説明

マスタシリンダ

【課題】部品点数を低減でき、製造効率を向上できるマスタシリンダの提供。
【解決手段】補給通路をバイパスしてリザーバと圧力室とを連通するバイパス通路60に、圧力室内の圧力がリザーバの圧力よりも低いときに開弁する逆止弁が介装されており、この逆止弁は、円環状の基部96と基部96から延出するリップ部97,98とを有するカップシール95からなり、バイパス通路60は、カップシール95の基部96に対しリップ部97,98の延出方向とは反対側に形成される孔81を有し、孔81と基部96との間には、可撓性の円環板状のスペーサ105がカップシール95に固着して設けられている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液圧を発生させるマスタシリンダに関する。
【背景技術】
【0002】
リザーバと圧力室との間に通常の補給通路とは別にバイパス通路を設け、このバイパス通路内にリザーバから圧力室への作動液の流れのみを許容する逆止弁を設けたマスタシリンダがある(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平11−268629号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記のマスタシリンダでは、部品点数が多く製造が煩雑であるという問題があった。
【0005】
したがって、本発明は、部品点数を低減でき、製造効率を向上できるマスタシリンダの提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、本発明は、補給通路をバイパスしてリザーバと圧力室とを連通するバイパス通路に、前記圧力室内の圧力が前記リザーバの圧力よりも低いときに開弁する逆止弁としてのカップシールを備え、前記バイパス通路が、前記カップシールの前記基部に対し前記リップ部の延出方向とは反対側に形成される少なくとも1つの孔を有し、該孔と前記基部との間に、少なくとも前記孔を覆う大きさを有する可撓性の円環板状のスペーサが前記カップシールに固着して設けられている。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、部品点数を低減でき、製造効率を向上できるマスタシリンダを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】本発明の一実施形態に係るマスタシリンダを示す部分断面図である。
【図2】本発明の一実施形態に係るマスタシリンダの断面図である。
【図3】本発明の一実施形態に係るマスタシリンダの要部を示す拡大断面図である。
【図4】本発明の一実施形態に係るマスタシリンダのカップシールを示すもので、(a)は側断面図、(b)は正面図、(c)は拡大図である。
【図5】本発明の一実施形態に係るマスタシリンダのカップシールの各状態を示す部分拡大断面図で、(a)は開状態の図、(b)は閉状態の図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明に係る一実施形態について図面を参照して説明する。
【0010】
図1に示すように、本実施形態に係るマスタシリンダ1は、いわゆるプランジャ型のマスタシリンダであり、図示は略すがブレーキペダルの操作等によって移動するブースタの出力軸で押圧されることによりディスクブレーキ等のブレーキ装置に導入する作動液圧を発生させるものである。
【0011】
マスタシリンダ1は、底部2と筒部3とを有する有底筒状をなすとともにその口部4側において図示略のブースタに取り付けられるシリンダ本体5と、このシリンダ本体5内のボア6の口部4側に、筒部3の軸線(以下、シリンダ軸と称す)に沿って摺動自在に嵌合するプライマリピストン8と、シリンダ本体5のボア6内のプライマリピストン8よりも底部2側に、シリンダ軸方向に沿って摺動自在に嵌合するセカンダリピストン9とを有するタンデムタイプのものである。なお、本実施形態においては、要部構成がプライマリピストン8側となっているため、プライマリピストン8側の構成を中心に説明する。
【0012】
シリンダ本体5には、これと一体に、筒部3から筒部3の径方向(以下、シリンダ径方向と称す)における外側、具体的には、上側に突出する二カ所の取付台部15,16が、シリンダ軸方向に離間して筒部3の円周方向(以下、シリンダ円周方向と称す)における同位置に形成されており、これら取付台部15,16それぞれに形成された取付穴17,18に、作動液を貯留し作動液をシリンダ本体5に導入するリザーバRが取り付けられる。
【0013】
シリンダ本体5の筒部3の内径側のボア6には、プライマリピストン8を摺動可能に嵌合させる摺動内径部21が形成されており、摺動内径部21の底部2側に、摺動内径部21よりも大径の大径内径部22が形成されている。
【0014】
摺動内径部21には、シリンダ軸方向における位置をずらして複数具体的には2カ所のシリンダ径方向外側に凹む環状のシール周溝25およびシール周溝26が底部2側および口部4側に形成されている。底部2側のシール周溝25には、E字状断面を有するゴム製のカップシールであるシールリング28が、底部2側にリップ側を配置した状態で嵌合されている。また、口部4側のシール周溝26には、C字状断面を有するゴム製のシールリング29が嵌合されている。
【0015】
摺動内径部21には、シール周溝25とシール周溝26との間に、シリンダ径方向外側に凹む環状の開口溝32が形成されている。この開口溝32は、連通穴33によって、取付穴18つまりリザーバRに常時連通状態とされている。
【0016】
シリンダ本体5の筒部3の側部には、作動液を図示せぬブレーキキャリパに供給するための図示せぬブレーキ配管が取り付けられるプライマリ吐出路35が形成されている。
【0017】
プライマリピストン8は、その底部2側にシリンダ軸方向に沿って穴部38が形成され、底部2とは反対側にもシリンダ軸方向に沿って穴部39が形成されている。プライマリピストン8の底部2側の外周部には、径方向内方に若干凹む円環状の環状凹部40が形成されており、この環状凹部40に、穴部38内に開口するポート41が複数放射状に形成されている。
【0018】
ここで、シリンダ本体5とプライマリピストン8とセカンダリピストン9とで画成される部分がプライマリ吐出路35に液圧を供給するプライマリ圧力室44となっている。言い換えれば、プライマリピストン8がシリンダ本体5内にプライマリ圧力室44をセカンダリピストン9とで画成する。プライマリ圧力室44は、プライマリピストン8がポート41を開口溝32に開口させる位置にあるとき、ポート41を介してリザーバRに連通する。
【0019】
シール周溝25に設けられたシールリング28は、内周がプライマリピストン8の外周側に摺接することになり、プライマリピストン8がポート41をシールリング28よりも底部2側に位置させた状態では、プライマリ圧力室44と開口溝32つまりリザーバRとの連通を遮断可能となっている。
【0020】
他方、このシールリング28は、カップシールであることから、プライマリピストン8がポート41をシールリング28よりも底部2側に位置させた状態であっても、プライマリ圧力室44とリザーバRとの間に圧力差が生じた場合に開口溝32および連通穴33を介してリザーバR側からプライマリ圧力室44側への作動液の流れを許容する。つまり、プライマリ圧力室44の液圧がリザーバRの液圧(=大気圧)より低い場合は、シールリング28が開弁して、シリンダ本体5に、取付穴18と、連通穴33と、開口溝32と、シール周溝25を含む摺動内径部21およびプライマリピストン8の隙間とを介して、リザーバRからプライマリ圧力室44に作動液を補給する。シールリング28が開弁することで形成される、取付穴18と、連通穴33と、開口溝32と、シール周溝25を含む摺動内径部21およびプライマリピストン8の隙間とが、シリンダ本体5に形成されてリザーバRからプライマリ圧力室44に作動液を補給する補給通路45を構成する。
【0021】
また、口部4側のシール周溝26に設けられたシールリング29は、プライマリピストン8に摺接することにより、シリンダ本体5の内周側とプライマリピストン8の外周側との隙間を介しての開口溝32と外気との連通を遮断する。
【0022】
セカンダリピストン9とプライマリピストン8との間には、プライマリピストン8をシリンダ本体5の口部4側へ付勢するコイル状のリターンスプリング47を含むバネ組立体48が穴部38内に挿入された状態で設けられている。
【0023】
このバネ組立体48は、セカンダリピストン9に当接する軸線方向長さの長い部材50と、プライマリピストン8の穴部38の底面に当接する軸線方向長さの短い部材51と、これら一対の部材50,51を連結する軸部材52とからなるリテーナ53を有している。軸部材52は、長さの短い部材51に一端部が固定されるとともに長さの長い部材50を所定範囲内でのみ摺動自在に支持するもので、リターンスプリング47は、リテーナ53の両側の相対移動可能に連結された部材50,51間に縮長可能に介装されており、リテーナ53で最大長が規定されている。ここで、図示せぬブレーキペダル側(図1における右側)から入力がない初期状態においては、セカンダリピストン9がシリンダ本体5の底部2との間に配置される図示しないバネ組立体によって底部2との間隔が決められることになり、セカンダリピストン9とプライマリピストン8との間隔は、これらの間に配置されるバネ組立体48によって決められる。
【0024】
プライマリピストン8は、上記した初期状態にあるとき、図1に示すように、プライマリ圧力室44に連通するポート41を開口溝32つまりリザーバRに連通させている。そして、この状態から、プライマリピストン8がブレーキペダルの入力で底部2側に移動すると、プライマリピストン8は、そのポート41がシールリング28で閉塞され、プライマリ圧力室44とリザーバRとのポート41を介しての連通を遮断することになり、この状態からさらに底部2側に移動すると、液圧が上昇したプライマリ圧力室44からプライマリ吐出路35を介してブレーキ装置に作動液を供給する。
【0025】
上記のように、プライマリピストン8がポート41を閉塞させる位置にあってもリザーバRの液圧よりプライマリ圧力室44の液圧が低くなると、シールリング28を開いてリザーバRの作動液が補給通路45を介してプライマリ圧力室44に流れるようになっており、車両姿勢安定制御システムの図示略のポンプによるプライマリ圧力室44の作動液のポンプアップに対応可能となっている。そして、本実施形態に係るマスタシリンダ1では、このポンプアップ時に、より大流量で作動液をリザーバRからプライマリ圧力室44に流すため、シリンダ本体5に形成された補給通路45をバイパスしてリザーバRとプライマリ圧力室44とを連通するバイパス通路60と、リザーバRの液圧よりプライマリ圧力室44の液圧が低いとき開弁して、このバイパス通路60を介して液補給を行う弁機構61とが設けられている。
【0026】
つまり、図2に示すように、シリンダ本体5には、弁機構61のケーシングを構成する径方向突出部65が、筒部3からシリンダ径方向に沿って水平側方に突出している。なお、この径方向突出部65は、シリンダ本体5の鋳造時に底部2、筒部3および取付台部15,16と一体成形される。
【0027】
この径方向突出部65の内側には、シリンダ径方向である水平方向に沿う径方向穴66が筒部3とは反対側から形成されている。この径方向穴66は、図3に示すように、筒部3側から順に、第1穴部67と、この第1穴部67と同軸でこれよりも大径の第2穴部68と、この第2穴部68と同軸でこれよりも大径の第3穴部69とを有している。径方向穴66は、第3穴部69において外側に開口することになり、第3穴部69には、開口側の所定範囲にメネジ70が形成されている。なお、径方向穴66は、すべて径方向突出部65の突出方向前方から工具で加工形成される。
【0028】
シリンダ本体5には、径方向穴66における第1穴部67の底面の内周面側と図2に示す大径内径部22とを結ぶことで、プライマリ圧力室44に連通する連通穴71が形成されている。この連通穴71の延長線は径方向穴66内にあって径方向穴66の開口部内の位置から外方に延出する。この連通穴71は、径方向穴66から挿入される工具で加工形成される。
【0029】
シリンダ本体5には、取付穴18と、図3に示す径方向穴66の第1穴部67と第2穴部68との境界部分とを連通する連通穴72が形成されている。この連通穴72も、その延長線が径方向穴66内にあって径方向穴66の開口部内の位置から外方に延出することになり、径方向穴66から挿入される工具で加工形成される。
【0030】
径方向穴66の第1穴部67および第2穴部68内には、段付き軸状の保持部材75が嵌合されている。この保持部材75は、軸方向一側から順に、一端軸部76と、一端軸部76と同軸であって一端軸部76よりも大径の円板部77と、円板部77と同軸であって円板部77よりも小径の中間軸部78と、中間軸部78と同軸であって中間軸部78よりも大径の他端軸部79とを有している。円板部77には軸方向に貫通する孔81が円周方向に所定の間隔で複数形成されており、他端軸部79の外周部には径方向内方に凹む円環状のシール溝82が同軸状に形成されている。
【0031】
保持部材75は、一端軸部76において第1穴部67の底面に当接し、円板部77で第1穴部67の内周面に嵌合し、他端軸部79で第2穴部68の内周面に嵌合する。この状態で第3穴部69のメネジ70に蓋体83がその外周部のオネジ部84で螺合されることで、保持部材75が径方向突出部65に固定される。シール溝82には、径方向穴66の第2穴部68と保持部材75の他端軸部79との隙間をシールするためのシールリング85が配設されている。
【0032】
ここで、図2に示すように、蓋体83で閉塞された径方向穴66と、取付穴18と、連通穴33と、連通穴71と、連通穴72とによって、補給通路45をバイパスしてリザーバRとプライマリ圧力室44とを連通する上記したバイパス通路60が形成されている。保持部材75は、このバイパス通路60内に配置されている。
【0033】
図3に示すように、蓋体83が径方向突出部65に螺合された状態で、保持部材75の円板部77、中間軸部78および他端軸部79と、第2穴部68との間の室88が、連通穴72に連通することになり、保持部材75の一端軸部76および円板部77と、第1穴部67との間の部分の室89が連通穴71に連通することになる。そして、これら室88,89は、保持部材75に形成された孔81によって互いに連通可能となっていることから、室88、孔81および室89が、取付穴18と連通穴33と連通穴72と連通穴71とによって、リザーバRとプライマリ圧力室44とを連通する連通路90を構成する。
【0034】
そして、バイパス通路60の連通路90を構成する室89内に、保持部材75により保持されて、プライマリ圧力室44内の圧力がリザーバRの圧力よりも低いときに開弁する逆止弁としてのカップシール95が介装されている。
【0035】
このカップシール95は、ゴム材料からなるもので、図4に示すように、円環板状の基部96と、基部96の内周縁部から軸方向一側に延出する、延出先端側ほど縮径する略テーパ筒状の内周リップ部97と、基部96の外周縁部から内周リップ部97と同側に延出する、延出先端側ほど拡径する略テーパ筒状の外周リップ部98とを有している。内周リップ部97は、外周リップ部98よりも長く延出している。カップシール95の外周リップ部98の外周面には、その基部96側の端部から軸方向の途中位置まで径方向内方に凹んで延出する溝部99が円周方向に間隔をあけて複数形成されている。また、内周リップ部97の先端側の外周面には軸方向に凹凸状をなす凹凸部100が全周にわたって形成されている。カップシール95は、ゴム製であることから、外周リップ部98の基部96に対する角度が変化するようになっている。
【0036】
そして、本実施形態においては、カップシール95の基部96の内周リップ部97および外周リップ部98の突出方向とは反対側の端面96aに、この端面96aと同形状の円環板状をなすスペーサ105が全面的に接着(具体的には加硫接着)されている。このスペーサ105は板厚が例えば0.1mmの薄い金属製で、弾性(可撓性および復元性)を有している。
【0037】
カップシール95とスペーサ105とが一体に固着されてなるシール複合体106は、図3に示すように、そのスペーサ105を円板部77に当接させるようにして、カップシール95の内周リップ部97において保持部材75の一端軸部76に密着するように嵌合されることになり、このように、密着することでシール複合体106はシリンダ本体5に対し移動不可となる。この状態で、カップシール95の基部96に対しリップ部97,98の延出方向とは反対側には、保持部材75の円板部77の複数の孔81が配置されており、これらの複数の孔81を覆う大きさを、スペーサ105は有している。具体的に、スペーサ105は、その内径が複数の孔81の内接円の直径よりも小さく、その外径が複数の孔81の外接円の直径と略同径になっている。ここで、スペーサ105は、カップシール95と円板部77との間に介在することで、カップシール95が、孔81を有する円板部77に直接接触することを規制することになり、ゴム製のカップシール95が孔81の開口端縁部で傷付くこと、いわゆる喰われを防止する。なお、スペーサ105の外径は、複数の孔81を塞ぐ大きさになっていれば、複数の孔81の外接円の直径と略同径とせずに、保持部材75の円板部77の外径と同様の大きさとしても良い。
【0038】
カップシール95は、上記取付状態であって液圧が加わらないとき、スペーサ105が保持部材75の円板部77に当接し、外周リップ部98が、バイパス通路60の連通路90の内周面を構成する第1穴部67の内周面に接触する(図3に示す状態)。これにより、バイパス通路60を閉じる。また、この状態から、外周リップ部98が内周リップ部97側に撓むと、外周リップ部98が第1穴部67の内周面から離間することになる。そして、外周リップ部98が内周リップ部97側に撓むと、図5(a)に示すように、この変形に連れて基部96およびスペーサ105が、その外径側ほど保持部材75の円板部77から離れるように変形する。
【0039】
そして、カップシール95は、リザーバRからバイパス通路60を介してのプライマリ圧力室44への作動液の流通を、外周リップ部98が撓んで連通路90の内周面から離れることで許容し、逆方向の作動液の流通を外周リップ部98が連通路90の内周面に接して遮断する。
【0040】
つまり、カップシール95は、プライマリ圧力室44側の液圧がリザーバR側の液圧(大気圧)以上であると、外周リップ部98がバイパス通路60の連通路90の内周面に接触することで連通路90を閉じて、プライマリ圧力室44からバイパス通路60を介してのリザーバRへの作動液の流通を規制する。他方、カップシール95は、リザーバR側の液圧(大気圧)よりもプライマリ圧力室44側の液圧が低くなると、液圧差で図5(a)に矢印Aで示すように力が加わり、外周リップ部98が連通路90の内周面から離間する方向に撓み、且つ基部96およびスペーサ105が外径側ほど連通路90の内面を形成する保持部材75の円板部77から離れるように撓んで、連通路90を開いて、リザーバRからバイパス通路60を介してのプライマリ圧力室44への作動液の流通を図5(a)に矢印Xで示すように行わせることになる。なお、このとき、スペーサ105は、その剛性でカップシール95の外周リップ部98および基部96の必要以上の変形を規制する。
【0041】
以上から、車両姿勢安定制御システムの図示略のポンプでプライマリ圧力室44の作動液をポンプアップすると、その吸引圧力によってプライマリ圧力室44が負圧となり、カップシール95が上記のように撓んで開弁し、リザーバRから、バイパス通路60を介してプライマリ圧力室44へ作動液を流すことになる。このバイパス通路60を介しての流量は、シールリング28が開弁することで連通状態となるシリンダ本体5とプライマリピストン8との間の補給通路45を介するよりも大流量となっており、その結果、補給通路45とバイパス通路60とを合わせた比較的大流量で作動液を流すことができる。
【0042】
なお、カップシール95は、バイパス通路60の連通路90を開いた状態から、プライマリ圧力室44の圧力が大気圧に近づいたり、大気圧以上になると、上記した外周リップ部98が連通路90の内周面に接触することで連通路90を閉じることになるが、このとき、金属製のスペーサ105の、カップシール95よりも強い復元力が図5(b)に矢印Bで示すように加わり、この復元力で、図5(b)に示すように、カップシール95の基部96を径方向に沿う姿勢に戻し、その結果、スペーサ105が保持部材75の円板部77に当接する状態となり、これに連れて、外周リップ部98がバイパス通路60の連通路90の内周面に確実に接触することになる。
【0043】
以上に述べた本実施形態のマスタシリンダ1によれば、シリンダ本体5に形成された補給通路45をバイパスしてリザーバRとプライマリ圧力室44とを連通するバイパス通路60に、プライマリ圧力室44内の圧力がリザーバRの圧力よりも低いときに開弁する逆止弁としてのカップシール95が介装されることになるため、部品点数を低減でき、製造効率を向上できる。
【0044】
また、バイパス通路60が、カップシール95の基部96に対しリップ部97,98の延出方向とは反対側に形成される孔81を有しているが、孔81と基部96との間には、孔81を覆う大きさを有する可撓性の円環板状のスペーサ105が設けられているため、カップシール95が、孔81の開口端縁部等で傷付くことを防止することができる。
【0045】
しかも、スペーサ105がカップシール95に固着されて一つのシール複合体106とされているため、部品点数が増えることはなく、高い製造効率を維持できる。また、カップシール95をマスタシリンダ1へ組み付ければ、スペーサ105の組み付け忘れを生じることがないため、スペーサ105の組み付け忘れを検出するセンサを準備したり、このセンサを用いた検査工程を行う必要が無く、品質管理面での負担を軽減できる。さらに、スペーサ105が例えば鉄製である場合に、シリンダ本体5を鉄以外のアルミニウム合金製等にしないとセンサによる検査が不可能であるが、検査工程が不要であることから、材料選定の自由度を大幅に向上できる。
【0046】
加えて、基部96に固着されたスペーサ105が、カップシール95の基部96および外周リップ部98の必要以上の変形を規制するため、カップシール95の外周リップ部98の必要以上の変形を規制するための部材を、外周リップ部98と内周リップ部97との間に配置する必要がなく、この点からも、部品点数が増えることはなく、高い製造効率を維持できる。
【0047】
スペーサ105がカップシール95の基部96を径方向に沿う姿勢に戻すため、次回昇圧時の所要液量増加が防止可能となり、ペダルフィーリングの改善が可能となる。
【符号の説明】
【0048】
1 マスタシリンダ
5 シリンダ本体
8 プライマリピストン(ピストン)
44 プライマリ液圧室(圧力室)
45 補給通路
60 バイパス通路
81 孔
95 カップシール(逆止弁)
96 基部
97 内周リップ部
98 外周リップ部
105 スペーサ
R リザーバ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
リザーバから作動液が導入されるシリンダ本体と、
該シリンダ本体に摺動自在に嵌合されて前記シリンダ本体内に圧力室を画成するピストンと、
前記シリンダ本体に形成されて前記リザーバから前記圧力室に作動液を補給する補給通路と、
該補給通路をバイパスして前記リザーバと前記圧力室とを連通するバイパス通路と、
該バイパス通路に介装されて前記圧力室内の圧力が前記リザーバの圧力よりも低いときに開弁する逆止弁と、
を備え、
前記逆止弁は、円環状の基部と該基部から延出するリップ部とを有するカップシールからなり、
前記バイパス通路は、前記カップシールの前記基部に対し前記リップ部の延出方向とは反対側に形成される少なくとも1つの孔を有し、
該孔と前記基部との間には、少なくとも前記孔を覆う大きさを有する可撓性の円環板状のスペーサが前記カップシールに固着して設けられていることを特徴とするマスタシリンダ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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