説明

マルチコントロール弁装置、及びそのケーシング

【課題】 作動油によるブロックの微小変形に起因するスプール弁の性能低下を抑えることができるマルチコントロール弁装置を提供する。
【解決手段】 マルチコントロール弁装置21は、長尺なケーシング32を有する。ケーシング32には、10個のスプール弁33〜43が設けられており、これら10個のスプール弁33〜43が二列で長手方向に並べられている。また、ケーシング32は、3つのブロック61,62,63を連結することで構成されており、ケーシング32をこれら3つのブロック61,62,63に分割するための第1及び第2分割面56,57を有している。これら第1及び第2分割面56,57は、長手方向に隣接する2つのスプール弁34,35の間を通り、且つ長手方向と直交している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数のスプール弁が複数列並べられて設けられるマルチコントロール弁装置、及びそのケーシングに関する。
【背景技術】
【0002】
油圧ショベルには、旋回モータ、左側走行モータ、右側走行モータ、アームシリンダ、ブームシリンダ及びバケットシリンダ等の油圧アクチュエータが設けられている。各油圧アクチュエータは、2つの油圧ポンプに繋がっており、各油圧ポンプから流れる作動油により駆動できるようになっている。各油圧アクチュエータと油圧ポンプとの間には、マルチコントロール弁装置が設けられている。このマルチコントロール弁装置は、各油圧ポンプから各油圧アクチュエータに流れる作動油の方向を切換えて各油圧アクチュエータの動作を制御するようになっている。
【0003】
従来の技術のマルチコントロール弁装置としては、例えば特許文献1に記載されるような油圧制御弁装置1がある。油圧制御弁装置1は、図5に示すように、第1の多連弁ブロック2と、第2の多連弁ブロック3と、合流ブロック4とを備えている。第1及び第2の多連弁ブロック2,3には、対応する油圧アクチュエータを制御する3つの多連制御弁5〜7,8〜10が夫々設けられている。多連制御弁5〜7,8〜10は、図示しないセンタバイパス通路を夫々有しており、第1及び第2多連弁ブロック2,3には、更にこのセンタバイパス通路と戻り油路との間を開閉するセンタバイパス制御弁11,12が夫々設けられている。
【0004】
また、合流ブロック4には、その他にオプション制御弁13,14を着脱することができ、これらオプション制御弁13,14には、前述の油圧アクチュエータ以外の油圧アクチュエータ、例えばオプションアタッチメントを駆動するための油圧アクチュエータを取り付けることができるようになっている。
【0005】
このように構成される第1及び第2の多連弁ブロック2,3の間には、合流ブロック4が挟みこむように配置されており、これら3つのブロック2〜4は、ボルト15により連結される。このように3つのブロック2〜4を連結することで油圧制御弁装置1が構成される。
【0006】
油圧ショベルでは、このように構成される油圧制御弁装置1を設置するためのスペースを十分に確保することが難しく、油圧制御弁装置1の外形寸法をできるだけ小さく構成することが好ましい。それ故、油圧制御弁装置1では、多連制御弁5〜7,8〜10、センタバイパス制御弁11,12及び、オプション制御弁13,14を真直ぐ二列で並ぶように配置して油圧制御弁装置1の幅が短くなるようにし、油圧制御弁装置1の小型化を図っている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平10−25770号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
前述のように小型化が図られた油圧制御弁装置1では、第1及び第2の多連弁ブロック2,3並びに合流ブロック4が幅方向に並べられており、油圧制御弁装置1が3つのブロックに分割できるようになっている。それ故、第1及び第2の多連弁ブロック2,3の幅は、油圧制御弁装置1の幅のより狭くなり、油圧制御弁装置1の幅のおよそ半分以下となる。その上、小型化を図るべく油圧制御弁装置1の幅を狭くしているので、第1及び第2の多連弁ブロック2,3の幅はかなり狭くなっている。他方、第1及び第2の多連弁ブロック2,3は、制御弁を長手方向に並べるべく長手方向に長尺になっており、各々の幅に対して長手方向の長さがかなり長くなっている。第1及び第2の多連弁ブロック2,3の幅方向の剛性は、長手方向の長さに対して幅が広くなる程大きくなり、逆に幅が狭くなる程小さくなる。第1及び第2の多連弁ブロック2,3では、その長手方向の長さに対して幅がかなり狭くなっているので、剛性が低くなる。
【0009】
また、第1及び第2の多連弁ブロック2,3が長手方向に長尺になっているので、連結する際に合流ブロック4に合わせる第1及び第2の多連弁ブロック2,3の合わせ面2a,2bが長手方向に長尺になる。それ故、前記合わせ面2a,3aの面積が大きくなってしまう。
【0010】
油圧制御弁装置1では、合流ブロック4を介して第1及び第2の多連弁ブロック2,3との間で作動油が行き来しているので、行き来する作動油からの圧力を第1及び第2の多連弁ブロック2,3の合わせ面2a,3aで受けている。この作用力は、第1及び第2の多連弁ブロック2,3を合流ブロック4から引き離すように作用する、即ち、第1及び第2の多連弁ブロック2,3を幅方向に変形させるように作用し、また合わせ面2a,3aの面積に応じて大きくなる。第1及び第2の多連弁ブロック2,3の剛性が低いため、大きな作用力を合わせ面2a,3aに受けると、第1及び第2の多連弁ブロック2,3が幅方向に微小に変形し、各制御弁の性能が低下してしまう。
【0011】
そこで本発明は、作動油の圧力によるブロックの微小変形に起因する制御弁の性能低下、即ちスプール弁の性能低下を抑えることができるマルチコントロール弁装置、及びそのケーシングを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明のマルチコントロール弁装置は、複数のブロックを連結することで構成される長尺のケーシングと、前記ケーシングの長手方向に複数列並ぶように前記ケーシングに配設される複数のスプール弁とを備え、前記ケーシングは、該ケーシングを前記複数のブロックに分割するための分割面を有し、前記分割面は、前記長手方向に隣接する2つの前記スプール弁の間を通り、且つ前記長手方向と直交しているものである。
【0013】
本発明に従えば、スプール弁の間を通り且つ長手方向に直交する分割面でケーシングを分割するので、各ブロックの長手方向の長さは、各列に並ぶスプール弁の数に係わらずケーシングの分割数に応じて決まり、ケーシングの長手方向の長さより短くなる。他方、分割面が長手方向に直交するので、ケーシングが長手方向に直交する方向には分割されず、各ブロックの長手方向に直交する方向の長さ、即ち各ブロックの幅は、ケーシングの幅と同じになる。これに対して、従来技術では、油圧制御弁装置を幅方向に分割するようになっているので、第1及び第2の多連弁ブロックの長手方向の長さは、並べられた制御弁の数に応じて決まり、また幅は、油圧制御弁装置の分割数に応じて決まる。それ故、分割数に応じて決まる各ブロックの長手方向の長さは、従来技術のものより短くなり、逆にケーシングと同じ広さである各ブロックの幅は、従来のものより広くなる。従って、各ブロックのアスペクト比は、従来技術のものよりも大きくなって1に近くなり、各ブロックの剛性が従来のものより高くなる。このように、各ブロックの剛性が高くなるので、各ブロックの微小変形を抑えることができる。それ故、作動油の圧力による各ブロックの微小変形に起因するスプール弁の性能低下を抑えることができる。
【0014】
また本発明では、分割面が長手方向に直交しているので、複数のブロックを連結する際に互いに合わせる各ブロックの合わせ面の面積は、各ブロックの幅に応じて決まるようになる。これに対して、従来技術の合わせ面の面積は、第1及び第2の多連弁ブロックの長手方向の長さに応じて決まる。ケーシング(油圧制御弁装置)では、スプール弁(制御弁)が並ぶ長手方向(長手方向)の長さよりも幅の方が短い。それ故、幅に応じて決まる各ブロックの合わせ面の面積は、長手方向の長さに応じて決まる従来技術の合わせ面の面積より小さくなる。このように合わせ面の面積を小さくすることで、合わせ面の平面度を良くしやすくなる。そうすると、ブロック同士を合わせる際に合わせ面の間に隙間が生じることを抑えることができ、例えば合わせ面の間に設けられるシール部材のシール効果を向上させることができる。
【0015】
上記発明において、前記ケーシングは、n個(n≧3)のブロックを連結することで構成され、且つ互いに異なるn−1個の分割面を有することが好ましい。
【0016】
従来技術のように、第1及び第2の多連弁ブロックの重量が重たくなると、その重量に耐え得る装置を配備する必要があり、第1及び第2の多連弁ブロックを生産する際の鋳造、機械加工及び搬送等の生産対応設備が限定される。しかし、上記構成に従えば、各ブロックの重量を略均等にして各々の重量を軽くすることができる。それ故、各ブロックを生産可能な生産対応設備が増える。
【0017】
また、n個に分割することで、ケーシングの体積及び重量において各ブロックが占める割合が従来の技術のものより小さくなる。各ブロックの占める比率を小さくすることで、各ブロックで不良が生じても、廃棄しなければならないのは、ケーシングの1/n(n:ブロックの数)程度であり、廃棄する際のロスを抑えることができる。
【0018】
上記発明において、前記ケーシングは、2つのブロックを連結することで構成され、前記2つのブロックは、複数の締結具により締結されていることが好ましい。
【0019】
上記構成に従えば、合わせ面で受ける作用力が従来技術のものより小さくなるので、2つのブロックを連結するために使用するボルトの数を従来技術のものより少なくすることができる。それ故、ボルト孔の数を減らして部品点数を減らすことができる。
【0020】
また、本発明のマルチコントロール弁装置用のケーシングは、複数のブロックを連結することで構成され、複数のスプール弁が所定方向に複数列並ぶように配設される所定方向に長尺なマルチコントロール弁用のケーシングであって、前記ケーシングを前記複数のブロックに分割するための分割面を有し、前記分割面は、前記所定方向に隣接する2つの前記スプール弁の間を通り、且つ前記所定方向と直交しているものである。
【0021】
本発明に従えば、スプール弁の間を通り且つ所定方向に直交する分割面でケーシングを分割するので、各ブロックの所定方向の長さは、各列に並ぶスプール弁の数に係わらずケーシングの分割数に応じて決まり、ケーシングの所定方向の長さより短くなる。他方、分割面が所定方向に直交するので、ケーシングが所定方向に直交する方向には分割されず、各ブロックの所定方向に直交する方向の長さ、即ち各ブロックの幅は、ケーシングの幅と同じになる。これに対して、従来技術では、油圧制御弁装置を幅方向に分割するようになっているので、第1及び第2の多連弁ブロックの長手方向の長さは、並べられた制御弁の数に応じて決まり、また幅は、油圧制御弁装置の分割数に応じて決まる。それ故、分割数に応じて決まる各ブロックの所定方向の長さは、従来技術のものより短くなり、逆にケーシングと同じ広さである各ブロックの幅は、従来のものより広くなる。従って、各ブロックのアスペクト比は、従来技術のものよりも大きくなって1に近くなり、各ブロックの剛性が従来のものより高くなる。このように、各ブロックの剛性が高くなるので、各ブロックの微小変形を抑えることができる。それ故、作動油の圧力による各ブロックの微小変形に起因するスプール弁の性能低下を抑えることができる。
【0022】
また本発明では、分割面が所定方向に直交しているので、複数のブロックを連結する際に互いに合わせる各ブロックの合わせ面の面積は、各ブロックの幅に応じて決まるようになる。これに対して、従来技術の合わせ面の面積は、第1及び第2の多連弁ブロックの長手方向の長さに応じて決まる。ケーシング(油圧制御弁装置)では、スプール弁(制御弁)が並ぶ所定方向(長手方向)の長さよりも幅の方が短い。それ故、幅に応じて決まる各ブロックの合わせ面の面積は、長手方向の長さに応じて決まる従来技術の合わせ面の面積より小さくなる。このように合わせ面の面積を小さくすることで、合わせ面の平面度を良くしやすくなる。そうすると、ブロック同士を合わせる際に合わせ面の間に隙間が生じることを抑えることができ、例えば合わせ面の間に設けられるシール部材のシール効果を向上させることができる。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、作動油の圧力によるケーシングの微小変形に起因するスプール弁の性能低下を抑えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明の第1の実施形態のマルチコントロール弁装置の概略を示す斜視図である。
【図2】マルチコントロール弁装置の油圧回路を示す回路図である。
【図3】各ブロックに分割した図1のマルチコントロール弁装置の概略を示す分解斜視図である。
【図4】各ブロックに分割した本発明の第2の実施形態のマルチコントロール弁装置の概略を示す斜視図である。
【図5】各ブロックに分割した従来の技術の油圧制御弁装置の概略を示す分解斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下では、前述する図1乃至4を参照しつつ、本発明の第1及び第2実施形態のマルチコントロール弁装置21,21Aについて説明する。なお、以下における左右等の方向の概念は、説明の便宜上使用するものであって、マルチコントロール弁装置21に関して、それらの構成の配置及び向き等が同じ方向の概念を有するものに限定することを示唆するものではない。
【0026】
<第1の実施形態>
図1に概略を示した第1実施形態のマルチコントロール弁装置21は、図示しない油圧ショベルに設けられている。油圧ショベルには、図2に示す第1及び第2の油圧ポンプ22,23が備わっており、マルチコントロール弁装置21は、これら2つのポンプ22,23に繋がっている。また、油圧ショベルには、旋回モータ24、左側走行モータ25、右側走行モータ26、ブームシリンダ27、バケットシリンダ28、オプションシリンダ29及びアームシリンダ30の7つの油圧アクチュエータ31が備わっており、これら7つの油圧アクチュエータ31には、マルチコントロール弁装置21が夫々繋がっている。
【0027】
マルチコントロール弁装置21は、第1及び第2の油圧ポンプ22,23から吐出された作動油の方向を切換え、前記作動油を7つの油圧アクチュエータ31のうち1つ以上の油圧アクチュエータ31に導いて前記油圧アクチュエータを駆動するようになっている。このように7つの油圧アクチュエータ31を選択的に駆動できるマルチコントロール弁装置21は、ケーシング32を備えている。
【0028】
ケーシング32は、大略的に直方体状に形成されており、所定方向(以下では、この方向を「長手方向」ともいう)に長尺になっている。ケーシング32には、走直用スプール弁33、右側走行用スプール弁34、第1ブーム用スプール弁35、バケット用スプール弁36、第2アーム用スプール弁37、左側走行用スプール弁38、旋回用スプール弁39、第2ブーム用スプール弁40、オプション用スプール弁41、及び第1アーム用スプール弁42の10個のスプール弁が設けられている。
【0029】
走直用スプール弁33、右側走行用スプール弁34、第1ブーム用スプール弁35、バケット用スプール弁36及び第2アーム用スプール弁37は、図2に示すように第1の油圧ポンプ22に直列で接続されており、第1のシリーズ回路43を構成している。走直用スプール弁33は、第2の油圧ポンプ23にも接続されており、右側走行用スプール弁34の接続先を、図示しない走直操作弁からのパイロット圧に応じて第1及び第2の油圧ポンプ22,23の何れか一方に切換えるようになっている。
【0030】
右側走行用スプール弁34、第1ブーム用スプール弁35、バケット用スプール弁36及び第2アーム用スプール弁37は、何れもセンタオープン型の方向切換弁であり、右側走行モータ26、ブームシリンダ27、バケットシリンダ28、及びアームシリンダ30に夫々接続されている。第1のシリーズ回路43では、各スプール弁34〜37が中立位置にあると、第1又は第2の油圧ポンプ22,23からの作動油が第1のセンタバイパス通路44を介してタンク45へと戻されるようになっている。なお、第1のセンタバイパス通路44には、第2アーム用スプール弁37より下流側にリリーフ弁46が設けられ、このリリーフ弁46をバイパスするように絞り47が設けられている。これにより、第1のシリーズ回路43では、このリリーフ弁46と絞り47とでネガティブコントロール方式の油圧回路が構成され、絞り47の上流側の油圧に応じて第1の油圧ポンプ22の吐出量が制御される。なお、本実施形態では、ネガティブコントロール方式の油圧回路が採用されているが、ポジティブコントロール方式の油圧回路であってもよい。
【0031】
右側走行用スプール弁34、第1ブーム用スプール弁35、バケット用スプール弁36及び第2アーム用スプール弁37には、図示しない操作弁が夫々設けられており、操作弁を操作することで対応するスプール弁34〜37にパイロット圧が供給されるようになっている。右側走行用スプール弁34は、パイロット圧に応じてスプールの位置を切換えて走直用スプール弁33から右側走行モータ26に流れる作動油の方向を切換えるようになっており、右側走行モータ26は、作動油の方向に応じて正回転又は逆回転するようになっている。
【0032】
第1ブーム用スプール弁35、バケット用スプール弁36及び第2アーム用スプール弁37は、走直用スプール弁33と並列になるように、第1の供給通路48を介して第1の油圧ポンプ22に並列で接続されている。第1ブーム用スプール弁35、バケット用スプール弁36及び第2アーム用スプール弁37は、対応するパイロット圧に応じてスプールの位置を夫々切換え、第1の供給通路48を介して各シリンダ27,28,30に流される作動油の方向を切換えるようになっている。各シリンダ27,28,30は、そこに流れる作動油の方向に応じて伸縮するようになっている。
【0033】
左側走行用スプール弁38、旋回用スプール弁39、第2ブーム用スプール弁40、オプション用スプール弁41、及び第1アーム用スプール弁42は、図2に示すように第2の油圧ポンプ23に直列で接続されており、第2のシリーズ回路49を構成している。左側走行用スプール弁38、旋回用スプール弁39、第2ブーム用スプール弁40、オプション用スプール弁41、及び第1アーム用スプール弁42は、何れもセンタオープン型の方向切換弁であり、左側走行モータ25、旋回モータ24、ブームシリンダ27、オプションシリンダ29、及びアームシリンダ30に夫々接続されている。第2のシリーズ回路49では、各スプール弁38〜42が中立位置にあると、第2の油圧ポンプ23からの作動油が第2のセンタバイパス通路50を介してタンク45へと戻されるようになっている。なお、センタバイパス通路50には、第1のシリーズ回路43と同様にリリーフ弁51及び絞り52が設けられており、第2のシリーズ回路49もまたネガティブコントロール方式の油圧回路を構成し、絞り52の上流側の油圧に応じて第2の油圧ポンプ23の吐出量が制御される。
【0034】
左側走行用スプール弁38、旋回用スプール弁39、第2ブーム用スプール弁40、オプション用スプール弁41、及び第1アーム用スプール弁42にもまた、図示しない操作弁が夫々設けられており、操作弁を操作することで対応するスプール弁38〜42にパイロット圧が供給されるようになっている。左側走行用スプール弁38は、パイロット圧に応じてスプールの位置を切換えて第2の油圧ポンプ23から左側走行モータ25に流れる作動油の方向を切換えるようになっており、左側走行モータ25は、作動油の方向に応じて正回転又は逆回転するようになっている。
【0035】
旋回用スプール弁39、第2ブーム用スプール弁40、オプション用スプール弁41、及び第1アーム用スプール弁42は、第2の供給通路53を介して走直用スプール弁33に並列して接続されている。走直用スプール弁33は、第2の油圧ポンプ23を右側走行用スプール弁34に接続する際、第1の油圧ポンプ22を第2の供給通路53に接続し、第1の油圧ポンプ22を右側走行用スプール弁34に接続する際、第2の供給通路53を第1の油圧ポンプ22から切り離すようになっている。
【0036】
第2の供給通路53に接続された旋回用スプール弁39、第2ブーム用スプール弁40、オプション用スプール弁41、及び第1アーム用スプール弁42は、対応するパイロット圧に応じてスプールの位置を夫々切換え、第2の供給通路53を介して旋回用モータ24及びシリンダ27,29,30に流される作動油の方向を夫々切換えるようになっている。旋回モータ24は、そこに流れる作動油の方向に応じて正回転又は逆回転し、また各シリンダ27,29,30は、そこに流れる作動油の方向に応じて伸縮するようになっている。
【0037】
このように第1及び第2のシリーズ回路43,49は、5つのスプール弁33〜37、38〜42を夫々直列に接続することで構成されている。第1のシリーズ回路43を構成する走直用スプール弁33、右側走行用スプール弁34、第1ブーム用スプール弁35、バケット用スプール弁36及び第2アーム用スプール弁37は、図1に示すようにケーシング32の上部手前側に、長手方向に一列に並べて配設されている。また第2のシリーズ回路49を構成する左側走行用スプール弁38、旋回用スプール弁39、第2ブーム用スプール弁40、オプション用スプール弁41、及び第1アーム用スプール弁42は、図1に示すようにケーシング32の上部奥側に、長手方向に一列に並べて配設されている。これにより、5つのスプール弁33〜37、38〜42によって2つの弁列54,55が夫々構成され、これら2つの弁列54,55がケーシング32の幅方向に二列に並んで配置される。
【0038】
このように弁列54,55が幅方向に二列並んだケーシング32は、その長手方向に直交している第1及び第2分割面56,57を有している。第1分割面56は、右側走行用スプール弁34と第1ブーム用スプール弁35との間、及び旋回用スプール弁39と第2ブーム用スプール弁40との間を通るようになっている。また、第2分割面57は、バケット用スプール弁36と第2アーム用スプール弁37との間、及びオプション用スプール弁41と第1アーム用スプール弁42との間を通るようになっている。ケーシング32は、これら2つの分割面56,57で分割できるようになっており、これら2つの分割面56,57で分割することで図3のように3つのブロック61,62,63に分割される。なお、図3では、各ブロック61,62,63内に形成される油通路等を省略している。
【0039】
ケーシング32において、第1乃至第3ブロック61〜63は、第1ブロック61の合わせ面61aと第2ブロック62の合わせ面62aとを合わし、第2ブロック62の合わせ面62aと第3ブロックの合わせ面63aとを合して長手方向に一直線上に並べ、第1及び第3ブロック61,63により第2ブロック62を挟むようにして配置される。更に、第1ブロック61には、長手方向の外側表面(前記合わせ面61aの反対側の面)から複数のボルト64が挿入される。なお、本実施形態では、6本のボルト64が挿入されているが、ボルト64の本数は、5つ以下であってもよく、7本以上であってもよい。後述するボルト65についても同様である。締結具であるこれら6本のボルト64は、第1ブロック61を貫通して第2ブロック62に螺合される。また、第3ブロック63には、長手方向の外側表面(前記合わせ面63aの反対側の面)から複数のボルト65が挿入される。締結具であるこれら6本のボルト65は、第3ブロック63を貫通して第2ブロック62に螺合される。このように12本のボルト64,65を螺号することで、第1〜第3ブロック61〜63が12本のボルト64,65によって締結されて連結される(図1の点線も参照)。
【0040】
なお、第1ブロック61には、図3に示すように走直用スプール弁33、右側走行用スプール弁34、左側走行用スプール弁38、及び旋回用スプール弁39が設けられる。また第2ブロック62には、図3に示すように第1及び第2ブーム用スプール弁35,40、バケット用スプール弁36、並びにオプション用スプール弁41が設けられる。更に、第3ブロック63には、図3に示すように第2及び第1アーム用スプール弁37,42が設けられている。
【0041】
このように構成されるマルチコントロール弁装置1では、第1及び第2分割面56,57が長手方向に直交し、且つスプール弁33〜42の間を通っているので、第1〜3ブロック61,62,63の長手方向の長さは、弁列54,55に並ぶスプール弁33〜42の数に係わらずケーシングの分割数(本実施形態では、3)に応じて決まり、ケーシング32の長手方向の長さより短くなる。他方、第1及び第2分割面56,57が長手方向に直交するので、ケーシング32が幅方向には分割されず、第1〜3ブロック61,62,63の幅は、ケーシング32の幅と同じになる。
【0042】
これに対して、従来技術では、油圧制御弁装置1を幅方向に分割するようになっており、第1及び第2の多連弁ブロック2,3の長手方向の長さは、並べられた制御弁5〜14の数に応じて決まり、幅は、油圧制御弁装置1の分割数に応じて決まる。それ故、分割数に応じて決まる各ブロック61〜63の長手方向の長さは、従来技術のものより短くなり、またケーシングと同じ広さである幅は、従来技術のものより広くなる。これにより、各ブロック61〜63のアスペクト比は、従来技術よりも大きくなって1に近くなり、各ブロック61〜63の剛性が従来技術より高くなる。それ故、各ブロック61〜63の変形が抑えられ、この微小変形に起因する各スプール弁23〜32の性能低下が抑えられる。また、ブロック61〜63には、様々な摺動部品が設けられており、これらの摺動部品の性能低下も抑えることができる。
【0043】
また、第1及び第2分割面56,57が長手方向に直交しているので、各ブロックの合わせ面61a,62a,62b,63aの面積は、ケーシングの幅に応じて決まる。これに対して、従来技術の合わせ面2a,3aの面積は、第1及び第2の多連弁ブロック2,3の長手方向の長さに応じて決まる。ケーシング32や油圧制御弁装置1では、弁列を構成する弁が並ぶ長手方向の長さよりも弁列54,55が並ぶ幅の方が短い。それ故、幅に応じて決まる第1〜第3ブロック61〜63の合わせ面の面積は、長手方向の長さに応じて決まる従来技術の合わせ面2a,3aの面積より小さくなる。このように合わせ面の面積61a,62a,62b,63aを小さくすることで、合わせ面61a,62a,62b,63aの平面度を良くしやすくなる。
【0044】
このように構成されるマルチコントロール弁装置21では、油圧アクチュエータ31を夫々駆動するべくケーシング32内で作動油が流れており、この作動油が第1ブロック61と第2ブロック62との間、及び第2ブロック62と第3ブロック63との間を行き来している。第1〜第3ブロック61〜63は、このように行き来する作動油が合わせ面61a,62a,62b,63aの間から漏れないように合わせ面61a,62a,62b,63aの間がシールされている。シール性能は、合わせる面の平面度が良いほど高くなる。即ち、合わせ面61a,62a,62b,63aの平面度を良くしやすいので、合わせ面61a,62a,62b,63aの間におけるシールの性能を向上させやすい。
【0045】
更に、マルチコントロール弁装置1では、ケーシング32を第1及び第2の分割面56,57で3つのブロック61〜63に分割するので、各ブロック61〜63の重量を略均等にしやすく、各ブロック61〜63の重量を均等化して軽くすることができる。従来技術の第1及び第2の多連弁ブロック2,3は、各列に並ぶ制御弁5〜14の数に応じてその外形寸法が決まる。それ故、それらの重量と合流ブロック4の重量とを均等にすることが難しく、合流ブロック4の重量に比べて第1及び第2の多連弁ブロック2,3の重量が重くなる。そうすると、それらの重量に耐え得る装置を配備する必要があり、第1及び第2の多連弁ブロック2,3を生産する際の鋳造、機械加工及び搬送等の生産対応設備が限定される。これに対して、各ブロック61〜63は、それらの重量を均等化して軽量化しやすく、各ブロック61〜63を生産可能な生産対応設備が増える。また3つに分割することで、各ブロック61〜63の最大寸法が小さくなるので、鋳造、機械加工、及び搬送等がしやすくなり、各ブロック61〜63を生産可能な生産対応設備が増える。
【0046】
また、3つに分割することで、ケーシング32の体積及び重量において各ブロック61〜63が占める割合が従来の技術のものより小さくなる。これに対して、従来の技術では、第1及び第2の多連弁ブロック2,3が油圧制御弁装置1の大半を占めている。それ故、第1又は第2の多連弁ブロック2,3で不良が生じると、油圧制御弁装置1の略半分を廃棄しなければならずロスが大きかった。しかし、マルチコントロール弁装置21では、各ブロック61〜63の占める割合が小さくなるので、ブロック61〜63の何れかに不良が生じても、廃棄しなければならないのはケーシング32の1/3程度であり、廃棄する際のロスを抑えることができる。
【0047】
このような作用効果を奏するマルチコントロール弁装置21において、油圧アクチュエータ31を駆動すべく高圧の作動油が流れている油通路として、第2の油圧ポンプ23と走直用スプール弁33とを繋ぐポンプ通路71、第2ブーム用スプール弁40とブームシリンダ27とを繋ぐブーム用通路72、及び第2アーム用スプール弁37とアームシリンダ30とを繋ぐアーム用通路73,74がある。それ以外にも、第2のセンタバイパス通路50の第1アーム用スプール弁42の下流とバケット用スプール弁36とを接続するバケット用通路75、及び、第1のセンタバイパス通路44の第2アーム用スプール弁37の下流とオプション用スプール弁41とを接続するオプション用通路76にも高圧の作動油が流れている。これら6つの油通路71〜76は、一方の弁列54から他方の弁列55への方向、又はその逆方向に渡すように配置されており、これらの油通路71〜76を従来の技術の油圧制御弁装置1に採用した場合、これら6つの通路71〜76は、第1及び第2多連弁ブロック2,3の合わせ面2a,3aで表出する。
【0048】
他方、マルチコントロール弁装置21では、第1及び第2分割面56,57が長手方向に直交しているため、幅方向に延在するポンプ通路71、ブーム用通路72及びアーム用通路73,74が合わせ面61a,62a,62b,63aで表出することがない。合わせ面61a,62a,62b,63aでは、それらの油通路71〜74に代わり、ケーシング32の長手方向に延びる2つのセンタバイパス通路44,50、並びに第1及び第2の供給通路48,53が表出する。合わせ面61a,62aでは、これらの4つの油通路44,48,50,53しか表出しない。それ故、マルチコントロール弁装置21では、合わせ面61a,62aで表出する通路の数が従来のものより少なくなる。これによっても、合わせ面61a,62aで受ける作用力を従来技術のもの小さくすることができ、各ブロック61,62の変形を抑えることができる。
【0049】
また、合わせ面62b,63aでは、4つの油通路44,48,50,53にバケット用通路75及びオプション用通路76を加えた6つの油通路44,48,50,53,75,76が夫々表出する。それ故、マルチコントロール弁装置21では、合わせ面62b,63aで表出する通路の数が従来のものと等しくなる。そのため、合わせ面62b,63aで受ける作用力が従来技術のものよりも大きくなることを防ぐことができ、各ブロック62,63の変形を抑えることができる。
【0050】
これら、合わせ面61a,62a,62b,63aでは、表出する種々の油通路44,48,50,53,75,76の周りにシール部材、具体的にはOリングが設けられている。合わせ面61a,62a,62b,63a同士の間は、これらOリングにより油通路44,48,50,53,75,76から油漏れないようにシールされている。これらOリングは、合わせ面61a,62a,62b,63a同士を合わせることで、それらの間をシールしている。前述の通り、シールの効果は、合わせる面の平面度が良いほど高く、合わせ面61a,62a,62b,63aでは、平面度を良くしやすいので、上記シール効果を高くしやすく、油通路44,48,50,53,75,76からの油漏れをより少なくできる。
【0051】
<第2実施形態>
図4に概略を示す第2実施形態のマルチコントロール弁装置21Aは、第1実施形態のマルチコントロール弁装置21と構成が類似している。それ故、以下では、マルチコントロール弁装置21Aの構成について、第1実施形態のマルチコントロール弁装置21と異なる構成について説明し、同一の構成について同一の符号を付してその説明を省略する。
【0052】
マルチコントロール弁装置21は、ケーシング32Aを備え、ケーシング32Aは、分割面56で2つのブロック61、62Aに分割できるようになっている。第1及び第2ブロック61,62Aは、各々の合わせ面61a、62aを合わせるようにして長手方向に並べて配置されている。第2ブロック62Aの長手方向の外側表面部には、6本のボルト65Aが挿入されており、これら6本のボルト65Aが第2ブロック62Aを貫通して第1ブロック61に螺合されている。これにより、第1及び第2ブロック61,62Aが6本のボルト64,65によって締結されて連結される。
【0053】
ケーシング32Aは、長手方向に直交する分割面56で2つのブロック61,62Aに分割されるので、各ブロック61,62の合わせ面61a,62aで受ける作用力が第1実施形態と同様に従来技術のものより小さくなる。それ故、2つのブロック61,62を連結するために使用するボルトの数(本実施形態では、6本)を従来技術のもの(従来技術では、片側8本)より少なくすることができる。それ故、ボルトの数を減らすことができ、部品点数を低減することができる。
【0054】
マルチコントロール弁装置21は、その他、第1実施形態のマルチコントロール弁装置21Aと同様の作用効果を奏する。
【0055】
<その他の形態について>
第1実施形態及び第2実施形態のマルチコントロール弁装置21では、スプール弁33〜42が二列に並べて配置されているが、三列以上であってもよい。なお、弁列が三列以上ある場合、長手方向に並んでいるスプール弁の列を弁列と見なす。また、各弁列を構成するスプール弁は、必ずしも長手方向に沿って直線的に並んでいる必要はなく、長手方向に対して斜向させて並べてもよく、また千鳥状(ジグザク状)に配置してもよい。
【0056】
また、ケーシング32,32Aに設けられるスプール弁33〜42の数も10個に限定されず、6〜9個であってもよく、また11個以上であってもよい。更に、ケーシング32,32Aが有する分割面の数も3つ以上であってもよく、4つ以上のブロックに分割できるようになっていてもよい。もっとも、第1実施形態及び第2実施形態のマルチコントロール弁装置21,21Aによって奏する作用効果を考慮すると、分割面56,57の数は、1又は2つであることが好ましい。また、分割面56,57の位置についても、互いに隣接する2つのスプール弁の間を通るようになっていればよい。また分割面56,57は、必ずしも長手方向に真に直交している必要はなく、長手方向に対して多少傾斜していてもよい。即ち、用語「直交」には、「真に直交」するものだけでなく、多少傾斜したものも含む。
【0057】
なお、本発明は、実施の形態に限定されず、発明の趣旨を逸脱しない範囲で追加、削除、変更が可能である。
【産業上の利用可能性】
【0058】
本発明は、複数のスプール弁が複数列並べられて設けられるマルチコントロール弁装置、及びそのケーシングに適用することができる。
【符号の説明】
【0059】
21 マルチコントロール弁装置
32,32A ケーシング
33 走直用スプール弁
34 右側走行用スプール弁
35 第1ブーム用スプール弁
36 バケット用スプール弁
37 第2アーム用スプール弁
38 左側走行用スプール弁
39 旋回用スプール弁
40 第2ブーム用スプール弁
41 オプション用スプール弁
42 第1アーム用スプール弁
56 第1分割面
57 第2分割面
61 第1ブロック
62 第2ブロック
63 第3ブロック
65A ボルト

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のブロックを連結することで構成される長尺のケーシングと、
前記ケーシングの長手方向に複数列並ぶように前記ケーシングに配設される複数のスプール弁とを備え、
前記ケーシングは、該ケーシングを前記複数のブロックに分割するための分割面を有し、
前記分割面は、前記長手方向に隣接する2つの前記スプール弁の間を通り、且つ前記長手方向と直交していることを特徴とするマルチコントロール弁装置。
【請求項2】
前記ケーシングは、n個(n≧3)のブロックを連結することで構成され、且つ互いに異なるn−1個の分割面を有することを特徴とする請求項1に記載のマルチコントロール弁装置。
【請求項3】
前記ケーシングは、2つのブロックを連結することで構成され、
前記2つのブロックは、複数の締結具により締結されていることを特徴とする請求項1に記載のマルチコントロール弁装置。
【請求項4】
複数のブロックを連結することで構成され、複数のスプール弁が所定方向に複数列並ぶように配設される所定方向に長尺なマルチコントロール弁用のケーシングであって、
前記ケーシングを前記複数のブロックに分割するための分割面を有し、
前記分割面は、前記所定方向に隣接する2つの前記スプール弁の間を通り、且つ前記所定方向と直交していることを特徴とするマルチコントロール弁装置用のケーシング。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−112123(P2011−112123A)
【公開日】平成23年6月9日(2011.6.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−268017(P2009−268017)
【出願日】平成21年11月25日(2009.11.25)
【出願人】(592216188)株式会社カワサキプレシジョンマシナリ (67)
【Fターム(参考)】