説明

マルチディメンジョナルガスクロマトグラフ装置

【課題】唯一の検出器によりモニタリング分析及び高分解能分析の両方の信号検出を行うことでコストを低減する。
【解決手段】試料気化室1と流路切替部9の入口端との間に第1カラム8を設け、流路切替部9の2つの出口端と共通の質量分析計20との間に第2カラム13と抵抗管路14を設ける。まず第1カラム8を経た試料ガスを抵抗管路14に流すようにして分析を開始し、高分解能分析を行う所定の時点で試料ガスを第2カラム13に流すように流路を切り替える。高分解能分析対象成分が第1カラム8から溶出し終えた後の所定の時点で、第1カラム8と抵抗管路14とを接続するように再び流路を切り替えるが、それとともにバルブ5を開いて試料気化室1内のガス圧を流路切替部9のガス圧よりも下げることで、第1カラム8に残る不要成分を逆流させて排出させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、分離特性の相違する複数のカラムを用いるマルチディメンジョナルガスクロマトグラフ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
環境分析、石油化学分析、香料分析などの分野では、多種類の微量成分が含まれる複雑な組成の試料中の各成分を分離して高い感度で定量分析する必要があるが、一般的なガスクロマトグラフ(GC)装置では複数の成分のピークを完全には分離できず、十分な分析ができない場合も多い。こうした場合に、分離特性の相違する複数のカラムを組み合わせたマルチディメンジョナルガスクロマトグラフ装置(以下、MDGCと称す)が非常に有用である。
【0003】
例えば特許文献1、2に記載のMDGCでは、試料気化室内で気化させた試料ガスを第1カラムに流して試料成分を分離した後の流路を第1検出器側と、第2カラム及び第2検出器側との2つに分岐し、通常(モニタリング分析)は第1カラムから流出した試料ガスを第1検出器に導入して試料成分を検出し、第1カラムでは十分に分離できない成分が含まれる試料ガスが通過するタイミングで以て試料ガスを選択的に第2カラム側に導入し、第2カラムを通して分離特性を改善した後に第2検出器に導入して検出(高分解能分析)を行う。これにより、第1カラムでは十分に分離することができずクロマトグラム上でピークが重なってしまうような複数の成分を的確に分離し、且つ分析時間が極端に長くなることも防止することができる。
【0004】
上記のようなMDGCにおける試料ガスの流路の切替えには、特許文献3に記載のように、ディーンズ(Deans)方式と呼ばれる構造の流路切替手段が一般に利用されている。また、本出願人は、典型的なディーンズ方式の流路切替手段を改良した構成を特許文献4、5で提案している。いずれにしても、GCのキャリアガスと同じメイクアップガスを供給する際の圧力のバランスを変えることで、流路の切り替えを達成することができる。
【0005】
上記のような従来のMDGCではカラムが複数設けられるだけでなく、検出器も複数設けられる。そのために必要以上にコストが高くなるという問題がある。
【0006】
また、一般にMDGCは研究・開発のために利用されることが多いが、そうした部門では定量分析のみならず定性分析が必要となるため、検出器として質量分析計(MS)を備えたGC/MSを所有していることが多い。こうしたGC/MSを利用してMDGCを構成する場合、質量分析計とは別の検出器として例えば水素炎イオン化型検出器(FID)などがよく利用されている。これは、質量分析計はかなり高価であって、MDGCを構成するためにさらにもう1台の質量分析計を追加することはコスト的な負担が大きいことに加え、質量分析計はFIDなどに比べて装置サイズがかなり大きく、1台のGCに対し2台の質量分析計を設置することが装置の配置やスペースなどの点からも困難であることによる。
【0007】
しかしながら、質量分析計を用いれば、FIDなどに比べて高感度、高精度の定量分析が可能で、且つ上述のように定性分析も可能であることから、モニタリング分析、高分解能分析のいずれでも、検出器として質量分析計を使用したいという要求が大きい。
【0008】
【特許文献1】特開2006−226678号公報
【特許文献2】特開2006−226679号公報
【特許文献3】特開2000−179714号公報
【特許文献4】特開2006−64646号公報
【特許文献5】特開2006−329703号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は上記課題に鑑みて成されたものであり、その第1の目的は、全般的なモニタリング分析と特定の時間範囲における高分解能分析との信号検出を1つの検出器で行うことができるMDGCを提供することである。
【0010】
また、本発明の第2の目的は、高感度、高精度の定量分析とともに定性分析も可能な質量分析計を検出器として用い、モニタリング分析と詳細分析との両方を行うことができるMDGCを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するために成された本発明に係るマルチディメンジョナルガスクロマトグラフ装置は、
a)一端に試料導入部が接続され、導入された試料ガスに含まれる各種試料成分を分離する第1カラムと、
b)前記第1カラムとは異なる分離特性を有し、一端が検出器に接続された第2カラムと、
c)一端が前記検出器に接続された、試料成分を保持しないガス管路と、
d)前記第1カラム、前記第2カラム、及び前記ガス管路の各他端が接続され、前記第1カラムを経て供給されるガスを前記第2カラム又は前記ガス管路の一方に選択的に流すことが可能な流路切替手段と、
e)前記試料導入部のガス圧と前記流路切替手段における前記第1カラムの接続端のガス圧との相対的関係を調節するための調節手段と、
f)前記流路切替手段により、前記第1カラムを経て供給されるガスを前記ガス管路に流すように流路を設定した状態で分析を実行し、所定の時点において前記第1カラムを経て供給されるガスを前記第2カラムに流すように流路を切り替え、その後の所定の時点において前記第1カラムを経て供給されるガスを前記ガス管路に流すように流路を再び切り替えるとともに、前記試料導入部のガス圧が前記流路切替手段における前記第1カラムの接続端のガス圧よりも低くなるように、又は前記第1カラムの接続端のガス圧が前記試料導入部のガス圧よりも高くなるように前記調節手段を制御する制御手段と、
を備えることを特徴としている。
【0012】
ここで、上記ガス管路としては例えば、カラムのような固定液相を有さない、内壁面が不活性処理されたチューブを用いることができる。
【0013】
上記調節手段としては、例えば、試料導入部からガスを系外へ排出するためのスプリット流路やパージ流路上に設けられたバルブ、或いは、流路切替手段へ供給するメイクアップガスのガス圧を調節する調圧バルブ、などとすることができる。
【0014】
また、上記流路切替手段としては、上記第2カラムと上記ガス管路とにそれぞれ供給するメイクアップガスの圧力のバランスにより流路の切替えを行うもの、具体的には、ディーンズ方式又はこれの改良型の流路切替装置を用いることができる。こうした流路切替装置では、第1カラムを経たガスがガス管路に流れるように流路が設定された状態で、第2カラムにはメイクアップガスが供給され、第2カラムを流れるメイクアップガスの流量もメイクアップガスの供給圧により制御可能である。即ち、第1カラムを経たガスを第2カラムに流すように流路を設定している状態からガス管路に流すように流路を切り替えても、その切替えの前後で第2カラムに流れるガス(切替え前にはキャリアガスに試料成分が混じった試料ガス、切替え後にはメイクアップガス)の流量を同一にすることができる。
【0015】
本発明に係るMDGCを用いた一般的な分析の手順としては、まず、流路切替手段により、第1カラムを経て供給されるガスをガス管路に流すように流路を設定した状態で目的試料のクロマトグラフ分析を実行し、検出器で得られた検出信号に基づいてクロマトグラムを作成する。分析担当者はそのクロマトグラムを確認し、ピークが分離されていない等、高分解能での分析を行いたい時間範囲(例えばt1〜t2)を決めて、流路切替手段を制御するためのスイッチングプログラムを作成する。
【0016】
次に、同一の目的試料を分析する際に、制御手段はスイッチングプログラムに従って流路切替手段の流路切替えを制御する。即ち、まず第1カラムを経て供給されるガスをガス管路に流すように流路を設定した状態で、試料導入部に試料を注入して第1カラムに試料を導入することにより分析を開始し、所定の時点(t1)において第1カラムを経て供給されるガスを第2カラムに流すように流路を切り替える。すると、第1カラムで成分分離された試料ガスが、より高分解能の第2カラムを経ることで、時間的に近接する成分が十分に分離されて検出器に到達する。したがって、検出器で得られた検出信号に基づき、上記高分解能での分析を行いたい時間範囲に含まれる成分(以下「高分解能分析対象成分」という)対して、高い分解能のクロマトグラムを作成することができる。
【0017】
その後の所定の時点(t2)において第1カラムを経て供給されるガスをガス管路に流すように流路を再び切り替える。この時点では、上記高分解能分析対象成分は第1カラムから溶出し終わり第2カラムへと送られている。それと同時に又は少し遅れて、試料導入部のガス圧が流路切替手段における第1カラムの接続端のガス圧よりも低くなるように調節手段を制御する。すると、その直前まで試料導入部から流路切替手段へ向かって第1カラム中を流れていた試料ガスは、ガス圧の高低が反転したことで逆流(バックラッシュ)し、試料導入部へ向かって流れるようになる。即ち、上記高分解能分析対象成分よりも時間的に遅れて第1カラムから溶出する筈の成分は、ガス管路には送られず、最終的には試料導入部へと戻り、例えばスプリット流路等を通して排出される。
【0018】
高分解能分析対象成分が第2カラムを通過するには或る程度時間が掛かるのに対し、ガス管路は保持能力を有さないので各種成分がきわめて迅速に(ガス流速に従って)通過する。そのため、高分解能分析対象成分よりも遅く第1カラムから溶出する筈の各種成分がガス管路へ送られてしまうと、第2カラムを通過して来た成分と同時或いはそれよりも早く検出器に到達し、複数成分の混合など目的成分の検出の支障、妨害となるおそれがある。これに対し、本発明に係るMDGCでは、上述のようなバックラッシュにより後から溶出する不要成分を検出器に導入させずに済むので、複数成分の混合などの問題が起こらない。
【0019】
なお、本発明に係るMDGCにおいて検出器としては様々なものが利用できるが、好ましくは、検出器として質量分析計を用いる構成とするとよい。これにより、第2カラムを使用しないモニタリング分析の際にも第2カラムを使用した高分解能分析の際にも、高感度、高精度で定量分析が行えるとともに、定性分析も行うことができる。
【発明の効果】
【0020】
本発明に係るMDGCによれば、従来のように複数の検出器を用意する必要がなく、唯一の検出器でモニタリング分析と高分解能分析との両方を行うことができる。そのため、装置のコスト低減を図ることができる。また、例えばGC/MSを保有しているような場合には、その質量分析計を唯一の検出器として利用してモニタリング分析と高分解能分析の両方を遂行することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下、本発明に係るMDGCの一実施例について図面を参照して説明する。図1は本実施例によるMDGCの全体構成図である。
【0022】
本実施例のMDGCにおいて、本発明における試料導入部としての試料気化室1には、ヘリウム等のキャリアガスを供給するためのキャリアガス供給管2と、試料気化室1内のガス圧を検知する圧力センサ6と、バルブ5が設けられたスプリット流路4とが接続され、その上部にはインジェクタ3により液体試料が注入されるようになっている。また、試料気化室1の下部には、カラムオーブン7内に配設された第1カラム(モニタカラム)8の入口端が接続されている。第1カラム8の出口端は流路切替部9に接続され、流路切替部9により本発明におけるガス管路としての抵抗管路14と第2カラム13とのいずれかに接続されるようになっている。抵抗管路14としては、内壁面に固定液相を有せずカラムとして機能しない、つまり成分を保持する機能を持たない不活性チューブを用いることができる。
【0023】
抵抗管路14及び第2カラム13の出口端はいずれも、本発明における検出器としての質量分析計20に接続されている。流路切替部9は例えばディーンズ方式の流路切替部であり、後述する分析制御部32の指令に従って、調圧バルブ12が設けられたメイクアップガス管路10を通して供給されるメイクアップガスの流れを切り替えることによって、第1カラム8を通過して来た試料ガスを抵抗管路14と第2カラム13とに択一的に流す。このとき、試料ガスが流れない方の管路にはメイクアップガスが流れることになる。メイクアップガスはキャリアガスと同一のガスを用いる。
【0024】
圧力センサ11は流路切替部9において第1カラム8の接続端付近のガス圧を検知するものであり、その検知信号は後述する分析制御部32にフィードバックされている。なお、流路切替部9としては一般的なディーンズ方式のもの以外に、本出願人が特許文献4、5などで提案している構成のものも利用することができる。
【0025】
質量分析計20は、イオン源21、四重極質量フィルタなどの質量分離器22、イオン検出器23などを含み、上記抵抗管路14の出口端と第2カラム13の出口端は共通のイオン源21まで延伸されている。したがって、第2カラム13と抵抗管路14とのいずれを通して試料成分を含む試料ガスが供給された場合でも同じように、該試料成分はイオン源21でイオン化され、質量分離器22でイオンが質量毎に分離された後にイオン検出器23で検出される。
【0026】
イオン検出器23による検出信号はデータ処理部31に送られ、データ処理部31でトータルイオンクロマトグラム、マススペクトル、マスクロマトグラムなどが作成されるとともに、検出された各種成分の定量分析、及び、定性分析が実行される。なお、以下の説明では、トータルイオンクロマトグラムを単にクロマトグラムと称す。
【0027】
インジェクタ4や流路切替部9、バルブ5、調圧バルブ12などの動作は、中央制御部30の統括的な指示の下に分析制御部32により制御される。また、中央制御部30はデータ処理部31も制御するとともに、データ処理部31よりクロマトグラムなどの処理結果を受け取って表示部34に表示する。中央制御部30には分析条件を始めとする各種の入力設定を行うための入力部33と分析条件や分析結果などを表示するための表示部34とが接続されている。中央制御部30及びデータ処理部31の実体は汎用のパーソナルコンピュータであって、このパーソナルコンピュータにインストールされた所定の制御・処理プログラムを動作させることで後述するような制御・処理が達成される。
【0028】
上記MDGCにおける特徴的な分析時の動作の一例について、図2〜図4を参照しつつ説明する。図2は本実施例のMDGCで取得されるクロマトグラムの一例を示す図、図3は高分解能分析を実行する際の制御フローチャート、図4は第1カラム8、第2カラム13、及び抵抗管路14内のガスの流れを模式的に示す図である。
【0029】
まず1回目の分析としてモニタリング分析を行うことで全般的なクロマトグラムを取得する。即ち、分析制御部32の制御の下に、流路切替部9により、第1カラム8を通過して来たキャリアガスが抵抗管路14に流れるように流路が設定される(図3中ではこれを流路設定Aとしている)。したがって、図4(a)に示すように、キャリアガス供給管2から試料気化室1→第1カラム8→抵抗管路14→質量分析計20のイオン源21、とキャリアガスが流れる。このとき、第2カラム13にはメイクアップガスが流され、このメイクアップガスも質量分析計20のイオン源21に導入される。
【0030】
この状態でインジェクタ3により少量の液体試料を試料気化室1へ注入すると、気化した試料はキャリアガスの流れに乗って第1カラム8に導入され、第1カラム8を通過する間にその成分の特性に応じて分離され、時間的な差がついて溶出する。そして、その分離状態を保持しつつ抵抗管路14を通過し、質量分析計20に到達して各成分が順次検出される。データ処理部31はこの検出信号に基づいて、例えば図2(a)に示すようなクロマトグラムを作成し、中央制御部30はそのクロマトグラムを表示部34の画面上に表示する。
【0031】
図2(a)に示したクロマトグラムにおいては、例えば〔a〕で示す範囲でピークが十分に分離されていない。いま、この〔a〕の範囲について詳細に、つまり高い分解能で分析したいものとする。そこで、分析担当者は、例えば39.0分から39.3分の範囲を高分解能分析するように、入力部33からの入力操作によりスイッチングプログラムを作成する。このスイッチングプログラムは、中央制御部30に内蔵されたメモリに記憶される。
【0032】
次いで、分析担当者が2回目の分析(高分解能分析)の開始を指示すると、この指示を受けた中央制御部30はメモリに記憶しておいたスイッチングプログラムに従って流路切替部9及びバルブ5を動作させるように分析制御部32に指令を出す。即ち、まず上記モニタリング分析時と同じように、流路切替部9により、第1カラム8を通過して来たキャリアガスが抵抗管路14側に流れるように流路が設定された状態で、第1カラム8にキャリアガスを供給し、第2カラム13側にはメイクアップガスを流す(ステップS1)。
【0033】
この状態で、インジェクタ3により少量の液体試料を試料気化室1へ注入すると(この注入時点をt=0とする)(ステップS2)、気化した試料はキャリアガス流に乗って第1カラム8に導入され、第1カラム8を通過する間に成分分離がなされ、抵抗管路14を経て、時間的な差がついた状態で質量分析計20に到達する。そこで、イオン検出器23の検出信号の収集を開始し、これに基づいてクロマトグラムを作成する(ステップS3)。試料注入時点から39.0分が経過するまでの間は、このようにモニタリング分析と同様の状態の流路設定Aでデータを収集する。
【0034】
試料注入時点から39.0分が経過すると(ステップS4でYES)、流路切替部9は上記スイッチングプログラムに従って、第1カラム8を通過して来た試料ガス(キャリアガス+試料成分)を第2カラム13側に流し、抵抗管路14側にメイクアップガスを流すよう、流路設定Bに切り換える(ステップS5)。このときの試料ガスの流れの状態を図4(b)中に太線矢印で示す。
【0035】
第2カラム13は高い分離特性を有するため、第2カラム13に送り込まれた試料ガスに含まれる試料成分(高分解能分析対象成分)は、第2カラム13を通過する過程でさらに時間的に分離されて溶出し、質量分析計20に到達する。このときにイオン検出器23で得られる検出信号に基づいてクロマトグラムを作成すると(ステップS6)、例えば図2(b)に示すように、モニタリング分析時には分離できなかった、つまり重なり合っていた時間的に近接したピークが明瞭に分離されるようになる。したがって、各ピークのピークトップの位置を正確に特定し、高い精度での定性分析が行える。またピーク面積も正確に求まるので定量分析も高い精度で行える。なお、このとき、抵抗管路14側からはメイクアップガスがイオン源21に供給されるが、不純物を含まないので分析に支障にきたさない。
【0036】
試料注入時点から39.3分が経過した時点で(ステップS7でYES)、流路切替部9は、上記スイッチングプログラムに従って、第1カラム8を通過して来た試料ガスを再び抵抗管路14側に流し、第2カラム13側にメイクアップガスを流すように流路設定を当初の状態(A)に戻す(ステップS8)。但し、このままでは、39.3分経過以降に第1カラム8から溶出する各種成分(具体的に、最も時間的に早く現れるのは図2(a)中の〔b〕で示す範囲の成分)が、抵抗管路14を経て質量分析計20に到達してしまうことになる。第2カラム13に送り込まれた高分解能分析対象成分は、第2カラム13を通過する際に時間遅れを生じるため、これら成分が質量分析計20に導入されるよりも前に又は同時に、抵抗管路14を経た後続の不要成分が質量分析計20に導入されてしまい、イオン源21で成分の混合や時間的な追い抜きが生じるおそれがある。
【0037】
そこで、これを回避するために、流路切替部9で流路設定をB→Aと元に戻すと同時に又は少し遅れて、試料気化室1内のガス圧が流路切替部9における第1カラム8接続端付近のガス圧よりも低くなるように、例えばバルブ5を開放する(ステップS9)。バルブ5が開かれるとスプリット流路4を通して試料気化室1内のガスが一気に吐き出されるため、試料気化室1内のガス圧は急に下がる。第1カラム8を通過するガスの流通方向はその両端のガス圧の高低によって決まるから、ステップS9の実行直前には、試料気化室1内のガス圧は流路切替部9における第1カラム8接続端のガス圧よりも必ず高くなっているが、ステップS9においてその高低を逆転させる。すると、第1カラム8内での試料ガスの流れ方向が反転する。このとき試料ガスの流れの状態を図4(c)中に太線矢印で示す。
【0038】
この時点で、高分解能分析対象成分よりも遅れて第1カラム8から溶出する筈の不要成分(図2(a)中の〔b〕で示す範囲の成分)は未だ第1カラム8内に残っている。したがって、これら不要成分は試料ガスと共に第1カラム8内を逆流し、試料気化室1にまで戻り、スプリット流路4を経て排出される。このとき、流路切替部9では圧力のバランスの関係から、メイクアップガスが第1カラム8内にも入り、このメイクアップガスに押されながら試料ガスは試料気化室1に向かって逆流する。これによって、高分解能分析対象成分に引き続く不要成分は抵抗管路14内には送られず、それ故に、質量分析計20へ不要成分が導入されることもない。
【0039】
一方、流路設定の切替えにより、第2カラム13にはメイクアップガスが供給され、これに押されて第2カラム13内を試料ガスが進行して質量分析計20に達する。このときのメイクアップガスの流速がそれ以前のキャリアガスの流速と異なると、第2カラム13を通過する試料ガスの流速が変化する。この流速を変化させたくない場合には、メイクアップガスの供給圧を適宜に制御するようにすればよい。
【0040】
そうして、高分解能分析対象成分が第2カラム13から完全に溶出して質量分析計20で検出された以降の適当な時点で(ステップS10でYES)、検出データの収集を停止して分析を終了する。
【0041】
以上のようにして、本実施例のMDGCでは、唯一の検出器である質量分析計20を用いてモニタリング分析、高分解能分析のいずれの信号検出も行うことができる。
【0042】
なお、旧来の質量分析計では、高精度の分析のためにはイオン源の真空度も高く保つ必要があり、上述のように2系統から同時にガスがイオン源に供給されると、真空度が落ちて性能の低下が顕著であった。これに対し、近年の質量分析計の技術的な進展に伴い、2系統以上の流路からイオン源にガスを供給しても、高い精度での分析が可能となっている。
【0043】
また、ステップS9で第1カラム8の両端のガス圧の高低を反転させるための方法は上記実施例に記載のものに限らず、メイクアップガス供給圧を上げてもよいし、或いはキャリアガスの供給圧を下げてもよい。もちろん、メイクアップガス供給圧を変化させると、第2カラム13へ供給されるメイクアップガスの流速も変化するから、全体の圧力のバランスと分析条件(ガス流速など)を考慮して適切な方法を選択すべきである。
【0044】
なお、上記実施例は本発明の一例であり、本発明の趣旨の範囲で適宜変形、追加、修正を行っても本願特許請求の範囲に包含されることを当然である。例えば、上記実施例では、検出器として質量分析計を用いていたが、そのほかのガスクロマトグラフ分析に一般に利用される各種の検出器を利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0045】
【図1】本発明の一実施例によるMDGCの全体構成図。
【図2】本実施例のMDGCで取得されるクロマトグラムの一例を示す図。
【図3】本実施例のMDGCにおいて高分解能分析を実行する際の制御フローチャート。
【図4】第1カラム、第2カラム、及び抵抗管路内のガスの流れを模式的に示す図。
【符号の説明】
【0046】
1…試料気化室
2…キャリアガス供給管
3…インジェクタ
4…スプリット流路
5…バルブ
6、11…圧力センサ
7…カラムオーブン
8…第1カラム
9…流路切替部
10…メイクアップガス管路
12…調圧バルブ
13…第2カラム
14…抵抗管路
20…質量分析計
21…イオン源
22…質量分離器
23…イオン検出器
30…中央制御部
31…データ処理部
32…分析制御部
33…入力部
34…表示部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
a)一端に試料導入部が接続され、導入された試料ガスに含まれる各種試料成分を分離する第1カラムと、
b)前記第1カラムとは異なる分離特性を有し、一端が検出器に接続された第2カラムと、
c)一端が前記検出器に接続された、試料成分を保持しないガス管路と、
d)前記第1カラム、前記第2カラム、及び前記ガス管路の各他端が接続され、前記第1カラムを経て供給されるガスを前記第2カラム又は前記ガス管路の一方に選択的に流すことが可能な流路切替手段と、
e)前記試料導入部のガス圧と前記流路切替手段における前記第1カラムの接続端のガス圧との相対的関係を調節するための調節手段と、
f)前記流路切替手段により、前記第1カラムを経て供給されるガスを前記ガス管路に流すように流路を設定した状態で分析を実行し、所定の時点において前記第1カラムを経て供給されるガスを前記第2カラムに流すように流路を切り替え、その後の所定の時点において前記第1カラムを経て供給されるガスを前記ガス管路に流すように流路を再び切り替えるとともに、前記試料導入部のガス圧が前記流路切替手段における前記第1カラムの接続端のガス圧よりも低くなるように、又は前記第1カラムの接続端のガス圧が前記試料導入部のガス圧よりも高くなるように前記調節手段を制御する制御手段と、
を備えることを特徴とするマルチディメンジョナルガスクロマトグラフ装置。
【請求項2】
請求項1に記載のマルチディメンジョナルガスクロマトグラフ装置であって、前記流路切替手段は、前記第2カラムと前記ガス管路とにそれぞれ供給するメイクアップガスの圧力のバランスにより流路の切替えを行うものであることを特徴とするマルチディメンジョナルガスクロマトグラフ装置。
【請求項3】
請求項1又は2に記載のマルチディメンジョナルガスクロマトグラフ装置であって、前記検出器は質量分析計であることを特徴とするマルチディメンジョナルガスクロマトグラフ装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2009−103666(P2009−103666A)
【公開日】平成21年5月14日(2009.5.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−278246(P2007−278246)
【出願日】平成19年10月26日(2007.10.26)
【出願人】(000001993)株式会社島津製作所 (3,708)
【Fターム(参考)】