説明

マスタシリンダ装置

【課題】 実用性の高いマスタシリンダ装置を提供することを課題とする。
【解決手段】 本マスタシリンダ装置110は、作動液を加圧するための第1加圧室R1が区画される本体部650と、本体部の外周に鍔部652とを有し、鍔部の前方に作動液で満たされた対向室R4が区画される第1加圧ピストン604と、ピストン間室R6が第1加圧ピストンとによって自身の前方に区画され、ブレーキペダル150の操作によって収縮可能とされた入力ピストン608とを備え、さらに、入力ピストンの加圧ピストンへの当接を許容すべく、対向室およびピストン間室をリザーバ122に連通させる電磁式の開閉弁732と、入力ピストンの収縮を禁止する電磁式の開閉弁742とを備える。このようにマスタシリンダ装置を構成することで、入力ピストンの収縮を禁止した状態で操作力に依存して加圧室内の作動液を加圧することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車輪に設けられたブレーキ装置に、作動液を加圧して供給するためのマスタシリンダ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、車両の液圧ブレーキシステムには、例えば、下記特許文献に記載されているように、通常、高圧源から導入される高圧とされた作動液の圧力に専ら依存して作動液を加圧するように作動するマスタシリンダ装置が採用されている。このようなマスタシリンダ装置は、一般的に、ストロークシミュレータを備えている。ストロークシミュレータは、運転者が操作部材に加える操作力に応じて、操作部材の移動を許容しつつ、操作力に対する操作反力を発生する。そのため、操作力に依存して作動液が加圧されない場合でも、運転者は自身のブレーキ操作によって操作部材を動かしつつ操作反力を実感することができる。したがって、ストロークシミュレータは、マスタシリンダ装置が高圧源によって高圧とされた作動液の圧力に専ら依存して作動液を加圧するように作動する場合でも、ブレーキ操作における操作感を良好なものとさせることができる。しかしながら、電気的失陥等によって高圧源が正常に作動することができない場合、マスタシリンダ装置は、外部高圧源により高圧とされた作動液に専ら依存して作動液を加圧するように作動することができなくなってしまう。そのため、マスタシリンダ装置には、運転者の操作力に専ら依存して作動液を加圧するように作動するための機能も備えられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平2−279450号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記のようなマスタシリンダ装置が操作力に専ら依存して作動液を加圧するように作動する場合であっても、ストロークシミュレータが機能できる状態にされている。そのため、ストロークシミュレータによる操作部材の移動が許容され、ブレーキ操作におけるブレーキ操作部材の操作量が比較的大きくなり、ブレーキ操作の操作感が低下してしまう。このような操作感の低下は、ストロークシミュレータを備えたマスタシリンダ装置の有する問題の一例であって、マスタシリンダ装置は他にも種々の問題を有しており、種々の改善を施すことによって、それの実用性を向上させることが可能である。本発明は、このような実情に鑑みてなされたものであり、実用性の高いマスタシリンダ装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するため、本発明のマスタシリンダ装置は、(A)前方に作動液を加圧するための加圧室が区画される本体部と、本体部の外周に形成された鍔部とを有し、鍔部の後方に高圧源から作動液が導入される入力室が、鍔部の前方に作動液で満たされて入力室と対向する対向室が、それぞれ区画される加圧ピストンと、(B)ピストン間室が加圧ピストンとによって自身の前方に区画され、操作部材の操作によって収縮可能とされた入力ピストンと、(C)入力ピストンの収縮に対して弾性反力を発生させる反力発生機構とを備え、さらに、入力ピストンの加圧ピストンへの当接を許容すべく、対向室およびピストン間室を低圧源に連通させる対低圧源連通器と、入力ピストンの収縮を禁止する入力ピストン収縮禁止機構とを備えたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0006】
本発明のマスタシリンダ装置によれば、対低圧源連通器によって入力ピストンの加圧ピストンへの当接を許容すれば、操作部材に加えられる操作力が加圧ピストンへと伝達される。さらに、入力ピストン収縮禁止機構によって入力ピストンの収縮を禁止すれば、ストロークシミュレータが機能しない状態で、ストロークシミュレータによる操作部材の移動が禁止された状態で、操作力が加圧ピストンへと伝達され、操作力に依存して加圧室内の作動液を加圧することができる。そのため、比較的小さな操作量で加圧室内の作動液を加圧することができ、操作感は良好となる。そのことによって、マスタシリンダ装置の実用性を向上させることができるのである。
【発明の態様】
【0007】
以下に、本願において特許請求が可能と認識されている発明(以下、「請求可能発明」という場合がある)の態様をいくつか例示し、それらについて説明する。各態様は請求項と同様に、項に区分し、各項に番号を付し、必要に応じて他の項の番号を引用する形式で記載する。これは、あくまでも請求可能発明の理解を容易にするためであり、それらの発明を構成する構成要素の組み合わせを、以下の各項に記載されたものに限定する趣旨ではない。つまり、請求可能発明は、各項に付随する記載,実施例の記載等を参酌して解釈されるべきであり、その解釈に従う限りにおいて、各項の態様にさらに他の構成要素を付加した態様も、また、各項の態様から何某かの構成要素を削除した態様も、請求可能発明の一態様となり得るのである。
【0008】
なお、以下の各項において、(1)項が請求項1に相当し、(2)項が請求項2に、(3)項が請求項3に、(4)項が請求項4に、(6)項が請求項5に、(10)項が請求項6に、(11)項が請求項7に、それぞれ相当する。
【0009】
(1)車輪に設けられて作動液の圧力によって作動するブレーキ装置に、加圧された作動液を供給するためのマスタシリンダ装置であって、
前方が閉塞されたハウジングと、
後端に開口する有底穴を有するとともに、本体部とその本体部の外周に形成された鍔部とを有し、前記本体部の前方に、前記ブレーキ装置に供給される作動液を加圧するための加圧室が区画されるとともに、前記鍔部の後方に、高圧源から作動液が導入される環状の入力室が、前記鍔部の前方に、作動液で満たされて前記鍔部を挟んで前記入力室と対向する環状の対向室が、それぞれ区画されるようにして、前記ハウジング内に配設された加圧ピストンと、
作動液で満たされるピストン間室が前記加圧ピストンとによって自身の前方に区画されるようにして、前記加圧ピストンの有底穴に嵌入され、後端部において操作部材に連結され、かつ、その操作部材の操作によって収縮可能とされた入力ピストンと、
その入力ピストンの収縮に対して弾性反力を発生させる反力発生機構と、
前記加圧ピストンの進退に伴う前記対向室の容積変化と前記ピストン間室の容積変化とを相互に吸収可能とすべく、それら対向室とピストン間室とを相互に連通させる室間連通路と、
を備え、
通常、前記室間連通路によって連通させられた前記対向室および前記ピストン間室が密閉され、前記操作部材に加えられた操作力が前記入力ピストンから前記加圧ピストンへ伝達されない状態において、前記反力発生機構によって発生させられる弾性反力を前記操作部材の操作に対する操作反力として機能させつつ、前記高圧源から導入された作動液の圧力に依存して前記加圧ピストンが前記加圧室内の作動液を加圧するように構成され、
前記高圧源から導入される作動液の圧力が不充分となる状況下において、前記入力ピストンから前記加圧ピストンへの前記操作力の伝達を許容して、その操作力に依存した前記加圧ピストンによる前記加圧室内の作動液の加圧を実現させる操作力依存加圧実現機構を、さらに備え、
その操作力依存加圧実現機構が、
前記入力ピストンの前記加圧ピストンへの当接を許容すべく、前記対向室および前記ピストン間室を低圧源に連通させる対低圧源連通器と、
前記入力ピストンの収縮を禁止する入力ピストン収縮禁止機構と
を含んで構成されたマスタシリンダ装置。
【0010】
上記のように構成されたマスタシリンダ装置では、室間連通路によって連通されたピストン間室内および対向室内の作動液の圧力は同じ大きさとなる。したがって、例えば、対向室内の作動液の圧力が作用する加圧ピストンの鍔部の受圧面積と、ピストン間室内の作動液の圧力が作用する入力ピストンの受圧面積とが略等しいような場合には、ピストン間室内および対向室内の作動液の圧力によって加圧ピストンを前進させるように作用する力と後退させるように作用する力とは殆ど等しくなる。したがって、加圧ピストンはピストン間室内および対向室内の作動液の圧力が変化しても殆ど移動しない。そのため、運転者が操作部材に加える操作力が、入力ピストンを介してピストン間室内および対向室内の作動液へと伝達されても、加圧ピストンは殆ど移動しない。つまり、このようなマスタシリンダ装置は、通常、操作力に依存して加圧室内の作動液を加圧することはできなくされている。換言すれば、操作部材に加えられた操作力が加圧ピストンへと伝達されないようにされているのである。
【0011】
本マスタシリンダ装置では、通常、入力室に高圧源から作動液が導入されると、その作動液の圧力に依存して加圧ピストンが前進し、その前進によって加圧室内の作動液が加圧されることとなる。また、その加圧ピストンの前進によって、対向室内の作動液はピストン間室内へと流入する。そのため、前述のように、加圧ピストンの鍔部の受圧面積と入力ピストンの受圧面積とが略等しいような場合、対向室の容積変化における加圧ピストンのハウジングに対する移動距離と、ピストン間室の容積変化における加圧ピストンの入力ピストンに対する移動距離とは、互いに略等しくなる。したがって、通常、ブレーキ操作によって高圧源から導入された作動液の圧力に依存して加圧ピストンが前進しても、入力ピストンのピストン間室を区画する前端は殆ど移動しない。
【0012】
このように、本マスタシリンダ装置では、通常、マスタシリンダ装置が高圧源から導入される作動液の圧力である高圧源圧に依存して加圧室内の作動液を加圧するように作動する状態である高圧源圧依存加圧状態が実現される。また、ブレーキ操作中、入力ピストンは、ピストン間室を区画する前端が移動できない状態で、操作力によって後端部において前方への力が加えられている。したがって、入力ピストンは操作力によって収縮させられ、その収縮に対して反力発生機構は弾性反力を発生する。本マスタシリンダ装置では、このような反力発生機構を含んでストロークシミュレータが構成されており、運転者は、弾性反力を自身のブレーキ操作に対する操作反力として実感することができる。その際、操作部材の操作量は入力ピストンの収縮量に応じた大きさとなる。
【0013】
また、本マスタシリンダ装置は上記対低圧源連通器を備えており、対向室およびピストン間室を低圧源に連通させて、ピストン間室および対向室を密閉していない状態にすることができる。その状態で、操作部材に操作力が加えられると、入力ピストンは、ピストン間室内および対向室内の作動液を低圧源に流出させながら前進することができ、加圧ピストンに当接する。その際、入力ピストン収縮禁止機構により入力ピストンの収縮が禁止されると、入力ピストンが収縮できない状態で操作力が加圧ピストンに伝達され、加圧ピストンが前進させられる。つまり、操作力に依存して加圧室内の作動液を加圧することができる。その場合、操作部材の操作量は、入力ピストンの収縮が禁止されているため、加圧ピストンの移動量に応じた大きさとなり、操作量を比較的小さくできる。したがって、操作量が必要以上に大きくならず、ブレーキ操作における操作感を良好なものとさせることができる。
【0014】
本マスタシリンダ装置は、高圧源圧が不充分な状況となった場合に、入力ピストンから加圧ピストンへの操作力の伝達が許容される。高圧源圧が不充分な状況には、例えば、電気的失陥等のため、高圧源が高圧とされた作動液を供給することができない状況が考えられる。そのことに鑑みれば、電気的失陥時に、対低圧源連通器は対向室およびピストン間室を低圧源に連通させるように作動することが望ましく、かつ、入力ピストン収縮禁止機構は入力ピストンの収縮を禁止するように作動することが望ましい。対低圧源連通器および入力ピストン収縮禁止機構がそのように作動すれば、電気的失陥時であっても、運転者は良好な操作感の下でブレーキ操作をすることができる。このように、本マスタシリンダ装置では、高圧源圧が不充分な状況となった場合に、マスタシリンダ装置が操作力に専ら依存して加圧室内の作動液を加圧するように作動できる状態である操作力依存加圧状態が実現される。
【0015】
本マスタシリンダ装置の反力発生機構は、所謂ストロークシミュレータの一部を構成するものであり、入力ピストンの収縮に対して弾性反力を発生させるものであれば、それの構成は特に限定されるものではない。例えば、弾性反力を入力ピストンに直接的に付与するような反力発生機構であってもよいし、入力ピストンの内部に満たされた作動液を加圧することで、弾性反力を入力ピストンに間接的に付与するような反力発生機構であってもよい。
【0016】
(2)前記入力ピストンが、作動液で満たされる内部室が自身の内部に形成されるようにして互いに嵌め合わせれた2つの部材を含んで構成され、それら2つの部材の相対移動が許容されて収縮可能とされており、
入力ピストン収縮禁止機構が、前記内部室を密閉することで前記入力ピストンの収縮を禁止するように構成された(1)項に記載のマスタシリンダ装置。
【0017】
上記構成により、本入力ピストンは、2つの部材が互いに相対移動することによって収縮する。その収縮によって、内部室の容積が減少し、内部室内の作動液が内部室から流出するため、入力ピストン収縮禁止機構は、内部室を密閉することで作動液の内部室からの流出を禁止し、入力ピストンの収縮を禁止することができる。
【0018】
(3)前記入力ピストンが、前記内部室が低圧源に連通することで収縮可能とされており、
前記入力ピストン収縮禁止機構が、
前記内部室を密閉すべく、前記内部室の低圧源への連通を遮断する内部室連通遮断器を含んで構成された(2)項に記載のマスタシリンダ装置。
【0019】
内部室内の作動液の圧力は、入力ピストンの収縮を妨げる方向、つまり、入力ピストンの上記2つの部材を離間させる方向に作用する。本マスタシリンダ装置では、通常、内部室内の作動液の圧力が低圧源の圧力となるため、その入力ピストンの収縮を妨げる力を比較的小さくすることができる。そのため、入力ピストンは比較的円滑に収縮することができる。また、上記構成により、内部室連通遮断器によって内部室の低圧源への連通を遮断すれば、内部室内の作動液は低圧源に流出、または、低圧源から流入することができなくなり、内部室の容積変化、つまり、入力ピストンの収縮を禁止することができる。
【0020】
(4)前記内部室連通遮断器が、
前記内部室と低圧源とを繋ぐ連通路に配設され、前記対向室および前記ピストン間室内の作動液の圧力がパイロット圧として導入されて、そのパイロット圧が設定圧以上である場合に開弁し、そのパイロット圧がその設定圧を下回った場合に閉弁する機械式開閉弁を含んで構成された(3)項に記載のマスタシリンダ装置。
【0021】
本マスタシリンダ装置では、入力ピストンの収縮が、対向室内およびピストン間室内の作動液の圧力に依拠して禁止あるいは許容されることになる。対向室およびピストン間室が密閉されている状態では、操作力が入力ピストンを介して対向室内およびピストン間室内の作動液に伝達されると、対向室内およびピストン間室内の作動液の圧力が上昇する。本マスタシリンダ装置の内部室連通遮断器である機械式開閉弁は、その作動液の圧力の上昇を自身の開閉に利用しており、圧力が設定圧以上となった場合に開弁し、内部室を低圧源に連通する。その状態において、入力ピストンの収縮の禁止は解除される。一方、対向室およびピストン間室が低圧源に連通させられている状態では、対向室内およびピストン間室内の作動液の圧力が設定圧以上となることはなく、機械式開閉弁は閉弁状態で維持されることとなる。
【0022】
なお、上記設定圧はなるべく低い圧力に設定されていることが望ましい。設定圧が低くされていれば、ブレーキ操作直後、つまり、対向室内およびピストン間室内の作動液の圧力が操作力によってわずかに上昇させられるだけで、内部室は低圧源に連通することができる。換言すれば、本機械式開閉弁は、対向室およびピストン間室が密閉された状態でのブレーキ操作に応答し、内部室を低圧源に連通させる機構とされているのである。このように、本マスタシリンダ装置では、内部室連通遮断器が比較的簡便な機構によって構成されている。
【0023】
(5)前記内部室連通遮断器が、前記内部室と低圧源とを繋ぐ連通路に配設された電磁式開閉弁を含んで構成された(3)項に記載のマスタシリンダ装置。
【0024】
本項の態様は、内部室連通遮断器が電磁式開閉弁とされた態様であり、それの開閉によって入力ピストンの収縮の許容と禁止とを切り換えることが可能とされている。なお、本電磁式開閉弁は、電気的失陥時に入力ピストンの収縮を禁止して操作力依存加圧状態を実現するように、常閉弁、つまり、非励磁状態で閉弁状態となり、励磁状態で開弁状態となる開閉弁であることが望ましい。
【0025】
(6)前記反力発生機構が、
前記内部室内に配設され、前記2つの部材を、前記入力ピストンが伸長する方向に付勢するスプリングを含んで構成された(3)項ないし(5)項のいずれか1つに記載のマスタシリンダ装置。
【0026】
本反力発生機構には、例えば、圧縮コイルスプリングを採用することができる。圧縮コイルスプリングの両端の各々が、入力ピストンの2つの部材の各々に連結されていれば、入力ピストンが収縮するような2つの部材の相対移動に対し、圧縮コイルスプリングは、その相対移動と反対の方向の弾性反力を発生する。その弾性力は、入力ピストンを伸張させる方向の力として2つの部材の各々に作用する。
【0027】
(7)前記反力発生機構が、
それぞれが前記スプリングとして機能し、一方の一端部が前記2つの部材の一方に支持され、かつ、他方の一端部が前記2つの部材の他方に支持された状態で直列的に配設され、互いにばね定数の異なる2つのスプリングと、
それら2つのスプリングの一方の他端部と他方の他端部との間に挟まれて、それら2つのスプリングによって浮動支持されるとともに、それら2つのスプリングの弾性反力を、前記2つの部材に作用させるべくそれら2つのスプリングを連結する浮動座と
を含んで構成された(6)項に記載のマスタシリンダ装置。
【0028】
上記構成による入力ピストンの収縮では、ばね定数の小さい方のスプリングがより大きく変形することとなる。また、そのスプリングの変形が限界に達した場合には、そのスプリングがそれ以上弾性変形できない状態で、ばね定数の大きい方のスプリングだけが変形することとなる。したがって、操作量の比較的小さい範囲では、ばね定数の小さい方のスプリングを主に変形させ、操作量の比較的大きい範囲では、ばね定数の大きい方のスプリングだけを変形させるようにマスタシリンダ装置を構成することができる。したがって、操作部材の操作量に対する操作反力の変化を示す操作反力勾配を、操作量の比較的小さい範囲では小さくし、操作量の比較的大きい範囲では大きくさせることができる。
【0029】
(8)前記反力発生機構が、前記内部室に連通して作動液で満たされるとともに容積の変化が許容された液室と、その液室内の作動液を弾性的に加圧する加圧機構とを含んで構成されており、
前記入力ピストン収縮禁止機構が、
前記内部室を密閉すべく、前記内部室の前記液室への連通を遮断する内部室連通遮断器を含んで構成された(2)項に記載のマスタシリンダ装置。
【0030】
上記構成とされた反力発生機構は、所謂アキュムレータ型のストロークシミュレータを構成しており、加圧機構によって加圧される液室内の作動液の圧力が、内部室内の作動液に伝達されて、入力ピストンの収縮に対する弾性反力、つまり、操作部材の操作に対する操作反力として入力ピストンに作用する。また、上記構成により、内部室連通遮断器によって内部室の液室への連通を遮断すれば、内部室内の作動液は液室に流出、または、液室から流入することができなくなり、内部室の容積変化、つまり、入力ピストンの収縮を禁止することができる。
【0031】
(9)前記対低圧源連通器が、
前記対向室および前記ピストン間室と低圧源とを繋ぐ連通路に配設された電磁式開閉弁を含んで構成された(1)項ないし(8)項のいずれか1つに記載のマスタシリンダ装置。
【0032】
本マスタシリンダ装置は、対低圧源連通器が電磁式開閉弁とされた態様であり、それの開閉によって対向室およびピストン間室の低圧源への連通の許容と禁止とを切り換えることができる。なお、本電磁式開閉弁は、電気的失陥時に入力ピストンの加圧ピストンへの当接を許容して操作力依存加圧状態を実現するように、常開弁、つまり、非励磁状態で開弁状態となり、励磁状態で閉弁状態となる開閉弁であることが望ましい。
【0033】
(10)前記マスタシリンダ装置が、
前記操作部材が操作されていない状態において、前記入力ピストンの前端と前記加圧ピストンの有底穴の底部とが離間するように構成された(1)項ないし(9)項のいずれか1つに記載のマスタシリンダ装置。
【0034】
(11)前記マスタシリンダ装置が、
前記操作部材が操作されていない状態における前記入力ピストンの前端と前記加圧ピストンの有底穴の底部との離間距離が、前記有底穴の内径の5分の1以下とされた(10)項に記載のマスタシリンダ装置。
【0035】
上記態様のマスタシリンダ装置では、前述の操作力依存加圧状態において操作部材が操作されても、入力ピストンが加圧ピストンに当接するまでは操作力によって加圧室内の作動液を加圧することができない。言わば、本マスタシリンダ装置には、操作部材の操作開始において空走距離が設けられており、操作部材が操作されても操作力によってブレーキ装置を作動させることができない状態が設けられている。つまり、この空走距離は、ブレーキ操作における「遊び」とされている。
【0036】
本マスタシリンダ装置が操作力依存加圧状態において作動することに鑑みれば、操作部材が操作されていない状態で、入力ピストンと加圧ピストンとの距離は比較的短くされていることが望ましく、具体的には10分の1以下とされることがより望ましく、極端には、その距離は殆ど0であってもよい。前述のように、操作力依存加圧状態では、入力ピストンが加圧ピストンに当接した状態で加圧室内の作動液が加圧される。したがって、入力ピストンと加圧ピストンとの距離が比較的短くされていれば、ブレーキ操作開始直後に入力ピストンが加圧ピストンに当接し、作動液を加圧してブレーキ装置を作動させることができる。したがって、少しブレーキ操作するだけでブレーキ装置が制動力を発生し始めるため、ブレーキ操作の操作感を良好なものとさせることができる。
【0037】
(12)前記マスタシリンダ装置が、
前記対向室内の作動液の圧力が作用する前記鍔部の受圧面積と前記ピストン間室内の作動液の圧力が作用する前記入力ピストンの受圧面積とが等しくなるように構成された(1)項ないし(11)項のいずれか1つに記載のマスタシリンダ装置。
【0038】
上記構成により、例えば、入力ピストンが、ピストン間室を区画形成する部材と、操作部材が連結される部材とから構成されている場合、前述の高圧源圧依存加圧状態においてブレーキ操作がされても、前述のように、入力ピストンのピストン間室を区画形成する前端はハウジングに対して移動しない。そのため、ブレーキ操作における操作部材の位置は、操作力と反力発生機構の弾性反力とに依存する。つまり、ブレーキ操作において、操作部材は、操作力と弾性反力とが釣り合った位置に停止することになる。したがって、操作部材が加圧ピストンの位置に応じて移動してしまうことがないため、運転者はその移動による違和感を感じることなくブレーキ操作をすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】請求可能発明の第1実施例のマスタシリンダ装置を搭載したハイブリッド車両の駆動システムおよび制動システムを表す模式図である。
【図2】請求可能発明の第1実施例のマスタシリンダ装置を含んで構成される液圧ブレーキシステムを示す図である。
【図3】マスタシリンダ装置に連結される操作部材の操作量と、マスタシリンダ装置から操作部材に付与される操作反力との関係を示すグラフである。
【図4】第1実施例の変形例のマスタシリンダ装置を含んで構成される液圧ブレーキシステムを示す図である。
【図5】第1実施例の変形例のマスタシリンダ装置に採用される機械式開閉弁を示す図である。
【図6】請求可能発明の第2実施例のマスタシリンダ装置を含んで構成される液圧ブレーキシステムを示す図である。
【図7】第2実施例のマスタシリンダ装置に採用される反力発生機構を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0040】
以下、請求可能発明の実施例を、図を参照しつつ詳しく説明する。なお、請求可能発明は、下記の実施例および変形例に限定されるものではなく、当業者の知識に基づいて種々の変更、改良を施した種々の態様で実施することができる。
【実施例1】
【0041】
≪車両の構成≫
図1に、第1実施例のマスタシリンダ装置を搭載したハイブリッド車両の駆動システムおよび制動システムを模式的に示す。車両には、動力源として、エンジン10と電気モータ12とが搭載されており、また、エンジン10の出力により発電を行う発電機14も搭載されている。これらエンジン10、電気モータ12、発電機14は、動力分割機構16によって互いに接続されている。この動力分割機構16を制御することで、エンジン10の出力を発電機14を作動させるための出力と、4つの車輪18のうちの駆動輪となるものを回転させるための出力とに振り分けたり、電気モータ12の出力を駆動輪に伝達させることができる。つまり、動力分割機構16は、減速機20および駆動軸22を介して駆動輪に伝達される駆動力に関する変速機として機能するのである。なお、「車輪18」等のいくつかの構成要素は、総称として使用するが、4つの車輪のいずれかに対応するものであることを示す場合には、左前輪,右前輪,左後輪,右後輪にそれぞれ対応して、添え字「FL」,「FR」,「RL」,「RR」を付すこととする。この表記に従えば、本車両における駆動輪は、車輪18RL,および車輪18RRである。
【0042】
電気モータ12は、交流同期電動機であり、交流電力によって駆動される。車両にはインバータ24が備えられており、インバータ24は、電力を、直流から交流、あるいは、交流から直流に変換することができる。したがって、インバータ24を制御することで、発電機14によって出力される交流の電力を、バッテリ26に蓄えるための直流の電力に変換させたり、バッテリ26に蓄えられている直流の電力を、電気モータ12を駆動するための交流の電力に変換させることができる。発電機14は、電気モータ12と同様に、交流同期電動機としての構成を有している。つまり、本実施例の車両では、交流同期電動機が2つ搭載されていると考えることができ、一方が、電気モータ12として、主に駆動力を出力するために使用され、他方が、発電機14として、主にエンジン10の出力により発電するために使用されている。
【0043】
また、電気モータ12は、車両の走行に伴う車輪18RL,18RRの回転を利用して、発電(回生発電)を行うことも可能である。このとき、車輪18RL,18RRに連結される電気モータ12では、電力が発生させられるとともに、電気モータ12の回転を制止するための抵抗力が発生する。したがって、その抵抗力を、車両を制動する制動力として利用することができる。つまり、電気モータ12は、電力を発生させつつ車両を制動するための回生ブレーキの手段として利用される。したがって、本車両は、回生ブレーキをエンジンブレーキや後述する液圧ブレーキとともに制御することで、制動されるのである。一方、発電機14は主にエンジン10の出力により発電をするが、インバータ24を介してバッテリ26から電力が供給されることで、電気モータとしても機能する。
【0044】
本車両において、上記のブレーキの制御や、その他の車両に関する各種の制御は、複数の電子制御ユニット(ECU)によって行われる。複数のECUのうち、メインECU40は、それらの制御を統括する機能を有している。例えば、ハイブリッド車両は、エンジン10の駆動および電気モータ12の駆動によって走行することが可能とされているが、それらエンジン10の駆動と電気モータ12の駆動は、メインECU40によって総合的に制御される。具体的に言えば、メインECU40によって、エンジン10の出力と電気モータ12による出力の配分が決定され、その配分に基づき、エンジン10を制御するエンジンECU42、電気モータ12及び発電機14を制御するモータECU44に各制御についての指令が出力される。
【0045】
メインECU40には、バッテリ26を制御するバッテリECU46も接続されている。バッテリECU46は、バッテリ26の充電状態を監視しており、充電量が不足している場合には、メインECU40に対して充電要求指令を出力する。充電要求指令を受けたメインECU40は、バッテリ26を充電させるために、発電機14による発電の指令をモータECU44に出力する。
【0046】
また、メインECU40には、ブレーキを制御するブレーキECU48も接続されている。当該車両には、運転者によって操作されるブレーキ操作部材(以下、単に「操作部材」という場合がある)が設けられており、ブレーキECU48は、その操作部材の操作量であるブレーキ操作量(以下、単に「操作量」という場合がある)と、その操作部材に加えられる運転者の力であるブレーキ操作力(以下、単に「操作力」という場合がある)との少なくとも一方に基づいて目標制動力を決定し、メインECU40に対してこの目標制動力を出力する。メインECU40は、モータECU44にこの目標制動力を出力し、モータECU44は、その目標制動力に基づいて回生ブレーキを制御するとともに、それの実行値、つまり、発生させている回生制動力をメインECU40に出力する。メインECU40では、目標制動力から回生制動力が減算され、その減算された値によって、車両に搭載される液圧ブレーキシステム100において発生すべき目標液圧制動力が決定される。メインECU40は、目標液圧制動力をブレーキECU48に出力し、ブレーキECU48は、液圧ブレーキシステム100が発生させる液圧制動力が目標液圧制動力となるように制御するのである。
【0047】
≪液圧ブレーキシステムの構成≫
上述のように構成された本ハイブリッド車両に搭載される液圧ブレーキシステム100について、図2を参照しつつ詳細に説明する。なお、以下の説明において、「前方」は図2における左方、「後方」は図2における右方をそれぞれ表している。また、「前側」、「前端」、「前進」や、「後側」、「後端」、「後進」等も同様に表すものとされている。以下の説明において[ ]の文字は、センサ等を図面において表わす場合に用いる符号である。
【0048】
図2に、本車両が備える液圧ブレーキシステム100を、模式的に示す。液圧ブレーキシステム100は、作動液を加圧するためのマスタシリンダ装置110を有している。車両の運転者は、マスタシリンダ装置110に連結された操作装置112を操作することでマスタシリンダ装置110を作動させることができ、マスタシリンダ装置110は、自身の作動によって作動液を加圧する。その加圧された作動液は、マスタシリンダ装置110に接続されるアンチロック装置114を介して、各車輪に設けられたブレーキ装置116に供給される。ブレーキ装置116は、加圧された作動液の圧力(以下、「出力圧」と呼ぶ)、所謂マスタ圧に依拠して、車輪18の回転を制止するための力、すなわち、液圧制動力を発生させる。
【0049】
液圧ブレーキシステム100は、高圧源として作動液の圧力を高圧にするための高圧源装置118を有している。その高圧源装置118は、増減圧装置120を介して、マスタシリンダ装置110に接続されている。増減圧装置120は、高圧源装置118によって高圧とされた作動液の圧力を制御する装置であり、マスタシリンダ装置110へ入力される作動液の圧力(以下、「入力圧」と呼ぶ)を増加および減少する。マスタシリンダ装置110は、その入力圧の増減によって作動可能に構成されている。また、液圧ブレーキシステム100は、低圧源として作動液を大気圧下で貯留するリザーバ122を有している。リザーバ122は、マスタシリンダ装置110、増減圧装置120、高圧源装置118の各々に接続されている。
【0050】
操作装置112は、操作部材としてのブレーキペダル150と、ブレーキペダル150に連結されるオペレーションロッド152とを含んで構成されている。ブレーキペダル150は、車体に回動可能に保持されている。オペレーションロッド152は、後端部においてブレーキペダル150に連結され、前端部においてマスタシリンダ装置110に連結されている。また、操作装置112は、ブレーキペダル150の操作量を検出するための操作量センサ[SP]156と、操作力を検出するための操作力センサ[FP]158とを有している。操作量センサ156および操作力センサ158は、ブレーキECU48に接続されており、ブレーキECU48は、それらのセンサの検出値を基にして、目標制動力を決定する。
【0051】
ブレーキ装置116は、液通路200,202を介してマスタシリンダ装置110に接続されている。それら液通路200,202は、マスタシリンダ装置110によって出力圧に加圧された作動液をブレーキ装置116に供給するための液通路である。液通路202には出力圧センサ[Po]204(所謂マスタ圧センサ)が設けられている。詳しい説明は省略するが、各ブレーキ装置116は、ブレーキキャリパと、そのブレーキキャリパに取り付けられたホイールシリンダ(ブレーキシリンダ)およびブレーキパッドと、各車輪とともに回転するブレーキディスクとを含んで構成されている。液通路200,202は、アンチロック装置114を介して、各ブレーキ装置116のブレーキシリンダに接続されている。ちなみに、液通路200が、前輪側のブレーキ装置116FL,116FRに繋がるようにされており、また、液通路202が、後輪側のブレーキ装置116RL,116RRに繋がるようにされている。ブレーキシリンダは、マスタシリンダ装置110によって加圧された作動液の出力圧に依拠して、ブレーキパッドをブレーキディスクに押し付ける。その押し付けによって発生する摩擦によって、各ブレーキ装置116では、車輪の回転を制止する液圧制動力が発生し、車両は制動されるのである。
【0052】
アンチロック装置114は、一般的な装置であり、簡単に説明すれば、各車輪に対応する4対の開閉弁を有している。各対の開閉弁のうちの1つは増圧用開閉弁であり、車輪がロックしていない状態では、開弁状態とされており、また、もう1つは減圧用開閉弁であり、車輪がロックしていない状態では、閉弁状態とされている。車輪がロックした場合に、増圧用開閉弁が、マスタシリンダ装置110からブレーキ装置116への作動液の流れを遮断するとともに、減圧用開閉弁が、ブレーキ装置116からリザーバへの作動液の流れを許容して、車輪のロックを解除するように構成されている。
【0053】
高圧源装置118は、リザーバ122から作動液を吸込んでその作動液の液圧を増加させる液圧ポンプ220と、増圧された作動液が溜められるアキュムレータ222とを含んで構成されている。ちなみに、液圧ポンプ220は電動のモータ224によって駆動される。また、高圧源装置118は、高圧とされた作動液の圧力を検出するための高圧源圧センサ[Ph]226を有している。ブレーキECU48は、高圧源圧センサ226の検出値を監視しており、その検出値に基づいて、液圧ポンプ220は制御駆動される。この制御駆動によって、高圧源装置118は、常時、設定された圧力以上の作動液を増減圧装置120に供給する。
【0054】
増減圧装置120は、入力圧を増加させる電磁式の増圧リニア弁240と、入力圧を低減させる電磁式の減圧リニア弁242とを含んで構成されている。増圧リニア弁240は、高圧源装置118からマスタシリンダ装置110に至る液通路の途中に設けられている。一方、減圧リニア弁242は、リザーバ122からマスタシリンダ装置110に至る液通路の途中に設けられている。なお、増圧リニア弁240および減圧リニア弁242の各々からマスタシリンダ装置110に至る液通路は、1つの液通路とされて、マスタシリンダ装置110に接続されている。また、その液通路には、入力圧を検出するための入力圧センサ[Pc]246が設けられている。ブレーキECU48は、入力圧センサ246の検出値に基づいて、増減圧装置120を制御する。
【0055】
上記増圧リニア弁240は、電流が供給されていない状態では、つまり、非励磁状態では、閉弁状態とされており、それに電流を供給することによって、つまり、励磁状態とすることで、その供給された電流に応じた開弁圧において開弁する。ちなみに、供給される電流が大きい程、開弁圧が高くなるように構成されている。一方、減圧リニア弁242は、電流が供給されていない状態では、開弁状態となり、通常時、つまり、当該システムへの電力の供給が可能である時には、設定された範囲における最大電流が供給されて閉弁状態とされ、供給される電流が減少させられることで、その電流に応じた開弁圧において開弁する。ちなみに、電流が小さくなるほど開弁圧が低くなるように構成されている。
【0056】
≪マスタシリンダ装置の構成≫
マスタシリンダ装置110は、マスタシリンダ装置110の筐体であるハウジング302と、ブレーキ装置116に供給する作動液を加圧する第1加圧ピストン304および第2加圧ピストン306と、運転者の操作が操作装置112を通じて入力される入力ピストン308とを含んで構成されている。なお、図2は、マスタシリンダ装置110が動作していない状態、つまり、ブレーキ操作がされていない状態を示している。
【0057】
ハウジング302は、主に、2つの部材から、具体的には、第1ハウジング部材310、第2ハウジング部材312から構成されている。第1ハウジング部材310は、前端部が閉塞された概して円筒形状とされており、後端部の外周にはフランジ320が形成され、そのフランジ320において車体に固定されている。第1ハウジング部材310は、内径が互いに異なる2つの部分、具体的には、前方側に位置して内径の小さい前方小径部322、後方側に位置して内径の大きい後方大径部324に区分けされている。
【0058】
第2ハウジング部材312は、前方側に位置して内径の大きい前方大径部330、後方側に位置して内径の小さい後方小径部332とを有する円筒形状をなしている。それら前方大径部330と後方小径部332との間には、内径が異なることによって段差面が形成されている。第2ハウジング部材312は、前方大径部330の前端部が第1ハウジング部材310の前方小径部322と後方大径部324との段差面に接する状態で、その後方大径部324に嵌め込まれている。それら第1ハウジング部材310,第2ハウジング部材312は、第1ハウジング部材310の後端部の内周面に嵌め込まれたロック環334によって、互いに締結されている。
【0059】
第2加圧ピストン306は、後端部が塞がれた有底円筒形状をなしており、第1ハウジング部材310の前方小径部322に摺動可能に嵌め合わされている。第1加圧ピストン304は、円筒形状をなす本体部350と、その本体部350の後端部に設けられた鍔部352とを有する形状とされている。第1加圧ピストン304は、第2加圧ピストン306の後方に配設され、本体部350の前方の部分が第1ハウジング部材310の前方小径部322の内周面の後部側に、鍔部352が第2ハウジング部材312の前方大径部330の内周面に、それぞれ、摺動可能に嵌め合わされている。また、第1加圧ピストン304の本体部350の内部は、前後方向における中間位置に設けられた仕切壁部354によって、2つの部分に区画されている。つまり、第1加圧ピストン304は、前端,後端にそれぞれ開口する2つの有底穴を有する形状とされている。
【0060】
第1加圧ピストン304の本体部350の前方で第2加圧ピストン306との間には、2つの後輪に設けられたブレーキ装置116RL,RRに供給される作動液を加圧するための第1加圧室R1が区画形成されており、また、第2加圧ピストン306の前方には、2つの前輪に設けられたブレーキ装置116FL,FRに供給される作動液を加圧するための第2加圧室R2が区画形成されている。なお、第1加圧ピストン304と第2加圧ピストン306とは、第1加圧ピストン304の仕切壁部354に螺着立設された有頭ピン360と、第2加圧ピストン306の後端面に固設されたピン保持筒362とによって、離間距離が設定範囲内に制限されている。また、第1加圧室R1内,第2加圧室R2内には、それぞれ、圧縮コイルスプリング(以下、「リターンスプリング」という場合がある)364,366が配設されており、それらスプリングによって、第1加圧ピストン304,第2加圧ピストン306はそれらが互いに離間する方向に付勢されつつ、後方に向かうように付勢されている。
【0061】
一方、第1加圧ピストン304の後方、詳しくは、第1加圧ピストン304の鍔部352の後方には、第2ハウジング部材312の段差面との間に、高圧源装置118からの作動液が供給される液室、つまり、高圧源装置118からの圧力が入力される液室(以下、「入力室」という場合がある)R3が区画形成されている。ちなみに、図2では、ほとんど潰れた状態で示されている。また、ハウジング302の内部には、第2ハウジング部材312の内周面と第1加圧ピストン304の本体部350の外周面との間に形成された空間が存在する。その空間が、第1加圧ピストン304の鍔部352の前端面と、第1ハウジング部材310の前方小径部322と後方大径部324との段差面とによって区画されることで、環状の液室が形成されている。この液室は、第1加圧ピストン304の鍔部352を挟んで入力室R3と対向する対向室R4とされている。
【0062】
入力ピストン308は、後方に位置して前端部が開口されて後端部が塞がれている円筒形状の後方側部材370と、後方側部材370の前方に位置して前端部が塞がれて後端部が開口する前方側部材372とを含んで構成されている。この前方側部材372は、後方側部材370の内周部に摺接するようにして後方側部材370に嵌め合わされており、前方側部材372と後方側部材370とは相対移動可能となっている。つまり、入力ピストン608は伸縮可能とされている。なお、この相対移動により、前方側部材372の前端部は、後方側部材370の前端に対して進退可能とされている。なお、このように構成された入力ピストン308の内部には、後方側部材370と前方側部材372とによって液室(以下、「内部室」と言う場合がある)R5が区画形成されている。
【0063】
入力ピストン308は、ハウジング302の後端側から、第2ハウジング部材312の後方小径部332に挿し込まれるとともに、第1加圧ピストン304の後方に開口する有底穴に嵌入されている。この状態で、入力ピストン308の前方には、第1加圧ピストン304との間に液室(以下「ピストン間室」という場合がある)R6が区画形成されている。また、入力ピストン308と第1加圧ピストン304との間には、ある程度の流路面積を有する液通路374が形成されており、入力ピストン308と第2ハウジング部材312との間にも、ある程度の流路面積を有する液通路376が形成されている。
【0064】
また、内部室R5には、前方側部材372を支持する第1反力スプリング380と、第1反力スプリング380の後方に直列に配設されて、後方側部材370を支持する第2反力スプリング382と、それらの反力スプリングに挟まれて浮動支持される鍔付ロッド形状の浮動座384とが配置されている。第1反力スプリング380,第2反力スプリング382は、ともに圧縮コイルスプリングであって、前方側部材372を、入力ピストン308の後方側部材370から突出する方向、つまり、入力ピストン608が伸張する方向に付勢しており、前方側部材372を弾性的に支持している。
【0065】
ちなみに、前方側部材372は、それの後端の外周部に設けられた被係止部が、本体部370の前端の内周部に設けられた係止部に係止されることで、後方側部材370からある程度以上前方に突出することが制限されている。また、浮動座384の前端部には緩衝ゴム386が嵌め込まれており、その緩衝ゴム386が前方側部材372の後端面に当接することで、前方側部材372と浮動座384との接近はある範囲に制限されている。また、後方側部材370の後端部にも緩衝ゴム388が嵌め込まれており、その緩衝ゴム388が浮動座384の後端面に当接することで、後方側部材370と浮動座384との接近もある範囲に制限されている。つまり、入力ピストン608の伸縮がある程度に制限されているのである。
【0066】
入力ピストン308の後方側部材370には、ブレーキペダル150の操作力を入力ピストン308に伝達すべく、また、ブレーキペダル150の操作量に応じて入力ピストン308を進退させるべく、オペレーションロッド152の前端部が連結されている。ちなみに、入力ピストン308の後端部は、第2ハウジング部材312の後方小径部332の後端部によって係止されることで、後退が制限されている。また、オペレーションロッド152には、円板状のスプリングシート390が付設されており、このスプリングシート390と第2ハウジング部材312との間には圧縮コイルスプリング(以下、「リターンスプリング」という場合がある)392が配設されており、このリターンスプリング392によって、オペレーションロッド152は後方に向かって付勢されている。なお、スプリングシート390とハウジング302との間にはブーツ394が渡されており、マスタシリンダ装置110の後部の防塵が図られている。
【0067】
第1加圧室R1は、開口が出力ポートとなる連通孔400を介して、アンチロック装置114に繋がる液通路202と連通しており、第1加圧ピストン304に設けられた連通孔402および開口がドレインポートとなる連通孔404を介して、リザーバ122に連通可能とされている。一方、第2加圧室R2は、開口が出力ポートとなる連通孔406を介して、アンチロック装置114に繋がる液通路200と連通しており、第2加圧ピストン306に設けられた連通孔408および開口がドレインポートとなる連通孔410を介して、リザーバ122に連通可能とされている。第1加圧ピストン304の本体部350は、第1ハウジング部材310の前方小径部322の内径よりある程度小さい外径とされており、それらの間には、ある程度の流路面積を有する液通路412が形成されている。その液通路412は、開口がドレインポートとなる連通孔414を介してリザーバ122に連通するとともに、開口が連結ポートとなる連通孔416を介して外部に連通している。また、第2ハウジング部材312の前方大径部330の一部分は、第1ハウジング部材310の内径よりある程度小さい外径とされており、それらハウジング部材310,312間にはある程度の流路面積を有する液通路418が形成されている。入力室R3は、その液通路418,第2ハウジング部材312に設けられた連通孔420および開口が入力ポートとなる連通孔422を介して、増減圧装置120に繋がっている。
【0068】
第1加圧ピストン304には、対向室R4とピストン間室R6とを連通させるための室間連通路としての連通孔424が設けられている。本マスタシリンダ装置110では、その連通孔424と液通路374とによって、対向室R4およびピストン間室R6は、1つの液室(以下、「反力室」という場合がある)R7とされている。なお、対向室R4内の作動液の圧力が作用する鍔部352の受圧面積と、ピストン間室R6内の作動液の圧力が作用する入力ピストン308の受圧面積とは等しくされている。また、反力室R7は、第2ハウジング部材312に設けられた連通孔426および開口が連結ポートとなる連通孔428によって、外部に連通している。その連通孔428には、連通孔416,液通路412,連通孔414を介してリザーバ122に連通される外部連通路430が接続されている。また、その外部連通路430の途中には、電磁式の開閉弁432が設けられている。開閉弁432は、非励磁状態で開弁状態となる常開弁であり、開弁状態において、反力室R7はリザーバ122に連通している。
【0069】
入力ピストン308の内部室R5は、入力ピストン308の後方側部材370に設けられた連通孔434、液通路376、第2ハウジング部材312に設けられた連通孔436、第1ハウジング部材310に設けられて開口が連結ポートとなる連通孔438を介して、外部に連通している。その連通孔438には、一端が外部連通路430に接続される外部連通路440の他端が接続されている。また、その外部連通路440の途中には、電磁式の開閉弁442が設けられている。開閉弁442は、非励磁状態で閉弁状態となる常閉弁であり、閉弁状態において、内部室R5のリザーバ122への連通は遮断されている。
【0070】
このように構成されるマスタシリンダ装置110において、ブレーキペダル150が操作されていない状態で、入力ピストン308の前方側部材372の前端と、第1加圧ピストン304の有底穴の底部とは離間している。また、その離間している距離は、その有底穴の直径の1/5以下、詳しくは、1/10以下とされている。
【0071】
≪マスタシリンダ装置の作動≫
以下にマスタシリンダ装置110の作動について説明する。通常時、つまり、液圧ブレーキシステム100が正常に作動することができる場合、開閉弁432および開閉弁442は励磁されて、それぞれ閉弁および開弁させられている。したがって、反力室R7は密閉されており、内部室R5はリザーバ122に連通している。運転者によってブレーキペダル150の踏込操作が開始されると、入力ピストン308を介して操作力がピストン間室R6内、つまり、反力室R7内の作動液に伝達され、反力室R7内の作動液の圧力は上昇する。前述のように、鍔部352の受圧面積と入力ピストン308の受圧面積とは等しくされているため、反力室R7内の作動液の圧力によって第1加圧ピストン304を前進させようとする力と後退させようとする力とは等しくなる。そのため、操作力によって反力室R7内の作動液の圧力が上昇しても、そのことだけによって第1加圧ピストン304が移動させられることはない。つまり、マスタシリンダ装置110は、通常時、操作力に依存して加圧室内の作動液を加圧することができなくされている。換言すれば、ブレーキペダル150に加えられた操作力が第1加圧ピストン304へと伝達されないようにされているのである。
【0072】
また、上記ブレーキ操作の途中で液圧制動力を発生させるべく、第1加圧ピストン304,第2加圧ピストン306によって第1加圧室R1,第2加圧室R2内の作動液を加圧する場合には、高圧源装置118によって発生させられた圧力を、入力室R3に入力すればよい。具体的には、回生制動力を超える分の液圧制動力が得られるように、増減圧装置120によって制御された圧力を入力室R3に入力すればよい。第1加圧ピストン304は、入力室R3の作動液の圧力に依存して前進し、第1加圧室R1内の作動液が加圧される。その第1加圧室R1内の作動液の圧力に依拠して、第2加圧ピストン306が前進し、第2加圧室R2内の作動液も加圧される。また、第1加圧ピストン304の前進によって、対向室R4内の作動液はピストン間室R6内へと流入する。前述のように、鍔部352の受圧面積と入力ピストン308の受圧面積とは等しくされているから、対向室R4の容積変化における第1加圧ピストン304のハウジング302に対する移動距離と、ピストン間室R6の容積変化における第1加圧ピストン304の入力ピストン308に対する移動距離とは、互いに等しくなる。したがって、通常時、第1加圧ピストン304の前進によって入力ピストン308が移動することはない。このように、マスタシリンダ装置110では、通常時、マスタシリンダ装置110が高圧源圧に依存して加圧室R1,R2内の作動液を加圧するように作動する状態、すなわち、高圧源圧依存加圧状態が実現される。
【0073】
また、高圧源圧依存加圧状態におけるブレーキ操作中、入力ピストン308は、ピストン間室R6を区画する前方側部材372が移動できない状態で、後方側部材370には操作力によって前方への力が加えられている。したがって、入力ピストン308は、操作力によって前方側部材372と後方側部材370とが相対移動することで収縮する。その収縮に対して、第1反力スプリング380および第2反力スプリング382は弾性反力を発生し、その弾性反力は入力ピストン308を伸長させるように前方側部材372と後方側部材370とに作用する。つまり、第1反力スプリング380および第2反力スプリング382と、それらを連結する浮動座384とは、入力ピストン308の収縮に対して弾性反力を発生する反力発生機構として機能する。マスタシリンダ装置110では、このような反力発生機構を含んでストロークシミュレータが構成されており、運転者は、その弾性反力を自身のブレーキ操作に対する操作反力として実感することができる。
【0074】
前述のように、高圧源圧依存加圧状態では、入力ピストン308、詳しくは、入力ピストン308の前方側部材372が移動しないため、ブレーキ操作におけるブレーキペダル150の操作位置は、操作力と反力発生機構の弾性反力とに依存することとなる。つまり、ブレーキ操作において、ブレーキペダル150の操作量は入力ピストン308の収縮量に応じた大きさとなり、ブレーキペダル150は、操作力と操作反力とが釣り合った位置に停止することになる。したがって、ブレーキペダル150が第1加圧ピストン304の位置に応じて移動してしまうことがないため、運転者はその移動による違和感を感じることなくブレーキ操作をすることができる。
【0075】
図3は、入力ピストン308の後方側部材370の前進量、つまり、ブレーキぺダル150の操作量に対する操作反力の変化(以下、「操作反力勾配」という場合がある)を示すグラフである。言い換えれば、本シリンダ装置110の操作反力特性を示すグラフである。この図から解るように、ブレーキペダル150の操作量が増加するとそれにつれて操作反力は増加する。そして、設定量(以下、「反力勾配変化操作量」という場合がある)を超えてブレーキペダル150の操作量が増加すると、操作量の変化に対する操作反力の変化は大きくなる。すなわち、操作反力の増加勾配が大きくなるようにされている。詳しく説明すると、本シリンダ装置110では、第1反力スプリング380のばね定数が第2反力スプリング382のばね定数より相当小さくされている。そのため、ブレーキ操作における第1反力スプリング380の圧縮変形量は第2反力スプリング382の圧縮変形量より相当大きくなる。したがって、操作量が増加すると、前方側部材372が浮動座384の緩衝ゴム386に当接し、第1反力スプリング380は変形できなくなり、さらに操作量が増加すると、第1反力スプリング380が弾性変形できない状態で、第2反力スプリング382が弾性変形する。つまり、本シリンダ装置110では、このように第1反力スプリング380が変形できなくなる際の操作量が反力勾配変化操作量とされている。そのため、マスタシリンダ装置110では、操作反力勾配が、操作量の比較的小さい範囲では小さく、操作量の比較的大きい範囲では大きくなっている。このような操作反力特性により、ブレーキペダル150の操作感は良好なものとされている。
【0076】
先に説明したように、本車両では、液圧ブレーキシステム100は、目標制動力のうちの回生制動力を超える分だけ液圧制動力を発生させればよい。極端に言えば、目標制動力を回生制動力で賄える限り、液圧ブレーキシステム100による液圧制動力を必要としない。本車両において回生ブレーキで得られる最大の回生制動力を利用可能最大回生制動力と定義すれば、目標制動力がその利用可能最大回生制動力を超えた時点から液圧制動力を発生させると仮定した場合において、その液圧制動力の発生が開始される時点のブレーキペダルの操作量は、概して、図3における最大回生時液圧制動開始操作量となる。液圧ブレーキシステム100では、この最大回生時液圧制動開始操作量は、前述の反力勾配変化操作量よりもやや大きく設定されている。ちなみに、バッテリ26の充電量等の関係で、目標制動力が利用可能最大回生制動力を超えない場合であっても、液圧制動力が必要となる場合があるため、その場合には、最大回生時液圧制動開始操作量に至らぬ段階で、入力室R3に高圧源装置118からの圧力を入力すればよい。
【0077】
運転者がブレーキ操作を終了させると、つまり、操作力のブレーキペダル150への付与をやめると、第1加圧ピストン304,第2加圧ピストン306は、リターンスプリング364,366によって、それぞれ、初期位置(図2に示す位置であり、第1加圧ピストン304の後端が第2ハウジング部材312の段差面に当接する状態となる位置)に戻される。また、入力ピストン308は、オペレーションロッド152とともに、リターンスプリング392によって、初期位置(図2に示す位置であり、後方側部材370の後端が、第2ハウジング部材312の後端部によって係止される位置)に戻される。
【0078】
次に、電気的失陥のため、液圧ブレーキシステム100に電力が供給されていない状況下における作動について説明する。ちなみに、電気的失陥時、高圧源装置118は作動液を高圧とすることはできない。このような状況下で、開閉弁432は、励磁されていないため、開弁させられている。したがって、反力室R7はリザーバ122に連通されているため、入力ピストン308は、反力室R7内の作動液をリザーバ122へと流出させながら前進することができ、第1加圧ピストン304の仕切壁部354に当接する。つまり、開閉弁432は、入力ピストン308の第1加圧ピストン304への当接を許容し、対向室R4およびピストン間室R6をリザーバ122に連通させる対低圧源連通器として機能する。また、この当接によって、操作力は入力ピストン308を介して第1加圧ピストン304に伝達されるため、開閉弁432は、操作力に依存して加圧室R1,R2内の作動液の加圧を実現する操作力依存加圧実現機構とされている。
【0079】
一方、開閉弁442は、通電させられていないため、閉弁させられている。したがって、内部室連通遮断器としての開閉弁442は内部室R5のリザーバ122への連通を遮断しており、内部室R5は密閉されている。そのため、入力ピストン308の後方側部材370と前方側部材372とは相対移動することができず、入力ピストン308は収縮が禁止された状態にされている。つまり、開閉弁442は、入力ピストン308の収縮を禁止する入力ピストン収縮禁止機構として機能する。この状態でブレーキ操作がされると、ブレーキペダル150の操作量は、第1加圧ピストン304の移動量に応じた大きさとなり、操作量を比較的小さくすることができる。そのため、操作量が必要以上に大きくならず、ブレーキ操作における操作感を良好なものとさせることができる。このように、本シリンダ装置110では、高圧源装置118が高圧とされた作動液を供給することができない場合に、シリンダ装置110が加圧室R1,R2内の作動液を操作力に専ら依存して加圧するように作動できる状態、すなわち、操作力依存加圧状態が実現される。
【0080】
また、前述のように、ブレーキペダル150が操作されていない状態で、入力ピストン308の前方側部材372の前端と、第1加圧ピストン304の有底穴の底部とは離間している。そのため、マスタシリンダ装置110が操作力依存加圧状態で作動する場合、マスタシリンダ装置110には、ブレーキ操作開始において、空走距離、つまり、ブレーキ操作における「遊び」が設けられており、操作力によってブレーキ装置を作動させることができない状態が設定されている。しかしながら、マスタシリンダ装置110では、その空走距離が第1加圧ピストン304の有底穴の直径の1/5以下、詳しくは、1/10以下と比較的短くされており、ブレーキ操作における比較的早い段階で入力ピストン308が第1加圧ピストン304に当接することができる。したがって、マスタシリンダ装置110では、操作力依存加圧状態において、ブレーキペダル150を少し操作するだけで液圧制動力が発生し始めるため、ブレーキの操作感が良好なものとされている。
【変形例】
【0081】
図4に、第1実施例のマスタシリンダ装置110に代えて、変形例のマスタシリンダ装置500を採用した液圧ブレーキシステム100を示す。マスタシリンダ装置500は、大まかには、第1実施例のマスタシリンダ装置110の外部連通路440に設けられた電磁式の開閉弁442に代えて機械式の開閉弁502を採用していることを除いて、第1実施例のマスタシリンダ装置110と同じ構造とされている。以下の説明においては、この開閉弁502を中心に、第1実施例のマスタシリンダ装置110と異なる構成および作動についてのみ説明する。
【0082】
開閉弁502は、外部連通路440の途中に設けられている。図5は、開閉弁502の断面図である。開閉弁502は、筐体であるハウジング510と、そのハウジング510内部に配置された弁子部材512およびプランジャ514を含んで構成されている。ハウジング510は、両端が閉塞された円筒形状とされている。ハウジング510の内部には、内径の大きい大内径部520と内径の小さい小内径部522とが形成されており、それら内径部の境界には段差面524が形成されている。ハウジング510内には、概して円柱形状とされた仕切部材525が、段差面524に当接する状態で大内径部520に固定的に嵌入されている。なお、仕切部材525の中心部には、連通孔526が設けられている。また、仕切部材525の外周において段差面524に近い部分では、外径が小さくされており、第1ハウジング部材320の大内径部520と仕切部材525との間には、隙間528が形成されている。
【0083】
ハウジング510の大内径部520には、仕切部材525とによって液室R11が区画されている。その液室R11には、球形とされた弁子部材512と圧縮コイルスプリング530とが配置されており、弁子部材512はスプリング530の弾性反力によって連通孔526にそれを塞ぐようにして押し付けられている。なお、弁子部材512の直径は、連通孔526の直径より大きくされている。つまり、仕切部材525は弁座として機能し、弁子部材512が着座することで、連通孔526を塞ぐことができる。この状態で、開閉弁502は閉弁状態となる。ハウジング510の小内径部522には、概して円柱形状とされたプランジャ514が配置されている。プランジャ514は、一端が連通孔526の直径より小さな外径とされた先端部532とされており、他端が小内径部522の内径より若干小さな外径とされた基底部534とされている。したがって、プランジャ514は、基底部534が小内径部522に摺動可能な状態で、ハウジング510内部に嵌め込まれている。また、プランジャ514の前方には、小内径部522,仕切部材525,プランジャ514によって液室R12が区画されており、後方には、小内径部522,プランジャ514によって、後述するパイロット圧とされる作動液が導入されるパイロット圧室R13が区画されている。なお、パイロット圧室R13は図5では殆ど潰れた状態で示されている。また、前述の連通孔526によって、液室R12は液室R11に連通することが可能とされている。
【0084】
ハウジング510の大内径部520には、一端が液室R11に開口し、他端が連結ポートとされた連通孔536が設けられている。また、大内径部520の段差面524の近くには、一端が隙間528に開口し、他端が連結ポートとされた連通孔538が設けられている。また、仕切部材525には、隙間528と液室R12とを連通する連通孔540が設けられている。さらに、ハウジング510の小内径部522には、一端がパイロット圧室R13に開口し、他端が連結ポートとされた連通孔542が設けられている。
【0085】
上述のように構成された開閉弁502は、連通孔536,538の各々の連結ポートにおいて外部連通路440に接続されている。つまり、連通孔536,液室R11,R12,連通孔540,隙間528,連通孔538は,外部連通路440の一部を構成していると言うこともでき、その外部連通路440によって、マスタシリンダ装置500の連通孔438はリザーバ122に連通することが可能とされている。また、連通孔542の連結ポートには、外部連通路430から分岐する連通路が繋げられており、連通孔542には、反力室R7内の作動液と同じ圧力の作動液が供給される。したがって、プランジャ514は、反力室R7内の作動液の圧力に応じて、自身の先端部532が連通孔526を挿通して弁子部材512を押圧するように作動することができる。その弁子部材512を押圧する力が、圧縮スプリング530の弁子部材512を押す力以上になると、プランジャ514は弁子部材512を連通孔526から離間させることができる。この状態で開閉弁502は開弁状態となる。
【0086】
シリンダ装置500の作動について以下に説明する。通常時、開閉弁432は励磁されて閉弁状態とされているため、反力室R7が密閉されている。この状態でブレーキ操作が行われると、反力室R7内の作動液の圧力は上昇する。そのため、開閉弁502では、弁子部材512が連通孔526から離間して、開閉弁502は開弁状態となり、液室R11とR12とが互いに連通する状態、つまり、内部室R5がリザーバ122に連通する状態となる。したがって、マスタシリンダ装置500は、通常時、高圧源圧依存加圧状態で作動することができる。
【0087】
本マスタシリンダ装置500の開閉弁502では、パイロット圧室R13の作動液の圧力が作用するプランジャ514の基底部534の受圧面積が比較的大きくされている。そのため、反力室R7内の作動液の圧力がわずかに上昇すれば、開閉弁502は開弁することが可能とされている。したがって、マスタシリンダ装置500では、開閉弁502によって、ブレーキ操作直後、つまり、反力室内R7内の作動液の圧力が操作力によってわずかに上昇するだけで、内部室R5はリザーバ122に連通することができる。
【0088】
一方、電気的失陥時では、開閉弁432は開弁状態とさせられている。そのため、反力室R7および外部連通路430の作動液の圧力は大気圧となっており、パイロット圧室R13の作動液の圧力も大気圧となっている。したがって、電気的失陥時においては、弁子部材512が連通孔526から離間することはない。つまり、開閉弁502は閉弁状態で維持され、内部室R5のリザーバ122への連通が遮断されている。したがって、シリンダ装置500は、操作力依存加圧状態で作動することができる。
【0089】
なお、シリンダ装置110が操作力依存加圧状態とされている場合、液室R12内の作動液には、内部室R5の作動液の圧力が作用するが、開閉弁302はその圧力によって開弁しないように構成されている。詳しく言うと、液室R12内の作動液が弁子部材512に作用する部分の面積は相当に小さくされており、その作動液の圧力によって弁子部材512を仕切部材525から押し上げる力が、スプリング530によって弁子部材512を仕切部材525に押し付ける力より大きくなることがないように、開閉弁302は構成されている。したがって、操作力依存加圧状態では、開閉弁302は閉弁状態に維持されるのである。
【0090】
したがって、開閉弁502は、反力室R7内の作動液の圧力をパイロット圧として導入し、そのパイロット圧が圧縮スプリング530の弾性反力に依拠して設定された設定圧以上である場合に開弁し、設定圧を下回ると閉弁するように作動する内部室連通遮断器として機能する。このように、マスタシリンダ装置500では、比較的簡便な機構によって内部室連通遮断器が構成されている。
【実施例2】
【0091】
図6に、第1実施例のマスタシリンダ装置110に代えて、第2実施例のマスタシリンダ装置600を採用した液圧ブレーキシステム100を示す。マスタシリンダ装置600は、大まかには、第1実施例のマスタシリンダ装置110と同じ構造とされている。以下の説明においては、説明の簡略化に配慮し、第1実施例のマスタシリンダ装置110と異なる構成および作動についてのみ説明する。
【0092】
マスタシリンダ装置600の入力ピストン602は、第1実施例のマスタシリンダ装置110の入力ピストン308から、それの内部に設けられていたスプリング等が除かれた形状とされている。また、マスタシリンダ装置600では、外部連通路440に、常閉弁とされている電磁式の開閉弁606と、常開弁とされている電磁式の開閉弁608とが設けられている。つまり、本マスタシリンダ装置600では、それらの開閉弁に挟まれて外部式のストロークシミュレータ610が設けられているのである。
【0093】
図7は、ストロークシミュレータ610の断面図である。ストロークシミュレータ610は、筐体であるハウジング612と、そのハウジング612内部に配置された加圧ピストン614および圧縮コイルスプリング616を含んで構成されている。ハウジング612は、両端が閉塞された円筒形状とされている。加圧ピストン614は、円盤状とされており、ハウジング612の内周面に摺動可能に配設されている。スプリング616は、それの一端がハウジング612の内底面に支持されており、他端が加圧ピストン614の一端面に支持されている。したがって、加圧ピストン614は、スプリング616によってハウジング612に弾性的に支持されている。また、ハウジング612の内部には、加圧ピストン614の他端面とハウジング612とによって液室R21が区画されている。また、ハウジング612には、一端が液室R21に開口し、他端が連結ポートとされた連通孔618が設けられている。その連通孔618の連結ポートには、外部連通路440から分岐する連通路が接続されている。したがって、液室R21は内部室R5と連通可能となっている。
【0094】
液室R21内の作動液は、加圧ピストン614を介してスプリング616によって弾性的に加圧されている。また、液室R21が内部室R5と連通している状態で、入力ピストン602が収縮すると、内部室R5内の作動液は外部連通路440を介して液室R21に流入することができる。その作動液の流入によって液室R21の容積が増大すると、加圧ピストン614がスプリング616を圧縮し、スプリング616から作動液に作用する弾性反力が増大する。このように、ストロークシミュレータ610は、容積の変化が許容された液室R21と、加圧機構として作動液を加圧するスプリング616とを含んで構成され、入力ピストン602の収縮に対して弾性反力を発生させる反力発生機構とされている。
【0095】
このように構成されたマスタシリンダ装置600において、通常時、開閉弁606および開閉弁608は励磁されて、それぞれ開弁および閉弁させられている。したがって、内部室R5は開閉弁606を介してストロークシミュレータ610に連通しており、また、内部室R5およびストロークシミュレータ610のリザーバ122への連通は開閉弁608によって遮断されている。そのため、運転者によってブレーキペダル150が操作され、入力ピストン602が収縮すると、ストロークシミュレータ610では、スプリング616の弾性反力が増大する。したがって、通常時、運転者は自身のブレーキ操作に応じて変化する弾性反力を操作反力として実感することができ、マスタシリンダ装置600は高圧源圧依存加圧状態において作動することができる。なお、ストロークシミュレータ610は1つのスプリングによって構成されているため、操作量に対する操作反力の変化は図3のグラフに示すようにはならず、操作量に対して操作反力は略一定の割合で変化する。つまり、操作反力勾配は略一定の大きさとなる。
【0096】
また、電気的失陥のため、液圧ブレーキシステム100に電力が供給されていない状況下では、開閉弁606および開閉弁608は励磁されておらず、それぞれ閉弁および開弁させられている。したがって、内部室R5は開閉弁606によってストロークシミュレータ610への連通が遮断されており、内部室R5は密閉されている。つまり、開閉弁606は内部室R5の液室R21への連通を遮断する内部室連通遮断器として機能し、また、内部室R5を密閉することで入力ピストン602の収縮を禁止することができる入力ピストン収縮禁止機構として機能する。したがって、電気的失陥時、マスタシリンダ装置600は操作力依存加圧状態において作動することができる。
【0097】
なお、電気的失陥時、ストロークシミュレータ610は開閉弁608の開弁によってリザーバ122に連通されている。また、イグニッションがOFFとされたときにも、開閉弁608は非励磁とされて開弁し、ストロークシミュレータ610はリザーバ122に連通する。マスタシリンダ装置600では、通常時のブレーキ操作で、例えば、内部の作動液の漏れ等によって、液室R21内の作動液に残圧が生じてしまう可能性がある。そのような残圧は、ストロークシミュレータ610の適正な作動を妨げてしまう。本マスタシリンダ装置600は、液室R21を定期的にリザーバ122に連通することで、そのような残圧を解消することが可能とされている。
【0098】
また、本マスタシリンダ装置600に採用されるストロークシミュレータは、所謂ダイアフラム式のストロークシミュレータであってもよい。つまり、液室R21が加圧ピストン614の代わりにダイアフラムによって区画されており、作動液がそのダイアフラムを介して加圧機構によって加圧されるようなストロークシミュレータを採用することも可能である。
【0099】
さらに、本マスタシリンダ装置600では、電磁式の開閉弁606に代えて、前述の第1実施例の変形例のマスタシリンダ装置600で採用された機械式の開閉弁602を内部式連通遮断器として採用することも可能である。開閉弁602が採用された場合、開閉弁602は、外部連通路440のうち、連通孔438の接続ポートとストロークシミュレータ610との間に配置され、外部連通路430から反力室R7内の作動液の圧力をパイロット圧として導入すればよい。そのように配設された開閉弁602は、通常時、開弁状態となり、電気的失陥時に、閉弁状態となるように作動することができる。
【符号の説明】
【0100】
110:マスタシリンダ装置 116:ブレーキ装置 118:高圧源装置(高圧源) 122:リザーバ 150:ブレーキペダル(操作部材) 302:ハウジング 304:第1加圧ピストン(加圧ピストン) 308:入力ピストン 350:本体部 352:鍔部 370:後方部材 372:前方部材 380:第1反力スプリング(反力発生機構) 382:第2反力スプリング(反力発生機構) 384:浮動座(反力発生機構) 424:連通孔(室間連通路) 432:電磁式開閉弁(対低圧源連通器) 442:電磁式開閉弁(入力ピストン収縮禁止機構) R1:第1加圧室 R3:入力室 R4:対向室 R5:内部室 R6:ピストン間室 500:マスタシリンダ装置 502:機械式開閉弁(入力ピストン収縮禁止機構) 600:マスタシリンダ装置 606:電磁式開閉弁(入力ピストン収縮禁止機構) 610:ストロークシミュレータ(反力発生機構) 616:圧縮コイルスプリング(加圧機構) R21:液室

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車輪に設けられて作動液の圧力によって作動するブレーキ装置に、加圧された作動液を供給するためのマスタシリンダ装置であって、
前方が閉塞されたハウジングと、
後端に開口する有底穴を有するとともに、本体部とその本体部の外周に形成された鍔部とを有し、前記本体部の前方に、前記ブレーキ装置に供給される作動液を加圧するための加圧室が区画されるとともに、前記鍔部の後方に、高圧源から作動液が導入される環状の入力室が、前記鍔部の前方に、作動液で満たされて前記鍔部を挟んで前記入力室と対向する環状の対向室が、それぞれ区画されるようにして、前記ハウジング内に配設された加圧ピストンと、
作動液で満たされるピストン間室が前記加圧ピストンとによって自身の前方に区画されるようにして、前記加圧ピストンの有底穴に嵌入され、後端部において操作部材に連結され、かつ、その操作部材の操作によって収縮可能とされた入力ピストンと、
その入力ピストンの収縮に対して弾性反力を発生させる反力発生機構と、
前記加圧ピストンの進退に伴う前記対向室の容積変化と前記ピストン間室の容積変化とを相互に吸収可能とすべく、それら対向室とピストン間室とを相互に連通させる室間連通路と、
を備え、
通常、前記室間連通路によって連通させられた前記対向室および前記ピストン間室が密閉され、前記操作部材に加えられた操作力が前記入力ピストンから前記加圧ピストンへ伝達されない状態において、前記反力発生機構によって発生させられる弾性反力を前記操作部材の操作に対する操作反力として機能させつつ、前記高圧源から導入された作動液の圧力に依存して前記加圧ピストンが前記加圧室内の作動液を加圧するように構成され、
前記高圧源から導入される作動液の圧力が不充分となる状況下において、前記入力ピストンから前記加圧ピストンへの前記操作力の伝達を許容して、その操作力に依存した前記加圧ピストンによる前記加圧室内の作動液の加圧を実現させる操作力依存加圧実現機構を、さらに備え、
その操作力依存加圧実現機構が、
前記入力ピストンの前記加圧ピストンへの当接を許容すべく、前記対向室および前記ピストン間室を低圧源に連通させる対低圧源連通器と、
前記入力ピストンの収縮を禁止する入力ピストン収縮禁止機構と
を含んで構成されたマスタシリンダ装置。
【請求項2】
前記入力ピストンが、作動液で満たされる内部室が自身の内部に形成されるようにして互いに嵌め合わせれた2つの部材を含んで構成され、それら2つの部材の相対移動が許容されて収縮可能とされており、
入力ピストン収縮禁止機構が、前記内部室を密閉することで前記入力ピストンの収縮を禁止するように構成された請求項1に記載のマスタシリンダ装置。
【請求項3】
前記入力ピストンが、前記内部室が低圧源に連通することで収縮可能とされており、
前記入力ピストン収縮禁止機構が、
前記内部室を密閉すべく、前記内部室の低圧源への連通を遮断する内部室連通遮断器を含んで構成された請求項2に記載のマスタシリンダ装置。
【請求項4】
前記内部室連通遮断器が、
前記内部室と低圧源とを繋ぐ連通路に配設され、前記対向室および前記ピストン間室内の作動液の圧力がパイロット圧として導入されて、そのパイロット圧が設定圧以上である場合に開弁し、そのパイロット圧がその設定圧を下回った場合に閉弁する機械式開閉弁を含んで構成された請求項3に記載のマスタシリンダ装置。
【請求項5】
前記反力発生機構が、
前記内部室内に配設され、前記2つの部材を、前記入力ピストンが伸長する方向に付勢するスプリングを含んで構成された請求項3または請求項4のいずれか1つに記載のマスタシリンダ装置。
【請求項6】
前記マスタシリンダ装置が、
前記操作部材が操作されていない状態において、前記入力ピストンの前端と前記加圧ピストンの有底穴の底部とが離間するように構成された請求項1ないし請求項5のいずれか1つに記載のマスタシリンダ装置。
【請求項7】
前記マスタシリンダ装置が、
前記操作部材が操作されていない状態における前記入力ピストンの前端と前記加圧ピストンの有底穴の底部との離間距離が、前記有底穴の内径の5分の1以下とされた請求項6に記載のマスタシリンダ装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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