それを取り囲むように反対の極性のN極が表面となる向きに永久磁石(以下、外側磁石という)を配置する。
これらは、通常の強磁性体のヨーク上に配置される。以下、内側磁石、外側磁石、ヨークを合わせて磁石ユニットと呼ぶ。
【0005】
内側磁石と外側磁石は、ヨークに接着剤にて固定されることが多い。
したがって、ヨークは作業しやすいように平面の板状のものが使用される。内側磁石と外側磁石は、吸着する方向に力が発生するため、これらをしっかり固定するためにヨークにはある程度の強度も必要になる。
【0006】
また、ヨークは、それが無い場合よりも磁石としての磁場強度を向上する働きがある。そのため、通常、ヨークは、磁気飽和しないように高い透磁率である程度の厚さのものが使用される。
大型スパッタリング装置では、矩形ターゲットを用いる場合が多く、その場合は磁石ユニットとして図8のような矩形のものを使用している。一つのターゲットに対してこのような磁石ユニットを1つ、または複数並べてマグネトロンスパッタをおこなっている。このような磁石ユニットを用いた大型スパタリング装置に、例えば、特許文献1で開示されているものがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2001−140069号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、従来の磁石ユニットには以下の問題があった。
すなわち、ターゲット表面側の磁場形状や磁場強度を容易に変更する方法として、磁石ユニットの内側磁石と外側磁石のターゲット側表面に強磁性体の薄い板(以下、磁性体板という)を貼り付ける方法がある。磁性体板が、内側磁石と外側磁石のN極とS極を磁気回路的に短絡することによって、磁性体板を貼り付けた領域のN極とS極から生じる磁場強度を低減することができる。
磁性体板は、磁気飽和する程度に薄く、磁性体板を通り抜けてある程度ターゲット表面側に磁場を形成している。そこで、貼り付ける磁性体板の位置と厚さを変えることによって磁石ユニット全体の磁場強度を制御することができる。
【0009】
しかし、磁石ユニットは、通常、ターゲット側の構造物と近接して設置されることが多い。
具体的には、ターゲットと磁石ユニットの間には、ターゲット裏板やチャンバー壁が存在する場合がある。ターゲット表面側の磁場強度をできるだけ強くするために、磁石ユニットとターゲットの距離は小さくする必要があり、磁石ユニットは、ターゲット裏板やチャンバー壁に対して数ミリ程度の隙間で設置されることが多い。
【0010】
そのため、前述の磁性体板を磁石ユニット表面に貼り付けるには、磁石ユニットをターゲットと反対側へ大きく移動して磁石ユニット表面側にスペースを造らなければならない。
最近の、例えば、基板の大きさが1mを越えるような大型スパッタリング装置では、磁石ユニットも大きく重量も重いため、磁石ユニットをターゲット側から大きく移動する手段は大型で複雑なものになってしまい、装置製造コストが高くなる問題があった。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するために、ターゲットが取り付けられるカソードの裏面側に磁石ユニットを配置したマグネトロンスパッタリング装置であって、(a)磁石ユニットは、一つの極性の磁極面をカソード側に向けた永久磁石からなる内側磁石と、それを取り囲むように矩形状に配列し内側磁石と反対の極性の磁極面をカソード側に向けている外側磁石と、内側磁石と外側磁石とを固定する非磁性体と、強磁性体材料からなり該内側磁石及び該外側磁石のカソードと反対側に位置し、内側磁石と外側磁石の磁極を接続するヨークと、で形成されていて、(b)ヨークは、板状の形状を有し、矩形状に配列した外側磁石の長辺方向に直交する面で複数個に分割され、かつ、交換可能であり、(c)磁石ユニットは、カソードの表面に沿うように移動可能である、とする(a)〜(c)の特徴を備えたマグネトロンスパッタリング装置である。
【0012】
また、上記マグネトロンスパッタリング装置を用いたスパッタリング方法であって、カソードであるターゲットのエロージョンの深さ形状に応じて、ヨークの厚さを変更することを特徴とするスパッタリング方法である。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、磁石ユニットをターゲット側から大きく移動せずに磁石ユニット裏側からヨーク厚さを変更することで、容易にターゲット表面側の磁場形状や磁場強度を変更でき、装置の製造コストを低減できる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の一実施形態に係るマグネトロンスパッタリング装置の概略図を示す。
【図2】本発明に係る磁石ユニットであり、(a)は正面図、(b)は(a)のA−A断面図、(c)は(a)のB−B断面図、(d)は(a)においてヨークが無い状態をそれぞれ示す。
【図3】本発明に係る磁石ユニットにおいて、その磁場解析を説明するための図である。
【図4】本発明に係る磁石ユニットの磁場解析の結果を示す図である。
【図5】本発明に係る磁石ユニットにおいて、先端部磁場強度を中央部より弱くするための方法を説明する図である。
【図6】本発明に係る磁石ユニットにおいて、先端部磁場強度を中央部より強くするための方法を説明する図である。
【図7】本発明の一実施形態に係る磁石ユニットで磁性体を使用した場合の概略図である。
【図8】従来の磁石ユニットを説明する図であり、(a)は正面図、(b)は(a)のA−A断面図、(c)は(a)のB−B断面図をそれぞれ示す。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の一実施形態に係るマグネトロンスパッタリング装置ついて、図面を参照して説明する。
図1に、本発明の第1の実施例であるマグネトロンスパッタリング装置を示す。
チャンバー1の中の基板ホルダー5に基板2が置かれている。チャンバー1は、不図示の排気ポンプにより真空に排気され、不図示のガス配管よりプロセスガス、例えば、Arガスが所定の圧力になるように供給される。
【0016】
基板2に対向して上方にターゲット3が配置されている。ターゲット3はターゲット裏板4にボンディングされていて、ターゲット裏板4は、絶縁物6を介してチャンバー1に設置されている。
【0017】
本実施例では、ターゲット裏板4の基板2と反対側である裏面側が大気にさらされている例を示す。ターゲット裏板4は、不図示のDC電源に接続されている。
ターゲット裏板4の裏面側には、数ミリの隙間をあけて磁石ユニット10が設置されている。磁石ユニット10は、不図示の移動機構によって成膜中はターゲット裏板4との間隔を変えずに往復運動をおこなうことができる。
【0018】
次に、図2で本発明の磁石ユニット10について説明する。
図2(a)は磁石ユニット10の正面図であり、ターゲット3側から見た様子を示している。
手前側表面にS極を示すように磁化した細長い永久磁石の内側磁石11があり、それを取り囲むように手前側表面にN極を示すように磁化した永久磁石の外側磁石12がある。
【0019】
図2(a)のA−A断面図である図2(b)や、図2(a)のB−B断面図である図2(c)に示すように、内側磁石11と外側磁石12は、その間を非磁性体13で接続固定されている。
非磁性体13は、例えば、アルミニウムや非磁性体のステンレスなどが使用され接着剤により内側磁石11と外側磁石12を固定している。
ヨーク14がない状態の断面を図2(d)に示すが、内側磁石11と外側磁石12は、非磁性体13のみで固定されていてヨーク14による固定は必要としない。
【0020】
ヨーク14は強磁性体でてきており、例えば、鉄やSUS430などである。
図2(c)に示すように、ヨーク14は、内側磁石11と外側磁石12のターゲット3と反対側の磁極表面を磁気回路を短絡するように接続している。ここでのヨーク14は、磁石の吸着力(磁力)で貼り付いているのみで磁石とヨーク14は接着のような固定はしていない。
【0021】
図2(b)に示すようにヨーク14は、ここでは磁石ユニット10の長辺方向に8分割されていて、それぞれの厚さは異なっている。ヨーク14が厚い領域ではターゲット表面での磁場強度は強く、ヨーク14が薄い領域では、ターゲット表面での磁場強度は弱くなる。磁場強度とヨーク厚さの関係については後で詳しく述べる。
【0022】
ヨーク14は、磁石の磁力によって吸着していることと、分割していることで容易に取り外すことができる。従がって、厚さの異なるヨーク14に容易に交換することができ、このことがターゲット表面における磁場強度の制御を容易にしている。
【0023】
また、図示していないが分割されたそれぞれのヨーク14は、薄い強磁性体の板を重ねて使用しても効果は同じである。その場合、薄い強磁性体のヨーク14に働く磁力が小さくなり、一枚一枚の薄い強磁性体のヨーク14を磁石ユニット10から取り外すことがさらに容易にできる。
【0024】
通常、マグネトロンスパッタリング装置では、磁石ユニットの背面側であるヨーク側には構造物を接近させる必要はないため空間が確保できる。そのため、容易に人の手でヨークの交換が可能であり、それによってターゲット表面の磁場強度を変更できる。
従がって、従来のように磁石ユニットをターゲットと反対方向に大きく移動する必要はない。
【0025】
次に、ヨーク厚さとターゲット表面における磁場強度の関係について説明する。
図3に示すような磁石ユニット10のターゲット表面における磁場強度を磁場解析ソフトELF/MAGICによって計算した。
【0026】
磁石ユニット10のヨーク14の厚さは、中央部付近で10mmとし、先端部100mm領域のヨーク厚さaを0mm〜10mmまで変化させた。不図示のターゲット表面は磁石ユニット10の表面から40mmの位置であり、磁束密度ベクトルがほぼターゲット(不図示)の表面と平行になる位置である磁石ユニット先端から30mm内側の位置における、磁束密度の平行成分(符号20)を計算した。なお、内側磁石11と外側磁石12は、たとえば、ネオジウム磁石とし、ヨーク14はSUS430とした。
【0027】
計算結果を図4に示す。
先端部ヨーク厚さaが厚くなるにしたがって、ターゲット表面における磁束密度が大きくなっている。先端部ヨーク厚さaが6mm以上ではターゲット表面における磁束密度はほとんど変化しなくなるが、これは先端部のヨークが6mm以上では磁気飽和していないためである。
【0028】
ターゲット表面における磁場強度の制御には、ヨーク厚さは0mm〜6mmの範囲で可能である。
なお、先端部ヨーク厚さaが0mmとは、図5に示すようにその領域にヨーク14を設置しないことである。
【0029】
図5の例では、磁石ユニットの先端部磁場強度を中央部より弱くするための方法であるが、逆に、中央部磁場強度を先端部より弱くするためには、図6に示すように先端部のヨーク14は厚くし、中央部のヨーク14を薄くすればよい。
【0030】
一般に、エロージョン深さは、ターゲット表面におけるターゲット表面と平行な方向の磁束密度が大きい領域で深くなり、磁束密度の小さい領域で浅くなる。
本発明の磁石ユニットでは、ヨーク厚さを厚くした領域のエロージョンは深くなり、ヨーク厚さを薄くした領域のエロージョンは浅くなる。
このように、ヨーク厚さを部分的に変更することで所望のエロージョン深さ形状を容易に得られることができる。
【0031】
次に、本発明に係るマグネトロンスパッタ装置を用いた成膜方法について説明する。
磁石ユニットのヨークは、例えば、中央部は均一の厚さとし、先端部はそれより薄くするなど不均一な厚さとする。
真空に排気したチャンバーの基板ホルダーに基板を設置した後、所定の圧力になるように、例えば、Arガスのようなプロセスガスをチャンバーに導入する。
【0032】
磁石ユニットを移動機構で往復運動させながらDC電源をONして、ターゲットにDC電力を印加してスパッタ成膜を実施する。一定時間後にDC電力をOFFして成膜が完了する。
【0033】
基板に堆積した膜の厚さを測定し、所望の膜厚分布が得られたかどうかを確認する。
膜厚分布が悪く基板上のある領域の膜厚を薄くしたい場合は、そこに対応する磁石ユニットのヨークを厚いものから薄いものに交換することによって磁場強度を低減する。
【0034】
一方、基板上のある領域の膜厚を厚くしたい場合は、そこに対応する磁石ユニットのヨークを薄いものから厚いものに交換することによって磁場強度を増強する。この状態で再度同様の成膜をおこない膜厚分布を確認する。
このような作業を何度か繰り返すことによって所望の膜厚分布が得られるようになる。
【0035】
次に、本発明に係る第2の実施例について説明する。
図7(a)に示すように、内側磁石11と外側磁石12には、ターゲット3と反対側の磁極に鉄やSUS430などの強磁性体からなる磁性体15が接着剤などでそれぞれ接続されている。
内側磁石11と外側磁石12に接続している磁性体15は、ヨーク14を介して磁気回路的に接続されている。
【0036】
ヨーク14は、接着剤などで固定されておらず磁石の吸着力(磁力)で貼りついているだけで取り外し可能である。内側磁石11と外側磁石12の間には非磁性体13があり、これらの磁性体15と非磁性体13は接着剤やボルトなどで固定されている。
【0037】
ヨーク14がない場合の本実施例を図7(b)に示す。磁性体15と非磁性体13が固定されているためヨーク14がない場合でもこの形状で保持できる。この場合、内側磁石11と外側磁石12は、磁気回路としては短絡してなく前述の実施例1のヨーク14がない場合と同じ磁場強度となる。
【0038】
このようにすると磁性体板と非磁性体を最初に接続して組み立てられ、その上に内側磁石と外側磁石を組み立てる工程を経るため、従来の一体のヨークの上に磁石を組み立てる工程と同じであり組立が容易になる。
【0039】
以上の実施形態で説明された構成、形状、大きさおよび配置関係については本発明が理解・実施できる程度に概略的に示したものにすぎない。従って、本発明は、説明された実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に示される技術的思想の範囲を逸脱しない限り様々な形態に変更することができる。
【符号の説明】
【0040】
1 チャンバー
2 基板
3 ターゲット
4 ターゲット裏板
5 基板ホルダー
6 絶縁物
10 磁石ユニット
11 内側磁石
12 外側磁石
13 非磁性体
14 ヨーク
15 磁性体
20 磁束密度の平行成分



【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記の(a)〜(c)の特徴を備えた、ターゲットが取り付けられるカソードの裏面側に磁石ユニットを配置したマグネトロンスパッタリング装置。(a)前記磁石ユニットは、一つの極性の磁極面を前記カソード側に向けた永久磁石からなる内側磁石と、それを取り囲むように矩形状に配列し前記内側磁石と反対の極性の磁極面を前記カソード側に向けている外側磁石と、前記内側磁石と前記外側磁石とを固定する非磁性体と、強磁性体材料からなり該内側磁石及び該外側磁石の前記カソードと反対側に位置し、前記内側磁石と前記外側磁石の磁極を接続するヨークと、で形成されている。(b)前記ヨークは、板状の形状を有し、前記矩形状に配列した外側磁石の長辺方向に直交する面で複数個に分割され、かつ、交換可能である。(c)前記磁石ユニットは、前記カソードの表面に沿うように移動可能である。
【請求項2】
前記ヨークは、厚さが異なることを特徴とする請求項1に記載のマグネトロンスパッタリング装置。
【請求項3】
請求項2に記載された前記マグネトロンスパッタリング装置を用いたスパッタリング方法であって、前記カソードであるターゲットのエロージョンの深さ形状に応じて、前記ヨークの厚さを変更することを特徴とするスパッタリング方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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