マルチモード共振器、マルチモードフィルタ及び無線通信装置
【課題】4個の共振モードを縮退させたもので、誘電体の部材を必ずしも必要とせず、かつ、占有空間の利用効率が高いマルチモード共振器を提供する。
【解決手段】このマルチモード共振器1は、4個の共振モードを縮退させたマルチモード共振器であって、筒状の周壁部2cの両端を第1端部2a及び第2端部2bにより閉塞した箱状の外部導体2と、外部導体2の内部に配され、一端3aが外部導体2の第1端部2aに短絡されて他端3bが開放された柱状の第1の中心導体3と、外部導体2の内部に配され、一端4aが外部導体2の第2端部2bに短絡されて他端4nが開放された柱状の第2の中心導体4と、を備えてなる。
【解決手段】このマルチモード共振器1は、4個の共振モードを縮退させたマルチモード共振器であって、筒状の周壁部2cの両端を第1端部2a及び第2端部2bにより閉塞した箱状の外部導体2と、外部導体2の内部に配され、一端3aが外部導体2の第1端部2aに短絡されて他端3bが開放された柱状の第1の中心導体3と、外部導体2の内部に配され、一端4aが外部導体2の第2端部2bに短絡されて他端4nが開放された柱状の第2の中心導体4と、を備えてなる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数の共振モードを縮退させたマルチモード共振器、そのマルチモード共振器を用いたマルチモードフィルタ、及び、そのマルチモードフィルタを用いた無線通信装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、携帯電話基地局などの多くの場所で、マイクロ波などの高周波信号で無線通信を行う無線通信装置が使用されている。これらの無線通信装置には、所望の共振周波数を中心とした帯域の電磁界を得るために、その共振周波数で共振する共振器を複数結合させて多段構成にした高周波フィルタが組み込まれている。高周波フィルタがN段構成の場合は、典型的には、1個のモードで共振する共振器が順にN個結合したものが用いられる。これに対し、高周波フィルタをN段よりも少ない段数の共振器で構成して小型化できるように、共振周波数を略同一にして複数の共振モードを縮退させたマルチモード共振器を用いるものが提案されている。
【0003】
例えば、特許文献1には、4個もの共振モードを縮退させたマルチモード共振器が記載されている。図10〜図13は、特許文献1に記載されたものと同様のマルチモード共振器101の構成及び電界分布を示すものである。図10〜図13では、外部導体102の内部の部材を示すために、それらの部材よりも手前の外部導体102の部分は透過して示している。また、電界を実線の矢印で示している。磁界は、図示を省略しているが、電界に対しそれを周回するように分布する。
【0004】
このマルチモード共振器101は、箱状の外部導体(キャビティ)102の中に、特殊形状(略八角柱形状)の高誘電率の誘電体コア105が設けられている。誘電体コア105の中には、高誘電率による波長短縮効果によって波長が短くなった電磁界が偏在して共振する。ここでは、2つのTMモード(TM01δxモード、TM01δyモード)と1つのTEモード(TE01δモード)の3個の共振モードが縮退する。2つのTMモードは、図10と図11に示すように、電界がそれぞれX軸方向とY軸方向に走り、電磁界が2分の1波長でもって共振するモードである。TEモードは、図12に示すように、電界が誘電体コア105の中心軸周りの円周方向に走り、電磁界が1波長でもって共振するモードである。
【0005】
そして、更に、共振モードの数を1つ増加させるために、一端が外部導体102に短絡した柱状の中心導体103が、誘電体コア105の中心軸に形成された中央孔に挿通するようにして付加されている。この構成により、いわゆる半同軸共振器の共振モードが得られる。半同軸共振器の共振モードは、図13に示すように、電界が中心導体104から外部導体102に向けて放射状に走り、電磁界が中心導体103に沿って分布して4分の1波長でもって共振するTEMモードである。このTEMモードの共振周波数は、中心導体103から外部導体102までの間隙距離について、中心導体103の開放端103b側に比べて短絡端103a側が短くなるように、例えば中心導体103の外径を異ならせるようにして、上記の2つのTMモード及びTEモードの共振周波数に揃えられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2004−349981号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
このように、特許文献1ではマルチモード共振器101の構成により、4個もの共振モードを縮退させることができるとしている。しかし、このマルチモード共振器101は、誘電体共振器として働く誘電体コア105が必須の部材であり、所望の特性の誘電体コア105を作りあげるためのコストは非常に大きい。また、マルチモード共振器101は、TEMモードと他のモードとは多くの場所で電磁界を共有していないという点から、マルチモード共振器101が占有する空間の利用効率が高いとは言えない。
【0008】
本発明は、係る事由に鑑みてなされたものであり、その目的は、3個又は4個の共振モードを縮退させたもので、誘電体の部材を必ずしも必要とせず、かつ、占有空間の利用効率が高いマルチモード共振器を提供することにあり、また、そのマルチモード共振器を用いた高周波フィルタであるマルチモードフィルタ、及びそのマルチモードフィルタを用いて低コストで小型化した無線通信装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するために、請求項1に記載のマルチモード共振器は、少なくとも3個の共振モードを縮退させたマルチモード共振器であって、筒状の周壁部の両端を第1端部及び第2端部により閉塞した箱状の外部導体と、前記外部導体の内部に配され、一端が前記外部導体の第1端部に短絡されて他端が開放された柱状の第1の中心導体と、を備えてなることを特徴とする。
【0010】
請求項2に記載のマルチモード共振器は、請求項1に記載のマルチモード共振器において、前記3個の共振モードは、前記外部導体の両端部で2分の1波長でもって共振する2個のTEモードと、前記第1の中心導体の周囲で4分の1波長でもって共振するTEMモードと、から成ることを特徴とする。
【0011】
請求項3に記載のマルチモード共振器は、請求項1又は2に記載のマルチモード共振器において、前記外部導体の内部に配され、一端が前記外部導体の前記第2端部に短絡されて他端が開放された柱状の第2の中心導体を更に備え、4個の共振モードを縮退させたことを特徴とする。
【0012】
請求項4に記載のマルチモード共振器は、請求項3に記載のマルチモード共振器において、前記4個の共振モードの一つは、前記第2の中心導体の周囲で4分の1波長でもって共振するTEMモードであることを特徴とする。
【0013】
請求項5に記載のマルチモード共振器は、請求項1〜4のいずれか1項に記載のマルチモード共振器において、前記外部導体の内部空間は、空気が満たされていることを特徴とする。
【0014】
請求項6に記載のマルチモード共振器は、請求項1〜4のいずれか1項に記載のマルチモード共振器において、前記外部導体の内部空間は、高誘電率の誘電体で形成されていることを特徴とする。
【0015】
請求項7に記載のマルチモードフィルタは、請求項1〜6のいずれか1項に記載のマルチモード共振器を1個用いた構成又は複数用いた多段構成にしたことを特徴とする。
【0016】
請求項8に記載の無線通信装置は、請求項7に記載のマルチモードフィルタを組み込んでいることを特徴とする。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、上記構成の外部導体と第1の中心導体を備えることにより、少なくとも3個の共振モードを縮退させ、誘電体コアのような誘電体の部材を必ずしも必要とせず占有空間の利用効率が高いマルチモード共振器を提供でき、更には、第2の中心導体を更に備えることにより、4個の共振モードを縮退させることができる。また、そのマルチモード共振器を用いることによりマルチモードフィルタ、及びそのマルチモードフィルタを用いることにより低コストで小型化した無線通信装置を提供することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の実施形態に係るマルチモード共振器1の構成を示すものであって、(a)は長手方向の断面図、(b)はG−Gの位置での長手方向に直交する断面図、(c)はA−A(及びB−B)の位置での長手方向に直交する断面図である。
【図2】同上のマルチモード共振器1の構成の変形例を示す長手方向の断面図である。
【図3】同上のマルチモード共振器1の一つのTEモードの電界分布を模式的に示すものであって、(a)は長手方向の断面図、(b)はG−Gの位置での長手方向に直交する断面図、(c)はA−A(及びB−B)の位置での長手方向に直交する断面図である。
【図4】同上のマルチモード共振器1のもう一つのTEモードの電界分布を模式的に示すものであって、(a)は長手方向の断面図、(b)はG−Gの位置での長手方向に直交する断面図、(c)はA−A(及びB−B)の位置での長手方向に直交する断面図である。
【図5】同上のマルチモード共振器1の一つのTEMモードの電界分布を模式的に示すものであって、(a)は長手方向の断面図、(b)はA−Aの位置での長手方向に直交する断面図、(c)はB−Bの位置での長手方向に直交する断面図である。
【図6】同上のマルチモード共振器1のもう一つのTEMモードの電界分布を模式的に示すものであって、(a)は長手方向の断面図、(b)はA−Aの位置での長手方向に直交する断面図、(c)はB−Bの位置での長手方向に直交する断面図である。
【図7】無線通信装置の例を示すブロック図である。
【図8】同上のマルチモード共振器1の変形例1’を示す長手方向の断面図である。
【図9】同上のマルチモード共振器1の構成の別の変形例を示す長手方向の断面図である。
【図10】従来のマルチモード共振器101の構成及び一つのTMモードの電界分布を示すものであって、(a)は長手方向の外観図、(b)は長手方向に直交する外観図である。
【図11】従来のマルチモード共振器101の構成及びもう一つのTMモードの電界分布を示すものであって、(a)は長手方向の外観図、(b)は長手方向に直交する外観図である。
【図12】従来のマルチモード共振器101の構成及びTEモードの電界分布を示すものであって、(a)は長手方向の外観図、(b)は長手方向に直交する外観図である。
【図13】従来のマルチモード共振器101の構成及びTEMモードの電界分布を示すものであって、(a)は長手方向の外観図、(b)は長手方向に直交する外観図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明を実施するための好ましい形態を図面を参照しながら説明する。本発明の実施形態に係るマルチモード共振器1は、図1に示すように、外部導体2と第1の中心導体3と第2の中心導体4とから構成されている。また、このマルチモード共振器1は、マイクロ波などの高周波の領域で用いられるものである。
【0020】
外部導体2は、金属材料製であり、筒状の周壁部2cの両端を第1端部2a及び第2端部2bにより閉塞した箱状のものである。本実施形態では、周壁部2cは円筒状のものとしている。
【0021】
第1の中心導体3と第2の中心導体4は、金属材料製であり、外部導体2の内部に対称的に配されている。第1の中心導体3は、一端3aが外部導体2の第1端部2aに短絡されて他端3bが開放されている。第2の中心導体4は、一端4aが外部導体2の第1端部2bに短絡されて他端4bが開放されている。よって、第1の中心導体3の他端3bと第2の中心導体4の他端4bとは、所定の距離を有する長手方向の間隙Sgを介して対向している。通常、第1の中心導体3と第2の中心導体4は、それらの中心軸が略一致し、外部導体2の中心軸とも略一致するようにして配される。また、本実施形態では、第1の中心導体3と第2の中心導体4は円柱状のものとしている。
【0022】
なお、第1の中心導体3と第2の中心導体4とは、中空部3d、4dを有する柱状、すなわち、有底筒状のものにしてもよい。この場合、図2に示すように、他端3b、4bのみに端面を有し、一端3a、4a側が外部導体2の外方に向かって開口するようにしてもよい。
【0023】
以上の構成により、マルチモード共振器1は4個の共振モードを有することができる。以下、具体的な共振モード、すなわち、2個のTEモード(第1のTEモード、第2のTEモード)と2個のTEMモード(第1のTEMモード、第2のTEMモード)について、図3〜図6を用いて説明する。なお、電磁界は、外部導体2の内部のうち第1の中心導体3と第2の中心導体4以外の部分である内部空間Sに生じ、図においては内部空間Sに生じる電界を実線の矢印で示している。また、磁界は、図示を省略しているが、電界に対しそれを周回するように分布する。また、マルチモード共振器1の長手方向をZ軸方向、それと直交する方向における第1方向をX軸方向、Z軸方向に直交し、かつ、第1方向に直交する方向である第2方向をY軸方向として説明する。
【0024】
第1のTEモードは、図3(a)に示すように、電界が第1方向(X軸方向)に走るものを中心に分布し、また、電磁界が外部導体2の両端部2a、2b間に連続して分布し、かつ、両端部2a、2b間で2分の1波長でもって共振する。より詳細には、第1のTEモードは、図3(b)に示すように、第1の中心導体3と第2の中心導体4の間隙Sgの中央部の断面G―Gでは、電界が外部導体2の周壁部2cの対向する部分の間をX軸方向に走って横断している。この電界は、円筒空洞共振器(第1の中心導体3と第2の中心導体4が設けられていない状態の共振器)の、X軸方向に電界が走るいわゆるTE111モードと略同一になっている。そして、この電界に連続して、図3(c)に示すように、第1の中心導体3が存在するZ軸位置での断面A−A及び第2の中心導体4が存在するZ軸位置での断面B―Bでは、第1の中心導体3又は第2の中心導体4の周囲に断面G―Gの電界とほぼ同様な電界が生じている。
【0025】
第2のTEモードは、図4(a)に示すように、電界が第2方向(Y軸方向)に走るものを中心に分布し、また、電磁界が外部導体2の両端部2a、2b間に連続して分布し、かつ、両端部2a、2b間で2分の1波長でもって共振する。より詳細には、第2のTEモードは、図4(b)に示すように、第1の中心導体3と第2の中心導体4の間隙Sgの中央部の断面G―Gでは、電界が外部導体2の周壁部2cの対向する部分の間をY軸方向に走って横断している。この電界は、円筒空洞共振器の、Y軸方向に電界が走るいわゆるTE111モードと略同一になっている。そして、この電界に連続して、図4(c)に示すように、第1の中心導体3が存在するZ軸位置での断面A−A及び第2の中心導体4が存在するZ軸位置での断面B―Bでは、第1の中心導体3又は第2の中心導体4の周囲に断面G―Gの電界とほぼ同様な電界が生じている。
【0026】
第1のTEMモード及び第2のTEMモードは、図5及び図6に示すように、電界が第1の中心導体3と外部導体2の周壁部2cの間、及び第2の中心導体4と外部導体2の周壁部2cの間を放射状に走るTEMモードである。第1のTEMモード及び第2のTEMモードは、電磁界が第1の中心導体3の一端3aの位置(外部導体2の第1端部2aの位置)と第1の中心導体3の他端3bの位置の間に連続して分布し、かつ、第1の中心導体3の周囲で4分の1波長でもって共振する。電界は、第1の中心導体3の他端3bの位置近傍で最大になり、磁界は第1の中心導体3の一端3aの近傍で最大になる。また、第1のTEMモード及び第2のTEMモードは、電磁界が第2の中心導体4の一端4aの位置(外部導体2の第2端部2bの位置)と第2の中心導体4の他端4bの位置の間に連続して分布し、かつ、第2の中心導体4の周囲で4分の1波長でもって共振する。電界は、第2の中心導体4の他端4bの位置近傍で最大になり、磁界は第2の中心導体4の一端4aの近傍で最大になる。
【0027】
第1のTEMモードは、第1の中心導体3と外部導体2の周壁部2cの間の電界の方向と、第2の中心導体4と外部導体2の周壁部2cの間の電界の方向とが同じ向きになるものである。第2のTEMモードは、第1の中心導体3と外部導体2の周壁部2cの間の電界の方向と、第2の中心導体4と外部導体2の周壁部2cの間の電界の方向とが逆向きになるものである。第1の中心導体3の周囲の電磁界と第2の中心導体4の周囲の電磁界とは、第1の中心導体3と第2の中心導体4の間隙Sgの距離に応じて干渉し合い、その干渉により、僅かではあるが、第1のTEMモード及び第2のTEMモードの共振周波数は影響を受ける。なお、図5及び図6では、第1の中心導体3と第2の中心導体4の間隙Sgに生じる電界を破線で示している。
【0028】
このような4個の共振モードの共振周波数は、第1のTEモードと第2のTEモードについては、外部導体2の両端部2a、2b間の長さM1がほぼ2分の1波長になる周波数であり、第1のTEMモード及び第2のTEMモードについては、第1の中心導体3の長さM2及び第2の中心導体4の長さM3がほぼ4分の1波長になる周波数である。また、第1のTEモードと第2のTEモードの波長は、円筒空洞共振器の管内波長とほぼ同じであるから、同じ周波数でも、第1のTEMモード及び第2のTEMモードの波長よりも原理的に長くなる。第1のTEモードと第2のTEモードの波長は、外部導体2の周壁部2cの直径M4により調整も可能である。よって、基本的には、共振周波数の値に応じて、第1の中心導体3の長さM2と第2の中心導体4の長さM3を決め、外部導体2の両端部2a、2b間の長さM1と周壁部2cの直径M4を決めることにより、共振周波数を略同一にして4個の共振モードを縮退させることが可能である。
【0029】
また、内部空間Sのどの場所においても、複数の共振モードが電磁界を共有しているので、その点から、マルチモード共振器1が占有する空間の利用効率が高い。また、上記の背景技術で示したような誘電体の部材を必ずしも必要としない。
【0030】
なお、外部導体2の適切な箇所に、入出力端子や周波数調整用部材などを取り付けることができる。入出力端子は、マルチモード共振器1と結合して信号の入出力を行うものであり、例えば、第1の中心導体3又は第2の中心導体4と結合する電極が内部側に接続される。周波数調整用部材は、各々の共振モードの周波数を調整するものである。これらの入出力端子や周波数調整用部材は、様々な公知の技術を適宜利用することができる。
【0031】
このように4個の共振モードを縮退させたマルチモード共振器1は、各々の共振モードを互いに結合させることによりマルチモードフィルタとして用いることができる。この場合、結合調整用ねじなど公知の結合調整用部材を外部導体2の適切な箇所に取り付けるなどして、電磁界分布を非対称にして摂動を生じさせることによって、互いに結合させることができる。このマルチモードフィルタは、所望の特性に応じて、マルチモード共振器1を1個用いた構成又は複数個用いた多段構成にすればよい。また、このマルチモードフィルタを組み込んで、無線通信装置を低コストで小型化することが可能になる。例えば、図7に示すように、携帯電話基地局などの無線通信装置の送受共用器10において、アンテナ11にともに接続される送信用フィルタ12と受信用フィルタ13を共振周波数が異なるマルチモードフィルタとすれば、非常に低コストで小型化されたものとなる。
【0032】
マルチモード共振器1について本願発明者が行ったシミュレーション結果は以下の通りである。外部導体2の両端部2a、2b間の長さM1を167.6mm、第1の中心導体3の長さM2と第2の中心導体4の長さM3をともに15mm、外部導体2の周壁部2cの直径M4を100mmとした。また、第1の中心導体3と第2の中心導体4の直径M5を50mmとした。その結果、共振周波数は、第1のTEモードと第2のTEモードは2.02GHz、第1のTEMモードでは2.04GHz、第2のTEMモードでは2.00GHzであった。従って、このマルチモード共振器1は、4個の共振モードが縮退しており、互いに結合させることによりマルチモードフィルタとして用いることが可能である。
【0033】
次に、マルチモード共振器1を変形して3個の共振モードを縮退させたマルチモード共振器1’について説明する。マルチモード共振器1’は、図8に示すように、マルチモード共振器1の第1の中心導体3の長さM2と第2の中心導体4の長さM3を異ならせて、一方のTEMモードの共振モードのみを縮退させ、他方のTEMモードの共振モードの共振周波数は離して縮退させないようにしたものである。よって、マルチモード共振器1’は、3個の共振モードが縮退する。
【0034】
マルチモード共振器1’について本願発明者が行ったシミュレーション結果は以下の通りである。外部導体2の両端部2a、2b間の長さM1を88mm、第1の中心導体3の長さM2を16.2mm、第2の中心導体4の長さM3を37.5mm、外部導体2の周壁部2cの直径M4を120mmとした。また、第1の中心導体3と第2の中心導体4の直径M5を64mmとした。その結果、共振周波数は、第1のTEモードと第2のTEモードと第1のTEMモードは全て2.00GHzであった。従って、このマルチモード共振器1は、3個の共振モードが縮退しており、互いに結合させることによりマルチモードフィルタとして用いることが可能である。なお、第2のTEMモードの共振周波数は、1.15GHzであった。
【0035】
また、3個の共振モードを縮退させる場合、第1の中心導体3と第2の中心導体4の一方を省略することも場合によっては可能である。
【0036】
以上、本発明の実施形態に係るマルチモード共振器について説明したが、本発明は、上述の実施形態に記載したものに限られることなく、特許請求の範囲に記載する事項の範囲内でのさまざまな設計変更が可能である。例えば、外部導体2は、円筒状に限らず角筒状なども可能であり、また、第1の中心導体3と第2の中心導体4は円柱状に限らず、角柱状や大小の直径の柱を重ねた段付き形状なども可能である。また、第1のTEMモードと第2のTEMモードの結合が大きくなる場合には、間隙Sgに電磁界遮蔽板を挿入することも可能である。これらの場合、上記の本実施形態で述べたものと電磁界の分布の様子は少し変わるが、基本的に同様な共振モードを有するマルチモード共振器を得ることができる。
【0037】
また、マルチモード共振器1は誘電体の部材を必要とするものではなく、内部空間Sを満たしているのは空気であるが、図9に示すように、内部空間Sをセラミックなどの高誘電率の誘電体S’で形成することもできる。この場合、外部導体2、第1の中心導体3、第2の中心導体4は、誘電体S’の周囲に同時に成膜することによって形成することも可能である。誘電体S’を用いると、高誘電率による波長短縮効果によって電磁界の波長が短くなり、マルチモード共振器1の更なる小型化が可能になる。
【符号の説明】
【0038】
1 マルチモード共振器
2 外部導体
2a 外部導体2の第1端部
2b 外部導体2の第2端部
2c 外部導体2の周壁部
3 第1の中心導体
3a 第1の中心導体3の一端
3b 第1の中心導体3の他端
4 第2の中心導体
4a 第2の中心導体4の一端
4b 第2の中心導体4の他端
S 内部空間
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数の共振モードを縮退させたマルチモード共振器、そのマルチモード共振器を用いたマルチモードフィルタ、及び、そのマルチモードフィルタを用いた無線通信装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、携帯電話基地局などの多くの場所で、マイクロ波などの高周波信号で無線通信を行う無線通信装置が使用されている。これらの無線通信装置には、所望の共振周波数を中心とした帯域の電磁界を得るために、その共振周波数で共振する共振器を複数結合させて多段構成にした高周波フィルタが組み込まれている。高周波フィルタがN段構成の場合は、典型的には、1個のモードで共振する共振器が順にN個結合したものが用いられる。これに対し、高周波フィルタをN段よりも少ない段数の共振器で構成して小型化できるように、共振周波数を略同一にして複数の共振モードを縮退させたマルチモード共振器を用いるものが提案されている。
【0003】
例えば、特許文献1には、4個もの共振モードを縮退させたマルチモード共振器が記載されている。図10〜図13は、特許文献1に記載されたものと同様のマルチモード共振器101の構成及び電界分布を示すものである。図10〜図13では、外部導体102の内部の部材を示すために、それらの部材よりも手前の外部導体102の部分は透過して示している。また、電界を実線の矢印で示している。磁界は、図示を省略しているが、電界に対しそれを周回するように分布する。
【0004】
このマルチモード共振器101は、箱状の外部導体(キャビティ)102の中に、特殊形状(略八角柱形状)の高誘電率の誘電体コア105が設けられている。誘電体コア105の中には、高誘電率による波長短縮効果によって波長が短くなった電磁界が偏在して共振する。ここでは、2つのTMモード(TM01δxモード、TM01δyモード)と1つのTEモード(TE01δモード)の3個の共振モードが縮退する。2つのTMモードは、図10と図11に示すように、電界がそれぞれX軸方向とY軸方向に走り、電磁界が2分の1波長でもって共振するモードである。TEモードは、図12に示すように、電界が誘電体コア105の中心軸周りの円周方向に走り、電磁界が1波長でもって共振するモードである。
【0005】
そして、更に、共振モードの数を1つ増加させるために、一端が外部導体102に短絡した柱状の中心導体103が、誘電体コア105の中心軸に形成された中央孔に挿通するようにして付加されている。この構成により、いわゆる半同軸共振器の共振モードが得られる。半同軸共振器の共振モードは、図13に示すように、電界が中心導体104から外部導体102に向けて放射状に走り、電磁界が中心導体103に沿って分布して4分の1波長でもって共振するTEMモードである。このTEMモードの共振周波数は、中心導体103から外部導体102までの間隙距離について、中心導体103の開放端103b側に比べて短絡端103a側が短くなるように、例えば中心導体103の外径を異ならせるようにして、上記の2つのTMモード及びTEモードの共振周波数に揃えられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2004−349981号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
このように、特許文献1ではマルチモード共振器101の構成により、4個もの共振モードを縮退させることができるとしている。しかし、このマルチモード共振器101は、誘電体共振器として働く誘電体コア105が必須の部材であり、所望の特性の誘電体コア105を作りあげるためのコストは非常に大きい。また、マルチモード共振器101は、TEMモードと他のモードとは多くの場所で電磁界を共有していないという点から、マルチモード共振器101が占有する空間の利用効率が高いとは言えない。
【0008】
本発明は、係る事由に鑑みてなされたものであり、その目的は、3個又は4個の共振モードを縮退させたもので、誘電体の部材を必ずしも必要とせず、かつ、占有空間の利用効率が高いマルチモード共振器を提供することにあり、また、そのマルチモード共振器を用いた高周波フィルタであるマルチモードフィルタ、及びそのマルチモードフィルタを用いて低コストで小型化した無線通信装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するために、請求項1に記載のマルチモード共振器は、少なくとも3個の共振モードを縮退させたマルチモード共振器であって、筒状の周壁部の両端を第1端部及び第2端部により閉塞した箱状の外部導体と、前記外部導体の内部に配され、一端が前記外部導体の第1端部に短絡されて他端が開放された柱状の第1の中心導体と、を備えてなることを特徴とする。
【0010】
請求項2に記載のマルチモード共振器は、請求項1に記載のマルチモード共振器において、前記3個の共振モードは、前記外部導体の両端部で2分の1波長でもって共振する2個のTEモードと、前記第1の中心導体の周囲で4分の1波長でもって共振するTEMモードと、から成ることを特徴とする。
【0011】
請求項3に記載のマルチモード共振器は、請求項1又は2に記載のマルチモード共振器において、前記外部導体の内部に配され、一端が前記外部導体の前記第2端部に短絡されて他端が開放された柱状の第2の中心導体を更に備え、4個の共振モードを縮退させたことを特徴とする。
【0012】
請求項4に記載のマルチモード共振器は、請求項3に記載のマルチモード共振器において、前記4個の共振モードの一つは、前記第2の中心導体の周囲で4分の1波長でもって共振するTEMモードであることを特徴とする。
【0013】
請求項5に記載のマルチモード共振器は、請求項1〜4のいずれか1項に記載のマルチモード共振器において、前記外部導体の内部空間は、空気が満たされていることを特徴とする。
【0014】
請求項6に記載のマルチモード共振器は、請求項1〜4のいずれか1項に記載のマルチモード共振器において、前記外部導体の内部空間は、高誘電率の誘電体で形成されていることを特徴とする。
【0015】
請求項7に記載のマルチモードフィルタは、請求項1〜6のいずれか1項に記載のマルチモード共振器を1個用いた構成又は複数用いた多段構成にしたことを特徴とする。
【0016】
請求項8に記載の無線通信装置は、請求項7に記載のマルチモードフィルタを組み込んでいることを特徴とする。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、上記構成の外部導体と第1の中心導体を備えることにより、少なくとも3個の共振モードを縮退させ、誘電体コアのような誘電体の部材を必ずしも必要とせず占有空間の利用効率が高いマルチモード共振器を提供でき、更には、第2の中心導体を更に備えることにより、4個の共振モードを縮退させることができる。また、そのマルチモード共振器を用いることによりマルチモードフィルタ、及びそのマルチモードフィルタを用いることにより低コストで小型化した無線通信装置を提供することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の実施形態に係るマルチモード共振器1の構成を示すものであって、(a)は長手方向の断面図、(b)はG−Gの位置での長手方向に直交する断面図、(c)はA−A(及びB−B)の位置での長手方向に直交する断面図である。
【図2】同上のマルチモード共振器1の構成の変形例を示す長手方向の断面図である。
【図3】同上のマルチモード共振器1の一つのTEモードの電界分布を模式的に示すものであって、(a)は長手方向の断面図、(b)はG−Gの位置での長手方向に直交する断面図、(c)はA−A(及びB−B)の位置での長手方向に直交する断面図である。
【図4】同上のマルチモード共振器1のもう一つのTEモードの電界分布を模式的に示すものであって、(a)は長手方向の断面図、(b)はG−Gの位置での長手方向に直交する断面図、(c)はA−A(及びB−B)の位置での長手方向に直交する断面図である。
【図5】同上のマルチモード共振器1の一つのTEMモードの電界分布を模式的に示すものであって、(a)は長手方向の断面図、(b)はA−Aの位置での長手方向に直交する断面図、(c)はB−Bの位置での長手方向に直交する断面図である。
【図6】同上のマルチモード共振器1のもう一つのTEMモードの電界分布を模式的に示すものであって、(a)は長手方向の断面図、(b)はA−Aの位置での長手方向に直交する断面図、(c)はB−Bの位置での長手方向に直交する断面図である。
【図7】無線通信装置の例を示すブロック図である。
【図8】同上のマルチモード共振器1の変形例1’を示す長手方向の断面図である。
【図9】同上のマルチモード共振器1の構成の別の変形例を示す長手方向の断面図である。
【図10】従来のマルチモード共振器101の構成及び一つのTMモードの電界分布を示すものであって、(a)は長手方向の外観図、(b)は長手方向に直交する外観図である。
【図11】従来のマルチモード共振器101の構成及びもう一つのTMモードの電界分布を示すものであって、(a)は長手方向の外観図、(b)は長手方向に直交する外観図である。
【図12】従来のマルチモード共振器101の構成及びTEモードの電界分布を示すものであって、(a)は長手方向の外観図、(b)は長手方向に直交する外観図である。
【図13】従来のマルチモード共振器101の構成及びTEMモードの電界分布を示すものであって、(a)は長手方向の外観図、(b)は長手方向に直交する外観図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明を実施するための好ましい形態を図面を参照しながら説明する。本発明の実施形態に係るマルチモード共振器1は、図1に示すように、外部導体2と第1の中心導体3と第2の中心導体4とから構成されている。また、このマルチモード共振器1は、マイクロ波などの高周波の領域で用いられるものである。
【0020】
外部導体2は、金属材料製であり、筒状の周壁部2cの両端を第1端部2a及び第2端部2bにより閉塞した箱状のものである。本実施形態では、周壁部2cは円筒状のものとしている。
【0021】
第1の中心導体3と第2の中心導体4は、金属材料製であり、外部導体2の内部に対称的に配されている。第1の中心導体3は、一端3aが外部導体2の第1端部2aに短絡されて他端3bが開放されている。第2の中心導体4は、一端4aが外部導体2の第1端部2bに短絡されて他端4bが開放されている。よって、第1の中心導体3の他端3bと第2の中心導体4の他端4bとは、所定の距離を有する長手方向の間隙Sgを介して対向している。通常、第1の中心導体3と第2の中心導体4は、それらの中心軸が略一致し、外部導体2の中心軸とも略一致するようにして配される。また、本実施形態では、第1の中心導体3と第2の中心導体4は円柱状のものとしている。
【0022】
なお、第1の中心導体3と第2の中心導体4とは、中空部3d、4dを有する柱状、すなわち、有底筒状のものにしてもよい。この場合、図2に示すように、他端3b、4bのみに端面を有し、一端3a、4a側が外部導体2の外方に向かって開口するようにしてもよい。
【0023】
以上の構成により、マルチモード共振器1は4個の共振モードを有することができる。以下、具体的な共振モード、すなわち、2個のTEモード(第1のTEモード、第2のTEモード)と2個のTEMモード(第1のTEMモード、第2のTEMモード)について、図3〜図6を用いて説明する。なお、電磁界は、外部導体2の内部のうち第1の中心導体3と第2の中心導体4以外の部分である内部空間Sに生じ、図においては内部空間Sに生じる電界を実線の矢印で示している。また、磁界は、図示を省略しているが、電界に対しそれを周回するように分布する。また、マルチモード共振器1の長手方向をZ軸方向、それと直交する方向における第1方向をX軸方向、Z軸方向に直交し、かつ、第1方向に直交する方向である第2方向をY軸方向として説明する。
【0024】
第1のTEモードは、図3(a)に示すように、電界が第1方向(X軸方向)に走るものを中心に分布し、また、電磁界が外部導体2の両端部2a、2b間に連続して分布し、かつ、両端部2a、2b間で2分の1波長でもって共振する。より詳細には、第1のTEモードは、図3(b)に示すように、第1の中心導体3と第2の中心導体4の間隙Sgの中央部の断面G―Gでは、電界が外部導体2の周壁部2cの対向する部分の間をX軸方向に走って横断している。この電界は、円筒空洞共振器(第1の中心導体3と第2の中心導体4が設けられていない状態の共振器)の、X軸方向に電界が走るいわゆるTE111モードと略同一になっている。そして、この電界に連続して、図3(c)に示すように、第1の中心導体3が存在するZ軸位置での断面A−A及び第2の中心導体4が存在するZ軸位置での断面B―Bでは、第1の中心導体3又は第2の中心導体4の周囲に断面G―Gの電界とほぼ同様な電界が生じている。
【0025】
第2のTEモードは、図4(a)に示すように、電界が第2方向(Y軸方向)に走るものを中心に分布し、また、電磁界が外部導体2の両端部2a、2b間に連続して分布し、かつ、両端部2a、2b間で2分の1波長でもって共振する。より詳細には、第2のTEモードは、図4(b)に示すように、第1の中心導体3と第2の中心導体4の間隙Sgの中央部の断面G―Gでは、電界が外部導体2の周壁部2cの対向する部分の間をY軸方向に走って横断している。この電界は、円筒空洞共振器の、Y軸方向に電界が走るいわゆるTE111モードと略同一になっている。そして、この電界に連続して、図4(c)に示すように、第1の中心導体3が存在するZ軸位置での断面A−A及び第2の中心導体4が存在するZ軸位置での断面B―Bでは、第1の中心導体3又は第2の中心導体4の周囲に断面G―Gの電界とほぼ同様な電界が生じている。
【0026】
第1のTEMモード及び第2のTEMモードは、図5及び図6に示すように、電界が第1の中心導体3と外部導体2の周壁部2cの間、及び第2の中心導体4と外部導体2の周壁部2cの間を放射状に走るTEMモードである。第1のTEMモード及び第2のTEMモードは、電磁界が第1の中心導体3の一端3aの位置(外部導体2の第1端部2aの位置)と第1の中心導体3の他端3bの位置の間に連続して分布し、かつ、第1の中心導体3の周囲で4分の1波長でもって共振する。電界は、第1の中心導体3の他端3bの位置近傍で最大になり、磁界は第1の中心導体3の一端3aの近傍で最大になる。また、第1のTEMモード及び第2のTEMモードは、電磁界が第2の中心導体4の一端4aの位置(外部導体2の第2端部2bの位置)と第2の中心導体4の他端4bの位置の間に連続して分布し、かつ、第2の中心導体4の周囲で4分の1波長でもって共振する。電界は、第2の中心導体4の他端4bの位置近傍で最大になり、磁界は第2の中心導体4の一端4aの近傍で最大になる。
【0027】
第1のTEMモードは、第1の中心導体3と外部導体2の周壁部2cの間の電界の方向と、第2の中心導体4と外部導体2の周壁部2cの間の電界の方向とが同じ向きになるものである。第2のTEMモードは、第1の中心導体3と外部導体2の周壁部2cの間の電界の方向と、第2の中心導体4と外部導体2の周壁部2cの間の電界の方向とが逆向きになるものである。第1の中心導体3の周囲の電磁界と第2の中心導体4の周囲の電磁界とは、第1の中心導体3と第2の中心導体4の間隙Sgの距離に応じて干渉し合い、その干渉により、僅かではあるが、第1のTEMモード及び第2のTEMモードの共振周波数は影響を受ける。なお、図5及び図6では、第1の中心導体3と第2の中心導体4の間隙Sgに生じる電界を破線で示している。
【0028】
このような4個の共振モードの共振周波数は、第1のTEモードと第2のTEモードについては、外部導体2の両端部2a、2b間の長さM1がほぼ2分の1波長になる周波数であり、第1のTEMモード及び第2のTEMモードについては、第1の中心導体3の長さM2及び第2の中心導体4の長さM3がほぼ4分の1波長になる周波数である。また、第1のTEモードと第2のTEモードの波長は、円筒空洞共振器の管内波長とほぼ同じであるから、同じ周波数でも、第1のTEMモード及び第2のTEMモードの波長よりも原理的に長くなる。第1のTEモードと第2のTEモードの波長は、外部導体2の周壁部2cの直径M4により調整も可能である。よって、基本的には、共振周波数の値に応じて、第1の中心導体3の長さM2と第2の中心導体4の長さM3を決め、外部導体2の両端部2a、2b間の長さM1と周壁部2cの直径M4を決めることにより、共振周波数を略同一にして4個の共振モードを縮退させることが可能である。
【0029】
また、内部空間Sのどの場所においても、複数の共振モードが電磁界を共有しているので、その点から、マルチモード共振器1が占有する空間の利用効率が高い。また、上記の背景技術で示したような誘電体の部材を必ずしも必要としない。
【0030】
なお、外部導体2の適切な箇所に、入出力端子や周波数調整用部材などを取り付けることができる。入出力端子は、マルチモード共振器1と結合して信号の入出力を行うものであり、例えば、第1の中心導体3又は第2の中心導体4と結合する電極が内部側に接続される。周波数調整用部材は、各々の共振モードの周波数を調整するものである。これらの入出力端子や周波数調整用部材は、様々な公知の技術を適宜利用することができる。
【0031】
このように4個の共振モードを縮退させたマルチモード共振器1は、各々の共振モードを互いに結合させることによりマルチモードフィルタとして用いることができる。この場合、結合調整用ねじなど公知の結合調整用部材を外部導体2の適切な箇所に取り付けるなどして、電磁界分布を非対称にして摂動を生じさせることによって、互いに結合させることができる。このマルチモードフィルタは、所望の特性に応じて、マルチモード共振器1を1個用いた構成又は複数個用いた多段構成にすればよい。また、このマルチモードフィルタを組み込んで、無線通信装置を低コストで小型化することが可能になる。例えば、図7に示すように、携帯電話基地局などの無線通信装置の送受共用器10において、アンテナ11にともに接続される送信用フィルタ12と受信用フィルタ13を共振周波数が異なるマルチモードフィルタとすれば、非常に低コストで小型化されたものとなる。
【0032】
マルチモード共振器1について本願発明者が行ったシミュレーション結果は以下の通りである。外部導体2の両端部2a、2b間の長さM1を167.6mm、第1の中心導体3の長さM2と第2の中心導体4の長さM3をともに15mm、外部導体2の周壁部2cの直径M4を100mmとした。また、第1の中心導体3と第2の中心導体4の直径M5を50mmとした。その結果、共振周波数は、第1のTEモードと第2のTEモードは2.02GHz、第1のTEMモードでは2.04GHz、第2のTEMモードでは2.00GHzであった。従って、このマルチモード共振器1は、4個の共振モードが縮退しており、互いに結合させることによりマルチモードフィルタとして用いることが可能である。
【0033】
次に、マルチモード共振器1を変形して3個の共振モードを縮退させたマルチモード共振器1’について説明する。マルチモード共振器1’は、図8に示すように、マルチモード共振器1の第1の中心導体3の長さM2と第2の中心導体4の長さM3を異ならせて、一方のTEMモードの共振モードのみを縮退させ、他方のTEMモードの共振モードの共振周波数は離して縮退させないようにしたものである。よって、マルチモード共振器1’は、3個の共振モードが縮退する。
【0034】
マルチモード共振器1’について本願発明者が行ったシミュレーション結果は以下の通りである。外部導体2の両端部2a、2b間の長さM1を88mm、第1の中心導体3の長さM2を16.2mm、第2の中心導体4の長さM3を37.5mm、外部導体2の周壁部2cの直径M4を120mmとした。また、第1の中心導体3と第2の中心導体4の直径M5を64mmとした。その結果、共振周波数は、第1のTEモードと第2のTEモードと第1のTEMモードは全て2.00GHzであった。従って、このマルチモード共振器1は、3個の共振モードが縮退しており、互いに結合させることによりマルチモードフィルタとして用いることが可能である。なお、第2のTEMモードの共振周波数は、1.15GHzであった。
【0035】
また、3個の共振モードを縮退させる場合、第1の中心導体3と第2の中心導体4の一方を省略することも場合によっては可能である。
【0036】
以上、本発明の実施形態に係るマルチモード共振器について説明したが、本発明は、上述の実施形態に記載したものに限られることなく、特許請求の範囲に記載する事項の範囲内でのさまざまな設計変更が可能である。例えば、外部導体2は、円筒状に限らず角筒状なども可能であり、また、第1の中心導体3と第2の中心導体4は円柱状に限らず、角柱状や大小の直径の柱を重ねた段付き形状なども可能である。また、第1のTEMモードと第2のTEMモードの結合が大きくなる場合には、間隙Sgに電磁界遮蔽板を挿入することも可能である。これらの場合、上記の本実施形態で述べたものと電磁界の分布の様子は少し変わるが、基本的に同様な共振モードを有するマルチモード共振器を得ることができる。
【0037】
また、マルチモード共振器1は誘電体の部材を必要とするものではなく、内部空間Sを満たしているのは空気であるが、図9に示すように、内部空間Sをセラミックなどの高誘電率の誘電体S’で形成することもできる。この場合、外部導体2、第1の中心導体3、第2の中心導体4は、誘電体S’の周囲に同時に成膜することによって形成することも可能である。誘電体S’を用いると、高誘電率による波長短縮効果によって電磁界の波長が短くなり、マルチモード共振器1の更なる小型化が可能になる。
【符号の説明】
【0038】
1 マルチモード共振器
2 外部導体
2a 外部導体2の第1端部
2b 外部導体2の第2端部
2c 外部導体2の周壁部
3 第1の中心導体
3a 第1の中心導体3の一端
3b 第1の中心導体3の他端
4 第2の中心導体
4a 第2の中心導体4の一端
4b 第2の中心導体4の他端
S 内部空間
【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも3個の共振モードを縮退させたマルチモード共振器であって、
筒状の周壁部の両端を第1端部及び第2端部により閉塞した箱状の外部導体と、
前記外部導体の内部に配され、一端が前記外部導体の第1端部に短絡されて他端が開放された柱状の第1の中心導体と、
を備えてなることを特徴とするマルチモード共振器。
【請求項2】
請求項1に記載のマルチモード共振器において、
前記3個の共振モードは、
前記外部導体の両端部で2分の1波長でもって共振する2個のTEモードと、
前記第1の中心導体の周囲で4分の1波長でもって共振するTEMモードと、
から成ることを特徴とするマルチモード共振器。
【請求項3】
請求項1又は2に記載のマルチモード共振器において、
前記外部導体の内部に配され、一端が前記外部導体の前記第2端部に短絡されて他端が開放された柱状の第2の中心導体を更に備え、
4個の共振モードを縮退させたことを特徴とするマルチモード共振器。
【請求項4】
請求項3に記載のマルチモード共振器において、
前記4個の共振モードの一つは、
前記第2の中心導体の周囲で4分の1波長でもって共振するTEMモードであることを特徴とするマルチモード共振器。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項に記載のマルチモード共振器において、
前記外部導体の内部空間は、空気が満たされていることを特徴とするマルチモード共振器。
【請求項6】
請求項1〜4のいずれか1項に記載のマルチモード共振器において、
前記外部導体の内部空間は、高誘電率の誘電体で形成されていることを特徴とするマルチモード共振器。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか1項に記載のマルチモード共振器を1個用いた構成又は複数用いた多段構成にしたことを特徴とするマルチモードフィルタ。
【請求項8】
請求項7に記載のマルチモードフィルタを組み込んでいることを特徴とする無線通信装置。
【請求項1】
少なくとも3個の共振モードを縮退させたマルチモード共振器であって、
筒状の周壁部の両端を第1端部及び第2端部により閉塞した箱状の外部導体と、
前記外部導体の内部に配され、一端が前記外部導体の第1端部に短絡されて他端が開放された柱状の第1の中心導体と、
を備えてなることを特徴とするマルチモード共振器。
【請求項2】
請求項1に記載のマルチモード共振器において、
前記3個の共振モードは、
前記外部導体の両端部で2分の1波長でもって共振する2個のTEモードと、
前記第1の中心導体の周囲で4分の1波長でもって共振するTEMモードと、
から成ることを特徴とするマルチモード共振器。
【請求項3】
請求項1又は2に記載のマルチモード共振器において、
前記外部導体の内部に配され、一端が前記外部導体の前記第2端部に短絡されて他端が開放された柱状の第2の中心導体を更に備え、
4個の共振モードを縮退させたことを特徴とするマルチモード共振器。
【請求項4】
請求項3に記載のマルチモード共振器において、
前記4個の共振モードの一つは、
前記第2の中心導体の周囲で4分の1波長でもって共振するTEMモードであることを特徴とするマルチモード共振器。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項に記載のマルチモード共振器において、
前記外部導体の内部空間は、空気が満たされていることを特徴とするマルチモード共振器。
【請求項6】
請求項1〜4のいずれか1項に記載のマルチモード共振器において、
前記外部導体の内部空間は、高誘電率の誘電体で形成されていることを特徴とするマルチモード共振器。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか1項に記載のマルチモード共振器を1個用いた構成又は複数用いた多段構成にしたことを特徴とするマルチモードフィルタ。
【請求項8】
請求項7に記載のマルチモードフィルタを組み込んでいることを特徴とする無線通信装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【公開番号】特開2013−80992(P2013−80992A)
【公開日】平成25年5月2日(2013.5.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−218418(P2011−218418)
【出願日】平成23年9月30日(2011.9.30)
【出願人】(597065329)学校法人 龍谷大学 (120)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成25年5月2日(2013.5.2)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年9月30日(2011.9.30)
【出願人】(597065329)学校法人 龍谷大学 (120)
【Fターム(参考)】
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