説明

マルチパスへのトラフィック分配率決定方式

【課題】ある長さを持つトラフィック分配率更新周期ごとに通知されるパケット損失率情報に基づき、トラフィック条件が変化しても、常にパケット損失率の制約を満足しつつ、平均パケット転送遅延を最小に保って各パスへトラフィックを分配することを可能にする。
【解決手段】送信ノードsと受信ノードd間に複数のパス1〜nが存在する。受信ノードdは、例えばある長さを持つトラフィック分配率更新周期ごとにパケット損失率情報を送信ノードsに通知する。送信ノードsは、通知されたパケット損失情報に基づき、各パスのトラフィック分配率を更新し、パケット損失率の大きいトラフィックや最も長いパス上に転送されているトラフィックを、パケット損失率に余裕がありかつ最短のパスに振り分ける。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、トラフィック分配率決定方式に関し、特に、あるノードペア間に複数のパスが存在する場合、トラフィック条件が変化しても、常にパケット損失率の制約を満足しつつ、平均パケット転送遅延を最小に保って各パスへトラフィックを分配することができるトラフィック分配率決定方式に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、あるノードペア間に複数のパスが存在するとき、各パスを構成するリンクの輻輳状態を常時監視し、転送すべきパケットが存在するときは、輻輳状態にあるリンクを含まず、パケット損失率の制約を満足すると予想される最短パスを選択して該パケットを転送することが行われている。
【非特許文献1】G.P.V.Thodime, V.M.Vokkarane, and J.P.June “Dynamic Congestion-Based Load Balanced Routing in Optical Burst-Switched Networks”, Poc. of IEEE Globecom ′03, OP05-5, Dec. 2003.
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、従来の技術では、パケット損失率の制約を満足しつつ、パケット転送遅延を最小にするには、各パスを構成するリンクの輻輳状態を常時監視し、監視結果の情報を頻繁に送信ノードへ通知しなければならないという課題がある。
【0004】
本発明の目的は、上記課題を解決し、受信ノードから通知されるパケット損失率情報に基づき、トラフィック条件が変化しても、常にパケット損失率の制約を満足しつつ、平均パケット転送遅延を最小に保って各パスへトラフィックを分配することができるトラフィック分配率決定方式を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するために、本発明は、送信ノードと受信ノード間に複数のパスが存在する場合に各パス上のトラフィック分配率を決定するトラフィック分配率決定方式において、前記受信ノードは、各パスにおけるパケット損失率情報を前記送信ノードに通知する通知手段を備え、前記送信ノードは、前記受信ノードから通知されたパケット損失率情報に基づき、いずれかのパスにおけるパケット損失率がパケット損失率制約値を越えていると判断した場合、パケット損失率のパケット損失率制約値に対する割合が最も大きなパス上に転送されているトラフィックの一部を、パケット損失率がパケット損失率制約値の所定割合以下であるか、またはパケットが全く転送されていないパスの中で、最短であるパスに振り分けるようにしてトラフィック分配率の変更を行い、そのようなパスが存在しないときは、トラフィック分配率の変更は行わず、また、いずれのパスにおいてもパケット損失率がパケット損失率制約値以下であると判断した場合、パケットが転送されているパスの中で最も長いパス上に転送されているトラフィックの一部を、そのパスよりも短く、かつパケット損失率がパケット損失率制約値の所定割合以下であるか、またはパケットが全く転送されていないパスの中で、最短であるパスに振り分けるようにしてトラフィック分配率の変更を行い、そのようなパスが存在しないときは、トラフィック分配率の変更は行わないパケット分配率更新手段を備えたことを第1の特徴としている。
【0006】
また、本発明は、前記受信ノードの通知手段が、ある長さを持つトラフィック分配率更新周期ごとに各パスにおけるパケット損失率情報を前記送信ノードに通知することを第2の特徴としている。
【0007】
また、本発明は、前記パケット分配率更新手段が、さらに、連続した2つのトラフィック分配率更新周期において、あるパスのトラフィック分配率の増減方向が変化する場合、トラフィック分配率の変更量を強制的に小さくすることを第3の特徴としている。
【0008】
また、本発明は、前記パケット分配率更新手段が、さらに、ある決められた数のトラフィック分配率更新周期の間、あるパスのトラフィック分配率の変動が、ある決められた範囲内に留まっている場合、その後のある決められた時間だけ、そのパスへのトラフィック分配率を強制的に一定に保つことを第4の特徴としている。
【0009】
また、本発明は、前記パケット分配率更新手段が、さらに、あるパスにおいて、ある決められた数以下のトラフィック分配率更新周期を挟んでトラフィック分配率が増減し、かつその増減方向がある決められた回数だけ連続して変化した場合に、その後のある決められた時間、そのパスへのトラフィック分配率を強制的に一定に保つことを第5の特徴としている。
【0010】
また、本発明は、前記パケット分配率更新手段が、振り分け先のパスにおいて既にパケットが転送されている場合には、トラフィック分配率の変更量を、振り分け先のパスにおけるパケット損失率のパケット損失率制約値に対する割合に応じて変化させることを第6の特徴としている。
【0011】
さらに、本発明は、前記パケット損失率制約値が、真のパケット損失率制約値より小さいことを第7の特徴としている。
【発明の効果】
【0012】
本発明の第1の特徴によれば、受信ノードから通知されるパケット損失率情報に基づき、各パスのトラフィック分配率を更新し、パケット損失率の大きいトラフィックや最も長いパス上に転送されているトラフィックを、パケット損失率がパケット損失率制約値の所定割合以下またはパケットが全く転送されていない、パケット損失率に余裕がありかつ最短のパスに振り分けるので、トラフィック条件が変化した場合でも、常にパケット損失率の制約を満足しつつ、平均パケット転送遅延を最小に保つことができる。
【0013】
また、第2の特徴によれば、ある長さを持つトラフィック分配率更新周期ごとに受信ノードからパケット損失率情報が通知されるので、安定的にトラフィック分配率決定を行うことができる。
【0014】
また、第3〜第5の特徴によれば、トラフィック分配率の変化が振動していることが予測される場合に、ある決められた時間だけ、トラフィック分配率を強制的に一定に保つので、トラフィック分配率変化の振動を抑えることができる。
【0015】
また、第6の特徴によれば、振り分け先パスのトラフィック損失率の余裕に応じた変更量でのトラフィック分配率更新を行うことにより、トラフィック分配率が確定するまでの時間を短くすることができる。
【0016】
さらに、第7の特徴によれば、トラフィック分配率が更新された後のパケット損失率を確実に真のパケット損失率制約値以下に抑えることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、図面を参照して本発明を詳細に説明する。ここでは、図1に示すように、あるノードペア(s,d)間に長さ、つまり遅延時間の異なるn(n:2以上の整数)本のパスが存在し、輻輳を回避する目的で、ノードペア(s,d)間のトラフィックをこれらのパスに分割して転送する場合を考える。
【0018】
受信ノードdは、各パスにおけるパケット損失率を観測し、これにより得られた各パスのパケット損失率情報を送信ノードsに通知する。受信ノードdから送信ノードsへのパケット損失率情報の通知は適宜行えばよいが、以下では、ある長さを持つトラフィック分配率更新周期ごとに送信ノードsに通知する例をあげて説明する。送信ノードsは、通知されたパケット損失率情報に基づいて各パスへのトラフィック分配率を以下のようにして更新する。
【0019】
あるトラフィック分配率更新周期において、いずれかのパスにおけるパケット損失率がパケット損失率制約値を越えている場合、パケット損失率のパケット損失率制約値に対する割合が最も大きなパス上に転送されているトラフィックの一部を、パケット損失率がパケット損失率制約値の所定割合以下であるか、またはパケットが全く転送されていないパスの中で、最短であるパスに振り分けるようにしてトラフィック分配率の変更を行う。そのようなパスが存在しないときは、トラフィック分配率の変更は行わない。
【0020】
遅延(距離)が小さいパスから順にパス番号1,2,・・・,7を付したとき、例えば、各パスでのパケット損失率が図2で示される場合、パケット損失率のパケット損失率制約値に対する割合が最も大きなパス6上に転送されているトラフィックの一部を、パケット損失率がパケット損失率制約値の所定割合(パケット損失率制約値×R%)以下であるか、またはパケットが全く転送されていないパス2,3,4,7の中で、最短であるパス2へ振り分ける。なお、Rの値は、送信ノードsと着信ノードd間の各パス上で予測されるトラフィックやパケット損失率などに応じて適宜設定される。
【0021】
また、あるトラフィック分配率更新周期において、いずれのパスにおいてもパケット損失率がパケット損失率制約値以下である場合、パケットが転送されているパスの中で最も長いパス上に転送されているトラフィックの一部を、そのパスよりも短く、かつパケット損失率がパケット損失率制約値の所定割合(パケット損失率制約値×R%)以下であるか、またはパケットが全く転送されていないパスの中で、最短であるパスに振り分けるようにしてトラフィック分配率の変更を行う。そのようなパスが存在しないときは、トラフィック分配率の変更は行わない。
【0022】
例えば、各パスでのパケット損失率が図3で示される場合、パケットが転送されているパスの中で最も長いパス6上に転送されているトラフィックの一部を、そのパスより短く、かつパケット損失率がパケット損失率制約値の所定割合以下であるか、またはパケットが全く転送されていないパス2,3,4の中で、最短であるパス2へ振り分ける。
【0023】
以上のトラフィック分配率更新を行う際のパケット損失率制約値として、図2および図3に示すように、真のパケット損失率制約値よりある値だけ小さい値を設定することにより、トラフィック分配率が更新された後のパケット損失率を確実に真のパケット損失率制約値以下に抑えることができる。
【0024】
振り分け先のパスにおいて既にパケットが転送されている場合、トラフィック分配率の変更量を、振り分け先のパスにおけるパケット損失率のパケット損失率制約値に対する割合に応じて変化させるようにすることにより、トラフィック分配率が確定するまでの時間を短くすることができる。すなわち、振り分け先パスのトラフィック損失率の余裕に応じた変更量でのトラフィック分配率更新を行うことにより、トラフィック分配率が確定するまでの時間を短くすることができる。 この場合、トラフィック分配率の変更量Deltaは、パケット損失率制約値をB、振り分け先パスにおけるパケット損失率をBdとしたとき、例えば、下記式で与えることができる。なお、Aは予め与えられる定数である。
Delta= A * ( log B − log Bd ) ( B > Bd )
【0025】
また、トラフィック分配率の変更に伴うトラフィック分配率変化の振動は、連続した2つのトラフィック分配率更新周期において、あるパスのトラフィック分配率の増減方向が変化する場合にトラフィック分配率の変更量を強制的に小さくすることにより抑制できる。
【0026】
また、ある決められた数のトラフィック分配率更新周期の間、あるパスのトラフィック分配率の変動が、ある決められた範囲内に留まっている場合に、その後のある決められた時間だけ、そのパスへのトラフィック分配率を強制的に一定に保つようにしても、トラフィック分配率の変更に伴うトラフィック分配率変化の振動を抑制できる。
【0027】
例えば、パスの本数に等しい数のトラフィック分配率更新周期の間、あるパスのトラフィック分配率の変動が、トラフィック分配率の最大変更量以下の場合、その後のある決められた時間、そのパスへのトラフィック分配率を強制的に一定に保つ。この際、トラフィック分配率を一定に保つ時間は、余り長くするとトラフィック分配率がその間のトラフィック変化に追従しなくなくなるので、ノード間のトラフィック変化などを勘案して適当に設定する。
【0028】
また、あるパスにおいて、ある決められた数以下のトラフィック分配率更新周期を挟んでトラフィック分配率が増減し、かつその増減方向がある決められた回数だけ連続して変化した場合に、その後のある決められた時間、そのパスへのトラフィック分配率を強制的に一定に保つようにしても、トラフィック分配率の変更に伴うトラフィック分配率変化の振動を抑制できる。
【0029】
例えば、あるパスにおいて、パスの本数から1を引いた数以下のトラフィック分配率更新周期を挟んでトラフィック分配率が増減し、且つその増減方向が数回連続して変化した場合、その後のある決められた時間、そのパスへのトラフィック分配率を強制的に一定に保つ。この際、どの程度のトラフィック分配率増減周期、増減回数でトラフィック分配率を一定に保つかは、試行錯誤あるいは経験的に求められる。
【0030】
図4は、2周期以下のトラフィック分配率更新周期Tを挟んでトラフィック分配率が増減し、且つその増減方向が5回連続して変化した状態を示している。この場合、トラフィック分配率の増減方向が5回連続して変化した時点で、トラフィック分配率が振動していると判定し、その後のある決められた時間、そのパスへのトラフィック分配率を強制的に一定に保つことにより、トラフィック分配率変化の振動を抑制できる。
【0031】
図5は、以上説明した送信ノードsにおけるパケット分配率更新処理を概略的に示すフローチャートである。送信ノードsは、ある長さを持つトラフィック分配率更新周期ごとに各パスにおけるパケット損失率情報を受信ノードdから受信する(S51)。次に、いずれかのパスにおけるパケット損失率がパケット損失率制約値を越えているかどうかを判断し(S52)、越えていると判断した場合にはパケット分配率更新処理(1)を実行する(S53)。また、越えていないと判断した場合にはパケット分配率更新処理(2)を実行する(S54)。パケット分配率更新処理(1)では、パケット損失率のパケット損失率制約値に対する割合が最も大きなパス上に転送されているトラフィックの一部を、パケット損失率がパケット損失率制約値の所定割合以下であるか、またはパケットが全く転送されていないパスの中で、最短であるパスに振り分けるようにしてトラフィック分配率の変更を行い、そのようなパスが存在しないときは、トラフィック分配率の変更は行わない。また、パケット分配率更新処理(2)では、パケットが転送されているパスの中で最も長いパス上に転送されているトラフィックの一部を、そのパスよりも短く、かつパケット損失率がパケット損失率制約値の所定割合以下であるか、またはパケットが全く転送されていないパスの中で、最短であるパスに振り分けるようにしてトラフィック分配率の変更を行い、そのようなパスが存在しないときは、トラフィック分配率の変更は行わない。また、パケット分配率更新処理(1)、(2)には、上述したパケット分配率更新に伴う振動の抑制処理の1つ以上を含ませることができる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】本発明が適用されるマルチパスの例を概略的に示す構成図である。
【図2】本発明におけるトラフィック分配率更新の例の説明図である。
【図3】本発明におけるトラフィック分配率更新の他の例の説明図である。
【図4】トラフィック分配率推移の例の説明図である。
【図5】送信ノードにおけるパケット分配率更新処理を概略的に示すフローチャートである。
【符号の説明】
【0033】
s・・・送信ノード、d・・・受信ノード、1〜n・・・パス

【特許請求の範囲】
【請求項1】
送信ノードと受信ノード間に複数のパスが存在する場合に各パス上のトラフィック分配率を決定するトラフィック分配率決定方式において、
前記受信ノードは、各パスにおけるパケット損失率情報を前記送信ノードに通知する通知手段を備え、
前記送信ノードは、前記受信ノードから通知されたパケット損失率情報に基づき、いずれかのパスにおけるパケット損失率がパケット損失率制約値を越えていると判断した場合、パケット損失率のパケット損失率制約値に対する割合が最も大きなパス上に転送されているトラフィックの一部を、パケット損失率がパケット損失率制約値の所定割合以下であるか、またはパケットが全く転送されていないパスの中で、最短であるパスに振り分けるようにしてトラフィック分配率の変更を行い、そのようなパスが存在しないときは、トラフィック分配率の変更は行わず、また、いずれのパスにおいてもパケット損失率がパケット損失率制約値以下であると判断した場合、パケットが転送されているパスの中で最も長いパス上に転送されているトラフィックの一部を、そのパスよりも短く、かつパケット損失率がパケット損失率制約値の所定割合以下であるか、またはパケットが全く転送されていないパスの中で、最短であるパスに振り分けるようにしてトラフィック分配率の変更を行い、そのようなパスが存在しないときは、トラフィック分配率の変更は行わないパケット分配率更新手段を備えたことを特徴とするトラフィック分配率決定方式。
【請求項2】
前記受信ノードの通知手段は、ある長さを持つトラフィック分配率更新周期ごとに各パスにおけるパケット損失率情報を前記送信ノードに通知することを特徴とする請求項1に記載のトラフィック分配率決定方式。
【請求項3】
前記パケット分配率更新手段は、さらに、連続した2つのトラフィック分配率更新周期において、あるパスのトラフィック分配率の増減方向が変化する場合、トラフィック分配率の変更量を強制的に小さくすることを特徴とする請求項2に記載のトラフィック分配率決定方式。
【請求項4】
前記パケット分配率更新手段は、さらに、ある決められた数のトラフィック分配率更新周期の間、あるパスのトラフィック分配率の変動が、ある決められた範囲内に留まっている場合、その後のある決められた時間だけ、そのパスへのトラフィック分配率を強制的に一定に保つことを特徴とする請求項2または3に記載のトラフィック分配率決定方式。
【請求項5】
前記パケット分配率更新手段は、さらに、あるパスにおいて、ある決められた数以下のトラフィック分配率更新周期を挟んでトラフィック分配率が増減し、かつその増減方向がある決められた回数だけ連続して変化した場合に、その後のある決められた時間、そのパスへのトラフィック分配率を強制的に一定に保つことを特徴とする請求項2ないし4のいずれかに記載のトラフィック分配率決定方式。
【請求項6】
前記パケット分配率更新手段は、振り分け先のパスにおいて既にパケットが転送されている場合には、トラフィック分配率の変更量を、振り分け先のパスにおけるパケット損失率のパケット損失率制約値に対する割合に応じて変化させることを特徴とする請求項1ないし5のいずれかに記載のトラフィック分配率決定方式。
【請求項7】
前記パケット損失率制約値は、真のパケット損失率制約値より小さいことを特徴とする請求項1ないし6のいずれかに記載のトラフィック分配率決定方式。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2006−41920(P2006−41920A)
【公開日】平成18年2月9日(2006.2.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−218868(P2004−218868)
【出願日】平成16年7月27日(2004.7.27)
【出願人】(000208891)KDDI株式会社 (2,700)
【Fターム(参考)】