説明

マルチバンドドハティ増幅器

【課題】複数の周波数に対して十分な動作性能を得ることが可能なドハティ増幅器を提供する。
【解決手段】入力信号を二つに分配する分配器と、分配器で分配された一方の信号を増幅するキャリア増幅器と、分配された他方の信号を遅延させる遅延器と、遅延器の出力信号を増幅するピーク増幅器と、キャリア増幅器の出力端に接続され、インピーダンス変換を行うインピーダンス変換器と、ピーク増幅器の出力信号とインピーダンス変換器の出力信号とを合成する合成器と、を含み、遅延器の電気長がインピーダンス変換器の電気長と略同一であり、インピーダンス変換器が、N(N≧2)種類のインピーダンス変換用伝送線路を従続接続した構成を有し、当該N種類の周波数について、略同一のインピーダンス変換を行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、送信機用高効率電力増幅器に関し、特に、ドハティ増幅器に関する。
【背景技術】
【0002】
送信増幅器の高効率化を達成する構成として、動作級の異なる二つの増幅回路を並列に構成したドハティ増幅器構成が知られている(例えば、非特許文献1参照)。図10に、従来のドハティ増幅器の基本的な構成を示す。
図10に示すように、従来のドハティ増幅器100は、入力信号を二つに分配する分配器101と、分配器101での分配信号の一方が入力されるキャリア増幅器102と、分配器101での分配信号の他方が入力される1/4波長線路104と、1/4波長線路104の出力信号が入力されるピーク増幅器105と、キャリア増幅器102の出力信号が入力される1/4波長線路103と、1/4波長線路103の出力信号とピーク増幅器105の出力信号とを合成する合成器106とから構成される。
【0003】
ここで、キャリア増幅器102は、例えばAB級やB級の増幅器であり、ピーク増幅器105は、例えばC級の増幅器である。また、ピーク増幅器105は、キャリア増幅器102の飽和時に動作するように設定される。これにより、入力信号の電流値が十分に低い場合には、ドハティ増幅器100は、キャリア増幅器102のみによって入力信号を増幅する。一方、キャリア増幅器102が飽和する程度に入力信号の電流値が高い場合には、ドハティ増幅器100は、キャリア増幅器102とピーク増幅器105とによって各分配信号を増幅し、各増幅信号を合成器106にて合成する。
【0004】
このように、ドハティ増幅器100は、入力信号の電流値が低い場合にピーク増幅器105が動作せず、これによって消費電力を節約する。さらに、入力信号の電流値が高い場合に、キャリア増幅器102とピーク増幅器105とが動作し、2つの増幅出力を合成することで飽和電力が大きな増幅を行う。これらにより、全体としての高い効率を実現している。
【0005】
また、ドハティ増幅器100は、キャリア増幅器102の出力側に1/4波長線路103を有している。この1/4波長線路103の機能により、キャリア増幅器102の出力端からみた負荷インピーダンスは、ピーク増幅器105のON/OFFに応じて変化する。これにより、ドハティ増幅器100の効率をより一層向上させている。以下、この理由を簡単に説明する。
【0006】
まず、説明の簡略化のため、ドハティ増幅器100の1/4波長線路103が無損失分布定数線路であると仮定する。一般に、無損失分布定数線路には、以下の関係が成り立つ。
【数1】

なお、V,Iは、それぞれ、当該無損失分布定数線路の入力端での電圧値及び電流値である。また、V,Iは、それぞれ、当該無損失分布定数線路の出力端での電圧値及び電流値である。さらに、βは、周波数に依存する位相定数であり、Lは線路長である。また、jは虚数単位であり、Rは、当該無損失分布定数線路の特性インピーダンスである。
【0007】
1/4波長線路103の場合、βL=π/2を満たすため、1/4波長線路103には、以下の関係が成り立つ。
【数2】

また、1/4波長線路103とピーク増幅器105との接合部からみたドハティ増幅器100出力側の負荷インピーダンスがR/2であるとき、1/4波長線路103は、特性インピーダンスがRとなるように設定される。
【0008】
ドハティ増幅器100の入力信号の電流値が低く、ピーク増幅器105がOFFの場合、ピーク増幅器105の出力インピーダンスは、理想的には無限大となる。この場合、1/4波長線路103の出力端からみた負荷インピーダンスV/IはR/2となる。この場合、式(2)より、
R0/2=VL/IL={j・R0・I0}/{(j・V0)/R0}= R02・(I0/V0) …(3)
が成り立つ。そして、式(3)を変形すると、
V0/I0=2R0 …(4)
となる。これは、1/4波長線路103の入力端、すなわち、キャリア増幅器102の出力端からみた負荷インピーダンスが2Rとなることを示している。
【0009】
一方、入力信号の電流値が高く、ピーク増幅器105がONの場合、キャリア増幅器102とピーク増幅器105とが並列に動作し、両方の増幅器の出力信号が合成される。この場合、1/4波長線路103の出力端の負荷インピーダンスV/IはRとなり、ピーク増幅器105の出力端からみた負荷インピーダンスもRとなる。この場合、式(2)より、
R0=VL/IL={j・R0・I0}/{(j・V0)/R0}= R02・(I0/V0) …(5)
が成り立つ。そして、式(5)を変形すると、
V0/I0=R0 …(6)
となる。これは、1/4波長線路103の入力端、すなわち、キャリア増幅器102の出力端からみた負荷インピーダンスがRとなることを示している。
【0010】
このように、ピーク増幅器105がOFFの場合、キャリア増幅器102の出力端からみた負荷インピーダンスは2Rとなり、ピーク増幅器105がONである場合、キャリア増幅器102の出力端からみた負荷インピーダンスはRとなる。
ここで、キャリア増幅器102は、出力端からみた負荷インピーダンスが2Rの際、飽和電力は小さいが効率がよくなるように設計されている。その結果、入力信号の電流値が小さく、ピーク増幅器105がOFFの場合において、ドハティ増幅器100の高効率増幅動作が実現される。
【0011】
一方、キャリア増幅器102及びピーク増幅器105は、共に、出力端からみた負荷インピーダンスがRの際、飽和電力が最大となるように設計されている。その結果、ピーク増幅器105がONの際には、ドハティ増幅器100は、飽和電力が大きな増幅動作を行うことができ、線形な増幅動作を行うことができる。なお、ここで、キャリア増幅器102は飽和増幅動作を行っていることから、その分、ピーク増幅器105に入力される電流量が低減され、ピーク増幅器105が飽和してしまうことをさらに抑制できる。
【非特許文献1】W. H. Doherty, "A new high efficiency power amplifier for modulated waves", Proc. IRE, Vol. 24, No. 9, pp. 1163-1182, Sept. 1936.
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
このように、従来のドハティ増幅器100の特徴は、ピーク増幅器105のON/OFF動作と、1/4波長線路103によるインピーダンス変換回路を用いた高効率増幅動作とにある。ここで、式(1)に示した通り、1/4波長線路103の入力端のインピーダンスV/Iと、出力端のインピーダンスV/Iとの関係は、伝送信号の周波数に依存する(位相定数βが周波数に依存するため)。従来のドハティ増幅器100では、1つの周波数(例えば、信号増幅すべき周波数帯域の中心周波数)において、1/4波長線路103が所望のインピーダンス変換を行うように1/4波長線路103が設計されていた。そのため、その周波数帯域以外の周波数の信号については、1/4波長線路103は所望のインピーダンス変換を行わない。この場合、キャリア増幅器102出力とピーク増幅器105出力の合成が最適でなくなり、ドハティ増幅器100の動作が不完全となる。
【0013】
図11は、設計周波数2GHzにおいて所望のインピーダンス変換を行うように設計された1/4波長線路103のキャリア増幅器102側(Port1)の入力インピーダンス(振幅(mag)と位相(Phase)とを表現)を示すグラフである。図11に示すように、このように設計された1/4波長線路103の入力インピーダンスは、設計周波数2GHzでは設計値100Ohmとなっているが、それ以外の周波数では設計値100Ohmとはならない。
【0014】
このように、従来のドハティ増幅器100では、1/4波長線路103の設計周波数に応じ、ドハティ増幅器100として動作する周波数帯域が決まっていた。このため、従来のドハティ増幅器100では、設計周波数以外の周波数(式(1)におけるβLがπ/2の偶数倍である場合を除く)に対しては、十分な動作を行うことができなかった。
本発明はこのような点に鑑みてなされたものであり、複数の周波数に対して十分な動作性能を得ることが可能なドハティ増幅器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明では上記課題を解決するために、入力信号を二つに分配する分配器と、分配器の一方の出力端に接続され、分配器で分配された一方の信号を増幅するキャリア増幅器と、分配器の他方の出力端に接続され、分配された他方の信号を遅延させる遅延器と、遅延器の出力端に接続され、その出力信号を増幅するピーク増幅器と、キャリア増幅器の出力端に接続され、インピーダンス変換を行うインピーダンス変換器と、ピーク増幅器の出力端とインピーダンス変換器の出力端とに接続され、ピーク増幅器の出力信号とインピーダンス変換器の出力信号とを合成する合成器と、を含み、遅延器の電気長がインピーダンス変換器の電気長と略同一であり、インピーダンス変換器が、N(N≧2)種類のインピーダンス変換用伝送線路を従続接続した構成を有し、当該N種類の周波数について、略同一のインピーダンス変換を行う、マルチバンドドハティ増幅器が提供される。
【0016】
なお、「遅延器の電気長がインピーダンス変換器の電気長と略同一」とは、遅延器の電気長がインピーダンス変換器の電気長と同一であること、及び、これらがマルチバンドドハティ増幅器として所望の性能が得られる程度に近似していること、を意味する。また、「N種類の周波数について、略同一のインピーダンス変換を行う」とは、N種類の周波数について、同一のインピーダンスに変換を行うこと、及び、マルチバンドドハティ増幅器として所望の性能が得られる程度に、N種類の周波数について、略同一のインピーダンスに変換を行うこと、を意味する。さらに、インピーダンス変換器が「N種類の周波数について、同一のインピーダンス変換を行う」とは、インピーダンス変換器の一端のインピーダンスがαである場合に、当該インピーダンス変換器の他端のインピーダンスがβであるといった関係が、当該N種類の周波数について成り立つことを意味する。
【0017】
ここで、このようなインピーダンス変換器は、N種類(N≧2)の周波数について、キャリア増幅器の出力端からみた負荷インピーダンスを略同一値にする。これにより、当該N種類の周波数について、キャリア増幅器を最適に動作させることができ、結果的に、複数の周波数に対して十分な動作を行うことが可能なドハティ増幅器を実現できる。また、インピーダンス変換器と電気長が略同一の遅延器をインピーダンス変換器と並列に接続することにより、インピーダンス変換器による信号の遅延を補正できる。
【0018】
また、本発明において、遅延器は、インピーダンス変換器と構成が相違する遅延線路であってもよい。遅延器は、ピーク増幅器側の信号の位相を、インピーダンス変換器による位相遅延と同じだけ遅延させるものであれば足りる。よって、遅延器として上述のインピーダンス変換器と同一構成のものを用いる必要はなく、幅広い自由度のもと設計を行うことが可能である。
【0019】
また、本発明において好ましくは、合成器は、ピーク増幅器の出力端とインピーダンス変換器の出力端とが接合された接合部に、N種類のインピーダンス変換用伝送線路を従続接続させた構成を有する。そして、このN種類のインピーダンス変換用伝送線路を従続接続させた構成は、N種類の周波数について、略同一のインピーダンス変換を行う。
【0020】
このような合成器を用いることにより、上述のN種類の周波数について、当該接合部からみた負荷インピーダンスを略同一値にできる。これにより、当該N種類の周波数について、キャリア増幅器をより最適に動作させることができ、結果的に、複数の周波数に対し、十分な動作を行うことが可能なドハティ増幅器を実現できる。
【0021】
また、本発明において好ましくは、合成器が有するN種類のインピーダンス変換用伝送線路を従続接続させた構成は、ピーク増幅器がONの場合に、N種類の周波数について、接合部からみた負荷インピーダンスを、当該接合部からみた出力インピーダンスに整合させる。
これにより、マルチバンドドハティ増幅器にとって重要なピーク増幅器がONの際の動作効率を向上させることができる。
【発明の効果】
【0022】
以上のように、本発明のマルチバンドドハティ増幅器では、複数の周波数に対して十分な動作性能を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
以下、本発明を実施するための最良の形態を図面を参照して説明する。
〔構成〕
図1は、本形態におけるマルチバンドドハティ増幅器10の構成を例示したブロック図である。
図1に例示するマルチバンドドハティ増幅器10は、入力信号を二つに分配する分配器11と、分配器11の一方の出力端に接続され、分配器11で分配された一方の信号を増幅するキャリア増幅器12と、分配器11の他方の出力端に接続され、分配された他方の信号を遅延させる遅延器である遅延線路14と、遅延線路14の出力端に接続され、その出力信号を増幅するピーク増幅器15と、キャリア増幅器12の出力端に接続され、インピーダンス変換を行う多周波帯用インピーダンス変換器13と、ピーク増幅器15の出力端と多周波帯用インピーダンス変換器13の出力端とに接続され、ピーク増幅器15の出力信号と多周波帯用インピーダンス変換器13の出力信号とを合成する多周波帯用合成器16とを有する。
【0024】
<分配器11>
分配器11は、例えば、N個(N≧2)の周波数帯で均等に電力分配できるウイルキンソン電力分配器又は方向性結合器等によって構成できる。具体的には、各周波数帯の各中心周波数比が2以下であれば、例えば、プランチ型方向性結合器や結合型方向性結合器や設計が最適化されたウイルキンソン電力分配器等により分配器11を構成することができる。また、各周波数帯の各中心周波数比が2以上であれば、マルチセクション結合型方向性結合器やマルチセクションウイルキンソン電力分配器等により分配器11を構成できる。マルチバンドドハティ増幅器10の増幅特性を考慮すると、分配器11は、なるべく電力を等分配する構成であることが望ましい。しかし、分配器11が、電力を完全に等分配しなくても、キャリア増幅器12又はピーク増幅器15の利得を調整することにより、分配器11の分配誤差を補正することもできる。この場合、分配器11の設計の自由度が高まり、分配器11を容易に具体化できる。
【0025】
<多周波帯用インピーダンス変換器13>
図2(a)は、図1に示したマルチバンドドハティ増幅器10が具備する多周波帯用インピーダンス変換器13の構成を例示した概念図である。
図2(a)に例示するように、多周波帯用インピーダンス変換器13は、N種類(N≧2)のインピーダンス変換用伝送線路13a−1〜Nを従続接続した構成である。そして、この多周波帯用インピーダンス変換器13は、当該N種類の周波数について、略同一のインピーダンス変換を行う。なお、「略同一」及び「同一インピーダンス変換」の意義は、前述した通りである。
【0026】
このような多周波帯用インピーダンス変換器13の構成は、例えば、以下の参考文献1に開示されている。
参考文献1:Cesar Monzon, "A small dual-frequency transformer in two section", IEEE Transactions on Microwave Theory and Techniques, Vol. 51, No.4, pp. 1157-1161, Apr. 2003
図2(b)は、N=2の場合における多周波帯用インピーダンス変換器13の構成例を示す図である。
【0027】
図2(b)に例示した多周波帯用インピーダンス変換器13は、相互に線幅が異なる2種類のインピーダンス変換用伝送線路13a−1,2をPort1側から従続接続した構成である。ここで例示する多周波帯用インピーダンス変換器13は、比誘電率が2.2の誘電体基板上に形成されたマイクロストリップラインである。この例の場合、インピーダンス変換用伝送線路13a−1は、特性インピーダンスが79Ohmの線路であり、インピーダンス変換用伝送線路13a−2は、特性インピーダンスが63.6Ohmの線路であり、各インピーダンス変換用伝送線路13a−1,2の長手方向の長さは、それぞれ50mmである。このように構成された多周波帯用インピーダンス変換器13は、1GHzと2GHzの2種類の周波数について、略同一のインピーダンス変換を行う。すなわち、Port1のインピーダンスが100Ohmである場合にPort2側のインピーダンスが50Ohmとなる関係が、信号の周波数が1GHzである場合と2GHzである場合とで成り立つ。
【0028】
なお、図2(b)の例の多周波帯用インピーダンス変換器13は、誘電体基板上に形成したマイクロストリップラインであったが、多周波帯用インピーダンス変換器13の構成は、これに限定されない。即ち、ストリップラインやコプレナーウェーブガイド等によって、多周波帯用インピーダンス変換器13を構成してもよい。
【0029】
図4は、従来のインピーダンス変換器と、図2(b)の例の多周波帯用インピーダンス変換器13のS22特性(反射特性)の計算シミュレーション結果を示すグラフである。なお、この例の従来のインピーダンス変換器は、周波数2GHzにおいて、Port1側のインピーダンスが100Ohmである場合にPort2側のインピーダンスが50Ohmとなる1/4波長線路である。
【0030】
図4に例示するように、信号の周波数が2GHzである場合、従来のインピーダンス変換器も、図2(b)の例の多周波帯用インピーダンス変換器13も、S22特性は−40dB以下である。これは、信号の周波数が2GHzである場合、何れのインピーダンス変換器でもインピーダンス整合がよくとれていることを示している。
【0031】
これに対し、信号の周波数が1GHzである場合、従来のインピーダンス変換器でのS22特性は−13dB程度であり、図2(b)の例の多周波帯用インピーダンス変換器13でのS22特性は−45dB程度である。これは、信号の周波数が1GHzである場合、図2(b)の例の多周波帯用インピーダンス変換器13では、インピーダンス整合がよくとれているが、従来のインピーダンス変換器では、インピーダンス整合がよくとれていないことを示している。
【0032】
図5は、従来のインピーダンス変換器と、図2(b)の例の多周波帯用インピーダンス変換器13との、Port1側のインピーダンスの周波数特性を例示したグラフである
なお、このグラフは、各インピーダンス変換器のPort2側のインピーダンスが50Ohmである場合のデータを示す。
図5に例示するように、信号の周波数が2GHzである場合、従来のインピーダンス変換器(従来構成)も、図2(b)の例の多周波帯用インピーダンス変換器13(考案構成)も、Port1側のインピーダンスは、大きさ100Ohm、偏角0degとなっている。
【0033】
一方、信号の周波数が1GHzである場合、従来のインピーダンス変換器におけるPort1側のインピーダンスは、大きさ50Ohm、偏角35degとなっている。このように、従来のインピーダンス変換器では、Port2側の所定のインピーダンスに対し、Port1側のインピーダンスが、周波数に応じて変化する。これは、従来の1/4波長線路によるインピーダンス変換器では、複数の周波数(この例では1GHzと2GHz)において、インピーダンス整合を行うことができないことを示している。
【0034】
これに対し、図2(b)の例の多周波帯用インピーダンス変換器13では、信号の周波数が1GHzである場合にも、Port1側のインピーダンスは、大きさ100Ohm、偏角0degとなっている。これは、図2(b)の例の多周波帯用インピーダンス変換器13では、複数の周波数(この例では1GHzと2GHz)において、インピーダンス整合を行うことが可能であることを示している。
【0035】
また、このような多周波帯用インピーダンス変換器13を用いた場合、複数の周波数(この例では1GHzと2GHz)に対し、キャリア増幅器12の出力側からみた負荷インピーダンスは略同一の複素数値となる。そのため、その負荷インピーダンスに対してキャリア増幅器12が高効率動作するようにキャリア増幅器12を設定すれば、それら複数の周波数における高効率増幅が可能となる。
【0036】
<遅延線路14>
遅延線路14は、インピーダンス変換器13と略同一の電気長に構成される。これにより、ピーク増幅器15側の信号の位相を、インピーダンス変換器13の電気長分だけ遅延させ、キャリア増幅器12側の信号とピーク増幅器15側の信号との位相とを一致させることができる。なお、ここでの「略同一」の意義は前述した通りである。また、遅延線路14には、インピーダンス変換器13と同一の構成の線路を用いてもかまわないが、特にその必要はなく、インピーダンス変換器13と略同一の電気長をもつ線路であれば、例えば、特性インピーダンス50Ohmの線路等どのようなものを用いてもよい。ピーク増幅器15の入力端側でのインピーダンスの不整合は、ピーク増幅器15の内部整合回路によりマルチバンドドハティ増幅器10の動作に大きな影響を与えないからである(これを示すデータについては後述する)。また、インピーダンス変換器13の実装形態も特に限定はなく、絶縁体基板にマイクロストリップライン、ストリップライン、コプレナーウェーブガイド等を形成して実装してもよいし、分配器11にインピーダンス変換器13を取り込む構成としてもよい。
【0037】
<キャリア増幅器12>
キャリア増幅器12は、上述したN個の周波数をそれぞれ中心周波数とするN周波数帯で利得が得られる増幅器である。キャリア増幅器12のバイアス電圧は、一般にAB級又はB級に設定されている。キャリア増幅器12に使用されるマイクロ波半導体には、少なくとも上記のN周波数帯で十分な小信号利得を持つデバイスを使用する。例えば、1GHzと2GHzとをそれぞれ中心周波数とする2つの周波数帯で増幅する場合(N=2)には、Cバンドまで増幅できるGaAs MESFET等を使用することができる。
【0038】
また、キャリア増幅器12は、上記のN周波数帯で必要な利得が得られるように、その入力整合回路及び出力整合回路の構成が決められる。これにより、キャリア増幅器12は、上記のN周波数帯で必要な利得を得ることができる。なお、各周波数帯で利得差があっても、各利得差が、マルチバンドドハティ増幅器10として要求される特性を得られる範囲内のものであれば、特に問題はない。
【0039】
<ピーク増幅器15>
ピーク増幅器15は、上記のN周波数帯で利得が得られる増幅器である。ピーク増幅器15のバイアス電圧は、一般にキャリア増幅器12のバイアス電圧よりも深く設定される(例えばC級にバイアスされる)。ピーク増幅器15に使用されるマイクロ波半導体は、キャリア増幅器12と同一の基準で選択される。
【0040】
また、ピーク増幅器15は、上記のN周波数帯で必要な利得が得られるように、その入力整合回路及び出力整合回路の構成が決められる。これにより、ピーク増幅器15は、上記のN周波数帯で必要な利得を得ることができる。なお、各周波数帯で利得差があっても、各利得差が、マルチバンドドハティ増幅器10として要求される特性を得られる範囲内のものであれば、特に問題はない。
【0041】
<多周波帯用合成器16>
多周波帯用合成器16は、多周波帯用インピーダンス変換器13の出力端とピーク増幅器15の出力端とが接合され、その接合部に、N種類のインピーダンス変換用伝送線路を従続接続した構成からなる。そして、このN種類のインピーダンス変換用伝送線路を従続接続させた構成は、上記のN種類の周波数について、略同一のインピーダンス変換を行う。このような構成の詳細は、例えば、前述の参考文献1に開示されている。
【0042】
この多周波帯用合成器16により、上記のN種類の周波数について、上記の接合部からみたキャリア増幅器12及びピーク増幅器15側の出力インピーダンスを、その接合部からみた負荷インピーダンスに整合させることができる。なお、上記の接合部からみたキャリア増幅器12及びピーク増幅器15側の出力インピーダンスは、ピーク増幅器15がOFFであるとき(理想的には、ピーク増幅器15の出力インピーダンスは無限大)と、ONであるときとで異なる。そのため、N種類のインピーダンス変換用伝送線路を従続接続した構成によって、ピーク増幅器15がOFFであるときとONであるときの両方の場合に、完全なインピーダンス整合を行うことはできない。本形態の多周波帯用合成器16は、ピーク増幅器15がONの場合に、上述のN種類の周波数について、上記接合部からみた負荷インピーダンスを、当該接合部からみたキャリア増幅器12及びピーク増幅器15側の出力インピーダンスに整合させる構成とする。マルチバンドドハティ増幅器10にとっては、ピーク増幅器がOFFであるときの動作性能よりも、ピーク増幅器がONであるときの動作効率のほうが重要だからである。
【0043】
図3(a)は、N=2の場合における多周波帯用合成器16の構成例を示す図である。
図3(a)に例示した多周波帯用合成器16は、相互に線幅が異なる2種類のインピーダンス変換用伝送線路16a−1,2をPort1側から従続接続した構成である。ここで例示する多周波帯用合成器16は、比誘電率が2.2の誘電体基板上に形成されたマイクロストリップラインである。この例の場合、インピーダンス変換用伝送線路16a−1は、特性インピーダンスが31.46Ohmの線路であり、インピーダンス変換用伝送線路16a−2は、特性インピーダンスが39.78Ohmの線路であり、各インピーダンス変換用伝送線路13a−1,2の長手方向の長さは、それぞれ50mmである。このように構成された多周波帯用合成器16は、1GHzと2GHzの2種類の周波数について、略同一のインピーダンス変換を行う。すなわち、Port2側のインピーダンスが50Ohmである場合にPort1のインピーダンスが25Ohmとなる関係が、信号の周波数が1GHzである場合と2GHzである場合とで成り立つ。
【0044】
なお、図3(a)の多周波帯用合成器16は、誘電体基板上に形成したマイクロストリップラインであったが、多周波帯用合成器16の構成は、これに限定されない。即ち、ストリップラインやコプレナーウェーブガイド等によって、多周波帯用合成器16を構成してもよい。
図3(b)は、図3(a)の例の多周波帯用合成器16の接続構成を示す図である。
図3(b)に示すように、図3(a)の例の多周波帯用合成器16のPort1側の一端は、多周波帯用インピーダンス変換器13の出力端とピーク増幅器15の出力端との接合部に接続され、他端はマルチバンドドハティ増幅器10の外部負荷(50Ohm)に接続される。これにより、図3(a)の例の多周波帯用合成器16は、1GHzと2GHzの2種類の周波数について、上記の接合部からみた負荷インピーダンスを25Ohmに変換し、ピーク増幅器15がONのときの上記の接合部からみた入力インピーダンスと整合させる。
【0045】
〔シミュレーション結果1〕
以下に、本形態のマルチバンドドハティ増幅器10と従来のドハティ増幅器の計算機シミュレーション結果を示す。なお、以下のシミュレーション結果は、N=2の場合のものであり、多周波帯用インピーダンス変換器13として図2(b)に例示したものを用い、多周波帯用合成器16として図3に例示したものを用いたものである。また、ここでは、本形態のマルチバンドドハティ増幅器10及び従来のドハティ増幅器とも、キャリア増幅器とピーク増幅器には、Cバンド用GaAs MESFETを用いることとした。また、入力信号はCW1波(搬送波)とした。
【0046】
図6(a)は、入力信号のシミュレーション周波数1GHzにおける、本形態のマルチバンドドハティ増幅器10と、設計周波数が1GHzである従来のドハティ増幅器と、設計周波数が2GHzである従来のドハティ増幅器と、の入出力特性を示したグラフである。図6(a)における横軸は、それぞれに対する入力電力を示し、縦軸は出力電力を示す。
図6(a)に示す通り、入力信号のシミュレーション周波数1GHzにおける、本形態のマルチバンドドハティ増幅器10と従来のドハティ増幅器の入出力特性は、ほぼ同一であり、飽和出力32dBm、利得10dB程度である。
【0047】
また、図6(b)は、入力信号のシミュレーション周波数2GHzにおける、本形態のマルチバンドドハティ増幅器10と、設計周波数が1GHzである従来のドハティ増幅器と、設計周波数が2GHzである従来のドハティ増幅器と、の入出力特性を示したグラフである。図6(b)における横軸は、それぞれに対する入力電力を示し、縦軸は出力電力を示す。
図6(b)に示す通り、入力信号のシミュレーション周波数2GHzにおける、本形態のマルチバンドドハティ増幅器10と従来のドハティ増幅器の入出力特性も、ほぼ同一である。
【0048】
図7(a)は、入力信号のシミュレーション周波数1GHzにおける、本形態のマルチバンドドハティ増幅器10と、設計周波数が1GHzである従来のドハティ増幅器と、設計周波数が2GHzである従来のドハティ増幅器と、のドレイン効率特性を示したグラフである。図7(a)における横軸は、それぞれの入力電力を示し、縦軸はそれらに対するドレイン効率を示す。
【0049】
図7(a)に示すように、入力信号のシミュレーション周波数が1GHzである場合、設計周波数が1GHzである従来ドハティ増幅器の最大ドレイン効率は60%程度であり、設計周波数が2GHzである従来ドハティ増幅器の最大ドレイン効率は50%程度である。これに対し、本形態のマルチバンドドハティ増幅器10の最大ドレイン効率は67.1%と非常に高い。
【0050】
図7(b)は、入力信号のシミュレーション周波数2GHzにおける、本形態のマルチバンドドハティ増幅器10と、設計周波数が1GHzである従来のドハティ増幅器と、設計周波数が2GHzである従来のドハティ増幅器と、のドレイン効率特性を示したグラフである。図7(b)における横軸は、それぞれの入力電力を示し、縦軸はそれらに対するドレイン効率を示す。
【0051】
図7(a)に示すように、入力信号のシミュレーション周波数が2GHzである場合、設計周波数が1GHzである従来ドハティ増幅器の最大ドレイン効率は40%程度であり、設計周波数が2GHzである従来ドハティ増幅器の最大ドレイン効率は66%程度である。これに対し、本形態のマルチバンドドハティ増幅器10の最大ドレイン効率は62.4%である。
【0052】
図7から、従来ドハティ増幅器は、入力信号のシミュレーション周波数と設計周波数とが一致する場合には、60%以上の高い最大ドレイン効率を示すが、入力信号のシミュレーション周波数と設計周波数とが異なる場合には、ドハティ増幅器特有の高い最大ドレイン効率が得られない。これに対し、本形態のマルチバンドドハティ増幅器10は、入力信号のシミュレーション周波数が1GHzの場合にも2GHzの場合にも、62%以上の高いドレイン効率が得られている。これらより、本形態のマルチバンドドハティ増幅器10の構成が、従来ドハティ増幅器よりも有効であることがいえる。
【0053】
上記図6及び図7の計算機シミュレーションの結果より、以下のことが言える。
図6から、本形態のマルチバンドドハティ増幅器10、設計周波数が1GHzである従来のドハティ増幅器、及び設計周波数が2GHzである従来のドハティ増幅器のいずれも、十分な利得が得られていることが分かる。これは、上述の計算機シミュレーションでは、本形態のマルチバンドドハティ増幅器10及び従来のドハティ増幅器とも、キャリア増幅器とピーク増幅器としてCバンド用GaAs MESFETを用いることを前提にしており、検討した1GHz及び2HGzにおいて小信号利得が十分に得られていたからである。
【0054】
しかし、図7に示した通り、従来ドハティ増幅器は、入力信号のシミュレーション周波数と設計周波数とが異なる場合には、ドハティ増幅器特有の高い最大ドレイン効率が得られなかった。これは、従来ドハティ増幅器では、入力信号のシミュレーション周波数と設計周波数とが異なる場合には、キャリア増幅器出力信号とピーク増幅器出力信号とを同相合成できないためである。これに対し、本形態のマルチバンドドハティ増幅器10の場合、検討した1GHz及び2HGzにおいて、十分な最大ドレイン効率が得られている。
【0055】
また、ここで例示したマルチバンドドハティ増幅器10の遅延線路14は、単なる50Ohm線路であり、多周波帯用インピーダンス変換器13のように複数の周波数(この例では、1GHzと2GHz)で略同一のインピーダンス変換特性を持つものではない。それにも拘わらず、ここで例示したマルチバンドドハティ増幅器10は、検討した1GHz及び2HGzにおいて、十分な最大ドレイン効率が得られている。これにより、信号の周波数の違いに起因するピーク増幅器15の入力端でのインピーダンス不整合は、マルチバンドドハティ増幅器10の動作効率には殆ど影響しないことがわかる。すなわち、必ずしも、遅延線路14の代わりに、多周波帯用インピーダンス変換器13と同じ構成の遅延器を用いる必要はない。
【0056】
〔シミュレーション結果2〕
次に、本形態のマルチバンドドハティ増幅器10の多周波帯用合成器16の代わりに、1/4波長線路(設計周波数1GHz)を用いた構成(検討構成)の計算機シミュレーション結果を示す。なお、以下のシミュレーション結果は、N=2の場合のものであり、多周波帯用インピーダンス変換器13には、図2(b)に例示したものを用いた。また、ここで比較対象とする従来のドハティ増幅器は、キャリア増幅器側のインピーダンス変換器が1/4波長線路(設計周波数1GHz)であり、ピーク増幅器の入力側に1/4波長線路が接続され、1/4波長線路(設計周波数1GHz)を具備する合成器を用いたものとする。さらに、ここでは、本形態のマルチバンドドハティ増幅器10及び従来のドハティ増幅器とも、キャリア増幅器とピーク増幅器には、Cバンド用GaAs MESFETを用いることとした。また、入力信号はCW1波とした。
【0057】
まず、本形態のマルチバンドドハティ増幅器10の多周波帯用合成器16の代わりに、1/4波長線路(設計周波数1GHz)を用い、遅延線路14として図2(b)の多周波帯用インピーダンス変換器13と同じ構成のものを用いた構成(検討構成1)の計算機シミュレーション結果を示す。
【0058】
図8(a)は、入力信号のシミュレーション周波数が1GHzである場合における、検討構成1(検討構成1 1GHz)と、従来構成(従来構成 1GHz)の入出力特性と、入力信号のシミュレーション周波数が2GHzである場合における、検討構成1(検討構成1 2GHz)と、従来構成(従来構成 2GHz)の入出力特性と、を示したグラフである。図8(a)における横軸は、それぞれに対する入力電力を示し、縦軸は出力電力を示す。また、図8(b)は、入力信号のシミュレーション周波数が1GHzである場合における、検討構成1(検討構成1 1GHz)と、従来構成(従来構成 1GHz)のドレイン効率特性と、入力信号のシミュレーション周波数2GHzにおける、検討構成1(検討構成1 2GHz)と、従来構成(従来構成 2GHz)のドレイン効率特性と、を示したグラフである。図8(b)における横軸は、それぞれに対する入力電力を示し、縦軸はドレイン効率を示す。
【0059】
図8に示すように、入力信号のシミュレーション周波数が1GHzである場合、検討構成1は従来構成に比較して、入力電力10dBmに対する出力電力が2dB、ドレイン効率が10%劣化している。また、入力信号のシミュレーション周波数が2GHzである場合、検討構成1と従来構成との出力電力特性はほぼ一致しているが、検討構成1は従来構成に比較し、飽和点でのドレイン効率効率が10%程度改善している。しかし、何れの構成も、1GHzと2GHzで高効率増幅が達成されていない。
【0060】
次に、本形態のマルチバンドドハティ増幅器10の多周波帯用合成器16の代わりに、1/4波長線路(設計周波数1GHz)を用い、遅延線路14として50Ohmの遅延線路を用いた構成(検討構成2)の計算機シミュレーション結果を示す。
【0061】
図9(a)は、入力信号のシミュレーション周波数1GHzにおける、検討構成2(検討構成2 1GHz)と、従来構成(従来構成 1GHz)の入出力特性と、入力信号のシミュレーション周波数が2GHzである場合における、検討構成2(検討構成2 2GHz)と、従来構成(従来構成 2GHz)の入出力特性と、を示したグラフである。図9(a)における横軸は、それぞれに対する入力電力を示し、縦軸は出力電力を示す。また、図9(b)は、入力信号のシミュレーション周波数が1GHzである場合における、検討構成2(検討構成2 1GHz)と、従来構成(検討構成2 1GHz)のドレイン効率特性と、入力信号のシミュレーション周波数が2GHzである場合における、検討構成2(検討構成2 2GHz)と、従来構成(従来構成 2GHz)のドレイン効率特性と、を示したグラフである。図9(b)における横軸は、それぞれに対する入力電力を示し、縦軸はドレイン効率を示す。
【0062】
図9に示すように、入力信号のシミュレーション周波数が1GHzである場合、検討構成2は従来構成に比較し、入出力電力効率とドレイン効率効率とがわずかに劣化している。一方、入力信号のシミュレーション周波数が2GHzである場合には、これらはほぼ同等である。しかし、何れの構成も、1GHzと2GHzで高効率増幅が達成されていない。
【0063】
上記図8及び図9の計算機シミュレーションの結果より、以下のことが言える。
マルチバンドドハティ増幅器10の合成器として、N種類のインピーダンス変換用伝送線路を従続接続した多周波帯用合成器16を採用した場合、合成器に単なる1/4波長線路を用いる場合に比べ、複数周波数(この例では1GHzと2GHz)における高効率増幅性能が向上する。
また、入出力特性と効率特性とを総合判断すると、ピーク増幅器入力側の遅延器として多周波帯用インピーダンス変換器13と同じ構成ものを用いた場合と、単なる遅延線路(例えば、50Ohm線路)を用いた場合との間で、大きな性能の差はない。
【0064】
なお、本発明は上述の実施の形態に限定されるものではない。例えば、上述の実施の形態では、N=2、設計周波数1GHz,2GHzの場合のマルチバンドドハティ増幅器のシミュレーション結果を示したが、本発明はこれに限定されない。すなわち、Nは3以上の自然数であってもよいし、マルチバンドドハティ増幅器の設計周波数は、1GHzや2GHzを含んでいても、含んでいなくてもよい。その他、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更が可能であることはいうまでもない。
【産業上の利用可能性】
【0065】
本発明のマルチバンドドハティ増幅器の産業上の利用分野としては、例えば、複数の周波数帯において、信号振幅の平均値と最大値が大きく異なる信号を増幅する通信システムを例示できる。上述のように、本発明のマルチバンドドハティ増幅器は、複数の周波数帯に対して高効率で信号増幅できる。そのため、本発明のマルチバンドドハティ増幅器を、このようなシステムの送信増幅器として用いれば、送信増幅器の低消費電力化を実現できる。また、送信増幅器の低消費電力化により、送信機の小型化、軽量化も実現できる。なお、本発明のマルチバンドドハティ増幅器の利用分野は、このような通信システムに限定されるものではない。
【図面の簡単な説明】
【0066】
【図1】図1は、本形態におけるマルチバンドドハティ増幅器の構成を例示したブロック図である。
【図2】図2(a)は、図1に示したマルチバンドドハティ増幅器が具備する多周波帯用インピーダンス変換器の構成を例示した概念図である。図2(b)は、N=2の場合における多周波帯用インピーダンス変換器の構成例を示す図である。
【図3】図3(a)は、N=2の場合における多周波帯用合成器の構成例を示す図である。図3(b)は、図3(a)の例の多周波帯用合成器の接続構成を示す図である。
【図4】図4は、従来のインピーダンス変換器と、図2(b)の例の多周波帯用インピーダンス変換器のS22特性(反射特性)の計算シミュレーション結果を示すグラフである。
【図5】図5は、従来のインピーダンス変換器と、図2(b)の例の多周波帯用インピーダンス変換器との、Port1側のインピーダンスの周波数特性を例示したグラフである。
【図6】図6(a)(b)は、それぞれ、入力信号のシミュレーション周波数が1GHz,2GHzである場合における、本形態のマルチバンドドハティ増幅器と、設計周波数が1GHzである従来のドハティ増幅器と、設計周波数が2GHzである従来のドハティ増幅器と、の入出力特性を示したグラフである。
【図7】図7(a),(b)は、それぞれ、入力信号のシミュレーション周波数が1GHz,2GHzである場合における、本形態のマルチバンドドハティ増幅器10と、設計周波数が1GHzである従来のドハティ増幅器と、設計周波数が2GHzである従来のドハティ増幅器と、のドレイン効率特性を示したグラフである。
【図8】図8(a)(b)は、入力信号のシミュレーション周波数が1GHzである場合における、検討構成1(検討構成1 1GHz)と、従来構成(従来構成 1GHz)の入出力特性と、入力信号のシミュレーション周波数が2GHzである場合における、検討構成1(検討構成1 2GHz)と、従来構成(従来構成 2GHz)の入出力特性及びドレイン効率特性を示したグラフである。
【図9】図9(a)(b)は、入力信号のシミュレーション周波数が1GHzである場合における、検討構成2(検討構成2 1GHz)と、従来構成(従来構成 1GHz)の入出力特性と、入力信号のシミュレーション周波数が2GHzである場合における、検討構成2(検討構成2 2GHz)と、従来構成(従来構成 2GHz)の入出力特性及びドレイン効率特性を示したグラフである。
【図10】図10は、従来のドハティ増幅器の基本的な構成を示す図である。
【図11】図11は、設計周波数2GHzにおいて所望のインピーダンス変換を行うように設計された1/4波長線路のキャリア増幅器側の入力インピーダンスを示すグラフである。
【符号の説明】
【0067】
10…マルチバンドドハティ増幅器,11…分配器,12…キャリア増幅器,13…多周波帯用インピーダンス変換器,14…遅延線路,15…ピーク増幅器,16…多周波帯用合成器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
入力信号を二つに分配する分配器と、
前記分配器の一方の出力端に接続され、前記分配器で分配された一方の信号を増幅するキャリア増幅器と、
前記分配器の他方の出力端に接続され、分配された他方の信号を遅延させる遅延器と、
前記遅延器の出力端に接続され、その出力信号を増幅するピーク増幅器と、
前記キャリア増幅器の出力端に接続され、インピーダンス変換を行うインピーダンス変換器と、
前記ピーク増幅器の出力端と前記インピーダンス変換器の出力端とに接続され、前記ピーク増幅器の出力信号と前記インピーダンス変換器の出力信号とを合成する合成器と、を含み、
前記遅延器の電気長は、
前記インピーダンス変換器の電気長と略同一であり、
前記インピーダンス変換器は、
N(N≧2)種類のインピーダンス変換用伝送線路を従続接続した構成を有し、N種類の周波数について、略同一のインピーダンス変換を行う、
ことを特徴とするマルチバンドドハティ増幅器。
【請求項2】
請求項1に記載のマルチバンドドハティ増幅器であって、
前記遅延器は、
前記インピーダンス変換器と構成が相違する遅延線路である、
ことを特徴とするマルチバンドドハティ増幅器。
【請求項3】
請求項1又は2に記載のマルチバンドドハティ増幅器であって、
前記合成器は、
前記ピーク増幅器の出力端と前記インピーダンス変換器の出力端とが接合された接合部に、N種類のインピーダンス変換用伝送線路を従続接続させた構成を有し、
前記合成器が有するN種類のインピーダンス変換用伝送線路を従続接続させた構成は、前記N種類の周波数について、略同一のインピーダンス変換を行う、
ことを特徴とするマルチバンドドハティ増幅器。
【請求項4】
請求項3に記載のマルチバンドドハティ増幅器であって、
前記合成器が有するN種類のインピーダンス変換用伝送線路を従続接続させた構成は、
前記ピーク増幅器がONの場合に、前記N種類の周波数について、前記接合部からみた負荷インピーダンスを、当該接合部からみた出力インピーダンスに整合させる、
ことを特徴とするマルチバンドドハティ増幅器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2008−5321(P2008−5321A)
【公開日】平成20年1月10日(2008.1.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−174191(P2006−174191)
【出願日】平成18年6月23日(2006.6.23)
【出願人】(392026693)株式会社エヌ・ティ・ティ・ドコモ (5,876)
【Fターム(参考)】