説明

マスタシリンダ

【課題】ピストンシールを介しての液補給性を向上することができるマスタシリンダの提供。
【解決手段】ピストンシール35が、円環状の基部65と、基部65の内周側から延出してピストン19の外周面に摺接する内周リップ部66と、基部65の外周側から延出してシリンダ本体15の周溝30に当接する外周リップ部67とを有し、基部65と外周リップ部67との接合部68の内側における少なくとも一部に凹部73を形成した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液圧を発生するマスタシリンダに関する。
【背景技術】
【0002】
マスタシリンダには、液圧を発生する圧力室とリザーバとの連通を通常は遮断し、圧力室が負圧になるとリザーバから圧力室に液補給を行うカップシールからなるピストンシールを有するものがあり、このピストンシールの液補給性の向上のためにピストンシールの背面から外面にかけて溝を形成する技術がある(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2004−231093号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記のように、ピストンシールの背面から外面にかけて溝を形成する構造であると、本来のシール性を確保するためには溝をあまり大きくすることができず、液補給性向上の点から改良の余地があった。
【0005】
したがって、本発明は、ピストンシールを介しての液補給性を向上することができるマスタシリンダの提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、本発明は、ピストンシールの基部と外周リップ部との接合部の内側における少なくとも一部に凹部を形成した。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、ピストンシールを介しての液補給性を向上することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】本発明の第1実施形態に係るマスタシリンダの全体構成を示す断面図である。
【図2】本発明の第1実施形態に係るマスタシリンダの要部を示す部分側断面図である。
【図3】本発明の第1実施形態に係るマスタシリンダのピストンシールを示す部分側断面図である。
【図4】本発明の第1実施形態に係るマスタシリンダのピストンシールを示す正面図である。
【図5】本発明の第2実施形態に係るマスタシリンダの要部を示す部分断面図である。
【図6】本発明の第2実施形態に係るマスタシリンダのピストンシールを示す部分側面図である。
【図7】本発明の第2実施形態に係るマスタシリンダのピストンシールを示す正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明の第1実施形態に係るマスタシリンダを図1〜図4を参照して以下に説明する。
【0010】
図1に示す第1実施形態に係るマスタシリンダ11は、車両等に制動力を発生させるブレーキシステムを構成するもので、図示せぬブレーキブースタを介して導入されるブレーキペダルの操作量に応じた力でブレーキ液圧を発生させるものである。このマスタシリンダ11には、その上側にマスタシリンダ11との間でブレーキ液を給排するためのリザーバRが取り付けられている。
【0011】
マスタシリンダ11は、底部13と筒部14とを有するとともに横方向に沿って配置される有底筒状のシリンダ本体15と、このシリンダ本体15の開口部16側(図1における右側)に摺動可能に挿入されるプライマリピストン(ピストン)18と、シリンダ本体15のプライマリピストン18よりも底部13側(図1における左側)に摺動可能に挿入されるセカンダリピストン(ピストン)19とを有するタンデムタイプのものである。
【0012】
シリンダ本体15は、一つの素材から有底筒状に形成されるもので、その底部13の内側に、軸線方向に突出する係止突出部21が形成されている。
【0013】
また、シリンダ本体15には、半径方向外側に突出しかつ軸線方向に延在する取付台部22が一体に形成されており、この取付台部22の軸線方向における前後両側にリザーバRを取り付けるための取付穴24,25が、互いに筒部14の円周方向における位置を一致させて形成されている。ここで、取付穴24,25の内側にはリザーバRを嵌合させるとともにこのリザーバRとの隙間を密封するための取付シール26,27が嵌合されている。
【0014】
シリンダ本体15の軸線方向に伸びる内周面28には、複数具体的には4カ所の外径側に凹む環状溝としてのシール周溝30〜33が筒部14の軸線方向における位置をずらして形成されている。
【0015】
最もシリンダ本体15の底部13側にあるシール周溝(周溝)30は、底部13側の取付穴24の底部13側に近接して形成されており、このシール周溝30内に弾性材料からなるピストンシール35が設けられている。シリンダ本体15におけるシール周溝30よりも開口部16側には、底部13側の取付穴24から穿設される連通穴36を筒部14内に開口させるように、筒部14の内周面28から外径側に凹む環状の開口溝37が形成されている。ここで、この開口溝37と連通穴36とが、シリンダ本体15とリザーバRとを連通可能に結ぶとともにリザーバRに常時連通するセカンダリ補給路(補給路)38を主に構成している。
【0016】
そして、シリンダ本体15における上記開口溝37のシール周溝30に対し反対側つまり開口部16側にシール周溝31が形成されており、このシール周溝31に弾性材料からなる区画シール40が嵌合されている。ここで、筒部14の内周面28には、シール周溝30から底部13側に直線状に延出する連通溝41が外径側に凹むように形成されている。また、シリンダ本体15におけるシール周溝31の開口部16側には、筒部14の内周面28から外径側に凹む環状の大径溝42が形成されている。
【0017】
シリンダ本体15における上記大径溝42よりも開口部16側にシール周溝(周溝)32が形成されており、このシール周溝32に弾性材料からなるピストンシール45が嵌合されている。シリンダ本体15におけるこのシール周溝32の開口部16側には、開口部16側の取付穴25から穿設される連通穴46を筒部14内に開口させるように、筒部14の内周面28から外径側に凹む環状の開口溝47が形成されている。ここで、この開口溝47と連通穴46とが、シリンダ本体15とリザーバRとを連通可能に結ぶとともにリザーバRに常時連通するプライマリ補給路(補給路)48を主に構成している。また、筒部14の内周面28には、シール周溝32と大径溝42とを直線状に結ぶ連通溝49が外径側に凹んで形成されている。
【0018】
そして、シリンダ本体15における上記開口溝47のシール周溝32に対し反対側つまり開口部16側にシール周溝33が形成されており、このシール周溝33に弾性材料からなる区画シール50が嵌合されている。
【0019】
シリンダ本体15の筒部14の側部には、ブレーキ液を図示せぬブレーキ装置に供給するための図示せぬブレーキ配管が取り付けられるブレーキ液の吐出路としてのプライマリ吐出路(吐出路)53およびセカンダリ吐出路(吐出路)52が形成されている。なお、これらプライマリ吐出路53およびセカンダリ吐出路52は、互いに筒部14の円周方向における位置を一致させた状態で軸線方向における位置をずらして形成されており、一方のセカンダリ吐出路52は底部13とシール周溝30との間であって底部13の近傍となる位置に形成されており、他方のプライマリ吐出路53は、大径溝42におけるシール周溝31の近傍となる位置に形成されている。
【0020】
シリンダ本体15の底部13側に嵌合されるセカンダリピストン19は、円筒部55と、円筒部55の軸線方向における一側に形成された底部56とを有する有底円筒状をなしており、その円筒部55をシリンダ本体15の底部13側に配置した状態でシリンダ本体15内に挿入されている。底部56の円筒部55に対し反対側には、軸線方向に突出する係止突出部57が形成されている。また、底部56の円筒部55側には円筒部55の内径よりも小径の小径内周部58が形成されている。さらに、円筒部55の底部56に対し反対側の端部の外周側には、他の部分よりも径が若干小さい環状の段部59が形成されている。さらに、円筒部55の段部59には、その底部56側に径方向に貫通するポート60が複数放射状に形成されている。
【0021】
ここで、シリンダ本体15の底部13および筒部14の底部13側とセカンダリピストン19とで囲まれた部分が、セカンダリ吐出路52に液圧を供給するセカンダリ圧力室(圧力室)63となっている。そして、シリンダ本体15の底部13側のシール周溝30に設けられたピストンシール35は、内周がセカンダリピストン19の外周側に摺接してセカンダリ補給路38とセカンダリ圧力室63との間を密封可能、つまり、セカンダリ圧力室63と、セカンダリ補給路38およびリザーバRとの連通を遮断可能となっている。
【0022】
第1実施形態において、このセカンダリ側のピストンシール35は、図2〜図4に示すように、円環状の基部65と、基部65の内周側から基部65の軸線方向にほぼ沿って延出する円環状の内周リップ部66と、基部65の外周側から内周リップ部66と同側に延出する円環状の外周リップ部67とを有している(図2〜図4において、シール周溝30,32、ピストンシール35,45、補給路38,48、圧力室63,86およびピストン18,19については、セカンダリ側のピストンシール35に対応する構成の符号を括弧無しで、後述するプライマリ側のピストンシール45に対応する構成の符号を括弧付きで示している)。
【0023】
ピストンシール35は、図2に示すように、内周リップ部66においてセカンダリピストン19の外周面に摺接することになり、外周リップ部67においてシリンダ本体15のシール周溝30の底面69に当接する。ここで、外周リップ部67の外周面は、図3にも示すように、自然状態で、基部65側が基部65に対し反対側ほど径が大きくなるテーパ面67aとなっており、このテーパ面67aの基部65とは反対側が一定径の円筒面67bとなっている。また、外周リップ部67の内周面は、自然状態で、基部側が一定径の円筒面67cとなっており、この円筒面67cの基部65とは反対側が基部65に対し反対側ほど径が大きくなるテーパ面67dとなっている。
【0024】
そして、ピストンシール35は、図2に示すように、内周リップ部66の内側にセカンダリピストン19が嵌合されると内周リップ部66がほぼ全長にわたって基部65の軸線方向に沿う状態となってセカンダリピストン19に対し摺動可能な状態で密着する。また、この状態で、基部65はセカンダリピストン19側に寄った状態でシール周溝30のシリンダ開口部16側(図2における右側)の対向面70に当接可能となっている。さらに、この状態で、外周リップ部67はその基部65側のテーパ面67aがシール周溝30の底面69に対し離間しており、基部65に対し反対側の円筒面67bがシール周溝30の底面69に当接可能となっている。なお、外周リップ部67の延出長さは内周リップ部66の延出長さより短くされており、ピストンシール35がシール周溝30内でシリンダ底部13側(図2における左側)に移動しても、内周リップ部66がシール周溝30のシリンダ底部13側の通路面71に先に当接することになり、外周リップ部67の延出先端はこの通路面71に対し離間状態が維持される。
【0025】
ピストンシール35には、図3にも示すように、ピストンシール35の軸線方向に凹む凹部73が、基部65と外周リップ部67との接合部68の内側における少なくとも一部に、本実施形態においては、図4に示すようにピストンシール35の周方向に沿って全周に形成されている。より具体的には、この凹部73は、図3に示すように、基部65の軸方向における外周リップ部67および内周リップ部66の延出側の内面65aの径方向における外周リップ部67側の円環状の端部から、ピストンシール35の軸方向に凹むように形成されている。この凹部73はその軸方向断面が、底部側が半円状をなし、開口側が軸方向に沿う平行な二つの直線状をなしている。なお、基部65の軸方向における外周リップ部67および内周リップ部66とは反対側の背面65bは平坦面となっている。
【0026】
図1に示すように、セカンダリピストン19とシリンダ本体15の底部13との間には、図示せぬブレーキペダル側(図1における右側)から入力がない初期状態(このときの各部の位置を初期位置と以下称す)でこれらの間隔を決めるセカンダリピストンスプリング78が設けられている。このセカンダリピストンスプリング78は一端側がシリンダ底部13の係止突出部21を内側に配置することで係止されており、他端側がセカンダリピストン19の円筒部55内を通って底部56の小径内周部58に係止されている。
【0027】
シリンダ本体15の開口部16側に嵌合されるプライマリピストン18は、第1円筒部80と、第1円筒部80の軸線方向における一側に形成された底部81と、底部81の第1円筒部80に対し反対側に形成された第2円筒部82とを有する形状をなしており、その第1円筒部80をセカンダリピストン19側に配置した状態でシリンダ本体15内に挿入されている。ここで、第2円筒部82の内側には図示せぬブレーキブースタの出力軸が挿入され、この出力軸が底部81を押圧する。
【0028】
第1円筒部80の底部81に対し反対側の端部の外周側は、他の部分よりも径が若干小さい環状の凹部83が形成されている。さらに、第1円筒部80の凹部83には、その底部81側に径方向に貫通するポート84が複数放射状に形成されている。
【0029】
ここで、シリンダ本体15の筒部14の開口部16側とプライマリピストン18とセカンダリピストン19とで囲まれた部分が、プライマリ吐出路53に液圧を供給するプライマリ圧力室(圧力室)86となっている。そして、シリンダ本体15のシール周溝32に設けられたピストンシール45は、内周がプライマリピストン18の外周側に摺接してプライマリ補給路48とプライマリ圧力室86との間を密封可能、つまり、プライマリ圧力室86と、プライマリ補給路48およびリザーバRとの連通を遮断可能となっている。
【0030】
第1実施形態において、このピストンシール45は、図2〜図4に示すように、上記ピストンシール35と同一のものとされている(図2〜図4において、シール周溝30,32、ピストンシール35,45、補給路38,48、圧力室63,86およびピストン18,19については、ピストンシール45に対応する構成の符号を括弧付きで示している)。つまり、ピストンシール45も、基部65と内周リップ部66と外周リップ部67とを有しており、また、外周リップ部67が、テーパ面67a、円筒面67b、円筒面67cおよびテーパ面67dを有し、基部65と外周リップ部67との接合部68の内側に凹部73が形成されている。
【0031】
ピストンシール45は、図2に示すように、内周リップ部66においてプライマリピストン18の外周面に摺接することになり、外周リップ部67においてシリンダ本体15のシール周溝32の底面69に当接する。
【0032】
そして、ピストンシール45は、図2に示すように、内周リップ部66の内側にプライマリピストン18が嵌合されると内周リップ部66がほぼ全長にわたって基部65の軸線方向に沿う状態となってプライマリピストン18に摺接可能に密着する。また、この状態で、基部65はプライマリピストン18側に寄った状態でシール周溝32のシリンダ開口部16側(図2における右側)の対向面70に当接可能となっている。さらに、この状態で、外周リップ部67はその基部65側のテーパ面67aがシール周溝32の底面69に対し離間しており、基部65に対し反対側の円筒面67bがシール周溝32の底面69に当接可能となっている。なお、外周リップ部67の延出長さは内周リップ部66の延出長さより短くされており、ピストンシール45がシール周溝32内でシリンダ底部13側(図2における左側)に移動しても、内周リップ部66がシール周溝32のシリンダ底部13側の通路面71に先に当接することになり、外周リップ部67の延出先端はこの通路面71に対し離間状態が維持される。
【0033】
図1に示すように、シール周溝31に設けられた区画シール40は、セカンダリピストン19に摺接してセカンダリ圧力室63とプライマリ圧力室86との間を常時密封させることになり、シール周溝33に設けられた区画シール50は、プライマリピストン18に摺接してプライマリ圧力室86を外気に対し常時密閉させる。
【0034】
セカンダリピストン19とプライマリピストン18との間には、図示せぬブレーキペダル側(図1における右側)から入力がない初期状態でこれらの間隔を決めるプライマリピストンスプリング88および間隔調整部89が設けられている。つまりプライマリピストンスプリング88がセカンダリピストン19とプライマリピストン18とを離間方向に付勢するとともに、間隔調整部89がセカンダリピストン19とプライマリピストン18との設定間隔を超えた離間を規制する。ここで、間隔調整部89は、セカンダリピストン19の底部56に当接するリテーナ91とプライマリピストン18の底部81に当接するリテーナ92とリテーナ91に固定されかつリテーナ92に対し所定範囲のみ摺動可能に保持される軸部93とを有しており、両側のリテーナ91,92間にプライマリピストンスプリング88が介装されている。なお、リテーナ91はセカンダリピストン19の係止突出部57に係止されている。
【0035】
ここで、図2に示すように、セカンダリ側のピストンシール35はセカンダリ圧力室63の液圧がセカンダリ補給路38側つまりリザーバR側の液圧以上の場合に、外周リップ部67が圧力で外径側に押し広げられてシール周溝30の底面69に密着することで、セカンダリ圧力室63と、セカンダリ補給路38およびリザーバRとの連通を遮断する。他方、セカンダリ圧力室63の液圧が、セカンダリ補給路38側つまりリザーバR側の液圧より低い場合には、外周リップ部67が液圧で内径側に押し縮められてシール周溝30の底面69から離間することで、シール周溝30の底面69とピストンシール35の外周リップ部67との隙間76と、シール周溝30の対向面70とピストンシール35の背面65bとの隙間74と、シリンダ本体15とセカンダリピストン19との隙間75とを介して、セカンダリ圧力室63と、セカンダリ補給路38およびリザーバRとを連通させてセカンダリ圧力室63へのリザーバRからの液補給を可能とする。
【0036】
同様に、プライマリ側のピストンシール45は、プライマリ圧力室86の液圧がプライマリ補給路48およびリザーバR側の液圧以上の場合に、外周リップ部67が圧力で外径側に押し広げられてシール周溝32の底面69に密着することで、プライマリ圧力室86と、プライマリ補給室48およびリザーバRとの連通を遮断する。他方、プライマリ圧力室86の液圧が、プライマリ補給路48およびリザーバR側の液圧より低い場合には、外周リップ部67が液圧で内径側に押し縮められてシール周溝32の底面69から離間することで、シール周溝32の底面69とピストンシール45の外周リップ部67との隙間76と、シール周溝32の対向面70とピストンシール45の背面65bとの隙間74と、シリンダ本体15とプライマリピストン18との隙間75とを介して、プライマリ圧力室86と、プライマリ補給路48およびリザーバRとを連通させてプライマリ圧力室86へのリザーバRからの液補給を可能とする。
【0037】
次に、上記マスタシリンダの作動について説明する。
【0038】
図1に示すように、上記初期位置にあるときのプライマリピストン18は、ポート84によってプライマリ補給路48とプライマリ圧力室86とを連通させており、その結果、プライマリ圧力室86をリザーバRに連通させている。
【0039】
この状態からブレーキの操作入力があってプライマリピストン18がシリンダ本体15の底部13側に移動しポート84がピストンシール45よりも底部13側に位置すると、プライマリ圧力室86の液圧がリザーバR側の液圧以上となって、ピストンシール45が外周リップ部67でシール周溝32の底面69に密着し、プライマリ圧力室86と、プライマリ補給路48およびリザーバRとの連通を遮断することになり、これにより、さらにプライマリピストン18がシリンダ底部13側に移動することでプライマリ圧力室86からプライマリ吐出路53を介して図示せぬブレーキ装置にブレーキ液を供給する。
【0040】
他方、この状態からブレーキの操作入力が解除され、プライマリ圧力室86の液圧が、プライマリ補給路48およびリザーバR側の液圧より低くなると、ピストンシール45の外周リップ部67が液圧で内径側に押し縮められてシール周溝32の底面69から離間することになり、シリンダ本体15のプライマリ補給路48が、シリンダ本体15とプライマリピストン18との隙間75と、ピストンシール45の背面65bとシール周溝32の対向面70との隙間74と、外周リップ部67とシール周溝32の底面69との隙間76とを介してプライマリ圧力室86に連通してリザーバRからブレーキ液をプライマリ圧力室86に補給する。このとき、ピストンシール45の基部65と外周リップ部67との接合部68の内側に凹部73が形成されていて、外周リップ部67の根元部の曲げ剛性が低下していることから、外周リップ部67が容易に内径側に押し縮められてシール周溝32の底面69から離間することになる。これにより、プライマリピストン18が即座にシリンダ開口部16側に戻ることになる。
【0041】
また、上記初期位置にあるときのセカンダリピストン19は、ポート60を介してセカンダリ補給路38とセカンダリ圧力室63とを連通させており、その結果、セカンダリ圧力室63をリザーバRに連通させている。
【0042】
この状態から、ブレーキの操作入力があってプライマリピストン18が底部13側に移動することでプライマリピストンスプリング88を介して押圧されてセカンダリピストン19がシリンダ本体15の底部13側に移動しポート60がピストンシール35よりもシリンダ本体15の底部13側に位置すると、セカンダリ圧力室63の液圧がリザーバR側の液圧以上となって、ピストンシール35が外周リップ部67でシール周溝30の底面69に密着し、セカンダリ圧力室63と、セカンダリ補給路38およびリザーバRとの連通を遮断することになり、これにより、さらにセカンダリピストン19がシリンダ底部13側に移動することでセカンダリ圧力室63からセカンダリ吐出路52を介して図示せぬブレーキ装置にブレーキ液を供給する。
【0043】
他方、この状態からブレーキの操作入力が解除され、セカンダリ圧力室63の液圧が、セカンダリ補給路38およびリザーバR側の液圧より低くなると、ピストンシール35の外周リップ部67が液圧で内径側に押し縮められてシール周溝30の底面69から離間することになり、シリンダ本体15のセカンダリ補給路38が、シリンダ本体15とセカンダリピストン19との隙間75と、ピストンシール35の背面65bとシール周溝30の対向面70との隙間74と、外周リップ部67とシール周溝30の底面69との隙間76とを介してセカンダリ圧力室63に連通してリザーバRからブレーキ液をセカンダリ圧力室63に補給する。このとき、ピストンシール35の基部65と外周リップ部67との接合部68の内側に凹部73が形成されていて、外周リップ部67の根元部の曲げ剛性が低下していることから、外周リップ部67が容易に内径側に押し縮められてシール周溝30の底面69から離間することになる。これにより、セカンダリピストン19が即座にシリンダ開口部16側に戻ることになる。
【0044】
以上に述べた第1実施形態のマスタシリンダによれば、ピストンシール35,45の基部65と外周リップ部67との接合部68の内側に凹部73が形成されることで、この凹部73によって外周リップ部67の倒れ剛性に最も寄与する根元部の曲げ剛性を低下させているため、セカンダリ圧力室63およびプライマリ圧力室86とリザーバRとに差圧が生じた場合に、リザーバRからセカンダリ圧力室63およびプライマリ圧力室86へのピストンシール35,45を介しての液補給性を向上することができる。
【0045】
また、凹部73は、ピストンシール35,45の周方向に沿って全周に形成されており、外周リップ部67の根元部の曲げ剛性を一層低下させているため、ピストンシール35,45を介しての液補給性をさらに向上することができる。
【0046】
また、ピストンシール35,45の凹部73は、従来の製造方法で形成可能であり、低コストで形成することができる。
【0047】
なお、円環状の凹部73を複数同心状に形成しても良い。また、凹部73を、ピストンシール35,45の周方向に沿って一部に円弧状に形成しても良く、その場合、例えば、円周方向に等間隔で断続的に複数形成すること等が可能である。このような構成とした場合、外周リップ部67のうち凹部73が形成された一部のみ曲げ剛性が低下することになり、ブレーキ解除時に外周リップ部67とシール周溝30,32の底面69との面圧に不均一が生じ、開口しにくい面接触状態から開口しやすい線接触状態を効果的に生じさせることができる。
【0048】
次に、本発明の第2実施形態に係るマスタシリンダを図5〜図7を参照して第1実施形態との相違部分を中心に説明する。なお、第1実施形態と同様の部分には同一の符号を付しその説明は略す。
【0049】
第2実施形態においては、ピストンシール35,45が、第1実施形態に対して相違している。つまり、図5〜図7に示すように、第2実施形態において、セカンダリ側のピストンシール35(図5〜図7において、シール周溝30,32、ピストンシール35,45、補給路38,48、圧力室63,86およびピストン18,19については、セカンダリ側のピストンシール35に対応する構成の符号を括弧無しで、後述するプライマリ側のピストンシール45に対応する構成の符号を括弧付きで示している)の外周リップ部67の内周面が、全体にわたって、基部65に対し反対側ほど径が大きくなるテーパ面67dとなっている。
【0050】
ピストンシール35には、図5および図6に示すように、基部65と外周リップ部67との接合部68の内側における少なくとも一部に、基部65においては軸線方向に凹み外周リップ部67においては径方向に凹む凹部95が、図7に示すようにピストンシール35の周方向に所定の等間隔をあけて複数形成されている。より具体的には、図5に示すように、これらの凹部95は、基部65における内周リップ部66および外周リップ部67の延出側の内面65aに径方向に沿って直線状に延在するように形成された基部溝96と、この基部溝96に連続して外周リップ部67のテーパ面67dに軸方向に沿って直線状に延在するように形成された外周リップ部溝97とを有している。なお、基部65の軸方向における外周リップ部67および内周リップ部66とは反対側の背面65bは平坦面となっている。
【0051】
よって、第1実施形態と同様、セカンダリ圧力室63の液圧が、セカンダリ補給路38およびリザーバR側の液圧より低くなると、ピストンシール35の外周リップ部67が液圧で内径側に押し縮められてシール周溝30の底面69から離間することになるが、ピストンシール35の基部65と外周リップ部67との接合部68の内側に基部溝96および外周リップ部溝97からなる凹部95が形成されていて、外周リップ部67および基部65の曲げ剛性が低下していることから、外周リップ部67が容易に内径側に押し縮められてシール周溝30の底面69から離間するとともに基部65が内径側に引き込まれるように容易に変形してシール周溝30の対向面70から離間することになる。よって、シリンダ本体15のセカンダリ補給路38が、シリンダ本体15とセカンダリピストン19との隙間75と、ピストンシール35の背面65bとシール周溝30の対向面70との隙間74と、外周リップ部67とシール周溝30の底面69との隙間76とを介してセカンダリ圧力室63に連通してリザーバRからブレーキ液をセカンダリ圧力室63に円滑に補給する。
【0052】
また、第2実施形態においても、ピストンシール45は、図5〜図7に示すように、上記ピストンシール35と同一のものとされている(図5〜図7において、シール周溝30,32、ピストンシール35,45、補給路38,48、圧力室63,86およびピストン18,19については、プライマリ側のピストンシール45に対応する構成の符号を括弧付きで示している)。つまり、ピストンシール45も、基部65と内周リップ部66と外周リップ部67とを有しており、また、外周リップ部67が、テーパ面67a、円筒面67bおよびテーパ面67dを有し、基部65と外周リップ部67との接合部68の内側に、基部溝96と外周リップ部溝97とからなる凹部95が形成されている。
【0053】
よって、プライマリ圧力室86の液圧が、プライマリ補給路48およびリザーバR側の液圧より低くなると、ピストンシール45の外周リップ部67が液圧で内径側に押し縮められてシール周溝32の底面69から離間することになるが、ピストンシール45の基部65と外周リップ部67との接合部68の内側に基部溝96および外周リップ部溝97からなる凹部95が形成されていて、外周リップ部67および基部65の曲げ剛性が低下していることから、外周リップ部67が容易に内径側に押し縮められてシール周溝32の底面69から離間するとともに基部65が内径側に引き込まれるように容易に変形してシール周溝32の対向面70から離間することになる。よって、シリンダ本体15のプライマリ補給路48が、シリンダ本体15とプライマリピストン18との隙間75と、ピストンシール45の背面65bとシール周溝32の対向面70との隙間74と、外周リップ部67とシール周溝32の底面69との隙間76とを介してプライマリ圧力室86に連通してリザーバRからブレーキ液をプライマリ圧力室86に円滑に補給する。
【0054】
このような構成の第2実施形態によれば、ピストンシール35,45の基部65と外周リップ部67との接合部68の内側に凹部95が形成されることで、外周リップ部67の曲げ剛性が低下しているため、第1実施形態と同様、セカンダリ圧力室63およびプライマリ圧力室86とリザーバRとに差圧が生じた場合に、リザーバRからセカンダリ圧力室63およびプライマリ圧力室86へのピストンシール35,45を介しての液補給性を向上することができる。
【0055】
また、凹部95が、基部65における内周リップ部66および外周リップ部67の延出方向の面65aに径方向に沿って直線状に延在する基部溝96と、基部溝96に連続して外周リップ部67のテーパ面67dに軸方向に沿って直線状に延在する外周リップ部溝97とを有しているため、外周リップ部67に加えて基部65の曲げ剛性を低下させることができ、これらが大きく撓むことで液補給時の液量を確保できる。
【0056】
なお、上記実施形態においては、基部65における内周リップ部66および外周リップ部67の延出側の内面65aにピストンシール35,45の径方向に沿って直線状に延在するように基部溝96を形成しているが、これに限らず、曲線状、円状、或いは楕円状に形成しても良い。また、外周リップ部67のテーパ面67dにピストンシール35,45の軸方向に沿って直線状に延在するように外周リップ部溝97を形成しているが、これに限らず、ピストンシール35,45の軸方向に対して傾けて延在するように外周リップ部溝97を形成しても良いし、ピストンシール35,45の軸方向と交わるように曲線状に外周リップ部溝97を形成しても良い。
【符号の説明】
【0057】
11 マスタシリンダ
15 シリンダ本体
18 プライマリピストン(ピストン)
19 セカンダリピストン(ピストン)
28 内周面
30 シール周溝(周溝)
32 シール周溝(周溝)
35,45 ピストンシール
38 セカンダリ補給路(補給路)
48 プライマリ補給路(補給路)
52 セカンダリ吐出路(吐出路)
53 プライマリ吐出路(吐出路)
63 セカンダリ圧力室(圧力室)
65 基部
66 内周リップ部
67 外周リップ部
68 接合部
73,95 凹部
86 プライマリ圧力室(圧力室)
96 基部溝96
97 外周リップ部溝
R リザーバ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ブレーキ液の吐出路とリザーバに連通する補給路とを有して有底筒状に一つの素材から形成されるシリンダ本体と、該シリンダ本体内に摺動可能に挿入され、該シリンダ本体との間で前記吐出路に液圧を供給する圧力室を形成するピストンと、前記シリンダ本体に形成された周溝内に設けられ内周が前記ピストンに摺接して前記補給路と前記圧力室との間を密封可能なピストンシールとを有し、前記シリンダ本体は軸線方向に伸びる内周面に前記周溝が外径側へ凹む環状溝として形成されるマスタシリンダにおいて、
前記ピストンシールは、円環状の基部と、該基部の内周側から延出して前記ピストンの外周面に摺接する内周リップ部と、前記基部の外周側から延出して前記シリンダ本体の前記周溝に当接する外周リップ部とを有し、前記基部と前記外周リップ部との接合部の内側における少なくとも一部に凹部を形成したことを特徴とするマスタシリンダ。
【請求項2】
前記凹部は、前記ピストンシールの周方向に沿って全周もしくは一部に形成されることを特徴とする請求項1に記載のマスタシリンダ。
【請求項3】
前記凹部は、前記基部における前記内周リップ部および前記外周リップ部の延出方向の面に径方向に沿って直線状に延在する基部溝と、該基部溝に連続して前記外周リップ部に軸方向に沿って直線状に延在する外周リップ部溝とを有することを特徴とする請求項1に記載のマスタシリンダ。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate


【公開番号】特開2011−93423(P2011−93423A)
【公開日】平成23年5月12日(2011.5.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−249132(P2009−249132)
【出願日】平成21年10月29日(2009.10.29)
【出願人】(509186579)日立オートモティブシステムズ株式会社 (2,205)
【Fターム(参考)】