説明

マトリクス型有機EL表示装置の駆動装置

【課題】マトリクス型有機EL表示装置の走査線数が多くなった場合でも輝度の経時低下を抑制し、走査線数が少ない表示装置と同等の輝度寿命を実現すること。
【解決手段】有機ELパネル11は、マトリクス状に配置された複数本数ずつの陽極線及び陰極線の各交点に発光素子が形成されており、制御回路13は、走査線(陰極線)をロウドライバ12aを通じて周期的に走査しながら所望の信号線(陽極線)にカラムドライバ12bから電流信号を与えてそれらの交点位置に形成された発光素子を発光させる。制御回路13は、走査線の1走査周期において駆動対象の発光素子が存在しない走査線がある場合に、当該発光素子が存在しない走査線についての走査を禁止することにより、1走査周期当たりの走査線数を低減させて駆動対象の発光素子が存在する走査線についての走査期間を引き延ばす制御を行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、所定本数ずつの陽極線及び陰極線の各交点に形成された複数の発光素子を備えたマトリクス型有機EL表示装置の駆動装置に関する。
【背景技術】
【0002】
図6には、従来から提供されている有機EL表示装置の駆動方法を示す。この駆動方法は、単純マトリクス駆動方式と呼ばれるもので、ここではマトリクス状配置された陽極線A1 〜AN と陰極線B1 〜BM との交点位置に発光素子(画素)が形成された有機EL表示装置を駆動対象とした例が示されている。この場合、陽極線A1 〜AN 及び陰極線B1 〜BM の何れか一方(図6の例では陰極線B1 〜BM )を一定の時間間隔で順次選択して走査すると共に、この走査周期に同期して他方(図6の例では陽極線A1 〜AN )を駆動源である電流源1-1〜1-Nからの出力によりドライブし、これにより所望の交点位置の発光素子を発光させる方式となっている。
【0003】
陰極線B1 〜BM には、その順次走査を行うために、電源電圧(+Vcc)または基準電位であるアース電位(0V)を選択するための走査スイッチ2-1〜2-Mが接続されている。これらの走査スイッチ2-1〜2-Mを、電源端子側からアース端子側へ一定周期で順次切り替えながら走査していくことにより、陰極線B1 〜BM に対しアース電位(0V)を順次与えていく。一方、陽極線A1 〜AN には、電源端子から給電される電流源1-1〜1-Nまたはアース電位(0V)を選択するための駆動スイッチ3-1〜3-Nが接続されている。これらの駆動スイッチ3-1〜3-Nを、走査スイッチ2-1〜2-Mの走査周期に同期して選択的にオンオフ制御することにより、オンされた駆動スイッチに対応した陽極線A1 〜AN を電流源1-1〜1-Nに接続する。これにより、所望の交点位置の発光素子に駆動電流を供給する。
【0004】
例えば、発光素子E1,1 、E1,2 を発光させる場合には、図6に示すように、走査スイッチ2-1のみをアース端子側に切り替えて陰極線B1 がアース電位となるように走査すると共に、駆動スイッチ3-1、3-2を電流源側に切り替えて陽極線A2 、A3 を電流源1-1、1-2にそれぞれ接続する。すると、図中矢印で示すように、発光素子E1,1 、E1,2 のみに駆動電流が供給されて発光するようになる。このような走査及び駆動動作を高速で繰り返すことにより、人間の目には残像現象により発光素子E1,1 とE1,2 とが同時に発光しているように認識させることができる。尚、非選択の陰極線B2 〜BMには電源電圧と同電位の逆バイアス電圧(+Vcc)を印加することで、それら陰極線B2 〜BM に対応する発光素子の誤発光を防止している。そして、このような走査及び駆動制御を、走査スイッチ2-1〜2-N及び駆動スイッチ3-1〜3-Mについて選択的に行うことにより、任意の位置の発光素子を同様に発光させることができる。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記従来のような駆動方法では、走査線である各陰極線B1 〜BM は、1走査周期毎に1/Mのデューティ比で走査される。従って、有機EL表示装置において必要な表示輝度Ld[cd/m2]を得るためには、各発光素子は、対応する陰極線が走査されたときに、Ld×M[cd/m2]という高い輝度で発光しなければならない。このため、表示輝度Ldが一定の場合でも、走査線数Mが大きくなると、即ち、駆動デューティ比1/Mが小さくなると、各発光素子の走査時の発光輝度(=Ld×M[cd/m2])を一段と高くする必要が出てくるため、それらに流れる駆動電流も比例的に増大することになる。ところが、EL表示装置の寿命は、各発光素子に流れる駆動電流の大小に影響を受けるという特性がある。この結果、走査線数と発光素子の50%減寿命(発光輝度が初期値の50%に低下するまでの時間)との関係を、所定の条件下(サンプルは緑色発光素子、初期輝度=400[cd/m2]、85℃作動)で実際に測定した結果を示す図7のように、有機EL表示装置において一定の表示輝度Ld[cd/m2]を実現しようとするときには、走査線数Mが増えて駆動デューティ比1/Mが小さくなる場合ほど、輝度の経時低下が著しくなる。つまり、大型または高解像度のディスプレイなど、走査線数が多い表示装置は、輝度寿命が短くなるという事情があった。
【0006】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、マトリクス型有機EL表示装置の走査線数が多くなった場合でも輝度の経時低下を抑制し、走査線数が少ない表示装置と同等の輝度寿命を実現可能になるマトリクス型有機EL表示装置の駆動装置を提供することを目的としたものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
請求項1に記載したマトリクス型有機EL表示装置の駆動装置によれば、制御回路は、走査線群を周期的に走査しながら所望の信号線に電流信号を与えることにより、それら走査線及び信号線の交点に形成された発光素子を発光させる制御を行う。そして、前記マトリクス型有機EL表示装置を構成する全走査線の数をMとし、走査線上の発光素子の何れか1個以上が発光する走査線の数をmとしたとき、前記制御回路は、前記走査線上の発光素子の何れか1個以上が発光する走査線の駆動デューティ比を1/mとし、前記全走査線を走査する状態での走査期間をTとすると、駆動デューティ比が1/mのときの各走査線の走査期間T’をT’=T(M/m)とし、前記全走査線を走査する状態での各発光素子の走査時の駆動電流をIとすると駆動デューティ比が1/mのときにおける駆動対象の発光素子の走査時の駆動電流I’をIよりも少なくする制御を行う。従って、このような制御状態時において走査される走査線については、その駆動デューティ比が大きくなるから、当該走査線の走査に応じて発光する発光素子の発光輝度を低減させた場合、つまり、信号線に与える電流信号(発光素子の駆動電流)のレベルを低減させた場合でも、マトリクス型有機EL表示装置において必要な表示輝度を得ることが可能になる。このように発光素子の駆動電流が低減される結果、マトリクス型有機EL表示装置の走査線数が多くなった場合でも輝度の経時低下を抑制し、走査線数が少ない表示装置と同等の輝度寿命を実現可能になるものである。
【0008】
また、請求項2記載の手段のように、制御回路は、駆動デューティ比が1/mのときにおける駆動対象の発光素子の走査時の駆動電流I’と、全走査線を走査する状態での各発光素子の走査時の駆動電流Iとが、I’=I(m/M)の関係となるように制御してもよい。
【0009】
また、請求項3記載の手段のように、制御回路は、全走査線のうち、発光素子が存在しない走査線についての走査を禁止する制御を行うようにしてもよい。これにより、1走査周期当たりの走査線数を低減させて駆動対象の発光素子が存在する走査線についての走査期間を引き延ばす制御を行うことができる。
【0010】
請求項4に記載したマトリクス型有機EL表示装置の駆動装置によれば、制御回路は、走査線群を周期的に走査しながら所望の信号線に電流信号を与えることにより、それら走査線及び信号線の交点に形成された発光素子を発光させる制御を行う。この場合、制御回路には、全ての走査線(M本)を走査する通常表示モードと、特定の走査線群(m本、但しm<M)のみを走査して所定範囲のみを使用した表示を行う部分表示モードとからなる表示モードが設定されている。また、制御回路は、通常表示モードの場合の各走査線の走査期間をT[秒]とし、部分表示モードの場合の各走査線の走査期間をT’[秒]とすると、T’=T(M/m)となるように走査期間を制御する。そして、駆動データ生成部は、表示モードが通常表示モードの場合には、画像メモリから全画像データ(M行)を順次読み出し、表示モードが部分表示モードの場合には、画像メモリから特定の走査線群に対応した画像データ(m行、但しm<M)を読み出すとともに、部分表示モードにおいて発光素子に与えられる駆動電流を通常表示モードにおいて発光素子に与えられる駆動電流よりも少なく設定する。このため、部分表示モード時においては、走査される走査線の駆動デューティ比が大きくなるから、当該走査線の走査に応じて発光する発光素子の発光輝度を低減させた場合、つまり、信号線に与える電流信号(発光素子の駆動電流)のレベルを低減させた場合でも、マトリクス型有機EL表示装置において必要な表示輝度を得ることが可能になる。従って、マトリクス型有機EL表示装置が部分表示モードで駆動される期間においては、発光素子の駆動電流が低減されるため輝度の経時低下が抑制されるものであり、このような抑制効果は、部分表示モードでの駆動期間が相対的に長くなるほど顕著になる。この結果、マトリクス型有機EL表示装置の走査線数が多くなった場合でも全体的に見れば、輝度の経時低下を抑制できるものであり、走査線数が少ない表示装置と同等の輝度寿命を実現可能になるものである。
【0011】
このような請求項4記載の駆動装置を採用する場合、制御回路により、前記通常表示モードでの表示輝度を相対的に低くし、且つ前記部分表示モードでの表示輝度を相対的に高くする制御を行うようにしてもよい。これにより、全画面表示を行う通常表示モード時において、走査線走査時に発光素子に印加する駆動電流のレベルを抑えることができるから、全体的に見れば、輝度寿命を延ばす上で有益となる。
【0012】
さらに、請求項4記載の駆動装置を採用する場合、制御回路により、走査線走査時の発光素子の発光輝度を前記通常表示モード時と部分表示モード時とで等しく設定することにより、通常表示モードでの表示輝度を相対的に低くし、且つ部分表示モードでの表示輝度を相対的に高くする制御を行ってもよい。この場合にも、全体に見れば輝度寿命の向上を実現できるものである。
【0013】
前記請求項4記載の駆動装置を採用する場合、請求項5記載の手段のように、通常表示モードでの走査線走査時の発光素子の発光輝度を相対的に高く設定し、部分表示モードでの走査線走査時の発光素子の発光輝度を相対的に低く設定する制御を行っても良い。このような制御が行われた場合には、部分表示モード時において、走査線走査時に発光素子に印加する駆動電流のレベルを抑えることができるから、全体的に見れば、輝度寿命を延ばす上で有益となる。
【0014】
上記請求項5記載の駆動装置を採用する場合、請求項6記載の手段のように、通常表示モードでの走査線走査時の発光素子の発光輝度を部分表示モードに比べて高く設定することにより、通常表示モード及び部分表示モードでの各表示輝度を同等レベルとなる制御を行っても良く、これによっても全体的に見れば輝度寿命の向上を実現できるようになる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
(第1の実施の形態)
以下、本発明の第1実施例について図1及び図2を参照しながら説明する。
図1には全体の電気的構成が機能ブロックの組み合わせにより示されている。この図1において、有機ELパネル11(マトリクス型有機EL表示装置に相当)は、駆動回路12、制御回路13及びこれらの電源回路14と共にモジュール化されている。具体的に図示しないが、この有機ELパネル11は図6に示した有機EL表示装置と同様構成のもので、マトリクス状に配置された複数本数ずつ(例えばM×N本:M、Nは2以上の整数)の陽極線及び陰極線の各交点に発光素子が形成され、その陽極線及び陰極線の一方(例えば陰極線)が走査線とされ且つ他方(例えば陽極線)が信号線とされている。このような有機ELパネル11の駆動時には、M本の走査線を駆動回路12内のロウドライバ12aにより周期的に走査しながら、N本の信号線のうち所望の信号線に駆動回路12内のカラムドライバ12bから電流信号を与えてそれら走査線及び信号線の交点位置に形成された発光素子を発光させることになる。
【0016】
制御回路13は、画像データ受信部13a、画像メモリ13b、走査デューティ計算部13c、駆動データ生成部13dを含んで構成されている。画像データ受信部13aは、外部装置(画像処理回路など)から送られてきた画像データを受信し、画像メモリ13bに格納する。尚、上記画像データは、有機ELパネル11に対応したM行×N列分のデータであり、この実施例では2値画像のためのオン/オフ階調のデータである。
【0017】
走査デューティ計算部13cは、画像メモリ13bに格納された画像データを読み出し、1走査周期分(1フレーム分)の画像データにおけるM本の走査線毎に、
(1) 走査線上の発光素子の何れか1個以上がオン(発光)されるか、
(2) 走査線上の発光素子はすべてオフ(非発光)であるか、
のいずれであるかを判定し、(1)と判定した走査線の数m(≦M)を求める。
【0018】
駆動データ生成部13dは、上記(1)と判定した走査線のみに対応する画像データ(m行×N列分、オン/オフ階調)を画像メモリ13bから読み出し、その画像データに基づいて駆動回路12に与える駆動データを生成する。このデータ生成時において、駆動データ生成部13dは、走査線の駆動デューティ比、走査期間、走査時の必要発光輝度、走査時の駆動電流(電流信号)のレベルを以下に示すような計算により求める。
【0019】
a.走査線の駆動デューティ比は、走査デューティ計算部13cが判定した前記走査線数mに基づいて、1/mとする。
b.走査線の駆動デューティ比が1/Mの状態(全部の走査線を走査する状態:従来と同じ駆動方法)での各走査線の走査期間をT[秒]とすると、駆動デューティ比が1/mのときの各走査線の走査期間T'は、T×(M/m)[秒]とする。
c.走査線の駆動デューティ比が1/Mの状態(従来と同じ駆動方法)における走査線上の発光素子の発光輝度L[cd/m2]に対し、駆動デューティ比が1/mのときの走査線上の発光素子の発光輝度L'は、L×(m/M)[cd/m2]とする。
d.発光輝度は駆動電流に比例するという一般的仮定のもとで、走査線の駆動デューティ比が1/Mの状態(従来と同じ駆動方法)における駆動対象の各発光素子の走査時の駆動電流I[A]に対し、駆動デューティ比が1/mのときにおける駆動対象の発光素子の走査時の駆動電流I'は、I×(m/M)[A]とする。
【0020】
駆動データ生成部13dは、以上のように生成した駆動データを駆動回路12に送信するものであり、この駆動回路12は、受信した駆動データに従って、ロウドライバ12aから走査信号を出力すると共に、カラムドライバ12bから電流信号を出力するものであり、これらの出力によって有機ELパネル11を駆動する。
【0021】
このように構成した本実施例によれば、有機ELパネル11が有するM本の走査線群の走査周期において、駆動対象の発光素子が存在しない走査線がある場合には、走査する走査線の数が、通常時のM本から、駆動対象の発光素子が存在する走査線数mまで減少されることになる。つまり、走査線群の走査周期において駆動対象の発光素子が存在しない走査線が存在する場合には、その発光素子が存在しない走査線についての走査が禁止された状態になるものであり、これにより、1走査周期当たりの走査線数を低減させて駆動対象の発光素子が存在する走査線についての走査期間を引き延ばす制御が行われる。従って、このような制御が行われた状態時において走査される走査線については、その駆動デューティ比が大きくなる。
【0022】
ここで、図2には、従来の駆動方法と本実施例の駆動方法との相違を分かり易くするために、有機ELパネル11に表示する画像例(従来:(a)、本実施例:(d))、各走査期間での発光素子の発光輝度(従来:(b)、本実施例(e))、駆動電流のレベル(従来:(c)、本実施例:(f))を模式的に示した。
この図2において、M本の走査線を有する有機ELパネル11において(a)、(d)に示すような形象C(駆動対象の発光素子を含む走査線数がm本)を表示する場合、従来では、駆動対象発光素子が存在しない走査線(形象Cと対応しない(M−m)本の走査線)についても走査するため、1走査周期においてM本の走査線を走査することになる。従って、各走査線の走査期間Tが(b)に示すように相対的に短くなり、走査線の駆動デューティ比は1/Mになる。この結果、各発光素子の走査時の発光輝度を相対的に高くする必要が出てくるため、それらに流れる駆動電流Iも(c)に示すように比例的に増大することになる。
【0023】
これに対して、本実施例による駆動方法では、1走査周期当たりの走査線数がm本に低減されるため、それらの走査線の走査期間T'(=T×(M/m)[秒])が(d)に示すように従来方法に比べて長くなり、走査線の駆動デューティ比は1/mに増大されることになる。この結果、各発光素子の走査時の発光輝度を相対的に高くする必要がなくるため、それらに流れる駆動電流I'(=I×(m/M)[A])も(f)に示すように比例的に減少することになる。
【0024】
要するに、本実施例によれば、駆動対象の発光素子が存在しない走査線がある場合(例えば図2(a)、(d)に示すような形象Cを表示する場合)には、走査線を走査するときの駆動デューティ比が大きくなるから、当該走査線の走査に応じて発光する発光素子の発光輝度を低減させた場合、つまり、信号線に与える電流信号(発光素子の駆動電流)のレベルを低減させた場合でも、有機ELパネル11において必要な表示輝度を得ることが可能になる。このように発光素子の駆動電流が低減される結果、有機ELパネル11の走査線数が多くなった場合でも輝度の経時低下を抑制し、走査線数が少ない有機ELパネルと同等の輝度寿命を実現可能になるものである。
【0025】
(参考例)
図3には本発明の参考例が示されており、以下これについて前記第1実施例と異なる部分のみ説明する。尚、この参考例のハードウェア構成は第1実施例における図1と同様であるから、この図1も参照する。
この参考例では、画像データ受信部13aが外部装置から受信して画像メモリ13bに格納するM行×N列分の画像データは、複数段階の階調表示画像のためのK階調のデータである。また、この画像データに基づいた有機ELパネル1の駆動時には、M本の走査線を駆動回路12内のロウドライバ12aにより周期的に走査しながら、N本の信号線のうち所望の信号線に駆動回路12内のカラムドライバ12bから複数段階のパルス幅の電流信号を選択的に与えてそれら走査線及び信号線の交点位置に形成された発光素子を上記電流信号パルス幅に応じた複数段階の階調レベルで発光させることになる。
【0026】
走査デューティ計算部13cは、画像メモリ13bに格納された画像データを読み出し、各走査線毎に、その走査線上の発光素子の階調レベルの最大値k1〜kMを求める。そして、第1番目から第M番目の走査線の各走査期間を、それぞれの走査線上の発光素子の階調レベルの最大値k1〜kMに比例した期間となるように設定する。但し、1回の走査周期は、第1実施例と同じ(各走査線の走査期間をT とした場合、T×M)である。従って、第m番目の走査線の走査期間T'mは、次式(1)のような値となる。
【0027】
【数1】

この(1)式において、km=0のときには、T'm=0となる。つまり、第m番目の走査線上の全部の発光素子の階調レベルが零のときには、当該走査線は走査されないことになるものであり、この点は第1実施例と同様である。
【0028】
駆動データ生成部13dは、走査デューティ計算部13cの計算結果と、画像メモリ13bに格納された画像データとに基づいて、以下に述べるような手順に従い、走査線走査時の必要発光輝度、走査時の駆動電流(電流信号)のレベルを計算する。
【0029】
即ち、第m番目の走査線の最大階調レベルkmに対応する発光素子を走査するときの発光輝度L'm[cd/m2]は、従来方法での走査時の発光輝度(フル階調レベル時の輝度をL[cd/m2]としたときの階調レベルを考慮した輝度L×(km/K)[cd/m2])との以下のような等式(2)により求めることができる。
【0030】
【数2】

この等式(2)から次式(3)が得られる。
【数3】

この式(3)の右辺には、第m番目の走査線についてのファクタが存在しないため、各走査線の最大階調レベルに対応した発光素子の走査時における発光輝度L'm[cd/m2]は、どの走査線でも一定になる。従って、これ以降の説明ではL'mをL'と表記することにする。この結果、次式(4)が得られる。
【0031】
【数4】

この式(4)から、次のことが分かる。即ち、第m番目の走査線上の発光素子の階調レベルの最大値kmが全てフル階調のとき(km=K(m=1〜M))の場合に限り、本実施例の駆動方法による各走査線の走査時の発光輝度L'は、フル階調レベル時の輝度Lと一致することになるため、前記第1実施例のような効果は得られない。しかし、有機ELパネル11の実際の駆動時には、走査線上の発光素子の階調レベルの最大値kmが全てフル階調になる状態が常時において発生する訳ではなく、これ以外の状態ではL'<Lの関係となるから、後述するように第1実施例と同様の効果が得られるようになる。
【0032】
ここで、発光素子の発光輝度が駆動電流に比例するという仮定のもと、従来の駆動方法で必要な駆動電流I[A]に対して、本参考例において必要な駆動電流I'は以下の式(5)で表せる。
【0033】
【数5】

走査線上において最大階調レベルkm以外の階調レベルとなる各発光素子には、その走査期間中に印加される駆動電流(電流信号)のパルス幅を制御することにより、所定の輝度、階調レベルを得るものとする。この場合、第i行第j列の発光素子に印加されるパルス幅Pijは、次式(6)で得られる。
【0034】
【数6】

一方、駆動データ生成部13dは、画像データ(m行×N列分、K階調)を画像メモリ13bから読み出し、その画像データに応じた駆動データを、上述した手順に従って計算した走査期間、各走査線の走査時の最大駆動電流を考慮して生成し、駆動回路12に送信する。この駆動回路12は、受信した駆動データに従って、ロウドライバ12aから走査信号を出力すると共に、カラムドライバ12bから電流信号を出力する。この際、各発光素子に印加される駆動電流及びそのパルス幅は、前記式(5)、(6)で表されることになる。
【0035】
このように構成した本参考例によれば、各発光素子が、外部から与えられる画像データに応じた複数段階の階調レベルで発光される。この場合、走査線群の1走査周期における各走査線の走査期間を、当該走査線上に存在する駆動対象発光素子の最大階調レベルkmと比例した期間となるように制御することが行われる。このため、例えば、走査線上に駆動対象の発光素子が存在しない場合には、駆動対象発光素子の最大階調レベルkmが零とみなされて、その発光素子が存在しない走査線についての走査は行われない。また、駆動対象の発光素子が存在する走査線については、その駆動対象発光素子の最大階調レベルkmが相対的に低い場合に走査期間が短くなるように制御されるため、このような走査線が存在する場合或いは上記した走査が行われない走査線が存在する場合には、それ以外の走査線、つまり、最大階調レベルkmが相対的に高い状態の駆動対象発光素子が存在する走査線の走査期間が引き延ばされることになる。従って、相対的に高い階調レベルでの表示が要求される発光素子が存在する走査線については、その駆動デューティ比が大きくなる。
【0036】
ここで、図3には、従来の駆動方法と本参考例の駆動方法との相違を分かり易くするために、有機ELパネル11に表示する画像例(従来:(a)、本参考例:(d))、各走査期間での発光素子の発光輝度(従来:(b)、本参考例(e))、駆動電流のレベル(従来:(c)、本参考例:(f))を模式的に示した。尚、図(a)、(d)において、領域11aは階調レベルが零(走査線上に発光する発光素子がない状態、領域11bは階調レベルが中程度、領域11cは階調レベルが最大の状態を示す。
【0037】
この図3において、M本の走査線を有する有機ELパネル11において(a)、(d)に示すような3段階の階調表示を行う場合、従来では、全部の走査線(M本)について走査することになる。従って、各走査線の走査期間Tが(b)に示すように相対的に短くなり、走査線の駆動デューティ比は1/Mになる。この結果、各発光素子の走査時の発光輝度を相対的に高くする必要が出てくるため、それらに流れる駆動電流Iも(c)に示すように比例的に増大することになる。
【0038】
これに対して、本参考例による駆動方法では、走査線上に駆動対象の発光素子が存在しない場合には当該走査線(領域11a中の走査線)の走査が行われず、また、駆動対象発光素子の最大階調レベルkmが相対的に低い走査線(領域11b中の走査線)については、その走査期間が短くなるように制御され、この逆に、駆動対象発光素子の最大階調レベルkmが相対的に高い走査線(領域11c中の走査線)については、その走査期間T'が(e)に示すように長くなるように制御される。この結果、各発光素子の走査時の発光輝度を相対的に高くする必要がなくるため、それらに流れる駆動電流I'(=I×(m/M)[A])も(f)に示すように比例的に減少することになる。
【0039】
要するに、本参考例によれば、駆動対象発光素子の最大階調レベルkmが高い状態の走査線については、その走査線を走査するときの駆動デューティ比が大きくなるから、当該走査線の走査に応じて発光する発光素子の発光輝度を低減させた場合、つまり、信号線に与える電流信号(発光素子の駆動電流)のレベルを低減させた場合でも、有機ELパネル11において必要な表示輝度を得ることが可能になる。このように発光素子の駆動電流が低減される結果、有機ELパネル11の走査線数が多くなった場合でも輝度の経時低下を抑制し、走査線数が少ない有機ELパネルと同等の輝度寿命を実現可能になるものである。
【0040】
(第2の実施の形態)
図4及び図5には本発明の第2実施例が示されており、以下これについて前記第1実施例及び参考例と異なる部分のみ説明する。
全体の電気的構成を機能ブロックの組み合わせにより示す図3において、この実施例では、第1実施例及び参考例における制御回路13に代えて、制御回路15を設けている。この制御回路15内の画像データ受信部15aは、外部装置から送られてきた画像データ(M行×N列、K階調)を受信し、画像メモリ15bに格納する。駆動データ生成部15cは、外部から指定された表示モードに従い画像メモリ15bから画像データを読み出して駆動データを生成し、その駆動データを駆動回路12に与える。
【0041】
ここで、上記表示モードとしては、有機ELパネル11の全部の走査線を走査して全画面を比較的低い発光輝度で表示する「低輝度フル画面モード」(本発明でいう通常表示モードに相当)と、特定の走査線群のみを走査して所定範囲のみを使用した画面表示を比較的高い発光輝度で行う「高輝度サブ画面モード」(本発明でいう部分表示モードに相当)とが設定されている。
【0042】
駆動データ生成部15cは、表示モードが低輝度フル画面モードの場合には、画像メモリ15bから、1フレーム分の全画像データ(M行×N列、K階調)を順次読み出す。また、駆動データ生成部15cは、表示モードが高輝度サブ画面モードの場合には、画像メモリから特定の走査線群に対応した画像データ(m行×N列、K階調)を読み出す。尚、m<Mである。ここで、低輝度フル画面モードの場合の各走査線の走査期間をT[秒]とし、高輝度サブ画面モードの場合の各走査線の走査期間をT'[秒]とすると、T'=T×(M/m)、T'>Tの関係が成り立つ。
【0043】
駆動データ生成部15cは、読み出した画像データに基づいて以下のような条件の駆動データを生成する。つまり、低輝度フル画面モードの場合における走査線走査時の各発光素子の最大発光輝度をL[cd/m2]とした場合、高輝度サブ画面モードの場合における走査線走査時の各発光素子の最大発光輝度もL[cd/m2]に設定する。また、低輝度フル画面モードの場合における走査線走査時の各発光素子の最大駆動電流をI[A]とした場合、高輝度サブ画面モードの場合における走査線走査時の各発光素子の最大駆動電流もI[A]に設定する。このような駆動データを受信した駆動回路12は、その駆動データに従って、ロウドライバ12aから走査信号を出力すると共に、カラムドライバ12bから電流信号を出力する。
【0044】
このように構成した本実施例によれば、有機ELパネル11の表示モードとして、全部の走査線を走査して比較的低い表示輝度で全画面表示する低輝度フル画面モードと、特定の走査線群のみを走査して所定範囲のみを使用した表示を比較的高い表示輝度で行う高輝度サブ画面モードとを設定すると共に、走査線走査時の発光輝度を、低輝度フル画面モード時と高輝度サブ画面モード時とで等しく設定している。これにより、高輝度サブ画面モード時においては、走査される走査線の走査期間が引き延ばされて、走査される走査線の駆動デューティ比が大きくなり、必要な発光輝度を得るための駆動電流が抑制される。
【0045】
ここで、図5には、表示モードを2種類設定した本実施例の駆動方法について分かり易くするために、有機ELパネル11に表示する画像例(低輝度フル画面モード:(a)、高輝度サブ画面モード:(d))、各走査期間での発光素子の発光輝度(低輝度フル画面モード:(b)、高輝度サブ画面モード(e))、駆動電流のレベル(低輝度フル画面モード:(c)、高輝度サブ画面モード:(f))を模式的に示した。
この図5において、低輝度フル画面モード時には、M本の走査線の各走査期間Tが短くなって、その駆動デューティ比が小さくなるものの、駆動電流Iが抑制された状態となる。また、高輝度サブ画面モード時には、m本の走査線の各走査期間T'が引き延ばされることになるため、同様の電流Iでも高発光輝度を得ることが可能になる。
【0046】
要するに、本実施例によれば有機ELパネル11が低輝度フル画面モード及び高輝度サブ画面モードで駆動される各期間の何れにおいても、発光素子の駆動電流が低減されるため輝度の経時低下が抑制されるものである。この結果、有機ELパネル11の走査線数が多くなった場合でも輝度の経時低下を抑制し、走査線数が少ない表示装置と同等の輝度寿命を実現可能になるものである。
【0047】
(他の実施の形態)
その他、本発明は上記した実施例に限定されるものではなく、以下に述べるような変形或いは拡張が可能である。
第3実施例では、通常表示モードとして、全画面を比較的低い発光輝度で表示する「低輝度フル画面モード」を設定すると共に、部分表示モードとして、画面の所定範囲のみを使用して比較的高い発光輝度で行う「高輝度サブ画面モード」を設定する構成としたが、フル画面モード時の発光輝度を低輝度にする必要はない。このように全画面を使用する通常表示モード時の発光輝度を上げた場合には、発光素子の駆動電流が、最大で従来と同程度まで増えるため発光輝度の経時低下が予想される。しかし、部分表示モードで駆動される期間においては、発光素子の駆動電流が低減されるため発光輝度の経時低下が抑制されるものであり、このような抑制効果は、部分表示モードでの駆動期間が相対的に長くなるほど顕著になる。この結果、マトリクス型有機EL表示装置の走査線数が多くなった場合でも全体的に見れば、輝度の経時低下を抑制できるものであり、走査線数が少ない表示装置と同等の輝度寿命を実現可能になるものである。
従って、例えば、通常表示モード及び部分表示モードでの各発光輝度を等しく設定しても、全体的に見れば、輝度寿命の向上を実現できることになる。
【0048】
また、通常表示モード及び部分表示モードを設定する場合、通常表示モードでの走査線走査時の発光素子の発光輝度を相対的に高く設定し、部分表示モードでの走査線走査時の発光素子の発光輝度を相対的に低く設定する制御を行っても良い。このような制御が行われる場合には、部分表示モード時において、走査線走査時に発光素子に印加する駆動電流のレベルを抑えることができるから、全体的に見れば、輝度寿命を延ばす上で有益となる。
【0049】
さらに、通常表示モードでの走査線走査時の発光素子の発光輝度を相対的に高く設定すると共に、部分表示モードでの走査線走査時の発光素子の発光輝度を相対的に低く設定することにより、前記通常表示モード及び部分表示モードでの各表示輝度を同等レベルとなるようにしても良く、これによっても全体的に見れば輝度寿命の向上を実現できるようになる。
【図面の簡単な説明】
【0050】
【図1】本発明の第1実施例を示す電気的構成の機能ブロック図
【図2】動作説明図
【図3】本発明の参考例を示す図2相当図
【図4】本発明の第2実施例を示す図1相当図
【図5】図2相当図
【図6】従来例の駆動方法を説明するための等価的回路構成図
【図7】輝度寿命特性図
【符号の説明】
【0051】
図面中、11は有機ELパネル(マトリクス型有機EL表示装置)、12は駆動回路、13、15は制御回路を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
マトリクス状に配置された複数本数ずつの陽極線及び陰極線の各交点に発光素子が形成され、前記陽極線及び陰極線の一方が走査線とされ且つ他方が信号線とされるマトリクス型有機EL表示装置のための駆動装置であって、走査線を周期的に走査しながら所望の信号線に電流信号を与えてそれら走査線及び信号線の交点位置に形成された発光素子を発光させる制御回路を備えた駆動装置において、
前記マトリクス型有機EL表示装置を構成する全走査線の数をMとし、走査線上の発光素子の何れか1個以上が発光する走査線の数をmとしたとき、
前記制御回路は、
前記走査線上の発光素子の何れか1個以上が発光する走査線の駆動デューティ比を1/mとし、
前記全走査線を走査する状態での走査期間をTとすると、駆動デューティ比が1/mのときの各走査線の走査期間T’をT’=T(M/m)とし、
前記全走査線を走査する状態での各発光素子の走査時の駆動電流をIとすると、駆動デューティ比が1/mのときにおける駆動対象の発光素子の走査時の駆動電流I’を、Iよりも少なくする制御を行うことを特徴とするマトリクス型有機EL表示装置の駆動装置。
【請求項2】
請求項1記載のマトリクス型有機EL表示装置の駆動装置において、
前記制御回路は、前記駆動デューティ比が1/mのときにおける駆動対象の発光素子の走査時の駆動電流I’と、前記全走査線を走査する状態での各発光素子の走査時の駆動電流Iとが、I’=I(m/M)の関係となるように制御することを特徴とするマトリクス型有機EL表示装置の駆動装置。
【請求項3】
請求項1または2記載のマトリクス型有機EL表示装置の駆動装置において、
前記制御回路は、前記全走査線のうち、発光素子が存在しない走査線についての走査を禁止する制御を行うことを特徴とするマトリクス型有機EL表示装置の駆動装置。
【請求項4】
マトリクス状に配置された複数本数ずつの陽極線及び陰極線の各交点に発光素子が形成され、前記陽極線及び陰極線の一方が走査線とされ且つ他方が信号線とされるマトリクス型有機EL表示装置のための駆動装置であって、走査線を周期的に走査しながら所望の信号線に電流信号を与えてそれら走査線及び信号線の交点位置に形成された発光素子を発光させる制御回路を備えた駆動装置において、
前記制御回路には、全ての走査線(M本)を走査する通常表示モードと、特定の走査線群(m本、但しm<M)のみを走査して所定範囲のみを使用した表示を行う部分表示モードとからなる表示モードが設定されており、前記制御回路は、前記通常表示モードの場合の各走査線の走査期間をT[秒]とし、前記部分表示モードの場合の各走査線の走査期間をT’[秒]とすると、T’=T(M/m)となるように走査期間を制御するとともに、画像メモリと、駆動データ生成部とを有し、
前記駆動データ生成部は、前記表示モードが前記通常表示モードの場合には、前記画像メモリから全画像データ(M行)を順次読み出し、前記表示モードが前記部分表示モードの場合には、前記画像メモリから特定の走査線群に対応した画像データ(m行、但しm<M)を読み出すとともに、前記部分表示モードにおいて前記発光素子に与えられる駆動電流を前記通常表示モードにおいて前記発光素子に与えられる駆動電流よりも少なく設定することを特徴とするマトリクス型有機EL表示装置の駆動装置。
【請求項5】
請求項4記載のマトリクス型有機EL表示装置の駆動装置において、
前記駆動データ生成部は、前記通常モードでの走査線走査時の前記発光素子の発光輝度を前記部分表示モードに比べて高く設定することを特徴とするマトリクス型有機EL表示装置の駆動装置。
【請求項6】
請求項5記載のマトリクス型有機EL表示装置の駆動装置において、
前記駆動データ生成部は、前記通常表示モードでの走査線走査時の発光素子の発光輝度を前記部分表示モードに比べて高く設定することにより、前記通常表示モード及び部分表示モードでの各表示輝度を同等レベルに制御することを特徴とするマトリクス型有機EL表示装置の駆動装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2007−226256(P2007−226256A)
【公開日】平成19年9月6日(2007.9.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−92970(P2007−92970)
【出願日】平成19年3月30日(2007.3.30)
【分割の表示】特願2002−78668(P2002−78668)の分割
【原出願日】平成14年3月20日(2002.3.20)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)
【Fターム(参考)】