説明

マトリックスコンバーターの制御方法、及び、この方法を実行可能なマトリックスコンバーター

【課題】出力電圧の歪みを可能な限り制限しながら、ネットワークから生じる入力電圧の最大振幅を用いることを可能にするマトリックスコンバータータイプの可変速駆動装置の制御方法を提供する。
【解決手段】ダイレクト・マトリックスコンバータータイプの可変速駆動装置において、入力電圧の100%に等しい出力電圧を得るため、負荷に印加されることを意図された制御電圧ベクトル(ベクトルVmot)を、最大で、3つの入力相と3つの出力相との間の正確な結合により定義された回転電圧ベクトル(ベクトルV3/3)の振幅まで増幅するステップと、制御電圧ベクトル(ベクトルVmot)を、回転電圧ベクトル(ベクトルV3/3)と同じ周波数(f2)且つ同相に設定可能にする同期化および位相整合ステップと、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マトリックスコンバータータイプの可変速駆動装置の制御方法、この方法を実行可能なマトリックスコンバーターに関する。
【背景技術】
【0002】
ダイレクト・マトリックスコンバータータイプの可変速駆動装置は、3つのスイッチングセルを有するスイッチングマトリックス内に配置された9つの双方向スイッチを備える。このスイッチングマトリックスは、一方の側が、AC電圧源、例えばネットワークに結合された3つの入力相(input phases)u,v,wに接続され、且つ、他方の側が、例えばモーターの様な電気負荷に結合された3つの出力相(output phases)a,b,cに接続されている。スイッチは、ある出力相を入力相のうちの何れか1つに接続するように、個々に制御される。
【0003】
一般的に、マトリックスコンバーターのスイッチの制御命令は、空間ベクトル変調(SVM)、ベクトル変調またはインターセクティブ変調(intersective modulation)のような様々な方法により生成され得る。
【0004】
マトリックスコンバーターを制御するのにどのような方法が用いられても、負荷に印加される出力電圧の最大振幅は、ネットワーク上で得られる入力電圧の振幅の87%に制限されることが知られている。この状況は、特に特許出願US2008/049469に記載されている。”A novel control method for forced commutated cycloconverters using instantaneous values of input line-to-line voltages”と題され、アキオ イシグロ、タケシ フルハシ及びシゲル オクマにより作成された文献「IEEE TRANSACTIONS ON INDUSTRIAL ELECTRONICS, vol. 38, No.3, June 1991」も、この現象を記載している。
【0005】
しかしながら、特定の用途に関して、且つ、効率を最適化するため、ネットワーク上で得られる入力電圧の振幅の最大値を用いることができる必要があることが分かり得る。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、出力電圧の歪みを可能な限り制限しながら、ネットワークから生じる入力電圧の最大振幅を用いることを可能にするマトリックスコンバータータイプの可変速駆動装置の制御方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この目的は、
3つの入力相であって、入力電圧を、前記入力相と、電気負荷に接続された3つの出力相と、の間に加えるAC電圧源に接続された、3つの入力相と、
3つのスイッチングセルに分配される電流と電圧に関して双方向性であると共に、制御電圧ベクトルを前記負荷に加える目的で、1つの出力相を前記入力相のうちの何れか1つに接続するように個々に制御されることを意図された9つの電気スイッチと、
を備えるダイレクト・マトリックスコンバータータイプの可変速駆動装置において実行される制御方法であって、
前記制御電圧ベクトルを、前記3つの入力相と前記3つの出力相との間の正確な結合により定義された回転電圧ベクトルと同じ周波数に、且つ、この回転電圧ベクトルと同相に設定可能にする、同期化および位相整合ステップと、
前記制御電圧ベクトルを、前記入力電圧の振幅の87%を越え、且つ、最大で前記回転電圧ベクトルの振幅まで増幅するステップと、
を備えることを特徴とする方法によって達成される。
【0008】
本発明の1つの特長によれば、前記同期化および位相整合ステップと、前記増幅ステップは、少なくとも一部が同時に実行される。
【0009】
他の特長によれば、選択された前記回転電圧ベクトルは、最も近いものであり、且つ、前記制御電圧ベクトルと同一方向に回転するものである。
【0010】
特有の実施形態によれば、前記増幅ステップは、前記回転電圧ベクトルに対する前記制御電圧ベクトルの位相シフトがπ/3より小さい時に開始する。好ましくは、前記増幅ステップは、前記回転電圧ベクトルに対する前記制御電圧ベクトルの位相シフトがπ/6より小さい時に開始する。更に有利な態様では、前記増幅ステップ並びに前記位相整合および同期化ステップは、前記制御電圧ベクトルから生じる(arising)合成電圧の最大値を、前記入力相間の合成電圧の最大値より低く各瞬間にて保持している間に、実行される。
【0011】
本発明は、また、
3つの入力相であって、入力電圧を、前記入力相と、電気負荷に接続された3つの出力相と、の間に加えるAC電圧源に接続された、3つの入力相と、
3つのスイッチングセルに分配される電流と電圧に関して双方向性であると共に、制御電圧ベクトルを前記負荷に加える目的で、1つの出力相を前記入力相のうちの何れか1つに接続するように個々に制御されることを意図された9つの電気スイッチと、
を備えるマトリックスコンバータータイプの可変速駆動装置であって、
前記制御電圧ベクトルを、前記入力電圧の振幅の87%を越え、且つ、最大で、前記3つの入力相と前記3つの出力相との間の正確な結合により定義された回転電圧ベクトルの振幅まで増幅し、そして、前記制御電圧ベクトルを前記回転電圧ベクトルと同じ周波数に同期化し、そして、前記制御電圧ベクトルを前記回転電圧ベクトルと同相に設定するように設計された制御手段を備える
ことを特徴とする可変速駆動装置に関する。
【0012】
前記可変速駆動装置の1つの特長によれば、選択された前記回転電圧ベクトルは、最も近いものであり、且つ、前記制御電圧ベクトルと同一方向に回転するものである。
【0013】
他の特長によれば、前記制御電圧ベクトルを増幅する前記制御手段は、前記回転電圧ベクトルに対する前記制御電圧ベクトルの位相シフトがπ/3より小さい、好ましくはπ/6より小さい時に起動される。有利には、前記制御手段は、前記制御電圧ベクトルから生じる合成電圧の最大値を、前記入力相間の合成電圧の最大値より低く各瞬間にて保持している間に、作動させられる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
他の特徴及び利点は、一例として与えられ、添付図面によって表現された実施形態を参照して以下の詳細な説明において明らかになる。
【図1】図1はマトリックスコンバータータイプの可変速駆動装置の実現の原理を概略的に表す。
【図2】図2は、本発明の制御方法の動作原理を示す図を表す。
【図3】図3は、制御電圧ベクトルが置かれる基準フレームを示す。
【図4】図4は、特に選択された回転電圧ベクトルの関数として制御電圧ベクトルを表すのに用いられる基準フレームを表す。
【図5A】図5Aは、本発明の動作原理を示すことができる様々な曲線を表す。
【図5B】図5Bは、本発明の動作原理を示すことができる様々な曲線を表す。
【図5C】図5Cは、本発明の動作原理を示すことができる様々な曲線を表す。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下の説明では、単純化する理由で、出力電圧の最大振幅の制限は入力電圧の振幅の87%に固定されているが、それは、従来技術で周知の電圧間の√3/2の比に実際には相当する。
【0016】
図1を参照すると、マトリックスコンバータータイプの可変速駆動装置は、電流と電圧に関して双方向性である、各々3つのスイッチからなる3つのスイッチングセルCel1,Cel2,Cel3を有するスイッチングマトリックスの形に配列された、例えば、直列のダブルIGBT+逆並列ダイオード、又は、RB−IGBT(2つのIGBTスイッチを備える逆阻止IGBTを表す)のような9つのスイッチを備える。可変速駆動装置は、AC電圧源、例えば電気ネットワークに接続された3つの入力相u,v,wと、制御される電気負荷(図示せず)、例えば電気モーターに接続された3つの出力相a,b,cと、を更に備える。
【0017】
各々の9つの双方向スイッチは、1つの出力相a,b,cを入力相u,v,wのうちの何れか1つに接続するように個々に制御される。双方向スイッチの制御は、スイッチングマトリックスのスイッチのデューティ比を有する3×3制御マトリックスに基づいて実行される。各スイッチングセルCel1,Cel2,Cel3は、出力相a,b又はcの電圧を、3つの入力相u,v,wに接続された3つのスイッチのデューティ比に基づいて制御する。動作中、スイッチングセルCel1,Cel2,Cel3ごとに1つのスイッチが閉状態に命令され得る。図において、fau,fav,faw,fbu,fbv,fbw,fcu,fcv,fcwと指定された点は、それぞれ双方向スイッチを表す。
【0018】
慣例により各スイッチングセルのスイッチは、1から3に番号付けられている。従って、スイッチングマトリックスのアクティブ状態を特定するため、各セルの閉じたスイッチのインデックス番号が示されている。例えば、アクティブ状態131は、セルCel1の上部のスイッチ(fau−No.1)が閉じていて、セルCel2の下部のスイッチ(fbw−No.3)が閉じていて、且つ、セルCel3の上部のスイッチ(fcu−No.1)が閉じていることを表す。
【0019】
3×3制御マトリックス(行列)は、以下の形式をとる。
【数1】

ここで、a,a,aは、スイッチfau,fav,fawの各々のデューティ比であり、
,b,bは、スイッチfbu,fbv,fbwの各々のデューティ比であり、
,c,cは、スイッチfcu,fcv,fcwの各々のデューティ比である。
【0020】
制御マトリックスは、空間ベクトル変調(SVM)、ベクトル変調またはインターセクティブ変調のような、様々な方法で得られ得る。
【0021】
制御電圧ベクトル(ベクトルVmot)は、モーターに加えられる出力電圧を表す。
【0022】
図2を参照すると、上述したタイプのマトリックスコンバーターにおいて、単一の出力電圧Van’,Vbn’,Vcn’は、決定された制御法則、例えば図2に示されたU/Fタイプの法則に従って負荷に供給される電流の周波数fs(ステーター(固定子)周波数とも呼ばれる)の関数として変化することが知られている。図2において、出力電圧は、出力周波数fsの関数として、単一の入力電圧Vun,Vvn,Vwnの振幅の87%(√3/2)にほぼ等しい最大振幅まで増加する。
【0023】
本発明の原理は、モーターに加えられる電圧の歪みを制限し、且つ、さらに避けながら、負荷に、その振幅が入力電圧Vun,Vvn,Vwnの振幅の100%に等しい制御電圧ベクトル(ベクトルVmot)を加えることができることにある。
【0024】
この目的のため、本発明のマトリックスコンバーターは、その振幅が入力電圧Vun,Vvn,Vwnの振幅の100%に等しく、且つ、ネットワークの周波数f2に同期している、出力電圧Van’,Vbn’,Vcn’を得ることを可能にする特有の制御方法を実行する。本発明の制御方法は、従って、出力電圧Van’,Vbn’,Vcn’の振幅が入力電圧Vun,Vvn,Vwnの振幅の87%の閾値を越えることができるように、実行される。図2は、例えば、破線を介して点A’から点Bに達することにある本発明の原理を示す。点A’は、例えば、入力電圧Vun,Vvn,Vwnの振幅の87%に等しい出力電圧Van’,Vbn’,Vcn’の最大振幅に相当する。制御電圧ベクトル(ベクトルVmot)は、出力電圧を表し、従ってネットワークの周波数f2より高い又は低くても良い周波数f1にある。図2において、点A’は、従って、入力電圧の振幅の87%に等しい出力電圧の振幅を表す水平の破線上のどこへでも位置し得る。
【0025】
入力電圧Vun,Vvn,Vwnの100%に等しい出力電圧Van’,Vbn’,Vcn’を得るために、本発明の制御方法は、2つのステップ、制御電圧ベクトル(ベクトルVmot)の同期および位相整合(phasing)ステップと、制御電圧ベクトル(ベクトルVmot)を増幅するステップと、を備える。これらの2つのステップは、順々に、又は、有利な方法では少なくとも一部が同時に、実行され得る。
【0026】
より正確には、従って、同期、および、制御電圧ベクトル(ベクトルVmot)を回転電圧ベクトル(ベクトルV3/3)と同相に設定するステップと、制御電圧ベクトル(ベクトルVmot)の振幅を、入力電圧の振幅の100%まで増幅するステップと、を備える本発明の制御方法が得られる。
【0027】
マトリックスコンバーターのベクトル表現において、各々の出力相を異なる入力相に正確に接続できるようにする6つの回転ベクトル(ベクトルV3/3)が存在する。これらの6つの回転ベクトルは、コンバーターの双方向スイッチの次のスイッチングの組み合わせにより定義される:123,132,213,321,231,312。これらの6つの回転ベクトルのうち、3つのベクトル、即ちベクトル(ベクトルV123,ベクトルV231,ベクトルV312)は反時計回り(Sr1、図3及び4)に回転し、且つ、3つの他のもの(ベクトルV132,ベクトルV231,ベクトルV312)は時計回り(Sr2、図4)に回転する。以下の説明では、制御電圧ベクトル(ベクトルVmot)は反時計回り(Sr1)に回転することが任意に仮定されている。その結果、電圧ベクトル(ベクトルV3/3)は、ベクトル(ベクトルV123,ベクトルV231,ベクトルV312)の中から選択されるであろう。もちろん、もし制御電圧ベクトル(ベクトルVmot)がネットワークに関して時計回り(Sr2)に回転すれば(モーターの回転方向の変化)、反対方向に回転する他の3つの電圧ベクトル(ベクトルV3/3)(ベクトルV132,ベクトルV231,ベクトルV312)も使用できるであろう。
【0028】
図2において、点A’からBに直接達する、即ちAを介さずに達することは、特に、本発明の目的を、モーターの減磁(defluxing)を引き起こすことなく加速度の制限を必然的に含み、達することができるようにする。
【0029】
理論では、制御電圧ベクトル(ベクトルVmot)によってたどられた軌跡は、この同期時間tsyncに適合するのに必要な加速度を定義しながら、且つ、出力電圧の歪みを制限し又は更に避けることができる決定された電圧上昇プロファイルに適合しながら、制御電圧ベクトル(ベクトルVmot)をネットワークの周波数f2に至らせることができるようにする、同期時間tsyncを考慮することでモデル化され得る。
【0030】
この同期時間tsyncと、同期時間tsyncに適合するのに必要な加速度Aと、を決定するために、モーターが、ネットワークの周波数f2より低い、例えば50Hzに等しい周波数f1で回転するということが仮定される。制御電圧ベクトル(ベクトルVmot)と、回転ベクトル(ベクトルV3/3)中の最も近いものとの間に、従って、
Δf=f2−f1 (1)
に等しい周波数ギャップが存在する。
【0031】
この周波数ギャップは、最初の瞬間にてΔfに等しく、且つ、制御電圧ベクトル(ベクトルVmot)と回転ベクトル(ベクトルV3/3)との間の同期に近づく状態でゼロである傾向がある。
【0032】
さらに、Δθは、制御電圧ベクトル(ベクトルVmot)と選択された回転ベクトル(ベクトルV3/3)との間に形成された角度を示し、この角度は初期ではΔθに等しい。同期および位相整合ステップの目的は、この角度をゼロにすることである。
【0033】
さらに、Aを、Hz/sで表され且つ一定と仮定され、モーターに加えられ、それをネットワークの周波数f2に到達するようにする加速度とする。我々は従って、
Δf(t)=Δf−At 及び
Δθ(t)=Δθ−2πΔft+πAt (2)
を得る。
【0034】
システムは、tsyncが、
【数2】

及び
【数3】

を満たす瞬間に同期される。
【0035】
従って、
【数4】

を得る。
【0036】
好ましくは、任意の歪みを避けるために、電圧上昇はΔθがπ/6より小さい時にのみ開始し得る、ということを理解すると、Δθ=π/6の時、初期の周波数ギャップΔfの関数として、制御電圧ベクトル(ベクトルVmot)と選択された回転ベクトル(ベクトルV3/3)との間の同期を達成するのに必要な同期時間tsyncと加速度Aとを取り出すことができる。
【数5】

【0037】
電圧上昇に関しては、制御を飽和状態にすることなく、即ち出力電圧Van’,Vbn’,Vcn’に歪みをもたらすことなく、制御電圧ベクトル(ベクトルVmot)の振幅を増加するための無限の実行可能なプロファイル(profiles)が存在する。このことは、例えば、次の関係を介して、制御電圧ベクトル(ベクトルVmot)の振幅を、Δθ<π/6で、制御電圧ベクトルと選択された回転ベクトルとの間のΔθで表される位相差の関数として表すことを含み得る。
【数6】

mainsは、ネットワーク電圧の振幅である、選択された回転ベクトル(ベクトルV3/3)の振幅に相当することが分かる。
【0038】
もしVmot(Δθ)が以上で定義された式(6)で定義されるプロファイルを超えると、モーター制御の周期的な飽和に関係した低周波の歪みが起こるであろう。
【0039】
実際には、以上で定義された2つのステップが少なくとも一部同時に実行される実行の優先モードに従って、本発明の制御方法は、従来、マトリックス変調で用いられた、即ち、入力電圧と、制御電圧ベクトル(ベクトルVmot)に最も近い3つの回転ベクトル(ベクトルV123,ベクトルV231,ベクトルV312)の中の1つとして定義される回転電圧ベクトル(ベクトルV3/3)と、の振幅の87%に制限された、決定された電圧ベクトル(ベクトルVmatrix)を用いて制御電圧ベクトル(ベクトルVmot)を再構成することにある。電圧ベクトル(ベクトルVmatrix)は、例えば、”A novel control method for forced commutated cycloconverters using instantaneous values of input line-to-line voltages”と題され、アキオ イシグロ、タケシ フルハシ及びシゲル オクマにより作成された文献「IEEE TRANSACTIONS ON INDUSTRIAL ELECTRONICS, vol. 38, No.3, June 1991」に記載された方式で用いられたものであり得る。それは、本出願人によりフランスで2008年12月18日にNo.FR0858759でファイルされた特許出願に記載された改善された方法のような、任意の他の方式でも用いられ得る。
【0040】
電圧ベクトル(ベクトルVmatrix)は、ネットワークの周波数f2にて回転すると共に、その最大振幅は、入力電圧の振幅の87%に等しい。この電圧ベクトル(ベクトルVmatrix)は、選択された回転ベクトル(ベクトルV3/3)に対して、π/3より低い値だけ、好ましくはπ/6だけ、前方に位相シフトされて選択される。電圧ベクトル(ベクトルVmatrix)及び回転ベクトル(ベクトルV3/3)は、同じ方向(Sr1)に、例えば50Hzに等しい周波数f2で回転する。
【0041】
最初、制御電圧ベクトル(ベクトルVmot)は、電圧ベクトル(ベクトルVmatrix)と一致し(図3)、且つ、これらの2つのベクトルは、従って、選択された回転ベクトル(ベクトルV3/3)に対してπ/6だけ位相シフトされる。
【0042】
π/6の最初の位相シフトは、好ましくは、出力電圧の歪みを避けるため、実施されなければならない。このことは、一般的な方法で言うと、本発明の方法が、制御電圧ベクトル(ベクトルVmot)から生じる相間の合成電圧の最大値を、入力相間に印加された合成電圧の最大値より低く各瞬間にて保持している間に実行されなければならないことに等しい。
【0043】
周波数同期、および、制御電圧ベクトル(ベクトルVmot)の選択された回転ベクトル(ベクトルV3/3)との進行する位相整合(progressive phasing)は、選択された回転ベクトル(ベクトルV3/3)と電圧ベクトル(ベクトルVmatrix)(図4)から構成される回転基準フレームを考慮することにより実現され、この基準フレームは、従って、それが構成されている2つのベクトルと同一方向に、これら2つのベクトルの周波数f2にて回転している。
【0044】
上述の理論的な場合を考慮するため、制御電圧ベクトル(ベクトルVmot)は、基準フレームのそれとは反対方向(Sr2)にΔf=f2−f1に等しい周波数にて回転することが仮定される。
【0045】
この基準フレームに基づいて、次に、制御電圧ベクトル(ベクトルVmot)を、基準フレームを形成している選択された回転ベクトル(ベクトルV3/3)及び電圧ベクトル(ベクトルVmatrix)の関数として表現できる。制御電圧ベクトル(ベクトルVmot)の分解は、以下の関係に従って、時間依存関数α(t)を用いて実行される。
【数7】

α=0は、ベクトルVmot=ベクトルVmatrixである初期状態に対応する。
α=1は、制御電圧ベクトル(ベクトルVmot)が選択された回転ベクトル(ベクトルV3/3)と同期し且つ同相である状態、及び、入力電圧のそれと等しい振幅に対応する。
【0046】
関数α(t)は、例えば、モーターの加速度Aが線形(linear)であるように選択される。
【0047】
αを決定するため、初期状態が、ベクトルVmot=ベクトルVmatrixと、2つのベクトル(ベクトルVmot)及び(ベクトルVmatrix)間に形成される角度Δφと、に対応する、新たな基準フレームが考慮される。
【0048】
予め、且つ、電圧ベクトル(ベクトルVmatrix)と選択された回転ベクトル(ベクトルV3/3)との間のπ/6の初期位相シフトΔθを考慮することにより定義された角度Δθに関して、従って、以下を得る。
Δφ=π/6−Δθ (7)
【0049】
さらに、αは、以下の幾何学的な近似でΔφと関連付けられている。
【数8】

【0050】
上述の関係(2)に基づいて、時間の関数としての角度Δφの変化は、以下の方法で表現される。
Δφ(t)=2πΔf0t−πAt (9)
【0051】
上述の関係(8)に基づいて、従って、以下を得る。
【数9】

【0052】
さらに、以上で定義された関係(5)に基づいて、以下を得る。
【数10】

【0053】
本発明によれば、初期周波数ギャップΔfを知ることにより、従って、加速度Aに応じて、時間の関数としてのαの変化に追随することができ、且つ、従って、基準電圧ベクトル(ベクトルVmatrix)と選択された回転ベクトル(ベクトルV3/3)とにより形成された基準フレームにおける制御電圧ベクトル(ベクトルVmot)の位置及び振幅を知ることができる。
【0054】
例えば、もし50Hz/sの加速度を有することを望むとき、所期周波数ギャップΔfは2.9Hzでなければならない。もし周波数f2が例えば50Hzに等しいとき、同期化及び位相整合は、従って、制御電圧ベクトル(ベクトルVmot)の周波数f1が47.1Hzにあるときに開始しなければならないであろう。制御電圧ベクトル(ベクトルVmot)を選択された回転ベクトル(ベクトルV3/3)に同期化して、そして、制御電圧ベクトル(ベクトルVmot)を選択された回転ベクトル(ベクトルV3/3)に増幅するのに必要な時間は、従って、57.7msであろう。
【0055】
他の例では、ネットワーク周波数f2に関して6.5Hzの初期周波数ギャップΔfで、もし同期化と位相整合を制御電圧ベクトル(ベクトルVmot)の周波数f1が43.5Hz(U/F法則の場合)である時より早く開始することが選択されたとき、253.5Hz/sの加速度を加えることが必要であろう。出力周波数を6.5Hz増加させ、且つ、制御電圧ベクトル(ベクトルVmot)の振幅を13%増加させるのに必要な時間tsyncは、従って、25msであろう。
【0056】
上述したように、制御の飽和なしの電圧上昇を考慮して、プロファイルは以下に繰り返される方程式(6)に従う。
【数11】

【0057】
本発明の動作原理は、電圧上昇が同期化及び位相整合と同時である場合において、図5Aから5Cにより図示されている。
【0058】
図5Aは、3つの曲線2,20,200を用いて時間の関数として3つの単一の入力電圧の変化を、且つ、3つの曲線1,10,100を用いて、モーターに加えられるべき制御電圧ベクトル(ベクトルVmot)から生じる3つの単一の出力電圧の変化を、示している。制御電圧ベクトル(ベクトルVmot)から生じる単一の出力電圧を表す曲線1,10,100は、次第に単一の入力電圧を表す曲線2,20,200に重ねられている、即ち、複数の電圧は同相であり且つ周波数及び振幅に関して互いに同期化している、ということが理解され得る。
【0059】
図5Bは、図5Aと同じ時間スケールで、モーター供給周波数の変化(evolution)を示している。従って、図5Aに示されるように電圧は増加し続けている一方、周波数は未だf2(50Hz)に到達していないことが理解され得る。周波数f2(図5B)にて、即ち同期にて、制御電圧ベクトル(ベクトルVmot)から生じている単一の電圧は、単一の入力電圧(図5A)の100%にある。
【0060】
図5Cも、上述の2つの図と同じ時間ウィンドウで、入力相間の合成電圧のエンベロープ4と、制御電圧ベクトル(ベクトルVmot)から生じている相間の合成電圧のエンベロープ3と、を示している。従って、制御電圧ベクトル(ベクトルVmot)から生じている相間の合成電圧の最大値は、常に入力相間の合成電圧の最大値より低く、それにより出力電圧の歪みの無いことを保証できるようにすることが理解され得る。上述したように、制御電圧ベクトル(ベクトルVmot)から生じている合成電圧の最大値は、最初に入力相間の合成電圧の最大値の87%の上限に達する。その後、本発明の制御方法に基づいて、t=460msの時、且つ、モーターの供給周波数が従って46Hz(図5B)に等しい時、この値は、次第に増加する。t=500msにて、従って入力電圧の100%が50Hzの周波数にて得られる。
【0061】
本発明の方法は、従って、コンバーターの効率を最大化できるようにする。それは、ダイレクト・マトリックスコンバーターに適合するが、インダイレクト・マトリックスコンバーターには適合しない。この方法は、定格速度における最大モータートルクを増加させることができる一方、モーターの磁束を定格磁束に減少させ、従って、それによりコンバーターの効率を向上する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
3つの入力相(u,v,w)であって、入力電圧を、前記入力相と、電気負荷に接続された3つの出力相(a,b,c)と、の間に加えるAC電圧源に接続された、3つの入力相(u,v,w)と、
3つのスイッチングセル(Cel1,Cel2,Cel3)に分配される電流と電圧に関して双方向性であると共に、制御電圧ベクトル(ベクトルVmot)を前記負荷に加える目的で、1つの出力相を前記入力相のうちの何れか1つに接続するように個々に制御されることを意図された9つの電気スイッチ(fau,fav,faw,fbu,fbv,fbw,fcu,fcv,fcw)と、
を備えるダイレクト・マトリックスコンバータータイプの可変速駆動装置において実行される制御方法であって、
前記制御電圧ベクトル(ベクトルVmot)を、前記3つの入力相と前記3つの出力相との間の正確な結合により定義された回転電圧ベクトル(ベクトルV3/3)と同じ周波数(f2)に、且つ、この回転電圧ベクトル(ベクトルV3/3)と同相に設定可能にする、同期化および位相整合ステップと、
前記制御電圧ベクトル(ベクトルVmot)を、前記入力電圧の振幅の87%を越え、且つ、最大で前記回転電圧ベクトル(ベクトルV3/3)の振幅まで増幅するステップと、
を備えることを特徴とする方法。
【請求項2】
前記同期化および位相整合ステップと、前記増幅ステップは、少なくとも一部が同時に実行される
ことを特徴とする請求項1の方法。
【請求項3】
選択された前記回転電圧ベクトル(ベクトルV3/3)は、最も近いものであり、且つ、前記制御電圧ベクトル(ベクトルVmot)と同一方向に回転するものである
ことを特徴とする請求項1または請求項2の方法。
【請求項4】
前記増幅ステップは、前記回転電圧ベクトル(ベクトルV3/3)に対する前記制御電圧ベクトル(ベクトルVmot)の位相シフトがπ/3より小さい時に開始する
ことを特徴とする請求項1から3の何れかの方法。
【請求項5】
前記増幅ステップは、前記回転電圧ベクトル(ベクトルV3/3)に対する前記制御電圧ベクトル(ベクトルVmot)の位相シフトがπ/6より小さい時に開始する
ことを特徴とする請求項1から3の何れかの方法。
【請求項6】
前記増幅ステップ並びに前記位相整合および同期化ステップは、前記制御電圧ベクトル(ベクトルVmot)から生じる合成電圧の最大値を、前記入力相間の合成電圧の最大値より低く各瞬間にて保持している間に、実行される
ことを特徴とする請求項1から3の何れかの方法。
【請求項7】
3つの入力相(u,v,w)であって、入力電圧を、前記入力相と、電気負荷に接続された3つの出力相(a,b,c)と、の間に加えるAC電圧源に接続された、3つの入力相(u,v,w)と、
3つのスイッチングセル(Cel1,Cel2,Cel3)に分配される電流と電圧に関して双方向性であると共に、制御電圧ベクトル(ベクトルVmot)を前記負荷に加える目的で、1つの出力相を前記入力相のうちの何れか1つに接続するように個々に制御されることを意図された9つの電気スイッチ(fau,fav,faw,fbu,fbv,fbw,fcu,fcv,fcw)と、
を備えるマトリックスコンバータータイプの可変速駆動装置であって、
前記制御電圧ベクトル(ベクトルVmot)を、前記入力電圧の振幅の87%を越え、且つ、最大で、前記3つの入力相と前記3つの出力相との間の正確な結合により定義された回転電圧ベクトル(ベクトルV3/3)の振幅まで増幅し、そして、前記制御電圧ベクトル(ベクトルVmot)を前記回転電圧ベクトル(ベクトルV3/3)と同じ周波数(f2)に同期化し、そして、前記制御電圧ベクトル(ベクトルVmot)を前記回転電圧ベクトル(ベクトルV3/3)と同相に設定するように設計された制御手段を備える
ことを特徴とする可変速駆動装置。
【請求項8】
選択された前記回転電圧ベクトル(ベクトルV3/3)は、最も近いものであり、且つ、前記制御電圧ベクトル(ベクトルVmot)と同一方向に回転するものである
ことを特徴とする請求項7の可変速駆動装置。
【請求項9】
前記制御電圧ベクトル(ベクトルVmot)を増幅する前記制御手段は、前記回転電圧ベクトル(ベクトルV3/3)に対する前記制御電圧ベクトル(ベクトルVmot)の位相シフトがπ/3より小さい時に起動される
ことを特徴とする請求項7または請求項8の可変速駆動装置。
【請求項10】
前記制御電圧ベクトル(ベクトルVmot)を増幅する前記制御手段は、前記回転電圧ベクトル(ベクトルV3/3)に対する前記制御電圧ベクトル(ベクトルVmot)の位相シフトがπ/6より小さい時に起動される
ことを特徴とする請求項7または請求項8の可変速駆動装置。
【請求項11】
前記制御手段は、前記制御電圧ベクトル(ベクトルVmot)から生じる合成電圧の最大値を、前記入力相間の合成電圧の最大値より低く各瞬間にて保持している間に、作動させられる
ことを特徴とする請求項7または請求項8の可変速駆動装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5A】
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【図5B】
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【図5C】
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【公開番号】特開2011−172477(P2011−172477A)
【公開日】平成23年9月1日(2011.9.1)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2011−28624(P2011−28624)
【出願日】平成23年2月14日(2011.2.14)
【出願人】(502363191)シュネーデル、トウシバ、インベーター、ヨーロッパ、ソシエテ、パル、アクション、セプリフエ (42)
【氏名又は名称原語表記】SCHNEIDER TOSHIBA INVERTER EUROPE SAS
【Fターム(参考)】