説明

マルチ−PEG化顆粒球コロニー刺激因子(G−CSF)変異体の投与による放射線誘発好中球減少症の処置のための方法

本発明は、マルチ−PEG化顆粒球コロニー刺激因子(G−CSF)変異体を患者に投与することにより、放射線に暴露された患者における放射線誘発好中球減少症を処置または予防するための方法に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願との相互関係
35 U.S.C. §119(e)にしたがって、本出願は、2008年9月19日に出願された米国仮出願第61/098,569号(この内容は、すべての目的のためにその全体を出典明示により本明細書に包含させる)の利益を主張する。
【0002】
技術分野
本発明は、マルチ(multi)−PEG化顆粒球コロニー刺激因子(G−CSF)変異体を投与することにより、放射線誘発好中球減少症を処置または予防するための方法に関する。
【背景技術】
【0003】
発明の背景
骨髄において白血球が成長、分配および分化するプロセスは、造血と称される(Dexter and Spooncer, Ann. Rev. Cell. Biol., 3:423, 1987)。それぞれの血球型は多能性幹細胞から生じる。インビボにおいて生産される血球には、一般的に3つのクラス:赤血球(red blood cell)(赤血球(erythrocyte))、血小板および白血球(white blood cell)(白血球(leukocyte))が存在し、最後のものの大部分は宿主免疫防御に関与する。造血前駆細胞の増殖および分化は、コロニー刺激因子(CSF)、例えば、G−CSFおよびインターロイキンを含むサイトカインのファミリーにより調節される(Arai et al., Ann. Rev. Biochem., 59:783-836, 1990)。インビボにおけるG−CSFの主な生物学的効果は、好中性顆粒球または好中球として知られている特定の白血球の成長および発達を刺激することである(Welte et al., PNAS 82:1526-1530, 1985; Souza et al., Science, 232:61-65, 1986)。血流に放出されたとき、好中性顆粒球は細菌感染症および他の感染症と闘う役割を果たす。
【0004】
ヒトG−CSF(hG−CSF)のアミノ酸配列は、Nagata et al. (Nature 319:415-418, 1986)により報告された。hG−CSFは、2つのG−CSF分子および2つの受容体の2:2複合体の形成によりG−CSF受容体を二量体化するモノマータンパク質である(Horan et al., Biochemistry 35(15): 4886-96, 1996)。最近の文献(PNAS 103:3135-3140, 2006)において、Tamada et al.は、ヒトG−CSFとGCSF受容体のリガンド結合領域間のシグナル伝達複合体の結晶構造を記載した。
【0005】
白血球減少症(白血球のレベルの減少)および好中球減少症(好中球のレベルの減少)は、種々の型の感染症に罹患する可能性の増加を起こす障害である。約500細胞/mm以下の絶対好中球数(ANC)により示される重度の好中球減少症(発熱性好中球減少症とも称される)を有する患者において、比較的軽い感染症でさえ重大かつ致命的にさえなり得る。組換えヒトG−CSF(rhG−CSF)は、しばしば、白血球減少症および好中球減少症の種々の型を処置および予防するために使用される。rhG−CSFの製品として、例えば、非−グリコシル化であり、組換え大腸菌細胞において生産されるニューポジェン(Neupogen)(登録商標)(フィルグラスチム)、および、単一のN−末端に連結された20kDaのポリエチレングリコール(PEG)基を含む以外、ニューポジェン(登録商標)と同じアミノ酸配列を有するニューラスタ(Neulasta)(登録商標)(ペグフィルグラスチム)が市販されている。このモノ−PEG化rhG−CSF分子は、非−PEG化G−CSFと比較して半減期の上昇を有することが示されており、したがって非−PEG化G−CSF生成物よりも少ない頻度で投与され、好中球減少症の期間を非−PEG化G−CSFの投与とほぼ同じ日数に減少させ得る。
【0006】
急性放射線症候群(ARS)(放射線疾患または放射線症としても知られている)は、血液、消化器および心血管系に影響する高線量の放射線への暴露により引き起こされる一連の複雑な病態生理学的プロセスを包含する。ARSは、一般的に、比較的短期間に送達された約0.7から1グレイ(Gy)またはそれ以上の全身または重要な部分照射後に生じる(Waselenko J.K. et al., Annals of Internal Medicine 140(12):1037-1051, 2004; Jarrett D.G. et al., Radiation Measurements 42:1063-1074, 2007)。ARSの種々の症状の潜伏期、重症度および期間は、放射線量、線量率および放射線の型ならびに引き起こす暴露の不均一または均一と相関関係である。
【0007】
ARSは、いくつかの予測できる経過が起こり、放射線に対する種々の細胞、組織および臓器系の特定の反応の徴候である症状により特徴付けられる(例えば、上記Waselenko et al.,、特に図1、表1−3および表5、参照)。ARSと関連する症状は、吐き気、嘔吐、下痢、好中球減少症、皮膚のやけどおよび痛み、疲労、脱水症、炎症、脱毛、口腔粘膜およびGI系の潰瘍、口内乾燥ならびに出血(例えば、鼻、口および直腸から)を含む。速い速度で複製する細胞、例えば、造血前駆細胞、精母細胞および腸陰窩細胞は、急性放射線暴露に即座に影響されやすい。測定可能な臨床影響の可能性は、全線量または線量率の増加と共に増加する。しかしながら、単一の迅速な暴露後に観察できる効果を生じる全放射線量が、非常に長期間にわたって与えられるとき、測定可能な効果が少なくて耐え得る。
【0008】
循環造血細胞および造血前駆(骨髄)細胞は非常に高い放射線感受性細胞である。放射線疾患と関連する症状に関する一般的な基本的な原因は、このような細胞における放射線の効果である。造血症候群(H−ARS)は、一般的に約0.7−1Gyを越える有意な部分または全身放射線レベルに暴露されたヒトにおいて見られ(上記Jarrett et al.,;上記Waselenko et al.,)、まれにこのレベルより臨床的に有意に低い。有糸分裂の活性な造血前駆細胞は、2から3Gyの全身放射線量後に分裂する能力が限定される。ARSの造血症候群は、潜在的に臨床的に有意な結果と共に、血球数−白血球(WBC;好中球およびリンパ球)、血小板(血小板(thrombocyte))および赤血球(RBC)−の減少により特徴付けられる。電離放射線への暴露は、WBC数の減少を引き起こし得、好中球減少症(好中球/顆粒球の減少)およびリンパ球減少症(リンパ球の減少)として現れる。RBC減少は貧血症を引き起こし得、血小板減少は血小板減少症を引き起こし得る。放射線誘発好中球減少症、血小板減少症および貧血症の動態は、与えられた線量、線量率および体が照射される程度に依存する(上記Waselenko et al.,)。骨髄における細胞産生に対する放射線誘発ダメージは暴露時に始まる。多数の骨髄前駆細胞が十分に高い放射線量後に細胞死を引き起こしやすいが、幹細胞または補助細胞の亜集団は、おそらく非周期(G)状態であるため、より放射線抵抗性であることが見出されており、これは潜在的致死線量の暴露後の造血の回復において重要な役割を果たし得る(上記Waselenko et al.,)。
【0009】
放射線の効果は、また、暴露された体表面積量に依存する。人体は即座の死の危険なしに全身面積にわたって最大約2Gyの単一線量を吸収することができると考えられている。約2Gyを越える線量は、処置されないとき、骨髄機能不全のために死を引き起こす可能性が高い。短期間にわたって与えられた約8Gyまたはそれ以上の全身線量では、ほとんど確実に死亡する。対照的に、10Gyが、長期間にわたって、および/または少量の組織に(例えば、癌治療のため)送達されるとき、耐えることができる。
【0010】
放射線誘発好中球減少症は、腐生および病原生物による致命的な感染症への罹患率を増加させ、腸壁の完全性の破壊からの皮下組織における細菌拡散に対する免疫力を低下させる。感染症および敗血症に罹患しやすいことは、2−8Gy範囲における電離放射線への暴露を有する対象における死亡の主な原因である。好中球減少症と共に、種々の程度の血小板減少症も観察され得る。重度の血小板減少症は、処置されずに放置されると致命的な出血を引き起こす可能性が増加し得る。
【0011】
ARSと関連する放射線誘発好中球減少症は、例えば、原子力事故または偶発的な放射線暴露を介して高レベルの放射線に暴露された患者において、有意な死亡率および罹患率につながる。ARSと関連する放射線誘発好中球減少症を減少させるために安全に投与され得る長時間作用型G−CSF生成物、特にマルチ−PEG化G−CSF、ならびにこのようなG−CSF生成物を使用する放射線誘発好中球減少症の処置および予防のための方法の必要性が存在する。
【発明の概要】
【0012】
発明の簡単な説明
本発明の対象は、例えば、核爆発または偶発的な放射線暴露の結果として、放射線に暴露された患者における好中球減少症を処置または予防する方法を提供すること、放射線誘発好中球減少症の期間および/または重症度を減少させ、このような患者における致命的な感染症のリスクを減少させることにより生存性を増強することである。
【0013】
したがって、本発明の1つの局面は、放射線暴露に付された患者における好中球減少症を処置または予防するための方法であって、放射線誘発好中球減少症、例えば、急性放射線症候群(ARS)と関連する放射線誘発好中球減少症、例えば、ARSの造血症候群(H−ARS)を減少させるために有効な量においてマルチ−PEG化G−CSF変異体を該患者に投与することを含む方法に関する。
【0014】
本発明のさらなる局面は、本明細書に記載されている方法の手段により好中球減少症を処置または予防するためのマルチ−PEG化G−CSF変異体に関する。したがって、本発明のこの局面は、放射線誘発好中球減少症の処置のためのマルチ−PEG化G−CSF変異体に関する。本発明のこの局面は、また、マルチ−PEG化G−CSF変異体を患者に投与することにより、放射線に暴露された患者における好中球減少症を処置または予防するためのマルチ−PEG化G−CSF変異体に関する。
【0015】
本発明のさらなる局面は、本明細書に記載されている方法の手段により放射線誘発好中球減少症を処置または予防するための医薬の製造のためのマルチ−PEG化G−CSF変異体の使用に関する。したがって、本発明のこの局面は、放射線に暴露された患者における放射線誘発好中球減少症を処置または予防するための医薬の製造のためのマルチ−PEG化G−CSF変異体の使用であって、マルチ−PEG化G−CSF変異体は放射線誘発好中球減少症を減少させるために有効な量において患者に投与される使用に関する。本発明のこの局面は、また、放射線誘発好中球減少症の処置のための医薬の製造のためのマルチ−PEG化G−CSF変異体の使用に関する。本発明のこの局面は、また、マルチ−PEG化G−CSF変異体を患者に投与することにより、放射線暴露に付された患者における放射線誘発好中球減少症を処置または予防するための医薬の製造のためのマルチ−PEG化G−CSF変異体の使用に関する。
【0016】
いくつかの態様において、マルチ−PEG化G−CSF変異体は、放射線誘発好中球減少症の動物モデル系(例えば、非ヒト霊長類モデル系)において、マルチ−PEG化G−CSF変異体で処置されていない群と比較して、マルチ−PEG化G−CSF変異体で処置された群において重度の好中球減少症の期間を減少させるために有効な量において患者に投与される。他の態様において、マルチ−PEG化G−CSF変異体は、放射線誘発好中球減少症の動物モデル系(例えば、非ヒト霊長類モデル系)において、マルチ−PEG化G−CSF変異体で処置されていない群と比較して、マルチ−PEG化G−CSF変異体で処置された群において放射線暴露30日後または60日後の生存者数を増加させるために有効な量において患者に投与される。
【0017】
本発明のこれらのおよび他の局面および特徴は、以下の詳細な説明を添付の図面と併せて読むとき、さらに完全に明白になる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】図1は、対数尺度における、プロビット致死率 対 グレイ(Gy)におけるTBI線量として示される、アカゲザルにおける60日の造血症候群致死と線量応答関係を示す。2MV LINAC光子に暴露され、対症療法を受けているアカゲザルに関する得られたLD50/60値は、LD50LINAC(角型括弧[ ]内に95%信頼区間)として示されている。この図は、また、Co−60 ガンマおよび2MV X−放射線に暴露されたアカゲザルのTBI線量応答および計算されたLD50/30値(角型括弧[ ]内に95%信頼区間)(それぞれLD50Co60およびLD50X線で示される)を示す2つの歴史的データセットを示す。歴史的試験における動物には対症療法を与えていなかった。
【0019】
【図2】図2は、対症療法を与えられた、約LD30/60(720センチグレイ(cGy))、LD50/60(755cGy)およびLD70/60(805cGy)の線量にて全身照射暴露後のアカゲザルにおける平均絶対好中球数(ANC)の経時変化を示す。
【0020】
【図3】図3は、本発明の典型的なマルチ−PEG化G−CSF変異体(本明細書において“Maxy−G21”として同定される)が、モノ−PEG化rhG−CSFと比較して、放射線暴露後に非ヒト霊長類における好中球回復を改善することを証明する。アカゲザルにおける絶対好中球数(ANC)は、600cGy(6.00Gy)照射および照射1日後にMaxy−G21、ニューラスタ(登録商標)または対照(血清)の投与後に測定した。重度の好中球減少症(ANC<500/μL)は水平線により示される。
【0021】
【図4】図4は、照射1日後に300μg/kgのMaxy−G21または300μg/kgのニューラスタ(登録商標)のいずれかを投与された600cGy−照射アカゲザルの薬物動態学(PK)プロフィールを示す。
【0022】
【図5】図5は、776cGy放射線に暴露され、次に本発明の典型的なマルチ−PEG化G−CSF変異体(“G34”、本明細書において“Maxy−G34”としても同定される)または希釈剤(“ビヒクル”)で処置されたマウスのカプラン・マイヤー生存曲線を示す。C57BL/6マウスを照射し、次に暴露24時間および7日後(白ダイヤ)または暴露後24時間、7日および14日後(白四角)にG34(1.0mg/kg=20μg/20gmマウス)を皮下注射した。対照マウスは、暴露24時間、7日および14日後(黒三角)に希釈剤を注射した。マウスは抗生物質で処理しなかった。
【0023】
【図6】図6は、796cGy放射線に暴露され、次に本発明の典型的なマルチ−PEG化G−CSF変異体(“G34”、本明細書において“Maxy−G34”としても同定される)または希釈剤(“ビヒクル”)で処置されたマウスのカプラン・マイヤー生存曲線を示す。C57BL/6マウスを照射し、次に暴露24時間および7日後(白ダイヤ)または暴露後24時間、7日および14日後(白四角)にG34(1.0mg/kg=20μg/20gmマウス)を皮下注射した。対照マウスは、暴露24時間、7日および14日後(黒三角)にビヒクルを注射した。マウスは抗生物質で処理しなかった。
【発明を実施するための形態】
【0024】
定義
本明細書および特許請求の範囲において、以下の定義が適用される。
【0025】
“ポリペプチド”または“タンパク質”なる用語は、本明細書において互換的に使用され得、いずれかの特定の長さのアミノ酸配列に限定されないアミノ酸のポリマーを示す。これらの用語は、全長タンパク質だけなく、例えば、任意の与えられたタンパク質またはポリペプチドのフラグメント、短縮バージョン、変異体、ドメインなども含むことを意図する。
【0026】
“G−CSFポリペプチド”は、配列番号:1で示されるヒト顆粒球コロニー刺激因子(hG−CSF)の配列を有するポリペプチドまたはG−CSF活性を示すhG−CSFの変異体である。“G−CSF活性”は、G−CSF受容体に結合する能力であり得るが(Fukunaga et al., J. Bio. Chem, 265:14008, 1990、これは出典明示により本明細書に包含させる)、好ましくは、例えば、マウス細胞系NFS−60(ATCC Number: CRL-1838)を使用するインビトロ活性アッセイにおいて測定され得るG−CSF細胞増殖活性である。NFS−60細胞系を使用するG−CSF活性に関する適当なインビトロアッセイは、Hammerling et al. in J. Pharm. Biomed. Anal. 13(1):9-20, 1995(これは出典明示により本明細書に包含させる)に記載されている。“G−CSF活性を示す”ポリペプチドは、測定可能な機能、例えば、インビトロアッセイにおける測定可能な細胞増殖活性を示すとき、このような活性を有すると考えられる。
【0027】
“変異体”(例えば、“G−CSF変異体”)は、1個またはそれ以上のアミノ酸残基において親ポリペプチドと異なるポリペプチドであって、ここで、親ポリペプチドは、一般的に天然野生型アミノ酸配列を有するもの、典型的に天然哺乳動物ポリペプチド、さらに典型的に天然ヒトポリペプチドである。したがって、変異体は、天然ポリペプチドと比較して、1つまたはそれ以上の置換、挿入または欠失を含む。これらは、例えば、1個もしくはそれ以上のアミノ酸残基によるN−および/もしくはC−末端の切断、またはN−および/もしくはC−末端に1個もしくはそれ以上のアミノ酸残基の付加、例えば、N−末端のメチオニン残基の付加を含んでもよい。変異体は、しばしば、最大15個のアミノ酸残基、例えば、最大12、10、8または6個のアミノ酸残基において親ポリペプチドと異なっている。いくつかのG−CSF変異体は、特に、N−末端のメチオニン残基の付加を有するか、または有さないいずれかのG−CSF配列においてアミノ酸置換を有する。
【0028】
“修飾された”G−CSFなる用語は、例えば、グリカン構造の変化により修飾されている、ヒトG−CSFの配列またはヒトG−CSFの変異体のいずれかを有するG−CSF分子を示す。例えば、G−CSFのグリカン構造は、ポリエチレングリコール部分がグリコシル結合基、例えば、WO2005/055946(これは出典明示により本明細書に包含させる)に記載されているシアル酸部分に結合している、グリコ−PEG化G−CSF分子を提供することを目的のために修飾され得る。修飾されたG−CSF分子の他の例は、野生型ポリペプチドに存在しない少なくとも1つのO−結合グリコシル化部位を含むものである。このような非天然O−結合グリコシル化部位を有するG−CSF分子ならびにG−CSFの修飾された糖のペグ化は、WO2005/070138(これは出典明示により本明細書に包含させる)に記載されている。
【0029】
他に記載のない限り、本明細書において使用される“G−CSF”なる用語は、天然ヒト配列(配列番号:1)を有するG−CSF分子ならびにヒトG−CSF配列の変異体を包含することを意図する。どちらの場合においても、“G−CSF”なる用語は、また、修飾されたG−CSF、例えば、G−CSFグリコシル化変異体を含むことを意図する。
【0030】
“複数のポリエチレングリコール部分”を含むPEG化G−CSF(本明細書において“マルチ−PEG化G−CSF”としても称される)は、ポリペプチドに共有結合しているPEG部分を1つのみ有する“モノ−PEG化G−CSF”と対照的に、直接的にまたは間接的にのいずれかでポリペプチドのアミノ酸残基に共有結合している2つ以上のPEG部分を有するG−CSFポリペプチドを示す。適当な結合点は、例えば、リジン残基のεアミノ基またはN−末端アミノ基、遊離カルボン酸基(例えば、C−末端アミノ酸残基またはアスパラギン酸もしくはグルタミン酸残基のもの)、システイン残基のチオール基、適当に活性化されたカルボニル基、酸化された炭水化物部分およびメルカプト基を含む。PEG結合点およびPEG部分のタンパク質への結合のための方法に関するさらなる情報は、例えば、WO01/51510、WO03/006501およびNektar Advanced PEGylation Catalog 2005-2006(Nektar Therapeutics)(これらすべてを出典明示により本明細書に包含させる)において見出すことができる。ペグ化のための他の可能性は、例えば、グリカン修飾の方法(上記参照)により、G−CSFのグリカン構造にPEG部分を結合させることである。
【0031】
“マルチ−PEG化G−CSF変異体”は、直接的にまたは間接的にのいずれかで変異体のアミノ酸残基に共有結合している2つ以上のPEG部分を有するG−CSF変異体を示す。
【0032】
本明細書において、アミノ酸名および原子名(例えば、CA、CB、NZ、N、O、Cなど)は、IUPAC nomenclature (IUPAC Nomenclature and Symbolism for Amino Acids and Peptides (residue names, atom names etc.), Eur. J. Biochem., 138, 9-37 (1984)(Eur. J. Biochem., 152, 1 (1985)における修正版と共に)に基づいているタンパク質データバンク(PDB)により定義されるとおりに使用される。“アミノ酸残基”なる用語は、あらゆる天然または非天然アミノ酸残基、特に20個の天然アミノ酸からなる基に含まれるアミノ酸残基、すなわちアラニン(AlaまたはA)、システイン(CysまたはC)、アスパラギン酸(AspまたはD)、グルタミン酸(GluまたはE)、フェニルアラニン(PheまたはF)、グリジン(GlyまたはG)、ヒスチジン(HisまたはH)、イソロイシン(IleまたはI)、リジン(LysまたはK)、ロイシン(LeuまたはL)、メチオニン(MetまたはM)、アスパラギン(AsnまたはN)、プロリン(ProまたはP)、グルタミン(GlnまたはQ)、アルギニン(ArgまたはR)、セリン(SerまたはS)、スレオニン(ThrまたはT)、バリン(ValまたはV)、トリプトファン(TrpまたはW)およびチロシン(TyrまたはY)残基を示すことを意図する。
【0033】
本明細書におけるアミノ酸位置/置換で同定するために使用される専門用語は、以下の説明のとおりである:F13は、参照アミノ酸配列においてフェニルアラニン残基により占有されている位置番号13を示す。F13Kは、位置13のフェニルアラニン残基がリジン残基で置換されていることを示す。他に記載のない限り、本明細書で使用されるアミノ酸残基の番号は、配列番号:1に示されるhG−CSFのアミノ酸配列に対応する。他の置換は“/”で示され、例えば、K16R/Qは、位置16におけるリジンがアルギニンまたはグルタミンのいずれかで置換されているアミノ酸配列を意味する。複数の置換は“+”で示され、例えば、K40R+T105Kは、位置40におけるリジン残基のアルギニン残基での置換および位置105におけるスレオニン残基のリジン残基での置換を含むアミノ酸配列を意味する。
【0034】
“機能的(functional)インビボ半減期”なる用語は、通常の意味、すなわち試験分子(例えば、PEG化複合体)の生物学的活性の50%がなお体/標的臓器内に存在する時間、またはポリペプチドまたは複合体の活性が最初の値の50%である時間において使用される。“血清半減期”は、複合体分子の50%が、クリアされる前に、血漿または血流において循環する時間として定義される。血清半減期に対する代替用語は、“血漿半減期”、“循環半減期”、“血清クリアランス”、“血漿クリアランス”および“クリアランス半減期”を含む。試験分子(例えば、PEG化複合体)は、1つ以上の細網内皮系(RES)、腎臓、脾臓または肝臓の作用により、受容体介在分解により、または、特異的もしくは非特異的タンパク質分解により、特に受容体介在クリアランスおよび腎臓クリアランスの作用により、クリアされる。通常、クリアランスは、サイズ(糸球体濾過に関するカットオフと比較して)、電荷、結合している炭水化物鎖およびタンパク質に対する細胞受容体の存在に依存している。維持されるべき機能性は、通常、増殖または受容体結合活性から選択される。機能的インビボ半減期および血清半減期は、当分野で既知の任意の適当な方法により決定され得る。
【0035】
インビボ半減期または血清半減期に関して使用される“上昇”なる用語は、比較可能な条件下で測定される(一般的に実験動物、例えば、ラット、ウサギ、ブタまたはサルにおいて測定される)とき、試験分子、すなわちマルチ−PEG化G−CSF変異体の半減期が、参照分子のもの、例えば、非結合(すなわち、非PEG化)hG−CSF(例えば、ニューポジェン(登録商標))のもの、または好ましくはモノ−PEG化G−CSFニューラスタ(登録商標)のものと比較して、統計的に有意に上昇していることを示すために使用される。例えば、試験分子の血清半減期(t1/2)は、参照分子のものに対して少なくとも約1.2倍(すなわち、(試験分子のt1/2)/(参照分子のt1/2)=1.2)、例えば、少なくとも約1.4倍、例えば、少なくとも約1.5倍、例えば、少なくとも約1.6倍、例えば、少なくとも約1.8倍、例えば、少なくとも約2.0倍、2.5倍、3倍、5倍または10倍に上昇させ得る。
【0036】
“AUC”または“濃度曲線下面積”なる用語は、通常の意味、すなわち、試験分子が対象に投与されている血清濃度 対 時間曲線下の面積として使用される。実験濃度−時点が測定されたとき、AUCは、コンピュータープログラム、例えば、GraphPad Prism(登録商標)(GraphPad Software, Inc.)により好都合に計算され得る。
【0037】
AUCに関して使用される“増加”なる用語は、比較可能な条件下で測定される(一般的に実験動物、例えば、ラット、ウサギ、ブタまたはサルにおいて測定される)とき、試験分子、すなわちマルチ−PEG化G−CSF変異体のAUCが、参照分子のもの、例えば、非結合hG−CSF(例えば、ニューポジェン(登録商標))のもの、または好ましくはモノ−PEG化hG−CSFニューラスタ(登録商標)のものと比較して、統計的に有意に増加していることを示すために使用される。例えば、試験分子のAUCは、参照分子のものに対して少なくとも約1.2倍(すなわち、(試験分子のAUC)/(参照分子のAUC)=1.2)、例えば、少なくとも約1.4倍、例えば、少なくとも約1.5倍、例えば、少なくとも約1.6倍、例えば、少なくとも約1.8倍、例えば、少なくとも約2.0倍、2.5倍、3倍、5倍または10倍に増加させ得る。
【0038】
“対象”なる用語は、動物、例えば、非霊長類(例えば、ウシ、ブタ、ウマ、ネコまたはイヌ)または霊長類(例えば、サル、チンパンジーまたはヒト)を含む哺乳動物、例えば、非ヒト霊長類(例えば、サルまたはチンパンジー)またはヒトを示す。場合によっては、対象は、放射線に暴露されている哺乳動物、例えば、ヒトである。“対象”なる用語は、本明細書において“患者”と互換的に使用される。
【0039】
“急性放射線暴露”なる用語は、短期間、すなわち、24時間(例えば、20時間未満、16時間未満、12時間未満、10時間未満、8時間未満、6時間未満、2時間未満、1時間未満、30分未満、20分未満、10分未満、5分未満または1分未満)の放射線への暴露を示す。急性放射線暴露は、核事象(例えば、核爆発);実験または製造事故;分または時間にわたって高い放射能源の取り扱い中の暴露;または偶発的もしくは故意の高い医薬品投与から生じ得る。
【0040】
“放射線量”なる用語は、物質または組織により吸収された放射線の全量を示し、一般的にセンチグレイ(cGy)またはグレイ(Gy)において表される。
【0041】
“放射線量率”なる用語は、時間単位あたりの吸収された放射線量を示す。
【0042】
“LDx/y”なる用語は、y日に対象のx%の死を引き起こす放射線の平均線量を示す。例えば、LD50/30およびLD50/60なる用語は、それぞれ30または60日に対象の50%の死を引き起こす放射線の平均線量を示す。
【0043】
さらなる種々の用語は、本明細書において定義されているか、または他で特徴付けられている。
【0044】
発明の詳細な説明
本発明は、放射線に暴露された患者における好中球減少症を処置または予防するための方法であって、放射線誘発好中球減少症を減少させるために有効な量においてマルチ−PEG化G−CSF変異体を該患者に投与することを含む方法を提供する。
【0045】
我々は、マルチ−PEG化G−CSF変異体の投与が、照射された非ヒト霊長類モデルにおいて、モノ−PEG化hG−CSF(ニューラスタ(登録商標))の投与と比較して、放射線誘発好中球減少症の期間を減少させるのに非常に有効であることを見出した。絶対好中球回復(ANC)にかかる時間の減少が、また、対照およびモノ−PEG化hG−CSF(ニューラスタ(登録商標))の両方と比較して、有意に改善された。本明細書において使用される“ANC回復にかかる時間”なる用語は、化学療法の1日目から出発して、対象が上記0.5×10個のANC細胞/Lの数、すなわち、上記重度の好中球減少症に対する定義限界を有する連続2日間の最初の日までの日数として定義する。ANC回復にかかる時間、白血球減少症の期間/日数および重度の好中球減少症の期間/日数は、すべて、放射線に暴露された患者が免疫抑制状態である(“好中球減少症の日数”および“重度の好中球減少症の日数”なる用語は、本明細書において互換的に使用される)期間を示す。この期間中、患者は急性放射線症候群の他の症状を悪化させ得、死を引き起こし得る感染症に罹患しやすい。本明細書の実施例に記載されている結果を考慮すると、マルチ−PEG化G−CSF変異体の投与は、対象における放射線誘発好中球減少症の規模および期間の減少において、モノ−PEG化hG−CSF(ニューラスタ(登録商標))の投与よりも非常に有効であることが考えられる。
【0046】
本発明の方法は、ANC回復にかかる時間、白血球減少症の日数および好中球減少症の日数の減少において有効である。等用量にて、該方法は、モノ−PEG化hG−CSF(ニューラスタ(登録商標))と比較して、ANC回復にかかる時間、白血球減少症の日数および好中球減少症の日数の減少において非常に有効である。
【0047】
本発明の方法において、マルチ−PEG化G−CSF変異体は、好ましくは放射線暴露後7日以内に投与される。例えば、マルチ−PEG化G−CSF変異体は、放射線暴露後約4日以内、例えば、放射線暴露後3日以内、例えば、放射線暴露後2日以内、例えば、放射線暴露後1日(24時間)以内に投与され得る。マルチ−PEG化G−CSF変異体は、患者の予後に依存して、処置レジメンの経過中に2倍またはそれ以上において投与され得る。例えば、マルチ−PEG化G−CSF変異体は、毎週、例えば、2週間、3週間または4週間投与され得る。非−PEG化hG−CSF(例えば、ニューポジェン(登録商標))およびモノ−PEG化hG−CSF(例えば、ニューラスタ(登録商標))と比較して、マルチ−PEG化G−CSF変異体のより優れたバイオアベイラビリティのため、マルチ−PEG化G−CSF変異体は、好ましくは、患者の予後に依存して、より長い時間にわたって、例えば、10日ごと、2週間ごと、18日ごとまたは3週間ごとに投与され得る。
【0048】
マルチ−PEG化G−CSF変異体
マルチ−PEG化タンパク質は、当分野で知られている多くの方法において製造され得る。ポリエチレングリコール(PEG)部分のタンパク質またはポリペプチドへの共有結合(すなわち、結合)(“ペグ化”)は、例えば、循環半減期を改善する、および/または可能なエピトープを保護し、望ましくない免疫原性応答の可能性を減少させるために、このようなタンパク質またはポリペプチド、特に医薬タンパク質の特性を改善するための既知の技術である。活性化PEGに基づく多数の技術が、PEG部分のタンパク質上の1つまたはそれ以上の基への結合を提供するために利用することができる。例えば、mPEG−スクシンイミジルプロピオネート(mPEG−SPA、Nektar Therapeuticsから入手できる)は、一般的に、アミド結合を介してN−末端およびリジン残基のε−アミノ基への結合に対して選択的であると見なされている。上記のとおり、市販されているPEG化G−CSF生成物ニューラスタ(登録商標)は、G−CSF分子のN−末端に結合している単一の20kDaのPEG部分を含む。
【0049】
いくつかの態様において、本明細書に記載されているマルチ−PEG化G−CSF変異体は、実験動物、例えば、ラットにおいて試験されるとき、モノ−PEG化G−CSFニューラスタ(登録商標)(ペグフィルグラスチム)と比較して、改善された薬物動態パラメーター、例えば、血清半減期の上昇および/または濃度曲線下面積(AUC)の増加を示す。本発明において、マルチ−PEG化G−CSF変異体は、放射線誘発好中球減少症の動物モデルにおいて、等用量にて回復にかかる時間の短縮および好中球減少症/白血球減少症の期間の短縮を提供する、モノ−PEG化G−CSFニューラスタ(登録商標)を越える利点があることを見出した。
【0050】
1つの態様において、本発明において投与されるマルチ−PEG化G−CSF変異体は、アミド結合を介してN−末端アミノ基および/またはリジン残基のε−アミノ基に優先的に結合するアミン−特異的活性化PEGでPEG化され得る。アミン−特異的活性化PEG誘導体の例として、mPEG−スクシンイミジル プロピオネート(mPEG−SPA)、mPEG−スクシンイミジルブタノエート(mPEG−SBA)およびmPEG−スクシンイミジル α−メチルブタノエート(mPEG−SMB)(Nektar Therapeuticsから利用できる;Nektar Advanced PEGylation Catalog 2005-2006, “Polyethylene Glycol and Derivatives for Advanced PEGylation”参照);PEG−SS(スクシンイミジルスクシネート)、PEG−SG(スクシンイミジルグルタレート)、PEG−NPC(p−ニトロフェニルカーボネート)およびPEG−イソシアネート(SunBio Corporationから利用できる);ならびにPEG−SCM(NOF Corporationから利用できる)を含む。ポリエチレングリコールは、直線または分岐のいずれかであり得る。
【0051】
PEG化タンパク質を得るための方法は当分野で知られている;例えば、Nektar Advanced PEGylation Catalog 2005-2006(これは出典明示により本明細書に包含させる)、参照。PEG化G−CSF変異体およびそれらの製造方法は、例えば、WO01/51510、WO03/006501、US6,646,110、US6,555,660およびUS6,831,158(これらそれぞれは出典明示により本明細書に包含させる)に記載されている。
【0052】
好ましい態様において、マルチ−PEG化G−CSF変異体は、N−末端に結合しているPEG部分およびリジン残基に結合している少なくとも1個のPEG部分を含む。
【0053】
1つの態様において、投与されるマルチ−PEG化G−CSF変異体は、ペグ化が望ましい位置にリジン残基を導入するために、配列番号:1のhG−CSF配列において少なくとも1つの置換を含む。特に、リジン残基は、T1K、P2K、L3K、G4K、P5K、A6K、S7K、S8K、L9K、P10K、Q11K、S12K、F13K、L14K、L15K、E19K、Q20K、V21K、Q25K、G26K、D27K、A29K、A30K、E33K、A37K、T38K、Y39K、L41K、H43K、P44K、E45K、E46K、V48K、L49K、L50K、H52K、S53K、L54K、I56K、P57K、P60K、L61K、S62K、S63K、P65K、S66K、Q67K、A68K、L69K、Q70K、L71K、A72K、G73K、S76K、Q77K、L78K、S80K、F83K、Q86K、G87K、Q90K、E93K、G94K、S96K、P97K、E98K、L99K、G100K、P101K、T102K、D104K、T105K、Q107K、L108K、D109K、A111K、D112K、F113K、T115K、T116K、W118K、Q119K、Q120K、M121K、E122K、E123K、L124K、M126K、A127K、P128K、A129K、L130K、Q131K、P132K、T133K、Q134K、G135K、A136K、M137K、P138K、A139K、A141K、S142K、A143K、F144K、Q145K、S155K、H156K、Q158K、S159K、L161K、E162K、V163K、S164K、Y165K、V167K、L168K、H170K、L171K、A172K、Q173KおよびP174K(残基の位置は配列番号:1に関する)からなる群から選択される1つまたはそれ以上の置換の手段により導入され得る。
【0054】
したがって、好ましいアミノ酸置換の例は、1個またはそれ以上のQ70K、Q90K、T105K、Q120K、T133K、S159KおよびH170K/Q/R、例えば、これらの置換の2個、3個、4個または5個、例えば:Q70K+Q90K、Q70K+T105K、Q70K+Q120K、Q70K+T133K、Q70K+S159K、Q70K+H170K、Q90K+T105K、Q90K+Q120K、Q90K+T133K、Q90K+S159K、Q90K+H170K、T105K+Q120K、T105K+T133K、T105K+S159K、T105K+H170K、Q120K+T133K、Q120K+S159K、Q120K+H170K、T133K+S159K、T133K+H170K、S159K+H170K、Q70K+Q90K+T105K、Q70K+Q90K+Q120K、Q70K+Q90K+T133K、Q70K+Q90K+S159K、Q70K+Q90K+H170K、Q70K+T105K+Q120K、Q70K+T105K+T133K、Q70K+T105K+S159K、Q70K+T105K+H170K、Q70K+Q120K+T133K、Q70K+Q120K+S159K、Q70K+Q120K+H170K、Q70K+T133K+S159K、Q70K+T133K+H170K、Q70K+S159K+H170K、Q90K+T105K+Q120K、Q90K+T105K+T133K、Q90K+T105K+S159K、Q90K+T105K+H170K、Q90K+Q120K+T133K、Q90K+Q120K+S159K、Q90K+Q120K+H170K、Q90K+T133K+S159K、Q90K+T133K+H170K、Q90+S159K+H170K、T105K+Q120K+T133K、T105K+Q120K+S159K、T105K+Q120K+H170K、T105K+T133K+S159K、T105K+T133K+H170K、T105K+S159K+H170K、Q120K+T133K+S159K、Q120K+T133K+H170K、Q120K+S159K+H170K、T133K+S159K+H170K、Q70K+Q90K+T105K+Q120K、Q70K+Q90K+T105K+T133K、Q70K+Q90K+T105K+S159K、Q70K+Q90K+T105K+H170K、Q70K+Q90K+Q120K+T133K、Q70K+Q90K+Q120K+S159K、Q70K+Q90K+Q120K+H170K、Q70K+Q90K+T133K+S159K、Q70K+Q90K+T133K+H170K、Q70K+Q90K+S159K+H170K、Q70K+T105K+Q120K+T133K、Q70K+T105K+Q120K+S159K、Q70K+T105K+Q120K+H170K、Q70K+T105K+T133K+S159K、Q70K+T105K+T133K+H170K、Q70K+T105K+S159K+H170K、Q70K+Q120K+T133K+S159K、Q70K+Q120K+T133K+H170K、Q70K+T133K+S159K+H170K、Q90K+T105K+Q120K+T133K、Q90K+T105K+Q120K+S159K、Q90K+T105K+Q120K+H170K、Q90K+T105+T133K+S159K、Q90K+T105+T133K+H170K、Q90K+T105+S159K+H170K、Q90K+Q120K+T133K+S159K、Q90K+Q120K+T133K+H170K、Q90K+Q120K+S159K+H170K、Q90K+T133K+S159K+H170K、T105K+Q120K+T133K+S159K、T105K+Q120K+T133K+H170K、T105K+Q120K+S159K+H170K、T105K+T133K+S159K+H170KまたはQ120K+T133K+S159K+H170Kを含む。上記のすべての変異体において、置換H170KはH170QまたはH170Rに代えられ得る。リジンを導入するために特に好ましい置換は、T105KとS159Kのうちの1つまたはその両方を含む。
【0055】
さらなる態様において、G−CSFポリペプチドは、位置16、23、34および40における1個またはそれ以上の天然リジン残基がこれらの位置においてペグ化を避けるために除去されているG−CSF変異体を生産するために、改変され得る。例えば、1個またはそれ以上のこれらのリジン残基は、好ましくはアルギニンまたはグルタミン残基、さらに好ましくはアルギニン残基での置換の手段により除去され得る。好ましくは、位置16、34および40における1個またはそれ以上のリジン残基は置換の手段により除去され、さらに好ましくは、2個または3個のこれらのリジンは除去され、より好ましくは、この位置における全3個のリジンは置換により除去される。したがって、好ましい態様において、G−CSF変異体は、K16R、K16Q、K34R、K34Q、K40RおよびK40Qからなる群から選択される少なくとも1つの置換;すなわち、K16R/Q、K34R/QおよびK40R/Qからなる群から選択される少なくとも1つの置換を有する配列番号:1の配列を含む。特に好ましい態様において、変異体は、置換K16R/Q+K34R/Q+K40R/Q、例えば、K16R+K34R+K40RまたはK16Q+K34R+K40RまたはK16R+K34Q+K40RまたはK16R+K34R+K40QまたはK16Q+K34Q+K40RまたはK16R+K34Q+K40QまたはK16Q+K34Q+K40Qを含む。
【0056】
他の態様において、G−CSF変異体は、上記説明のとおり、リジン残基を導入するための少なくとも1つの置換と、リジン残基を除去するための少なくとも1つの置換を含む。
【0057】
他の態様において、マルチ−PEG化G−CSF変異体は、位置16、34および40における1個またはそれ以上のリジン残基の、例えば、アルギニンまたはグルタミン残基、例えば、アルギニン残基での置換、ならびにQ70K、Q90K、T105K、Q120K、T133KおよびS159Kから選択される1つまたはそれ以上の置換を含み、それぞれ約1000−10,000Daの分子量を有する2−6個、例えば、2−4個のポリエチレングリコール部分と結合する。
【0058】
他の態様において、マルチ−PEG化G−CSF変異体は、K16R、K34RおよびK40Rから選択される1つまたはそれ以上の置換、ならびにQ70K、Q90K、T105K、Q120K、T133KおよびS159Kから選択される1つまたはそれ以上の置換を含み、それぞれ約1000−10,000Daの分子量を有する2−6個、例えば、2−4個のポリエチレングリコール部分と結合する。
【0059】
他の態様において、マルチ−PEG化G−CSF変異体は、位置16、34および40における1個またはそれ以上のリジン残基の、例えば、アルギニンまたはグルタミン残基、例えば、アルギニン残基での置換、ならびにT105KおよびS159Kから選択される少なくとも1つの置換を含み、それぞれ約1000−10,000Daの分子量を有する2−6個、例えば、2−4個のポリエチレングリコール部分と結合する。
【0060】
他の態様において、マルチ−PEG化G−CSF変異体は、K16R、K34RおよびK40Rから選択される1つまたはそれ以上の置換、ならびにT105KおよびS159Kから選択される少なくとも1つの置換を含み、それぞれ約1000−10,000Daの分子量を有する2−6個、例えば、2−4個のポリエチレングリコール部分と結合する。
【0061】
特定の態様において、マルチ−PEG化G−CSF変異体は、置換K16R、K34R、K40R、T105KおよびS159Kを含み、約1000−10,000Daの分子量を有する2−6個、例えば、2−4個のポリエチレングリコール部分と結合する。
【0062】
特定の態様において、マルチ−PEG化G−CSF変異体は、約5000−6000Daの分子量を有する2−6個、一般的に2−5個、例えば、2−4個の結合しているポリエチレングリコール部分、例えば、約5kDaの分子量を有するmPEGを有し得る。好ましくは、マルチ−PEG化G−CSF変異体は、約5000−6000Daの分子量を有する2−4個の結合しているポリエチレングリコール部分、例えば、5kDaのmPEGを有する。本発明の方法において使用するために適当である特に好ましいマルチ−PEG化G−CSF変異体は、置換K16R、K34R、K40R、T105KおよびS159Kを含み、それぞれ約5kDaの分子量を有する2−4個のPEG部分、例えば、3個のこのようなPEG部分を含む。
【0063】
他の態様において、マルチ−PEG化G−CSF変異体は、複合体あたり単一の数のみ結合しているPEG部分、例えば、2、3、4もしくは5個いずれかのPEG部分を有するように、または異なる数の結合しているPEG部分を有する所望の複合体混合物、例えば、2−5個、2−4個、3−5個、3−4個、4−6個、4−5個もしくは5−6個の結合しているPEG部分を有する複合体混合物を有するように生産され得る。上記に示されているとおり、好ましい複合体混合物の例は、約5kDaの2−4個のPEG部分を有するもの、例えば、複合体あたり主に3個の結合しているPEG部分を有する複合体であるが、少ない割合において2個または4個いずれかの結合しているPEG部分を有する複合体のものである。
【0064】
特定の数の結合しているPEG部分を有する複合体または定義の範囲の数の結合しているPEG部分を有する複合体混合物は、適当なペグ化条件を選択することにより、所望により所望の数のPEG部分を有する複合体を分離するために後に精製を使用することにより、得ることができることは理解される。異なる数の結合しているPEG部分を有するG−CSF複合体の分離のための方法ならびに結合しているPEG部分の数を同定するための方法の例は、例えば、WO01/51510およびWO03/006501(これら両方は出典明示により本明細書に包含させる)に記載されている。本発明の目的のために、複合体は、SDS−PAGEゲルにおける分離が、PEG部分の与えられた数に対応するバンド以外にバンドがないか、またはほんのわずかであるとき、与えられた数の結合しているPEG部分を有すると考えられ得る。例えば、複合体のサンプルは、サンプルを駆動したSDS−PAGEゲルが、3個のPEG基それぞれに対応する主要なバンドおよびわずかなバンドのみを示すか、または、好ましくは2または4個のPEG基に対応するバンドを示さないとき、3個の結合しているPEG基を有すると考えられる。
【0065】
いくつかの場合において、アミン−特異的活性化PEG誘導体、例えば、mPEG−SPAは、もっぱらアミド結合を介してN−末端およびリジン残基のε−アミノ基に結合し得ないが、エステル結合を介してセリン、チロシンまたはスレオニン残基のヒドロキシ基に結合し得る。結果として、PEG化タンパク質は、十分な程度の均一性を有し得ず、意図されたもの以外の多くの異なるPEG異性体を含み得る。エステル結合を介して結合しているこのようなPEG部分は、一般的に不安定であり、ヒドロキシ基に結合している不安定なPEG部分を除去するために十分な期間、PEG化ポリペプチドを高いpHに付すことを含む米国仮出願第60/686,726号(出典明示により本明細書に包含させる)に記載されている方法により除去することができる。この方法は、また、USSN11/420,546(米国特許第7,381,805号)およびWO2006/128460(これらそれぞれは出典明示により本明細書に包含させる)に記載されている。
【0066】
好ましい態様において、マルチ−PEG化G−CSF変異体は、PEG位置異性体種の混合物である。本明細書において使用されるタンパク質の“PEG位置異性体”なる用語は、PEG基がタンパク質の異なるアミノ酸位置に位置している、タンパク質の異なるPEG化型を示す。本発明において使用される好ましいマルチ−PEG化G−CSF変異体は、リジン/N−末端PEG異性体の混合物である。タンパク質の“リジン/N−末端PEG異性体”なる用語は、PEG基がタンパク質のアミノ−末端および/またはタンパク質におけるリジン残基のエプシロンアミノ基に結合していることを意味する。例えば、G−CSFに適用されている、フレーズ“3個の結合しているPEG部分を有するリジン/N−末端PEG位置異性体”は、3個のPEG基がリジン残基のエプシロンアミノ基および/またはタンパク質のN−末端に結合されているG−CSF PEG位置異性体の混合物を意味する。一般的に、“3個の結合しているPEG部分を有するリジン/N−末端PEG位置異性体”は、2個のリジン残基に結合しているPEG部分および1個のN−末端に結合しているPEG部分を有する。PEG位置異性体の分析は、WO2006/128460(これは出典明示により本明細書に包含させる)に記載されている陽イオン交換HPLCを使用して実施され得る。
【0067】
一般的に、PEG位置異性体種の混合物は、実質的に精製されたリジン/N−末端PEG位置異性体の混合物である。ポリペプチドの“実質的に精製されたリジン/N−末端PEG位置異性体の混合物”は、不純物、例えば、非−リジン/N−末端PEG位置異性体を除去するために、クロマトグラフィーまたは他の精製方法に付した、リジン/N−末端PEG位置異性体の混合物を示す。“実質的に精製されたリジン/N−末端PEG位置異性体の混合物”は、例えば、本明細書に記載されている部分的な脱ペグ化工程および後の精製の非存在下で存在するであろう、ヒドロキシル基に結合している非常に不安定なPEG部分が存在しない、一般的にヒドロキシル基に結合している不安定なPEG部分を含むポリペプチドを約20%未満、さらに一般的に約15%未満含む。好ましくは、ヒドロキシル基に結合している不安定なPEG部分を含むポリペプチドは、約10%未満、例えば、約5%未満である。
【0068】
好ましくは、PEG位置異性体種の混合物は、G−CSF変異体のPEG位置異性体の均一混合物である。“ポリペプチド(G−CSF)変異体のPEG位置異性体の均一混合物”なる用語は、異なるPEG位置異性体のポリペプチド部分が同じであることを意味する。これは、混合物の異なるPEG位置異性体がすべて単一のポリペプチド変異体配列に基づくことを意味する。例えば、PEG化G−CSFポリペプチド変異体のPEG位置異性体の均一混合物は、混合物の異なるPEG位置異性体が単一のG−CSFポリペプチド変異体に基づくことを意味する。
【0069】
一般的に、G−CSF変異体のPEG位置異性体の均一混合物は、実質的に均一性を示す。本明細書において使用される“均一性”は、異なる位置異性体、すなわち、異なる位置において結合している異なる数のPEG部分を含む異なるポリペプチド異性体の数、ならびにこれらの位置異性体の相対分布に関して、PEG化ポリペプチドの均質性を示す。ヒトまたは動物における治療的使用を目的とする医薬ポリペプチドにおいて、異なるPEG位置異性体および異なるPEG化種の数が最小であることが一般的に望ましい。
【0070】
1つの態様において、マルチ−PEG化G−CSF変異体(以下の実施例において“Maxy−G21”として称される)は、G−CSF変異体成分が、Ser66またはTyr165の1つまたは両方において不安定なPEG部分、ならびにN−末端および1個または2個の位置K23、K105およびK159において安定なPEG部分を含み、4個または5個いずれかの結合しているPEG部分をそれぞれ有する位置異性体を含む、置換K16R、K34R、K40R、T105KおよびS159K(配列番号:1に関する)を有する配列番号:1のアミノ酸配列を有する、PEG位置異性体の混合物である。本明細書においてMaxy−G21として称されるマルチ−PEG化G−CSF変異体は、それぞれ5000Daの平均分子量を有する、mPEG−SPA(Nektar)であるPEG部分を含む。
【0071】
“部分的な脱ペグ化”なる用語は、本明細書において、N−末端またはリジン残基のアミノ基に非常に安定に結合しているPEG部分は無傷で維持されるが、ヒドロキシル基に結合している不安定なPEG部分は除去されることを示す。このプロセスを実施するための方法は、USSN60/686,726、USSN11/420,546(米国特許第7,381,805号)およびWO2006/128460(これらそれぞれは出典明示により本明細書に包含させる)に記載されている。
【0072】
他の態様において、マルチ−PEG化G−CSF変異体(以下の実施例において“Maxy−G34”として称される)は、G−CSF変異体成分が、置換K16R、K34R、K40R、T105KおよびS159K(配列番号:1に関する)を有する配列番号:1のアミノ酸配列を有し、そして混合物の少なくとも80%がそれぞれ3つの結合しているPEG部分を有する2種のPEG位置異性体を含む(ここで、異性体の1つがN−末端、Lys23およびLys159に結合しているPEG基を有し、他の異性体がN−末端、Lys105およびLys159に結合しているPEG基を有する)、PEG位置異性体の混合物である。本明細書においてMaxy−G34として称されるマルチ−PEG化G−CSF変異体は、それぞれ5000Daの平均分子量を有する、mPEG−SPA(Nektar)であるPEG部分を含む。
【0073】
上記すべての態様において、G−CSF変異体およびマルチ−PEG化G−CSF変異体は、所望によりN−末端に結合しているメチオニン残基を含み得る。
【0074】
さらなる態様において、本発明において投与されるマルチ−PEG化G−CSF変異体は、以下のいずれかに記載されているとおりに製造され得る(これらそれぞれは出典明示により本明細書に包含させる):
・WO89/05824(G−CSFのリジン−欠失変異体)
・US5,824,778(アミノ酸のカルボキシル基を介してポリペプチドの少なくとも1個のアミノ酸に共有結合している少なくとも1個のPEG部分を有するG−CSF)
・WO99/03887(G−CSFのPEG化システイン変異体)
・WO2005/055946(無傷のグリコシル連結基を介して結合しているPEG部分を有する“グリコ−PEG化”G−CSF複合体)
・WO2005/070138(対応する野生型ポリペプチドに存在しないO−結合型グリコシル化部位をコードする変異ペプチド配列を含むG−CSFポリペプチド)
・US2005/0114037A1(少なくとも1つの多くの異なる特定のアミノ酸位置に結合している少なくとも1つのポリマー部分を有するG−CSF)
【0075】
他の態様において、本発明において投与されるマルチ−PEG化G−CSF変異体は、モノ−PEG化hG−CSF、ニューラスタ(登録商標)と比較して、改良された薬物動態特性、例えば、血清半減期の上昇および/またはAUCの増加を示す。好ましくは、マルチ−PEG化G−CSF変異体は、ニューラスタ(登録商標)の血清半減期またはAUCの少なくとも約1.2倍、例えば、モノ−PEG化hG−CSF、ニューラスタ(登録商標)の血清半減期またはAUCの少なくとも約1.4倍、例えば、少なくとも約1.5倍、例えば、少なくとも約1.6倍、例えば、少なくとも約1.8倍、例えば、少なくとも約2.0倍、2.5倍、3倍、5倍または10倍の上昇または増加を示す。
【0076】
放射線暴露および処置
A.造血系における放射線暴露の影響
放射線事故シナリオは、激しく照射された個体に対する緊急準備モデルおよび治療戦略の設計において有用ないくつかの定義的特性を提供している。源に対する体位、偶発遮蔽および距離が、個体のあらゆる群に対して片側、不均一および非均質暴露をもたらす。さらに、暴露から処置の開始までの期間は決して最適ではない。これらの暴露局面は、正確な吸収された線量を測定する困難性を強調する;確立しているトリアージ(triage)および処置の根拠ならびに、さらに、生物学的線量測定における処置の効果は知られていない。放射線暴露に関して、上記特性が、骨髄由来造血幹細胞および前駆細胞(“BM−由来HSCおよびHPC”)ならびに胸腺組織の温存の可能性とともに、高度に可変の線量分布を示し、それにより造血成長因子(“HGF”)の適時投与に応答して造血およびリンパ球再生の可能性を増強すると仮定することは理にかなっている。
【0077】
造血系は、急性全身照射(TBI)後に、非常に放射線感受性かつ線量制限臓器系である。HSCおよびHPCは、最小限の修復能で線量依存指数関数的に殺され、暴露線量のわずかな増加がHSCおよびHPC死の過度の増加を引き起こすことを示す。成熟した、さらに分化した細胞は、高度に増殖性の幹および前駆細胞よりもさらに放射線抵抗性である。HSCの一部が比較的、放射線抵抗性であることが提案されている。HSCおよびHPCにおける細胞死の指数関数的線量依存性質は、不均一放射線暴露および活性骨髄を横切る結果として可変線量分布の現実と組み合わせると、ほんのわずかのHSCおよびHPC、ならびにそれぞれのBM(骨芽細胞)、血管および胸腺(上皮細胞)ニッチの細胞が造血症候群を引き起こし得る致死線量の放射線で生存し、本明細書に記載されている治療アプローチに適していることを示唆する。
【0078】
核爆発または事故により生じる急性暴露は、片側、不均一およびある程度の部分的な体の遮蔽が起こり得る。結果として、骨髄および血管ニッチ内に位置するHSCおよびHPCの画分は暴露されていないか、または有意に低い線量の放射線にのみ暴露されている可能性がある。部分または不均一照射の温存する効果(sparing effect)を証明する動物モデルにおける一貫したデータベースが存在する。片側暴露は、片側 対 両側暴露に関して、LD50/30値(30日以内に対象の50%の死を引き起こす放射線の平均線量)において約20%の増加をもたらすことができる。放射線源に対する方向性も、生物学的期間において評価しなければならない。背側暴露は、若年成人の肋骨および骨盤の脊椎および背側面における大部分の活性骨髄によって骨髄ダメージを最大限にする。逆に、腹側暴露は、活性骨髄の大部分の腹側遮蔽によって骨髄ダメージを最小限にする。不均一暴露が、骨髄の部分的な体の遮蔽と同程度に有効であると見るべきでない。放射線量とHSC/HPC生存の指数関数的関係のため、例えば、全身線量を半減させるとHSC生存は50%の増加でなく、わずか10%だけの増加であるため、これは有意である。
【0079】
B.放射線量
非ヒト霊長類(“NHP”)における急性放射線誘発造血症候群に基づくデータは、250キロボルトピーク(kVp)のX−放射線またはCo−60ガンマおよび2メガボルト(MV)X−放射線における全身照射(TBI)に関する実験由来であった。Co−60ガンマ放射線誘発致死性に基づくデータは、1967年に実施された単一の確立されていない実験(n=90NHP)である。Dalrymple et al. (Radiation Res. 25:377-400, 1965)は、TBIおよび造血症候群致死性に関する線量−応答関係を確立するために、2MV X−放射線を使用した。これらの2つの試験は、対症療法を受けていない、ガンマ放射線または高エネルギーX線(2MV)に暴露されたNHPにおける放射線誘発造血症候群致死性の線量−応答関係を確立するための基礎として役に立つ。このデータベースは、単一線量の放射線および関連致死性が確度で選択することができる対照コホートとして役に立っている。これらの以前の試験から得られたNHPに関するLD50/30値は、それぞれ6.40Gy[6.06、7.75]および6.65Gy[6.00、10.17](角型括弧[ ]内に95%信頼区間(CI))であった。比較のために、250kVp X線でTBIにおいて暴露されたNHPに関するそれぞれのLD50/30値は、2MV X線をDalrymple実験において使用した低エネルギーX線と、X−照射の相対的生物学的効果を立証する約4.80Gyである。
【0080】
ヒトにおける全身または重要な部分照射の効果に関するデータは、必ずしも、過去の原子力事故、例えば、広島の爆発およびチェルノブイリの事故から回収されていない。このようなデータは、テネシー州オークリッジ市における放射線緊急時支援センター/訓練施設(REAC/TS)に登録されている。このデータに基づいて、リンパ球絶対数(ALC)が透過性放射線への暴露後すぐに減少するため、48時間にわたってリンパ球数の減少率を測定することにより、個体における放射線量を概算する方法が開発されている(Goans R.E., et al. Health Phys. 81:446-449, 2001)。このような概算は、4から6時間間隔を置かれる2つ以上のALC測定を必要とする。このような測定は、例えば、大量の死傷者状況において非実用的である場合、他の放射線量の概算は放射線暴露後に対象が吐くまでの時間の長さに基づく。Berger, M.E. et al. (Occupational Medicine 56:162-172, 2006)は、少なくとも2Gyの急性全身照射に暴露された多数の個体(70−90%)は暴露後1から2時間以内に吐き、少なくとも4Gyの放射線に暴露された個体の実質的に100%は1時間以内に吐き、少なくとも6Gyの放射線に暴露された者は30分以内に吐くことを示す表を提供している。急性全身放射線暴露(例えば、体温、頭痛、下痢)と関連する他の身体症状の重症度および発症までの時間も、Berger et al.(上記)に表にされている。
【0081】
C.対症療法
抗生物質、液体、血液製剤、鎮痛剤および栄養の使用は、骨髄抑制および致死線量の放射線に暴露された患者のための“標準のケア”である。対症療法のみ、例えば、抗生物質、全血または血小板注入、液体および栄養は、照射された対象の生存率を有意に増加させることができる。致死線量の放射線に暴露された動物における対症療法と造血症候群生存率の関係は、非ヒト霊長類(NHP)ではないがイヌにおいて立証されている。Byron et alによる単回試験は、100%致死線量に暴露されたアカゲザルにおいて72%に生存率を有意に増加させる抗生物質レジメンのみの能力を立証した。さらに、軍放射性生物研究所(AFRRI)およびメリーランド大学ボルティモア校(UMB)におけるMacVittie/Farese実験は、単回の致死線量のTBI(LD70/30)における対症療法の効果が以下に記載されているデータベースから概算されることを立証した。これらのデータは、LD70/30に相当する線量(すなわち、30日以内に対症療法の非存在下で対象の70%の死を引き起こす線量)においてCo−60ガンマ放射線からTBIで照射されたNHPが、対症療法が投与される30日間にわたって対象の死の数が約14%に減少する(すなわち、LD14/30)ことを示す。同様の試験が(MacVittie/Farese UMB ラボ)、250kVp X線でTBIに暴露されたアカゲザルで実施された。6.00Gy TBIと関連する概算された70%の致死率は、対症療法のみ加えて9%に減少した。
【0082】
上記の対症療法を受けていない、NHPにおける放射線誘発造血症候群致死性の線量−応答試験において得られた結果は、対症療法を受けるNHPにおける致死線量反応関係を測定するために最近の盲検、放射線量−ランダム試験を設計するために使用した(実施例1)。LD50/60に対する得られた値は、立証されていない歴史的対照コホートに対するLD50/60の約6.50Gyと比較して、7.52Gyであった。これは、対症療法の生存率増加効果を確認する、ならびに造血症候群における対症療法(あるいは医学的管理として知られている)を投与される致死線量の放射線に暴露されたNHPに対するそれぞれのLD30/60、LD50/60およびLD70/60の線量を決定するための線量関係を提供するために役立った。
【0083】
この生存率増加効果は2つの条件に依存する。第1に、生存HSCおよびHPCは自然再生をすることができるはずであり、第2に、造血回復は重要な臨床的に扱いやすい期間内に機能性好中球および/または血小板の生産をもたらはずである。
【0084】
D.ARSの処置における造血成長因子の役割
造血成長因子(HGF)が、最適のスケジュールで対症療法と組み合わせて投与されたとき、対症療法のみよりも好中球および血小板の生存率および回復が有意に増加することを立証する、骨髄抑制および/または致死放射線暴露の小型および大型動物モデルに基づく実質的な一貫したデータが存在する。MacVittie実験室は、以前に、完全型造血症候群を誘発するレベルにおけるCo−60 TBIに暴露されたイヌにおける、対症療法のみの、ならびにG−CSFの投与と組み合わせたものの有用性を立証した。対症療法なしのLD50/30は2.60Gyであり、これは対症療法で3.38Gyに増加し、さらに最適投与スケジュール下でのG−CSFの添加で4.88Gyに増加した。この試験は、適度の線量率における均一TBIに関する照射の標準実験モデルを使用した。
【0085】
HGFの投与のための慣用のスケジュールは、照射後24時間以内の早期に処置を開始し、造血前駆細胞の再生および好中球および/または血小板の生産を保証するために連日投与を続けることである。しかしながら、核爆発または事故後の処置に関してさらに現実的なスケジュールは、照射48−72時間後の遅延投与である。多くの前臨床試験は、HGFの遅延投与の効果の評価のために実施されている。これらの試験の大多数は、造血応答の規模が、HGF投与から照射までの期間の上昇により有意に減少したことを示す。G−CSFおよびPEG化G−CSFと共に、ARSの処置においてときどき使用される他のHGFは、顆粒球・マクロファージコロニー刺激因子(GM−CSF)、幹細胞因子(SCF)、FLT3−リガンド(FL)、インターロイキン−3(IL−3)、巨核球増殖発達因子(MGDF)、トロンボポエチン(TPO)、TPO−受容体アゴニストおよびエリスロポエチン(EPO)を含む(Drouet, M. et al., Haematologica 93(3)465-466, 2008; Herodin F. et al., Experimental Hematology 35:1172-1181, 2007)。これらのうち、単剤として、G−CSFおよびGM−CSFのみが、承認適応症外使用として、致死の可能性がある照射された個人を処置するために現在利用されている。これらのHGFは、FDA“動物ルール”(AR)の下の承認に関して、FDAに恐らく最初に指名される。HGF“カクテル”の考察は、それぞれの毒性および暴露後の投与時間の分析を含むべきである。
【0086】
E.動物モデル系における放射線誘発好中球減少症の処置におけるマルチ−PEG化G−CSF変異体
アカゲザルにおける放射線誘発血球減少症は、血小板減少症および好中球減少症の処置における医薬の有効性を試験するために有効なモデル系であることが証明されている。実施例2に記載されている試験において、本発明の典型的なマルチ−PEG化G−CSF変異体(本明細書において“Maxy−G21”として同定される)の単回注射は、末梢血全有核細胞、好中球、単核細胞の有意な増加およびコロニー形成細胞の末梢血への有意な動員を誘導した。好中球減少症を14.8−15.2日間示す6.0GyのTBIに暴露された対照動物と比較して、TBI24時間後に用量300μg/kgでMaxy−G21を投与された動物は、好中球減少症を7.3±1.1日間に有意に短縮することを示した。好中球減少症の期間は、動物が500/μL未満で観察されるか、または見なされるANCを有する日数として決定した。試験化合物の最初の投与後の少なくとも2日間に起こる、最初の最も低い観察されるか、または見なされるANCとして定義されるANC最下点も、対照動物における49±22/μLから140±45/μLに著しく改善された。試験1日目から、500/μL以上で観察されるか、または見なされるANCの最初の2連続日までの日数として決定される回復時間も同様に、対照値の21.2±0.4日間からMaxy−G21処置コホートの15.5±0.3日間に改善された。
【0087】
試験内(intra-study)ニューラスタ(登録商標)群および歴史的コホート(n=9)を含む組合せニューラスタ(登録商標)コホートと比較して、Maxy−G21は、好中球減少症の期間(p=0.02)ならびに回復時間を有意に短縮させた。Maxy−G21処置コホートは9.8日間のみ抗生物質を必要とし、組合せニューラスタ(登録商標)処置コホートは14.7日間、抗生物質サポートを必要とするため、抗生物質の必要性もニューラスタ(登録商標)群と有意に異なる。
【0088】
実施例2に記載されている試験は、アカゲザルに皮下投与された本発明の典型的なマルチ−PEG化G−CSF変異体(本明細書においてMaxy−G21として同定される)が、照射されたNHPにおける好中球減少症の期間を有意に短縮させることを証明した。さらに、該効果は、試験内ニューラスタ(登録商標)コホートを含むコホートおよび歴史的ニューラスタ(登録商標)コホート(N=9)と比較したとき、ニューラスタ(登録商標)のものを越えることを見出した。薬物動態学データは、マルチ−PEG化G−CSF変異体が、照射されたマカクザルにおいて、ニューラスタ(登録商標)と比較して、血漿半減期を著しく上昇させることを示す証拠を提供した(図4)。したがって、PKデータは、マルチ−PEG化G−CSF変異体が、重度の放射線誘発骨髄抑制の状態を有しているNHPならびに健常(非照射)NHPの両方において、モノ−PEG化hG−CSF、ニューラスタ(登録商標)よりも良いバイオアベイラビリティを有する作業仮説を支持する。
【0089】
概して、マルチ−PEG化G−CSF変異体は、非ヒト霊長類における放射線誘発好中球減少症の期間を著しく短縮することを見出した。さらに、好中球減少症の期間の減少は、歴史的ニューラスタ(登録商標)コホートと比較したとき、ニューラスタ(登録商標)のものを越えることを見出した。放射線誘発好中球減少症の程度および期間は、本発明の方法にしたがって、マルチ−PEG化G−CSF変異体の投与により有意に減少させた。
【0090】
実施例3に記載されている試験において、マウスを、20%の未処置対照動物(7.76Gy;LD20/30)または45%の未処置対照動物(7.96Gy;LD45/30)のいずれかの、殺すために十分な放射線の線量に暴露させた。TBI後1日目に、動物に20μg/20gマウスの用量で本発明の典型的なマルチ−PEG化G−CSF変異体(本明細書において“Maxy−G34”として同定される)または希釈剤のいずれかを投与した。投与を7日目に、いくつかの動物において14日目に繰り返した。LD20/30レベルおよびLD45/30レベルで照射後にマルチ−PEG化G−CSF変異体を投与されたマウスは、未処置動物と比較して、30日後に有意に良い生存率を示した(それぞれ図5および6)。
【0091】
実施例2および3の試験は、本発明のマルチ−PEG化G−CSF変異体が、放射線誘発好中球減少症の程度および期間の減少ならびに2つの動物モデル系における生存率の増加において有効であることを証明する。したがって、マルチ−PEG化G−CSF変異体は、致命的な放射線暴露と関連する好中球減少症、例えば、原子力の緊急事態の事象におけるARSの処置において有効であり得る。
【0092】
マルチ−PEG化G−CSF変異体の投与
A.用量
本発明において投与されるマルチ−PEG化G−CSF変異体の用量は、一般的に、成人患者あたり6mg(例えば、60kgの患者に対して100μg/kg)である、化学療法適用においてモノ−PEG化hG−CSF(ニューラスタ(登録商標))に対して現在承認されている用量と同程度の規模である。したがって、マルチ−PEG化G−CSF変異体の適当な用量は、約1mgから約30mg、例えば、約2mgから約20mg、例えば、約3mgから約15mgの範囲と考えられる。したがって、適当な用量は、例えば、約1mg、約2mg、約3mg、約6mg、約9mg、約12mg、約15mg、約20mgまたは約30mgであり得る。あるいは、用量は、マルチ−PEG化G−CSF変異体の適用な用量が約20μg/kgから約500μg/kg、例えば、約30μg/kgから約400μg/kg、例えば、約40μg/kgから約300μg/kg、例えば、約50μg/kgから約200μg/kgの範囲であると考えられるような、患者の体重に基づき得る。したがって、適当な用量は、例えば、約20μg/kg、約30μg/kg、約40μg/kg、約50μg/kg、約60μg/kg、約75μg/kg、約100μg/kg、約125μg/kg、約150μg/kg、約175μg/kg、約200μg/kg、約250μg/kg、約300μg/kg、約400μg/kgまたは約500μg/kgであり得る。マルチ−PEG化G−CSF変異体は、好ましくは放射線暴露後可能な限り早く、例えば、7日以内、4日以内、3日以内、2日以内(すなわち、48時間以内)または、さらに好ましくは放射線暴露後1日以内(すなわち、24時間以内)に投与される。患者の疾患および予後の性質ならびに応答に依存して、マルチ−PEG化G−CSF変異体の第2、あるいは第3の投与は、前回の投与後、1から4週間(例えば、約7日間、約10日間、約14日間、約18日間、約21日間、約24日間、約28日間)に投与され得る。
【0093】
マルチ−PEG化G−CSF変異体の正確な用量および投与の頻度は、多くの因子、例えば、マルチ−PEG化G−CSF変異体の特定の活性および薬物動態学的特性、ならびに処置される状態の性質および重症度(例えば、放射線暴露のレベルおよび/または期間、暴露された体の面積および量、放射線の型、ARS−関連症状の重症度)、当業者に既知の他の因子に依存する。通常、用量は、対象における好中球減少症の程度および/または期間を防止するか、または減少させることができるものである。このような用量は、“有効”または“治療有効”量と称され得る。本発明のマルチ−PEG化G−CSF変異体の有効量は、とりわけ、処置される状態の重症度、用量、投与スケジュール、マルチ−PEG化G−CSF変異体を単独または他の治療剤と組み合わせて投与するかどうか、マルチ−PEG化G−CSF変異体の血清半減期および他の薬物動態学的特性、ならびに患者のサイズ、年齢および総体的な健康に依存することが、当業者に明らかである。投与の用量および頻度は、既知の技術を使用して当業者により確かめることができる。
【0094】
B.医薬組成物
本発明において投与されるマルチ−PEG化G−CSF変異体は、1つ以上の薬学的に許容される担体または賦形剤を含む組成物において投与され得る。マルチ−PEG化G−CSF変異体は、十分に保存に安定しており、ヒトまたは動物への投与のために適当である医薬をもたらすために、当分野でそれ自体既知の方法において医薬組成物に製剤化することができる。医薬組成物は、液体もしくはゲルまたは凍結乾燥された形態、または他のあらゆる適当な形態を含む種々の形態において製剤化され得る。好ましい形態は、処置される特定の適応に依存し、当業者に明らかである。
【0095】
“薬学的に許容される”は、使用される用量および濃度において投与される患者において悪影響を引き起こさない担体または賦形剤を意味する。このような薬学的に許容される担体および賦形剤は、当分野でよく知られている(例えば、Remington's Pharmaceutical Sciences, 18th edition, A. R. Gennaro, Ed., Mack Publishing Company (1990); Pharmaceutical Formulatiion Development of Peptides and Proteins, S. Frokjaer and L. Hovgaard, Eds., Taylor & Francis (2000) ;およびHandbook of Pharmaceutical Excipients, 3rd edition, A. Kibbe, Ed., Pharmaceutical Press (2000)、参照)。
【0096】
C.非経口組成物
医薬組成物の例は、非経口投与、例えば、皮下経路のために設計された溶液である。多くの場合において、医薬溶液製剤は即時使用のために適当な液体形態において提供されるが、このような非経口製剤は、また、凍結または凍結乾燥形態において提供され得る。前者の場合、組成物は、使用前に解凍しなければならない。後者の形態は、凍結乾燥製剤がそれらの液体対応物よりも一般的により安定であることが当業者に認識されているため、しばしば、多様な貯蔵条件下で組成物に含まれる活性化合物の安定性を増強するために使用される。このような凍結乾燥製剤は、使用前に、1種以上の適当な薬学的に許容される希釈剤、例えば、注射用滅菌水または滅菌生理食塩水の添加により再構成される。
【0097】
非経口の場合において、それらは、凍結乾燥製剤または水溶液としての貯蔵のために、適当なとき、所望の純度を有するポリペプチドを、一般的に当分野で使用される1つ以上の薬学的に許容される担体、賦形剤または安定剤(これらすべては“賦形剤”と称される)、例えば、緩衝剤、安定剤、防腐剤、等張剤、非イオン性洗剤、抗酸化剤および/または他の種々の添加物と混合することにより製造される。
【0098】
緩衝剤は、おおよそ生理学的条件の範囲におけるpHを維持するように助ける。それらは、一般的に、約2mMから約50mMの濃度において存在する。本発明で使用するために適当な緩衝剤は、有機酸および無機酸の両方ならびにそれらの塩、例えば、クエン酸緩衝液(例えば、クエン酸モノナトリウム−クエン酸ジナトリウム混合物、クエン酸−クエン酸トリナトリウム混合物、クエン酸−クエン酸モノナトリウム混合物など)、コハク酸緩衝液(例えば、コハク酸−コハク酸モノナトリウム混合物、コハク酸−水酸化ナトリウム混合物、コハク酸−コハク酸ジナトリウム混合物など)、酒石酸緩衝液(例えば、酒石酸−酒石酸ナトリウム混合物、酒石酸−酒石酸カリウム混合物、酒石酸−水酸化ナトリウム混合物など)、フマル酸緩衝液(例えば、フマル酸−フマル酸モノナトリウム混合物、フマル酸−フマル酸ジナトリウム混合物、フマル酸モノナトリウム−フマル酸ジナトリウム混合物など)、グルコン酸緩衝液(例えば、グルコン酸−グルコン酸ナトリウム混合物、グルコン酸−水酸化ナトリウム混合物、グルコン酸−グルコン酸カリウム混合物など)、シュウ酸緩衝液(例えば、シュウ酸−シュウ酸ナトリウム混合物、シュウ酸−水酸化ナトリウム混合物、シュウ酸−シュウ酸カリウム混合物など)、乳酸緩衝液(例えば、乳酸−乳酸ナトリウム混合物、乳酸−水酸化ナトリウム混合物、乳酸−乳酸カリウム混合物など)および酢酸緩衝液(例えば、酢酸−酢酸ナトリウム混合物、酢酸−水酸化ナトリウム混合物など)を含む。さらなる可能性のあるものは、リン酸緩衝液、ヒスチジン緩衝液およびトリメチルアミン塩、例えば、トリスである。
【0099】
防腐剤は、微生物の増殖を遅らせるために加えられ、一般的に約0.2%−1%(w/v)の量において加えられる。本発明で使用するために適当な防腐剤は、フェノール、ベンジルアルコール、メタクレゾール、メチルパラベン、プロピルパラベン、オクタデシルジメチルベンジル塩化アンモニウムクロライド、ベンザルコニウムハライド(例えば、ベンザルコニウムクロライド、ブロマイドまたはアイオダイド)、ヘキサメトニウムクロライド、アルキルパラベン、例えば、メチルまたはプロピルパラベン、カテコール、レゾルシノール、シクロヘキサノールおよび3−ペンタノールを含む。
【0100】
等張剤は、液体組成物の等張性を保証するために加えられ、多価糖アルコール、好ましくは三価またはそれ以上の糖アルコール、例えば、グリセリン、エリトリトール、アラビトール、キシリトール、ソルビトールおよびマンニトールを含む。多価アルコールは、他の成分の相対量を考慮して、0.1重量%から25重量%、一般的に1重量%から5重量%の量において存在し得る。
【0101】
安定剤は、増量剤から、治療剤を溶解させるか、または変性もしくは容器壁への付着を防止することを助ける添加剤まで、機能が種々であり得る広範なカテゴリーの賦形剤を示す。典型的な安定剤は、多価糖アルコール(上記);アミノ酸、例えば、アルギニン、リジン、グリジン、グルタミン、アスパラギン、ヒスチジン、アラニン、オルニチン(omithine)、L−ロイシン、2−フェニルアラニン、グルタミン酸、スレオニンなど、有機糖または糖アルコール、例えば、ラクトース、トレハロース、スタキオース、マンニトール、ソルビトール、キシリトール、リビトール、ミオイノシトール、ガラクチトール、グリセロールなど、シクリトール、例えば、イノシトール;ポリエチレングリコール;アミノ酸ポリマー;硫黄含有還元剤、例えば、ウレア、グルタチオン、チオクト酸、チオグリコール酸ナトリウム、チオグリセロール、α−モノチオグリセロールおよびチオ硫酸ナトリウム;低分子量ポリペプチド(すなわち、<10残基);タンパク質、例えば、ヒト血清アルブミン、ウシ血清アルブミン、ゼラチンまたは免疫グロブリン;親水性ポリマー、例えば、ポリビニルピロリドン;単糖類、例えば、キシロース、マンノース、フルクトースおよびグルコース;二糖類、例えば、ラクトース、マルトースおよびスクロース;三糖類、例えば、ラフィノース、および多糖類、例えば、デキストランであり得る。安定剤は、活性なタンパク質重量に基づいて、一般的に0.1から10,000重量部の範囲で存在する。
【0102】
非イオン性界面活性剤または洗剤(“湿潤剤”としても知られている)は、治療剤の溶解を助け、ならびに撹拌−誘導凝集に対して治療ポリペプチドを保護するために存在してもよく、これは、また、ポリペプチドの変性を引き起こすことなく表面応力をせん断するために、製剤に暴露することが可能である。適当な非イオン性界面活性剤は、ポリソルベート(20、80など)、ポリオキサマー(184、188など)、Pluronic(登録商標)ポリオール、ポリオキシエチレンソルビタンモノラウラート(polyoxyethylene sorbitan monoethers)(Tween(登録商標)−20、Tween(登録商標)−80など)を含む。
【0103】
さらなる種々の賦形剤は、増量剤または充填剤(例えば、デンプン)、キレート剤(例えば、EDTA)、抗酸化剤(例えば、アスコルビン酸、メチオニン、ビタミンE)および共溶媒を含む。
【0104】
活性成分は、また、例えば、コアセルベーション(coascervation)技術もしくは界面重合により製造される、マイクロカプセル、例えば、ヒドロキシメチルセルロース、ゼラチンもしくはポリ−(メタクリル酸メチル)マイクロカプセル、コロイド薬物送達システム(例えば、リポソーム、アルブミンマイクロスフェア、マイクロエマルジョン、ナノ粒子およびナノカプセル)またはマクロエマルジョンに取り込まれていてもよい。このような技術は、上記Remington's Pharmaceutical Sciencesに記載されている。
【0105】
インビボ投与のために使用される非経口製剤は、滅菌でなければならない。これは、例えば、滅菌濾過膜を介する濾過により容易に達成される。
【0106】
本発明は、さらに以下の非限定的な例により記載されている。
【実施例】
【0107】
実施例1
放射線誘発好中球減少症の非ヒト霊長類モデルにおける対症療法の致死放射線量応答および効果
以下に、高線量の全身電離放射線(TBI)に暴露され、対症療法(“医学的管理”とも称される)を受けるアカゲザルにおける線量反応を定義するために設計された予備試験を記載する。この試験は、以下のものを評価するために設計された:
1.LINAC−由来6MV(平均エネルギー、2MV)光子で致死線量のTBI プラス 医学的管理に暴露されたアカゲザルに関するLD50/30および支持放射線−線量生存曲線、ならびに
2.歴史的データセットと比較して、TBIのみにおけるそれぞれのLD50/30および線量反応関係における医学的管理の効果。
【0108】
材料および方法
四十八(48)匹のオスアカゲザルを、80±2.5cGy/分の線量率で6メガボルト(MV)のLINAC光子源(Varian model #EX−21)(平均2MVの光子)を使用する両側、均一、全身照射(TBI)に暴露した。放射線量あたり2−8匹の群における動物を、TBI:7.20Gy、7.55Gy、7.85Gy、8.05Gy、8.40Gyおよび8.90Gyの6つのランダム線量で照射した。医学的管理は、抗生物質、液体、血液注入、栄養補給、下痢止め薬、抗潰瘍薬、解熱薬および疼痛管理からなるものから提供された。照射された動物をTBI後60日間観察した。
【0109】
主な臨床的な関連パラメーターは、60日死亡率であった。二次エンドポイントは、それぞれの好中球および血小板最下点、好中球減少症(ANC<500/μl)および血小板減少症(PLT<20,000/μl)の期間ならびにANC>1,000/μlおよびPLT>20,000/μlへの回復時間を含む、重要な好中球−および血小板(PLT)−関連パラメーターであった。ANC<100/μlの日および期間も記録した。他のパラメーターは、熱(Temp≧103゜F)を有する日数、確認された感染症の発生率、発熱性好中球減少症および死者の平均生存時間(MST)を含んだ。
【0110】
データは、それぞれ8匹の動物の6つの線量群、7.20、7.55、7.85、8.05、8.40および8.90Gyにおいて、TBIで暴露された48匹のオスアカゲザルの60日間を回収した。死亡率を、それぞれの線量の群に対して計算した。
【0111】
記述的分析およびロジスティック回帰は、SASバージョン9を使用して実施し、LD推定値は、SPLUSバージョン6.2を使用して実施した。ロジスティック回帰分析は、主効果に対して0.05および限界効果に対して0.10のアルファレベルで両側として実施した。頻度およびパーセントはカウントデータで提示される;平均、標準偏差、中央、最小および最大は連続的なデータで提示される。結果の60日の死亡率におけるロジスティック回帰分析によって、線量の自然対数を使用して実施された計算で線量の効果を分析した。
【0112】
結果
A.放射線量および致死性
四十八(48)匹のオスアカゲザルを、7つのコホート(コホート1、n=2;コホート2、n=6;コホート3から7、n=8)において7.20Gyから8.90Gyの線量範囲にわたって照射し、医学的管理を投与した。全48匹の動物の三十二(32)匹(66.6%)が造血症候群によって死亡した。線量反応関係を図1および表1に示した。放射線量は、高い線量で高い死亡率である、死亡率の有意な予測因子(P=0.01)であった。
表1.アカゲザルにおける放射線暴露後の生存率および平均生存時間
【表1】

【0113】
この試験においてTBIに暴露されたアカゲザルに対する推定LD30/60、LD50/60およびLD70/60値(角型括弧内に95%CI)は、それぞれ7.09Gy[6.50,7.73]、7.52Gy[7.12、7.93]および7.97Gy[7.60,8.36]であった。さらに、LD95/60(9.05Gy)[8.45、12.93]およびLD90/60(8.68Gy)[8.22、11.27]と比較してLD5/60(6.24Gy)[3.56、6.91]およびLD10/60(6.51Gy)[4.09、7.09]の推定値は、“少ない”と“多い”動物間の致死線量のそれぞれの比率を決定した。LD5:LD95は1.45[1.24、3.57]であり、LD10:LD90は1.33[1.18、2.70]である。“少ない”と“多い”致死事象間のGyのそれぞれの差は、約2.81から2.17である。
【0114】
B.LD50に対する医学的管理の効果
図1に示されるとおり、同様の質のTBIに暴露されたアカゲザルに対して利用できる2つの歴史的試験由来のLD50/30は、対症療法(医学的管理)の非存在下で、6.40Gy(Co−60 γ−放射線、LD50Co60)および6.65Gy(2MV X−放射線、LD50X線)と概算された。2MVの平均LINAC光子のTBI プラス 医学的管理を使用する現在の試験から概算されるLD50/60の値は、7.52Gyである。このレトロスペクティブ比較は、医学的管理が致死性の造血症候群放射線量の範囲にわたってLD50値および生存率を増加させることを示す(図1および表2)。
【0115】
それぞれの放射線量での死者の平均生存時間(MST)は、16.2日間から22.2日間の範囲である(表1)。試験の全ての線量における全平均MSTは19.4日間であった。医学的管理を受けていない動物に対する致死性線量−応答試験を行わなかったため、MSTはアカゲザルを使用する全ての公開線量反応試験に関して計算した。この分析は、全ての既知の試験にわたって14.0日間の平均MSTを生じた(表2)。
表2.全身照射および60日死亡率:
医学的管理を投与された全ての動物に対する、概算されたLD30/60、LD50/60およびLD70/60ならびに死者のMST
【表2】

* 一方の完全な線量反応試験(2MV x線)は、文献(Dalrymple, et al. 1965)を利用できる;もう一方(Co−60)は、Dr. MacVittieとのパーソナル・コミュニケーションとして提供された。医学的管理は、これらの試験において提供されなかった。
** 14.0日の平均MSTは、医学的管理なしの造血症候群に対するアカゲザルにおける致死線量反応を決定する、全ての利用できる文献から計算した。
【0116】
医学的管理を受けた死者は、医学的管理を受けなかったものと比較して、約5.4日のMSTにおける平均上昇を示した。この観察は、可能性のある緩和剤(mitigator)、例えば、本発明のマルチ−PEG化G−CSF変異体(例えば、Maxy−G34)を有効な医学的管理を受けている致死的に照射された動物に投与することを考慮すると、有意である。この場合において、候補緩和剤は、骨髄再生および成熟細胞、例えば、好中球の生産をさらに5日間上昇させる利益を有する。
【0117】
C.放射線誘発好中球減少症の期間
好中球は、日和見感染症に対する第一の防御を提供する。この試験において投与されたTBIの致死線量は、放射線量にかかわりなく、TBI後、約5日以内に循環絶対好中球数(ANC)を500/μLに減少させた(表3)。
表3.血球減少症の期間:好中球関連パラメーター
【表3】

* 期間(日)は、死の前に、例えば、ANC≧100/μLまたは≧500/μLのレベルまで回復が起こらない限り、死者動物由来のデータは含まない。
【0118】
ANCが値<100/μLに減少し続けることが予期されたため、ANC<500/μLであるとき、抗生物質を投与した。重度のグレード4の好中球減少症(ANC<100/μL)において、動物は感染症および敗血症に対して非常に危険である。さらに、これらの値は、一次予防の抗生物質の投与の有効性を決定する。全ての致死的に照射された動物におけるANCは、次の1.5から3.0日以内に<100/μLに減少し、1つ(7.85Gy)を除いて全ての線量コホートにおいて、絶対好中球減少症(ANC〜0/μL)に減少し続けた。7.85Gyコホートの平均最下点は5/μLであった(表3)。生存者におけるグレード4の好中球減少症(ANC<100/μL)の期間は、全線量コホートにわたって、9.8から15.0日間の範囲であり、ANC<500/μLの期間は、全線量コホートにわたって、11.5から24.0日間の範囲である。さらなる好中球−関連パラメーターは表3に示されている。図2は、約LD30/60、LD50/60およびLD70/60レベルのTBIの線量に暴露された全ての動物に対する好中球回復曲線を示す。
【0119】
結論において、この試験は、平均2MV LINAC光子での均一TBIの線量が致死率の有意な予測因子であったことを証明する。本明細書で使用されるTBIの線量は、ARSの造血症候群と関連する致死率を緩和する薬物に対する有効性試験の設計に関して、LD30/60、LD50/60およびLD70/60レベルの推定値を可能にした。この試験において、LD30/60、LD50/60およびLD70/60レベルは、それぞれ7.09、7.52および7.97Gyであった。医学的管理の利益なしにアカゲザルの致死放射線量応答を評価するために設計された試験において決定された文献値と比較して、医学的管理(本明細書の試験において投与される)は、ARSの造血症候群と関連するLD50/60を増加させ、死者のMSTを上昇させた。
【0120】
実施例2
放射線誘発好中球減少症の非ヒト霊長類モデルにおけるマルチ−PEG化G−CSF変異体の薬物動力学および薬物動態学
試験プロトコール:
該試験は、Guide for the Care and Use of Laboratory Animals(The Institute of Laboratory Animals Resources, National Research Council, 1996)において公表された原則にしたがって、実施した。4.6+/−0.7kgの平均重量を有するオスアカゲザル(Macaca mulatta)を、後部−前部位置の片側に0.13Gy/分で250kVp X−照射を暴露し、全6.00Gy暴露の完了のために前部−後部位置に中間−線量(3.00Gy)で108E回転させた。必要なとき、動物に抗生物質、新鮮な照射された全血および液体からなる臨床支援を与えた。Gentamicin(Elkin Sinn, Cherry Hill NJ)を、処置の最初の7日間、10mg/日で筋肉内に(i.m.)毎日(q.d.)投与した。Baytril(登録商標)(Bayer Corp., Shawnee Mission, KS)を、抗微生物処理の全期間中、10mg/日でi.m.q.d.投与した。動物が3日連続でWBC1,000/μlを維持し、ANC500/μlに達するまで、抗生物質を投与した。血小板(PLT)数が<20,000/μlであり、ヘマトクリット(HCT)が<18%であるとき、動物に、サルのランダムドナープール由来の、新鮮な、照射された(15.00Gy Co60−照射された)全血を約30ml/輸血で与えた。
【0121】
9匹の照射された、および2匹の照射されていないオスアカゲザルを、本発明の典型的なマルチ−PEG化G−CSF変異体(本明細書において“Maxy−G21”として同定される)で処置し、4匹の照射されたアカゲザルをニューラスタ(登録商標)で処置した。希釈剤のみ(“ビヒクル”)で処置された4匹の動物は、対照として使用した。ニューラスタ(登録商標)群において、2匹の動物をPK分析のためのサンプルとしたが、全てのMaxy−G21−処置動物を薬物動態学評価に含んだ。それぞれの動物に、全身照射24時間後に、試験化合物またはビヒクルを単回皮下投与で投与した。Maxy−G21は2つの異なる用量を使用した。それぞれ4匹または5匹のサルを使用して、kgあたり100または300μgであった。ニューラスタ(登録商標)群に300μg/kgを投与した。300μg/kgのMaxy−G21を投与した2匹の照射されていない動物を、CD34+細胞およびインビトロでのコロニー形成細胞(CFC)の動員を試験するために使用した。血液サンプルを伏在静脈から回収した。試験デザインの全体像を表4に提供する。
表4.試験プロトコールの要約
【表4】

*これらの動物を、CD34+細胞およびインビトロでのコロニー形成細胞(CFC)の動員を試験するために使用した。
【0122】
結果:
14.8−15.7日間の好中球減少症の期間を示す、自己血清(AS)を投与された6.00GyのTBIで暴露された対照動物と比較して、300μg/kgのMaxy−G21を投与された照射された動物は、7.3±1.1日間に好中球減少症の期間を短縮することを示した。ANC最下点も、対照動物における49±22/μLの低さから140±45/μLに著しく改善された。同様に、回復時間は、21.2±0.4および23.0±0.0日間の対照値(3つの別々の対照コホートにおいて)から、Maxy−G21処置コホートにおける15.5±0.3日間に改善された。等用量のニューラスタ(登録商標)(300μg/kg)を使用する試験内ニューラスタ(登録商標)コホート(N=4)と比較して、Maxy−G21は、好中球減少症の期間を2日間(9.3から7.3日に)、回復時間を3日間(18.5から15.5日に)および抗生物質必要性を3日間(11.5から9.8日に;表5)減少させることを見出した。
表5.6.00Gyのx−照射アカゲザルにおける好中球関連パラメーターにおける、Maxy−G21投与 対 ニューラスタ(登録商標)処置または対照自己血清(AS)の効果:好中球減少期間、最下点、回復時間および臨床支援
【表5】

* 別々の対照コホート
** 本試験を含む組合せニューラスタ(登録商標)コホートおよびMacVittie実験室から確立されたコホート
【0123】
歴史的ニューラスタ(登録商標)コホート(n=5)からのデータを現在の試験内ニューラスタ(登録商標)コホート(n=4)と組み合わせたとき、好中球減少症の期間は12.1±1.3日間であった。好中球減少症の期間は、組合せニューラスタ(登録商標)群と比較してMaxy−G21群において有意に短縮した(P=0.02)(図3、表5)。対照およびMaxy G21−処置コホートのみが9.8日間、抗生物質を必要としたが、組合せニューラスタ(登録商標)−処置コホートは14.7日間の抗生物質支持を必要とした。100μg/kgで投与されたMaxy−G21(データは示していない)は、全ての好中球−関連パラメーターにより評価されるとおり、本試験の条件下で好中球回復の刺激において有効ではなかった。
【0124】
Maxy−G21の皮下投与後、薬物は照射および非照射アカゲザルの両方において24から96時間以内にピーク血漿濃度に達した。2つの300μg/kgの投与群において、ピーク血漿濃度は100μg/kgの群よりも約3倍高かった。二相Maxy−G21除去パターンが、300μg/kgの薬物で処置された正常および照射動物の両方において見られる(図4)。
【0125】
300μg/kgのMaxy−G21で処置された照射された動物は、59時間の平均血清半減期の早期−除(early-slow)排出相を示した。早期−除相の期間は、12−13日間であった(図4)。早期プロフィールは、5匹のマカクザルにおいて均一性により特徴付けられる。薬物の注射15日後、除相は、16時間の平均血漿半減期を示す高速相(faster phase)により置き換えられる。3つの動物由来のデータの分析に基づく後期排出相は、血漿半減期におけるさらなる動物間変化により特徴付けられた。100μg/kgのMaxy−G21で処置された照射された動物において、薬物は、49時間の平均血清半減期で単相において除去された。
【0126】
非照射(“正常”)動物は、動力学プロフィールにおいて急速−早期および除−後期にて、Maxy−G21(300μg/kg)を除去した。後期の平均血漿半減期は、公開されている試験の非照射動物においてニューラスタ(登録商標)に対して35時間未満(データは示していない)と比較して、62時間であった。非照射および照射動物の比較は、同じ用量の300μg/kgのMaxy G21でAUCにおいて3倍の違いを示す(表6)。
【0127】
ニューラスタ(登録商標)は、単相において23時間の平均血漿半減期で除去されることが見出され、これはMaxy−G21において観察されるものよりも著しく速い(図4)。ニューラスタ(登録商標)のピーク血漿濃度は、Maxy−G21と比較して5−6倍低いことが見出された(表6)。11から15日後、ニューラスタ(登録商標)は血漿において検出されなかった。ニューラスタ(登録商標)に対するAUCは、Maxy−G21と比較して約9−10倍低かった。
表6.Maxy−G21およびニューラスタ(登録商標)−処置照射アカゲザルならびにMaxy−G21処置非照射アカゲザルの薬物動態学
値は平均±標準偏差を示す
【表6】

【0128】
結論:
本試験は、アカゲザルへ皮下投与される本発明の典型的なマルチ−PEG化G−CSF変異体(本明細書においてMaxy−G21として同定される)が、放射線誘発好中球減少NHPにおける好中球減少症の期間を有意に短縮することができるという証拠を提供する。さらに、該効果は、試験内ニューラスタ(登録商標)コホートおよび歴史的ニューラスタ(登録商標)コホート(N=9)を含むコホートと比較したとき、ニューラスタ(登録商標)のものを越えることを見出した。
【0129】
概して、典型的なマルチ−PEG化G−CSF変異体Maxy−G21は、重度の放射線誘発骨髄抑制の状態を有しているNHPならびに健常(非照射)非ヒト霊長類において、モノ−PEG化hG−CSFニューラスタ(登録商標)と比較して、血漿半減期を著しく上昇させることを示した。PKデータは、マルチ−PEG化G−CSF変異体、例えば、Maxy−G21が、重度の放射線誘発骨髄抑制の状態中ならびに正常(非照射)NHPにおけるモノ−PEG化ニューラスタ(登録商標)と比較して、より良いバイオアベイラビリティおよび作用の持続期間を有するという作業仮説を支持する。
【0130】
実施例3
C57BL/6マウスにおける致死放射線暴露後に皮下投与されるマルチ−PEG化G−CSF変異体の放射性軽減活性
典型的なマルチ−PEG化G−CSF変異体(本明細書においてMaxy−G34として同定される)の有効性は、1mg/kg用量および2つの異なる致死線量の放射線で試験した。それぞれの放射線量レベルでのマウスを、7.76Gyまたは7.96Gyでの照射後、1、7および14日目または1および7日目にMaxy−G34を与える、それぞれ20匹のマウス(メス10匹およびオス10匹)の処置群に配分した。ビヒクル−処置マウスには、希釈剤(10mMの酢酸ナトリウム、45mg/mlのマンニトール、0.05mg/mlのポリソルベート20、pH4.0の滅菌液)を1、7および14日目に与えた。したがって、3つの群のマウスに以下の処置の1つを与えた:
1.Maxy−G34;7.76Gyの照射後24±4時間および7日±4時間
(Maxy−G34 1日、7日)
2.Maxy−G34;7.76Gyの照射後24±4時間、7日±4時間および14日±4時間
(Maxy−G34 1日、7日、14日)
3.ビヒクル;7.76Gyの照射後24±4時間、7日±4時間および14日±4時間
(ビヒクル 1日、7日、14日)
4.Maxy−G34;7.96Gyの照射後24±4時間および7日±4時間
(Maxy−G34 1日、7日)
5.Maxy−G34;7.96Gyの照射後24±4時間、7日±4時間および14日±4時間
(Maxy−G34 1日、7日、14日)
6.ビヒクル;7.96Gyの照射後24±4時間、7日±4時間および14日±4時間
(ビヒクル 1日、7日、14日)
【0131】
マウスを、以下の線量で14−16匹の動物群において照射した:
7.76Gy:66.104cGy/分(暴露時間11分44秒)
7.96Gy:66.104cGy/分(暴露時間12分02秒)
該マウスに抗生物質は投与しなかった。一次エンドポイントは30日全生存とし、二次エンドポイントは平均生存時間(MST)とした。
【0132】
結果:
30日生存率および平均生存時間(MST)を表7、表8、図5および図6に示す。
表7.30日生存率およびMST
【表7】

【0133】
表8.生存率および平均生存時間の統計分析
(7.76Gyおよび7.96Gyの統合データ)
【表8】

【0134】
7.76Gyの放射線量でマウスの照射、次に、暴露1日、7日および14日後にビヒクルで処置は、30日後80%の生存率(すなわち、LD20/30)となった。7.76Gy(LD20/30)で照射されたマウスの暴露1日、7日および14日後に、または暴露1日および7日後に1mg/kgのMaxy−G34での処置により、両方とも30日後の生存率が95%に増加した(表7)。
【0135】
7.96Gyの放射線量で、ビヒクル 1日、7日、14日群における生存率は、暴露後30日間で55%(すなわち、LD45/30)であった。1日および7日に1mg/kgのMaxy−G34で処置された、7.96Gy(LD45/30)で照射されたマウスは、暴露後30日間で75%生存率を示し、Maxy−G34 1日、7日、14日群は、暴露後30日間で85%生存率を示した。この放射線量レベルで、3週投与レジメン(1日、7日、14日)は、2週投与レジメン(1日、7日)よりもより有効であるように見えた。
【0136】
2つのレベルの放射線から得られたデータを組み合わせた(表8)。この試験の条件下、3週Maxy−G34投与群および2週Maxy−G34投与群の両方が、照射後30日の生存において、ビヒクル対照群のものを越える統計的に有意な増加を示した。この試験において使用される放射線量で、処置群とビヒクル対照群間のMSTにおける違いは、統計的に有意ではなかった。
【0137】
前述の発明は明瞭および理解の目的のためにより詳細に記載されているが、本明細書の解釈から、形式および細部において種々の変化が本発明の範囲から逸脱することなく作成することができることが当業者に明らかである。本明細書に記載されている実施例および態様は実例の目的のみであり、種々の修飾または変化が当業者に示唆され、それらは本出願の精神および範囲ならびに特許請求の範囲に包含されると理解される。それぞれの個々の出願、特許、特許出願および/または他の文書が全て目的のためにその全体を出典明示により本明細書に包含され個々に示されているのと同じ範囲で、全ての刊行物、特許、特許出願および/または本出願において引用されている他の文書は、全て目的のためにそれら全体を出典明示により本明細書に包含させる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
放射線暴露後にマルチ−PEG化G−CSF変異体を患者に投与することを含む、放射線暴露に付された患者における好中球減少症を処置または予防するための方法であって、マルチ−PEG化G−CSF変異体が、
G−CSF活性を示すポリペプチドであって、該ポリペプチドは配列番号:1に示されるアミノ酸配列と最大15個のアミノ酸残基において異なるアミノ酸配列を含むポリペプチド、および
2つまたはそれ以上のポリエチレングリコール(PEG)部分であって、それぞれのPEG部分は、直接的にまたは間接的にのいずれかでポリペプチドのアミノ酸残基に共有結合しているPEG部分
を含む方法。
【請求項2】
マルチ−PEG化G−CSF変異体が、配列番号:1のアミノ酸配列ならびにT1K、P2K、L3K、G4K、P5K、A6K、S7K、S8K、L9K、P10K、Q11K、S12K、F13K、L14K、L15K、E19K、Q20K、V21K、Q25K、G26K、D27K、A29K、A30K、E33K、A37K、T38K、Y39K、L41K、H43K、P44K、E45K、E46K、V48K、L49K、L50K、H52K、S53K、L54K、I56K、P57K、P60K、L61K、S62K、S63K、P65K、S66K、Q67K、A68K、L69K、Q70K、L71K、A72K、G73K、S76K、Q77K、L78K、S80K、F83K、Q86K、G87K、Q90K、E93K、G94K、S96K、P97K、E98K、L99K、G100K、P101K、T102K、D104K、T105K、Q107K、L108K、D109K、A111K、D112K、F113K、T115K、T116K、W118K、Q119K、Q120K、M121K、E122K、E123K、L124K、M126K、A127K、P128K、A129K、L130K、Q131K、P132K、T133K、Q134K、G135K、A136K、M137K、P138K、A139K、A141K、S142K、A143K、F144K、Q145K、S155K、H156K、Q158K、S159K、L161K、E162K、V163K、S164K、Y165K、V167K、L168K、H170K、L171K、A172K、Q173KおよびP174Kからなる群から選択される配列番号:1に対して少なくとも1つの置換を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
マルチ−PEG化G−CSF変異体のアミノ酸配列が、Q70K、Q90K、T105K、Q120K、T133K、S159KおよびH170Kからなる群から選択される少なくとも1つの置換を含む、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
マルチ−PEG化G−CSF変異体のアミノ酸配列が、K16R/Q、K34R/QおよびK40R/Qからなる群から選択される少なくとも1つの置換をさらに含む、請求項2に記載の方法。
【請求項5】
マルチ−PEG化G−CSF変異体のアミノ酸配列が、置換K16R、K34R、K40R、T105KおよびS159Kを含む、請求項3に記載の方法。
【請求項6】
マルチ−PEG化G−CSF変異体のアミノ酸配列が、置換K16R、K34R、K40R、T105KおよびS159Kならびに所望によりN−末端のメチオニン残基からなる、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
マルチ−PEG化G−CSF変異体が、それぞれ約1−10kDaの分子量を有する2−6つのPEG部分を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
マルチ−PEG化G−CSF変異体が、N−末端に結合しているPEG部分およびリジン残基に結合しているPEG部分を含む、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
マルチ−PEG化G−CSFが、それぞれ約4−6kDaの分子量を有する2−4つのPEG部分を含む、請求項7に記載の方法。
【請求項10】
マルチ−PEG化G−CSF変異体のアミノ酸配列が、K16R/Q、K34R/QおよびK40R/Qから選択される1つまたはそれ以上の置換ならびにQ70K、Q90K、T105K、Q120K、T133KおよびS159Kから選択される1つまたはそれ以上の置換を含み、それぞれ約1−10kDaの分子量を有する2−6つの結合しているPEG部分を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項11】
マルチ−PEG化G−CSF変異体のアミノ酸配列が、K16R/Q、K34R/QおよびK40R/Qから選択される1つまたはそれ以上の置換ならびにT105KおよびS159Kから選択される少なくとも1つの置換を含み、それぞれ約1−10kDaの分子量を有する2−4つの結合しているPEG部分を含む、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
マルチ−PEG化G−CSF変異体のアミノ酸配列が、置換K16R、K34R、K40R、T105KおよびS159Kを含み、それぞれ約4−6kDaの分子量を有する2−4つの結合しているPEG部分を含む、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
マルチ−PEG化G−CSF変異体が、PEG位置異性体種の混合物である、請求項13に記載の方法。
【請求項14】
PEG位置異性体種の混合物が、それぞれ3つの結合しているPEG部分を有する少なくとも2種のPEG位置異性体を含む、請求項13に記載の方法であって、異性体の1つがN−末端、Lys23およびLys159に結合しているPEG部分を有し、他の異性体がN−末端、Lys105およびLys159に結合しているPEG部分を有する方法。
【請求項15】
PEG部分がそれぞれ約1−10kDaの分子量を有する、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
PEG部分がそれぞれ約5kDaの分子量を有する、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
比較可能な条件下で動物モデルにおいて試験したとき、マルチ−PEG化G−CSF変異体が、ニューラスタ(登録商標)(ペグフィルグラスチム)と比較して改良された薬物動態特性を示す、請求項1に記載の方法。
【請求項18】
マルチ−PEG化G−CSF変異体が、動物モデルにおいてニューラスタ(登録商標)と比較して血清半減期の上昇を示す、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
マルチ−PEG化G−CSF変異体が、動物モデルにおいてニューラスタ(登録商標)と比較してAUCの増加を示す、請求項17に記載の方法。
【請求項20】
マルチ−PEG化G−CSF変異体が、放射線誘発好中球減少症の動物モデル系において、マルチ−PEG化G−CSF変異体で処置されていない群と比較して、マルチ−PEG化G−CSF変異体で処置された群において重度の好中球減少症の期間を減少させるために有効な量において患者に投与される、請求項1に記載の方法。
【請求項21】
マルチ−PEG化G−CSF変異体が、放射線誘発好中球減少症の動物モデル系において、マルチ−PEG化G−CSF変異体で処置されていない群と比較して、マルチ−PEG化G−CSF変異体で処置された群において放射線暴露30日後の生存者数を増加させるために有効な量において患者に投与される、請求項1に記載の方法。
【請求項22】
マルチ−PEG化G−CSF変異体が、約20ug/kg患者体重から約300ug/kg患者体重の用量において患者に投与される、請求項1に記載の方法。
【請求項23】
患者が成人であり、マルチ−PEG化G−CSF変異体が患者あたり約1−30mgの用量において患者に投与される、請求項1に記載の方法。
【請求項24】
1つまたはそれ以上のさらなる造血成長因子を投与する、請求項1に記載の方法。
【請求項25】
さらなる造血成長因子が、顆粒球・マクロファージコロニー刺激因子(GM−CSF)、幹細胞因子(SCF)、FLT3−リガンド(FL)、インターロイキン−3(IL−3)、巨核球増殖発達因子(MGDF)、トロンボポエチン(TPO)、TPO−受容体アゴニストおよびエリスロポエチン(EPO)から選択される、請求項24に記載の方法。
【請求項26】
マルチ−PEG化G−CSF変異体が、放射線暴露後、約3日以内に対象に投与される、請求項1に記載の方法。
【請求項27】
放射線暴露が約1Gy以上である、請求項1に記載の方法。
【請求項28】
放射線暴露に付された患者における好中球減少症を処置または予防するための医薬の製造のためのマルチ−PEG化G−CSF変異体の使用であって、放射線誘発好中球減少症の動物モデル系において、マルチ−PEG化G−CSF変異体で処置されていない群と比較して、マルチ−PEG化G−CSF変異体で処置された群において重度の好中球減少症の期間を減少させるために有効な量においてマルチ−PEG化G−CSF変異体を該患者に投与することを含む使用。
【請求項29】
放射線暴露に付された患者における好中球減少症を処置または予防するための医薬の製造のためのマルチ−PEG化G−CSF変異体の使用であって、放射線誘発好中球減少症の動物モデル系において、マルチ−PEG化G−CSF変異体で処置されていない群と比較して、マルチ−PEG化G−CSF変異体で処置された群において放射線暴露30日後の生存者数を増加させるために有効な量においてマルチ−PEG化G−CSF変異体を該患者に投与することを含む使用。
【請求項30】
動物モデル系が非ヒト霊長類モデル系である、請求項28または29に記載の使用。
【請求項31】
マルチ−PEG化G−CSF変異体およびその使用が請求項1−27のいずれかに定義のとおりである、請求項28−30のいずれかに記載の使用。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公表番号】特表2012−503014(P2012−503014A)
【公表日】平成24年2月2日(2012.2.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−528023(P2011−528023)
【出願日】平成21年9月18日(2009.9.18)
【国際出願番号】PCT/US2009/057600
【国際公開番号】WO2010/033884
【国際公開日】平成22年3月25日(2010.3.25)
【出願人】(500382048)マキシジェン, インコーポレイテッド (17)
【Fターム(参考)】