説明

マススペクトル解析用のイオントラップ、多重電極システム及び電極

本発明はマススペクトル解析用のイオントラップ、多重電極システム及び電極に関する。そのうち、前記電極(1)は柱形状を有し、その横断面の少なくとも片側部の形状が2階以上の階段形状に形成されている。本発明は前記電極の構成を改良することにより、前記電極(1)が適用される多重電極システムやイオントラップなどのマススペクトラメーターが、最適化されたフィールド形状を有するだけでなく、加工がし易くなり、製造コストが低くなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はマススペクトル解析分野に関し、詳しくは、フィールド形状を最適化しかつ加工し易くするマススペクトル解析用のイオントラップ、多重電極系(システム)及び電極に関する。
【背景技術】
【0002】
4極イオントラップは特殊な装置であり、一定の時間周期内で気体状のイオンをイオントラップ内の4重極場領域に制限するイオン蓄積装置としてもよく、相当に広い質量範囲と可変な質量識別度を有するマススペクトロメーターのマス解析器としてマススペクトル解析を行うこともできる。イオントラップ中の4極静電界は、イオントラップ装置の各電極にRF(無線周波数)電圧、DC直流電圧または二者を組み合わせた信号を入力して発生されたものである。従来のイオントラップはリング電極とエンドキャップ電極という2つの電極からなり、顕著な4重極場を発生するための、代表的な電極形状は二重湾曲型のものである。
【0003】
早期のイオントラップは3次元イオントラップであり、その4重極場が(極座標系で)rとzの方向に発生して、イオンはその4重極場ではリニア力の作用により、一定の質量電荷比m/zの範囲内にあるイオンをトラッピングしてそのイオントラップに蓄積している。最も代表的な3次元イオントラップは1つのリング電極と2つのエンドキャップ電極という3つの二重湾曲型電極からなり、このような装置は通常ではPaul型イオントラップ或いは4極イオントラップと言われている。円柱形状のイオントラップはより簡単な3次元イオントラップであり、1つの内面が円柱面のリング電極と2つの平板構造のエンドキャップ電極とからなる。
【0004】
Paul型イオントラップ及び円柱形状のイオントラップの最大の欠点は、トラップ内にトラッピングされたイオン数が少なく、トラップの外部で電離された入射イオンの場合、そのトラッピング効率が低いことである。空間電荷効果を減少させて高い識別度が得られるための、商用マススペクトロメーターの代表的な実験では一般には500個またはそれ以下のイオンしかトラッピングできない。キャップ上の入口からイオントラップに注入されるイオンはRF(無線周波数)フィールドの作用を受けることになり、適正なRF位相で入射されたイオンのみが効果的にトラッピングされかつトラップに蓄積され、連続的に入射されたイオンストリームのトータルのトラップ率は5%より下回り、多くの場合では5%よりはるかに小さくなる。
【0005】
上記課題を解決するために、別種類のイオントラップであるリニアイオントラップが提案された。リニアイオントラップは延びつつ平行に設置された複数の電極からなり、該電極システムはイオントラップの容積を決定し、電極にRF無線周波数電圧とDC直流電圧を入力すると、イオントラップの中心軸に垂直な平面に2次元的な4重極場が発生されるものであり、2次元的にイオンの収束を良好に図ることができたので、トラッピングされたイオンは中心軸の付近に分布でき、イオンのトラップ数を大幅に向上した。米国特許5420425には、3組の4重極からなる2次元リニアイオントラップが記載されており、中央の1組の4重極がメイン4重極とされ、そのうちの一対のメイン電極にスリットが設けられ、イオンが該スリットを通して注入及び出射できる一方、両側の2組の4重極が軸方向にトラップ内にトラッピングされたイオンの移動を制限できるだけでなく、メイン4重極内の4重極場を改善することもでき、各電極に共に二重湾曲型電極を用いると、理想的な状態に近い4重極場が得られる。
【0006】
前記各イオントラップは円柱形状のイオントラップを除き、例えば加工と組立などには正確な機械加工処理を必要とするので、このような高精度な機械加工は非常に複雑であり、イオントラップマス解析器の小型化及び携帯化を制限する要因となっている。
【0007】
米国特許6838666 B2では矩形状リニアイオントラップが開示され、該イオントラップは、4片の矩形状平板電極が矩形状断面を有するイオントラップとなるように軸線に平行に設置され、各平板電極にRF無線周波数電圧とDC直流電圧が入力されると、イオントラップ内で4重極場を発生して2次元的にイオンを収束することができる一方、端部電極が接続されると、イオンの軸方向の移動を制限できる。矩形状イオントラップによれば、リニアイオントラップの高精度な機械加工の課題を解決した一方、4つの平板電極で発生した4重極場に、例えば12重極場、20重極場などの著しい高階級(レベル)フィールドが含まれるので、イオンの移動に大きな不確定性を持たせてしまい、イオントラップマス解析器の質量識別度に影響を与えている。
【0008】
従来のフィールド形状に関する検討の結果によると、高階級フィールドが導入されると、4極マス解析器の質量識別度を悪くすると思われたことに対して、最新の検討の結果から、適正な高階級フィールド成分を導入することにより、4極マス解析器の質量識別度を効果的に改善できることがわかる。例えば、米国特許6897438 B2では、4重極システムのパラメータを変更し、例えば2対の電極の棒半径またはフィールドの半径の比を変更することにより、4重極場に8重極場が導入され、質量識別度を改善できる。該特許では、4重極場に8重極場が導入される方法、即ち電極の棒半径またはフィールドの半径を変更する方法しか記載されず、他の高階級フィールドを導入するための方法が記載されていない。
【0009】
以上のように、2次元イオントラップは大容量を実現できるリニアイオントラップであり、3次元イオントラップにおいてイオンのトラップ数が少ないこと及びイオンのトラップ効果が低い課題を解決したが、既存の2次元イオントラップは高精度な機械加工を必要とするか、又は顕著な高階級フィールドが含まれているので、それら要素は小型携帯型イオントラップマス解析器の発展を制限することになる。同時に、4極マス解析器のフィールド形状の最適化に関する検討において、高階級フィールドを導入する問題に及ぶのに対して、従来の特許では、8重極場の導入のみに関しているが、他の高階級フィールドに関して実行できる技術案が提出されていなかった。従って、構造が柔軟性に富んで加工し易く、かつ所望の最適なフィールドを簡単に得られるイオントラップ及びそのマス解析器を開発すると、小型携帯型イオントラップマス解析器の発展に寄与できる。
【0010】
マススペクトロメーターではイオン光学系の多重電極システムに関わる場合もよくある。マススペクトロムの技術分野では、一般に、重電極システムをイオン光学系として利用し、例えば4重極、6重極、8重極などをイオンレンズまたはイオンガイド系として利用し、このような多重極による領域内のフィールド形状はイオンの伝送及び収束などにも重要な意味を持っている。
【0011】
従来の多重電極システムの電極は円柱棒または二重湾曲棒とされるものが多い。二重湾曲棒は高精度な加工と組立が困難な電極として周知である。円柱棒は高精度な加工ができるものの、高精度な組立が困難である。多重極の加工と組立はその性能を制限する要因となっている。
【0012】
米国特許6441370 B1では、イオンガイド、イオントラップとして用いられる矩形状リニア多重極が提案された。該多重極は断面が矩形状を有する電極を利用しており、矩形状電極の表面に、フィールド形状を改善する機能を果たす一つの表面層が積み重ねられている。矩形状電極によれば、多重極の加工と組立は大幅に簡略化されたにもかかわらず、該特許ではフィールド形状を改善するための具体的な実施形態が記載されておらず、表面層はフィールド形状を定性的に改善できるが、フィールド形状を効果的に定量的に改善することができない。
【0013】
所望の多重極場形状が得られず、かつ高精度な加工と組立を含む多重電極システムの高精度な機械加工ができないと、多重電極システムの性能に大きく影響を与え、マススペクトロメーターのイオン光学系に影響することになる。従って、性能が安定しており、イオンの軌跡を正確に制御できるイオン光学系が得られるために、最適なフィールド形状を有し、構造が柔軟性に富んで加工し易くなり、製造コストが低い多重電極システムの開発が期待されている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
そこで、本発明が解決しようとする技術課題は、マススペクトル解析用の電極を提供することであり、該電極の構造を改良することにより、該電極を利用した多重電極システムやイオントラップなどのマススペクトロメーターは最適なフィールド形状を有するだけでなく、加工し易くなり、製造コストが低くなる。
【0015】
本発明が解決しようとする技術課題は更に、マススペクトル解析用の多重電極システムを提供することであり、その電極の構造を改良することにより、該多重電極システムは最適なフィールド形状を有するだけでなく、構造が柔軟性に富んで加工し易くなり、製造コストが低くなる。
【0016】
本発明が解決しようとする技術課題は更に、マススペクトル解析用のイオントラップを提供することであり、その電極の構造を改良することにより、該イオントラップは最適なフィールド形状を有するだけでなく、構造が柔軟性に富んで加工し易くなり、製造コストが低くなる。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明は前記技術課題を解決するために下記の実施形態が適用される:
【0018】
マススペクトル解析用の電極であって、前記電極は柱形状を有し、前記柱形状の電極はその横断面の少なくとも片側部の形状が2段階以上の段階形状に形成される。
【0019】
本発明は、2対以上の柱形状の電極と該電極に接続される電源とを備え、それら柱形状の電極は電極の母線に平行なZ軸を軸心として周方向に直筒状に配列されているマススペクトル解析用の多重電極システムを更に提供しており、該多重電極システムは、少なくとも1対の柱形状の電極は横断面の少なくとも片側部の形状が2段階以上の階段形状に形成されることを特徴とする。
【0020】
本発明では、前記多重電極システムの全ての電極は共に横断面の少なくとも片側部の形状が2段階以上の階段形状に形成されることが好ましい。
【0021】
一つの選択可能な実施例として、前記多重電極システムは4重極システムを形成するように2対の電極を有してもよい。
【0022】
もう一つの選択可能な実施例として、前記多重電極システムは6重極システムを形成するように3対の電極を有してもよい。
【0023】
更にもう一つの選択可能な実施例として、前記多重電極システムは8重極システムを形成するように4対の電極を有してもよい。
【0024】
本発明による多重電極システムでは、前記電極はZ軸を軸心とする同心円周上に固定され、かつ各電極同士を隔てる円周角が同じである。
【0025】
本発明による多重電極システムでは、前記電源は直流信号または無線周波数信号、或いは二者を組み合わせたものを提供する。
【0026】
本発明では、前記多重電極システムは前記電極の横断面の階数及び各階の形状パラメータを変更することで、貢献成分が一定の多重極場を有する混合フィールドが得られる。
【0027】
本発明はマススペクトル解析用のイオントラップを更に提供しており、該イオントラップは、
2対の柱形状の電極を有する4重極システムと、
前記4重極システムの両端に設置された端部電極と、
無線周波数イオントラップ用の電界を生成する無線周波数信号と、
軸方向イオントラップ用のポテンシャル井戸を生成する直流信号と、を備え、
そのうち、少なくとも1対の柱形状の電極は横断面の少なくとも片側部の形状が2段階以上の階段形状に形成されている。
【0028】
本発明によるイオントラップでは、一つの選択可能な例として、前記端部電極は平板電極であってもよい。
【0029】
本発明によるイオントラップでは、もう一つの選択可能な例として、前記端部電極は2対の柱形状の電極を有する4重極システムからなり、そのうち少なくとも1対の柱形状の電極はその横断面の少なくとも片側部の形状が2段階以上の階段形状に形成されてもよい。
【0030】
本発明によるイオントラップでは、更にもう一つの選択可能な例として、前記端部電極は2対の柱形状の電極を有する4重極システムと該4重極システムの端部にある平板電極とを組み合わせてなり、そのうち少なくとも1対の電極はその横断面の少なくとも片側部の形状が2段階以上の階段形状に形成されてもよい。
【0031】
本発明によるイオントラップでは、前記2対の電極は共に、その横断面の少なくとも片側部の形状が2段階以上の階段形状に形成されている。
【0032】
本発明によるイオントラップでは、少なくとも1つの電極または端部電極にイオンを注入または排出するためのスリットまたは微孔が備えられている。
【0033】
本発明によるイオントラップでは、前記イオントラップは、前記電極の横断面の階数及び各階の形状パラメータを変更することで、貢献成分が一定の多重極場を有する混合フィールドが得られる。前記混合フィールドは4重極場と8重極場を含む。
【0034】
本発明による複数のイオントラップは互いに直列して複数段イオン処理システムを形成することで、MSn解析試験に適用できる。
【0035】
本発明では、前記電極はその横断面の両側部の形状が共に2段階以上の階段形状に形成される。
【0036】
本発明では、前記階段形状の側部形状を有する電極はその階段の幅が外側から内側へ向けて段階を追って小さくなる。
【0037】
本発明では、前記電極はその横断面の両側部の形状が対称にまたは非対称に設置される。
【0038】
本発明では、前記電極はその横断面の両側部の階数を等しくしてもよい。
【0039】
本発明では、前記電極の2段階以上の階段形状の側部は一体に加工してなる、或いは前記電極は各階を加工してから組み合わせてなる。
【0040】
本発明では、前記階段形状の電極は各階の側面形状が直角段差面、円柱面、双曲面または楕円面などに形成されている。
【0041】
一つの具体的な例として、前記階段形状の電極はその横断面の各階の形状が共に矩形状に形成されている。
【0042】
本発明の前記構成を適用したマススペクトル解析用のイオントラップ、多重電極システム及び電極によれば、柱形状の電極は横断面の側部が2段階以上の階段形状に形成されているので、イオントラップ内及び多重電極システム内のフィールド形状の最適化を効果的に実現でき、無線周波数電極は境界部の形状が異なるフィールド形状に応じて設計でき、例えば、なるべく理想的な4重極場に近いフィールド形状、或いは貢献成分が一定の4重極場と他の高階級フィールドとを混合したフィールド形状が得られる。更に、階段形状の電極からなる無線周波数電極は、形状が簡単でかつ加工と組立がし易い、例えば表面が平面、円柱面などの形状からなる階段形状の電極を利用できるので、加工と組立の精度を大幅に向上し、多重電極システムやイオントラップなどのマススペクトラメーターにおける理想的な形状と電極の加工及び組立とが矛盾する不具合を効果的に解決した。
【0043】
要するに、本発明の階段形状の電極は任意の表面形状の階段面を有してもよいので、電極の階数及び各階のパラメータを変更することで、電極の表面形状を簡単に変更可能と、即ち電界の境界条件を変更して、フィールド形状を最適化できる。フィールド形状が最適化された多重電極システムやイオントラップなどは、2段階以上の階段形状を有する電極を利用しているので、既存の多重電極システム及びイオントラップにおける理想的な形状と電極の加工及び組立とが矛盾する不具合を効果的に解決したと共に、高階級フィールドに関する研究の成果に基づいて、所望のフィールド形状の電極の境界条件を簡単に柔軟に構成できるので、高階級フィールドに関する理論的な成果を効果的に実際の装置に転化できる。本発明による、2段階以上の階段形状の電極から構成され、かつフィールド形状が最適化された多重電極システムによれば、4極マス解析器とマススペクトラメーターにおけるイオンガイドなどのような他のイオン光学系に対しても、フィールド形状が最適化され、加工がし易くなり、コストが低くなる実施可能性のある実施案を提供している。
【発明を実施するための最良の形態】
【0044】
本発明によるマススペクトル解析用の電極の構成は図1−9に示すように、電極1は柱形状を有し、その横断面の少なくとも片側の形状が2階以上の階段形状に形成されている。図1−9は3段階を有する電極1の複数種類の構成を、図11−図16は2段階を有する電極1の複数種類の構成を示すが、それら図面は単なる例であり、本発明による電極1は他の階数、例えば4段階、5段階などを用いてもよく、その形状も必要に応じて複数種類あるが、ここでは一つ一つ列挙しない。図1に示すように、前記電極1の柱面は、所定直線に平行しながら電極の水準線f(x、y)=0に沿って移動する電極の母線Lに従って描かれた軌跡であり、電極の水準線f(x、y)=0は区切り関数の形式を有している。前記電極1はマススペクトラメーターに適用される場合、所要のフィールド形状に応じて、階段形状の電極1の階段の種類を決定し、それに基づいて演算パターンを作成して、階数及び各階の寸法パラメータなどの条件を変更することで、貢献成分が一定の多重極場を有する混合フィールド、即ち所要の最適化フィールド形状が得られ、それによって電極の境界条件及び最適な組み合わせの案を決定する。通常ではよく利用される最適なフィールドは4重極場でもよく、または4重極場と8重極場とからなる混合フィールドでもよく、または4重極場と他の多重極場とからなる混合フィールドでもよい。
【0045】
本発明では、図1−9に示すように、前記電極1はその横断面の両側部の形状が共に2段階以上の階段形状に形成されてもよく、横断面の両側部の形状は図1−5に示すように対称に形成されてもよく、または図13、図15、図16に示すように非対称に設置されてもよい。このように階段形状の側部形状を有する電極1はその階段の幅が段階を追って小さくしてもよい。
【0046】
本発明では、前記柱形状の電極1はその横断面の両側部の階数が等しいのが好ましい。そうすると、それぞれの対応する境界点を通った1組の平行な平面により、電極1を階段毎に2つ以上の薄層ユニットに解析できる。必要に応じて、該電極1はその横断面の両側部の階数が等しくなく構成してもよく、例えば、片側を2階に、他側を3階にするなどでもいい(不図示)。
【0047】
本発明による電極1は各階の側部の曲線が任意の関数でもよい、即ち各階に沿った側面として任意の曲面を含んでもよく、例えば、平面、円柱面、双曲面、楕円面などでもよい。そうすると、2階以上の階段からなる電極1の柱面形状は、各階が同じ曲面又は平面で構成されてもよく、また各階に異なる曲面が用いられてもよいので、電極1の柱面が前記複数種類の曲面を組み合わせてなり、例えば、電極1は一対の平行な平面を円柱面、双曲面、楕円面または他の曲面と組み合わせてなる柱面体であってもよい。電極の水準線f(x、y)=0は複数種類の柱面形状を構成できるので、適正な区切り関数、即ち適正な階段形状を選択することにより、最適化された電界フィールド形状を生成するために必要とする電界の境界条件を組み合わせて得られる。前記電極1の各階は任意な表面形状を有してもよいが、良好な加工と組立精密度を得る観点から考えると、形状が簡単で、加工と組立がし易い形状、例えば表面が平面や円柱面などの組み合わせによる階段形状の電極1を利用するほうがいい。更には、一つの具体的な例として、前記電極1は各階が共に矩形状に形成されると、良好的な加工と組立精密度が得られる。多層の階段形状の組み合わせによる電極1は、従来の多重電極システムやイオントラップなどのマススペクトラメーターにおける理想的なフィールド形状と電極の加工及び組立とが矛盾する不具合を効果的に解決すると共に、多重極場に関する検討の成果に基づいて、所望のフィールド形状の電極の境界条件を簡単に柔軟に構成できるので、多重極場に関する理論的な成果を効果的に実際の装置に転化できる。
【0048】
本発明による階段形状の電極1は図2−6、図8−9に示すように加工されてよく、各薄層ユニットをそれぞれ加工した後に各薄層ユニットを組み合わせる方法を利用してもよい、また図1、図7に示すように一体として加工する方法を利用してもよい。
【0049】
従来の4極理論から、電極1は理想的な二重湾曲表面を有すると、RF動作領域で理想的な4重極場を形成して、前記4重極場により良好なイオン解析結果が得られることがわかる。最適化フィールド形状の4重極はイオントラップイオンマス解析器またはリニアイオントラップとして用いられる場合、平板電極からなる矩形状リニアイオントラップと比べて、階段形状の電極で構成されたイオントラップにはより目立った4重極場成分が含まれてもよく、目標となるイオンをより効果的に分離し解析できるので、最適な電界フィールド形状を有すると考えられている。
【0050】
実際の加工中では、理想的な二重湾曲表面を得るのは非常に困難なことであり、マス解析器の解析性能を大幅に制限している。本発明では、複数の階段を組み合わせることで所望の階段形状の電極1が得られてRF電極を構成し、更に階数を増やし各階の寸法パラメータを調整することにより、フィールド形状を最適化することができる。理論上では、各階の厚さが無限に小さくなっていく場合に、組み合わせによって理想的な二重湾曲断面を有するRF電極が得られる。実際の加工においては、各階は一定の厚さを有するので、各階は所定の形状とパラメータを有する場合に、数値シミュレーションによる方法を利用して、2階以上の階段形状の電極からなる多重電極システムやイオントラップなどのマススペクトラメーター内のフィールド形状を演算することができる。逆に、数値シミュレーションによる方法を利用して、最適なフィールド形状に対応する電極のパラメータ、例えば階数、各階の寸法などが得られるので、最適なフィールド形状を有するRF電極1を加工できる。このように複数階段形状の電極は、簡単で加工と組立し易い形状、例えば表面が平面(直角段差面を含む)、円柱面などを組み合わせてなる電極1を利用することができるので、加工と組立の精度を大幅に向上できると共に、イオントラップや多重電極システムなどのマススペクトラメーターの製造コストを低下できる。
【0051】
図10−18は前記階段形状の電極1を用いたマススペクトル解析用多重電極システムを示しており、前記多重電極システムは、2対以上の柱形状の電極1と前記電極1に接続される電源とを備え、それら柱形状の電極1は電極1の母線Lに平行なZ軸を軸心として周方向に直筒状に配列されているものであって、そのうち、少なくとも1対の柱形状の電極1はその横断面が少なくとも片側の形状を2階以上の階段形状に形成している。
【0052】
本発明では、前記多重電極システムの全ての電極1は共にその横断面において、少なくとも片側の形状を2階以上の階段形状に形成しているのが好ましい。
【0053】
本発明による多重電極システムは4極質量解析器の分野、例えば4重極質量解析器の4重極に適用でき、また、マススペクトラメーターの他のイオン光学系、例えばイオンレンズ又はイオンガイドシステムの4重極、6重極、8重極などに適用できる。最適化フィールド形状による多重電極システムはイオン収束又はイオンガイドなどの光学系とされる場合、電極にDC直流電圧、RF無線周波数電圧又は他の波形電圧を入力することにより、イオン収束と伝送を実現できる。
【0054】
図10−16に示すように、一つの選択可能な実施例として、前記多重電極システムは2対の電極1を有し、それによって4重極システム10を構成する。
【0055】
本発明では、前記多重電極システムは前記電極1の横断面の階数及び各階の形状パラメータを変更することで、貢献成分が一定の多重極場を有する混合フィールドを得られる。以下、4重極システムを例にして説明する。
【0056】
図11−16は、横断面が矩形状の2つの矩形平板薄層ユニットを積み重ねてなる階段形状のRF電極1からなる、複数種類の混合フィールドを発生できる4重極システムの断面を示す図である。図において、図11は4つの全く同じRF電極1を利用し、RF電極の2つの階段が同一の対称軸を有するものを示す。図12は2種類の異なるRF電極1を利用し、相対した2つの電極が全く同じ、電極の2つの階段が同一の対称軸を有するものを示す。図13と図15は2種類の異なるRF電極1を利用し、相対した2つの電極1が全く同じ、そのうちの一対の電極1の2つの階段が同一の対称軸を有する一方、他の一対の電極の2つの階段が異なる対称軸を有するものを示す。図14と図16は3種類の異なるRF電極1を利用し、そのうちの一対の電極1が全く同じで、他の一対の電極の2つの電極が異なるものを示す。異なる電極パラメータを利用することにより、異なる混合フィールドが得られる。数値演算からわかるように、図11の構成によればA2、A6、A8、A10等を、図12の構成によればA2、A4、A6、A8、A10等を、図13の構成によればA2、A3、A6、A8、A10等を、図14の構成によればA2、A5、A6、A8、A10等を、図15の構成によればA2、A3、A4、A6、A8、A10等を、図16の構成によればA2、A3、A4、A5、A6、A8、A10等をそれぞれ得られる。Anは多重極場を表示し、nは含まれる電極対の数であり、即ち、Anは2n重極場に対応し、例えば、A2、A3、A4、A5、A6はそれぞれ4重極場、6重極場、8重極場、10重極場、12重極場に対応している。前記複数種類の4重極システムの変化によりわかるように、各電極の階段パラメータを変更することで所望の混合フィールドが得られる。以上は4重極システムのみを例にして説明したが、もちろん、このような電極の変化は同様に他の多重電極システムにも適用できるので、以降では一々については説明しない。
【0057】
他の選択可能な実施例として、図17に示すように、前記多重電極システムは3対の電極1を有し、それによって6重極システム20を構成する。
【0058】
更に他の選択可能な実施例として、図18に示すように、前記多重電極システムは4対の電極1を有し、それによって8重極システム30を構成する。
【0059】
図10−18に示すように、本発明による多重電極システムでは、前記電極1はZ軸を軸心とする同心円周上に固定され、かつ各電極1同士を隔てる円周角が同じとされている。もちろん、必要に応じて、それら電極1はZ軸の周辺に非対称に設置されてもよい。
【0060】
本発明による多重電極システムでは、前記電源は直流信号または無線周波数信号、或いは二者を組み合わせたもの、または他の波形信号、或いは複数信号を組み合わせたものを供給することにより、イオンの収束と伝送などを実現できる。図19−22に示すように、本発明は前記階段形状の電極1を用いたマススペクトル解析用のイオントラップ40を更に提供しており、前記イオントラップ40は、2対の柱形状の電極1を有する4重極システム10と、前記4重極システム10の両端に設置された端部電極21、22と、無線周波数イオントラップ用の電界を生成する無線周波数信号と、軸方向イオントラップ用のポテンシャル井戸を生成する直流信号とを備えるものであって、そのうち、少なくとも1対の柱形状の電極1はその横断面が少なくとも片側の形状を2階段以上の階段形状に形成している。
【0061】
端部電極21、22は主に、z軸方向に沿うポテンシャル井戸を発生させ、z方向においてイオンをイオントラップのトラップ領域に制限する機能を果たしている。本発明によるイオントラップ40では、一つの選択可能な実施例として、図19に示すように、前記端部電極21、22はxy平面に沿って設置された平板電極である。
【0062】
本発明によるイオントラップ40では、他の選択可能な実施例として、図21に示すように、前記端部電極21、22は2対の柱形状の電極1を有してz軸に平行な4重極システム10からなり、そのうち少なくとも1対の電極1はその横断面が少なくとも片側部の形状を2階以上の階段形状に形成されている。
【0063】
本発明によるイオントラップ40では、更に他の選択可能な実施例として、図22に示すように、前記端部電極21、22は2対の柱形状の電極1を有する4重極システム10と前記4重極システム10の端部にある平板電極211とを組み合わせてなり、そのうち少なくとも1対の電極1はその横断面の少なくとも片側の形状を2階以上の階段形状に形成している。
【0064】
本発明によるイオントラップ40では、図18−22に示すように、前記2対の電極1は共にその横断面の片側部又は両側部の形状が2階以上の階段形状に形成されているのが好ましい。
【0065】
本発明によるイオントラップ40では、前記イオントラップ40は前記電極1の横断面の階数及び各階の形状パラメータを変更することで、貢献成分が一定の多重極場を有する混合フィールドを得られる。前記混合フィールドは4重極場と8重極場を含む。
【0066】
最適化されたフィールド形状のリニアイオントラップ40では、トラッピングされたイオンの質量電荷比とイオントラップの幾何学形状及び入力されたRFとDC電圧との関係は次のように表される:
【数1】

【0067】
ここで、A2は電界を多重極に展開して表す式における4極成分の展開係数であり、VRFとUDCはそれぞれRF電極に入力される無線周波数信号におけるRF成分とDC成分の幅であり、aとqはMathieu係数であり、r0はz軸からRF電極までの距離であり、ωはRF信号の周波数である。
【0068】
従来のイオントラップ理論から、電極1は理想的な二重湾曲表面を有すると、イオントラップ領域で理想的な4重極場を形成して、前記4重極場により良好なイオン解析結果が得られることがわかる。平板電極からなる矩形状リニアイオントラップと比べて、階段形状の電極1で構成されたイオントラップによれば、より顕著な4重極場成分が得られ、目標となるイオンをより効果的に分離し解析できるので、最適な電界フィールド形状を有すると考えられている。
【0069】
実際の加工においては、理想的な二重湾曲表面を得るのは非常に困難なことであり、イオントラップマス解析器の解析性能を大幅に制限している。階段形状の電極1によれば、階数を増やし各階の寸法パラメータを調整することにより、フィールド形状を最適化することができる。理論上では、各階の厚さが無限に小さくなっていく場合に、組み合わせによって理想的な二重湾曲断面を有するRF電極1が得られる。実際の加工においては、各階は一定の厚さを有するので、各階は所定の形状とパラメータを有する場合に、数値シミュレーションによる方法を利用して、複数階級まで解析できる電極1からなる4重極システム内のフィールド形状を演算することができる。逆に、数値シミュレーションによる方法を利用して、最適なフィールド形状に対応する電極のパラメータ、例えば階数、各階の寸法などが得られるので、最適なフィールド形状を有するRF電極1を加工できる。階段形状の電極1は、簡単で加工と組立し易い形状、例えば表面が平面、円柱面などを組み合わせてなる形状を利用できるので、加工と組立の精度を大幅に向上できると共に、イオントラップの製造コストを低下できる。
【0070】
イオンが4重極場を移動するベース周波数ωuは次のように表わされる:
【数2】

【0071】
イオンがイオントラップを移動する時の安定性を図23に示す。
【0072】
上記式によりわかるように、r0、ω、U、Vが決定されれば、ある質量電荷比m/zのイオンは一つの所定のa、q値を有している。安定性グラフでは、一つの決定された動作点を有している。該動作点が安定性のある三角形内にあれば、イオントラップはそのトラップ内に該イオンをトラッピングできるので、トラッピングされたイオンは安定なイオンと言われる。RF電極1に入力されるRF電圧は、周波数が一定で、かつVRFとUDCの比の値が一定であれば、安定性グラフでのある点において一定のa、q値に対応しており、安定なイオンの質量電荷比m/zはVRFと正比例関係があり、ひいてはUDCとも正比例関係がある。イオンがイオントラップを移動する時の安定性によれば、トラップ内にトラッピングされたイオンを分離し出射し解析し検出することができる。
【0073】
階段形状のRF電極1で構成された最適化フィールド形状リニアイオントラップ質量解析器は、基本的に次のように動作している:解析されるサンプルであるガスはトラップ内で電離されて解析されるイオンとなり、或いは解析されるサンプルはトラップ外部で電離された後に解析されるイオンがトラップ内に注入され、イオンと緩衝ガスとは衝突して動力エネルギーを減衰させてから、RFトラップ電界とDCトラップ電界とによってトラップ内のイオントラップ領域に制限され、イオンがトラッピングされた後、電極1又は端部電極21、22にAC又は他の波形信号が入力されると、イオンの質量を選択的に分離するか又は活性化させることができる。端部電極21、22にAC電圧が入力されると、RF幅を走査することにより、イオンがz軸方向に沿って端部電極21、22上の微孔又はスリットを通過してイオントラップから出射できる。x又はy電極対にAC電圧が入力されると、RF幅を走査することにより、イオンがx又はy方向に沿ってx電極又はy電極上のスリットを通過してイオントラップから出射できる。
【0074】
本発明によるイオントラップ40では、図20−22に示すように、少なくとも1つの電極1または端部電極21、22にイオンを注入するまたは排出するためのスリット212または微孔213が備えられている。図20−22に示すように、最適化フィールド形状リニアイオントラップでは、RF電極1にz軸に平行なスリット212が開設され、x又はy電極対にAC信号が入力されると、x又はy方向に沿ってイオンを活性化させるか又はイオントラップからイオンを排出することができる。また、端部電極21、22の極板に微孔213またはスリットが開設され、z方向に沿ってイオンを活性化させるか又はイオントラップからイオンを排出することができる。更に、上記各形態を任意に組み合わせることで、複数方向に沿ってイオンを活性化させる又はイオントラップからイオンを排出することができる。
【0075】
複数の最適化フィールド形状の大容量リニアイオントラップを用いて、複数段(レベル)イオン処理システムである直列式イオントラップ質量解析システムを構成できる。直列式イオントラップ質量解析システムは各級のイオントラップが前後に結合し、イオンが各級のイオントラップに沿って順次に流れており、それによってMSn解析試験を効果的に実施できる。図24は3つの最適化フィールド形状の大容量リニアイオントラップからなる3段イオン処理システムを示し、3段MS−MS解析試験を効果的に実施できる。
【0076】
次に、上述した記載に基づいて、矩形状平板電極と矩形ブロック状階段を組み合わせてなるRF電極1で構成された最適化されたフィールド形状の大容量リニアイオントラップ及びその質量解析器を例にして、本発明によるイオントラップ及びその質量解析器の具体的な動作パターンを説明する。
【0077】
図22は矩形ブロック状階段を組み合わせてなるRF電極1で構成された最適化されたフィールド形状の大容量リニアイオントラップを示す。前記イオントラップは、RF電極であって、z軸に平行なx電極11、12とy電極13、14とからなり、各電極が共に少なくとも3つの階段を組み合わせてなり、xy平面内に11−13−12−14のように反時計方向に互いに90度を隔てて設置されて一つのイオントラップ領域を定義しており、ただし、x電極11と12との中央にz軸に平行なスリットが開設されたRF電極と、xとy電極対に接続され、x電極対とy電極対の間にRF電圧を提供することでxy平面内にRFイオントラップ電界を発生されるRF無線周波数電源と、xとy電極対によって定義されたイオントラップ領域の両端に位置して、中央に微孔213が開設された極板211、及び階段形状の電極1からなる4重極システム10を備えた端部電極21、22と、端部電極対に接続され、2つの端部電極21、22の間にz軸方向に沿うDCトラッピングポテンシャル井戸を提供することで、イオンをイオントラップ領域に制限するDC直流電源と、x電極対に接続され、x電極1と2の間にAC電圧を提供することで、x方向に沿ってイオンを活性化させる又は排出するAC電源と、を備えている。AC電源は端部電極21、22の極板に接続され、端部電極21、22の間にAC電圧を提供することで、x方向に沿ってイオンを活性化させるか又は排出することもできる。
【0078】
従来のイオントラップと同様に、最適化フィールド形状の大容量リニアイオントラップはイオンを蓄積・分離することができる。イオントラップに入力されるDC直流成分がゼロであると、動作状態は図23に示す安定性グラフのq軸に対応する。初期RF幅は安定なイオンの質量電荷比の下限を決定でき、質量電荷比が前記下限以上である全てのイオンは共にイオントラップにトラッピングされ蓄積されている。
【0079】
イオントラップを利用してイオンを分離する動作形態はRF/DC分離とAC波形分離という2つの形態がある。図23に示すように、RF/DC分離とは、イオンの移動安定性グラフに基づいて、イオンが安定性グラフの境界における移動状態を安定状態から不安定状態に変化させることにより、不安定なイオンをイオントラップから出射させる形態である。RF/DC分離の動作手順は、分離の必要に応じて、イオントラップに保留されるイオンを選択して、その状態点(ai、qi)が安定な三角形の頂点付近にくるように保留されるイオンの状態パラメータ(ai、qi)を演算し、演算した結果に基づいてy電極のRF成分を調整すると共にDC成分を導入することにより、目標となるイオンの状態点が(ai、qi)となって、この場合、他のイオンが安定ではない領域に進入して、それによって目標となるイオンと他のイオンとが分けられている。
【0080】
AC波形分離は、イオンの移動するベース周波数とイオン状態との関係に基づいて、活性化されたz方向の振幅はその活性化波形そのものに正比例するFourier変換に応答し、イオン応答はイオンの軸方向の共振周波数に関係がなく、イオンの質量電荷比にも関係がない。質量電荷比がm/zであるイオンに加えた活性化の程度は、質量電荷比の対応する周波数での活性化の幅の大きさのみにより決定されている。イオンの移動するベース周波数を元にし、イオンの軌跡を精確に演算することなく、活性化されたイオンの軸方向の振幅を決定でき、相応する電極対に分離目的に対応するAC波形を導入するだけで、複数の目標イオンを同時に選択的に活性化させ排出することができる。
【0081】
最適化フィールド形状の大容量リニアイオントラップでは、単一の目標イオンを選択的に共振活性化させ排出することを通常必要とするので、それをAC共振活性化及び排出と称するが、本質的にはAC波形分離の一つの特別な例である。即ち目標イオンの移動するベース周波数はある帯域ではなく、ある周波数値である。
【0082】
図22に示す最適化フィールド形状の大容量リニアイオントラップでは、AC信号は二つのx極に供給され、そのうち、非出射極板を正信号とし、出射極板を負信号とすることにより、正イオンが出口極板を介してイオントラップから出射されるのを保証できる。測定されるイオンが負イオンであれば、非出射極板を負信号とし、出射極板を正信号としなければならない。
【0083】
最適化フィールド形状の大容量リニアイオントラップでは、イオンを選択することにより、目標イオンを安定状態から非安定状態に変えさせ、ひいてはイオントラップから排出させ、その結果、イオンを検出できる。選択的な不安定検出は境界出射とAC共振排出という2種類の方式に分けられている。
【0084】
境界出射は、図23に示す安定性グラフのq軸における安定境界点を動作点として、DC電圧幅をゼロとし、RF電圧幅を走査(上昇走査)することにより、イオンが質量電荷比に従って小から大までの順序で不安定状態となり、不安定なイオンはオントラップから排出され、トラップ外部のイオン検出システムに到達し、相応する電気信号が受信拡大され、相応するマススペクトルグラフが得られる。
【0085】
AC共振排出は、イオンの移動するベース周波数とイオン状態との関係を利用して、RF走査によりイオンの移動するベース周波数を変更し、イオンのベース周波数がAC信号の周波数と等しくなると、x方向におけるイオンの振幅は早く明らかに大きくなり、x極板の中央にあるスリットを通してイオントラップから離れて外部の検出回路に入る。最適化フィールド形状の大容量リニアイオントラップによる複数級直列システムは、MSn解析試験を効果的に実施できる。
【0086】
図24は3つの最適化フィールド形状の大容量リニアイオントラップからなる3段イオン処理システムを示し、3段MS−MS解析試験を効果的に実施できる。3段直列システムは3つの最適化フィールド形状の大容量リニアイオントラップ質量解析器を直列に接続してQqQ系列を形成して、その動作形態は次の通りとする:Q1とQ3は正常な質量解析器であり、q2にはDC直流電圧ではなくRF無線周波数電圧だけ入力され、前記無線周波数フィールドでは全てのイオンが収束され、かつ全てのイオンが通過することを許可している。従って、イオンはq2で次安定破裂または衝突誘導解離(Collision Induced Dissociation)を引き起こすことができる。Q1はイオンソースから注目されるイオンを選択して、またq2で解離反応を発生させ、最後に解離物をQ3に搬送して通常のマススペクトル解析を行い、分子の組成構成を推定する。
【0087】
本発明による最適化フィールド形状イオントラップ及び質量解析器に階段形状の電極1が適用された。階段形状の電極1は次のように設計されたものである:所望のフィールド形状に応じて、階段の種類を決定し、それにより演算パターンを作成し、各階の寸法パラメータと階数などの条件を変更することにより、貢献成分が一定の多重極場を有する混合フィールド、即ち所望の最適化フィールド形状が得られ、それにより電極の境界条件と最適な組み合わせ案を決定する。通常よく用いられる最適化フィールド形状は4重極場でもよく、或いは4重極場と8重極場とからなる混合フィールドでもよく、更には4重極場と他の多重極場とからなる混合フィールドでもよい。
【0088】
図25−図27は本発明の図11の構成に基づき加工されたイオントラップ質量解析器によるマススペクトルの測定結果を示す。図25は米国PCR社製のアライメント混合物たるUltramark1621をサンプルとして得たマススペクトルグラフで、本発明によるイオントラップを質量解析器に用いる場合に、その質量範囲は2000Daとなることを示す。図26と図27はアルギニンをサンプルとしてスペクトル全体を走査して得たマススペクトルグラフ及びその一部拡大図であり、該図面から、前記イオントラップによれば良好なピーク形状と識別度が得られることがわかる。
【図面の簡単な説明】
【0089】
【図1】本発明による階段形状の電極の構成を示す図である。
【図2】本発明による階段形状の電極の複数種類の断面形状を示す図である。
【図3】本発明による階段形状の電極の複数種類の断面形状を示す図である。
【図4】本発明による階段形状の電極の複数種類の断面形状を示す図である。
【図5】本発明による階段形状の電極の複数種類の断面形状を示す図である。
【図6】本発明による階段形状の電極の複数種類の断面形状を示す図である。
【図7】本発明による階段形状の電極の複数種類の断面形状を示す図である。
【図8】本発明による階段形状の電極の複数種類の断面形状を示す図である。
【図9】本発明による階段形状の電極の複数種類の断面形状を示す図である。
【図10】本発明による4重極システムの構成を示す図である。
【図11】本発明による複数種類の4重極システムの構成を示す図である。
【図12】本発明による複数種類の4重極システムの構成を示す図である。
【図13】本発明による複数種類の4重極システムの構成を示す図である。
【図14】本発明による複数種類の4重極システムの構成を示す図である。
【図15】本発明による複数種類の4重極システムの構成を示す図である。
【図16】本発明による複数種類の4重極システムの構成を示す図である。
【図17】本発明による6重極システムの構成を示す図である。
【図18】本発明による8重極システムの構成を示す図である。
【図19】本発明によるイオントラップの構成を示す図である。
【図20】本発明による他のイオントラップの構成を示す図である。
【図21】本発明による更に他のイオントラップの構成を示す図である。
【図22】本発明による電極にスリットを有するイオントラップの構成の説明図である。
【図23】本発明によるイオントラップ内のイオンの作動安定性を示す図である。
【図24】本発明による3つのイオントラップを直列してなるMSnを示す図である。
【図25】図11の構成に基づき加工してなるイオントラップマス解析器によるマススペクトル測定試験の一つのサンプルのマススペクトルグラフである。
【図26】図11の構成に基づき加工してなるイオントラップマス解析器によるマススペクトル測定試験の他のサンプルのマススペクトルグラフである。
【図27】図26の一部の拡大図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
柱形状を有するマススペクトル解析用の電極であって、前記柱形状の電極は、その横断面の少なくとも片側部の形状が2段階以上の階段形状に形成されていることを特徴とするマススペクトル解析用の電極。
【請求項2】
前記電極は横断面の両側部の形状が共に2段階以上の階段形状に形成されていることを特徴とする請求項1に記載のマススペクトル解析用の電極。
【請求項3】
前記階段形状の側部形状を有する電極はその階段の幅が段階を追って小さくなることを特徴とする請求項1又は2に記載のマススペクトル解析用の電極。
【請求項4】
前記電極は横断面の両側部の形状が対称または非対称に形成されていることを特徴とする請求項1に記載のマススペクトル解析用の電極。
【請求項5】
前記電極は横断面の両側部の階数が等しいことを特徴とする前記の請求項1に記載のマススペクトル解析用の電極。
【請求項6】
前記電極の2階以上の階段形状の側部が一体に加工されてなることを特徴とする請求項1に記載のマススペクトル解析用の電極。
【請求項7】
前記電極は各階をそれぞれ成型してから組み合わせて形成されることを特徴とする請求項1に記載のマススペクトル解析用の電極。
【請求項8】
前記階段形状の横断面を有する電極は、各階の側面形状が直角段差面、円柱面、双曲面または楕円面に形成されていることを特徴とする請求項1に記載のマススペクトル解析用の電極。
【請求項9】
前記電極はその横断面の各階の形状が共に矩形状に形成されていることを特徴とする請求項1に記載のマススペクトル解析用の電極。
【請求項10】
1対以上の柱形状の電極と前記電極に接続される電源とを備え、それら柱形状の電極が電極の母線に平行なZ軸を軸心として周方向に直筒状に配列されているマススペクトル解析用の多重電極システムであって、
少なくとも1対の柱形状の電極はその横断面の少なくとも片側部の形状が2階以上の階段形状に形成されていることを特徴とするマススペクトル解析用の多重電極システム。
【請求項11】
前記多重電極システムの全ての電極は、その横断面の少なくとも片側部の形状が共に2階以上の階段形状に形成されていることを特徴とする請求項10に記載のマススペクトル解析用の多重電極システム。
【請求項12】
前記階段形状の電極は、その横断面の両側部の形状が共に2階以上の階段形状に形成されていることを特徴とする請求項10に記載のマススペクトル解析用の多重電極システム。
【請求項13】
前記階段形状の側部形状を有する電極は、その階段の幅が外側から内側に向けて段階毎に小さくなることを特徴とする請求項10又は11又は12に記載のマススペクトル解析用の多重電極システム。
【請求項14】
前記柱形状の電極は、その横断面の両側部の形状が対称に形成されているか、または非対称に形成されていることを特徴とする請求項10に記載のマススペクトル解析用の多重電極システム。
【請求項15】
前記柱形状の電極は、その横断面の両側部の階数が等しいことを特徴とする請求項12に記載のマススペクトル解析用の多重電極システム。
【請求項16】
前記電極の2階以上の階段形状の側部は一体に加工されてなることを特徴とする請求項10に記載のマススペクトル解析用の多重電極システム。
【請求項17】
前記階段形状の電極は各階をそれぞれ加工してから組み合わせて形成されることを特徴とする請求項10に記載のマススペクトル解析用の多重電極システム。
【請求項18】
前記階段形状の電極は、各階の側面形状が直角段差面、円柱面、双曲面または楕円面に形成されていることを特徴とする請求項10に記載のマススペクトル解析用の多重電極システム。
【請求項19】
前記柱形状の電極は、その横断面の各階の形状が共に矩形状に形成されていることを特徴とする請求項10に記載のマススペクトル解析用の多重電極システム。
【請求項20】
前記多重電極システムは4重極システムを形成するように2対の電極を有することを特徴とする請求項10に記載のマススペクトル解析用の多重電極システム。
【請求項21】
前記多重電極システムは6重極システムを形成するように3対の電極を有することを特徴とする請求項10に記載のマススペクトル解析用の多重電極システム。
【請求項22】
前記多重電極システムは8重極システムを形成するように4対の電極を有することを特徴とする請求項10に記載のマススペクトル解析用の多重電極システム。
【請求項23】
前記電極はZ軸を軸心とする同心円周上に固定され、かつ各電極同士を隔てる円周角が同じとされていることを特徴とする請求項10に記載のマススペクトル解析用の多重電極システム。
【請求項24】
前記電源は直流信号または無線周波数信号、或いは二者を組み合わせたものを提供することを特徴とする請求項10に記載のマススペクトル解析用の多重電極システム。
【請求項25】
前記多重電極システムは前記電極の横断面の階数及び各階の形状パラメータを変更することで、貢献成分が一定の多重極場を有する混合フィールドが得られることを特徴とする請求項10に記載のマススペクトル解析用の多重電極システム。
【請求項26】
前記混合フィールドは4重極場と8重極場を含むことを特徴とする請求項25に記載のマススペクトル解析用の多重電極システム。
【請求項27】
2対の柱形状の電極を有する4重極システムと、
前記4重極システムの両端に設置された端部電極と、
無線周波数イオントラップ用の電界を生成する無線周波数信号と、
軸方向イオントラップ用のポテンシャル井戸を生成する直流信号と、
を備えるマススペクトル解析用のイオントラップであって、
少なくとも1対の柱形状の電極はその横断面の少なくとも片側部の形状が2階以上の階段形状に形成されていることを特徴とする、マススペクトル解析用のイオントラップ。
【請求項28】
前記端部電極は平板電極であることを特徴とする請求項27に記載のマススペクトル解析用のイオントラップ。
【請求項29】
前記端部電極は2対の柱形状の電極を有する4重極システムからなり、そのうち少なくとも1対の電極はその横断面の少なくとも片側部の形状が2段階以上の階段形状に形成されていることを特徴とする、請求項27に記載のマススペクトル解析用のイオントラップ。
【請求項30】
前記端部電極は2対の柱形状の電極を有する4重極システムと前記4重極システムの端部にある平板電極とを組み合わせてなり、そのうち少なくとも1対の電極はその横断面の少なくとも片側部の形状が2階以上の階段形状に形成されていることを特徴とする、請求項27に記載のマススペクトル解析用のイオントラップ。
【請求項31】
前記2対の電極はその横断面の少なくとも片側部の形状が共に2階以上の階段形状に形成されていることを特徴とする、請求項27に記載のマススペクトル解析用のイオントラップ。
【請求項32】
前記電極はその横断面の両側部の形状が共に2階以上の階段形状に形成されていることを特徴とする、請求項27に記載のマススペクトル解析用のイオントラップ。
【請求項33】
前記階段形状の側部形状を有する電極はその階段の幅が外側から内側に向けて段階を追って小さくなることを特徴とする、請求項27〜32のいずれか一項に記載のマススペクトル解析用のイオントラップ。
【請求項34】
前記階段形状の電極は、その横断面の両側部の形が対称に形成されているかまたは非対称に形成されていることを特徴とする請求項27に記載のマススペクトル解析用のイオントラップ。
【請求項35】
前記柱形状の電極は、その横断面の両側部の階数が等しいことを特徴とする請求項27に記載のマススペクトル解析用のイオントラップ。
【請求項36】
前記電極の2階以上の階段形状の側部は一体に加工されてなることを特徴とする請求項27に記載のマススペクトル解析用のイオントラップ。
【請求項37】
前記電極は各階をそれぞれ成型してから組み合わせてなることを特徴とする請求項27に記載のマススペクトル解析用のイオントラップ。
【請求項38】
前記電極は各階の側面形状が直角段差面、円柱面、双曲面または楕円面に形成されていることを特徴とする請求項27に記載のマススペクトル解析用のイオントラップ。
【請求項39】
前記電極はその横断面の各階の形状が共に矩形状に形成されていることを特徴とする請求項27に記載のマススペクトル解析用のイオントラップ。
【請求項40】
少なくとも1つの前記電極または前記端部電極に、イオンを注入または排出するためのスリットまたは微孔が備えられていることを特徴とする請求項27に記載のマススペクトル解析用のイオントラップ。
【請求項41】
前記イオントラップは、前記電極の横断面の階数及び各階の形状パラメータを変更することで、貢献成分が一定の多重極場を有する混合フィールドが得られることを特徴とする請求項27に記載のマススペクトル解析用のイオントラップ。
【請求項42】
前記混合フィールドは4重極場と8重極場を含むことを特徴とする請求項27に記載のマススペクトル解析用のイオントラップ。
【請求項43】
複数の前記イオントラップは互いに直列して複数段イオン処理システムを形成することで、MSn解析試験に適用できることを特徴とする請求項27に記載のマススペクトル解析用のイオントラップ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【図25】
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【図26】
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【図27】
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【公表番号】特表2009−506506(P2009−506506A)
【公表日】平成21年2月12日(2009.2.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−528321(P2008−528321)
【出願日】平成18年8月30日(2006.8.30)
【国際出願番号】PCT/CN2006/002227
【国際公開番号】WO2007/025475
【国際公開日】平成19年3月8日(2007.3.8)
【出願人】(508064584)
【Fターム(参考)】